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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1364888
異議申立番号 異議2018-700945  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-22 
確定日 2020-06-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6329710号発明「具材入り液状調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6329710号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕、〔12?16〕について訂正することを認める。 特許第6329710号の請求項1?9、11?16に係る特許を維持する。 特許第6329710号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6329710号の請求項1?16に係る特許についての出願は、2017年7月26日(優先権主張2016年7月27日、日本国)を国際出願日とする国際出願であって、平成30年4月27日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月23日に特許掲載公報が発行されたものである。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成30年11月22日 特許異議申立人西郷 新(以下「申立人A」という。)による請求項1?16に係る特許に対する特許異議の申立て
同年11月26日 特許異議申立人鈴木佐知子(以下「申立人B」という。)による請求項1?16に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年 3月25日 取消理由通知書
令和 元年 5月27日 訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 7月18日 意見書(申立人A)
同年 7月22日 意見書(申立人B)
同年10月23日 取消理由通知書(決定の予告)
同年12月27日 訂正請求書、意見書(特許権者)
令和 2年 2月14日 意見書(申立人A)
同年 2月17日 意見書(申立人B)
同年 3月 6日 上申書(特許権者)
なお、令和元年12月27日付けで訂正請求がされたため、特許法120条の5第7項の規定により、令和元年5月27日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。
以下、本決定において、「・・・」は記載の省略を意味し、証拠は、例えば申立人Aが提出した甲第1号証を甲A1、申立人Bが提出した甲第1号証を甲B1のように表記する。

第2 訂正について
1 訂正の内容
令和元年12月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?16について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)請求項1に係る訂正
ア 訂正事項1
請求項1の「野菜」を「根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜」に訂正する。
イ 訂正事項2
請求項1の「湿重量で液状調味料全体の10?55質量%含有し、」を「湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、」に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項1の「調味液のBrixが1?40であり、」を「調味液のBrixが15?25であり、」に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項1の「調味液のpHが2?5であり、」を「調味液のpHが2.5?4であり、」に訂正する。
オ 訂正事項5
請求項1の「カルシウム含有量が0.05?0.25質量%」を「カルシウム含有量が0.09?0.20質量%」に訂正する。
カ 訂正事項6
請求項1の「であることを特徴とする」を「であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であることを特徴とする」に訂正する。

(2)請求項2に係る訂正
ア 訂正事項7
請求項2の「前記具材の含有量が、湿重量で液状調味料全体の15?55質量%である請求項1記載の」を
「根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする」に訂正する。

(3)請求項8に係る訂正
ア 訂正事項8
請求項8の「キャベツ、白菜、セロリ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上」を「キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種」に訂正する。

(4)請求項10に係る訂正
ア 訂正事項9
請求項10を削除する。

(5)請求項11に係る訂正
ア 訂正事項10
請求項11の「保持率が30%以上である」を「保持率が30%以上であり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」に訂正する。
イ 訂正事項11
請求項11の「請求項1?10のいずれか1項」を「請求項1?9のいずれか1項」に訂正する。

(6)請求項12に係る訂正
ア 訂正事項12
請求項12の「野菜」を「根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜」に訂正する。
イ 訂正事項13
請求項12の「湿重量で液状調味料全体の10?55質量%」を「湿重量で液状調味料全体の20?55質量%」に訂正する。
ウ 訂正事項14
請求項12の「調味液のBrixを1?40」を「調味液のBrixを15?25」に訂正する。
エ 訂正事項15
請求項12の「pHを2?5」を「pHを2.5?4」に訂正する。
オ 訂正事項16
請求項12の「カルシウム含有量を0.05?0.25質量%」を「カルシウム含有量を0.09?0.20質量%」に訂正する。
カ 訂正事項17
請求項12の「保持率が30%以上となる」を「保持率が30%以上となり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上である」に訂正する。

(7)請求項13?15に係る訂正
ア 訂正事項18
請求項13の「カルシウム含有量を0.05?0.25質量%」を「カルシウム含有量を0.09?0.20質量%」に訂正する。
イ 訂正事項19
請求項14の「カルシウム含有量を0.05?0.25質量%」を「カルシウム含有量を0.09?0.20質量%」に訂正する。
ウ 訂正事項20
請求項15の「カルシウム含有量を0.05?0.25質量%」を「カルシウム含有量を0.09?0.20質量%」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)請求項1に係る訂正
訂正事項1は、野菜について「根菜類及び葉物野菜から選ばれる」との特定事項を付加するものであり、訂正事項2は、具材の含有量の範囲を「10?55質量%」から「20?55質量%」へと狭めるものであり、訂正事項3は、調味液のBrixの範囲を「1?40」から「15?25」へと狭めるものであり、訂正事項4は、調味液のpHの範囲を「2?5」から「2.5?4」へと狭めるものであり、訂正事項5は、調味液中のカルシウム含有量の範囲を「0.05?0.25質量%」から「0.09?0.20質量%」へと狭めるものであり、訂正事項6は、具材入り液状調味料について「液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」との特定事項を新たに付加するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を直接又は間接に引用する請求項3?9、11についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「本発明において具材として用いられる野菜としては、根菜類、葉物野菜、豆類、種実類等が挙げられ」(【0012】)、「液状調味料全体中の前記具材の含有量は・・・20質量%以上がさらに好ましく・・・55質量%以下がより好ましく・・・」(【0015】)、「当該Brixは、5?35が好ましく、10?30がより好ましく、15?25がさらに好ましい。」(【0024】)、「pHは2.5?4.5が好ましく、3?4がより好ましい。」(【0025】)、「好ましいカルシウム含有量は・・・最も好ましくは0.09?0.20質量%である。」(【0026】)、「本発明の液状調味料中の具材は、良好な食べ応え、フレッシュな歯ごたえを得る点から、常温(15℃?25℃)における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であるのが好ましく・・・」(【0016】)、「また、本発明の液状調味料を長期間保存した場合の評価を行うため、強制的に劣化させる目的で、50℃で4日間保存した後、常温にし具材の硬さ、食感を評価した。」(【0017】)と記載されているから、訂正事項1?6は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)請求項2に係る訂正
訂正事項7は、請求項2について請求項1との引用関係を解消するとともに、訂正事項1?6と同様の訂正をし、さらに、「前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上である」との特定事項を付加するものであるから、引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、上記(1)での検討に加え、本件明細書に、「本発明において具材として用いられる野菜としては・・・にんじん、タマネギ、キャベツ・・・等が例示できる。」(【0012】)と記載されているから、訂正事項7は、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)請求項8に係る訂正
訂正事項8は、「キャベツ、白菜、セロリ及びタマネギ」という選択肢から、白菜とセロリの選択肢を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)請求項10に係る訂正
訂正事項9は、請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)請求項11に係る訂正
訂正事項10は、「前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」との特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項6と同様に、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項11は、請求項10が削除されたことに伴い、引用する請求項から請求項10を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)請求項12に係る訂正
訂正事項12は、野菜について「根菜類及び葉物野菜から選ばれる」との特定事項を付加するものであり、訂正事項13は、具材の含有量の範囲を「10?55質量%」から「20?55質量%」へと狭めるものであり、訂正事項14は、調味液のBrixの範囲を「1?40」から「15?25」へと狭めるものであり、訂正事項15は、調味液のpHの範囲を「2?5」から「2.5?4」へと狭めるものであり、訂正事項16は、調味液中のカルシウム含有量の範囲を「0.05?0.25質量%」から「0.09?0.20質量%」へと狭めるものであり、訂正事項17は、具材の破断応力について「破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり」との特定事項を付加するとともに、野菜について「にんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上である」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項12?17は、訂正事項7と同様に、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)請求項13?15に係る訂正
訂正事項18?20は、いずれも、カルシウム含有量の範囲を「0.05?0.25質量%」から「0.09?0.20質量%」へと狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項5と同様に、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕、〔12?16〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
本件特許の請求項1?16に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」?「本件発明16」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項1】
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であることを特徴とする具材入り液状調味料。
【請求項2】
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする具材入り液状調味料。
【請求項3】
液状調味料中の調味液の酢酸濃度が0.05?2質量%である請求項1又は2記載の具材入り液状調味料。
【請求項4】
調味液に浸漬する前の具材が、乾燥野菜である請求項1?3のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項5】
調味液に浸漬する前の具材が、水分含有量10質量%以下のカルシウム含有乾燥野菜である請求項1?4のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項6】
具材中に湿重量として葉物野菜を1?100質量%含有する請求項1?5のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項7】
液状調味料中の葉物野菜の厚さが0.5?6mmである請求項6記載の具材入り液状調味料。
【請求項8】
葉物野菜がキャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種である請求項6又は7記載の具材入り液状調味料。
【請求項9】
3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材由来の繊維量が液状調味料全体の0.1?8質量%である請求項1?8のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項10】
削除
【請求項11】
具材入り液状調味料を5℃で4日間保存した後、常温にした具材の破断応力に対する、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力の保持率が30%以上であり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である請求項1?9のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項12】
3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を含む具材を調味液に湿重量で液状調味料全体の20?55質量%になるように浸漬し、液状調味料中の調味液のBrixを15?25、pHを2.5?4、かつカルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする、具材入り液状調味料を5℃で4日間保存した後、常温にした具材の破断応力に対する50℃で4日間保存した後、常温にした、液状調味料中の具材の破断応力の保持率が30%以上となり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上である具材入り液状調味料の製造法。
【請求項13】
カルシウム塩を添加し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項14】
カルシウム含有食品及び食品由来カルシウム素材の内一種以上を使用し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項15】
脱脂ごま、ひじき、海藻パウダー、ミルクカルシウム、カルシウム含有酵母、及びカルシウム含有乳酸菌の内一種以上を使用し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項16】
調味液に浸漬する前の野菜が乾燥野菜である請求項12?15のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料の製造法。

第4 令和元年10月23日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
令和元年5月27日付けの訂正請求により訂正された請求項1?16に係る特許に対して、当審が令和元年10月23日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(理由1) 請求項1、3?9、11?16についての特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。
・請求項1、9、12に記載された「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」の意味が明確でない。
・請求項11、12の「破断応力(1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2))」との記載は、括弧書きの意味が明確でない。
(理由2) 請求項1、3?9、11?16についての特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消すべきものである。
・特許請求の範囲に記載された範囲にまで「具材」の種類を一般化することはできない
・Brixの全範囲について課題を解決できるとは認識できない。
・請求項1に「破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」と特定されているものの、当該特定では、50℃で4日間保存した後、常温にした際の破断応力が当該範囲を大きく下回るものをも含み得るから、課題を解決できるものではない。

第5 取消理由についての判断
1 理由1(36条6項2号)について
請求項11、12の「破断応力(1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2))」の括弧書きの意味が明確でないとの指摘事項は、本件訂正により解消したため、以下、請求項1、2、9、12の「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」との記載が明確であるかについて検討する。
なお、甲号証は、下記「第6 1(1)及び(2)」の<甲号証一覧>に示すものである。
本件明細書には、「メッシュとは金網・ふるい・フィルターなどの目の密度を表す単位であり、1インチあたりの網目の数を表す。針金の太さと目の間隔はJIS規格(JIS-Z8801)にて規定されている。」(【0014】)と記載されている。
このことから、本件発明の「篩」は、針金の太さと目の間隔がJIS規格(JIS-Z8801)にて規定された篩を意味するといえる。
そこで、JIS規格(JIS-Z8801)(甲B5-1?甲B5-5)を参照すると、3メッシュの篩や8メッシュの篩は規定されておらず、甲B5-1には「解説表2 参考特性値」に、メッシュ3.5や8が記載され、甲B5-2には「解説表3 網ふるいの参考特性値」に「参考メッシュ」として、3.5や8.6が記載されているものの、3メッシュについて記載されたものは見当たらない。また、甲B6によれば、本件特許出願前(優先日前)の2000年以降、JIS規格においてメッシュ表示は廃止されていることが伺われる。
しかしながら、乙3(曽根金網工業株式会社のウェブページ)の3葉目には、冒頭に「JIS試験用ふるい(JIS標準ふるい)」と記載され、「呼び寸法はJIS Z 8801(ISO 3310)に準拠しています。」の記載とともに、「呼び寸法」と「(参考値)メッシュ」が併記された表が掲載されている。このことから、同表に記載された呼び寸法はJIS Z 8801(ISO 3310)に準拠したものであり、各呼び寸法に対応するメッシュが参考値として記載されたものと理解できる。そして、同表によれば、呼び寸法6.70mmに対応する(参考値)メッシュが3で、呼び寸法2.36mmに対応する(参考値)メッシュが8である。
さらに、乙3の6?7葉目には、「網ふるいの目開き(JIS Z 8801)」の記載とともに、「呼び寸法(mm)」と「平均許容差(±mm)」が併記された〔表1〕が掲載されている。この表によれば、呼び寸法6.70mmの平均許容差は±0.16mmで、呼び寸法2.36mmの平均許容差は±0.070mmである。
したがって、乙3より、呼び寸法6.70mm、平均許容差±0.16mmのふるい、及び、呼び寸法2.36mm、平均許容差±0.070mmのふるいが、それぞれJIS規格(JIS-Z8801)で規定されていて、前者の参考値が3メッシュ、後者の参考値が8メッシュであると認められる。
なお、上記呼び寸法6.70mm及び呼び寸法2.36mmのふるいが、それぞれJIS規格(JIS-Z8801)で規定されていることは、甲B5-3及び甲5-4によっても裏付けられている。すなわち、甲B5-3の「付表1 網ふるいの目開き及び金属線の径」及び甲B5-4の「付表2 網ふるいの目開き及び線径」のいずれにも、呼び寸法6.7のふるいの目開きが、基準寸法6.70mm、平均許容差±0.16mmであること、呼び寸法2.36のふるいの目開きが、基準寸法2.36mm、平均許容差±0.070mmであることが記載されている。
そうすると、本件発明の「3メッシュの篩」及び「8メッシュの篩」は、JIS規格においてメッシュ表示によっては規定されていないものの、前者は、JIS規格(JIS-Z8801)にて規定された呼び寸法6.70mm、平均許容差±0.16mmのふるいを指すものであり、後者は同じく呼び寸法2.36mm、平均許容差±0.070mmのふるいを指すものと認められる。
申立人Bは、メッシュと呼び寸法の対応関係が、乙3と甲B5-1、甲B5-2とで整合しておらず、乙3と乙1(「そうぎょう」のウェブページ)とで整合しておらず、乙3の呼び寸法は実際のふるい目の開きではなく、乙3には3メッシュに対応する針金の太さが6種類も記載されていることから、乙3は「3メッシュの篩」、「8メッシュの篩」の定義を示すものとなり得ない旨を主張する(令和2年2月17日付け意見書3?5ページ)。
しかし、上記のとおり、乙3の呼び寸法と平均許容差は、甲B5-3、甲B5-4に示されるものと一致しているのに対し、甲B5-1及び甲B5-2は、これより古い規格を示すものであり、乙1は、申立人Bも主張するように(令和元年7月22日付け意見書2ページ)JIS規格に準拠しているとはいい難いものであり、乙3の呼び寸法は、上記のとおり、甲B5-3、甲B5-4に示されるふるいの目開きの基準寸法と一致するものであり、乙3の3メッシュに対応する6種類の針金の太さはJIS-Z8801とは異なる規格のものであるから、上記申立人Bの主張はいずれも採用できない。
以上によれば、請求項1、2、9、12の「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」との記載に不明確なところはない。
したがって、請求項1?9、11?16に記載された発明は明確であり、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。

2 理由2(36条6項1号)について
(1)本件明細書の記載
ア 本件明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の手段によっては、調味液中に浸漬し保存した後の野菜等の具材の食感、特に野菜特有の硬さ、食べ応え、フレッシュな歯ごたえ等は十分に維持されていなかった。また、具材が多くても歯ごたえが弱いと、余計にその食感の悪さを感じ、食べ応えが感じられず、満足の得られるものではなかった。
従って、本件発明の課題は、特定サイズの野菜を具材として多量含有しながら、野菜特有の硬さ、食べ応え、フレッシュな歯ごたえが長期間保存後も十分に感じられる具材入り液状調味料を提供することにある。」
「【0006】
そこで本発明者は、原料として用いる具材の大きさ、その処理及び調味液、さらには具材浸漬後の調味液の物性等について種々検討したところ、具材の大きさ及びその含有量、調味液のBrix及びpHに加えて、液状調味料の調味液中のカルシウム含有量を特定の範囲に調整すれば、具材を調味液に浸漬して長時間保持した後でも、具材の硬さ、食べ応え、フレッシュな歯ごたえが十分に感じられる具材入り液状調味料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0015】
本発明においては、前記の特定のサイズの具材を、湿重量で液状調味料全体の10?60質量%含有するのが、具材の食べ応え、具材の分散性の点から重要である。具材の含有量が10質量%未満では、食べ応えが不十分である。また60質量%を超えると、液状調味料としての使途が制限される。
液状調味料全体中の前記具材の含有量は、食べ応え、調味料の使いやすさの点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
また、本発明の液状調味料中の具材は、良好な食べ応え、フレッシュな歯ごたえを得る点から、常温(15℃?25℃)における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であるのが好ましく、2×10^(6)?7×10^(6)N/m^(2)であるのがより好ましく、2.6×10^(6)?6×10^(6)N/m^(2)であるのがさらに好ましい。
【0017】
また、本発明の液状調味料を長期間保存した場合の評価を行うため、強制的に劣化させる目的で、50℃で4日間保存した後、常温にし具材の硬さ、食感を評価した。対照試験として、5℃で4日間保存した後、常温にし具材の硬さ、食感を評価した。具材の硬さがどの程度保たれるかを、5℃で保存した後、常温にした具材の破断応力に対し、50℃で保存した後、常温にした具材の破断応力の割合を下記に示す方法によって算出し、評価した。液状調味料を50℃で4日間保存した後、常温にした破断応力の保持率は、歯ごたえ、食べ応えの点から30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。
【0018】
本発明における破断応力は、レオメーターを用いて測定できる。具体的には、厚さ約5mmの野菜具材を調味液中で5℃、または50℃に4日間保持した後、常温にした調味液から分取し、レオメーター(山電社製、製品名:RHEONER II CREEP METER RE-2-3305S)を用いて硬度を測定した。測定条件は、プランジャー(1×5mm)を用いて、貫入速度1mm/秒、具材の厚みを貫入深度として破断応力(単位:N/m^(2))を測定した。」
「【0024】
本発明の液状調味料中の調味液のBrixは、フレッシュな歯ごたえを得る点から、1?40である。Brixが1未満ではフレッシュな歯ごたえを十分に得られず、40を超えると具材が脱水されることで、フレッシュな食感が得られなくなる。当該Brixは、5?35が好ましく、10?30がより好ましく、15?25がさらに好ましい。Brixの調整は、調味液への糖含有成分の配合で行うことができる。
【0025】
液状調味料中の調味液のpHは、食感維持の点から、2?5である。pHが2未満の場合は、保存中に食感を保つことが困難であり、pHが5を超える場合は過度の加熱殺菌が必要となるために食感を保つことが困難となる。pHは2.5?4.5が好ましく、3?4がより好ましい。」
「【0026】
本発明の液状調味料中の調味液においては、前記Brix、pHに加えて、カルシウム含有量が、0.03?0.25質量%であることが、具材の硬さを十分に保持し、食べ応え及びフレッシュな食感を得るうえで重要である。液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.03質量%未満では具材の硬さを長期間保持するには不十分であり、歯ごたえも弱く、0.25質量%超えるとカルシウムのえぐ味、苦味が強く感じられ、調味液として不適である。好ましいカルシウム含有量は0.035?0.25質量%であり、より好ましくは0.04?0.25質量%であり、さらに好ましくは0.05?0.20質量%であり、最も好ましくは0.09?0.20質量%である。」
イ 実施例について、ダイス状にカットしたニンジン片を用いた実施例1?4及び比較例1?4の結果をまとめた【表1】、ダイス状にカットしたニンジン片を用いた実施例5?7及び比較例5?7の結果をまとめた【表2】、角切りしたキャベツ片を用いた実施例8及び比較例8の結果をまとめた【表3】、ダイス状にカットしたニンジン片を用いた実施例9?12及び異なる形状にカットしたニンジンを用いた比較例9の結果をまとめた【表4】が記載されている。

(2)判断
ア 本件発明の課題
本件発明の課題は、本件明細書の記載によれば、「特定サイズの野菜を具材として多量含有しながら、野菜特有の硬さ、食べ応え、フレッシュな歯ごたえが長期間保存後も十分に感じられる具材入り液状調味料を提供すること」であると認められる(【0005】)。
イ 課題解決手段
上記課題を解決するための手段は、具材の大きさ及びその含有量、調味液のBrix、pH、カルシウム含有量を特定の範囲に調整することであると認められる(【0006】)。
さらに上記課題との関係について、具材の大きさ及びその含有量は、特定サイズの具材を10質量%以上含有することで食べ応えが好ましいものとなること(【0015】)、調味液のBrixは、40を超えると具材が脱水されることでフレッシュな食感が得られなくなること(【0024】)、調味液のpHは、5を超えると過度の加熱殺菌が必要となり、食感を保つことが困難であること(【0025】)、調味液のカルシウム含有量は、0.03質量%未満では具材の硬さを長期間保持するには不十分であること(【0026】)、がそれぞれ記載されている。
よって、本件明細書には、本件発明の「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり」との特定事項が、課題を解決するための手段としてどのように寄与するのかが説明されているといえる。
ウ 実施例について
また、実施例において、3メッシュ通過8メッシュ不通過の具材含量は、実施例2が20質量%、実施例3が55質量%であり、調味液のBrixは、実施例9が15.7、実施例7及び11が17.6であり、調味液のpHは、実施例7が2.46、実施例2が3.96であり、調味液のカルシウム含有量は、実施例1が0.09質量%、実施例2が0.15質量%である。
そうすると、本件発明の「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有」することについては、その上下限ともに実施例が存在し、食べ応えが好ましいものとなる範囲として設定されたものであると理解できる。また、「(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25」であることについては、下限15に近い実施例9が存在する一方、上限25についての実施例はない。しかし、Brixの上限は、具材が脱水されてフレッシュな食感が失われることがない程度であれば良いものと理解でき、そのような技術思想に従って適切に設定することにより課題を解決できるといえる。「(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4」であることについては、その上下限に近い実施例が存在し、食感を損なう過度の加熱殺菌が必要とならない範囲に設定されたものであると理解できる。「(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%」であることについては、その下限の実施例が存在し、上限の実施例は存在しないものの、課題との関係では特に上限を設定する必要はないと理解できる。
以上によれば、本件発明の「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり」との特定については、概ね実施例による裏付けがあるといえる。
エ 破断応力について
本件発明は、更に「液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」と特定されている。破断応力は、レオメーターを用いて測定される硬度であり(【0018】)、50℃で4日間保存した後の破断応力は、強制的に劣化させることで液状調味料を長期間保存した場合の評価を行うものである(【0017】)から、上記特定は、本件発明の課題に関する、野菜特有の硬さ、食べ応え、フレッシュな歯ごたえに直結する指標であると解される。
よって、本件発明の上記特定事項は、課題解決に関する指標を直接的に特定したものであり、これにより、本件発明は、課題を解決し得る範囲を超えないように限定されているといえる。
オ 具材の種類について
本件発明は、「根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜」を具材とすることが特定されているのに対し、実施例で結果が確認されているのは、ニンジンとキャベツのみである。そうすると、実施例で確認された以外の野菜については、本件発明の(1)?(4)の特定事項を満たしても、課題を解決できない場合があるのではないかとの疑義を生じ得る。
しかし、本件発明は、上記エのとおり破断応力が特定されているから、(1)?(4)の特定事項を満たしても、課題を解決できない場合があるとすれば、そのような例は、本件発明の範囲外のものとなる。
カ 調味液のBrixについて
本件発明は、「調味液のBrixが15?25」と特定されているのに対し、実施例では、その上限値付近までの結果は確認されていない。
しかし、上記ウで述べたとおり、Brixの上限は、具材が脱水されてフレッシュな食感が失われない程度に適切に設定することにより課題を解決できるといえる。また、上記オで述べたと同様に、Brixを25とすることでフレッシュな食感が失われる場合があるとすれば、そのような例は、本件発明の範囲外のものとなる。
キ まとめ
以上によれば、本件発明は、(1)?(4)の特定によって、概ね課題を解決できるといえる範囲の構成を特定し、更に、破断応力の観点から、課題を解決し得る範囲のものに限定したものといえるから、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。

(3)小括
したがって、本件発明1?9、11?16は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。

第6 令和元年10月23日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 令和元年10月23日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立人Aによる申立理由の概要
ア 甲A1に基づく進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲A1に記載された発明及び甲A2?甲A7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(特許異議申立書21?40ページ)。
イ 甲A8に基づく新規性
請求項1?3、6?12、14に係る発明は、甲A8に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。(同41?52ページ)。
ウ 甲A8に基づく進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲A8に記載された発明及び甲A2、甲A7?甲A10に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(同53?66ページ)。
エ サポート要件
請求項1?16に記載された発明は、具材の含有量の下限値が10質量%である点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない
(同67?68ページ)。
<甲号証一覧>
甲A1:特開2015-50969号公報
甲A2:ヒガシマル醤油の「業務用商品ご案内」のカタログ、2014年7月
甲A3:H.P.Fleming, "Effects of Sodium Chloride Concentration on Firmness Retention of Cucumbers Fermented and Stored with Calcium Chloride", Journal of food science, Vol.52, No.3, 1987,p.653-657
甲A4:渕上倫子、「野菜の加熱とペクチン質」、日本調理科学会誌、2007年、第40巻、第1号、p.1-9
甲A5:久武陸夫、外2名、「野菜袋詰製品の品質改善と開発」、高知県工業技術センター研究報告、1996年、第27号、p.31-34
甲A6:小西英子、外2名、「調理の際の野菜の硬化」、栄養と食糧、1975年、第28巻、第1号、p.44-46
甲A7:mizkanの「お酢の種類」のウェブページ
甲A8:cookpad「シャリシャリ玉ねぎのゴマだれそーめん」のウェブページ
甲A9:高島正一、「醤油の多様化と周辺調味料について」、醸協、1991年、第86巻、第2号、p.115-119
甲A10:文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(七訂)について」、平成27年12月25日

(2)申立人Bによる申立理由の概要
実施可能要件
「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」という要件を充足する具材を峻別し、その割合についての要件を充足するか否かを判断することは不可能であって、本件発明を実施できないから、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書35ページ)。
イ サポート要件
特許請求の範囲の記載が以下の点で特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
・実施例に係るサンプルにおける「3メッシュ通過8メッシュ不通過」の具材の割合が具体的にどのような方法で特定されているのか判別することができないから、各サンプルが本件発明の実施品であるといえる根拠がなく、官能評価試験の評価基準が曖昧であり、実験条件が揃えられていないため、本件明細書の実施例、比較例は本件発明のサポートとなり得ない(同38?44ページ)。
・カルシウム濃度やカルシウム源について実施例でサポートされていない(同45ページ)。
・実施例のpHの上限は3.96であり、pH2?5の範囲はサポートされていない(同46ページ)。
ウ 甲B1に基づく進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲B1に記載された発明及び甲B2?甲B14に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(同49?70ページ)。
エ 甲B2に基づく新規性及び進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲B2に示される公然実施発明であるから、特許法29条1項2号に該当し、また、上記公然実施発明及び甲B1、甲B3?甲B15に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(同70?84ページ)。
オ 甲B3に基づく新規性及び進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲B3に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、また、甲B3に記載された発明及び甲B1、甲B2、甲B4?甲B23に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(同84?100ページ)。
カ 甲B4に基づく新規性及び進歩性
請求項1?16に係る発明は、甲B4に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、また、甲B4に記載された発明及び甲B1?甲B3、甲B5?甲B25に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(同100?117ページ)。
<甲号証一覧>
甲B1:特開2015-50969号公報
甲B2:mizkanニュースリリース「2015年春 ミツカン業務用新製品のご案内 ビネガーシェフシリーズ「だし香るまろやか酢」「ごま辛(から)酢」「たっぷりたまねぎ酢」」のウェブページ
甲B3:「野菜たっぷりのライタ BY ELLE GOURMET」のウェブページ
甲B4:ラゴスティーナのおすすめレシピ「棒々鶏(バンバンジー)」のウェブページ
甲B5-1:JIS標準ふるい JIS Z 8801-1976
甲B5-2:JIS標準ふるい JIS Z 8801-1982
甲B5-3:JIS標準ふるい JIS Z 8801-1987
甲B5-4:JIS試験用ふるい JIS Z 8801-1994
甲B5-5:「JIS Z 8801-1:2006 試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」のウェブページ
甲B6:東京スクリーン株式会社「現行JIS Z 8801と旧JIS規格」のウェブページ
甲B7:株式会社アタゴ「アッベ屈折計 DR-A1 NARシリーズ」のウェブページ
甲B8:産経WEST「みじん切りの乾燥タマネギ ミツカンが発売」のウェブページ
甲B9:「食品の物性 第11集」、株式会社食品資材研究会、昭和60年10月25日、p.20-27
甲B10:特開2002-65198号公報
甲B11:特公平5-7971号公報
甲B12:「七訂 食品成分表 2017」、女子栄養大学出版部、2017年2月25日
甲B13:林弘通、「食品の乾燥(第1回)-その歴史と製造技術-」、調理科学、1991年、第24巻、第4号、p.333-338
甲B14:ウィキペディア「葉菜類」のウェブページ
甲B15:2018年11月26日、鈴木佐知子による「分析報告書」
甲B16:ウィキペディア「ライタ」のウェブページ
甲B17:「歯の健康 主な食品・飲料のpH値の一覧」のウェブページ
甲B18:味の素株式会社「食材の目安量」のウェブページ
甲B19:cookpad「粗みじんとは」のウェブページ
甲B20:cookpad「にんにく・生姜のひとかけ(1片)はどれくらい」のウェブページ
甲B21:S&Bエスビー食品株式会社「重量目安表」のウェブページ
甲B22:「みんなの知識 ちょっと便利帳 計量スプーン・計量カップによる重量表(単位g)」のウェブページ
甲B23:京都電子工業株式会社「糖度計RA-250 ご使用のヒント」
甲B24:USDA National Nutrient Database for Standard Reference Release 1 April, 2018, 「Basic Report 12166, Seeds, sesame butter, tahini, from roasted and toasted kernels (most common type)」
甲B25:名古屋市消費生活センター「食酢」

2 判断
(1)申立人Aによる申立理由についての判断
ア 甲A1に基づく進歩性
甲A1には、特に実施例1(【0013】、【0014】)に注目すれば、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
「具材と液部の合計が100質量部であり、
具材として、乾燥オニオン(カットサイズ7mm)7質量部及びピクルス(カットサイズ5mm)6質量部を含み、
液部として、食塩5質量部、ソルビトール2質量部、砂糖23質量部、食酢11質量部、キサンタンガム0.2質量部、水残量を含み、
具材(水和された乾燥オニオンとピクルス)50質量部/100質量部について、目開き4.0mmのふるいをPASSし、かつ目開き2.0mmのふるいにONする具材が、具材全体の90質量%以上であり、
液部の糖度が36質量%で、pHが3.7である
具材入り液状混合物。」
本件発明1と甲A1発明を対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)所定の大きさの具材を、湿重量で液状調味料全体の所定質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが所定値であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4である具材入り液状調味料
(相違点1)
本件発明1は「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有」するのに対し、甲A1発明は「目開き4.0mmのふるいをPASSし、かつ目開き2.0mmのふるいにONする具材が、具材全体の90質量%以上」である点
(相違点2)
本件発明1は「(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25」であるのに対し、甲A1発明は「液部の糖度が36質量%」である点
(相違点3)
本件発明1は「(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%である」のに対し、甲A1発明のカルシウム含有量は不明である点
(相違点4)
本件発明1は「液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」のに対し、甲A1発明の具材の破断応力は不明である点
上記(相違点1)?(相違点4)は、いずれも食べ応えや歯ごたえに影響する構成に関するものであり、相互に関連すると認められるので、まとめて検討する。
甲A2?甲A7をみると、
甲A2には、Brix31.5の南蛮漬のたれ、Brix29のごまだれが記載され、
甲A3には、キュウリの塩漬けの硬さに対する塩化カルシウムの影響が記載され、
甲A4には、野菜をpH4で煮ると軟化しにくく、野菜の煮熟軟化に対しカルシウムイオンが軟化を抑制し、砂糖添加により硬化することが記載され、
甲A5には、フキ水煮製品が塩化カルシウムの添加により硬度が保たれることが記載され、
甲A6には、酢酸カルシウムを加えた温水に浸すと、にんじんとれんこんの硬化は促進されることが記載され、
甲A7には、酸度4.2%の穀物酢や酸度6.0%のバルサミコ酢等が記載されている。
しかし、これらは、いずれも、相違点1?相違点4に係る本件発明1の構成を開示するものではなく、特に、相違点2に係るBrixの範囲や、相違点4に係る破断応力を示すものではない。
そして、甲A1発明は、甲A1における一実施例として具体的な配合が開示されたものにすぎず、当該配合にて具材感や食感を付与することができるとされているものであるから、その配合をあえて変更する動機付けは乏しく、上記甲A2?甲A7の記載事項を参照しても、相違点1?相違点4に係る本件発明1の構成を採用する動機付けは見出せない。
よって、本件発明1は、甲A1発明及び甲A2?甲A7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、上記相違点1?4に係る本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであるから、同様に、甲A1発明及び甲A2?甲A7に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲A8に基づく新規性及び進歩性
甲A8には次の発明(以下「甲A8発明」という。)が記載されていると認められる。
「5mm角位の玉ねぎのみじん切り1/2個分と、素麺のつゆ70ccと、ゴマだれ50ccと、お酢小さじ1?2と、食べるラー油小さじ1とを含む素麺つゆ。」
本件発明1と甲A8発明を対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料
(相違点)
本件発明1が「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」のに対し、甲A8発明が当該構成を備えるかは不明である点
上記相違点について検討する。
甲A2、甲A7には、上記アに示した事項が記載され、甲A9にはめんつゆ市販品の分析例として、つけ用ストレートタイプのpHが約5で、Brixが14?17であったことが記載され、甲A10には、ごまだれのカルシウム含有量が320mg/100gであることが記載されているが、いずれも、上記相違点に係る本件発明1の構成を開示するものではない。
申立人Aは、甲A2、甲A9、甲A10の開示より、甲A8発明のBrix、pH、カルシウム含有量は、いずれも本件発明1の範囲内である蓋然性が高い旨を主張するが、甲A8発明の素麺のつゆやゴマだれが甲A2、甲A9、甲A10に示されるものと同じであるとする根拠がなく、当該主張は採用できない。
そして、甲A8発明は、単にレシピの一つとして開示されたものにすぎず、そもそも、Brix、pH、カルシウム含有量、破断応力に着目するところはないから、上記相違点に係る本件発明1の構成を採用する動機付けは見出せない。
よって、本件発明1は、甲A8発明ではなく、また、甲A8発明及び甲A2、甲A7?甲A10に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであるから、同様に、甲A8発明ではなく、また、甲A8発明及び甲A2、甲A7?甲A10に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ サポート要件
申立人Aは、3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材の含有量について、下限値の10質量%の場合には、課題を解決できるとはいえない旨を主張していたが、訂正により、請求項1?9、11?16に記載された発明は、「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有する」ものとなったことから、当該申立理由は、理由がないものとなった。

(2)申立人Bによる申立理由についての判断
実施可能要件
申立人Bは、「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」という要件を充足する具材を峻別し、その割合についての要件を充足するか否かを判断することは不可能であることから、本件発明を実施できない旨を主張するが(特許異議申立書35ページ)、その根拠は、実質上、前記「第4(理由1)」の「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」の意味が明確でないことを理由とするものである。
しかし、前記「第5 1」で検討したとおり、「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」の意味に不明確なところはない。
よって、当該要件を充足するか否かを判断することは可能であり、本件発明を実施できないとする理由はない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。

イ サポート要件
前記「第5 2」で検討したとおり、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
申立人Bは、実施例に係るサンプルにおける「3メッシュ通過8メッシュ不通過」の具材の割合が具体的にどのような方法で特定されているのか判別することができないから、各サンプルが本件発明の実施品であるといえる根拠がないと主張するが(特許異議申立書38ページ)、前記「第5 1」で検討したとおり、「3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない」の意味は明確であって、実施例に係るサンプルにおける「3メッシュ通過8メッシュ不通過」の具材の割合の特定に何ら支障はない。
申立人Bは、官能評価試験の評価基準が曖昧であり、実験条件が揃えられていないため、本件明細書の実施例、比較例は本件発明のサポートとなり得ないとも主張する(特許異議申立書38?44ページ)。
しかし、官能評価試験は、人の感覚に基づく試験であるから、ある程度の曖昧さが存在することは避けられないものの、そのこと自体で試験結果が否定されるべきものではなく、具体的な試験手順が明細書に記載されていなくとも、試験が適正に行われるように注意を払うべきことは当然であって、試験結果が矛盾している等の特段の事情がなければ、適正な試験に基づく結果が示されていると評価して差し支えない。また、前記「第5 2(2)イ及びエ」で検討したとおり、本件明細書には、本件発明の(1)?(4)の特定事項が、課題を解決するための手段としてどのように寄与するのかが説明され、更に破断応力を特定することで、本件発明は、課題を解決し得る範囲を超えないように限定されているのであるから、本件発明を裏付けるものは実施例だけではなく、実験条件に厳密に揃えられていない部分があっても格別問題とはならない。
申立人Bは、更に、カルシウム濃度やカルシウム源について実施例でサポートされていない旨(特許異議申立書45ページ)、実施例でpHの全範囲がサポートされていない旨(同46ページ)を主張するが、カルシウム濃度及びpHについては、前記「第5 2(2)ウ」で検討したとおりである。また、カルシウム源の種類によって、発明の効果を妨げる成分を含むものがあるとしても、本件発明が特定していない成分によって本件発明の効果が損なわれ得ることは、サポート要件違反の根拠となるものではない。
よって、上記申立人Bの主張はいずれも理由がなく、これらの主張を考慮しても、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定する要件を満たしているといえる。

ウ 甲B1に基づく進歩性
甲B1は、甲A1と同じであるから、本件発明1と甲B1に記載された発明の一致点、相違点は、前記(1)アに示したとおりである。
そして、
甲B5、甲B6にはふるいの規格について示され、
甲B7には、アッベ屈折計の測定値がBrixであることが記載され、
甲B8には、乾燥タマネギ30gがタマネギ160g相当であることが記載され、
甲B9には、Ca塩を添加して再塩漬けした大根の歯切れがすぐれていたことが記載され、
甲B10には、カルシウム塩含有水溶液で加熱処理する調理野菜の食感改良方法が記載され、
甲B11には、野菜をカルシウム水溶液に浸漬して軟化を防止することが記載され、
甲B12には、食酢やたまねぎ等の成分が記載され、
甲B13には、乾燥食品の多くは水分が10%以下であることが記載され、
甲B14には、葉菜類としてタマネギが記載されている。
しかし、これらは、いずれも、相違点1?相違点4に係る本件発明1の構成を開示するものではなく、特に、相違点2に係るBrixの範囲や、相違点4に係る破断応力を示すものではない。
また、甲B2?甲B4にも、相違点1?相違点4に係る本件発明1の構成は開示されていない。
よって、前記(1)アで検討したのと同様の理由で、本件発明1は、甲B1に記載された発明及び甲B2?甲B14に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、同様に、甲B1に記載された発明及び甲B2?甲B14に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 甲B2に基づく新規性及び進歩性
甲B2に示される「ビネガーシェフたっぷりたまねぎ酢」の商品に係る発明(以下「甲B2発明」という。)は、本件出願前(優先日前)に公然実施をされた発明であると認められる。そして、甲B15には、上記商品の分析結果が示されており、これを参酌すると、甲B2発明は以下のとおりであると認められる。
「乾燥たまねぎと乳酸カルシウムを含有する具材入り調味酢であって、調味料全体の具材の割合が湿重量で46.0%であり、そのうち、目開き4.75mmパス、2.38mmオンの具材の割合が湿重量で45.2%であり、調味液のpHが3.5であり、Brixが22.0であり、カルシウム濃度が0.0865%であり、具材の破断応力が6.0×10^(3)N/m^(2)である、具材入り調味酢。」
本件発明1と甲B2発明を対比すると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4である液状調味料
(相違点)
本件発明1が「(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し」、「(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である」のに対し、甲B2発明は、目開き4.75mmパス、2.38mmオンの具材の割合が湿重量で45.2%であり、カルシウム濃度が0.0865%であり、具材の破断応力が6.0×10^(3)N/m^(2)である点
上記相違点について検討すると、具材の破断応力は両者で3桁も異なるところ、甲B2発明は具体的な商品に係る発明であって、その具材の破断応力を、本件発明1の程度にまで大きく変更する動機付けは認められない。
このことは、甲B1、甲B3?甲B15に記載された技術事項を参酌しても変わらない。
よって、本件発明1は、甲B2発明ではなく、また、甲B2発明及び甲B1、甲B3?甲B15に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであるから、同様に、甲B2発明ではなく、また、甲B2発明及び甲B1、甲B3?甲B15に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 甲B3に基づく新規性及び進歩性
甲B3には次の発明(以下「甲B3発明」という。)が記載されていると認められる。
「ヨーグルト300g、5mm角切りきゅうり2/3本、5mm角切りトマト中1個、粗みじん切り紫玉ねぎ大さじ2杯、クミン小さじ1/2杯、カイエンヌペッパー小さじ1/4杯、塩小さじ1/4杯強よりなるライタ。」
本件発明1と甲B3発明を対比すると、両者は、野菜を具材として含む食品の点で一致し、その余の点で相違する。
そして、甲B1、甲B2、甲B4?甲B23は、いずれも、上記相違点に係る本件発明1の構成を開示するものではない。
申立人Bは、甲B1、甲B2、甲B4?甲B23を適宜参照しつつ、甲B3発明のpH、Brix、カルシウム濃度を算出しているが、当該算出結果は、単なる概算値にすぎないから、甲B3発明の構成を示すものとは認められない。
よって、本件発明1は、甲B3発明ではなく、また、甲B3発明及び甲B1、甲B2、甲B4?甲B23に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであるから、同様に、甲B3発明ではなく、また、甲B3発明及び甲B1、甲B2、甲B4?甲B23に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 甲B4に基づく新規性及び進歩性
甲B4には次の発明(以下「甲B4発明」という。)が記載されていると認められる。
「砂糖 小さじ2、芝麻醤 大さじ2、酢 小さじ1、しょうゆ 大さじ1、鶏のゆで汁または水 大さじ1、長ねぎ(粗みじん) 大さじ1、にんにく(粗みじん) 小さじ1、しょうが(粗みじん) 小さじ1 を混ぜ合わせた、棒々鶏の調味液。」
本件発明1と甲B4発明を対比すると、両者は、野菜を具材として含む液状調味料の点で一致し、その余の点で相違する。
そして、甲B1?甲B3、甲B5?甲B25は、いずれも、上記相違点に係る本件発明1の構成を開示するものではない。
申立人Bは、甲B1?甲B3、甲B5?甲B25を適宜参照しつつ、甲B4発明のpH、Brix、カルシウム濃度を算出しているが、当該算出結果は、単なる概算値にすぎないから、甲B4発明の構成を示すものとは認められない。
よって、本件発明1は、甲B4発明ではなく、また、甲B4発明及び甲B1?甲B3、甲B5?甲B25に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
本件発明2?9、11?16も、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を備えるものであるから、同様に、甲B4発明ではなく、また、甲B4発明及び甲B1?甲B3、甲B5?甲B25に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?9、11?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?9、11?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項10に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であることを特徴とする具材入り液状調味料。
【請求項2】
根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を具材として調味液中に浸漬している具材入り液状調味料であって、(1)3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材を、湿重量で液状調味料全体の20?55質量%含有し、(2)液状調味料中の調味液のBrixが15?25であり、(3)液状調味料中の調味液のpHが2.5?4であり、(4)液状調味料の調味液中のカルシウム含有量が0.09?0.20質量%であり、液状調味料中の具材の常温における破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力が1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする具材入り液状調味料。
【請求項3】
液状調味料中の調味液の酢酸濃度が0.05?2質量%である請求項1又は2記載の具材入り液状調味料。
【請求項4】
調味液に浸漬する前の具材が、乾燥野菜である請求項1?3のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項5】
調味液に浸漬する前の具材が、水分含有量10質量%以下のカルシウム含有乾燥野菜である請求項1?4のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項6】
具材中に湿重量として葉物野菜を1?100質量%含有する請求項1?5のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項7】
液状調味料中の葉物野菜の厚さが0.5?6mmである請求項6記載の具材入り液状調味料。
【請求項8】
葉物野菜がキャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種である請求項6又は7記載の具材入り液状調味料。
【請求項9】
3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない具材由来の繊維量が液状調味料全体の0.1?8質量%である請求項1?8のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
具材入り液状調味料を5℃で4日間保存した後、常温にした具材の破断応力に対する、50℃で4日間保存した後、常温にした際の具材の破断応力の保持率が30%以上であり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)である請求項1?9のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料。
【請求項12】
3メッシュの篩を通過し、8メッシュの篩を通過しない根菜類及び葉物野菜から選ばれる野菜を含む具材を調味液に湿重量で液状調味料全体の20?55質量%になるように浸漬し、液状調味料中の調味液のBrixを15?25、pHを2.5?4、かつカルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする、具材入り液状調味料を5℃で4日間保存した後、常温にした具材の破断応力に対する50℃で4日間保存した後、常温にした、液状調味料中の具材の破断応力の保持率が30%以上となり、前記破断応力の範囲はいずれも1.4×10^(6)?8×10^(6)N/m^(2)であり、前記野菜がにんじん、キャベツ及びタマネギから選ばれる1種又は2種以上である具材入り液状調味料の製造法。
【請求項13】
カルシウム塩を添加し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項14】
カルシウム含有食品及び食品由来カルシウム素材の内一種以上を使用し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項15】
脱脂ごま、ひじき、海藻パウダー、ミルクカルシウム、カルシウム含有酵母、及びカルシウム含有乳酸菌の内一種以上を使用し、カルシウム含有量を0.09?0.20質量%に調整することを特徴とする請求項12記載の具材入り液状調味料の製造法。
【請求項16】
調味液に浸漬する前の野菜が乾燥野菜である請求項12?15のいずれか1項に記載の具材入り液状調味料の製造法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-04 
出願番号 特願2017-564751(P2017-564751)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 112- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮岡 真衣  
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 井上 哲男
紀本 孝
登録日 2018-04-27 
登録番号 特許第6329710号(P6329710)
権利者 株式会社Mizkan 株式会社Mizkan Holdings
発明の名称 具材入り液状調味料  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
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