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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01L
管理番号 1364816
審判番号 不服2018-13630  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-12 
確定日 2020-08-05 
事件の表示 特願2015-532509「内燃機関用の弁制御システムおよびその動作方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日国際公開、WO2014/049339、平成27年10月5日国内公表、特表2015-529308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)9月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年9月25日(GB)グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を国際出願日とする出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年8月28日(発送日:同年9月5日) :拒絶理由通知書
平成30年3月5日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年5月31日(発送日:同年6月12日):拒絶査定
平成30年10月12日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和元年7月16日(発送日:同年7月23日) :拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由」という。)
令和2年1月23日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和2年1月23日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「内燃機関用の弁制御システムであって、前記内燃機関が、少なくとも2つの弁からなる弁の組を各々含む少なくとも2つのシリンダを有し、前記弁の組は、吸気弁からなる組または排気弁からなる組であり、システムが、マルチバルブ動作モードおよびシングルバルブ動作モードで前記弁の組を選択的に動作させるように構成され、前記マルチバルブ動作モード中は、前記組の前記弁の全てが同時に作動し、前記シングルバルブ動作モード中は、1回の吸気行程または1回の排気行程において前記弁の組のうちのただ1つの弁が作動し、
前記少なくとも2つのシリンダは第1のシリンダ及び第2のシリンダを含み、システムは、前記第1のシリンダ及び前記第2のシリンダを互いに異なるモードで動作させるように構成され、各々の前記モードは、前記シングルバルブ動作モードおよび前記マルチバルブ動作モードのうちの1つであり、
前記弁の組の前記少なくとも2つの弁の各々を、前記シングルバルブ動作モード中に所定の順番で作動させるように構成される、弁制御システム。」

第3 当審における拒絶の理由
当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、次のとおりのものである。

「2 (進歩性)本願の請求項1ないし14に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

● 理由2(進歩性)について
・請求項1ないし9に対して 引用文献1ないし引用文献3

引 用 文 献 一 覧
1.実願平2-23960号(実開平3-114508号)のマイクロフィルム
2.特開昭63-167016号公報
3.特開昭63-280809号公報
4.特開昭59-5846号公報」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1(実願平2-23960号(実開平3-114508号)のマイクロフィルム)には、「内燃エンジンの動弁装置」に関して、図面(特に第1図、第6図、第12図及び第13図を参照。)とともに以下記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。

ア 「本考案は、内燃エンジンの動弁装置に関し、特に一気筒に複数の吸気弁及び/又は複数の排気弁を備えた内燃エンジンの動弁装置に関する。」(明細書1ページ17ないし19行を参照。)

イ 「しかしながら、上記従来の動弁装置では、休止させる弁は常に同一であるため、休止させない常用側の弁は休止側の弁に比べて相対的に作動回数が多くなり、摩耗が早いという問題がある。
また、第4図に示すように、各気筒に1個の燃料噴射弁と、2個の吸気弁とを備えたエンジンにおいては、休止側の弁(5a)に対応する吸気ポート(4a)に、噴射された燃料が多量に滞留し、該滞留燃料が弁作動開始時に一度に気筒内に吸入されるため、空燃比の大幅な変動が発生するという問題もあった。
本考案は上述した問題を解決するためになされたものであり、同一機能を有する複数の弁の一部の作動休止を適切に行うことにより、複数の弁の摩耗度合の偏り及び空燃比の変動を防止することができる内燃エンジンの動弁装置を提供することを目的とする。」(明細書2ページ13行ないし3ページ9行を参照。)

ウ 「上記目的を達成するため本考案は、同一機能を有する複数の弁を各気筒毎に備えるとともに、エンジン運転状態に応じて該複数の弁の一部の作動を休止させることができる弁駆動手段を備えた内燃エンジンの動弁装置において、前記弁駆動手段は前記作動を休止させる弁を変更する休止弁変更手段を有するようにしたものである。
また、前記休止弁変更手段は、各気筒の1サイクル毎に休止させる弁を変更することが望ましい。」(明細書3ページ11ないし19行を参照。)

エ 「第1図において、Eは各気筒に一対(2個)の吸気弁と一対の排気弁とが設けられた4気筒タイプの内燃エンジンである。前記一対の吸気弁及び排気弁の駆動機構は同一の構造を有するので、以下一の吸気弁とその駆動装置についてのみ説明する。」(明細書4ページ8ないし13行を参照。)

オ 「第6図は、ECU14による、前記スピル弁59の開弁タイミング(ソレノイド71を消勢するタイミング)、すなわち吸気弁5の閉弁開始指示タイミング(以下『オフタイミング』という)θ_(OFF)及び前記スピル弁59の閉弁指示タイミング(ソレノイド71を付勢するタイミング、以下『オンタイミング』という)θ_(ON)の制御手順を示すフローチャートである。
ステップS1では、前記各センサの検出信号を読み込み、エンジン運転状態及び大気条件の検知を行い、一の吸気弁及び一の排気弁の作動を休止すべき運転条件(例えば、エンジン水温が所定温度以上で、かつエンジン回転数が所定回転数以下で、かつアクセル開度θ_(ACC)が所定値以下)(以下『休止条件』という)が成立するか否かを判別する(ステップS2)。この答えが否定(No)、即ち休止条件不成立のときには、フラグF_(STP)を値0に設定する(ステップS3)とともに、検出したエンジン回転数Ne及びアクセル開度θ_(ACC)に応じて通常用のθ_(OFF)マップの検索を行い(ステップS4)、ステップS7に進む。」(明細書13ページ15行ないし14ページ15行を参照。)

カ 「第6図にもどり、前記ステップS2の答えが肯定(Yes)、即ち休止条件が成立するときには、フラグF_(STP)を値1に設定する(ステップS5)とともに、検出したエンジン回転数Ne及びアクセル開度θ_(ACC)に応じて休止用θ_(OFF)マップの検索を行い(ステップS6)、ステップS7に進む。」(明細書15ページ14ないし19行を参照。)

キ 「フラグF_(STP)=0、即ち休止条件不成立の場合には、算出されたθ_(ON)及びθ_(OFF)のタイミングでオン/オフする制御信号(第12図(a))と同一の信号(同図(b),(c))が第4図の2つの吸気弁5a,5bの夫々に対応するスピル弁59a,59b(図示せず)に供給され、各吸気弁5a,5bの作動特性は、第12図(d),(e)(同図の縦軸は弁リフト量を示す)に示すようになる。
一方、フラグF_(STP)=1、即ち休止条件成立の場合には、第13図に示すような制御信号が出力される。即ち、第13図(a)?(e)はそれぞれ第12図(a)?(e)に対応し、2つのスピル弁59a,59bに対して交互にオン/オフ信号が出力される。その結果、2つの吸気弁5a,5bの作動特性は同図(d),(e)に示すようになり、一方の弁が休止されるとともに、該休止される弁が1サイクル毎に変更される。ここで1サイクルとは、当該気筒の吸気-圧縮-爆発-排気の4行程を各1回行う周期をいう。
このように休止する弁を1サイクル毎に変更することにより、一方の弁の摩耗が相対的に早まること、即ち摩耗度合の偏りを防止することができるとともに、混合気の混合状態を良好に維持することができる。また、休止中の弁の吸気ポートに滞留する燃料は、1回の噴射量の対応するもののみであるから、空燃比の変動もほとんど発生しない。
なお、本実施例では排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行っている。」(明細書19ページ16行ないし21ページ5行を参照。)

ク 「また、本実施例では1サイクル毎に休止させる弁を変更するようにしたが、これに限らず、2サイクル以上の周期で変更するようにしてもよい。」(明細書21ページ17ないし19行を参照。)

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「内燃エンジンの動弁装置であって、前記内燃エンジンが、各気筒に1対の吸気弁と1対の排気弁とが設けられた4気筒タイプであり、動弁装置が、休止条件不成立の場合には吸気弁5a、5bが同時に作動し、休止条件成立の場合には、吸気弁5a、5bの一方の弁が休止され、排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行い、
休止条件成立の場合には、2つの吸気弁5a,5bの一方の弁が休止されるとともに休止される弁が1サイクル毎に変更され、排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行う、動弁装置。」

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2(特開昭63-167016号公報)には、次の記載がある。

ア 「上記従来のものでは、各気筒の動弁機構を同一の構成にしており、機関の或る運転条件下では各気筒の吸気弁あるいは排気弁が同一の態様で開閉作動する。かかる動弁装置では、機関の運転条件下に応じて各気筒の吸気弁あるいは排気弁の作動態様を変化させて動弁制御の精度を向上することは可能である。而して、機関の或る運転条件下で、吸気弁あるいは排気弁の作動態様を気筒間で異ならせるようにすると、より一層精度を向上させた動弁制御が可能となるであろう。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、吸気弁あるいは排気弁の作動態様を気筒間で異ならせて動弁制御の精度を向上した多気筒内燃機関の動弁装置を提供することを目的とする。」(2ページ左上欄12行ないし右上欄8行を参照。)

イ 「第10図は本発明の第5実施例を示すものであり、第1および第4気筒C1,C4の吸気弁Vl,V2は動弁機構40b,40bで開閉駆動され、第2および第3気筒C2,C3の吸気弁Vl,V2は動弁機構40c,40cで開閉駆動される。
動弁機構40cは、低速用カム5に摺接するカムスリッパ37を有する第1ロッカアーム41aと、高速用カム6に摺接するカムスリッパ15を有する第2ロッカアーム42と、低速用カム5に摺接するカムスリッパ37を有する第3ロッカアーム43bとが、連結および連結解除を切換可能にしてロッカシャフト8に枢支されて成り、第1および第3ロッカアーム41a,43bに吸気弁Vl,V2が個別に連動、連結される。
この第5実施例では、機関の低速運転時に第1および第4気筒C1,C4では一方の吸気弁V1が閉弁休止するとともに他方の吸気弁V2が低速用カム5の形状に応じたタイミングおよびリフト量で開閉作動し、第2および第3気筒C2,C3では両吸気弁Vl,V2が低速用カム5の形状に応じたタイミングおよびリフト量で開閉作動する。
また機関の高速運転時には、各気筒C1?C4とも両吸気弁Vl,V2が高速用カム6の形状に応じたタイミングおよびリフト量で開閉作動する。
この第5実施例によれば、機関の低速運転時に一方の吸気弁V1を閉弁体止するとともに他方の吸気弁V2を低速用カム5で開閉作動し、気筒休止に近い効果を得ることができる。」(6ページ左下欄15行ないし7ページ左上欄8行を参照。)

ウ 「本発明は、上記各実施例の如き4気筒および6気筒だけでなく3気筒や5気筒の多気筒内燃機関についても実施可能である。また本発明を排気弁に関連して実施することも可能である。」(11ページ右上欄14ないし17行を参照。)

以上から、上記引用文献2には次の事項が記載されていると認められる。

「一対の吸気弁V1、V2の開閉駆動において、機関の低速運転時には、第1および第4気筒C1、C4では一方の吸気弁V1が閉弁休止するとともに他方の吸気弁V2が開閉作動し、第2および第3気筒C2、C3では両吸気弁V1、V2が開閉作動すること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「内燃エンジン」は、その機能、構成又は技術的意義からみて前者の「内燃機関」に相当し、「動弁装置」は「弁制御システム」に相当する。
後者の「1対の吸気弁」は、その機能、構成又は技術的意義からみて前者の「吸気弁からなる組」に相当し、同様に「1対の吸気弁」は「吸気弁からなる組」にする。してみると、後者の「1対の吸気弁と1対の排気弁とが設けられた」は前者の「少なくとも2つの弁からなる弁の組を各々含む」に相当する事項も備えるといえる。そして、後者の「4気筒タイプ」は前者の「少なくとも2つのシリンダ」に相当する。そうすると、後者の「各気筒に1対の吸気弁と1対の排気弁とが設けられた4気筒タイプ」は、前者の「少なくとも2つの弁からなる弁の組を各々含む少なくとも2つのシリンダを有し、前記弁の組は、吸気弁からなる組または排気弁からなる組」に相当するといえる。そして、後者の「4気筒タイプ」は前者の「少なくとも2つのシリンダは第1のシリンダ及び第2のシリンダを含み」に相当する事項を有するといえる。
後者の「休止条件不成立の場合には吸気弁5a、5bが同時に作動」するもの及び「排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行い」からなるものは、その機能、構成又は技術的意義からみて、前者の「マルチバルブ動作モード」及び「マルチバルブ動作モード中は、前記組の前記弁の全てが同時に作動」することに相当する。同様に、後者の「休止条件成立の場合には、吸気弁5a、5bの一方の弁が休止され」及び「排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行い」からなるものは、「シングルバルブ動作モード」及び「シングルバルブ動作モード中は、1回の吸気行程または1回の排気行程において前記弁の組のうちのただ1つの弁が作動し」に相当する。してみると、後者の「動弁装置は、休止条件不成立の場合には吸気弁5a、5bが同時に作動し、休止条件成立の場合には、吸気弁5a、5bの一方の弁が休止され、排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行い」は前者の「システムが、マルチバルブ動作モードおよびシングルバルブ動作モードで前記弁の組を選択的に動作させるように構成され、前記マルチバルブ動作モード中は、前記組の前記弁の全てが同時に作動し、前記シングルバルブ動作モード中は、1回の吸気行程または1回の排気行程において前記弁の組のうちのただ1つの弁が作動し」に相当する。また、後者の「休止条件成立の場合には、2つの吸気弁5a,5bの一方の弁が休止されるとともに休止される弁が1サイクル毎に変更され、排気弁側も吸気弁側と同様の制御を行う」は前者の「前記弁の組の前記少なくとも2つの弁の各々を、前記シングルバルブ動作モード中に所定の順番で作動させる」に相当する。
そして、このような後者の「内燃エンジンの動弁装置」は、前者の「内燃機関用の弁制御システム」に相当する。

したがって、両者は、
「内燃機関用の弁制御システムであって、前記内燃機関が、少なくとも2つの弁からなる弁の組を各々含む少なくとも2つのシリンダを有し、前記弁の組は、吸気弁からなる組または排気弁からなる組であり、システムが、マルチバルブ動作モードおよびシングルバルブ動作モードで前記弁の組を選択的に動作させるように構成され、前記マルチバルブ動作モード中は、前記組の前記弁の全てが同時に作動し、前記シングルバルブ動作モード中は、1回の吸気行程または1回の排気行程において前記弁の組のうちのただ1つの弁が作動し、
前記少なくとも2つのシリンダは第1のシリンダ及び第2のシリンダを含み、
前記弁の組の前記少なくとも2つの弁の各々を、前記シングルバルブ動作モード中に所定の順番で作動させるように構成される、弁制御システム。」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
前者は、「システムは、前記第1のシリンダ及び前記第2のシリンダを互いに異なるモードで動作させるように構成され、各々の前記モードは、前記シングルバルブ動作モードおよび前記マルチバルブ動作モードのうちの1つ」であるのに対し、後者はかかる構成を備えていない点。

第6 判断
上記相違点について検討すると、
引用文献2の記載事項は次のとおりである。
「一対の吸気弁V1、V2の開閉駆動において、機関の低速運転時には、第1および第4気筒C1、C4では一方の吸気弁V1が閉弁休止するとともに他方の吸気弁V2が開閉作動し、第2および第3気筒C2、C3では両吸気弁V1、V2が開閉作動すること。」
ここで、引用文献2の記載事項における「第1および第4気筒C1、C4」は、本願発明の「第1のシリンダ及び第2のシリンダ」の一方のシリンダに相当し、同様に「第2および第3気筒C2、C3」は「第1のシリンダ及び第2のシリンダ」の他方のシリンダに相当するといえる。そして、「第1および第4気筒C1、C4」と「第2および第3気筒C2、C3」とでは、吸気弁の動作は異なることから、引用文献2の記載事項は「システムは、前記第1のシリンダ及び前記第2のシリンダを互いに異なるモードで動作させるように構成され」ることを開示するといえる。さらに、「第1および第4気筒C1、C4」の吸気弁の動作は「一方の吸気弁V1が閉弁休止する」ものであって、すなわち「シングルバルブ動作モード」に相当する構成であり、第2および第3気筒C2、C3の吸気弁の動作は「両吸気弁V1、V2が開閉作動する」のであるから「マルチバルブ動作モード」に相当する構成である。加えて、引用文献2の記載事項は、「排気弁に関連して実施することも可能」なものである。
そうすると、引用文献2の記載事項は「システムは、前記第1のシリンダ及び前記第2のシリンダを互いに異なるモードで動作させるように構成され、各々の前記モードは、前記シングルバルブ動作モードおよび前記マルチバルブ動作モードのうちの1つ」であることを開示(第4 2 ウを参照。)するものといえる。
引用発明と引用文献2の記載事項とは、複数の吸気弁及び/又は複数の排気弁を備えた少なくとも1つのシリンダを有する内燃機関である点で共通する。そして、引用発明に対し引用文献2の記載事項を適用することに格別な阻害要因を見出すこともできない。

そうすると、引用発明に対し、引用文献2の記載事項を適用し、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2の記載事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 審判請求人の主張について
令和2年1月23日の意見書において、審判請求人は
「しかしながら、引用文献1に引用文献2を組み合わせる動機付けが十分でないと思料致します。この点、合議体は、引用文献1,2の組み合わせについて、『引用発明と引用文献2の記載事項とは、複数の吸気弁及び/又は複数の排気弁を備えた少なくとも1つのシリンダを有する内燃機関である点で共通する。そして、引用発明に対し引用文献2の記載事項を適用することに格別な阻害要因を見出すこともできない。』とご指摘されています。しかしながら、技術分野が共通で、阻害要因がなければただちに動機付けが十分と言い切れるものでもありません。たとえば、引用文献2に記載の構造においては、『前記弁の組の前記少なくとも2つの弁の各々を、前記シングルバルブ動作モード中に所定の順番で作動させる』という構造を採用できません。引用文献2は副引例ですが、かかる事情を無視して、引用文献1に記載の発明に引用文献2の記載事項を組み合わせる動機付けがあるとはいえません。副引例とはいえども、その特有の構造を無視して都合のよい記載事項を抜き出すことはできないと思料致します。」と主張する。
しかしながら、「前記弁の組の前記少なくとも2つの弁の各々を、前記シングルバルブ動作モード中に所定の順番で作動させる」という構造を備えた引用発明に引用文献2の記載事項を適用することについての具体的な阻害要因は、請求人の主張を参酌しても見出すことはできない。また、引用文献2の記載事項は機関の低速回転時における制御(第4 2 ウを参照。)であり、引用発明の休止条件が成立するときもエンジン回転数が所定回転数以下(第4 1 オを参照。)であるから、引用発明における休止条件が成立するときの制御として引用文献2の記載事項と適用することにも阻害要因を見出すことはできない。さらに、引用文献2の記載事項は、機関のある条件下で、吸気弁あるいは排気弁の作動様態を気筒間で異ならせるようにすると、より一層精度を向上させた動弁制御が可能になる」(第4 2 アを参照。)ものであるから、引用文献2の記載をみた当業者であれば、むしろ引用発明に対し、引用文献2の記載事項を適用することを試みると想起し得るものである。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-05 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2015-532509(P2015-532509)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (F01L)
P 1 8・ 121- WZ (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 貴志小笠原 恵理  
特許庁審判長 渋谷 善弘
特許庁審判官 金澤 俊郎
水野 治彦
発明の名称 内燃機関用の弁制御システムおよびその動作方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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