• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1364452
審判番号 不服2018-13380  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-05 
確定日 2020-07-15 
事件の表示 特願2015-543131「フィルム組成物、フィルム組成物から作製されるフィルム、およびこのフィルムを含む多層フィルム、ならびにそこから作製される物品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月30日国際公開、WO2014/081777、平成27年12月21日国内公表、特表2015-536378〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
この出願は、2013年11月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年11月20日(US)米国、2012年11月21日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月16日に手続補正書が提出され、平成29年9月15日付けで拒絶理由が通知され、平成30年3月26日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月30日付けで拒絶査定がされ、同年10月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和1年6月3日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年11月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、令和1年11月5日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1には、以下の記載がされている。
「【請求項1】
フィルム組成物であって、
(a)75?200の範囲のコモノマー分布定数(CDC)、少なくとも2のゼロせん断粘度比(ZSVR)、0.865?0.910g/cm^(3)の範囲の密度、および0.1?5g/10分の範囲のメルトインデックス(I_(2))を有する、前記フィルム組成物の総重量に基づいて、5?75重量パーセントのエチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物(LLDPE)と、
(b)前記フィルム組成物の総重量に基づいて、25?95重量パーセントのプロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物と、
を含み、前記プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物が、プロピレン/α-オレフィンコポリマーまたはプロピレン/エチレン/ブテンターポリマーを含み、前記プロピレン/α-オレフィンインターポリマーが、1重量パーセント?30重量パーセントの範囲の結晶化度、2ジュール/グラム?50ジュール/グラムの範囲の融解熱、および25℃?110℃の範囲のDSC融点を有し、
前記組成物から形成したフィルムは、ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)が、(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルムの把持力よりも大きいか又は等しく、ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)が、前記比較フィルムの弾性回復率よりも大きいか又は等しい、フィルム組成物。」

なお、上記請求項1の記載は、平成30年10月5日に提出された手続補正書により補正された請求項1の記載のうちの下記の点が、令和1年11月5日に提出された手続補正書による手続補正により補正されたものである。
・(a)成分のエチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物(LLDPE)について、「炭素1,000,000個あたり120未満の総不飽和単位、および0.01?3個の長鎖分枝(LCB)の範囲である炭素1000個当たりの長鎖分枝頻度を有する」という事項の削除
・「ASTM4649」を「ASTM D4649」とする補正

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
令和1年6月3日付けで当審が通知した拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。

「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない。
2.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
・・・(中略)・・・
第1 理由1(明確性)について
・・・(中略)・・・
1 請求項1について
(1)請求項1には、「前記組成物から形成したフィルムは、ASTM4649に従って測定した把持力(100/75)が、(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルムの把持力よりも大きいか又は等しく、ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)が、前記比較フィルムの弾性回復率よりも大きいか又は等しい」 と記載されているが、当該記載は、以下の理由により、明確でない。

ア 「ASTM4649に従って測定した把持力(100/75)」の意味するところが不明である。
(「把持力」とはどのようなもので、どのように測定したものであるのか、「ASTM4649」を示し、具体的に説明されたい。また、「100/75」が、何を意味するのかについても、説明されたい。さらに、「ASTM4649」が「ASTM D4649」を意味するのであれば、そのように改められたい。)

イ アと同様に、「弾性回復(60/40)」についても、その意味するところが不明であるので、その測定方法を説明するとともに、「60/40」が何を意味するのか、説明されたい。

ウ ア及びイで述べたとおり「把持力(100/75)」及び「弾性回復(60/40)」の意味するところは必ずしも明確でないが、これらは「フィルム組成物」から形成した「フィルム」の物性を示すものと認められる。
そうすると、請求項1の上記記載は、「フィルム組成物」から形成される「フィルム」の物性と「比較フィルム」の物性との比較によって「フィルム組成物」自体を特定しようとするものである。
ここで、一般にフィルムの物性はこれを構成するフィルム組成物の組成のみでなく、フィルムの形成方法や構造(一層であるか多層であるかやその厚みなど)にも依存するものと解されるところ、請求項1には、「フィルム組成物」から形成される「フィルム」及び「比較フィルム」がどのような形成方法により形成されたものであるのかや、その構造について何ら規定がない。
してみると、上記「フィルム組成物」から形成される「フィルム」の物性と「比較フィルム」の物性との比較によって、「フィルム組成物」自体のどのような性質を規定しようとするものであるのか不明である。

エ 「(a)及び(b)を含まない比較フィルム」とは、(a)も(b)も含まないフィルムを意味するのか、(a)又は(b)のいずれかを含み、他方を含まないものを意味するのか不明である。

(2)【0018】の記載によれば、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」(下線は当審で付与、以下同じ)は、1つ以上の他のポリマーおよび/または1つ以上の添加剤等の追加の成分をさらに含んでもよ」く、【0038】の記載によれば、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。
そうすると請求項1の「フィルム組成物」は、さまざまな添加剤を含みうる「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」と、さまざまな添加剤を含みうる「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」を含むものであると解され、それら両者を含む「フィルム組成物」とはどのようなものを意味するのか、必ずしも明確であるとはいえない。
・・・(中略)・・・
第2 理由2(実施可能要件)について
・・・(中略)・・・
1 請求項1に係る発明は、「(a)75?200の範囲のコモノマー分布定数(CDC)・・・および0.01?3個の長鎖分枝(LCB)の範囲である炭素100個当たりの長鎖分枝頻度」との物性(以下、「物性(a)」という。)を有する特定量の「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」と、特定の物性を有する特定量の「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」とを含むフィルム組成物であって、「前記組成物から形成したフィルムが、ASTM4649に従って測定した把持力(100/75)が、(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルムの把持力よりも大きいか又は等しく、ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)が、前記比較フィルムの弾性回復率よりも大きいか又は等しい」との特定(以下、「特定A」という。)を有するフィルム組成物に係るものであるが、本願の発明の詳細な説明は、以下の理由により、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。
・・・(中略)・・・
(2)上記第1 1(2)で述べたとおり、【0018】の記載によれば、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」は、1つ以上の他のポリマーおよび/または1つ以上の添加剤等の追加の成分をさらに含んでもよ」く、【0038】の記載によれば、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」は、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「ELITE AT 6301」と「VERSIFY 2300」を含む組成物が具体的に記載されているのみであり、さまざまな添加剤を含みうる「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」と、さまざまな添加剤を含みうる「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」について、どのようにして、特性(A)を満たす組成物を製造するかについては、何ら記載がない。また、このことが本願出願時の技術常識であるともいえない。」

第4 当審の判断
当審は、当審が通知した拒絶理由と同一の理由により、依然としてこの出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断し、また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
以下、詳述する。

1 特許法第36条第6項第2号について
(1)前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するか否か、すなわち、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点で判断すべきものである(平成30年(行ケ)第10117号)から、当該見地に立って検討する。

(2)検討
以下、当審が通知した拒絶理由の論点ごとに検討する。
ア 請求項1の「前記組成物から形成したフィルムは、ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)が、(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルムの把持力よりも大きいか又は等しく、ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)が、前記比較フィルムの弾性回復率よりも大きいか又は等しい」という記載について

(ア)「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」について
a 検討
この「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」とは、フィルムについての何らかの「把持する力」に係る物性であることは一応理解できる。
しかしながら、この出願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)の記載を検討すると、上記「把持力」に関連する事項について、発明の詳細な説明の段落【0002】には、伸縮性フードフィルムの分野において、優良な把持力は望ましい特性である旨の記載はされているが、同【0043】には、「把持力(100/75)」という記載があるだけであり、把持力の具体的な測定方法及び(100/75)の意味についての記載はない。
また、同【0056】以降の実施例においては、同【0062】に、「把持力(60/40および100/75)は、ASTM D4649に従って測定された。」と記載され、同【0064】の表2に、実施例及び比較例における把持力の値が記載されているだけであり、把持力の具体的な測定方法及び(100/75)の意味についての記載はない。

ここで、審判請求人が令和1年11月5日に提出した意見書に参考資料として添付した「ASTM D4649-03(2009年 再承認済み)の内容をみても、把持力の具体的な測定方法は記載されていないし、また、(100/75)の意味も記載されておらず、「把持力」なる物性値が、その測定方法を含めて当業者の技術常識であるともいえない。

そうすると、請求項1に記載された「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」なる物性は、本願明細書の記載及び当業者の技術常識に照らしても、具体的にどのような測定方法により測定された物性値であるのかを当業者が明確に理解することはできず、また、(100/75)とは、どういった内容を表しているのかも明確に理解することはできない。

b 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、別件である特許第5824512号公報の段落【0098】の記載をみれば「把持力」に係る「(100/75)」の記載は明確である旨の主張をしているから、検討する。

(a)特許第5824512号公報の記載
特許第5824512号公報の特許請求の範囲の請求項1には、特定の物性を有するポリエチレンコポリマーを含む内層と2層の外層とを含み、100%伸びまで引き伸ばした場合、弾性回復率が少なくとも40%である多層フィルムが記載され、段落【0005】には、ストレッチフードに適した多層フィルムである旨の記載がされ、同【0098】には、同【0040】?【0063】に記載された実施例のうち、本発明のフィルム1及び2、並びに比較フィルム1及び2に関する「フィルムの試験条件」が以下のように記載されている。
「 以下の物性を製造したフィルムで測定する。
・45°光沢:ASTM D-2457
・縦方向および横方向エルメンドルフ引裂き強さ:ASTM D-1922
・縦方向および横方向引張強さ:ASTM D-882
・落槍衝撃強さ:ASTM D-1709
・ストレッチフーダー100/75試験:
100mm×25mmの寸法および所定の厚さのフィルム試料を、ストレッチフーダー100/75試験に使用した。フィルム試料を、Instron5581機械的試験システムを使用して、1000mm/分の速度で100%伸びるまで引き伸ばした。100%伸びを達成した時点で、フィルム試料をこの位置で15秒保持し、次いで1000mm/分の速度で75%伸びまで戻した。この伸びで5分間待った後、試料上の負荷を測定し、保持力として記録した。その後、Instronグリップを伸び0まで戻し、フィルム試料を取り外した。周囲条件で24時間待った後、フィルムの最終長さを測定し、永久歪率を以下の方程式を使用して計算した。
永久歪率(%)=(最終長さ-初期長さ)/(初期長さ)×100
弾性回復率は、以下のように計算した。
弾性回復率=100-永久歪率
5枚の試験片を各試料用に使用し、保持力、永久歪および弾性回復率の平均値を示す。
・ストレッチフーダー60/40試験
この試験は、最初にフィルム試料を1000mm/分の速度で60%伸びまで引き伸ばし、15秒間保持し、次いで同じ速度で40%伸びまで戻すことを除いて、ストレッチフーダー100/75試験に非常に類似する。40%伸びで5分間待った後、保持力を測定した。永久歪率および弾性回復率を測定する手順は、ストレッチフーダー100/75試験方法と全く同じである。」
そして、同【0101】の【表24】(「表12」とも記載されている。)には、「フィルムの物性データ」として、比較例1及び2、並びに実施例1及び2における「ストレッチフーダー-100/75試験」の「平均弾性回復率(%)」及び「平均永久歪み率(%)」、並びに「ストレッチフーダー-60/40試験」の「平均弾性回復率(%)」及び「平均永久歪み率(%)」の値が記載されている。

(b)検討
i (100/75)について
特許第5824512号公報の特許請求の範囲の請求項1には、多層フィルムが記載され、このフィルムはストレッチフードに適していることが記載されている。そして、実施例には、製造されたフィルムの試験方法の1つである「ストレッチフーダー100/75試験」の試験方法が記載され、概略、100mm×25mmの寸法のフィルム試料を、1000mm/分の速度で100%伸びるまで引き伸ばし、15秒保持し、次いで1000mm/分の速度で75%伸びまで戻した、という記載がされている。また、「ストレッチフーダー60/40試験」についても、同様に、60%伸びるまで引き伸ばし、15秒保持し、次いで1000mm/分の速度で40%伸びまで戻した、という記載がされている。
このように、特許第5824512号公報では、「ストレッチフーダー100/75試験」として、フィルムを100%引き伸ばした後に75%伸びまで戻すという操作を行った上での各種物性値を「ストレッチフーダー100/75試験」と表現しているといえる。

しかしながら、この記載はあくまで特許第5824512号公報に記載される多層フィルムの物性を確認するための試験方法を記載したものにすぎないといえ、このような操作方法を行う際に100/75と表現することが一般的であることを示す記載はない。また、審判請求人は、本願請求項1の「(100/75)」という記載が特許第5824512号公報に記載された操作方法を意味するという合理的な理由を述べているわけでもない。

そうすると、本願請求項1の「(100/75)」という記載が、直ちに上記操作を意味していると解することはできない。さらに、特許第5824512号公報に記載される操作を「(100/75)」と表すことが技術常識であるとする理由はない。

したがって、特許第5824512号公報の記載をみても、本願請求項1に記載された「(100/75)」との規定が明確であるとはいえない。

ii 把持力の測定方法について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、本願請求項1に記載された把持力の測定方法については、何も説明していない。

審判請求人は主張していないが、特許第5824512号公報の「ストレッチフーダー100/75試験」における、フィルムを100%引き伸ばした後に75%伸びまで戻し、試料上の負荷を測定し保持力として記録したという旨の記載からすると、もし、この保持力の測定方法が、本願請求項1に記載された把持力の測定方法であると仮定した場合について、念のため検討しておくが、上記iで述べたとおり、上記記載は特許第5824512号公報に記載される多層フィルムに対する試験方法を記載したものであって、あくまで平均弾性回復率と平均永久歪み率と測定する際の測定方法の一部であるから、上記記載が、直ちに本願請求項1に記載される把持力の測定方法を意味しているということはできない。また、特許第5824512号公報に記載される保持力の測定方法が、把持力の測定方法の技術常識であるとはいえない。

iii 特許第5824512号公報について
特許第5824512号公報の特許権者の欄には、本願の審判請求人と同じ記載がされ、この公報に記載された「ストレッチフーダー100/75試験」及び「ストレッチフーダー60/40試験」という試験方法が、その具体的な測定条件を含め、「把持力」を測定する方法として、当業者の技術常識であると認識されているものと認めることはできない。

(c)小括
以上のとおりであるので、審判請求人の主張は採用できない。

c まとめ
したがって、請求項1の「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」という記載により特定される事項を含む特許を受けようとする発明は、明確であるとはいえない。

(イ)「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」について
a 検討
この「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」とは、フィルムについての物性であることは一応理解できる。
しかしながら、本願明細書の記載を検討すると、上記「弾性回復」に関連する事項について、発明の詳細な説明の段落【0002】には、伸縮性フードフィルムの分野において、優良な弾性回復は望ましい特性である旨の記載はされているが、同【0044】及び【0045】には、「弾性回復(60/40)」という記載があるだけであり、弾性回復の具体的な測定方法及び(60/40)の意味についての記載はない。
また、同【0056】以降の実施例においては、同【0062】に、「弾性回復(60/40および100/75)は、ASTM D4649に従って測定された。」と記載され、同【0064】の表2に、実施例及び比較例における弾性回復の値が記載されているだけであり、弾性回復の具体的な測定方法及び(60/40)の意味についての記載はない。

ここで、審判請求人が令和1年11月5日に提出した意見書には、参考資料として「ASTM D4649-03(2009年 再承認済み)」が添付されている。
確かに、参考資料には、「弾性回復」に対応する「Elastic recovery」との記載がされ、TABLE1(第3頁左上欄)には、「物質の物理的及び機械的特性」と題され、特性の項目に「弾性回復」が記載され、ASTMの試験方法には、「D5459」と記載があるが、弾性回復の具体的な測定条件を含めた測定方法は記載されていないし、また、「(60/40)」の意味も記載されていない。また、他に弾性回復に関する技術事項も記載されていない。

そうすると、請求項1に記載された「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」なる物性は、本願明細書の記載及び当業者の技術常識に照らしても、具体的にどのような測定方法により測定された物性値であるのかを当業者が明確に理解することはできず、また、(60/40)とは、どういった内容を表しているのかも明確に理解することはできない。

b 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、別件である特許第5824512号公報の段落【0098】の記載をみれば「弾性回復」に係る「(60/40)」の記載は明確である旨の主張をしているから、検討する。

(a)特許第5824512号公報の記載
特許第5824512号公報には、上記(ア)b(a)で示したことが記載されている。

(b)検討
i (60/40)について
(60/40)の記載については、上記(ア)b(b)iで述べた理由と同じ理由により審判請求人の主張は採用できない。

ii 弾性回復の測定方法について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、本願請求項1に記載された弾性回復の測定方法については、何も説明していない。

審判請求人は主張していないが、特許第5824512号公報の「ストレッチフーダー100/75試験」を引用した「ストレッチフーダー60/40試験」における、フィルムを60%引き伸ばした後に40%伸びまで戻し、0まで戻したときの永久歪率から算出される弾性回復率が、本願の請求項1に記載された弾性回復であり、当該弾性回復率の測定方法が、本願の請求項1に記載された弾性回復の測定方法であると仮定した場合について、念のため検討すると、上記(ア)b(b)iで述べたとおり、上記記載は特許第5824512号公報に記載される多層フィルムに対する試験方法を記載したものであって、あくまで平均弾性回復率と平均永久歪み率と測定する際の測定方法の一部であるから、上記記載が、直ちに本願請求項1に記載される弾性回復の測定方法を意味しているということはできない。また、特許第5824512号公報に記載される弾性回復率の測定方法が、弾性回復の測定方法の技術常識であるとはいえない。

iii 特許第5824512号公報について
特許第5824512号公報の特許権者の欄には、本願の審判請求人と同じ記載がされ、この公報に記載された「ストレッチフーダー100/75試験」及び「ストレッチフーダー60/40試験」という試験方法が、その具体的な測定条件を含め、「弾性回復」を測定する方法として、当業者の技術常識であると認識されているものと認めることはできない。

(c)小括
以上のとおりであるので、審判請求人の主張は採用できない。

c まとめ
したがって、請求項1の「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」という記載により特定される事項を含む特許を受けようとする発明は、明確であるとはいえない。

(ウ)「(a)及び(b)を含まない比較フィルム」について
当審で通知した拒絶理由では、この点は「エ」として4番目に検討しているが、事案に鑑み、「(ウ)」として3番目に検討する。

a 検討
令和1年11月5日に提出された意見書では、「この用語「(a)及び(b)を含まない比較フィルム」とは、(a)及び(b)のうちの1つ以上を含まないフィルムを指します。」と説明し、表1及び表4が参照できる旨の説明がされている。
この意見書での説明を検討すると、「(a)及び(b)のうちの1つ以上を含まないフィルム」とは、「(a)及び(b)のうちの1つを含まないフィルム」と、「(a)及び(b)をいずれも含まないフィルム」とに、多義的に解することができる。
そして、「(a)及び(b)のうちの1つを含まないフィルム」の場合には、(a)又は(b)の1成分を含むフィルムを意味していると解することができて比較フィルムは明確であるということができるものの、「(a)及び(b)をいずれも含まないフィルム」の場合は、比較フィルムの成分が何も特定されていないことになり、どのような成分を含むフィルムを意味しているのか明確であるとはいえない。
仮に、比較フィルムの成分が何も特定されていないとは、いかなる成分を含むフィルムであってもよいことを意味すると解するとしても、いかなる成分を含むフィルムとは、どのような成分を含む比較フィルムを意味するのか明らかであるとはいえない。

以上のとおりであるので、「(a)及び(b)を含まない比較フィルム」という記載により特定される事項を含む特許を受けようとする発明は、明確であるとはいえない。

(エ)当審が通知した拒絶理由の「ウ」について
当審が通知した拒絶理由の「ウ」は、概略、本願の請求項1には、「フィルム組成物」が、このフィルム組成物から形成した「フィルム」の物性である「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」及び「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」が、「(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルム」よりも大きいか又は等しいという規定がされているが、一般にフィルムの物性はフィルムの形成方法や構造にも依存するものと解されるところ、本願の請求項1には、フィルムの形成方法や構造が何も記載されていない。このように、フィルムの形成方法や構造が特定されていないフィルムの物性でフィルム組成物を特定するとは、フィルム組成物のどのような性質を特定しようとするものであるのか不明である、というものである。

上記(ア)?(ウ)で述べたとおり、上述した請求項1には「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」、「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」及び「(a)及び(b)を含まない比較フィルム」という記載があり、これらは明確ではないが、これらの記載が組み合わされた上記した特定は、さらに以下の点で明確でない。

a 検討
当審が通知した拒絶理由で述べたように、フィルムの物性は、フィルムを構成するフィルム組成物の組成のみで定まるものであるとはいえず、フィルムの形成方法(例えば、無延伸フィルムであるのか、延伸フィルムであるのか等)やフィルムの構造(一層であるのか多層であるのか、又はその厚み等)によっても変わるものであることは技術常識であるところ、請求項1に記載されたフィルム組成物から形成されたフィルムと比較フィルムは、その形成方法や構造が特定されたものではないから、フィルムの物性値も一定のものとはいえず、形成方法や構造の違いにより大きく違う値を有するものを含むといえる。
そうすると、請求項1に記載されたフィルム組成物から形成されたフィルムと比較フィルムの把持力及び弾性回復の値も一定の同一傾向を示す値とはいえないから、このような一定の値とはいえない把持力及び弾性回復が、比較フィルムよりも大きいか又は等しいということによる特定は、技術的に意味が不明である。

b 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、請求項1に記載された「フィルム」は、請求項1に記載されたフィルム組成物から製造されたフィルムであり、「比較フィルム」とは、「フィルム組成」において相違し、同じ方法、同じ構成、及び/又は同じ厚さで形成されるものであること、と主張し、例えば、「比較実施例」のフィルムと「発明的実施例」のフィルムとは、異なる組成物から形成されたものであるが、それ以外は同一(同じ方法、同じ構成、同じ厚みで形成されたもの)であり、「フィルム組成」自体の相違にのみ起因するのであって、そのフィルムの形成方法、厚み等の他の項目には帰属しない旨を主張する。

この主張について検討すると、まず、審判請求人の主張は、ただ、フィルムの組成以外(製造方法、構成、及び/又は厚さ)は同じであることを述べるだけでフィルムの形成方法や構造の特定を論証するものではない。
つぎに、審判請求人の主張に沿って検討してみる。
確かに、本願明細書の発明的実施例と比較実施例とは、同じ方法、同じ構成、同じ厚みで形成されたフィルムであって、フィルム組成が異なると解することができるといえ、請求項1に記載されたフィルムの把持力や弾性回復が、比較フィルムのそれよりも大きいか等しいことが記載されているといえる。
しかしながら、上記した内容は、請求項1に記載されるフィルムは比較フィルムとフィルム組成において相違し、同じ方法、同じ構成、及び/又は同じ厚さで形成されるとする審判請求人の主張のうち、製造方法、構成、厚さの全てが同じである場合の例にすぎない。審判請求人は、製造方法、構成、及び/又は厚さは同じであること、すなわち、製造方法、構成、厚さのうち1つが同じである場合であっても請求項1に記載されたフィルムの物性を満足すると主張するのであって、明細書に記載された発明的実施例と比較実施例をみても、審判請求人の主張することを支持するものであるとはいえない。

そして、製造方法、構成、厚さの全てが同じではない場合には、フィルムの物性値が違う値となるものであることは、上記aで述べたとおりである。

よって、審判請求人が主張は採用できない。

c まとめ
したがって、請求項1に記載された「フィルム組成物」が、このフィルム組成物から形成した「フィルム」の物性である「ASTM D4649に従って測定した把持力(100/75)」及び「ASTM D4649に従って測定した弾性回復(60/40)」が、「(a)及び(b)を含まない材料から形成した比較フィルム」よりも大きいか又は等しいという特定を含む特許を受けようとする発明は、明確であるとはいえない。

(オ)上記アで示した記載についてのまとめ
以上のとおりであるから、上記アで示した記載により特定される事項を含む特許を受けようとする発明は、特許請求の範囲、明細書及び当業者の出願当時における技術常識であるといえる上記参考資料の記載をみても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。

イ 当審が通知した拒絶理由の「(2)」について
当審が通知した拒絶理由の「(2)」は、概略、本願の請求項1に記載された「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」及び「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」は、追加の成分をさらに含みうるものであると解されるところ、さまざまな添加剤を含みうる「フィルム組成物」は、どのようなものを意味するのか、必ずしも明確であるとはいえない、というものである。

(ア)検討
請求項1の「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」という記載について、請求項1には、エチレン/α-オレフィンインターポリマー以外の成分については明示されていないところ、発明の詳細な説明の段落【0018】には、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、例えば1つ以上の他のポリマーおよび/または1つ以上の添加剤等の、追加の成分を更に含んでもよい。」と記載され、続いて、具体的な追加の成分が記載されている。このような発明の詳細な説明の記載によれば、請求項1の「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」は、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを意味する場合と、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」とさらに追加の成分を含む組成物を意味する場合が含まれると解釈することができる。
同様に、請求項1の「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」という記載についても、同【0038】には、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。」と記載され、続いて、具体的な添加剤が記載されているから、請求項1の「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」は、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを意味する場合と、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」とさらに追加の成分を含む組成物を意味する場合があると解釈することができる。
そして、令和1年11月5日に提出した意見書でも、審判請求人は同様の解釈をした主張をしている。

上記解釈に基づき検討をすると、請求項1の「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」及び「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」の記載が、それぞれ「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」及び「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを意味する場合には、その成分は明確であるといえる。しかしながら、さらに追加の成分を含む組成物を意味する場合には、さらに追加する成分は何も特定されていないのであるから明らかであるとはいえない。また、発明の詳細な説明の記載をみても、限定されない成分が例示されているだけであり、どの成分を使用のか明確であるとはいえない。さらに、追加の成分が明らかであるとする技術常識もない。

そうすると、上記「エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」及び「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物」を含む「フィルム組成物」についても、エチレン/α-オレフィンインターポリマー及びプロピレン/α-オレフィンインターポリマー以外の追加の成分が明らかであるとはいえず、請求項1に記載されたフィルム組成物は明確であるとはいえない。

(イ)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、発明の詳細な説明の段落【0018】を引用した上で、請求項1に記載された組成物は、添加物などの追加成分を含んでも含まなくてもよいことが説明されており、またフィルム組成物に他の成分を追加することは当該分野の技術常識から当業者には明らかであると考えられる旨を主張する。

審判請求人が主張するように、請求項1に記載されたフィルム組成物は、添加物などの追加成分を含んでも含まなくてもよいと解することができるが、追加成分を含む場合には、その追加成分が明らかでないことには変わりはない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、上記イで示した記載により特定される事項を含む特許を受けようとする発明は、特許請求の範囲、明細書及び当業者の出願当時における技術常識をみても、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。

2 特許法第36条第4項第1号について
(1)前提
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第2」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
本願の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)段落【0007】?【0013】には、本願発明のフィルム組成物に含まれる(a)成分であるエチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物がその特性とともに記載されており、同【0018】には、エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物に含まれる追加の成分が以下のように記載されている。
「【0018】
エチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、例えば1つ以上の他のポリマーおよび/または1つ以上の添加剤等の、追加の成分を更に含んでもよい。このような添加剤としては、限定されるものではないが、帯電防止剤、着色促進剤、染料、滑沢剤、TiO_(2)またはCaCO_(3)等の充填剤、乳白剤、核剤、加工助剤、色素、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、加工助剤、UV安定剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤、粘着付与剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、臭気減少剤、抗真菌剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。エチレン系ポリマー組成物は、このような添加剤を含むエチレン系ポリマー組成物の重量に基づいて、このような添加剤の総合重量により、約0.1?約10パーセントを含んでもよい。」
また、同【0020】?【0027】には、その製造方法が記載されている。

(b)段落【0028】?【0033】には、本願発明のフィルム組成物に含まれる(b)成分であるプロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物がその特性とともに記載されており、同【0038】には、プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物に含まれる追加の成分が以下のように記載されている。
「【0038】
プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。このような添加剤としては、限定されるものではないが、帯電防止剤、着色促進剤、染料、滑沢剤、充填剤、色素、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、加工助剤、UV安定剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、任意の量の添加剤を含有してもよい。プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、プロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物および1つ以上の添加剤の重量に基づいて、このような添加剤の総合重量により、約0?約20パーセントを妥協してもよい。」

(c)段落【0043】?【0045】には、フィルム組成物から形成したフィルムは(a)又は(b)成分を含まない比較フィルムと比較した場合に、把持力及び弾性回復が大きいか又は等しいことが記載されている。

(d)段落【0057】以降に記載の実施例では、以下の事項が記載されている。
「【0057】
それぞれの表皮層が同じ組成物である2枚の表皮層と、これらの2枚の表皮層の間に布置される1枚のコア層とをそれぞれのフィルムが含む、5つの三層フィルム(発明的実施例1?2および比較実施例1?3)を共押出した。それぞれのフィルムは89ミクロンの厚さを有した。三層フィルムは、表1に示される表皮およびコア層のポリマー成分を使用して作製された。VERSIFY 2300は、プロピレン系ポリマーであり、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能である。ELITE AT 6101およびELITE AT 6301は、エチレン系ポリマーであり、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能である。ATTANE NG 4701Gはエチレン系ポリマーであり、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能である。
【0058】
表2および3は、発明的および比較実施例のある物理的特性を提供するものである。確認できるように、コア層が発明的フィルム組成物を含む、発明的実施例1および2の提示する弾性回復(60/40および100/75)は、コア層がプロピレン/α-オレフィンインターポリマーからなる比較実施例1の弾性回復以上である。同様に、発明的実施例2の提示する把持力(100/75)は、コア層がエチレン/α-オレフィンインターポリマーからなる比較実施例3のものと等しい。
【0059】
それぞれの表皮層が同じ組成物である2枚の表皮層と、これらの2枚の表皮層の間に布置される1枚のコア層とをそれぞれが含む、追加の三層フィルム(発明的実施例3?4および比較実施例4?5)を共押出した。発明的実施例3?4および比較実施例4?5は、表4に示される表皮およびコア層のポリマー成分を使用して作製された。AFFINITY PL 1880Gは、ASTM D 792に従って測定される0.902g/cm^(3)の密度、およびASTM D 1238(2.16kg、190℃で)に従って測定される1g/10分のメルトインデックス、I_(2)を有する、エチレンα-オレフィンコポリマーである。AFFINITY PL 1880Gは、The Dow Chemical Company(Midland、Michigan)から商業的に入手可能である。LDPE 132Iは、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能な低密度ポリエチレンであり、ASTM D 792に従って測定される0.921g/cm^(3)の密度、およびASTM D 1238(2.16kg、190℃で)に従って測定される0.25g/10分のメルトインデックス、I_(2)を有する。LDPE20020は、PEMEX(Mexico、D.F.)から商業的に入手可能な低密度ポリエチレンであり、ASTM D 792に従って測定される0.9205g/cm^(3)の密度、およびASTM D 1238(2.16kg、190℃で)に従って測定される2.0g/10分のメルトインデックス、I_(2)を有する。XUS 59900.91は、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能な強化ポリエチレン樹脂(LLDPE)であり、ASTM D792に従って測定される0.913g/cm^(3)の密度、およびASTM D1238(2.16kg、190℃で)に従って測定される0.80g/10分のメルトインデックス、I_(2)を有する。
【0060】
表5は、比較実施例4?5に関するある物理的特性を提供するものである。表6は、発明的実施例3?4に関するある物理的特性を提供するものである。
【0061】
表7は、発明的実施例3?4および比較実施例4?6のある物理的特性を提供するものである。確認できるように、コア層が発明的フィルム組成物を含む、発明的実施例3および4の提示する応力ひずみ特性は、コア層がプロピレン/α-オレフィンインターポリマーからなる比較実施例4およびコア層がエチレン/α-オレフィンインターポリマーからなる実施例6の応力ひずみ特性以上である。
【0062】
試験方法
試験方法には以下のものが含まれる。
表2に示される弾性回復(60/40および100/75)は、ASTM D4649に従って測定された。
表5および表6に示される弾性回復(歪度55%および60%)は、ASTM D5459に従って、25.4mmの幅を有する試料において測定された。
表2に示される把持力(60/40および100/75)は、ASTM 4649に従って測定された。
正規化引裂CD(横方向)およびMD(縦方向)は、ASTM D1922に従って測定された。
セカント係数は、ASTM D882に従って測定された。
ダートBは、ASTM D1709に従って測定された。
本発明は、その趣旨および本質的な属性から逸脱することなく、他の形態に具体化され得、したがって、参照は、本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書よりむしろ、添付の特許請求の範囲になされるべきである。
【0063】

【0064】



(4)検討
ア 本願請求項1に係る発明の解釈について
本願請求項1に係る発明は、上記1で述べたとおり明確ではないが、以下のとおり解釈して実施可能要件を検討した。
上記1(2)ア(ア)及び(イ)については、審判請求人が主張するように、特許第5824512号公報に記載されたとおりの内容と解釈した。
上記1(2)ア(ウ)については、審判請求人が主張するうち、「(a)及び(b)のうちの1つを含まないフィルム」と解釈した。
上記1(2)ア(エ)については、本願明細書の実施例で記載される限りのとおりの内容と解釈した。
上記1(2)イについて、(a)及び(b)成分が追加の成分を含む場合には、本願明細書の段落【0018】及び【0038】に記載されたいずれかの成分を含むものと解釈した。

イ 検討
(ア)本願請求項1に係る発明について
本願請求項1に係る発明は、概略、(a)特定の物性を有する5?75重量パーセントのエチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物(LLDPE)と(b)特定の物性を有する25?95重量パーセントのプロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物とを含むフィルム組成物であって、このフィルム組成物から形成したフィルムと比較フィルムとを対比した場合の把持力(100/75)及び弾性回復(60/40)が特定されたものである。
そして、上記1(2)イ(ア)で述べたように、(a)成分のエチレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを意味する場合と、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」とさらに追加の成分を含む組成物を意味する場合が含まれると解され、また、(b)成分のプロピレン/α-オレフィンインターポリマー組成物は、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを意味する場合と、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」とさらに追加の成分を含む組成物を意味する場合があると解されるものである。

(イ)発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明には、フィルム組成物のうちの(a)及び(b)成分についての説明がされ、本願明細書の段落【0018】及び【0038】には、追加の成分が記載されている。
また、同【0043】?【0045】には、フィルム組成物から形成したフィルムは(a)又は(b)成分を含まない比較フィルムと比較した場合に、把持力及び弾性回復が大きいか又は等しいことが記載されている。
そして、実施例には、発明的実施例1及び2として、コア層に本願発明のフィルム組成物に対応する具体的な組成物が使用された三層フィルムが記載され、コア層に(a)又は(b)成分を含まない比較実施例1?3と比較した場合に、把持力及び弾性回復が大きいか又は等しいことが記載されている。

ここで、発明的実施例1及び2のコア層の組成物の(a)成分としては、ELITE AT 6101が使用され、これは、エチレン系ポリマーであり、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能であることが記載され、平成30年10月5日に提出した審判請求書をみれば、本願請求項1に記載される物性を満たすということができる。また、同じく(b)成分としては、VERSIFY 2300が使用され、これは、プロピレン系ポリマーであり、The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能であることが記載され、同じく平成30年10月5日に提出した審判請求書をみれば、本願請求項1に記載される物性を満たすということができる。

(ウ)検討
このように、発明の詳細な説明に記載された発明的実施例は、フィルム組成物のうちの(a)成分として、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを使用した例であると解され、また、同じく(b)成分として、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを使用した例であると解することができ、フィルム組成物から形成したフィルムと比較フィルムとを対比した場合の把持力(100/75)及び弾性回復(60/40)が大きいか又は等しいことが確認され、本願請求項1に係る発明のフィルム組成物を製造できたことが記載されているといえる。

しかしながら、この発明的実施例は、あくまで(a)成分として、「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを使用した例であり、さらに追加の成分を含む組成物の場合ではない。また、同じく(b)成分として、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」のみを使用した例であり、さらに追加の成分を含む組成物の場合ではない。

フィルムを形成した際の物性は、フィルムを形成する材料である組成により変わることは技術常識であるといえるところ、そうすると、本願請求項1に係る発明のフィルム組成物として、(a)成分として「エチレン/α-オレフィンインターポリマー」と、1つ以上の他のポリマーも含みうる追加の成分を含む組成物を使用し、また、(b)成分として、「プロピレン/α-オレフィンインターポリマー」とさらに追加の成分を含む組成物を使用した場合のフィルムの物性は変わるといえるから、比較フィルムと対比した場合の把持力(100/75)及び弾性回復(60/40)も発明的実施例と同じであるということはできない。そして、(a)及び(b)成分として追加の成分を含む組成物を使用した場合でも、フィルムの物性は変わらず、比較フィルムと対比した場合の把持力(100/75)及び弾性回復(60/40)は大きいか又は等しいとする技術常識はない。

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、本願請求項1に係る発明として(a)及び(b)成分に追加の成分を含むフィルム組成物を使用した場合には、本願出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく本願請求項1に係る発明を製造することができるということはできない。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、令和1年11月5日に提出した意見書において、「「発明的実施例」のフィルムと「比較実施例」のフィルムとの間で確認できる相違は、「フィルム組成」自体の相違にのみ起因するのであって、そのフィルムの形成方法、厚み等の他の項目には帰属しないこと」を述べるだけである。審判請求人のこの主張は、当該拒絶理由に対して何ら説明をしたことにはならないから、審判請求人の主張は採用できない。

(6)特許法第36条第4項第1号についてのまとめ
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、請求項1に係る発明について、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたとはいえず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

3 まとめ
よって、この出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。また、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、この特許出願が、特許法第36条第6項及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-02-14 
結審通知日 2020-02-18 
審決日 2020-03-02 
出願番号 特願2015-543131(P2015-543131)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08L)
P 1 8・ 536- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 橋本 栄和
佐藤 健史
発明の名称 フィルム組成物、フィルム組成物から作製されるフィルム、およびこのフィルムを含む多層フィルム、ならびにそこから作製される物品  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 片山 英二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ