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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B32B
管理番号 1364538
審判番号 不服2019-13888  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-10-18 
確定日 2020-08-18 
事件の表示 特願2015-68533「一体化構造体および一方向繊維強化樹脂テープ」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月4日出願公開、特開2016-187906、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、平成27年3月30日を出願日とする出願であって、その主な手続は以下のとおりである。

平成30年5月31日
手続補正書の提出
平成30年12月18日付け
拒絶理由通知
平成31年3月8日
意見書及び手続補正書の提出
令和元年7月31日付け
拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年10月18日
拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の提出
令和2年4月22日付け
拒絶理由通知
同年6月12日
手続補正書の提出


第2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明は、令和2年6月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された以下の事項により特定されるものである。
なお、請求項1?7に係る発明を、以下それぞれ「本願発明1」等という。

「【請求項1】
(I)強化繊維を一方向に引き揃えた一方向繊維強化樹脂テープを積層した積層板と、(II)熱可塑性樹脂組成物を用いた前記積層板の相手材とを溶着してなる一体化構造体であって、
前記(I)一方向繊維強化樹脂テープが、重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維を一方向に引き揃え、マトリックス樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂を含浸させた一方向繊維強化樹脂テープであって、
前記重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維に占める前記サイジング剤の付着量が0.2?2質量%であり、
前記サイジング剤に占める前記塩素が3?15質量%であるとともに、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂が無機塩素を30?250ppm含有することを特徴とする一体化構造体。
【請求項2】
前記サイジング剤で表面処理された強化繊維が、前記強化繊維が前記(I)一方向繊維強化樹脂テープの20?70質量%を占めることを特徴とする請求項1に記載の一体化構造体。
【請求項3】
前記サイジング剤が脂肪族エポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の一体化構造体。
【請求項4】
前記積層板の少なくとも最表層に配置した前記一方向繊維強化樹脂テープに含浸された前記マトリックス樹脂の分子量が50,000以上100,000未満であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の一体化構造体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物(II)がポリフェニレンサルファイド樹脂組成物であることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の一体化構造体。
【請求項6】
重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維を一方向に引き揃え、
マトリックス樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂を含浸させた一方向繊維強化樹脂テープであって、
前記重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維に占める前記サイジング剤の付着量が0.2?2質量%であり、
前記サイジング剤に占める前記塩素が3?15質量%であるとともに、
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂が無機塩素を30?250ppm含有することを特徴とする一方向繊維強化樹脂テープ。
【請求項7】
前記サイジング剤が脂肪族エポキシ樹脂からなることを特徴とする、請求項6に記載の一方向繊維強化樹脂テープ。」


第3.原査定の拒絶の理由、及び当審が通知した拒絶の理由の概要
1.原査定の拒絶の理由2、すなわち令和元年7月31日付け拒絶査定の理由2の概要は次のとおりである。

理由2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願発明の詳細な説明に具体的に開示されているのは、(I)と(II)とが同一である例のみである。異なる種類の樹脂を用いたものを溶着するのに比べて、同じ種類の樹脂を用いたものどうしの溶着では、高い溶着接合強度が得られること、異なる種類の樹脂を用いたものの溶着では、樹脂の組合せによって溶着接合強度が異なり、同じ種類の樹脂を用いたものどうしでの溶着に比べて溶着接合強度が格段に劣るものも多いことは、技術常識である。このため、本願発明で特定する一方向性繊維強化ポリフェニレンサルファイド樹脂テープを積層した積層板を用いれば、積層板を溶着接合する相手材がどのような熱可塑性樹脂組成物を用いたものであっても本願発明の課題を解決可能であると当業者が認識できるとはいえない。

2.当審が通知した拒絶の理由、すなわち令和2年4月22日付けで通知した拒絶の理由の概要は次のとおりである。

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。

請求項7は、「・・・請求項7に記載の一方向繊維強化樹脂テープ。」と記載されており、先行する請求項の記載を引用していない。


第4.当審の判断
1.原査定の拒絶の理由について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、この点について以下に検討する。

発明の詳細な説明の段落【0010】の記載によれば、本願発明は、「力学物性、表面外観に優れた一体化構造体を提供する」ために、「一方向性繊維強化樹脂テープを積層した積層板の溶着時における溶着強度を向上させること」を課題としている。

そして、本願発明1及び6においては、「一方向繊維強化樹脂テープ」に関し、「重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維を一方向に引き揃え、マトリックス樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂を含浸させた一方向繊維強化樹脂テープであって、前記重合体鎖に塩素を含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維に占める前記サイジング剤の付着量が0.2?2質量%であり、前記サイジング剤に占める前記塩素が3?15質量%であるとともに、前記ポリフェニレンサルファイド樹脂が無機塩素を30?250ppm含有すること」という構成が特定されている。

一方、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
(1)「重合体鎖にハロゲンを含む多官能化合物からなるサイジング剤で表面処理された強化繊維に占めるサイジング剤の付着量は、0.2?2質量%」(段落【0028】)とすることで、「多官能化合物をサイジング剤として、強化繊維を表面処理することで、添加量が少量であっても効果的に強化繊維表面の官能基等の表面特性に適合させて接着性およびコンポジット総合特性を向上させることができる」(段落【0030】)ものであり、特に「付着量が0.2質量%以上で、接着性向上効果が現れ、2質量%以下で、マトリックス樹脂の物性を低下させない」(段落【0029】)ものである。
(2)「重合体鎖にハロゲンを含む多官能化合物からなるサイジング剤中のハロゲン量の割合は3?15質量%である」(段落【0036】)ものとすることで、「サイジング剤と強化繊維間、サイジング剤とマトリックス樹脂間の電気的な親和性が向上すると考えられるため、複合材料界面の接着強度が向上し、その結果、一方向繊維強化樹脂テープの強度を向上させることができる」(段落【0037】)ものであり、特に「サイジング剤中のハロゲン量の割合が3質量%以上で、サイジング剤と強化繊維間、サイジング剤とマトリックス樹脂間の電気的な親和性が向上し、15質量%以下で、多官能化合物中のハロゲン以外の官能基と強化繊維またはマトリックス樹脂との反応を阻害しにくくなる」(段落【0038】)ものである。
(3)「サイジング剤中のハロゲンとして塩素を用いた場合、ポリフェニレンサルファイド樹脂中の塩素と親和性を高くすることができる」(段落【0039】)ものである。
(4)「ポリフェニレンサルファイド樹脂は無機塩素を30?250ppm有している」(段落【0051】)ものとすることで、「サイジング剤と強化繊維間、サイジング剤とマトリックス樹脂間の電気的な親和性が向上すると考えられるため、複合材料界面の接着強度が向上し、その結果、一方向繊維強化樹脂テープの強度を向上させることができる」(段落【0052】)ものであり、また、「この無機塩素は、重合体鎖にハロゲンを含む多官能化合物中のハロゲンとの親和性が高く、ポリフェニレンサルファイド樹脂中に上記範囲の無機塩素量を有することでサイジング剤とマトリックス樹脂間の電気的な親和性をより向上させる」(段落【0053】)ものであり、特に「ポリフェニレンサルファイド樹脂の無機塩素含有量が、30ppm以上で、接着性向上効果が現れ、250ppm以下で、マトリックス樹脂の物性を低下させない」(段落【0054】)ものである。

上記(1)?(4)によれば、「一方向性繊維強化樹脂テープを積層した積層板の溶着時における溶着強度を向上させること」という上記課題が、本願発明1及び6において上記構成を採用することで解決されることは、当業者にとって明らかである。

ここで、本願発明1における一体化構造体では、積層板の相手材について「(II)熱可塑性樹脂組成物を用いた前記積層板の相手材」と記載されるだけであり、どのような「熱可塑性樹脂組成物」であるのか具体的に特定されていない。
この点について、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0056】
(I)一方向繊維強化樹脂テープを積層した積層板の相手材である(II)熱可塑性樹脂組成物は、特に限定されるものではないが、一方向繊維強化樹脂テープのマトリックス樹脂として用いられるポリフェニレンサルファイド樹脂と容易に接合し、接合強度を発揮できる熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。特に、(II)熱可塑性樹脂組成物として、(I)一方向繊維強化樹脂テープのマトリックス樹脂と同じポリフェニレンサルファイド樹脂を用いると、接合後の冷却時においても熱収縮率の差によるソリやヒケ等が生じにくく、高い接合強度を発揮することができる。」
以上の記載によれば、「熱可塑性樹脂組成物」が、「(I)強化繊維を一方向に引き揃えた一方向繊維強化樹脂テープを積層した積層板」のマトリックス樹脂と同じポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた場合、特に高い接合強度を発揮することができるものの、それに限定されるものではなく、ポリフェニレンサルファイド樹脂と容易に接合し、接合強度を発揮できる熱可塑性樹脂を用いることが好ましいという程度のものであり、どのような「熱可塑性樹脂組成物」であるのかを具体的に特定することを要しないものであることは、当業者であれば理解できる。

そうすると、本願発明1?7は、当業者が発明の詳細な説明の記載により本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本願発明1?7は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
よって、原査定の理由を維持することはできない。

2.当審が通知した拒絶の理由について
令和2年6月12日に提出された手続補正書により、請求項7は「・・・請求項6に記載の一方向繊維強化樹脂テープ。」に補正され、先行する請求項の記載を引用するものとなった。
したがって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第4号に規定する要件に適合するものである。


第5.むすび
以上のとおり、原査定の理由、及び当審が通知した理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-07-28 
出願番号 特願2015-68533(P2015-68533)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高崎 久子  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
中村 一雄
発明の名称 一体化構造体および一方向繊維強化樹脂テープ  

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