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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01L
管理番号 1364755
審判番号 不服2019-5112  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-04-17 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2016-540277「可逆式力測定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月12日国際公開、WO2015/034712、平成28年 9月29日国内公表、特表2016-530531〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

特許出願: 平成26年8月26日
(パリ条約による優先権主張(外国庁受理2013年9月5日、米国)を伴う国際出願)
拒絶査定: 平成30年12月6日(送達日:同年同月18日)
拒絶査定不服審判の請求: 平成31年4月17日
手続補正: 平成31年4月17日(以下、「本件補正」という。)


第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正によって補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。

「【請求項1】
少なくとも1つのキャビティと、
少なくとも1つのキャビティ壁と、
ファスナー構成部材およびロードセル構成部材の少なくとも一方と、
少なくとも1つの荷重受け部と、
少なくとも1つの表示材料と、
を備え、
前記少なくとも1つのキャビティは、前記少なくとも1つのキャビティ壁により画定した空間であり、
前記少なくとも1つの荷重受け部に力が加わると、前記ファスナー構成部材およびロードセル構成部材の少なくとも一方における前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化を生じ、
前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化すると、前記少なくとも1つの表示材料が前記少なくとも1つのキャビティの内側または外側に移動して印加荷重の大きさおよび/または方向を示すよう構成されており、
前記ロードセル構成部材は、前記キャビティに荷重を加えるためのキャビティホルダーであり、ロードセルとともに使用される、可逆式力測定装置。」(以下「本願発明」という。)


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、請求項1に係る発明についての概要は、以下のとおりである。

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に国内又は外国において頒布された刊行物である登録実用新案第3050119号公報(考案の名称:荷重計、実用新案権者:株式会社間組、以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 引用例記載の事項・引用発明
引用例には、次の事項が記載されている。


「【0011】
次に、荷重の測定方法について説明する。
図2(b)は、荷重計Aの荷重測定時の態様を示す側方断面図である。
図の矢印のように測定対象の荷重が支持体1に加わると、支持体1は圧縮され、空洞1aの容積が縮小する。縮小した容積分の作動油2は、ベローズ3内へ流入しベローズ3を伸長させる。そして、伸長分をスケール1bから読み取り、換算表1dにより換算すれば、荷重が判明する。
測定荷重が減少すると、その程度に応じて支持体1は元の形状に復元し、空洞1aの容積も元に戻る。そして、ベローズ3内の作動油3は空洞1a内へ吸引され、荷重の減少分だけベローズ3は収縮する。
従って、荷重計Aは、単発的に荷重を測定する場合のみならず、変動荷重を長期間連続的に測定する場合にも対応することができる。
【0012】
図3は、本考案に係る他の荷重計Bの外観図であり、また、図4はその側方断面図である。
荷重計Bは、支持体11と、支持体11内の空洞11aに袋体12aを介して充填された作動油12と、ベローズ13(指標手段)とを備える。
支持体11は、中心軸に孔11eを設けた断面円環状の円柱形状をなし(請求項4)、荷重計Aと同様に、内部に空洞11a、側周にスケール11b、孔11c、換算表11dをそれぞれ備える。荷重計Bでは、孔11eを設けた断面円環状の円柱形状を形成したことにより、地盤アンカーやタイロッドの荷重を測定する場合に好適なものであり、ロッド等を当該孔11eに挿入して測定できる。
【0013】
袋体12aは、ビニール等で作られた空洞11aの形状に沿った浮き輪形状のものであり、また、支持体11の変形に応じて変形する柔軟性を有するものである。
ベローズ13は、袋体12aと一体に成形されており、作動油12はこれらを漏洩なく流通することができる。また、作動油12は、袋体12aの容積及び縮小した状態のベローズ13の容積分だけ充填されている。
荷重計Bは、上述した荷重計Aと同様に、荷重が加わって圧縮されると、支持体11が変形して空洞11aの容積が減少し、これに伴って、袋体12a内の作動油12がベローズ13へ移動しこれを伸長させるので、その伸長の程度から荷重の大きさを測定できる。また、作動油12が袋体12a及びこれに一体成形されたベローズ13内に充填されているので、液密性がよい。」



上記記載から、引用例には、次の発明が記載されていると認められる。

「支持体11と、支持体11内の空洞11aに袋体12aを介して充填された作動油12と、ベローズ13(指標手段)とを備え、(【0012】)
支持体11は、中心軸に孔11eを設けた断面円環状の円柱形状をなし、(【0012】)
荷重が加わって圧縮されると、支持体11が変形して空洞11aの容積が減少し、これに伴って、袋体12a内の作動油12がベローズ13へ移動しこれを伸長させるので、その伸長の程度から荷重の大きさを測定でき、(【0013】)
測定荷重が減少すると、その程度に応じて支持体は元の形状に復元し、空洞の容積も元に戻り、ベローズ内の作動油は空洞内へ吸引される、(【0011】)
地盤アンカーやタイロッドの荷重を測定する場合に好適な荷重計B(【0012】)。」(以下「引用発明」という。)


第5 対比
本願発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に、順次対比する。

まず、引用発明における「支持体11内の空洞11a」及びそこに充填された「作動油12」は、それぞれ本願発明における「キャビティ」及び「表示材料」に相当する。
次に、引用発明における「断面円環状の円柱形状をな」す「支持体11」の側面部分及び上下面部分は、それぞれ本願発明における「キャビティ壁」及び「荷重受け部」に相当する。
そして、引用発明において、「空洞11a」が「支持体11内」にあることは、本願発明において「前記少なくとも1つのキャビティは、前記少なくとも1つのキャビティ壁により画定した空間であ」ることに相当する。
また、引用発明においては、「荷重が加わって圧縮されると、」「空洞11aの容積が減少し、」「作動油12がベローズ13へ移動し」、「測定荷重が減少すると、」「空洞の容積も元に戻り、ベローズ内の作動油は空洞内へ吸引される」のであるから、該容積は可逆変化しており、また引用発明の「荷重計B」は、可逆式であるといえる。
そうすると、引用発明において、「荷重が加わって圧縮されると、」「空洞11aの容積が減少し、」「作動油12がベローズ13へ移動しこれを伸長させるので、その伸長の程度から荷重の大きさを測定でき、」「測定荷重が減少すると、」「空洞の容積も元に戻り、ベローズ内の作動油は空洞内へ吸引される」ことと、本願発明において、「前記少なくとも1つの荷重受け部に力が加わると、前記ファスナー構成部材およびロードセル構成部材の少なくとも一方における前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化を生じ、前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化すると、前記少なくとも1つの表示材料が前記少なくとも1つのキャビティの内側または外側に移動して印加荷重の大きさおよび/または方向を示すよう構成されて」いることとは、「前記少なくとも1つの荷重受け部に力が加わると、前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化を生じ、前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化すると、前記少なくとも1つの表示材料が前記少なくとも1つのキャビティの内側または外側に移動して印加荷重の大きさを示すよう構成されて」いる点で共通するといえる。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「少なくとも1つのキャビティと、
少なくとも1つのキャビティ壁と、
少なくとも1つの荷重受け部と、
少なくとも1つの表示材料と、
を備え、
前記少なくとも1つのキャビティは、前記少なくとも1つのキャビティ壁により画定した空間であり、
前記少なくとも1つの荷重受け部に力が加わると、前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化を生じ、
前記少なくとも1つのキャビティの容積が可逆変化すると、前記少なくとも1つの表示材料が前記少なくとも1つのキャビティの内側または外側に移動して印加荷重の大きさを示すよう構成されている、
可逆式力測定装置。」

(相違点)
本願発明においては、「ファスナー構成部材およびロードセル構成部材の少なくとも一方」を備えており、「容積が可逆変化を生じ」る「キャビティ」も、「ファスナー構成部材およびロードセル構成部材の少なくとも一方における」ものとされ、また「ロードセル構成部材」を備える場合については、「前記ロードセル構成部材は、前記キャビティに荷重を加えるためのキャビティホルダーであり、ロードセルとともに使用される」のに対し、引用発明は、「地盤アンカーやタイロッドの荷重を測定する場合に好適な」ものであるとはされているが、「ファスナー構成部材」や「ロードセル構成部材」を備えるものとすることは明示されていない点。


第6 判断
上記相違点について検討する。
引用発明は、ファスナーの一種である「地盤アンカー」や「タイロッド」の荷重を測定する場合に好適なものとされており、それらの荷重を測定する際に、「地盤アンカー」や「タイロッド」の構成の一部(ファスナー構成部材)を備えるようにすることは、当業者が容易になし得たものであるといえる。またそのようにした場合の構成は、「キャビティ」が「ファスナー構成部材」におけるものであるといえる。なおこの場合は、「ロードセル構成部材」を備えない構成であるため、「前記ロードセル構成部材は、前記キャビティに荷重を加えるためのキャビティホルダーであり、ロードセルとともに使用される」点は相違点として考慮する余地は無い。
なお、仮に「地盤アンカー」や「タイロッド」が、本願発明の「ファスナー」に含まれないものであるとしても、「地盤アンカー」や「タイロッド」と同様に結合部材として周知な「ファスナー」を引用発明の荷重測定対象とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、上記相違点を勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。


第7 請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書((3)進歩性について)において、概略、以下のように主張しているので、検討する。
(1)請求人の主張の概要

「引用文献1に記載の発明は、「・・・数トン以上の大荷重の測定に使用される荷重計(段落[0001])」に関するものであり、本願発明のようなファスナー構成部材またはロードセル構成部材のための可逆式力測定装置とは装置の技術分野、規模が全く異なります。」

「また、引用文献1に記載の発明は、支持体内の空洞に液密に接続され、作動液体の流入により伸長する指標手段(ベローズ)を必須の構成とするものであり(請求項1、段落[0005]-[0013]、図1-4参照)、このような指標手段(ベローズ)を必ずしも必要としない本願発明とは技術分野も技術思想も異なるものです。」

「以上の通り、本願発明1は、引用文献1の発明とは技術分野も構成も明らかに異なります。
したがって、引用文献1に基づいて、本願発明1の構成には想到し得ません。
また、他の引用文献2-5にも、本願発明1の構成は開示されていません。さらに、引用文献1の発明に対して、技術分野も課題も異なる引用文献2-5の技術を組み合わせることは、当業者にとって容易な事項ではありません。
よって、引用文献2-5を参照したとしても、本願発明1の構成には想到し得ません。
したがって、引用文献1-5に基づいて、本願発明1の進歩性を否定することはできません。」

(2)検討
審判請求人は、引用発明が数トン以上の大荷重の測定に使用されるものであって、本願発明とは技術分野、規模が全く異なると主張するが、本願の請求項1においては測定荷重の範囲に関する記載は無い。一般的にファスナーまたはロードセルが、数トン以上の荷重を対象としないものであるとも認められない。
また、審判請求人は、引用発明が指標手段(ベローズ)を必須の構成とするものであって、本願発明とは技術分野、技術思想が異なると主張するが、本願の請求項1においては、指標手段(ベローズ)を備えないものであるとの記載は無い。
したがって、審判請求人の主張は請求項の記載に基づかないものであって、採用できない。


第8 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-02-26 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2016-540277(P2016-540277)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 公文代 康祐  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
関根 裕
発明の名称 可逆式力測定装置  
代理人 片岡 憲一郎  
代理人 杉村 憲司  

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