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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1364438
審判番号 不服2019-7691  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-10 
確定日 2020-08-04 
事件の表示 特願2015- 18683「スイッチング電源装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月 8日出願公開、特開2016-144310、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年2月2日の出願であって,平成30年10月22日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年12月26日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,平成31年3月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和1年6月10日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成31年3月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1,3?7に係る発明は,以下の引用文献1乃至3に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献1.特開2013-223280号公報
引用文献2.特開2011-10397号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開平11-18425号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1乃至6に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明6」という。)は,令和1年6月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
トランスの一次巻線を介して流れる電流をオン・オフするスイッチング素子と、
前記トランスの二次巻線に誘起される電圧を整流・平滑化して所定の出力電圧を得る出力回路と、
前記出力回路の前記出力電圧を抵抗分割して検出される検出電圧と、所定の基準電圧との誤差電圧として求められるフィードバック電圧に従って前記スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路と、
前記トランスの補助巻線から取り出される電圧に応じた第1電源電圧と前記トランスの補助巻線の中間タップから取り出される電圧に応じた第2電源電圧とを生成可能であって、前記第1電源電圧または前記第2電源電圧を前記制御回路へと供給する電源電圧生成回路と、
前記出力電圧が供給される負荷の重さに応じて前記出力電圧を切換える出力電圧切換回路と、
前記出力電圧の切換えに連動して、前記電源電圧生成回路が供給する前記第1電源電圧と前記第2電源電圧とを切換える電源電圧切換回路と、
を備え、
前記出力電圧切換回路は、前記負荷の重さに応じて、前記出力電圧に対する抵抗分割比を変更して前記フィードバック電圧の生成条件を切換えるものであり、
前記制御回路は、前記制御回路に供給される電源電圧が最大定格電圧より下の電圧閾値OVPより高くなると機能する過電圧保護手段と、電源電圧が電圧閾値UVLOより低くなると機能する低電圧誤動作防止手段とを有し、
前記制御回路に供給される電源電圧は、前記電源電圧切換回路による切換の前後で、前記補助巻線の巻数と前記補助巻線の中間タップまでの巻数とにより、電圧閾値OVPより2V低い上限および電圧閾値UVLOより3V高い下限を有する推奨範囲に入るよう調整されるとともに、
前記制御回路は、前記電源電圧切換回路による切換の前後で、前記過電圧保護手段と前記低電圧誤動作防止手段とを継続して機能させるスイッチング電源装置。
【請求項2】
前記制御回路に供給される電源電圧は、前記電源電圧切換回路による切換の前後で等しく設定されている請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記制御回路および前記電源電圧切換回路は、集積回路である請求項1または2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記電源電圧生成回路は、前記トランスの補助巻線から取り出される電圧を整流平滑化し前記第1電源電圧を生成する第1整流平滑回路と、前記トランスの補助巻線の中間タップから取り出される電圧を整流平滑化し前記第2電源電圧を生成する第2整流平滑回路と、を有し、
前記電源電圧切換回路は、前記第1整流平滑回路と前記第2整流平滑回路がそれぞれ生成した電源電圧を択一的に選択するスイッチ回路を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記スイッチ回路は、相補的にオン・オフして前記第1電源電圧または前記第2電源電圧の一方を出力する一対のスイッチ素子を含んで構成される請求項4に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記電源電圧切換回路は、前記出力電圧を通常の負荷駆動電圧に設定する場合には、前記第2電源電圧に切換え、前記出力電圧を前記負荷駆動電圧よりも低い待機動作電圧に設定する場合には、前記第1電源電圧に切換えるものである請求項1から5のいずれか1項に記載のスイッチング電源装置。」

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
(ア)本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された,特開2013-223280号公報(以下,これを「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同じ。)

a 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような電源制御装置から電源電圧が供給される電気機器には、電力消費を抑制するためのスリープモードなどを有し、供給される電源電圧として通常時には高電圧を必要とし、スリープモード時には低電圧を必要とするものがある。また、それに合わせて、電源制御装置においても2次側の出力電圧を高低の二段階に切り替えるものがある。しかし、上述した電源制御装置では、過電圧が生じていない通常時には、常に第1の補助巻線を用いており、第2の補助巻線に切り替えることは考慮されていない。このため、2次側が低電圧のときを基準として第1の補助巻線の巻数を定めると、高電圧に切り替えたときに制御ICに上限を超えた駆動用電圧が供給される場合があり、機器保護の観点から好ましくない。逆に、2次側が高電圧のときの電圧を基準として第1の補助巻線の巻数を定めると、低電圧に切り替えたときに制御ICに下限を下回る駆動用電圧が供給される場合があり、駆動用電圧を十分に供給できないおそれがある。
【0005】
本発明の電源制御装置は、過電圧が生じていない通常時においても、制御ICに過大な電圧が作用するのを防止しつつ安定した駆動用電圧を制御ICに供給することを主目的とする。」

b 「【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態であるACアダプター10から電源供給されるプリンター60の概略構成図であり、図2はACアダプター10の電源回路20の回路構成図である。ACアダプター10は、商用電源(AC100Vなど)を入力し高電圧の直流電圧(DC40Vなど)か低電圧の直流電圧(DC10Vなど)のいずれかに変換してプリンター60に供給する。また、プリンター60は、ACアダプター10からの直流電圧を電源電圧として受けて作動し、各部に給電して印刷などの各種処理を実行可能な通常状態と、各部への給電を停止して通常状態よりも消費電力を抑えたスリープ状態とを切り替え可能に構成されている。なお、ACアダプター10は、図2に示すように、電力ラインVoutと、GNDラインと、制御信号CSライン(制御信号CS(Control Signal)は、プリンター60から入力される信号)との3つのラインにより、プリンター60に接続される。なお、電圧ラインVoutに出力される電圧を、電圧Voutともいう。

・・・中略・・・

【0019】
ACアダプター10の電源回路20は、図2に示すように、主要な構成要素として、第1の整流平滑回路21と、スイッチング回路23と、トランス25と、第2の整流平滑回路27と、定電圧制御回路32と、駆動用電圧出力回路34と、制御IC38とを備える。第1の整流平滑回路21は、商用電源を整流し平滑して直流電圧を出力し、スイッチング回路23は、第1の整流平滑回路21から出力された直流電圧をスイッチングにより交流電圧に変換する。トランス25は、スイッチング回路23により変換された交流電圧を変圧し、第2の整流平滑回路27は、トランス25により変圧された交流電圧を整流し平滑した直流電圧を電力ラインVoutに出力電圧(電圧Vout)として出力する。定電圧制御回路32は、プリンター60の電力管理部70から出力される制御信号CSを受けて電圧Voutをプリンター60の状態に応じた定電圧に安定させる。駆動用電圧出力回路34は、トランス25により変圧された交流電圧を利用して発生させた直流電圧を駆動用電圧として出力し、制御IC38は、駆動用電圧出力回路34からの駆動用電圧により駆動しスイッチング回路23へのスイッチング制御用の信号を生成して出力する。なお、トランス25を挟んで、第1の整流平滑回路21やスイッチング回路23,駆動用電圧出力回路34,制御IC38が配置された側を1次側と称し、第2の整流平滑回路27や定電圧制御回路32(後述するフォトカプラーPC1のフォトトランジスターPT1を除く)が配置された側を2次側と称する。
【0020】
第1の整流平滑回路21は、商用電源に接続される4つのダイオードが組み合わされたダイオードブリッジDB1と、ダイオードブリッジDB1に接続された平滑コンデンサーC1とにより構成されている。この第1の整流平滑回路21では、商用電源をダイオードブリッジDB1により全波整流し平滑コンデンサーC1により平滑した直流電圧を出力する。
【0021】
スイッチング回路23は、ゲートが制御IC38の後述するDRV端子に接続されドレインがトランス25に接続されソースがグランドに接地されたスイッチング素子(MOSFET)QF1と、図示しない抵抗などとにより構成されている。このスイッチング回路23では、第1の整流平滑回路21から出力される直流電圧をスイッチング素子QF1のスイッチング動作により交流電圧に変換する。
【0022】
トランス25は、第1の整流平滑回路21の出力側とスイッチング回路23のスイッチング素子QF1のドレインとに接続された1次巻線25aと、第2の整流平滑回路27に接続された2次巻線25bと、駆動用電圧出力回路34に接続された第1の補助巻線25cおよび第2の補助巻線25dとにより構成されている。このトランス25では、1次巻線25aに、スイッチング素子QF1のスイッチング動作により変換された交流電圧が印加されると、1次巻線25aと2次巻線25bとの巻数比に応じた交流電圧が2次巻線25bに誘起される。また、2次巻線25bと第1の補助巻線25c,第2の補助巻線25dとの巻数比に応じた交流電圧も、第1の補助巻線25c,第2の補助巻線25dにそれぞれ誘起される。ここで、第1の補助巻線25cは、一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34の後述するダイオードD2のアノード側に接続され、第2の補助巻線25dは、一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34の後述するダイオードD3のアノード側に接続されている。また、第1の補助巻線25cの巻数が第2の補助巻線25dの巻数よりも多くなるよう構成されている。このため、第1の補助巻線25cに誘起される交流電圧は、第2の補助巻線25dに誘起される交流電圧よりも高いものとなる。
【0023】
第2の整流平滑回路27は、トランス25の2次巻線25bにアノード側が接続されたダイオードD4と、ダイオードD4のカソード側に接続された平滑コンデンサーC4とにより構成されている。この第2の整流平滑回路27では、トランス25の2次巻線25bに誘起された交流電圧をダイオードD4により半波整流し平滑コンデンサーC4により平滑した直流電圧を電力ラインVoutとGNDライン間に出力電圧(電圧Vout)として出力する。
【0024】
定電圧制御回路32は、フォトカプラーPC1と、2つのツェナーダイオードZD1,ZD2と、トランジスターQ3とにより構成されている。フォトカプラーPC1は、アノード側が電力ラインVoutに接続された発光ダイオードPD1と、コレクターが制御IC38の後述するFB端子に接続されエミッターがグランドに接地されたフォトトランジスターPT1とを有する。ツェナーダイオードZD1は、アノード側がグランド(GNDライン)に接地され、カソード側がフォトカプラーPC1の発光ダイオードPD1のカソード側に接続されている。ツェナーダイオードZD2は、アノード側がトランジスターQ3のコレクターに接続され(トランジスターQ3を介してグランド(GNDライン)に接地され)、カソード側がフォトカプラーPC1の発光ダイオードPD1とツェナーダイオードZD1との接続点に接続されている。トランジスターQ3は、エミッターがグランド(GNDライン)に接地され、ベースが制御信号CSラインに接続されており、制御信号CSが入力されるときにオンして、制御信号CSが入力されないときにオフする。
【0025】
この定電圧制御回路32のツェナーダイオードZD1とツェナーダイオードZD2とは、ツェナー電圧(降伏電圧)が異なり、ツェナーダイオードZD1のツェナー電圧がツェナーダイオードZD2のツェナー電圧よりも高くなっている。ここで、上述したように、プリンター60がスリープ状態にあるときには、プリンター60から制御信号CSが入力されてトランジスターQ3がオンされるから、ツェナー電圧の低いツェナーダイオードZD2に逆方向電流を流すことができる。このため、電圧Voutが比較的低い状態であってもフォトカプラーPC1の発光ダイオードPD1に電流が流れて発光し、その発光を受光したフォトトランジスターPT1にも電流が流れて、制御IC38のFB端子に定電圧制御用の信号(以下、フィードバック信号)が入力されることになる。このとき、発光ダイオードPD1の発光量は発光ダイオードPD1に流れる電流即ち電圧Voutに応じて変化し、フォトトランジスターPT1を流れる電流は発光ダイオードPD1の発光量に応じて変化するから、結果として、フィードバック信号は、電圧Voutに応じた信号として制御IC38に入力される。一方、プリンター60が通常状態にあるときには、プリンター60から制御信号CSが入力されずトランジスターQ3がオフされるから、ツェナーダイオードZD2に逆方向電流を流すことができない。このため、電圧Voutが低い(電圧VoutがツェナーダイオードZD1のツェナー電圧よりも低い)状態ではフォトカプラーPC1の発光ダイオードPD1に電流は流れず、フィードバック信号は制御IC38に入力されないことになる。そして、電圧Voutが高い(電圧VoutがツェナーダイオードZD1のツェナー電圧よりも高い)状態になると、ツェナーダイオードZD1に逆方向電流を流すことができるから、フォトカプラーPC1の発光ダイオードPD1に電流が流れて、フィードバック信号が制御IC38に入力されることになる。この場合も、フィードバック信号は、電圧Voutに応じた信号として制御IC38に入力される。このように、プリンター60がスリープ状態にあり制御信号CSが入力されるときには、電圧Voutが比較的低い低出力電圧の状態から電圧Voutに応じたフィードバック信号が制御IC38に入力され、プリンター60が通常状態にあり制御信号CSが入力されないときには、電圧Voutが比較的高い高出力電圧の状態から電圧Voutに応じたフィードバック信号が制御IC38に入力されることになる。
【0026】
駆動用電圧出力回路34は、第1の補助巻線25cに誘起された交流電圧をダイオードD2と平滑コンデンサーC3とにより整流し平滑した電圧V1を制御IC38に出力可能な第1の出力ライン35aと、第2の補助巻線25dに誘起された交流電圧をダイオードD3と平滑コンデンサーC2とにより整流し平滑した電圧V2を制御IC38に出力可能な第2の出力ライン35bとを有している。また、駆動用電圧出力回路34は、第1の出力ライン35aにドレインとソースが接続されて第1の出力ライン35aの導通と遮断とを切り替えるスイッチとしてのスイッチング素子(MOSFET)QF2と、このスイッチング素子QF2のオンオフを切り替えるためのスイッチ切替回路36とを有している。このスイッチ切替回路36は、抵抗R1?R5と、トランジスター(バイポーラトランジスター)Q1,Q2とにより構成されている。抵抗R1は、スイッチング素子QF2のゲート?ソース間に並列接続されている。トランジスターQ1は、スイッチング素子QF2のゲートに抵抗R2を介してコレクターが接続され、エミッターがグランドに接地され、ベースが抵抗R3を介して第1の出力ライン35aに接続されている。抵抗R4,R5は、第1の出力ライン35aとグランドとの間に直列に接続され、第1の出力ライン35aの電圧V1を分圧する。トランジスターQ2は、トランジスターQ1のベースにコレクターが接続され、エミッターがグランドに接地され、ベースが抵抗R4,R5の接続点に接続されている。また、第1の出力ライン35aのスイッチング素子QF2のドレインと、第2の出力ライン35bのダイオードD3のカソード側とが接続されており、その接続点から制御IC38側は、共通のラインとして制御IC38の後述するVCC端子に接続される。なお、以下の説明では、第1の出力ライン35aの電圧V1を、第1の補助巻線25cからの電圧V1と称することがあり、また、第2の出力ライン35bの電圧V2を、第2の補助巻線25dからの電圧V2と称することがある。
【0027】
制御IC38は、スイッチング素子QF1をスイッチング制御するためのICチップとして構成され、HV端子と、FB端子と、GND端子と、DRV端子と、VCC端子とを備える。HV端子は、ダイオードD1を介して第1の整流平滑回路21の入力側に接続され、制御IC38の起動用の電圧が入力される。FB端子は、フォトカプラーPC1のフォトトランジスターPT1のコレクターに接続され、上述した定電圧制御回路32のフィードバック信号が入力される。GND端子は、グランドに接地されており、また、DRV端子は、スイッチング回路23のスイッチング素子QF1のゲートにスイッチング用の信号(以下、スイッチング信号)を出力する。VCC端子は、駆動用電圧出力回路34の第1の出力ライン35aと第2の出力ライン35bとに接続されており、駆動用電圧が入力される。この制御IC38は、スイッチング制御をしていない間はHV端子から入力される電圧により駆動し、スイッチング制御をしている間は駆動用電圧出力回路34の第1の出力ライン35aまたは第2の出力ライン35bから出力されてVCC端子から入力される駆動用電圧により駆動する。
【0028】
この制御IC38では、定電圧制御回路32からのフィードバック信号に基づいて、スイッチング信号を生成し、生成したスイッチング信号をDRV端子からスイッチング回路23(スイッチング素子QF1)に出力する。上述したように、プリンター60は、必要とする電源電圧に応じて制御信号CSの出力の有無を切り替え、定電圧制御回路32では、制御信号CSの入力の有無により、電圧Voutが低出力電圧の状態からフィードバック信号を制御IC38に入力するか、電圧Voutが高出力電圧の状態からフィードバック信号を制御IC38に入力するかが異なる。このため、詳細は省略するが、制御IC38では、制御信号CSが入力されない場合には、プリンター60で必要とする高電源電圧に応じて電圧Voutが高く(例えば40V)なるようフィードバック制御を行い、制御信号CSが入力される場合には、プリンター60で必要とする低電源電圧に応じて電圧Voutが低く(例えば10V)なるようフィードバック制御を行うものとなる。」

c 「【0040】
図3に示すように、電源回路20Bは、本実施形態の図2の駆動用電圧出力回路34に代えて駆動用電圧出力回路34Bを備える以外(さらにいえば、スイッチ切替回路36に代えてスイッチ切替回路36Bを備える以外)は、図2の電源回路20の各構成と同一の構成を備えるため、同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。この駆動用電圧出力回路34Bは、第1の出力ライン35aと、第2の出力ライン35bと、第1の出力ライン35aの導通と遮断とを切り替えるスイッチング素子QF2と、スイッチング素子QF2のオンオフを切り替えるためのスイッチ切替回路36Bとを備える。このスイッチ切替回路36Bは、スイッチング素子QF2のゲート-ソース間に接続された抵抗R1と、スイッチング素子QF2のゲートに接続された抵抗R2と、フォトカプラーPC2とを備える。このフォトカプラーPC2は、アノード側が制御信号CSラインに接続されカソード側がグランドGNDに接地された発光ダイオードPD2と、コレクターが抵抗R2を介してスイッチング素子QF2のゲートに接続されエミッターがグランドに接地されたフォトトランジスターPT2とから構成される。
【0041】
このように構成された駆動用電圧出力回路34Bでは、プリンター60から制御信号CSが入力される場合には、フォトカプラーPC2の発光ダイオードPD2に電流が流れて発光ダイオードPD2が発光し、その発光を受光したフォトトランジスターPT2に電流が流れるから、スイッチング素子QF2のゲート-ソース間に電位差が生じてスイッチング素子QF2がオンされる。これにより、制御信号CSが入力される場合には、第1の出力ライン35aが導通されて第1の補助巻線25cからの電圧V1が制御IC38に供給される。一方、プリンター60から制御信号CSが入力されない場合には、フォトカプラーPC2の発光ダイオードPD2に電流が流れないため発光ダイオードPD2は発光せず、フォトトランジスターPT2にも電流が流れないから、スイッチング素子QF2はオフされる。これにより、制御信号CSが入力されない場合には、第1の出力ライン35aが遮断されて、巻数の少ない第2の補助巻線25dからの電圧V2が制御IC38に供給される。このように、変形例の電源回路20Bにおいても、本実施形態と同様に、プリンター60がスリープ状態にあり制御信号CSが入力される場合には、巻数の多い第1の補助巻線25cからの高い電圧V1を制御IC38に供給することができ、プリンター60が通常状態にあり制御信号CSが入力されない場合には、巻数の少ない第2の補助巻線25dからの低い電圧V2を制御IC38に供給することができるから、本実施形態と同様の効果を奏するものとなる。また、駆動用電圧出力回路38B(スイッチ切替回路36B)に必要な部品数を抑えて、より簡易な回路構成とすることができる。」


d 「図2



e 「図3




(イ)上記bの段落【0016】には,「ACアダプター10は、商用電源(AC100Vなど)を入力し高電圧の直流電圧(DC40Vなど)か低電圧の直流電圧(DC10Vなど)のいずれかに変換してプリンター60に供給する。」こと,また,段落【0019】には,「ACアダプター10の電源回路20は、」「第1の整流平滑回路21と、スイッチング回路23と、トランス25と、第2の整流平滑回路27と、定電圧制御回路32と、駆動用電圧出力回路34と、制御IC38とを備える」ことが記載されている。
してみると,引用文献1には,“第1の整流平滑回路21と,スイッチング回路23と,トランス25と,第2の整流平滑回路27と,定電圧制御回路32と,駆動用電圧出力回路34と,制御IC38とを備え,商用電源(AC100Vなど)を入力し高電圧の直流電圧(DC40Vなど)か低電圧の直流電圧(DC10Vなど)のいずれかに変換してプリンター60に供給するACアダプター10の電源回路20”が記載されているといえる。

(ウ)上記bの段落【0021】には,「スイッチング回路23は、ゲートが制御IC38の後述するDRV端子に接続されドレインがトランス25に接続されソースがグランドに接地されたスイッチング素子(MOSFET)QF1と、図示しない抵抗などとにより構成されている。このスイッチング回路23では、第1の整流平滑回路21から出力される直流電圧をスイッチング素子QF1のスイッチング動作により交流電圧に変換する」ことが記載されている。

(エ)上記bの段落【0022】には,「トランス25は、第1の整流平滑回路21の出力側とスイッチング回路23のスイッチング素子QF1のドレインとに接続された1次巻線25aと、第2の整流平滑回路27に接続された2次巻線25bと、駆動用電圧出力回路34に接続された第1の補助巻線25cおよび第2の補助巻線25dとにより構成されている」こと,また,「第1の補助巻線25cは、一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34の後述するダイオードD2のアノード側に接続され、第2の補助巻線25dは、一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34の後述するダイオードD3のアノード側に接続されている。また、第1の補助巻線25cの巻数が第2の補助巻線25dの巻数よりも多くなるよう構成されている」ことが記載されている。
してみると,引用文献1には,“トランス25は,第1の整流平滑回路21の出力側とスイッチング回路23のスイッチング素子QF1のドレインとに接続された1次巻線25aと,第2の整流平滑回路27に接続された2次巻線25bと,駆動用電圧出力回路34に接続された第1の補助巻線25cおよび第2の補助巻線25dとにより構成され,さらに,第1の補助巻線25cは,一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34のダイオードD2のアノード側に接続され,第2の補助巻線25dは,一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34のダイオードD3のアノード側に接続され,また,第1の補助巻線25cの巻数が第2の補助巻線25dの巻数よりも多くなるよう構成されている”ことが記載されているといえる。

(オ)上記bの段落【0023】には,「第2の整流平滑回路27は、トランス25の2次巻線25bにアノード側が接続されたダイオードD4と、ダイオードD4のカソード側に接続された平滑コンデンサーC4とにより構成されている。この第2の整流平滑回路27では、トランス25の2次巻線25bに誘起された交流電圧をダイオードD4により半波整流し平滑コンデンサーC4により平滑した直流電圧を電力ラインVoutとGNDライン間に出力電圧(電圧Vout)として出力する」ことが記載されている。

(カ)上記bの段落【0024】には,「定電圧制御回路32は、フォトカプラーPC1と、2つのツェナーダイオードZD1,ZD2と、トランジスターQ3とにより構成されている」こと,また,「トランジスターQ3は、エミッターがグランド(GNDライン)に接地され、ベースが制御信号CSラインに接続されており、制御信号CSが入力されるときにオンして、制御信号CSが入力されないときにオフする」こと,さらに,段落【0025】には,「プリンター60がスリープ状態にあるときには、プリンター60から制御信号CSが入力されてトランジスターQ3がオンされるから」「電圧Voutが比較的低い状態であっても」「制御IC38のFB端子に定電圧制御用の信号(以下、フィードバック信号)が入力されることになる。」「このとき」「フィードバック信号は、電圧Voutに応じた信号として制御IC38に入力される」こと,さらに,「プリンター60が通常状態にあるときには、プリンター60から制御信号CSが入力されずトランジスターQ3がオフされるから」「電圧Voutが高い(電圧VoutがツェナーダイオードZD1のツェナー電圧よりも高い)状態になると」「フィードバック信号が制御IC38に入力されることになる。」「この場合も、フィードバック信号は、電圧Voutに応じた信号として制御IC38に入力される」ことが記載されている。
してみると,引用文献1には,“定電圧制御回路32は,フォトカプラーPC1と,2つのツェナーダイオードZD1,ZD2と,トランジスターQ3とにより構成され,さらに,トランジスターQ3は,エミッターがグランド(GNDライン)に接地され,ベースが制御信号CSラインに接続されており,制御信号CSが入力されるときにオンして,制御信号CSが入力されないときにオフするものであって,プリンター60がスリープ状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されてトランジスターQ3がオンされ,電圧Voutが比較的低い状態であっても制御IC38のFB端子に電圧Voutに応じた定電圧制御用の信号(以下,フィードバック信号)を入力し,さらに,プリンター60が通常状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されずトランジスターQ3がオフされ,電圧Voutが高い状態になると電圧Voutに応じたフィードバック信号を制御IC38に入力する”ことが記載されているといえる。

(キ)上記bの段落【0026】には,「駆動用電圧出力回路34は、第1の補助巻線25cに誘起された交流電圧をダイオードD2と平滑コンデンサーC3とにより整流し平滑した電圧V1を制御IC38に出力可能な第1の出力ライン35aと、第2の補助巻線25dに誘起された交流電圧をダイオードD3と平滑コンデンサーC2とにより整流し平滑した電圧V2を制御IC38に出力可能な第2の出力ライン35bとを有している」こと,さらに,「駆動用電圧出力回路34は、第1の出力ライン35aにドレインとソースが接続されて第1の出力ライン35aの導通と遮断とを切り替えるスイッチとしてのスイッチング素子(MOSFET)QF2と、このスイッチング素子QF2のオンオフを切り替えるためのスイッチ切替回路36とを有している」こと記載されている。
また,上記cの段落【0040】には「駆動用電圧出力回路34」の「スイッチ切替回路36」の別の実施形態として,「スイッチ切替回路36B」」が,「スイッチング素子QF2のゲート-ソース間に接続された抵抗R1と、スイッチング素子QF2のゲートに接続された抵抗R2と、フォトカプラーPC2とを備える。このフォトカプラーPC2は、アノード側が制御信号CSラインに接続されカソード側がグランドGNDに接地された発光ダイオードPD2と、コレクターが抵抗R2を介してスイッチング素子QF2のゲートに接続されエミッターがグランドに接地されたフォトトランジスターPT2とから構成される」こと,さらに,段落【0041】には,「プリンター60から制御信号CSが入力される場合には、」「第1の出力ライン35aが導通されて第1の補助巻線25cからの電圧V1が制御IC38に供給される。」「一方、プリンター60から制御信号CSが入力されない場合には」「第1の出力ライン35aが遮断されて、巻数の少ない第2の補助巻線25dからの電圧V2が制御IC38に供給される」ことが記載されている。
してみると,引用文献1には,“駆動用電圧出力回路34は,第1の補助巻線25cに誘起された交流電圧を整流し平滑した電圧V1を制御IC38に出力可能な第1の出力ライン35aと,第2の補助巻線25dに誘起された交流電圧を整流し平滑した電圧V2を制御IC38に出力可能な第2の出力ライン35bとを有し,また,駆動用電圧出力回路34は,第1の出力ライン35aにドレインとソースが接続されて第1の出力ライン35aの導通と遮断とを切り替えるスイッチとしてのスイッチング素子(MOSFET)QF2と,このスイッチング素子QF2のオンオフを切り替えるためのスイッチ切替回路36Bとを有し,さらに,該スイッチ切替回路36Bが,スイッチング素子QF2のゲート-ソース間に接続された抵抗R1と,スイッチング素子QF2のゲートに接続された抵抗R2と,フォトカプラーPC2とを備え,このフォトカプラーPC2は,アノード側が制御信号CSラインに接続されカソード側がグランドGNDに接地された発光ダイオードPD2と,コレクターが抵抗R2を介してスイッチング素子QF2のゲートに接続されエミッターがグランドに接地されたフォトトランジスターPT2とから構成され,プリンター60から制御信号CSが入力される場合には,第1の出力ライン35aが導通されて第1の補助巻線25cからの電圧V1を制御IC38に供給し,一方,プリンター60から制御信号CSが入力されない場合には,第1の出力ライン35aが遮断されて,巻数の少ない第2の補助巻線25dからの電圧V2を制御IC38に供給する”ことが記載されているといえる。

(ケ)上記bの段落【0028】には,「この制御IC38では、定電圧制御回路32からのフィードバック信号に基づいて、スイッチング信号を生成し、生成したスイッチング信号をDRV端子からスイッチング回路23(スイッチング素子QF1)に出力する」ことが記載されている。

(コ)したがって,上記引用文献1の上記各記載及び図面を総合すると,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「第1の整流平滑回路21と,スイッチング回路23と,トランス25と,第2の整流平滑回路27と,定電圧制御回路32と,駆動用電圧出力回路34と,制御IC38とを備え,商用電源(AC100Vなど)を入力し高電圧の直流電圧(DC40Vなど)か低電圧の直流電圧(DC10Vなど)のいずれかに変換してプリンター60に供給するACアダプター10の電源回路20において,
スイッチング回路23は,ゲートが制御IC38に接続されドレインがトランス25に接続されソースがグランドに接地されたスイッチング素子(MOSFET)QF1と,抵抗などとにより構成され,第1の整流平滑回路21から出力される直流電圧をスイッチング素子QF1のスイッチング動作により交流電圧に変換するものであり,
トランス25は,第1の整流平滑回路21の出力側とスイッチング回路23のスイッチング素子QF1のドレインとに接続された1次巻線25aと,第2の整流平滑回路27に接続された2次巻線25bと,駆動用電圧出力回路34に接続された第1の補助巻線25cおよび第2の補助巻線25dとにより構成され,さらに,第1の補助巻線25cは,一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34のダイオードD2のアノード側に接続され,第2の補助巻線25dは,一端がグランドに接地され他端が駆動用電圧出力回路34のダイオードD3のアノード側に接続され,また,第1の補助巻線25cの巻数が第2の補助巻線25dの巻数よりも多くなるよう構成されているものであり,
第2の整流平滑回路27は,トランス25の2次巻線25bに誘起された交流電圧をダイオードD4により半波整流し平滑コンデンサーC4により平滑した直流電圧を電力ラインVoutとGNDライン間に出力電圧(電圧Vout)として出力するものであり,
定電圧制御回路32は,フォトカプラーPC1と,2つのツェナーダイオードZD1,ZD2と,トランジスターQ3とにより構成され,さらに,トランジスターQ3は,エミッターがグランド(GNDライン)に接地され,ベースが制御信号CSラインに接続されており,制御信号CSが入力されるときにオンして,制御信号CSが入力されないときにオフするものであって,プリンター60がスリープ状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されてトランジスターQ3がオンされ,電圧Voutが比較的低い状態であっても制御IC38のFB端子に電圧Voutに応じた定電圧制御用の信号(以下,フィードバック信号)を入力し,さらに,プリンター60が通常状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されずトランジスターQ3がオフされ,電圧Voutが高い状態になると電圧Voutに応じたフィードバック信号を制御IC38に入力するものであり,
駆動用電圧出力回路34は,第1の補助巻線25cに誘起された交流電圧を整流し平滑した電圧V1を制御IC38に出力可能な第1の出力ライン35aと,第2の補助巻線25dに誘起された交流電圧を整流し平滑した電圧V2を制御IC38に出力可能な第2の出力ライン35bとを有し,また,駆動用電圧出力回路34は,第1の出力ライン35aにドレインとソースが接続されて第1の出力ライン35aの導通と遮断とを切り替えるスイッチとしてのスイッチング素子(MOSFET)QF2と,このスイッチング素子QF2のオンオフを切り替えるためのスイッチ切替回路36Bとを有し,さらに,該スイッチ切替回路36Bが,スイッチング素子QF2のゲート-ソース間に接続された抵抗R1と,スイッチング素子QF2のゲートに接続された抵抗R2と,フォトカプラーPC2とを備え,このフォトカプラーPC2は,アノード側が制御信号CSラインに接続されカソード側がグランドGNDに接地された発光ダイオードPD2と,コレクターが抵抗R2を介してスイッチング素子QF2のゲートに接続されエミッターがグランドに接地されたフォトトランジスターPT2とから構成され,プリンター60から制御信号CSが入力される場合には,第1の出力ライン35aが導通されて第1の補助巻線25cからの電圧V1を制御IC38に供給し,一方,プリンター60から制御信号CSが入力されない場合には,第1の出力ライン35aが遮断されて,巻数の少ない第2の補助巻線25dからの電圧V2を制御IC38に供給するものであり,
制御IC38では,定電圧制御回路32からのフィードバック信号に基づいて,スイッチング信号を生成し,生成したスイッチング信号をDRV端子からスイッチング回路23(スイッチング素子QF1)に出力するものである,
ACアダプター10の電源回路20。」

2.引用文献2について
本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-10397号公報(以下,これを「引用文献2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0044】
以下に図1、図2、図3に基づき本実施例の動作を説明する。図1の擬似共振コンバータは、Ra,Rb,Rc,R8,FET2からなる出力電圧設定回路を有する。出力電圧設定回路には、電子機器(以下、機器という)の制御素子CPU1から、パワーセーブ信号/PSAVEが供給されている。CPU1は、/PSAVE信号を用いて機器を通常モードからパワーセーブモードに移行させる。
【0045】
CPU1は、機器を通常モードに設定する時には、/PSAVE信号をHレベルとし、機器をパワーセーブモードに設定する時には、/PSAVE信号をLレベルとする。この/PSAVE信号は、FET2に供給されており、通常モード、即ち/PSAVE信号がHレベルの場合、FET2はオンし、抵抗Rbと抵抗Rcが並列に接続される。出力電圧を、抵抗Raと、この並列抵抗(Rb//Rc)で分圧した電圧がシャントレギュレータIC1のref端子に供給されることとなる。したがって、シャントレギュレータのリファレンス電圧をVrefとすると、通常モードの出力電圧Vout-hは、概ね次式(15)で表される。

・・・中略・・・

【0049】
一方、パワーセーブモード、即ち/PSAVE信号がLレベルの場合は、FET2はオフしてRcは切り離される。よって、シャントレギュレータIC1のref端子に供給される電圧は、出力電圧をRaとRbで分圧した電圧となる。したがって、パワーセーブモードの出力電圧Vout-lは、概ね次式(17)で表される。」

b 「図1




3.引用文献3について
本願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-18425号公報(以下,これを「引用文献3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

a 「【0017】保護回路26は、シットダウンラッチ回路262、過熱保護回路264、過電圧保護回路266を有している。過電圧保護回路266は、正電源電圧Vccに過電圧が発生すると、シットダウンラッチ回路262をセットして、内蔵FETドライバ27と主スイッチドライバ15の双方をシャットダウンする。過熱保護回路264は、チップのジャンクション温度が遮断温度に達した場合も、主スイッチドライバ15と内蔵FETドライバ27の双方をシャットダウンする。シットダウンラッチ回路262は、正電源電圧Vccがストップ電圧以下となることでリセットされる。」

b 「【0021】低電圧誤動作防止回路33は、正電源電圧Vccが低いときにICの誤動作を防止する働きをするもので、UVLO回路と表示している。即ち、正電源電圧Vccがあるストップ電圧以下であればICの動作を停止させ、全てのステータスの初期化を行う。また正電源電圧Vccがあるスタート電圧以上に回復すると、予備電源回路31を正電源電圧端子Vccから切り離し、ICの動作を開始させる。基準電圧回路34は、アナログIC回路に汎用されているバンドギャップを用いた基準電圧の発生回路である。」

c 「図1




第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「トランス25」,「1次巻線25a」は,本願発明1の「トランス」,「一次巻線」に相当する。
また,引用発明の「スイッチング素子(MOSFET)QF1」は,「ドレイン」が「トランス25」の「1次巻線25a」に接続されスイッチング動作するものであるから,本願発明1の「トランスの一次巻線を介して流れる電流をオン・オフするスイッチング素子」に相当する。

(イ)引用発明の「2次巻線25b」,「出力電圧(電圧Vout)」は,本願発明1の「二次巻線」,「出力電圧」に相当する。
引用発明の「第2の整流平滑回路27」は,「トランス25の2次巻線25bに誘起された交流電圧をダイオードD4により半波整流し平滑コンデンサーC4により平滑した直流電圧を電力ラインVoutとGNDライン間に出力電圧(電圧Vout)として出力するもの」であるから,本願発明1の「前記トランスの二次巻線に誘起される電圧を整流・平滑化して所定の出力電圧を得る出力回路」に相当する。

(ウ)引用発明の「定電圧制御用の信号(以下,フィードバック信号)」は,「第2の整流平滑回路27」が出力する「電圧Vout」に応じた信号であるから,引用発明の「フィードバック信号」と,本願発明1の「前記出力回路の前記出力電圧を抵抗分割して検出される検出電圧と、所定の基準電圧との誤差電圧として求められるフィードバック電圧」とは,“前記出力回路の前記出力電圧をフィードバックする値”の点で共通する。
さらに,引用発明の「制御IC38」は,「フィードバック信号に基づいて,スイッチング信号を生成し,生成したスイッチング信号をDRV端子からスイッチング回路23(スイッチング素子QF1)に出力するものである」から,引用発明の「制御IC38」と,本願発明1の「前記出力回路の前記出力電圧を抵抗分割して検出される検出電圧と、所定の基準電圧との誤差電圧として求められるフィードバック電圧に従って前記スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路」とは,後記する点で相違(相違点1)するものの,“前記出力回路の前記出力電圧をフィードバックする値に従って前記スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路”の点で共通する。

(エ)引用発明の「第1の補助巻線25c」は,本願発明1の「補助巻線」に相当する。
そして,引用発明の「電圧V1」は,「第1の補助巻線25cに誘起された交流電圧を整流し平滑した」電圧であるから,本願発明1の「前記トランスの補助巻線から取り出される電圧に応じた第1電源電圧」に相当する。
また,引用発明の「電圧V2」は,「第2の補助巻線25dに誘起された交流電圧を整流し平滑した」電圧である。さらに,引用文献1の図2(上記「第4 1. d」))を参照すると,「第2の補助巻線25d」は「第1の補助巻線25c」の中間部分までと認められる。してみると,引用発明の「電圧V2」は,本願発明1の「前記トランスの補助巻線の中間タップから取り出される電圧に応じた第2電源電圧」に相当する。
そして,引用発明の「駆動用電圧出力回路34」は,「電圧V1を制御IC38に出力可能な第1の出力ライン35a」と,「電圧V2を制御IC38に出力可能な第2の出力ライン35bとを有」するものであるから,本願発明1の「前記トランスの補助巻線から取り出される電圧に応じた第1電源電圧と前記トランスの補助巻線の中間タップから取り出される電圧に応じた第2電源電圧とを生成可能であって、前記第1電源電圧または前記第2電源電圧を前記制御回路へと供給する電源電圧生成回路」に相当する。

(オ)引用発明の「定電圧制御回路32」は,「プリンター60がスリープ状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されてトランジスターQ3がオンされ,電圧Voutが比較的低い状態であっても制御IC38のFB端子に電圧Voutに応じた定電圧制御用の信号(以下,フィードバック信号)を入力し,さらに,プリンター60が通常状態にあるときには,プリンター60から制御信号CSが入力されずトランジスターQ3がオフされ,電圧Voutが高い状態になると電圧Voutに応じたフィードバック信号を制御IC38に入力するもので」あるから,「プリンター60」からの「制御信号CS」によって「スリープ状態」と「通常状態」で「フィードバック信号」の生成条件を「比較的低い状態」と「高い状態」で切り換えているものと認められる。そして、「電圧Vout」は「比較的低い状態」で制御が行われれば「低電圧」に、「高い状態」で制御が行われれば「高電圧」に切換わること明らかであって,また,「プリンター60が通常状態」と「スリープ状態」で負荷の重さが異なることは当然である。
してみると,引用発明の「定電圧制御回路32」と,本願発明1の「前記出力電圧が供給される負荷の重さに応じて前記出力電圧を切換える出力電圧切換回路」及び「前記出力電圧切換回路は、前記負荷の重さに応じて、前記出力電圧に対する抵抗分割比を変更して前記フィードバック電圧の生成条件を切換えるものであ」ることは,後記する点で相違(相違点2)するものの,「前記出力電圧が供給される負荷の重さに応じて前記出力電圧を切換える出力電圧切換回路」及び「前記出力電圧切換回路は、前記負荷の重さに応じて、前記フィードバックする値の生成条件を切換えるものであ」る点で共通する。

(カ)引用発明の「スイッチ切替回路36B」は,「プリンター60から制御信号CSが入力される場合には,第1の出力ライン35aが導通されて第1の補助巻線25cからの電圧V1を制御IC38に供給し,一方,プリンター60から制御信号CSが入力されない場合には,第1の出力ライン35aが遮断されて,巻数の少ない第2の補助巻線25dからの電圧V2を制御IC38に供給するものであり」,また,上記(オ)で検討したように,「プリンター60から制御信号CS」によって「電圧Vout」は切り換わるものであるから,引用発明の「スイッチ切替回路36B」は,本願発明1の「前記出力電圧の切換えに連動して、前記電源電圧生成回路が供給する前記第1電源電圧と前記第2電源電圧とを切換える電源電圧切換回路」に相当する。

(キ)引用発明の「電源回路20」は,「スイッチング素子(MOSFET)QF1」と,「第2の整流平滑回路27」と,「制御IC38」と,「駆動用電圧出力回路34」と,「定電圧制御回路32」と,「スイッチ切替回路36B」とを備えるものであるから,本願発明1の「スイッチング電源装置」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,以下の一致点と相違点とがある。

〈一致点〉
「トランスの一次巻線を介して流れる電流をオン・オフするスイッチング素子と,
前記トランスの二次巻線に誘起される電圧を整流・平滑化して所定の出力電圧を得る出力回路と,
前記出力回路の前記出力電圧をフィードバックする値に従って前記スイッチング素子のオン・オフを制御する制御回路と,
前記トランスの補助巻線から取り出される電圧に応じた第1電源電圧と前記トランスの補助巻線の中間タップから取り出される電圧に応じた第2電源電圧とを生成可能であって,前記第1電源電圧または前記第2電源電圧を前記制御回路へと供給する電源電圧生成回路と,
前記出力電圧が供給される負荷の重さに応じて前記出力電圧を切換える出力電圧切換回路と,
前記出力電圧の切換えに連動して,前記電源電圧生成回路が供給する前記第1電源電圧と前記第2電源電圧とを切換える電源電圧切換回路と,
を備え,
前記出力電圧切換回路は,前記負荷の重さに応じて,前記フィードバックする値の生成条件を切換えるものである,
スイッチング電源装置。」

〈相違点1〉
前記「フィードバックする値」が,本願発明1では「前記出力回路の前記出力電圧を抵抗分割して検出される検出電圧と、所定の基準電圧との誤差電圧として求められる」ものであるのに対して,引用発明ではそのようなものではない点。

〈相違点2〉
前記「フィードバックする値の生成条件」の切換えが,本願発明1では「前記出力電圧に対する抵抗分割比を変更」することで行われるものであるのに対して,引用発明ではそのようなものではない点。

〈相違点3〉
前記「制御回路」が,本願発明1では「前記制御回路に供給される電源電圧が最大定格電圧より下の電圧閾値OVPより高くなると機能する過電圧保護手段と、電源電圧が電圧閾値UVLOより低くなると機能する低電圧誤動作防止手段とを有し」,さらに,「前記制御回路に供給される電源電圧は、前記電源電圧切換回路による切換の前後で、前記補助巻線の巻数と前記補助巻線の中間タップまでの巻数とにより、電圧閾値OVPより2V低い上限および電圧閾値UVLOより3V高い下限を有する推奨範囲に入るよう調整されるととも、前記制御回路は、前記電源電圧切換回路による切換の前後で、前記過電圧保護手段と前記低電圧誤動作防止手段とを継続して機能させる」ものであるのに対して,引用発明ではそのような「過電圧保護手段」と「低電圧誤動作防止手段」を有しておらず,さらに,切換の前後で電源電圧がそのような推奨範囲に入るよう調整されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み,上記相違点3について検討する。
制御回路が閾値電圧より高くなると動作する過電圧保護手段,及び,閾値電圧より低くなると動作する低電圧誤動作防止手段を有することは引用文献3(上記「第4 3.」)に記載されるように周知の技術である。
してみると,引用発明の「制御IC38」に該周知の技術を適用して,過電圧保護手段及び低電圧誤動作防止手段を設け,制御手段に供給する電圧を過電圧保護手段及び低電圧誤動作防止手段の閾値の範囲とすることは,当業者が容易に想到し得たことと認められる。
しかしながら,本願発明1は,さらに,制御回路に供給する電源電圧が,トランスTにおける巻線間の結合度やスイッチング電源装置の動作周波数,更には制御回路の消費電流に依存して,変化するために一定とはならないために,制御回路ICが有する過電圧保護機能および低電圧誤動作防止機能を活かしながら制御回路の安定した動作を保証するために,切換の前後で余裕を見込んだ前記過電圧保護用の電圧閾値OVPより2V低い上限および低電圧誤動作防止用の電圧閾値UVLOより3V高い下限を有する推奨範囲内で電源電圧を切換えるものである。
そして,切換の前後でこのような推奨範囲内で電源電圧を切換えることが周知の技術であったとはいえない。
また,引用文献2(上記「第4 2.」)には,負荷の重さに応じて設定される制御信号にしたがって電圧に対する抵抗分割比を変更してフィードバック電圧の生成条件を切り換えることは記載されているが,このような推奨範囲に関しては記載されていない。
したがって,本願発明1が引用発明,引用文献2及び3に記載の技術事項に基づき当業者が容易に構成し得たものであるとはいえない。
以上のとおりであるから,上記相違点1及び2について検討するまでもなく,本願発明1は,引用発明,引用文献2及び3に記載の技術事項に基づき当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2乃至6について
本願発明2乃至6は,本願発明1を更に限定したものであるので,同様に,当業者であっても引用発明,引用文献2及び3に記載の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第6 原査定について
1.特許法第29条第2項について
審判請求時の補正は,請求項2を削除し補正前の請求項1,3-7を本願発明1乃至6としたものであり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1乃至3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。 したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-07-15 
出願番号 特願2015-18683(P2015-18683)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮本 秀一東 昌秋  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 山澤 宏
月野 洋一郎
発明の名称 スイッチング電源装置  
代理人 星野 裕司  

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