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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1364753
審判番号 不服2019-3070  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-05 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2016-547981「温度を操作する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月16日国際公開、WO2015/054615、平成28年12月15日国内公表、特表2016-538972〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)10月10日(パリ条約による優先権主張 2013年10月11日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年6月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月2日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月30日付けで拒絶査定されたところ、平成31年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後当審において令和元年11月18日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和2年2月18日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?39に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明39」という。)は、平成31年3月5日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?39に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの本願発明1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面の温度を操作するデバイスにおいて、
表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置であって、前記表面に近接する前記熱調整装置の領域にて複数の熱パルスを生成するように構成され、前記複数の熱パルスは、約0.1℃/秒と約10.0℃/秒との間の平均変化率にて、少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、前記領域の温度を循環させる、熱調整装置を含み、
前記複数の熱パルスの各々は、30秒より短い期間に亘って発生し、
第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異は、10℃より小さい、
デバイス。」

第3 拒絶の理由
当審拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。

理由1(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先権主張日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1?39
・引用文献等 1
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開2012-79095号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

(1ア)「【請求項5】
警報の種類ごとに区別可能な警報信号を受信して、触覚によって認識可能な警報を使用者に対して送出する警報装置であって、
警報信号を受信して作動開始信号を出力する警報受信部と、
前記作動開始信号に基づいて所定の温度変化パターンの発熱制御信号を出力する発熱制御部と、
前記温度変化パターンに対応する駆動信号を出力する発熱駆動部と、
前記駆動信号により駆動されて発熱し使用者に警報を知覚させる発熱体と、
を備えることを特徴とする警報装置。」

(1イ)「【実施例1】
【0019】
図1は、本発明に係る警報装置をベッドにおいて使用する実施例を示す。この図1において符号10はベッド、12はこのベッド10に横たわった使用者、14は枕、16は本発明に係る警報装置である.この警報装置16は図2に示すように、適度な柔軟性をもったマット状の収納ケース18内に収容されている。収納ケース18内には、適度な柔軟性をもった基板(図示せず)に警報装置16を構成する図3に示した部材が保持されている。
【0020】
図1、3において、符号20は親機となる警報信号出力部であり、ベッド10を設置した部屋の中や家の中など警報信号を有線あるいは無線で子機となる警報装置16に送れる位置に設置される。この警報信号出力部20には、火災報知器22や、ドアホン24や、電話機26などの警報発生機器が出力する警報が有線あるいは無線で入力され、これらの警報発生機器の警報の種類を識別できる警報信号Aを警報装置16に送出する。図3において28は警報信号出力部20に設けた無線用の送信アンテナ、30は警報装置16側に設けた受信アンテナである。
【0021】
警報装置16は、警報受信部32と、発熱制御部34と、発熱駆動部36と、一対の発熱体38と、これらの電源となる電池40とを有する。この実施例ではこれらと共に、発熱体38の作動と共に駆動される一対の振動モータ42を有する。警報受信部32は、前記親機である警報信号出力部20から受信した警報信号Aに基づいて警報の種類を判別し、警報の種類により異なる作動開始信号Bを出力する。
【0022】
発熱制御部34は、前記作動開始信号Bに基づいて警報の種類に対応した発熱変化パターンを示す発熱制御信号Cを駆動部36に対して出力する。すなわちこの発熱制御部34には、警報の種類に対応する発熱変化パターンが予めメモリされ、受信した作動開始信号Bに対応する発熱変化パターンに対応した発熱制御信号Cを出力するものである。
【0023】
駆動部36では、この発熱制御信号Cに基づく所定の発熱変化パターンで発熱体38を駆動する駆動電流Dを供給する。なおこの実施例では振動モータ42を備え、これら振動モータ42も駆動部36が出力する駆動電流Eによって駆動される。この振動モータ42は、発熱変化パターンに対応して回転速度が変化するように制御されるものであっても良いし、発熱体38の作動中は一定回転速度で駆動されるものであっても良い。
【0024】
なお、発熱体38に温度センサ44(図3)を設け、検出温度を駆動部36に帰還させて発熱体38の温度を温度変化パターンに一致させるように駆動電流を制御するようにするのが望ましい。
【0025】
次に発熱制御部34に記憶する温度変化パターンを、図4により説明する。図4(A)は、時間経過(横軸)に対して、表面温度(使用者の身体に接する面、あるいは対向する面の温度)が所定の周期で一定温度に上昇するものである。この温度と周期を警報の種類によって変化させることによって、警報の種類を判別可能にするものである。
【0026】
図4(B)は、発熱時間と、発熱周期と、発熱温度とを変化させるものであり、図4(A)のパターンと組み合わせることにより一層変化に富んだ温度変化パターンを作ることができる。
【0027】
図4(C)は、複数の発熱体38、38を用いる場合に、それぞれの温度を交互に変化させるものである。複数の発熱体を近接させて配置しておき、それぞれの温度を交互に変化させれば、使用者は温度変化に慣れにくくなり知覚しやすくなる。
【0028】
図4(D)は、発熱と吸熱とを組み合わせたものである。発熱体38としてペルチェ素子を用いれば駆動電流の極性を変化させることによって発熱と吸熱を変化させることができ、この場合には発熱と吸熱を変化させることによって温度変化パターンを構成することができる。図4(E)は、このような素子を用いて、近接配置した発熱体の一方の表面温度を上昇させ、他方の表面温度を吸熱によって下げるようにしたものである。このように近接した発熱体の表面温度が交互に上昇と冷却を繰り返すことにより、一層警報を知覚しやすくなる。
【実施例2】
【0029】
図5は腕時計50に本発明の警報装置を組み込んだ実施例を示すものであり、そのケース52の表示面54には、時刻などの表示部56と、警報の種類によって変化する表示58が設けられている。表示部56と表示58は例えば液晶板で構成される。
【0030】
この腕時計のケース52内には、時計を構成する機構と共に、図3に示した前記警報装置(子機)16とほぼ同様な機構が組み込まれている。従ってこの図6では、図3の対応する部分に同一の符号を付してその説明は繰り返さない。図3のものと異なるのは、警報の種類によって警報受信部32が出力する作動開始信号Bを、発光制御部60に導く点である。この発光制御部60では、作動開始信号Bに基づいて警報の種類に応じて表示58のいずれかあるいは複数を選択的に読み取り可能(識別可能)な表示状態にする。
【0031】
ここに発熱体38は、ケース50の裏側、すなわち使用者の腕の皮膚に接触する面側に収容され、発熱体38の温度変化が使用者に知覚しやすくされている。この実施例によれば、使用者は発熱体38による温度変化パターンを腕の皮膚で知覚し、警報が出ていることを知る。そして時計50の表示面52を見て、表示58の表示状態を確認することによって警報の種類を正確に知ることができる。」

(1ウ)上記図4(D)及び図5として、以下の図面が記載されている。
図4(D)


図5


2 引用発明
上記摘記(1イ)で摘記した実施例1及び2における「警報装置」は、摘記(1ア)の請求項5に記載の「警報装置」についてのものであるから、引用文献1に記載された発明を、請求項5に記載の警報装置として以下のとおりとする。
「警報の種類ごとに区別可能な警報信号を受信して、触覚によって認識可能な警報を使用者に対して送出する警報装置であって、
警報信号を受信して作動開始信号を出力する警報受信部と、
前記作動開始信号に基づいて所定の温度変化パターンの発熱制御信号を出力する発熱制御部と、
前記温度変化パターンに対応する駆動信号を出力する発熱駆動部と、
前記駆動信号により駆動されて発熱し使用者に警報を知覚させる発熱体と、
を備えることを特徴とする警報装置。」(以下「引用発明」という。)

第5 対比
1 本願発明1と引用発明を対比する。

(1)熱調整装置について
ア 引用発明の「所定の温度変化パターンの発熱制御信号を出力する発熱制御部」の「温度変化パターン」は、上記摘記第4 1(1イ)及び(1ウ)の図4(D)の記載を参酌すると、少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、領域の温度を循環させる複数の熱パルスを生成しているといえる。
また、引用発明の「駆動信号により駆動されて発熱し使用者に警報を知覚させる発熱体」は、上記摘記第4 1(1イ)の【0031】に記載の「使用者の腕の皮膚に接触する面側に収容され、発熱体38の温度変化が使用者に知覚しやすくされている」ことを考慮すると、表面に近接する領域にあり、表面の温度を変化させるといえる。

イ 引用発明は、発熱信号の作成から発熱体の発熱までを、
「前記作動開始信号に基づいて所定の温度変化パターンの発熱制御信号を出力する発熱制御部と、
前記温度変化パターンに対応する駆動信号を出力する発熱駆動部と、
前記駆動信号により駆動されて発熱し使用者に警報を知覚させる発熱体」と3つの部分に分けている。
一方、本願発明1は、「表面に近接して配置されるように構成され設定された」ものであって、「前記表面に近接する前記熱調整装置の領域にて複数の熱パルスを生成するように構成され」「少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、前記領域の温度を循環させる」ものであるから、発熱信号の作成から発熱体の発熱までを「熱調整装置」が行っている。

ウ 上記イより、引用発明の「発熱制御部」、「発熱駆動部」及び「発熱体」は、本願発明1の「熱調整装置」に対応する。
したがって、上記アを踏まえると、引用発明の「所定の温度変化パターンの発熱制御信号を出力する発熱制御部と、前記温度変化パターンに対応する駆動信号を出力する発熱駆動部と、前記駆動信号により駆動されて発熱し使用者に警報を知覚させる発熱体と」を備える部分(以下、「熱調整部分」という。)と、
本願発明1の「表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置であって、」「表面に近接する前記熱調整装置の領域にて複数の熱パルスを生成するように構成され、前記複数の熱パルスは、約0.1℃/秒と約10.0℃/秒との間の平均変化率にて、少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、前記領域の温度を循環させ」、「前記複数の熱パルスの各々は、30秒より短い期間に亘って発生し、第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異は、10℃より小さい」ものである「熱調整装置」とは、
「表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置であって、」「表面に近接する前記熱調整装置の領域にて複数の熱パルスを生成するように構成され、少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、前記領域の温度を循環させ」る「熱調整装置」の点で共通する。

(2)デバイスについて
引用発明の上記「熱調整部分」を備える「警報装置」は、上記「熱調整部分」によって表面の温度を操作しているといえることから、本願発明1の「表面の温度を操作するデバイス」に相当する。

(3)したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。

2 一致点
「表面の温度を操作するデバイスにおいて、
表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置であって、前記表面に近接する前記熱調整装置の領域にて複数の熱パルスを生成するように構成され、少なくとも第1の温度と第2の温度との間で、前記領域の温度を循環させる、熱調整装置を含む、
デバイス。」

3 相違点
複数の熱パルスが、本願発明1では、その平均変化率が「約0.1℃/秒と約10.0℃/秒との間」で、発生期間が「30秒より短い」期間であり、第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異が「10℃より小さい」ものであるのに対して、引用発明では、不明である点。

第6 判断
1 相違点について
本願発明1の熱パルスは、その平均変化率が「約0.1℃/秒と約10.0℃/秒との間」で、発生期間が「30秒より短い」期間であり、第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異が「10℃より小さい」という広範囲のものを含むことから、ここで、その範囲に含まれるものとして、例えば、平均変化率が10.0℃/秒、発生期間が1秒、第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異が10℃(「10℃より小さい」ことは限りなく10℃に近い温度も含むため、ここでは「10℃」と記載することとする)のものを検討する。
引用発明は、上記摘記(1イ)の【0031】に記載されているように、皮膚でその温度変化パターン(複数の熱パルス)を知覚しやすくするものであり、通常の皮膚であれば、1秒で10℃上昇し温度差が10℃となるものを、温度の変化があったものとして認識できるものである。
してみれば、引用発明の「温度変化パターン」として、皮膚でその温度変化パターン(複数の熱パルス)を知覚するために、本願発明1の範囲に含まれる、例えば1秒で10℃上昇し温度差が10℃となるようなものを選択することは当業者が容易になし得たことである(なお、この点、引用発明と同じように皮膚に対する温度変化によって通知を行う技術が開示されている特開2009-278575号公報(【0048】及び図7参照)にも記載されているように、本願発明1の複数の熱パルスパターン(温度変化パターン)は、皮膚に温度変化があったものとして知覚させるものとして通常の範囲を格別逸脱したものともいえない。)
そして、本願明細書を参照しても、「平均変化率」について、
「【0067】
本明細書で説明するように、平均変化率の大きさは、温度のリミットの間の大きさの差異(例えば、第1の調整に対する、第1の初期温度と第2のパルス化温度との間の差異の大きさ、第2の調整に対する、第2のパルス化温度と第3の戻り温度との間の差異の大きさ)を計算し、温度のリミットの間のこの大きさの差異を、温度が調整される時間で割ることにより、決定され得る。例として、冷却パルスを適用するとき、パルスの初期における第1の温度調整の期間が5秒であり、第1の初期温度が28℃で第2のパルス化温度が23℃であれば、パルスのこの部分における温度変化の平均変化率の大きさは、1℃/秒である。同じ冷却パルスの例にて、パルスの戻りにおける第2の温度調整の期間が10秒であり、第2のパルス化温度が23℃で第3の戻り温度が28℃であれば、パルスのこの部分における温度変化の平均変化率の大きさは、0.5℃/秒である。
【0068】
種々の実施形態にて、第1の初期温度と第2のパルス化温度との間の、熱パルスの初期における、第1の温度調整の平均変化率は、約0.1℃/秒と約10.0℃/秒との間の範囲であればよい。ある実施形態では、熱パルスの初期における温度調整の平均変化率は、約0.1℃/秒以上、約0.2℃/秒以上、約0.3℃/秒以上、約0.5℃/秒以上、約0.7℃/秒以上、約1.0℃/秒以上、約1.5℃/秒以上、約2.0℃/秒以上、約3.0℃/秒以上、約5.0℃/秒以上、又は、約7.0℃/秒以上である。ある実施形態では、熱パルスの初期における温度調整の平均変化率は、約10.0℃/秒以下、約7.0℃/秒以下、約5.0℃/秒以下、約3.0℃/秒以下、約2.0℃/秒以下、約1.5℃/秒以下、約1.0℃/秒以下、約0.7℃/秒以下、約0.5℃/秒以下、約0.3℃/秒以下、又は、約0.2℃/秒以下である。上記の参照範囲の組み合わせ(例えば、約0.1℃/秒と約10.0℃/秒の間、約0.1℃/秒と約5.0℃/秒の間、約0.3℃/秒と約3.0℃/秒の間、約0.3℃/秒と約1.0℃/秒の間、約0.3℃/秒と約0.8℃/秒の間、約0.5℃/秒と約3.0℃/秒の間、など)も可能である。他の範囲も可能である。」、
「発生期間」について、
「【0062】
ある実施形態では、熱調整装置、若しくは、電気信号を熱電気材料に加えるように構成されたコントローラは、約120秒以下の期間に亘り熱パルスを生成し得る。ある実施形態では、初期温度から、別の、パルス化温度へ、及び実質的に初期温度への戻りの、全体の熱パルスの期間(パルスの初期温度と最終温度との間の差異は無視し得る)は、約90秒以下、約75秒以下、約60秒以下、約50秒以下、約45秒以下、約40秒以下、約30秒以下、約20秒以下、約15秒以下、約10秒以下、約7秒以下、約5秒以下、約4秒以下、約3秒以下、約2秒以下、又は、約1秒以下である。ある実施形態では、熱パルスの期間は、約2秒以上、約3秒以上、約4秒以上、約5秒以上、約6秒以上、約7秒以上、約10秒以上、約15秒以上、約20秒以上、約30秒以上、約40秒以上、約50秒以上、約60秒以上、約75秒以上、又は、約90秒以上である。上記の参照範囲の組み合わせ(例えば、約2秒と約5秒の間、約3秒と約10秒の間、約10秒と約30秒の間、約10秒と約60秒の間、又は、約15秒と約90秒の間、など)も可能である。他の範囲も可能である。」と、
「第1の温度と第2の温度の間の大きさの差異」について、
「【0051】
ある実施形態では、第2の(パルス化)温度T2若しくは修正後の第2の(パルス化)温度T2’(いずれも第1の温度T1から遠い)と第1の(初期)温度T1との間の大きさの差異は、約1℃と約10℃との間である。前述のように、当然ながら、選択的な第2のレジームIIの終わりにて修正後の第2の温度T2’に到達するようには要求されない。即ち、ある場合では、修正後の第2の温度T2’は、初期温度T1から最も遠いプロファイルの範囲内の温度として、特徴付けられ得る。ある実施形態においては、値がより大きい第2の温度T2、T2’のいずれかと、第1の温度T1との間の大きさの差異は、約1℃以上、約1.2℃以上、約1.4℃以上、約1.5℃以上、約1.6℃以上、約1.8℃以上、約2℃以上、約2.5℃以上、約3℃以上、約4℃以上、約5℃以上、約6℃以上、約7℃以上、約8℃以上、又は、約9℃以上である。ある実施形態においては、値がより大きい第2の温度T2、T2’のいずれかと、第1の温度T1との間の大きさの差異は、約10℃以下、約9℃以下、約8℃以下、約7℃以下、約6℃以下、約5℃以下、約4℃以下、約3℃以下、約2.5℃以下、約2℃以下、約1.8℃以下、約1.6℃以下、約1.5℃以下、約1.4℃以下、又は、約1.2℃以下である。上記の参照範囲の組み合わせ(例えば、約1℃と約10℃の間、約1℃と約8℃の間、約2℃と約8℃の間、約1℃と約7℃の間、約1℃と約6℃の間、約1℃と約3℃の間、など)も可能である。他の温度も可能である。」と記載されるのみで、上記数値に技術上の臨界的意義は見いだせない。
したがって、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に想到するものである。

2 効果について
本願明細書には、「【0018】特に、発明者は、本明細書に詳細に記載するように、温度変化の率、温度変化の大きさ、パルス期間などの、特定のパラメータの組み合わせを有する熱パルスを人の皮膚の表面にて生成することにより、適応鈍感化の効果が軽減され若しくは減少され、更に冷却及び/又は加熱の感知効果が改善されることを、発見した。冷却される若しくは加熱される部屋で発生し得る鈍感化と比較して、本明細書に記載のデバイスは、ユーザの好みに従って、改善された熱的経験、例えば、冷却及び/又は加熱の快適な感覚を、ユーザに継続的に提供することができる。上述のように、熱パルスが生成されるやり方により、デバイスが動作する際には、ユーザは、デバイスの温度変化における実際の大きさと対比して、皮膚の表面にて、より大きく感知される温度感覚を経験し得る、即ち感じ得る。」と記載しているが、上記1で述べたように、「温度変化の率、温度変化の大きさ、パルス期間などの、特定のパラメータの組み合わせ」である数値の組み合わせには、技術上の臨界的意義は見いだせず、そして、引用文献1の、摘記(1イ)の「複数の発熱体を近接させて配置しておき、それぞれの温度を交互に変化させれば、使用者は温度変化に慣れにくくなり知覚しやすくなる。」(【0027】)、「このように近接した発熱体の表面温度が交互に上昇と冷却を繰り返すことにより、一層警報を知覚しやすくなる。」(【0028】)の記載から、上記本願発明1の「熱パルスを人の皮膚の表面にて生成することにより、適応鈍感化の効果が軽減され若しくは減少され、更に冷却及び/又は加熱の感知効果が改善される」という効果は、当業者が予期しうるものである。

3 請求人の主張について
(1) 請求人は、令和2年2月18日付け意見書で、
「請求項に記載の特定の熱プロファイルは、人に所望の量の熱的知覚を引き起こし、更に他のシステムと比べてより電力効率の良い、特定の利点を有します。これは、最大限の顕著性を目指すに過ぎない警告のために、熱プロファイルを適用し得る装置と、著しい対比を示すものです。そのような装置では、温度適用の目的は、心地よい熱的知覚を引き起こすことではなく、利用者にショックを与えて覚醒させ若しくは注意を払わせることです。」「引用文献1は、聴覚障害者が(例えば、睡眠中に)火災警報を検出するのを支援するように構成された触覚警報システムに関します。 装置は、アラームシステムと通信するように構成され、熱電装置を使用して温度変化を利用者に適用します。特に、主観的な加熱または冷却感覚を引き起こすのではなく、誰かを覚醒すること又は誰かに警告することを装置の目的とすること以外には、引用文献1では熱的知覚に関する具体的な記述はありません。」と記載し、引用文献1に記載の装置の目的は「誰かを覚醒すること又は誰かに警告することを装置の目的」としているに対し、本願発明1の装置は、「心地よい熱的知覚を引き起こすこと」「主観的な加熱または冷却感覚を引き起こす」ことを目的としており、両者に違いがあることを主張している。
しかし、本願発明1は、上記第5 1で記載したとおり、熱プロファイルを除けば、「表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置」「を含」む「表面の温度を操作するデバイス」と特定されるのみであり、これらの特定事項から「心地よい熱的知覚を引き起こすこと」「主観的な加熱または冷却感覚を引き起こす」ことを目的としたデバイスであると解釈することはできず、上記第5 1(2)で述べたように、デバイスとして引用発明とは差異がないものである。そして、熱プロファイルについては、上記1で述べたように、引用発明において、当業者が容易になし得たものである。
そうすると、上記請求人の本願発明1と引用発明とはそれらの目的が違うことをもってして、上記「表面に近接して配置されるように構成され設定された熱調整装置」「を含」む「表面の温度を操作するデバイス」に、進歩性を認めるには至らない。

したがって、出願人の上記主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-02-27 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2016-547981(P2016-547981)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 達也  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 森 竜介
信田 昌男
発明の名称 温度を操作する方法及び装置  
代理人 山田 卓二  
代理人 柏原 啓伸  

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