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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1364750
審判番号 不服2019-2680  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-27 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2016-511717「乾燥粉末配合および使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月6日国際公開、WO2014/178891、平成28年6月23日国内公表、特表2016-518388〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2013年7月24日(パリ条約による優先権主張 2013年4月30日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月 7日 :手続補正書の提出
平成29年 4月 6日付け :拒絶理由通知
平成29年10月11日 :意見書及び手続補正書の提出
平成29年10月23日付け :拒絶理由通知
平成30年 5月 1日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年10月25日付け :拒絶査定
平成31年 2月27日 :審判請求書の提出
平成31年 2月28日 :手続補足書の提出

第2 本願発明

本願に係る発明は、平成30年5月1日提出の手続補正書による特許請求の範囲についてした手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
それを必要とする対象における血栓症を治療する乾燥粉末製剤を製造するための乾燥粒子の使用であって、
前記乾燥粒子は乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって前記対象に投与され、前記投与前の前記吸入器中の乾燥粒子はカプセルまたはブリスターに提供され、前記カプセルまたはブリスター中のすべての乾燥粒子は本質的にアセチルサリチル酸またはその薬学的に許容され得る塩からなり、前記乾燥粒子は賦形剤を有さず、前記乾燥粒子は5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有し、前記乾燥粒子は、投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を前記対象の体循環に届ける、使用。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものであり、次のとおり指摘している。

「・請求項1-14
本願請求項1-14に係る発明の解決すべき課題は、特許請求の範囲、明細書、意見書等の記載を勘案すると、「血栓症の治療において、賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸を含む乾燥粒子を、肺送達で投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることで患者に使用するのが容易で薬剤作用が非常に早く、かつ、副作用を減少する」ことと認める。
しかしながら、本願明細書等には、実際に請求項1,2、8,9記載の賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸乾燥粉末製剤やその乾燥粒子を投与すると、15分以内でアセチルサリチル酸を50%以上、対象の体循環に届けて薬剤作用が非常に早く奏したことの具体的な裏付けは何等記載されていない。
そして、先の拒絶理由通知で引用された引用文献3,4に記載されているようにアセチルサリチル酸製剤が経口投与されることで血栓症のリスクが低下することが本出願前周知技術であったとしても、薬物においては投与経路の変更によって期待した治療効果が得られないことも多々存在することや、先の拒絶理由通知で引用された引用文献2([0010]参照)に記載されているように、小さな微粉化された(<5ミクロン)薬物粒子を吸入する場合は、それらのファンデルワース力に起因する薬物粒子の凝集を防ぐために([0009]参照)、混成されるべき担体粒子が必要であることが記載されているように、本願優先日前、本願請求項1-14に記載されているような5ミクロン以下の薬物微粒子を吸入する場合は、ラクトースのような賦形剤が必要とすることが技術常識であったことを考慮すると、そのような賦形剤を含まない本願発明の解決すべき課題が解決されたかどうかは、実際に請求項1,2、8,9記載の製剤を肺送達で使用してその結果に基づく定量的なデータ等の具体的な裏付けを得ることで初めて把握されるものである。
また、本出願時において、請求項1,2、8,9記載の賦形剤を含まないアセチルサリチル酸製剤を有する5μm以下の乾燥粒子を肺送達で投与すると、上記した課題が解決されることが本願優先日時において当業者において技術常識であったものとも認められない。」
「したがって、出願人の上記主張を考慮しても、本願明細書等には本願請求項1-14に係る発明の解決すべき課題が解決したことが記載されているとは認められない
そして、本願優先日時の技術常識に照らしても、請求項1-14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1-14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

また、上記した解決すべき課題が実際に解決されたことが記載されているとは認められない本願明細書等の記載に基づいて、請求項1-14に係る発明を実施することは、当業者においても過度の試行錯誤が要求されるものである。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

<引用文献等一覧>
2.米国特許出願公開第2012/0145150号明細書(周知技術を示す文献)
3.特表2008-505126号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2003-512431号公報(周知技術を示す文献)」

第4 本願明細書の記載事項等

1 本願明細書及び図面の記載事項

本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の摘記ア?エの事項が記載されている(なお、下線は当審合議体が付した。以下、同じ。)。

(摘記ア)
「【技術分野】
・・・
【0002】
主題となる技術は、NSAIDs、例えば、アスピリンの肺送達に関する。主題となる技術は、疾患を処置するための吸入を使用しての、肺への物質の送達、例えば、薬品の送達のための装置および方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
治療剤の肺送達は、他の送達方式を上回る複数の利点を提供し得る。これらの利点としては、素早い作用発現、患者が自己投与できる都合の良さ、低下した薬剤副作用の可能性、吸入による送達の容易性、針を必要としないこと等があげられる。吸入療法は、入院患者または外来患者の設定において使用するのが容易であり、薬剤作用の非常に素早い開始をもたらし、生じる副作用を最少化する、薬剤送達システムを提供可能である。
【0004】
定量吸入器(MDIs)は、治療剤を気道に送達するのに使用される。MDIsは、一般的には、加圧された揮発性液体中に固体状の吸入用乾燥粒子として配合され得る治療剤を投与するのに適している。バルブを開くことにより、比較的高速で懸濁液が放出される。ついで、前記液体が揮発し、治療剤を含む乾燥粒子の素早く動くエアロゾルが後に残る。
・・・
【0007】
乾燥粉末吸入は、歴史的に、ラクトースをブレンドすることに頼ってきた。これにより、吸入用に十分小型の粒子の投与が可能であったが、それ自体は十分分散性ではない。この方法は、非効率的であり、一部の薬剤について機能しないことが公知である。複数のグループは、吸入可能であり、分散性であるため、ラクトースをブレンドする必要がない乾燥粉末吸入器(DPI)配合を開発することにより、これらの欠点を改善するのに挑戦している。・・・。
【0008】
乾燥粉末吸入送達の広い臨床用途は、適切な粒径、粒子密度および分散性の乾燥粉末を生じさせ、保存された前記乾燥粉末を乾燥状態で維持し、吸入されるべき吸入用乾燥粒子を空気中で効率的に分散させるのに都合の良い携帯型装置を開発する困難性により制限されてきた。さらに、吸入送達用の乾燥粉末の粒径は、より小型の吸入用乾燥粒子が空気中に分散し難いという事実により、本質的に限定される。乾燥粉末配合は、扱い難い液体状の投与形態および噴霧剤駆動型配合を上回る利点を提供するが、凝集および低流動性を生じやすい。凝集および低流動性のために、分散性および乾燥粉末系吸入療法の効率性がかなり低下する。例えば、粒子間のファンデルワールス相互作用および毛細管濃縮作用は、乾燥粒子の凝集の原因となることが公知である。・・・。
【0009】
・・・。10μm未満の平均粒径の吸入用粒子の分散性を改善する別のアプローチは、組成物合計の50%から99.9%の量での、水溶性ポリペプチドの添加または適切な賦形剤(例えば、アミノ酸賦形剤、例えば、ロイシン)の添加を含む。・・・。ただし、このアプローチは、固定量の粉末を使用して送達され得る活性剤の量を減少させる。したがって、増大した量の乾燥粉末が、目的の治療結果を達成するのに必要とされる。例えば、複数回の吸入および/または頻繁な投与が必要となる場合がある。・・・。
【0010】
上記方法のそれぞれにより共有される更なる制限は、生じたエアロゾルが、典型的には、実質的な量の不活性なキャリア、溶媒、乳化剤、噴霧剤および他の非薬剤材料を含むことである。一般的には、大量の非薬剤材料が、肺胞送達に十分な小型の吸入用乾燥粒子(例えば、5μm未満および好ましくは、3μm未満)の効果的な配合に必要とされる。ただし、これらの量の非薬剤材料は、送達され得る活性な薬剤物質の純度および量を低下させるのにも作用する。このため、これらの方法は、全身性送達のために、多くの活性な薬剤用量を正確に患者に導入するのが実質的に不可能なままである。
【0011】
血栓塞栓症、例えば、心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺血栓症、脳血栓症等は、患者または臨床医が、前記イベントについての初期治療または処置を提供するのを可能にする特定の兆候を提供し得る。一部の状況では、81mgの低用量または低用量(baby)アスピリンまたは通常のアスピリン(330mg)が、患者の初期処置を提供するために、経口投与される場合がある。
【0012】
肺送達に適した、非ステロイド系抗炎症剤(「NSAIDs」)、例えば、アスピリンの新規な配合を提供するための必要性が残っている。」

(摘記イ)
「【0025】
1.序論
血栓塞栓性の兆候および事象
血栓塞栓症、例えば、心筋梗塞、深部静脈血栓症、肺血栓症、脳血栓症等は、患者または臨床医が、前記イベントについての初期治療または処置を提供するのを可能にする特定の兆候を提供し得る。一部の状況では、81mgの低用量または低用量(baby)のアスピリンまたは通常のアスピリン(330mg)が、患者の初期処置を提供するために、経口投与される場合がある。
・・・
【0033】
アスピリンの薬物動態
アスピリンは、サリチル酸のアセチル化型であり、アスピリンにおける活性な化学は、アセチルサリチル酸(ASA)と呼ばれる。・・・。
・・・
【0036】
本願明細書に開示された種々の実施形態は、緊急事態の初期段階における吸入による薬剤の送達が、特定の健康状態の予備的処置の即効性の有効型を提供するという、新たな認識を反映する。例えば、一部の実施形態では、重篤な血栓塞栓症の兆候の病訴を受けて、患者は、治療量のNSAIDを、DPIにより投与され得る。前記NSAIDは、健康状態についての初期処置に関連する問題を処理し、または、同処置を提供し得る。
・・・
【0038】 一部の実施形態に基づいて、身体は、吸入された薬剤の有効性を制限する、種々の粒子フィルタを含むと認識されている。例えば、中咽頭は、5μmより大きい直径を有する粒子の通過を妨げる傾向がある。一方、肺胞に達するために、粒子は、約1μmから約5μmのサイズを有さなければならない。したがって、本願明細書における一部の実施形態は、PulmoSphere(商標)に類似する技術を使用して、約1μmから約5μm、および一部の実施形態では、約1.7μmから約2.7μmのメジアン幾何学的直径を有する粒子を製造する、吸入可能なアスピリンの調製および使用を開示している。
・・・
【0052】
本願明細書で使用する場合、前記「吸入用」の用語は、吸入による対象における気道への送達(例えば、肺送達)に適した乾燥粒子または乾燥粉末を意味する。吸入用乾燥粉末または乾燥粒子は、約10μm未満、好ましくは約5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有する。」
「【0066】
アスピリンの吸入用乾燥粉末配合が開発されてきたが、報告には、前記配合が臨床的に不可能であったと記載されている。乾燥粉末の肺送達により、アスピリンの高用量要求(冠動脈イベントおよび脳卒中の低用量予防について、約80mg/日、および、疼痛または発熱の除去について、少なくとも300mg/日)に合致するのが困難であるためである。
・・・
【0068】
さらに別の研究では、乾燥粉末吸入器(DPI)送達用のナノ粒子薬剤の使用は簡単ではないことを、著者は述べた。ナノ粒子薬剤の直接的な吸入は、その小さいサイズのために不可能であった。このナノメートルサイズのために、肺に何ら堆積することなく、前記ナノ粒子薬剤が主に肺から吐き出される。さらに、小さいサイズにより生じる重度の凝集問題が、DPI送達についてのその物理的取扱いを困難にする。したがって、ナノ粒子薬剤の「大きな中空キャリア粒子」が、一部の薬剤の肺送達用に開発されている。・・・。」

(摘記ウ)
「【0090】
5.乾燥粉末の送達
本願明細書に開示された一部の実施形態を通して、出願人は、従来の教示により認識されている課題を克服した。特に、出願人は、薬剤が肺に吸入された場合、前記薬剤が肺胞に向かって分散され得ることを認識した。肺胞は、主に、二酸化炭素を酸素に交換するのに機能し、肺胞は、酵素も産生する。このため、吸入された物質、例えば、病原体、薬剤または他の化学物質は、肺胞で処理され得る。
【0091】
肺胞は、その外側表面上において網目状の球に類似する、弾性繊維と毛細血管とのネットワークを有する。前記毛細血管は、肺動脈および肺静脈を介して、酸素が枯渇した血液を肺に向かって運び、酸素を豊富に含む血液を肺から運ぶ役割を果たす。各肺胞の内部は、肺胞被膜または肺胞上皮として公知の薄い組織を有する。肺胞上皮は、平滑I型およびII型として公知の、2種類の区別できる細胞から構成される。I型平滑細胞は、前記上皮の表面積の大部分を覆い、密に並べられており、その間を小分子、例えば、酸素および二酸化炭素のみが通過することができる。II型肺胞細胞は、ガス交換に使用される肺の界面活性剤を産生するのに役立つ。さらに、前記肺胞上皮は、マクロファージも有する。前記マクロファージは、微粒子状の異物、例えば、塵、タールおよび病原体を処分するのに役立つ。前記肺胞のサイズが小型であるにも関わらず(ほんの約250μm)、成人であれば、2億個と4億個との間の肺胞を有し得るため、前記肺胞の呼吸面積は、約1,400か約1,600平方フィートであり得る。
【0092】
本願明細書に開示された一部の実施形態に基づいて、DPIまたはMDIにより投与されたNSAIDsの、肺の毛細血管および上皮からの吸収は、直ちに効果的な処置を提供して、血栓塞栓症の兆候に取り組み得る。一部の実施形態における1つの新規な実現は、NSAIDs、例えば、アスピリンの経口投与により生じる実質的な初回通過効果を、乾燥粉末吸入器による投与により避けることができることである。さらに、従来は、NSAID、例えば、アスピリンの乾燥粉末送達の薬物動態、および、肺の毛細血管の内皮組織と遭遇した際の、前記薬剤の可能性のある代謝または不活性化に関する教示または示唆が存在していなかった。
【0093】
DPIまたはMDIによるNSAIDの送達は、単純には提供されず、当業者であっても結果を予測し得ない、複雑で、予測不可能な技術領域である。したがって、従前のシステムまたは処置方法の組合せが、本願明細書に開示された実施形態を提示し得たと、当業者が信じる理由が存在しない。例えば、本願明細書における一部の実施形態において、薬剤が肺動脈および肺胞の内皮を通過する際に、初回通過効果が最小化され、他の薬剤送達経路においてより、前記薬剤の非常に低い速度の活性化をもたらすという予測不可能な結果が認められた。
【0094】
肺の毛細血管の内皮は、物質が血流に選択的に出入りするのを可能にすることによる障壁として機能する。アスピリンは、内皮細胞により裏打ちされた、肺の毛細血管において不活性化されるであろうことが、予測されるであろう。前記内皮細胞は、極端に代謝的に活性である。このため、当業者であれば、アスピリンが肺の毛細血管の内皮により不活性化されるであろうことを予測するであろう。しかしながら、本願明細書に開示された一部の実施形態に基づいて、粉末状の薬剤が前記内皮と遭遇した際に、前記内皮は、消化管および肝臓により提供される代謝と比較して、非常に少ない部分の前記粉末状の薬剤を代謝または活性化し得ると考えられる。例えば、胃においてサリチル酸に変換された後、80%程度のサリチル酸が、肝臓において代謝される。このため、少量のサリチル酸のみが、全身性血流に生物学的に利用可能である。
【0095】
しかしながら、吸入されたアスピリン粉末から代謝された大多数のサリチル酸は、全身性血流に生物学的に利用可能であろうと考えられる。このため、低用量アスピリンの用量より非常に少ない用量(例えば、81mg未満)が、乾燥粉末吸入器により提供され得る。このことは、生物学的に同等な用量を提供しながら、非常に少ない用量を提供し得る。」
・・・
【0100】
一部の実施形態に基づいて、NSAID、例えば、アセチルサリチル酸等のサリチル酸塩の乾燥粉末投与は、上記されたように、約1μmから約5μmのメジアン空気力学的直径を有する粒子を有し得る。前記粒子は、非常に多孔性であることができ、スポンジ様形態を示すことができ、キャリア粒子の成分であることができる。前記粒子は球状を示すこともでき、これにより、形状および多孔性表面が粒子間の接触面積を減少させる役割を果たし得、よって、ほとんど粒子の集塊がもたらされず、肺を通したより効果的な分布がもたらされる。乾燥粉末技術、例えば、PulmoSphere(商標)が、本願明細書に開示された方法およびシステムの実施形態において実施されてもよい。」
「【0101】
図1を参照すると、乾燥粉末吸入技術において、患者は、乾燥粉末吸入器10を使用して、NSAID等の薬剤の粉末配合を吸入し得る。前記用量は、患者における血栓塞栓症のリスクを低下させるのに有効である。一部の実施形態の態様では、肺が効率的なフィルタであるため、一般的には、5μm未満のサイズを有する粒子のみを許容すると認識される。例えば、前記薬剤は、主要な気管支幹20に入った後、前記薬剤は、各肺22、24に入るであろう。ついで、前記薬剤は、肺22、24における個々の肺胞30に達するまで、気管支樹26、28を通過するであろう。前記肺胞は、以下に説明されるように、それぞれ長く非常に多数伸びている。したがって、乾燥粉末吸入器10により、約1μmから約5μmのサイズを有する粒子の用量を患者が自己投与するのを可能となり得る。一部の実施形態では、前記粒径は、約2μmから約4μmであり得る。」



「【0102】
一部の実施形態に基づいて、種々の種類の吸入器が、DPIまたはMDI送達システムを使用して、前記薬剤を提供するのに使用され得る。投与量は、患者における血栓塞栓症のリスクを低下させるのに有効であり得る。
【0103】
例えば、乾燥粉末吸入器10は、マウスピースと、NSAIDを受容する貯留部と、患者による吸入用のNSAIDを、前記マウスピースを通して利用可能にさせる駆動部材とを有し得る。
【0104】
例えば、図2A?2Fは、マウスピース102および薬剤区画104を有するDPI送達装置100を図示する。薬剤区画104は、吸入器本体キャビティ110内に挿入され得る。」



「【0105】
例えば、図2Bに示されたように、薬剤区画104は、保管目的の収納位置120内の本体キャビティ110内に挿入され得る。ただし、薬剤区画104は、図2Cに示された、第1位置122に移動されることもできる。第1位置122では、薬剤区画104の第1容器140が、マウスピースのエアウェイ142と整列される。この第1位置122では、第1容器140に収容された前記薬剤は、マウスピースのエアウェイ142を通して送達されて、図2Dに図示されたように、患者により吸入され得る。
【0106】
さらに、図2Eに示されたように、薬剤区画104は、第2位置124に移動され得る。第2位置124では、第2容器144は、マウスピースのエアウェイ142と整列される。このような位置では、第2容器144に収容された前記薬剤は、図2Fに図示されたように、患者により吸入され得る。」
「【0117】
しかしながら、最適なサイズの粒子を製造する能力にも関わらず、吸入により使用するための薬学的組成物の調製における更なる問題が存在する。典型的には、均一なサイズの粉末は、架橋として公知の現象により、集合し、より大きい凝集体を形成する傾向があることが観察されている。架橋した場合、粒子は、非常に大きな粒子として、空気力学的に挙動し、上記されたように、肺胞空間に達する傾向がないであろう。前記空間への送達は、所望の薬剤の急速な送達を最適化するのに望ましい。薬学的に活性な作用剤の凝集を低下させるために、薬剤は、多くの場合、凝集を防止するために、賦形剤粒子、例えば、ラクトースとブレンドされる。賦形剤の添加は、凝集を防止するのに有効な方法であるが、その添加は、測定された吸入用量あたりの、薬学的に活性な化合物の量を減少させる。その結果、患者は、前記薬学的に活性な化合物の同じ摂取を達成するために、より多くの回数投与を受けなければならないであろう。緊急事態において、これは、非現実的である場合がある。例えば、調製物が、用量あたりに40mgの粉末の制限を伴って、50%のASA成分と50%の賦形剤とで調製された場合、患者は、切迫した梗塞の示唆的兆候の処置のために、推奨される162mgのASAを摂取するために、約8回の用量を吸入しなければならないであろう。このような状況では、乾燥粉末吸入器は、ほとんど実用的ではない場合がある。
【0118】
しかしながら、本件では、発明者らは、現在、同じ活性成分(例えば、ASA)の粒子を、異なるサイズ分布を有する粒子のバッチを使用して混合することにより、架橋を減少させることができることを見出した。例えば、比較的均一な粒径を有する組成物は凝集するであろうが、約1μmから約5μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する一部の粒子と、約5μmから約15μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する他の粒子、および、約15μmより大きいメジアン空気力学的直径を有するさらに他の粒子を有するブレンドされた組成物を提供することにより、凝集が防止され、前記調製物の堆積特性が維持されるであろう。実際に、前記薬学的に活性な化合物は、医薬の保管中での凝集を防止するのに関して、賦形剤(例えば、ラクトース)の機能を代替するのに使用される。発明者らの認識では、凝集を防止する目的で、その賦形剤自体として前記薬学的活性な成分を使用することが考えられたことがなかった。
【0119】
さらに、多くの他の薬剤と異なり、NSAIDsおよび特にASAは、肺胞上皮以外の経路から効果的に循環系に入り得る。特に、ASAは、口腔の粘膜層ならびに咽頭および間違いなく気道上皮からの吸収により、身体に入り得る。このため、粒径に関わらず、ASAの吸入可能な形態を提供することにより、吸入用量は、実質的に全身性循環内に吸収されることができ、血栓塞栓症のリスクを低下させるのに有効であることができる。」
「【0136】
一部の実施形態では、前記乾燥粉末は、賦形剤を有さないか、または、実質的に有さない。一部の実施形態では、前記乾燥粉末は、抗凝集性(抗架橋性)の賦形剤を有さないか、または、実質的に有さない。」

(摘記エ)
「【0169】
7.処置方法
他の態様では、主題となる技術は、心血管疾患(例えば、血栓症)を処置(例えば、予防的処置またはリスクの低下)するための方法であって、それを必要とする対象の気道に、有効量の本願明細書に記載された吸入用乾燥粒子または乾燥粉末を投与することを有する方法である。
・・・
【0172】
一般的には、吸入装置(例えば、DPIs)は、単回吸入において、最大量の乾燥粉末または乾燥粒子を送達可能である。前記最大量は、ブリスター、カプセル(例えば、サイズ000,00,0E、0、1、2、3および4、1.37ml、950μl、770μl、680μl、480μl、360μl、270μlおよび200μlの各容積を有する)の容積、または、前記吸入器内に乾燥粒子または乾燥粉末を収容する他の手段の容量に関する。したがって、所望量または有効量の送達は、2若しくはそれ以上の吸入を必要とする場合がある。好ましくは、それを必要とする対象に投与される各用量は、有効量の吸入用乾燥粒子または乾燥粉末を含み、約4回以下の吸入を使用して投与される。例えば、各用量の吸入用乾燥粒子または乾燥粉末が、1回の吸入または2、3若しくは4回の吸入で投与され得る。前記吸入用乾燥粒子および乾燥粉末は、好ましくは、呼吸活性化DPIを使用して、1回の呼吸活性化工程で投与される。この種の装置が使用される場合、対象の吸入エネルギーは、前記吸入用乾燥粒子の分散、および、気道内へのそれらの引き込みの両方をする。
・・・
【0174】
乾燥粉末吸入器について、口腔堆積は、慣性衝突により支配されるため、エアロゾルのストークス数により特徴付けられる(DeHaan et al.Journal of Aerosol Science,35(3),309?331,2003)。同等の吸入器形状、呼吸パターンおよび口腔形状について、前記ストークス数または前記口腔堆積は、主に、吸入粉末の空気力学的サイズにより影響を受ける。したがって、粉末の経口堆積に関与する要因は、個々の粒子のサイズ分布および前記粉末の分散性を含む。個々の粒子のMMADが大きすぎる、例えば、5μmを上回る場合、高い割合の粉末が、口腔内に堆積するであろう。同様に、粉末の分散性が乏しい場合、粒子が乾燥粉末吸入器を出ていき、集塊として口腔に入るであろうことを示す。集塊した粉末は、集塊と同じ大きさの個々の粒子と同様に空気力学的に振る舞うであろう。したがって、個々の粒子が小型(例えば、5μm以下のMMAD)であっても、吸入された粉末のサイズ分布は、5μmより大きいMMADを有し、口腔堆積の増大をもたらす場合がある。」
「【0185】
特定の実施形態では、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%の投与されたアセチルサリチル酸が、投与の約60分以内または投与の約40分以内または投与の約30分以内または投与の約20分以内または投与の約15分以内に、対象の全身性循環に達する。」

2 吸入送達用の乾燥粉末の賦形剤に関する技術常識について

(1)原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、以下の摘記では、引用文献2に対応する特表2014-500779号公報における対応部分を訳文として示す。

(摘記2a)
「【0009】
薬剤とも呼ばれる医薬品原薬(API)は、用量の大部分を占めるラクトースを伴って、典型的には製剤の5%未満(%w/w)を構成する。担体ラクトースの用途は、凝集力、主として隣りあう薬物粒子の間の瞬間的双極子モーメントから発生するファンデルワールス力、に起因する薬物粒子の凝集を防止することである。薬物粒子のサイズが小さいことから、生じる凝集力は非常に強く、かつ吸入によって提供される空気力学的な力では容易には離散せず、流動性に乏しく結局は咽喉の後方に沈着する凝集物が生じる。二成分混合物を使用することにより、薬物は代わりに担体粒子に付着し、該担体粒子はサイズが大きいことから患者の吸入時に生じた空気流に巻き込まれることがより容易になり、APIをメッシュに向かって運搬して該担体粒子はメッシュに衝突し;衝突による力は、多くの場合薬物粒子を担体から引き離すのに十分であり、該薬物粒子を空気流の中に分散させ、肺の内部への該粒子の沈着を可能にする。吸入器の内壁との衝突が重要な場合もある。しかしながら、APIの大部分は、メッシュと効果的に衝突することなく逸れて表面から薬物粒子を分散させるには不十分な力しか生じていない担体に、結合したままである。これらの担体から解離していないAPIは、メッシュと接触せずにすり抜ける担体粒子に付着した薬物とともに、慣性衝突によって咽喉の後方に沈着せしめられ、その結果咽喉において著しい副作用を引き起こすことが多い。
【0010】
過去20年にわたり、DPI製剤の最適な特性についての多大な探索が行なわれてきた。DPI製剤は、凝集性の薬物粒子の再分散を改善し、かつ投薬量の変動を低減するために、小さな微粉化された(<5ミクロン)薬物粒子と混成されるべき大きな不活性担体粒子を必要としてきた。担体粒子が無ければ、微粉化薬物は凝集したままであり、ほとんど全てが該薬物を飲み込む咽喉までしか吸入されず、意図した標的には到達しない。これらの担体粒子を調べる多くの研究が存在しているが、該担体粒子の生理化学的特性(サイズ、形状、結晶度、表面微細構造、粗さなど)の改変は、DPIの性能に意味のある改善を産み出してはいない。さらに、これらの担体粒子(米国ではラクトース)は、DPI性能におけるバッチ間変動の原因でもある。担体粒子の最もよく研究された特性のうちの1つは担体粒子径である。20年の間に、担体粒子サイズの増大はDPI性能の低下をもたらす、という経験則が確立された。図1は、DPI製剤中の担体粒子サイズの増大が性能低下をもたらすことを示した過去の文献からのいくつかの実施例を示している。」

(2)まとめ

上記(1)に示した引用文献2の記載事項によれば、5ミクロン以下の薬物微粒子を吸入する場合は、粒子の凝集を抑制するためにラクトースのような賦形剤が必要であることが、本願の出願当時の技術常識であったと認められる。

第5 当審の判断

1 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)について

(1)判断の前提

特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。
そして、特許請求の範囲の記載が、同要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。
そこで、本願発明に係る請求項1の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)判断

上記第4の1の摘記から、本願明細書等には、背景技術として、治療剤の肺送達は、素早い作用発現、患者が自己投与できる都合の良さ、低下した薬剤副作用の可能性、吸入による送達の容易性、針を必要としないこと等の利点を有しており、また、吸入療法は、入院患者または外来患者の設定において使用するのが容易であり、薬剤作用の非常に素早い開始をもたらし、生じる副作用を最少化する、薬剤送達システムであったことが記載され(【0003】)、治療剤の肺送達のための定量吸入器(MDIs)は、加圧された揮発性液体中に固体状の吸入用乾燥粒子として配合され得る治療剤を、バルブを開くことにより、比較的高速で放出し、前記揮発性液体が揮発し、後に残る治療剤を含む乾燥粒子の素早く動くエアロゾルを、気道に送達するのに使用されてきたことが記載され(【0004】)、そして、吸入送達用の乾燥粉末については、粒子間のファンデルワールス相互作用および毛細管濃縮作用により、より小さい粒径の乾燥粒子が凝集しやすいことが知られており、そこで、従来の乾燥粉末吸入では、ラクトース等をブレンドすることにより、それ自身では十分分散性ではない粒子を、吸入用に十分小さくしての投与を可能としていたことが記載されている(【0007】、【0008】)。
本願明細書等には、上記背景技術の記載に続いて、【0010】に、エアロゾルに含まれる非薬剤材料が、送達され得る活性な薬剤物質の純度および量を低下させること、非薬剤材料によって、全身性送達のために多くの活性な薬剤用量を正確に患者に導入するのが実質的に不可能となることが記載され、【0012】には、肺送達に適した、アスピリンの新規な配合を提供する必要性がある旨が記載され、【0136】には、一部の実施形態では、乾燥粉末が、賦形剤を有さないことが記載され、【0185】には、多数の選択肢の中の一つの実施形態として、少なくとも約50%の投与されたアセチルサリチル酸が、投与の約15分以内に、対象の全身性循環に達することが記載されている。
そうすると、上記記載に加えて本願請求項1の記載も踏まえると、本願発明の解決しようとする課題は、「5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を、賦形剤を含まないことにより、活性な薬剤物質であるアセチルサリチル酸の純度及び量を低下させないで、肺送達による投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることで、それを必要とする対象における血栓症を治療する乾燥粉末製剤を製造するために乾燥粒子を使用する方法を提供すること」であると認められる。

以下、本願発明が、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
本願明細書の発明の詳細な説明には、そもそも、賦形剤を含まない、5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を実際に製造した処方例は記載されていないし、さらに、その製造した乾燥粒子を、肺送達によって対象に投与した場合に、その投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けられることも、定量的なデータ等の具体的な裏付けをもって記載されておらず、それに関する理論上の裏付け等も記載されていない。
また、上記第4の2(2)で説示したように、5ミクロン以下の薬物微粒子を吸入する場合は、粒子の凝集を抑制するためにラクトースのような賦形剤が必要であることが、本願の出願当時の技術常識であったことを考慮すると、本願発明における賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を、肺送達によって投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることができたとは認められない。

なお、発明の詳細な説明の【0100】には、アセチルサリチル酸等のサリチル酸塩の乾燥粉末が、約1μmから約5μmのメジアン空気力学的直径を有する粒子であって、当該粒子が、非常に多孔性であり、スポンジ様形態を示し、また、当該粒子は球状を示し、それにより、形状および多孔性表面が粒子間の接触面積を減少させる役割を果たすことによって、ほとんど粒子の集塊がもたらされず、肺を通したより効果的な分布がもたらされる旨が記載されており、発明の詳細な説明の【0118】には、別の態様として、約1μmから約5μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する一部のアセチルサリチル酸の粒子と、約5μmから約15μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する他のアセチルサリチル酸の粒子、および、約15μmより大きいメジアン空気力学的直径を有するさらに他のアセチルサリチル酸の粒子を有するブレンドされた組成物を提供することにより、凝集が防止され、調製物の堆積特性が維持される旨が記載されている。
しかしながら、本願発明において、粒子が多孔性であることや、1μmから約5μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する粒子と、約5μmから約15μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する粒子と、約15μmより大きいメジアン空気力学的直径を有する粒子とをブレンドすることは特定されておらず、また、これらの手段については、定量的なデータ等の具体的な裏付け等をもって記載されているものではない。また、これらの手段を用いてアセチルサリチル酸の粒子の凝集を防止できることが本願出願時において当業者において技術常識であったものとも認められない。

したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

2 特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について

(1)判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定に言う「実施」とは、方法の発明においては、その方法の使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る方法の使用をすることができる程度のものでなければならない。
また、医薬に関する技術分野のように、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合に、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。
以上のことを前提として、以下検討する。

(2)判断

請求項1の記載によれば、本願発明は、「それを必要とする対象における血栓症を治療する乾燥粉末製剤を製造するための乾燥粒子の使用」に係るものであるが、ここでいう「使用」とは、「使用方法」を意味するものと解されるところ、その使用方法の対象である「乾燥粒子」は、「乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって前記対象に投与され」、前記投与前の前記吸入器中の乾燥粒子は「カプセルまたはブリスターに提供され」、前記カプセルまたはブリスター中のすべての乾燥粒子は「本質的にアセチルサリチル酸またはその薬学的に許容され得る塩からなり」、前記乾燥粒子は「賦形剤を有さず」、前記乾燥粒子は「5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有し」、前記乾燥粒子は、「投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を前記対象の体循環に届ける」ものとされている。
そうすると、本願発明は、本質的にアセチルサリチル酸またはその薬学的に許容され得る塩からなり、賦形剤を有さず、5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有する乾燥粒子を、乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって対象に投与した場合に、投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることができることを前提とするものであると認められる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するためには、本願発明の乾燥粒子を使用できること、即ち、本願出願時の技術常識に照らして、カプセルまたはブリスターに提供される、5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有する乾燥粒子であって、それらのすべては賦形剤を有さず本質的にアセチルサリチル酸またはその薬学的に許容され得る塩からなる乾燥粒子を、乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって対象に投与することにより、投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることを達成できることが、当業者が理解できる程度に記載されている必要がある。

そこで、本願明細書の記載を検討すると、アセチルサリチル酸の投与に関連して、【0169】に、吸入用乾燥粒子の投与により、血栓症を処置(例えば、予防的処置またはリスクの低下)することが記載され、【0136】に、乾燥粉末が賦形剤を有しないことが記載され、【0038】に、約1μmから約5μmのメジアン幾何学的直径を有する粒子である、吸入可能なアスピリンが記載され、【0052】に、吸入用乾燥粒子が、約5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有することが記載され、【0101】に、乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって対象に投与する旨が記載され、【0185】に、少なくとも約50%の投与されたアセチルサリチル酸が、投与の約15分以内に、対象の全身性循環に達することが記載されているものの、上記記載はいずれも形式的なものであって、本願発明における、本質的にアセチルサリチル酸またはその薬学的に許容され得る塩からなり、賦形剤を有さず、5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有する乾燥粒子を、実際に製造した処方例は記載されていないし、その製造した乾燥粒子を、乾燥粉末吸入器の内部から肺送達によって対象に投与した場合に、投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けられることを実際に測定した試験結果も記載されていない。

さらに、上記第4の2(2)で説示した技術常識を考慮すると、本願発明における賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を、肺送達によって投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%を対象の体循環に届けることができたとは認められない。

なお、発明の詳細な説明の【0100】及び【0118】に記載された手段については、上記第1(2)において説示したように、本願発明において、粒子が多孔性であることや、1μmから約5μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する粒子と、約5μmから約15μmの範囲のメジアン空気力学的直径を有する粒子と、約15μmより大きいメジアン空気力学的直径を有する粒子とをブレンドすることは特定されているものではないし、定量的なデータ等の具体的な裏付け等をもって記載されているものではなく、これらの手段を用いてアセチルサリチル酸の粒子の凝集を防止できることが本願出願時において当業者において技術常識であったものとも認められない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、本願発明の乾燥粒子の使用をすることができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。

3 審判請求書における請求人の主張について

(1)請求人の主張

ア 請求人は、平成31年2月27日提出の審判請求書において、平成31年2月28日提出の手続補足書における参考資料1に基づいて、以下の主張をしている。

「すなわち、ウルフ宣誓書では、賦形剤を含まない5μm以下のMMADを有するアセチルサリチル酸の投与を含むイヌの研究について述べられており(段落12?23)、ヒトへの適用可能性についても触れられております。具体的に、ウルフ宣誓書の段落14では、イヌ試験1において、担体または賦形剤を含まない5μm以下のMMADを有するアセチルサリチル酸を、血小板凝集を抑制するのに十分な用量で、吸入によってイヌに投与したところ、肺への悪影響は観察されなかったことが開示されております。また、段落23では、先行文献が述べるような技術的および臨床的困難にもかかわらず、本出願人は、賦形剤を含まない5μm以下のMMADを有するアセチルサリチル酸の乾燥粉末製剤が、吸入によって患者に安全に投与でき、十分に許容されるものであることを実証したことが開示されております。
以上のとおり、ウルフ宣誓書によれば、賦形剤を含まない5μm以下のMMADを有するアセチルサリチル酸を吸入によって投与した場合には、副作用もなく血小板凝集を抑制することが理解できるものと思量いたします。」(審判請求書5頁2?17行)

イ 参考資料1の記載事項

上記参考資料1には、以下の事項が記載されている。なお、当審合議体が和訳を付した。

(摘記1a)
「13.イヌ試験1は3相で実施され、エアロゾル化された100%アセチルサリチル酸(賦形剤なし)が試験動物に投与された。最初の投与量増加試験は、動物の忍容量のレベルを決定するために実施され、閾値(0.4mg/kg)から始め、目標値(30mg/kg)まで増量した。第2相は、単回投与確認相であり、29.8mg/kgエアロゾルを4体の動物に60分以上投与した。第3相は、反復投与相であり、8体の動物に10日間毎日、20mg/kg/day又は30mg/kg/dayのエアロゾル形態のアセチルサリチル酸が投与された。エアロゾル化されたアセチルサリチル酸は、5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有していた。

14.イヌ試験1において、驚きをもってかつ予想外に以下のことが見出された。担体又は賦形剤を有しない、5μm以下の質量メジアン空気力学的直径(MMAD)を有するアセチルサリチル酸が、血小板凝集を阻害するのに十分な用量でイヌに吸入により投与された際に、副作用が肺においてみられなかった。

15.イヌ試験1は14頁の第1段落で次のように結論付けている。

結論として、試験剤「OT01」の最大忍容量は、第1層のグループ1の動物に投与された、36mg/kgであると考えられる。この投与量はグループ2によって確認され、そこでは、動物は29.8mg/kgで投与された。この試験における副作用が観察されないレベルは、10日間連続で1日当たり60分間投与される場合に、20.4mg/kg/day以下であると考えられる。」

(摘記1b)
「17.イヌ試験2によるデータは、以下の表に示されている。当該表は、吸入されたアスピリンが、当量の経口投与に比べて6.7倍の、犬におけるCmax血漿濃度を効果的に達成したことを示している。



(2)判断

しかしながら、上記1(2)で説示したように、賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を投与したときに、当該乾燥粒子が肺に送達され、その投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%が対象の体循環に届けられたことは、本願明細書に何ら具体的な裏付けがなく、そのような何ら裏付けのない技術事項については、出願後に提出された実験データを参酌することはできない。
仮に、上記実験データについて検討しても、上記主張において根拠とされている段落14におけるイヌ試験1では、副作用がなく安全に投与されることが確認されたことが示されるにすぎない。なお、出願人は明示的に主張していないが、イヌ試験2については、投与されたアスピリンが、賦形剤を含まない5μm以下のものであるか不明であるし、その投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%が対象の体循環に届けられたことも示されていないものである。そうすると、上記イヌ試験1及びイヌ試験2からは、賦形剤を含まない5μm以下のアセチルサリチル酸からなる乾燥粒子を投与したときに、当該乾燥粒子が肺に送達され、その投与後約15分以内に、投与されたアセチルサリチル酸の少なくとも50%が対象の体循環に届けられたことは確認できない。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第6 むすび

以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-02 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-17 
出願番号 特願2016-511717(P2016-511717)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 渕野 留香
渡邊 吉喜
発明の名称 乾燥粉末配合および使用方法  
代理人 矢口 太郎  
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