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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1364495 |
審判番号 | 不服2019-9870 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-07-25 |
確定日 | 2020-07-22 |
事件の表示 | 特願2015-543461「独立した後方電気機械を有する自動車を制御するためのシステム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年5月30日国際公開、WO2014/080028、平成28年2月4日国内公表、特表2016-503365〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2013年(平成25年)11月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年11月26日(FR)フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。 平成29年10月16日(発送日:同年10月24日):拒絶理由通知書 平成30年1月24日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年6月29日(発送日:同年7月3日) :拒絶理由通知書 平成30年10月5日 :意見書、手続補正書の提出 平成31年3月19日(発送日:同年3月26日) :拒絶査定 令和元年7月25日 :審判請求書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成30年10月5日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「第1の車軸セットに連結される内燃機関(2)を備え、第2の車軸セットの1つの車輪に各々連結される、少なくとも2つの電気機械(7、8)を有する、自動車を制御するための方法であって、 前記電気機械(7、8)のうちの少なくとも1つの回転速度が決定されるステップと、 前記決定された回転速度が第1の閾値と比較されるステップと、 前記決定された回転速度が前記第1の閾値を上回る場合に、前記電気機械(7、8)の最大トルクが、当該機械の回転速度を制限するために調整されるステップと、 前記決定された回転速度が、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値と比較されるステップと、 前記決定された回転速度が前記第2の閾値を上回る場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械(7、8)に出されるステップと、 を含むことを特徴とする方法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2003-209902号公報 引用文献2:特開2012-183997号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:特開2011-200036号公報(周知技術を示す文献) 引用文献4:特開2010-158944号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載事項 1 引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2003-209902号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「車両の駆動力制御装置」に関して、図面(特に、【図1】及び【図10】ないし【図12】を参照。)とともに次の事項が記載されている(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】車両の駆動力制御装置としては、例えば特開平11-243608号公報に記載のものがある。この装置では、エンジンの出力トルクを主駆動輪(前輪)に伝達すると共に、電動機の出力トルクをクラッチを介して従駆動輪(後輪)に伝達することで四輪駆動状態とする。そして、上記従来公報の車両にあっては、電動機を駆動する時のモータイナーシャによるショックを防止するために、クラッチをオン(接続状態)としてから電動機の出力トルクを徐々に上昇するように制御する。 【0002】 【発明が解決しようとする課題】電動機で従駆動輪を駆動可能な車両にあっては、一般に、従駆動輪を駆動する際にクラッチをオンにし、また、電動機で従駆動輪を駆動しない場合にはクラッチをOFFとして、電動機と従駆動輪とを切り離した状態としておく。しかし、クラッチが切れないというような故障等が発生した場合には、電動機は従駆動輪に連れ回される状態となるため、車両が所定の車両速度以上で走行するたびに電動機が過剰回転状態となる。この結果、電動機の寿命がその分短くなるおそれ、つまり電動機が劣化するおそれがある。 【0003】本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、クラッチ等の故障に伴う電動機の劣化を防止することを課題としている。」 イ 「【0011】 【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、図1に示すように、左右前輪1L、1Rが内燃機関であるエンジン2によって駆動され、左右後輪3L、3Rが電動機であるモータ4によって駆動可能となっている四輪駆動可能な車両の場合の例である。まず、構成について説明すると、図1に示すように、エンジン2の出力トルクTeが、トランスミッション30及びディファレンシャル・ギヤ31を通じて左右前輪1L、1Rに伝達されるようになっている。」 ウ 「【0015】上記発電機7は、エンジン2の回転数Neにプーリ比を乗じた回転数Nhで回転し、4WDコントローラ8によって調整される界磁電流Ifhに応じて、エンジン2に対し負荷となり、その発電負荷トルクに応じた電力を発電する。その発電機7が発電した電力は、電線9を介してモータ4に供給可能となっている。その電線9の途中にはジャンクションボックス10が設けられている。上記モータ4の駆動トルクは、減速機11及びクラッチ12を介して後輪3L、3Rに伝達可能となっている。図1中、符号13はデフを表す。 【0016】上記エンジン2の吸気管路14(例えばインテークマニホールド)には、スロットルバルブ15が介装されている。スロットルバルブ15は、アクセルペダル17の踏み込み量等に応じてスロットル開度が調整制御されるアクセルバイワイヤー方式である。すなわち、上記スロットルバルブ15は、ステップモータ19をアクチュエータとし、そのステップモータ19のステップ数に応じた回転角により開度が調整制御される。そのステップモータ19の回転角は、エンジンコントローラ18からの開度信号によって調整制御される。 【0017】アクセルペダル17の踏み込み量を検出するアクセルセンサ20を有し、該アクセルセンサ20は、検出した踏み込み量に応じた検出信号を、エンジンコントローラ18及び4WDコントローラ8に出力している。また、エンジン2の回転数を検出するエンジン回転数検出センサ21を備え、エンジン回転数検出センサ21は、検出した信号をエンジンコントローラ18及び4WDコントローラ8に出力する。 【0018】エンジンコントローラ18では、所定のサンプリング時間毎に、入力した各信号に基づいて図3に示すような処理が行われる。すなわち、まずステップS200で、後述のモータ用回転数センサ26からの信号に基づきモータ回転数Nmが所定回転数例えば2000rp以上か否かを判定し、モータ回転数Nmが20000rpm未満と判定されればステップS210に移行する。一方、モータ回転数Nmが20000rpm以上と判定すれば、ステップS290に移行する。」 エ 「【0021】ΔTe =TeN - Te ステップS250では、その偏差分ΔTeに応じたスロットル開度θの変化分Δθを演算し、その開度の変化分Δθに対応する開度信号を上記ステップモータ19に出力して、復帰する。一方、ステップS270では、通常のTCS制御を実施すべく、下記式に基づき加速スリップ抑制のためのトルクダウン量TDを演算し、ステップS280に移行する。 【0022】TD= K1・ΔVF K1は、ゲインである。ステップS280では、そのトルクダウン量TDに応じたスロットル開度θの変化分Δθを演算し、その開度の変化分Δθに対応する開度信号を上記ステップモータ19に出力して、復帰する。また、ステップS200にてモータ4が所定回転数以上(20000rpm以上)で回転していると判定すると、ステップS290に移行して、下記式に基づきトルクダウン量TDを演算し、ステップS280に移行する。 TD=K2・(VF- VS) - TFF ここで、K2は、上記K1よりも大きなゲインである。」 オ 「【0028】また、モータ4は、4WDコントローラ8からの指令によって界磁電流Ifmが制御され、その界磁電流Ifmの調整によって駆動トルクTmが調整される。なお、符号25はモータ4の温度を測定するサーミスタである。上記モータ4の駆動軸の回転数Nmを検出するモータ用回転数センサ26を備え、該モータ用回転数センサ26は、検出したモータ4の回転数信号を4WDコントローラ8、エンジンコントローラ18、及びシフト制御部32にそれぞれ出力する。」 カ 「【0031】上記発電機制御部8Aは、電圧調整器22を通じて、発電機7の発電電圧Vをモニターしながら、当該発電機7の界磁電流Ifhを調整することで、発電機7の発電電圧Vを所要の電圧に調整する。リレー制御部8Bは、発電機7からモータ4への電力供給の遮断・接続を制御する。モータ制御部8Cは、モータ4の界磁電流Ifmを調整することで、当該モータ4のトルクを所要の値に調整する。 【0032】また、所定のサンプリング時間毎に、入力した各信号に基づき、図7に示すように、余剰トルク演算部8E→目標トルク制限部8F→余剰トルク変換部8Gの順に循環して処理が行われる。まず、余剰トルク演算部8Eは、発電機制御手段を構成して、図8に示すような処理を行う。すなわち、先ず、ステップS310において、車輪速センサ27FL、27FR、27RL、27RRからの信号に基づき演算した、前輪1L、1R(主駆動輪)の車速から後輪3L、3R(従駆動輪)の車速を減算することで、前輪1L、1Rの加速スリップ量であるスリップ速度ΔVFを求め、ステップS320に移行する。なお、加速スリップの有無、及びその加速スリップ量を路面反力トルク等から推定して求めても良い。」 キ 「【0036】ステップS360では、下記式に基づき、余剰トルクつまり発電機7で負荷すべき目標の発電負荷トルクThを求め、復帰する。 Th = TG + TΔVF 次に、目標トルク制限部8Fの処理について、図9に基づいて説明する。すなわち、まず、ステップS410で、上記目標発電負荷トルクThが、発電機7の最大負荷容量HQより大きいか否かを判定する。目標発電負荷トルクThが当該発電機7の最大負荷容量HQ以下と判定した場合には、ステップS430に移行する。一方、目標発電負荷トルクThが発電機7の最大負荷容量HQよりも大きいと判定した場合には、ステップS420に移行する。 【0037】ステップS420では、下記式のように、目標の発電負荷トルクThを最大負荷容量HQに制限した後にステップS430に移行する。 Th = HQ ステップS430では、エンジン回転数検出センサ21及びスロットルセンサからの信号に基づいて、現在のエンジン出力トルクTeを演算してステップS440に移行する。 【0038】ステップS440では、現在のエンジン回転数Neなどからエンジン2が停止しない最低の許容トルクTkを求め、ステップS450に移行する。なお、許容トルクTkを求める代わりに所定値としても構わない。ステップS450で、下記式に基づき、偏差トルクΔTeを演算して、ステップS460に移行する。 ΔTe = Te -Tk ステップS460では、偏差トルクΔTeが目標の発電負荷トルクThよりも小さいか否かを判定する。ΔTe≧Thと判定した場合には、復帰する。一方、ΔTe<Thと判定した場合には、ステップS470に移行する。 【0039】ステップS470では、下記式によって目標の発電負荷トルクThを偏差トルクΔTeに低減した後に、復帰する。 Th = ΔTe -α αは余裕代である。もっとも、α=0としても良い。次に、余剰トルク変換部8Gの処理について、図10に基づいて説明する。まず、ステップS500で、Thが0より大きいか否かを判定する。Th>0と判定されれば、前輪1L、1Rが加速スリップしているので、ステップS510に移行する。また、Th=0と判定されれば、前輪1L、1Rは加速スリップしていないので、以降の処理をすることなく復帰する。 【0040】ステップS510では、モータ用回転数センサ26が検出したモータ4の回転数Nmを入力し、そのモータ4の回転数Nmに応じた目標モータ界磁電流Ifmを算出し、当該目標モータ界磁電流Ifmをモータ制御部8Cに出力した後、ステップS520に移行する。ここで、上記モータ4の回転数Nmに対する目標モータ界磁電流Ifmは、回転数Nmが所定回転数以下の場合には一定の所定電流値とし、モータ4が所定の回転数以上になった場合には、公知の弱め界磁制御方式でモータ4の界磁電流Ifmを小さくする(図11参照)。すなわち、モータ4が高速回転になるとモータ誘起電圧の上昇によりモータトルクが低下することから、上述のように、モータ4の回転数Nmが所定値以上になったらモータ4の界磁電流Ifmを小さくして誘起電圧Eを低下させることでモータ4に流れる電流を増加させて所要モータトルクTmを得るようにする。」 ク 「【0042】本実施形態におけるトルク上限値Tmxは、図12のように、モータ回転数Nmが20000rpm以上となると、回転数が大きくなるほど連続的に小さくなるように設定されている。ステップS550では、ステップS530で算出したモータトルクTmがトルク上限値Tmxよりも大きいか否かを判定し、トルク上限値Tmx以下であれば、ステップS570に移行する。一方、トルク上限値Tmxよりも大きい場合には、ステップS560に移行する。 【0043】ステップS560では、モータトルクに現在のモータ回転数Nmに応じたトルク上限値Tmxを設定してステップS570に移行する。ステップS570では、上記目標モータトルクTm及び目標モータ界磁電流Ifmを変数として対応する目標電機子電流Iaを算出して、ステップS580に移行する。ステップS580では、下記式に基づき、上記目標電機子電流Ia、抵抗R、及び誘起電圧Eから発電機7の目標電圧Vを算出し、当該発電機7の目標電圧Vを発電機制御部8Aに出力したのち、復帰する。」 ケ 「【0047】一方、クラッチ12の故障などでクラッチ12がオン(接続状態)となって、モータ4が後輪3L、3Rに常に連れ回される状態となった場合には、図14に示すタイムチャートのように、モータ4の回転数が所定回転数(本実施形態では20000rpm)以上となると、エンジントルクがトルクダウンして前輪1L、1Rの車輪速が所定速度である40km/hに収束するように制御されるように車両速度が制限される結果、モータ4の回転数が抑えられて許容限界回転数(例えば25000rpm)を越えることが防止、つまり過剰回転が防止される。このとき、トルクダウン分として補正項として登坂トルクTFF分を補償していることで、車両速度制限のために登坂時にトルクダウンを行っても、失速感を抑えることが可能となる。」 コ 「【0051】また、上記実施形態では、モータトルクの上限値を直接、低減させることで、車両速度の制限を実施しているが、目標トルク制限部において、モータトルクに影響のある目標発電負荷トルクThの上限値を、モータ4の回転数が許容回転数に近づくにつれて、連続的若しくは段階的に小さくするように設定することで、間接的に、モータトルクの上限値を、モータ4の回転数が許容回転数に近づくにつれて、連続的若しくは段階的に小さくするように制限しても良い。」 サ 上記ケの記載事項から、モータ4の回転数は、所定回転数(本実施形態では20000rpm)と比較されているといえる。 シ 上記ク及びケの記載事項並びに図12の図示内容からみて、図12のTmmaxは、トルク上限値Tmxであるといえる。そして、トルク上限値Tmxは、モータ回転数Nmが20000rpm以上になると連続的に小さくなり、20000rpmと許容限界回転数である25000rpmとの間の回転数でトルク上限値Tmxは0になることがわかる。 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「左右前輪1L、1Rがエンジン2によって駆動され、左右後輪3L、3Rがモータ4によって駆動される、車両の駆動力制御装置であって、 前記モータ用回転数センサ26が検出したモータ4の回転数Nmを入力し、 前記回転数Nmが20000rpmと比較され、 前記回転数Nmが20000rpm以上になると、モータ4の回転数が抑えられるとともにトルク上限値Tmxが連続的に小さくなり、 前記回転数Nmが25000rpmのときに、トルク上限値Tmxがゼロである、 車両の駆動力制御装置。」 2 引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-183997号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面(特に、【図20】を参照。)とともに次の記載が記載されている。 ア 「【0011】 [第1の実施形態] 図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両の駆動システムの構成を表した図である。図1を参照すると、本実施形態に係る車両の駆動システムは、動力分割機構2を備えて、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関1の出力トルクを、発電機として機能するモータジェネレータ3と、出力側とに分配することが可能となっている。 【0012】 モータジェネレータ3は、例えば、永久磁石式交流同期電動機によって構成され、発電機として機能する場合は反力トルクを、電動機として機能する場合は駆動トルクを動力分割機構2に与えることとなる。なお、モータジェネレータ3のコイルを有するステータは図示省略するケーシング等によって固定されている。 【0013】 動力分割機構2は、シングルピニオン型遊星歯車機構によって構成されており、外歯歯車であるサンギヤ4と同心円上に内歯歯車であるリングギヤ5が配置される。サンギヤ4とリングギヤ5とに噛み合っているピニオンギヤ6が、内燃機関1の出力軸に連結されたキャリヤ7によって自転かつ公転できるように保持されている。 【0014】 サンギヤ4には、モータジェネレータ3のロータが連結され、反力要素(モータジェネレータ3が停止している状態では固定要素)となっている。一方、リングギヤ5には、出力ギヤ8が一体化されて設けられ、カウンタドリブンギヤ9に噛み合っている。更に、このカウンタドリブンギヤ9と同軸上で一体化されたカウンタドライブギヤ10がデファレンシャル11のリングギヤ12に噛み合っており、前輪13にトルクを伝達するようになっている。 【0015】 更に、本実施形態に係る車両の駆動システムでは、上記した前輪側の動力伝達系統とは別に、力行回生機構としてリアアクスル側にモータジェネレータ14が設けられている。モータジェネレータ14の出力軸は、減速ギヤユニット19を介してリアデフ20に連結され後輪15を駆動することが可能となっている。なお、このモータジェネレータ14としては、モータジェネレータ3と同様に、永久磁石式同期電動機を用いることもできるし、永久磁石を備えていない所謂磁石レスモータを用いることもできる。 【0016】 従って、内燃機関1及びモータジェネレータ14をそれぞれ駆動することで、前後の四輪を駆動することができる。このとき、前輪と後輪との駆動力配分を適宜に制御し、例えば、発進時には、リア寄りの出力とすることで、車両の発進加速性能を向上させることができる。また、定常走行や加速度が小さくなる高速域では、フロント側のトルク配分を増すことで、操縦安定性を向上させることができる。」 イ 「【0038】 図20は、上記した第1の実施形態のリア側のモータジェネレータ14をインホイールモータ14a、14bに置き換えた例である。図21は、上記インホイールモータを用いて、6×6の多軸全輪駆動車とした例である、これらの構成によっても、上記した第1の実施形態と同様の制御を加えることで、優れた走行性と、燃費特性を得ることが可能である。また、本構成に、上記第2、第4の実施形態で説明したブレーキ装置を追加することも可能である。」 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献2には、以下の事項が記載されている。 「車両の駆動システムは、内燃機関1の出力トルクを前輪13に伝達するようになっており、前輪側の動力伝達系統とは別に、力行回生機構としてリアアクスル側にインホイールモータ14a、14bが設けられ、内燃機関1及びインホイールモータ14a、14bをそれぞれ駆動することで、前後の四輪を駆動することができること。」 3 引用文献3 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2011-200036号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面(特に、【図2】を参照。)とともに次の記載が記載されている。 ア 「【0012】 まず、この発明に係る制御装置の対象とすることのできる車両について説明する。図2は、その車両Aを示す概略図である。ここに示す車両Aは、左右の前輪1L,1Rがそれぞれモータ2L,2Rによって駆動させられ、左右の後輪3L,3Rが内燃機関であるエンジン4と電動機5とで駆動させられるように構成されたいわゆる2モータハイブリッド装置によって駆動させられるように構成されている。すなわち、エンジン4と電動機5とで発生された動力が動力伝達装置6、プロペラシャフト7、デファレンシャルギヤ8、車軸9を介して左右の後輪3L,3Rに伝達される。」 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献3には、以下の事項が記載されている。 「車両Aは、左右の前輪1L,1Rがそれぞれモータ2L,2Rによって駆動させられ、左右の後輪3L,3Rが内燃機関であるエンジン4と電動機5とで駆動させられるように構成されていること。」 4 引用文献4 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-158944号公報には、図面(特に、【図1】を参照。)とともに次の記載が記載されている。 ア 「【0011】 図1の車両は、左右前輪1,2、および左右後輪3,4を具え、ステアリングホイール5によりステアリングギヤ15を介し左右前輪1,2を転舵して、車両の操向が可能である。 また左右前輪1,2は、動力源として共通なエンジン40(内燃機関)およびモータ42を具え、モータ42をバッテリ9からの電力により駆動する。 そして、エンジン40とモータ42との間にクラッチ41を介在させて両者間を適宜直結可能にし、 前輪1,2を、クラッチ41の解放でモータ42からの動力のみにより電気駆動したり、クラッチ41の締結でエンジン40からの動力およびモータ42からの動力によりハイブリッド駆動させ得るようにする。 【0012】 かかる前輪駆動を可能にするため、前輪1,2とモータ42との間を、変速機43およびビスカス式ディファレンシャルギヤ装置44により結合する。 なおビスカス式ディファレンシャルギヤ装置44は、図2に例示するような動作特性を持つものとする。 左右後輪3,4は、個々のモータ13,14に直結し、これらモータ13,14をバッテリ9から供給される電力により駆動させる。」 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献4には、以下の事項が記載されている。 「車両は、左右前輪1,2、および左右後輪3,4を具え、左右前輪1,2は、動力源として共通なエンジン40(内燃機関)を具え、エンジン40からの動力により駆動させ得るようにし、左右後輪3,4は、個々のモータ13,14に直結し、電力により駆動させること。」 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「エンジン2」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「内燃機関(2)」に相当し、以下同様に、「モータ4」は「電気機械(7、8)」に、「回転数Nm」は「回転速度」に、「20000rpm」は「第1の閾値」にそれぞれ相当する。 後者の「左右前輪1L、1R」からなるものは、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「第1の車軸セット」に相当する構成を含むといえる。してみると、後者の「左右前輪1L、1Rがエンジン2によって駆動され」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「第1の車軸セットに連結される内燃機関(2)を備え」に相当する事項といえる。同様に、後者の「左右後輪3L、3R」からなるものは前者の「第2の車軸セットの1つの車輪」に相当する。してみると、後者の「左右後輪3L、3Rがモータ4によって駆動される」と前者の「第2の車軸セットの1つの車輪に各々連結される、少なくとも2つの電気機械(7、8)を有する」とは、「第2の車軸セットの1つの車輪に連結される、電気機械を有する」という限りで一致し、後者の「モータ用回転数センサ26が検出したモータ4の回転数Nmを入力」する工程と前者の「前記電気機械(7、8)のうちの少なくとも1つの回転速度が決定されるステップ」とは、「前記電気機械の回転速度が決定されるステップ」という限りで一致する。 また、後者の「前記回転数Nmが20000rpmと比較され」る工程は、前者の「前記決定された回転速度が第1の閾値と比較されるステップ」に相当し、「前記回転数Nmが20000rpm以上になると」は「前記決定された回転速度が前記第1の閾値を上回る場合に」に相当する。また、後者の「モータ4の回転数が抑えられるとともにトルク上限値Tmxが連続的に小さくな」る工程は前者の「電気機械(7、8)の最大トルクが、当該機械の回転速度を制限するために調整されるステップ」に相当するものといえる。 そして、後者の「前記回転数Nmが25000rpmのとき、トルク上限値Tmxがゼロである」工程と前者の「前記決定された回転速度が前記第2の閾値を上回る場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械(7、8)に出されるステップ」とは、「前記決定された回転速度が所定の値の場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械に出されるステップ」という限りで一致する。 そして、このような後者の「車両の駆動力制御装置」が含む工程は、前者の「自動車を制御するための方法」及び「方法」に相当するといえる。 したがって、両者は、 「第1の車軸セットに連結される内燃機関を備え、第2の車軸セットの1つの車輪に連結される、電気機械を有する、自動車を制御するための方法であって、 前記電気機械の回転速度が決定されるステップと、 前記決定された回転速度が第1の閾値と比較されるステップと、 前記決定された回転速度が前記第1の閾値を上回る場合に、前記電気機械の最大トルクが、当該機械の回転速度を制限するために調整されるステップと、 前記決定された回転速度が所定の値の場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械に出されるステップと、 を含む方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「電気機械」に関し、前者は「第2の車軸セットの1つの車輪に各々連結される、少なくとも2つの電気機械(7、8)」であって、「電気機械(7、8)のうちの少なくとも1つの回転速度が決定」されるのに対し、後者は「左右後輪3L、3Rがモータ4によって駆動」され、「モータ4の回転数Nmを入力」されるものである点。 [相違点2] 「前記決定された回転速度が所定の値の場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械に出されるステップ」に関し、前者は「前記決定された回転速度が、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値と比較されるステップと、前記決定された回転速度が前記第2の閾値を上回る場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械(7、8)に出されるステップ」であるのに対し、後者は「回転数Nmが25000rpmのときに、トルク上限値Tmxがゼロである」である点。 第6 判断 相違点について検討する。 相違点1について検討すると、引用文献2の記載事項、引用文献3の記載事項及び引用文献4の記載事項からみて、自動車において、「第1の車軸セットに連結される内燃機関を備え、第2の車軸セットの1つの車輪に各々連結される、少なくとも2つの電気機械を有する」よう構成することは、周知技術といえる。 そうすると、左右前輪1L、1Rがエンジン2によって駆動され、左右後輪3L、3Rがモータ4によって駆動される引用発明のモータ4において、周知技術を踏まえて当業者の通常の創作能力の範囲で左右後輪3L、3Rに各々連結される少なくとも2つの電気機械を有するようにすることは、容易になし得たことである。 そして、このように、左右後輪3L、3Rに各々連結される少なくとも2つの電気機械において、その回転数を決定するのであれば、「電気機械のうちの少なくとも1つの回転速度が決定される」ことになることは、当業者であれば容易に理解し得たことである。 そうすると、このような引用発明及び周知技術に基いて、上記相違点1にかかる本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 相違点2について検討すると、第4 1 シに記載されるとおり、トルク上限値Tmxは、モータ回転数Nmが20000rpm以上になると連続的に小さくなるものであり、20000rpmと許容限界回転数である25000rpmとの間の回転数でトルク上限値Tmxは0になるものである。 そして、第4 1 クの段落【0043】に記載されたように、モータトルクに現在のモータ回転数Nmに応じたトルク上限値Tmxを設定するものである。してみると、引用文献1は、現在のモータ回転数Nmと20000rpmと許容限界回転数である25000rpmとの間の所定の回転数を比較し、現在のモータ回転数Nmが該所定の回転数を上回る場合のトルク上限値Tmxが0であることを示唆し、引用発明も当該示唆を備えているといえる。 この理解において、該所定の回転数は、本願発明の「第1の閾値よりも高い第2の閾値」及び「第2の閾値」に相当するものであり、引用発明の「回転数Nmが25000rpmのときに、トルク上限値Tmxがゼロである」ようにすることは、本願発明における「前記決定された回転速度が、前記第1の閾値よりも高い第2の閾値と比較されるステップと、前記決定された回転速度が前記第2の閾値を上回る場合に、ゼロの最大トルク指令が前記電気機械に出されるステップ」、すなわち、相違点2に係る本願発明の発明特定事項を含むものといえる。 そうすると、相違点2は実質的な相違であるとはいえず、引用発明も相違点2に係る本願発明の発明特定事項を備えるものである。 仮に、引用発明が相違点2に係る本願発明の発明特定事項を含むといえないとしても、引用発明において、引用文献1に示唆されている事項を踏まえ、当業者の通常の創作活動により上記相違点2にかかる本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 審判請求人の主張について 審判請求書において、審判請求人は 「引用文献1には、次の記載があります。 『…(略)…エンジントルクがトルクダウンして前輪1L、1Rの車輪速が所定速度である40km/hに収束するように制御されるように車両速度が制限される結果、モータ4の回転数が抑えられて許容限界回転数(例えば25000rpm)を越えることが防止、つまり過剰回転が防止される。』(段落0047) このように、引用文献1では、電気モーターの回転速度は、エンジンのトルクダウン又は車速の減速によって、間接的に制限されることが開示されているにすぎません。 一方、本願発明は、前述の平成30年1月24日提出の意見書において申し述べたように、電気機械の回転速度を直接的に制限するために電気機械の最大トルクを調整するという構成を有します。つまり、本願発明の構成と引用文献1に記載の構成とは異なり、また、奏される効果も異なります。この差異は、前述の『車輪が横滑りしていたり、もはや地面に接触していないとき』において顕著に表れるものと思料いたします。」と、主張している。 しかしながら、第4 1 シ及び第6の相違点2における検討で上述したとおり、引用発明は、トルク上限値Tmxは、モータ回転数Nmが20000rpm以上になると連続的に小さくなり、20000rpmと許容限界回転数である25000rpmとの間の回転数でトルク上限値Tmxは0になるものである。すなわち、引用発明においてもモータ回転数Nmが20000rpm(第1の閾値)を上回る場合のモータ4のトルク上限値Tmx(最大トルク)は調整されているといえる。 そうすると、「電気モーターの回転速度は、エンジンのトルクダウン又は車速の減速によって、間接的に制限される」ものであったとしても、引用発明は「前記決定された回転速度が前記第1の閾値を上回る場合に、前記電気機械の最大トルクが、当該機械の回転速度を制限するために調整されるもの」である。 したがって、請求人の上記主張は当を得た主張でなく、採用することはできない。 なお、第4 1 カの段落【0031】の記載事項から、引用文献1は「モータの界磁電流Ifmを調整しモータ4のトルクを所要の値に調整するもの」すなわち、「電気モーターの回転速度は、エンジンのトルクダウン又は車速の減速によって、間接的に制限される」以外の手段でトルクを調整することも示唆されているといえる。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2020-02-21 |
結審通知日 | 2020-02-25 |
審決日 | 2020-03-09 |
出願番号 | 特願2015-543461(P2015-543461) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼木 真顕 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
鈴木 充 水野 治彦 |
発明の名称 | 独立した後方電気機械を有する自動車を制御するためのシステム及び方法 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |