• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1364834
審判番号 不服2019-1772  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-07 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 特願2017-101635「通信方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日出願公開、特開2017-159665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成21年1月28日に出願した特願2009-17209号の一部を、平成24年4月20日に新たな特許出願とした特願2012-97020号の一部を、平成25年5月23日に新たな特許出願とした特願2013-109275号の一部を、平成25年9月20日に新たな特許出願とした特願2013-195917号の一部を、平成26年2月26日に新たな特許出願とした特願2014-35880号の一部を、平成26年9月4日に新たな特許出願とした特願2014-180152号の一部を、平成27年12月18日に新たな特許出願とした特願2015-247753号の一部を平成29年5月23日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年 8月13日:意見書、手続補正書の提出
平成30年11月 1日付け:拒絶査定
平成31年 2月 7日:審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成31年2月7日の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成31年2月7日にされた手続補正を却下する。

[補正却下の理由]

1.手続補正の内容

平成31年2月7日の手続補正(以下、「本件補正」という)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、本件補正前の(1)のとおりの記載から、本件補正後の(2)のとおりの記載に補正された(下線は補正により変更された部分を示す)。

(1)本件補正前の請求項1(平成30年8月13日の手続補正書)
【請求項1】
原稿の画像を読み取る読取手段と外部装置から画像データを受信する送受信手段とを備え、受信した画像データに基づき画像を印刷する画像形成装置を用いた通信方法において、
前記送受信手段の識別情報を、前記外部装置に送信手段により送信し、
前記外部装置が前記識別情報を用いて送信する画像データを、前記送受信手段が受信し、
前記外部装置と自装置との間の通信は無線で行われ、受信した画像データを印刷し、
前記印刷の結果を通知するデータを前記送受信手段により前記外部装置に送信し、
前記外部装置が、前記印刷の結果を通知するデータに基づいて音を出力する
ことを特徴とする通信方法。

(2)本件補正後の請求項1
【請求項1】
原稿の画像を読み取る読取手段と外部装置から画像データを受信する送受信手段とを備え、受信した画像データに基づき画像を印刷する画像形成装置を用いた通信方法において、
前記送受信手段の識別情報を、前記外部装置に送信手段により送信し、
前記外部装置が前記識別情報を用いて送信する画像データを、前記送受信手段が受信し、
前記外部装置と自装置との間の通信は無線で行われ、受信した画像データを印刷し、
異常発生有無を含む前記印刷の結果を通知するデータを前記送受信手段により前記外部装置に送信し、
前記外部装置が、前記印刷の結果を通知するデータに基づいて音を出力する
ことを特徴とする通信方法。

2.補正の適否

(1)本件補正の目的

この補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「印刷の結果を通知するデータ」について、「異常発生有無を含む前記印刷の結果を通知するデータ」と限定するものであって、その本件補正の前後で、請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定された特許出願の際独立して特許を受けられるものであるか否かについて以下検討する。

(2)独立特許要件についての判断

ア 本件補正発明

本件補正発明は、上記1.(2)の記載により特定されるとおりのものである。

イ 引用発明

原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2007-87308号公報(以下、「引用文献1」という)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下同様。)。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷システムおよび印刷制御方法に係り、特に、印刷装置と端末装置とを含むネットワーク内において、端末装置と印刷装置との間でコネクションを確立する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、通信機能を備える複数の端末間でデータ通信が行われている。このデータ通信には、有線や無線のLAN(LocalAreaNetwork)によって接続されているネットワークを使用するものがある。また、IrDA(InfraredDataAssociation)、ブルートゥース(Bluetooth)等の規格に定められている無線を使用するものがある。
【0003】
このような通信機能を備えている複数の端末間でデータ通信する場合、通信することができる端末を検出する端末検出動作を実行する。たとえば、無線を使用し、移動してデータ通信する無線通信端末において、通信に先だって、通信圏内の端末を検出する端末検動作を実行する。
【0004】
この端末検出動作では、予め定められている周波数に割り当てられている固定の制御チャネルを用い、このチャネルで、検出のための問い合わせ信号を送信し、送信した問い合わせ信号に対する応答信号を受信することによって検出する。
【0005】
無線通信ネットワークを形成する前に、無線通信の相手となる電子機器が存在している位置を、迅速、容易かつ視覚的に認識することができる無線通信システムおよび電子機器の検索方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
また、近年では、携帯電話のデータ転送サービスや、ホットスポット(無線LANスポット)等が普及しつつあり、従来のようにオフィスや家庭だけでなく、いつでもどこでも手軽に端末装置間でデータ転送をすることができる。
【特許文献1】特開2002-101104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のネットワーク環境で印刷する場合、出力したい印刷装置が目の前にあっても、その印刷装置のIDやアドレスを取得するために、上記端末検出動作を一旦、実行しなければならない。したがって、出力したい印刷装置が目の前にあるにもかかわらず、上記端末検出動作を実行することが、煩雑であるという問題がある。
【0008】
また、検索の結果、複数の印刷装置が見つかれば、一覧表示された通信相手の中から、出力する印刷装置を選択する必要がある。この場合、出力したい印刷装置と同一の機種が複数見つかれば、検索結果一覧の中からどの印刷装置を選択すればよいのかを、瞬時に把握できない。
【0009】
このように、端末検出動作を行うために、ユーザは、複数の操作を所定の手順に従って行わなければならず、ユーザの操作によって通信プログラムを実行して端末検出を行うことが煩わしいという問題がある。
【0010】
本発明は、印刷装置を検出するための動作を必要とせずに、印刷装置と端末装置との間のコネクションの確立を実現することができる印刷システムおよびその制御方法を提供することを目的とする。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明を実施するための最良の形態は、次の実施例である。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明における印刷装置100を示すブロック図である。
【0016】
印刷装置100は、I/F部31と、表示部32と、入力部33と、印刷部34と、制御部35と、メモリ部36と、RFID部37と、システムバス38とを有する。
【0017】
I/F部31は、USB(UniversalSerialBus)、IEEE802.3、IEEE802.11、Bluetooth、IrDA等からなる、後述の端末装置200と接続する双方向インタフェースである。このインタフェースを経由して、端末装置200から、プリンタ制御コマンドや印字データを受信し、印刷装置100の内部の状態等を通知する。
【0018】
表示部32は、LEDや液晶モニタ等によって構成されている表示装置であり、印刷装置100の状態、設定メニューや設定情報等を表示する。
【0019】
入力部33は、電源/リセットボタン、操作パネル等によって構成され、印刷装置100に命令を入力する。印刷部34は、プリンタエンジンであり、制御部35によって制御され、メモリ部36に記憶されている制御プログラムによって、システムバス38を介して出力された印字データを受け、実際の印刷を行う。
【0020】
制御部35は、印刷装置100の全体を制御するものであり、メモリ部36に記憶されている制御プログラムに基づいて、I/F部31で受信したプリンタ制御コマンドや印字データを、印刷部34に送る。
【0021】
メモリ部36は、ROMとRAMとを有し、印刷装置100を制御するプログラムや起動時に読み込む設定情報、フォント等の各種データを記憶している。また、制御部35が制御を実行するときに、ワークエリアとして使用するデータの一時記憶領域である。
【0022】
RFID部37は、デバイスクラス、処理可能なコマンド体系、出力可能なフォーマット、対応インタフェースおよびプロトコル、アドレス情報等、印刷装置100の固有の情報が記憶されている無線ICタグである。この無線ICタグを内蔵した端末装置200が通信圏内に存在しているときに、印刷装置100の固有の情報を送信する。
【0023】
システムバス38は、上記各部を接続するバスである。
【0024】
図2は、RFID部37の内部構成を示すブロック図である。
【0025】
RFID部37は、アンテナ部41と、電源部42と、制御部43と、不揮発メモリ部44と、送信部45とを有する。
【0026】
電源部42は、端末装置200に設けられている後述のRFID読取部56から供給された高周波の電力をアンテナ部41から受け取ると、その旨を、後述する制御部43に通知する。
【0027】
制御部43は、電源部から通知を受けると、所定時間経過後に不揮発メモリ部44に記憶されている情報を読み出し、その識別情報をシリアルデータに変換する。
【0028】
不揮発メモリ部44は、デバイスのクラス(Printer)、モデル名、処理可能なコマンド体系、出力可能なフォーマット(TXT、JPEG、HTML等)を保持している。また、その他に対応プロトコル、プロトコルに応じたアドレス(BluetoothとBD_ADDR、IrDAとマシンID等)等も保持している。
【0029】
送信部45は、識別情報を制御部43が変換したシリアルデータに従って、電源部42に変調信号を供給する。
【0030】
電源部42は、送信部45から入力された変調信号を搬送波に乗せて、アンテナ部41を通じて電磁波として送出する。」

「【0045】
図5は、ユーザU1が、端末装置200を操作し、印刷装置100で出力する動作を示す模式図である。
【0046】
図5において、RFIDによる通信を、点線の矢印で示してある。
【0047】
ユーザU1は、端末装置200を操作し、印刷の対象となるファイルや画面を選択し、アプリケーションのメニュー等から印刷命令を出す(S1)。
【0048】
端末装置200は、印刷装置100の選択を促すメッセージを、表示部52に表示する(S2)。
【0049】
ユーザU1は、出力させようとする印刷装置100の近傍に、端末装置200を移動する(S3)。
【0050】
印刷装置100のRFID部37に設けられているアンテナ部41が、高周波の電力を受けると、端末装置200が近づいたことを、電源部42が検出する(S4)。この検出によって、不揮発メモリ部44に記憶されている識別情報を、制御部43がシリアル化し(S5)、シリアル化された識別情報を、端末装置200に送信する(S6)。
【0051】
端末装置200は、印刷装置100から識別情報を読み取ると、この読み取った識別情報を解析する(S7)。この解析の結果、接続するインタフェースを選択し(S8)、この選択されたインタフェースを介して、印刷装置100に接続要求を送信する(S9)。
【0052】
印刷装置100は、端末装置200からの接続要求を受信すると、確認応答を送信する(S10)。
【0053】
これによって、端末装置200と印刷装置100との間でコネクションが確立し、端末装置200は、印刷開始コマンドを発行し(S11)、印字データを送信し、印刷装置00が、印刷を開始する(S12)。
【0054】
図6は、図5に示す識別情報の読取、解析(S7)、接続I/Fの選択(S8)、接続要求送信(S9)の動作を示すフローチャートであり、特に、接続I/Fの選択(S8)をより具体的に示すフローチャートである。
【0055】
端末装置200は、印刷装置100が送信した識別情報を読み取ると(S7)、まず、識別情報に含まれる処理可能なコマンド体系と出力可能なデータ形式を調べ、印刷の対象となるファイルや画面が出力可能であるか否かを判定する(S81)。
【0056】
S81における判定の結果、所望の印刷装置100によって出力が不可能であると判断すると、その旨を表示部52に表示し(S82)、印刷装置を選択する画面を表示する(S2)。
【0057】
S81における判定の結果、通信している相手の印刷装置100によって出力が可能であると判断すると、識別情報に含まれている、印刷装置100が具備するインタフェースを調べる。そして、端末装置200が具備するインタフェースとを照合し、接続可能なインタフェースがあるか否かを判定する(S83)。
【0058】
S83における判定の結果、接続可能なインタフェースが無ければ、その旨を表示部52に表示し(S84)、印刷装置を選択する画面を表示する(S2)。
【0059】
S83における判定の結果、接続可能なインタフェースがあれば、その中から1つのインタフェースを選択する(S85)。接続可能なインタフェースが複数あれば、たとえば帯域が広い順に自動的に優先度を定めてもよく、ユーザU1の好みに応じて予め設定できるようにしてもよく、また、その都度、ユーザU1に選択させるようにしてもよい。
【0060】
接続するインタフェースを決定したら、そのインタフェースに対応するアドレスを、識別情報から取得し(S86)、接続要求を送信する。」

図面とともに、上記記載事項の特に下線部に着目すれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「印刷装置100は、I/F部31と、表示部32と、入力部33と、印刷部34と、制御部35と、メモリ部36と、RFID部37と、システムバス38とを有しており、
I/F部31は、USB(UniversalSerialBus)、IEEE802.3、IEEE802.11、Bluetooth、IrDA等からなる、端末装置200と接続する双方向インタフェースであって、このインタフェースを経由して、端末装置200から、プリンタ制御コマンドや印字データを受信し、印刷装置100の内部の状態等を通知しており、
RFID部37は、デバイスクラス、処理可能なコマンド体系、出力可能なフォーマット、対応インタフェースおよびプロトコル、アドレス情報等、印刷装置100の固有の情報が記憶されている無線ICタグであって、この無線ICタグを内蔵した端末装置200が通信圏内に存在しているときに、印刷装置100の固有の情報を送信しており、
RFID部37は、アンテナ部41と、電源部42と、制御部43と、不揮発メモリ部44と、送信部45とを有しており、
電源部42は、端末装置200に設けられているRFID読取部56から供給された高周波の電力をアンテナ部41から受け取ると、その旨を、制御部43に通知し、
制御部43は、電源部から通知を受けると、所定時間経過後に不揮発メモリ部44に記憶されている情報を読み出し、その識別情報をシリアルデータに変換し、
不揮発メモリ部44は、デバイスのクラス(Printer)、モデル名、処理可能なコマンド体系、出力可能なフォーマット(TXT、JPEG、HTML等)を保持し、対応プロトコル、プロトコルに応じたアドレス(BluetoothとBD_ADDR、IrDAとマシンID等)等も保持しており、
送信部45は、識別情報を制御部43が変換したシリアルデータに従って、電源部42に変調信号を供給し、
電源部42は、送信部45から入力された変調信号を搬送波に乗せて、アンテナ部41を通じて電磁波として送出しており、
印刷装置100のRFID部37に設けられているアンテナ部41が、高周波の電力を受けると、端末装置200が近づいたことを、電源部42が検出し、この検出によって、不揮発メモリ部44に記憶されている識別情報を、制御部43がシリアル化し、シリアル化された識別情報を、端末装置200に送信しており、
端末装置200は、印刷装置100から識別情報を読み取ると、この読み取った識別情報を解析し、この解析の結果、接続するインタフェースを選択し、この選択されたインタフェースを介して、印刷装置100に接続要求を送信し、
印刷装置100は、端末装置200からの接続要求を受信すると、確認応答を送信し、
これによって、端末装置200と印刷装置100との間でコネクションが確立し、端末装置200は、印刷開始コマンドを発行し、印字データを送信し、印刷装置100が、印刷を開始する方法。」

ウ その他の引用文献記載事項および周知技術

(ア)引用文献2

a 原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-186942号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。

(a)「【0020】
(プリントシステムの動作)
図3は、図1および図2に示すプリントシステムの動作を示すフローチャートである。
図4は、本発明の実施の形態における携帯型情報通信機器とプリンタの間の接続時および通信時の動作フロー図である。以下に、ブルートゥースによる無線通信に基づいて携帯型情報通信機器10からプリンタ12にアクセスし、プリント依頼を行う場合について説明する。なお、図3におけるSは、ステップを表している。」

(b)「【0026】
プリンタ12は、携帯型情報通信機器10から画像データを受信し(S114)、受信完了後に受信が完了した旨の通知を携帯型情報通信機器10へ送信する(S115)。携帯型情報通信機器10は、受信完了の通知を受信すると(S116)、ブルートゥースによる通信の切断要求をプリンタ12へ送信する(S117)。プリンタ12は、切断要求を受信すると(S118)、通信を切断する(S119)。
【0027】
通信切断後、利用者は、プリントが終了するまで、店内で待つことも、別の店でショッピングをして時間を過ごすことができる。
【0028】
プリンタ12は、通信切断後(S119)、指定のサイズ、紙質、枚数等によりプリントを実施する(S120)。プリンタ12は、プリントが終了すると、プリント終了を利用者に知らせるため、図4(b)に示すように、ブルートゥースによる携帯型情報通信機器10の呼び出しを行う。
【0029】
ブルートゥースの通信可能範囲は、最大で100m程度の距離であり、かつ周囲の状況に応じて変動するため、利用者が店から離れていると、通信圏内17の外になり、通信できない場合がある。呼び出しに対して一定時間応答がないとき、プリンタ12は、ブルートゥースによる携帯型情報通信機器10の呼び出しを中止し、図4(c)に示すように、S110で受信した連絡先情報の電話番号に公衆電話回線13を介して発信する(S121)。携帯電話基地局14は、プリンタ12の発信に基づいて移動通信網を介して携帯型情報通信機器10の呼び出しを行う。利用者が呼び出しに応じて携帯型情報通信機器10を受信状態にすると、プリンタ12から送信されたプリント終了を告げる音声メッセージが終了通知として再生される。
【0030】
なお、連絡先情報として電子メールアドレスが通知されており、終了通知の方法として指定されている場合には、電話による音声メッセージの送信ではなく、電子メールで終了通知を送信することもできる。
【0031】
利用者は、所持した携帯型情報通信機器10によりブルートゥースまたは携帯電話基地局14を介して終了通知を受信すると(S122)、プリントを依頼した店舗へ出向き、プリントされた写真を受けとるとともに、代金の支払いを行う。」

b 以上の記載から、引用文献2には、プリンタが、携帯型情報通信機器から、ブルートゥースによる無線通信を介して、画像データを受信し、プリントを実施し、プリントが終了すると、プリント終了を利用者に知らせるため、ブルートゥースによる携帯型情報通信機器の呼び出しを行い、呼び出しに対して一定時間応答がないとき、プリンタ12は、ブルートゥースによる携帯型情報通信機器の呼び出しを中止し、連絡先情報の電話番号に公衆電話回線を介して発信し、携帯電話基地局は、プリンタの発信に基づいて移動通信網を介して携帯型情報通信機器の呼び出しを行い、利用者が呼び出しに応じて携帯型情報通信機器を受信状態にすると、プリンタから送信されたプリント終了を告げる音声メッセージが終了通知として再生され、利用者は、所持した携帯型情報通信機器によりブルートゥースまたは携帯電話基地局を介して終了通知を受信することが可能な技術が記載されていると認められる。

(イ)引用文献3に例示の周知技術

a 原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として示されていた特開2006?41759号公報(以下、「引用文献3」という。)には以下の記載がある。

(a)「【0018】
画像形成装置2は、スキャナ40と、電子写真方式によってデータを紙媒体に出力するプリントユニット41と、給紙/通紙ユニット42と、無線通信ユニット45と、図3に示す制御部60とを備えている。スキャナユニット40、プリントユニット41及び給紙/通紙ユニット42は従来から周知のものである。」

(b)「【0024】
プリントユニット41にて紙媒体にプリントすべき画像データは、スキャナユニット40にて読み取った通常のドキュメントに表示されている画像形式のデータや、インターフェース65を通じて入力された画像形式のデータ及びテキスト形式のデータである。これらのデータはプリントユニット41や給紙/通紙ユニット42などを駆動して紙媒体に出力する。また、図4?図6に示すように、電子ペーパー端末1に対して出力することも可能である。
【0025】
(電子ペーパー端末への出力、図4?図6参照)
図4に電子ペーパー端末へのデータ出力の第1例を示す。この第1例では、スキャナユニット40にて読み取ったドキュメント情報3Aを電子ペーパー端末1に転送する。」

b 以上の記載から、画像形成装置の技術分野において、ドキュメントの画像データを印字するプリントユニットとともに、ドキュメントの画像をドキュメント情報として読み取る読取手段であるスキャナユニットを備えて、スキャナユニットで読み取ったドキュメントの画像データをプリントユニットで紙媒体に出力したり、スキャナユニットで読み取ったドキュメント情報を端末に転送したりすることは、本出願の出願日前から周知の技術であると認められる。

(ウ)引用文献4に例示の周知技術

a 本願の出願日前に頒布された刊行物である特開1999-194901号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。

(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内線に無線端末を収容するための親機機能をもち、無線端末からのプリント出力データを受信して、プリント出力を行うことができる無線通信機能付きプリンタ装置および無線通信システムに関する。」

(b)「【0042】次に、図8は、内線側の無線端末であるパソコン104がプリント出力データを送信し、プリント出力中である場合について動作を説明するフローチャートである。」

(c)「【0045】プリント出力中にプリンタ部14の紙詰まりといった障害が発生すると(S21)、障害検出部16は障害を検出して(S22)、制御部18に障害の通知および障害内容の通知を行う(S23)。制御部18は、この通知を受信すると、通信制御処理部8にパソコン104への送信信号であるTCHを使用して、無線端末に障害の通知を行うように指示をする(S24)。
【0046】通信制御処理部8は、この指示を受信すると、TCHの情報領域にプリンタ部の障害通知および障害内容を示すデータを送るようにチャネルCODEC部4を制御する(S25)。
【0047】パソコン104は、このTCHを受信して、プリンタ部に障害があり、障害内容を知る(S26)。パソコン104は、操作者に表示部302によるメッセージ表示(例えば「プリンタが紙詰り異常です」)や音声入出力部305によるアラーム音あるいは音声合成出力等を用いて、障害発生、障害内容の通知を行う(S28)。」

b 以上の記載から、無線端末からのプリント出力データを受信して、プリント出力を行うことができる無線通信機能付きプリンタ装置の技術分野において、プリント出力中にプリンタ部の紙詰まりといった障害が発生すると、無線端末に障害の通知を行い、無線端末(であるパソコン)は、操作者に表示部によるメッセージ表示(例えば「プリンタが紙詰り異常です」)や音声入出力部によるアラーム音あるいは音声合成出力等を用いて、障害発生、障害内容の通知を行う技術は本願出願日前に周知であったと認められる。

エ 対比

本件補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「端末装置200」および「印刷装置100」は、それぞれ、本件補正発明の「外部装置」、「画像形成装置」に対応する。

引用発明の「印刷装置100」は、「端末装置200」から、双方向インタフェースであるI/F部31を経由して、「プリンタ制御コマンドや印字データ」を受信しているから、引用発明も、本件補正発明と同様に、外部装置から画像データを受信する送受信手段を備えているといえる。
また、引用発明の「印刷装置100」は、I/F部31を経由して受信した「プリンタ制御コマンドや印字データ」に基づく文書画像等を印刷していることは、当業者にとって明らかであるから、引用発明も、本件補正発明と同様に、受信した画像データに基づき画像を印刷しているといえる。

引用発明の「RFID部37」は、アドレス情報等、印刷装置100の固有の情報が記憶されている無線ICタグであって、この無線ICタグを内蔵した端末装置200が通信圏内に存在しているときに、印刷装置100の固有の情報を送信しているから、「RFID部37」は、送信手段であるといえる。
また、I/F部31の対応プロトコルがBluetoothの場合、プロトコルに応じたアドレスはBD_ADDRとなり、このBD_ADDRは、I/F部31がBluetoothプロトコルに基づく通信を行う際のI/F部31(送受信手段)の識別情報に相当するといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、送受信手段の識別情報を、外部装置に送信手段により送信している点で共通している。

引用発明の「端末装置200」は、印刷装置100から識別情報を読み取ると、この読み取った識別情報を解析し、この解析の結果、接続するインタフェースを選択し、この選択されたインタフェースを介して、印刷装置100に接続要求を送信し、印刷装置100は、端末装置200からの接続要求を受信すると、確認応答を送信し、これによって、端末装置200と印刷装置100との間でコネクションが確立し、端末装置200は、印刷開始コマンドを発行し、印字データを送信しているから、引用発明も、本件補正発明と同様に、外部装置が識別情報を用いて送信する画像データを、送受信手段が受信しているといえる。

引用発明の「I/F部31」は、Bluetoothを用いて、「端末装置200」から、「プリンタ制御コマンドや印字データ」を受信し、受信した「プリンタ制御コマンドや印字データ」に基づいて印刷しているから、引用発明も、本件補正発明と同様に、外部装置と自装置との間の通信は無線で行われ、受信した画像データを印刷しているといえる。

引用発明の「I/F部31」は、端末装置200に対して、印刷装置100の内部の状態等を通知しており、画像形成装置の技術分野における技術常識に鑑みれば、印刷装置における異常発生の有無を含む印刷結果も、印刷装置の内部の状態に包含されるといえるから、本件補正発明と引用発明とは、同様に、印刷装置の内部の状態を通知するデータを送受信手段により外部装置に送信している点で共通しているといえる。

したがって、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
外部装置から画像データを受信する送受信手段を備え、受信した画像データに基づき画像を印刷する画像形成装置を用いた通信方法において、
前記送受信手段の識別情報を、前記外部装置に送信手段により送信し、
前記外部装置が前記識別情報を用いて送信するデータを、前記送受信手段が受信し、
前記外部装置と自装置との間の通信は無線で行われ、受信したデータを印刷し、
画像形成装置の内部の状態を通知するデータを送受信手段により外部装置に送信する通信方法。

[相違点]
(相違点1)本件補正発明では、原稿の画像を読み取る読取手段を備えているのに対し、引用発明では、そのような読取手段を備えていない点。

(相違点2)本件補正発明では、画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、異常発生有無を含む印刷の結果を通知するデータを送信しているのに対し、引用発明では、画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、異常発生有無を含む印刷の結果を通知するデータが特定されていない点。

(相違点3)本件補正発明では、外部装置が印刷の結果を通知するデータに基づいて音を出力しているのに対し、引用発明では、外部装置が印刷の結果を通知するデータに基づいて音を出力していない点。

オ 判断

(ア)相違点の判断

上記相違点について検討する。

(相違点1について)
上記ウ(イ)bで述べたように、画像形成装置の技術分野において、ドキュメントの画像データを印字するプリントユニットとともに、ドキュメント(原稿)の画像をドキュメント情報として読み取る読取手段であるスキャナユニットを備えて、スキャナユニットで読み取ったドキュメントの画像データをプリントユニットで紙媒体に出力したり、スキャナユニットで読み取ったドキュメント情報を端末に転送したりすることは、本出願の出願日前から周知の技術であるから、引用発明の画像形成装置においても、当該周知技術を用いて、原稿の画像を読み取る読取手段であるスキャナユニットを備える構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点2について)
引用発明は、画像形成装置の内部の状態を通知するデータを送受信手段により外部装置へ送信しているものの、当該画像形成装置の内部の状態が具体的にどのようなものか特定されていない。
しかしながら、画像形成装置が、印刷が正常に終了した場合に、印刷が正常に終了したことを示す終了通知を携帯型情報通信機器に送信する技術は、上記ウ(ア)bで述べたように、引用文献2に記載されており、無線通信機能付きプリンタ装置の技術分野で共通する引用発明においても、外部装置へ送信する画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、印刷が正常に終了したことを示す終了通知(すなわち、異常発生無しを含む印刷の結果の通知)を行う技術を用いることや、印刷が異常終了した場合に、例えば、上記ウ(ウ)bで述べたような、プリント出力中にプリンタ部の紙詰まりといった障害が発生した際に、障害発生、障害内容の通知(すなわち、異常発生有りを含む印刷の結果の通知)を行う周知技術を用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、引用発明において、画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、上記のとおり異常発生有無を含む印刷の結果を通知するデータを用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(相違点3について)
上記ウ(ウ)bで述べたように、無線端末からのプリント出力データを受信して、プリント出力を行うことができる無線通信機能付きプリンタ装置の技術分野において、プリント出力中にプリンタ部の紙詰まりといった障害が発生すると、無線端末に障害の通知を行い、無線端末(であるパソコン)は、操作者に表示部によるメッセージ表示(例えば「プリンタが紙詰り異常です」)や音声入出力部によるアラーム音あるいは音声合成出力等を用いて、障害発生、障害内容の通知を行う技術は本願出願日前に周知であったと認められるから、引用発明において、当該周知技術を適用すれば、障害発生、障害内容の通知(すなわち、異常発生有り含む印刷の結果の通知)を外部装置である無線端末が受信した際に、アラーム音や音声合成出力等を用いて、障害発生、障害内容の通知を行う構成となる。
したがって、引用発明において、外部装置が画像形成装置の内部の状態を通知するデータ(印刷の結果を通知するデータ)に基づいて音を出力することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(イ)本件補正発明の効果
本件補正発明の構成によってもたらされる効果は、刊行物1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た構成のものが奏するであろうと当業者が予測し得る範囲を超えるものではなく、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るものではない。

(ウ)独立特許要件の判断
よって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小活

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明

上述のとおり、平成31年2月17日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年8月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-6の記載により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、上記第2の1.(1)に記載されたとおりのものである。

2.刊行物に記載された発明

引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2の2.(2)「イ 引用発明」に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断

本願発明は、上記第2の2(1)で述べたように、本件補正発明から、「印刷の結果を通知するデータ」について、「異常発生有無を含む」との限定を省いたものであるから、本願発明と引用発明とは、上記の省いた構成を除いて、上記第2の2.(2)「エ 対比」と同様に対比でき、本願発明と引用発明との一致点は、上記第2の2.(2)「エ 対比」[一致点]で述べた本件補正発明と引用発明との一致点と同じものであり、本願発明と引用発明との相違点1および3は、それぞれ、上記第2の2.(2)「エ 対比」[相違点]の相違点1および3と同じものであり、これら相違点に対する判断は、それぞれ、上記第2の2.(2)「オ 相違点についての判断」(相違点1について)および(相違点3について)で述べたとおりである。

また、相違点2は、「印刷の結果を通知するデータ」についての「異常発生有無を含む」との限定を省いた以下のようなものとなる。

(相違点2)
本願発明は、画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、印刷の結果を通知するデータを送信しているのに対し、引用発明では、画像形成装置の内部の状態を通知するデータがどのようなものか特定されていない点。

(相違点2について)
上記第2の2.(2)「オ 相違点についての判断」(相違点2について)で述べたように、画像形成装置が、印刷が正常に終了したことを示す終了通知を、画像データの送受信に用いられるブルートゥースを介して、携帯型情報通信機器に送信する技術は、引用文献2に記載さているから、無線通信機能付きプリンタ装置の分野で共通する引用発明においても、外部装置へ送信する画像形成装置の内部の状態を通知するデータとして、印刷が正常に終了したことを示す終了通知(すなわち印刷結果の通知)を用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載の技術並びに引用文献3などに記載の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-05-22 
結審通知日 2020-05-26 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2017-101635(P2017-101635)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三橋 竜太郎  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 永野 志保
野崎 大進
発明の名称 通信方法及びプログラム  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ