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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1364453
審判番号 不服2018-14175  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-25 
確定日 2020-07-15 
事件の表示 特願2015-519146「鉄製、特に鋳鉄製の埋設管部材のための外側被膜、被膜されている管部材、及び被膜を付着させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月 3日国際公開、WO2014/001544、平成27年10月29日国内公表、特表2015-530935〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、平成25年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月29日、フランス(FR))を国際出願日とする特許出願であって、平成30年6月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に明細書を対象とする手続補正がなされたものである。
その後、当審において令和元年6月14日付けで拒絶の理由を通知したところ、同年12月18日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、上記の令和元年12月18日付け誤訳訂正書で訂正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
下記の工程を含むことを特徴とする、地下に設置するように設計されている、鉄製の管部材(7)上に、外側被膜(9)を付着させる方法:
(a)実質的に純粋な亜鉛、又は亜鉛合金若しくは擬合金を含む第一の多孔質層(11)を、管部材(7)上に、メタライゼーションにより付着させること、ここで、前記亜鉛合金又は擬合金は、少なくとも50質量%の亜鉛を含み、前記第一の多孔質層(11)は、0.5質量%?3質量%の濃度で、銅及び/又は銀を含む、及び
(b)前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ第二の多孔質層(13)を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること、ここで、前記第二の多孔質層(13)は、水に乳化、分散又は溶解している少なくとも1種の合成樹脂から作られている、水相の一成分塗料を含み、前記第二の多孔質層(13)が有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していないこと。」


第3.当審で通知した拒絶理由の概要
当審において令和元年6月14日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

1)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2)本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3)本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
4)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
5)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(特許法第36条第6項第2号)について
請求項1及び8の記載は不明確である。

●理由2(特許法第36条第6項第1号)について
請求項1?21に係る発明は、本願発明が解決しようとする課題を解決するものであることが、発明の詳細な説明の記載から理解することができない。

●理由3(特許法第36条第4項第1号)について
発明の詳細な説明は、請求項1?21に係る発明を当業者が正確に理解し、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

●理由4(特許法第29条第1項第3号)について
1.引用文献1を主引例とする理由4
請求項1?3、7?10、12、14、17、18に係る発明は、引用文献1に記載された発明である。
2.引用文献2を主引例とする理由4
請求項1?3、5、7?10、14?18に係る発明は、引用文献2に記載された発明である。

●理由5(特許法第29条第2項)について
1.引用文献1を主引例とする理由5
請求項1?21に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.引用文献2を主引例とする理由5
請求項1?21に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
1.特開平11-351492号公報
2.特開2004-223429号公報
3.特開2012-97348号公報
4.特開2010-222606号公報
5.特開2011-72966号公報
6.特開2005-272952号公報
7.特開2010-65838号公報


第4.当審拒絶理由についての当審の判断
1.理由4(特許法第29条第1項第3号)について
(1)引用文献1を主引例とする理由4
ア.引用文献1(特開平11-351492号公報)には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】コロイダルシリカの存在下にエチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる水性樹脂を含んでなる水性塗料組成物で被覆したことを特徴とする亜鉛処理鉄管類。
【請求項2】コロイダルシリカが、水性樹脂の樹脂固形分100重量部に対して0.01?10重量部である請求項1記載の亜鉛処理鉄管類。
【請求項3】水性樹脂が、アクリル系エマルジョンおよび/またはジエン系合成ゴムラテックスである請求項1または2記載の亜鉛処理鉄管類。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、亜鉛、亜鉛合金又は亜鉛混合物を被覆した鉄管類を、特定の組成を有する水性塗料組成物で更に被覆することにより優れた防食性能を付与した鉄管類を製造し、使用する技術分野に関する。
【0002】
【従来の技術】鉄管類は、大部分が地中に埋設して上下水道用やガス用の管路などを形成するが、該鉄管類の外面は、通常、土壌中の腐食性雰囲気にさらされ、内面は通水による腐食作用をうける。また、腐食が進行しても取り替え作業は交通事情もあり、困難なケースが多く長時間の防食性能が求められている。」

(ウ)「【0015】
【発明の実施の形態】本発明は、その内面及び外面、または外面のみに亜鉛、亜鉛合金または亜鉛混合物を鍍金または溶射等の方法で被覆した亜鉛処理鉄管の上に、さらにコロイダルシリカの存在下にエチレン性不飽和単量体を乳化重合して製造された水性樹脂を含んでなる水性塗料組成物を被覆した防食性能に優れた亜鉛処理鉄管類である。
【0016】本発明の亜鉛処理鉄管類は、大部分が地中に埋設して上下水道用や管路の形成に使用される鉄管類であり、この様な用途に使用される亜鉛処理鉄管類である限り、特に限定なく使用することができる。」

(エ)「【0020】本発明における水性樹脂は、一般にラジカル開始剤の作用によって乳化重合反応を起こすことのできるエチレン性不飽和単量体を1種または2種以上共重合して得られるものである。
【0021】かかる水性樹脂としては、特に限定されるものではないが、塗料として使用した場合の塗膜の機械的耐久性や耐候性、また耐水性等の観点から、アクリル系エマルジョンまたはジエン系合成ゴムラテックスあるいはそれらの併用系であることが好ましい。
【0022】上記アクリル系エマルジョンは、アクリル系単量体を必須成分として、必要に応じこれと共重合可能な他の単量体を併用して乳化重合反応を行うことによって得られるものである。」

(オ)「【0037】本発明の鉄管類は、上記で得られた水性塗料組成物をエアーレススプレー、エアースプレー、ロール、ハケ塗装等により鉄管類の表面に塗布する。この際塗膜層の厚さは40μm以上120μm以下となるように塗装する。」

(カ)「【0040】実施例1
表1記載の実施例番号1の単量体組成物100部、アデカソープ[アリル基を導入したポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはその硫酸エステル塩類、旭電化工業(株)製の反応性乳化剤、商品名]0.5部、スノーテックスC[日産化学(株)製コロイダルシリカ]1部、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム0.05部、過硫酸アンモニウム0.3部及びイオン交換水150部を、チッ素置換した攪拌翼付オートクレーブに仕込み、70℃で重合率が98%以上となるまで反応を行い、アンモニアでpHを7.5に調整し、ついでストリッピングにより未反応単量体を除去した。
【0041】得られた共重合体水性分散液の25℃におけるB型粘度および下記方法による機械的安定性を評価した。・・・」

(キ)「【0059】
【表1】





(ク)上記(カ)及び(キ)によれば、実施例1における特定の組成を有する水性塗料組成物は、ブタジエン18部、アクリル酸ブチル27部、スチレン52部、アクリル酸3部からなるアクリル系単量体組成物100部、アデカソープ[アリル基を導入したポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはその硫酸エステル塩類、旭電化工業(株)製の反応性乳化剤、商品名]0.5部、スノーテックスC[日産化学(株)製コロイダルシリカ]1部、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム0.05部、過硫酸アンモニウム0.3部及びイオン交換水150部を、チッ素置換した攪拌翼付オートクレーブに仕込み、70℃で重合率が98%以上となるまで反応を行い、アンモニアでpHを7.5に調整し、ついでストリッピングにより未反応単量体を除去して得られる、アクリル系エマルジョンの水性樹脂を含む共重合体水性分散液である。

上記(ア)?(ク)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「亜鉛処理鉄管類に水性樹脂を被覆する方法であって、
大部分が地中に埋設して上下水道用やガス用の管路の形成に使用される鉄管類の外面に、
亜鉛を溶射により被覆し、
その上に、水性樹脂を含む共重合体水性分散液をエアーレススプレー、エアースプレー、ロール、ハケ塗装等により塗布して被覆し、
水性樹脂は、ブタジエン18部、アクリル酸ブチル27部、スチレン52部、アクリル酸3部からなるアクリル系単量体組成物100部、アデカソープ[アリル基を導入したポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはその硫酸エステル塩類、旭電化工業(株)製の反応性乳化剤、商品名]0.5部、スノーテックスC[日産化学(株)製コロイダルシリカ]1部、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム0.05部、過硫酸アンモニウム0.3部及びイオン交換水150部を、チッ素置換した攪拌翼付オートクレーブに仕込み、70℃で重合率が98%以上となるまで反応を行い、アンモニアでpHを7.5に調整し、ついでストリッピングにより未反応単量体を除去して得られる、アクリル系エマルジョンである、
方法。」

イ.対比
本願発明と引用発明1を対比すると、引用発明1の「鉄管類」は、本願発明の「鉄製の管部材(7)」に相当し、引用発明1の「大部分が地中に埋設して上下水道用やガス用の管路の形成に使用される」ことは、本願発明の「地下に設置するように設計されている」ことに相当する。
そして、引用発明1の「外面」は、本願発明の「上」に相当するから、引用発明1の「鉄管類の外面」の「亜鉛」の「被覆」と「水性樹脂」の「被覆」は、合わせて本願発明の「鉄製の管部材(7)上」の「外側被膜(9)」に相当する。
よって、引用発明1の「亜鉛処理鉄管類に水性樹脂を被覆する方法」は、本願発明の「鉄製の管部材(7)上に、外側被膜(9)を付着させる方法」に相当する。

引用発明1の「亜鉛」は、引用文献1の段落【0001】(上記ア.(イ))を参照すると、亜鉛合金や亜鉛混合物ではない亜鉛を示すものであるから、本願発明の「実質的に純粋な亜鉛」に相当する。そうすると、引用発明1の「鉄管類の外面に、」「亜鉛」「を溶射により被覆」することは、本願発明の「実質的に純粋な亜鉛」を「管部材(7)上に、メタライゼーションにより付着させること」に相当する。
ここで、金属溶射皮膜は、通常、多孔質であることが技術常識(必要なら特表平8-505929号公報の5ページ21?23行を参照。以下「技術常識A」という。)であるから、引用発明1の「溶射」によって形成された「亜鉛」の「被覆」は、多孔質である。
よって、引用発明1の「亜鉛」の「被覆」は、本願発明の「第一の多孔質層(11)」に相当する。

引用発明1の「水性樹脂」の「被覆」は、「亜鉛」の「被覆」の更に外側に被覆されるものであるから、「第二の層」の限りで、本願発明の「第二の多孔質層(13)」に一致する。
引用発明1の「水性樹脂」である「ブタジエン18部、アクリル酸ブチル27部、スチレン52部、アクリル酸3部からなるアクリル系単量体組成物100部、アデカソープ[アリル基を導入したポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはその硫酸エステル塩類、旭電化工業(株)製の反応性乳化剤、商品名]0.5部、スノーテックスC[日産化学(株)製コロイダルシリカ]1部、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム0.05部、過硫酸アンモニウム0.3部及びイオン交換水150部を、チッ素置換した攪拌翼付オートクレーブに仕込み、70℃で重合率が98%以上となるまで反応を行い、アンモニアでpHを7.5に調整し、ついでストリッピングにより未反応単量体を除去して得られる、アクリル系エマルジョン」は、有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していない、水相の一成分塗料であることは明らかである。
よって、引用発明1の「水性樹脂は、ブタジエン18部、アクリル酸ブチル27部、スチレン52部、アクリル酸3部からなるアクリル系単量体組成物100部、アデカソープ[アリル基を導入したポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルまたはその硫酸エステル塩類、旭電化工業(株)製の反応性乳化剤、商品名]0.5部、スノーテックスC[日産化学(株)製コロイダルシリカ]1部、エチレンジアミン四酢酸アンモニウム0.05部、過硫酸アンモニウム0.3部及びイオン交換水150部を、チッ素置換した攪拌翼付オートクレーブに仕込み、70℃で重合率が98%以上となるまで反応を行い、アンモニアでpHを7.5に調整し、ついでストリッピングにより未反応単量体を除去して得られる、アクリル系エマルジョンである」ことは、本願発明の「水に乳化、分散又は溶解している少なくとも1種の合成樹脂から作られている、水相の一成分塗料を含み、前記第二の多孔質層(13)が有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していないこと」に相当する。

ここで、引用発明1は、「長時間にわたる防食性能を発揮しうる鉄管類を提供すること」(引用文献1の段落【0010】)を目的としているのだから、白色風解物で覆われた状態の「亜鉛」の「被覆」では、その目的の達成に障害となることは自明である。また、引用文献1の段落【0042】?【0045】、【0066】?【0068】の防食性能試験である、耐水性、耐酸性、耐塩水噴霧性の結果は、【表1】?【表3】で良好であり、白錆の発生がなかったことが記載されている。以上を鑑みれば、引用発明1の「水性樹脂」の「被覆」は、白色風解物で覆われていない「亜鉛」の「被覆」上に付着させているものである。
よって、引用発明1の「その上に、水性樹脂を含む共重合体水性分散液をエアーレススプレー、エアースプレー、ロール、ハケ塗装等により塗布して被覆」することは、「第二の層を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること」の限りで、本願発明の「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ第二の多孔質層(13)を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること」に一致する。

そうすると、本願発明と引用発明1は、以下の点で一応一致する。
<一致点1>
「下記の工程を含む、地下に設置するように設計されている、鉄製の管部材上に、外側被膜を付着させる方法:
(a)実質的に純粋な亜鉛を含む第一の多孔質層を、管部材上に、メタライゼーションにより付着させること、及び
(b)第二の層を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること、ここで、前記第二の層は、水に乳化、分散又は溶解している少なくとも1種の合成樹脂から作られている、水相の一成分塗料を含み、前記第二の層が有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していないこと。」

そして、本願発明と引用発明1は、以下の点で相違する。
<相違点1>
第二の層について、本願発明は、第二の「多孔質層(13)」であり、「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ」ものであるのに対して、引用発明1は、水性樹脂の被覆が多孔質であるのか否か、及び亜鉛の被覆の多孔質の細孔を塞ぐか否かが不明である点。

ウ.相違点についての判断
<相違点1>について検討する。
本願発明の「第二の多孔質層(13)」は、本願明細書に「・・・第二の層13を、有利には、特に大きな表面のためには、圧縮空気を用いないガンにより、かつ/又は特に小さな表面又は拾い塗りのためには、ブラシにより付着させる。・・・」(段落【0034】)と記載されているように、合成樹脂を水に乳化分散させたものを、圧縮空気を用いないガンやブラシを用いて付着することにより多孔質構造を得ているものである。したがって、特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法で得た多孔質構造であることが理解できる。
このことは、水性樹脂塗料の皮膜が、一般的に多孔質構造となることが技術常識(必要なら引用文献2の段落【0004】、特表平8-505929号公報の請求項1及び4を参照。以下、「技術常識B」という。)であることと整合する。
そして、引用発明1の特定の組成を有する水性塗料組成物の被覆は、本願発明と同様に水性塗料をエアーレススプレーやハケ等により塗布して被覆しているのだから、上記技術常識Bも鑑みれば、多孔質構造となっていることは明らかである。

ここで、水性樹脂塗料を特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって多孔質層上に付着させた場合、樹脂皮膜が多孔質層上を覆っているのだから、樹脂皮膜が多孔質であるとしても、多孔質層表面の細孔を覆っているのだから、細孔をある程度塞いでいることは技術常識(以下、「技術常識C」という。)であるし、例えば特表平8-505929号公報にも、水性樹脂塗料を特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって多孔質層上に付着させることによって多孔質層の細孔を塞ぐ(孔シーラント)ことが記載されているとおり、明らかな事項である。
そして、本願発明の「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ第二の多孔質層(13)」について、本願明細書には、「・・・第二の層13を、有利には、特に大きな表面のためには、圧縮空気を用いないガンにより、かつ/又は特に小さな表面又は拾い塗りのためには、ブラシにより付着させる。・・・」(段落【0034】)と記載されており、合成樹脂を水に乳化分散させたものを、圧縮空気を用いないガンやブラシを用いて付着することにより第一の多孔質層(11)の細孔を塞いでいる。したがって、特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって第一の多孔質層(11)の細孔を塞いでいることが理解でき、このことは、上記技術常識Cと整合する。
そしてまた、引用発明1の水性樹脂の被覆は、水性樹脂塗料を特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって、多孔質である亜鉛の被覆上に付着するものであるのだから、上記技術常識Cも鑑みれば、塞ぐ程度が不明ではあるにせよ、亜鉛の被覆の細孔をある程度は塞いでいることは明らかである。

以上のとおり、<相違点1>は、実質的な相違点ではない。

エ.審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年12月18日付け意見書において、以下のように主張している。
(ア)「(a)引用文献1には、・・・
しかし、引用文献1には、第一層及び第二層が多孔質であることも、第二層が一成分塗料を含むことも、開示されていません。・・・
引用文献1が、亜鉛イオンが外部環境に向かってブリードするのを防ぐことを目的としていることから、引用文献1の水性塗料組成物による第二層が多孔質であることはあり得ません。そうでなければ、それは亜鉛イオンのブリードを促進することになってしまいます。」

(イ)「(b)更に、本願発明では、第二の多孔質層は、有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していません。しかし、このことは、引用文献1に記載されていません。」

(ウ)「(c)また、本願発明では、第一の多孔質層(11)が銅及び/又は銀を0.5質量%?3質量%の濃度で含みます。しかし、このことも、引用文献1に記載されていません。」

上記主張(ア)については、上記イ.及びウ.で述べたとおり、引用発明1は、第一の層である亜鉛の被覆、及び第二の層である水性樹脂の被覆のいずれも多孔質であるし、第二の層である水性樹脂の被覆は、一成分塗料を含むものである。
また、引用文献1には、「本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、水性塗料組成物を樹脂成分を乳化重合することによって製造するにあたり、コロイダルシリカの存在下に行なうことによって、コロイダルシリカが樹脂皮膜中に均一に分散されることにより亜鉛酸化物のブリードを防止し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。」(段落【0011】)と記載されているから、コロイダルシリカが樹脂皮膜中に均一に分散されることにより亜鉛酸化物のブリードを防止しているものであって、第二の層が多孔質構造ではないことによってブリードを防止しているわけではない。
以上のように、引用発明1の第一の層である亜鉛の被覆、及び第二の層である特定の組成を有する水性塗料組成物の被覆のいずれも多孔質であると理解するのが自然であって、多孔質ではないとする根拠はない。

上記主張(イ)については、上記イ.で述べたとおり、第二の層である水性樹脂の被覆は、ビスフェノールを含有していない。

上記主張(ウ)については、「実質的に純粋な亜鉛、又は亜鉛合金若しくは擬合金」と選択的に記載された本願発明のうち、「実質的に純粋な亜鉛」の場合には、関係のない主張である。

よって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

オ.小括
以上のとおり、本願発明と引用発明1の間に相違点はない。
したがって、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


(2)引用文献2を主引例とする理由4
ア.引用文献2(特開2004-223429号公報)には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
亜鉛を含有する金属層が表面に形成された鋳鉄管の外面に、反応性界面活性剤(A)を乳化剤とし、ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)を架橋性モノマーとして、前記ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)と共重合可能なビニル基単量体(D)を共重合して得られる共重合体にて構成され、(A)成分が共重合体中0.1?4.0質量%、(B)成分が共重合体中0.01?20.0質量%、(C)成分が共重合体中0.01?5.0質量%を占め、この共重合体の最低造膜温度(MFT)が20?60℃である水分散樹脂をビヒクルとした水性エマルション塗料を塗装することを特徴とする鋳鉄管の防食方法。
【請求項2】
金属層が、
亜鉛と、
全体を100質量%として、亜鉛70?95質量%、アルミニウム5?30質量%の亜鉛-アルミニウム合金または擬合金と、
全体を100質量%として、亜鉛60?94質量%、アルミニウム5?30質量%、マグネシウム1?10質量%の亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金または擬合金と、
のいずれかにて形成された溶射金属層であることを特徴とする請求項1記載の鋳鉄管の防食方法。」

(イ)「0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管に関し、特に、亜鉛を含有する金属層が表面に形成された鋳鉄管についての、鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管に関する。」

(ウ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら亜鉛で代表される溶射金属はその目的上非常に活性であること、および上塗される水性エマルション塗料はポーラスであって水透過率や酸素透過率が大きいことから、金属イオンの溶出を完全に防止するに至っていないのが実情である。このため、水性エマルション塗料が薄膜で塗装された場合や、海塩粒子の飛散等過酷な環境下で使用される場合などにおいては、亜鉛の消耗が激しく白錆が発生する傾向にある。」

(エ)「【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で使用される鋳鉄管は上中下水道用として幅広く使用されており、その内面は、外面防食塗装工程の前または後に、セメントライニングや、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等による粉体塗装が施されることにより保護されている。
【0013】
本発明は鋳鉄管の外面の防食方法に関するものであり、この鋳鉄管の外面には、無処理またはサンドブラスト、ショットブラスト等で表面処理された後、下地処理として、亜鉛、亜鉛-アルミニウム合金または擬合金、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金または擬合金の溶射皮膜層が形成される。亜鉛-アルミ合金または擬合金の組成は、全体を100質量%として、亜鉛70?95質量%、アルミニウム5?30質量%であることが好ましい。また亜鉛-アルミ-マグネシウム合金または擬合金の組成は、全体を100質量%として、亜鉛60?94質量%、アルミニウム5?30質量%、マグネシウム1?10質量%であることが好ましい。
【0014】
このようにして下地処理された鋳鉄管は、熱湯浸漬や熱風循環などの加熱方式により管体温度が60?90℃に予熱された後に、本発明にもとづく水性エマルション塗料を、乾燥膜厚が80?150μm、好ましくは100?120μmになるように塗布される。そして、その後20?40分で屋外に搬出され、ストックヤードで保管される。さらに、パイプが出荷される際に、汚れや傷付きが有る場合には、弱溶剤型アクリル樹脂エナメルで表層が塗装される。
【0015】
本発明に使用される水性エマルション塗料中の水分散樹脂は、反応性界面活性剤(A)を乳化剤とし、ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)を架橋性モノマーとして、前記ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)と共重合可能なビニル基単量体(D)を共重合して得られる共重合体にて構成され、(A)成分が共重合体中0.1?4.0質量%、(B)成分が共重合体中0.01?20.0質量%、(C)成分が共重合体中0.01?5.0質量%を占め、この共重合体の最低造膜温度(MFT)が20?60℃である水分散樹脂である。」

上記(ア)?(エ)によれば、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
「上中下水道用鋳鉄管の外面に亜鉛を含有する金属層と水性エマルション塗料の塗装を形成する方法であって、
亜鉛を含有する金属層は、亜鉛と、全体を100質量%として、亜鉛60?94質量%、アルミニウム5?30質量%、マグネシウム1?10質量%の亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金または擬合金と、のいずれかにて形成された溶射金属層であり、
亜鉛を含有する金属層に水性エマルション塗料を塗布し、
水性エマルション塗料は、反応性界面活性剤(A)を乳化剤とし、ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)を架橋性モノマーとして、前記ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)と共重合可能なビニル基単量体(D)を共重合して得られる共重合体にて構成され、(A)成分が共重合体中0.1?4.0質量%、(B)成分が共重合体中0.01?20.0質量%、(C)成分が共重合体中0.01?5.0質量%を占め、この共重合体の最低造膜温度(MFT)が20?60℃である水分散樹脂を含む、
方法。」

イ.対比
本願発明と引用発明2を対比すると、引用発明2の「鋳鉄管」は、本願発明の「鉄製の管部材(7)」に相当し、引用発明2の「上中下水道用」は、本願発明の「地下に設置するように設計されている」ことに相当する。
そして、引用発明2の「外面」は、本願発明の「上」に相当するから、引用発明2の「鋳鉄管の外面」の「亜鉛を含有する金属層」と「水性エマルション塗料の塗装」は、合わせて本願発明の「鉄製の管部材(7)上」の「外側被膜(9)」に相当する。
よって、引用発明2の「上中下水道用鋳鉄管の外面に亜鉛を含有する金属層と水性エマルション塗料の塗装を形成する方法」は、本願発明の「地下に設置するように設計されている、鉄製の管部材(7)上に、外側被膜(9)を付着させる方法」に相当する。

引用発明2の「亜鉛」は、引用文献2の段落【0013】(上記ア.(エ))を参照すると、亜鉛合金や擬合金ではない亜鉛を示すものであるから、本願発明の「実質的に純粋な亜鉛」に相当する。そうすると、引用発明2の「鋳鉄管の外面」に「亜鉛」を「溶射」により「金属層」を形成することは、本願発明の「実質的に純粋な亜鉛」を「管部材(7)上に、メタライゼーションにより付着させること」に相当する。
ここで、金属溶射皮膜は、通常、多孔質であるという上記技術常識Aを鑑みれば、引用発明2の「溶射」によって形成された「亜鉛」の「金属層」は、多孔質である。
よって、引用発明2の「亜鉛」の「金属層」は、本願発明の「第一の多孔質層(11)」に相当する。

引用発明2の「水性エマルション塗料の塗装」は、「亜鉛」の「金属層」の更に外側に被覆されるものであるから、「第二の層」の限りで、本願発明の「第二の多孔質層(13)」に一致する。
引用発明2の「反応性界面活性剤(A)を乳化剤とし、ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)を架橋性モノマーとして、前記ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)と共重合可能なビニル基単量体(D)を共重合して得られる共重合体にて構成され、(A)成分が共重合体中0.1?4.0質量%、(B)成分が共重合体中0.01?20.0質量%、(C)成分が共重合体中0.01?5.0質量%を占め、この共重合体の最低造膜温度(MFT)が20?60℃である水分散樹脂を含む」「水性エマルション塗料」は、有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していない、水相の一成分塗料であることは明らかである。
よって、引用発明2の「応性界面活性剤(A)を乳化剤とし、ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)を架橋性モノマーとして、前記ジシクロペンタジエン誘導体(B)およびアルコキシシリル基含有単量体(C)と共重合可能なビニル基単量体(D)を共重合して得られる共重合体にて構成され、(A)成分が共重合体中0.1?4.0質量%、(B)成分が共重合体中0.01?20.0質量%、(C)成分が共重合体中0.01?5.0質量%を占め、この共重合体の最低造膜温度(MFT)が20?60℃である水分散樹脂」は、本願発明の「水に乳化、分散又は溶解している少なくとも1種の合成樹脂から作られている、水相の一成分塗料を含むこと、及び有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していないこと」に相当する。

ここで、引用発明2は、「初期の白錆発生性が良好」で「防錆性が良好」(引用文献2の段落【0007】)であることを目的としているのだから、白色風解物で覆われた状態の「亜鉛」の「金属層」では、その目的の達成に障害となることは自明である。また、引用文献2の段落【0039】?【0041】の比較評価である初期白錆発生性、防錆性の結果は、【表3】で良好であり、白錆の発生がなかったことが記載されている。さらに、引用文献2の段落【0012】、【0013】を参照すると、鋳鉄管の外面に亜鉛の溶射被膜層を形成した後、長時間おくことなく水性エマルション塗料の塗布がなされている。以上を鑑みれば、引用発明2は、「水性エマルション塗料の塗装」を、白色風解物で覆われていない「亜鉛」の「金属層」上に付着させているものである。
よって、引用発明2の「亜鉛を含有する金属層に水性エマルション塗料を塗布」することは、「第二層を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること」の限りで、本願発明の「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ第二の多孔質層(13)を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること」に一致する。

そうすると、本願発明と引用発明2は、以下の点で一致する。
<一致点A>
「下記の工程を含む、地下に設置するように設計されている、鉄製の管部材上に、外側被膜を付着させる方法:
(a)実質的に純粋な亜鉛を含む第一の多孔質層を、管部材上に、メタライゼーションにより付着させること、及び
(b)第二の層を、白色風解物で覆われていない前記第一の多孔質層上に付着させること、ここで、前記第二の層は、水に乳化、分散又は溶解している少なくとも1種の合成樹脂から作られている、水相の一成分塗料を含み、前記第二の層が有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していないこと。」

そして、本願発明と引用発明2は、以下の点で一応相違する。
<相違点A>
第二の層について、本願発明は、第二の「多孔質層(13)」であり、「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ」ものであるのに対して、引用発明2は、水性エマルション塗料の塗装が多孔質であるのか否か、及び亜鉛の金属層の多孔質の細孔を塞ぐか否かが不明である点。

ウ.相違点についての判断
<相違点A>について検討する。
本願発明の「第二の多孔質層(13)」は、上記(1)ウ.で述べたとおり、特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法で得た多孔質構造である。
そして、引用発明2の水性エマルション塗料の塗装は、引用文献2の段落【0037】に「吹付け塗装」が例示されているように、本願発明と同様に、特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法で水性塗料を塗布して被覆しているのだから、上記技術常識Bも鑑みれば、多孔質構造となっていることは明らかである。

次に、本願発明の「前記第一の多孔質層(11)の細孔を塞ぐ第二の多孔質層(13)」は、上記(1)ウ.で述べたとおり、特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって第一の多孔質層(11)の細孔を塞いでいる。
そして、引用発明2の水性エマルション塗料の塗装は、水性エマルション塗料を特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法によって、多孔質である亜鉛の金属層上に付着するものであるのだから、上記技術常識Cも鑑みれば、塞ぐ程度が不明ではあるにせよ、亜鉛の金属層の細孔をある程度は塞いでいることは明らかである。

以上のとおり、<相違点A>は、実質的な相違点ではない。

エ.審判請求人の主張について
審判請求人は、令和元年12月18日付け意見書において、以下のように主張している。
(ア)「(a)引用文献2には、・・・
しかし、引用文献2に、鋳鉄管上の亜鉛含有金属層(本願発明の第一の層に相当)が多孔質であることは、記載されていません。
一方、引用文献2の段落[0004]には、鋳鉄管の亜鉛含有金属層上に皮膜を形成する従来技術の水性エマルション塗料は、一般にポーラス(多孔質)であることが記載されています。ポーラスであるこれらの塗料は、亜鉛の溶出を容易にします。したがって、これらの塗料を用いると、亜鉛イオンの消費が多くなります。そのため、引用文献2では、緻密で架橋密度が高い皮膜を素早く形成して亜鉛の溶出を防ぐことができる特別な塗料を提供することにしています(段落[0016]参照)。
このとおり、引用文献2でも、引用文献1と同じように溶出する亜鉛イオンの生成を防ぐようにしています。そのために、引用文献2には、亜鉛イオンが生じるのを防ぐために素早く形成するとともに、亜鉛イオンの溶出(したがってその消費)を防ぐことで皮膜の耐食性を向上させる、緻密で架橋密度が高い塗料層が開示されています。この塗料層はまた、良好な耐溶剤性ももたらします(段落[0007]、[0008]参照)。これらの目的を果たすためには、引用文献2の塗料層は、非多孔質でなければなりません。」

(イ)「(b)本願発明では、第二の多孔質層は、有機溶媒又は共溶媒を含有せず、かつビスフェノールを含有していません。しかし、このことは、引用文献2に記載されていません。」

(ウ)「(c)また、本願発明では、第一の多孔質層(11)が銅及び/又は銀を0.5質量%?3質量%の濃度で含みます。しかし、このことも、引用文献1に記載されていません。」

上記主張(ア)については、上記イ.及びウ.で述べたとおり、引用発明2は、第一の層である亜鉛の金属層、及び第二の層である水性エマルション塗料の塗装のいずれも多孔質であるし、第二の層である水性エマルション塗料の塗装は、一成分塗料を含むものである。
ここで、引用発明2は、「上塗塗装後数10分で屋外に搬出される。しかし、この状態では水性エマルション塗料は完全に成膜を完了しているとは言えず、直接降雨等の水分に曝された場合に、特に顕著に白錆が発生する。」(段落【0005】)ことを課題として、「塗装後短期間で成膜が終了すること」(段落【0007】)によって、「初期の白錆発生性が良好」(段落【0007】)となるものである。
また、引用発明2は、「管と管との接触部でのブロッキングによる塗膜剥離や傷付きが発生しやすい傾向にある。また、特に補修塗装や製品出荷時の化粧塗装として溶剤型塗料を使用した場合は、エマルション塗膜が溶剤により膨潤して、ブロッキングによる剥離や傷付きがさらに大きくなる。」(段落【0006】)ことを課題として、「緻密で強靭な皮膜を形成すること」(段落【0007】)によって、「管と管との耐ブロッキング性が良好で、しかも耐溶剤性が良好である皮膜を形成できるようにして、鋳鉄管の防食を図る」(段落【0007】)ものである。
すなわち、引用発明2は、第二の層が多孔質構造ではないことによって溶出する亜鉛イオンの生成を防ぐようにしているわけではない。
以上のように、引用発明2の第一の層である亜鉛の金属層、及び第二の層である水性エマルション塗料の塗装のいずれも多孔質であると理解するのが自然であって、多孔質ではないとする根拠はない。

上記主張(イ)については、上記イ.で述べたとおり、第二の層である水性エマルション塗料の塗装は、ビスフェノールを含有していない。

上記主張(ウ)については、「実質的に純粋な亜鉛、又は亜鉛合金若しくは擬合金」と選択的に記載された本願発明のうち、「実質的に純粋な亜鉛」の場合には、関係のない主張である。

よって、審判請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。

オ.小括
以上のとおり、本願発明と引用発明2の間に相違点はない。
したがって、本願発明は、引用発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


2.予備的検討
審判請求人が主張するように、本願発明の「第一の多孔質層(11)」、「第二の多孔質層(13)」の多孔質が、上記技術常識A、Bのように一般的に得られる多孔質ではなく特別なものである場合について、理由2(特許法第36条第6項第1号)に関し、念のために検討する。

本願発明が解決しようとする課題は、段落【0008】に記載されたとおりのものであるところ、段落【0020】、【0022】、【0025】、【0033】、【0034】等を参照しても、「第一の多孔質層(11)」、「第二の多孔質層(13)」については、いずれも特別な成膜方法を用いることなく、通常の成膜方法で付着がなされている。
このことは、令和元年12月18日付け意見書における「明細書に記載のこれらの説明から、本願発明における多孔質構造がいかなるものであるかは、電気防食の技術分野に関係する当業者が十分理解するものであると思料します。」、「本願発明における第二の多孔質層の形成方法は、当業者であれば、本願明細書の記載及び専門知識を基に理解できるものであり、また、例えば特表平8-505929号公報の記載からも理解できるものと思料します。」という主張とも整合する。
すなわち、「第一の多孔質層(11)」、「第二の多孔質層(13)」の多孔質が、上記技術常識A、Bのように一般的に得られる多孔質ではなく特別なものであることは、発明の詳細な説明には記載されていないし、特別な「第一の多孔質層(11)」、「第二の多孔質層(13)」によって課題を解決しているとの記載もない。

よって、本願発明の「第一の多孔質層(11)」、「第二の多孔質層(13)」の多孔質が、上記技術常識A、Bのように一般的に得られる多孔質ではなく特別なものである場合、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。


第5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項、及びその余の理由について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-10 
結審通知日 2020-02-18 
審決日 2020-03-04 
出願番号 特願2015-519146(P2015-519146)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B32B)
P 1 8・ 113- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知飛彈 浩一  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 佐々木 正章
横溝 顕範
発明の名称 鉄製、特に鋳鉄製の埋設管部材のための外側被膜、被膜されている管部材、及び被膜を付着させる方法  
代理人 青木 篤  
代理人 胡田 尚則  
代理人 塩川 和哉  
代理人 関根 宣夫  
代理人 三橋 真二  
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