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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1364843
審判番号 不服2019-8478  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-25 
確定日 2020-08-06 
事件の表示 特願2014-150333「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 2月 8日出願公開、特開2016- 23902〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年2月26日付けで拒絶理由通知
平成30年4月26日に意見書及び手続補正書の提出
平成30年9月26日付けで拒絶理由通知(最後)
平成30年11月22日に意見書及び手続補正書の提出
平成31年3月28日付けで、平成30年11月22日に提出された手続補正書による補正について、補正の却下の決定、及び拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和元年6月25日に審判請求書及び手続補正書の提出

第2 令和元年6月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年6月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、
R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒と、
ポリオールエステル油及び酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備え、
前記ポリオールエステル油は式(6)に示す構造の基油と式(7)に示す構造の基油とを混合した基油であり(式中のR^(5)は炭素数4?5のアルキル基又は炭素数8?12のアルキル基であり、式中のR^(5)の少なくとも1つは炭素数4?5のアルキル基である)、
前記酸捕捉剤はカルボジイミド化合物及びエポキシ化合物を有し、
前記エポキシ化合物はアルキルグリシジルエステル化合物又はファティーグリシジルエーテル化合物であり、
前記カルボジイミド化合物の割合は前記酸捕捉剤あたり60重量%以上95重量%以下であり、
前記カルボジイミド化合物の分子量は362であり、
前記アルキルグリシジルエステル化合物の分子量は158以上228以下であり、
前記ファティーグリシジルエーテル化合物の分子量は186であり、
前記冷凍機油はR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下である空気調和機。
【化1】

【化2】



(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、平成30年4月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲のの請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、
R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒と、
ポリオールエステル油及び酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備え、
前記ポリオールエステル油は式(6)に示す構造の基油と式(7)に示す構造の基油とを混合した基油であり(式中のR^(5)は炭素数4?5のアルキル基又は炭素数8?12のアルキル基であり、式中のR^(5)の少なくとも1つは炭素数4?5のアルキル基である)、
前記酸捕捉剤はカルボジイミド化合物及びエポキシ化合物を有し、
前記エポキシ化合物はアルキルグリシジルエステル化合物又はファティーグリシジルエーテル化合物であり、
前記冷凍機油はR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下である空気調和機。
【化1】

【化2】



2 補正の適否
上記補正は、本件補正前の請求項1における「カルボジイミド化合物」について、酸捕捉剤あたりの割合及び分子量を限定するとともに、「エポキシ化合物」である「アルキルグリシジルエステル化合物」又は「ファティーグリシジルエーテル化合物」について、分子量を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された引用文献である、特開2003-20493号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。また、「・・・」は記載の省略を示す。)。
「【請求項1】 エステル系またはエーテル系合成潤滑基油に、(A)アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、またはシクロヘキセンオキシドを分子内に含む化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満、および(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満配合したことからなるハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素、または炭化水素を冷媒とした冷凍機用潤滑油組成物。」

「【請求項4】 エステル系合成潤滑基油が、ポリオールエステルであることを特徴とする請求項1?3に記載の冷凍機用潤滑油組成物。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素、炭化水素などの塩素を含有しない冷媒を使用する冷凍機用潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】冷蔵庫、空調装置などの冷凍機では、圧縮摺動部における摩擦、摩耗、焼き付き防止などのために、潤滑油が用いられている。この潤滑油に要求される特性としては、冷媒との接触を伴うため冷媒に対する安定性が優れていること、冷媒との溶解性に優れていることなどが挙げられる。従来、冷媒としては塩素を含有するフロン冷媒、例えば、R11(トリクロロモノフルオロメタン)やR12(ジクロロジフルオロメタン)などのクロロフルオロカーボン類や、R22(モノクロロジフルオロメタン)などのハイドロクロロフルオロカーボン類が用いられ、これらの塩素を含有する冷媒に対しては、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油、アルキルベンゼン系合成油、ポリαオレフィン系合成油(PAO)等が潤滑油として使用されてきた。
【0003】しかし、これらの塩素含有フロン冷媒は、成層圏のオゾン層を破壊するため、国際的にその使用が規制され、これに替わる代替フロン冷媒としてのR134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)等の塩素を含有しないハイドロフルオロカーボンや、アンモニア、二酸化炭素、炭化水素などが冷媒として使用されつつある。これらの冷媒に対応した潤滑油が検討され、ハイドロフルオロカーボン冷媒に対しては、ポリオキシアルキレングリコール(PAG)などのポリエーテル系合成油あるいはポリオールエステル系合成油が、二酸化炭素に対してはPAGなどのエーテル系合成油やPAOなどの合成炭化水素化合物が、炭化水素に対してはエーテル系合成油やナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油が提案されている。
【0004】しかし、塩素を含有しない冷媒の場合、塩素の極圧効果(潤滑性向上)が望めないため、冷凍機の軸受け、ピストン、シール部等で潤滑不良が生じやすく、エネルギー損失、摩耗増大、焼き付きなどを引き起こしたり、冷媒や潤滑油の分解を促進し、腐食を引き起こす原因となったりする。特に、冷凍機のコンプレサー等の冷凍システム系内には、微量の水分および酸素が存在し、ポリオールエステル系潤滑油を用いた場合、加水分解して遊離酸を生成し、また、エーテル系潤滑油の場合、酸化劣化して酸価を上昇させ、いずれも装置内の材料の腐食、冷媒や潤滑油の劣化促進、冷媒非溶解成分の生成によるキャピラリ閉塞などの問題があった。
【0005】これらを改善するため、エポキシ化合物を添加する方法(特開平2-276880、同5-17792)やカルボジイミド基を有する化合物を添加する方法(特開平7-133487、国際公開WO94/21759)が提案されている。しかしながら、エポキシ化合物は遊離酸との反応が遅く、またカルボジイミド基を有する化合物も単独で実質的な効果を上げるためには添加量を多くする必要があり、特に、冷凍システム系に系内水分を低減する装置または手段を有さない、カーエアコンや空調装置等の冷凍機においは、その添加量を2重量%以上とする必要があり、このような添加量では、カルボジイミドの場合は潤滑油の着色が著しく商品価値を下げる原因となり、さらにエポキシ化合物もカルボジイミド化合物もともに長期の使用でスラッジを生成させるという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定のエポキシ化合物およびカルボジイミド化合物を併用すると、驚くべきことに、これらの化合物の添加量を、それぞれ単独で添加する場合に比べて著しく低減させることができ、潤滑油の着色や長期の使用でのスラッジの発生を抑制できることを見出した。本発明はかかる知見に基づきなされたもので、本発明の目的は、加水分解や酸化に対する安定性に優れ、潤滑油の着色や長期間の使用においてスラッジの発生がない、ハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素、または炭化水素等の塩素を含有しない冷媒を使用する冷凍機用に最適な潤滑油組成物を提供することである。」

「【0009】
【発明の実施の形態】本発明は、ハイドロフルオロカーボン、二酸化炭素、炭化水素などの冷媒を使用する冷凍機に適用することができ、特には、カーエアコンや空調装置等で、冷凍システム系に系内水分を低減する装置または手段を有さない冷凍機に好適である。塩素を含有しないこれらの冷媒を1種または2種以上混合したものにも適用することができる。
【0010】ハイドロフルオロカーボンとしては、例えばR134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)R143a(1,1,1-トリフルオロエタン)、R125(ペンタフルオロエタン)、R32(ジフルオロメタン)などの冷媒、あるいはこれらの混合冷媒などを挙げることができる。」

「【0012】本発明における冷凍機用潤滑油の基油としては、エステル化合物、エーテル化合物の1種以上を用いることが好ましい。
【0013】エステル化合物としては、多価アルコール(ポリオール)とモノカルボン酸(一価脂肪酸)とのエステル化反応により得られるポリオールエステル、多価アルコールとモノカルボン酸と多価カルボン酸とのコンプレックスエステル、あるいはそれらの混合物などが好ましい。多価アルコールとしては、特に、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどのネオペンチルポリオールを好ましい。モノカルボン酸としては、n-ペンタン酸、n-ヘキサン酸、n-ヘプタン酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、n-デカン酸、i-ペンタン酸、i-ヘキサン酸、i-ヘプタン酸、2-エチルペンタン酸、2-メチルヘキサン酸、i-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、i-ノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、i-デカン酸などが挙げられる。また、多価カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸などのジカルボン酸が好ましい。」

「【0016】本発明の潤滑油組成物は、上記の基油に、以下に示す(A)および(B)成分、さらには(C)成分の添加剤を加えることにより製造することができる。さらに所望によりその他の添加剤(D)を加えてもよい。
(A)アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、またはシクロヘキセンオキシドを分子内に含む化合物から選択された化合物
(A1)アルキルグリシジルエーテル
アルキルグリシジルエーテルは下記一般式(2)で表される。
【0017】
【化2】

(式(2)中、R2は、炭素数5?18のアルキル基を表す。)
【0018】アルキル基の炭素数が5未満であると、エポキシ化合物の安定性が低下し、水分、脂肪酸、酸化劣化物と反応する前に分解したり、エポキシ化合物同士が重合する自己重合を起こしたりするため、目的の機能が得られなくなる。一方炭素数が18を超えると、冷媒、特にハイドロフルオロカーボン冷媒との溶解性がなくなり、冷凍装置内で析出して冷却不良などの不具合を生じる可能性があるため好ましくない。また、フェニル基、アリール基などを含む場合も冷媒との溶解性がなくなり、冷凍機内で析出して冷却不良などの不具合を生じる可能性があるため好ましくない。
【0019】具体的には、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ネオデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、ネオドデシルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0020】(A2)アルキルグリシジルエステル
アルキルグリシジルエステルは下記一般式(3)で表される。
【0021】
【化3】

(式中、R3は、炭素数5?18のアルキル基を表す。)
【0022】アルキル基の炭素数が5未満であると、エポキシ化合物の安定性が低下し、水分、脂肪酸、酸化劣化物と反応する前に分解したり、エポキシ化合物同士が重合する自己重合を起こしたりするため、目的の機能が得られなくなる。一方炭素数が18を超えると、冷媒、特にハイドロフルオロカーボン冷媒との溶解性がなくなり、冷凍機内で析出して冷却不良などの不具合を生じる可能性があるため好ましくない。また、フェニル基、アリール基などを含む場合も冷媒との溶解性がなくなり、冷凍機内で析出して冷却不良などの不具合を生じる可能性があるため好ましくない。
【0023】具体的には、ペンチルグリシジルエーテル、ヘキシルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ネオデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、ネオドデシルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテルなどを挙げることができる。(当審注:この段落における「エーテル」は「エステル」の誤記と認められる。)
・・・
【0030】上記の、アルキルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステル、シクロヘキセンオキシドを分子内に含む化合物から選択された1種以上は、基油に対して0.01重量%以上1重量%未満、好ましくは、0.05重量%以上1重量%未満、より好ましくは0.1重量%以上1重量%未満添加する。添加量が少なすぎると効果がなく、多すぎると長期の使用において、エポキシ化合物同士が重合する自己重合によりスラッジが発生するため好ましくない。」

「【0031】(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキルフェニル)カルボジイミド
本発明におけるビス(アルキルフェニル)カルボジイミドとしては、ジトリルカルボジイミド、ビス(イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ジブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(ノニルフェニル)カルボジイミド等を挙げることができる。
【0032】カルボジイミド化合物は、基油に対して0.01重量%以上1重量%未満、好ましくは0.05重量%以上0.5重量%未満添加する。添加量が少なすぎると効果がなく、多すぎると潤滑油が黄色から茶色に呈色して、商品価値を低下するとともに、長期の使用によりスラッジを生成させるため好ましくない。
【0033】(C)ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
ジ-tert-ブチル-p-クレゾールは基油に対して0.01以上1重量%未満、好ましくは0.05以上0.5重量%未満添加する。添加量が少なすぎると効果がなく、多すぎると、長期の使用によりスラッジを生成させるため好ましくない。」

「【0035】本発明の潤滑油組成物は、レシプロ式あるいはロータリー式の圧縮機を有するカーエアコン、空調機、除湿器、冷蔵庫、冷凍庫、冷凍冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機に用いられるが、特には、冷凍サイクルとして、少なくとも、圧縮機、膨張機構、蒸発器、および凝縮器またはガスクーラから構成され、当該冷凍サイクル系内の水分を低減させる、ドライヤ等の装置や手段を含まない冷凍機が、本発明の潤滑油の効果を最大限に発揮でき、好適である。」

「【0036】
【実施例】以下、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例および比較例に使用した基油、添加剤は下記の通りである。
基油:
基油1:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸/3,5,5-トリメチルヘキサン酸(50重量%/50重量%)から得られるポリオールエステル。
基油2:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸から得られるポリオールエステル。
基油3:ネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸から得られるポリオールエステル。
【0037】添加剤:
(1)エポキシ化合物:
A1:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
A2:ネオデシルグリシジルエステル
A3:オキシシクロヘキセノール オキシシクロヘキセン酸エステル
(2)カルボジイミド化合物(CDI):
B1:ビス(ジブチルフェニル)カルボジイミド
(3)ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(DBPC)
実施例および比較例の潤滑油組成物の組成を表1に示した。
・・・
【0039】これらの実施例および比較例の潤滑油組成物を用いて、加水分解や酸化劣化に対する安定性を、次の条件によるシールドチューブテストで評価した。
・・・
【0041】以上の結果から、実施例のようにエポキシ化合物とカルボジイミド化合物の両方を添加したもの、あるいはこれらにさらにジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加したものが、安定性に優れていることが分かる。」

(イ)上記(ア)の記載から認められる事項
上記(ア)の記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 上記(ア)の請求項1、段落0009及び0035の記載によれば、引用文献1には、エステル系合成潤滑基油に、(A)アルキルグリシジルエステルを0.01重量%以上1重量%未満、および(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満配合したことからなるハイドロフルオロカーボンを冷媒とした冷凍機用潤滑油組成物を用いた空調装置が記載されている。

b 上記(ア)の段落0035の記載によれば、空調装置は、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を備えることが認められる。

c 上記(ア)の0010の記載によればハイドロフルオロカーボンとしてR32(ジフルオロメタン)が記載されていると認められる。

d 上記(ア)の請求項4並びに段落0012、0013及び0036の記載によれば、エステル系合成潤滑基油として、ポリオールエステルが記載されていると認められる。

(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器を備え、
ポリオールエステルに、(A)アルキルグリシジルエステルを0.01重量%以上1重量%未満、および(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満配合したことからなるR32(ジフルオロメタン)を冷媒とした冷凍機用潤滑油組成物を用いた
空調装置。」

イ 引用文献2
(ア)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された引用文献である、国際公開第2012/086518号(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(なお、下線は当審において付したものである。また、「・・・」は記載の省略を示す。)。
「本発明は、ヒートポンプサイクルを用いた冷凍空調用圧縮機及び冷凍空調装置に関する。」([0001])

「本発明の目的は、冷媒としてジフルオロメタン(HFC32)を用いた冷凍空調用圧縮機の耐摩耗性を向上して長期信頼性を高めるとともに、この圧縮機を用いた冷凍空調機器の冷凍空調サイクルの高効率化を実現することにある。
・・・
発明の効果
本発明によれば、冷媒としてジフルオロメタンを用いた冷凍空調用圧縮機の長期信頼性及び油戻り特性を確保しつつ、地球環境に配慮した冷凍空調装置を得ることができる。」([0020]?[0022])

「前記冷凍空調用圧縮機において、冷凍機油は、ポリオールエステル油又はポリビニルエーテル油である。
前記冷凍空調用圧縮機において、ポリオールエステル油は、下記化学式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される化合物(式中、R^(1)?R^(11)は、炭素数4?9のアルキル基を表す。)並びにコンプレックスエステル油からなる群から選択される少なくとも一種類を基油として含む。
・・・
[化3]

[化4]

」([0026]?[0031])

「実施例は、ジフルオロメタンを用いた圧縮機及びこれを用いた冷凍空調装置について開示するものである。
実施例の冷媒は、ジフルオロメタンであり、冷凍機油は、ポリオールエステル油又はポリビニルエーテル油である。
ポリオールエステル油は、多価アルコールと一価の脂肪酸との縮合反応により得られる。
ポリオールエステル油としては、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましく、原料となる多価アルコールとして好ましいものは、例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等である。」([0040]?[0043])

「本発明においては、前記した冷凍機油に潤滑性向上剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤、金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特に、ポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤及び酸捕捉剤の配合は必須である。
・・・
酸捕捉剤としては、一般に、エポキシ環を有する化合物である脂肪族のエポキシ系化合物やカルボジイミド系化合物が使用される。特に、カルボジイミド系化合物は、脂肪酸との反応性が極めて高く、脂肪酸から解離した水素イオンを捕捉することから、ポリオールエステル油の加水分解反応が抑制される効果が非常に大きい。カルボジイミド系化合物としては、ビス(2,6-イソプロピルフェニル)カルボジイミドが挙げられる。酸捕捉剤の配合量は、冷凍機油に対して0.05?1.0重量%とすることが好ましい。また、ポリビニルエーテル油は、耐摩耗性が劣るため、潤滑性向上剤としてトリクレジルホスフェートに代表される第三級ホスフェートなどを配合することが望ましい。」([0055]?[0057])

「 (実施例1?14及び比較例1?11)
(冷凍機油成分)
冷凍空調用圧縮機に封入される冷媒及び冷凍機油の相溶性は、前述したように冷凍サイクルから圧縮機への油戻り(圧縮機内部の油量を確保)あるいは熱交換効率の低下等、圧縮機の信頼性を保証する面で重要な特性の一つである。
ジフルオロメタンと冷凍機油との相溶性評価は、日本工業規格番号 JIS K 2211に準じて測定した。
任意の量の油(冷凍機油)と冷媒とを混合して調製した混合物を耐圧ガラス容器に封入し、温度を変化させた状態における内容物の観察を行った。内容物が白濁していれば二層分離、透明であれば溶解と判定した。
一般に、上記の混合物の組み合わせでは、高温側と低温側に分離域を持っている。相溶性で特に問題となるのは低温側であり、本実施例で行った相溶性評価においては、混合物の温度を二層分離している-60℃から徐々に上昇させて二層分離の状態の観察を行い、その時の温度を二層分離する温度として測定した。ここで、二層分離する温度が20℃以上の場合のデータは求めていない。20℃以上で二層分離する油は、冷凍空調用の圧縮機に用いる油としては不適当である。
冷媒と冷凍機油とが二層分離する温度は濃度によって変化する。問題となる低温側では上に凸を持った曲線となり全油濃度を測定して分離曲線の最大値が低温側臨界溶解温度となり重要な温度となる。エアコンの圧縮機運転条件、室外機などが置かれる外気温、さらには冷凍サイクル内においても冷媒と冷凍機油との濃度は様々に変化するためこれにともない二層分離温度も変わってくる。このため低温での二層分離に関しては、全ての冷媒と油濃度に対する二層分離温度を測定し、その最大値で評価することが重要となる。このとき、低温側臨界溶解温度は特定濃度に現れるわけではない。従って、特定の濃度における二層分離温度を測定しても圧縮機に用いる油として適切な評価指針とはならない。このため、本実施例の相溶性評価においては、冷媒に混合した油の濃度(油濃度)を横軸とし、二層分離温度を縦軸としたグラフを作成した。このグラフは、一般に、二層に分離する温度の油濃度依存性を示すものであり、極大値を有する上に凸の曲線となる。この極大値を低温側臨界溶解温度と定義した。
用いた冷凍機油は、下記の通りである。ここで、40℃粘度は、40℃における冷凍機油の動粘度である。
・・・
(T)ヒンダードタイプポリオールエステル油(H-POE)(ペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール系の2-メチルブタン酸/2-エチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃粘度68.7mm^(2)/s
(U)ヒンダードタイプポリオールエステル油(H-POE)(ペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール系の2-メチルブタン酸/2-エチルヘキサン酸の混合脂肪酸エステル油):40℃粘度64.4mm^(2)/s
・・・
表1は、冷媒であるジフルオロメタン(HFC32)と冷凍機油との相溶性評価の結果を示したものである。
本表において、現在のR410Aを用いた冷凍空調装置に主に使用されている冷凍機油の相溶性評価の結果は、比較例10及び11として示してある。
[表1]

本表より、冷媒であるHFC32と冷凍機油との相溶性の度合いである低温側臨界溶解温度が冷凍機油の種類によって大きく異なっていることがわかる。本表により、HFC32と相溶する冷凍機油を選定することができる。
実施例1?14に示す冷媒と冷凍機油との組み合わせにおいては、いずれも低温側臨界溶解温度が+10℃以下となっている。
・・・
これらに対して、実施例1?14においては、HFC32との相溶性に優れており、低温側臨界溶解温度が+10℃以下であるため、冷凍空調装置に適用することが可能である。
・・・
実施例15?17及び比較例12?16で行った評価結果を表2に示す。HFC32では断熱指数が大きいため圧縮機での吐出温度が約5?15℃も上昇する。このためR410A冷媒を採用したエアコンで用いられてきた冷凍機油よりも熱に対する安定性が非常に重要である。温度が高いと有機物に対する劣化が大きくなることは一般的な知見である。このためポリオールエステル油の加水分解性もその一つの評価方法であり、分解生成物の脂肪酸が多量に存在するとサイクルの目詰まりや圧縮機摺動部の腐食摩耗などを引き起こす懸念がある。また、高温ではポリオールエステル油自体の吸着能力が低下するため油性効果が低くなるため潤滑性も優れるものが必要である。
[表2]

比較例12?14で示す化合物は、直鎖脂肪酸を用いているため潤滑性は優れているが、耐加水分解性が劣り、さらには体積抵抗率が規格値を満たしていない。R410A冷媒との相溶性に優れた冷凍機油を用いた比較例15,16は加水分解性、電気絶縁性、潤滑性は十分満足できる。しかしながら、比較例16のようにR410Aを冷媒に用いた場合は優れた相溶性を有するが、ジフルオロメタンを冷媒に用いる比較例15では表1で示すように相溶性に問題がある。これに対して、分鎖脂肪酸を用いたポリオールエステル油である実施例15?17の化合物は、表1で示す相溶性を満たす他、加水分解性、電気絶縁性、潤滑性も同様に満足することができることがわかった。直鎖脂肪酸を用いたポリオールエステル油は耐加水分解性や体積抵抗率の低下がみられることから好ましくは分鎖脂肪酸を用いたポリオールエステル油の方が良い。すなわち、上記化学式(1)、(2)、(3)及び(4)で表されるポリオールエステル油のうち、Rが分岐アルキル基で構成されるポリオールエステル油が好ましい。更に、実施例15に対して実施例16,17は摩耗量が小さく、優れた潤滑性が得られた。これは、実施例16,17の化合物が、ジペンタエリスリトールとペンタエリスリトールの混合物であり、吸着官能基が多いジペンタエリスリトールが含まれているため金属摺動面に対して吸着能力が大きく、油性効果が発現しやすく優れた潤滑性が得られたためである。特に、吸着能力の高いジペンタエリスリトールにペンタエリスリトールを混合することで、より優れた熱化学安定性や電気絶縁性が得られている。ここで、ジペンタエリスリトールの吸着能力による油性効果を発現させるために、ジペンタエリスリトールは40モル%以上含まれていることが好ましい。このように、ジペンタエリスリトールとペンタエリスリトールの混合物から構成され、ジペンタエリスリトールが40モル%以上含まれる分岐鎖脂肪酸を用いたポリオールエステル油が好ましい。」([0058]?[0075])

(イ)引用文献2に記載された事項
上記(ア)から、引用文献2には、次の事項が記載されていると認められる。
「ジルフオロメタン冷媒と、ポリオールエステル油及び酸捕捉剤を有する冷凍機油とを備えた冷凍空調装置において、前記ポリオールエステル油を、化学式(3)に示す構造のペンタエリスリトールの基油と化学式(4)に示す構造のジペンタエリスリトールの基油とを混合した基油とし(式中、R^(1)?R^(11)は、炭素数4?9のアルキル基を表す。)、冷凍機油をR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下となるものとすること。ここで、化学式(3)及び(4)は以下のとおりである。



(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
ア 後者の「圧縮機」は、前者の「圧縮機」に相当し、以下同様に、「膨張機構」は「膨張機構」に、「R32(ジフルオロメタン)」は「R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒」に、「ポリオールエステル」は「ポリオールエステル油」に、「ポリオールエステルに、(A)アルキルグリシジルエステルを0.01重量%以上1重量%未満、および(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満配合した」ものは「冷凍機油」に、「(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物」は「カルボジイミド化合物」に、「(A)アルキルグリシジルエステル」は「アルキルグリシジルエステル化合物」に、「空調装置」は「空気調和機」に、それぞれ相当する。

イ 後者の「凝縮器」及び「蒸発器」は、「空調装置」が冷房運転又は暖房運転により室内の温度を調節する際には、一方が室外空気と熱交換し、他方が室内空気と熱交換することになるから、それぞれ前者の「室外熱交換器」及び「室内熱交換器」に相当する。

ウ 後者の「(A)アルキルグリシジルエステル」は、前者の「アルキルグリシジルエステル化合物又はファティーグリシジルエーテル化合物である」「エポキシ化合物」に相当する。

エ 後者の「(A)アルキルグリシジルエステル」及び「(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物」は、加水分解や酸化劣化に対する安定性に優れたものとすることを可能とするものであるから(引用文献1の段落0006、0039及び0041)、前者の「カルボジイミド化合物及びエポキシ化合物を有」する「酸捕捉剤」に、「カルボジイミド化合物及びエポキシ化合物を有」する「安定化作用を有する剤」という限りにおいて一致する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「圧縮機、室外熱交換器、膨張機構及び室内熱交換器と、
R32冷媒又はR32が50重量%より多く含まれている混合冷媒と、
ポリオールエステル油及び安定化作用を有する剤を有する冷凍機油とを備え、
前記安定化作用を有する剤はカルボジイミド化合物及びエポキシ化合物を有し、
前記エポキシ化合物はアルキルグリシジルエステル化合物又はファティーグリシジルエーテル化合物である、空気調和機。」

[相違点1]
「ポリオールエステル油」に関し、本件補正発明では、「式(6)に示す構造の基油と式(7)に示す構造の基油とを混合した基油であり(式中のR^(5)は炭素数4?5のアルキル基又は炭素数8?12のアルキル基であり、式中のR^(5)の少なくとも1つは炭素数4?5のアルキル基である)」、「前記冷凍機油はR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下である」。ここで、式(6)及び式(7)は「


であるのに対して、引用発明では、そのような特定はされていない点。

[相違点2]
「安定化作用を有する剤」に関し、本件補正発明では、「酸捕捉剤」であること、及び、
「前記カルボジイミド化合物の割合は前記酸捕捉剤あたり60重量%以上95重量%以下であり、
前記カルボジイミド化合物の分子量は362であり、
前記アルキルグリシジルエステル化合物の分子量は158以上228以下であり、
前記ファティーグリシジルエーテル化合物の分子量は186」であることが特定されているのに対して、
引用発明では、「(A)アルキルグリシジルエステルを0.01重量%以上1重量%未満、および(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上を0.01重量%以上1重量%未満配合した」ものであって、「酸捕捉剤」であることは特定されず、各化合物の分子量も特定されていない点。

(4)判断
ア 相違点1について
引用発明において、ポリオールエステル(ポリオールエステル油)としては、特に制限されることなく、適宜のものを選択し得ると認められ、引用文献1には、ポリオールエステルの原料である多価アルコールとして、ペンタエリスリトールやジペンタエリスリトールなどが好ましい例として記載されてもいる(段落0013)。なお、本件補正発明の式(6)はペンタエリスリトール系化合物で、式(7)はジペンタエリスリトール系化合物である。
また、引用文献2には、引用発明と同様にR32(ジフルオロメタン)冷媒とポリオールエステル油を用いた冷凍空調装置において、ポリオールエステル油として、化学式(3)に示す構造のペンタエリスリトールの基油と化学式(4)に示す構造のジペンタエリスリトールの基油とを混合した基油が開示されている(引用文献2に記載された事項)。当該式中、R^(1)?R^(11)は、炭素数4?9のアルキル基を表すところ、炭素数4、5、8、9のもの(但し、少なくとも1つは炭素数4又は5のもの)は、本件補正発明の式(6)に示す構造の基油と式(7)に示す構造の基油とを混合した基油に相当する。
よって、 「ポリオールエステル油」として、本件補正発明の「式(6)に示す構造の基油と式(7)に示す構造の基油とを混合した基油」を用いた点は、引用発明のポリオールエステルとして、引用文献1の示唆を踏まえて、引用文献2に開示される混合基油を、当業者が適宜に選択した程度の設計事項にすぎない。
また、「冷凍機油はR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下である」ことは、上記選択したポリオールエステル油を基油とする冷凍機油の性質を単に明記したにすぎないものであるし、引用文献2に記載された事項によれば、ペンタエリスリトールの基油とジペンタエリスリトールの基油とを混合した冷凍機油はR32との低温側臨界溶解温度が0℃以下となる。
そして、本件明細書において、ポリオールエステル油の種類による効果の違いを評価した結果は示されていないから、本件補正発明が、上記特定のポリオールエステル油を選択した点に、格別の技術的意義は見いだせない。
そうすると、引用発明において、引用文献2に記載された事項を適用することにより、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用発明のビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物(カルボジイミド化合物)について、引用文献1に例示されているビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド(段落0031)は分子量が362(小数点以下は切捨て)であり、本件補正発明の「分子量は362」である「カルボジイミド化合物」に相当する。
引用発明のアルキルグリシジルエステルについて、引用文献1に例示されているネオデシルグリシジルエステル(段落0023、0037)は、分子量が228であり、本件補正発明の「分子量は158以上228以下」である「アルキルグリシジルエステル化合物」に相当する。
そうすると、引用発明の「(A)アルキルグリシジルエステル」及び「(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上」として、上記引用文献1に例示される化合物を選択することは、当然に想定されるところ、当該選択したものは、本件補正発明の「酸捕捉剤」と同じ化合物を含むものとなり、それゆえ「酸捕捉剤」ともいい得る。
また、引用発明は、「(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の1種以上」として、「ビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物」のみからなるものも想定され、ビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物を0.01重量%以上1重量%未満配合し、アルキルグリシジルエステルを0.01重量%以上1重量%未満配合するのであるから、ビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物の割合が安定化作用を有する剤あたり60重量%以上95重量%以下の範囲を取り得ることは明らかである。
そして、本件補正発明における、具体的な化合物の選択や、含有割合に基づく格別の効果は認められないから、相違点2に係る本件補正発明の構成は、引用発明において、引用文献1に開示された具体的な化合物を選択し、含有割合を適宜に決定した程度の単なる設計事項である。

ウ 効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2に記載された事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

審判請求人は、「特に、「カルボジイミド化合物の分子量は362」、「アルキルグリシジルエステル化合物の分子量は158以上228以下」、「ファティーグリシジルエーテル化合物の分子量は186」という条件の下で、「カルボジイミド化合物の割合は酸捕捉剤あたり60重量%以上95重量%以下」という構成を備えることにより、酸捕捉剤あたりの「カルボジイミド化合物の割合」が、カルボジイミド化合物の適切なモル比と対応づけられる。
このような構成によると、酸捕捉剤の酸捕捉能力(段落0052参照)が、カルボジイミド化合物とエポキシ化合物とのモル比によって最適化されることになる。
すなわち、カルボジイミド化合物の分子数とエポキシ化合物の分子数との比率を最適化しつつ、その比率における水分子や脂肪酸に対する反応当量を確保することができる。そのため、カルボジイミド化合物による遅効性の添加剤としての作用(段落0029参照)や、カルボジイミド化合物による即効性の添加剤としての作用(段落0034参照)を、反対時期に作用するエポキシ化合物で補完しながら、個々の時期に確実に得ることができる。
酸捕捉剤の酸捕捉能力が、冷凍サイクルの運転初期や圧縮機が高温化した時期のいずれにおいても、理論値に基づいて過不足なく確実に得られるようになるため、酸捕捉剤の無駄な添加を少なく抑えながら、冷凍機油の酸化の上昇が確実に抑制され、冷凍機油の劣化が長期にわたって防止される、という格別な効果を得ることができる。」(審判請求書7ページ11行?8ページ5行)と主張する。
しかしながら、「酸捕捉剤の酸捕捉能力(段落0052参照)が、カルボジイミド化合物とエポキシ化合物とのモル比によって最適化される」という効果は、本件明細書の記載から把握することができない。
また、上記効果が、本件明細書の段落0033及び0034に記載された効果をいうものとしても、それは、カルボジイミド化合物とアルキルグリシジルエステル化合物又はファティーグリシジルエーテル化合物を併用した効果であり、引用発明も、(A)アルキルグリシジルエステルと(B)ジフェニルカルボジイミドまたはビス(アルキル化フェニル)カルボジイミド化合物を併用するものであるから、その効果に差違があるとはいえない。
よって、上記審判請求人の主張は採用できない。

エ まとめ
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は、平成30年4月26日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。
(1)理由1(進歩性)
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2003-20493号公報
引用文献2:国際公開第2012/086518号

3 引用文献
引用文献1及び2の記載並びに引用発明及び引用文献2に記載された事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記カルボジイミド化合物の割合は前記酸捕捉剤あたり60重量%以上95重量%以下であり、
前記カルボジイミド化合物の分子量は362であり、
前記アルキルグリシジルエステル化合物の分子量は158以上228以下であり、
前記ファティーグリシジルエーテル化合物の分子量は186であり、」という、「カルボジイミド化合物」についての酸捕捉剤あたりの割合及び分子量の限定事項、並びに、「エポキシ化合物」である「アルキルグリシジルエステル化合物」又は「ファティーグリシジルエーテル化合物」についての分子量の限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(4)で検討したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、前記第2の[理由]2(4)の検討を踏まえると、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-05-29 
結審通知日 2020-06-02 
審決日 2020-06-18 
出願番号 特願2014-150333(P2014-150333)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
P 1 8・ 575- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 紀本 孝
槙原 進
発明の名称 空気調和機  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
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