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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 D06M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06M |
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管理番号 | 1364824 |
審判番号 | 不服2019-10045 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2019-07-31 |
確定日 | 2020-08-05 |
事件の表示 | 特願2016-517245「フルオロポリマー複合体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月11日国際公開、WO2014/195225、平成28年 7月14日国内公表、特表2016-520732〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2014年(平成26年)5月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年6月4日、欧州)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年6月25日付け :拒絶理由通知 平成30年12月27日 :意見書、手続補正書の提出 平成31年3月29日付け :拒絶査定 令和1年7月31日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和1年7月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載を補正する以下の補正事項(以下、「補正事項」という。)を含むものである。 (1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「フルオロポリマー複合体を製造する方法であって、以下の逐次的工程: (i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(VDF)]を10重量%?40重量%含む水性ラテックスであって、有機溶媒を含まない水性媒体中において、フッ化ビニリデン(VDF)と、任意選択により、VDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーとの水性乳化重合により得られ得る、水性ラテックスを得る工程と; (ii)工程(i)で得られた前記水性ラテックスを濃縮し、それにより、45重量%?60重量%の少なくとも1つのポリマー(VDF)を含む濃縮水性ラテックスを得る工程と; (iii)1つの連続繊維または連続繊維の束を、工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させる工程と; (iv)工程(iii)で得られた含浸繊維材料を絞る工程と; (v)工程(iv)で得られた絞られた繊維材料を乾燥させる工程と; (vi)工程(v)で得られた乾燥繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する工程と; (vii)工程(vi)で得られた被覆繊維材料を冷却する工程と; (viii)任意選択により、工程(vii)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)?(vii)にかける工程と; (ix)任意選択により、工程(viii)を1回以上繰り返す工程と を含む方法。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「フルオロポリマー複合体を製造する方法であって、以下の逐次的工程: (i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(VDF)]を10重量%?40重量%含む水性ラテックスであって、有機溶媒を含まない水性媒体中において、フッ化ビニリデン(VDF)と、任意選択により、VDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーとの水性乳化重合により得られ得る、水性ラテックスを得る工程と; (ii)工程(i)で得られた前記水性ラテックスを濃縮し、それにより、45重量%?60重量%の少なくとも1つのポリマー(VDF)、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤[界面活性剤(NS)]および効果に影響を与えない範囲の他の物質からなる濃縮水性ラテックスを得る工程と; (iii)1つの連続繊維または連続繊維の束を、工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、前記連続繊維は連続炭素繊維である工程と; (iv)工程(iii)で得られた含浸繊維材料を絞る工程と; (v)工程(iv)で得られた絞られた繊維材料を乾燥させる工程と; (vi)工程(v)で得られた乾燥繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する工程と; (vii)工程(vi)で得られた被覆繊維材料を冷却する工程と; (viii)工程(vii)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)?(vii)にかける工程と; (ix)工程(viii)を1回以上繰り返す工程と を含む方法。」(下線は補正箇所である。) 2 本件補正の適否について 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「濃縮水性ラテックス」及び「連続繊維」について、それぞれ「少なくとも1つの非イオン性界面活性剤[界面活性剤(NS)]および効果に影響を与えない範囲の他の物質からなる」及び「連続炭素繊維であ」るとの限定を付加し、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「工程(vii)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)?(vii)にかける工程」及び「工程(viii)を1回以上繰り返す工程」について、「任意選択」であったものが「任意選択」ではなくなった点で限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものであるところ、本件補正によって、請求項1に付加された「効果に影響を与えない範囲の他の物質」という記載について、「効果」が何のどのような効果であるのかが不明であるため、「効果に影響を与えない範囲の他の物質」がどのような物質であるのかが不明であり、その結果、これを含有する「濃縮水性ラテックス」の組成として、どのようなものが包含されるのかが不明である。 なお、発明の詳細な説明にも、「効果に影響を与えない範囲の他の物質」という記載はないため、仮に、発明の詳細な説明を参酌しても、「効果に影響を与えない範囲の他の物質」が、どのような物質であるのかは不明である。 そうすると、第三者は、「他の物質」として、どの程度の範囲のものであれば、本件補正発明の範囲に属するか判断することができないと言わざるを得ず、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であると言わざるを得ない。 したがって、本件補正発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和1年7月31日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1-10,13-22に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、また、この出願の請求項10,11に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献5に例示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 1.特開平2-222439号公報 5.欧州特許出願公開第1229091号明細書(周知技術を示す文献) 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平2-222439号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。以下、下線は当審が理解の便宜の為に付した。 ア 「本発明の要旨は、 (a)フッ化ビニリデン系重合体100重量部、 (b)非イオン性界面活性剤0.5?10重量部、および (c)銀、ニッケル、アルミニウムおよびガリウムから成る群から選ばれた少なくとも1種の金属の水溶性塩0.05?10重量部を含有するフッ化ビニリデン系重合体の水性組成物に存する。 フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体またはフッ化ビニリデンを75重量%以上含有する他の単量体との共重合体である。他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、ジフルオロクロロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルフォルメート、酢酸ビニル、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、アリルメタクリレート、アクリロニトリル、N-ブチルメタクリルアミド、アリルアセテート、およびイソプロペニルアセテート等が挙げられる。」(2ページ左下欄18行?3ページ左上欄1行) イ 「フッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンおよび要すれば他の単量体を水系溶媒中で常套手段により乳化重合することによって得られる。乳化重合において使用する乳化剤は、例えば、パーフルオロオクタン酸アンモニウムである。乳化剤の暈は、通常、単量体100重量部に対して0.1?2%である。乳化重合により得られたディスパージョンにおける重合体の濃度は、通常、10?25重量%である。」(3ページ左上欄20行?右上欄8行) ウ 「本発明の組成物は、前記成分に加えて、次のような任意配合成分、例えば、成膜助剤、顔料またはバインダー樹脂などを含んでよい。 1)成膜助剤 本発明の組成物は、組成物の塗装を容易にし成膜を促進する成膜助剤として作用する有機溶剤を含有してよい。 ・・・ これらの有機液体は、その1種または2種以上を前記単独使用できる有機液体またはブチルアルコール、アミノアルコールの如き水に溶解し重合体を溶解しない有機液体の1種または2種以上を混合して、水に溶解できるように調節された混合有機液体として使用に供する。有機液体と水とを、例えば20:80?90:10(重量比)の割合で混合し、これをフッ化ビニリデン系重合体の液体媒体として用いる。」(4ページ左上欄8?右下欄1行) エ 「本発明の水性組成物は、例えば、以下のようにして製造できる。乳化重合で得られたフッ化ビニリデン系重合体の水性ディスパージョンと、非イオン性界面活性剤の水溶液とを混合し、水性媒体を除去し、樹脂濃度35?65重量%、好ましくは40?60重量%の濃縮ディスパージョンを調製し、分解促進剤を混合して水性組成物を得ることができる。水性媒体の除去は、例えば、混合液を放置することによって生じる上澄液を除去することによって行える。混合操作において、強いせん断力が加わると、樹脂の繊維化や凝析が起こることがあるので、高速せん断は避けるべきである。 本発明の組成物は、公知の方法で基材に塗布することができる。塗布には、例えば、含浸法、ロールコート法、スプレーコート法、ハケ塗り法、バーコート法、ナイフコート法、電着法などの方法を用いることができる。基材に組成物を塗布した後、80℃?300℃、好ましくは150?280℃程度で焼成して成膜を行う。水分の急激な蒸発によって生ずるマッドクラックを防ぐために赤外線乾燥器などを用いて焼成前に乾燥工程を加えることもできる。本発明の組成物を適用できる基材は、フッ化ビニリデン系重合体の焼成温度の低い温度で耐熱性がある基材である。基材の例は、ガラス繊維、カーボン繊維、アスベスト、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維などから成る織物などの繊維製品、ステンレススチール、鉄、アルミニウムなどの金属、大理石などの石材などである。」(5ページ右上欄15行?右下欄3行) オ「実施例1?24 樹脂濃度20重量%のフッ化ビニリデン(VdF)ホモ重合体の水性ディスパージョン(重合体の平均粒径0.25μm、数平均分子量15万)を用いた。このディスパージョン80重量部にニッサンHS-208(日本油脂製、非イオン性界面活性剤)の20重量%水溶液10重量部を加えて撹拌混合し、室温下で1日放置した。上澄液を除去し、樹脂濃度60重量%、非イオン性界面活性剤濃度2重量%の濃縮ディスパージョンを得た。水性ディスパージョンは有機溶剤のN-メチル-2-ピロリドンを含有していたので、濃縮ディスパージョンにおけるN-メチル-2-ピロリドンの量は、フッ化ビニリデンホモ重合体100重量部に対して50重量部であった。 なお、重合体の平均粒径は光透過型粒度分布計CAPA-500(堀場製作所株式会社製)を用いて測定した。数平均分子量(ポリスチレン換算値)は、ウォーターズ150C(日本ウォターズ株式会社製)を用いて、ジメチルホルムアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフによって70℃で測定した。 フッ化ビニリデンと他モノマーの共重合体についても同様にして濃縮ディスパージョンを作成した。 次いで、濃縮ディスパージョンに分解促進剤として、水溶性塩の水和物AgClO_(4)・H_(2)O、AgClO_(3)・H_(2)O、AgNO_(3)・H_(2)O、AgNO_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(4))_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(3))_(2)・H_(2)O、Ni(NO_(3))_(2)・H_(2)OまたはNi(NO_(2))_(2)・H_(2)Oを配合し、水性分散液を得た。塩水和物の結晶水を除く塩が重合体100重量部に対して所定の量になるように配合した。」(6ページ左上欄8行?右上欄20行) カ 「試験例2 実施例1?24および比較例1?5の水性組成物を以下の方法でガラスクロスに含浸して焼成し、被覆物を得た。基材としてガラスクロスTR-607(カネボウ株式会社製)を用いた。基材の寸法は400mm×400mmであり、平均重量は391g/m^(2)であった。予め、水性組成物1kgをバットに入れておき、クロスを浸漬して水性組成物を含浸させ、泡がクロスの表面に残らないように、絞りロールで1回絞り、余分の液を切りクロスを熱風循環式乾燥器により200℃で10分間焼成した。含浸および焼成は、フッ化ビニリデン系重合体の水性組成物については4回、PTFEの水性組成物については6回行った。被覆物における塗布乾量は約250g/m^(2)であった。」(8ページ左下欄3?17行) キ 前記ウから、有機溶剤は、「水性組成物」の任意配合成分であり、「水性組成物」の製造にあたり、有機溶剤を含まないフッ化ビニリデン系重合体の液体媒体を用いることができることがわかる。 したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「有機溶剤のN-メチル-2-ピロリドンを含有している樹脂濃度20重量%のフッ化ビニリデン(VdF)ホモ重合体の水性ディスパージョン80重量部に非イオン性界面活性剤の20重量%水溶液10重量部を加えて撹拌混合し、室温下で1日放置し、上澄液を除去し、樹脂濃度60重量%、非イオン性界面活性剤濃度2重量%の濃縮ディスパージョンを得て、次いで、濃縮ディスパージョンに分解促進剤として、水溶性塩の水和物AgClO_(4)・H_(2)O、AgClO_(3)・H_(2)O、AgNO_(3)・H_(2)O、AgNO_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(4))_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(3))_(2)・H_(2)O、Ni(NO_(3))_(2)・H_(2)OまたはNi(NO_(2))_(2)・H_(2)Oを配合し、水性分散液を得て、この水性分散液にガラスクロスを浸漬して、ガラスクロスに水性組成物を含浸させ、絞りロールで1回絞り、余分の液を切りクロスを熱風循環式乾燥器により200℃で10分間焼成し、含浸および焼成は、フッ化ビニリデン系重合体の水性組成物について4回行う、被覆物を得る方法。」 4 対比 引用発明の「被服物を得る方法」は、本願発明の「フルオロポリマー複合体を製造する方法」に相当する。 引用発明の「樹脂濃度20重量%のフッ化ビニリデン(VdF)ホモ重合体の水性ディスパージョン」は、本願発明の「フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(VDF)]を10重量%?40重量%含む水性ラテックス」に相当する。 引用発明の「有機溶剤のN-メチル-2-ピロリドンを含有している」「水性ディスパージョン」は、「水性媒体中において、フッ化ビニリデン(VDF)と、任意選択により、VDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーとの水性乳化重合により得られ得る」ものである限りにおいて、本願発明の「有機溶媒を含まない水性媒体中において、フッ化ビニリデン(VDF)と、任意選択により、VDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーとの水性乳化重合により得られ得る」ものと一致する。 引用発明の「室温下で1日放置し、上澄液を除去し、樹脂濃度60重量%、非イオン性界面活性剤濃度2重量%の濃縮ディスパージョンを得て、次いで、濃縮ディスパージョンに分解促進剤として、水溶性塩の水和物AgClO_(4)・H_(2)O、AgClO_(3)・H_(2)O、AgNO_(3)・H_(2)O、AgNO_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(4))_(2)・H_(2)O、Ni(ClO_(3))_(2)・H_(2)O、Ni(NO_(3))_(2)・H_(2)OまたはNi(NO_(2))_(2)・H_(2)Oを配合し、水性分散液を得」ることは、本願発明の「工程(i)で得られた前記水性ラテックスを濃縮し、それにより、45重量%?60重量%の少なくとも1つのポリマー(VDF)を含む濃縮水性ラテックスを得る」ことに相当する。 引用発明の「ガラスクロス」は、多数の「連続繊維または連続繊維の束」で構成されるものであり、「連続繊維または連続繊維の束」である限りにおいて、本願発明の「1つの連続繊維または連続繊維の束」に一致するから、 引用発明の「この水性分散液にガラスクロスを浸漬して、ガラスクロスに水性組成物を含浸させ」たことは、「連続繊維または連続繊維の束を、工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させる」である限りにおいて、本願発明の「1つの連続繊維または連続繊維の束を、工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させる」に相当し、引用発明の「絞りロールで1回絞り、余分の液を切り」は、本願発明の「工程(iii)で得られた含浸繊維材料を絞る」に相当する。 引用発明の「クロスを熱風循環式乾燥器により200℃で10分間焼成し」たことは、「繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する」ことである限りにおいて、本願発明の「工程(v)で得られた乾燥繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する」ことに相当する。 引用発明の「含浸および焼成は、フッ化ビニリデン系重合体の水性組成物について4回行う」は、「任意選択により、工程(vi)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)(vi)にかける」である限りで、本願発明の「任意選択により、工程(vii)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)?(vii)にかける」に相当すると共に、本願発明の「任意選択により、工程(viii)を1回以上繰り返す」ことに相当する。 したがって、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「フルオロポリマー複合体を製造する方法であって、以下の逐次的工程: (i)フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(VDF)]を10重量%?40重量%含む水性ラテックスであって、水性媒体中において、フッ化ビニリデン(VDF)と、任意選択により、VDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーとの水性乳化重合により得られ得る、水性ラテックスを得る工程と; (ii)工程(i)で得られた前記水性ラテックスを濃縮し、それにより、45重量%?60重量%の少なくとも1つのポリマー(VDF)を含む濃縮水性ラテックスを得る工程と; (iii)連続繊維または連続繊維の束を、工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させる工程と; (iv)工程(iii)で得られた含浸繊維材料を絞る工程と; (vi)工程(v)で得られた乾燥繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する工程と; (viii)任意選択により、工程(vi)で得られた前記被覆繊維材料を工程(ii)で得られた前記濃縮水性ラテックスと接触させ、およびそのようにして得られた含浸繊材料を逐次的工程(iv)(vi)にかける工程と; (ix)任意選択により、工程(viii)を1回以上繰り返す工程と を含む方法。」 [相違点1] 「水性媒体」について、本願発明は「有機溶媒を含まない」ものであるのに対し、引用発明は「有機溶媒」を含むものである点。 [相違点2] 「連続繊維または連続繊維の束」について、本願発明は「1つの連続繊維または連続繊維の束」であるのに対し、引用発明は「ガラスクロス」である点。 [相違点3] 「繊維材料を、190℃?240℃の間に含まれる温度で焼成する」にあたり、本願発明は「絞られた繊維材料を乾燥させる」のに対し、引用発明はそのようにしていない点。 [相違点4] 本願発明は「焼成」後に「被覆繊維材料を冷却する」のに対し、引用発明はその点不明である点。 5 判断 [相違点1]について 前記3のウによれば、成膜助剤である有機溶媒は、任意配合成分であり、必須のものではないから、引用発明において、有機溶媒を含まないものとし、上記相違点1に係る本願発明のようにすることは、引用文献1の記載に基づき、当業者が適宜になし得たことである。 [相違点2]について 前記3のエによれば、水性組成物が含浸される基材は、フッ化ビニリデン系重合体の焼成温度の低い温度で耐熱性があればよく、クロスに限られるものではないから、引用発明において、水性組成物が含浸される基材として、ガラスクロスに換えて、ガラス繊維とし、上記相違点2に係る本願発明のようにすることは、引用文献1の記載に基づき、当業者が適宜になし得たことである。 [相違点3]について 前記3のエによれば、水分の急激な蒸発によって生ずるマッドクラックを防ぐために赤外線乾燥器などを用いて焼成前に乾燥工程を加えることもできるとのことであるから、引用発明において、焼成前に乾燥工程を加え、上記相違点3に係る本願発明のようにすることは、引用文献1の記載に基づき、当業者が適宜になし得たことである。 [相違点4]について 引用発明において、焼成が終了すれば、熱風循環式乾燥器による加熱が終了することは自明であり、加熱が終了すれば、その終了時点から、冷却は始まるところ、引用文献には、この冷却を妨げるために別途加熱し続けることは記載されておらず、また、そうしなければならない特段の事情も見いだせないから、引用発明において、焼成後に冷却され、上記相違点4に係る本願発明のようにすることは、引用発明を実施する際、自然となされることである。 そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献1に記載された事項の奏する作用効果の総和内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2020-03-03 |
結審通知日 | 2020-03-10 |
審決日 | 2020-03-24 |
出願番号 | 特願2016-517245(P2016-517245) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(D06M)
P 1 8・ 121- Z (D06M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小石 真弓 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
武内 大志 石井 孝明 |
発明の名称 | フルオロポリマー複合体の製造方法 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |