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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1364745
審判番号 不服2018-16646  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-13 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2015-545067「マルチモードのスタイラス及びデジタイザシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月 5日国際公開、WO2014/085068、平成27年12月14日国内公表、特表2015-535641〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年(2013年)11月11日(パリ条約による優先権主張外国受理庁 2012年11月29日 米国,2012年12月13日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月26日 上申書,手続補正書の提出
平成29年 8月23日付け 拒絶理由通知書
平成29年11月27日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月16日付け 拒絶理由通知書
平成30年 6月20日 意見書,手続補正書の提出
平成30年 8月 8日付け 拒絶査定
平成30年12月13日 審判請求書,手続補正書の提出

第2 平成30年12月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年12月13日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。)
「しるしのパターンを感知するための光学スタイラスであって、
第1照射波長範囲内の放射光を放出するように構成された単一の光源と、
第1しるし波長範囲及び第2しるし波長範囲のそれぞれでしるしを感知するように構成された光学画像センサであって、前記第1しるし波長範囲は人間に可視な光を含み、前記第2しるし波長範囲は人間に不可視な光を含む、光学画像センサと、
を備え、前記光源以外の光源を備えず、以下の(A)、(B)、(C)のいずれかを満たす、光学スタイラス。
(A)前記第1照射波長範囲が、前記第2しるし波長範囲と重複しない。
(B)前記第1照射波長範囲が、実質的に赤外である。
(C)前記第1照射波長範囲が、実質的に人間に可視である。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成30年6月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「しるしのパターンを感知するための光学スタイラスであって、
第1照射波長範囲内の放射光を放出するように構成された光源と、
第1しるし波長範囲及び第2しるし波長範囲のそれぞれでしるしを感知するように構成された光学画像センサであって、前記第1しるし波長範囲は人間に可視な光を含み、前記第2しるし波長範囲は人間に不可視な光を含む、光学画像センサと、
を備え、以下の(A)、(B)、(C)のいずれかを満たす、光学スタイラス。
(A)前記第1照射波長範囲が、前記第2しるし波長範囲と重複しない。
(B)前記第1照射波長範囲が、実質的に赤外である。
(C)前記第1照射波長範囲が、実質的に人間に可視である。」

2 補正の適否
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1照射波長範囲内の放射光を放出するように構成された光源」について,「単一の」及び「前記光源以外の光源を備えず、」との限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下,「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された特開2007-114869号公報(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の媒体上に赤外光を吸収するトナー、インク等の色材で印刷されたコード画像からコードを読み取る読取装置、この読取装置を用いた情報処理システム、および媒体偽造防止方法に関する。」

「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、上記目的を達成するため、媒体上の不可視かつ赤外光を吸収する色材で印刷されたコード画像に可視領域および赤外領域の波長を含む光を照射する照射系と、前記照射系からの前記光の照射により前記媒体で反射した赤外光および可視光をそれぞれ受光して前記コード画像を撮像する受光系と、前記赤外光を受光して撮像された前記コード画像からコードを読み取るデコード部と、少なくとも前記可視光を受光して撮像された前記コード画像に基づいて前記媒体の真偽を判定する判定部とを備えたことを特徴とする読取装置を提供する。」

「【0034】
(情報読取装置)
情報読取装置4は、一般的なペンとほぼ同様の外形を有するケース40と、このケース40の先端部分に設けられた筆記用のペン部41とを備え、媒体3のコード画像を撮像する機能、コード画像からコードを読み取る機能、ペン部41による筆記データを取得する機能等を有する。これらの機能については後述する。
【0035】
ペン部41は、先端にペン先を有し、後方にインクタンクと、ペン先への筆圧を検出する後述する筆圧検出部とを備える。」

「【0037】
(媒体上の画像)
図2(a)?(c)は、媒体3の詳細を示す。本実施の形態では、媒体3を名刺に適用した場合について説明する。この名刺の媒体3には、図2(a),(b)に示すように、用紙全体に、例えば、2×2mmの多数の不可視かつ赤外光吸収係数な大きいコード画像30がマトリックス状に印刷され、用紙の所定の位置に文字、記号、図形等からなる文書画像31が印刷されている。
【0038】
文書画像31として、例えば、ロゴ31aが赤色で印刷され、氏名31b、社名31c、住所31d、電話番号31e、Eメールアドレス31f等が黒色で印刷されている。ロゴ31aは、ロゴエリア31g内に印刷され、Eメールアドレス31fは、Eメールアドレスエリア31h内に印刷されている。ロゴエリア31gおよびEメールアドレスエリア31hは、情報読取装置4によって指定されると、情報処理装置5において所定のプログラムが起動するようになっている。
【0039】
コード画像30は、左上に配置されたローテンションコード部30aと、ローテンションコード部30aの下に配置されたX座標コード部30bと、ローテンションコード部30aの右に配置されたY座標コード部30cと、ローテンションコード部30aの右下に配置された識別コード部30dとからなる。」
(当審注:【0037】の「赤外光吸収係数な大きいコード画像」は,「赤外光吸収係数が大きいコード画像」の誤記と認める。)

「【0044】
(情報読取装置の内部構造)
図3は、情報読取装置4の内部構造を示す要部断面図である。この情報読取装置4は、ペン型のケース40と、ケース40の先端からペン先410が露出するように配置されたペン部41と、媒体3に可視領域および赤外領域の波長を含む光を照射する照射系42と、媒体3上の画像30,31を撮像する受光系43とを備える。これらのペン部41、照射系42、および受光系43は、ケース40に収容されている。
【0045】
照射系42は、媒体3に波長が800nm?1000nmの近赤外光を照射する赤外LED(LightEmitting Diode)ランプ42Aと、媒体3に可視領域(400nm?700nm)の波長を含む白色光を照射する白色LEDランプ42Bとを備える。
【0046】
白色LEDランプ42Bとしては、例えば、青色LEDチップと青色光を黄色光に変換する蛍光体とを組み合わせたものや、青色LEDチップと黄色LEDチップとを組み合わせたものを用いることができる。
【0047】
なお、赤外LEDランプ42Aおよび白色LEDランプ42Bの代わりに、ハロゲンランプのように可視光および赤外光を発生する単一の光源を用いてもよい。
【0048】
受光系43は、媒体3からの反射光を所定の比率で分岐する光学素子としてのビームスプリッタ430と、ビームスプリッタ430で反射した光のうち可視光を除去する可視光除去フィルタ431Aと、ビームスプリッタ430を透過した光うち赤外光を除去する赤外光除去フィルタ431Bと、可視光除去フィルタ431Aを透過した赤外光を撮像する赤外光用撮像素子としての赤外光用CCD(ChargeCoupled Device)432Aと、赤外光除去フィルタ431Bを透過した可視光を撮像する可視光用撮像素子としての可視光用CCD432Bとを備える。」

「【0051】
(情報読取装置の制御系)
図4は、情報読取装置4の制御系を示すブロック図である。この情報読取装置4は、前述したように、LEDランプ42A,42B、CCD432A,432B、および筆圧検出部411を備える他、CCD432A,432Bからの信号をそれぞれ信号処理する第1および第2の信号処理部44A,44Bと、信号処理部44A,44Bによって処理された信号をデコードするデコード部45と、デコード部45によってデコードされたコードを記憶するメモリ46と、情報処理装置5との間で電波による通信を行う通信部47と、この装置4の各部を制御する判定部としての制御部48と、装置4の各部に電源を供給する図示しない電池とを備える。
【0052】
筆圧検出部411、信号処理部44A,44B、デコード部45、メモリ46、通信部47、および制御部48は、ケース40に収容されている。
【0053】
デコード部45は、コード画像30のローテーションコード部30aからローテーションコード、X座標コード部30bからX座標コード、Y座標コード部30cからY座標コード、識別コード部30dから識別コードをそれぞれ読み取るものであり、これについては図面を参照して説明する。
【0054】
図5は、デコード部45によるコードの読み取りを説明するための図である。媒体3上には、図5(a)に示すように、ローテーションコード部30a、X座標コード部30b、Y座標コード部30c、識別コード部30dからなるコード画像30が2次元状に配置されている。図5(a)中、一点鎖線で囲んだ領域は、CCD43A,43Bによる撮像イメージ6、すなわち読取領域を示している。図5(b)は、その撮像イメージ6の詳細を示している。
【0055】
CCD43A,43Bの撮像イメージ6は、コード画像30よりも大きくしており、コード画像30のサイズを前述したように2×2mmとすると、撮像イメージ6のサイズを例えば3×3mmとしている。デコード部45は、図6(b)に示すように撮像イメージ6の各イメージ部60a,60b,61a,61b,62a,62b,62c,62dを組み合わせ、各X座標コード、Y座標コード、識別コードを復元している。実際の撮像イメージ6は、コード画像30に対して傾いていることが多いが、図5(a),(b)に示したのと同様に各部を組み合わせることにより、各コードを復元することができる。
【0056】
第1および第2の信号処理部44A,44Bは、CCD432A,432Bからのアナログの電気信号をデジタル信号に変換するとともに、傾き補正、ガンマ補正、ノイズ除去等の各種の処理を行うものである。
【0057】
制御部48は、筆圧検出部411が一定以上の筆圧を検出しているとき、デコード部45がデコードしたペン先410の座標を示すX座標コードおよびY座標コードからペン先410の軌跡を算出し、筆記データとして通信部47を介して情報処理装置5に通信するように構成されている。
【0058】
また、制御部48は、所定のタイミングで可視光用CCD432Bの出力信号をデコード部45に入力してデコードできたとき、媒体3は偽造である旨の警報信号を通信部47を介して情報処理装置5に送信するようになっている。」

「【0071】
(第1の実施の形態の効果)
この第1の実施の形態によれば、以下の効果が得られる。
(イ)媒体3上のコード画像30は、不可視のトナーで印刷されているため、汎用の複写機では複写により利用可能な媒体を再現することが難しい。また、本媒体3を赤外情報の読取りが可能な複写機で読み取り、コード画像を黒トナーで印刷した場合、コード画像の不可視性が失われてしまうため、可視光をコード画像に照射してコードを読み取れるか否かにより容易に媒体の真偽判定を行うことができる。すなわち、媒体の複製の困難性、および媒体の偽造の発見容易性により、媒体の偽造防止をより効果的に防止することができる。
(ロ)本媒体3を赤外情報の読取り機能を有していない汎用の複写機で読み取り、不可視性の低い、粗悪な不可視トナー(インク)でコード画像が印刷された場合でも、可視光を用いた判定により媒体の偽造をある程度防止することが可能となる。
(ハ)コード画像30は、不可視のトナーで印刷されているため、コード画像30上に文書画像31を重ねて印刷したり、ペン部41で筆記しても、コード画像30に邪魔されずに文書画像31や手書きを視覚的に読み取ることができる。」

【図2】

【図3】

上記記載から,引用文献1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「ペン型のケース40と,
媒体3に可視領域および赤外領域の波長を含む光を照射する照射系42と,媒体3上の画像30,31を撮像する受光系43とを備え,
照射系42は,媒体3に波長が800nm?1000nmの近赤外光を照射する赤外LEDランプ42Aと,媒体3に可視領域(400nm?700nm)の波長を含む白色光を照射する白色LEDランプ42Bとを備え,
受光系43は,赤外光を撮像する赤外光用撮像素子としての赤外光用CCD432Aと,可視光を撮像する可視光用撮像素子としての可視光用CCD432Bとを備え,
媒体3に,2×2mmの多数の不可視かつ赤外光吸収係数が大きいコード画像30がマトリックス状に印刷され,用紙の所定の位置に文字,記号,
図形等からなる文書画像31が印刷されており,コード画像30の,X座標コード部30bからX座標コード,Y座標コード部30cからY座標コードをそれぞれ読み取り,ペン先410の座標を示すX座標コードおよびY座標コードからペン先410の軌跡を算出するとともに,
可視光をコード画像に照射してコードを読み取れるか否かにより,媒体3の真偽判定を行うことができる,
情報読取装置4。」

また,上記記載(【0047】)から,引用文献1には,以下の事項(以下,「引用文献1記載事項」という。)が記載されている

「情報読取装置4において,赤外LEDランプ42Aおよび白色LEDランプ42Bの代わりに,ハロゲンランプのように可視光および赤外光を発生する単一の光源を用いてもよいこと。」

イ 技術常識
特開2008-225483号公報(以下,「引用文献2」という。)には,次の記載がある。

「【0038】
図4は、haze(ヘイズまたは曇度とよばれることもある)が種々異なるガラスプリフォーム11に、可視域の非偏光を透過したときの波長帯域と透過率の関係を示すグラフである。図5は、ガラスプリフォーム11のhazeと、当該ガラスプリフォーム11から製造される偏光ガラスのコントラスト比の関係を示すグラフである。なお、図4および図5に示す関係を得るために用いたガラスプリフォーム11は、本実施形態の製造方法の上記析出工程までの各工程を経て作製されたものであり、その厚さは2mmである。ここで、ガラスプリフォーム11のhazeの値は、ガラスプリフォーム11に光を透過したときの全透過光に占める散乱光の割合を百分率で示したものである。本実施形態においては、偏光ガラスの可視光の波長領域の振る舞いに着目するので、一例として、緑色の波長領域の光について、上記百分率を測定した。より具体的には、本実施形態において、ガラスプリフォーム11のhazeの値は、ガラスプリフォーム11にハロゲンランプから光を照射し、当該ガラスプリフォーム11を透過した光をGフィルターでフィルタリングして受光器で受光することにより測定した。ここで、ハロゲンランプは、可視光の波長領域を含む360nmから3000nm程度の波長領域の非偏光を照射する。また、図12に一例を示すように、Gフィルターは、緑色の光の波長領域、すなわち、520nmから590nmの領域に最大透過率を有するフィルターである。また、図5に示す偏光ガラスのコントラスト比は、中心波長が緑色域である可視域の光(TE波およびTM波)に対するコントラスト比である。」

上記記載から,以下の事項は本願の優先日における技術常識(以下,「技術常識」という。)である。

「ハロゲンランプは,可視光の波長領域を含む360nmから3000nm程度の波長領域の非偏光を照射すること。」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「コード画像30の,X座標コード部30bからX座標コード,Y座標コード部30cからY座標コードをそれぞれ読み取」ること,及び,「ペン先410の座標を示すX座標コードおよびY座標コードからペン先410の軌跡を算出する」ことは,本件補正発明の「しるし」に関する本願明細書の段落【0007】の記載における「基材のX-Y領域を一意に画定するフォトルミネッセンスしるしを有する基材と、しるしを感知し、感知されたしるしに基づいて、基材に対するスタイラスの位置を判定する光学センサを備えたペン又はスタイラスと、を含むデジタイザシステムが本明細書で説明される。」の,「基材のX-Y領域を一意に画定するフォトルミネッセンスしるしを有する基材」の「しるしを感知」すること,及び,「感知されたしるしに基づいて、基材に対するスタイラスの位置を判定する」ことに相当するから,引用発明の「コード画像30」は,本件補正発明の「しるし」に相当する。

イ 引用発明の「情報読取装置4」は,「ペン型のケース」,「照射系42」及び「受光系43」を備えているから,光学スタイラスであると認められる。
そして,引用発明の「情報読取装置4」は,上記アで検討した,本件補正発明の「しるし」に相当する「コード画像30」を読み取っているから,引用発明の「情報読取装置4」は,本件補正発明「しるしのパターンを感知する」と同様の動作を行っているといえる。
そうすると,引用発明の「情報読取装置4」は,本件補正発明の「しるしのパターンを感知するための光学スタイラス」に相当する。

ウ 引用発明の「照射系42」が照射する「可視領域(400nm?700nm)の波長を含む白色光」の波長の範囲,及び,「波長が800nm?1000nmの近赤外光」の波長の範囲は,それぞれ本件補正発明の「人間に可視な光を含」む「第1しるし波長範囲」,及び,「人間に不可視な光を含む」「第2しるし波長範囲」に相当する。
そして,引用発明の「赤外光を撮像する赤外光用撮像素子としての赤外光用CCD432Aと,可視光を撮像する可視光用撮像素子としての可視光用CCD432Bとを備え」た「受光系43」は,上記「照射系42」により照射された,本件補正発明の「しるし」に相当する「コード画像30」を撮像しているから,引用発明の「受光系43」は,本件補正発明の「第1しるし波長範囲及び第2しるし波長範囲のそれぞれでしるしを感知するように構成された光学画像センサ」に相当する。

エ 引用発明の「照射系42は,媒体3に波長が800nm?1000nmの近赤外光を照射する赤外LEDランプ42Aと,媒体3に可視領域(400nm?700nm)の波長を含む白色光を照射する白色LEDランプ42Bとを備え」ることと,本件補正発明の「第1照射波長範囲内の放射光を放出するように構成された単一の光源」を備え,「前記光源以外の光源を備え」ないことは,光源を備える点で共通する。

オ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

[一致点]
「しるしのパターンを感知するための光学スタイラスであって,
光源と,
第1しるし波長範囲及び第2しるし波長範囲のそれぞれでしるしを感知するように構成された光学画像センサであって,前記第1しるし波長範囲は人間に可視な光を含み,前記第2しるし波長範囲は人間に不可視な光を含む,光学画像センサと,
を備える,
光学スタイラス。」

[相違点1]
「光源」について,本件補正発明は「第1照射波長範囲内の放射光を放出するように構成された単一の光源」であって,「前記光源以外の光源を備え」ていないのに対して,引用発明の「光源」は「赤外LEDランプ42A」と「白色LEDランプ42B」の二つを備えている点。

[相違点2]
本件補正発明は,「単一の光源」が放出する放射光の「第1照射波長範囲」が,
(A)前記第1照射波長範囲が、前記第2しるし波長範囲と重複しない。
(B)前記第1照射波長範囲が、実質的に赤外である。
(C)前記第1照射波長範囲が、実質的に人間に可視である。
のいずれかを満たすのに対して,引用発明は「光源」が二つあるために,引用発明の「光源」が上記(A),(B),(C)の関係のいずれかを満たすとは言えない点。

(4)判断
以下,各相違点について検討する。
ア [相違点1]及び[相違点2]について
引用文献1記載事項にあるように,引用文献1には,「情報読取装置4において,赤外LEDランプ42Aおよび白色LEDランプ42Bの代わりに,ハロゲンランプのように可視光および赤外光を発生する単一の光源を用いてもよいこと。」が示唆されているから,引用発明において,「赤外LEDランプ42A」と「白色LEDランプ42B」を,ハロゲンランプで置き換え,単一の光源とし,この光源以外の光源を備えないようにすることは,当業者が適宜に選択可能な設計的事項である。
加えて,本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項22に「実質的に人間に可視は、約360nm?約700nmを含む、請求項20に記載の光学スタイラス。」と記載されていることから,本件補正発明の「実質的に人間に可視」である波長範囲とは,少なくとも「約360nm?約700nmを含む」波長範囲の光であると認められる。
そして,ハロゲンランプの照射する光は,「360nmから3000nm程度」の波長範囲であることが技術常識であるといえるから,ハロゲンランプを採用すれば,当該光源の照射光は,「約360nm?約700nmを含む」波長範囲の光となり,本件補正発明の「(C)前記第1照射波長範囲が、実質的に人間に可視である。」ことを満たすようになるといえる。
そうすると,引用発明に引用文献1記載事項に示唆された設計変更を適用し,上記[相違点1]及び[相違点2]に係る構成とすることは,当業者が容易になし得ることである。

イ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献1に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

ウ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献1に記載された技術並びに技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年12月13日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,平成30年6月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,その優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-114869号公報
2.特表2003-512689号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「光源」について「単一の」及び「前記光源以外の光源を備えず」との限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに上記限定を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献1に記載された技術並びに技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,上記限定事項を含まない本願発明も,引用発明及び引用文献1に記載された技術並びに技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-02 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2015-545067(P2015-545067)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桜井 茂行円子 英紀▲高▼橋 徳浩佐伯 憲太郎池田 聡史  
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 小田 浩
野崎 大進
発明の名称 マルチモードのスタイラス及びデジタイザシステム  
代理人 野村 和歌子  
代理人 佃 誠玄  
代理人 赤澤 太朗  

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