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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 F01L
管理番号 1364759
審判番号 不服2019-7400  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-05 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2016-525399「電気フェイザー用アクチュエータシャフトの位置制御及び較正方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年1月15日国際公開、WO2015/006197、平成28年9月5日国内公表、特表2016-526642〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)7月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年7月10日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。

平成30年4月10日(発送日):拒絶理由通知書
平成30年9月4日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年2月5日(発送日) :拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和元年6月5日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年7月17日 :手続補正書(方式)の提出
令和元年12月13日 :上申書の提出
令和2年2月12日 :上申書の提出

第2 令和元年6月5日の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月5日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1についてみると、本件補正により補正される前の(すなわち、平成30年9月4日の手続補正書による)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである(下線は補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させるため、位相変更調整が所望される際に回転する静止調整部材(22)を備えたギア減速駆動トレイン(20)を介して動作するアクチュエータシャフト(18)を備えた電気モータ(16)によって駆動されるカムシャフトフェイザー(14)を備えた前記内燃機関において、前記カムシャフト(12)の角度位置を制御する方法であって、
エンジン作動の前にカムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、前記静止調整部材(22)の前記角度位置を検出するように、前記静止調整部材(22)に対して位置付けられるセンサー(30)により、前記ギア減速駆動トレイン(20)の前記静止調整部材(22)の角度位置に対応する信号を生成するステップと、
エンジン制御部(40)により、前記センサー(30)から受信した、前記静止調整部材(22)の前記角度位置に対応して生成された前記信号に基づき、前記静止調整部材(22)を回転させる前記電気モータ(16)の動作を介して前記カムシャフト(12)の位置を調整するステップとを備える方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させるため、位相変更調整が所望される際に回転する静止調整部材(22)を備えたギア減速駆動トレイン(20)を介して動作するアクチュエータシャフト(18)を備えた電気モータ(16)によって駆動されるカムシャフトフェイザー(14)を備えた前記内燃機関において、前記カムシャフト(12)の角度位置を制御する方法であって、
エンジン作動の前にカムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、前記静止調整部材(22)の前記角度位置を検出するように、前記静止調整部材(22)に対して位置付けられるセンサー(30)により、前記ギア減速駆動トレイン(20)の前記静止調整部材(22)の角度位置に対応する信号を生成するステップと、
エンジン制御部(40)により、前記センサー(30)から受信した、前記静止調整部材(22)の前記角度位置に対応して生成された前記信号に基づき、前記静止調整部材(22)を回転させる前記電気モータ(16)の動作を介して前記カムシャフト(12)の位置を調整するステップと、を備え、
前記カムシャフト(12)の位置を調整するステップを、前記内燃機関の動作前に前記センサー(30)によって前記検出された前記静止調整部材(22)の前記角度位置に対応する前記信号を用いて、前記内燃機関を動作させない状態で実施することを含む方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明における「カムシャフト(12)の位置を調整するステップ」という発明特定事項について、「前記カムシャフト(12)の位置を調整するステップを、前記内燃機関の動作前に前記センサー(30)によって前記検出された前記静止調整部材(22)の前記角度位置に対応する前記信号を用いて、前記内燃機関を動作させない状態で実施することを含む」と限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

3 独立特許要件
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-77814号公報(以下「引用文献」という。)には、「可変バルブタイミング装置」に関して、図面(特に図5を参照。)とともに次の記載がある(なお、下線部は当審が付与したものである。以下同様。)。

(ア)「【0001】
本発明は、エンジンの吸排気バルブの開閉タイミングを状況に応じて変更する可変バルブタイミング装置に関する。」

(イ)「【0015】
また、太陽ローラの回転角によって、カムシャフトの進角や遅角等の位相のずれとなる角度が決定されるので、太陽ローラの回転角をエンジン停止時に設定すれば、設定されたカムシャフトの第1の回転体に対する角度のずれをエンジン停止後も保持することができる。例えば、カムシャフトを中立位置に保持してエンジンを停止することができる。なお、太陽ローラの回転角は、太陽回転駆動手段により回転駆動可能であり、この太陽回転駆動手段を例えば電動モータとした場合に当該電動モータに電力を供給可能ならば、エンジン停止後にカムシャフトの第1の回転体に対する角度のずれを変更することも可能であり、エンジン始動時にカムシャフトの第1の回転体に対する角度のずれを設定することも可能である。」

(ウ)「【0030】
図1?図3に示すように、可変バルブタイミング装置は、図示しないエンジンのクランクシャフトに設けられたスプロケットとタイミングベルトもしくはタイミングチェーンで回転を伝動されるスプロケット(第1の回転体)1と、後述の遊星式トラクションドライブ10を介してスプロケット1の回転が伝動されるカムシャフト2(基端部のみを図示)とを備える。
【0031】
また、カムシャフト2には、延長軸3(第2の回転体)が当該カムシャフト2に対して同軸上で基端側からさらにカムシャフト2を延長するように接続されている。また、延長軸3は、カムシャフト2と一体に回転するように当該カムシャフト2に固定されている。
なお、クランクシャフトはエンジンのピストンの上下動を回転運動に変換するものであり、クランクシャフトのスプロケットからタイミングベルトやタイミングチェーンで回転が伝動されるスプロケット1は、エンジンの回転に同期して回転する第1の回転体となる。また、延長軸3はカムシャフト2と一体に回転する第2の回転体となるが、カムシャフト2自体が第2の回転体となっていてもよい。すなわち、カムシャフト2と延長軸3を一体としてもよい。
【0032】
そして、カムシャフト2の基端部より僅かに後の延長軸3の先端部の周囲にカムシャフト2側の環状のスプロケット1が配置されている。すなわち、環状のスプロケット1の内側の開口を貫通するように延長軸3の先端部が配置され、当該先端部にカムシャフト2の基端部が接続されている。また、環状のスプロケット1の内周面と延長軸3の先端部との間には間隔があけられている。
【0033】
そして、スプロケット1のカムシャフト2側となる側面の反対側となる側面すなわちエンジンのシリンダが配置される側と反対側となる側面には、後述のリングローラ5等を備える筒状回転体6がスプロケット1と一体に回転可能に固定されている。
筒状回転体6は、スプロケット1と同軸上に配置されるとともに、スプロケット1の前記側面に接続される先部6aの外径がスプロケット1の歯より内側となるようにスプロケット1より小さくされ、先部6aより後の後部6bの外径がスプロケット1の外径より僅かに小さいがスプロケット1の歯の基端部の外径より大きくなっており、筒状回転体6の後部の外周面がスプロケット1の歯の基端と先端との間で先端側に近い位置となっている。
【0034】
また、スプロケット1の前記側面と筒状回転体6の先部6aとは、複数のボルト6cにより固定されている。
また、筒状回転体6の先部6aの内周面と延長軸3の先端部3aの外周面との間には、シール材7が配置されている。
また、筒状回転体6の先部6aの内周面と延長軸3の先端部3aの外周面との間で上記シール材7より基端側のほぼ隣接する位置にラジアル軸受(ラジアル玉軸受)8が配置されており、延長軸3に対して筒状回転体6が回転自在となっている。これにより、筒状回転体6に一体に回転可能に固定されたスプロケット1に対して延長軸3に一体に回転可能に固定されたカムシャフト2が相対的に回転自在となっている。
【0035】
また、延長軸3は、上述のシール材7およびラジアル軸受8が配置される先端部3aにおいて最も外径が広くされており、ラジアル軸受8の後端部側の部分より後側に先端側の外径が狭く、後端側の外径が広い円錐台部3bが形成されている。そして、この円錐台部3bに遊星式トラクションドライブ10の複数(例えば、4つ)の遊星ローラ11を回転自在(自転自在)に支持するキャリア12が延長軸3と一体に回転可能に延長軸3に固定されている。また、キャリア12は遊星ローラ11と一体に公転するようになっており、カムシャフト2が遊星ローラ11の公転と一体に同期して回転するように構成されている。
【0036】
また、延長軸3の円錐台部3bより後側は先端部3aおよび円錐台部3bよりも小径とされた小径部3cがこの可変バルブタイミング装置の最後部まで後方に延出した状態に配置されている。なお、延長軸3の後端部には当該延長軸3の軸方向に沿った平面で延長軸3の後端部を細くするように切り欠いた状態の切欠部が形成されている。
【0037】
また、筒状回転体6の後部6bの内周には上述の遊星式トラクションドライブ10の環状のリングローラ5が筒状回転体6、すなわち、スプロケット1と一体に回転可能に固定されている。そして、このリングローラ5の内側には、上述のキャリア12により自転自在で公転自在とされた複数の遊星ローラ11が配置され、当該遊星ローラ11の内側に太陽ローラ14が配置されている。また、太陽ローラ14は、延長軸3の小径部3cの先端部の周囲に配置されるように筒状に形成され、小径部3cの外周面と太陽ローラ14の内周面との間に僅かな隙間が形成されている。
【0038】
そして、太陽ローラ14の後方側にはローディングカム機構15を介して太陽ローラ14と一体に回転可能な太陽回転部16が設けられている。太陽回転部16は、延長軸3の小径部3cの太陽ローラ14およびローディングカム機構15より後ろ側で延長軸3の周囲に配置されるとともに、延長軸3との間にラジアル軸受(二列のラジアルニードル軸受)17を介在させて配置されている。すなわち、太陽回転部16は、内部に小径部3cを貫通させた状態の筒状に形成され、ラジアル軸受17により延長軸3に対して回転自在となっている。
【0039】
また、太陽回転部16の先端部の外周には、太陽回転部16に一体に回転可能に固定されたフランジ部材18が配置されている。当該フランジ部材18は、円筒状の円筒部18aと、円筒部18aの先端部から外周に拡がるフランジ状のフランジ部18bとを備えている。そして、円筒部18aと、筒状回転体6の後部6bのリングローラ5より後の当該筒状回転体6の内周面との間にはリングローラ5を筒状回転体6の小径の先部6aと先部6aより径の大きな後部6bとの内周側の段差との間に挟んで固定するための押さえ部材19が設けられている。また、押さえ部材19は、筒状回転体6の内周面後端部の周方向に沿った溝に固定された止め輪部材19aにより後方への移動が規制され、上述のように筒状回転体6の段差と押さえ部材19との間にリングローラ5を挟んで固定した状態となっている。
【0040】
筒状回転体6の後部6bの内周に設けられた押さえ部材19と、太陽回転部16の外周に設けられたフランジ部材18のフランジ部18bとの間には、アンギュラ軸受(アンギュラ玉軸受)20が設けられるとともに、押さえ部材19とフランジ部18bとの間にベルビルスプリング(皿バネ)21が配置されている。これにより筒状回転体6に固定された押え部材19に対して太陽ローラ14と一体に回転する太陽回転部16が互いに回転自在とされるとともに、太陽ローラ14をベルビルスプリング21とローディングカム機構15とで軸方向に沿って前側に押すようになっている。
【0041】
これにより、アンギュラ軸受20にはラジアル方向とスラスト方向(アキシャル方向)の荷重が作用し、アンギュラ軸受20がこれらの荷重に対応するようになっている。
また、筒状回転体6およびスプロケット1の部分は、エンジンのカムシャフト2の軸方向に沿った一端部側を構成し、エンジンのカバー22に覆われた状態となっている。
【0042】
そして、カバー22の後端面側には、延長軸3の小径部3cが貫通する開口部が形成され、当該開口部の内周に押さえ部材19の後端部が入り込んだ状態となっている。
また、太陽回転部16は、小径部3cの周囲に配置された状態でカバー22の開口部を貫通した状態となっている。そして、カバー22の開口部の外周側に押さえ部材19の後端部が配置され、その内側に太陽回転部16が配置され、さらにその内側に延長軸3の小径部3cが配置された状態で、押さえ部材19と太陽回転部16との間の間隔がシール材24により塞がれた状態となっており、カバー22の開口部はほぼ塞がれた状態となっている。
【0043】
そして、カバー22の外側に延出した太陽回転部16には、その後端部に太陽回転部16と同軸上で一体に回転するウォームホイール25が設けられている。また、ウォームホイール25には、ウォーム26が噛み合っており、当該ウォーム26には電動モータ27がダイレクトに接続されている。また、ウォーム26の電動モータ27が接続された端部の反対側の端部は軸受26aで回転自在に支持されている。この電動モータ27としては、例えば、回転角度を制御可能なサーボモータやステッピングモータが用いられるが、DCモータを用いるものとしてもよい。
【0044】
また、延長軸3の小径部3cの基端部は、ウォームホイール25より後方に延出し、この延出部分に前記切欠部が設けられ、前記切欠部の部分の側方に非接触で延長軸3の回転角度、すなわち、カムシャフト2の回転角度を検知するカム角センサ28が設けられている。なお、カム角センサ28としては、非接触で回転角度を検知可能な周知のセンサ(各種エンコーダー等)が用いられる。
【0045】
また、カバー22の開口部より後方に延出するウォームホイール25および延長軸3の後端部およびカム角センサ28の部分は、カバー22の開口部の周囲に固定された後部カバー30に覆われている。
そして、遊星式トラクションドライブ10は、上述の筒状回転体6を介してスプロケット1に固定されたリングローラ5と、リングローラ5の内側に配置される太陽ローラ14と、これらリングローラ5の内周面と、太陽ローラ14の外周面との間で転動する複数の遊星ローラ11とを有するものとなっている。
【0046】
そして、リングローラ5は、上述のように筒状回転体6の内周面に固定され、スプロケット1と一体に回転するようになっている、また、リングローラ5は、その内周面がテーパーとなった環状のテーパーローラであり、カムシャフト2の軸方向に沿って先端側(カムシャフト2側)に向かうにつれて内径が小さくっており、リングローラ5の内側の空間が円錐台状となっている。
【0047】
なお、リングローラ5は、カムシャフト2の軸方向に沿った位置が固定で、回転だけが可能となっている。
また、太陽ローラ14は、その外周面がテーパーとなったテーパーローラであり、カムシャフト2の軸方向に沿って先端側(カムシャフト2側)に向かうにつれてその外径が小さくなる円錐台状に形成されている。但し、太陽ローラ14は、その内部に当該太陽ローラ14と同軸上に配置された延長軸3の小径部3cが貫通するようになっている。
【0048】
そして、リングローラ5の内周面の傾斜角に対して、太陽ローラ14の外周面の傾斜角の方が小さくなっており、リングローラ5の内周面と太陽ローラ14の外周面との間の距離は、先端側に向かうほど狭くなるようになっている。
そして、遊星ローラ11は、その外周面がテーパーとなったテーパーローラであり、先端側に向かうにつれて外径が小さくなる円錐台状となっている。
【0049】
遊星ローラ11は、上述の傾斜したリングローラ5の内周面と、傾斜した太陽ローラ14の外周面との間に配置され、かつ、リングローラ5の内周面の傾斜角の方が、太陽ローラ14の外周面との傾斜角より大きくされていることで、遊星ローラ11の回転軸のカムシャフト2の軸方向に対する傾斜角は、リングローラ5の内周面のカムシャフト2の軸方向に対する傾斜角と、太陽ローラの外周面のカムシャフト2の軸方向に対する傾斜角との中間となる傾斜角となっている。したがって、太陽ローラ14およびリングローラ5の回転軸がカムシャフト2の回転中心軸と一致していることから、カムシャフト2の軸方向に沿っているのに対して遊星ローラ11の回転中心は、カムシャフト2の軸方向に対して斜めとなっている。
【0050】
また、遊星ローラ11の外周面の傾斜角は、遊星ローラ11の軸方向に対して、上述のカムシャフト2の軸方向に対するリングローラ5の内周面の傾斜角からカムシャフト2の軸方向に対する太陽ローラ14の外周面の傾斜角を減算した値の1/2の角度となっている。
また、遊星ローラ11は、キャリア12に固定された遊星軸12aにラジアル軸受(ラジアルニードル軸受)12bを介して回転自在に取り付けられている。
【0051】
また、キャリア12は、カムシャフト2に固定された延長軸3の円錐台部3bに固定されている。そして、キャリア12は、延長軸3と一体に回転するとともに、太陽ローラ14とリングローラ5との間で転動して公転する遊星ローラ11と一体に回転(公転)するようになっている。キャリア12がその外周面が円錐台状とされるとともにその内部側の空間が円錐台状となっており、先側に向かうにつれて径が狭くなる筒状となっている。
【0052】
そして、太陽ローラ14は、フランジ部材18および太陽回転部16およびローディングカム機構15を介してベルビルスプリング21によりカムシャフト2の軸方向に沿ってカムシャフト2側に押圧されている。また、ベルビルスプリング21は、ばねであり圧縮された状態で配置されていることから、エンジンの停止や始動に係りなく常時、太陽ローラ14を軸方向に沿ってカムシャフト2側に押圧している。
【0053】
これにより、上述のようにリングローラ5がカムシャフト2の軸方向に沿って移動不可となっているとともに、リングローラ5、遊星ローラ11、太陽ローラ14がテーパーローラとなっていることからくさび効果により、ベルビルスプリング21の付勢力により太陽ローラ14の外周面が遊星ローラ11の外周面に押し付けられ、遊星ローラ11の外周面がリングローラ5の内周面に押し付けられた状態となっている。
【0054】
これにより、リングローラ5の回転が遊星ローラ11に伝達されて遊星ローラ11が太陽ローラ14の外周面を転動した状態となり、遊星ローラ11が公転することによりキャリア12が回転する。
また、入力トルクに応じて軸方向に沿った押圧力を生じるローディングカム機構15が機能することにより、さらに太陽ローラ14に軸方向に沿った力が作用し、太陽ローラ14と遊星ローラ11とが接触する圧力と、遊星ローラ11とリングローラ5とが接触する圧力とが高くなる。なお、ローディングカム機構15は周知のものを使用することができる。
これにより、キャリア12に一体に回転可能となったカムシャフト2が回転する。
【0055】
ここで、太陽ローラ14をカムシャフト2の回転方向と同じ方向に回転すると、太陽ローラ14の回転に伴なって遊星ローラ11の公転角度が進むことになり、スプロケット1の回転に対してカムシャフト2の回転角度が進んだ状態となり、進角してバルブの開閉タイミングが早くなる。
また、逆に太陽ローラ14をカムシャフト2の回転方向と逆方向に回転すると、太陽ローラ14の回転に伴なって遊星ローラ11の公転角度が遅れることになり、スプロケット1の回転に対してカムシャフト2の回転角度が遅れた状態となり、遅角してバブルの開閉タイミングが遅くなる。
【0056】
すなわち、上述の電動モータ27でウォーム26を回転駆動することで、ウォームホイール25が回転し、この回転により太陽回転部16が回転し、太陽ローラ14が回転することになり、上述のようにカムシャフト2の回転角度をエンジンの回転に対して進角もしくは遅角させるように位相をずらすことができる。
【0057】
ここで、太陽ローラ14の外径をAとし、リングローラ5の内径をCとした場合に、トルクの入力がスプロケット1を介してリングローラ5から行われ、出力がキャリア12から行われる今回の場合に、キャリア12における減速比aは、a=1/(A/C+1)となる。
ここで、太陽ローラ14を回転することでキャリア12の回転角度をずらす場合に、太陽ローラ14への制御入力をキャリア12から出力する状態となるので、減速比aは、a=1/(C/A+1)となる。したがって、キャリア12と一体に回転するカムシャフト2の回転角度をスプロケット1の回転角度に対してずらす際の角度にa=1/(C/A+1)を乗算して、太陽ローラ14の回転角度を求めることができる。
【0058】
以上のような可変バルブタイミング装置によれば、遊星式歯車機構のように歯車を用いていないので、歯車のバックラッシュによりトルク変動があった場合に歯車に衝撃が作用し、衝撃音の発生や耐久性の低下等を招くようなことがなく、容易に実用化することができる。
【0059】
また、遊星式トラクションドライブ10を用いることで遊星式歯車機構を用いた場合と同様に広い範囲に渡って高精度でスプロケット1の回転角度に対するカムシャフトの回転角度を変更することが可能となるとともに、電動モータ27を動作させることで、カムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれをいつでも変更することが可能であり、電源を切っていなければ、エンジンが停止した状態でもカムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれを変更することができる。
【0060】
したがって、油圧を用いた場合のように、エンジンを停止した際や、エンジンがアイドリング状態でトルクが低い場合などに、カムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれを変更できなくなったり、設定できななくなったりすることがない。また、エンジン停止時に電動モータ27を作動させなければ、太陽ローラ14の角度がそのまま維持されるので、エンジン停止時からエンジン始動時まで、カムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれを維持することができる。」

(エ)「【0065】
図5?図7は、本発明の第2の実施の形態に係る可変バルブタイミング装置を示すものである。
図5は本発明の第2の実施の形態に係る可変バルブタイミング装置の基本構成レイアウト図であり、図6は可変バルブタイミング装置の断面図であり、図7は可変タイミング装置の正面図である。
【0066】
第2の実施の形態に係る可変バルブタイミング装置は、第1の実施の形態に係る可変バルブタイミング装置に太陽歯車41と遊星歯車42を加え、カム角センサ28に代えて太陽角センサ44を設けたものとなっており、それ以外の点については、第1の実施の形態と同様の構成を有するものとなっており、図5?図7に図1?図3と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0067】
太陽歯車41は、第1の実施の形態のフランジ部材18の位置に、フランジ部材18に代えて設けられている。そして、太陽歯車41は、太陽回転部16の先端部周囲に太陽回転部16と一体に回転可能に固定されている。すなわち、太陽歯車41は、環状に形成され、太陽歯車41の内側に太陽回転部16が挿入(嵌入)されて固定されている。
したがって、太陽歯車41は、太陽ローラ14と一体に回転可能となっている。そして、太陽歯車41の外周には、遊星歯車42と噛み合う歯が形成されている。
【0068】
なお、第1の実施の形態では、アンギュラ軸受20が筒状回転体6の内周に固定された押さえ部材19と、フランジ部材18との間に配置されていたが、第2の実施の形態では、アンギュラ軸受20が押さえ部材19と太陽回転部16との間に配置されている。
また、第1の実施の形態では、アンギュラ軸受20が遊星ローラ11の直ぐ後ろに配置されていたのに対して第2の実施の形態では、太陽歯車41の周囲に配置される遊星歯車42の後に配置されている。
【0069】
また、第1の実施の形態ではベルビルスプリング21がフランジ部材18のフランジ部18bを先側に付勢する構成となっていたが、第2の実施の形態では、ベルビルスプリング21が太陽回転部16に固定されている太陽歯車41を付勢するようになっている。
したがって、第2の実施の形態においては、太陽歯車41より後側にアンギュラ軸受20およびベルビルスプリング21が配置されることにより、太陽歯車41の周囲に遊星歯車42を配置するための空間が確保されている。
【0070】
また、太陽歯車41は、第1の実施の形態のフランジ部材18より小径とされており、遊星歯車42の配置空間を確保している。
また、遊星歯車42は、太陽歯車41の周囲に複数配置されて、太陽歯車41に噛み合った状態で太陽歯車41の周囲を転動可能となっている。
また、この例においては、遊星歯車42を自転自在かつ公転自在に支持し、かつ、遊星歯車の公転と一体に回転する歯車キャリア43を備えている。そして、この例では、歯車キャリア43が、遊星ローラ11を自転自在に支持するとともに公転自在に支持し、遊星ローラ11の公転と一体となって回転するキャリア12と一体に回転するようになっている。
【0071】
また、遊星歯車42と遊星ローラ11の数が同じとされている。
そして、歯車キャリア43は、キャリア12に支持された遊星ローラ11の後側に配置され、キャリア12に設けられ遊星ローラ11を回転自在に支持する遊星軸12aの後端部に固定され、キャリア12と当該歯車キャリア43が一体に回転するようになっている。
【0072】
また、歯車キャリア43には、遊星歯車42を回転自在に支持する歯車軸42aが設けられ、当該歯車軸42aに設けられたラジアル軸受(ラジアルニードル軸受)42bを介して前記遊星歯車42が当該歯車軸42aに回転自在(自転自在)に取り付けられている。また、歯車軸42a、すなわち遊星歯車42の回転軸方向は、カムシャフト2と平行となっている。
【0073】
したがって、歯車キャリア43もキャリア12と同様に延長軸3およびキャリア12を介してカムシャフト2と一体に回転する。
これにより、太陽ローラ14と太陽回転部16と一体に太陽歯車41が回転し、かつ、カムシャフト2とキャリア12と歯車キャリア43とが一体に回転する。そして、歯車キャリア43と一体に公転する遊星歯車42が太陽ローラ14と一体に回転する太陽歯車41に噛み合っていることになる。
【0074】
したがって、太陽回転部16を回転させて、カムシャフト2の回転をスプロケット1の回転に対して設定角度だけ早めたり、設定角度だけ遅らせたりする際に、太陽歯車41を回転することで、遊星歯車42がクリープすることなく回転し、これにより遊星キャリア43が回転するとともに、遊星キャリア43と一体にカムシャフト2に接続されたキャリア12が回転する。また、キャリア12は、エンジンの回転に対応して回転するリングローラ5の回転が遊星ローラ11に伝動されることにより、遊星ローラ11の公転に対応して回転している。
したがって、太陽歯車41を回転させると、太陽歯車41の回転した分だけ、確実にキャリア12の回転位相が早められたり、遅くされたりすることになる。すなわち、太陽ローラ14を回転させることにより、遊星ローラ11を介してキャリア12の回転位相を早めたり、遅らせたりする際に、太陽歯車41と遊星歯車42および遊星キャリア43が介在することにより、ローラ同士のクリープによる誤差が発生しない。
【0075】
言い換えれば、太陽歯車41の回転は、クリープによる誤差なしに、キャリア12に接続されたカムシャフトに伝達され、エンジンの回転(リングローラ5の回転)に対する位相差が決定される。
ここで、上述のように太陽ローラ14と遊星ローラ11との間ですべりが生じ、遊星ローラ11の自転と公転との関係にずれが生じても、カムシャフト2のスプロケット1に対する位相差となる角度は太陽歯車41の角度を検知することで検知できることから、回転する遊星ローラ11が太陽ローラ14やリングローラ5に対して滑ってクリープした状態でも、太陽歯車41の角度を検知しながら制御することで、正確なカムシャフト2の位相差となる角度の制御が可能となる。
【0076】
また、基本的にトルクは、リングローラ5と遊星ローラ11との間で伝達され、たとえば、クリープが生じた際に、この例ではリング歯車がないことから太陽歯車41と遊星歯車42との間でトルクが生じることはないので、バックラッシュにより大きな衝撃が発生することがなく、騒音や耐久性の問題が生じることがない。
また、第2の実施の形態では、クリープが防止されるので、カムシャフト2の回転角度を測定するカム角センサ28が備えられておらず、その代わりに太陽歯車41および太陽ローラ14の回転角度を検知する太陽角センサ(太陽角検知手段)44が設けられている。太陽角センサ44としては、たとえば、非接触式の各種エンコーダを使用することができる。また、カムシャフト2の位相をスプロケット1に対して適正な範囲内で早めたり遅くしたりする際に、各ローラの径の比(各歯車のギヤ比)にもよるが、太陽歯車の回転角度の範囲を例えば120度以内とすることが可能なので(少なくとも太陽歯車を複数回転させる必要がないので)、接触式センサでも十分に対応可能である。
【0077】
すなわち、この例ではクリープを考慮しなくていいことから、太陽角センサ44により測定される太陽歯車41および太陽ローラ14の回転角度により、カムシャフト2のスプロケット1に対する上述の進角および遅角を直接制御することになる。
例えば、第1の実施の形態においては、フィードバック制御とした場合に、カムシャフト2の進角および遅角をカム角センサ28で計測しながら太陽ローラ14を回転させることになるが、第2の実施の形態では、太陽ローラ14および太陽歯車41の回転角度だけでカムシャフト2の進角および遅角を制御する。
【0078】
なお、太陽ローラ14および太陽歯車41の回転角度とカムシャフト2の回転角度との関係は第1の実施の形態の場合と同様である。
そして、第1の実施の形態の可変バルブタイミング装置では、遊星式トラクションドライブのクリープによりカムシャフト2の位相の制御角がずれるため、カムシャフト2の回転角度を測定するカム角センサ28が必要であったが、第2の実施の形態では上述のように太陽歯車41の回転角度を制御することによりカムシャフト2の位相の制御角を正確に制御できるので不用となる。
カム角センサ28の場合には、カムシャフト2と一体に回転するため、正確なカム角(位相差となる角度)の検知が難しい。すなわち、カムシャフト2が回転した状態で、スプロケット1の回転に対する位相差となる角度を求めなければならない。それに対して太陽角センサ44では、太陽ローラ14(太陽歯車41)の回転角度を計測することにより、ギアによる減速分が含まれるが、カムシャフト2の回転の位相差となる角度をそのまま求めることができる。
なお、第2の実施の形態においても、カムシャフト2の回転角度を測定するカム角センサ28を設けるものとしてもよい。」

(オ)上記(ウ)の記載事項(特に段落【0043】)及び第7図の図示内容からみて、電動モータ27はシャフトを備えていることが分かる。

(カ)上記(エ)の記載事項(特に段落【0076】)及びセンサ分野の技術常識からみて、太陽角センサ44は太陽歯車41の回転角度に対応する信号を生成するといえる。

(キ)内燃機関分野の技術常識及び上記(カ)の認定事項からみて、エンジン制御部があり、該エンジン制御部により、太陽角センサ44から受信した、太陽歯車41の回転角度に対応する信号に基づき、太陽歯車41を回転させる電動モータ27の動作を介してカムシャフト2の回転角度を制御するといえる。

(ク)上記(エ)の記載事項(特に段落【0074】)からみて、位相の制御が所望される際に回転する太陽歯車41を備えることがわかる。

上記(ア)ないし(ク)の記載事項及び認定事項並びに図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

[引用発明]
「エンジンのクランクシャフトとカムシャフト2との間の位相を制御するため、位相の制御が所望される際に回転する太陽歯車41を備えた遊星式トラクションドライブ10を介して動作するシャフトを備えた電動モータ27によって駆動される可変バルブタイミング装置を備えた前記エンジンにおいて、前記カムシャフト2の回転角度を制御する装置であって、
カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めるように構成されるとともに、前記太陽歯車41の回転角度を検知するように、前記太陽歯車41に対して位置付けられる太陽角センサ44により、前記遊星式トラクションドライブ10の前記太陽歯車41の回転角度に対応する信号を生成することと、
エンジン制御部により、前記太陽角センサ44から受信した、前記太陽歯車41の前記回転角度に対応して生成された前記信号に基づき、前記太陽歯車41を回転させる前記電動モータ27の動作を介して前記カムシャフト2の回転角度を制御することと、を備え、
前記カムシャフト2の回転角度を制御することを、前記太陽角センサ44によって前記検出された前記太陽歯車41の前記回転角度に対応する前記信号を用いて、実施することを含む装置。」

また、上記(イ)及び(ウ)の記載事項(特に段落【0015】、【0059】及び【0060】)からみて、引用文献には、次の事項(以下「引用文献記載事項」という。)が記載されている。

[引用文献記載事項]
「可変バルブタイミング装置を備えたエンジンにおいて、エンジン停止後又はエンジン始動時に、カムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれを変更可能であること。」

(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「エンジン」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、前者の「内燃機関」に相当し、以下同様に、「カムシャフト2」は「カムシャフト」に、「位相を制御するため」は「位相関係を制御可能に変化させるため」に、「位相の制御が所望される際」は「位相変更調整が所望される際」に、「太陽歯車41」は「静止調整部材」に、「遊星式トラクションドライブ10」は「ギア減速駆動トレイン」に、「シャフト」は「アクチュエータシャフト」に、「電動モータ27」は「電気モータ」に、「可変バルブタイミング装置」は「カムシャフトフェイザー」に、「回転角度」は「角度位置」に、「太陽角センサ44」は「センサー」に、それぞれ相当する。
引用発明の「カムシャフト2の回転の位相差となる角度」は本件補正発明の「カムシャフト位置」に相当し、以下同様に「求める」は「検出する」に、「検知」は「検出」に、それぞれ相当するから、引用発明の「カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めるように構成されるとともに、太陽歯車41の回転角度を検知するように、太陽歯車41に対して位置付けられる太陽角センサ44により、遊星式トラクションドライブ10の太陽歯車41の回転角度に対応する信号を生成すること」と本件補正発明の「エンジン作動の前にカムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、静止調整部材の角度位置を検出するように、静止調整部材に対して位置付けられるセンサーにより、ギア減速駆動トレインの静止調整部材の角度位置に対応する信号を生成するステップ」とは「カムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、静止調整部材の角度位置を検出するように、静止調整部材に対して位置付けられるセンサーにより、ギア減速駆動トレインの静止調整部材の角度位置に対応する信号を生成すること」という限りで一致する。
引用発明の「カムシャフト2の回転角度を制御することを、太陽角センサ44によって検出された太陽歯車41の回転角度に対応する信号を用いて、実施すること」と本件補正発明の「カムシャフトの位置を調整するステップを、内燃機関の動作前にセンサーによって検出された静止調整部材の角度位置に対応する信号を用いて、内燃機関を動作させない状態で実施すること」とは、「カムシャフトの位置を調整することを、センサーによって検出された静止調整部材の角度位置に対応する信号を用いて、実施すること」という限りで一致する。
そして、以上の機能を有する引用発明の「装置」は、本件補正発明の「ステップ」及び「方法」に相当する事項を含んでいるといえる。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点、相違点がある。

[一致点]
「内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させるため、位相変更調整が所望される際に回転する静止調整部材を備えたギア減速駆動トレインを介して動作するアクチュエータシャフトを備えた電気モータによって駆動されるカムシャフトフェイザーを備えた前記内燃機関において、前記カムシャフトの角度位置を制御する方法であって、
カムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、前記静止調整部材の角度位置を検出するように、前記静止調整部材に対して位置付けられるセンサーにより、前記ギア減速駆動トレインの前記静止調整部材の角度位置に対応する信号を生成するステップと、
エンジン制御部により、前記センサーから受信した、前記静止調整部材の前記角度位置に対応して生成された前記信号に基づき、前記静止調整部材を回転させる前記電気モータの動作を介して前記カムシャフトの位置を調整するステップと、を備え、
前記カムシャフトの位置を調整するステップを、前記センサーによって前記検出された前記静止調整部材の前記角度位置に対応する前記信号を用いて、実施することを含む方法。」

[相違点1]
カムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、静止調整部材の角度位置を検出するように、前記静止調整部材に対して位置付けられるセンサーにより、ギア減速駆動トレインの前記静止調整部材の角度位置に対応する信号を生成するステップについて、本件補正発明は、「エンジン作動の前に」カムシャフト位置を検出するように構成されるとともに、静止調整部材の角度位置を検出するように、前記静止調整部材に対して位置付けられるセンサーにより、ギア減速駆動トレインの前記静止調整部材の角度位置に対応する信号を生成するステップであるのに対して、引用発明は、カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めるように構成されるとともに、太陽歯車41の回転角度を検知するように、前記太陽歯車41に対して位置付けられる太陽角センサ44により、遊星式トラクションドライブ10の前記太陽歯車41の回転角度に対応する信号を生成することである点。

[相違点2]
カムシャフトの位置を調整することを、センサーによって検出された静止調整部材の角度位置に対応する信号を用いて、実施することについて、本件補正発明は、カムシャフトの位置を調整するステップを、「内燃機関の動作前に」センサーによって検出された静止調整部材の角度位置に対応する信号を用いて、「内燃機関を動作させない状態で」実施することであるのに対して、引用発明は、カムシャフト2の回転角度を制御することを、太陽角センサ44によって検出された太陽歯車41の回転角度に対応する信号を用いて、実施することである点。

上記相違点1について検討する。
引用文献記載事項は、「可変バルブタイミング装置を備えたエンジンにおいて、エンジン停止後又はエンジン始動時に、カムシャフト2のスプロケット1に対する回転角度のずれを変更可能であること。」である。
本件補正発明と引用文献記載事項とを対比すると、後者の「エンジン停止後又はエンジン始動時」は前者の「エンジン作動の前」に、同様に「カムシャフト2のスプロケット1に対する角度のずれを変更可能であること」は「クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させること」に相当するから、引用文献記載事項は、本件補正発明の用語を用いると、「カムシャフトフェイザーを備えた内燃機関において、エンジン作動の前に、クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させること。」といえる。
ここで、クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させる際に、カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めることは、自明であるから、エンジン作動の前に、位相関係を制御可能に変化させる際に、カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めることもまた、自明であるといえる。
そうすると、引用発明において、引用文献記載事項の示唆を踏まえて、「エンジン作動の前に」カムシャフト2の回転の位相差となる角度を求めるように構成して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

上記相違点2について検討する。
上述のように、引用文献記載事項は、本件補正発明の用語を用いると、「カムシャフトフェイザーを備えた内燃機関において、エンジン作動の前に、クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させること。」といえる。
本件補正発明と引用文献記載事項とを対比すると、後者の「エンジン停止後又はエンジン始動時」は前者の「内燃機関の動作前」及び「内燃機関を動作させない状態」に相当し、同様に「クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させること」は「カムシャフトの位置を調整するステップ」に相当するから、引用文献記載事項は、本件補正発明の用語を用いると、「カムシャフトフェイザーを備えた内燃機関において、カムシャフトの位置を調整するステップを、内燃機関の動作前に、内燃機関を動作させない状態で実施すること」といえる。
ここで、クランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させる際に、太陽角センサ44によって太陽歯車41の回転角度を検出することは、自明であるから、内燃機関の動作前に、太陽角センサ44によって太陽歯車41の回転角度を検出することもまた、自明であるといえる。
そうすると、引用発明において、引用文献記載事項の示唆を踏まえて、カムシャフト2の回転角度を制御することを、「内燃機関の動作前に」太陽角センサ44によって検出された太陽歯車41の回転角度に対応する信号を用いて、「内燃機関を動作させない状態で」実施するように構成して、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)効果について
本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

(5)まとめ
上記(1)ないし(4)により、本件補正発明は、引用発明及び引用文献記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年9月4日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献2:特開2010-77814号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された、引用文献2並びにその記載事項は、前記第2の[理由]3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本件補正発明は、前記第2の[理由]2で検討したとおり、本願発明に発明特定事項を付加して限定したものであるから、本願発明は、本件補正発明の発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3に記載したとおり、引用発明及び引用文献記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、引用発明及び引用文献記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、審判請求人は、令和2年2月12日の上申書において、次の点を主張する。

1 原査定で引用された特開2010-77814号公報の段落0010に係る特許文献1(特開平10-274011号公報)には、請求項1に係る本願発明の「内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させるため、位相変更調整が所望される際に回転する静止調整部材(22)」、「前記静止調整部材(22)の前記角度位置を検出するように、前記静止調整部材(22)に対して位置付けられるセンサー(30)」が開示も示唆もなく、周知技術とはいえないこと。

2 請求項6の「一致しない場合、前記静止調整部材(22)位置を較正し、前記静止調整部材(22)位置センサー(30)信号に基づいて、前記カムシャフト位置及び前記クランクシャフト位置が一致しているか否かを判定するために、前記カムシャフト位置センサー(32)信号及び前記クランクシャフト位置センサー(34)信号を再チェックするステップ(612)」との事項が、「制御を適切に行うために機器を較正することは機械制御分野一般における例示するまでもない周知技術」には明らかに含み得ない構成を備えるとし、例えば、特許請求の範囲の請求項6に減縮する用意があること。

上記1について検討すると、請求項1に係る「内燃機関のクランクシャフトとカムシャフトとの間の位相関係を制御可能に変化させるため、位相変更調整が所望される際に回転する静止調整部材」、「静止調整部材の角度位置を検出するように、静止調整部材に対して位置付けられるセンサー」との事項は、上記第2の[理由]3(3)対比・判断において述べたとおり、引用文献(特開2010-77814号公報)に記載されている。そして、原査定及び審決における引用文献は、特開2010-77814号公報であって、特許文献1(特開平10-274011号公報)ではなく、該特許文献1の記載内容を引用したものではない。
したがって、審判請求人の主張は当を得ない。

上記2について検討すると、カムシャフトの位相を調整する部材の位置センサー信号に基づいて、カムシャフト位置及びクランクシャフト位置が一致しているか否かを判定するために、カムシャフト位置センサーの信号及びクランクシャフト位置センサーの信号をチェックすること自体は、例えば、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2012-144993号公報の段落【0023】及び【0024】に記載されているように、周知技術である。また、引用文献の段落【0078】には、カム角センサ28を設けてもよいことが示唆されている。
してみると、仮に、特許請求の範囲の請求項6に減縮したとしても、引用発明に上記周知技術を適用して、請求項6に係る発明とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、上申書における請求人の意見を採用することはできない。


 
別掲
 
審理終結日 2020-02-26 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-16 
出願番号 特願2016-525399(P2016-525399)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (F01L)
P 1 8・ 121- Z (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松永 謙一  
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 渋谷 善弘
齊藤 公志郎
発明の名称 電気フェイザー用アクチュエータシャフトの位置制御及び較正方法  
代理人 百本 宏之  
代理人 大賀 眞司  

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