• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1364820
審判番号 不服2019-690  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-01-18 
確定日 2020-08-05 
事件の表示 特願2017-522983「ベラパミル塩酸塩の結晶型」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月 6日国際公開、WO2016/065930、平成29年11月16日国内公表、特表2017-533911〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年7月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年10月29日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成29年6月13日に手続補正書が提出され、平成30年2月21日付けで拒絶理由が通知され、同年5月25日に意見書および手続補正書が提出され、同年9月25日付けで拒絶査定され、平成31年1月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に記載された発明は、平成30年5月25日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、
「【請求項1】
粉末X線回折パターンが、反射角2θとして、12.7°±0.1°、18.7°±0.1°、19.2°±0.1°、20.2°±0.1°、及び21.2°±0.1°に特異的なピークを示す、(R)-(+)ベラパミル塩酸塩のE型結晶。」というものである(以下「本願発明」という。)。

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下のとおりのものと認める。
この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献1?3、5?8、10?12に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.独国特許出願公開第3723684号明細書
2.特表平7-503475号公報
3.RAMUZ H.,HELVETICA CHIMICA ACTA,1975年,Vol.58, Fasc.7,p.2050-2060
5.特表2001-500151号公報
6.特開昭53-92732号公報
7.特表平9-510717号公報
8.NELSON, W. L. et al.,Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals,1984年,Vol.XXI, No.2,p.181-185
10.浅原 照三ら,溶剤ハンドブック,株式会社 講談社,1985年,p.47-51
11.高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
12.社団法人日本化学会,実験化学ガイドブック,丸善株式会社,1992年,第3刷,p.130-131


なお、引用文献5?8、10?12は、本願優先日時点の技術常識を示すものである。

第4 当審の判断
当審は、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2?6に記載された技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は以下のとおりである。



刊行物1:特表平7-503475号公報 (原査定の引用文献2)
刊行物2:特表2001-500151号公報(原査定の引用文献5)
刊行物3:特開昭53-92732号公報(原査定の引用文献6)
刊行物4:特表平9-510717号公報(原査定の引用文献7)
刊行物5:浅原 照三ら,溶剤ハンドブック,株式会社 講談社,1985年,p.47-51(原査定の引用文献10)
刊行物6:社団法人日本化学会,実験化学ガイドブック,丸善株式会社,1992年,第3刷,p.130-131(原査定の引用文献12)
刊行物7:高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
(原査定の引用文献11)
刊行物8:平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,pp.17-19, 57-58, 78-79
刊行物9:杉本 功ら,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,vol.22, No.2, pp.85-97

なお、刊行物2?9は、本願優先日時点の技術常識を示すものである。

1 引用刊行物の記載
(1)刊行物1:特表平7-503475号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物1には、次の記載がある。
(1a)「1.ベラパミルのラセミ分割方法において、この化合物の遊離塩基を、光学活性のジベンゾイル酒石酸又はジトルオイル酒石酸と、モル比1:1?1:2で、1:1?3:1の比のメタノール-水-混合物又は0.5:1?2:1の比のアセトン-水-混合物中で、反応させ、こうして得たジアステレオマー混合物を、結晶化により分離し、その後、このジアステレオマーを遊離塩基に変え、かつ、場合により生理学的に認容性の酸を用いて、その塩に変えることを、特徴とする、ベラパミルのラセミ分割法。」(請求の範囲)

(1b)「例1
a) ラセミ性ベラパミル250 g(0.55モル)と(-)-O,O’-ジベンゾイル-L-酒石酸-水化物310 g(0.82モル)とを、加温下で、メタノール/水=2:1 1.3lに溶かした。一晩沈殿させた結晶を、吸引濾過し、かつ乾燥させた。この結晶は、融点103?107℃及び、施光度[α]_(D)^(20)=-53.3°(エタノール、c=15mg/ml)を有する。エタノール/水=2:1から、3回再結晶をさせ、かつ、融点113?115℃、並びに施光度[α]_(D)^(20)=-66.2°(エタノール、c=15mg/ml)を有する結晶を得た。この値は、再度の再結晶の際にも、もはや変化しなかった。塩から水酸化ナトリウムを用いて遊離させた塩基を、直接、塩酸塩に変えた。ジイソプロピルエーテル/イソプロパノール=3:2からの1回の再結晶の後に、融点131?133℃及び施光度[α]_(D)^(20)=-9.2°(エタノール、c=50mg/ml)を有する、(S)-ベラパミル-塩酸塩83.7g(62%)を得た。この値は、再度の結晶化によってもはや変化しなかった。
b) a)で沈殿の際に生じた母液を、真空中で濃縮させ、この残留物を水中に入れ、かつ、そこから、1M水酸化ナトリウムの添加により、塩基を遊離させた。トルオールを用いる抽出、硫酸ナトリウム上での乾燥、及び溶剤の溜去の後に、油状物が単離された。
この油状物と(+)-O,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸-水化物155g(0.41モル)とを、加温下で、メタノール/水(=2:1)650mlに溶かした。1晩沈殿させた結晶を吸引濾過し、かつ乾燥させた。この結晶は、融点105?109℃及び施光度[α]_(D)^(20)=+61.5°(エタノール、c=15mg/ml)を有する。この塩を、メタノール/水2:1から、2回再結晶させた。融点113?115℃及び施光度[α]_(D)^(20)=+66.8°(エタノール、c=15mg/ml)の結晶を得た。この値は、再度の結晶化によっても、もはや変化しなかった。
塩から遊離させた塩基を、塩酸塩に変えた。ジイソプロピルエーテル/イソプロパノール3:2からの1回の再結晶の後に、融点129?131℃及び施光度[α]_(D)^(20)=+9.2°(エタノール、c=50mg/ml)の、(R)-ベラパミル-塩酸塩78.3g(58%)を得た。この値は、更なる再結晶の際に、もはや変化しなかった。」(第3頁左上欄第1行?右上欄下から8行)

(2)刊行物2:特表2001-500151号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物2には、次の記載がある。
(2a)「本発明はエナンチオマーに富んだベラパミルおよびその関連化合物の製造における新規化合物およびそれらの利用に関する。
背景技術
ベラパミル(I)は現在臨床ではラセミ体として使用されており、高血圧の治療に広く使用されている。ベラパミルの反対のエナンチオマーは異なる生物学的活性を有する。(S)-エナンチオマー(レボベラパミル)は優れたカルシウムチャンネル拮抗薬活性を有する(ドイツ公開公報DE-A-2059923号)が、(R)-エナンチオマー(デキストロベラパミル)は高い生体適用性に加えてナトリウムチャンネルおよび他の細胞ポンプ作用を持ち、排出速度が遅い点で異なる。これらの違いは臨床面で重要であるかも知れず、例えば(R)-エナンチオマーは、癌の化学療法での多剤耐性の逆転(reversal)のために有用であるかも知れない〔エリアソン(Eliason)著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー、第46巻、第113頁(1990)を参照〕;この場合には(S)-エナンチオマーとの混合による血圧降下作用は好ましくないであろう。
したがって、単一エナンチオマーまたはエナンチオマーに富んだベラパミルまたはその同族体化合物を製造する効果的な製造方法が求められている。」(第4頁第4行?第19行)

(2b)「5.0gのアミド(10.7mmol)と1.01gのナトリウムボロハイドライド(26.7mmol)を窒素中0℃の1,2-ジメトキシエタン15mlの中に懸濁した。この懸濁液に1,2-ジメトキシエタン中に吹き込んだ気体HC1の0・77M溶液35mlを加えた。室温で4時間撹拌後、GC/MSにより反応が完了していることを確認した。6・0Mの塩酸25mlを加えて反応を止めた。抽出を行って、粗ベラパミル塩酸塩5・1gを得た。これを50mlの酢酸エチルから再結晶して融点129・3℃の白色固体を得た。」(第10頁第1行?第9行)

(3)刊行物3:特開昭53-92732号公報
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物3には、次の記載がある。
(3a)「上記式(I)で表わされるベラパミールは冠状血管拡張作用及び冠状血管の血行を高める作用を有し、医薬として極めて有用な化合物であり、従来からベラパミール又はその製造中間体の製造方法としていろいろな方法が提案されている。」(第3頁左下欄下から第7行?下から第3行)

(3b)「実施例5
(イ) 2-(3,4-ジメトキシ)-2-イソプロビル-5-メチルアミノバレロニトリル(2.84g)のベンゼン(10ml)溶液にホモベラトロアルデヒド(2.84g)のベンゼン(5ml)溶液を加える。無水硫酸マグネシウム(2g)を加えてろ過し生成した水を除く。ろ液をオートクレーブ中5%パラジウム炭素(0.24g)を加え、室温、20気圧で水素添加する。3時間後触媒をろ去し、ろ液を1%硫酸で抽出する。1%硫酸層に炭酸カリウムを加えてアルカリ性としベンゼン抽出、無水硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去する。残渣をエーテルに溶解し塩化水素を飽和したエーテル溶液を加える。析出した半油状物をとり酢酸エチルより再結晶するとベラパミール塩酸塩(3.58g)、融点139?141℃が得られる。」(第11頁右下欄第10行?第12頁左上欄第9行、なお、ろ過の「ろ」は「サンズイ」に「戸」。)

(4)刊行物4:特表平9-510717号公報
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物4には、次の記載がある。
(4a)「ベラパミルのジュウテリウム化-ベラパミル塩酸塩をジュウテリウム化水(v/v)およびジュウテリウム化メタノール中の25%のジュウテリウム化硫酸の溶液に添加した。この溶液を90℃において140時間撹拌した。pHを12.0に調節し、この混合物を酢酸エチルで抽出した。一緒にした酢酸エチルの抽出液を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、蒸発させると、粘性油状物が得られた。この油状物をエーテル中に溶解し、エーテル性塩化水素を添加して塩酸塩を沈澱させた。この塩を濾過により集め、酢酸エチルから結晶化させると、ジュウテリウム化ベラパミルが白色固体状物として得られた。
対照ベラパミルおよびジュウテリウム化ベラパミル(ベラパミル(フェニルアルキルアミン)の芳香族位置がジュウテリウム化された)を最小体積のエタノールの中に溶解し、エタノールの最終濃度が0.04%より低くなるまで希釈した。次いで示した投与量の2つのベラパミルを、体重300?350gのペントバルビタール麻酔したSDラットに注射した。平均動脈圧の最大変化、ならびに低血圧応答の期間を動脈内カテーテルにより直接測定した。1つのみの薬物投与量を各ラットに与え、最小60分を経過させて血圧を基線に戻した。結果を下記に示す。
各投与量において、ジュウテリウム化ベラパミルの作用(効能)は対照ベラパミルのそれより低かった(第11図参照)。
・・・(略)・・・
これらの結果が示唆するように、効能および作用期間はジュウテリウム化により変更された。ジヒドロピリジンを使用するときのように、作用期間はジュウテリウム化により延長されたが、効能は、ジヒドロピリジンと異なり、減少した。」(実施例VIIIの第18頁下から第5行?第20頁第5行)

(5)刊行物5:浅原 照三ら,溶剤ハンドブック,株式会社講談社,1985年,p.47-51
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物5には、次の記載がある。
(5a)「再結晶溶媒として普通使用されるものを表3.3と表3.4にあげる.表3.3は最も一般的に使用される溶媒で,これらのもので成功しない場合に表3.4にあげられている少し特殊なものの使用が推奨される.なお表3.3の溶媒名においては,厳密な順序ではないが,上部から下部に向かって非極性溶媒→極性溶媒になるように配列されている.・・・(略)・・・」(第49頁左欄「3.2.3 再結晶溶媒の種類と特徴」)

(5b)「

」(第49頁右欄「表3.3 最も一般的に使用される再結晶溶媒」)

(5c)「この系の溶媒はかなり溶解能力が高い極性溶媒として再結晶用に有用度は高い.未精製品は微量の対応するアルコール及び酸を含有していることを頭に入れておく必要がある.以下の化合物の再結晶には一般論として反応するために使用しない方がよい:第一および第二アミン,メルカプタン類,アルコール類(エステル交換反応),カルボン酸類(エステル交換反応).」(第49頁右欄?第51頁左欄「D エステル類」)

(6)刊行物6:社団法人日本化学会,実験化学ガイドブック,丸善株式会社,1992年,第3刷,p.130-131
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物6には、次の記載がある。

(6a)「純粋な物質を得る方法として,再結晶は目的物質が固体である場合,古くから現在まで広く用いられている手段である
・・・(略)・・・
再結晶に良く使われる溶媒(沸点):・・・(略)・・・酢酸エチル(78)
・・・(略)・・・ 」(第130頁?第131頁「3.2.11 再結晶」の欄)

(7)刊行物7:高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,pp.20-25
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物7には、次の記載がある。
(7a)「同一の医薬品化合物であってもその固体状態,すなわち原薬のForm毎にその物理化学的性質は異なる。原薬Formは,その構成分子と固体構造から定義される(図1)。構成分子は,Free体,塩,Cocrystalへ,固体構造は,結晶,アモルファスへ分類され,原薬Formはこれらの組み合わせからなる多様性を示す。

個々のFormは,異なる溶解性,吸収性,化学的安定性,物理的安定性,吸湿性,融点,製造適正等の物理化学的性質を有し,これらの性質は最終的に製剤の安定性,有効性及び品質を左右する^(1))。原薬のFormによっては,これらの物理化学的性質に問題を有する場合があり,これらは異なるFormを適用することで制御できる可能性がある。一方,構成分子が同一であっても多くの場合,結晶多型が存在し,熱力学的準安定形は最安定形へ転移する性質を有する。臨床開発段階及び上市後の最安定形の出現は,開発の遅延,並びに上市後の製品出荷中止等の原因となることもある。・・・(略)・・・」(第20頁「1 はじめに」の欄)

(7b)「・・・(略)・・・
溶液からの結晶化において,結晶化溶媒は結晶核生成と結晶成長に大きく影響を与える重要な結晶化条件の一つである。Guらは,96種類の溶媒を8つの溶媒物性パラメータについて統計解析し,15種のグループに分類した^(31))。また,Symyx社は,100種類の溶媒を15の溶媒物性パラメータを基に,実施する結晶化条件数に応じたグループ数に分類し溶媒を選択している^(9))。・・・(略)・・・」(第22頁「3.1 結晶化法と結晶化溶媒」の欄)

(7c)「スクリーニングは,化合物のDMSO溶液の分注及び凍結乾燥,結晶化溶媒の分注,結晶化,粉末X線回折測定等による一次分析の各ステップにより構成される。図4にスクリーニング方法のフローを示す。・・・(略)・・・」(第24頁「5.2 スクリーニング方法の概要」の欄)

(7d)「

」(第24頁 図4)

(8)刊行物8:平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,pp.17-19, 57-58, 78-79
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物8には、次の記載がある。
(8a)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終段階で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存して様々な構造,形状,大きさ,凝集状体などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.・・・(略)・・・
結晶多型の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.」(第57頁第1行?第58頁第4行)

(8b)「複数の結晶相が存在する結晶多型は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多型の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.
・・・(略)・・・
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである.医薬品における結晶多型の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.」(第59頁「4.2.1 結晶多形の検索」の欄第1行?最終行)

(8c)「一方,創薬段階においてはコンビナトリアル合成が導入され,膨大な数の化合物から“薬”としての候補品を短時間で効率的にスクリーニングするハイスループット・スクリーニングが一般的となっている.・・・(略)・・・このシステムは,図4.3に示すような96穴のプレートを用いて溶媒や温度などの結晶化条件を変化させ,得られた析出物の結晶状態を粉末X線回折,ラマンスペクトルや熱分析などを用いて同定するものである.」(第63頁第21行?最終行)

(8d)「一般に結晶化には,溶液(solution)からの結晶成長,融液(melt)からの結晶成長,気相(vapor phase, gas phase)を介した結晶成長がある.・・・(略)・・・そこで,もっとも一般的に使えると想定され,3.1節に加えて3.5節でも紹介されている溶液からの結晶成長を考えることにする.
・・・(略)・・・ 結晶成長では,飽和(saturation),未飽和(undersaturation, unsaturation),過飽和(supersaturation)の区別を理解することが重要である.結晶は,過飽和の溶液からのみ成長するからである.
溶質を溶媒に溶かしていくとき,溶液は,はじめ未飽和の状態にある.未飽和の状態にある溶液とは,溶質を外から加えて,そこにさらに溶かし込むことのできる溶液である.ある温度で,ちょうど溶けていられるだけの溶質を含んだ溶液を飽和溶液(saturated solution)とよぶ.これに対し,温度を変えることにより(3.3.1項),あるいは溶媒を蒸発させてその総量を減らすことにより(3.1.2項),溶けていられないほどの溶質を含むことになった溶液が過飽和溶液(supersaturated solution)である.結晶は,過飽和溶液からのみ析出する.・・・(略)・・・」(第17頁-第19頁「2.2 有機低分子の結晶を作る方法」及び「2.3 飽和と過飽和の概念」)

(8e)「医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.・・・(略)・・・
一般に使用される晶析溶媒としては,・・・(略)・・・酢酸エチル・・・(略)・・・などである.
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる.
(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する.
(2)試料を水浴上で加熱した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する.
・・・(略)・・・」(第78頁?第79頁「4.5.1 一般的な結晶化条件」の欄、なお、ろ過の「ろ」は「サンズイ」に「戸」。)

(9)刊行物9:杉本 功ら,溶媒和物,非晶質固体と医薬品製剤,粉体工学会誌,1985年,vol.22, no.2, pp.85-97
本願優先日前に頒布された刊行物である上記刊行物9には、次の記載がある。
(9a)「このように非晶質固体の製剤研究が報告されたのは比較的新しいが,報告は大変少ない。結晶状態に比べて非晶質体の位置エネルギーが高いので,調製法がむずかしかったり,たやすく安定形に転移してしまうためこの分野における研究が遅れているものと思われる。上記ノボビオシンの場合はNa塩水溶液を酸性として非晶質ノボビオシン(酸)を得ているが,たやすく,特に高温下では安定な結晶形に転移してしまうと述べられている。このため非晶質体を用いてそのまま製剤化は困難と思われ,以下で述べるように高分子化合物中に分散して安定化が必要と思われる。」(第90頁右欄第8行?第18行)

2 刊行物1に記載された発明について
刊行物1には、ベラパミルのラセミ分割方法に関する発明が記載されており(摘記(1a)参照)、摘記(1b)によれば、(S)-ベラパミル-塩酸塩を得た、残りの母液(当該母液は当然(R)-ベラパミルが溶解している。)を濃縮し、これと(+)-O,O’-ジベンゾイル-D-酒石酸-水化物を、メタノール/水(=2:1)に溶かして沈殿を得、再結晶した後、遊離させた塩基を塩酸塩にして、ジイソプロピルエーテル/イソプロパノール3:2からの1回の再結晶の後に、(R)-ベラパミル-塩酸塩を得た例が具体例として開示されている。

そうすると、刊行物1には、
「(R)-ベラパミル-塩酸塩の結晶」の発明
(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)本願発明と刊行物1発明との対比
刊行物1発明の「(R)-ベラパミル-塩酸塩」は、一つの光学活性体として立体構造が決まっているから、本願発明の「(R)-(+)ベラパミル塩酸塩」に相当する。
そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、
「(R)-(+)ベラパミル塩酸塩の結晶」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:結晶の物性に関して、本願発明においては、「粉末X線回折パターンが、反射角2θとして、12.7°±0.1°、18.7°±0.1°、19.2°±0.1°、20.2°±0.1°、及び21.2°±0.1°に特異的なピークを示す」「E型」の結晶と特定されているのに対し、刊行物1発明では、E型の結晶であること及びその粉末X線の回折パターンが特定されていない点。

(2) 相違点の検討
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)刊行物2の摘記(2a)によれば、(R)-ベラパミルは、がんの化学療法に有用であることが示唆されており、光学活性体について言及されていないものの、摘記(3a)、(4a)の記載からみて、ベラパミルは医薬活性を有する化合物であると理解できる。
また、摘記(7a)の「原薬のFormによっては,これらの物理化学的性質に問題を有する場合があり,これらは異なるFormを適用することで制御できる可能性がある。一方,構成分子が同一であっても多くの場合,結晶多型が存在し,熱力学的準安定形は最安定形へ転移する性質を有する。臨床開発段階及び上市後の最安定形の出現は,開発の遅延,並びに上市後の製品出荷中止等の原因となることもある。」(下線は当審による。以下同じ。)、摘記(8a)の「結晶は晶析条件に依存して様々な構造,形状,大きさ,凝集状体などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える」、摘記(8b)の「複数の結晶相が存在する結晶多型は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.」等の記載にあるように物質を医薬として用いる際には、結晶形によって、溶解性や安定性等が異なることから、それぞれの医薬に適した結晶形態を選択する強い動機付けがある。

(イ)本願発明のE型の結晶の製造方法について検討する。
【0026】には「一実施形態によれば、(R)-(+)ベラパミル塩酸塩の新規な結晶は、飽和酢酸エチル(EtOAc)溶液から調製される。・・・(略)・・・」と記載され、
実施例には、
「【0051】
1.2 E型結晶の製造
【0052】
(R)-(+)ベラパミル塩酸塩をEtOAcに溶解し、「材料及び方法」の項に記載の手順に従って結晶化させた。」と記載され、その際の「材料及び方法」に相当する記載としては、
「【0038】
[材料と手順]
【0039】
<材料>
(R)-(+)ベラパミル塩酸塩(生泰合成工業股▲ふん▼有限公司製)
【0040】
<結晶化>
結晶化は、高温の飽和溶液から緩やかに及び/又は急速に冷却することによって行った。概して、約30mgの(R)-(+)ベラパミル塩酸塩を、以下の表1に列挙された溶媒、及び他にN、N-ジメチルアセトアミド、酢酸などに、53?70℃ですべての粉末が完全に溶解するための最小量の溶媒に溶解させた。温度は溶媒の選択によって変化する。EtOAcを使用する場合、約30mgの(R)-(+)ベラパミル塩酸塩粉末を53?60℃でEtOAcの可能な最少量に溶解した。1,4-ジオキサン/ヘプタン(1:1)の混合物を使用した場合、同様の粉末を60℃で溶解し、一方、トルエンを使用した場合、粉末を少なくとも少量のトルエンに溶解し、粉末が完全に溶解するまで約70℃に加熱した。次いで、溶液を2つの異なるバイアルに入れ、それぞれ急速冷却及び低速冷却に付した。ゆっくり冷却するために、バイアルを室温(約25℃)まで冷却したままにした。速やかに冷却するために、バイアルを直ちに氷浴に入れて約4℃に冷却した。速い冷却又は遅い冷却のいずれの溶液も、3日以内放置した。」と記載されている。
上記のように、本願発明では、溶媒としては酢酸エチルが用いられ、具体的操作としては飽和溶液を冷却する方法が用いられている。

(ウ)結晶溶媒として酢酸エチルは、摘記(5b)、(6a)において、最も一般的に用いられている溶媒のひとつとして示され、また、ベラパミル塩酸塩の結晶溶媒として実際に広く用いられているものであるから(摘記(2b)、(3b))、当業者であれば、当然選択できる結晶溶媒である。

(エ)結晶を得る操作としては、上記(イ)のとおり、飽和溶液を冷却する方法が記載されているが、冷却法は、摘記(8d)に、「一般に結晶化には,溶液(solution)からの結晶成長,融液(melt)からの結晶成長,気相(vapor phase, gas phase)を介した結晶成長がある.・・・(略)・・・そこで,もっとも一般的に使えると想定され,3.1節に加えて3.5節でも紹介されている溶液からの結晶成長を考えることにする.
・・・(略)・・・ある温度で,ちょうど溶けていられるだけの溶質を含んだ溶液を飽和溶液(saturated solution)とよぶ.これに対し,温度を変えることにより(3.3.1項),あるいは溶媒を蒸発させてその総量を減らすことにより(3.1.2項),溶けていられないほどの溶質を含むことになった溶液が過飽和溶液(supersaturated solution)である.結晶は,過飽和溶液からのみ析出する.」と記載されており、さらに、摘記(8e)には、「医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.・・・(略)・・・
一般に使用される晶析溶媒としては,・・・(略)・・・酢酸エチル・・・(略)・・・などである.
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる.
(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する.
(2)試料を水浴上で加熱した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時ろ過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する.・・・(略)・・・」と記載されているとおり、飽和溶液を徐々に冷却又は急冷することで、飽和溶液を過飽和溶液にして、そこから結晶を得るという手法自体も最も一般的に用いられ、当業者が最初に検討するべき方法といえる。

(オ)したがって、刊行物1発明において、新たな結晶多型を検討するという強い動機付けのもと、結晶化溶媒として最も一般的な酢酸エチルを採用し、最も一般的であるといえる冷却法によって、本願発明のE型の結晶を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、結晶構造の特定に、粉末X線回折を用いることは技術常識であり(摘記(7c)、(7d)、(8c))、本願発明におけるピークのそれぞれの値は、得られた結晶について粉末X線回折の測定をしたものを表示しただけのことに過ぎない。
よって、刊行物1において、相違点1に係る技術的事項を特定することは、当業者が容易になし得た事項であるといえる。

イ 本願発明の効果について
本願明細書【0005】には、E型結晶が改善された、保存安定性、溶解性及び/又は純度を有し、湿式造粒のような典型的な薬学的条件下で処理することがより容易であることが記載され、実施例(特に【0064】?【0067】等)には、安定性についての具体例が開示されている。
上記実施例においては、非結晶型(いわゆる比較例)と結晶型(E型結晶)を比較し、E型結晶が保存安定性に優れることが示されているといえるところ、結晶の種類によって物理的化学的安定性が異なることは周知であり(摘記(7a)、(8a))、非結晶型よりも結晶型の方が構造的に安定なのは明らかであるから(摘記(9a))、E型結晶が格別顕著な保存安定性を有するとはいえない。
溶解性、純度の改善及び典型的な薬学的条件下での処理については、どの程度改善されたか、典型的な薬学的条件下での処理がどうであったかということも明細書に具体的には記載されていない。また、摘記(8a)に「結晶は晶析条件に依存して様々な構造,形状,大きさ,凝集状体などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.」と記載されているとおり、結晶の種類によって物理化学的性質は異なるのだから、仮にそれらについて本願発明の結晶が他の結晶型の結晶に比べて優れていたとしても、顕著な効果であるとはいえない。
さらに、純度の改善については、仮に、出発物質の非晶質型のものよりも純度が上がったことを意味しているとすると、それは、再結晶を行ったことにより当然得られる結果であり、本願発明が格別顕著な効果を奏するともいえない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成30年5月25日付け意見書第7頁及び平成31年1月18日審判請求書第8頁?第10頁に、進歩性に関して、刊行物2?4(それぞれ、引用文献5?7)は、ラセミ混合物から、(R)-(+)-ベラパミルを得るために酢酸エチルを用いており、特定のE型の(R)-(+)ベラパミル結晶を製造するために酢酸エチルを用いることを教示しておらず、また、刊行物5、6(それぞれ、引用文献10、12)については、それぞれ70種、24種の異なる結晶化溶媒が挙げられている中で、特定のE型結晶のために酢酸エチルを用いるかは記載されていないから、それらの中から酢酸エチルを選択することは容易ではない旨の主張をする。
しかし、前述のとおり、刊行物5、6に記載された、再結晶に用いられ得る溶媒のうち、最も一般的な結晶溶媒のひとつとして酢酸エチルは知られており、さらに、ベラパミル塩酸塩の再結晶溶媒として酢酸エチルが用いられているのであるから、請求人は、結晶化溶媒として一定数のものが存在していることに言及しているが、当然酢酸エチルを用いて結晶を得ることを当業者が検討するものといえる。
したがって、刊行物1発明である、(R)-ベラパミル塩酸塩の結晶について、多型結晶を得るために、スクリーニングを行い、出願時に一般的に結晶化溶媒として用いられ、そのラセミ体について結晶が得られることが分かっている酢酸エチルを用いようとするのは、当業者にとって困難なことではない。
なお、念のため刊行物5、6に挙げられた結晶溶媒の種類の数が一定数存在することについて言及すると、摘記(7c)、(7d)及び(8c)等には、溶媒を含めた諸条件について大量スクリーニングを行う方法が記載されており、単純に刊行物5、6に挙げられた程度の種類の数について、スクリーニングを行う方法は、出願時に確立していたといえる。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-05 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-25 
出願番号 特願2017-522983(P2017-522983)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 薄井 慎矢新留 素子伊藤 幸司  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
神野 将志
発明の名称 ベラパミル塩酸塩の結晶型  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 伊藤 寛之  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ