• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1364840
審判番号 不服2019-5953  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-08 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 特願2016-123356「ゴルフクラブシャフト」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月27日出願公開、特開2016-185354〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月29日を出願日とする特願2012-44423号の一部を平成28年6月22日に新たな特許出願としたものであって、同年6月22日付けで手続補正がなされ、平成29年8月16日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月21日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、平成30年2月26日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、同年4月13日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、同年9月11日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、同年10月4日付けで意見書が提出され、平成31年2月28日付けで拒絶査定がなされたのに対し、令和1年5月8日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、当審において、令和2年1月16日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月15日付けで意見書が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
令和2年4月15日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
シャフトの先端からシャフト重心までの距離をL_(G)とし、シャフトの全長をL_(S) としたときに、0.54≦L_(G) /L_(S) ≦0.65であり、
前記シャフトは巻回されたプリプレグシートからなり、
シャフト重量が55g以下であり
トルク値が3.0以上6.5以下であり、
シャフトの後端から250mm離間した地点までを特定バット範囲とした場合において、特定バット範囲に存在する部分層及び全長層のうち当該部分層の重量をWaとし、特定バット範囲におけるシャフトの重量である、前記部分層及び全長層の各重量の和をWbとしたときに、Wbに対するWaの比であるWa/Wbは0.4以上0.7以下であり、且つ
シャフトにおいて、当該シャフトのチップ端から300mmまでの部分を先端部とし、当該シャフトのバット端から300mmまでの部分を後端部とし、当該シャフトの、前記先端部及び後端部以外の部分を中央部としたときに、シャフトの先端部、中央部及び後端部において、当該先端部、中央部及び後端部の各部分のシャフト重量に対するバイアス層の重量の占める割合が、先端部<中央部≦後端部であることを特徴とするゴルフクラブシャフト。」(以下「本願発明」という。)


第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である、令和2年1月16日付けの拒絶理由通知書は、概略、次のとおりのものである。
1 (サポート要件)について
発明の詳細な説明を参酌すると、本願発明の課題は、「ボールの飛距離を延ばしつつ打球のバラツキを抑えることができるゴルフクラブシャフトを提供すること」であると認められる。
(1)請求項1及び6並びに請求項1を引用する請求項2?5の「トルク値が6.5以下」との記載は、本願発明の課題を解決しないものまで包含するものである。
(2)請求項1及び請求項1を引用する請求項2?5の「部分層及び全長層」との記載は、発明の詳細な説明に記載されていないものまで包含するものである。
(3)請求項1の「Wbに対するWaの比であるWa/Wbは0.4以上0.7以下であり」について、発明の詳細な説明の記載された実施例及び比較例においては、該「Wa/Wb」が不明となっており、【0089】に記載された作用効果の根拠が不明である。
(4)請求項5の「ヘッド重量とクラブ重量との比が0.67以上0.72以下」について、【0024】に記載された作用効果の根拠が不明である。
(5)発明の詳細な説明に記載の実施例19は、請求項1、3及び6に包含されない。そうすると、実施例と比較例とは何を基準として区別されるものなのか不明であるから、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とが対応していない。

2 (明確性要件)について
(1)請求項1において、「シャフト」と「部分層」及び「全長層」との構造的な関係が不明である。
(2)請求項1及び4のシャフトの「先端部」、「中央部」及び「後端部」がシャフトのどの範囲を指すのか不明である。
(3)請求項1の「バイアス層の占める割合」とは、何に対する割合なのか不明である。
(4)請求項2の「PAN系繊維が75?85質量%」の特定に対して、請求項3の「0°層が50質量%以上80質量%以下であり、45°層が15質量%以上30質量%以下である」の特定では、0°層が80質量%であると、45°層は最低でも15質量%であるから、合計95質量%となってしまい、請求項2の特定と矛盾する。請求項6においても同様である。
(5)請求項4の「先端部、中央部及び後端部においてバイアス層の占める割合が、それぞれ20?35質量%、30?45質量%及び30?45質量%」との特定では、先端部が35質量%だと、請求項1の「先端部<中央部≦後端部」と矛盾する。


第4 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある。
1 「【背景技術】
【0002】
ゴルファーにとってボールの飛距離は、ゴルフクラブを選定する際の重要なファクターの1つである。そこで、ボールの飛距離を延ばすために、従来、ゴルフクラブを構成する要素の材質や形状などに対して種々の工夫がなされてきた。
【0003】
しかし、近年、過剰な飛距離を抑制して競技の公正性を高めるために、フェースの反発性能、クラブ長さ及びヘッドの慣性モーメントがルールで規制されるようになり、飛距離を向上させることが難しくなりつつある。
【0004】
このような状況下において、ボールの初速が飛距離に大きく影響することに鑑み、クラブ長さをルールで規制された上限近くまで長くし、クラブのヘッドスピードを速くすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-201911号公報」

2 「【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ボールの飛距離を延ばしつつ打球のバラツキを抑えることができるゴルフクラブシャフトを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明のゴルフクラブシャフトは、シャフトの先端からシャフト重心までの距離をL_(G)とし、シャフトの全長をL_(S) としたときに、0.54≦L_(G) /L_(S) ≦0.65であり、
シャフト重量が55g以下であり、
トルク値が6.5以下であり、且つ
チップ端から300mmの範囲において使用されるプリプレグの質量割合は、ピッチ系繊維が15?25質量%であり、PAN系繊維が75?85質量%であることを特徴としている。
【0012】
(2)前記(1)のゴルフクラブシャフトにおいて、チップ端から300mmの範囲において使用されるプリプレグの質量割合は、ピッチ系繊維が15?25質量%であり、PAN系繊維が75?85質量%であることが好ましい。
【0013】
(2)前記(1)のゴルフクラブシャフトにおいて、前記PAN系繊維は、0°層が50質量%以上であり、45°層が15質量%以上であることが好ましい。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)のゴルフクラブシャフトにおいて、シャフトの先端部、中央部及び後端部においてバイアス層の占める割合が、先端部<中央部≦後端部であることが好ましい。
(4)前記(3)のゴルフクラブシャフトにおいて、シャフトの先端部、中央部及び後端部においてバイアス層の占める割合を、それぞれ20?35質量%、30?45質量%及び30?45質量%とすることができる。」
3 「【0030】
また、シャフト3の重心位置自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、例えば46インチ長さのシャフトでは当該シャフト3のチップ端3a(先端)から600?750mmの範囲内である。シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から600mm未満であると、重心の位置が手元方向に十分に移動しているとはいえないので、クラブの振り易さは向上されず、ヘッドスピードのアップにつながらない可能性が高い。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から615mm以上であることが好ましく、さらには630mm以上であることが好ましい。一方、シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から750mmを超えると、シャフト先端側の肉厚が薄くなってしまい、曲げ強度などの強度が不足する可能性が高い。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から730mm以下であることが好ましく、さらには710mm以下であることが好ましい。」
4 「【0031】
本発明では、シャフト3の先端からシャフト重心Gまでの距離をL_(G)とし、シャフト3の全長をL_(S) としたときに、0.54≦L_(G) /L_(S) ≦0.65としている。
【0032】
L_(G)/L_(S) が0.54未満の場合、シャフトの重心がシャフトの先端側に近くなるので、従来と同程度のスイングバランスにするためには、ヘッドの重量を小さくしなければならず、ヘッド設計の自由度が狭くなる。つまり、ヘッドの慣性モーメントを縮小させることになり、また、低重心化技術を導入することができなくなる。したがって、ボールの高飛距離化を達成することが困難になる。したがって、L_(G)/L_(S) は0.55以上であることが好ましく、さらには0.56以上であることが好ましい。
【0033】
一方、L_(G) /L_(S)が0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフト先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる。したがって、L_(G)/L_(S) は0.64以下であることが好ましく、さらには0.63以下であることが好ましい。」
5 「【0089】
<特定バット範囲におけるバット部分層の重量比率>
図1において、P2で示されているのは、バット端3bから250mm離間した地点である。この地点P2からバット端3bまでの範囲が、「特定バット範囲」と定義される。この特定バット範囲に存在するバット部分層の重量をWaとし、当該特定バット範囲におけるシャフトの重量をWbとすると、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、比(Wa/Wb)は、0.4以上が好ましく、0.42以上がより好ましく、0.44以上が更に好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、比(Wa/Wb)は、0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましい。」


第5 判断
上記「第4 2」の記載によれば、本願発明の課題は、「ボールの飛距離を延ばしつつ打球のバラツキを抑えることができるゴルフクラブシャフトを提供すること」と認められる。
そして、上記本願発明の課題に対して、上記「第4 1」の記載によれば、ボールの飛距離を伸ばすためには、クラブのヘッドスピードを速くすることが必要と認められる。
また、上記「第4 3」の記載によれば、シャフトの重心の位置が手元方向に十分に移動していないと、クラブの振りやすさは向上されず、ヘッドスピードのアップにつながらない可能性が高いと認められる。
さらに、上記「第4 5」の記載によれば、シャフトの重心の位置をグリップ側に配置するために、バット端3bから250mm離間した地点である地点P2からバット端3bまでの範囲が、「特定バット範囲」と定義され、この特定バット範囲に存在するバット部分層の重量をWaとし、当該特定バット範囲におけるシャフトの重量をWbとすると、比(Wa/Wb)は、0.4以上が好ましいと認められる。
以上のことから、請求項1に係る発明において、本願発明の課題である「ボールの飛距離を延ば」すための解決手段は、「シャフトの後端から250mm離間した地点までを特定バット範囲とした場合において、特定バット範囲に存在する部分層及び全長層のうち当該部分層の重量をWaとし、特定バット範囲におけるシャフトの重量である、前記部分層及び全長層の各重量の和をWbとしたときに、Wbに対するWaの比であるWa/Wbは0.4以上」であると認められる。

そこで、「比(Wa/Wb)」とボールの飛距離との関係についてみるに、本願の発明の詳細な説明には、「比(Wa/Wb)」について、上記「第4 5」の記載しかない。
そして、本願の発明の詳細な説明には、「比(Wa/Wb)」が0.4以上であると、なぜ、シャフトの重心の位置をグリップ側に配置することができ、以て、ボールの飛距離を伸ばすことができるのかについて、実験例を含めた実施例は何ら記載されていないし、また、「比(Wa/Wb)」とボールの飛距離との関係についての作用機序についても何ら記載されていない。
そして、当審の拒絶理由通知書において、上記「第3 1(3)」のとおり指摘したところ、請求人は、令和2年4月15日付け意見書において、下記表1なる実験結果を補足し、
「【表1】


「また、重心位置については、請求項1に規定される範囲内のものを「良好」とし、範囲外のものを「不良」としました。」(上記意見書2頁8?9行参照。)と釈明する。
しかし、上記意見書に「また、重心位置については、請求項1に規定される範囲内のものを「良好」とし、範囲外のものを「不良」としました。」(2頁8?9行参照。)と記載されているように、上記意見書の表1の実験結果は、請求項1の「比(Wa/Wb)」の数値範囲に含まれる実験2?4の「重心位置」を「良好」と記載しているだけであって、「比(Wa/Wb)」が0.4以上(0.7以下)であると、なぜ重心位置が良好と評価できるのか、さらに、「比(Wa/Wb)」が0.4以上(0.7以下)であると、なぜボールの飛距離を延ばすことができ、その結果、本願発明の課題を解決することができると当業者が認識し得るのかについて、何ら釈明するものではない。
もとより、「本件発明のようないわゆるパラメータ発明において,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に,具体例を開示せず,本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても,特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに,特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することよって,その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し,明細書のサポート要件に適合させることは,発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されない。」ところ(知財高裁平成17年(行ケ)10042号参照。)、上記意見書で補足された実験結果を参酌することは妥当ではなく、仮に、補足された実験結果の内容を参酌したとしても、上記のとおり、本願発明の課題を解決できることが当業者に認識できるものではない。
なお、上記「第4 4 【0032】」に「L_(G)/L_(S) が0.54未満の場合、シャフトの重心がシャフトの先端側に近くなるので、従来と同程度のスイングバランスにするためには、ヘッドの重量を小さくしなければならず、ヘッド設計の自由度が狭くなる。つまり、ヘッドの慣性モーメントを縮小させることになり、また、低重心化技術を導入することができなくなる。したがって、ボールの高飛距離化を達成することが困難になる。」と記載されているが、L_(G)/L_(S) を0.54未満とすると、高飛距離化の妨げとなることが認識できるにすぎず、L_(G) /L_(S)を0.54以上とすることで、高飛距離化を達成できるものと認識できるものではないから、請求項1に記載の「0.54≦L_(G) /L_(S)≦0.65」が、本願発明の上記課題を解決するものとは認められない。

したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えるものである。


第6 むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-01 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-16 
出願番号 特願2016-123356(P2016-123356)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大澤 元成  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
河内 悠
発明の名称 ゴルフクラブシャフト  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ