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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B61L
管理番号 1364575
審判番号 不服2019-1431  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-01 
確定日 2020-07-30 
事件の表示 特願2014-251725「踏切警報システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月23日出願公開、特開2016-112960〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年12月12日に出願された特願2014-251725号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年 6月14日:拒絶理由通知
平成30年 7月20日:意見書及び手続補正書
平成30年11月29日:拒絶査定
平成31年 2月 1日:審判請求及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
令和 2年 2月10日:拒絶理由通知
令和 2年 4月 7日:意見書及び手続補正書

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「 【請求項1】
踏切の内部に取り残された人に対して列車が通過する危険線路を教示する少なくとも1つの教示手段を備え、前記教示手段は前記踏切の内部に設置され、前記人に対し安全な鉄道線路側または退避領域に誘導することを特徴とする踏切警報システム。」

第3 拒絶の理由
令和2年2月10日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由4(新規性)は、次のとおりのものである。
本件出願の請求項1、5、6、8に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

引用文献1:特開2001-328535号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歩行者が踏切内に閉じ込められるなどの事故の防止に有効な踏切の歩行者事故防止システム、及び踏切の歩行者事故防止方法に関するものである。」
(2)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、踏切内に閉じ込められると、警報音が鳴動したり赤色灯が点滅すること等もあいまって、歩行者は気が動転して立ち往生してしまい、かえって踏切からの脱出を困難にしてしまうことが多い。このため、付き添い者等がいない場合には、発見が遅れ、最悪の場合には人身事故となるおそれがある。
【0004】本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の解決しようとする課題は、踏切内に閉じ込められた歩行者に踏切脱出に関する情報等を報知可能な踏切の歩行者事故防止システム、及び踏切の歩行者事故防止方法を提供することにある。」
(3)「【0017】図1に示すように、この踏切の歩行者事故防止システム101は、コントローラ11と、列車接近検出装置12と、歩行者存在信号受信装置13と、地上報知装置14と、移動電話送受信機15と、踏切支障報知装置16と、遮断駆動装置17と、踏切遮断かん18と、踏切側送信装置19を備えて構成されている。列車接近検出装置12と、歩行者存在信号受信装置13と、地上報知装置14と、踏切支障報知装置16と、遮断駆動装置17と、踏切側送信装置19は、コントローラ11に接続されている。移動電話送受信機15は、歩行者82によって携帯される。」
(4)「【0030】踏切支障報知装置16は、踏切内で支障が発生した場合等に、この踏切に接近する接近列車81に停止信号、又は注意をうながす特殊発光信号を現示し、接近列車81を踏切の手前で停止させ、列車との衝突事故等を防止する装置である。また、踏切支障報知装置16には、操作具(図示せず)が、踏切内の適宜箇所に設けられており、踏切支障報知装置16に作動指令を与えて作動させることができるようになっている。
【0031】地上報知装置14は、踏切支障報知装置16の操作具(図示せず)の近傍に配置される報知装置であり、警報灯表示等の視覚的情報と、警報音等の聴覚的情報を含む第2報知情報を出力する。地上報知装置14の第2報知情報の出力が行われる部分である情報出力部(図示せず)は、踏切外部及び踏切内部から視認や聴取が可能となっている。地上報知装置14は、踏切側報知手段に相当している。」
(5)「【0051】また、コントローラ11は、上記のようにして「歩行者82は、踏切の内側に存在し、送受信ゲート40aから○○メートル付近、送受信ゲート40bから○○メートル付近に存在する。」と判別され、かつ、列車接近検出装置12からの列車接近検出出力を検出した場合には、下記のようにして歩行者82の滞留判別を行う。コントローラ11は、歩行者存在信号S1が一方の送受信ゲートで受信された後に、他方の送受信ゲートでも受信された場合には、「歩行者82は、踏切の外部に退出した。」と判別する。この他の場合には、コントローラ11は、「歩行者82は、踏切の内部に滞留している。」と判別する。コントローラ11は、踏切への列車接近と、歩行者の踏切内滞留を同時に検出した場合には、踏切存在信号、ゲート距離データのほか、列車接近データを地上報知装置14に出力する。これにより、地上報知装置14は、情報出力部に「あなたは踏切の中にいます。列車が近づいています。急いで踏切の外へ出てください!前方の踏切出口までは○○メートル、後方の踏切出口までは○○メートルです。」などの文字が表示され、あるいはスピーカー(図示せず)から同一内容の音声が出力される。文字と音声が同時に出力されてもよい。」
(6)上記(5)から、段落【0051】に、コントローラ11は、踏切への列車接近と、歩行者の踏切内滞留を同時に検出した場合には、列車接近データを地上報知装置14に出力し、これにより、地上報知装置14の情報出力部に「あなたは踏切の中にいます。列車が近づいています。急いで踏切の外へ出てください!前方の踏切出口までは○○メートル、後方の踏切出口までは○○メートルです。」などの文字が表示され、あるいはスピーカーから同一内容の音声が出力されることが記載されており、かかる記載から、地上報知装置14は、踏切内に閉じ込められた歩行者82に対して列車が接近したことを検出して「急いで踏切の外へ出てください」などの文字を表示し、あるいは音声を出力するものであることが理解できる。
(7)上記(4)の段落【0030】には、踏切支障報知装置16には、操作具が、踏切内の適宜箇所に設けられていることが記載されており、また、同じく上記(4)の段落【0031】には、地上報知装置14は、踏切支障報知装置16の操作具の近傍に配置される報知装置であることが記載されているから、これらの記載を総合すると、地上報知装置14は踏切内の適宜箇所に設けられている操作具の近傍に配置されていること、すなわち、地上報知装置14は踏切内の適宜箇所に配置されていることが理解できる。また、図1の図示内容からも、地上報知装置14は踏切内の適宜箇所に配置されていることが看取できる。
(8)上記(5)から、地上報知装置14は、踏切の中にいる歩行者に対して「急いで踏切の外へ出てください!」などの文字と音声とを出力していることから、歩行者を踏切の外へ出るように促していることが理解できる。

2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「踏切内に閉じ込められた歩行者82に対して列車が接近したことを検出して「急いで踏切の外へ出てください」などの文字を表示し、あるいは音声を出力する地上報知装置14を備え、前記地上報知装置14は前記踏切内の適宜箇所に配置され、前記歩行者を踏切の外へ出るように促す踏切の歩行者事故防止システム。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
1 まず、本願発明における「危険線路」とはどのようなものか請求項の記載上必ずしも明らかでないが、明細書の段落【0016】に「なお、踏切での鉄道線路の本数は任意であって、1本の鉄道線路を備える踏切であっても、本発明を適用することができる。」との記載、及び、令和2年4月7日提出の意見書の「3.(2)」の「請求項1に係る本願発明では「1本の鉄道線路を備える場合」を含む。この場合に、「列車が通過する危険線路を教示する」とは、当該鉄道線路そのものが危険であることを知らせ、かつ取り残された人を安全な退避領域(26)に誘導するということである。」との記載からみて、本願発明における「危険線路」とは、線路が複数か1つかにかかわらず列車が通過する線路のことをいうと解される。そして、引用発明の歩行者事故防止システムにおける踏切での線路の本数は明らかでないが、特に線路が複数であることに限定する記載は見あたらず、線路が1つの場合も想定されていると解され、引用発明における「踏切内に閉じ込められた歩行者に対して列車が接近したことを検出して「急いで踏切の外へ出てください」などの文字を表示し、あるいは音声を出力する地上報知装置14」は、線路が1つの場合において、歩行者が閉じ込められた踏切内に存在する当該線路に列車が接近したことを検出することにより、当該線路そのものが危険線路であることを教示しているといえるから、本願発明における「踏切の内部に取り残された人に対して列車が通過する危険線路を教示する少なくとも1つの教示手段」に相当する。
2 引用発明における「前記地上報知装置14は前記踏切内の適宜箇所に配置され」ることは、本願発明における「前記教示手段は前記踏切の内部に設置され」ることに相当する。
3 令和2年4月7日提出の意見書の「3.(3)」の「鉄道線路が1つの場合には、基本的に、当該鉄道線路の踏切通路の近傍であって当該鉄道線路に対して適切に離れた、安全を確保できる場所に退避領域(26)が設けられることは、本願発明の主題によれば、当業者にとって自明であると確信する。」との記載によれば、本願発明の「安全な鉄道線路側または退避領域」とは、「鉄道線路が1つの場合には、基本的に、当該鉄道線路の踏切通路の近傍であって鉄道線路に対して適切に離れた、安全を確保できる場所」に設けられる領域であって、踏切の内外によらず、踏切通路の近傍の鉄道線路から適切に離れた領域が含まれると解され、さらに、本願発明における「安全な鉄道線路側または退避領域」の「鉄道線路側」と「退避領域」とは択一的な発明特定事項であって、本願発明が、鉄道線路が1つの場合には、「退避領域」のみを意味することは明らかであるから、引用発明の「踏切の外」は本願発明の「安全な鉄道線路側または退避領域」のうちの「退避領域」に相当し、引用発明の「前記歩行者を踏切の外へ出るように促す」ことは、歩行者を安全側である踏切の外に誘導するものといえるから、本願発明における「前記人に対し安全な鉄道線路側または退避領域に誘導すること」のうちの「前記人に対し安全な退避領域に誘導すること」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、相違点は見当たらず、本願発明は引用発明である。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6 請求人の主張ついて
請求人は、令和2年4月7日提出の意見書において、次のように主張する。
「補正後の請求項1に係る踏切警報システムの特徴は、要約すれば、「踏切の内部に取り残された人に対して列車が通過する危険線路を教示する少なくとも1つの教示手段であって、踏切の内部に設置され、取り残された人に対し安全な鉄道線路側または退避領域に誘導する当該教示手段」を備えることにある。
「教示手段」の具体例は、代表的に、地面表示器(18)、触覚付与器(20)、移動阻止フラップ装置(24)である。
引用文献1に開示される「地上報知装置14」は、「当該線路が列車が通過する危険線路であることを教示する手段」であることは間違いがないが、「取り残された人に対し安全な鉄道線路側または退避領域に誘導する教示手段」ではないことは明白である。つまり、引用文献1の「地上報知装置14」によれば、「取り残された人を安全な鉄道線路側または退避領域に誘導する」ことはできない。本願発明の「教示手段」と「地上報知装置14」との差違は顕著である。」
請求人の上記主張内容では、本願発明の「教示手段」と「地上報知装置14」とにどのような差異があるのか判然としないが、同意見書とともに提出された手続補正書により請求項1に係る発明は「鉄道線路側または退避領域」の点が明確されたことからみて、引用発明の「踏切の外」が本願発明の「退避領域」に相当しないことを主張しているように解される。
しかしながら、「退避領域」に関して、請求人は、同意見書において、「鉄道線路が1つの場合には、基本的に、当該鉄道線路の踏切通路の近傍であって当該鉄道線路に対して適切に離れた、安全を確保できる場所に退避領域(26)が設けられることは、本願発明の主題によれば、当業者にとって自明であると確信する。」と主張しており、引用発明の「踏切の外」も鉄道線路の踏切通路の近傍であって当該鉄道線路に対して適切に離れた、安全を確保できる場所にほかならないから、引用発明の「踏切の外」は本願発明の「退避領域」に相当するといえる。
よって、請求人の同意見書における上記主張は、仮に、引用発明の「踏切の外」が本願発明の「退避領域」に相当しないことを主張しているとすれば、これを採用することはできない。
また、上記のとおり、同意見書における請求人の主張内容では、本願発明の「教示手段」と「地上報知装置14」とにどのような差異があるのか判然としないが、本願発明の「教示手段」は、例えば、本願発明の実施例にある「地面表示器(18)」、「触覚付与器(20)」、「移動阻止フラップ装置(24)」のようなものであって、引用発明のような「歩行者を踏切の外へ出るように促」すもの、具体的には、「あなたは踏切の中にいます。列車が近づいています。急いで踏切の外へ出てください!前方の踏切出口までは○○メートル、後方の踏切出口までは○○メートルです。」などの文字や音声で文章が出力されるものは含まれないと主張しているようにも解される。
ここで、「誘導」の意味について検討すると、「誘導」とは「目的に向かっていざない導くこと」(広辞苑(第六版))を意味するものである。
そして、引用発明においても、踏切の外という目的に向かって、例えば、前方の踏切出口や後方の踏切出口までの距離を示して、いざない導いているといえる。
一方、請求項1の記載から把握される本願発明においては、教示手段が、文字や音声で文章が出力されることを含まないものであるとの限定はなく、また、発明の詳細な説明の段落【0017】?【0020】には、請求人が主張する教示手段の例である「地面表示器(18)」、「触覚付与器(20)」、「移動阻止フラップ装置(24)」以外の教示手段の例として「警報表示器13」及び「警報音発生器14」に関する記載があり、本願発明の教示手段は「警報表示器13」及び「警報音発生器14」を除外していない。さらに、警報表示器13に関して、「好ましくは、踏切10における鉄道線路12A,12B,12Cの画像が表示されると共に、列車通過情報(通過線路、進行方向等)が表示される。(段落【0019】)」との記載があるが、「好ましくは」とあることから、文章による表示が含まれることが想定されることが明らかであり、加えて、意見書において教示手段が文章によるものを含まないものであるとの主張もないことから、本願発明の「教示手段」には、引用発明のように、文章により誘導するものも含まれると解するのが相当である。
よって、請求人の同意見書における上記主張は、仮に、文字や音声で文章が出力されるものは含まれないことを主張するものであったとしても、これを採用することはできない。
なお、仮に、本願発明の「教示手段」が文章が出力されるものを含まないとしても、文章以外で人を誘導することは、広く用いられており(例えば、もっとも単純なものであれば矢印があり、また、交通標識のようなピクトグラムによるものなども挙げられる。)、引用発明の地上報知装置14に、踏切の外の方向を示す矢印を表示させることは、当業者が適宜なし得ることである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2020-05-29 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-15 
出願番号 特願2014-251725(P2014-251725)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 博史  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 佐々木 芳枝
長馬 望
発明の名称 踏切警報システム  
代理人 田宮 寛祉  

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