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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1364760
審判番号 不服2019-7914  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-13 
確定日 2020-07-29 
事件の表示 特願2016- 16990「トランジスタアウトラインハウジング及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 2日出願公開、特開2016-103657〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月17日(パリ条約による優先権主張2013年1月18日、独国)に出願した特願2014-6611号の一部を平成28年2月1日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 1月 9日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 9月14日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月20日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月 7日付け:拒絶査定(平成31年 2月14日送達)
令和 元年 6月13日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和元年6月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1、4の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
【請求項1】
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されており、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、少なくとも1本の前記接続リード線(3)は、前記パッセージ(8)内で非対称に配置され、それによって、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、前記パッセージ(8)を越えてのびる前記接続リード線(3)の0.1mm?3mmの余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償する、ことを特徴とする、TOハウジング(1)。」
【請求項4】
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されており、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、前記受信機ダイオードまたは前記送信機ダイオードを有する前記デバイス(5)は、前記パッセージ(8)の領域内に突出し、それによって、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、前記パッセージ(8)を越えてのびる前記接続リード線(3)の0.1mm?3mmの余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償する、ことを特徴とする、TOハウジング(1)。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年12月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、4の記載は、それぞれ次のとおりである。
【請求項1】
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されており、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、少なくとも1本の前記接続リード線(3)は、前記パッセージ(8)内で非対称に配置され、それによって、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、前記パッセージ(8)を越えてのびる前記接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償する、ことを特徴とする、TOハウジング(1)。」
【請求項4】
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されており、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、前記受信機ダイオードまたは前記送信機ダイオードを有する前記デバイス(5)は、前記パッセージ(8)の領域内に突出し、それによって、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、前記パッセージ(8)を越えてのびる前記接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償する、ことを特徴とする、TOハウジング(1)。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1、4に記載された発明を特定するために必要な事項である「接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)」について、上記のとおり「0.1mm?3mm」とする限定を付加するものであって、補正前の請求項1、4に記載された発明と補正後の請求項1、4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1、4に記載される発明(以下それぞれ「本件補正発明1」、「本件補正発明4」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明4について
本件補正発明4は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2-1)引用文献1について
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2011-176021号公報(平成23年9月8日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
上面から下面にかけて貫通する貫通孔を有する金属からなる基体と、前記貫通孔に充填された封止材を貫通して固定された信号端子と、前記基体の上面に搭載された、絶縁基板の上面に信号線路導体が形成され下面に接地導体が接続された配線基板とを具備し、前記信号端子と前記信号線路導体とが接続された電子部品搭載用パッケージであって、前記配線基板は、側面を前記信号端子の前記基体の上面から突出した部分の側面に当接して搭載されて、前記信号線路導体の端部が前記信号端子に接続されていることを特徴とする電子部品搭載用パッケージ」

(イ)「【0003】
LD(Laser Diode:レーザダイオード)やPD(Photo Diode:フォトダイオ-ド)等の光半導体素子を含む電子部品が電子部品搭載用パッケージに搭載された従来の電子装置は、電子部品搭載用パッケージの信号端子と電子部品の端子とがボンディングワイヤを介して電気的に接続されており、信号端子やボンディングワイヤでのインダクタンスが大きいためにインピーダンスの整合がとれず、高周波信号の伝送損失が大きいものであった。」

(ウ)「【0007】
しかしながら、近年、伝送される情報量の増大による伝送速度の高速化の要求に伴って伝送信号の高周波化がさらに進んでおり、特に30GHz以上のより高い周波数の信号を伝送する場合においては、ボンディングワイヤを用いると、ボンディングワイヤのインダクタンスによって特性インピーダンスが高くなることが無視できなくなり、反射損失が増え、その結果、高周波信号の伝送損失が大きくなるという問題があった。また、信号端子を絶縁基板を貫通させて信号線路導体に接続させる構造においては、信号端子の周囲に介在する絶縁基板の誘電率によって伝送する信号の波長が短縮され、それによって共振や高次モードが発生したり、また、絶縁基板の誘電率によって接続部での寄生容量が発生したりして、特性インピーダンスが低くなることによって反射損失が増え、その結果、高周波信号の伝送損失が大きくなるという問題があった。」

(エ)「【0008】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、その目的は、高周波の信号の伝送特性が良好な電子部品搭載用パッケージおよび高周波での動作が良好な電子装置を提供することにある。」

(オ)「【0013】
本発明の電子部品搭載用パッケージによれば、配線基板が、側面を信号端子の基体の上面から突出した部分の側面に当接して搭載されていることから、信号端子の基体の上面から突出した部分の周囲には比誘電率が比較的高い絶縁基板がほとんど存在しないので、絶縁基板の比誘電率による波長短縮効果によって発生する共振や高次モードを抑えることができるとともに、信号端子と信号線路導体とが近接するので、ろう材によって接続することができ、その場合はボンディングワイヤによるインダクタンスが発生しないために、あるいは、ボンディングワイヤによって接続した場合であってもその長さが十分に短いものとなってインダクタンスは小さいものとなるために、高周波信号の伝送特性が良好な電子部品搭載用パッケージとなる。」

(カ)「【0019】
図1?図4に示す例では、基体1の主面に対して垂直に形成された貫通孔1aに充填された封止材2を貫通して固定された線状の導体からなる信号端子3が、基体1の上面に搭載された配線基板4の一方主面に形成された信号線路導体4aにろう材5で接合されて本発明の電子部品搭載用パッケージが基本的に構成される。また、図1?図3に示す例では、配線基板4に電子部品6を搭載して、信号線路導体4aと電子部品6とをボンディングワイヤ6aで接続した電子装置を示している。そして、図2に示す例のように、必要に応じて破線で示すような蓋体8が基体1の外周部に接合される。」

(キ)「【0027】
信号端子3は、一方の端部は基体1の上面から配線基板4の厚み程度突出させて固定される。例えば、図1および図2に示す例のように、ろう材5、信号線路導体4aおよびボンディングワイヤ6aを介して信号端子3の一方の端部と電子部品6とを電気的に接続するとともに、信号端子3の他方の端部を外部電気回路(図示せず)に電気的に接続することにより、信号端子3は電子部品6と外部電気回路との間の入出力信号を伝送する機能を果たす。」

(ク)「【0028】
封止材2は、ガラスやセラミックスなどの絶縁性の無機材料から成り、信号端子3と基体1との絶縁間隔を確保するとともに、信号端子3を基体1の貫通孔1a内に固定する機能を有する。このような封止材2の例としては、ホウケイ酸ガラス,ソーダガラス等のガラスおよびこれらのガラスに封止材2の熱膨張係数や比誘電率を調整するためのセラミックフィラーを加えたものが挙げられ、インピーダンスマッチングのためにその比誘電率を適宜選択する。比誘電率を低下させるフィラーとしては、酸化リチウム等が挙げられる。例えば、封止材2に比誘電率が4であるものを用いると、貫通孔1aの直径は、信号端子3の外径が0.3mmの場合は、1.587mmとすることで特性インピーダンスを50Ωとすることができる。また、封止材2に比誘電率が6.8であるものを用いると、信号端子3の外径が0.25mmの場合は、貫通孔1aの直径を0.75mmとすることで特性インピーダンスを25Ωとすることができる。」

(ケ)「【0029】
信号端子3は、Fe-Ni-Co合金やFe-Ni合金等の金属から成り、例えば信号端子3がFe-Ni-Co合金から成る場合は、このインゴット(塊)に圧延加工や打ち抜き加工,切削加工等の周知の金属加工方法を施すことによって、長さが1.5?22mmで直径が0.1?1mmの線状に製作される。信号端子3の強度を確保しながらより高い特性インピーダンスでのマッチングを行ないつつ小型にするには、信号端子3の直径は0.15?0.3mmが好ましい。信号端子3の直径が0.15mmより細くなると、電子部品搭載用パッケージを実装する場合の取り扱いで信号端子3が曲がりやすくなり、作業性が低下しやすくなる。また、直径が0.3mmより太くなると、インピーダンス整合させた場合の貫通孔1aの径が信号端子3の径に伴い大きくなるので、製品の小型化に向かないものとなってしまう。また、その横断面形状としては、図1?図3では円形の場合を示したが、楕円および三角や四角等の多角形の形状であっても構わない。信号端子3の横断面形状が円形であると、信号端子3の側面を配線基板4の側面に当接させた際に、信号端子3と配線基板4の絶縁基板4dとは線接触となることから、信号端子4の基体1の上面から突出した部分の周囲に存在する絶縁基板4dが少なくなるので好ましい。信号端子3の横断面形状が三角や四角等の多角形の形状である場合でも、その角部で配線基板4の側面に当接するようにすればよいが、信号端子3の横断面形状が円形である場合は、角部の向きを考慮せずに封止材2で貫通孔1a内に固定することができるので作業性が良好となる。」

(コ)「【0034】
信号端子3の基体1の上面から突出した部分の長さは、配線基板4の厚さより長くてもよいが、配線基板4の上面より上の部分の長さは、信号端子3を伝送する信号の波長の4分の1より長いことが好ましい。このようにすることで、信号端子3の配線基板4の上面より上の部分がオープンスタブのような共振器として機能することがないので、信号端子3での信号の共振によって伝送特性が劣化することを防ぐことができる。具体的には、信号端子3を伝送する信号の伝送速度が25Gbpsである場合、3倍高調波成分を考慮すると、周波数成分は直流?37.5GHzとなり、また、信号端子3の基体1の上面から突出し
た部分を取り囲む空気の比誘電率は約1であるので、信号端子3を伝送する信号の波長としては約8mmとなるので、信号端子3の基体1の上面から突出した部分の長さは2mm以下であることが好ましい。」

また、引用文献1の図1、図2は以下のとおりである。



図2より、配線基板4は、貫通孔1aの領域に突出していることが看て取れる。

イ 引用発明1
上記(ア)?(コ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「上面から下面にかけて貫通する貫通孔を有する金属からなる基体1と、前記貫通孔1aに充填されたガラスやセラミックスなどの絶縁性の無機材料から成る封止材2を貫通して固定された信号端子3と、前記基体1の上面に搭載された、絶縁基板の上面に信号線路導体4aが形成され下面に接地導体が接続された配線基板4とを具備し、前記信号端子3と前記信号線路導体4aとが接続された電子部品搭載用パッケージであって、前記配線基板4は、側面を前記信号端子3の前記基体1の上面から突出した部分の側面に当接して搭載され、配線基板4にLDやPD等の光半導体素子を含む電子部品6を搭載し、前記信号線路導体4aの端部が前記信号端子3に接続されており、信号線路導体4aおよびボンディングワイヤ6aを介して信号端子3の一方の端部と電子部品6とを電気的に接続する電子部品搭載用パッケージ。」

(3-1)対比
ア 本件補正発明4と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「電子部品搭載用パッケージ」、「基体1」、「LDやPD等の光半導体素子を含む電子部品6」、「ボンディングワイヤ6a」、「信号端子3」、「貫通孔1a」、「封止材2」はそれぞれ、本件補正発明4の「TOハウジング(1)」、「基部(2)」「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)」、「ボンディング・ワイヤー(7)」、「接続リード線(3)」、「パッセージ(8)」、「シーリング・コンパウンド(9)」に相当する。
引用発明1の「基体1」は、その上面に配線基板4が搭載されており、配線基板4にLDやPD等の光半導体素子を含む電子部品6が搭載されているから、引用発明1は、「LDやPD等の光半導体素子を含む電子部品6を収容するための基材1」を有するといえる。
引用発明1の「電子部品6」は、信号線路導体4aおよびボンディングワイヤ6aを介して信号端子3の一方の端部と電気的に接続されているから、「ボンディングワイヤ6aを利用して信号端子3に接続され」ているといえる。
引用発明1の「信号端子3」は、ガラスやセラミックスなどの絶縁性の無機材料から成る封止材2を貫通して固定されており、引用文献1の図1、2の記載からみても「基体1」から絶縁されていることは明らかであり、また、封止材2により基体1内で保持されているといえる。

そうすると、本件補正発明4と引用発明1とは、
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されているTOハウジング(1)。」である点で一致(以下「一致点」という。)し、次の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明4が、ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを有するデバイス(5)を、パッセージ(8)の領域内に突出させたのに対し、引用発明1では、配線基板4の側面を信号端子3の側面に当接させているため、「配線基板4」は、「貫通孔1a」の領域内に突出しているといえるものの、「電子部品6」自体が「貫通孔1a」の領域内に突出しているわけではない点。

(相違点2)
本件補正発明4が、(受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを有するデバイス(5)を、パッセージ(8)の領域内に突出させることによって)ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、パッセージ(8)を越えてのびる接続リード線(3)の0.1mm?3mmの余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償したのに対し、引用発明1では、そのような構成を採用しているかどうか不明である点。

(4-1)判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点1については、TOハウジングなどの電子部品を実装する技術分野において、構成を簡素化することは、当業者が当然意識する技術課題であるから、引用発明1において、「配線基板4」を省略することは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、その際、引用発明1は、「特に30GHz以上のより高い周波数の信号を伝送する場合においては、ボンディングワイヤを用いると、ボンディングワイヤのインダクタンスによって特性インピーダンスが高くなることが無視できなくなり、反射損失が増え、その結果、高周波信号の伝送損失が大きくなる」(2(2-1)ア(ウ))という課題を解決しようとしているものなのであるから、「ボンディングワイヤ6a」の長さを短くするべく、「電子部品6」と「信号端子3」との距離を縮めることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、引用発明1おいて、「貫通孔1a」の大きさや、複数の「貫通孔1a」の間隔は、搭載される電子部品のサイズ等に応じて、当業者が適宜変更可能であるから、結局、「電子部品6」を「貫通孔1a」の領域内に突出させることは当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点2について検討するに、引用発明1は、「高周波の信号の伝送特性が良好な電子部品搭載用パッケージおよび高周波での動作が良好な電子装置を提供すること」を目的としており(2(2-1)ア(エ))、「配線基板4」を省略した際にも、「電子部品6」に接続される「ボンディングワイヤ6a」と「信号端子3」からなる配線のインピーダンスを最適な値とすること、言い換えると、インピーダンスを最適な値とするべく、「ボンディングワイヤ6a」と「信号端子3」の長さを最適化すること、特に、「信号端子3」については、「基体1の上面から突出した部分」、「貫通孔1a内に封止材2を介して固定される部分」、「基体1の下面から突出した部分」の3つの部分が存在するから、それぞれの長さを最適化することは当業者が容易に想到し得たことである。また、その際、「電子部品搭載用パッケージ」を、「外部電気回路」に取り付けるために、「基体1の下面から突出した部分」の長さを調整することも当業者が適宜行うことであり、その長さとして0.1mm?3mmという値自体も通常採用されている範囲に過ぎない。
確かに、引用文献1には「ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、パッセージ(8)を越えてのびる接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」することに対応する記載はないものの、引用発明1は「ボンディングワイヤ6a」と「信号端子3」からなる配線のインピーダンスを最適な値としているのであるから、引用文献1に明示はないものの、引用発明1は実質的に、「ボンディングワイヤ6aの長さを短縮することに起因するキャパシタンスの増大を、貫通孔1aを超えてのびる信号端子3の余分な長さ部分によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」しているといえる。
そうすると、結局、引用発明1においては、本件補正発明4の相違点2に係る構成を採用しており、この点は実質的な相違点であるとはいえない。また、そこまではいえないとしても、引用発明1において、本件補正発明4の相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、本件補正発明4は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2-2)引用文献2について
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-150182号公報(平成19年6月14日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
互いに対向する第1の主面と第2の主面とを有し、この二つの主面を貫通する透し孔と上記第1の主面の一部に第1の主面よりも高くなった台状部とを有する基板と、
この基板の透し孔に挿入され、絶縁体により上記透し孔の内面と固着されかつ封止されるとともに上記基板の第1の主面側および第2の主面側に突出したリード電極と、
上記基板の上記台状部表面上に配設され、上記リード電極の側面に対向する一側面を有し、この一側面が前記リード電極の側面に近接するとともに上記一側面が上記台状部の側面よりも庇状に突出した台座と、
この台座の上記一側面上に配設された誘電体基板とこの誘電体基板の表面上に配設された信号線路とを有し、上記リード電極と上記台座との間に配設されるとともに上記リード電極と上記信号線路とが電気的に接続された高周波線路基板と、を備えた光素子用ステム。」

(イ)「【0004】
しかしながら、リード電極に信号が伝播する時の高周波伝播損失を考えると、アイレットの透し孔とリード電極とのガラス封止部における高周波伝播損失はそこにおけるインピーダンスマッチングを適正に行うことにより出来るだけ少なくされているが、アイレットから突出したリード電極の部分ではインピーダンスマッチングを適正に行われ難い場合があった。
リード電極とGNDとなるブロックとの間は比誘電率の小さな空気を介して隔離されているために、アイレットの表面から突出したリード電極の突出部分における高周波伝播損失を出来るだけ少なくするためには、リード電極とブロックとが互いに接触しないでかつ出来るだけ接近するように配置することが必要である。」

(ウ)「【0012】
この発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、第1の目的は高周波伝播損失が少なく安価な光素子用ステムを構成することであり、第2の目的は高周波伝播損失が少なく安価な光半導体装置を提供することである。」

(エ)「【0013】
この発明に係る光素子用ステムは、互いに対向する第1の主面と第2の主面とを有し、この二つの主面を貫通する透し孔と第1の主面の一部に第1の主面よりも高くなった台状部とを有する基板と、この基板の透し孔に挿入され、絶縁体により透し孔の内面と固着されかつ封止されるとともに基板の第1の主面側および第2の主面側に突出したリード電極と、基板の台状部表面上に配設され、リード電極の側面に対向する一側面を有し、この一側面がリード電極の側面に近接するとともに一側面が上記台状部の側面よりも庇状に突出した台座と、この台座の一側面上に配設された誘電体基板とこの誘電体基板の表面上に配設された信号線路とを有し、リード電極と台座との間に配設されるとともにリード電極と信号線路とが電気的に接続された高周波線路基板と、を備えたものである。」

(オ)「【0015】
以下の説明においては、光素子用ステムの一例として半導体レーザ用のステムを例にとって説明するが、他の例として受光素子や他の発光素子などに用いてもよい。
実施の形態1.
図1はこの発明の一実施の形態に係るレーザダイオード(以下、LDという)用ステムの正面図である。図2は図1に示されたLD用ステムの平面図である。図3は図2のIII-III断面におけるLD用ステムの断面図である。以下の図において同じ符号は、同じものか相当のものであることを示す。
図1に示されるように、LD用ステム10は、基板としてのアイレット12、このアイレット12の第1の主面としてのパッケージ側表面12aと第2の主面としての外側表面12bとを貫通し、パッケージ側表面12aの側と外側表面12bの側に突き出た複数本の棒状のリード電極14および16、アイレット12の外側表面12bに接合された接地リード18を備えている。さらにLD用ステム10は、そのアイレット12のパッケージ側表面12aの一部がパッケージ側表面12aよりも寸法h1だけ高くなった台状部20を備え、この台状部20の表面上に台座としてのブロック22を備えている。」

(カ)「【0016】
アイレット12、リード電極14、16、および接地リード18、およびブロック22は、例えばコバール(鉄・ニッケル・コバルト合金)で形成されている。
アイレット12は図2に示されるように、例えば直径がおおよそ5mmの円盤状をなしており厚みが0.7mm?1.5mm程度で、図1に示された台状部20のパッケージ側表面12aからの高さh1はおおよそ0.3?0.4mm程度である。リード電極14、16は直径がおおよそ0.4?0.5mm程度の円柱状をなしている。
このような台状部20を備えたアイレット12はプレス成形により容易に製造することが可能で、量産性に優れ製造コストを低く抑えることが出来る。
図2に示されるように、アイレット12の円盤面であるパッケージ側表面12aと外側表面12bに直交しかつアイレット12を貫通する透し孔24が設けられ、この透し孔24にリード電極14、16が挿入され、絶縁体としての封止ガラス26で固着され、封止されている。」

(キ)「【0018】
図3から分かるように、透し孔24に隣接するアイレット12の台状部20の側面28は二つの透し孔24の内縁から、わずかに離れている。これはプレス成形で台状部20を形成するために必要な構成である。
また台状部20の側面28は二つの透し孔24の内縁の共通接線に沿って延在している。ただし、アイレット12の台状部20の側面は必ずしも透し孔24の内縁の共通接線に沿って延在する必要はなく、この台状部20の上にブロック22が安定して載置できればよい。
また図3から分かるように、リード電極14を封止する液状の封止ガラス26は透し孔24の長さ一杯に満たされる。このために封止ガラス26はリード電極14の表面との接触部においてその表面張力により引き上げられ、リード電極14の材料のぬれ性に応じたメニスカスを形成し、このメニスカスを保ったままで固体化され、パッケージ側表面12aよりも盛り上がった突起部30を形成する。」

(ク)「【0035】
図12及び図13に示された光半導体装置としてのLD装置55は実施の形態1のLD用ステム10にLDチップを搭載したものである。
図12及び図13において、LD用ステム10のブロック22の光素子載置面22aの中央部、すなわちリード電極14、16の間に挟まれ、光素子載置面22aの高さ方向の中央部に、サブマウント58が接合される。
サブマウント58にはメタライズパターン62とこのメタライズパターン62に隣接してもう一つのメタライズパターン64が配設されている。LDチップ60はメタライズパターン62の上に接着され、メタライズパターン62と電気的に接続されている。また一方LDチップ60はメタライズパターン64とはワイヤ66aで接続されている。
サブマウント58は窒化アルミやシリコンカーバイトなどで形成され、このサブマウント58のメタライズパターン62及び64は、例えばスパッタによるAu膜で形成されている。そしてサブマウント58とメタライズパターン62及び64とによりインピーダンス整合された高周波線路基板を形成している。」

(ケ)「【0036】
例えばリード電極14を低電位側とし、リード電極16を高電位側とすると、サブマウント58上に設けられたLDチップ60の高電位側端子(図示せず)とメタライズパターン64とをできるだけ短いワイヤ66aで接続することにより高周波伝播損失を少なくしている。またLDチップ60の低電位側電極(図示せず)はメタライズパターン62の上に直接導電的に接着することにより高周波伝播損失を少なくしている。
さらにメタライズパターン62とリード電極14とを、またメタライズパターン64とリード電極16とを、それぞれできるだけ短くかつ多数本のワイヤ66bで接続することにより高周波伝播損失を少なくしている。
そして、LD用ステム10ではパッケージ側表面12aに突出しているリード電極14および16のインピーダンスが適切に整合され、パッケージ側表面12aに突出している
リード電極14および16における高周波伝播損失を少なくしている。従ってLDチップ60は高周波伝播損失が少ない状態でリード電極14および16と接続されている。またLD用ステム10は安価に提供できるので、LD装置55を安価に構成することができる。
このため、LD装置55においては、LD用ステム10を用いることにより、高周波伝播損失が少なく安価な構成にすることができる。」

また、引用文献1の図12、図13は以下のとおりである。

図13より、ブロック22は、透し孔24の領域に突出していることが看て取れる。

イ 引用発明2
上記(ア)?(ケ)から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「互いに対向するパッケージ側表面12aと外側表面12bとを有し、この二つの表面を貫通する透し孔24とパッケージ側表面12aの一部にパッケージ側表面12aよりも高くなった台状部20とを有するアイレット12と、アイレット12の透し孔24に挿入され、絶縁体としての封止ガラス26により上記透し孔24の内面と固着されかつ封止されるとともにアイレット12のパッケージ側表面12a側および外側表面12b側に突出したリード電極14、16と、アイレット12の台状部20表面上に配設され、リード電極14、16の側面に対向する一側面を有し、この一側面がリード電極14、16の側面に近接するとともに上記一側面が台状部20の側面よりも庇状に突出した台座としてのブロック22と、ブロック22の光素子載置面22aの中央部にサブマウント58が接合され、サブマウント58にはメタライズパターン62とこのメタライズパターン62に隣接してもう一つのメタライズパターン64が配設され、LDチップ60がメタライズパターン62の上に接着され、メタライズパターン64とはワイヤ66aで接続され、メタライズパターン62とリード電極14とを、またメタライズパターン64とリード電極16とを、それぞれできるだけ短くかつ多数本のワイヤ66bで接続した光素子用ステム。」

(3-2)対比
ア 本件補正発明4と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「光素子用ステム」、「アイレット12」、「LDチップ60」、「ワイヤ66a、66b」、「リード電極14、16」、「透し孔24」、「絶縁体としての封止ガラス26」はそれぞれ、本件補正発明4の「TOハウジング(1)」、「基部(2)」「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)」、「ボンディング・ワイヤー(7)」、「接続リード線(3)」、「パッセージ(8)」、「シーリング・コンパウンド(9)」に相当する。
引用発明2の「アイレット12」は、そのパッケージ側表面12aの一部にパッケージ側表面12aよりも高くなった台状部20の表面上にブロック22が配設され、ブロック22の光素子載置面22aにはLDチップ60が接着されているから、引用発明2は、「LDチップ60を収容するためのアイレット12」を有するといえる。
引用発明2の「LDチップ60」は、メタライズパターン62の上に接着され、メタライズパターン64とはワイヤ66aで接続され、メタライズパターン62とリード電極14とを、またメタライズパターン64とリード電極16とを、それぞれできるだけ短くかつ多数本のワイヤ66bで接続されているから、「ワイヤ66a、66bを利用してリード電極14、16に接続され」ているといえる。
引用発明2の「リード電極14、16」は、「アイレット12の透し孔24に挿入され、絶縁体としての封止ガラス26により上記透し孔24の内面と固着されかつ封止され」ているのであるから、「アイレット12の透し孔24を通じてのび、アイレット12から絶縁され、封止ガラス26によりアイレット12内で保持されて」いるといえる。

そうすると、本件補正発明4と引用発明2とは、
「受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたデータ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されているTOハウジング(1)。」である点で一致(以下「一致点」という。)し、次の点で相違する。

(相違点3)
本件補正発明4が、ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを有するデバイス(5)を、パッセージ(8)の領域内に突出させたのに対し、引用発明2では、台座としてのブロック22の一側面がリード電極14、16の側面に近接するとともに当該一側面が台状部20の側面よりも庇状に突出しているため、「ブロック22」は、「透し孔24」の領域内に突出しているといえるものの、「デバイス(5)」自体が「透し孔24」の領域内に突出しているとまではいえない点。

(相違点4)
本件補正発明4が、(受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを有するデバイス(5)を、パッセージ(8)の領域内に突出させることによって)ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、パッセージ(8)を越えてのびる接続リード線(3)の0.1mm?3mmの余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償したのに対し、引用発明1では、そのような構成を採用しているかどうか不明である点。

(4-2)判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点3については、引用発明2おいて、「透し孔24」の大きさや、複数の「透し孔24」の間隔は、搭載されるブロック22等に応じて、当業者が適宜変更可能であると認められるところ、引用文献2の図13のものにおいて、「LDチップ60」が「透し孔24」の領域内に存在するように、「透し孔24」の大きさや間隔を変更することは当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点4について検討するに、引用発明2は、「インピーダンスマッチングを適正に行うことにより高周波伝播損失を出来るだけ少なく」することを解決すべき課題としているといえ(2(2-2)ア(イ))、「LDチップ60」に接続される「ワイヤ66a、66b」、「メタライズパターン62、64」、「リード電極14、16」からなる配線のインピーダンスを最適な値とすること、特に、「リード電極14、16」については、「アイレット12の上面から突出した部分」、「透し孔24内に封止ガラス26を介して固定される部分」、「アイレット12の下面から突出した部分」の3つの部分が存在するから、それぞれの長さを最適化することは当業者が容易に想到し得たことである。また、その際、「光素子用ステム」を取り付けるために、「アイレット12の下面から突出した部分」の長さを調整することも当業者が適宜行うことであり、その長さとして0.1mm?3mmという値自体も通常採用されている範囲に過ぎない。
確かに、引用文献2には「ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、パッセージ(8)を越えてのびる接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」することに対応する記載はないものの、引用発明2は「ワイヤ66a、66b」、「メタライズパターン62、64」、「リード電極14、16」からなる配線のインピーダンスを最適な値としているのであるから、引用文献2に明示はないものの、引用発明2は実質的に、「ボンディングワイヤ6aの長さを短縮することに起因するキャパシタンスの増大を、貫通孔1aを超えてのびる信号端子3の余分な長さ部分によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」しているといえる。
そうすると、結局、引用発明2においては、本件補正発明4の相違点4に係る構成を採用しており、この点は実質的な相違点であるとはいえない。また、そこまではいえないとしても、引用発明2において、本件補正発明4の相違点4に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、本件補正発明4は、引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正発明1について
本件補正発明1は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(6)引用文献3について
ア 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平5-343117号公報(平成5年12月24日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

(ア)「【請求項1】
アイレットに開口した貫通穴に信号線路用のリードをガラスを用いて気密に封着したガラス端子において、前記リードを前記アイレットの電子部品を搭載する方向に偏心させて前記貫通穴に封着したことを特徴とする電子部品用ガラス端子。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のように、リード10を細く形成すると共に、アイレットの貫通穴22を大きく形成した場合には、アイレットの貫通穴22中央に封着したリード10上端と電子部品30を搭載するアイレット部分20aとの間の距離が大きくなってしまった。そして、アイレット20に搭載した電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端とを、長いワイヤ50等で接続しなければならなかった。」

(ウ)「【0006】
その結果、アイレット20に搭載した電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端との間を上記長いワイヤ50等を通して高速信号を伝えた場合に、その特性インピーダンスを50Ω等にマッチングさせていない長いワイヤ50等を伝わる高速信号の伝送損失が大きくなってしまった。そして、電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端との間を高速信号を伝送損失少なく効率良く伝えることができなかった。」

(エ)「【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、アイレットに搭載した電子部品の信号用電極や信号用パッドとリード上端とを短いワイヤ等で接続して、それらの電子部品の信号用電極や信号用パッドとリード上端との間を高速信号を伝送損失少なく効率良く伝えることのできるガラス端子を提供することを目的としている。」

(オ)「【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の第1のガラス端子は、アイレットに開口した貫通穴に信号線路用のリードをガラスを用いて気密に封着したガラス端子において、前記リードを前記アイレットの電子部品を搭載する方向に偏心させて前記貫通穴に封着したことを特徴としている。」

(カ)「【0019】
図において、20は、電子部品を搭載するアイレットである。アイレット20はほぼ円板状をしていて、熱膨張係数αが約48×10-7/℃のコバール(Fe?Ni?Co合金)で形成している。」

(キ)「【0020】
アイレット20表面には、円形状をした貫通穴22を、アイレット20を上下に貫通させて開口している。」

(ク)「【0021】
貫通穴22には、信号線路用の線状のリード10を、ガラス40を用いて気密に封着している。」

(ケ)「【0025】
以上の構成は、従来のガラス端子と同様であるが、図のガラス端子では、図1に示したように、リード10をアイレット20の電子部品30を搭載する方向に偏心させて、リード10をアイレットの貫通穴22にガラス40を用いて封着している。そして、リード10上端を電子部品30を搭載するアイレット部分20aに近付けている。」

(コ)「【0027】
図1に示した第1のガラス端子は、以上のように構成していて、このガラス端子では、アイレット部分20aに搭載した電子部品30の信号用電極や信号用パッドとアイレット部分20aに近付けたリード10上端とを短いワイヤ50等で接続して、それらの電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端との間を高速信号を伝送損失少なく伝えることができる。」

イ 引用発明3
上記(ア)?(コ)から、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「アイレット20に開口した貫通穴22に信号線路用のリード10をガラス40を用いて気密に封着したガラス端子において、リード10をアイレット20の電子部品30を搭載する方向に偏心させて貫通穴22に封着し、電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端とを短いワイヤ50等で接続した電子部品用ガラス端子。」

(7)対比
ア 本件補正発明1と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「電子部品用ガラス端子」、「アイレット20」、「電子部品30」、「ワイヤ50」、「リード10」、「貫通穴22」、「ガラス40」はそれぞれ、本件補正発明1の「TOハウジング(1)」、「基部(2)」「デバイス(5)」、「ボンディング・ワイヤー(7)」、「接続リード線(3)」、「パッセージ(8)」、「シーリング・コンパウンド(9)」に相当する。
引用発明3の「電子部品30」は、信号を送るものであるから、「データ伝送用」であることは明らかであるといえる。
引用発明3の「アイレット20」は、電子部品30を搭載しているから、引用発明3は、「電子部品30を収容するためのアイレット20」を有するといえる。
引用発明3の「電子部品30」は、リード10上端とワイヤ50接続されているから、「ワイヤ50を利用してリード10に接続され」ているといえる。
引用発明3の「リード10」は、「アイレット20に開口した貫通穴22にガラス40を用いて気密に封着」されているのであるから、「アイレット20に開口した貫通穴22を通じてのび、アイレット20から絶縁され、ガラス40によりアイレット12内で保持されて」いるといえる。
引用発明3は、「リード10をアイレット20の電子部品30を搭載する方向に偏心させて貫通穴22に封着し、電子部品30の信号用電極や信号用パッドとリード10上端とを短いワイヤ50等で接続し」ているから、「ワイヤ50の長さを短縮するするために、少なくとも1本のリード10は貫通穴22内で非対称に配置され」ているといえる。

そうすると、本件補正発明1と引用発明3とは、
「データ伝送用のデバイス(5)を収容するための基部(2)を有するTOハウジング(1)であって、前記デバイス(5)は、ボンディング・ワイヤー(7)を利用して接続リード線(3)に接続されており、前記接続リード線(3)は、前記基部(2)を貫通するパッセージ(8)を通じてのび、前記基部(2)から絶縁され、シーリング・コンパウンド(9)により前記基部(2)内で保持されており、前記ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮するために、少なくとも1本の前記接続リード線(3)は、前記パッセージ(8)内で非対称に配置され、TOハウジング(1)。」である点で一致(以下「一致点」という。)し、次の点で相違する。

(相違点5)
データ伝送用のデバイス(5)につき、本件補正発明1が、受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えたのに対し、引用発明3がこのような構成を採用していない点。

(相違点6)
本件補正発明1が、(少なくとも1本の接続リード線(3)を、パッセージ(8)内で非対称に配置することにより)ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、前記パッセージ(8)を越えてのびる前記接続リード線(3)の0.1mm?3mmの余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償するようにしたのに対し、引用発明3がこのような構成を採用しているかどうか不明である点。

(8)判断
上記相違点について検討する。
まず、相違点5については、電子部品として受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えること自体は周知の技術であり(このことを証左する文献としては、引用文献1、2がある。)、 引用発明3において、電子部品30が受信機ダイオードまたは送信機ダイオードを備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点6について検討すると、引用発明3は、「高速信号を伝送損失少なく効率良く伝えるべく、特性インピーダンスをマッチングさせ」ることを技術課題としており(2(6)ア(ウ)、(エ))、「電子部品30」に接続される「ワイヤ50」と「リード10」からなる配線のインピーダンスを最適な値とすること、言い換えると、インピーダンスを最適な値とするべく、「ワイヤ50」と「リード10」の長さを最適化すること、特に、「リード10」については、「アイレット20の上面から突出した部分」、「貫通穴22内にガラス40を介して固定される部分」、「アイレット20の下面から突出した部分」の3つの部分が存在するから、それぞれの長さを最適化することは当業者が容易に想到し得たことである。また、その際、「電子部品用ガラス端子」を取り付けるために、「アイレット20の下面から突出した部分」の長さを調整することも当業者が適宜行うことであり、その長さとして0.1mm?3mmという値自体も通常採用されている範囲に過ぎない。
確かに、引用文献3には「ボンディング・ワイヤー(7)の長さを短縮したことに起因するキャパシタンスの増大を、パッセージ(8)を越えてのびる接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」することに対応する記載はないものの、引用発明3は「ワイヤ50」、「信号線路用のリード10」からなる配線のインピーダンスを最適な値としているのであるから、引用文献3に明示はないものの、引用発明3は「ボンディングワイヤ6aの長さを短縮することに起因するキャパシタンスの増大を、貫通孔1aを超えてのびる信号端子3の余分な長さ部分によるインダクタンスにより、少なくとも部分的に補償」しているといえる。
そうすると、結局、引用発明3においては、本件補正発明1の相違点6に係る構成を採用しており、この点は実質的な相違点であるとはいえない。また、そこまではいえないとしても、引用発明3において、本件補正発明1の相違点6に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

したがって、本件補正発明1は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和元年6月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年12月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1、4に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」、「本願発明4」という。)は、その請求項1、4に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項4に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、または、引用文献2に記載された発明に基づいて、また、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2011-176021号公報
引用文献2:特開2007-150182号公報
引用文献3:特開平5-343117号公報

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2-1)、(2-2)、(6)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明1、4は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「接続リード線(3)の余分な長さ部分(11)」について、「0.1mm?3mm」とする限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明1、4の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明1、4が、前記第2の[理由]2(4-1)、(4-2)、(8)に記載したとおり、引用発明1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1、4も、引用発明1ないし3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明1、4は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2020-03-03 
結審通知日 2020-03-05 
審決日 2020-03-17 
出願番号 特願2016-16990(P2016-16990)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸佐藤 久則  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 近藤 幸浩
瀬川 勝久
発明の名称 トランジスタアウトラインハウジング及びその製造方法  
代理人 岡部 讓  
代理人 吉澤 弘司  

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