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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A41H
管理番号 1364893
異議申立番号 異議2018-700926  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-19 
確定日 2020-06-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6347716号発明「衣類の接合方法及び衣類の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6347716号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2?7〕について訂正することを認める。 特許第6347716号の請求項1、2、7に係る特許を維持する。 特許第6347716号の請求項3?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6347716号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年10月6日に出願され、平成30年6月8日に特許権の設定登録(特許掲載公報発行日:平成30年6月27日)がされたものであって、本件特許異議申立に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年11月19日
特許異議申立人 熊田 尚代(以下「申立人1」という。)による
請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
(以下「申立1」という。)
平成30年12月27日
特許異議申立人 川上 英宏(以下「申立人2」という。)による
請求項1?7に係る特許に対する特許異議の申立て
(以下「申立2」という。)
平成31年3月15日付け
取消理由通知
令和元年5月16日
特許権者による訂正請求及び意見書の提出
令和元年6月26日
申立人2による意見書の提出
令和元年6月28日
申立人1による意見書の提出
令和元年9月26日付け
取消理由通知(決定の予告)
令和元年11月28日
特許権者による訂正請求及び意見書の提出
(これによる訂正を「本件訂正」という。)
令和2年2月7日
申立人1及び申立人2による意見書の提出
(以下「申立人1意見書」及び「申立人2意見書」という。)
令和2年3月13日付け
訂正拒絶理由通知
令和2年4月17日
特許権者による手続補正書及び意見書の提出

なお、令和元年5月16日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2.本件訂正
1.訂正の内容
本件訂正による訂正の内容は以下のとおりである。
なお、本件訂正請求書は、令和2年4月17日の手続補正書(以下「手続補正書」という。)により補正されており、以下は、その補正をされたものである。
また、訂正箇所に下線を付し、また削除された文字の前後1文字に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の接着部に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤を塗布して、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温で加熱処理して接着する」
とあるのを、
「軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着する」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合されている衣類であって、
前記接着剤で接合される生地片は、熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、
前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤が前記生地片に塗布され、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温での加熱処理により接着されている、
ことを特徴とする衣類。」
とあるのを、
「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、
前記接着剤で接合される生地片は、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、
前記生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着することを特徴とする衣類の製造方法。」
に訂正する。
(請求項2の記載を引用する請求項6及び7も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂であることを特徴とする請求項2から6の何れかに記載の衣類。」
とあるのを、
「前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂であることを特徴とする請求項2記載の衣類の製造方法。」
に訂正する。

(8)訂正事項8
特許明細書の【発明の名称】に、
「衣類」
とあるのを
「衣類の接合方法及び衣類の製造方法」
に訂正する。

(9)訂正事項9
特許明細書の段落【0001】に、
「衣類に関する。」
とあるのを、
「衣類の製造方法に関する。」
に訂正する。

(10)訂正事項10
特許明細書の段落【0009】に、
「衣類を提供する点にある。」
とあるのを、
「衣類の製造方法を提供する点にある。」
に訂正する。

(11)訂正事項11
特許明細書の段落【0010】に、
「熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の接着部に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤を塗布して、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温で加熱処理して接着する」
とあるのを、
「軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着する」
に訂正する。

(12)訂正事項12
特許明細書の段落【0012】に、
「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合されている衣類であって、前記接着剤で接合される生地片は、熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤が前記生地片に塗布され、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温での加熱処理により接着されている点にある。」
とあるのを、
「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、前記接着剤で接合される生地片は、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、前記生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着する点にある。」
に訂正する。

(13)訂正事項13
特許明細書の段落【0014】を削除する。

(14)訂正事項14
特許明細書の段落【0017】を削除する。

(15)訂正事項15
特許明細書の段落【0019】を削除する。

(16)訂正事項16
特許明細書の段落【0020】を削除する。

(17)訂正事項17
特許明細書の段落【0021】を削除する。

(18)訂正事項18
特許明細書の段落【0022】を削除する。

(19)訂正事項19
特許明細書の段落【0023】に、
「同第六の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂である点にある。」
とあるのを、
「同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂である点にある。」
に訂正する。

(20)訂正事項20
特許明細書の段落【0025】に、
「立体的な接合部への適用が可能な衣類の接合方法及び衣類を提供することができるようになった。」
とあるのを、
「立体的な接合部への適用が可能な衣類の接合方法及び衣類の製造方法を提供することができるようになった。」
に訂正する。

2.一群の請求項
本件訂正前の請求項3?7は、本件訂正前の請求項2を直接又は間接に引用するものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり、請求項〔2?7〕に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項1、〔2?7〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

3.訂正の適否
(1)手続補正書による訂正請求書の補正
手続補正諸により本件訂正請求書の訂正事項6、7、17?19が補正されたが、いずれも当該請求書の請求の趣旨の要旨を変更変更するものではない。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「熱変形弾性糸」が「軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる」ものであることに限定し、さらに、「接着剤」が「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」ものに限定するとともに、「塗布」について、「生地片」の「一方」に、「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布」することを限定し、「接着」が「生地片同士を位置決めして重畳することで仮止め」し、「150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃」で加熱処理して「接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して」接着するものであることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0016】
熱変形弾性糸として軟化温度140℃から185℃のポリウレタンが用いられ、接着剤の主成分がウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種が用いられると、ポリウレタンとの親和性に優れ、ポリウレタンの軟化温度より低い温度での熱処理による良好な接着が可能になる。」

イ.「【0018】
接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。・・・」

ウ.「【0044】
図4(b)に示すように、袖部4の一対の端縁40のうち後身頃3側の端縁40の表側縁部に沿った所定幅の帯状領域に接着剤30がジグザグ状に塗布され、前身頃2側の端縁40の裏側縁部がその上に重畳されて袖下接ぎ部41が構成されている。上述と同様、端縁40の一方の縁部に接着剤を塗布して他方の縁部を重畳させればよい。」

エ.「【0048】
具体的に、熱変形弾性糸として熱変形温度が140℃から185℃の範囲のポリウレタンが用いられ、接着剤として主成分がウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする湿気硬化性の反応型ホットメルト樹脂が用いられる。
【0049】
図5に示すように、120℃に加熱した液状の接着剤30を、ギアポンプ50を備えたノズル52から生地片(例えば袖部4)の帯状領域に供給塗布した後、その上に接合対象となる生地片(例えば身頃2のアームホール)を位置決めして重畳することで仮止めし、仮止め後、例えば両生地片の重畳部を筒状体54と加熱ローラ56との間に挟み込んで加熱ローラ56を回転させて約70℃の温度で重畳領域全体を加熱処理することにより、接着剤30が溶融して両生地片を構成する繊維に浸潤する。接着後に架橋反応が進むことにより耐熱性が現れ、その後の加熱処理で溶融することは無い。尚、加熱処理時の圧力は、150?300gf/cm^(2)が好ましい。
・・・
【0051】
接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであることが好ましく、13000mPa・sから19000mPa・sであることがさらに好ましい。
【0052】
接着剤の120℃溶融粘度がこれらの範囲であれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間つまり生地の厚み方向及び面方向に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。また、その際に接着剤が生地の反対側表面に浸潤することも無いので、見栄えの劣化が生じることも無い。その結果、熱変形弾性糸に熱的影響を与えたり、生地片にテカリや当たり等のダメージを与えたりすることなく良好に接着できるようになる。」

オ.「【0054】
図6(a)?(e)には、接着層を形成する線状の接着パターンが例示されている。身生地となるヨコ編地10の伸縮方向10dつまりコース方向に沿う直線Lに対して、所定の繰返しピッチBp、所定の振幅Baで交差するように加熱溶融された接着剤30が線状に連続またはドット状に塗布され、その後、相手側の身生地と重畳されて加熱処理されることにより接着される。
【0055】
ヨコ編地10の伸縮方向10dに沿う任意の直線Lと線状の接着パターンとの交点に注目すると、所定ピッチBpの2倍のピッチで接着剤が塗布された接着点Bと、隣接する接着点Bの間の非接着領域NBが交互に配列されるようになる。つまり、伸縮方向10dに沿った任意の直線L上に接着位置が点状に分布する。
【0056】
このような関係が所定幅の帯状領域で維持されることにより、ヨコ編地10の伸縮方向10dに沿う任意の直線Lに沿って接着点Bでは伸縮が抑制されるものの、大半の非接着領域NBで伸縮が許容され、全体として伸縮が許容されながらも、両生地が強固に接着されるようになる。」

カ.「【0058】
接着パターンとして、図6(a),(b),(c)に示すようなジグザグパターンや、図6(d)に示すようなサインカーブのような曲線の繰返しパターンや、図6(e)に示すような菱形の繰返しパターン等、伸縮方向10dに沿った任意の直線L上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布するような任意のパターンを採用することができる。さらに、図6(f)に示すように、所定サイズのドット状に配列するように接着剤を塗布してもよい。
【0059】
2枚の重なった部分の面積、つまり繰返しピッチBpと振幅Baの積で求まる面積に対する接着部の面積の割合は40?80%であることが好ましく、50%?70%であることがより好ましい。ここで、繰返しピッチBpや振幅Baは、接着対象となる生地特性や目標とする接着強度等に基づいて適宜設定される値である。
・・・
【0061】
ヨコ編地10の表面に塗布された接着剤30が、熱処理によって両生地の厚み方向に浸潤して繊維間で固化し、接着剤のみの層が形成されることなく、生地同士が密接した接着層が形成されるようになる。」

キ.「



ク.「



ケ.「



コ.「



上記ア.及びエ.には、熱変形弾性糸が「軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる」ものであることが記載されている。
上記ウ.及びキ.には、生地片の「一方」に接着剤が塗布されることが記載されている。
上記イ.及びエ.には、接着剤が「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」ことが記載されている。
上記エ.には、接着剤が「120℃に加熱した液状状態」で塗布されることが記載されている。
上記オ.、カ.、ケ.及びコ.には、接着剤が「前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布」されて接着部となることが記載されている。
上記エ.には、「生地片同士を位置決めして重畳することで仮止め」することが記載されている。
上記ア.及びエ.には、「150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で」加熱処理して接着することが記載されている。
上記カ.には、「接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して」接着することで、接着部がそのような接着層となることが記載されている。
よって、訂正事項1は、上記ア.?コ.の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について
ア.まず、訂正事項2のうち、「衣類であって」を「衣類の製造方法であって」に、「衣類。」を「衣類の製造方法。」に訂正する事項(以下「訂正事項2-1」という。)について検討する。
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項2の記載は、「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合されている衣類であって、・・・ことを特徴とする衣類。」であるから、訂正前の請求項2に係る発明の対象は、「衣類」という「物」であることは明らかである。
そして、訂正前の請求項2には、「接着剤が前記生地片に塗布され」、「加熱処理により接着されている」と特定されていることから、生地片を接着剤により接合して衣類を製造するための方法が記載されている。

ここで、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう『発明が明確であること』という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である」(最高裁第二小法廷判決平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号))と判示されている。

そこで、上記判示事項を踏まえて検討すると、訂正前の請求項2には、上述のとおり、生地片を接着剤により接合して衣類を構成するための製造方法が記載されているから、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがあるものである。
そして、訂正事項2-1は、「発明が明確であること」という要件を欠くおそれがある訂正前の請求項2を、「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、・・・ことを特徴とする衣類の製造方法。」として、生地片を接着剤により接合して衣類を製造するための方法であることを特定する訂正後の請求項2に訂正するものであって、「発明が明確であること」という要件を満たすものである。
したがって、訂正事項2-1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(イ)本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件特許明細書等には、
「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法及び接着剤で接合された衣類に関する。」
と記載されるとともに、上記(1)ア.?コ.に示したとおり複数の生地片を接着剤により接合して衣類を作る方法が記載されているから、訂正事項2-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(ウ)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
a.発明が解決しようとする課題とその解決手段について
訂正前の請求項2に係る発明の課題は、
「生地片にダメージを与えることなく、立体的な接合部への適用が可能」(段落【0009】)
とすることであり、その解決手段は、
「・・・接着剤が前記生地片に塗布され、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温での加熱処理により接着されている・・・」(【請求項2】、段落【0012】)
というものである。

一方、訂正後の請求項2に係る発明の課題は、
「生地片にダメージを与えることなく、立体的な接合部への適用が可能」(段落【0009】)
とすることであり、その解決手段は、
「・・・前記生地片の一方に、・・・接着剤を・・・塗布して、・・・塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して・・・接着する・・・」(【請求項2】、段落【0012】)
というものである。

してみると、訂正前の請求項2に係る発明と、訂正後の請求項2に係る発明の課題には、何ら変更はなく、訂正前の請求項2に係る発明と訂正後の請求項2に係る発明における課題解決手段も、生地片を接着剤により接合して衣類を構成するというものであり、変更はない。
したがって、訂正後の請求項2に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項2に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。

b.訂正による第三者の不測の不利益について
特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる。言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
以上を踏まえ、本件訂正前の請求項2に係る発明と、本件訂正後の請求項2に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、本件訂正後の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為が、本件訂正前の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。

訂正前の請求項2に係る発明は、「・・・接着剤が前記生地片に塗布され、前記熱変形弾性糸の熱変形温度より低温での加熱処理により接着されている・・・」という製造方法(以下「特定の製造方法」という。)により「衣類」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「衣類」に加え、前記特定の製造方法により製造された「衣類」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。

一方、訂正後の請求項2に係る発明は、上記特定の製造方法により「衣類の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「衣類」を、特許発明の実施に含むものである。

したがって、訂正後の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、訂正前の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。

c.よって、訂正後の請求項2に係る発明の技術的意義は、訂正前の請求項2に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではなく、訂正後の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項2に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえないから、訂正事項2-1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。

イ.次に、訂正事項2のうち、訂正事項2-1以外の訂正事項(以下「訂正事項2-2」という。)について検討する。
訂正事項2-2は、請求項2の「熱変形弾性糸」が「軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる」ものであることに限定し、さらに、「接着剤」が「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」ものに限定するとともに、「塗布」について、「生地片の一方」に、「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布」することを限定し、「接着」が「生地片同士を位置決めして重畳することで仮止め」し、「150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃」で加熱処理して「接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して」接着するものであることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、訂正事項2-2は、その内容が訂正事項1と実質的に同じものであるから、訂正事項1と同様に、上記(1)ア.?コ.の記載に基づくものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3?6について
訂正事項3?6は、請求項3?6を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項3?6が、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項3?6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項7について
ア.訂正事項7のうち、訂正前の「請求項2から6の何れかに記載」を「請求項2記載」とする訂正(以下「訂正事項7-1」という。)は、訂正事項3?6に伴い、訂正前の請求項7が引用する請求項について「請求項2から6の何れかに記載」から、請求項3?6を削除し、「請求項2記載」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項7-1が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項7-1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ.訂正事項7のうち、訂正前の「衣類」を「衣類の製造方法」とする訂正(以下「訂正事項7-2」という。)は、訂正前の請求項7が引用する請求項2が、訂正事項2によって「衣類」から「衣類の製造方法」に訂正されたことに伴い、その記載を整合させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項7-2が、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、訂正事項7-2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項8?20について
訂正事項8?20は、訂正事項1?7に伴い、訂正前の明細書の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
さらに、訂正事項8?20に係る請求項1?7の全てについて訂正が請求されるものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。

(7)申立人の主張
申立人1は、申立人1意見書において、以下のように主張している。
『塗布時の接着剤の温度については、明細書の段落0049に120℃と記載されている。しかし段落0049の実施形態において、加熱処理して生地同士を接着するときの温度は70℃であり75℃から90℃ではない。
また、加熱処理して生地同士を接着するときの温度を75℃、80℃及び90℃とすることは、・・・実施例1、3、5?8として記載されている。しかし、これらの実施例において塗布時の接着剤の温度を何度としたかについては記載がない。また、段落0049における上記の120℃という温度は、実施例1、3、5?8における塗布時の接着剤の温度として記載されたものではない。
・・・
従って、請求項1及び2に「120℃に加熱した・・・塗布して」との構成及び「75℃から90℃で」との構成を加える訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、訂正要件に違反している。』
(申立人1意見書3.(2))

そこで検討すると、本件特許明細書等には、以下の記載がある。
なお、下線部は、理解のために当審が付した。
「【0049】
図5に示すように、120℃に加熱した液状の接着剤30を、ギアポンプ50を備えたノズル52から生地片(例えば袖部4)の帯状領域に供給塗布した後、その上に接合対象となる生地片(例えば身頃2のアームホール)を位置決めして重畳することで仮止めし、仮止め後、例えば両生地片の重畳部を筒状体54と加熱ローラ56との間に挟み込んで加熱ローラ56を回転させて約70℃の温度で重畳領域全体を加熱処理することにより、接着剤30が溶融して両生地片を構成する繊維に浸潤する。接着後に架橋反応が進むことにより耐熱性が現れ、その後の加熱処理で溶融することは無い。尚、加熱処理時の圧力は、150?300gf/cm^(2)が好ましい。
・・・
【0051】
接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであることが好ましく、13000mPa・sから19000mPa・sであることがさらに好ましい。
【0052】
接着剤の120℃溶融粘度がこれらの範囲であれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間つまり生地の厚み方向及び面方向に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。また、その際に接着剤が生地の反対側表面に浸潤することも無いので、見栄えの劣化が生じることも無い。その結果、熱変形弾性糸に熱的影響を与えたり、生地片にテカリや当たり等のダメージを与えたりすることなく良好に接着できるようになる。」

上記の記載によれば、特定の120℃溶融粘度を有する接着剤を120℃に加熱するから液状となり所望の塗布ができること、すなわち、120℃溶融粘度の特定と120℃に加熱して液状とすることは、一体の関係であると解される。
そして、実施例1?8は、いずれも120℃溶融粘度が特定された接着剤を塗布しているのだから、塗布に際して、120℃に加熱して接着剤を液状としているものであることが理解できる。
また、加熱処理の温度については、上記段落【0049】に「約70℃」が記載されるとともに、実施例として約75℃(段落【0076】の実施例1)、80℃(段落【0080】の実施例5、段落【0082】の実施例7)、90℃(段落【0081】の実施例6、段落【0083】の実施例8)が示されていることをあわせみれば、塗布時の接着剤温度120℃より低い75℃から90℃で加熱処理することが理解できる。
以上のとおり、本件特許明細書等には、訂正後の請求項1の「120℃に加熱した液状状態で」「塗布して」、「塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で」加熱処理することが記載されているものといえる。
よって、申立人1の上記主張は、採用することができない。

4.小括
以上のとおり、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、本件訂正後の請求項1、〔2?7〕についての訂正を認める。


第3.本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?7は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明を、以下「本件発明1」等という。

「【請求項1】
複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、
軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着することを特徴とする衣類の接合方法。
【請求項2】
複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、
前記接着剤で接合される生地片は、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、
前記生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着することを特徴とする衣類の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂であることを特徴とする請求項2記載の衣類の製造方法。」


第4.取消理由の概要
本件特許の請求項1?7に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和元年9月26日付けの取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

本件発明1は、引用発明1A及び周知技術に基いて、本件発明2?7は、引用発明1B及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものである。
したがって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

< 刊 行 物 一 覧 >
1.特開2012-52257号公報(申立1の甲第1号証)
2.特開平7-157743号公報(申立1の甲第5号証)
3.特開2004-149971号公報(申立1の甲第8号証)
4.特開2003-138243号公報(申立1の甲第6号証)
5.国際公開第2009/141921号(申立1の甲第4号証)
6.国際公開第2014/109318号(申立1の甲第9号証)


第5.当審の判断
1.引用文献の記載
(1)引用文献1(特開2012-52257号公報)には、次の記載がある。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
股部を介して前後身頃部が連続し、該前後身頃部の両側脇部を重ね合わせて接着剤で固着し、かつ、胴回りの上端縁および両側の大腿部の付け根の脚回り端縁が端始末不要の切断端とされた伸縮性素材からなるショーツであって、
前記胴回りの上端縁の左右外端点をP1、P2とし、最大幅部となる左右の前記脚回り端縁の外端点をP3、P4とし、前記P1とP3、P2とP4をそれぞれ結ぶ脇線ラインは互いに近接する傾斜線とし、該傾斜線は外端点P3とP4とを結ぶ水平線Sに対して65度?80度の傾斜角度とし、かつ
前記上端縁の前中心点P5から股部の最下端までの寸法L1に対して、前記前中心点から前記水平線Sまでの寸法L2はL2/L1が0.7?0.9であることを特徴とするショーツ。」

イ.「【技術分野】
【0001】
本発明はショーツに関し、詳しくは端始末不要の伸縮性素材からなるショーツのずり下がりを防止するものである。」

ウ.「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2は本実施形態のショーツを示している。
端始末不要の伸縮性素材からなる本実施形態のショーツ10は、図1および図2に示すように、前身頃部11、後身頃部12および股部13から形成し、前身頃部11と後身頃部12は股部13を介して連続させていると共に、胴回りの上端縁E1および両側の大腿部の付け根の脚回り端縁E2を端始末不要の切断端としている。
【0017】
図2のような裁断状態の生地において、股部13の内面側に該股部13より若干幅狭の当て布15を配置し、当て布15と股部13とをホットメルト接着剤14で固着している。本実施形態では股部13と接触する当て布の周縁にフィルム状のホットメルト接着剤14を介在させ、アイロン等で加熱加圧することでホットメルト接着剤14を溶融させ、その後、冷却、固化して股部13と当て布15とを固着している。
【0018】
さらに、前身頃部11の両側脇部11a、11bおよび後身頃部12の両側脇部12a、12bをそれぞれ重ね合わせると共に、重ね合わせた両側脇部11a、12a間および11b、12b間に前記ホットメルト接着剤14をそれぞれ介在させ、前記股部13と当て布15との固着と同様の方法で、重ね合わせた両側脇部11a、12aおよび11b、12bをそれぞれ固着している。
【0019】
前後身頃部11、12、股部13および当て布15に用いられる端始末不要の伸縮性素材としては、熱融着弾性糸とそれ以外の糸を添え糸編により編みたてた後、ヒートセット加工により熱融着弾性糸を溶融してほつれ止め機能が付与された編地を用いている。なお、編糸は綿、レーヨン、ポリエステル、ナイロン、キュプラなどが挙げられる。」

エ.「【0023】
以下、実施例1、2および比較例1、2により、本発明を詳細に説明する。
[実施例1]
実施例1では、前記実施形態におけるショーツにおいて、端始末不要の伸縮性素材は、低融点ポリウレタン弾性糸とナイロン糸を添え糸編により編みたてた後、ヒートセット加工により低融点ポリウレタン弾性糸を溶融してほつれ止め機能が付与された編地とし、外端点P3、P4を結ぶ水平線Sに対する傾斜線(線分P1-P3、線分P2-P4)の傾斜角度を75度とすると共に、L1を20cm、L2を17cm、P3とP4を結ぶ最大幅L3を27cm、L2/L1を0.85とした。
[実施例2]
実施例2では、前記実施形態におけるショーツにおいて、端始末不要の伸縮性素材は、低融点ポリウレタン弾性糸と綿糸を添え糸編により編みたてた後、ヒートセット加工により低融点ポリウレタン弾性糸を溶融してほつれ止め機能が付与された編地とし、外端点P3、P4を結ぶ水平線Sに対する傾斜線(線分P1-P3、線分P2-P4)の傾斜角度を73度とすると共に、L1を26cm、L2を19cm、P3とP4を結ぶ最大幅L3を29cm、L2/L1を0.73とした。」

オ.【図1】




カ.【図2】




キ.上記ア.、オ.、カ.によると、前後身頃部の両側脇部を重ね合わせて接着剤で固着し、かつ、胴回りの上端縁および両側の大腿部の付け根の脚回り端縁が端始末不要の切断端とされた伸縮性素材からなるショーツである。

ク.上記ウ.、オ.、カ.によると、前身頃部11と後身頃部12の両側脇部11a、12a間および11b、12b間にフィルム状のホットメルト接着剤14を介在させ、重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12を、股部13と当て布15と同様にアイロン等で加熱加圧することでホットメルト接着剤14を溶融させ、その後、冷却、固化して固着しているから、ホットメルト接着剤14で固着して構成されるショーツの固着方法が記載されている。
また、前後身頃部11、12に用いられる端始末不要の伸縮性素材は、熱融着弾性糸とそれ以外の糸を添え糸編により編みたてた後、ヒートセット加工により熱融着弾性糸を溶融してほつれ止め機能が付与された編地である。

ケ.上記エ.によると、端始末不要の伸縮性素材は、低融点ポリウレタン弾性糸とナイロン糸を添え糸編により編みたてた後、ヒートセット加工により低融点ポリウレタン弾性糸を溶融してほつれ止め機能が付与された編地であるから、熱融着弾性糸として低融点ポリウレタン弾性糸が用いられている。

上記ア.?ケ.から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1A」という。)が記載されている。
「前身頃部11と後身頃部12をホットメルト接着剤14で固着して構成されるショーツの固着方法であって、
低融点ポリウレタン弾性糸が編みたてられた前身頃部11と後身頃部12の間にフィルム状のホットメルト接着剤14を介在させ、重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12をアイロン等で加熱加圧して固着するショーツの固着方法。」

また、上記ア.?ケ.から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1B」という。)も記載されている。
「前身頃部11と後身頃部12が両側脇部11a、12aおよび11b、12bで固着され、両側脇部11a、12a間および11b、12b間がホットメルト接着剤14で固着されているショーツの製造方法であって、
前記ホットメルト接着剤14で固着される前身頃部11と後身頃部12は、低融点ポリウレタン弾性糸が編みたてられた編地で構成され、
フィルム状のホットメルト接着剤14を両側脇部11a、12a間および11b、12b間に介在させ、重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12をアイロン等で加熱加圧することにより固着された両側脇部11a、12aおよび11b、12bを備える、
ショーツの製造方法。」

(2)引用文献2(特開平7-157743号公報)には、次の記載がある。
ア.「【0002】
【従来の技術】従来よりホットメルト型接着剤が種々の分野に使われている。特に繊維業界において、ホットメルト型接着剤を粉末・エマルジョン・糸・フィルムなど種々の形態で塗布し、アイロンなどによって加圧加熱して接着剤を溶かすことにより、布帛を接着することで、縫製工程の大幅な合理化・省力化・高速化を実現することができ、すでに幾つかのホットメルト型接着剤が開発・商品化されている。
【0003】ホットメルト型接着剤は、一般に、求める温度で溶けること、接着力が高いこと、そして耐久性のあることが要求される。特に布帛の接着に使用する場合は、その布帛を構成している繊維形成材料の融点ないしは分解温度より著しく低い融点を有し、しかも流動特性の良好なホットメルト型接着剤が必要とされる。しかし、あまりにも低温で流動する接着剤であると加熱圧着の工程で、接着剤が布帛の組織中にしみこみすぎて、布帛の風合いを悪くしたり、有効接着面積を少なくすることによって接着強度を低下させることがある。また一方で、接着剤を使用した製品を洗濯する場合、接着剤自体が硬化して接着性が低下し、接着剤本来の機能を維持し得なくなる。したがって、繊維用ホットメルト型接着剤としては、100℃付近の融点を有し、流動特性が良好で接着力が強く、かつ耐洗濯性の良好なものが要求される。」

イ.「【0004】従来この接着剤としてポリアミド系のホットメルト型接着剤が公知である。例えば特公昭45-22240号公報で知られているようにポリラウロアミド成分(ナイロン12成分)を20?80重量%含有する共重合ナイロンのホットメルト型接着剤が公知である。」

ウ.「【0005】また布帛への塗布方法として、接着面へ不均一に塗布するランダムコーティング方式や、逆に接着剤が規則的に配列されるドットコーティング方式、あるいは微粉接着剤を水溶液に分散させて、接着面へ塗布するペーストドットコーティング方式などがある。さらに近年では、生産性を高めるため、またしみ出しを防ぐため、さらには難接着素材との接着性を高める目的などで、接着面上にあらかじめウレタンやアクリルなどのドットを作っておき、その上から粉末接着剤を塗布するダブルドットコーティング方式などが実用化されている。」

エ.上記イ.に記載された「ポリアミド系のホットメルト型接着剤」である「ポリラウロアミド成分(ナイロン12成分)を20?80重量%含有する共重合ナイロンのホットメルト型接着剤」が、ポリマーを主成分とするホットメルト接着剤であることは、自明な事項である。

(3)引用文献3(特開2004-149971号公報)には、次の記載がある。
ア.「【0003】
一般に、ホットメルト型接着剤は求める温度で溶けること、接着力が高いことが要求される。特に布帛の接着に対して使用する際には、その布帛の構成材料の分解温度、融点よりも低い融点を有し、十分な接着性を有することが必要とされる。」

イ.「【0006】
このようなホットメルト型接着性繊維は、上記のように他の素材と併せて混繊糸としたり、布帛として用いることが多いので、多くの種類の他素材と組み合わせて用いることができるものが求められていた。すなわち、接着時に高温の熱処理を必要とするものでは、他素材の性能や風合いを低下させ、求める繊維や布帛等の繊維製品を得ることができないという問題があり、低温での熱処理により接着可能なものが求められていた。」

(4)引用文献4(特開2003-138243号公報)には、次の記載がある。
ア.「【0003】そこで、縫製分野においても、省力化、縫製部分の外観や強度等の点から、接着剤を用いて貼り合わせる方法が用いられている。この接着剤には、溶剤型、反応型、ホットメルト型等があるが、ホットメルト型接着剤は、溶剤を使用しないため環境に優しく、また、冷却固化すれば接着が完了し、初期接着発現性が速い利点があるため、縫製分野における需要は伸びている。
・・・
【0005】そこで、ホットメルト型接着剤の操作簡便性と初期接着力、及び、反応型接着剤の高い耐熱性と接着強度を併有する接着剤として、反応性ホットメルト接着剤が提案されている。反応性ホットメルト接着剤は、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが広く使用されている。反応性ホットメルト接着剤は、架橋性であるため、架橋硬化後の耐熱性、耐薬品性に優れるほか、接着強度も良好である。」

イ.「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の布地用反応性ホットメルト接着剤は、25℃のプローブタックが1kPa以上、好ましくは1.5?10kPaであり、かつ、120℃の粘度が5,000?100,000mPa・s、好ましくは8,000mPa・s?50,000mPa・sである。なお本発明において、「ホットメルト接着剤」とは、使用時に加熱して液状化するものであれば、明瞭な融点を示さないものも含む。」

ウ.「【0044】
【表1】



エ.「【0045】実施例1?5、比較例1?4、表1において
・・・
測定条件
測定サンプル:120℃で溶解させたホットメルト接着剤を厚さ100μmのフィルムに成型して、室温で5分静置した後測定・・・」

オ.上記イ.の「120℃の粘度」は、上記ウ.の「120℃で溶解させたホットメルト接着剤」との記載から、「120℃の溶融粘度」であることは自明な事項である。

(5)引用文献5(国際公開第2009/141921号)には、次の記載がある。
「[0015]
続いて、プレセットが施される。すなわち、生機にてプレセットし、ポリウレタンの糸を熱融着させる。
すなわち、裏にポリウレタン糸が熱融着し解けなくなる。この場合、ポリウレタンは約180℃で軟化し、ナイロンの軟化点は約180℃であるので、効率よく表糸の綿・ナイロン複合糸に対して裏糸のポリウレタン糸を熱融着させることができる。
[0016]
続いて、染色が施された後、仕上げがなされ、これによって、天然素材の綿混が55?65%の肌に優しい天竺組織でのフリーカット生地が完成する。すなわち、天竺組織を備え、フリーカット可能(裁断部が解れを生じない構造)で、かつ、伸縮性を有する生地を得ることができる。」

(6)引用文献6(国際公開第2014/109318号)には、次の記載がある。
ア.「[0061]
[接着パターンの衣服への適用例]
図6には、接着パターンP(ジグザグ状)を衣服(Tシャツ)の身頃10の上部開口(アームホール)に袖部11の端部を接着した状態を模式的に示したものである。
このように、身頃10のアームホール等の開口に筒状の袖部11の端部を取り付ける際においては、ループ状に接着剤を塗布して接着する必要がある。・・・」

イ.「[0063]
前記接着剤としては、特に限定するものではないが、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。
当該熱可塑性樹脂としては、例えばポリウレタン系ホットメルト樹脂、ポリエステル系ホットメルト樹脂、ポリアミド系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、湿気硬化型ウレタン系ホットメルト樹脂、反応型ホットメルト樹脂等を用いることが好ましい。
[0064]
これら接着剤を塗布(付与)する塗布(付与)手段及び接着手段としては、本実施形態や図面で示す接着パターンPで伸縮性生地同士の少なくとも一方に接着剤を塗布(付与)し伸縮性生地同士を接着することができる手段であれば、特に限定するものではなく、公知の手段を用いることができる。」

ウ.「[0069]
前記接着パターンPは、図1に示すように、前記接着剤を所定形状(図1では、ジグザグ形状)に形成することで伸縮性生地1及び伸縮性生地2が連続的に接着される接着部3と、当該接着部3により平面視において開口形成され、伸縮性生地1及び伸縮性生地2が前記接着剤により接着されない非接着部4と、からなり、前記接着部3と前記非接着部4とが所定方向(図1では、矢印で示す伸縮性生地1及び伸縮性生地2の伸縮性を有する方向)に繰り返し設けられる。」

エ.「[図1]



オ.「[図3]



カ.「[図6]



(7)引用文献7(特開昭64-69337号公報)には、次の記載がある。
「(従来の技術)
布地と布地の接着は従来より各種の方法で行われている。基布への接着剤の付与の方法によりドクタ一方式、ロール方式、反転方式(ICI方式)、スプレ一方式などがある。」
(1ページ右欄1?5行)

(8)引用文献8(特開2004-308037号公報)には、次の記載がある。
「【0030】
本発明の接着布に使用される熱可塑性樹脂の種類としては、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、エチレン酢酸ビニル共重合体などの公知のホットメルト接着剤が使用できるが、接着強度、耐洗濯性および伸縮性の面からポリウレタン系の樹脂が好ましい。
【0031】
また熱可塑性樹脂の融点は、90?150℃の範囲にあるものが好ましい。
・・・
【0034】
まず、基布の表面に熱可塑性樹脂を微細線状に付与する方法として、例えば、連続的に基布が移動する状態で、加熱溶融し流動性の維持された熱可塑性樹脂を、・・・」

(9)引用文献9(国際公開第2009/084079号)には、次の記載がある。
ア.「請求の範囲
[1]
伸縮性生地によって形成されている衣類であって、着用部位に応じてドット接着樹脂の塗布面積率を1?90%にし、伸張力と伸長性をコントロールするように構成したことを特徴とする身体に密着する衣類。」

イ.「[0012]
上記のブラジャー1に、・・・肌側からドットの直径が1.5mm、樹脂塗布面積率50%でドット接着してあり、後述する矢印方向Aに示す指向性のドットパターン15になっている。・・・」

ウ.「[0022]
(実施例6)
図10は実施例6を示すブラジャー1eで、・・・すなわち、各部位を矢印方向Aに示す指向性のドットパターン15によって、カップ部2をドット直径が1.0mm、樹脂塗布面積率30%、カップ上辺部2aとカップ下辺部2bおよび土台部3をドット直径が1.5mm、樹脂塗布面積率50%?90%、バック部5をドット直径が1.5mm、樹脂塗布面積率30%で接着している。このように構成されたブラジャー1eは、肌側に凸凹や段差が全くなく、それぞれの部位に応じた伸長性および伸張力をコントロールでき、締め付け感や窮屈感がなく低着用圧で着け心地が極めて良好になる。・・・」

エ.「[0023]
(実施例7)
前記実施例1?6はブラジャーの例で説明したが、実施例7からはショーツの例で説明する。・・・
この接続部24,24は、前身頃21の両側縁21a,21aと後身頃22の両側縁22a,22aを重ねて幅7mmとし、ドット直径2.0mm、樹脂塗布面積率70%で接着してあると共に、肌側が綿素材のマチ布25を股布23に合わせ、外周縁幅を5mm幅とし、ドット直径2.0mm、樹脂塗布面積率70%で接着してある。
ドット接着樹脂部26は、前身頃21のウェストラインと後身頃22のウェストラインに、一定幅の帯状にドット接着樹脂が設けられた部分であり、出来上がり時にウェスト部27を構成することになり、矢印方向Aをドットパターン15の指向性として、ドット直径1.5mm、樹脂塗布面積率30%でドット接着してある。」

2.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1Aを対比すると、引用発明1Aの「前身頃部11」、「後身頃部12」は本件発明1の「生地片」に相当し、以下同様に「前身頃部11と後身頃部12」は「複数の生地片」に、「ホットメルト接着剤14」は「接着剤」に、「固着」は「接合」及び「接着」に、「ショーツ」は「衣類」に、「固着方法」は「接合方法」に、「低融点ポリウレタン弾性糸」は「ポリウレタンでなる熱変形弾性糸」に、「編みたてられた」は「編み込まれた」に、「重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12」は「生地片同士を位置決めして重畳すること」に、「アイロン等で加熱加圧」は「加熱処理」にそれぞれ相当する。
引用発明1Aの「フィルム状のホットメルト接着剤14を介在させ」ることは、接着のために接着剤を生地片の所定位置に配置する点で、本件発明1の「接着剤」を「塗布」することと一致する。

よって、本件発明1と引用発明1Aは以下の点で一致する。
「複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、
ポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片に、接着剤を配置して、生地片同士を位置決めして重畳し、加熱処理して接着する衣類の接合方法。」

そして、本件発明1と引用発明1Aは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「軟化温度140℃から185℃」のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の「一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」接着剤を「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して」、生地片同士を位置決めして重畳することで「仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃」で加熱処理して「接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して」接着するのに対して、引用発明1Aは、低融点ポリウレタン弾性糸が編みたてられた前身頃部11と後身頃部12の間にフィルム状のホットメルト接着剤14を介在させ、重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12をアイロン等で加熱加圧して固着する点。

(2)相違点についての検討
<相違点1>に係る本件発明1の構成は、熱変形弾性糸の軟化温度「140℃から185℃」よりも低い「120℃に加熱した液状状態」の接着剤を「塗布して」「仮止めし」、「塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃」で加熱処理して接着するものであるから、熱変形弾性糸の軟化温度と、液状状態の接着剤の温度と、加熱処理の温度という温度条件の組み合わせに加えて、液状状態の接着剤による仮止めと、その後の加熱処理による接着という二段階接合に特徴を有するものである。
一方、引用発明1Aは、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合について、引用文献1に記載も示唆もなく、また、引用文献2?9をみても、熱変形弾性糸の軟化温度や接着剤の溶融温度などが個別に記載されているのみで、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合は記載されていない。
そうすると、引用発明1Aにおいて、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合を適用する根拠がないといわざるを得ない。

そして、本件発明1は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合によって、
「両生地片が接着される過程で熱変形弾性糸が熱変形することなく、接着剤が軟化または溶融するので、生地片に編み込まれた熱変形弾性糸が加熱処理時の熱によって損傷することなく、両生地片が接着されるようになる。」(段落【0011】)
「熱変形弾性糸として軟化温度140℃から185℃のポリウレタンが用いられ、接着剤の主成分がウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種が用いられると、ポリウレタンとの親和性に優れ、ポリウレタンの軟化温度より低い温度での熱処理による良好な接着が可能になる。」(段落【0016】)
「接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。」(段落【0018】)
「溶融された反応型ホットメルト樹脂を生地の接着部に塗布し、架橋反応が進む前に接着対象となる生地を位置決めして重畳して軽く押し付けることで仮止め状態となる。その後、加熱処理すると反応型ホットメルト樹脂が溶融して生地を構成する繊維間に浸潤して両生地が接着される。そして、接着後に架橋反応が進むと耐熱性が現れるので、その後の加熱処理で溶融するようなことがなく、良好な接着状態が維持される。」
という格別の作用効果を奏するものである。

(3)申立人1の主張について
ア.申立人1意見書において、新たに甲19(特開2007-31706号公報)、甲20(特開2007-51282号公報)、甲21(特開2008-63568号公報)、甲22(特開2009-286883号公報)、甲23(特開2009-242740号公報)、甲24(特開2012-117159号公報)を提示しつつ、本件発明1は、引用発明1A、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張している。
(申立人1意見書3.(4)ウ.(ア))

イ.しかしながら、申立人1の上記主張は、熱変形弾性糸の軟化温度や接着剤の溶融温度などが、それぞれ個別に周知であることを主張するものであって、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合が周知であることは示されておらず、それぞれ個別に周知な事項を特定の組み合わせとする根拠も示されていない。

ウ.特に、上記二段階接合の「仮止め」について、申立人1は、甲19?23に仮止めすることが記載されており、周知技術である旨を主張しているが、例えば甲19について、
『ここで、被着体同士を貼り合わせるためには、当然のことながら、被着体同士を「位置決めして重畳することで仮止め」することが必須である(なお「位置決めして重畳することで仮止め」との記載から「仮止め」とは「位置決めして重畳すること」に他ならないと理解できる)。』(申立人1意見書6ページ下から4?1行)
ことを根拠として、
『そのため、段落0074の「被着体の一方または両方に接着剤を塗布し、冷却固化する前に貼り合わせるか、冷却固化後、被着体を合わせ、再度加熱し貼り合わせる」方法は、当然、その方法の一部として、被着体同士を位置決めして重畳することで仮止めするというステップを含んでいる。』(申立人1意見書6ページ下から1行?7ページ4行)
と主張するものであり、甲20?23も同様の根拠に基づいて主張している。
しかしながら、本件発明1の「仮止め」は、「接着剤を」「液状状態で」「塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止め」するものであるから、単に「位置決めして重畳すること」にとどまらず、塗布された液状状態の接着剤によって固着された状態を意味するものである。
このことは、本件特許明細書等の段落【0024】の
「溶融された反応型ホットメルト樹脂を生地の接着部に塗布し、架橋反応が進む前に接着対象となる生地を位置決めして重畳して軽く押し付けることで仮止め状態となる。その後、加熱処理すると反応型ホットメルト樹脂が溶融して生地を構成する繊維間に浸潤して両生地が接着される。そして、接着後に架橋反応が進むと耐熱性が現れるので、その後の加熱処理で溶融するようなことがなく、良好な接着状態が維持される。」
との記載にも裏付けられている。
したがって、申立人1の『(なお「位置決めして重畳することで仮止め」との記載から「仮止め」とは「位置決めして重畳すること」に他ならないと理解できる)』との主張は、当を得たものではない。

また、『被着体同士を貼り合わせるためには、当然のことながら、被着体同士を「位置決めして重畳することで仮止め」することが必須である』としても、仮止めには、クリップ等各種の仮止め手段が選択可能であることも自明であるところ、本件発明1は、仮止めに用いられた接着剤が、その後の加熱処理によって最終的な接合にも用いられるものである。
これに対して、甲19には、具体的な仮止め手段についての記載はなく、仮止めに用いた接着剤を最終的な接合にも用いることについての記載も示唆もない。
そして、甲20?23も同様に、具体的な仮止め手段についての記載はなく、仮止めに用いた接着剤を最終的な接合にも用いることについての記載も示唆もない。
したがって、本件発明1の「仮止め」が周知技術であるとする申立人1の主張には、根拠がない。

エ.よって、申立人1の主張は、採用することができない。

(4)以上のとおり、本件発明1は、引用発明1A、引用文献2?9に記載された事項、その他周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

3.本件発明2について
(1)対比
本件発明2と引用発明1Bを対比すると、引用発明1Bの「前身頃部11と後身頃部12」は本件発明2の「複数の生地片」に相当し、以下同様に、「両側脇部11a、12aおよび11b、12b」は「接合部」に、「固着」は「接合」、「接着」に、「ホットメルト接着剤14」は「接着剤」に、「ショーツの製造方法」は「衣類の製造方法」に、「前記ホットメルト接着剤14で固着される前身頃部11と後身頃部12」は「前記接着剤で接合される生地片」に、「低融点ポリウレタン弾性糸」は「ポリウレタンでなる熱変形弾性糸」に、「低融点ポリウレタン弾性糸が編みたてられた編地」は「ポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片」に、「重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12」は「生地片同士を位置決めして重畳すること」に、「アイロン等で加熱加圧」は「加熱処理」に、それぞれ相当する。
引用発明1Bの「フィルム状のホットメルト接着剤14を両側脇部11a、12a間および11b、12b間に介在させ」ることは、接着のために接着剤が生地片に配置される点で、本件発明2の「接着剤」を「塗布」することと一致する。

よって、本件発明2と引用発明1Bは以下の点で一致する。
「複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、
前記接着剤で接合される生地片は、ポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、
前記生地片に、接着剤を配置して、生地片同士を位置決めして重畳し、加熱処理して接着する衣類の製造方法。」

そして、本件発明2と引用発明1Bは、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明2は、「軟化温度140℃から185℃」のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、前記生地片の「一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」接着剤を「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して」、生地片同士を位置決めして重畳すること「で仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃」で加熱処理して「接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して」接着するのに対して、引用発明1Bは、フィルム状のホットメルト接着剤14を両側脇部11a、12a間および11b、12b間に介在させ、重ね合わせた前身頃部11と後身頃部12をアイロン等で加熱加圧して固着する点。

(2)相違点についての検討
<相違点2>は、<相違点1>と実質的に同じ相違点であるから、<相違点2>は、<相違点1>と同様に、引用発明1Bにおいて、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合を適用する根拠がない。
また、本件発明2が奏する作用効果、及び申立人1の主張については、上記2.で述べたのと同様である。
よって、本件発明2は、引用発明1B、引用文献2?9に記載された事項、その他周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

4.本件発明7について
本件発明7は、本件発明2の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明7についても同様に、引用発明1B、引用文献2?9に記載された事項、その他周知技術等に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない。

5.小括
以上のとおり、本件発明1、2、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえないから、その特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すことはできない。


第6.取消理由としなかった特許異議の申立理由について
1.特許法第36条第6項第2号
(1)申立人1の主張
本件訂正により訂正された請求項1及び請求項2の「接着剤を120℃に加熱した液状状態で」は、「接着剤を120℃に加熱することにより液状状態にして」という意味(接着剤の温度が120℃に限定される意味)と、「接着剤を120℃に加熱したときと同じ液状状態にして」という意味のいずれの解釈をすべきか不明であるとともに、接着剤が具体的にどのような状態なら「120℃に加熱した液状状態(120℃に加熱したときと同じ液状状態)」だといえるのか不明である。
(申立人1意見書3.(3))

(2)そこで検討する。
請求項1及び2の「接着剤を120℃に加熱した液状状態」は、文言どおり、接着剤を120℃に加熱することにより液状状態となっていると理解するのが自然である。
このことは、本件特許明細書等に「120℃に加熱した液状の接着剤30」(段落【0049】)と記載されていることと整合する。
よって、請求項1及び2の「接着剤を120℃に加熱した液状状態」は、明確であるから、申立人1の上記主張は採用することができない。

2.申立人1の特許法第29条第2項に係る申立理由
申立人1は、上記引用文献1?6の他、甲2(国際公開第2004/100689号)、及び甲3(特開2004-169262号公報)を提出して、以下の申立理由を主張する。
(1)申立人1の理由2
ア.本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。

イ.そこで検討する。
甲2には、その記載からみて、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
なお、申立人1の主張する甲2-1発明(申立人1異議申立書33ページ下から4行?34ページ2行)を、甲2発明として採用した。
「複数の伸縮性経編地ホットメルト接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、
ポリウレタン糸が編み込まれた伸縮性経編地の接着部に、
ホットメルト接着剤を使用して
加熱処理して接着することを特徴とする
衣類の接合方法。」

本件発明1と甲2発明を対比すると、本件発明1と甲2発明は、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「軟化温度140℃から185℃」のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、「前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有する」ポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」接着剤を「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターン」で塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで「仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく」生地片同士を密接した接着層を介して接着するのに対して、甲2発明は、ホットメルト接着剤を使用して加熱処理して接着するものである点。

上記第5.2.(2)で述べたとおり、[相違点1]に係る本件発明1の構成は、熱変形弾性糸の軟化温度と、液状状態の接着剤の温度と、加熱処理の温度という温度条件の組み合わせに加えて、液状状態の接着剤による仮止めと、その後の加熱処理による接着という二段階接合に特徴を有するものである。
一方、甲2発明は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合について、甲2に記載も示唆もなく、また、その他の証拠をみても、熱変形弾性糸の軟化温度や接着剤の溶融温度などが個別に記載されているのみで、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合は記載されていない。
そうすると、甲2発明において、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合を適用する根拠がないといわざるを得ない。

そして、本件発明1は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合によって、上記第5.2.(2)で述べたとおりの格別の作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
また、本件発明2及び7も同様である。
よって、申立人1の上記理由2に係る主張は、採用することができない。

(2)申立人1の理由3
ア.本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきである。

イ.そこで検討する。
甲3には、その記載からみて、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
なお、申立人1の主張する甲3-1発明(申立人1異議申立書36ページ13?18行)を、甲3発明として採用した。
「複数の伸縮性たて編地をホットメルト接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、
ポリウレタン弾性糸が編み込まれた伸縮性たて編地の接着部に、
ホットメルト接着剤を塗布して
加熱処理して接着することを特徴とする
衣類の接合方法。」

本件発明1と甲3発明を対比すると、本件発明1と甲3発明は、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点3]
本件発明1は、「軟化温度140℃から185℃」のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、「前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有する」ポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」接着剤を「120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターン」で塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで「仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく」生地片同士を密接した接着層を介して接着するのに対して、甲3発明は、ホットメルト接着剤を塗布して加熱処理して接着するものである点。

上記第5.2.(2)で述べたとおり、[相違点3]に係る本件発明1の構成は、熱変形弾性糸の軟化温度と、液状状態の接着剤の温度と、加熱処理の温度という温度条件の組み合わせに加えて、液状状態の接着剤による仮止めと、その後の加熱処理による接着という二段階接合に特徴を有するものである。
一方、甲3発明は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合について、甲3に記載も示唆もなく、また、その他の証拠をみても、熱変形弾性糸の軟化温度や接着剤の溶融温度などが個別に記載されているのみで、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合は記載されていない。
そうすると、甲3発明において、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合を適用する根拠がないといわざるを得ない。

そして、本件発明1は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合によって、上記第5.2.(2)で述べたとおりの格別の作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
また、本件発明2及び7も同様である。
よって、申立人1の上記理由3に係る主張は、採用することができない。

3.申立人2の申立理由
(1)申立人2は、甲1(特開2004-308037号公報)を提出して、本件特許の請求項1?3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1?7に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきである旨を主張している。

(2)そこで検討する。
甲1には、その記載からみて、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、申立人2の主張する甲1-1発明(申立人2異議申立書11ページ11?22行)を、甲1発明として採用した。
「接着布と表地とをポリウレタン系熱可塑性樹脂で接合して構成される衣類の接合方法であって、
ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維が編み込まれた接着布の接着部に、
前記ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維の熱変形温度よりも低い溶融温度を有する
ポリマーを主成分とする
ポリウレタン系熱可塑性樹脂を塗布して、
前記ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維の熱変形温度より低温で
加熱処理して接着することを特徴とする
衣類の接合方法。」

本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1と甲1発明は、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点5]
本件発明1は、「軟化温度140℃から185℃」のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする「120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである」接着剤を「120℃に過熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターン」で塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで「仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく」生地片同士を密接した接着層を介して接着するのに対して、甲1発明は、ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維の熱変形温度よりも低い溶融温度を有するポリマーを主成分とするポリウレタン系熱可塑性樹脂を塗布して、前記ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維の熱変形温度より低温で加熱処理して接着するものである点。

上記第5.2.(2)で述べたとおり、[相違点5]に係る本件発明1の構成は、熱変形弾性糸の軟化温度と、液状状態の接着剤の温度と、加熱処理の温度という温度条件の組み合わせに加えて、液状状態の接着剤による仮止めと、その後の加熱処理による接着という二段階接合に特徴を有するものである。

一方、甲1発明における上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合に関連する事項は、以下のとおりである。
(ア)甲1には、ポリウレタン繊維又はポリウレタン系熱可塑性エラストマー繊維の軟化温度は、具体的な記載がない。申立人2の主張するように、段落【0031】の記載を参酌しても、当該段落には、
「また熱可塑性樹脂の融点は、90?150℃の範囲にあるものが好ましい。融点が150℃を超えると、接着布と表地を張り合わせる際に温度や圧力を上げたり、接着時間を長くしなければならず、生産性が低下する。また、貼り合せる接着布および表地が変形するおそれがある。」
と記載されているのであるから、貼り合わせる際の温度だけではなく、圧力や接着時間も合わせた影響により接着布および表地が変形するおそれがあることを意味するものであって、繊維の軟化温度が150℃であることや、140℃から185℃の範囲内であることを意味するものではない。
(イ)甲1には、ポリウレタン系熱可塑性樹脂は、融点が90?150℃の範囲にあるものが好ましい旨の記載(段落【0031】)はあるものの、熱可塑性樹脂は微細線状に付与された後に基布を加熱処理することで粒状に凝集される(【請求項7】)ものであって、点状に塗布するものではなく、付与するときの具体的な温度も記載されておらず、120℃溶融粘度も記載されていない。
(ウ)甲1には、仮止めについて記載も示唆もない。
(エ)甲1には、仮止め後の加熱処理における具体的な圧力や温度について記載がない。特に、塗布時の接着剤の温度よりも低い温度で加熱処理をすることについての記載も示唆もない。

以上のとおり、甲1には、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合について記載も示唆もなく、また、その他の証拠をみても、熱変形弾性糸の軟化温度や接着剤の溶融温度などが個別に記載されているのみで、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合は記載されていない。
そうすると、上記相違点5は、実質的なものであり、甲1発明において、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合を適用する根拠がないといわざるを得ない。

そして、本件発明1は、上記温度条件の組み合わせ及び上記二段階接合によって、上記第5.2.(2)で述べたとおりの格別の作用効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また同条第2項の規定により特許を受けることができない発明とはいえない。
さらに、本件発明2及び7も同様である。
よって、申立人2の上記主張は、採用することができない。


第7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び申立人1及び2の主張する理由によっては、本件発明1、2、7に係る特許を取り消すことはできない。
そして、ほかに本件発明1、2、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、本件訂正により、請求項3?6は削除されたため、請求項3?6に係る特許に対して申立人1及び2がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
衣類の接合方法及び衣類の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法及び接着剤で接合された衣類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、衣類は、所定の基準パターンに沿って裁断された複数の生地片が互いに接合されることによって身体に沿う立体構造になるように構成されている。そして、そのような生地片を接合するためにミシンを用いた縫製処理が採用されている。
【0003】
しかし、縫製処理を採用した生地片の端部処理や接合処理は、その縫製部位が厚手になることから、ごろつく等の肌触りの悪さの原因となっていた。また、手間の掛かる縫製処理よりも簡易で製造コストを低減可能な接合処理が望まれていた。
【0004】
特許文献1には、接合部分が薄く仕上がり、しかも縫製箇所を無くすことにより、肌触りが良く、簡単に製造できるショーツを提供することを目的として、前身頃端部と後身頃端部を重ね合わせて、当該箇所を熱可塑性樹脂フィルムで接着し、またクロッチ部に裏当て布を熱可塑性樹脂フィルムで接着したショーツが提案されている。熱可塑性樹脂フィルムとして、熱可塑性ポリウレタン等の伸縮性を有するホットメルト接着剤が用いられている、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3136098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような熱可塑性樹脂フィルムを用いて生地片を接着する方法を採用すると、生地片の重畳部を平坦な基台を備えたプレス機に配置して高圧で加圧しながら高温で加熱する必要があるため、脇部やクロッチ部等の平坦な接合部の接着に適用できても、アームホール等の立体的な接合部への適用が困難であるという問題や、加熱時に生地片にテカリや当たり等のダメージを与える虞があるという問題があった。
【0007】
また、熱変形弾性糸が編み込まれ、ヒートセット処理等により解れ止めされた生地片を用いる場合には、熱可塑性樹脂フィルムを用いた生地片の接合時に付与される熱の影響で熱変形弾性糸にダメージが加わって、解れ止め機能が損なわれたり、耐久性が損なわれてコース方向に沿った目割れが生じたりするという問題もあった。
【0008】
さらには、フィルム状のホットメルト接着剤を用いると、フィルム幅に相当する幅にわたって生地に接着剤が浸潤するため、伸縮性があっても他の領域との間で伸縮性や柔軟性が異なり、違和感が生じるという問題もあった。
【0009】
本発明の目的は、上述した問題に鑑み、生地片にダメージを与えることなく、立体的な接合部への適用が可能な衣類の接合方法及び衣類の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による衣類の接合方法の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着する点にある。
【0011】
生地片の接着部位に熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤を塗布して、その上に接着対象となる生地片を重畳して加熱処理すれば、両生地片が接着される過程で熱変形弾性糸が熱変形することなく、接着剤が軟化または溶融するので、生地片に編み込まれた熱変形弾性糸が加熱処理時の熱によって損傷することなく、両生地片が接着されるようになる。その結果、加熱時に生地片にテカリや当たり等のダメージを与えることなく、解れ止め機能が損なわれたり、耐久性が損なわれてコース方向に沿った目割れが生じたりすることが無くなり、伸縮性が阻害されることが無く良好な着心地の衣類を製造することができるようになる。
【0012】
本発明による衣類の第一の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、前記接着剤で接合される生地片は、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、前記生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着する点にある。
【0013】
熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤が、生地片の接着部位に塗布されて加熱処理されると、生地片に編み込まれた熱変形弾性糸に熱による影響を及ぼすことなく、熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤が溶融して生地を構成する繊維間に浸潤して両生地が接着されるようになる。その結果、加熱時に生地片にテカリや当たり等のダメージを与えることなく、解れ止め機能が損なわれたり、耐久性が損なわれてコース方向に沿った目割れが生じたりすることが無くなり、伸縮性が阻害されることが無く良好な着心地の衣類が得られるようになる。
【0014】
(削除)
【0015】
熱変形弾性糸の軟化温度が140℃より低いポリウレタンは、原糸製造時に繊度バラツキが発生し易いのに対して、軟化温度が140℃以上のポリウレタンは繊度バラツキが少なく安定しているため、生地品位の低下を回避できるようになる。熱変形弾性糸の軟化温度が185℃以下のポリウレタンを用いれば、生地製造時に生地焼け等を生じることなくウレタン同士が熱融着するので良好な解れ止め処理が実現できる。
【0016】
熱変形弾性糸として軟化温度140℃から185℃のポリウレタンが用いられ、接着剤の主成分がウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種が用いられると、ポリウレタンとの親和性に優れ、ポリウレタンの軟化温度より低い温度での熱処理による良好な接着が可能になる。
【0017】
(削除)
【0018】
接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。その結果、熱変形弾性糸に熱的影響を与えたり、生地片にテカリや当たり等のダメージを与えたりすることなく良好に接着できるようになる。
【0019】
(削除)
【0020】
(削除)
【0021】
(削除)
【0022】
(削除)
【0023】
同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂である点にある。
【0024】
溶融された反応型ホットメルト樹脂を生地の接着部に塗布し、架橋反応が進む前に接着対象となる生地を位置決めして重畳して軽く押し付けることで仮止め状態となる。その後、加熱処理すると反応型ホットメルト樹脂が溶融して生地を構成する繊維間に浸潤して両生地が接着される。そして、接着後に架橋反応が進むと耐熱性が現れるので、その後の加熱処理で溶融するようなことがなく、良好な接着状態が維持される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した通り、本発明によれば、生地片にダメージを与えることなく、立体的な接合部への適用が可能な衣類の接合方法及び衣類の製造方法を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は本発明による衣類の一例であるアンダーシャツの正面表側から視た説明図、(b)は同背面表側から視た説明図、(c)は着用状態の説明図
【図2】本発明による衣類を構成する生地片を編地から裁断する際の説明図
【図3】本発明による衣類の身生地を構成するヨコ編地の編組織の説明図
【図4】(a)は肩接ぎの接合処理の説明図、(b)は袖部の接合処理の説明図、(c)はアームホールの接合処理の説明図、(d)は接合処理が終了した衣類の説明図
【図5】熱処理の説明図
【図6】(a)から(d)はそれぞれ接着パターンの態様の説明図
【図7】接着部の説明図
【図8】実施例1?8、比較例1?4の被接着布に使用した熱変形性弾性糸、接着剤の特性、加熱処理温度(プレス温度)、接着強度、接着部の品位の評価を示す表
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による衣類の接合方法及び衣類を図面に基づいて説明する。
図1(a),(b),(c)には、本発明による衣類の一例である正面視、背面視及び着用状態のアンダーシャツ1が示されている。当該アンダーシャツ1は、前身頃2、後身頃3及び左右の袖部4を備えて構成され、前後身頃2,3の肩線同士が肩接ぎ部7で接合されるとともに前後身頃2,3のアームホールAHf,AHbに左右の袖部4の袖山がそれぞれ接合されている。図1中、各接合部が破線で示されている。
【0028】
図2に示すように、当該アンダーシャツ1は、丸編機で編成された筒状の生地Tを用いて構成されている。具体的に、天竺編、フライス編またはスムース編等の長尺の筒状生地Tが所要の着丈L1を確保可能な長さで裁断されるとともに、筒状体の上部がアームホールAHf,AHb、肩線SLf,SLb、及び襟刳りNHf,NHbとなる部位で裁断され、裁断片から袖部4を構成する生地片が裁断される。つまり、当該アンダーシャツ1は、脇接ぎ部の無い筒状体で構成されている。
【0029】
図1(c)に示すように、次に、袖部4の端縁40が筒状となるように下部で接合されて袖下接ぎ部41が構成され、身生地の肩線SLf,SLb同士が接合されて肩接ぎ部7が構成され、アームホールAHf,AHbに袖部4が接合されて袖接ぎ部AHが構成され、さらに襟刳りNHf,NHbに丸襟5が接合される。
【0030】
袖下接ぎ部41、肩接ぎ部7及び袖接ぎ部AHの接合処理に接着剤を用いた接着処理が採用され、襟刳りNHf,NHbと丸襟5との接合処理に縫製処理が採用されている。
【0031】
尚、本発明によるアンダーシャツ1は、ヨコ編地を用いた筒状体生地で構成される態様に限られることはなく、前後身頃2,3の左右が裁断されたヨコ編地を用いて前身頃2と後身頃3をそれぞれ左右の脇部で接合するように構成された態様であってもよい。その場合、脇部の接合処理にも接着剤を用いた接着処理が採用されることが好ましい。また、襟刳りNHf,NHbに特段の襟を縫製することなく、後述する切りっ放し処理で襟刳りNHf,NHbそのもので丸襟5が構成されていてもよい。
【0032】
何れの生地を用いる場合でも、ヨコ編地のコース方向が身幅に沿うように、そしてウェール方向が着丈に沿うように用いられることが好ましく、ヨコ編地のコース方向が袖部4の袖周りに沿うように用いられることが好ましい。
【0033】
図3には、当該アンダーシャツ1に用いられるヨコ編地(丸編地)の編組織が示されている。当該ヨコ編地10は、熱変形性弾性糸11とその他の糸12がプレーティング編みで編成され、その後にヒートセット加工が施されることによって熱変形した熱変形性弾性糸11がその他の糸12の周りで互いに融着することにより解れ止め機能が発現する編地で構成されている。
【0034】
本実施形態では、熱変形性弾性糸11として22?44dtex(デシテックス/フィラメント)のポリウレタン弾性糸が用いられ、その他の糸12として単糸繊度80/1?30/1番手の綿糸または綿とレイヨンの混紡糸が用いられている。ポリウレタン弾性糸11のフィラメント数は特に限定されず、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。
【0035】
それぞれ異なる給糸口から編み針に給糸して編み立てられたプレーティング編地は、各編成ループにおける低融点ポリウレタン弾性糸11と綿糸12との配置が安定しているため、全てのループに低融点ポリウレタン弾性糸11を隣接させることができ、編立後のヒートセット加工により低融点ポリウレタン弾性糸を溶融すれば、編地の全てのループで確実にほつれ止め機能が発現するようになる。
【0036】
当該ヨコ編地10は丸編機を用いて筒状シームレスの編地に編成された後にセット機にセットされて150?190℃でヒートセットされ、必要に応じて染色工程を経た後に再度セット機にセットされ、張力がかけられた状態で100?120℃の温度で最終的なヒートセットが行なわれる。
【0037】
上述したように、低融点ポリウレタン弾性糸11とともにヨコ編地10を構成するその他の糸12として、綿糸等の天然繊維が好適に用いられるが、天然繊維以外に、キュプラ、ビスコースレーヨン等の再生セルロース繊維、天然繊維との混紡糸、ポリエステル等の合成繊維等を用いることも可能である。
【0038】
このような解れ止め加工を施した編地を採用すれば、パイピング処理等の特段の解れ止め処理をしなくても、裁断端部から繊維が解れることが無い。このような端部を切りっ放し処理された端部といい、洗濯を繰り返しても切りっ放し処理された端部から繊維が解れるような見栄えの悪化を招くことが無い。
【0039】
パイピング処理の他、例えば端部を折り返して縫着するような解れ止め加工が不要になるので、端部の厚み等に起因する肌触りの悪化による不快感を招くことがなく、肌に優しい衣類が提供できるようになる。
【0040】
図1(a)?(c)及び図2に示したアンダーシャツ1は、肩線SLf,SLb、襟刳りNHf,NHb、アームホールAHf,AHb、袖部4の端縁40、袖先44及び裾6が切り放し処理されている。
【0041】
熱変形性弾性糸として低融点ポリウレタン弾性糸のような熱融着性弾性糸を用いる以外に、ポリウレタンウレア弾性繊維を用いることも可能である。ヒートセット加工等の加熱加工によりポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維と相手糸との接触点でポリウレタンウレア弾性繊維の圧縮変形が発生し、ポリウレタンウレア弾性繊維同士またはポリウレタンウレア弾性繊維への相手糸の固着が生じるため、編地からポリウレタンウレア弾性繊維や相手糸が抜けにくくなり、カールや解れが抑制された編地を得ることができる。つまり、加熱処理により溶融し或いは圧縮変形するような特性を備えた熱変形性弾性糸であれば低融点ポリウレタン弾性糸やポリウレタンウレア弾性糸以外の繊維も値用可能である。つまり熱変形温度とは、ポリウレタンの軟化温度やポリウレタンウレアの圧縮変形温度等、解れ止め機能を具現化するために熱変形する温度を意味する。
【0042】
図4(a)には肩接ぎ部7の接合状態が示され、図4(b)には袖下接ぎ部41の接合状態が示され、図4(c)には袖接ぎ部AHの接合状態が示され、図4(d)には接合処理後のアンダーシャツ1が示されている。
【0043】
図4(a)に示すように、前身頃2の肩線SLfの表側縁部に沿った所定幅の帯状領域に接着剤30がジグザグ状に塗布され、後身頃3側の肩線SLbの裏側縁部がその上に重畳されて肩接ぎ部7が構成されている。尚、後身頃3側の肩線SLbの表側縁部に接着剤30が塗布され、前身頃2の肩線SLfの裏側縁部がその上に重畳されていてもよい。
【0044】
図4(b)に示すように、袖部4の一対の端縁40のうち後身頃3側の端縁40の表側縁部に沿った所定幅の帯状領域に接着剤30がジグザグ状に塗布され、前身頃2側の端縁40の裏側縁部がその上に重畳されて袖下接ぎ部41が構成されている。上述と同様、端縁40の一方の縁部に接着剤を塗布して他方の縁部を重畳させればよい。
【0045】
図4(c)に示すように、肩接ぎ部7が接合されて輪状に形成されたアームホールAHf,AHbの表側縁部に沿った所定幅の帯状領域に接着剤30がジグザグ状に塗布され、袖部4の袖山45の裏側縁部がその上に重畳されて袖接ぎ部AHが構成されている。袖部4の袖山45の表側縁部に沿った所定幅の帯状領域に接着剤30が塗布され、アームホールAHf,AHbの裏側縁部がその上に重畳されていてもよい。
【0046】
図4(d)に示すように、接着剤による接合処理が終了すると、襟刳りNHf,NHb、袖先44及び裾6が切りっ放し処理されたアンダーシャツ1が出来上がる。
【0047】
接着剤として、生地片に編み込まれた熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする接着剤が好適に用いられ、加熱溶融した接着剤を熱変形弾性糸の熱変形温度より低温で加熱処理することにより接着される。
【0048】
具体的に、熱変形弾性糸として熱変形温度が140℃から185℃の範囲のポリウレタンが用いられ、接着剤として主成分がウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする湿気硬化性の反応型ホットメルト樹脂が用いられる。
【0049】
図5に示すように、120℃に加熱した液状の接着剤30を、ギアポンプ50を備えたノズル52から生地片(例えば袖部4)の帯状領域に供給塗布した後、その上に接合対象となる生地片(例えば身頃2のアームホール)を位置決めして重畳することで仮止めし、仮止め後、例えば両生地片の重畳部を筒状体54と加熱ローラ56との間に挟み込んで加熱ローラ56を回転させて約70℃の温度で重畳領域全体を加熱処理することにより、接着剤30が溶融して両生地片を構成する繊維に浸潤する。接着後に架橋反応が進むことにより耐熱性が現れ、その後の加熱処理で溶融することは無い。尚、加熱処理時の圧力は、150?300gf/cm^(2)が好ましい。
【0050】
このような接着剤を生地片の接着部位に塗布して加熱処理すると、接着剤が軟化または溶融して生地を構成する繊維間に浸潤して両生地が接着されるようになる。このとき、生地片に編み込まれた解れ止めの熱変形弾性糸に熱による影響を及ぼすことなく、解れ止め機能の劣化を来すことが無い。
【0051】
接着剤の120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであることが好ましく、13000mPa・sから19000mPa・sであることがさらに好ましい。
【0052】
接着剤の120℃溶融粘度がこれらの範囲であれば熱処理時に大きな加圧力を与えなくても、生地を構成する繊維間つまり生地の厚み方向及び面方向に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られるようになる。また、その際に接着剤が生地の反対側表面に浸潤することも無いので、見栄えの劣化が生じることも無い。その結果、熱変形弾性糸に熱的影響を与えたり、生地片にテカリや当たり等のダメージを与えたりすることなく良好に接着できるようになる。
【0053】
このような接着剤を用いて接合処理する好適な対象としてアームホールのような生地片を輪状に接合する必要がある箇所が挙げられる。予め生地に塗布する接着剤であればアームホール等の立体的な接合部であっても容易に塗布することができ、また接着剤の塗布量や塗布パターンを調整できるので、接着領域での生地の伸縮性や柔軟性が他の領域と殆ど変ることなく良好な肌触りが得られるようになる。
【0054】
図6(a)?(e)には、接着層を形成する線状の接着パターンが例示されている。身生地となるヨコ編地10の伸縮方向10dつまりコース方向に沿う直線Lに対して、所定の繰返しピッチBp、所定の振幅Baで交差するように加熱溶融された接着剤30が線状に連続またはドット状に塗布され、その後、相手側の身生地と重畳されて加熱処理されることにより接着される。
【0055】
ヨコ編地10の伸縮方向10dに沿う任意の直線Lと線状の接着パターンとの交点に注目すると、所定ピッチBpの2倍のピッチで接着剤が塗布された接着点Bと、隣接する接着点Bの間の非接着領域NBが交互に配列されるようになる。つまり、伸縮方向10dに沿った任意の直線L上に接着位置が点状に分布する。
【0056】
このような関係が所定幅の帯状領域で維持されることにより、ヨコ編地10の伸縮方向10dに沿う任意の直線Lに沿って接着点Bでは伸縮が抑制されるものの、大半の非接着領域NBで伸縮が許容され、全体として伸縮が許容されながらも、両生地が強固に接着されるようになる。
【0057】
接着剤が塗布される帯状の領域の好ましい幅は2mm?15mmであり、4mm?10mmがより好ましい。
【0058】
接着パターンとして、図6(a),(b),(c)に示すようなジグザグパターンや、図6(d)に示すようなサインカーブのような曲線の繰返しパターンや、図6(e)に示すような菱形の繰返しパターン等、伸縮方向10dに沿った任意の直線L上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布するような任意のパターンを採用することができる。さらに、図6(f)に示すように、所定サイズのドット状に配列するように接着剤を塗布してもよい。
【0059】
2枚の重なった部分の面積、つまり繰返しピッチBpと振幅Baの積で求まる面積に対する接着部の面積の割合は40?80%であることが好ましく、50%?70%であることがより好ましい。ここで、繰返しピッチBpや振幅Baは、接着対象となる生地特性や目標とする接着強度等に基づいて適宜設定される値である。
【0060】
図7上部にはジグザグ状に接着剤30が塗布されたヨコ編地10が示され、図7下部にはその接着剤30の塗布後に接着対象となるヨコ編地が重畳され、熱処理された後のA-A線断面つまり接着層の断面が示されている。
【0061】
ヨコ編地10の表面に塗布された接着剤30が、熱処理によって両生地の厚み方向に浸潤して繊維間で固化し、接着剤のみの層が形成されることなく、生地同士が密接した接着層が形成されるようになる。
【0062】
接着剤として、ウレタンまたはオレフィンを含むポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする湿気硬化性の反応型ホットメルト樹脂を用いた例を説明したが、ポリウレタン等の熱変形弾性糸の熱変形温度より低い熱処理で接着が可能な接着剤であれば、湿気硬化性の反応型ホットメルト樹脂に限らず公知の接着剤を使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂を用いることも可能である。
【0063】
即ち、接着剤に用いられる熱可塑性樹脂としては、上述の加熱処理条件を満たす限りにおいて、例えば、ポリウレタン系ホットメルト樹脂、ポリエステル系ホットメルト樹脂、ポリアミド系ホットメルト樹脂、EVA系ホットメルト樹脂、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、湿気硬化型ホットメルト樹脂、反応型ホットメルト樹脂等が挙げられる。中でも湿気硬化型ホットメルト樹脂は、接着強度が高く、しかも短時間での接着が可能な点で特に好ましい。
【0064】
上述した実施形態では半袖丸襟のアンダーシャツを例に説明したが、本発明は五分袖、七分袖、長袖のアンダーシャツにも適用可能であり、襟の形状もV襟、U襟であってもよい。また前後身頃が左右端部で裁断され、左右の脇部を接合する必要がある場合には、脇部の接合にも本発明による接着剤を用いた接合方法が適用可能である。
【0065】
以上、アンダーシャツを例に本発明による衣類を説明したが、本発明による衣類は、アンダーシャツに限定されるものではなく、ボクサーパンツ、ブリーフ、ショーツ、キャミソール、チュニック等の肌着に適用可能であり、特に袖付衣類等、接着剤を用いて生地片を輪状に接合する必要がある肌着及び肌着以外の衣類に好ましく適用できる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
以下の実施例では、ポリウレタン繊維の軟化点、接着強度、当たり、テカリ、風合い、ウレタン劣化の各評価項目について、以下の方法により評価した。尚、本発明は実施例で示す生地及び接着剤に限定されるものではない。
[ポリウレタン繊維の軟化点の測定]
熱変形弾性糸として用いるポリウレタン繊維のハードセグメント、中間セグメント、ソフトセグメントの緩和時間T2(スピン-スピン緩和時間)を、パルス核磁気共鳴(NMR)装置(日本電子株式会社製:JNM-MU25)を用いて測定した。測定条件は次の通りである。
測定方式:Solid-Echo法
測定条件:90° パルス幅2.0μs
パルス繰り返し時間:4s
積算回数:8回
測定温度:室温、100℃、120℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃
各温度におけるパルスNMRで得られる自由誘導減衰(FID)信号を3成分近似で解析し、ポリウレタン繊維のハード成分、中間成分、ソフト成分の緩和時間T2を求めた。ポリウレタン繊維のソフト成分の分子運動は、ウレタンの水素結合により抑えられている。昇温により、この水素結合が切れることにより、分子鎖の運動性は急激に上昇する。従って、各試料の各測定温度におけるソフト成分のT2値をグラフにして、運動性が変化する前後の曲線からそれぞれ接線を求め、その交点をポリウレタン繊維の軟化点とした。
【0067】
[溶融粘度]
溶融粘度の測定は、JIS K5600の「コーン・プレート粘度計法」の測定方法に準じて、120℃の接着剤の粘度を測定した。接着剤をプレートとコーンの間に入れ、ローターを回転させ、読みが安定した時の値を採用した。
【0068】
[接着強度]
接着強度の測定は、JIS L1086の「剥離強さ」の測定方法に準じて行った。
各実施例、比較例で作成した被接着布から試験片(幅25mm×長さ150mm)をウェール方向及びコース方向にそれぞれ5枚以上採取し、長辺の方向に、辺から約50mmを剥離し、自己記録装置付き引張試験器を用い、試験片のつかみ間隔を50mmとして、クランプに挟んだ。
【0069】
引張速度は、100mm/minとし、50mm間を剥離した。剥離するときに示す極大値の大きいものから順次3個、小さいものから順次3個をとり、計6個の平均値を算出し、ウェール方向及びコース方向それぞれ5回以上の平均値を四捨五入して求めた。
【0070】
[当たり]
各実施例、比較例で作成した被接着布を試料とし、接着部位が非接着部位と比較して見え方が異なるかどうかを確認した。見え方を以下の指標にて2段階で評価した。「当たり」とは、熱処理時に生じる生地表面の毛羽の倒れで光の反射特性が変化することに起因する外観品位の劣化をいい、毛羽の倒れは生地に湿気を付与することで回復する。
無し:見え方が同じ
有り:見え方が異なる
【0071】
[テカリ]
各実施例、比較例で作成した被接着布を試料とし、接着部位を観察した。繊維が塑性変形し、外観品位を観察した、外観品位を以下の指標にて、2段階で評価した。「テカリ」とは、熱処理時に生じる繊維の塑性変形による外観品位の劣化をいい、湿気を付与しても回復しない。
無し:外観品位良好
有り:外観品位不良
【0072】
[風合い]
各実施例、比較例で作成した被接着布を試料とし、その風合いを以下の指標にて、3段階で評価した。
○:芯がなく柔らかい
△:固い
×:芯があって固い
【0073】
[ウレタン劣化]
各実施例、比較例で作成した被接着布を試料片として、各試料片を掴み間隔5cmでデマッチャー試験機に取り付け、試験片を緯方向に伸長率2.5倍(150%)で5000回繰り返し伸縮を行ない、その後、接着部位周辺を観察し、ウレタン劣化を以下の指標にて2段階で評価した。
無し:ポリウレタン糸が切れた部分は観察されない、またはポリウレタン糸の切れは観察されず、繰り返し使用による目割れの発生が観察されない
有り:ポリウレタン糸が切れた部分が観察される、またはポリウレタン糸の切れは観察されないが、繰り返し使用による目割れの発生が観察される
【0074】
(実施例1)
〈使用生地〉
表糸として綿とレイヨンの混紡糸(綿:50%、レイヨン:50%)60/1番手を用い、裏糸として22dtex、軟化点140℃のポリウレタン糸を用いた。フライス編機を用い、上記混紡糸とポリウレタン糸を給糸口から編み針に給糸してプレーティング編地を編成し、ダイヤル針、シリンダー針で全針ニット編みを行ない、1×1のゴム編地を編成した。編成されたゴム編地をセット機にセットして170℃でヒートセットし、再度セット機にセットして、張力がかけられた状態で120℃の温度で最終的なヒートセットを行ない、解れ止め加工を施した編地を得た。この編地を切断(幅200mm×長さ150mm)して、実施例1の生地とした。
【0075】
〈接着剤〉
接着剤として、ポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用いた。使用したポリウレタン系接着剤の120℃における溶融粘度は7930(mPa・s)であった。
【0076】
〈接着接合処理〉
上記実施例1の生地の帯状領域に、上記接着剤を塗布した後、その上に接合対象となる生地片を重畳することで仮止めした。仮止め後、両生地片の重畳部を、加熱ローラを回転させて約75℃の温度、250gf/cm^(2)の圧力で重畳領域全体を加熱処理して、接着接合し、実施例1の被接着布を作成した。
【0077】
(実施例2)
接着剤として、120℃における溶融粘度が21500(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、100℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同じ生地を用いて接着接合し、実施例2の被接着布を作成した。
【0078】
(実施例3)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点185℃のポリウレタン糸を用いた以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例3の被接着布を作成した。
【0079】
(実施例4)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点185℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が21500(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、100℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例4の被接着布を作成した。
【0080】
(実施例5)
接着剤として、120℃における溶融粘度が13600(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、80℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例5の被接着布を作成した。
【0081】
(実施例6)
接着剤として、120℃における溶融粘度が19300(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、90℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例6の被接着布を作成した。
【0082】
(実施例7)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点185℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が13600(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、80℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例7の被接着布を作成した。
【0083】
(実施例8)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点185℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が19300(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、90℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、実施例8の被接着布を作成した。
【0084】
(比較例1)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点120℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が6820(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、60℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、比較例1の被接着布を作成した。
【0085】
(比較例2)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点120℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が24200(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、140℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、比較例2の被接着布を作成した。
【0086】
(比較例3)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点160℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が23200(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、140℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、比較例3の被接着布を作成した。
【0087】
(比較例4)
熱変形性弾性糸として、22dtex、軟化点185℃のポリウレタン糸を用い、接着剤として、120℃における溶融粘度が6820(mPa・s)のポリウレタン系の湿気硬化型反応性ホットメルト接着剤を用い、60℃で加熱処理をした以外は、実施例1と同様にして編成した生地を用いて接着接合し、比較例3の被接着布を作成した。
【0088】
図8には、上記実施例1?8、比較例1?4の被接着布に使用した熱変形性弾性糸、接着剤の特性、加熱処理温度(プレス温度)、接着強度、接着部の品位の評価が示されている。尚、各実施例及び比較例に対する接着剤の塗布パターンは同一であり、詳しくは、反応性ホットメルト接着剤を6.0mm幅で、3.0mmピッチのジグザク形状に塗布している。
【0089】
図8から、熱変形弾性糸の軟化温度が140℃である実施例1の被接着布は、熱変形弾性糸の軟化温度が120℃である比較例1の被接着布にくらべ、接着強度に優れることがわかる。なお、軟化温度が195℃の熱変形弾性糸を用いた場合は、切りっぱなし性能がないため、比較例に含めなかった。これらの結果から熱変形弾性糸が軟化温度140℃から185℃の範囲にあれば、生地片にダメージを与えることなく、熱処理による良好な接着が可能になることがわかった。
【0090】
図8から、120℃における溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sであれば、生地を構成する繊維間に良好に接着剤が浸潤し、十分な接着強度が得られていることがわかる。また、熱変形弾性糸に熱的影響を与えたり、生地片にテカリや当たり等のダメージを与えたりすることなく良好な接着物が得られていることがわかった。
【0091】
実験番号1?8(実施例1?8)の熱変形弾性糸として軟化温度140℃から185℃のポリウレタン糸を用いた場合には、良好な接着物が得られていることがわかった。また、120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである実験番号1?8(実施例1?8)の接着剤を用いた場合に良好な接着物が得られ、120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである実験番号5?8(実施例1?4)の接着剤を用いた場合にさらに良好な接着物が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明による衣類は、解れ止めの熱変形弾性糸が編み込まれた生地片にダメージを与えることなく、袖部等の立体的な接合部への適用が可能なアンダーシャツ等の衣類を始めとする様々な衣類の接合方法として、また当該接合方法で接合処理された衣類として、肌触りに優れた快適な衣類として活用される。
【符号の説明】
【0093】
1:衣類(アンダーシャツ)
2:前身頃
3:後身頃
4:袖部
5:丸襟
6:裾
7:肩接ぎ部
10:ヨコ編地(身生地)
30:接着剤
41:袖下接ぎ部
AH:袖接ぎ部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の生地片を接着剤で接合して構成される衣類の接合方法であって、
軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着することを特徴とする衣類の接合方法。
【請求項2】
複数の生地片が接合部で接合され、少なくとも接合部の一部が接着剤で接合される衣類の製造方法であって、
前記接着剤で接合される生地片は、軟化温度140℃から185℃のポリウレタンでなる熱変形弾性糸が編み込まれた生地片で構成され、
前記生地片の一方に、前記熱変形弾性糸の熱変形温度よりも低い軟化温度または溶融温度を有するポリマー、プレポリマー及びオリゴマーから選ばれる少なくとも一種を主成分とする120℃溶融粘度が8000mPa・sから22000mPa・sである接着剤を120℃に加熱した液状状態で前記生地片の伸縮方向に沿った任意の直線上で接着位置が非接着領域を挟んで点状に分布する任意のパターンで塗布して、生地片同士を位置決めして重畳することで仮止めし、150から300gf/cm^(2)の加圧状態で塗布時の接着剤の温度より低い75℃から90℃で加熱処理して接着剤のみの層を形成することなく生地片同士を密接した接着層を介して接着することを特徴とする衣類の製造方法。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記接着剤は反応型ホットメルト樹脂であることを特徴とする請求項2記載の衣類の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-09 
出願番号 特願2014-205720(P2014-205720)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A41H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 北村 龍平  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 中村 一雄
横溝 顕範
登録日 2018-06-08 
登録番号 特許第6347716号(P6347716)
権利者 グンゼ株式会社
発明の名称 衣類の接合方法及び衣類の製造方法  
代理人 橋本 薫  
代理人 橋本 薫  

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