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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61B
管理番号 1364877
異議申立番号 異議2019-700846  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-24 
確定日 2020-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6503665号発明「光コヒーレンストモグラフィー装置及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6503665号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、3について訂正することを認める。 特許第6503665号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6503665号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年9月12日の出願であって、平成31年4月5日にその特許権の設定登録がされ、同年4月24日に特許掲載公報が発行されたところ、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和元年10月24日に特許異議申立人箕浦裕美子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月26日付け(令和2年1月7日発送)で取消理由が通知され、令和2年3月9日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ(以下、令和2年3月9日にされた訂正請求を、「本件訂正請求」といい、また、その訂正を「本件訂正」という。)、本件訂正請求に対して、申立人により同年5月7日付けで意見書が提出された。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求は、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項1ないし訂正事項11からなる(なお、下線は、請求人が付したものである。)。

(1)訂正事項
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「OCTデータを取得し、取得されたOCTデータに対してセグメンテーション処理を行い」とあるところ、「3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理手段」とあるところ、「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータに対するセグメンテーション処理とで、セグメンテーション処理を変更する」とあるところ、「解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「解析処理手段は、・・・セグメンテーション処理を変更することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。」とあるところ、「解析処理手段は、・・・前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「前記解析処理手段は、前記第1のOCTデータと前記第2のOCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、前記セグメンテーション処理から除外する領域を変更する」とあるところ、「前記解析処理手段は、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、前記セグメンテーション処理から除外する領域を変更する」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。

カ 訂正事項6
明細書の段落【0010】の(1)に「被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータを取得し、取得されたOCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータに対するセグメンテーション処理とで、セグメンテーション処理を変更することを特徴とする。」とあるところ、
「被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づく3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、
前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする。」に訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「前記OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、」とあるところ、「静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、」に訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項3に「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理ステップ」とあるところ、「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップ」に訂正する。

ケ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項3に「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータに対するセグメンテーション処理とで、セグメンテーション処理を変更する解析処理ステップと、」とあるところ、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、」に訂正する。

コ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項3に「をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とするOCTデータ処理プログラム。」とあるところ、「前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とするOCTデータ処理プログラム。」に訂正する。

サ 訂正事項11
明細書の段落【0010】の(2)に「フーリエドメインOCT光学系を備える光コヒーレンストモグラフィー装置によって得られたOCTデータを処理するOCTデータ処理装置、において実行されるOCTデータ
処理プログラムであって、
OCTデータ処理装置のプロセッサによって実行されることで、
前記OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理ステップであって、
ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータに対するセグメンテーション処理とで、セグメンテーション処理を変更する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とする。」とあるところ、
「フーリエドメインOCT光学系を備える光コヒーレンストモグラフィー装置によって得られたOCTデータを処理するOCTデータ処理装置、において実行されるOCTデータ処理プログラムであって、
OCTデータ処理装置のプロセッサによって実行されることで、
静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップであって、
ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とする。」に訂正する。

2 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件、一群の請求項
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、OCTデータの種別、OCTデータをどのように取得して、取得されたOCTデータがどのように扱われてどのようなOCTデータに対してセグメンテーションを行うことについて特定されていない。
これに対し、訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明において、OCTデータが「3次元OCTデータ」であることを特定すると共に、「OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い」を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「3次元OCTデータ」は、本件特許明細書の段落【0057】の「もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。」との記載に基づくものであり、「静止画像として取得してメモリに・・・記憶し」は、段落【0041】の「制御部70は、各走査位置での検出器120からの出力信号に基づいて,OCTデータを静止画像として取得する。制御部70は、取得されたOCTデータをメモリ72に記憶する。」との記載に基づくものであり、「メモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い」は、段落【0048】の「図4は、解析用データとしてメモリに記憶されたOCTデータの一例を示す図である。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、解析処理手段が、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理手段であることが特定されているのみである。
これに対し、訂正事項2は、訂正後の請求項1に係る発明において、解析処理手段に、「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段」を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する」は、本件特許明細書の段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、セグメンテーション処理を変更する際の具体的構成が特定されていない。
これに対し、訂正事項3は、訂正後の請求項1に係る発明において、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことで、セグメンテーション処理を変更する際の具体的構成を特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
OCTデータが3次元データであることは、本件特許明細書の段落【0057】の「もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。」との記載に基づくものであり、OCTデータがメモリに記憶されることは、段落【0041】の「制御部70は、各走査位置での検出器120からの出力信号に基づいて,OCTデータを静止画像として取得する。制御部70は、取得されたOCTデータをメモリ72に記憶する。」との記載に基づくものであり、「前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、」は、段落【0047】の「ここで、制御部70は、例えば、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。その一例として、制御部70は、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間での眼底断層像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。この場合、OCTデータにおいてセグメンテーション処理から除外する領域を変更するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明では、第1のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合と、第2のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合でのセグメンテーション処理について特定されていない。
これに対し、訂正事項4は、訂正後の請求項1に係る発明において、第1のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合と、第2のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合でのセグメンテーション処理について、「解析処理手段は、・・・前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。」であることを特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、」は、本件特許明細書の段落【0051】の「第1のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から下側に所定距離D離れた位置よりもさらに下側に始点SG1が設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)が終点SG2に設定される(図3(a)参照)。この結果、第1のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。」、段落【0049】の「第1のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも上側にノイズ成分NZが発生している。」との記載に基づくものである。
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、」は、段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。

「前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、」は、段落【0052】の「一方、第2のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側)が始点SG1に設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から上側に所定距離D離れた位置よりもさらに上側に終点SG2が設定される。この結果、第2のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。」、段落【0049】の「第2のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも下側にノイズ成分NZが発生している。」との記載に基づくものである。
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、」は、段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。

したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1に係る訂正事項4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項2に係る発明では、OCTデータが3次元データであることが特定されていない。
これに対し、訂正事項5は、訂正後の請求項2に係る発明において、OCTデータが「3次元OCTデータ」であることを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
OCTデータが3次元データであることは、本件特許明細書の段落【0057】の「もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項2に係る訂正事項5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(6)訂正事項6
ア 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項6は、特許請求の範囲の請求項1を訂正する訂正事項1?4に対応し、明細書の【課題を解決するための手段】の項の記載と特許請求の範囲との記載の整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1?4が新規事項を追加するものではなく、また、実質的上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、訂正事項6も新規事項を追加するものではなく、また、実質的上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

イ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項6は、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に関係する訂正である。したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1?4によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(8)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正後の請求項3に係る発明において、OCTデータが、「静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータ」であることを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「静止画像として取得され」は、段落【0041】の「制御部70は、各走査位置での検出器120からの出力信号に基づいて,OCTデータを静止画像として取得する。制御部70は、取得されたOCTデータをメモリ72に記憶する。」との記載に基づくものであり、
「解析用データとしてメモリに記憶された」は、段落【0048】の「図4は、解析用データとしてメモリに記憶されたOCTデータの一例を示す図である。」との記載に基づくものであり、
「3次元OCTデータ」は、本件特許明細書の段落【0057】の「もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項7に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(9)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る発明では、解析処理ステップが、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理ステップであることが特定されているのみである。
これに対し、訂正事項8は、訂正後の請求項3に係る発明において、解析処理ステップが、「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップ」であることを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する」は、本件特許明細書の段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(10)訂正事項9
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る発明では、セグメンテーション処理を変更する際の具体的構成が特定されていない。
これに対し、訂正事項3は、訂正後の請求項3に係る発明において、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことで、セグメンテーション処理を変更する際の具体的構成を特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
OCTデータが3次元データであることは、本件特許明細書の段落【0057】の「もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。」との記載に基づくものであり、OCTデータがメモリに記憶されることは、段落【0041】の「制御部70は、各走査位置での検出器120からの出力信号に基づいて,OCTデータを静止画像として取得する。制御部70は、取得されたOCTデータをメモリ72に記憶する。」との記載に基づくものであり、「前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、」は、段落【0047】の「ここで、制御部70は、例えば、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。その一例として、制御部70は、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間での眼底断層像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。この場合、OCTデータにおいてセグメンテーション処理から除外する領域を変更するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(11)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項3に係る発明では、第1のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合と、第2のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合でのセグメンテーション処理について特定されていない。
これに対し、訂正事項10は、訂正後の請求項3に係る発明において、第1のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合と、第2のOCTデータにセグメンテーション処理が行われる場合でのセグメンテーション処理について、解析処理ステップが、「前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップ」であることを特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
「前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、」は、本件特許明細書の段落【0051】の「第1のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から下側に所定距離D離れた位置よりもさらに下側に始点SG1が設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)が終点SG2に設定される(図3(a)参照)。この結果、第1のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。」、段落【0049】の「第1のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも上側にノイズ成分NZが発生している。」との記載に基づくものである。
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示」は、段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。

「前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、」は、段落【0052】の「一方、第2のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側)が始点SG1に設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から上側に所定距離D離れた位置よりもさらに上側に終点SG2が設定される。この結果、第2のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。」、段落【0049】の「第2のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも下側にノイズ成分NZが発生している。」との記載に基づくものである。
「前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示」は、段落【0057】の「また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。」、段落【0058】の「制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。 」との記載に基づくものである。

したがって、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10は、発明特定事項を上位概念から下位概念にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?3について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項3に係る訂正事項10に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(12)訂正事項11
ア 訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項11は、特許請求の範囲の請求項3を訂正する訂正事項7?10に対応し、明細書の【課題を解決するための手段】の項の記載と特許請求の範囲との記載の整合を図るものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。よって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項7?10が新規事項を追加するものではなく、また、実質的上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないので、訂正事項11も新規事項を追加するものではなく、また、実質的上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。

イ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項11は、請求項3に関係する訂正である。したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項の規定、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1、2〕、3について訂正を認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明(以下「本件訂正発明1?3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

1 本件訂正発明1
被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づく3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、
前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。

2 本件訂正発明2
前記解析処理手段は、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、前記セグメンテーション処理から除外する領域を変更することを特徴とする請求項1の光コヒーレンストモグラフィー装置。

3 本件訂正発明3
フーリエドメインOCT光学系を備える光コヒーレンストモグラフィー装置によって得られたOCTデータを処理するOCTデータ処理装置、において実行されるOCTデータ処理プログラムであって、
OCTデータ処理装置のプロセッサによって実行されることで、 静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップであって、
ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とするOCTデータ処理プログラム。

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?3に係る特許に対して、当審が令和元年12月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 なお、訂正前の請求項1ないし3に係る発明を、以下それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などという。
(1)理由1(サポート要件)
請求項1、3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)理由2(実施可能要件)
請求項1、3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)理由3(明確性)
請求項1?3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)理由4(進歩性)
本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

●理由1(サポート要件)
請求項1には、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータに対するセグメンテーション処理とで、セグメンテーション処理を変更する」ことが特定されている。
これに対し、発明の詳細な説明には、【0047】に「第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間での眼底断層像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことの記載がある。
しかしながら、「セグメンテーション処理を変更する」態様には、様々な態様が含まれることが想定されるところ(なお、【0065】?【0069】に「撮影方式に応じて」、「取得される画像の輝度が異なる」際に、「第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で、セグメンテーションを行う際の閾値を変更する」との記載があり、前提となる構成は異なるが、「セグメンテーションを行う際の閾値を変更する」ことも「セグメンテーション処理を変更する」態様である。しかしながら、発明の詳細な説明には、ゼロディレイ位置の異なるOCTデータに対して、「セグメンテーションを行う際の閾値を変更する」との記載はない。)、発明の詳細な説明全体の記載及び全図面の記載を見ても、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、ノイズ位置の違いを考慮してセグメンテーション領域を変更する以外の態様についての具体的な記載は見当たらない。また、「セグメンテーション処理を変更する」態様を採用すれば、【0007】【0008】に記載された、良好な解析結果を得られないという問題点を解決する(【0007】【0008】参照。)ことになるかは不明である。
そうすると、良好な解析結果を得られない態様を含み得る「セグメンテーション処理を変更する」ことを特定する本件発明1まで、拡張ないし一般化することはできない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
また、本件発明3は、装置に関する本件発明1に対応するプログラムの発明であるから、本件発明1と同様に、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

●理由2(実施可能要件)
本件発明1,3の「セグメンテーション処理を変更する」態様には、様々な態様が含まれることが想定されるところ、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、ノイズ位置の違いを考慮してセグメンテーション領域を変更する以外の態様について、どのように「セグメンテーション処理を変更する」のか不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

●理由3(明確性)
一般的に「セグメンテーション処理」とは、層の境界を検出する処理を意味するところ、本件発明1?3においての「セグメンテーション処理を変更すること」が層の境界を検出する際のどのような処理を変更することを意味するのか不明である。

●理由4(進歩性)
本件発明1?3は、引用文献1(甲第2号証:特開2010-12111号公報)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。 発明の詳細な説明全体の記載及び全図面の記載を見ても、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、ノイズ位置の違いを考慮してセグメンテーション領域を変更する以外の態様についての具体的な記載は見当たらない。

2 当審の判断
(1)理由1(サポート要件)について
サポート要件についての取消理由の概略は、訂正前の請求項1、3の「セグメンテーション処理を変更する」との特定には、様々な態様が含まれることが想定されるところ、発明の詳細な説明全体の記載及び全図面の記載を見ても、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、ノイズ位置の違いを考慮してセグメンテーション領域を変更する以外の態様についての具体的な記載は見当たらないから、「セグメンテーション処理を変更する」ことを特定する本件発明1、3まで、拡張ないし一般化することはできないというものであった。
これに対し、本件訂正により、本件訂正発明1、3は、「前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことが特定されたことにより、本件訂正発明1、3は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。

(2)理由2(実施可能要件)について
実施可能要件についての取消理由の概要は、本件発明1,3の「セグメンテーション処理を変更する」態様には、様々な態様が含まれることが想定されるところ、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、ノイズ位置の違いを考慮してセグメンテーション領域を変更する以外の態様について、どのように「セグメンテーション処理を変更する」のか不明であるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないというものであった。
これに対し、本件訂正により、本件訂正発明1、3は、「前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことが特定されたことにより、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1、3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとなった。

(3)理由3(明確性)について
明確性についての取消理由の概要は、本件発明1?3においての「セグメンテーション処理を変更すること」が層の境界を検出する際のどのような処理を変更することを意味するのか不明であるというものであった。
これに対し、本件訂正により、本件訂正発明1、3は、「前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する」ことが特定されたことにより、どのような処理であるのか明確になった。本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2も同様である。

(4)理由4(進歩性)について
ア 引用文献等
(ア)引用文献1(甲第2号証:特開2010-12111号公報)の記載事項
a 引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審が付与したものである。
(a)「【請求項1】
低コヒーレント長の光を発する光源から発せられた測定光を被検物上で走査させる走査手段を有し、前記光源から発せられた光によって生成される参照光と被検物に照射された前記測定光による反射光とを合成させるとともに該合成により得られる干渉光を受光素子にて受光する干渉光学系と、前記受光素子の出力信号に対してフーリエ解析を用いることにより被検物の断層画像を得る画像形成手段と、
該画像形成手段によって取得された前記正像または逆像のどちらか一方を断層画像として表示する表示手段と、
前記干渉光学系に形成された参照光の光路もしくは測定光の光路に配置された光路長可変用光学部材を光軸方向に移動させる駆動手段と、 前記表示手段の画面上に表示させる断層画像を前記正像とするか逆像とするかを予め設定する設定手段と、
前記駆動手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を備え、該駆動制御手段は、設定した初期位置から前記光学部材を一方向に所定ステップで移動させ取得される最初の断層像が正像か逆像かを画像処理により判定し、該判定結果及び前記設定手段による設定に基づいて前記光学部材のその後の移動方向を制御することを特徴とする光断層像撮影装置。」

(b)「【0012】
図1において、その光学系は、低コヒーレント長の光の一部を測定光とするとともに低コヒーレント長の光の一部を参照光とし,参照光と測定光の反射光とを合成し,干渉させる干渉光学系(OCT光学系)200と、赤外光によって照明された被検眼眼底を二次元受光素子にて撮影することによって眼底観察用の眼底画像を取得する眼底観察光学系300と、を備える。干渉光学系200は、測定光学系200aと参照光光学系200bを含む。また、干渉光学系200は、参照光と測定光による干渉光を周波数(波長)毎に分光し,分光された干渉光を受光手段(本実施形態においては、1次元受光素子)に受光させる分光光学系800を有する。また、ダイクロイックミラー40は、OCT光学系200の測定光として用いられる波長成分の光を反射し、眼底観察光学系300の観察光として用いられる波長成分の光を透過する特性を有する。」

(c)「【0020】
・・・ここで、制御部70は、走査部23により測定光を眼底上で所定の横断方向に走査することにより断層画像を取得できる。例えば、X方向もしくはY方向に走査することにより、被検眼眼底のXZ面もしくはYZ面における断層画像を取得できる(なお、本実施形態においては、このように測定光を眼底に対して1次元走査し、断層画像を得る方式をBスキャンとする)。なお、取得された断層画像は、制御部70に接続されたメモリ72に記憶される。さらに、測定光をXY方向に2次元的に走査することにより、被検眼眼底の3次元画像を取得することも可能である。」

(d)「【0028】
また、制御部70には、表示モニタ75、メモリ72、コントロール部74、参照ミラー駆動機構50、フォーカシングレンズ24を光軸方向に移動させるための駆動機構24a、等が接続されている。なお、コントロール部74には、測定開始スイッチ74a、測定位置設定スイッチ74b、オートコヒーレンススイッチ74c、モード切換スイッチ74d、が設けられている。ここで、オートコヒーレンススイッチ74cが押されると、被検眼の眼軸長に応じた光路長調整を開始するためのトリガ信号が制御部70に入力される。
図2はOCT光学系200によって取得(形成)される断層画像の一例を示す図である。断層画像の画像データGは、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2からなり、測定光と参照光の光路長が一致する深度位置Sに関して互いに対称な画像となっている。ここで、制御部70は、断層画像の画像データGのうち、第1の画像データG1もしくは第2画像データG2のいずれかの画像データを抽出し、モニタ75の画面上に表示する。なお、本実施形態では、第1の画像データG1を抽出する設定となっている。なお、フーリエドメインOCTを原理とする干渉光学系により得られる眼底断層像は、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置(参照ミラー31の配置位置に対応する深度位置)での感度(干渉感度)が最も高く、この深度位置から離れるにしたがって感度が低下していく。このため、当該深度位置に近い眼底部位については高感度・高解像度の画像が得られるが、当該深度位置から離れた部位については画像の感度・解像度が低下してしまう。
【0029】
そこで、本装置は、検者が所望する眼底部位が高感度・高解像度で観察できるように、観察部位に応じた撮影モードを設定可能な構成を有している。すなわち、網膜表面側部分を高感度にて表示する網膜モード(被検眼眼底の表面側を観察するための第1モード)と、脈絡膜側部分を高感度にて表示する脈絡膜モード(被検眼眼底の奥側を観察するための第2モード)と、のいずれかが予め設定可能な構成となっており、これらのモードを選択するためのモード切換スイッチ74dがコントロール部74に設けられている。そして、制御部70は、モード選択信号に応じて参照ミラー31の移動制御を切り換える。
【0030】
この場合、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より前側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、脈絡膜側部分よりも網膜表面側の感度が高い眼底断層像(正像)が取得される。この場合、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2は向かい合った状態にある。一方、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より奥側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、網膜表面側よりも脈絡膜側部分の感度が高い眼底断層像(逆像)が取得される。この場合、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2は、互いに反対方向を向いた状態にある。
【0031】
ここで、網膜モードの選択信号がモード切換スイッチ74dより入力されると、制御部70は、分散の影響を補正するための分散補正値として第1の分散補正値(正像用)をメモリ75から取得し、受光素子83から出力されるスペクトル強度データを第1の分散補正値を用いて補正し、補正されたスペクトル強度データをフーリエ変換して断層画像データを形成する。これにより、眼底断層像の正像は、高感度・高解像度の画像にて取得され、眼底断層像の逆像は、分散補正値の違いにより低解像度のぼやけた像となる。
【0032】
また、脈絡膜モードの選択信号がモード切換スイッチ74dより入力されると、制御部70は、分散の影響を補正するための分散補正値として第2の分散補正値(逆像用)をメモリ75から取得し、受光素子83から出力されるスペクトル強度データを第2の分散補正値を用いて補正し、補正されたスペクトル強度データをフーリエ変換して断層画像データを形成する。これにより、眼底断層像の逆像は、高感度・高解像度の画像にて取得され、眼底断層像の正像は、分散補正値の違いにより低解像度のぼやけた像となる。
【0033】
なお、以下の説明においては、第1の画像データG1にて、脈絡膜の部分よりも眼底の表面部分の方が高感度になっている眼底断層像を正像とし、眼底表面の部分よりも脈絡膜の部分の方が高感度になっている眼底断層像を逆像として説明する。
【0034】
以上のような構成を備える装置において、その動作について説明する。まず、検者は、図示なき前眼部観察用カメラで撮影された画面で瞳孔中心に測定光軸がくるようにアライメントし、被検者に図示なき可動固視灯を注視させ、検者の所望する測定部位に誘導する。また、検者は、モード切換スイッチ74dを用いて眼底断層像の観察モードを選択する。なお、以下の説明では、網膜モードに設定された場合の例にとって説明する。
・・・(途中省略)・・・
【0037】
また、自動光路長調整を行うときの参照ミラー31の初期位置(移動開始位置)は、被検眼の眼軸長に対応する参照ミラー31の移動可能範囲の途中位置(光路長が増減ともに可能な位置)に設定されており、より好ましくは、平均的な眼軸長(例えば、24mm)である被検眼に対応する位置の近傍に設定されている。なお、本実施形態では、平均的な眼軸長(例えば、24mm)の被検眼よりも若干短い眼軸長値(20mm)に対応する位置を初期位置としている。したがって、参照ミラー31が初期位置に配置された状態にて、眼軸長が20mmの被検眼に対して断層画像の取得が行われると、眼底断層像の正像が取得される。
・・・(途中省略)・・・
【0040】
まず、制御部70は、図5に示すように、断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求める。図5においては、断層画像を10分割し、10本の分割線を走査線としている。このとき、断層画像上部に発生するノイズの影響を除去するべく、断層画像の上端付近(例えば、画像上部の10%)のデータは対象外とする。また、ノイズの影響を回避するべく、走査線の左右5点の平均値を走査線のデータとする平滑化処理を行う。また、制御部70は、正像のような立ち上がりがはっきりするエッジを浮き出させるため、深さ方向のデータを3点に1点毎に抽出(間引き処理)する。」

(e)「【0057】
上記のようにして眼底断層像の逆像が取得される位置まで参照ミラー31が移動され、干渉光学系200によって逆像が取得されると、制御部70は、表示モニタ75上の所定の表示位置に眼底断層像の逆像を表示する。なお、脈絡膜モードの選択信号が入力された場合、抽出された第1の画像データG1を上下方向に反転処理して表示する。この場合、制御部70は、網膜モードでは、第1の画像データG1を抽出してモニタ75に表示し、脈絡膜モードでは、第2の画像データG2を抽出してモニタ75に表示するようにしてもよい。」

(f)「【0060】
また、以上の説明においては、断層画像における輝度分布を利用して眼底断層像の正像/逆像の判定を行うものとしたが、眼底断層像の正像が取得されたときの断層画像の断面形状と眼底断層像の逆像が取得されたときの断層画像における断面形状とを比較し、その比較結果を考慮して正像/逆像の判定が可能な判定条件を設定するようにしてもよい。例えば、正像と逆像が深さ方向に対称な画像であることを利用する。より具体的には、眼底断層像の第1の画像データG1から網膜色素上皮部分を画像処理(例えば、網膜色素上皮の輝度値に対応するような所定の閾値を超える輝度値のデータを抽出する)により抽出し、抽出された網膜色素上皮部分の曲線形状に基づいて正像/逆像を判定するようにしてもよい。」

(g)「 【図5】



b 引用発明
図5は、網膜モードに設定された場合の(【0034】)眼底断層像の正像(【0037】)の図であって、断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求め、このとき、断層画像上部に発生するノイズの影響を除去するべく、断層画像の上端付近(例えば、画像上部の10%)のデータは対象外とする(【0040】)ことを表したものである。
してみると、上記アの記載事項から、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。なお、参考のため、関連する記載事項の段落番号、図番号などを付記する。

「(【請求項1】)低コヒーレント長の光を発する光源から発せられた測定光を被検物上で走査させる走査手段を有し、前記光源から発せられた光によって生成される参照光と被検物に照射された前記測定光による反射光とを合成させるとともに該合成により得られる干渉光を受光素子にて受光する干渉光学系((【0012】)OCT光学系)と、前記受光素子の出力信号に対してフーリエ解析を用いることにより被検物の断層画像を得る画像形成手段と、
該画像形成手段によって取得された前記正像または逆像のどちらか一方を断層画像として表示する表示手段と、 前記干渉光学系に形成された参照光の光路もしくは測定光の光路に配置された光路長可変用光学部材を光軸方向に移動させる駆動手段と、
前記表示手段の画面上に表示させる断層画像を前記正像とするか逆像とするかを予め設定する設定手段と、
前記駆動手段の駆動を制御する駆動制御手段と、を備え、該駆動制御手段は、設定した初期位置から前記光学部材を一方向に所定ステップで移動させ取得される最初の断層像が正像か逆像かを画像処理により判定し、該判定結果及び前記設定手段による設定に基づいて前記光学部材のその後の移動方向を制御し、
(【0028】)OCT光学系200によって取得(形成)される断層画像の画像データGは、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2からなり、測定光と参照光の光路長が一致する深度位置Sに関して互いに対称な画像となっており、ここで、制御部70は、断層画像の画像データGのうち、第1の画像データG1もしくは第2画像データG2のいずれかの画像データを抽出し、モニタ75の画面上に表示し、
(【0029】)網膜表面側部分を高感度にて表示する網膜モード(被検眼眼底の表面側を観察するための第1モード)と、脈絡膜側部分を高感度にて表示する脈絡膜モード(被検眼眼底の奥側を観察するための第2モード)と、のいずれかが予め設定可能な構成となっており、
(【0030】)この場合、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より前側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、脈絡膜側部分よりも網膜表面側の感度が高い眼底断層像(正像)が取得され、この場合、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2は向かい合った状態にあり、一方、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より奥側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、網膜表面側よりも脈絡膜側部分の感度が高い眼底断層像(逆像)が取得され、この場合、第1の画像データG1と第1画像データG1のミラーイメージである第2画像データG2は、互いに反対方向を向いた状態にあり、
(【0057】)制御部70は、網膜モードでは、第1の画像データG1を抽出してモニタ75に表示し、脈絡膜モードでは、第2の画像データG2を抽出してモニタ75に表示し、
(【図5】)網膜モードに設定された場合の(【0034】)眼底断層像の正像(【0037】)は、断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求め、このとき、断層画像上部に発生するノイズの影響を除去するべく、断層画像の上端付近(例えば、画像上部の10%)のデータは対象外とした(【0040】)ものであり、
前記判定は、(【0060】)眼底断層像の第1の画像データG1から網膜色素上皮部分を画像処理(例えば、網膜色素上皮の輝度値に対応するような所定の閾値を超える輝度値のデータを抽出する)により抽出し、抽出された網膜色素上皮部分の曲線形状に基づいて正像/逆像を判定するものである、(【請求項1】)光断層像撮影装置。」

(イ)甲第1号証の記載事項
申立人が甲第1号証として提出した「専門医のための眼科診療クオリファイ 眼科OCTのすべて」中山書店(2013年8月1日発行)(以下「甲1」という。)には、下記の事項が記載されている。

a
「厚さの評価 網膜の厚さや視神経線維層の厚さなど,厚みを測定するために目的とする層の境界を検出するセグメンテーションという処理を自動で行っている.このセグメンテーションのアルゴリズムはOCTにより異なっているため,その検出性能は装置により異なっており,この処理のエラーは厚みの測定に大きな影響を及ぼす.」(第53頁)
b
「表2 国内市販スペクトラルドメインOCT疾患解析ソフトの比較」(第313頁)の表中に、「セグメンテーション」欄の記載がある。

(ウ)甲第3号証の記載事項
申立人が甲第3号証として提出した「In vivo human retinal imaging by Fourier domain optical ccoherence tomography」、Journal of Biomedical Optics Vol.7 No.3 pp.457-463(July 2002)には、フーリエドメインOCTに関する式が記載されている。

(エ)甲第4号証の記載事項
申立人が甲第4号証として提出した「Optical Coherence Tomography」、Wolfgang Drexler, and James G. Fujimoto(Eds),Springer,pp.57-59(2008)には、OCTに関する式のDC項、自己相関項は、光路長差ゼロ付近でアーチファクト信号を発生させることが記載されている。

(オ)甲第5号証の記載事項
申立人が甲第5号証として提出した特開2012-223264号公報(以下「甲5」という。)には、以下の記載事項がある。
「【0071】
なお、脈絡膜モードから網膜モードに移行する場合、検者は、眼底Efより手前側に深さ位置Sが配置されるように測定光と参照光との間の光路長差を調整すればよい。
【0072】
<断層像の記憶> 以上のようにして、正像又は逆像が動画表示された状態において、検者が所望する走査位置/パターンが設定され、その後、所定のトリガ信号が自動又は手動で出力される。これをトリガとして,制御部70は、設定された撮像条件(例えば、走査位置/パターン)に基づいて光スキャナ108を制御し、検出器120からの出力信号に基づいて,撮像条件に対応する断層像の静止画像を取得する。そして、取得した静止画像をメモリ72に記憶する。なお、加算平均画像を得るため、同じ走査位置において複数の画像を取得しても良い。この場合、制御部70は、取得された断層画像の画像情報に対応付けて、取得された断層画像の正逆情報をメモリ72に記憶するのが好ましい。
【0073】
制御部70は、メモリ72に記憶された断層画像を画像処理により解析し、解析結果をモニタ75に出力する。例えば、制御部70は、各眼底層の層厚分布を画像処理により計測する。その後、正常眼データベースに記憶された層厚分布と眼Eの層厚分布とが比較される。制御部70は、層厚分布の測定結果をマッピング表示する。この場合、制御部70は、メモリ72に記憶された正逆情報を利用して、各種解析を実行できる。例えば、取得された断層画像が正像であれば、網膜解析を主とする正像に対する解析処理が実行され、取得された断層画像が逆像であれば、脈絡膜解析を主とする逆像に対する解析が実行される。
【0074】
以上のように、断層画像の実虚を検出し、実像(又は虚像)の取得位置に基づいてモニタ75に出力する画像領域を変更することにより、OCT光学系100に対して眼Eが動いた場合であっても、網膜モードでの観察と脈絡膜モードでの観察をスムーズに行うことができる。」

(カ)甲第6号証の記載事項
甲第6号証は、甲1と同じ文献であり、第223頁から第224頁に以下の記載事項がある。
「OCTによる視神経乳頭周囲RNFL厚の撮影と結果の評価
現行のほとんどのOCT機器では,・・・乳頭周囲のRNFL厚がすぐに解析される。
・・・
測定結果のよみかた
実際のOCT(3D OCT-2000,トプコン)の測定結果を図1に示す.
・・・RNFL厚の実測値をμm単位でマップ表示したThickness Map,・・・Significance Mapが並んで表示される.」

イ 本件訂正発明1について
(ア)対比
a
引用発明は、「低コヒーレント長の光を発する光源から発せられた測定光を被検物上で走査させる走査手段を有し、前記光源から発せられた光によって生成される参照光と被検物に照射された前記測定光による反射光とを合成させるとともに該合成により得られる干渉光を受光素子にて受光する干渉光学系(OCT光学系)と、前記受光素子の出力信号に対してフーリエ解析を用いることにより被検物の断層画像を得る画像形成手段と」を備え、「断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求め」ている。
ここで、引用発明において、「断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求め」ており、この「各走査線上における輝度分布データ」は、本件訂正発明1の「各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータ」に相当するから、引用発明も「各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータを取得する手段」を備えているといえる。
また、引用発明の光学系は、「受光素子の出力信号に対してフーリエ解析を用い」、「断層画像上において深さ方向(Aスキャン方向)に走査する複数の走査線を設定し、各走査線上における輝度分布データを求め」るための光学系であるから、引用発明の「低コヒーレント長の光を発する光源から発せられた測定光を被検物上で走査させる走査手段を有し、前記光源から発せられた光によって生成される参照光と被検物に照射された前記測定光による反射光とを合成させるとともに該合成により得られる干渉光を受光素子にて受光する干渉光学系(OCT光学系)」は、本件訂正発明1の「被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系」に相当する。
引用発明の「前記受光素子の出力信号に対してフーリエ解析を用いることにより被検物の断層画像を得る」ことと、本件訂正発明1の「各走査位置でのAスキャン信号に基づく3次元OCTデータを静止画像として取得」することとは、共に「各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータを画像として取得」する点で共通する。
引用発明のOCT光学系を備える「光断層像撮影装置」は、本件訂正発明1の「光コヒーレンストモグラフィー装置」に相当する。
よって、引用発明と本件訂正発明1とは、「被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータを画像として取得する手段と、を備える光コヒーレンストモグラフィー装置」の点で共通する。

b
引用発明は、「網膜表面側部分を高感度にて表示する網膜モード(被検眼眼底の表面側を観察するための第1モード)と、脈絡膜側部分を高感度にて表示する脈絡膜モード(被検眼眼底の奥側を観察するための第2モード)と、のいずれかが予め設定可能な構成となっており、」「この場合、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より前側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、脈絡膜側部分よりも網膜表面側の感度が高い眼底断層像(正像)が取得され、」「一方、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より奥側に形成されるように参照ミラー31が配置されると、網膜表面側よりも脈絡膜側部分の感度が高い眼底断層像(逆像)が取得され」、「制御部70は、網膜モードでは、第1の画像データG1を抽出してモニタ75に表示し、脈絡膜モードでは、第2の画像データG2を抽出してモニタ75に表示し」ている。
ここで、引用発明の「測定光と参照光との光路長が一致する深度位置」は、本件訂正発明1の「ゼロディレイ位置」に相当する。
また、引用発明の網膜モードでモニタに表示する第1の画像データG1は、「測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より前側に形成され」「取得され」た「網膜表面側の感度が高い眼底断層像」の画像データであり、本件訂正発明1の「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータ」とは、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータ」である点で共通する。
さらに、引用発明の脈絡膜モードでモニタに表示する第2の画像データG2は、「測定光と参照光との光路長が一致する深度位置が網膜表面より奥側に形成され」「取得され」た「網膜表面側よりも脈絡膜側部分の感度が高い眼底断層像」の画像データであり、本件訂正発明1の「ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータ」とは、「ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータ」である点で共通する。
よって、引用発明と本件訂正発明1とは、「前記手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータと、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータ取得する」点で共通する。

c
以上の相当関係を整理すると、一致点、相違点は以下のとおりとなる。
(一致点)
「被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づくOCTデータを画像として取得する手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
前記手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである第1のOCTデータと、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである第2のOCTデータ取得する
光コヒーレンストモグラフィー装置。」

(相違点1)
取得する画像が、本件訂正発明1は「3次元OCTデータ」の「静止画像」であるのに対し、引用発明は、「設定した初期位置から前記光学部材を一方向に所定ステップで移動させ取得される最初の断層像が正像か逆像かを画像処理により判定し、該判定結果及び前記設定手段による設定に基づいて前記光学部材のその後の移動方向を制御」する際に、つまり「測定光と参照光との光路長」の調整の際に「断層像が正像か逆像か」を判定するために取得する断層画像(2次元)である点。

(相違点2)
画像に対する処理手段について、本件訂正発明1は、「ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段」を備えるのに対し、引用発明は、「眼底断層像の第1の画像データG1から網膜色素上皮部分を画像処理(例えば、網膜色素上皮の輝度値に対応するような所定の閾値を超える輝度値のデータを抽出する)により抽出し、抽出された網膜色素上皮部分の曲線形状に基づいて正像/逆像を判定する」手段を備えるものであり、3次元OCTデータ(相違点1)を記憶し、そのデータに対しノイズ位置の違いを考慮したセグメンテーション処理をすることについて不明である点。

(相違点3)
本件訂正発明1は、「前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除去するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除去するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する」のに対し、引用発明は、第1,2の3次元OCTデータ(相違点1)それぞれに異なるセグメンテーション処理を行い、解析し、解析マップを表示していない点。

(イ)判断
a 相違点1?3は、共に3次元OCTデータについての相違点を有することから、相違点1?3をまとめて検討する。
眼底OCT装置は、眼底断層像を観察するための装置であり、目的の層の境界を検出するセグメンテーションという処理の機能を一般に備えるものである(例えば、甲1の記載事項参照。)。
そして、引用発明は、「被検眼眼底の表面側」や「奥側を観察する」「光断層像撮影装置」であって、「眼底断層像の第1の画像データG1から網膜色素上皮部分を画像処理(例えば、網膜色素上皮の輝度値に対応するような所定の閾値を超える輝度値のデータを抽出する)により抽出し、抽出された網膜色素上皮部分の曲線形状に基づいて正像/逆像を判定するものである」から、目的の層(網膜色素上皮部分)の境界を検出し、その結果、層の形状を解析する手段を備えているといえる。してみると、引用発明は、目的の層の境界を検出するセグメンテーション処理を行う機能を備えており、また、セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析するための解析処理手段を備えているといえる。
しかしながら、引用発明が解析の対象としている画像は、「測定光と参照光との光路長」の調整の際に「断層像が正像か逆像か」を判定するために取得する断層画像(2次元)であり、本件訂正発明1の「3次元OCTデータ」の「静止画像」ではない。
確かに、引用文献1には、「【0020】・・・なお、取得された断層画像は、制御部70に接続されたメモリ72に記憶される。さらに、測定光をXY方向に2次元的に走査することにより、被検眼眼底の3次元画像を取得することも可能である。」(なお、下線は当審が付与した。)の記載があり、また、観察に用いる画像として3次元OCT画像を取得することは周知技術であることから、引用発明においても観察に用いる画像として3次元OCT画像を取得することは、当業者が容易に想到しえることであるが、観察に用いる画像の取得の準備調整段階である、「測定光と参照光との光路長」の調整の際の「断層像が正像か逆像か」を判定するために取得する画像として3次元OCT画像を取得する動機付けは以下のとおりない。
3次元OCT画像を取得することで「測定光と参照光との光路長」の調整の際の「断層像が正像か逆像か」を判定することは可能であるとしても、引用発明において「断層像が正像か逆像か」の判定は、3次元OCT画像でなく断層画像(2次元)で行うものであり、観察に用いる画像の取得の準備段階で、観察に用いる画像と同様の3次元OCT画像を取得するようにすると、調整は一度とは限らないことから、相当の時間を要し、引用文献1【0052】に記載された「所望するOCT断層像を得るまでの光路長調整を短時間で行うことができる。よって、検者は、スムーズに断層画像の観察に移行出来る。また、被験者の負担を軽減できる。」との効果を奏することにはならなくなるから、引用発明において3次元OCT画像で「断層像が正像か逆像か」を判定する動機付けがあるとはいえない。
さらに、「3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示すること」が周知であるとしても(例えば、甲5、6の記載事項参照。)、引用発明における「断層像が正像か逆像か」に用いる画像は、断層画像(2次元)であるから、引用発明において、「断層像が正像か逆像か」を判定する際に、わざわざ3次元OCTデータを取得し、解析し、解析マップを表示する動機付けがあるとはいえない。
また、測定光と参照光との光路長が一致する深度位置S(本件訂正発明1におけるゼロディレイ位置)付近でノイズが発生することは、フーリエドメインOCTにおける技術常識であること(例えば、甲3,4の記載事項参照。)は、上記動機付けの判断を左右するものではない。

b 申立人の意見について
申立人は意見書において、「そうすると、甲第5号証には、OCTデータを取得する際に「静止画像として取得」し、「解析用データとして記憶」すること、および、メモリに記憶されたOCTデータに対して「セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する」ことが開示されている。
よって、引用文献1に記載された発明に、甲第5号証の記載事項などの周知慣用技術を組み合わせることにより、機能構成として、引用文献1の制御部70が「3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶」し、「被検体の解析結果として解析マップを表示する」ように「解析処理手段」を構成することができる。」(第8頁第21行-末行)、
「また、特許権者は、意見書9頁において、「引用文献1には、正像と逆像を判別する準備段階において、網膜色素上皮部分を抽出しているにすぎず・・・本件発明への具体的な動機付けが存在しない。」と主張している。
しかしながら、構成要件Bで述べたとおり、3次元OCTデータのセグメンテーション及びそれに基づく解析マップの表示は周知慣用技術であるのだから、正像/逆像判定の解析時のみならず、解析マップを表示する際においても、ノイズの影響を低減する処理を行うことは、当業者であれば当然に行うべき技術常識である。」(10頁第11行-第18行)
と主張している。

しかしながら、引用発明から本件訂正発明1を構成するには、まず、準備段階後(光路長調整後)、測定光をXY方向に2次元的に走査することにより、被検眼眼底の3次元画像(3次元OCTデータ)を取得する段階1、周知慣用技術としている「3次元OCTデータのセグメンテーション及びそれに基づく解析マップの表示」をする段階2、そして、その段階2のセグメンテーションで、正像と逆像を判別する準備段階でのノイズの影響を低減する処理を行わなければ、本件訂正発明1に至ることはできないところ、段階1及び段階2の工程は周知技術であるとしても、「3次元OCTデータのセグメンテーション及びそれに基づく解析マップの表示」をするという段階2で、すでに準備段階で正像と逆像を判別する処理は済んでいることから、再度、正像と逆像を判別する準備段階でのノイズの影響を低減する処理を行うことはなく、かつ、「3次元OCTデータのセグメンテーション及びそれに基づく解析マップの表示」をする段階でそのようなノイズの影響を低減する処理を行うことが周知技術であるとはいえないことから、申立人の「正像/逆像判定の解析時のみならず、解析マップを表示する際においても、ノイズの影響を低減する処理を行うことは、当業者であれば当然に行うべき技術常識である」との主張は当を得ないことである。

c 小括
以上のことから、引用発明に上記周知技術を適用する動機付けがあるとはいえず、さらに、技術常識を考慮しても、本件訂正発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1をさらに限定したものであり、本件訂正発明3は、本件訂正発明1の装置の発明に対応するプログラムの発明であるから、本件訂正発明1についての判断と同様に、本件訂正発明2及び3は、引用発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
上記第4で記載した取消理由において採用しなかった異議申し立て理由はない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件訂正発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光コヒーレンストモグラフィー装置及びプログラム
【技術分野】
【0001】
本開示は、被検体のOCTデータを得る光コヒーレンストモグラフィーに関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の断層像を撮影する装置として、光断層干渉計(Optical Coherence Tomography:OCT)が知られている。
【0003】
光断層干渉計において、受光素子によって取得されるスペクトル情報をフーリエ解析して被検物の断層画像を得るフーリエドメインOCTが知られている(特許文献1参照)。フーリエドメインOCTとしては、受光系に分光光学系を有するSD-OCT、投光系に可変波長光源を有するSS-OCTが知られている。
【0004】
ところで、フーリエドメインOCTを原理とする干渉光学系により得られる断層像は、測定光と参照光との光路長が一致する深さ位置(ゼロディレイ位置)での感度(干渉感度)が最も高く、ゼロディレイ位置から離れるにしたがって感度が低下していく。この結果として、ゼロディレイ位置に近い部分については高感度・高解像度の画像が得られるが、ゼロディレイ位置から離れた部分については画像の感度・解像度が低下してしまう。
【0005】
特許文献1?3は、測定光と参照光の光路長が一致する深さ位置より眼底が奥側に配置された状態で取得された断層画像(正像)と、測定光と参照光の光路長が一致する深さ位置より眼底が前側に配置された状態で取得された断層画像(逆像)と、をそれぞれモニタに出力するモード(網膜モード、脈絡膜モード)を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-29648号公報
【特許文献2】特開2007-215733号公報
【特許文献3】特開2013-156229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、取得された断層画像に基づいて解析結果を得る場合、良好な解析結果を得られない場合がある。或いは、取得された断層画像に対して十分な解析が行われていない場合もありうる。
【0008】
本開示は、従来技術の少なくとも一つの問題点を解決することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0010】
(1)
被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づく3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、
前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除外するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除外するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする。
(2)
フーリエドメインOCT光学系を備える光コヒーレンストモグラフィー装置によって得られたOCTデータを処理するOCTデータ処理装置、において実行されるOCTデータ処理プログラムであって、
OCTデータ処理装置のプロセッサによって実行されることで、
静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップであって、
ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除外するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除外するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係る光コヒーレンストモグラフィー装置(以下、本装置と呼ぶ場合もある)の一例を示すブロック図である。
【図2】本実施形態に係るOCT光学系の一例について示す図である。
【図3】OCT光学系によって取得(形成)されるOCTデータの一例を示す図である。
【図4】解析用データとしてメモリ72に記憶されたOCTデータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係る光コヒーレンストモグラフィー装置(以下、本装置と呼ぶ場合もある)の一例を示すブロック図である。本装置10は、一例として、被検眼の眼底の断層像を取得する眼底撮影装置への適用例を示す。
【0013】
<第1実施例>
図1に示すOCTデバイス1は、例えば、OCT光学系100によって取得された検出信号を処理する。OCT光学系100は、例えば、被検眼Eの眼底EfのOCTデータ(例えば、眼底断層像)を得る。OCT光学系100は、例えば、制御部70と接続されている。
【0014】
次いで、OCT光学系100の一例について図2に基づいて説明する。
【0015】
<OCT光学系>
OCT光学系100は、例えば、眼科用光断層干渉計(OCT:Optical coherence tomography)の装置構成を持ち、被検眼のOCTデータを得るために設けられてもよい。より詳細な構成の例としては、OCT光学系100は、光源102から出射された光を光分割器(例えば、カップラ、サーキュレータ)104によって測定光と参照光に分割する。OCT光学系100は、測定光学系106によって測定光を眼Eの眼底Efに導き、また、参照光を参照光学系110に導く。OCT光学系100は、眼底Efによって反射された測定光と、参照光との合成による干渉光を検出器(受光素子)120に受光させる。検出器120は、測定光と参照光との干渉信号を検出する。
【0016】
フーリエドメインOCTの場合では、干渉光のスペクトル強度(スペクトル干渉信号)が検出器120によって検出され、スペクトル強度データに対するフーリエ変換によって複素OCT信号が取得される。例えば、複素OCT信号における振幅の絶対値を算出することによって、Aスキャン信号(例えば、深さプロファイル)が取得される。測定光は、光スキャナ108によって眼底上で走査される。各走査位置におけるAスキャン信号が配列されることによって、OCTデータ(例えば、断層画像データ)が取得される。
【0017】
なお、OCT光学系100には、スペクトラル・ドメイン型のOCT光学系が用いられてもよいし、波長可変光源を用いて干渉光のスペクトルを検出するスウェプト・ソース型(SS-OCT)が用いられてもよい。
【0018】
SD-OCTの場合、光源102として低コヒーレント光源(広帯域光源)が用いられ、検出器120には、干渉光を各周波数成分(各波長成分)に分光する分光光学系(スペクトルメータ)が設けられる。スペクトルメータは、例えば、回折格子とラインセンサからなる。
【0019】
SS-OCTの場合、光源102として出射波長を時間的に高速で変化させる波長走査型光源(波長可変光源)が用いられ、検出器120として、例えば、単一の受光素子が設けられる。光源102は、例えば、光源、ファイバーリング共振器、及び波長選択フィルタによって構成される。そして、波長選択フィルタとして、例えば、回折格子とポリゴンミラーの組み合わせ、ファブリー・ペローエタロンを用いたものが挙げられる。
【0020】
光源102から出射された光は、光分割器104によって、測定光と参照光に分割される。測定光は、光ファイバーを通過した後、空気中へ出射されてもよい。測定光は、光スキャナ108、及び測定光学系106の他の光学部材を介して眼底Efに集光されてもよい。眼底Efで反射された光は、同様の光路を経て光ファイバーに戻されてもよい。
【0021】
光スキャナ108は、眼底上で横断方向に測定光を走査してもよいし、眼底上で二次元的に測定光を走査させてもよい。光スキャナ108は、瞳孔と略共役な位置に配置されてもよい。光スキャナ108は、例えば、2つのガルバノミラーであり、その反射角度が駆動機構50によって任意に調整されてもよい。光スキャナ108としては、例えば、反射ミラー(ガルバノミラー、ポリゴンミラー、レゾナントスキャナ)の他、光の進行(偏向)方向を変化させる音響光学素子(AOM)等が用いられる。
【0022】
参照光学系110は、眼底Efでの測定光の反射によって取得される反射光と合成される参照光を生成可能である。参照光学系110は、マイケルソンタイプであってもよいし、マッハツェンダタイプであっても良い。参照光学系110は、例えば、反射光学系(例えば、参照ミラー)によって形成され、光分割器104からの光を反射光学系により反射することにより再度光分割器104に戻し、検出器120に導いてもよい。他の例としては、参照光学系110は、透過光学系(例えば、光ファイバー)によって形成され、光分割器104からの光を戻さず透過させることにより検出器120へと導いてもよい。
【0023】
参照光学系110は、例えば、参照光路中の光学部材を移動させることにより、測定光と参照光との光路長差を変更するための駆動部112を有してもよい。例えば、参照ミラーが光軸方向に移動される。光路長差を変更するための構成は、測定光学系106の測定光路中に配置されてもよい。つまり、本実施形態の装置には、測定光と参照光の少なくとも何れかの光路長を変化させるための構造が設けられてもよい。
【0024】
<正面観察光学系>
正面観察光学系200は、眼底Efの正面画像を得るために設けられてもよい。観察光学系200は、例えば、いわゆる眼科用走査型レーザ検眼鏡(SLO)の装置構成を備えてもよい。なお、観察光学系200の構成としては、いわゆる眼底カメラタイプの構成であってもよい。また、OCT光学系100は、観察光学系200を兼用してもよい。
【0025】
<固視標投影ユニット>
固視標投影ユニット300は、眼Eの視線方向を誘導するための光学系を有してもよい。固視標投影ユニット300は、眼Eに呈示する固視標を有し、複数の方向に眼Eを誘導できる。
【0026】
<制御系>
制御部70は、CPU(プロセッサ)、RAM、ROM等を備えてもよい。より詳細には、制御部70のCPUは、各構成の各部材など、装置全体(OCTデバイス1、OCT光学系100)の制御を司る。RAMは、各種情報を一時的に記憶する。制御部70のROMには、装置全体の動作を制御するための各種プログラム、初期値等が記憶される。なお、制御部70は、複数の制御部(つまり、複数のプロセッサ)によって構成されてもよい。
【0027】
制御部70には、記憶部の一例としての不揮発性メモリ(以下、メモリ)72、操作部(コントロール部)76、および表示部(モニタ)75等が電気的に接続されてもよい。メモリ72は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体であってもよい。例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、OCTデバイス1、及びUSBメモリのいずれかが、メモリ72として用いられてもよい。
【0028】
メモリ72には、OCTデバイス1によって得られたOCTデータに基づいて、被検眼を解析するための解析処理プログラムが記憶されてもよい。また、メモリ72には、OCT光学系100による正面画像および断層画像の撮影を制御するための撮影制御プログラムが記憶されてもよい。また、メモリ72には、OCTデータ、眼底正面像、断層像の撮影位置の情報等、撮影に関する各種情報が記憶されてもよい。操作部76には、検者による各種操作指示が入力されてもよい。
【0029】
操作部76は、入力された操作指示に応じた信号を制御部70に出力してもよい。操作部74には、例えば、マウス、ジョイスティック、キーボード、タッチパネル等の少なくともいずれかを用いればよい。
【0030】
表示部75は、装置本体に搭載されたディスプレイであってもよいし、本体に接続されたディスプレイであってもよい。パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という。)のディスプレイを用いてもよい。複数のディスプレイが併用されてもよい。また、表示部75は、タッチパネルであってもよい。なお、表示部75がタッチパネルである場合に、表示部75が操作部として機能する。表示部75には、OCT光学系100によって取得されたOCTデータ、正面画像データ等が表示される。
【0031】
図3は、OCT光学系によって取得(形成)されるOCTデータの一例を示す図である。ゼロディレイ位置Sは、OCTデータにおいて参照光の光路長に対応する位置であり、測定光と参照光の光路長が一致する位置に相当する。OCTデータは、ゼロディレイ位置Sよりも奥側に対応する第1画像領域G1と、ゼロディレイ位置Sよりも手前側に対応する第2画像領域と、から形成される。第1画像領域G1と第2画像領域G2は、ゼロディレイ位置Sに関して互いに対称な関係となる。
【0032】
なお、図3は、ソフトウェアによる分散補正処理を行った場合のOCTデータの一例である。つまり、制御部70は、検出器120から出力されるスペクトルデータに対しソフトウェアによる分散補正処理を施してもよく、分散補正後のスペクトルデータに基づいてAスキャン信号を得てもよい。この結果として、実像と虚像との間で画質において差異が生じる。なお、この点については、例えば、特開2012-223264号公報を参考にされたい。なお、ソフトウェアによる分散補正に限定されず、光学的な分散補正が用いられてもよい。この場合、実像と虚像との間で画質に差異がない状態となる。
【0033】
図3(a)は網膜側での感度が高い正像が取得されたときのOCTデータの一例である。上記構成において、ゼロディレイ位置Sよりも眼Eの網膜表面が奥側に配置されるように光路長差が調整されると、第1のOCTデータが取得される。第1のOCTデータには、例えば、脈絡膜Ch側部分よりも網膜表面Rt側の感度が高い眼底断層像(正像)が含まれる。
【0034】
この場合、第1画像領域と第2画像領域において形成される各断層像は、互いに向かい合った状態となる。この場合、第1画像領域G1において実像Rが形成され、第2画像領域G2において虚像M(ミラーイメージ)が形成される。
【0035】
図3(b)は脈絡膜側での感度が高い逆像が取得されたときのOCTデータの一例である。ゼロディレイ位置よりも脈絡膜裏面が前側に配置されるように光路長差が調整されると、第2のOCTデータが取得される。第2のOCTデータには、例えば、網膜表面Rt側よりも脈絡膜Ch側の感度が高い眼底断層像(逆像)が含まれる。
【0036】
この場合、第1画像領域G1と第2画像領域G2において形成される各断層像は、互いに反対方向を向いた状態となる。この場合、第2画像領域G2において実像Rが形成され、第1画像領域G1において虚像M(ミラーイメージ)が含まれる。
【0037】
図3の例では、第1のOCTデータと第2のOCTデータは、ゼロディレイ位置Sに対して眼底が手前側か奥側に位置したかどうかによって、取得される眼底像の正逆関係が異なっている。
【0038】
制御部70は、例えば、OCTデータのうち、第1画像領域G1又は第2画像領域G2のいずれか一方の画像情報を抽出し、表示部75の画面上に表示する。例えば、制御部70は、その画像領域をOCTデータから切出してもよいし、その画像領域に対応する輝度情報から画像を改めて作成してもよい。
【0039】
<動作説明>
次に、本実施形態に係る装置の動作の一例について説明する。検者は、固視標を注視するように被験者に指示した後、眼底に対するアライメントを行う。眼底正面像が表示部75上に表示されるようになると、予め設定される走査パターンに基づきOCT光学系100によってOCTデータが取得され、表示部75上にOCT画像が表示される。
【0040】
制御部70は、検出器120から出力される検出信号に基づいて駆動機構112の駆動を制御し、眼底断層像が取得されるように測定光と参照光との光路長差を調整する。なお、初期設定として網膜モードに設定され、制御部70は、例えば、ゼロディレイ位置Sよりも奥側に網膜Rtが配置されるように光路長を調整する。この場合、第1のOCTデータが取得された状態となる。一方、脈絡膜モードにて眼底断層を観察する場合、制御部70は、ゼロディレイ位置Sよりも前側に脈絡膜Chが配置されるように測定光と参照光との間の光路長差を調整する。この場合、第2のOCTデータが取得された状態となる。
【0041】
<断層像の記憶> 第1のOCTデータ又は第2のOCTデータが動画表示された状態において、検者が所望する走査位置/パターンが設定される。その後、所定のトリガ信号が自動又は手動で出力される。これをトリガとして,制御部70は、設定された撮像条件(例えば、走査位置/パターン)に基づいて光スキャナ108を制御する。制御部70は、各走査位置での検出器120からの出力信号に基づいて,OCTデータを静止画像として取得する。制御部70は、取得されたOCTデータをメモリ72に記憶する。この場合、制御部70は、記憶されるOCTデータに対応付けて、OCTデータが第1のOCTデータ又は第2のOCTデータであるかの判別情報をメモリ72に記憶してもよい。なお、判別情報は、網膜モード、脈絡膜モード間でのモード切換信号、或いは実像の取得位置等によって取得可能である。
【0042】
OCTデータをメモリ72に記憶する場合、制御部70は、例えば、OCTデータのうち、第1画像領域G1又は第2画像領域G2のいずれか一方の画像情報を抽出し、メモリ72に記憶してもよい。例えば、第1のOCTデータでは、第1の画像領域G1に対応するOCTデータがメモリ72に記憶され(図4(a)参照)、第2のOCTデータでは、第2の画像領域G2に対応するOCTデータがメモリ72に記憶されてもよい(図4(b)参照)。
【0043】
<セグメンテーション>
本実施形態において、解析を行う場合、制御部70は、メモリ72に記憶されたOCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、セグメンテーション処理の結果に基づいて眼底Efを解析してもよい。この場合、制御部70は、解析処理部の一例として用いられる。セグメンテーション処理は、例えば、眼底の解析結果を得るための前準備として、OCTデータにおける特徴抽出を行うための画像処理として用いられる。
【0044】
制御部70は、例えば、セグメンテーション処理として、複数の層の境界の少なくともいずれかを検出(抽出)するようにしてもよい。より詳細には、制御部70は、特定の層(例えば、神経線維層(nerve fiber layer:NFL)、神経節細胞層(ganglion cell layer:GCL)、網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)等)、脈絡膜(Choroid)に対応する層境界をセグメンテーション処理によって検出(抽出)してもよい。なお、特定の層に対応する層境界を検出する場合、解剖学見地に基づく特定の層の位置、層の順序、Aスキャン信号内における輝度レベル等に基づいて、検出手法が設定される。なお、セグメンテーションには、例えば、エッジ検出等が利用される。
【0045】
<セグメンテーション処理の変更>
制御部70は、ゼロディレイ位置Sに対する眼底の位置関係が互いに異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、OCTデータに対するセグメンテーション処理の少なくとも一部を変更してもよい。ここで、第1のOCTデータは、例えば、ゼロディレイ位置Sよりも眼底表面が奥側に配置された状態で取得されたOCTデータである。また、第2のOCTデータは、例えば、ゼロディレイ位置Sよりも眼底裏面が前側に配置された状態で取得されたOCTデータである。
【0046】
なお、本実施形態では、第1のOCTデータと第2のOCTデータのいずれにおいても、被検眼の同一部位(例えば、眼底)に関するOCTデータが含まれる。なお、以下の説明では、OCTデータにおける上下方向について、眼底表面(網膜表層)側を上方向(手前側)、眼底裏面(脈絡膜層)側を下方向(奥側)として規定して説明する。
【0047】
ここで、制御部70は、例えば、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。その一例として、制御部70は、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間での眼底断層像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。この場合、OCTデータにおいてセグメンテーション処理から除外する領域を変更するようにしてもよい。
【0048】
図4は、解析用データとしてメモリに記憶されたOCTデータの一例を示す図である。取得されるOCTデータには、眼底断層像等の被検眼のOCTデータの他、装置に起因するノイズ成分NZが発生する場合がある。このようなノイズ成分は、例えば、DCサブトラクション等のノイズ除去処理によって除去されず、OCTデータにおいて残存したノイズである。このようなノイズの発生原因としては、例えば、光源102からの光の揺らぎ、装置の揺れ・振動、内部レンズの反射、外部照明からの光等などが考えられる。
【0049】
ノイズ成分NZは、一定の周期性を持つ場合が多く、例えば、ゼロディレイ位置に対する所定の位置に形成される。その結果として、第1のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも上側にノイズ成分NZが発生している。第2のOCTデータ上に発生したノイズ成分NZは、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から所定距離D離れた位置に形成される。つまり、被検眼眼底のOCTデータよりも下側にノイズ成分NZが発生している。
【0050】
本実施形態では、被検眼眼底のOCTデータに対するノイズ成分NZの発生位置の違いを考慮し、セグメンテーション処理が実行される領域が変更される。図4において、セグメンテーション実行領域(以下、実行領域)SGは、OCTデータ上においてセグメンテーションが実行される領域である。実行領域SGが設定される場合、例えば、セグメンテーションを開始する始点SG1からセグメンテーションを終了する終点SG2までの深さ方向における座標位置が予めメモリ72に記憶されてもよい。これによって、各Aスキャン信号における始点SG1から終点SG2にかけてセグメンテーションが行われ、他の領域についてはセグメンテーションが行われない。
【0051】
第1のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側端部)から下側に所定距離D離れた位置よりもさらに下側に始点SG1が設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)が終点SG2に設定される(図3(a)参照)。この結果、第1のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。
【0052】
一方、第2のOCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、例えば、OCTデータの上端(つまり、網膜表層側)が始点SG1に設定され、OCTデータの下端(つまり、脈絡膜側端部)から上側に所定距離D離れた位置よりもさらに上側に終点SG2が設定される。この結果、第2のOCTデータに含まれるノイズ成分NZを除外するように、セグメンテーションが行われる。
【0053】
以上示したように、被検眼眼底のOCTデータに対するノイズ成分NZの発生位置に応じて、ノイズ成分NZが除外されるようにセグメンテーションを行うことによって、OCTデータの特性に関わらず、ノイズの影響を適切に軽減できる。以後の解析を良好に行うことができる。
【0054】
<セグメンテーション結果に基づく解析>
第1のOCTデータの場合、眼底表面側(例えば、網膜部分)が鮮明に形成される。セグメンテーションの結果として、制御部70は、網膜層(例えば、網膜表層から網膜色素情報層)の各層における層境界情報を取得し、取得された層境界情報に基づいて各層の厚み情報を算出するようにしてもよい。なお、脈絡膜がセグメンテーション可能な場合、網膜層の厚み計測に加えて、脈絡膜の厚みを求めるようにしてもよい。
【0055】
第2のOCTデータの場合、眼底裏面側(例えば、脈絡膜部分)が鮮明に形成される。セグメンテーションの結果として、制御部70は、脈絡膜層における層境界情報を取得し、取得された層境界情報に基づいて脈絡膜層の厚み情報を算出するようにしてもよい。なお、網膜各層がセグメンテーション可能な場合、脈絡膜層の厚み計測に加えて、網膜各層の厚みを求めるようにしてもよい。
【0056】
セグメンテーション処理の結果に基づく眼底解析は、上記に限定されない。例えば、眼底の特徴部位(例えば、黄斑、乳頭)に対するサイズ計測、病変検出等が行われてもよい。また、制御部70は、セグメンテーションの結果を用いて、各層でのEn-face画像(OCT正面画像)を取得するようにしてもよい。
【0057】
もちろんOCTデータは、3次元OCTデータであってよい。3次元OCTデータは、例えば、測定光の2次元走査(例えば、ラスタースキャン))によって取得される。また、3次元OCTデータに対するセグメンテーションの結果として、解析マップが取得されてもよい。解析マップとしては、例えば、網膜厚マップ、脈絡膜厚マップ、等が考えられる。
【0058】
制御部70は、上記のように取得された解析結果を表示部75に表示するようにしてもよい。
【0059】
<変容例>
なお、上記実施例では、網膜表層側が始点SG1に設定されたがこれに限定されず、脈絡膜側が始点SG1に設定されてもよい。なお、装置の製造段階において、実行領域SGが設定されてもよい。また、装置の個体差を考慮し、装置毎に実行領域SGの位置が設定されてもよい。
【0060】
また、上記例では、被検眼のOCTデータに対するノイズ成分NZの発生位置に応じて、セグメンテーションが実行される領域を変更したが、セグメンテーション領域を変更する手法は、これに限定されない。例えば、セグメンテーション処理を行うためのOCTデータを抽出し、抽出されたOCTデータに対してセグメンテーションを行う場合であっても、本実施形態の適用は可能である。例えば制御部70は、ノイズ成分NZの発生位置に応じて、セグメンテーション処理を行うための抽出領域を変更するようにしてもよい。また、制御部70は、ノイズ成分NZが除外されるようにOCTデータをメモリ75に記憶することによって、ノイズ成分をセグメンテーション処理から予め除外するようにしてもよい。この場合、ノイズ成分NZが除外されるようにOCTデータ上での記憶領域が予め設定されてもよい。
【0061】
なお、上記説明においては、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間でメモリ72に記憶する画像領域を変更したが、これに限定されない。メモリ72に記憶する画像領域は、同一であってもよい。このような記憶手法は、光学的分散補正にてOCTデータを得る場合、或いは、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で分散補正データを切り換える場合に用いられてもよい。この場合、ソフトウェア分散補正処理によって補正されるOCTデータが、実像と虚像とで切り換えられてもよい(詳しくは、特開2012-223264号公報を参考にされたい)。このような場合であっても、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で、被検眼画像に対するノイズの上下位置が異なるので、上記実施形態の適用が可能である。
【0062】
なお、制御部70は、セグメンテーションの結果に基づいてOCTデータの一部を表示する際、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、OCTデータの表示領域を変更するようにしてもよい。
【0063】
例えば、3次元OCTデータに基づいて3次元グラフィック画像を表示部75に表示する際、制御部70は、セグメンテーションによって検出された層境界領域を基準として、3次元グラフィック画像として表示する領域を変更するようにしてもよい。より具体的には、制御部70は、第1の3次元OCTデータを表示する場合、網膜表層よりも上側の領域を除去し、網膜表層よりも下側の領域に関してグラフィック画像を表示するようにしてもよい。また、制御部70は、第2の3次元OCTデータを表示する場合、脈絡膜層よりも下側の領域を除去し、脈絡膜層よりも上側の領域に関してグラフィック画像を表示するようにしてもよい。これによって、3次元グラフィック画像中における不要なノイズ情報が好適に軽減される。
【0064】
なお、本実施形態の処理は、実像と虚像のいずれかが画像処理によって除去されたフルレンジOCTデータに対して行ってもよい。
【0065】
なお、以上の説明においては、ゼロディレイ位置に対する眼底の位置関係が異なる第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間において、OCTデータに対するセグメンテーション処理の少なくとも一部(例えば、セグメンテーション領域)を変更したが、これに限定されない。本実施形態は、光コヒーレンストモグラフィー装置によってOCTデータが取得された際の条件の違いに応じて、セグメンテーション処理の少なくとも一部を変更してもよい。
【0066】
第1の例として、制御部70は、光コヒーレンストモグラフィー装置の撮影方式の違いに応じて、セグメンテーション処理を変更するようにしてもよい。例えば、第1のOCTデータが、スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)によって取得されたOCTデータであって、第2のOCTデータが、スウィプトソースOCT(SS-OCT)によって取得されたOCTデータである場合、取得される画像の輝度が異なる。原因としては、撮影原理の違い、光源波長の違い等が考えられる。そこで、制御部70は、例えば、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で、セグメンテーションを行う際の閾値を変更するようにしてもよい。これにより、適正なセグメンテーションが実行される。このような処理は、第1実施例においても適用可能である。
【0067】
また、深さ方向に関する感度の違いにより出現画像が異なる場合がある。出現画像とは、OCTデータにおいて被検眼画像として出現される画像を意味し、出現画像の違いとは、取得条件の違いに応じてOCTデータ中に現れる被検眼データの違いを意味する。ここで、出現画像とは、例えば、セグメンテーションができる程度に画像化された画像として規定されてもよい。
【0068】
そこで、制御部70は、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で、セグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。つまり、本実施形態では、OCTデータにおける出現画像の違いに応じてセグメンテーション領域を変更するようにしてもよい。これによって、適正な解析処理が可能となる。このような処理は、第1実施例においても適用可能である。
【0069】
第2の例として、制御部70は、OCTデータを取得する際の受光素子の露光時間の違いに応じて、セグメンテーション処理を変更するようにしてもよい。例えば、第1のOCTデータが、第1の露光時間にて取得されたOCTデータであって、第2のOCTデータが、第2の露光時間にて取得されたOCTデータである場合、取得される画像の輝度が異なる。そこで、制御部70は、第1のOCTデータと第2のOCTデータとの間で、セグメンテーションを行う際の閾値を変更するようにしてもよい。
【0070】
なお、以上の説明においては、被検眼の形態断層画像を取得する場合について説明したが、制御部70は、複数のAスキャン信号における信号間の変化(例えば、位相変化、強度変化)を計測することによって、血流計測画像(ドップラーOCT画像)を取得してもよい。また、制御部70は、複数のAスキャン信号における偏光成分(S偏光、P偏光)を計測することによって、被検眼の偏光特性を示す画像(偏光OCT画像)を取得してもよい。つまり、本実施形態は、ドップラーOCT、偏光感受OCT等のOCTにおいても適用可能である。
【0071】
また、以上の説明においては、眼底のOCTデータを得る装置を例にとって説明したが、これに限るものではなく、被検眼の所定部位のOCTデータを得る装置であれば、本実施形態の適用は可能である。例えば、被検眼前眼部のOCTデータを得る装置に用いられる。
【0072】
また、眼科撮影装置への適用に限るものではなく、眼以外の生体(例えば、皮膚、血管)、もしくは生体以外の試料、等の断層像を取得するOCT装置においても、本実施形態の適用は可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 OCTデバイス
70 制御部
100 OCT光学系
S ゼロディレイ位置
NZ ノイズ
SG セグメンテーション実行領域
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体上を走査手段によって走査された測定光と、前記測定光に対応する参照光との干渉によるAスキャン信号を検出するためのフーリエドメインOCT光学系と、
各走査位置でのAスキャン信号に基づく3次元OCTデータを静止画像として取得してメモリに解析用データとして記憶し、前記メモリに記憶された3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理手段と、
を備える光コヒーレンストモグラフィー装置であって、
解析処理手段は、ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理手段であって、
前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除外するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、
前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除外するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示することを特徴とする光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項2】
前記解析処理手段は、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、前記セグメンテーション処理から除外する領域を変更することを特徴とする請求項1の光コヒーレンストモグラフィー装置。
【請求項3】
フーリエドメインOCT光学系を備える光コヒーレンストモグラフィー装置によって得られたOCTデータを処理するOCTデータ処理装置、において実行されるOCTデータ処理プログラムであって、
OCTデータ処理装置のプロセッサによって実行されることで、
静止画像として取得され解析用データとしてメモリに記憶された前記3次元OCTデータに対してセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示するための解析処理ステップであって、
ゼロディレイ位置よりも被検物表面が奥側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理と、ゼロディレイ位置よりも被検物裏面が前側に配置された状態で取得され前記メモリに記憶された3次元OCTデータである第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理とで、前記第1の3次元OCTデータと前記第2の3次元OCTデータとの間での被検体画像に対するノイズ位置の違いを考慮して、セグメンテーション領域を変更する解析処理ステップであって、前記第1の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体の3次元OCTデータよりも上側に発生したノイズ成分を除外するように第1の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示し、前記第2の3次元OCTデータに対してセグメンテーションが行われる場合、被検体のOCTデータよりも下側に発生したノイズ成分を除外するように第2の3次元OCTデータに対するセグメンテーション処理を行い、前記セグメンテーション処理の結果に基づいて被検体を解析し被検体の解析結果として解析マップを表示する解析処理ステップと、
をOCTデータ処理装置に実行させることを特徴とするOCTデータ処理プログラム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-01 
出願番号 特願2014-186398(P2014-186398)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 九鬼 一慶  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 森 竜介
渡戸 正義
登録日 2019-04-05 
登録番号 特許第6503665号(P6503665)
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 光コヒーレンストモグラフィー装置及びプログラム  
代理人 水越 邦仁  
代理人 水越 邦仁  

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