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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1364861 |
審判番号 | 不服2020-4753 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-04-07 |
確定日 | 2020-08-03 |
事件の表示 | 特願2019-208031「抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置及びウェーハ加工方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 2月13日出願公開、特開2020- 25142〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年6月13日に出願された特願2011-131491号(以下「原出願」という。)の一部を平成27年10月13日に新たな特許出願(特願2015-202032号)とし,さらに,その一部を平成28年7月4日に新たな特許出願(特願2016-132264号)とし,さらに,その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-26939号)とし,さらに,その一部を同年6月27日に新たな特許出願(特願2017-125526号)とし,さらに,その一部を平成30年5月22日に新たな特許出願(特願2018-97877号)とし,さらに,その一部を平成31年1月18日に新たな特許出願(特願2019-7299号)とし,さらに,その一部を平成31年3月13日に新たな特許出願(特願2019-46060号)とし,さらに,その一部を平成31年4月22日に新たな特許出願(特願2019-81045号)とし,さらにその一部を令和元年11月18日に新たな特許出願(特願2019-208031号)としたものであり,その後の手続の概要は,以下のとおりである。 令和 元年11月27日:拒絶理由通知(起案日) 令和 元年12月25日:意見書,手続補正書 令和 2年 1月 6日:拒絶査定(起案日) 令和 2年 4月 7日:審判請求,手続補正書 令和 2年 5月 8日:上申書 第2 令和2年4月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和2年4月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(下線部は,補正箇所である。) 「【請求項1】 抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置において, 薄型化される前の肉厚のウェーハの裏面側から前記ウェーハの半分の厚みより深い位置にパルスレーザ光を集光して,前記ウェーハ内部に一定間隔の独立した改質領域を形成する改質領域形成手段と, 前記パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を内部歪により進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段と, 前記研削後,前記微小亀裂を残しながら前記研削の加工歪を除去する研磨手段と, を有する抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置において, ウェーハの裏面側から前記ウェーハの半分の厚みより深い位置にパルスレーザ光を集光して,前記ウェーハ内部に一定間隔の独立した改質領域を形成する改質領域形成手段と, 前記パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を内部歪により進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段と, 前記研削後,前記微小亀裂を残しながら前記研削の加工歪を除去する研磨手段と, を有する抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置。」 2 補正の適否 本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について,上記のとおり限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2005-86111号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は,当審で付加した。以下同じ。) 「【請求項1】 表面に機能素子が形成された半導体基板を切断予定ラインに沿って切断する半導体基板の切断方法であって, 前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第1の厚さにする工程と, 前記半導体基板を第1の厚さにした後に,前記半導体基板の裏面をレーザ光入射面として前記半導体基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することで改質領域を形成し,その改質領域によって,前記切断予定ラインに沿って前記レーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成する工程と, 前記切断起点領域を形成した後に,前記半導体基板の裏面を研磨して前記半導体基板を第2の厚さにする工程とを備えることを特徴とする半導体基板の切断方法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体デバイスの製造工程等において,表面に機能素子が形成された半導体基板を切断するために使用される半導体基板の切断方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがある。このように薄型化された半導体基板をブレードにより切断すると,半導体基板が厚い場合に比べてチッピングやクラッキングの発生が増加し,半導体基板を切断することで得られる半導体チップの歩留まりが低下するという問題がある。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら,上述した技術にあっては,半導体基板の裏面の研磨を平面研削によって行うと,半導体基板に予め形成した溝に平面研削面が達した際に,当該溝の側面でチッピングやクラッキングが発生するおそれがある。 【0005】 そこで,本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,チッピングやクラッキングの発生を防止して,半導体基板を薄型化し且つ半導体基板を切断することができる半導体基板の切断方法を提供することを目的とする。」 「【0008】 ここで,切断起点領域とは,半導体基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味する。この切断起点領域は,改質領域が連続的に形成されることで形成される場合もあるし,改質領域が断続的に形成されることで形成される場合もある。また,機能素子とは,例えば,結晶成長により形成された半導体動作層,フォトダイオード等の受光素子,レーザダイオード等の発光素子,回路として形成された回路素子等を意味する。」 「【0017】 この切断起点領域8を起点とした半導体基板1の切断には,次の2通りが考えられる。1つは,切断起点領域8の形成後,半導体基板1に人為的な力が印加されることにより,切断起点領域8を起点として半導体基板1が割れ,半導体基板1が切断される場合である。これは,例えば半導体基板1の厚さが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは,例えば,半導体基板1の切断起点領域8に沿って半導体基板1に曲げ応力やせん断応力を加えたり,半導体基板1に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。」 「【0032】 (A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ100μm) (B)レーザ 光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ 波長:1064nm 繰り返し周波数:40kHz パルス幅:30nsec パルスピッチ:7μm 加工深さ:8μm パルスエネルギー:50μJ/パルス (C)集光用レンズ NA:0.55 (D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:280mm/sec 【0033】 図11は,上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの切断面の写真を表した図である。図11において(a)と(b)とは同一の切断面の写真を異なる縮尺で示したものである。同図に示すように,シリコンウェハ11の内部には,1パルスのレーザ光Lの照射により形成された溶融処理領域13及び微小空洞14の対が,切断面に沿って(すなわち,切断予定ラインに沿って)所定のピッチで形成されている。なお,図11に示す切断面の溶融処理領域13は,シリコンウェハ11の厚さ方向(図中の上下方向)の幅が13μm程度で,レーザ光Lを移動する方向(図中の左右方向)の幅が3μm程度である。また,微小空洞14は,シリコンウェハ11の厚さ方向の幅が7μm程度で,レーザ光Lを移動する方向の幅が1.3μm程度である。溶融処理領域13と微小空洞8との間隔は1.2μm程度である。」 「【0037】 以下,本発明に係る半導体基板の切断方法の好適な実施形態について,より具体的に説明する。なお,図13?図18は,図12のシリコンウェハのXIII-XIII線に沿っての部分断面図である。 【0038】 図12に示すように,加工対象物となるシリコンウェハ(半導体基板)11は厚さ350μmであり,その表面3には,複数の機能素子15がオリエンテーションフラット16に平行な方向と垂直な方向とにマトリックス状にパターン形成されている。このようなシリコンウェハ11を次のようにして機能素子15毎に切断する。 【0039】 まず,図13(a)に示すように,シリコンウェハ11の表面3側に保護フィルム18を貼り付けて機能素子15を覆う。この保護フィルム18は,機能素子15を保護するものである。保護フィルム18を貼り付けた後,図13(b)に示すように,シリコンウェハ11の裏面17を上方に向けた状態で保護フィルム18をガラスプレート19上にUV硬化樹脂により接着する。そして,図13(c)に示すように,厚さ350μmのシリコンウェハ11の裏面17を平面研削して,シリコンウェハ11を厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化する。 【0040】 続いて,レーザ加工装置を用いてシリコンウェハ11の内部に切断起点領域を形成する。このとき,レーザ加工装置へのシリコンウェハ11の搬送においては,シリコンウェハ11が保護フィルム18を介してガラスプレート19上に固定されているため,シリコンウェハ11に損傷等を与えることなくシリコンウェハ11を容易に搬送することができる。そして,図14(a)に示すように,レーザ加工装置の載置台20上に,シリコンウェハ11の裏面17を上方に向けてガラスプレート19を真空吸着により固定し,隣り合う機能素子15,15間を通るように切断予定ライン5を格子状に設定する(図12の二点鎖線参照)。 【0041】 切断予定ライン5を設定した後,図14(b)に示すように,裏面17をレーザ光入射面としてシリコンウェハ11の内部に集光点Pを合わせて,上述した多光子吸収が生じる条件でレーザ光Lを照射し,載置台20の移動により切断予定ライン5に沿って集光点Pを相対移動させる。これにより,図14(c)に示すように,シリコンウェハ11の内部には,切断予定ライン5に沿って溶融処理領域13により切断起点領域8が形成される。 【0042】 続いて,図15(a)に示すように,シリコンウェハ11及び保護フィルム18が固定されたガラスプレート19を載置台20から取り外し,図15(b)に示すように,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハ11の裏面17を平面研削して,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する。この切断起点領域8形成後の裏面17の平面研削においては,平面研削開始後に切断起点領域8を起点として発生した割れ21がシリコンウェハ11の表面3と裏面17とに到達するため,割れ21が裏面17に到達した状態で裏面17を更に平面研削していくことになる。そして,シリコンウェハ11が厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化された際には,シリコンウェハ11が切断予定ライン5に沿って精度良く切断される。これにより,機能素子15を1つ有した半導体チップ22を複数得ることができる。」 「【0047】 以上のようなシリコンウェハ11の切断方法においては,表面3に機能素子15が形成された厚さ350μmのシリコンウェハ11を加工対象物とし,その裏面17を研磨してシリコンウェハ11を厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化する。その後,裏面17をレーザ光入射面としてシリコンウェハ11の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを照射する。これにより,シリコンウェハ11の内部で多光子吸収を生じさせ,切断予定ライン5に沿ってシリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13による切断起点領域8を形成する。このとき,シリコンウェハ11は厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化されているため,薄型化されなかった場合に比べ,シリコンウェハ11内部の所望の位置に精度良く切断起点領域8を形成することができる。また,シリコンウェハ11の裏面17をレーザ光入射面とするため,表面3に形成された機能素子15によりレーザ光の入射が妨げられるようなこともない。 【0048】 このようにシリコンウェハ11の内部に切断起点領域8が形成されると,自然に或いは比較的小さな力を加えることで,切断起点領域8を起点として割れを発生させ,その割れをシリコンウェハ11の表面3と裏面17とに到達させることができる。従って,切断起点領域8形成後にシリコンウェハ11の裏面17を研磨してシリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する際に,切断起点領域8を起点として発生した割れ21に研磨面が達しても,その割れ21により切断されたシリコンウェハ11の切断面22aは互いに密着しているため,研磨によってシリコンウェハ11にチッピングやクラッキングが発生するのを防止することができる。よって,チッピングやクラッキングの発生を防止して,シリコンウェハ11を薄型化し且つシリコンウェハ11を切断することが可能になる。 【0049】 ところで,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後における半導体チップ22と溶融処理領域13との関係としては,図19?図21に示すものがある。各図に示す半導体チップ22には,後述するそれぞれの効果が存在するため,種々様々な目的に応じて使い分けることができる。ここで,図19(a),図20(a)及び図21(a)は,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達している場合であり,図19(b),図20(b)及び図21(b)は,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達していない場合である。図19(b),図20(b)及び図21(b)の場合にも,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後には,割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達する。 【0050】 図19(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存する半導体チップ22は,その切断面が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ22の抗折強度が向上する。また,図20(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ22は,溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。更に,図21(a),(b)に示すように,溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ22は,当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり,半導体チップ22のエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。 【0051】 そして,図19(a),図20(a)及び図21(a)に示すように,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達している場合に比べ,図19(b),図20(b)及び図21(b)に示すように,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に達していない場合の方が,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に得られる半導体チップ22の切断面の直進性がより一層向上する。 【0052】 なお,シリコンウェハ11を厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れ21がシリコンウェハ11の表面3に到達するか否かは,溶融処理領域13の表面3からの深さに関係するのは勿論であるが,溶融処理領域13の大きさにも関係する。すなわち,溶融処理領域13の大きさを小さくすれば,溶融処理領域13の表面3からの深さが浅い場合でも,割れ15は半導体基板1の表面3に到達しない。溶融処理領域13の大きさは,例えば切断起点領域8を形成する際におけるパルスレーザ光の出力により制御することができる。つまり,パルスレーザ光の出力を上げれば大きくなり,パルスレーザ光の出力を下げれば小さくなる。」 (イ)上記記載から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。),及び,技術的事項が記載されていると認められる。 <引用発明> 「半導体基板の切断に使用される装置であって, 厚さ350μmであり,その表面には,複数の機能素子がオリエンテーションフラット16に平行な方向と垂直な方向とにマトリックス状にパターン形成されている加工対象物となるシリコンウェハ(半導体基板)を機能素子毎に切断する装置であって, 厚さ350μmのシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ150μm(第1の厚さ)に薄型化する手段と, 続いて,レーザ加工装置を用いてシリコンウェハの内部に切断起点領域を形成する手段であって,裏面をレーザ光入射面としてシリコンウェハの内部に集光点を合わせて,多光子吸収が生じる条件でレーザ光を照射し,切断予定ラインに沿って集光点を相対移動させて,シリコンウェハの内部に,切断予定ラインに沿って切断起点領域を形成する手段と, 続いて,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する手段であって,この切断起点領域形成後の裏面の平面研削においては,平面研削開始後に切断起点領域を起点として発生した割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達するため,割れが裏面に到達した状態で裏面を更に平面研削していくことになり,シリコンウェハが厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化された際には,シリコンウェハが切断予定ラインに沿って精度良く切断され,これにより,機能素子を1つ有した半導体チップを複数得ることができる手段と, を備えた半導体基板の切断に使用される装置。」 <技術的事項> ・引用文献1に記載された技術は,半導体デバイスの製造工程等において,表面に機能素子が形成された半導体基板を切断するために使用される半導体基板の切断方法に関するものであること。 ・近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがあること。 ・切断起点領域とは,半導体基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味し,この切断起点領域は,改質領域が断続的に形成されることで形成される場合があること。 ・機能素子とは,例えば,結晶成長により形成された半導体動作層,フォトダイオード等の受光素子,レーザダイオード等の発光素子,回路として形成された回路素子等を意味すること。 ・この切断起点領域を起点とした半導体基板の切断には,2通りが考えられ,1つは,切断起点領域の形成後,半導体基板に人為的な力が印加されることにより,切断起点領域を起点として半導体基板が割れ,半導体基板が切断される場合であり,人為的な力が印加されるとは,例えば,半導体基板の切断起点領域に沿って半導体基板に曲げ応力やせん断応力を加えたり,半導体基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることであること。 ・シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後における半導体チップと溶融処理領域との関係としては,種々様々なものがあり,当該関係ごとに,得られた半導体チップには,それぞれの効果が存在するため,目的に応じて使い分けることができること。 ・シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れがシリコンウェハの表面に到達せず,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に,割れがシリコンウェハの表面に達するものであって,溶融処理領域が切断面内に残存しないようにして得られた半導体チップは,溶融処理領域が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であり,しかも,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に得られる半導体チップの切断面の直進性がより一層向上すること。 ・溶融処理領域の大きさは,例えば切断起点領域を形成する際におけるパルスレーザ光の出力により制御することができること。 イ 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2004-111428号公報(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 「【0036】 図4は,本発明のチップ製造方法を説明する実施の形態の概念図である。本発明では厚いウェーハWの場合,図4(a)に示すように,レーザー光Lの集光点をウェーハWの下面(表面)に近い部分に設定し,表面近傍に改質領域Pを形成させる。次に図4(b)に示すように,ウェーハWの裏面を研削砥石81で研削し,所定の厚さに加工する。次いで図示しない研磨布でウェーハWの裏面を研磨し,研削時に生じた加工変質層を除去する。これにより,ウェーハWは薄くなって割断されやすくなると共に,研削砥石81及び研磨布の加工圧力で容易に割断され,個々のチップに分割される。」 (イ)上記記載から,引用文献2には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・ウェーハの裏面を研削砥石で研削して所定の厚さに加工する際に,加工変質層が生じること。 ・研削後に,研磨布でウェーハの裏面を研磨することで,研削時に生じた加工変質層が除去されること。 ・ウェーハの裏面を研削し,研磨して,研削時に生じた加工変質層を除去することで,ウェーハは薄くなって割断されやすくなると共に,研削砥石及び研磨布の加工圧力で容易に割断され,個々のチップに分割されること。 ウ 引用文献3 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2006-80329号公報(以下「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 「【0003】 また,半導体チップの小型化及び軽量化を図るためには,通常,半導体ウェハをストリートに沿って切断して個々の矩形領域を分離するのに先立って,半導体ウェハの裏面を研削して半導体ウェハを所定の厚さに形成することがおこなわれている。かかる半導体ウェハ裏面の研削は,通常,ダイヤモンド砥粒がレジンボンドなどの好適なボンドで固着された研削工具を高速回転させて,半導体ウェハ裏面に押圧することによっておこなわれる。かかる研削方式により半導体ウェハ裏面を研削した場合には,半導体ウェハ裏面に,いわゆる加工歪が形成されるので,個々に分割された半導体チップの抗折強度が著しく低下してしまう。 【0004】 上記半導体ウェハ裏面に形成された加工歪を除去する方法として,例えば,研削された半導体ウェハの裏面を硝酸及び弗化水素酸を含むエンチング液を使用して化学的エッチングにより加工歪を除去するウェットエッチング法,あるいはエッチングガスを使用して加工歪を除去するドライエッチング法などがある。このほか,研削された半導体ウェハ裏面を遊離砥粒によりポリツシングして加工歪を除去するCMP法(Chemical Mecanical Polishing:化学的機械的研磨法)や,砥粒を含有する比較的柔らかい研磨砥石により研磨して加工歪を除去するドライポリツシュ法などが実用化されている。」 (イ)上記記載から,引用文献3には,次の技術的事項が記載されていると認められる。 ・半導体チップの小型化及び軽量化を図るために,半導体ウェハをストリートに沿って切断して個々の矩形領域を分離するのに先立って,半導体ウェハの裏面を研削して半導体ウェハを所定の厚さに形成することがおこなわれているところ,半導体ウェハ裏面を研削した場合には,半導体ウェハ裏面に,いわゆる加工歪が形成されるので,個々に分割された半導体チップの抗折強度が著しく低下してしまうこと。 ・半導体ウェハ裏面に形成された加工歪を除去する方法として,研削された半導体ウェハ裏面を遊離砥粒によりポリツシングして加工歪を除去するCMP法(Chemical Mecanical Polishing:化学的機械的研磨法)や,砥粒を含有する比較的柔らかい研磨砥石により研磨して加工歪を除去するドライポリツシュ法などが実用化されていること。 (3)引用発明との対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「半導体チップ」,「シリコンウェハ(半導体基板)」は,それぞれ,本件補正発明の「チップ」,「ウェーハ」に相当する。 (イ)上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1に,溶融処理領域の大きさは,例えば切断起点領域を形成する際におけるパルスレーザ光の出力により制御することができることが記載されていることに照らして,引用発明の「レーザ光」は,本件補正発明の「パルスレーザ光」に相当する。 (ウ)引用発明の「厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する」ことは,本件補正発明の「薄型化」に相当する。 そして,「厚さ150μm(第1の厚さ)」が,「厚さ100μm(第2の厚さ)」と比較して「肉厚」であることは明らかである。 さらに,上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1には,切断起点領域とは,半導体基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味し,この切断起点領域は,改質領域が断続的に形成されることで形成される場合があることが記載されている。 してみれば,引用発明の「続いて,レーザ加工装置を用いてシリコンウェハの内部に切断起点領域を形成する手段であって,裏面をレーザ光入射面としてシリコンウェハの内部に集光点を合わせて,多光子吸収が生じる条件でレーザ光を照射し,切断予定ラインに沿って集光点を相対移動させて,シリコンウェハの内部に,切断予定ラインに沿って切断起点領域を形成する手段」と,本件補正発明の「薄型化される前の肉厚のウェーハの裏面側から前記ウェーハの半分の厚みより深い位置にパルスレーザ光を集光して,前記ウェーハ内部に一定間隔の独立した改質領域を形成する改質領域形成手段」とは,「薄型化される前の肉厚のウェーハの裏面側からパルスレーザ光を集光して,前記ウェーハ内部に一定間隔の独立した改質領域を形成する改質領域形成手段」である範囲で一致する。 (エ)引用発明の「平面研削開始後に切断起点領域を起点として発生した割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達する」は,本件補正発明の「『微小亀裂』を『進展』」に相当する。 そして,上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1には, シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後における半導体チップと溶融処理領域との関係としては,種々様々なものがあり,当該関係ごとに,得られた半導体チップには,それぞれの効果が存在するため,目的に応じて使い分けることができること,及び, シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する前に割れがシリコンウェハの表面に到達せず,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に,割れがシリコンウェハの表面に達するものであって,溶融処理領域が切断面内に残存しないようにして得られた半導体チップは,溶融処理領域が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効であり,しかも,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化した後に得られる半導体チップの切断面の直進性がより一層向上することが記載されている。 ここで,溶融処理領域が切断面内に残存しないように,シリコンウェハの裏面を平面研削した場合に,ウェーハの裏面から集光点までのレーザ透過部分が研削して除去されることは明らかである。 してみれば,引用発明の「続いて,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する手段であって,この切断起点領域形成後の裏面の平面研削においては,平面研削開始後に切断起点領域を起点として発生した割れがシリコンウェハの表面と裏面とに到達するため,割れが裏面に到達した状態で裏面を更に平面研削していくことになり,シリコンウェハが厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化された際には,シリコンウェハが切断予定ラインに沿って精度良く切断され,これにより,機能素子を1つ有した半導体チップを複数得ることができる手段」と,本件補正発明の「前記パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を内部歪により進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段」とは,「前記パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段」の範囲で一致する。 (オ)上記(ア)ないし(エ)から,本件補正発明の「ウェーハ加工装置」と,引用発明の「半導体基板の切断に使用される装置」とは,以下の相違点を除き一致する。 イ 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「チップを得るためのウェーハ加工装置において, 薄型化される前の肉厚のウェーハの裏面側からパルスレーザ光を集光して,前記ウェーハ内部に一定間隔の独立した改質領域を形成する改質領域形成手段と, 前記パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段と, を有するチップを得るためのウェーハ加工装置。」 【相違点1】 パルスレーザ光の集光が,本件補正発明では,「ウェーハの半分の厚みより深い位置」であるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。 【相違点2】 パルスレーザ光の集光点から下に延びる微小亀裂を進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する研削手段が,本件補正発明では,前記微小亀裂の進展を「内部歪」により行うものであると特定されているのに対して,引用発明では,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する手段であって,平面研削開始後に切断起点領域を起点として発生した割れをシリコンウェハの表面と裏面とに到達させる手段が,割れの進展をどのような機序に基づいて生じさせるのか特定されていない点。 【相違点3】 本件補正発明が,「前記研削後,前記微小亀裂を残しながら前記研削の加工歪を除去する研磨手段」を備えるのに対して,引用発明は,そのような特定がされていない点。 【相違点4】 本件補正発明の「ウェーハ加工装置」が,「抗折強度の高い」チップを得るためのものであるのに対して,引用発明では,そのような特定がされていない点。 (4)判断 以下,相違点について検討する。 ア 相違点1について 上記(2)ア(イ)のとおり,引用文献1に,近年の半導体デバイスの小型化に伴い,半導体デバイスの製造工程において,半導体基板が数10μm程度の厚さにまで薄型化されることがあることが記載されていることからも明らかなように,引用発明における,第1の厚さ,第2の厚さである,150μm,100μmという値は,設計事項にすぎない。 そして,集光点から下に延びる微小亀裂を進展させ,前記ウェーハの裏面から前記集光点までのレーザ透過部分を研削して除去する加工において,集光点を,研削の目標面の近傍に設定することは,以下の周知文献1の記載からも明らかなように,当業者が通常行っていることである。 そうすると,引用発明を,半導体基板を数10μm程度の厚さにまで薄型化する工程に適用する場合において,たとえば,デバイスの仕上がり厚さを50μmとする場合に,パルスレーザ光の集光点を,半導体基板の表面からデバイスの仕上がり厚さ(50μm)より20μm離れた位置(半導体基板の表面から70μm,半導体基板の裏側から80μm離れた位置),すなわち,ウェーハの半分の厚み(75μm)より深い位置(80μm)に設定することは当業者が適宜なし得たことである。 したがって,相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 ・周知文献1:特開2009-206162号公報 「【発明を実施するための最良の形態】 【0011】 以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。 【0012】 図1には,本発明に従って分割されるウエーハとしての半導体ウエーハの斜視図が示されている。図1に示す半導体ウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコンウエーハからなっており,表面2aに複数のストリート21が格子状に形成されているとともに該複数のストリート21によって区画された複数の領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス22が形成されている。 ・・・ 【0019】 以上のようにしてアライメント工程を実施したならば,図4の(a)で示すようにチャックテーブル41をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段42の集光器422が位置するレーザー光線照射領域に移動し,所定のストリート21の一端(図4の(a)において左端)をレーザー光線照射手段42の集光器422の直下に位置付ける。そして,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の表面2a(下面)からデバイス22の仕上がり厚さ(t:例えば50μm)より例えば20μm上側の位置に合わせる。従って,パルスレーザー光線の集光点Pは,半導体ウエーハ2の表面2a(下面)から70μm上側の位置となる。次に,レーザー光線照射手段42を作動し集光器422からシリコンウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル41を図4の(a)において矢印X1で示す方向に所定の送り速度で移動せしめる。そして,図4の(b)で示すように集光器422の照射位置がストリート21の他端(図4の(b)において右端)に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル41の移動を停止する。この結果,半導体ウエーハ2の内部には,図4の(b)および(c)に示すように半導体ウエーハ2の表面2aからデバイス22の仕上がり厚さ(t:例えば50μm)には達しないとともに半導体ウエーハ2の裏面2b(上面)に至らない範囲でストリート21に沿って変質層23が形成される。この変質層23は,溶融再固化層として形成される。」 イ 相違点2について 引用発明において,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する手段であって,平面研削開始後に切断起点領域を起点として発生した割れをシリコンウェハの表面と裏面とに到達させる手段が,半導体基板を平面研削するにあたり,砥石の半導体基板表面への押圧により生じる曲げ応力,砥石が半導体基板表面を摺動することにより生じる剪断応力,砥石と半導体基板の摩擦に起因する摩擦熱により生じる熱応力等の応力が半導体基板内に生じること,及び,半導体基板内の前記応力によって,半導体基板内に歪みが生じることは自明である。 そして,半導体基板内に割れが存在する場合に,当該割れの先端に応力が集中し,当該応力が集中した箇所の歪みが大きくなり,その結果,割れが成長するという機序は,以下の周知文献2の記載からも明らかなように技術常識といえる。 したがって,引用発明の割れの進展は,半導体基板の内部歪によるものといえるから,相違点2は,実質的なものではない。 ・周知文献2:特開2002-192370号公報 「【0006】本発明の目的は,加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工方法を提供することである。」 「【0011】本発明に係るレーザ加工方法によれば,加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射している。このため,加工対象物の内部では多光子吸収による光学的損傷という現象が発生する。この光学的損傷により加工対象物の内部に熱ひずみが誘起され,これにより加工対象物の内部にクラック領域が形成される。このクラック領域は上記改質領域の一例であるので,本発明に係るレーザ加工方法によれば,加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく,レーザ加工が可能となる。」 「【0065】[第2例]次に,本実施形態の第2例について説明する。この例は光透過性材料の切断方法及び切断装置である。光透過性材料は加工対象物の一例である。この例では,光透過性材料としてLiTaO_(3)からなる厚さが400μm程度の圧電素子ウェハ(基板)を用いている。」 「【0076】上述した所望の切断パターンに沿ってクラック領域9が形成されると(S219),物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内,特にクラック領域9が形成された部分に応力を生じさせて,切断対象材料の内部(集光点及びその近傍)のみに形成されたクラック領域9を成長させて,切断対象材料をクラック領域9が形成された位置で切断する(S221)。」 「【0080】圧電デバイスチップ37が圧電素子ウェハ31から分離されると吸引チャック34及び加圧ニードル36をウェハシート33から離れる方向に移動させる。吸引チャック34及び加圧ニードル36が移動すると,分離された圧電デバイスチップ37は吸引チャック34に吸着しているので,図32に示されるように,ウェハシート33から離されることになる。このとき,図示しないイオンエアーブロー装置を用いて,イオンエアーを図32中矢印B方向に送り,分離されて吸引チャック34に吸着している圧電デバイスチップ37と,ウェハシート33に保持されている圧電素子ウェハ31(表面)とをイオンエアー洗浄している。なお,イオンエアー洗浄の代わりに,吸引装置を設けて,塵等を吸引することで切断分離された圧電デバイスチップ37及び圧電素子ウェハ31の洗浄を行うようにしてもよい。環境変化により切断対象材料を切断する方法としては,内部のみにクラック領域9が形成された切断対象材料に対して温度変化を与える方法が存在する。このように,切断対象材料に対して温度変化を与えることにより,クラック領域9が形成されている材料部分に熱応力を生じさせて,クラック領域9を成長させて切断対象材料を切断することができる。 【0081】このように,第2例においては,集光用レンズ105により,レーザ光源101から出射されたレーザ光Lを,その集光点が光透過性材料(圧電素子ウェハ31)の内部に位置するように集光することで,集光点におけるレーザ光Lのエネルギー密度が光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊のしきい値を越え,光透過性材料の内部における集光点及びその近傍のみに微小なクラック領域9が形成される。そして,形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料が切断されるので,発塵量が極めて低く,ダイシング傷,チッピングあるいは材料表面でのクラック等が発生する可能性も極めて低くなる。また,光透過性材料は,光透過性材料の光学的損傷若しくは光学的絶縁破壊により形成されたクラック領域9に沿って切断されるので,切断の方向安定性が向上し,切断方向の制御を容易に行うことができる。また,ダイヤモンドカッタによるダイシングに比して,ダイシング幅を小さくすることができ,1つの光透過性材料から切断された光透過性材料の数を増やすことが可能となる。これらの結果,第2例によれば,極めて容易且つ適切に光透過性材料を切断することができる。 【0082】また,物理的外力印加又は環境変化等により切断対象材料内に応力を生じさせることにより,形成されたクラック領域9を成長させて光透過性材料(圧電素子ウェハ31)を切断するので,形成されたクラック領域9の位置にて光透過性材料を確実に切断することができる。」 「【0087】また,第2例においては,改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため,ダイヤモンドカッタによるダイシングにおけるブレードの耐久性,交換頻度等の問題が生じることはない。また,第2例においては,上述したように,改質部(クラック領域9)の形成がレーザ光Lによる非接触加工にて実現されるため,光透過性材料を完全に切断しない,光透過性材料を切り抜くような切断パターンに沿って,光透過性材料を切断することが可能である。本発明は,前述した第2例に限定されるものではなく,たとえば,光透過性材料は圧電素子ウェハ31に限られることなく,半導体ウェハ,ガラス基板等であってもよい。レーザ光源101も,切断する光透過性材料の光吸収特性に対応して適宜選択可能である。また,第2例においては,改質部として,レーザ光Lを照射することにより微小なクラック領域9を形成するようにしているが,これに限られるものではない。たとえば,レーザ光源101として超短パルスレーザ光源(たとえば,フェムト秒(fs)レーザ)を用いることで,屈折率変化(高屈折率)による改質部を形成することができ,このような機械的特性の変化を利用してクラック領域9を発生させることなく光透過性材料を切断することができる。」 ウ 相違点3について 上記(2)イ(イ)のとおり,引用文献2には,ウェーハの裏面を研削砥石で研削して所定の厚さに加工する際に,加工変質層が生じること。研削後に,研磨布でウェーハの裏面を研磨することで,研削時に生じた加工変質層が除去されること。及び,ウェーハの裏面を研削し,研磨して,研削時に生じた加工変質層を除去することで,ウェーハは薄くなって割断されやすくなると共に,研削砥石及び研磨布の加工圧力で容易に割断され,個々のチップに分割されることが記載されている。 さらに,上記(2)ウ(イ)のとおり,引用文献3には,半導体チップの小型化及び軽量化を図るために,半導体ウェハをストリートに沿って切断して個々の矩形領域を分離するのに先立って,半導体ウェハの裏面を研削して半導体ウェハを所定の厚さに形成することがおこなわれているところ,半導体ウェハ裏面を研削した場合には,半導体ウェハ裏面に,いわゆる加工歪が形成されるので,個々に分割された半導体チップの抗折強度が著しく低下してしまうこと,及び,半導体ウェハ裏面に形成された加工歪を除去する方法として,研削された半導体ウェハ裏面を遊離砥粒によりポリツシングして加工歪を除去するCMP法(Chemical Mecanical Polishing:化学的機械的研磨法)や,砥粒を含有する比較的柔らかい研磨砥石により研磨して加工歪を除去するドライポリツシュ法などが実用化されていることが記載されている。 引用文献2,3の上記記載に接した当業者であれば,引用発明において,厚さ150μm(第1の厚さ)のシリコンウェハの裏面を平面研削して,シリコンウェハを厚さ100μm(第2の厚さ)に薄型化する際に,研削面に加工変質層(加工歪)が生じて,個々に分割された半導体チップの抗折強度が著しく低下してしまうことを理解し,当該半導体チップの抗折強度の著しい低下を避けるために,前記研削に引き続き,研削の加工歪を除去すること,すなわち,相違点3に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 エ 相違点4について 相違点3について,本件補正発明の構成を採用した場合に,半導体チップの抗折強度の著しい低下が避けられるのであり,上記ウのとおり,相違点3について,本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことであるから,相違点4に係る本件補正発明の構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。 オ そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本件補正発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 カ したがって,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 令和2年4月7日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載された事項により特定される,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願の原出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2,3に記載された事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 1.特開2005-86111号公報 2.特開2004-111428号公報 3.特開2006-80329号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は,前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「改質領域形成手段」,に係る限定事項を削除したものである。 そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3),(4)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献2,3に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2020-05-28 |
結審通知日 | 2020-06-01 |
審決日 | 2020-06-17 |
出願番号 | 特願2019-208031(P2019-208031) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中田 剛史 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
加藤 浩一 西出 隆二 |
発明の名称 | 抗折強度の高いチップを得るためのウェーハ加工装置及びウェーハ加工方法 |
代理人 | 松浦 憲三 |