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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F04B
管理番号 1364841
審判番号 不服2019-6441  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-17 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 特願2016-206305「浄化槽用エアポンプ、エアポンプ適用システム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日出願公開、特開2018- 66345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成28年10月20日の出願であって、平成30年5月9日に手続補正書が提出され、平成30年6月28日付けの拒絶理由の通知に対し、平成30年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年11月1日付けの拒絶理由の通知に対し、平成31年1月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成31年2月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して令和元年5月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 令和元年5月17日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年5月17日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
浄化槽にエアを供給するための浄化槽用エアポンプであって、
充填材が充填された充填領域と、上記充填領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、上記充填領域の下方から逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であり、
エアを吐出するエア吐出部と、
上記エア吐出部を収容するハウジングと、
ユーザの指示が入力される入力部と、
上記入力部に入力された上記指示を表示可能な表示部と、
上記ハウジングの上面に設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネルと、
上記入力部に入力された上記指示に応じて、上記エア吐出部を制御する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記エア吐出部の複数の運転パラメータを組み合わせてなるプログラムについて、種類の異なる複数の浄化槽のそれぞれに対してそれぞれ個別に定められている複数のプログラムを記憶する記憶部と、
上記記憶部に記憶されている上記複数のプログラムの中のいずれか1つのプログラムが上記入力部を介して選択指示されたとき、そのプログラムに含まれている上記複数の運転パラメータに基づいて上記エア吐出部に制御信号を出力する制御信号出力部と、
を備え、
上記操作パネルには、上記表示部が1つのみ設けられ、この表示部のまわりに上記指示を表すための複数の項目が記されており、上記複数の項目には、プログラムに加えて、上記複数の運転パラメータの中でいずれも逆洗用エアについての逆洗運転パラメータである、逆洗時刻と、一日あたりの逆洗回数と、その逆洗一回あたりの逆洗時間と、が含まれており、
上記表示部は、表示されている上記指示が上記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルを表示可能であり、上記カーソルの表示によって上記複数の項目の中からプログラムの項目が選択された場合には、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であり、
上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、自動逆洗モードにおいて上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で手動逆洗モードに切り替えることなく上記初期値を予め設定されている値から別の値に変更可能となるように構成されている、浄化槽用エアポンプ。
【請求項2】
上記表示部は、上記プログラム番号をプログラムであることを示すアルファベットと数字との組み合わせによって表示する、請求項1に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項3】
上記プログラム番号は、プログラム選定表において浄化槽のメーカー名及び型式と予め紐付けられたものである、請求項1または2に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項4】
上記複数の浄化槽には、上記メーカー名が異なる複数の浄化槽が含まれており、上記表示部に表示されている上記プログラム番号を上記入力部によって切替えることによって、上記メーカー名が異なる複数の浄化槽のそれぞれのプログラムの選択指示が可能である、請求項3に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項5】
上記入力部は、上記操作パネルに設けられた複数のボタンによって構成されており、上記複数のボタンの中で上記表示部に表示されている上記プログラム番号を切り替えるためのボタンは、上記操作パネルに記されているプログラムの項目と、この項目を選択している上記カーソルと、の両方に対して他のボタンよりも近い位置に配置されている、請求項1?4のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項6】
上記ハウジングの上面に設けられた吸入口から吸入するエアが通過するフィルターと、上記ハウジングに上記操作パネルと上記フィルターの両方を覆うように設けられたカバーと、を備える、請求項1?5のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項7】
種類の異なる複数の浄化槽と、
上記複数の浄化槽のそれぞれにエアを供給するために当該浄化槽に接続可能であり、上記複数の浄化槽のうちのいずれか1つに接続してエアを供給するエアポンプと、を備える、エアポンプ適用システムであって、
上記エアポンプは、請求項1?6のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプによって構成されている、エアポンプ適用システム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成31年1月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
浄化槽にエアを供給するための浄化槽用エアポンプであって、
充填材が充填された充填領域と、上記充填領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、上記充填領域の下方から逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であり、
エアを吐出するエア吐出部と、
上記エア吐出部を収容するハウジングと、
ユーザの指示が入力される入力部と、
上記入力部に入力された上記指示を表示可能な表示部と、
上記ハウジングの上面に設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネルと、
上記入力部に入力された上記指示に応じて、上記エア吐出部を制御する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記エア吐出部の複数の運転パラメータを組み合わせてなるプログラムについて、種類の異なる複数の浄化槽のそれぞれに対してそれぞれ個別に定められている複数のプログラムを記憶する記憶部と、
上記記憶部に記憶されている上記複数のプログラムの中のいずれか1つのプログラムが上記入力部を介して選択指示されたとき、そのプログラムに含まれている上記複数の運転パラメータに基づいて上記エア吐出部に制御信号を出力する制御信号出力部と、
を備え、
上記操作パネルには、上記表示部が1つのみ設けられ、この表示部のまわりに上記指示を表すための複数の項目が記されており、上記複数の項目には、プログラムに加えて、いずれも逆洗用エアについての逆洗運転パラメータである、逆洗時刻と、一日あたりの逆洗回数と、その逆洗一回あたりの逆洗時間と、が含まれており、
上記表示部は、表示されている上記指示が上記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルを表示可能であり、上記カーソルの表示によって上記複数の項目の中からプログラムの項目が選択された場合には、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であり、
上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で上記初期値を別の値に変更可能となるように構成されている、浄化槽用エアポンプ。
【請求項2】
上記表示部は、上記プログラム番号をプログラムであることを示すアルファベットと数字との組み合わせによって表示する、請求項1に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項3】
上記プログラム番号は、プログラム選定表において浄化槽のメーカー名及び型式と予め紐付けられたものである、請求項1または2に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項4】
上記複数の浄化槽には、上記メーカー名が異なる複数の浄化槽が含まれており、上記表示部に表示されている上記プログラム番号を上記入力部によって切替えることによって、上記メーカー名が異なる複数の浄化槽のそれぞれのプログラムの選択指示が可能である、請求項3に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項5】
上記入力部は、上記操作パネルに設けられた複数のボタンによって構成されており、上記複数のボタンの中で上記表示部に表示されている上記プログラム番号を切り替えるためのボタンは、上記操作パネルに記されているプログラムの項目と、この項目を選択している上記カーソルと、の両方に対して他のボタンよりも近い位置に配置されている、請求項1?4のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項6】
上記ハウジングの上面に設けられた吸入口から吸入するエアが通過するフィルターと、上記ハウジングに上記操作パネルと上記フィルターの両方を覆うように設けられたカバーと、を備える、請求項1?5のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプ。
【請求項7】
種類の異なる複数の浄化槽と、
上記複数の浄化槽のそれぞれにエアを供給するために当該浄化槽に接続可能であり、上記複数の浄化槽のうちのいずれか1つに接続してエアを供給するエアポンプと、を備える、エアポンプ適用システムであって、
上記エアポンプは、請求項1?6のいずれか一項に記載の浄化槽用エアポンプによって構成されている、エアポンプ適用システム。」

2.補正の適否
本件補正により、本件補正後の請求項1に係る発明は、「上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、自動逆洗モードにおいて上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で手動逆洗モードに切り替えることなく上記初期値を予め設定されている値から別の値に変更可能となるように構成」するものとなった。
一方、この出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、逆洗運転パラメータの初期値を別の値に変更することについて、段落[0055]に「一方で、複数のプログラムPのそれぞれにおいて、逆洗時刻と次回の逆洗までの時間間隔は、共通の初期値に予め設定されている。本実施形態では、逆洗を開始する逆洗開始時刻の初期値が2時に予め設定され、次回の逆洗までの時間間隔の初期値が60分に予め設定されている。このため、ユーザは、これらの初期値をそのまま使用することもできるし、或いはプログラム番号を設定した状態で、ライフスタイル等に応じてこれらの初期値を適宜に変更することもできる。」と記載され、段落[0073]に「なお、実施形態1において、上記の項目M4,M5に代えて或いは加えて、別の項目を運転パラメータCに設定することもできる。別の項目として、例えば、単位時間あたりの逆洗風量、逆洗を開始する逆洗開始時刻、逆洗を終了する逆洗終了時刻、次回の逆洗までの時間間隔などを採用し、これらの情報を図9の選定表に追加して記載することができる。例えば、次回の逆洗までの時間間隔を運転パラメータCに使用する場合、この時間間隔が初期値である60[分]に対して、30[分]、2[時間]などに変更されたプログラムPを使用することができる。」と記載されており、複数のプログラムPのそれぞれに共通の初期値を、プログラム番号を設定した状態で変更することや、運転パラメータC(例えば、次回の逆洗までの時間間隔)の初期値が異なるプログラムPを使用することは記載されているものの、自動逆洗モード及び手動逆洗モードについては、段落[0050]に「ボタン13は、自動逆洗モードと手動逆洗モードとを切り替える第1の機能と、ボタン14によって選択された項目について設定を変更する第2の機能と、を有する。第1の機能について、ボタン13によって自動逆洗モードが選択されると、予め設定されているプログラムにしたがって逆洗処理が実行される。また、ボタン13によって手動逆洗モードが選択されると、その後にボタン14によって選択指示される項目について逆洗処理条件を設定することができる。」と記載されているのみであり、自動逆洗モードにおいて、プログラム番号ごとに予め設定されている逆洗運転パラメータの初期値を、予め設定されている値から別の値に変更可能となるように構成することについては、何ら記載されていない。
そして、当初明細書等のその余の記載を参照しても、「上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、自動逆洗モードにおいて上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で手動逆洗モードに切り替えることなく上記初期値を予め設定されている値から別の値に変更可能となるように構成」することは、何ら記載されておらず、当初明細書等の記載全体から明らかであるともいえない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、当該事項を明細書及び特許請求の範囲に導入する補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

審判請求人は、令和元年5月17日に提出された審判請求書において、「請求項1は、旧請求項1を本願の出願当初の明細書の段落[0050]-[0055]等に記載された事項によって補正したものである。」と主張しているが、これらの段落には、前記したように、複数のプログラムPのそれぞれに共通の初期値を、プログラム番号を設定した状態で変更することは記載されているものの、自動逆洗モードにおいて、プログラム番号ごとに予め設定されている逆洗運転パラメータの初期値を、予め設定されている値から別の値に変更可能となるように構成することについては、何ら記載されていないから、審判請求人の主張は採用できない。

3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和元年5月17日にされた手続補正は、前記のとおり却下されたので、この出願の各請求項に係る発明は、平成31年1月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその請求項1に記載された事項により特定される、前記「第2[理由]1.(2)」に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定(平成31年2月13日付け拒絶査定)の拒絶の理由のうち、本願発明についての拒絶の理由は、この出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明、引用文献4に記載された事項及び引用文献2,3,5,6に例示される周知の事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.特開2001-327985号公報(本審決における「引用文献1」。)
引用文献2.ダイエー浄化槽FCS型,施行要領書,2007年11月,第4版(本審決における「引用文献2」。)
引用文献3.浄化槽用ブロワー テクノ高槻 CP-80W メンテナンスセット・モーターレール・II型切替バルブ交換,YouTube,2015年 7月29日,URL,https://www.youtube.com/watch?v=9jFRnzhb18w(本審決における「引用文献3」。)
引用文献4.維持管理Q&A<CS・CSL型編>,フジクリーン工業株式会社,200
3年11月1日(本審決における「引用文献4」。)
引用文献5.特開2007-237045号公報(本審決における「引用文献5」。)
引用文献6.特開2000-5779号公報(本審決における「引用文献6」。)

3.引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
ア.原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】空気を圧送するためのポンプ本体と、このポンプ本体からの吐出空気をケーシングに設けた曝気と逆洗配管接続用の2つの吐出口の何れかに曝気/逆洗のタイミングで吐出空気の流路を切替える流路切替装置と、ポンプ本体への電力量を可変供給可能な電力供給手段と、これらを制御する制御装置とを備えたエアポンプ装置において、
前記制御装置は、複数の運転パターンを記憶する記憶手段と、この運転パターンを選択する選択手段とを備え、前記記憶手段には、曝気時風量データ,逆洗時風量データ,逆洗開始時刻データ,逆洗終了時刻データの各データを運転パターン毎にデータ群として記憶しておき、前記運転パターン選択手段にて選択された運転パターンのデータ群に従って運転制御するようにしたことを特徴とするエアポンプ装置。」

(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】市販され設置されている曝気と逆洗の2つのエア配管接続を必要とする汚水浄化槽は、各製品毎に該製品の水質浄化性能を引き出すために、一般に、運転パターンはそれぞれ異なっているのが常である。例えば、汚水浄化槽Aは、曝気風量が40L/分、逆洗風量が80L/分であり、汚水浄化槽Bは、曝気風量が80L/分、逆洗風量が80L/分のように異なり、更に、逆洗の開始時刻/終了時刻も汚水浄化槽A,Bによって異なる。
【0006】本発明の1つの目的は、曝気と逆洗の2つのエア配管接続を必要とする汚水浄化槽と接続するエアポンプ本体の運転パターンを決定するデータとなる曝気風量データ,逆洗風量データ,逆洗開始時刻データ,逆洗終了時刻データによって制御するエアポンプ装置において、様々な運転パターンの汚水浄化槽に対応することができるようにすることにある。
【0007】本発明の他の目的は、運転パターンの異なる複数種類の汚水浄化槽の維持管理を容易にし、また、エアポンプ装置の生産性を向上させることにある。」

(ウ)「【0015】このエアポンプ装置10は、流路切替装置付きエアポンプ装置であって、ポンプ本体1と、それに続くエアタンク2と、ポンプ本体1からの吐出空気を受けてこれを2流路(吐出口3,4)のうちの一方の流路に選択的に供給する流路切替装置5と、コントロール装置6とを吸気口7aを有するケーシング7に収容した一体構成品である。
【0016】ここで、コントロール装置6は、汚水浄化槽内の好気濾床槽への曝気または逆洗(バブリング)用の給気のために、ポンプ本体1の吐出風量調節および空気流路切替装置5を制御する。この制御は、運転管理者が、コントロール装置6のスイッチを操作することにより該コントロール装置6内の記憶手段に記憶させた曝気風量データ,逆洗風量データ,逆洗開始時刻データ,逆洗終了時刻データの各データに基づいた運転パターンで実行する。」

(エ)「【0017】図2は、本発明のエアポンプ装置10における制御系のブロック図である。コントロール装置6は、制御手段61を中心にして、設定手段62,受信手段63,記憶手段64,電力供給手段65,駆動手段66を備え、ポンプ本体1は電力供給手段65によって駆動制御し、切替装置5は駆動手段66によって駆動制御するように構成する。
【0018】制御手段61は、小型のマイクロコンプュータ(CPU)を使用して構成し、設定手段62との間でスイッチ入力および表示データの出力を行い、記憶手段64との間で設定値保存および読取りを行い、受信手段63との間で外部の設定装置からの運転パターンデータの受信入力を行い、電力供給手段65および駆動手段66への指示を行う中枢である。そして、後述するような各種の制御処理を実行する。
【0019】記憶手段64は、制御手段61のCPUとの接続が容易なシリアル通信機能内蔵のEEPROMを備える。
【0020】電力供給手段65は、従来の装置と同様に、スイッチング素子による位相制御によって電力制御する構成にする。設定値として記憶する風量データは、この位相角を決定するための元データである。
【0021】図3は、このコントロール装置6における設定部の外観図である。この設定部は、設定手段62と受信手段63により構成され、選択された運転パターン表示部601,現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602,吐出風量を表示する風量表示部603等の表示部と、運転パターン選択スイッチ604,時刻設定スイッチ605,風量設定スイッチ606,設定確認スイッチ607等のスイッチ部と、自動運転モードランプ608,現在時刻設定モードランプ609,逆洗開始時刻設定モードランプ610,逆洗終了時刻設定モードランプ611等のモード表示ランプと、赤外線通信データ受信窓612を備える。
【0022】コントロール装置6は、通常は自動運転モード状態となっており、時刻表示部602に現在時刻を表示し、自動運転モードランプ608を点灯した状態にある。そして、運転パターン選択スイッチ604を操作することにより、記憶手段64の不揮発性メモリであるEEPROMに記憶された複数の設定データ群の中から1つを運転パターンを選択することで該選択された運転パターンの設定データを呼び出して制御手段61のCPU内の所定のRAMに転送して運転制御に使用する。
【0023】図4は、コントロール装置6における設定部において運転パターン「3」を選択した状態であり、運転パターン表示部601に「03」を表示し、時刻表示部602に現在時刻を表示している。」

(オ)「【0024】図5は、記憶手段64における不揮発性メモリであるEEPROM内の記憶データ群を示している。運転パターンデータ群は、6バイト単位毎に格納している。先頭から、曝気風量データ,逆洗風量データ,逆洗開始時刻の「時」データ,逆洗開始時刻の「分」データ,逆洗終了時刻の「時」データ,逆洗終了時刻の「分」データの順で格納している。ここで、逆洗終了時刻を逆洗時間として記憶することにより、1バイト分のデータ記憶を省略することもできる。つまり、逆洗時間は、普通5分?20分間程度であり、1バイトのデータ量で納まるから、逆洗終了時刻として「時」「分」で2バイト分要していたものを、1バイトに短縮することができる。また、運転パターンとしては、先頭アドレスから、6バイトを1つのデータ群として運転パターン「1」から順に格納しており、選択した運転パターンに対応した設定データを読み込むには、運転パターン番号から「1」を減算し、その結果に「6」を掛け算することで、各運転パターンの先頭アドレスのオフセット値を算出することができる。すなわち、図4に示した運転パターン「3」の設定データを読み出す場合には、(3-1)×6を演算した結果の「12」(16進数で00C)が読み出しの先頭アドレスとなる。読み出した設定データは、所定のCPU内のRAMに転送し、運転パターン決定データとする。」

(カ)「【0026】また、コントロール装置6は、設定確認スイッチ607を操作することによって、現在選択されている運転パターンの設定値の確認と調整を行うことができるようにする。設定確認スイッチ607を操作することにより、自動運転モード,現在時刻設定モード,逆洗開始時刻設定モード,逆洗終了時刻設定モードに切替えることができるようにし、現在時刻設定モードを選択すると、自動運転モードランプ608が消灯して現在時刻設定モードランプ609が点灯し、時刻設定スイッチ605によって現在時刻を設定することができるようにする。
【0027】図7(a),(b)は、逆洗時刻確認と調整方法を示すコントロール装置6の設定部の外観図である。
【0028】コントロール部6の設定部における設定確認スイッチ607を操作して逆洗開始時刻設定モードを選択すると、自動運転モードランプ608を消灯し、逆洗開始時刻設定モードランプ610を点灯すると共に、設定されている逆洗開始時刻を時刻表示部602に表示し、風量表示部603に風量を表示する。ここで、時刻設定スイッチ605により逆洗開始時刻を、風量設定スイッチ606により吐出風量を調整することができるようにする。また、逆洗終了時刻設定モードを選択すると、逆洗終了時刻設定モードランプ611を点灯し、先の逆洗開始時刻設定モードと同様に時刻設定および風量設定を可能にする。
【0029】図7(a)は、運転パターン「3」が選択されている状態で、逆洗開始時刻の確認データを表示しており、逆洗開始時刻は午前2:00、逆洗時の風量は60L/分に設定されていることを表示している。
【0030】図7(b)は、運転パターン「3」が選択されている状態で、逆洗終了時刻の確認データを表示しており、逆洗終了時刻は午前2:10、曝気時の風量は40L/分に設定されていることを表示している。」

(キ)「【0040】図10は本発明になるエアポンプ装置を汚水浄化槽に接続した汚水浄化装置の外観斜視図、図11は、汚水浄化槽の内部構造を示す縦断側面図である。
【0041】エアポンプ装置10は、吐出口3から吐出する空気を曝気配管11を介して汚水浄化槽20に給気し、吐出口4から吐出する空気を逆洗配管12を介して汚水浄化槽20に給気する。汚水浄化槽20は、流入管21から流入した汚水を浄化処理して流出管22から放流する。
【0042】汚水浄化槽20の内部は、槽内を上流側から、第1嫌気濾床槽23,第2嫌気濾床槽24,好気濾床槽25,処理水槽26,消毒槽27に分割しており、流入管21から流入した汚水を順次に濾過処理することにより浄化して放流管22から系外へ放流する。
【0043】好気濾床槽25は、上下に2段に上段濾床28と下段濾床29を備え、上段濾床28において好気処理を行い、下段濾床29は前記好気処理において発生した固形物の濾過を行う。上段濾床28は、好気処理を行うために、その下方に曝気用散気管30を設置して空気を吐出するようにしている。また、下段濾床29の下方には、逆洗用散気管31を設置している。
【0044】そして、曝気用散気管30は、前記曝気配管11に接続してエアポンプ装置10の吐出口3から給気し、逆洗用散気管31は、前記逆洗配管12に接続してエアポンプ装置10の吐出口4から給気する。
【0045】このように構成した汚水浄化装置は、汚水浄化槽20の曝気用散気管30に給気して汚水浄化運転を続けると、下段濾床29では好気処理によって発生する固形物の濾過を行うために、濾床自体が閉塞する。そこで、定期的に下段濾床29の下方に設けた逆洗用散気管31に給気して空気を吐出するようにエアポンプ装置10からの流路を切り替えて逆洗を行う。
【0046】汚水浄化装置の管理者は、このように、一定時間間隔で所定時間幅で逆洗用散気管31から逆洗用の空気を吐出し、その他の時間は曝気用散気管30から好気処理を行うように空気を吐出するようにコントロール装置6を設定する。」

(ク)「【0047】
【発明の効果】本発明は、汚水浄化槽に接続して給気するエアポンプ装置の運転パターンを決定するデータとなる曝気風量データ,逆洗風量データ,逆洗開始時刻データ,逆洗終了時刻データの各データをセットとした複数のデータ群を記憶し、接続する汚水浄化槽に適した運転パターンを選択することができる機能を備えているので、様々な運転パターンの汚水浄化槽に対応するエアポンプ装置を提供することができる。
【0048】また、運転パターンの異なる複数種類の汚水浄化槽の設備を維持管理する維持管理業者にとっては、各汚水浄化槽に専用(運転パターン)のポンプ本体やエアポンプ装置内部のサービス部品を在庫する必要が無く、且つメンテナンス作業を標準化することができ、また、エアポンプ装置を生産する側にとっては、品種を統合することができるので、生産性が向上する。
【0049】また、汚水浄化槽の故障や寿命などによる買い換えによって汚水浄化槽の運転パターンが変わっても、エアポンプ装置は新規運転パターンに対応することができるので、汚水浄化槽のみの買い換えだけでエアポンプ装置は継続して使用することができ、買い換えコストが安価になる。」

(ケ)記載事項(キ)によると、エアポンプ装置10は、上段濾床28の下方に設置され好気処理を行うように空気を吐出する曝気用散気管30と、下段濾床29の下方に設置され逆洗用の空気を吐出する逆洗用散気管31とを備えた好気濾床槽25等に内部が分割された汚水浄化槽20に接続されているといえる。

(コ)記載事項(ウ)によると、エアポンプ装置10は、空気を吐出するポンプ本体1及びポンプ本体1からの吐出空気を2流路のうちの一方の流路に選択的に供給する空気流路切替装置5と、ポンプ本体1及び空気流路切替装置5を収容するケーシング7を備えているといえる。

(サ)記載事項(ウ)及び(エ)によると、コントロール装置6の設定部は、運転管理者が操作する、運転パターン選択スイッチ604、時刻設定スイッチ605、風量設定スイッチ606、設定確認スイッチ607等のスイッチ部と、選択された運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等の表示部とを備えており、また、図1(b)を考慮すると、コントロール装置6の設定部は、ケーシング7の傾斜面に設けられているといえる。
すると、エアポンプ装置10は、運転管理者が操作する、運転パターン選択スイッチ604、時刻設定スイッチ605、風量設定スイッチ606、設定確認スイッチ607等のスイッチ部と、選択された運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等の表示部と、ケーシング7の傾斜面に設けられスイッチ部及び表示部を備えた設定部を備えているといえる。

(シ)記載事項(ウ)及び(エ)によると、エアポンプ装置10は、運転パターン選択スイッチ604が操作されることにより選択された運転パターンで、ポンプ本体1の吐出風量調節および空気流路切替装置5の制御を実行するコントロール装置6を備えているといえる。

(ス)記載事項(ア)、(ウ)及び(エ)によると、コントロール装置6に備えられた記憶手段64に、曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗終了時刻データの各データを複数の運転パターン毎にデータ群として記憶しており、また、記載事項(オ)によると、逆洗終了時刻データを逆洗時間として記憶することが示唆されている。さらに、記載事項(イ)、(ウ)及び(ク)によると、運転パターンは、接続する複数種類の汚水浄化槽20に適したものが選択でき、ポンプ本体1の吐出風量調節および空気流路切替装置5の制御を実行するためのものといえる。
すると、ポンプ本体1の吐出風量調節および空気流路切替装置5の制御を実行するためのものであり、曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データのデータ群からなり、かつ、接続する複数種類の汚水浄化槽20に適したものが選択できる複数の運転パターンを記憶する記憶手段64を、コントロール装置6が備えているといえる。

(セ)記載事項(ア)及び(エ)によると、運転パターン選択スイッチ604を操作することにより、記憶手段64に記憶された複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンのデータ群に従って運転制御を実行する制御手段61を、コントロール装置6が備えているといえる。

(ソ)記載事項(エ)によると、運転パターン表示部601は、運転パターン選択スイッチ604を操作することにより複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンの番号を表示しているといえる。

(タ)記載事項(カ)によると、現在選択されている運転パターンの設定値である、設定されている逆洗開始時刻を時刻設定スイッチ605により調整し、逆洗時の風量を風量設定スイッチ606により調整することができるようにしているといえる。

イ.引用発明
前記引用文献1の記載事項(ア)?(タ)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「汚水浄化槽20に接続して給気するエアポンプ装置10であって、
上段濾床28の下方に設置され好気処理を行うように空気を吐出する曝気用散気管30と、下段濾床29の下方に設置され逆洗用の空気を吐出する逆洗用散気管31とを備えた好気濾床槽25等に内部が分割された前記汚水浄化槽20に接続され、
空気を吐出するポンプ本体1及び前記ポンプ本体1からの吐出空気を2流路のうちの一方の流路に選択的に供給する空気流路切替装置5と、
前記ポンプ本体1及び前記空気流路切替装置5を収容するケーシング7と、
運転管理者が操作する、運転パターン選択スイッチ604、時刻設定スイッチ605、風量設定スイッチ606、設定確認スイッチ607等のスイッチ部と、
選択された運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等の表示部と、
前記ケーシング7の傾斜面に設けられ前記スイッチ部及び前記表示部を備えた設定部と、
前記運転パターン選択スイッチ604が操作されることにより選択された運転パターンで、前記ポンプ本体1の吐出風量調節および前記空気流路切替装置5の制御を実行するコントロール装置6と、
を備え、
前記コントロール装置6は、
前記ポンプ本体1の吐出風量調節および前記空気流路切替装置5の制御を実行するためのものであり、曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データのデータ群からなり、かつ、接続する複数種類の汚水浄化槽20に適したものが選択できる複数の運転パターンを記憶する記憶手段64と、
前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより、前記記憶手段64に記憶された複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンのデータ群に従って運転制御を実行する制御手段61と、
を備え、
前記運転パターン表示部601は、前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンの番号を表示し、
現在選択されている運転パターンの設定値である、設定されている逆洗開始時刻を前記時刻設定スイッチ605により調整し、逆洗時の風量を前記風量設定スイッチ606により調整することができるようにしている、エアポンプ装置10。」

(2)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献2には、次の記載がある。

ア.「2)ブロワタイマの設定確認
生物ろ過槽の逆洗時刻を設定するタイマは、ブロワの上部カバー内に取り付けてあります。」(第15ページ第1行?第2行)

イ.記載事項ア.及び第15ページの「カバー内部」及び「タイマ部」の写真によると、生物ろ過槽の逆洗時刻を設定するタイマは、ブロワの上部カバー内のハウジングの上面に設けられているといえる。

(3)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった前記引用文献3には、次の開示がある。
なお、引用文献3のURLは、原査定時に示した「https://www.youtube.com/watch?v=9jFRnzhb18w」から、現在「https://youtu.be/9jFRnzhB18w」に変更されている。

ア.全体で3分19秒の動画のうち、2分43秒前後の部分をみると、浄化槽用ブロワーのハウジングの上面に設けた手動ボタンを押して、吐出が切り替わるかを確認していることが把握できる。

(4)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献4には、次の記載がある。

ア.「A1:担体流動生物濾過槽は、好気部で生物処理を行い、濾過部でSSの除去を行います。
よって、告示1-2の接触ばっ気槽と沈殿槽の機能をあわせもっています。
なお、担体流動生物濾過槽の逆洗は、タイマ制御により自動的に行われます。」(第1ページ第3行?第5行)

イ.「★ブロア<CS型>
吐出口は散気用と逆洗用の2口あります。通常、空気は散気用から吐出し、逆洗時には逆洗用からの吐出に切り替わります。」(第1ページ)

ウ.「★担体流動生物濾過槽
担体流動生物濾過槽は上部の「好気部」と下部の「濾過部」に分かれています。通常、「好気部」では散気が行われ、充填された担体(濾過材)表面に付着した微生物の働きにより汚水中の有機物の分解・除去が行われます。「濾過部」では担体(濾過材)によりSS(浮遊物質)の濾過を行います。」(第1ページ)

エ.「Q42:CS型用ブロワがMX80になりましたが、旧機種に比べどこが変わったのですか?」(第31ページ第2行)

オ.「(3)逆洗回数(周期)の変更
逆洗効率の向上および逆洗時における一次処理槽への負荷軽減のため、MX80は1日に最大2回(10分*2回)まで自動逆洗ができるようにしました。」(第31ページ)

カ.「<設定方法>「表示切替」SWを押して、設定変更したい項目に点滅▲マークを移動させ、「設定変更」SWで設定内容を変更する。
▲マークが消えるまで「表示切替」SWを押すと、設定変更が確定される。」(第45ページの表の機種「MX80」の「設定内容」欄)

キ.「「表示切替」SWと「設定変更」SWを同時に5秒以上押し続けると液晶に「88」と表示され高負荷モードになる。(液晶右下「コンマ」が点滅→点灯に変わる。)再度「表示切替」SWと「設定変更」SWを同時に5秒以上続けると液晶に「48」と表示され標準モードに戻る。」(第45ページの表の機種「MX80」の「その他」[散気風量80L/minモード]欄)

ク.第23ページのA29に記載された「担体流動生物濾過槽<逆洗運転時>」の図において、「「好気部」「濾過部」の担体は、ともに流動します。」との説明が記載されており、逆洗運転時に逆洗装置から空気が「好気部」及び「濾過部」に吐出しているといえる。

ケ.第31ページ(3)に記載された表には、「MX80」が、逆洗の回数(周期)について、1回/1日と、2回/1日の2モードから選択でき、逆洗の時間について、5分と、10分の2モードから選択でき、逆洗の開始時刻について、時単位で設定可能であることが示されている。

コ.第45ページの表の機種「MTB48」の「設定内容」欄によると、MTB48は、現在時刻、逆洗時刻、逆洗周期、逆洗時間を設定変更又は選択可能であり、このことを考慮すると、機種「MTB48」の「操作面」欄に図示された、MTB48の操作面は、現在時刻及び逆洗時刻を表示する表示部と、逆洗時間を表示する3つのランプと、逆洗周期を表示する3つのランプを備えているといえる。

サ.記載事項オ.及びケ.によると、第45ページの表の機種「MX80」の「操作面」欄に記載された図において、「自動逆洗」の文字の下に記載された「時刻(時)」の文字は、逆洗の開始時刻を意味し、「回数/日」の文字は、逆洗の1日あたりの回数を意味し、「時間(分)」の文字は、逆洗1回あたりの逆洗を行う時間を意味しているといえる。

シ.記載事項イ.、エ.?キ.、ケ.、サ.及び第45ページの表の機種「MX80」の「操作面」欄に記載された操作面の図示内容によると、MX80の操作面は、液晶からなる表示部が1つのみ設けられ、この表示部のまわりに設定内容を表すための複数の項目が記されており、複数の項目には、逆洗の開始時刻と、逆洗の1日あたりの回数と、逆洗1回あたりの逆洗を行う時間と、が含まれており、液晶で表示されている設定内容が前記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示す▲マークを表示可能であり、前記▲マークの表示によって前記複数の項目の中からいずれかの項目が選択された場合には、当該選択された項目の設定内容を液晶で表示するものであるといえる。

(5)引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献5には、図面とともに、次の記載がある。

ア.「【0016】
図4は、逆洗回数の設定を示すものであり、(a)は逆洗回数1回、(b)は逆洗回数3回を示す。
逆洗回数の設定は、先ず、一旦エアポンプの電源を切り、エアポンプの電源を再投入(具体的には、エアポンプの電源プラグを、商用電源コンセントに差し込む)する。電源投入から所定時間内(本実施例では10秒に設定)に、「時」「分」両スイッチを、同時に押すことで、自動運転モード状態から、図4(a)のように逆洗回数設定モードに遷移し、既設定の逆洗回数が表示される。「H-」は、変更モードであることを、知らしめるための表示であり、「1」は、既設定の逆洗回数が1回設定であることを示す表示である。ここで、再度、「時」「分」スイッチを両押しすることで、図3(b)に示す自動運転モードに復帰するが、逆洗回数を変更する場合は、「設定」スイッチを押すことで、設定変更できる。回数は、1回-2回-3回-1回の順で設定変更できる。」

(6)引用文献6の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、この出願の出願前に頒布された刊行物である前記引用文献6には、図面とともに、次の記載がある。

ア.「【0023】而して、通常、生物濾過槽Cに流入した一次処理水は、図7に示すように散気装置Sからの散気撹拌作用により、当該散気装置Sの上部側の好気処理ゾーンMにある中空濾材Xを常時、緩やかに流動させ、当該中空濾材Xの表面や濾材内部に付着した好気性微生物により好気処理され、有機物の酸化分解がされることで、生物処理されると共に、流動する中空濾材X同士が互いに接触して、中空濾材Xの表面に付着し、微生物によって形成される生物膜が適度に剥離することで、適正量に保持される。このとき、散気装置Sの深さ位置より下部側の濾過処理ゾーンNにある中空濾材Xは、散気作用の影響を受けないため、流動化せず、下部側の多孔部材14と散気装置Sとの間に充填状態で沈降静置状態にある。」

イ.「【0025】汚水流入のない真夜中になると、逆洗用ブロアが駆動して底部室20の逆洗装置Gからの曝気が噴出する。すると、図8に示すように、先ず、濾過処理ゾーンNの中空濾材Xが、逆洗装置Gからの曝気作用により一気に流動を開始し、濾過処理ゾーンNの中空濾材Xの間や濾材内部に蓄積された汚泥分やSS分が流動化し、しかも、それが通常の散気撹拌作用に比して強力な曝気撹拌作用を受けて流動接触が行われることで、濾過処理ゾーンNの中空濾材Xに対する逆洗処理がなされる。」

ウ.「【0027】その際、濾過処理ゾーンNの中空濾材Xの一部は、散気装置Sの上部側へ浮上して旋回流動し、また、好気処理ゾーンMの中空濾材Xの一部が散気装置Sの下部側へ沈降流動することで、濾過処理ゾーンNと好気処理ゾーンMの中空濾材Xが適度に混じり合って混在状態となり、再び、散気装置Sによる散気撹拌が好気処理ゾーンNにおいて行われ、濾過処理ゾーンNでの濾過処理がなされる。従って、逆洗装置Gによる曝気撹拌が繰り返されることにより、濾過処理ゾーンNと好気処理ゾーンMの中空濾材Xが上下に適度に入れ替えられ、これにより中空濾材Xに対する処理機能の役割交換がされることで、生物濾過槽Cの処理室Fにおける濾材の閉塞防止や濾過処理ゾーンNの嫌気性化を効果的に阻止する。」

4.対比
以下、本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「汚水浄化槽20」、「給気する」及び「エアポンプ装置10」は、それぞれ本願発明の「浄化槽」、「エアを供給する」及び「浄化槽用エアポンプ」に相当する。すると、引用発明の「汚水浄化槽20に接続して給気するエアポンプ装置10」は、本願発明の「浄化槽にエアを供給するための浄化槽用エアポンプ」に相当する。
引用発明の「上段濾床28」と、本願発明の「充填材が充填された充填領域」とは、「好気処理を行う領域」である点において共通する。
引用発明の「空気」、「曝気用」及び「曝気用散気管30」は、それぞれ本願発明の「エア」、「散気用」及び「散気管」に相当する。すると、引用発明の「上段濾床28の下方に設置され好気処理を行うように空気を吐出する曝気用散気管30」と、本願発明の「上記充填領域の下方から散気用エアを供給するための散気管」とは、「上記好気処理を行う領域の下方から散気用エアを供給するための散気管」である点において共通する。
引用発明の「逆洗用散気管31」は、本願発明の「逆洗管」に相当する。すると、引用発明の「下段濾床29の下方に設置され逆洗用の空気を吐出する逆洗用散気管31」と、本願発明の「上記充填領域の下方から逆洗用エアを供給するための逆洗管」とは、「逆洗用エアを供給するための逆洗管」である点において共通する。
これらを総合すると、引用発明の「上段濾床28の下方に設置され好気処理を行うように空気を吐出する曝気用散気管30と、下段濾床29の下方に設置され逆洗用の空気を吐出する逆洗用散気管31とを備えた好気濾床槽25等に内部が分割された前記汚水浄化槽20に接続され」るという事項と、本願発明の「充填材が充填された充填領域と、上記充填領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、上記充填領域の下方から逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であ」るという事項とは、「好気処理を行う領域と、上記好気処理を行う領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であ」る点において共通する。
引用発明の「コントロール装置6」は、本願発明の「制御部」に相当するところ、引用発明の「コントロール装置6」は、「ポンプ本体1」及び「空気流路切替装置5」を制御するものであり、本願発明の「制御部」は、「エア吐出部」を制御するものである。そうすると、引用発明の「空気を吐出するポンプ本体1」及び「前記ポンプ本体1からの吐出空気を2流路のうちの一方の流路に選択的に供給する空気流路切替装置5」は、ともにコントロール装置6で制御されるものであり、両者を合わせたものが、本願発明の「エアを吐出するエア吐出部」に相当する。
引用発明の「ケーシング7」は、本願発明の「ハウジング」に相当し、引用発明の「前記ポンプ本体1及び前記空気流路切替装置5を収容するケーシング7」は、本願発明の「上記エア吐出部を収容するハウジング」に相当する。
引用発明の「運転管理者」及び「スイッチ部」は、それぞれ本願発明の「ユーザ」及び「入力部」に相当し、引用発明の「運転管理者が操作する、運転パターン選択スイッチ604、時刻設定スイッチ605、風量設定スイッチ606、設定確認スイッチ607等のスイッチ部」は、本願発明の「ユーザの指示が入力される入力部」に相当する。
引用発明の「選択された運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等の表示部」は、運転管理者によるスイッチ部の操作に応じた表示を行うものといえるから、本願発明の「上記入力部に入力された上記指示を表示可能な表示部」に相当する。
引用発明の「設定部」は、本願発明の「操作パネル」に相当し、引用発明の「前記ケーシング7の傾斜面に設けられ前記スイッチ部及び前記表示部を備えた設定部」と、本願発明の「上記ハウジングの上面に設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネル」とは、「上記ハウジングに設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネル」である点において共通する。また、引用発明の「設定部」は、表示部を備えるものであるから、本願発明の「上記操作パネルには、上記表示部が1つのみ設けられ」るという事項と、「上記操作パネルには、上記表示部が設けられ」る点において共通する。
引用発明の「前記運転パターン選択スイッチ604が操作されることにより選択された運転パターンで、前記ポンプ本体1の吐出風量調節および前記空気流路切替装置5の制御を実行するコントロール装置6」は、本願発明の「上記入力部に入力された上記指示に応じて、上記エア吐出部を制御する制御部」に相当する。
引用発明の「曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データ」、「運転パターン」及び「記憶手段64」は、それぞれ本願発明の「複数の運転パラメータ」、「プログラム」及び「記憶部」に相当し、引用発明の「前記ポンプ本体1の吐出風量調節および前記空気流路切替装置5の制御を実行するためのものであり、曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データのデータ群からなり、かつ、接続する複数種類の汚水浄化槽20に適したものが選択できる複数の運転パターンを記憶する記憶手段64」は、本願発明の「上記エア吐出部の複数の運転パラメータを組み合わせてなるプログラムについて、種類の異なる複数の浄化槽のそれぞれに対してそれぞれ個別に定められている複数のプログラムを記憶する記憶部」に相当する。
引用発明の「前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより、前記記憶手段64に記憶された複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンのデータ群に従って運転制御を実行する制御手段61」は、ポンプ本体1及び空気流路切替装置5に運転制御のための信号を出力しているといえるから、本願発明の「上記記憶部に記憶されている上記複数のプログラムの中のいずれか1つのプログラムが上記入力部を介して選択指示されたとき、そのプログラムに含まれている上記複数の運転パラメータに基づいて上記エア吐出部に制御信号を出力する制御信号出力部」に相当する。
引用発明の「運転パターンの番号」は、本願発明の「プログラム番号」に相当し、引用発明の「前記運転パターン表示部601は、前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンの番号を表示」するという事項は、運転パターン選択スイッチ604を操作することによって、運転パターン表示部601に表示される運転パターンの番号を切り替えるものといえるから、本願発明の「上記表示部は、表示されている上記指示が上記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルを表示可能であり、上記カーソルの表示によって上記複数の項目の中からプログラムの項目が選択された場合には、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であ」るという事項と、「上記表示部は、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であ」る点において共通する。
引用発明の「設定されている逆洗開始時刻」及び「逆洗時の風量」は、運転パターンごと、つまり、運転パターンの番号ごとに予め設定されている設定値であり、本願発明の「上記プログラム番号ごとに予め設定され」た「逆洗運転パラメータの初期値」に相当する。そして、引用発明の「現在選択されている運転パターンの設定値である、設定されている逆洗開始時刻を前記時刻設定スイッチ605により調整し、逆洗時の風量を前記風量設定スイッチ606により調整することができるようにしている」という事項は、運転パターン選択スイッチ604を操作することによって、運転パターンが選択された状態で、逆洗開始時刻及び逆洗時の風量を別の値に変更するものといえるから、本願発明の「上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で上記初期値を別の値に変更可能となるように構成されている」という事項に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「浄化槽にエアを供給するための浄化槽用エアポンプであって、
好気処理を行う領域と、上記好気処理を行う領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であり、
エアを吐出するエア吐出部と、
上記エア吐出部を収容するハウジングと、
ユーザの指示が入力される入力部と、
上記入力部に入力された上記指示を表示可能な表示部と、
上記ハウジングに設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネルと、
上記入力部に入力された上記指示に応じて、上記エア吐出部を制御する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記エア吐出部の複数の運転パラメータを組み合わせてなるプログラムについて、種類の異なる複数の浄化槽のそれぞれに対してそれぞれ個別に定められている複数のプログラムを記憶する記憶部と、
上記記憶部に記憶されている上記複数のプログラムの中のいずれか1つのプログラムが上記入力部を介して選択指示されたとき、そのプログラムに含まれている上記複数の運転パラメータに基づいて上記エア吐出部に制御信号を出力する制御信号出力部と、
を備え、
上記操作パネルには、上記表示部が設けられ、
上記表示部は、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であり、
上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で上記初期値を別の値に変更可能となるように構成されている、浄化槽用エアポンプ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
好気処理を行う領域及び逆洗用エアについて、本願発明は、「充填材が充填された充填領域」を設け、「上記充填領域の下方から」逆洗用エアが供給されるのに対し、引用発明は、「上段濾床28」に充填材が充填されているか、引用文献1に明示されておらず、また、上段濾床28の下方から逆洗用の空気が吐出されるか明確でない点。

[相違点2]
操作パネルが設けられるハウジングの面について、本願発明は、「上面」であるのに対し、引用発明は、「傾斜面」である点。

[相違点3]
操作パネルの表示部、及び表示部のまわりについて、本願発明は、表示部が「1つのみ」設けられ、「この表示部のまわりに上記指示を表すための複数の項目が記されており、上記複数の項目には、プログラムに加えて、いずれも逆洗用エアについての逆洗運転パラメータである、逆洗時刻と、一日あたりの逆洗回数と、その逆洗一回あたりの逆洗時間と、が含まれており」、「表示されている上記指示が上記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルを表示可能であり、上記カーソルの表示によって上記複数の項目の中からプログラムの項目が選択された場合には」、プログラム番号を表示するのに対し、引用発明は、表示部が、運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等からなり、表示部のまわりに複数の項目が記されていないため、表示されている指示が複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルは表示されず、運転パターンの番号は、運転パターン表示部601に表示される点。

5.判断
(1)相違点について
以下、前記相違点について判断する。
[相違点1]について
ブロワが接続される浄化槽の技術分野において、散気用及び逆洗用の空気が供給される生物濾過槽に濾過材を充填し、生物濾過槽の上部(好気部)で好気性微生物による好気処理を行い、下部(濾過部)で濾過処理を行うとともに、逆洗時に逆洗用の空気を好気部及び濾過部へ供給することは、この出願の出願前から周知の事項である(例えば、引用文献4の前記「3.(4)」の記載事項ア.?ウ.及びク.並びに引用文献6の前記「3.(6)」の記載事項ア.?ウ.参照)。
そして、引用発明のエアポンプ装置10が接続される汚水浄化槽20の好気濾床槽25においても、前記「3.(1)ア.」の記載事項(キ)によると、上段濾床28で好気処理が行われ、下段濾床29で濾過処理が行われるものであるから、前記周知の事項における生物濾過槽と同様に、上段濾床28及び下段濾床29に濾過材が充填されていることは明らかである。
また、引用発明において、下段濾床29は、上段濾床28の下方に配置されるものであり、「下段濾床29の下方に設置され」る「逆洗用散気管31」から吐出する逆洗用の空気を、前記周知の事項にならい、下段濾床29だけでなく、上段濾床28にも下方から供給可能とすることに格別の困難性はない。
そうすると、引用発明の上段濾床28に、濾過材が充填されているか、引用文献1に明示されていないとしても、前記周知の事項を考慮すると、濾過材が充填さていることは明らかであり、また、引用発明の逆洗用の空気を、前記周知の事項にならい、上段濾床28の下方から供給し、本願発明の前記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

[相違点2]について
浄化槽に空気を吐出するブロワの技術分野において、操作パネルをハウジングの上面に設けることは、この出願の出願前から周知の事項である(例えば、引用文献2の前記「3.(2)」の記載事項イ.及び引用文献3の前記「3.(3)」の記載事項ア.参照)。
そして、引用発明の設定部はケーシング7の傾斜面に設けられているが、この設定部を設ける位置は、その操作性や、エアポンプ装置及び設定部の形状・寸法等を考慮して、当業者が最適化し得るものであって、引用発明の設定部を、前記周知の事項にならい、ケーシング7の上面に設け、本願発明の前記相違点2に係る発明特定事項とすることに格別の困難性はない。

[相違点3]について
引用発明の表示部は、選択された運転パターン表示部601、現在時刻や逆洗時刻を表示する時刻表示部602、吐出風量を表示する風量表示部603等からなり、曝気風量データ、逆洗風量データ、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データのデータ群からなる複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンの番号を、当該番号を表示するため運転パターン表示部601に表示するものである。
一方、引用文献4には、前記「3.(4)」の記載事項シ.に示したように、浄化槽に空気を吐出するブロワであるMX80の操作面(本願発明の「操作パネル」に相当する。)として、液晶からなる表示部が1つのみ設けられ、この表示部のまわりに設定内容(本願発明の「指示」に相当する。)を表すための複数の項目が記されており、複数の項目には、逆洗の開始時刻(本願発明の「逆洗時刻」に相当する。)と、逆洗の1日あたりの回数(本願発明の「一日あたりの逆洗回数」に相当する。)と、逆洗1回あたりの逆洗を行う時間(本願発明の「その逆洗一回あたりの逆洗時間」に相当する。)と、が含まれており、液晶で表示されている設定内容が前記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示す▲マーク(本願発明の「カーソル」に相当する。)を表示可能であり、前記▲マークの表示によって前記複数の項目の中からいずれかの項目が選択された場合には、当該選択された項目の設定内容を液晶で表示するものが開示されている。
また、引用文献4の第44ページ?第45ページに記載された「【参考-4】CS型用ブロワの変遷」によると、従来型のMTB48(生産期間 1998年8月?1999年4月)の操作面では、前記「3.(4)」の記載事項コ.に示したように、現在時刻及び逆洗時刻を表示する表示部と、逆洗時間を表示する3つのランプと、逆洗周期を表示する3つのランプを備えていたところ、その後に生産されたMX80(生産期間 2002年3月?)の操作面では、液晶からなる1つの表示部のみを用いて、▲マークの移動により、複数の項目の設定内容を表示可能としている。このブロアの操作面の変遷を考慮すると、浄化槽に空気を吐出するブロワの技術分野において、複数の表示部を備えた操作面に代えて、単一の表示部で複数の情報を表示することができる操作面を採用することが知られており、これにより、表示部等の装置の小型化や、操作面の操作性の向上を図るという課題へ対応しているものと把握できる。
そして、引用発明と、引用文献4に記載された事項とは、ともに浄化槽に空気を吐出するブロワに関するものであり、発明の属する技術の分野が共通しており、また、引用発明は、表示部等の装置の小型化や、設定部の操作性の向上を図るという課題を、当然、内在しているものと解される。すると、前記内在する課題を解決すべく、引用発明の選択された1つの運転パターンの番号を表示する運転パターン表示部601、時刻表示部602、風量表示部603等からなる複数の表示部に代えて、引用文献4に記載されたMX80の移動する▲マークを備えた1つの表示部を採用し、選択された1つの運転パターンの番号の他、時刻表示部602、風量表示部603等で表示するデータを当該1つの表示部で表示することは、当業者が容易に想到し得たものである。
その際、当該1つの表示部のまわりに記載される複数の項目について、当該1つの表示部において、前記したように運転パターンの番号を表示する以上、運転パターンに関する項目は、当然、記載されるものである。また、引用発明の複数の運転パターンは、逆洗開始時刻データ、逆洗時間の各データを含むものであるから、これらのデータを表示や設定すべく、引用文献4に記載されたMX80の操作面と同様に、逆洗の開始時刻及び逆洗1回あたりの逆洗を行う時間を項目として記載することに格別の困難性ない。さらに、浄化槽に空気を吐出するブロワの技術分野において、自動運転時の一日あたりの逆洗回数を表示や設定することは、この出願の出願前から周知の事項である(例えば、引用文献4の前記「3.(4)」の記載事項オ.、ケ.及びサ.、引用文献5の前記「3.(5)」の記載事項ア.参照)ことを考慮すると、引用発明の複数の運転パターンのデータ群に、一日あたりの逆洗回数のデータを加え、この逆洗回数のデータを表示や設定することに格別の困難性はないから、引用文献4に記載されたMX80の操作面と同様に、逆洗の1日あたりの回数を項目として記載することにも格別の困難性ない。
すると、引用発明に、引用文献4に記載された事項及び前記周知の事項を適用し、本願発明の前記相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)請求人の主張について
審判請求人は、令和元年5月17日に提出された審判請求書において、「上述のように、逆洗処理を行う浄化槽において、浄化槽のメーカーや型式などに応じて定まる基本的な運転条件については、プログラム番号の選択によって基本的な運転条件を予め包括的に自動設定することができる。このため、先ずは、プログラム番号を選択して予め設定することで、処理水質に重大な影響を及ぼすような根本的な設定ミスが生じるのを防ぐことができるという作用効果(以下、「第1の作用効果」という。)を奏する。
そして、予め設定されたプログラム番号のもとで実行される基本的な運転条件を前提とした上で、ユーザのライフスタイル等に合わせて逆洗条件のみを微調整することができる。このため、対象とする浄化槽に適した基本的な運転条件が、逆洗運転パラメータの初期値の変更時に誤って変更されることを防止することができ、また仮に誤操作が生じたとしてもその前に設定されている基本的な運転条件が変わることがないため、処理水質に及ぼす影響を低く抑えることができるという作用効果(以下、「第2の作用効果」という。)を奏する。」(第6ページ第7行?第19行)と主張している。
しかしながら、引用発明は、「接続する複数種類の汚水浄化槽20に適したものが選択できる複数の運転パターンを記憶する記憶手段64と、前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより、前記記憶手段64に記憶された複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンのデータ群に従って運転制御を実行する制御手段61」とを備えるものであり、接続する汚水浄化槽20に適した運転パターンを選択できるものであるから、「処理水質に重大な影響を及ぼすような根本的な設定ミスが生じるのを防ぐことができる」という審判請求人が主張する「第1の作用効果」を奏するものである。
また、引用発明は、「前記運転パターン表示部601は、前記運転パターン選択スイッチ604を操作することにより複数の運転パターンの中から選択された1つの運転パターンの番号を表示し、現在選択されている運転パターンの設定値である、設定されている逆洗開始時刻を前記時刻設定スイッチ605により調整し、逆洗時の風量を前記風量設定スイッチ606により調整することができるようにしている」ものであり、予め設定された運転パターンを前提とした上で、ユーザのライフスタイル等に合わせて逆洗開始時刻、逆洗時の風量を微調整することができるといえるから、「対象とする浄化槽に適した基本的な運転条件が、逆洗運転パラメータの初期値の変更時に誤って変更されることを防止することができ、また仮に誤操作が生じたとしてもその前に設定されている基本的な運転条件が変わることがないため、処理水質に及ぼす影響を低く抑えることができる」という審判請求人が主張する「第2の作用効果」を奏するものである。
そうすると、審判請求人が主張する「第1の作用効果」及び「第2の作用効果」は、引用発明から予測できる範囲のものである。
すると、審判請求人の主張は採用することができない。

(3)本願発明の作用効果について
本願発明の作用効果については、前記(2)に記載したように、引用発明及び前記周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。

(4)上申書の補正案について
審判請求人は、令和元年8月30日付け上申書において、以下の補正案を記載している(下線は、本願発明の発明特定事項に対する補正箇所である。)。
「【請求項1】
浄化槽にエアを供給するための浄化槽用エアポンプであって、
充填材が充填された充填領域と、上記充填領域の下方から散気用エアを供給するための散気管と、上記充填領域の下方から逆洗用エアを供給するための逆洗管と、が設けられた浄化槽に接続可能であり、
エアを吐出するエア吐出部と、
上記エア吐出部を収容するハウジングと、
ユーザの指示が入力される入力部と、
上記入力部に入力された上記指示を表示可能な表示部と、
上記ハウジングの上面に設けられ上記入力部及び上記表示部が配された操作パネルと、
上記入力部に入力された上記指示に応じて、上記エア吐出部を制御する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
上記エア吐出部の複数の運転パラメータを組み合わせてなるプログラムについて、種類の異なる複数の浄化槽のそれぞれに対してそれぞれ個別に定められている複数のプログラムを記憶する記憶部と、
上記記憶部に記憶されている上記複数のプログラムの中のいずれか1つのプログラムが上記入力部を介して選択指示されたとき、そのプログラムに含まれている上記複数の運転パラメータに基づいて上記エア吐出部に制御信号を出力する制御信号出力部と、
を備え、
上記複数のプログラムのそれぞれに含まれる上記複数の運転パラメータには、少なくとも、逆洗用エアについての逆洗運転パラメータである、逆洗時刻と、逆洗回数と、その逆洗一回あたりの逆洗時間と、次回の逆洗までの時間間隔と、が含まれており、
上記操作パネルには、上記表示部が1つのみ設けられ、この表示部のまわりに上記指示を表すための複数の項目が記されており、上記複数の項目には、プログラムに加えて、上記複数の運転パラメータの中の上記逆洗時刻と、上記逆洗回数と、上記逆洗時間と、が含まれており、
上記表示部は、表示されている上記指示が上記複数の項目の中のいずれの項目に該当するかを示すカーソルを表示可能であり、上記カーソルの表示によって上記複数の項目の中からプログラムの項目が選択された場合には、上記複数のプログラムのいずれかのプログラム番号を表示するとともに、表示されている上記プログラム番号が上記入力部によって切替え可能であり、
上記逆洗運転パラメータの初期値が上記プログラム番号ごとに予め設定されており、上記入力部によって上記プログラム番号が設定された状態で、上記逆洗運転パラメータのうち、上記逆洗回数、上記逆洗時間、及び上記逆洗時刻については上記初期値に予め設定されている値が上記操作パネルの上記複数の項目の中から該当する項目を選択した状態で別の値に変更可能とされ、上記時間間隔については上記初期値に予め設定されている値が上記プログラム番号の変更によってのみ別の値に変更可能とされている、浄化槽用エアポンプ。」

そこで、この補正案に記載された事項が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものか否かについて検討すると、当初明細書等には、前記「第2[理由] 2.」に記載したように段落[0055]及び[0073]に、複数のプログラムPのそれぞれに共通の初期値を、プログラム番号を設定した状態で変更することや、運転パラメータC(例えば、次回の逆洗までの時間間隔)の初期値が異なるプログラムPを使用することが記載されている。また、段落[0050]?「0052」に「ボタン13は、自動逆洗モードと手動逆洗モードとを切り替える第1の機能と、ボタン14によって選択された項目について設定を変更する第2の機能と、を有する。第1の機能について、ボタン13によって自動逆洗モードが選択されると、予め設定されているプログラムにしたがって逆洗処理が実行される。また、ボタン13によって手動逆洗モードが選択されると、その後にボタン14によって選択指示される項目について逆洗処理条件を設定することができる。ボタン14は、項目を切り替えるためのボタンである。このボタン14が押される毎に、表示部16において点滅するカーソル16aの位置が順次変化し、複数(図7では6つ)の項目の中から所望の項目を選択することができる。例えば、ボタン14が押される毎に、現在時刻(時)、現在時刻(分)、プログラム、逆洗時刻(時)、逆洗回数(回/日)、逆洗時間(分)の順で項目の選択が切り替わる。図7においては、選択されていない状態のカーソル16aが黒塗りで示されており、選択されている点滅状態のカーソル16a、即ちプログラムに対応するカーソル16aが白抜きで示されている。ボタン14によって所望の項目が選択された状態では、ボタン13の第2の機能によって、選択されたこの項目について設定を変更することができる。例えば、ボタン14によって「プログラム」の項目が選択されると、複数のプログラムPの中のいずれか1つのプログラムPに対応したプログラム番号Nが表示部16に表示される。そして、その後にボタン13が押される毎に、表示部16に表示されるプログラム番号Nが順次変化する。」と記載され、逆洗回数、逆洗時間及び逆洗時刻について、操作パネルの複数の項目の中から該当する項目を選択した状態でこの項目についての何らかの設定を変更することが記載されている。
しかしながら、操作パネルの複数の項目の中から逆洗回数、逆洗時間又は逆洗時刻の項目を選択した状態で、プログラム番号ごとに予め設定されている逆洗回数、逆洗時間又は逆洗時刻の初期値を別の値に変更可能とすることについては、何ら記載されておらず、また、時間間隔の初期値をプログラム番号の変更によってのみ別の値に変更可能とすること、つまりプログラム番号の変更以外では別の値に変更できないことについても、何ら記載されていない。
そうすると、この補正案に記載された事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、この補正案を採用することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明、引用文献4に記載された事項、及び引用文献2,3,5,6等に示される前記周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含するこの出願は、この出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-05-29 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-16 
出願番号 特願2016-206305(P2016-206305)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04B)
P 1 8・ 561- Z (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大瀬 円  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 柿崎 拓
長馬 望
発明の名称 浄化槽用エアポンプ、エアポンプ適用システム  
代理人 特許業務法人あいち国際特許事務所  

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