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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1364895
異議申立番号 異議2019-700260  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-05 
確定日 2020-06-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6402810号発明「立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6402810号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6402810号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6402810号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-138268号)は、平成28年7月22日提出の特願2016-144862号、平成29年3月14日提出の特願2017-49036号及び平成29年6月6日提出の特願2017-111488号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、特許権者である株式会社リコ-によりされた、平成29年7月14日を出願日とする特許出願であり、平成30年9月21日に特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年10月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、平成31年4月5日に、請求項1?13に係る特許に対し、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、また、同年同月10日に、請求項1?13に係る特許に対し、特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされた。
令和1年7月10日付けで取消理由が通知され、同年9月13日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。その訂正の請求に対して、同年9月27日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知を行ったところ、同年10月30日に申立人Aから意見書が提出されたが、申立人Bからは何らの応答もなされなかった。
令和2年1月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年3月19日付けで特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。
なお、令和2年3月19日付けで特許権者により提出された訂正請求書による訂正の請求(2回目の訂正請求)は、令和1年9月13日に提出された訂正請求書による特許請求の範囲についての訂正(1回目の訂正請求)に、さらに、(Cd1-Cd2)を1回目の「≧7%」から、「7%以上11%以下」とし、また、(Cx1-Cx2)を、「≧9%」から「9%以上11%以下」として、それぞれの上限を限定する訂正をするものであって、1回目の訂正の請求後に、申立人A及びBに対して意見書の提出の機会を与えていることから、特許法120条の5第5項ただし書所定の特別の事情があると認め、申立人らに対し、同法同条同項所定の意見書を提出する機会を与えていない(審判便覧67-05.5 4.(1)参照。)。
また、1回目の訂正請求は取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
令和2年3月19日付けで特許権者により提出された訂正請求書によりなされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6402810号の明細書及び特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至13について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」と記載されているのを「(Tmf1?Tmf2)≧5.2℃」に、「(Cd1-Cd2)≧3%」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、「(Cx1-Cx2)≧3%」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ、訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2?13も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
明細書の【0007】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正し、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」と記載されているのを「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」に、「(Cd1-Cd2)≧3%」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、「(Cx1-Cx2)≧3%」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ、訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0010】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正し、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃となり、(Tmf1-Tmf2)≧5℃が好ましく」と記載されているのを「(Tmfl-Tmf2)≧5.2℃となり」に、「(Cd1-Cd2)≧3%となり、(Cd1-Cd2)≧5%が好ましく、(Cd1-Cd2)≧10%がより好ましい。」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。」に、「(Cx1-Cx2)≧3%となり、(Cx1-Cx2)≧5%が好ましく、(Cx1-Cx2)≧10%がより好ましい。」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。」に、それぞれ、訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0024】に、「2.50以下であり、2.00以下が好ましく」と記載されているのを、「2.00以下であり」に訂正する。

(5)一群の請求項について
本件訂正は、特許設定登録時(訂正前)の請求項1?13を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?13は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?13は一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1?13〕について請求されたものである。
なお、本件訂正の請求は、訂正事項2?4として、願書に添付した明細書の訂正を含むものであるところ、本件訂正の請求は、該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行われている。

3.訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に特定される立体造形用樹脂粉末の「体積平均粒径/個数平均粒径」を「2.50以下」から、より狭い範囲である「2.00以下」に訂正し、また、「(1)」における「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」をより狭い範囲である「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」の範囲に、「(2)」における「(Cd1-Cd2)≧3%」をより狭い範囲である「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、さらに、「(3)」における「(Cx1-Cx2)≧3%」をより狭い範囲である「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ訂正するものであるから、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)の【0024】、【0010】並びに【0117】の【表1】の実施例1、2、4及び6の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?13についての訂正も同様である。)

(2)訂正事項2?4について
訂正事項2?4は、訂正後の請求項1との対応関係を明瞭にするために、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させる訂正である。また、訂正事項2及び3の中、体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正する点に関しては、本件特許明細書等の【0007】及び【0010】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されていたのが、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」の誤記であることは、当該段落の記載が本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1に対応する記載であることや、本件特許明細書等の【0024】に、「前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上やリコート性向上の点から、2.50以下であり」と記載されていたことから当業者に明らかであることから、上記の誤記をあわせて訂正するものである。
すなわち、訂正事項2及び3は、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものであるし、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記の本件特許明細書等の記載及び上記(1)で訂正事項1について指摘した本件特許明細書等の記載によれば、訂正事項2?4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?13に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1?13をまとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、
下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たすことを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。
【請求項2】
前記50%累積体積粒径が、20μm以上70μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、100℃以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記体積平均粒径/個数平均粒径が、1.50以下である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記ポリアミドが、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項5に記載の立体造形用樹指粉末。
【請求項7】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項5かも6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記ポリアリールケトンが、ポリェーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項5から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉粉末。
【請求項9】
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
強化剤をさらに含む請求項1から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
難燃剤をさらに含む請求項1から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末が貯蔵されている供給槽と、
前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させ粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、
前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程と、を繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法。」

第4 申立人A及びBが特許異議申立書で主張する特許異議の申立ての理由の概要
訂正前(特許の設定登録時)の請求項1?13に係る特許に対して、申立人A及びBが申立てていた申立理由の概要は、それぞれ、以下のとおりである。

1.申立人Aが特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議の申立ての理由の概要
訂正前の請求項1?13に係る特許に対し、申立人Aが申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、請求項1?13に係る発明についての特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果は認められず、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(4)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(5)の甲第1号証?甲第5号証(以下、各甲号証の数字を付して「甲1A」等という。)を提出した。

(1)申立理由A1(甲1Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1?3、5、10、12及び13に係る発明は、甲1Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由A2(甲2Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1?6、9、12及び13に係る発明は、甲2Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由A3(甲1Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、3、5、10、12及び13に係る発明は、甲1Aに記載された発明から、あるいは、甲1Aに記載された発明と甲2A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項2に係る発明は、甲1Aに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項7及び8に係る発明は、甲1Aに記載された発明から、あるいは、甲1Aに記載された発明と甲2A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?3、5、7、8、10、12及び13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?3、5、7、8、10、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由A4(甲2Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、3、5、10、12及び13に係る発明は、甲2Aに記載された発明から、あるいは、甲2Aに記載された発明と甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項2、4及び9に係る発明は、甲2Aに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項6及び11に係る発明は、甲2Aに記載された発明、あるいは、甲2Aに記載された発明及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項7及び8に係る発明は、甲2Aに記載された発明から、あるいは、甲2Aに記載された発明と甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5)証拠方法
・甲1A:特開2017-43654号公報(公開日:平成29年3月2日)
・甲2A:国際公開第2016/104140号
・甲3A:実験証明書(東レ株式会社 ケミカルプロセス技術部 プロセス開発第2室長 竹田多完により、2019年3月25日に作成されたもの。)
甲3Aの実験内容に関して、添付書類として以下の資料が添付されている。
ア 図1(図1-1および図1-2):サンプルAおよびサンプルBの50%累積体積粒径、体積平均粒径、個数平均粒径の測定チャート
イ 図2(図2-1および図2-2):サンプルAおよびサンプルBの示差走査熱量測定による融解開始温度と結晶化度の測定チャート
ウ PPSの屈折率に関する根拠資料(Journal of Polymer Science:Part B:Polymer Physics,Vol.31,p1951?1963(1993))およびその部分翻訳
エ ポリアミド12の屈折率に関する根拠資料(分析化学(1983)32巻4号p258?263)
オ PPSの完全結晶融解熱量に関する根拠資料(Polymer Engineering and Science, January 1989,vol.29,No.2,p140?150)およびその部分翻訳
カ ポリアミド12の完全結晶融解熱量に関する根拠資料(NSTI-nanotech2004,vol.3,p280?283)およびその部分翻訳とポリアミド12(PA12)の完全結晶融解熱量であることの説明
・甲4A:特表2015-500375号公報
・甲5A:実験証明書(東レ株式会社 ケミカルプロセス技術部 プロセス開発第2室長 北村哲により、2019年10月25日に作成されたもの。)
甲5Aの実験内容に関して、添付書類として以下の資料が添付されている。
ア 図1:サンプルの50%累積体積粒径、体積平均粒径、個数平均粒径の測定チャート
イ 図2:サンプルの示差走査熱量測定による結晶化度の測定チャート
ウ 図3:サンプルのX線回折による結晶化度の測定チャート
エ ポリアミド12の屈折率に関する根拠資料(分析化学(1983)32巻4号p258?263)
オ ポリアミド12の完全結晶融解熱量に関する根拠資料(NSTI-nanotech2004,vol.3,p280?283)およびその部分翻訳とポリアミド12(PA12)の完全結晶融解熱量であることの説明
(なお、甲5Aは、令和1年10月30日提出の意見書に添付して提出されたものである。)

2.申立人Bが申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要
本件訂正前の請求項1?13に係る特許に対し、申立人Bが申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(2)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(3)の甲第1号証?甲第7号証(以下、各甲号証の数字を付して「甲1B」等という。)を提出した。

(1)申立理由B1(甲1Bに基づく新規性)
本件特許の請求項1?6及び13に係る発明は、甲1Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由B2(甲2Bに基づく進歩性)
本件特許の請求項1?13に係る発明は、甲2Bに記載された発明と、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)証拠方法
・甲1B:特開平11-216779号公報
・甲2B:国際公開第2016/084928号
・甲3B:特表2015-500375号公報
・甲4B:特開2006-321711号公報
・甲5B:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 8」(縮刷版第39刷)、共立出版株式会社、2006年9月15日、p.731?733
・甲6B:実験報告書(エヴォニック リソース エフィシエンシー有限会社 ハイパフォーマンスポリマーズのクララ ヴァイス博士/C.T.クリスチャン ブリンクメラーにより作成された 製品名VESTOSINT(登録商標)1115 nf についての2019年3月6日付けの試験データ)
・甲7B:デグッサ-ヒュルス株式会社による「VESTOSINT 1115 nf」の製品情報(2000年10月)

第5 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1?13(令和1年9月13日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?13)に係る特許に対して、当審合議体が令和2年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

1.取消理由A(甲4Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1?9、12及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲4Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1?9、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.取消理由B(甲4Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項10及び11に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲4Aに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項10及び11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6.取消理由(決定の予告)に対する判断
1.甲4Aの記載事項及び甲4Aに記載された発明
(1)甲4Aの記載事項
甲4Aには以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「【0001】
本開示は、一般に、粉末に基づく付加製造に関し、特に、付加製造用の前処理された材料を用いた熱に誘導される焼結または溶融のための方法およびシステムに関する。
【0002】
粉末に基づく付加製造の商業的に使用される方法の1つは、選択的レーザー焼結(「SLS」)処理である。この方法は、3次元物体の固体で自由形状の製造に有用である。SLS処理の場合、実施可能な材料としては、ポリマー(たとえば、ナイロン型材料)が挙げられる。にもかかわらず、より広い範囲のこのような材料が望まれている。」
「【0004】
図1は、全体的に100で示されている例示的実施形態のSLSシステムの概略斜視図である。図2は、システム100の概略切り欠き斜視図である。システム100は、粉末材料を処理することによって物体を形成する。図1に示されるように、システム100は、少なくとも1つの部品台102と、部品台102の上面106にエネルギーを誘導するためのエネルギー誘導機構104(たとえば、CO2レーザー)と、カートリッジ110から部品台102上に未融合粉末の平滑な層を分布させるための供給機構108(たとえば、ローラー、ブレード、またはその他のスプレッダー)と、システム100の動作を自動制御するためのコンピュータ112とを含む。明確にするため、図1は、コンピュータ112とシステム100の他の構成要素との間の種々の接続は示していない。次に、コンピュータ112は、人間の使用者(図1中には示していない)からの指示に応答して動作する。
【0005】
例示的実施形態において、部品台102は、酸素が制御されたキャビネットまたはチャンバーの中に配置され、システム100は、部品台102上の粉末を好適な温度に維持する(たとえば、ヒーターを使用)。上面106上の粉末の第1の層中では、コンピュータ112からの信号に応答して:(a)エネルギー誘導機構104によってエネルギーが誘導されて、図2に示されるような断面領域204中の粉末に当てられ;(b)このように誘導されたエネルギーによって、断面領域204の温度が、断面領域204中の粉末202を軟化させ互いに融合させるのに十分な温度まで上昇し、それによって図2に示されるように融合した粉末206となり;(c)同じ方法で、システム100は、1つ以上の他の断面領域中の粉末を選択的に融合させて、物体の第1の層を形成するように運転可能であり、これはコンピュータ112によって指定される。一例では、このような融合は、粉末粒子の外面を軟化させることによって(たとえば、それらを部分的に溶融させることによって)実現され、それによってそれらが互いに融合(または「固着」)し、それらが完全に溶融するかどうかは無関係である。
【0006】
システム100によって物体の第1の層が形成された後、システム100によって:(a)指定の層厚さだけ部品台102が下降し;(b)さらなる指定の層厚さだけ粉末供給のカートリッジ110が上昇し;(c)供給機構108により、カートリッジ110からの粉末の第2の層が、粉末の第1の層の上になめらかに分散し(たとえば広げられ);(d)1つ以上の断面領域中で粉末が選択的に融合して、物体の第2の層が(粉末の第2の層中に)形成され、物体の第2の層が物体の第1の層と融合する。同じ方法で、システム100はこのプロセスを繰り返して、物体の全体の形状が形成されるまで、物体の連続した層が(粉末の連続した層中に)形成される。したがって、システム100は、付加層デジタル製造技術としてレーザー焼結を行い、システム100によって:(a)水平面上に、粉末の複数の層を広げ、これが集まって図2に示されるように粉末208の床を形成し;(b)エネルギー誘導機構104(たとえば、赤外レーザービームまたは電子ビーム)を使用して、それらの層中の断面領域を選択的に融合(たとえば焼結)させることが、繰り返し行われる。」
「【0017】
SLS処理の場合、EOS PA 2201が好適な二重融点材料の1つである。この材料はドイツのEOS Gmbhから入手可能である。また、米国の企業の3D SYSTEMS,Incは、「DURAFORM PA」の製品名の材料を供給している。この材料は少なくとも2つの結晶状態を有する。たとえば、このような材料は先に溶融させていない場合、このような材料のDSCによって:(a)その溶融温度(「第1の溶融ピーク」または「Tm1」)が通常約186℃であり;(b)冷却すると、約145℃で再結晶することが示される。比較として、このような材料をあらかじめ溶融させた場合、このような材料のDSCによって、その溶融温度(「第2の溶融ピーク」または「Tm2」)が約178℃まで低下し、その第2の溶融ピーク開始温度(「Tmo(2)」が約172℃まで低下したことが示される。
【0018】
従来のSLS材料およびそれらの溶融挙動の例を以下の表に示す。

【0019】
・・・上記表に示される温度測定値は、ASTM D3418-03(Standard Test Method for Transition Temperatures and Enthalpies of Fusion and Crystallization of Polymers by Differential Scanning Calorimetry)に準拠しTA Instruments TA Q10 DSC装置を用いて得られた。Tm、Trc、開始点、および溶融エンタルピー(ΔHm)を測定するために、標準的なアルミニウムパンを使用し、加熱および冷却を以下のように行った:(1)40℃で平衡させ、(2)10℃/分で215℃まで上昇させ、(3)5分間等温で維持し、(4)-10℃/分で50℃まで低下させ、(5)1分間等温で維持し、次に(6)10℃/分で250℃まで上昇させる。」
「【0028】
第1の例として、窒素雰囲気下の密閉容器中、システム500によって、ARKEMA ORGASOL 2003材料であるARKEMA ORGASOL lot 265のサンプル(「ORGASOL 2003サンプル」)材料の前処理を行った。ARKEMA ORGASOL 2003材料は、仏国のARKEMA Corporationより入手可能なナイロン12粉末である。SLS処理の場合、ARKEMA ORGASOL 2003材料は、特に、より一般的に使用される材料(たとえば、EOS PA 2201、EOS PA 2200、3D SYSTEMS Duraform PA)と比較すると、比較的使用が困難である。市販のSLS粉末は大きな比率で、EOS PA 2201、EOS PA 2200、および3D SYSTEMS Duraform PA材料をベースポリマー成分として含む。」
「【図1】

【図2】



(2)甲4Aに記載された発明
上記(1)で指摘した甲4Aの記載事項、特に【0002】、【0018】及び【0028】によれば、甲4Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「選択的レーザー焼結(SLS)処理による3次元固体物体の製造に使用するためのナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料。」(以下、「甲4A粉末発明」という。)

2.本件発明1と甲4A粉末発明との対比
本件発明1と甲4A粉末発明とを対比する。
甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、本件発明1の「樹脂粉末」に相当するし、甲4A粉末発明の当該材料が「選択的レーザー焼結(SLS)処理による3次元固体物体の製造に使用するため」のものであることは、本件発明1の粉末が「立体造形用」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲4A粉末発明とは、下記の点で一致し、下記の点で一応相違する。
<一致点>
立体造形用樹脂粉末。

<相違点1>
立体造形用樹脂粉末の粒径について、本件発明1では「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では粒径が不明である点。
<相違点2>
立体造形用樹脂粉末の粒度分布について、本件発明1では「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では粒度分布が不明である点。
<相違点3>
立体造形用樹脂粉末について、本件発明1では「下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たす」ものであるとして、
「(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。」
と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では、かかる特定はされていない点。
(以下、上記(1)?(3)の条件をそれぞれ、「条件(1)」?「条件(3)」という。)

3.取消理由Aについて
(1)本件発明1について
本件発明1と甲4A粉末発明には上記2.に記載のとおりの相違点1?3がある。
そして、事案に鑑み相違点3から検討すると、相違点3に関して申立人Aが提出した実験証明書(甲5A)によれば、甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、Cd1が46%でCd2が21%、つまり、Cd1-Cd2=25%であるから、本件発明1の条件(2)(22%以下)を満たさないし、また、Cx1が60.64%でCx2が42.79%、つまり、Cx1-Cx2=17.85%であるから、本件発明1の条件(3)(11%以下)も満たさない。
また、甲4Aの【0018】には、「ARKEMA ORGASOL 2003」の第1融解ピークTm1が182℃で、第2融解ピークTm2が178℃であることが記載されており、この差は、4℃である。そして、融解ピークの測定条件は、【0019】によれば、本件発明1で特定される条件(1)の示差走査熱量測定方法とは厳密には一致しないものの、少なくとも第1回目と第2回目の吸熱ピークの溶融開始温度である点では一致しており、測定条件によりその値は大きくは変わらないと解されるから、甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、本件発明1の条件(1)(≧5.2℃)を満たさない蓋然性が高い。
そうすると、本件発明1は、少なくとも相違点3で甲4A粉末発明と実質的に相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、甲4Aに記載された発明であるということはできない。

(2)本件発明2?9、12、13について
本件発明2?9、12、13は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明である。
そうすると、本件発明2?9、12、13は、上記(1)で説示したとおり、少なくとも相違点3で甲4A粉末発明と実質的に相違している。
よって、本件発明2?9、12、13についても、甲4Aに記載された発明であるということはできない。

4.取消理由Bについて
本件発明10及び11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であって、本件発明10及び11と甲4A粉末発明とは、上記3.(1)で説示したとおり、少なくとも相違点3で相違している。
そして、甲4Aには、当業者が、甲4A粉末発明の「ARKEMA ORGASOL 2003材料」を、条件(1)?(3)を満たすものとする動機となる記載はないし、申立人A及びBが提出した他のすべての証拠を参酌しても同様である。
よって、当業者は、甲4A粉末発明の「ARKEMA ORGASOL 2003材料」を、条件(1)?(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、請求項1を引用する本件発明10及び11の立体造形用樹脂粉末は、条件(1)?(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内という、優れた「リサイクル性」が達成できるものであるし、更に、粉末が強化剤を含む本件発明10及び難燃剤を含む本件発明11の粉末では、これに加えて、優れた難燃性、優れたオレンジピール性も達成できるものである(本件特許明細書の【0008】、【0114】、【0115】、【0118】の表2の実施例1?8の欄の記載、【0131】の表3の実施例9?17の欄の記載、【0144】、及び、【0145】の表4の実施例18?23の欄の記載参照。)。
そして、本件発明10及び11により奏される上記リサイクル性等の優れた効果は、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
よって、本件発明10及び11について、甲4A粉末発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5.小括
以上のとおりであるから、本件発明1?9、12及び13についての取消理由A、及び、本件発明10?11についての取消理由Bには理由がなく、取消理由A及びBによって本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。

第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立人Aによる申立理由について
1.本件特許の優先権主張の効果の有効性について
本件特許に係る出願は、特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)、特願2017-49036号(平成29年3月14日提出)及び特願2017-111488号(平成29年6月6日提出)を優先基礎出願とする優先権主張を伴ってなされた特許出願であるところ、申立人Aは、申立書において、特許設定登録時の請求項1及びこれを直接あるいは間接的に引用する本件発明2?13に関し、請求項1に特定される発明特定事項のうち、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」、「(Cd1-Cd2)≧3%」、及び「(Cx1-Cx2)≧3%」との技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号及び特願2017-49036号には、記載されていない事項であり、上記の技術的事項は、特願2017-111488号において初めて記載された事項であるから、請求項1?13については、特願2017-111488号に基づく優先権主張の効果は認められるが、特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果は認められない旨主張していた。
しかしながら、本件訂正後の請求項1?13は、上記第3に記載したとおりのものであるところ、本件発明1及び請求項1を直接あるいは間接的に引用する本件発明2?13に関し、請求項1に特定される発明特定事項である、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」との技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)の【0024】に「前記粉末の50%累積体積粒径としては、・・・5μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上70μm以下がより好ましく、20μm以上50μm以下が特に好ましい。また、前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上やリコート性向上の点から、2.50以下であり、2.00以下が好ましく、・・・。」と記載されていた。
また、「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」、「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」、及び「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」との技術的事項については、特願2016-144862号の請求項1の「Tmf1>Tmf2」、「Cd1>Cd2」、「Cx1>Cx2」との記載、【0022】の「結晶性が制御されることにより・・・前記DSCでの吸熱ピークの開始温度が高温側にシフトする。そのため、樹脂の吸熱温度が明確になり、レーザー中心部においてのみ溶解するシャープメルトの融点の開始温度から、吸熱終了ピーク温度までの幅が細かいことにおり、より制御された状態で所望の溶融条件を達成することができる。」との記載、【0023】の「前記シャープメルト性から、レーザー周辺部の樹脂間の溶解に伴う焼結が減ることにより、寸法安定性が高まることに加え、ロスが発生しにくくなりリサイクル性を向上できる。さらには樹脂自身の結晶化度が高いことにより、樹脂の吸水性が抑制でき、水分による造形時の気泡等が出なくなるため、寸法安定性が高くなる。
さらに、造形中は保温により加温する際、加水分解し樹脂の劣化につながるが、前述した樹脂の吸水率も抑制できるからリサイクル性の低下も抑制できる。」との記載がされていたし、特願2016-144862号の明細書等には、前記「(1)」におけるTmf1とTmf2の差、「(2)」におけるCd1とCd2との差、「(3)」におけるCx1とCx2との差がより大きい方が好ましいことが開示されていた。その上、【表1】の実施例6に、Tmf1が112.5℃でTmf2が107.3℃(つまり、Tmf1-Tmf2が5.2℃)、Cd1が30%でCd2が23%、(つまり、Cd1-Cd2が7%)の具体例が、実施例4に、Cd1が56%でCd2が34、つまり、Cd1-Cd2が22%の具体例が、実施例1に、Cx1が39%でCx2が30、つまり、Cx1-Cx2が9%の具体例が、実施例2に、Cx41%でCx2が30、つまり、Cx1-Cx2が11%の具体例が記載されていた。
これらの点を総合的に勘案すれば、「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」、「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」、及び「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」との技術的事項は、特願2016-144862号の明細書等に記載されていたといえる。

以上のとおり、本件訂正後の請求項1-13に記載の技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)に記載されていた事項であるといえるから、本件発明1-13については、特願2016-144862号に基づく優先権主張の効果が認められる。

2.申立理由A1(甲1Aに基づく新規性)及び申立理由A3(甲1Aを主引用文献とする進歩性)について
申立理由A1及びA3は、本件発明1?13について、特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果が認められないことを前提とするものである。しかしながら、上記1.で記載したとおり、少なくとも、特願2016-144862号に基づく優先権主張の効果は認められるから、本件特許の優先日は特願2016-144862号の提出日である平成28年7月22日となる。
そうすると、それより後の平成29年3月2日に出願公開された甲1Aは、特許法第29条第1項第3号所定の刊行物にはあたらない。
よって、申立理由A1及びA3には理由がなく、申立理由A1及びA3によって本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。。

3.申立理由A2(甲2Aに基づく新規性)及び申立理由A4(甲2Aを主引用文献とする進歩性)について
(1)甲2Aに記載された発明
甲2Aの、比較例3([0136])の記載及び比較例3で参照される実施例1の記載([0129])によれば、甲2Aには、比較例3に、以下のポリアミド12微粒子が記載されているといえるところ、甲2Aの[0007]に記載のとおり、ポリアミド12樹脂粉末は、従来から粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として一般的に用いられており、比較例3に記載のポリアミド微粒子のようにカーボンブラックを含有しない比較例3のポリアミド12微粒子であっても、カーボンブラックの含有に起因する帯電防止性の機能は発揮されない(甲2Aの[0138])としても、粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用可能であることは、当業者に明らかであるから、甲2Aの[0007]、[0129]、[0136]、[0138]の記載を参酌しつつ、比較例3(及び比較例3で参照される実施例1)の記載を中心にまとめると、甲2Aには、以下のポリアミド12微粒子の発明が開示されているといえる。

「以下の<ポリアミド12微粒子の製造方法>により得られた、数平均粒子径Dnが18μm、粒子径分布指数PDIが1.3、真球度Smが97%の、白色の、粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用するためのポリアミド12微粒子。
<ポリアミド12微粒子の製造方法>
1Lの耐圧ガラスオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、ハイパーグラスターTEM-V1000N)に、ポリアミド12(アルケマ株式会社製、‘リルサミド(登録商標)’AESNO TL)10質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM-14、重量平均分子量29,000)7質量部、有機溶媒(C)としてN-メチル-2-ピロリドン83質量部を入れ、攪拌羽としてヘリカルリボン翼を用いて回転数200rpmで攪拌しながら180℃まで約30分かけて昇温した後、180℃で保持したまま回転数350rpmで2時間攪拌を行った。続いて、350rpmで攪拌しながら、貧溶媒(D)として100質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.83質量部/分のスピードで滴下し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を減圧濾過で固液分離し、イオン交換水100質量部で洗浄し、濾別した固形物を、80℃で真空乾燥することで、ポリアミド微粒子粉体を得た。」(以下、「甲2A微粒子発明」という。)

(2)申立理由A2について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2A微粒子発明とを対比する。
・甲2A微粒子発明の「粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用するためのポリアミド12微粒子」は、本件発明1の「立体造形用樹脂粉末」に相当するといえる。
・甲2A微粒子発明の「粒子径分布指数PDI」と本件発明1の「体積平均粒径/個数平均粒径」は、「粒度分布」の指標である限りにおいて一致している。

そうすると、本件発明1と甲2A微粒子発明とは、下記の点で一致し、下記の点で一応相違する。
<一致点>
「所定の粒径と所定の粒度分布を有する立体造形用樹脂粉末。」
<相違点4>
立体造形用樹脂粉末の所定の粒径について、本件発明1では「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているのに対し、甲2A微粒子発明では「数平均粒子径Dnが18μm」と特定されている点。
<相違点5>
立体造形用樹脂粉末の所定の粒度分布について、本件発明1では「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているのに対し、甲2A微粒子発明では「粒子径分布指数PDIが1.3」と特定されている点。
<相違点6>
立体造形用樹脂粉末について、本件発明1では、「(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たすこと」が特定されているのに対し、甲2A微粒子発明ではかかる特定はされていない点。

以下、事案に鑑み相違点6から検討する。
申立人Aが提出した実験証明書(甲3A)によれば、甲2Aの比較例3で得られた微粒子(すなわち、甲2A微粒子発明の微粒子)は、Tmf1が167.80℃でTmf2が164.61℃、つまり、Tmf1-Tmf2)=3.19℃であるから、本件発明1の条件(1)(≧5.2℃)を満たさないし、Cd1が33%でCd2が28%、つまり、Cd1-Cd2=5%(≧3%)であるから、本件発明1の条件(2)(7%以上)を満たさない。
また、甲2A微粒子発明の微粒子が、本件発明1の条件(1)を満たすことを示す証拠は提出されていないし、それが優先日当時の技術常識であったことをうかがわせる事情は見受けられない。
そうすると、本件発明1は、少なくとも相違点6で甲2A微粒子発明と相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、甲2Aに記載された発明であるということはできない。

イ 本件発明2?6、9、12及び13について
本件発明2?6、9、12及び13は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明である。
そうすると、本件発明2?6、9、12及び13は、上記アで説示したとおり、少なくとも相違点6で甲2A微粒子発明と相違している。
したがって、本件発明2?6、9、12及び13についても、甲2Aに記載された発明であるということはできない。

ウ よって、申立理由A2には理由がない。

(3)申立理由A4について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2A微粒子発明には、上記(2)アに記載のとおりの相違点4?6がある。
そして、事案に鑑み相違点6から検討するに、甲2Aには、当業者が、甲2A微粒子発明を、相違点6に係る構成である本件発明1の条件(1)?(3)を満たすものとする動機となる記載はないし、また、甲1A、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のすべての証拠を参酌しても同様である。更に、立体造形用樹脂粉末を上記条件(1)?(3)を満たすものとすることが、優先日当時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者は、甲2A微粒子発明のポリアミド12微粒子を、上記条件(1)?(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、上記第6 4.で説示したとおり、条件(1)?(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという優れた効果が奏される(本件特許明細書の【0008】、【0114】、【0115】、【0118】の表2の実施例1?8の欄の記載、【0131】の表3の実施例9?17の欄の記載、【0144】、及び、【0145】の表4の実施例18?23の欄の記載参照。)。
そして、上記本件発明1により奏される効果、特に、造形作業を10回分繰り返しリサイクルした場合に奏される、優れた「リサイクル性」の効果は、甲2A、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1について、甲2A微粒子発明、及び、甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項、更には、申立人が提出した他の各甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(なお、甲1Aについては、2.で述べたとおり、特許法第29条第1項第3号所定の刊行物にはあたらない。)

イ 本件発明2?13について
本件発明2?11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるし、本件発明12は、本件発明1の粉末が貯蔵されている供給槽を有することが必須の立体造形物の製造装置に関する発明であり、また、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2?13は、甲1B発明と、少なくとも、上記(2)アに記載の相違点4?6で相違している。
そして、相違点6についての判断は、上記(3)アで説示したとおりであるから、本件発明2?13について、甲2A微粒子発明、及び、甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項、更には、申立人が提出した他の甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ よって、申立理由A4には理由がない

(4)小括
以上のとおり、本件発明1?9、12及び13についての申立理由A2、及び、本件発明1?13についての申立理由A4には理由がなく、申立理由A2及びA4によって本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。

第8 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立人Bによる申立理由について
1.申立理由B1(甲1Bに基づく新規性)について
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bの請求項1及び【0017】によれば、甲1Bには、以下の発明が記載されているといえる。
「粉末状材料の選択的レーザー焼結により成形体を製造するための、平均粒径が50?150μmであるポリアミド12粉末状材料であって、次のパラメータを有する粉末材料。
融解温度185?189℃
融解エンタルピー112±17J/g
凝固温度138?143℃」(以下、「甲1B発明」という。)

(2)本件発明1について
本件発明1と甲1B発明とを対比すると、両者は、「立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7>
本件発明1では、粉末の平均粒径について、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているが、甲1B発明では、「50?150μm」と特定されており、その測定法も不明である点。
<相違点8>
本件発明1では、粉末の粒径について、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているが、甲1B発明では、かかる特定はない点。
<相違点9>
本件発明1では、粉末について、「(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たす」と特定されているが、甲1B発明では、かかる特定はない点。

そして、相違点7?9は実質的な相違点であるから、本件発明1について甲1B発明であるということはできない。

なお、申立人Bは、申立書において、相違点7に関しては、重複一致しているし、相違点8に関しては、粒径から見て一致する蓋然性高いし、相違点9に関しては、甲6Bによれば、甲1B発明のパラメータを満たすPA12であるVESROSIND1115粉末が条件(1)を満たすから、本件発明1は、実質的に甲1Bに記載された発明である旨主張する。
しかしながら、まず、相違点7に関しては、平均粒径には、体積平均粒径、個数平均粒径等複数の測定法が知られており、それらの値は必ずしも一致するものではないから、数値範囲が重複していることのみをもってただちに、一致しているとすることはできない。
また、相違点8に関しては、粒径が50?150μmであれば「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」となることが本件の優先日当時の技術常識であったとはいえないから、申立人Bの主張には根拠がない。
さらに、相違点9に関し、申立人Bは、甲6Bに基づいて、甲1B発明の粉末材料は条件(1)を満たすと主張するが、甲6Bに記載の粉末が甲1B粉末材料と同じ粉末であるとする根拠がない(このことは、甲6Bの粉末の冷却時のTkp(凝固温度)は144.6℃であり、甲1B発明の粉末材料の有する特性(138?143℃)を満たしていないことからも理解できる。)から、甲6Bを参酌しても、甲1B発明の粒子が条件(1)を満たすとはいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。

(3)本件発明2?6及び13について
本件発明2?6は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係るものであるし、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2?6及び13は甲1B発明と、少なくとも、上記(2)で記載した相違点7?9で相違している。
そして、相違点7?9は、上記(2)で記載したとおり実質的な相違点であるから、本件発明2?6及び13についても、甲1B発明であるということはできない。

(4)以上のとおりであるから、申立理由B1には理由がない。

2.申立理由B2(甲2Bに基づく進歩性)について
(1)甲2Bに記載された発明
甲2Bの[0021]、[0078]及び[0085]の熱可塑性粒子1についての記載によれば、甲2Bには、以下の発明が記載されているといえる。
「体積基準の平均粒子径をDv(μm)、粉末の個数基準の平均粒子径をDn(μm)としたときに、Dv/Dnが1.00以上10.0以下である、積層造形法に用いられる熱可塑性粒子粉末であって、粉末に含まれる熱可塑性粒子は、体積基準の平均粒子径が20μm以上80μm以下であり、水溶性有機材料と非水溶性有機材料とを含有するものである熱可塑性粒子粉末。」(以下、「甲2B発明」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2B発明とを対比すると、甲2B発明の「体積基準の平均粒子径」は、本件発明1の「50%累積体積粒径」に相当するし、甲2B発明の粒子径「20μm以上80μm以下」は、本件発明1の「5μm以上100μm以下」に含まれる。
また、甲2B発明の「Dv/Dn」は「体積平均粒径/個数平均粒径」に相当するから、本件発明1と甲2B発明の「体積平均粒径/個数平均粒径」は、「1.00以上2.00以下」の範囲で重複一致している。
そうすると、本件発明1と甲2B発明とは、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下である立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点10>
本件発明1では、粉末について、「(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たす」と特定されているが、甲2B発明では、かかる特定はない点。

イ 相違点10についての判断
甲2Bには、当業者が、甲2B発明を相違点10に係る構成である本件発明1の条件(1)?(3)を満たすものとすることを動機付ける記載はないし、甲3B?甲5Bを含め、申立人A及びBが提出したいずれの証拠を参酌しても同様である。また、立体造形用樹脂粉末を上記条件(1)?(3)を満たすものとすることが、優先日当時の技術常識であったとはいえない。
そうすると、当業者は、甲2B発明の熱可塑性粒子粉末を、上記条件(1)?(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、上記第6 4.で説示したとおり、条件(1)?(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという優れた効果が奏されるものであり、本件発明1により奏される「リサイクル性」の効果は、甲2B?甲5Bを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
よって、本件発明1について甲2B発明、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

なお、申立書において、申立人Bは、甲5Bに示されるように、立体造形用樹脂を熱処理することにより、その物性に影響を与えることは、本件の優先日当時の周知・慣用の技術であるところ、甲3Bの【0018】等には、レーザー焼結用の熱可塑性ポリマー粉末の溶融温度(Tm)、再結晶温度(Trc)または溶融エンタルピー(ΔHm)を変化させるために、10℃/分で熱処理すること、熱処理後の熱可塑性ポリマー粉末の溶融温度(第2の溶融ピークまたはTm2)は、熱処理前の溶融温度(第1の溶融ピークまたはTm1)よりも低いこと、つまり本件発明1による「Tmf1>Tmf2」が記載されているし、甲3Bには、さらに、粉末の性質が粉末の要求挙動に依存し、粉末が溶融する温度(Tm)と、粉末が再結晶する温度(Trc)との間に、比較的大きな正の差がある場合には、レーザー焼結により形成された物体のゆがみまたは変形が起こりにくいことが記載されているから、甲2Bに記載の立体造形用樹脂粉末を熱処理して、その物性を適宜変更して条件(1)を満足するものとすることは極めて容易である旨主張する。
しかしながら、甲3Bは、上記第6で指摘した甲4Aと同じ文献であり、甲4Aには、上記第6 1.(1)で摘記したとおりの記載があるが、上記第6 3.で説示したとおり上記条件(1)?(3)について記載されているとはいえない。一方、上述のとおり、条件(1)?(3)を満たす本件発明1は、条件(1)?(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという、甲2B、甲3Bを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果が奏される。
また、甲2B発明は、積層造形プロセスにおける積層後に水を含む液体と接触させることで除去可能なサポート粉末の水溶性有機材料が、熱で軟化しやすい問題があったのを解決して、非水溶性材料と併用することで積層造形プロセスにおける温度制御を容易にできる造形材料とした点に特徴を有するものであって(甲2Bの[0010]、[0039]-[0041])、かかる特徴を有する造形材料粉末を、水等で除去可能なサポート粉末の使用を前提としていない甲3Bの造形材料に関する技術と組み合わせる動機がないから、かかる点でも、請求人の主張は妥当性を欠く。
さらに、甲5Bには、ポリアミド繊維が熱処理によりセットできることが本件特許の優先日当時の技術常識であったことが記載されるのみである。

以上のとおりであるから、本件発明1について、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。申立人A及びBが提出した他の証拠を参酌しても同様である。

(3)本件発明2?13について
本件発明2?11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるし、本件発明12は、本件発明1の粉末が貯蔵されている供給槽を有することが必須の立体造形物の製造装置に関する発明であり、また、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2?13は、甲2B発明と、少なくとも、上記(2)アに記載の相違点10で相違している。
そして、相違点10についての判断は、上記(2)イで説示したとおりであるから、本件発明2?13について、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて、更には、申立人が提出した他の甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)よって、申立理由B2には理由がない。

3.小括
以上のとおり、本件発明1?6及び13についての申立理由B1、及び、本件発明1?13についての申立理由B2には理由がなく、申立理由B1及びB2によって本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。

第9 むすび
以上のとおり、請求項1?13に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他にこれらの請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式は、選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective leser sintering)方式や、マスクを使い平面状にレーザーを当てるSMS(selective mask sintering)方式などが知られている。
【0003】
前記PBF方式は、レーザー光線を金属やセラミック又は樹脂の薄層に選択的にレーザーを選択的に照射することにより粉末を溶融接着させ、成膜した後、前記成膜した膜の上に別の層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して立体造形物を得ることができる(例えば、特許文献1?3参照)。
【0004】
前記PBF方式の樹脂粉末を使用する場合では、薄層間の内部応力を低く維持することと緩和(リラックス)しながら、供給槽に供給された樹脂粉末の層を樹脂の軟化点付近の温度まで加熱しておき、この層にレーザー光線を選択的に照射し、照射された樹脂粉末自身を軟化点以上の温度まで加熱して相互に融着させることにより立体造形が行われる。
【0005】
現在、PBF方式には、ポリアミド樹脂が多く用いられ、特に、ポリアミド12は、ポリアミドの中でも比較的低い融点を有し、熱収縮率が小さい点や吸水性がポリアミドの中で低い点から好適に用いることができる。
近年では、試作用途の他に、造形物を最終製品として使用する需要が増えてきており、様々な樹脂を使用したい要望が増えてきている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リサイクル性に優れ、引張初期強度が良好であるととともに、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができる立体造形用樹脂粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明の立体造形用樹脂粉末は、50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たす。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、リサイクル性に優れ、引張初期強度が良好であるととともに、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができる立体造形用樹脂粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1Aは、円柱体の一例を示す概略斜視図である。
【図1B】図1Bは、図1Aの円柱体の側面図である。
【図1C】図1Cは、円柱体の端部に頂点を持たない形状の一例を示す側面図である。
【図2】図2は、本発明の立体造形物の製造装置の一例を示す概略説明図である。
【図3A】図3Aは、吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を説明する図である。
【図3B】図3Bは、吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(立体造形用樹脂粉末)
本発明の立体造形用樹脂粉末(結晶性熱可塑性樹脂組成物)は、50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たし、更に必要に応じてその他の成分を含む。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となり、(Tmf1-Tmf2)≧10℃がより好ましい。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。
【0011】
従来の樹脂粉末では、PBF方式の装置の使用後にレーザーが照射されなかった部分の樹脂が固まる等により無駄となるポリマーの量が多いという問題がある。また、PBF方式での選択性を与えると非照射粉末の相当量が残るため、PBF方式の非照射粉末(余剰粉末)の再利用に対する努力がなされてきているが、まだ不十分な状態である。さらに、レーザーや加温を受けた粉末材料は変化を受ける傾向にあり、溶融粘度や粉末の流動性が未使用の新品粉末に劣り、2回?3回の使用にて全ての粉末を処分するというリサイクル性が低いという問題がある。一般的には、繰り返しの利用回数を増やすため、半分から8割程度の新品の粉末を利用しているが、結晶性樹脂粉末を使うためには、PBF方式用の結晶性熱可塑性樹脂粉末としての機能を持たせる必要がある。
【0012】
前記(1)?前記(3)は、同一の立体造形用樹脂粉末について、異なる視点から特性を規定したものであり、前記(1)?前記(3)は互いに関連しており、前記(1)?前記(3)から選択される少なくとも1種により測定することができれば本発明の立体造形用樹脂粉末を同定することができる。
【0013】
前記立体造形用樹脂粉末は、結晶性熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。
本発明において、熱可塑性樹脂粉末については、結晶制御された結晶性熱可塑性樹脂が用いられる。前記結晶性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性を有する結晶性樹脂を意味し、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定した場合に、融解ピークを有するものを意味する。
また、前記結晶制御された結晶性熱可塑性樹脂とは、熱処理、延伸、外部刺激等の方法により、結晶サイズや結晶配向が制御されている結晶性熱可塑性樹脂を意味し、具体的には、粉末に対して各樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱し、結晶性を高めるアニーリング処理や、超音波を当てることにより結晶性を高める方法、溶媒に溶解しゆっくりと揮発させることにより結晶性を高める方法、外部電場印加処理による結晶性成長等の工程を経る方法、もしくは、延伸することにより高配向、高結晶にしたものを粉砕等で粉化する方法により高結晶性の樹脂粉末を得ることができる。一般的に前述した結晶化度(結晶化率)は、融点以上で加熱溶融することによりリセットされるため、どの程度結晶化度を上昇させたのか、融点以上で加熱後十分に溶融させた後に、冷却させ再度過熱することにより、結晶制御していない状態に近い結晶化度を測定することができる。
【0014】
前記アニーリングとしては、粉末をガラス転移温度から50℃高い温度にて3日間加熱し、その後、室温までゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0015】
前記延伸としては、押し出し加工機を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出す。この際、立体造形用樹脂溶融物において、2倍以上10倍以下に延伸し、繊維にした後に、0.03mm以上5mm以下に裁断して粉末を得ることができる。繊維から裁断してカットして粉末を作った場合は、粉体側面に押し当てた面を持った多角柱の形状をなしている。一方、粒度が不十分な場合、その後、前記凍結粉砕を-200℃にすることにより行うことができる。また、それぞれの、後に球形処理をかけてもよい。
【0016】
前記超音波としては、粉末に、グリセリン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)溶媒を樹脂に対して5倍ほど加えた後、融点より20℃高い温度まで加熱し、超音波発生装置(ヒールシャー社製、ultrasonicator UP200S)にて24kHz、振幅60%での超音波を2時間与える。その後、室温にてイソプロパノールの溶媒で洗浄後、真空乾燥することが好ましい。
【0017】
前記外部電場印加処理としては、粉末をガラス転移温度以上で過熱した後に600V/cmの交流電場(500ヘルツ)を1時間印加した後にゆっくりと冷却することにより行うことができる。
【0018】
そのような観点から、本発明の立体造形用樹脂粉末は、前記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たす。
【0019】
[条件(1)の示差走査熱量測定による溶解開始温度の測定方法]
前記条件(1)の示差走査熱量測定(DSC)による溶解開始温度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、DSC-60A等)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を測定する。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し(サイクル1、図3A)、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を測定する(サイクル2、図3B)。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
つまり、図3A及び図3Bに示すように、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所であるT点から低温側へx軸(温度軸)に対して平行な直線を引き、前記直線が吸熱側に-15mW下がった時点で吸熱ピークとの交差点に対応する温度(Tmf)である。または、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接点の交点の温度としてもよい。
【0020】
[条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定方法]
前記条件(2)の示差走査熱量測定(DSC)による結晶化度の測定方法としては、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量(融解熱量)を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd1)を求めることができる。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd2)を求めることができる。
【0021】
[条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法]
前記条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定方法としては、二次元検出器を有するX線解析装置(例えば、Bruker社、Discover8等)を使用し、室温にて2θ範囲を10?40に設定し、得られた粉末をガラスプレート上に置き、結晶化度を測定(Cx1)することができる。次に、DSC内において、窒素雰囲気化にて10℃/minで加熱し、融点より30℃高い温度まで昇温し、10分間保温した後、10℃/min、-30℃まで冷却後のサンプルを室温に戻し、Cx1と同様にして、結晶化度(Cx2)を測定することができる。
【0022】
本発明における融点とは、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)により測定される融解ピーク温度を意味し、複数の融解温度が存在する場合は、高温側の融点を使用する。結晶性が制御されることにより、微結晶体や非結晶体の割合が減少するため、前記DSCでの吸熱ピークの開始温度が高温側にシフトする。そのため、樹脂の吸熱温度が明確になり、レーザー中心部においてのみ溶解するシャープメルトな波形を有する。前記シャープメルトとは、一般に樹脂の融解開始温度が高く、DSCでの融点の開始温度から、吸熱終了ピーク温度までの幅が細いことを意味し、これにより、より制御された状態で所望の溶融条件を達成することができる。
前記立体造形用樹脂粉末の融点としては、特に限定されないが、100℃以上が好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。なお、前記融点は、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定することができる。
【0023】
前記シャープメルト性から、レーザー周辺部の樹脂間の溶解に伴う焼結が減ることにより、寸法安定性が高まることに加え、ロスが発生しにくくなりリサイクル性を向上できる。さらには樹脂自身の結晶化度が高いことにより、樹脂の吸水性が抑制でき、水分による造形時の気泡等が出なくなるため、寸法安定性が高くなる。また、造形中は保温により加温する際、加水分解し樹脂の劣化につながるが、前述した樹脂の吸水率も抑制できることからリサイクル性の低下も抑制できる。
【0024】
前記粉末の50%累積体積粒径としては、5μm以上200μm以下であり、寸法安定性の点から、5μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上70μm以下がより好ましく、20μm以上50μm以下が特に好ましい。また、前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上やリコート性向上の点から、2.00以下であり、1.50以下がより好ましく、1.20以下が特に好ましい。なお、前記50%累積体積粒径や前記Mv/Mnは、例えば、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。
【0025】
前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度としては、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.7以上が好ましく、0.83以上がより好ましい。前記円形度とは、円らしさを表す指標であり、1が最も円に近いことを意味する。前記円形度は、面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式により求めることができる。
円形度=4πS/L^(2) ・・・ (式)
【0026】
前記立体造形用樹脂粉末について円形度を測定し、それらを算術平均した値が平均円形度として表される。前記円形度を簡易的に求める方法としては、例えば、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)を用いて測定することにより、数値化することができる。この装置は、ガラスセル中を流れる懸濁液中の粒子画像をCCDで高速撮像し、個々の粒子画像をリアルタイムに解析することができ、このような粒子を撮影し、画像解析を行う装置が、本発明の平均円形度を求める上で有効である。測定カウント数としては、特に制限はないが、1,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましい。
【0027】
前記立体造形用樹脂粉末の比重としては、0.8以上が好ましい。前記比重が、0.8以上であると、リコート時の粒子の2次凝集を抑止できるため好ましい。一方、前記比重としては、金属代替の軽量化ニーズから、3.0以下が好ましい。前記比重は、真比重を測定することにより行うことができる。前記真比重の測定は、気相置換法を用いた乾式自動密度計(株式会社島津製作所製、装置名:アキュピック1330)を用いて一定温度で気体(Heガス)の体積と圧力を変化させて、サンプルの体積を求め、このサンプルの体積から質量を計測し、サンプルの密度を測定することにより行うことができる。
【0028】
前記粉末を構成する樹脂粒子の形状としては、特に限定されないが、柱体であることが好ましい。前記柱体の粒子(柱体粒子)の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上5倍以下であることが好ましく、0.7倍以上2倍以下がより好ましく、0.8倍以上1.5倍以下が特に好ましい。なお、特に限定されないが、立体造形用樹脂粉末に対する柱体粒子の含有量としては、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0029】
前記柱体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、略円柱体、直方体などが挙げられる。前記形状が、柱体であることにより、粒子を隙間なく詰めることができ、得られる立体造形物の引張強度を向上することができる。前記柱体としては、向かい合う面を有することが好ましい。前記向かい合う面は傾斜がついていてもよく、生産性とレーザー造形の安定性から、平行で互いに傾斜がついていないものがより好ましい。なお、前記粒子の形状は、例えば、走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス株式会社製)などにより観察することができる。得られた粒子を球状化処理したり、外添加材で処理して、粉体流動性をさらに向上してもよい。
【0030】
前記略円柱体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真円柱体、楕円柱体などが挙げられる。これらの中でも、真円柱体が好ましい。なお、前記略円柱体の円部分は、一部が欠けていてもよい。また、略円とは、長径と短径との比(長径/短径)が、1?10であるものを意味する。
【0031】
また、前記略円柱体は、略円の向かい合う面を有することが好ましい。前記向かい合う面の円の大きさが多少ずれていてもよいが大きい面と小さい面との円の直径の比(大きい面/小さい面)としては、1.5倍以下が好ましく、形が統一されていた方が密度を詰めることができる点から、1.1倍以下がより好ましい。
【0032】
前記略円柱体の直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。なお、略円柱体の円形部分が楕円形である場合は、前記直径とは、長径を意味する。
前記略円柱体の高さ(両面間の距離)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。
【0033】
前記柱体粒子は、底面と上面を有する柱体形状を有するが、粒子の端部が頂点を持たない形状であることがより好ましい。前記頂点とは、柱体の中に存在する角の部分をいう。例えば、図1Aに示す円柱体の側面図は図1Bで表される。この場合、長方形の形状を有しており、角の部分、即ち頂点が4箇所存在する。この頂点を持たない形状の一例を図1Cに示す。実際に頂点の有無を確認するためには、前記柱体粒子の側面に対する投影像から判別することができる。例えば、柱体粒子の側面に対して走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて観察し、二次元像として取得する。この場合、投影像は4辺形となり、各々隣り合う2辺によって構成される部位を端部とすると、隣り合う2つの直線のみで構成される場合は、角が形成され頂点を持つことになり、図1Cのように端部が円弧によって構成される場合は端部に頂点を持たないことになる。
このように、柱体粒子において頂点を持たないような形状にすることで、前記円形度を高めることが可能になり、流動性が向上し、充填密度をより一層高めることができ、立体造形物の強度や寸法精度を高める上で非常に有効である。
【0034】
前記立体造形用樹脂粉末の柱体粒子すべてにおいて、端部に頂点を持たなくすることが最も好ましく、端部に頂点を持たない柱体粒子の割合が高い方がより好ましい。具体的には、すべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合は、50%以上が好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。これにより、樹脂粉末の平均円形度が高まり、本発明の効果がより高まる。
【0035】
前記端部に頂点を持たない柱体粒子の割合としては、例えば、前述のように走査型電子顕微鏡(装置名:S4200、株式会社日立製作所製)等を用いて樹脂粉末を観察し、得られた二次元像からすべての柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求めることによって判別することができる。例えば、上記の方法により10視野の二次元像を撮影し、全柱体粒子に対する端部に頂点を持たない柱体粒子の割合を求め、平均することにより求めることができる。
なお、前記端部に頂点を持たない柱体粒子においては、整った略円柱体あるいは多角柱体である必要はなく、側面の投影像においてくびれを有する形状や、端部が引き伸ばされた形状、あるいは押しつぶされたり、曲がったりした形状のものを含んでいてもよい。
【0036】
このように、樹脂粉末中の柱体粒子について端部に頂点を持たない形状にする方法としては、柱体粒子の頂点を丸めることが可能な方法であれば、いずれの方法でも使用可能であり、例えば、高速回転式の機械粉砕や高速衝撃式の機械粉砕、あるいは機械摩擦により表面溶融など、従来公知の球形化処理装置を使用することができる。
【0037】
前記直方体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、長方体、立方体などが挙げられる。これらの中でも、立方体が好ましい。なお、前記直方体は、一部が欠けていてもよいが、分散度が狭まりより密に詰まる点から、各辺の長さが近しい正方形が好ましい。また、前記直方体は、長方形又は正方形の向かい合う面を有することが好ましい。
【0038】
前記直方体の底面における各辺としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記各辺における長辺は、直方体の1つの面を底面としたときの最も長い辺であり、前記直方体が立方体である場合は、底面の等しい長さの辺のうちの1辺である。前記直方体の高さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上200μm以下が好ましい。前記高さとは、直方体の底面に対する高さ方向を意味する。
【0039】
前記柱体の面と面の間の高さを形成する辺は、切断時に樹脂が軟化し、つぶれた状態(円柱形ではたる型)も本発明の範囲に含まれるが、弧を描くもの同士で空間を空けてしまうことから、粉末を密に詰めることができる点から、辺が直線状になっているものが好ましい。
【0040】
前記柱体の高さとしては、50%累積体積粒径が、5μm以上100μmとなる長さが好ましく、特に高さが均一で粉の形や大きさに偏りがなく、同一な集合体として形成された単分散に近いものの方がより好ましい。前記略円柱体においては、直径と高さが近いものがより再現性の観点から好ましく、同様な理由で直方体についても辺と高さが等しい立方体がより好ましい。
【0041】
前記立体造形用樹脂粉末は、粒子のみで構成されるのが好ましいが、一般的に粉砕したものと組み合わせてもよい。
前記粒子の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、50質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、50質量%以上100質量%以下であると、粒子を密に詰めることができる。
【0042】
前記PBF方式では、結晶層変化についての温度幅(温度窓)が大きな方が、反り返りを抑制できるために好ましい。結晶層変化は、融解開始温度と冷却時の再結晶点間の差が大きな樹脂粉末の方が、造形性がよくなるため、より差がある方が好ましい。複数の融解温度が存在する場合は、温度が低い方の開始温度を使用する。
【0043】
前記結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM、融点:175℃)、ポリイミド、フッ素樹脂等のポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記結晶性熱可塑性樹脂としては、前記ポリマー以外に、難燃剤や可塑剤、熱安定性添加剤や結晶核剤等の添加剤、非結晶性樹脂等のポリマー粒子を含んでいてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記ポリマー粒子としては、前記ポリマー粒子を混合して使用しても、前記ポリマー粒子の表面にポリマー粒子を被覆したものを使用してもよい。
【0044】
前記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP、融点:180℃)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
前記ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド410(PA410)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66、融点:265℃)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12);半芳香族性のポリアミド4T(PA4T)、ポリアミドMXD6(PAMXD6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T、融点:300℃)、ポリアミド10T(PA10T)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、PA9Tは、ポリノナメチレンテレフタルアミドとも呼ばれ、炭素が9つのジアミンにテレフタル酸モノマーから構成され、一般的にカルボン酸側が芳香族であるため半芳香族と呼ばれる。さらには、ジアミン側も芳香族である全芳香族としてp-フェニレンジアミンとテレフタル酸モノマーとからできるアラミドと呼ばれるものも本発明のポリアミドに含まれる。
【0046】
前記ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブタジエンテレフタレート(PBT、融点:218℃)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。耐熱性を付与するため一部テレフタル酸やイソフタル酸が入った芳香族を含むポリエステルも本発明に好適に用いることができる。
【0047】
前記ポリアリールケトンとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点:343℃)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)などが挙げられる。前記ポリエーテル以外にも、結晶性ポリマーであればよく、例えば、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルスルフォンなどが挙げられる。PA9Tのように融点ピークが2つあるものを用いてもよい(完全に溶融させるには2つ目の融点ピーク以上に樹脂温度を上げる必要がある)。
【0048】
前記立体造形用樹脂粉末としては、任意の流動化剤、粒度化剤、強化剤、難燃剤等を含有していてもよい。
【0049】
前記流動化剤とは、前記立体造形用樹脂粉末の表面の一部又はすべてを被覆することにより、立体造形用樹脂粉末の流動性を高める効果を有するものをいう。立体造形用樹脂粉末の流動性が高まると、リコート時の粉末層の表面平滑性が高まり、また、立体造形用樹脂粉末の空隙が低減され、立体造形物の表面性、寸法精度、及び強度の更なる向上が可能となり、非常に有効である。これらの流動化剤は、樹脂粉末の表面に被覆されることによって効果が得られるが、その一部が立体造形用樹脂粉末中に含まれていてもよい。
【0050】
前記流動化剤の平均一次粒径としては、500nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。前記平均一次粒径が、500nm以下であると、立体造形用樹脂粉末表面への流動化剤の被覆率を高めることができ、流動性が向上すると同時に空隙を低減できることから有効である。前記平均一次粒径は、例えば、粒径測定システム(装置名:ELSZ-2000ZS、大塚電子株式会社製)を用いて測定することができる。
【0051】
前記流動化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、無機材料からなる球状粒子が好ましい。特に、金属酸化物が好ましく用いられ、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化鉄、酸化銅などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、シリカ、チタニアがより好ましい。
【0052】
また、前記流動化剤は、表面に疎水化処理されたものが好ましく用いられる。
前記疎水化処理の方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。前記疎水化処理に用いられる疎水化処理剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)等のシランカップリング剤、ジメチルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等のシリコーンオイル処理剤などが挙げられる。これらの中では、シランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0053】
前記疎水化処理剤による処理量としては、粒子の表面積あたり、2mg/m^(2)以上6mg/m^(2)以下が好ましい。
【0054】
前記立体造形用樹脂粉末への前記流動化剤の混合、被覆の工程については、従来公知の粉末混合機が用いられるが、ジャケット等を装備して、内部の温度を調節できるものが好ましく用いられる。また、前記粉末混合機の回転数、速度、時間、温度などを任意に変更させることが可能である。前記粉末混合機としては、例えば、V型混合機、ヘンシェルミキサー、ロッキングミキサー、ナウターミキサー、スーパーミキサーなどが挙げられる。
【0055】
前記流動化剤の含有量としては、粒子表面上に覆うのに十分な量であればよく、立体造形用樹脂粉末全量に対して、0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.05質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、0.05質量%以上10質量%以下であると、立体造形用樹脂粉末の流動性を向上できると同時に、空隙の増加による充填密度低下の影響を最小限に留めることができる。
前記流動化剤としては、10μm未満の体積平均粒径を有する粒状無機材料を好適に用いることができる。
【0056】
前記粒度化剤としては、例えば、アルミナ、タルク、ガラス様シリカ、チタニア、水和シリカ、シリカ表面上にシランカップリング剤により変性させたもの、ケイ酸マグネシウムを1種類以上用いるものなどが挙げられる。
【0057】
また、樹脂劣化を抑制する点から、前記酸化防止剤を含有することが好ましい。前記酸化防止剤としては、例えば、金属キレート材としてヒドラジド系や、紫外線吸収剤としてトリアジン系、ラジカル補足剤としてヒンダードフェノール系、酸化防止剤としてホスフェイト系、硫黄系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記強化剤としては、強度向上の点から、例えば、ファイバーフィラーやビーズフィラー、国際公開第2008/057844号パンフレットに記載のものなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の立体造形用樹脂粉末としては、適度の乾燥しているのが好ましく、真空乾燥機やシリカゲルを入れることにより使用前に乾燥させてもよい。
【0059】
前記ファイバーフィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、カーボンファイバー、無機ガラスファイバー、金属ファイバーが好ましい。
前記ビーズフィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、カーボンビーズ、無機ガラスビーズ、金属ビーズが好ましい。
【0060】
一般に、前記シャープメルト性を有さない立体造形用樹脂粉末に対して、前記ファイバーフィラーやビーズフィラーを混合すると、造形物の精度が悪化する傾向にある。これは、添加する前記ファイバーフィラーやビーズフィラーの熱伝導率が、前記立体造形用樹脂粉末よりも高いため、SLS造形時に粉面にレーザー照射した際、照射部に与えられた熱が照射部外へ拡散してしまい、照射外の樹脂粉末の温度が融点以上となり過剰に造形されてしまうことが原因である。一方で、本発明の立体造形用樹脂粉末(前記シャープメルト性を有する結晶性熱可塑性樹脂組成物)と前記ファイバーフィラーやビーズフィラーとの混合粉末は、樹脂粉末がシャープメルト性を有するために、熱拡散によりレーザー照射部外の樹脂温度が上昇したとしても融解しにくいため、前記過剰な造形を抑止することができ、高い造形精度を維持することが可能である。
【0061】
また、前記ファイバーフィラーとしては、平均繊維径が1μm以上30μm以下が好ましく、平均繊維長さが30μm以上500μmが好ましい。前記平均繊維径や前記平均繊維長さがこの範囲の形状のファイバーフィラーを用いることにより、造形物強度の向上を実現し、かつ造形物表面の粗さをファイバーフィラーが無添加な造形物の表面粗さと同程度に維持することが可能となる。
【0062】
前記ビーズフィラーとしては、円形度が0.8以上1.0以下が好ましく、体積平均粒径が、10μm以上200μm以下が好ましい。なお、前記円形度は、面積(画素数)をSとし、周囲長をLとしたときに、下式により求められる。
円形度=4πS/L^(2) ・・・ (式)
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。
【0063】
前記ファイバーフィラーの含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、5質量%以上60質量%以下であることが好ましい。この範囲より少ないと、ファイバーフィラー添加の本来の目的である強度向上の効果が少なく、この範囲より多いと造形が困難になる。
【0064】
前記ビーズフィラーを含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、5質量%以上60質量%以下が好ましい。前記含有量が、5質量%以上であると、ビーズフィラー添加の本来の目的である強度向上をでき、60質量%以下であると、造形を容易にすることができる。
【0065】
前記難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、無機水和金属化合物系、窒素系、シリコーン系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記難燃剤を2種以上併用する場合は、ハロゲン系と無機水和金属化合物系との組合せが、難燃性能を高くすることができ好ましい。
【0066】
前記難燃剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の無機繊維状物質、タルク、マイカ、モンモリロナイト等の無機層状珪酸塩などの無機強化剤を添加しても難燃性を向上することができる。この場合は、物性強化と難燃性強化との両立が可能となる。
【0067】
前記立体造形用樹脂粉末の難燃性は、例えば、JIS K6911、JIS L1091(ISO 6925)、JIS C3005、発熱性試験(コーンカロリメータ)などにより評価することができる。
【0068】
前記難燃剤の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。前記含有量が、1質量%以上であると、十分な難燃性を実現できる。また、前記含有量が、50質量%以下であると、立体造形用樹脂粉末の溶融固化特性が変化することを抑制し、造形精度低下や造形物の物性劣化が発生することを防止できる。
【0069】
前記立体造形用樹脂粉末としては、SLS法やSMS法について使用できるが、適切な粒度、粒度分布、熱移動特性、溶融粘度、嵩密度、流動性、溶融温度、及び再結晶温度のようなパラメーターについて適切なバランスを示す特性を呈している。
前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度としては、PBF方式でのレーザー焼結度を促進する点から、嵩密度は大きい方が好ましく、0.3g/mL以上がより好ましく、0.35g/mL以上がさらに好ましく、0.4g/mL以上が特に好ましい。
【0070】
前記立体造形用樹脂粉末を用いて、レーザー焼結により形成される立体造形物は、滑らかであり、最小オレンジピール以下を呈する十分な解像度を示す表面を形成できる。ここで、前記オレンジピールとは、一般にPBF方式でのレーザー焼結により形成される立体造形物の表面上に不適切な粗面、又は空孔問題やゆがみ問題のような表面欠陥の存在を意味し、前記空孔は、例えば、美観を示すだけでなく、機械強度にも著しく影響を及ぼす。
【0071】
さらに、前記立体造形用樹脂粉末を使用し、レーザー焼結により形成される立体造形物としては、焼結中から焼結後の冷却時の間に、発生する相変化による反りや歪み、発煙したりするような不適切なプロセス特性を示さないことが好ましい。
【0072】
本発明の立体造形用樹脂粉末は、優れたリサイクル性を有し、新品の粉末からPBF方式により形成される立体造形物は、(a)オレンジピール性又は(b)機械性能における顕著な低下(引っ張り強度の10%以上の低下)のいずれも示さない立体造形物を形成することができる。
本発明において用いられるリサイクル粉末としては、下記の試験方法のリサイクル方法に従って試験した時、PBF方式の製作機(株式会社リコー製 AM S5500P)中にて、リサイクル粉末を少なくとも1回、好ましくは5回、より好ましくは7回、特に好ましくは少なくとも10回試験を行った後も前記(a)、前記(b)のいずれも示さない、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 150mm長さ多目的犬骨様試験標本を形成することができる。
【0073】
前記立体造形用樹脂粉末としては、ペレット等の形態から粉砕することにより得られ、室温で粉砕装置を使用し、目的の粒径以外のものをフィルター濾過などの分級操作などにより得られるが、好ましくは0℃以下の低温(各樹脂自身の脆弱温度以下)、より好ましくは-25℃以下、特に好ましくは-100℃以下の極低温下での樹脂脆弱性を使用する粉砕により得ることができる。
【0074】
前述したように粉砕前、もしくは粉砕後に、結晶化を上げる工程を伴うことが好ましい。
前記粉砕に好適に用いることができる粉砕装置としては、例えば、ピンドミル、カウンタージェットミル、バッフルプレート衝撃粉砕機などが挙げられる。
【0075】
別の好適な条件で得られる立体造形用樹脂粉末としては、ペレット等の形態から数倍の延伸により数十μmから数百μmに調整後、繊維を数μm以上数百μm以下になるようにレーザーカットや刃を使ったカット等により得ることができ、又は両方の方式を使ってもよい。前記延伸としては、押し出し加工機を用いて、融点より30℃以上高い温度にて撹拌しながら、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出す。この際、立体造形用樹脂溶融物は、1倍以上10倍以下程度に延伸して繊維にする。この時、押出し加工機のノズル口の形状により繊維断面の形状を決めることができるが、粒子形状を略円柱体とする場合には、ノズル口も円形形状がよく、直方体とする場合は、ノズル口は長方形又は正方形形状がよい。ノズルの口の数は多ければ多いほど生産性に見合ったものとなる。延伸は、樹脂ごと溶融粘度ごとに最大の延伸倍率を変えることができる。
【0076】
前記粉砕工程後としては、樹脂粉末を粒状化する球状化工程により角張った角を丸めることが好ましい。前記球状化には、樹脂粉末を溶解する溶媒を使用することや、熱をかけて球状の撹拌装置等により撹拌することにより得ることができる。
【0077】
本発明の別の態様としては、新たな粉末層をローラ等により引くごとに焼結処理を行い、本発明の立体造形用樹脂粉末からの立体造形することが好ましい。
前記焼結処理では粉末層部分を選択的に溶融させる。新たな粉末層を先行して形成した層に施用し、再度選択的に溶融させ、これが繰り返され、所望の立体造形物が製造されるまで前記処理を継続する。
【0078】
前記立体造形用樹脂粉末の溶融としては、典型的には、電磁照射により行われるが、溶融の選択性は、例えば、抑制剤、吸収剤、又は電磁照射(例、マスクした若しくは直接レーザービームによる)の選択的施用などが挙げられる。
いずれの適切な電磁照射源でも使用でき、例えば、CO_(2)レーザー、赤外照射源、マイクロウエーブ発生器、放射加熱器、LEDランプ等、又はこれらの組み合わせ等がある。
【0079】
幾つかの実施態様においては、選択的マスク焼結(selective mask sintering:SMS)技術を使用して、本発明における立体造形物を製造することができる。前記SMSプロセスについては、例えば、米国特許第6,531,086号明細書に記載されているものを好適に用いることができる。
【0080】
前記SMSプロセスとしては、遮蔽マスクを使用して選択的に赤外放射を遮断し、粉末層の一部の選択的照射をもたらす。本発明の立体造形用樹脂粉末から物品を製造するためにSMSプロセスを使用する場合、立体造形用樹脂粉末の赤外吸収特性を増強させる粉末組成物中の1種以上物質を含有させることが好ましく、立体造形用樹脂粉末には1種以上の熱吸収剤及び/又は暗色物質(カーボンファイバー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、もしくはカーボンファイバー、セルロースナノファイバー等)を含有することができる。
【0081】
本発明の立体造形用樹脂粉末を用いてPBF方式により立体造形物を製造するために、好適な方法としては、ポリマーマトリックスを含有する複数の層を積層し、かつ接着した焼結層を含むことが好ましい。
前記焼結層としては、造形プロセスに適した厚みを有することが好ましい。
複数の焼結層の平均厚みとしては、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上が特に好ましい。また、前記焼結層の平均厚みとしては、200μm未満が好ましく、150μm未満がより好ましく、120μm未満が特に好ましい。
【0082】
本発明の立体造形用樹脂粉末としては、電子機器パーツや自動車部品のプロトタイプや強度試験用の試作品、エアロスペースや自動車産業のドレスアップツール等に使われる少量製品などの用途に使用するための物品を形成することに好適に用いることができる。前記PBF方式以外の他の方式については、FDMやインクジェット方式と比較し、強度が優れることが期待されるため、実用の製品としても使用に耐える。
生産スピードは、射出成型のような大量に生産するのにはかなわないが、例えば、小さい部品を平面状に大量に作ることにより必要な生産量を得ることができる。
また、本発明に用いられるPBF方式における立体造形物の製造方法は、射出成型のような金型を必要としないため、試作及びプロトタイプの作製においては、圧倒的なコスト削減と工数削減を達成することができる。
【0083】
(立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置)
本発明の立体造形物の製造方法は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程と、を繰り返し、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記立体造形物の製造装置は、本発明の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
前記立体造形物の製造方法は、前記立体造形物の製造装置により好適に実施することができる。
【0084】
前記立体造形用樹脂粉末としては、本発明の立体造形用樹脂粉末と同様のものを用いることができる。
前記粉末接着手段としては、例えば、整地された粉体に電磁波もしくはレーザーを照射して、樹脂を溶融させ冷却により硬化させる硬化手段などが挙げられる。
【0085】
前記電磁照射に用いられる電磁照射源としては、例えば、CO_(2)レーザー、赤外照射源、マイクロウエーブ発生器、放射加熱器、LEDランプ等、又はこれらの組合せなどが挙げられる。
【0086】
ここで、立体造形物の製造装置について、図2を用いて説明する。
図2は、本発明の立体造形物の製造方法に用いられる立体造形物の製造装置の一例を示す概略説明図である。図2に示すように、粉末の供給槽5に粉末を貯蔵し、使用量に応じて、ローラ4を用いてレーザー走査スペース6に供給する。供給槽5は、ヒーター3により温度を調節されていることが好ましい。電磁照射源1から出力したレーザーを反射鏡2を用いて、レーザー走査スペース6に照射する。前記レーザーによる熱により、粉末を焼結して立体造形物を得ることができる。
【0087】
前記供給槽5の温度としては、粉末の融点より少なくとも10℃以上低いことが好ましい。
前記レーザー走査スペースにおける部品床温度としては、粉末の融点より5℃以上低温であることが好ましい。
前記レーザーの出力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10ワット以上150ワット以下が好ましい。
【0088】
(立体造形物)
前記立体造形物は、本発明の立体造形物の製造方法により好適に製造されることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0090】
得られた粉末について、「50%累積体積粒径」、「体積平均粒径」、「個数平均粒径」、「円形度」、「融点」、「条件(1)の示差走査熱量測定による溶解開始温度の測定」、「条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定」、及び「結晶化度」、並びに「条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定」は、以下のようにして測定した。結果を下記表1及び表2に示す。
【0091】
[50%累積体積粒径、体積平均粒径、及び個数平均粒径]
前記50%累積体積粒径、前記体積平均粒径、及び前記個数平均粒径は、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて、粉末ごとの粒子屈折率を使用し、溶媒は使用せず乾式(大気)法にて測定した。粒子屈折率は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂:1.57、ポリアミド66(PA66)樹脂:1.53、ポリアミド9T(PA9T)樹脂:1.53、ポリプロピレン(PP)樹脂:1.48、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂:1.57、ポリアセタール(POM)樹脂:1.48と設定した。なお、得られた前記体積平均粒径、及び前記個数平均粒径から体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)を算出した。
【0092】
[平均円形度]
前記平均円形度は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(装置名:FPIA-3000、シスメックス社製)を用いて測定した。
【0093】
[融点]
前記融点は、ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定した。
【0094】
[条件(1)の示差走査熱量測定による溶解開始温度の測定]
ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)の測定方法に準じて、示差走査熱量測定装置(株式会社島津製作所製、DSC-60A)を使用し、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf1)を測定した。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度(Tmf2)を測定した。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
実施例1から実施例3及び比較例1から比較例3のPBT、実施例4及び比較例4のPA66、実施例6及び比較例6のPP、実施例7及び比較例7のPEEK、実施例8及び比較例8のPOMについては、融点ピークがはっきりしているため、結晶化度をDSCによって求めた。
比較例5及び実施例5のPA9Tにおいては、融点ピークがはっきりしていないため、融解開始温度を求めることができなかった。
【0095】
[条件(2)の示差走査熱量測定による結晶化度の測定]
ISO 3146(プラスチック転移温度測定方法、JIS K7121)に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量(融解熱量)を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd1)を求めた。その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量を測定し、完全結晶熱量に対する融解熱量から結晶化度(Cd2)を求めた。
【0096】
[条件(3)のX線解析装置による結晶化度の測定]
二次元検出器を有するX線解析装置(Bruker社、Discover8)を使用し、室温にて2θ範囲を10?40に設定し、得られた粉末をガラスプレート上に置き、結晶化度(Cx1)を測定した。次に、DSC内において、窒素雰囲気化にて10℃/minで加熱し、融点より30℃高い温度まで昇温し、10分間保温した後、10℃/min、-30℃まで冷却後のサンプルを室温に戻し、Cx1と同様にして、結晶化度(Cx2)を測定した。
【0097】
(実施例1)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)を押し出し加工機を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後に、フェノール系酸化防止剤(商品名:AO-80、株式会社ADEKA製)0.5質量%、ホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA製)1.0質量%を混ぜ入れ、ペレタイザーで1mm程度にカットした後に、-200℃にて凍結粉砕し、粉末を得た。粉末は5μm以上100μm以下の幅になるように粉砕した。50%累積体積粒径は、20μm以上90μm以下であった。得られた粉末を結晶化するために、下記条件のアニーリングを行い、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-アニーリングの条件-
得られた粉末について、ガラス転移温度から50℃高い温度にて3日間加熱し、結晶化度を高めた後、室温までゆっくりと冷却をした。結晶化率を確認するために、途中サンプリングを行った。
【0098】
(比較例1)
実施例1において、結晶化の条件のアニーリングを行わなかった以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0099】
(実施例2)
実施例1において、結晶化の条件のアニーリングを、下記条件の延伸に変更した以外は、実施例1と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-延伸の条件-
押し出し加工機を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出して伸ばした。伸ばす際、各々の樹脂において、1.5倍以上10倍以下に延伸し、繊維にした後に、0.07mm以下に直接裁断した。
【0100】
(実施例3)
実施例1において、結晶化の条件のアニーリングを、下記条件の超音波に変更した以外は、実施例1と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-超音波の条件-
粉末した樹脂粉末に、グリセリン(東京化成工業株式会社製、試薬グレード)溶媒を樹脂に対して5倍ほど加えた後、融点より20℃高い温度まで加熱し、超音波発生装置(ヒールシャー社製、ultrasonicator UP200S)にて24kHz、振幅60%での超音波を2時間与えた。その後、室温にてイソプロパノールの溶媒で洗浄後、真空乾燥を行った。
【0101】
(比較例2)
実施例2において、延伸工程を行わず、繊維にした後に、0.07mm以下に直接裁断した以外は、実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0102】
(比較例3)
実施例2において、繊維の延伸倍率を1.05倍に変更した以外は、実施例2と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0103】
(実施例4)
実施例2において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアミド66(PA66)樹脂(商品名:レオナ1300S、旭化成ケミカルズ株式会社製、融点:265℃)に変更した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0104】
(比較例4)
実施例4において、結晶化の条件の延伸を行わなかった以外は、実施例4と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0105】
(実施例5)
実施例2において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアミド9T(PA9T)樹脂(商品名:ジェネスタN1000A、株式会社クラレ製、融点:300℃)に変更した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0106】
(比較例5)
実施例5において、結晶化の条件の延伸を行わなかった以外は、実施例5と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0107】
(実施例6)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリプロピレン(PP)樹脂(商品名:ノバテック MA3、日本ポリプロ株式会社製、融点:180℃、ガラス転移温度:0℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0108】
(比較例6)
実施例6において、結晶化の条件のアニーリングを行わなかった以外は、実施例6と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0109】
(実施例7)
実施例1において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂(商品名:HT P22PF、VICTREX社製、融点:343℃、ガラス転移温度:143℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0110】
(比較例7)
実施例7において、結晶化の条件のアニーリングを行わなかった以外は、実施例7と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0111】
(実施例8)
実施例3において、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂をポリアセタール(POM)樹脂(商品名:ユピタール F10-01、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:175℃)に変更した以外は、実施例3と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0112】
(比較例8)
実施例8において、結晶化の条件の超音波を行わなかった以外は、実施例8と同様にして、熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0113】
得られた粉末について、以下のようにして、「精度」、「リサイクル性」、及び「引張初期強度」を評価した。結果を下記表2に示す。
【0114】
(精度)
得られた樹脂粉末(立体造形用樹脂粉末)について、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用し、立体造形物の製造を行った。設定条件は、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力を設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より±3℃の温度にて部品床温度を使用した。供給槽の温度は、融点より-10℃以下とした。1辺5cm、平均厚み0.5cmの直方体の立体造形物(寸法用サンプル)(mm)のCAD等のデータに基づいて、前述した寸法用サンプルを製造した。寸法用サンプルのCAD等のデータと、造形したサンプルとの各辺の長さの差を求め、差の平均値を寸法性差とし、「精度」を評価した。
【0115】
(リサイクル性)
SLSプロセスにおける粉末のリサイクル性を、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を用いて、SLS方式造形装置の供給床中に10kgの粉末を加えた。なお、SLS方式造形装置の設定条件は、「精度」の評価と同様とした。粉末から、前記SLS方式造形装置にて、(a)引っ張り試験標本を中心部にY軸方向に長辺が向くように、5個引っ張り試験標本の長手方向に造形した。ここで、5個引っ張り試験標本とは、5個の引張り試験標本を、Y軸方向と平行に長辺の向きをそろえ、造形物を造形層の中心に並べることをいう。各々の造形物層の間隔は5mmである。次に、(b)1辺5cm、平均厚み0.5cmの直方体の立体造形物(mm)を製造した。引張り試験標本サンプルは、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 150mm長さ多目的犬骨様試験標本(標本は、80mm長さ、4mm厚さ、10mm幅の中心部分を有する)を使用して行った。造形に用いた粉末を供給床中に戻し、前記と同様の造形を行い、造形に用いた粉末を供給床中に戻した。この作業を造形10回分繰り返した。得られた立体造形物について、ISO 527に準じた引張試験(株式会社島津製作所製、AGS-5kN)を使用して実施し、下記評価基準に基づいて、「リサイクル性」を評価した。なお、引張試験における試験速度は、50mm/分間にて一定とした。最大応力を引張強度とした。また、機械強度の初期値は、造形1回目の立体造形物について5回試験を行い、得られた測定値の平均値である。
-評価基準-
○:10回目の立体造形物について反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内である
×:10回目の立体造形物について反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%超である
【0116】
(引張初期強度)
精度評価用サンプルの作製時と同じ装置及び同じ条件に設定し、(a)引っ張り試験標本を中心部にY軸方向に長辺が向くように、引っ張り試験標本の長手方向に5個造形した。各々の造形物層の間隔は5mmとした。次に、(b)1辺50mm、平均厚み5mmの直方体の立体造形物を製造した。引張り試験標本サンプルは、ISO(国際標準化機構)3167 Type1A 150mm長さ多目的犬骨様試験標本(標本は、長さ80mm、厚さ4mm、幅10mmの中心部分を有する)を使用して行った。
得られた立体造形物について、ISO 527に準じた引張試験(装置名:AGS-5kN、株式会社島津製作所製)を使用して実施し、「引張初期強度」を測定した。なお、前記引張初期試験における試験速度は、50mm/分間とした。また、引張強度の初期値は、造形1回目の立体造形物について5回試験を行い、得られた測定値の平均値を算出し、「引張初期強度」とした。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
また、実施例2又は実施例4に対し、難燃剤を下記実施例9?17に記載した通りに添加し、立体造形用樹脂粉末を得た。結果を下記表3に示す。なお、比較のために、実施例2及び実施例4を併記した。
【0120】
(実施例9)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0121】
(実施例10)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にリン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0122】
(実施例11)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を10質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0123】
(実施例12)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を0.9質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0124】
(実施例13)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を50質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0125】
(実施例14)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際に無機水和金属化合物(三酸化アンチモン)系難燃剤(商品名:PATOX-L、日本精鉱株式会社製)を30質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0126】
(実施例15)
実施例2において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を10質量%、無機水和金属化合物(三酸化アンチモン)系難燃剤(商品名:PATOX-L、日本精鉱株式会社製)を10質量%、併せて20質量%添加した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0127】
(実施例16)
実施例4において、押し出し加工機にPA66樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加した以外は、実施例4と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0128】
(実施例17)
実施例4において、押し出し加工機にPA66樹脂を投入する際にハロゲン(臭素)系難燃剤(商品名:ノンネンPR-2H、丸菱油化工業株式会社製)を10質量%、無機水和金属化合物(三酸化アンチモン)系難燃剤(商品名:PATOX-L、日本精鉱株式会社製)を10質量%、併せて20質量%添加した以外は、実施例4と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
【0129】
得られた粉末について、実施例1と同様にして、「精度」、「リサイクル性」、及び「引張初期強度」を評価した。また、以下のようにして、「難燃性」を評価した。結果を下記表3に示す。
【0130】
(難燃性)
得られた立体造形用樹脂粉末5.0gを目開き25μm、直径10cmの円形ステンレス製メッシュ(商品名:TESTING SIEVE、東京スクリーン株式会社製)の上に平らに並べ、下から直接バーナーで熱し、その着火状態を下記基準で評価した。
-評価基準-
◎:60秒間熱しても着火しない
○:熱しはじめてから着火までにかかる時間が40秒間以上60秒間未満である
△:熱しはじめてから着火までにかかる時間が20秒間以上40秒間未満である
×:熱しはじめてから着火までにかかる時間が20秒間未満である
【0131】
【表3】

【0132】
なお、実施例9?17における前記条件(1)?(3)の値は、立体造形用樹脂粉末として用いた実施例2又は4の値と同様であり、また、「リサイクル性」、「精度」、及び「引張初期強度」の評価結果についても実施例2又は4の評価結果と同様であった。
【0133】
(実施例18)
実施例1において作製したアニーリング処理を施したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてカーボンファイバー(商品名:トレカ ミルドファイバー、東レ株式会社製)を60質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合撹拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したカーボンファイバーの平均繊維径は7μm、平均繊維長さは130μmである。
【0134】
(実施例19)
実施例2において作製した延伸処理を施したPBT樹脂粉末を用い、強化剤(フィラー)としてアルミファイバー(商品名:溶融紡糸アルミニウム繊維、アカオアルミ株式会社製)を30質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したファイバーの平均繊維径は7μm、平均繊維長さは130μmである。
【0135】
(実施例20)
実施例3において作製した超音波照射したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてガラスファイバー(商品名:ミルドファイバー、日本電気硝子株式会社製)を5質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したファイバーの平均繊維径は18μm、平均繊維長さは150μmである。
【0136】
(比較例9)
比較例1において作製したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてカーボンファイバー(商品名:トレカ ミルドファイバー、東レ株式会社製)を70質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したファイバーの、平均繊維径は7μm、平均繊維長さは130μmである。
【0137】
(比較例10)
比較例1において作製したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてカーボンファイバー(商品名:トレカ ミルドファイバー、東レ株式会社製)を30質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したファイバーの、平均繊維径は18μm、平均繊維長さは400μmである。
【0138】
(実施例21)
実施例1において作製したアニーリング処理を施したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてカーボンビーズ(商品名:ニカビーズ、日本カーボン株式会社製)を60質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したビーズの体積平均粒径は20μmである。
【0139】
(実施例22)
実施例2において作製した延伸処理を施したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてアルミビーズ(商品名:噴霧アルミニウム粉#245、ミナルコ株式会社製)を30質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したビーズの体積平均粒径は125μmである。
【0140】
(実施例23)
実施例3において作製した超音波照射したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてガラスビーズ(商品名:噴霧アルミニウム粉#245、ミナルコ株式会社製)を20質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したビーズの体積平均粒径は60μmである。
【0141】
(比較例11)
比較例1において作製したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてガラスビーズ(商品名:ガラスビーズGB190M、ポッターズ・バロティーニ株式会社製)を20質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したビーズの体積平均粒径は400μmである。
【0142】
(比較例12)
比較例1において作製したPBT樹脂粉末を用い、フィラーとしてガラスビーズ(商品名:ガラスビーズJ-220、ポッターズ・バロティーニ株式会社製)を30質量%添加し、スクリュー型ミキサー(装置名:混合攪拌機DM型、株式会社ダルトン製)を用いて30分間乾式混合後、立体造形用樹脂粉末とした。添加したビーズの体積平均粒径は60μmである。
【0143】
(表面粗さ(Ra))
なお、前記表面粗さは、例えば、レーザー顕微鏡(装置名:VK-X100、株式会社キーエンス製)を用いて測定した。
【0144】
(オレンジピール性)
前記「精度」の評価において、得られた立体造形物について、表面を観察し、下記評価基準に基づいて、「オレンジピール性」を評価した。
-評価基準-
○:不適切な粗面、又は空孔やゆがみ等の表面欠陥が発生していない
×:不適切な粗面、又は空孔やゆがみ等の表面欠陥が発生している
【0145】
【表4】

【0146】
なお、実施例18?23及び比較例9?12における前記条件(1)?(3)の値は、立体造形用樹脂粉末として用いた実施例1、2、3、又は比較例1の値と同様であり、また、「引張初期強度」の評価結果についても実施例1、2、3、又は比較例1の評価結果と同様であった。
【0147】
(実施例24)
実施例1において、以下の条件にて、平均円形度を制御した以外は、実施例1と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-平均円形度制御の条件-
実施例1で用いた粉体を目開き75μmJIS試験篩を、振動篩機(装置名:AS200digit、株式会社レッチェ製)を用いて、出力100%にて60分間処理を行い、篩通過品を使用した。実施例1の粉末は粒径が大きな粒子ほど、円形度が高いため、それらを取り除くことにより円形度を低下させた。
【0148】
(実施例25)
実施例2において、以下の条件にて、平均円形度を制御した以外は、実施例2と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-平均円形度制御の条件-
実施例2で用いた粉体を球形化処理装置(装置名:MP型ミキサーMP5A/1、三井鉱山株式会社製)を用いて、撹拌速度9,600rpmにて20分間処理を行った。
【0149】
(実施例26)
実施例6において、以下の条件にて、平均円形度を制御した以外は、実施例6と同様にして、制御された結晶性熱可塑性樹脂粉末を得た。
-平均円形度制御の条件-
実施例6で用いた粉体を球形化処理装置(装置名:MP型ミキサーMP5A/1、三井鉱山株式会社製)を用いて、撹拌速度9,600rpmにて20分間処理を行った。
【0150】
得られた粉末について、実施例1と同様にして、「精度」、「リサイクル性」、及び「引張初期強度」を評価した。結果を下記表5に示す。なお、比較のために、実施例1、2、及び6を併記した。
【0151】
【表5】

【0152】
なお、実施例24?26における前記条件(1)?(3)の値は、立体造形用樹脂粉末として用いた実施例1、2、又は6の値と同様であった。
【0153】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下であり、
下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たすことを特徴とする立体造形用樹脂粉末である。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧3℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)≧3%となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)≧3%となる。
<2> 前記50%累積体積粒径が、20μm以上70μm以下である前記<1>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<3> ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、100℃以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<4> 前記体積平均粒径/個数平均粒径が、1.50以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<5> ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む前記<1>から<4>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<6> 前記ポリアミドが、芳香族ポリアミドを含む、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である前記<5>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<7> 前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である前記<5>から<6>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<8> 前記ポリアリールケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である前記<5>から<7>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<9> 前記ポリアミドが、ポリアミド66、及びポリアミド9Tの少なくともいずれかである前記<5>から<8>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<10> 前記ポリエステルが、ポリブチレンテレフタレートである前記<5>から<9>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<11> 前記ポリアリールケトンが、ポリエーテルエーテルケトンである前記<5>から<10>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<12> 流動化剤をさらに含む前記<1>から<11>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<13> 前記流動化剤の含有量が、0.1質量%以上10質量%以下である前記<12>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<14> 前記流動化剤の体積平均粒径が、10μm未満である前記<12>から<13>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<15> 粒度化剤をさらに含む前記<1>から<14>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<16> 強化剤をさらに含む前記<1>から<15>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<17> 前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度が、0.3g/mL以上である前記<1>から<16>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<18> 前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度が、0.35g/mL以上である前記<17>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<19> 前記立体造形用樹脂粉末の嵩密度が、0.4g/mL以上である前記<18>に記載の立体造形用樹脂粉末である。
<20> 平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である前記<1>から<19>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<21> 難燃剤をさらに含む前記<1>から<20>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末である。
<22> 前記<1>から<21>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置である。
<23> 前記<1>から<21>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、
前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程と、を繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法である。
<24> 前記電磁照射に用いる電磁照射源が、CO_(2)レーザー、赤外照射源、マイクロウエーブ発生器、放射加熱器、及びLEDランプから選択される少なくとも1種である前記<23>に記載の立体造形物の製造方法である。
<25> 前記<23>から<24>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法により製造されることを特徴とする立体造形物である。
【0154】
前記<1>から<21>のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末、前記<22>に記載の立体造形物の製造装置、前記<23>から<24>のいずれかに記載の立体造形物の製造方法、及び前記<25>に記載の立体造形物は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0155】
【特許文献1】特表2014-522331号公報
【特許文献2】特表2013-529599号公報
【特許文献3】特表2015-515434号公報
【符号の説明】
【0156】
3 ステージ(支持体)
4 立体造形用液体材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、
下記(1)?(3)から選択される少なくとも1種を満たすことを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。
【請求項2】
前記50%累積体積粒径が、20μm以上70μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、100℃以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記体積平均粒径/個数平均粒径が、1.50以下である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記ポリアミドが、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項5に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項7】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項5から6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記ポリアリールケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項5から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項9】
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
強化剤をさらに含む請求項1から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
難燃剤をさらに含む請求項1から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末が貯蔵されている供給槽と、
前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、
前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程と、を繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-19 
出願番号 特願2017-138268(P2017-138268)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B29C)
P 1 651・ 121- YAA (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 雄一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 渕野 留香
植前 充司
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6402810号(P6402810)
権利者 株式会社リコー
発明の名称 立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 伴 俊光  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  
代理人 細田 浩一  
代理人 バーナード 正子  
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