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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特174条1項  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1364900
異議申立番号 異議2019-700146  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-02-25 
確定日 2020-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6381196号発明「樹脂成形体用プライマー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6381196号の特許請求の範囲を令和2年1月31日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 特許第6381196号の請求項1、2、5?8に係る特許を維持する。 特許第6381196号の請求項3、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6381196号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年10月28日に出願され、平成30年8月10日にその特許権の設定登録がされ、同年8月29日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成31年2月25日に特許異議申立人鶴谷裕二(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年 6月10日付け:取消理由通知
同年 8月 9日 :意見書、訂正請求書の提出(特許権者)
同年10月 1日付け:訂正拒絶理由(期間を指定して特許権者に意見書の提出をめたが、特許権者から意見書は提出されなかった。)
同年11月27日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和2年 1月31日 :意見書、訂正請求書の提出(特許権者)
同年 3月13日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
上記第1「手続の経緯」のとおり、特許権者から令和2年1月31日に訂正請求書が提出されて、本件特許請求の範囲の訂正がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、令和元年8月9日に提出された訂正請求書による訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
令和2年1月31日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第6381196の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。」と記載されているのを、
「ポリオレフィン樹脂、架橋剤および水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。」と訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、6、7も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲における引用形式の請求項5のうち、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項5として、これらの請求項を引用せずに書き下ろし、
「γ線架橋されたポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。」と訂正する。
請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6?8も同様に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正事項2及び3において請求項3及び4を削除したことにともない、特許請求の範囲の請求項6が引用する請求項について、「請求項1?5のいずれかに記載の」を「請求項1、2、5のいずれかに記載の」と訂正する。
請求項6を引用する請求項7も同様に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲における引用形式の請求項5のうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する部分を、下記を内容とする新たな請求項8として書き下ろす。
「オレフィン成分がブテンを含有することを特徴とする請求項5記載の樹脂成形体用プライマー。」

なお、訂正事項1?6に係る訂正前の請求項1?7について、請求項2?7は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1、2、5?8は訂正事項1?6によって直接又は連動して訂正され、訂正後の請求項3、4は訂正事項2、3によって削除される。よって、本件訂正は一群の請求項1?7について請求されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3に記載されていた、水性分散体における「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」という発明特定事項、及び本件訂正前の請求項4に記載されていた、水性分散体がさらに「架橋剤」を含有するという発明特定事項を、本件訂正前の請求項1の発明特定事項に直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、6、7も同様に訂正される。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、それぞれ請求項3、4を削除する訂正であるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項2、3は、いずれも請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2、3は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が「請求項1?4のいずれか」を引用し、訂正前の請求項3は「請求項1または2」を引用し、請求項2は請求項1を引用していたところ、引用する請求項の数を減少させるとともに、一つの請求項として記載されていたものを「請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5」と「請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項5」の二つの請求項に変更し、前者を訂正後の請求項5とするものであり、また、同時に、請求項3及び1との引用関係を解消し、訂正前の請求項3及び1の発明特定事項に基づいて請求項5を書き改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6?8も同様に訂正される。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項6が「請求項1?5のいずれか」を引用していたところ、引用する請求項から請求項3及び4を削除することにより、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項5は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
さらに、請求項6を引用する請求項7も同様に訂正される。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

オ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項5が「請求項1?4のいずれか」を引用し、訂正前の請求項3は「請求項1または2」を引用し、請求項2は請求項1を引用していたところ、引用する請求項の数を減少させるとともに、一つの請求項として記載されていたものを「請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5」と「請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項5」の二つの請求項に変更し、後者を訂正後の請求項8とするものであり、また、同時に、上記訂正事項4の訂正に合わせて、請求項3及び1との引用関係を訂正後の請求項5との引用関係に書き改めるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項6は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?7に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?7に係る訂正事項1?6については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明8」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
ポリオレフィン樹脂、架橋剤および水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。
[請求項2]
オレフィン成分がブテンを含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体用プライマー。
[請求項3](削除)
[請求項4](削除)
[請求項5]
γ線架橋されたポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。
[請求項6]
請求項1、2、5のいずれかに記載の樹脂成形体用プライマーから水性媒体を除去してなることを特徴とする塗膜。
[請求項7]
請求項6記載の塗膜上に塗料が積層されてなることを特徴とする積層体。
[請求項8]
オレフィン成分がブテンを含有することを特徴とする請求項5記載の樹脂成形体用プライマー。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1?7に係る特許に対して令和元年11月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
理由I(明確性)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)「重量平均粒子径」について
訂正前の請求項1に記載された「重量平均分子量」は、本件明細書の記載及びその他の文献(甲第2号証の1?甲第2号証の9)の記載を参酌しても、どのように測定又は算出される粒子径を意味するのか、その定義が不明であるから、訂正前の請求項1は特許を受けようとする発明を明確に記載したものとすることができない。
訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用して記載されている訂正前の請求項2?7についても同様である。
よって、訂正前の請求項1?7は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)「不揮発性水性化助剤」について
訂正前の請求項1は、訂正前の請求項3に記載された「不揮発性水性化助剤」との関係において特許を受けようとする発明を明確に記載したものとすることができない。訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用し、「不揮発性水性化助剤」の含有量が特定されていない訂正前の請求項2、4?7についても同様である。
よって、訂正前の請求項1、2、4?7は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由II(サポート要件)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)訂正前の請求項1について
訂正前の請求項1に係る発明のうち、「水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」ことに加え、「水溶性高分子」以外の化合物も含めた「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」場合には、本件発明の課題を解決し得るといえるが、それ以外の場合については、参考例1と同様に、本件発明の課題を解決することができないと解される。
よって、訂正前の請求項1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が課題を解決し得ると認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)訂正前の請求項2、4?7について
訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用し、「不揮発性水性化助剤」の含有量が特定されていない訂正前の請求項2、4?7についても、訂正前の請求項1と同様である。
よって、訂正前の請求項2、4?7は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由III(実施可能要件)
訂正前の本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)訂正前の請求項1?7について
当業者がポリオレフィン樹脂の水性分散体を製造しても、それが「ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下である」という訂正前の請求項1の要件を満たしているか否かを本件明細書の記載等に基づいて確認することができないから、本件明細書は、訂正前の請求項1に相当する水性分散体を当業者が製造することができるように記載されているということができない。訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用して記載されている訂正前の請求項2?7についても同様である。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1?7に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとすることができないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由IV(新規性)
訂正前の本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由V(進歩性)
訂正前の本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(1)引用文献1を主引用例とする場合
訂正前の請求項1?3、6、7に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1?7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(2)引用文献2を主引用例とする場合
訂正前の請求項1?3、6に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1?7に係る発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-270122号公報(甲第1号証)
2.特開2012-172099号公報(甲第4号証)
3.国際公開第2012/176677号(甲第5号証)
4.祖父江寛, 但馬義夫, 田畑米穂, "ポリプロピレンのγ線照射による架橋", 工業化学雑誌, 公益社団法人日本化学会, 1959年, 第62巻第11号, p.1774-1776(甲第6号証)

第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
1.理由I(明確性)について
(1)「重量平均粒子径」について
ア 本件明細書の記載について
本件明細書の[0048]には、「ポリオレフィン樹脂粒子の数平均および重量平均粒子径」について、「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、水性分散体中のポリオレフィン樹脂の数平均粒子径(mn)および重量平均粒子径(mw)を求めた。なお、樹脂の屈折率は1.5とした。」と記載されている。

イ 甲号証の記載について
(イ-1)甲第2号証の1について
甲第2号証の1(THE MICROTRAC UPA 150 ULTRAFINE PARTICLE ANALYZERのカタログ、甲第2号証の7を参酌すると2001年7月20日以前に作成された文献と解される。)は、本件明細書の[0048]に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150」のカタログと解される文献であるが、その第2頁のCondensed Specifications (要約された仕様)のData Handring(データ処理)欄には、volume, number, and area distributions(甲第2号証の4の翻訳文によれば、体積分布、数分布、面積分布)と記載されている。

(イ-2)甲第2号証の2について
甲第2号証の2(Microtrac Nanotrac Wave 取扱説明書、甲第2号証の8を参酌すると、2013年2月6日以前に作成された文献と解される。)は、甲第2号証の5(マイクロトラック・ベル株式会社ホームページの記事)及び甲第2号証の6(マイクロトラック・ベル株式会社作成の文書)を参照すると、本件明細書の[0048]に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150」の後継機であるNanotrac Waveという粒子径分布測定、ゼータ電位測定装置の取扱説明書に当たると解される文献であるが、甲第2号証の2の第18?19頁には、測定原理に基づいて「Nanotrac Wave粒度分析計は、標準モードの操作で真の体積分布を計算することができ」ること、第40?41頁には、「粒度分布測定結果上に示される“要約データ”について説明します。
[10%,50%,90%] 10%,50%,90%径(μm:マイクロメートル)
・・・
特に,50%径は“累積平均径(中心径:Median径)”として一般的に粒度分布を評価するパラメータの1つとして利用されます。
[MV] MeanVolume Diameter :体積平均径
・・・
つまり、MVは、体積で重みづけされた平均径ということになります。
[MN] Mean Number Diameter :個数平均径
計算によって求められた仮想の個数分布から求められた平均径です。
この際、粒子はすべて球形と仮定しています。」と記載されていることから、上記粒度分析計では、粒子の体積に基づく分布を測定原理に基づいて第一に求めることができ、体積分布に基づく累積平均径(D50)を計算することができるとともに、粒子を球形と仮定した場合の体積平均径(MV)及び個数平均径(MN)を計算式に基づいて出力できることを理解することができる。
また、甲第2号証の2の第44頁には、「校正用の基準粉」のうち、「粒子径分布測定用」の基準粉が「ポリスチレンラテックス」であり、基準値範囲が「D50%(μm)0.105±0.020」の「均一なポリスチレン球体で、一般的に分散状態も良好で取り扱いやすいサンプル」であることが記載されているから、基準粉の粒径は体積分布に基づく累積平均径(D50)で表されていることが読み取れ、第45?49頁の「基準粉の測定方法」では、測定の最後に、
「14.分布表示設定を戻す
測定画面>分布条件2>表示設定>分布表示 より、分布表示を元の設定に戻します。 分布表示 : “光強度”から”体積”へ変更
以上で、基準粉の測定は終了です。
通常のサンプルを測定する場合も本項に習って測定を実施すると便利です。」
と記載されているから、通常のサンプルの測定では、体積に基づく分布が測定され、測定値は「校正用の基準粉」と同様に「一般的に分散状態も良好」なものとして取り扱われているものと理解することができる。

(イ-3)甲第2号証の3について
甲第2号証の3(Microtrac DMS2ソフトウェア、取扱説明書、粒子径分布測定装置マイクロトラック専用ソフトウェア、甲第2号証「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150」の9を参酌すると2014年1月31日以前に作成された文献と解される。)は、甲第2号証の5(マイクロトラック・ベル株式会社ホームページの記事)及び甲第2号証の6(マイクロトラック・ベル株式会社作成の文書)を参照すると、本件明細書の[0048]に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150」の後継機であるNanotrac Waveという粒子径分布測定、ゼータ電位測定装置で使用されるソフトウェアの取扱説明書に当たると解される文献であり、甲第2号証の3の第VII?IX頁には、計測画面の説明が記載され、「パーセントデータ」の一つとして「D50%(μm)」、要約データの一つとして「MN(μm)」が表示されることが読み取れる。

ウ 本件発明における測定値について
そうすると、本件明細書に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)」においても、上記後継機と同様の測定原理に基づき、同様の測定値(D50%(μm)及びMN(μm))を得ることができたものと解することができる。
そして、上記測定値は、「校正用の基準粉」と同様に「一般的に分散状態も良好」なものとして取り扱われているものという理解の下では、測定される粒子の密度は一定であるとして、体積分布を重量分布と同一視し、「D50%(μm)」を「重量平均粒子径」と称することが許されるといえる。
そうすると、本件発明1における「重量平均粒子径」は、「D50%(μm)」を意味し、本件明細書に記載された粒子径分布測定装置により測定値を得ることができるものであるといえるから、当該用語が不明確であるとまではいえない。本件発明1と同様の用語で特定されている本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。

エ 申立人の主張について
(エ-1)粒子の密度について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書において、「本件明細書には、測定される粒子の密度が一定であることなど記載されておらず、粒子の密度の具体的な値も記載されていません。また、水性分散体中における粒子の密度が全て同一であるとの技術常識も存在しません・・・。・・・例えば、大きな粒子と小さな粒子を想定した場合、密に凝集した小さな粒子と、疎に凝集した大きな粒子の密度が全く同じとは、考えがたいことであります。」(6?7頁)、「仮に、各粒子の密度差を無視して、密度が一定の値を有しているとして体積平均粒子径から重量平均粒子径を近似的に算出するのであれば、本件明細書に重量平均粒子径の定義及び測定方法として前記の旨を記載しておかなければ、明確性及び実施可能要件を満たしているとは言えません。」(8頁)と主張している。
しかし、上記1.(1)イ「甲号証の記載について」?同ウ「本件発明における測定値について」における検討を踏まえると、本件明細書に記載された粒子径分布測定装置によるD50%(μm)等の測定値を、「校正用の基準粉」と同様に「一般的に分散状態も良好」なものとして取り扱い、粒子の密度を一定と仮定して「重量平均粒子径」と称することは、甲号証の記載を合わせて勘案すると、不明確とまではいうことができないものである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(エ-2)測定項目について
また、申立人は、上記意見書(8?9頁)において、「甲第2号証には、50%体積平均径の他に、10%体積平均径及び90%体積平均径も測定できることが示されています。・・・
また、第2号証の2の第40頁には、日機装社製マイクロトラック粒度分布計により測定できる項目として、以下の項目が記載されています。
『[MV] MeanVolume Diameter:体積平均径』
『[MN] Mean Number Diameter:個数平均径』
『[MA] Mean Area Diameter:面積平均径』
このように、複数の測定できる項目が記載されているため、甲第2号証を参照しても、本件発明における重量平均粒子径が一義的に50%体積平均径であると特定することはできません。」と主張している。
しかし、甲第2号証の第40?41頁に記載された計算式からみて、MV、MN及びMAは、いずれも分散粒子を全て球形と仮定して計算された値であるから、D50%等の体積分布の方が仮定の少ない値であるといえる。
また、基準粉の粒径が体積分布に基づく累積平均径(D50)で表されていることからも明らかなとおり、10%、50%及び90%体積平均径のうちの一つを代表値として表示する場合、50%体積平均径を用いることが最も一般的であるといえる。
そうすると、甲第2号証に複数の測定できる項目が記載されているとしても、本件発明における重量平均粒子径が一義的に50%体積平均径であると特定することができないとまではいえない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

オ 「重量平均粒子径」についてのまとめ
以上のことから、本件発明1等における「重量平均粒子径」の用語は、「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)」を用いて測定される体積分布に基づくD50%(μm)を意味するものと理解することができ、明確なものであるといえる。
よって、本件発明1、5、及びそれらを直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8が、上記の用語の点で明確でないということはできない。

(2)「不揮発性水性化助剤」について
ア 本件訂正について
本件訂正により、本件発明1において、「水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であ」ることに加え、「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」ことが特定された。

イ 本件明細書の記載について
本件明細書の[0021]には、「不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。・・・含有量がゼロであることが特に好ましいが、・・・ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない。」ことが記載され、[0022]には、「本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、乳化剤、・・・水溶性高分子などが挙げられる。乳化剤としては、・・・ノニオン性乳化剤・・・が挙げられ、・・・界面活性剤類も含まれる。」と記載されているから、本件発明1における「不揮発性水性化助剤」は、「水溶性高分子」を包含する上位概念の用語であると理解することができる。

ウ 本件発明についての判断
そうすると、本件発明1においては、上位概念である「不揮発性水性化助剤」の含有量が「ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」ことが特定されるとともに、不揮発性水性化助剤のうち、特に、「水溶性高分子」の含有量についても「ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」ことが具体的に特定されたものと理解することができ、両者の含有量の多少においても矛盾するところはない。
よって、本件発明1における不揮発性水性化助剤及び水溶性高分子についての発明特定事項は明確である。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。

エ 申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第9?10頁)において、「仮に、不揮発性水性化助剤が水溶性高分子である場合、訂正された請求項1は、ポリオレフィン樹脂成分に対して不揮発性水性化助剤としての水溶性高分子を0.5質量%未満及びそれとは別に水溶性高分子を0.5質量%未満含んでもよいという内容になります。・・・しかしながら、本願明細書の0021段落に記載されているのは、・・・水性化助剤をポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていてもよいということのみであって、前述したような・・・ことは記載されていません。」と主張している。
しかし、上記のとおり、本件明細書の[0021]及び[0022]の記載を参酌すると、本件発明1における「不揮発性水性化助剤」は、「水溶性高分子」を包含する上位概念の用語であると明確に理解することができ、それらの含有量についても、「不揮発性水性化助剤」の含有量の範囲内で「水溶性高分子」の含有量が特定されたものと理解して矛盾するものではない。
また、不揮発性水性化助剤とは別枠で水溶性高分子が添加されると解すべき特段の事情も見いだせない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

オ 「不揮発性水性化助剤」についてのまとめ
以上のことから、本件発明1等における「不揮発性水性化助剤」についての発明特定事項は、明確であるといえる。
よって、本件発明1、5、及びそれらを直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8が、上記の点で明確でないということはできない。

(3)理由I(明確性)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5?8は、いずれも特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由I(明確性)の理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

2.理由II(サポート要件)について
(1)本件発明の課題について
本件明細書の[0002]?[0004]には、背景技術として、「樹脂成形体の表面には、その用途に応じて各種の塗装がなされているが、樹脂の種類によっては、直接塗装することが困難なことがある」こと、従来、「塩素化ポリプロピレン樹脂からなるプライマー」が用いられ、「これまで溶剤タイプのものが使用されていたが、安全衛生、環境保全の観点から、水分散タイプのものが使用されてきている」こと、「水分散タイプのものは、・・・多量の乳化剤を含有しており・・・塗膜は、耐水性、耐湿性等が低下するという問題がある。また、90℃以下の低温焼付により形成した厚膜も、耐水性、耐湿性、耐ガソリン性が低下しやすいという問題があった」こと、及び「乳化剤を含有しないプライマーとして、・・・変性ポリオレフィン樹脂を水性分散化したもの」は、「形成された塗膜は、基材との密着性に劣ることがあり、また塗膜上に積層された塗料との密着性に劣ることがあった」ことが記載されている。そして、[0006]には、「本発明の課題は、上記問題を解決し、ポリオレフィン樹脂の水性分散体からなり、乳化剤などの不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないプライマーであって、形成された塗膜は、基材としての樹脂成形体に対しても、また塗膜の上に積層された塗料に対しても優れた密着性を有することができるプライマーを提供することである。」ことが記載されている。
これらの記載及び請求項の記載を参酌すると、本件発明は、「ポリオレフィン樹脂の水性分散体からなり、乳化剤などの不揮発性水性化助剤を実質的に含有しないプライマーであって、安全衛生、環境保全性に優れ、形成された塗膜は、基材としての樹脂成形体に対しても、また塗膜の上に積層された塗料に対しても優れた密着性を有し、耐水性、耐湿性、耐ガソリン性にも優れるプライマーを提供する」ことを課題とするものといえる。

(2)本件発明1について
本件発明1は、上記第3「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される「樹脂成形体用プライマー」の発明である。

(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記課題を解決する手段に関し、以下のような事項が記載されている。
「[0009]
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂成形体用プライマーは、ポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有する水性分散体からなり、本発明におけるポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有するものである。
本発明において、ポリプロピレンなどの樹脂成形体に対するプライマーの密着性を向上させるために、オレフィン成分はプロピレンを含有することが必要である。オレフィン成分におけるプロピレンの含有量は60?95質量%であることが必要であり、60?90質量%であることが好ましく、60?80質量%であることがより好ましい。オレフィン成分におけるプロピレンの含有量が60質量%未満であると、得られる塗膜は、ポリプロピレンなどの樹脂成形体に対する密着性が低下する傾向にあり、一方、オレフィン成分におけるプロピレンの含有量が95質量%を超えると、ポリオレフィン樹脂は、水性分散化することが困難になる傾向があり、また水性分散体中での重量平均粒子径が大きくなる傾向がある。」

「[0012]
本発明におけるポリオレフィン樹脂は、水性分散化を容易にするために、不飽和カルボン酸成分を含有することが必要である。不飽和カルボン酸成分の含有量は、オレフィン成分の0.5?15質量%であることが必要であり、0.5?10質量%であることが好ましく、0.5?8質量%であることがより好ましく、1?7質量%であることがさらに好ましく、1.5?7質量%であることが特に好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.5質量%未満であると、ポリオレフィン樹脂を水性分散化することが困難になる傾向があり、一方、含有量が15質量%を超えると、ポリオレフィン樹脂の水性分散化は容易になるが、得られる塗膜は、ポリプロピレン等の樹脂成形体への密着性が低下する傾向にある。本発明においては、後述する方法で水性分散化することで、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%以下であるポリオレフィン樹脂であっても、微細かつ安定に水性分散化することができる。」

「[0019]
本発明において、水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂は、得られるプライマーの低温造膜性の点から、重量平均粒子径が0.15μm以下であることが必要であり、0.12μm以下であることが好ましく、0.10μm以下であることがより好ましく、0.001?0.10μmであることがさらに好ましい。水性分散体中に分散しているポリオレフィン樹脂の重量平均粒子径が0.15μmを超えると、得られるプライマーは、低温造膜性が低下し、塗膜を低温で乾燥した場合に、塗膜と樹脂成形体との密着性が低下することがある。水性分散体中においてこのような重量平均粒子径を有するポリオレフィン樹脂は、後述する水性分散体の製造方法によって調製することができる。」

「[0021]
本発明における水性分散体は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明においては、不揮発性水性化助剤を含有しなくても、ポリオレフィン樹脂を重量平均粒子径0.15μm以下で水性媒体中に安定に維持することができる。このため、本発明のプライマーから形成された塗膜は、低温乾燥における塗膜特性、特に耐水性、基材との密着性が優れており、これらの性能は長期的にほとんど変化しない。
上記「水性化助剤」とは、水性分散体の製造において、水性化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物のことであり、「不揮発性」とは、常圧での沸点を有さないか、または、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
また「不揮発性水性化助剤を実質的に含有しない」とは、このような助剤を製造時(樹脂の水性化時)に用いず、得られる分散体が結果的にこの助剤を含有しないことを意味する。したがって、このような水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない。
[0022]
本発明でいう不揮発性水性化助剤としては、例えば、乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。」

「[0024]
次に、本発明のプライマーを構成する水性分散体の製造方法について説明する。
本発明において水性分散体を得るための方法は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを、密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができる。この方法において、水性媒体は、有機溶剤や塩基性化合物を含有することが好ましい。
[0025]
ポリオレフィン樹脂の水性分散化の際に、水性媒体に有機溶剤を添加することにより、ポリオレフィン樹脂は、水性分散化が促進され、分散粒子径を小さくすることができる。
水性媒体における有機溶剤の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、1?45質量%であることがより好ましく、2?40質量%であることがさらに好ましく、3?35質量%であることが特に好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超えると、実質的に水性媒体とはみなせなくなり、安全衛生、環境保全の観点から好ましくなく、使用する有機溶剤によっては、水性分散体の安定性が低下してしまう場合がある。」

「[0028]
水性媒体は、上記有機溶剤とともに、塩基性化合物を含有していてもよい。
ポリオレフィン樹脂の水性分散化の際に、水性媒体に塩基性化合物を添加することにより、ポリオレフィン樹脂の分散を安定にすることができる。
塩基性化合物の添加量は、ポリオレフィン樹脂中のカルボキシル基に対して0.5?10倍当量であることが好ましく、0.8?5倍当量であることがより好ましく、0.9?3.0倍当量であることがさらに好ましい。塩基性化合物の添加量が0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、添加量が10倍当量を超えると、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水性分散体の安定性が低下する場合がある。
塩基性化合物としては特に限定されず、具体例としては、アンモニア、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロピルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、ピリジン等を挙げることができる。」

「[0030]
上記の装置にポリオレフィン樹脂、水性媒体などの原料を投入し、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を80?240℃、好ましくは100?220℃、さらに好ましくは110?200℃、特に好ましくは100?190℃の温度に保ちつつ、好ましくは粗大粒子が無くなるまで(例えば、5?300分間)攪拌を続ける。
次に、さらに系内に、塩基性化合物、有機溶剤、水から選ばれる少なくとも1種を追加し、密閉容器中で再度、80?240℃の温度で加熱、攪拌をおこなう。このような溶媒等を追加して、加熱、攪拌をおこなうこと(以下、追加分散処理ともいう)により、ポリオレフィン樹脂は微細なものとなり、その重量平均粒子径を0.15μm以下にすることができる。塩基性化合物、有機溶剤、水を追加する方法は特に限定されないが、ギヤポンプを用いて加圧下で添加する方法や、いったん、系内温度を下げた後、開封して追加する方法などが挙げられる。追加する塩基性化合物、有機溶剤、水の量は、所望する固形分濃度や粒子径によって適宜決めることができるが、添加して得られる水性分散体における固形分濃度が1?50質量%となる量が好ましく、2?45質量%となる量がより好ましく、3?40質量%となる量がさらに好ましい。
上記工程において、槽内の温度が80℃未満であると、ポリオレフィン樹脂の水性化の進行が困難になることがあり、槽内の温度が240℃を超えると、ポリオレフィン樹脂の分子量が低下することがある。」

「[0047]
(3)ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、GPC分析(東ソー社製HLC-8020、カラムはTSK-GEL)を用いて、試料をテトラヒドロフランに溶解して、40℃で測定し、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めた。試料がテトラヒドロフランに溶解し難い場合は、オルトジクロロベンゼンに溶解した。
[0048]
(4)ポリオレフィン樹脂粒子の数平均および重量平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、水性分散体中のポリオレフィン樹脂の数平均粒子径(mn)および重量平均粒子径(mw)を求めた。なお、樹脂の屈折率は1.5とした。」

「[0053]
ポリオレフィン樹脂は、下記の方法によって製造した。
(1)ポリオレフィン樹脂(P-1)
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/ブテン=80/20(質量%))280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下で加熱溶融させた後、系内温度を170℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸25.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥してポリオレフィン樹脂(P-1)を得た。」

「[0055]
得られたポリオレフィン樹脂(P-1)?(P-5)の特性を表1に示す。
[0056]
[表1]



「[0057]
実施例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(P-1)、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル、8.0gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび137.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。その後、空冷にて内温が80℃になるまで冷却して、水性分散体(A)を得た。
ガラス容器を開封して、水性分散体(A)に、45.0gのテトラヒドロフラン、5.0gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび30.0gの蒸留水を添加した後、密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmとして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌して、追加分散処理をおこなった。
その後、空冷にて回転速度300rpmのまま攪拌しつつ、室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体(B)を得た。この際、フィルター上に樹脂はほとんど残っていなかった。得られた水性分散体の固形分濃度は、20質量%であった。得られた水性分散体の特性、および水性分散体からなるプライマーの塗膜性能を表2に示した。」

「[0061]
比較例1
実施例1に記載された方法で調製した水性分散体(A)について、追加分散処理をおこなわず、室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の水性分散体を得た。この際、フィルター上に樹脂はほとんど残っていなかった。次いで、得られた水性分散体を水で希釈し、固形分濃度を20質量%に調整した。得られた水性分散体の特性、および水性分散体からなるプライマーの塗膜性能を表2に示した。
[0062]
参考例1
実施例1において、不揮発性の水性化助剤であるノイゲンEA-190D(第一工業製薬社製、ノニオン性界面活性剤)を固形分全質量に対して3質量%となるように添加した以外は実施例1に準じた方法で樹脂の水性化を行って水性分散体を得た。得られた水性分散体の特性、および水性分散体からなるプライマーの塗膜性能を表2に示した。」

「[0063]
[表2]



「[0064]
実施例1?2、4?7のプライマーは低温造膜性に優れ、これから得られた塗膜は、樹脂成形体に対する密着性、耐水密着性に優れ、また自動車塗料に対する密着性も良好であった。また、架橋剤を含有したり、γ線架橋することで、耐ガソリン性も良好であった。
比較例1、3では、水性分散体におけるポリオレフィン樹脂の重量平均粒子径が本発明で規定する範囲を超えるものであったため、低温造膜性に劣り、得られた塗膜は、樹脂成形体に対する密着性や耐水密着性、耐ガソリン性が著しく低下した。
比較例2では、ポリオレフィン樹脂の重量平均粒子径が本発明で規定する範囲を超えるものであったため、低温造膜性に劣り、得られた塗膜は、樹脂成形体に対する密着性が劣り、またポリオレフィン樹脂のオレフィン成分におけるプロピレンの含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであったため、得られた塗膜は、自動車塗料に対する密着性が著しく低下した。
参考例1では、水性分散体が、不揮発性水性化助剤乳化剤を含有するため、得られた塗膜は、樹脂成形体に対する耐水性や自動車塗料に対する密着性が著しく低下した。」

(4)サポート要件の判断
(4-1)課題解決手段について
本件明細書の[0021]には、「本発明における水性分散体は、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないことが好ましい。本発明においては、不揮発性水性化助剤を含有しなくても、ポリオレフィン樹脂を重量平均粒子径0.15μm以下で水性媒体中に安定に維持することができる。このため、本発明のプライマーから形成された塗膜は、低温乾燥における塗膜特性、特に耐水性、基材との密着性が優れており、これらの性能は長期的にほとんど変化しない。・・・水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない」ことが記載されており、[0030]等には、不揮発性の水性化助剤を実質的に含有しないポリオレフィン樹脂の水性分散体を得る方法として、
「装置にポリオレフィン樹脂、水性媒体などの原料を投入し、・・・攪拌混合しておく。・・・さらに系内に、塩基性化合物、有機溶剤、水から選ばれる少なくとも1種を追加し、・・・追加分散処理・・・により、ポリオレフィン樹脂は微細なものとなり、その重量平均粒子径を0.15μm以下にすることができる」ことが記載されている。
また、[0057]には、実施例1として、[0053]に記載された方法で製造されたポリオレフィン樹脂(P-1)及び[0056]に記載された(P-2)を用いて、上記[0030]に相当する方法により、不揮発性水性化助剤を含まない水性分散体(B)を製造したことが記載され、[0058]には、ポリオレフィン樹脂(P-2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で水性分散体を製造したことが記載され、[0063]の[表2]には、これらの水性分散体が、低温造膜性(密着性)、耐水密着性、耐ガソリン性及び自動車塗料密着性の評価項目で優れたものであることが記載されている。
さらに、[0062]には、参考例1として、「不揮発性の水性化助剤であるノイゲンEA-190D(第一工業製薬社製、ノニオン性界面活性剤)を固形分全質量に対して3質量%となるように添加した」例が記載されているところ、[0063]の[表2]によると、参考例1は低温造膜性の評価が実施例よりも劣る「△」であり、耐水密着性及び自動車塗料密着性の評価が「×」であることが記載されている。

(4-2)課題を解決できるといえる範囲
そこで、これら本件明細書の記載を参酌すると、
「ポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有し、不揮発性水性化助剤の含有量がゼロであるか、又は0.5質量%未満である、水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。」については、上記本件発明の課題を解決することができると理解することができる。
また、上記において、水性分散体がさらに架橋剤を含有する場合、及びポリオレフィン樹脂がγ線架橋されている場合には、実施例4?7の実験データを参酌すると、上記課題のうち「耐ガソリン性」がより優れたものになることが理解できる。
これに対し、参考例1のように、ノニオン性界面活性剤等の不揮発性水性化助剤を0.5質量%以上含有する水性分散体からなるプライマーでは、上記本件発明の課題を解決できないと理解することができる。

(4-3)本件発明1についての判断
本件訂正により、本件発明1は、上記2.(4)(4-2)「課題を解決できるといえる範囲」に記載した、水性分散体がさらに架橋剤を含有する場合の発明に相当するものとなったと認められるから、本件発明1は上記課題を解決することができるものであるといえる。

(4-4)申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第9?10頁)において、「不揮発性水性化助剤」及び「水溶性高分子」に係る訂正要件違反を主張しているが、上記第2「訂正請求について」に記載したとおり、本件訂正は認められるものであり、また、上記第5 1.(2)エ「申立人の主張について」に記載したとおり、申立人の主張は理由がないものであるから、採用することはできない。

(4-5)本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(4-6)本件発明2、5?8について
本件訂正により、本件発明5は、上記2.(4)(4-2)「課題を解決できるといえる範囲」に記載した、ポリオレフィン樹脂がγ線架橋されている場合の発明に相当するものとなったと認められるから、本件発明5は上記課題を解決することができるものであるといえる。
よって、本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても、本件発明1又は5と同様の理由により、いずれも発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。

(5)理由II(サポート要件)のまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、5?8は、いずれも特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由II(サポート要件)の理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

3.理由III(実施可能要件)について
(1)「重量平均粒子径」について
上記第5 1.(1)「『重量平均粒子径』について」における検討を踏まえると、本件発明1等における「重量平均粒子径」は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)」を用いて、体積分布に基づくD50%(μm)を得ることにより、決定、確認することができるものと理解することができる。
そうすると、当業者がポリオレフィン樹脂の水性分散体を製造したときに、それが「ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下である」という本件発明1の要件を満たしているか否かは、本件明細書の記載等に基づいて確認することができるから、本件明細書は、本件発明1に相当する水性分散体を当業者が製造することができるように記載されているということができる。
本件発明1と同様の用語で特定されている本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。

(2)申立人の主張について
特許権者は、令和2年3月13日に提出した意見書(第3?9頁)において、「(3)『重量平均粒子径』に係る理由I(明確性)、理由III(実施可能要件)につい」と題して、上記第5 1.(1)エ「申立人の主張について」に記載したとおりの主張をしているが、同様の理由により、いずれの主張も採用することはできない。

(3)理由III(実施可能要件)についてのまとめ
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、5?8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由III(実施可能要件)の理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

4.引用文献等及びその記載事項
<引用文献等一覧>
1.特開2007-270122号公報(甲第1号証)
2.特開2012-172099号公報(甲第4号証)
3.国際公開第2012/176677号(甲第5号証)
4.祖父江寛, 但馬義夫, 田畑米穂, "ポリプロピレンのγ線照射による架橋", 工業化学雑誌, 公益社団法人日本化学会, 1959年, 第62巻第11号, p.1774-1776(甲第6号証)

(i)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[特許請求の範囲]
[請求項1]
プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体であるプロピレン-α-オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなる樹脂分散体であって、
前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10、000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、
樹脂分散体の界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする、樹脂分散体。
・・・
[請求項3]
共重合体(A)がプロピレン-ブテン共重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂分散体。
・・・
[請求項7]
重合体(C)が、50%粒子径0.3μm以下で水に分散されてなる、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
・・・
[請求項15]
実質的に界面活性剤を含まない、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の樹脂分散体。
[請求項16]
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の樹脂分散体からなる、塗料。
・・・
[請求項18]
熱可塑性樹脂成形体(F)に、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の樹脂分散体又は請求項16に記載の塗料を塗布し、加熱することにより樹脂層が形成されてなる、積層体。」

(1-2)「[背景技術]
[0002]
プロピレン重合体やプロピレン-α-オレフィン共重合体などのポリオレフィンは安価であり、しかも、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、耐水性などに優れていることから、広い分野で使用されている。しかしながら、こうしたポリオレフィンは、分子中に極性基を持たないため一般に低極性であり、塗装や接着が困難であり改善が望まれていた。このため、ポリオレフィンの成形体の表面を薬剤などで化学的に処理する方法、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理などの手法で成形体表面を酸化処理する方法、といった種々の方法が試みられてきている。しかるにこれらの方法では、特殊な装置が必要である上に、塗装性や接着性の改良効果が必ずしも十分ではなかった。
[0003]
そこで比較的簡便な方法でポリオレフィン、例えばプロピレン系重合体に良好な塗装性や接着性を付与するための工夫として、いわゆる塩素化ポリプロピレンや酸変性プロピレン-α-オレフィン共重合体、さらに酸変性塩素化ポリプロピレンが開発されてきた。このような変性ポリオレフィンを、ポリオレフィンの成形体表面に表面処理剤、接着剤或いは塗料等として塗布するのである。変性ポリオレフィンは通常、有機溶媒の溶液、又は水への分散体などの形態で塗布される。安全衛生及び環境汚染の低減の面から通常、水分散体が好ましく用いられる。
[0004]
このような水分散体の例として、酸変性塩素化ポリプロピレンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水に分散させた樹脂分散体(特許文献1)または酸変性ポリオレフィンを界面活性剤と塩基性物質を使用して水に分散させた樹脂分散体(特許文献2)等がある。
しかしこれらの樹脂分散体では、分散粒子径を細かくするには界面活性剤を大量に添加する必要があり、結果として、このような樹脂分散体を用いた塗料は耐水性や耐薬品性に乏しいという課題があった。また塗布後に界面活性剤が塗装表面へブリードアウトして外観不良が起こる場合もあった。一方、界面活性剤の使用量を減らすと樹脂の分散粒子径の粗いものしかできず、貯蔵安定性に問題があった。界面活性剤を用いた乳化系ではこれら全てを満足させることは困難であり、さらなる改善が望まれていた。また特許文献1においては、樹脂の分散性を確保するために、比較的融点を低くした塩素化ポリプロピレンを用いているが、環境汚染防止の点からは塩素使用量低減が望ましい。
・・・
[0008]
本発明は、分散粒子径が細かく安定であり、かつ界面活性剤によるブリードアウトが抑制され、耐薬品性・耐水性に優れ、結晶性を有するオレフィン系重合体に対する密着性に優れた表面処理剤、接着剤あるいは塗料等として有用な、樹脂の水分散体を提供するものである。またこれを含有してなる塗料、積層体及びその製造方法を提供するものである。」

(1-3)「[発明の効果]
[0019]
本発明によれば、重合体(C)は水への分散性に非常に優れるので、分散粒子径が細かく、なおかつ粒径分布を狭くでき、安定に分散できる利点がある。また界面活性剤をごく少量か又は実質的に添加することなく分散できるので、従来問題となっていた界面活性剤によるブリードアウトが抑制できる利点があり、ひいては優れた外観の塗布品が得られる。従って従来は有機溶剤の溶液として塗布していた用途にも水性分散体を使用でき、安全衛生面でも有利である。また有機溶剤溶液ではないのでVOC(揮発性有機化学物質)排出が低減でき環境面でも有利である。しかも実質的に塩素を含まないで優れた性質の水分散体を得ることができる。塩素を含まない場合、ダイオキシン等や毒性等の問題が無く、環境面で非常に有利である。
[0020]
更に、プロピレン-α-オレフィン共重合体(A)は同程度の立体規則性を持つプロピレンホモポリマーに比べて溶媒溶解性が高く水分散性に優れ、また融点が低いためこれを用いた樹脂分散体は塗装後の焼き付け温度を下げることができる利点がある。
また本発明の樹脂分散体の製造方法によれば、分散粒子径が細かく、粒径分布が狭く、かつ樹脂粒子が安定に分散した、優れた水性樹脂分散体を簡便に得ることができる。
[0021]
さらに、本発明の樹脂分散体を含む塗料を塗布して得られた塗装膜は耐水性、耐湿性、耐油性(耐ガソホール性)、耐薬品性に優れる。このため1回のみの塗装で仕上げられ、例えば溶剤系ラッカー型塗料を使用する塗装方法にも好適である。
そして得られる塗膜はポリオレフィン素材、もしくはポリオレフィン等を含有するプラスチック素材に対して良好な密着性を示し、通常塗装や接着が困難な未処理ポリプロピレンのような難接着性の基材上にも形成しうる。」

(1-4)「[0024]
本発明の水性樹脂分散体(以下、「水分散体」、「水性分散体」、「樹脂分散体」と称することもある。)は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体であって、プロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ重量平均分子量Mwが10,000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下である共重合体(A)に、親水性高分子(B)が結合してなるか又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなり、界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下である。即ち上記特定のオレフィン系共重合体(A)に親水性高分子を結合させるか酸性基を結合させた重合体(C)は水への分散性に非常に優れるので、界面活性剤を全く用いないかごく少量用いることで、分散粒子径が細かく、かつ粒径分布が狭く、粒子が安定的に分散した水性樹脂分散体を得ることができる。
・・・
[0027]
共重合体(A)として具体的には、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン共重合体、塩素化プロピレン-エチレン共重合体、塩素化プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。なかでも、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、塩素化プロピレン-エチレン共重合体、又は塩素化プロピレン-ブテン共重合体が好ましく、プロピレン-エチレン共重合体、又はプロピレン-ブテン共重合体がより好ましく、プロピレン-ブテン共重合体が更に好ましい。市販品として入手できるものとしては、ウィンテックシリーズ(日本ポリプロ社製)、タフマーXMシリーズ(三井化学社製)、リコセンPPシリーズ(クラリアント社製)、スーパークロンシリーズの一部(日本製紙ケミカル社製)、ハードレンシリーズの一部(東洋化成工業社製)などが挙げられる。
・・・
[0029]
なかでもプロピレン含量が70モル%以上100モル%未満、1-ブテン含量が30モル%以下であるプロピレン-ブテン共重合体が好ましい。
共重合体(A)はランダム共重合体でもブロック共重合体でもよいが、ランダム共重合体が好ましい。ランダム共重合体であれば、より効果的に共重合体の融点を下げることができる。また共重合体(A)は直鎖状であっても分岐状であってもよい。」

(1-5)「[0042]
[2]プロピレン-α-オレフィン共重合体(A)に酸性基が結合してなる重合体(C1)
本発明における酸性基とは電子対受容性の基を指し、特に限定されないが、例えば、カルボン酸基(-COOH)、スルホ基(-SO_(3)H)、スルフィノ基(-SO_(2)H)、ホスホノ基(-PO_(2)H)などが挙げられる。中でもカルボキシル基が好ましい。カルボン酸基は、水に分散される前はジカルボン酸無水物基(-CO-O-OC-)の状態でもよい。カルボン酸基としては、例えば、(メタ)アクリル酸基、フマル酸基、マレイン酸基又はその無水物基、イタコン酸基又はその無水物基、クロトン酸基などが挙げられる。
・・・
[0044]
重合体(C1)の製法については、[3-1]で後述する、プロピレン-α-オレフィン共重合体(A)に反応性基が結合してなる共重合体(A2)の製造方法と同様の方法を用いうる。
・・・
[0047]
[3-1]プロピレン-α-オレフィン共重合体(A)に反応性基が結合してなる共重合体(A2)
反応性基を有するプロピレン-α-オレフィン共重合体(A2)としては、例えば、重合時に反応性基を有しない不飽和化合物と反応性基を有する不飽和化合物とを共重合した共重合体(A2a)、反応性基を有するラジカル重合性不飽和化合物をプロピレン-α-オレフィン共重合体(A)にグラフト重合した重合体(A2b)、又は、不飽和末端基を持つプロピレン-α-オレフィン共重合体を13族?17族の元素基等に変換した重合体(A2c)を用いることができる。
[0048]
共重合体(A2a)は、反応性基を有しない不飽和化合物と、反応性基を有する不飽和化合物とを共重合して得られ、反応性基を有する不飽和化合物が主鎖に挿入された共重合体である。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィンと、アクリル酸、無水マレイン酸等のα、β-不飽和カルボン酸又はその無水物とを共重合して得られる。共重合体(A2a)として、例えばプロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体などが使用できる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。製造方法は[1]で述べた方法を同様に用いることができる。
・・・
[0050]
本反応のプロピレン-α-オレフィン共重合体としては、上述の共重合体(A)を使用することができる。
重合体(A2b)として、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-エチレン共重合体又はその塩素化物、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体、アクリル酸変性プロピレン-エチレン共重合体又はその塩素化物、アクリル酸変性プロピレン-ブテン共重合体などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」

(1-6)「[0106]
消泡剤としては、例えばエアープロダクト社製のサーフィノール104PA又はサーフィノール440等が挙げられる。
乾き防止剤としては、例えばビックケミー社製のByketol-PCや上記にあげた界面活性剤等が挙げられる。
また耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を分散体中の樹脂100重量部に対して0.01?100重量部添加することができる。架橋剤としては自己架橋性を有する架橋剤、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に複数固有する化合物、多価の配位座を有する金属錯体等を用いることができる。このうちイソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が好ましい。またこれらの架橋剤を組み合わせて使用してもよい。」

(1-7)「[0146]
本発明の樹脂分散体はプライマー、プライマーレス塗料、接着剤、インキ等に使用することができる。本発明は特にプライマーや塗料、接着剤として有用に用いることができる。特にポリオレフィン基材に適する。例えば自動車内装用・外装用等の自動車用塗料、プライマー、携帯電話・パソコン等の家電用塗料、建築材料用塗料等に用いうる。」

(1-8)「[0190]
(5)グラフト率
重合体200mgとクロロホルム4800mgを10mlのサンプル瓶に入れて50℃で30分加熱し完全に溶解させた。材質NaCl、光路長0.5mmの液体セルにクロロホルムを入れ、バックグラウンドとした。次に溶解した重合体溶液を液体セルにいれて、日本分光社製FT-IR460plusを用い、積算回数32回にて赤外線吸収スペクトルを測定した。無水マレイン酸のグラフト率は、無水マレイン酸をクロロホルムに溶解した溶液を測定し検量線を作成したものを用いて計算した。そしてカルボニル基の吸収ピーク(1780cm^(-1)付近の極大ピーク、1750?1813cm^(-1))の面積から、別途作成した検量線に基づき、重合体中の酸成分含有量を算出し、これをグラフト率(重量%)とした。
[0191]
(6)分散粒子径
日機装社製マイクロトラック UPA(モデル9340 バッチ型 動的光散乱法/レーザードップラー法)を用いて測定した。分散体の密度を0.9g/cm^(3)、粒子形状を真球形、粒子の屈折率を1.50、分散媒を水、分散媒の屈折率を1.33として、測定時間120秒にて測定し、体積換算として粒径が細かい方から累積で50%粒子径、90%粒子径を求めた。」

(1-9)「[0193]
(7)-2
自動車外装用グレードのポリプロピレンを70mm×150mm×3mmにインジェクション成型した基板(試験片)を作成し、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、試料を、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約10g/m^(2)となるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中で、80℃で5分乾燥した。次に、この塗布後の試験片の上に、所定量の硬化剤を配合し且つ専用シンナーで粘度調整を行ったアクリルポリオールウレタン塗料[レタン PG80III:関西ペイント社製]を、塗布量が25?30g/m^(2)になるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中において90℃で30分間焼付けし塗装板を得た。
[0194]
23℃で24時間放置後、JIS K 5400に記載されている碁盤目試験の方法に準じて2mm間隔で25マス(5×5)の碁盤目を付けた試験片を作成し、セロハンテープ(ニチバン(株)品)を貼り付けた後、90度方向に剥離し、25個の碁盤目のうち剥離されなかった碁盤目数にて評価した。
[0195]
(8)耐ガソホール性試験
密着性試験(7)-2と同様に作製した塗装板を、20℃に保ったレギュラーガソリンとエタノールとの混合溶液(重量比:レギュラーガソリン:エタノール=9:1)中に浸漬して、塗膜に剥離が生じるまでの時間を測定し、以下のように評価した。
◎:60分以上
○:15分以上60分未満
△:5分以上15分未満
×:5分未満
[0196]
(9)塗膜物性
密着性試験(7)-2で用いた基板を、基板表面をイソプロピルアルコールで清拭した。ここに、試料を、塗布量(塗布後の乾燥重量)が約10g/m^(2)となるように噴霧塗布し、セーフベンドライヤー中で、80℃で30分乾燥し、試験片を得た。この試験片を40℃で3日間静置した後、ブリードアウト及びタック性の評価を行った。
・ ブリードアウト
塗装試験片を目視し、塗膜表面にブリードアウトした界面活性剤の状態を外観観察した結果、以下のように判定した。
○:界面活性剤のブリードアウト無し
△:界面活性剤がわずかにブリードアウトしている
×:界面活性剤がかなりブリードアウトしている
・ タック性
塗装試験片を指触し、表面状態を以下のように判定した。
○:指で触ってもタック無し
×:指で触るとタックあり」

(1-10)「[0198]
以下、実施例及び比較例で用いた共重合体(A)及び他の重合体のプロピレン含量、Mw(ポリプロピレン換算)、Mw/Mn(ポリプロピレン換算)、融点Tm、結晶融解熱量ΔH、昇温溶出分別法における60℃以下での溶出量を表-1に示す。
[0199]
[表1]



(1-11)「[0208]
[実施例2]
(溶融変性工程)
プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)200kgと無水マレイン酸5kgをスーパーミキサーでドライブレンドした後、2軸押出機(日本製鋼所社製TEX54αII)を用い、プロピレン-ブテン共重合体100重量部に対し1重量部となるようにパーブチルIを液添ポンプで途中フィードしながら、ニーディング部のシリンダー温度200℃、スクリュー回転数125rpm、吐出量80kg/時間の条件下で混練し、ペレット状の製品を得た。
このようにして得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体の無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は0.8重量%(無水マレイン酸基として0.08mmol/g、カルボン酸基として0.16mmol/g)であった。
また重量平均分子量は156,000、数平均分子量は84,000(ともにポリスチレン換算)であった。」

(1-12)「[0215]
[実施例6]
実施例2と同様に溶融変性工程を行い、無水マレイン酸基含量0.8重量%、重量平均分子量156,000の無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を得た。
次に、1Lガラスフラスコに還流冷却管、温度計、窒素ガス吹込み管、攪拌機を設置した後、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体200gとトルエン200gを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら110℃になるまで加温、撹拌した。
昇温後、無水マレイン酸10gとパーブチルI 3.0gを加え、その後30分ごとにこの操作を3回繰り返した(計4回)のち、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。
[0216]
反応終了後、反応液温度(内温)を50℃まで冷却し、アセトン600gを約1時間かけて滴下すると、薄赤色の懸濁液が得られた。吸引ろ過器で液体を除去した後、残った白色固体をアセトン500gに懸濁させ30分撹拌した。再度吸引ろ過器で液体を除去した後、テフロン(登録商標)コーティングしたバットに入れ、60℃の減圧乾燥器中で乾燥し変性ポリマーを得た。
この変性ポリマーの無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol/g、カルボン酸基として1.16mmol/g)であり、重量平均分子量は89,000、数平均分子量は44,000(ともにポリスチレン換算)であった。
[0217]
この無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体150gとTHF500gを還流冷却管、温度計、攪拌機を設置した2Lガラスフラスコに仕込み、昇温し、65℃にて完全に溶解させた。得られた溶液にモルホリン33g(0.37mol)を加え、同温度で30分撹拌した。次に水500gを2時間かけて加え、淡黄色の溶液を得た。
ジャケット温度(外温)60℃で、得られた液体を減圧してTHFと一部の水を減圧留去し、ポリマー濃度が30重量%の水分散体を得た。
得られた水性樹脂分散体の評価結果を表-3に示す。」

(1-13)「[0235]
[表3]



(ii)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「[特許請求の範囲]
[請求項1]
カルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)及び水を含有してなり、前記ポリオレフィン系樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするポリオレフィン系樹脂水性分散体。
・・・
[請求項3]
前記カルボキシル基の少なくとも一部が、中和剤で中和されてなる請求項1又は2記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
[請求項4]
前記中和剤が、アンモニア、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びエチルジメチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の中和剤である請求項3記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。
・・・
[請求項6]
前記ポリオレフィン系樹脂(A)の体積平均粒子径が、0.01?5μmである請求項1?5のいずれか記載のポリオレフィン系樹脂水性分散体。」

(2-2)「[背景技術]
[0002]
ポリオレフィン系樹脂水性分散体は、電気特性、力学特性、化学特性及びリサイクル性等に優れていることから、自動車や家電等のさまざまな分野で接着剤、塗料・インキ用バインダー及びプライマー等に適用されることが期待されている。
例えば、エチレン、ビニルシクロヘキサン及び不飽和カルボン酸類の共重合体を分散質として有する水性エマルションが、成形性、耐熱性、耐溶剤性、機械的特性、接着性に優れた皮膜を与えることが開示されている(特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載の水性分散体は分散安定性を向上させる目的で界面活性剤を使用しているため、塗膜の耐水性の低下や塗膜から界面活性剤がブリードアウトするという問題があった。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0004]
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリオレフィン系樹脂水性分散体を提供することにある。」

(2-3)「[0008]
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(A)が、カルボキシル基を有することにより、ポリオレフィン系樹脂(AP)を分散させるための界面活性剤を含有することなく分散安定性に優れ、乾燥皮膜の耐水性に優れる水性分散体を得ることができる。
[0009]
カルボキシル基及び/又はカルボン酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂(AP)は、例えば以下の(1)?(3)の方法により得ることができる。
(1)オレフィンとカルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)とを共重合する方法。
(2)オレフィンの(共)重合体に有機過酸化物等の存在下、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)をグラフト重合する方法。
(3)オレフィンの(共)重合体の減成物に有機過酸化物等の存在下、カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)をグラフト重合する方法。
[0010]
上記(1)?(3)の方法におけるオレフィンとしては、炭素数2?18又はそれ以上の脂肪族不飽和炭化水素[例えばエチレン、プロピレン、(イソ)ブテン、ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン及びオクタデセン等のアルケン並びにブタジエン、イソプレン、1,4-ペンタジエン、1,6-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン及び1,11-ドデカジエン等のアルカジエン];炭素数4?18又はそれ以上の脂環式不飽和炭化水素[例えばシクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン及びエチリデンビシクロヘプテン];炭素数8?20の芳香族不飽和炭化水素[例えばα-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、ビニルトルエン、クロチルベンゼン、ビニルナフタレン及びポリビニル不飽和炭化水素(ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びトリビニルベンゼン等)等];等が挙げられる。
[0011]
カルボキシル基又は酸無水物基を有するエチレン性不飽和モノマー(x)としては、炭素数3?10の不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びシクロヘキセンジカルボン酸)及び炭素数4?10の不飽和カルボン酸無水物(例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、シクロヘキセンジカルボン酸無水物及びアコニット酸)等が挙げられる。
これらの(x)の内、不飽和ジカルボン酸の無水物、更に好ましいのは無水マレイン酸である。」

(2-4)「[0031]
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、ポリオレフィン系樹脂(A)、水並びに必要により上記有機溶剤(s)及びその他の添加剤を構成成分とする。
ポリオレフィン系樹脂(AP)を水に分散させることによりポリオレフィン系樹脂(A)となり、(AP)がカルボン酸無水物基を有する場合、加水分解によりカルボン酸無水物基がカルボキシル基となる。」

(2-5)「[0034]
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体中のポリオレフィン系樹脂(A)の体積平均粒子径は、分散安定性の向上の観点から、0.01?5μmであることが好ましく、更に好ましくは0.01?4μm、特に好ましくは0.02?2μm、最も好ましくは0.03?0.8μmである。体積平均粒子径は、(A)が有するカルボキシル基の量や、必要により使用する有機溶剤(s)の量等により制御することができる。
[0035]
本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA-750(堀場制作所製)]又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS-8000(大塚電子株製)]を用いて測定できる。」

(2-6)「[0053]<実施例1>
二軸混練機のKRCニーダーに、プロピレン80モル%、1-ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィン(Mn=70,000)100部を窒素雰囲気下で導入し、気相部分に窒素を通気しながら加熱溶融し、混練しながら360℃で5分間熱減成を行い熱減成物を得た。この熱減成物の炭素1,000個当たりの二重結合数は2個、Mnは1,1000であった。別の反応容器に上記熱減成物55部、無水マレイン酸45部及びキシレン100部を仕込み、窒素置換後、窒素通気下に130℃まで加熱昇温して均一に溶解した。ここにジクミルパーオキサイド0.5部をキシレン10部に溶解した溶液を滴下した後、キシレン還流温度まで昇温し、3時間撹拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa)でキシレン及び未反応の無水マレイン酸を留去して、1分子当たりに18個の酸無水物基を有し、Mnが12,500の酸無水物変性ポリオレフィンを得た。この酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂100部を300℃に熱した加圧プレス機で圧延し、角形ペレタイザー[(株)ホーライ製]にて裁断した後、温度制御可能な耐圧容器にイオン交換水221部及びトリエチルアミン17部と共に仕込み、TKホモミキサー[プライミクス(株)製]を用いて180℃で40分間分散処理することにより本発明のポリオレフィン水性分散体を得た。」

(2-7)「[0058]
<体積平均粒子径>
ポリオレフィン系樹脂水性分散体を、イオン交換水でポリオレフィン系樹脂の固形分が0.01重量%となるよう希釈した後、光散乱粒度分布測定装置[ELS-8000(大塚電子(株)製)]を用いて測定する。
[0059]
<皮膜の耐水性>
ポリオレフィン系樹脂水性分散体を10cm×20cm×1cmのポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、常温で12時間乾燥後、更に120℃で2時間乾燥して得られた皮膜を、イオン交換水に24時間浸漬した後、取り出した皮膜の状態を目視評価する。全く変化しない場合は○、白化が見られる場合は×とする。」

(2-8)「[0060]
[表1]

[産業上の利用可能性]
[0061]
本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、耐水性に優れた被膜を与えることが可能であるため、自動車、電気・電子製品、建築及び包装材料等のさまざまな分野で使用される塗料・インキ用のバインダー、プライマー、コーティング剤及び接着剤として、またガラス繊維の集束剤として好適に使用できる。」

(iii)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「[請求項1]
不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1?10質量%である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、ゴム成分(B)、粘着付与成分(C)および水性媒体を含有し、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、ゴム成分(B)の含有量が5?1900質量部であり、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とゴム成分(B)の総和100質量部に対して、粘着付与成分(C)の含有量が5?300質量部であることを特徴とする水性分散体。
・・・
[請求項10]
ポリオレフィン樹脂を含む基材とゴムを含む基材とが、請求項1または2に記載の水性分散体より得られる塗膜を介して接着されてなる積層体。」

(3-2)「[0016]
不飽和カルボン酸成分の含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の0.1?10質量%であることが必要であり、0.2?8質量%であることが好ましく、0.5?5質量%であることがより好ましく、1?5質量%であることがさらに好ましく、2?4質量%であることが特に好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1質量%未満の場合は、接着性が低下したり、水性分散体とすることが困難であり、一方、含有量が10質量%を超える場合は、接着性や耐水接着性(接着層が水分に触れた際の接着性)が低下する傾向がある。」

(3-3)「[0019]
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-(無水)マレイン酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル-(無水)マレイン共重合体、エチレン-酢酸ビニル-アクリル-(無水)マレイン共重合体などが挙げられ、中でも、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体が接着性の観点から好ましい。」

(3-4)「[0025]
本発明の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、ゴム成分(B)、粘着付与成分(C)および水性媒体を含有するものであり、本発明の水性分散体は、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体(I)と、ゴム成分(B)の水性分散体(II)と、粘着付与成分(C)の水性分散体(III)とを混合することによって製造することができる。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体(I)を得るために、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を水性媒体中に分散させる方法としては、自己乳化法や強制乳化法など公知の分散方法を採用すればよい。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体(I)の製造には、界面活性剤や高酸価ワックスなど、分散化を促進する目的で任意で添加される乳化剤や分散剤を使用しない分散方法を採用することが、接着性や耐水接着性を高める観点から好ましい。
本発明の水性分散体は、水性媒体中で酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の不飽和カルボン酸成分を塩基性化合物によって中和することで得られるアニオン性の水性分散体であることが、接着性の観点から好ましい。なお、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のアニオン性水性分散体は、通常アルカリ性を示す。」

(3-5)「[0050]
本発明の水性分散体は、架橋剤や加硫剤を添加することで、より接着性を向上させたり、耐熱接着性を向上させることが可能となる。」

(3-6)「[0057]
本発明の積層体を構成する基材、すなわち、本発明の水性分散体が接着可能な被着体材料としては、天然ゴムやクロロプレンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロプレンゴムなどの合成ゴムなどのゴム、ポリプロピレン、ポリプロピレン系共重合体、ポリエチレン、ポリエチレン系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどのポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂などのシートや発泡体、成形品;繊維、織物、編物、不職布;天然皮革、人工皮革、合成皮革などの皮革材料;金属、ガラス、紙、合成紙、木材、コンクリートなどが挙げられる。なお、発泡体を用いた場合、発泡体表面はスキン層を有してあっても構わない。また、織物や編物を用いた場合は、水性分散体が織物や編物の表面から内部に浸み込むため、織物や編物を構成する繊維の種類に関わらず、全般的に優れた接着性を有する。
このような基材を用い、本発明の水性分散体より得られる塗膜を介して、例えば、ポリオレフィン樹脂を含む基材とゴムを含む基材とが接着されてなる積層体を得ることができる。」

(3-7)「[0065]
本発明の水性分散体は、ポリオレフィン樹脂とゴムとを十分に接着させることができ、ポリプロピレン樹脂とゴムとの接着、エチレン-酢酸ビニル共重合体とゴムとの接着、ポリエチレン樹脂とゴムとの接着や、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーと金属、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとポリプロピレン樹脂との接着などにより、様々な積層体の製造に用いることができる。また、例えば、コンベヤベルト、ホース、ゴムライニング等のゴムの接着、加硫ゴムの接着、ドアパネルの製造、壁紙の接着、樹脂成形物の接着、タイルの接着、フローリングの接着などの建材用途、鞄の製造や手袋の製造に必要な皮革の接着、繊維の接着、樹脂成形物の接着などの日用品用途、基盤の接着などの電気機器用途、自動車用途、製靴用途、自動車バンパー用プライマー、プライマー、アンカーコート剤など幅広い用途で用いることができる。」

(iv)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「4 総括・結果
ポリプロピレンは真空中でγ線を照射すると架橋する。架橋のG値はアイソタクチックで0.2,アタクチックで0.8である。架橋に対する分解の起る割合は0.75?0.8である。空気中で照射すると酸素により架橋が妨げられ,粉末や薄いフィルムではほとんど溶剤に対して未溶解部分を生じない。ポリプロピレンは照射により酸素の影響を受け10^(8)rの照射量では酸素結合が10%に達する。」(第1776頁右欄下から9行?下から2行)

5.引用文献に記載された発明
(1)引用文献1に記載された発明
引用文献1の請求項1(摘記1-1)には、「プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体であるプロピレン-α-オレフィン共重合体(A)に、親水性高分子(B)又は酸性基が結合してなる重合体(C)を、50%粒子径0.5μm以下で水に分散させてなる樹脂分散体であって、
前記共重合体(A)のプロピレン含量が50モル%以上100モル%未満であり、かつ共重合体(A)の重量平均分子量Mwが10、000以上で分子量分布Mw/Mnが3.5以下であり、
樹脂分散体の界面活性剤含有量が重合体(C)100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする、樹脂分散体。」が記載されており、その具体例の一つとして、実施例6の[0215]?[0216](摘記1-12)には、実施例2(摘記1-11)と同様に、プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)と無水マレイン酸との溶融変性工程を行い、さらに溶液変性工程を行って得られた、「無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol/g、カルボン酸基として1.16mmol/g)であり、重量平均分子量は89,000、数平均分子量は44,000(ともにポリスチレン換算)」である無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体が記載されており、さらに、実施例6の[0217](摘記1-12)には、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体を用いて調製された、「ポリマー濃度が30重量%の水分散体」が記載されており、[0235]の[表3](摘記1-13)の実験データ、並びに分散粒子径の測定方法及び評価方法に関する記載(摘記1-9)を参照すると、実施例6の水分散体は、上記変性共重合体をモルホリンで分散させた水性樹脂分散体であり、親水性高分子を含まず、乳化性及びろ過性はいずれも良好であり、50%粒子径は0.041μm、90%粒子径は0.063μmであり、密着性試験では剥離がなく、耐ガソホール性、タック性及びブリードアウトの試験ではいずれも良好(○)な評価が得られたことが読み取れる。
そうすると、引用文献1には、実施例6に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)を無水マレイン酸により変性して得られる、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%(無水マレイン酸基として0.58mmol/g、カルボン酸基として1.16mmol/g)であり、重量平均分子量は89,000、数平均分子量は44,000(ともにポリスチレン換算)である。)を、水にモルホリンで分散させた水性樹脂分散体であって、親水性高分子を含まず、50%粒子径は0.041μm、90%粒子径は0.063μmである、水性樹脂分散体。」(以下、「引用発明1」という。)

また、引用文献1の上記[表3](摘記1-13)の密着性試験及び耐ガソホール試験の評価に用いられた試験片は、水性樹脂分散体試料を「自動車外装用グレードのポリプロピレン・・・に・・・噴霧塗布し、・・・塗布後の試験片の上に・・・アクリルポリオールウレタン塗料・・・を噴霧塗布し、・・・焼付けし塗装板を得た」(摘記1-9)というものであるから、引用文献1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「引用発明1の水性樹脂分散体から水性媒体を除去してなる塗膜。」(以下、「引用発明1b」という。)
「引用発明1bの塗膜上に塗料が積層されてなる積層体。」(以下、「引用発明1c」という。)

(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2の請求項1(摘記2-1)には、「カルボキシル基を有するポリオレフィン系樹脂(A)及び水を含有してなり、前記ポリオレフィン系樹脂(A)を分散させるための界面活性剤を含まないことを特徴とするポリオレフィン系樹脂水性分散体」が記載されており、その具体例の一つとして、実施例1(摘記2-6)には、「プロピレン80モル%、1-ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィン(Mn=70,000)」を熱減成物とし、無水マレイン酸、ジクミルパーオキサイド及びキシレンを含む溶液中で反応させ、「1分子当たりに18個の酸無水物基を有し、Mnが12,500の酸無水物変性ポリオレフィンを得」て、この酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂をイオン交換水及びトリエチルアミンと共に仕込み、分散処理することにより、水性分散体を得たことが記載されており、[0060]の[表1](摘記2-8)の実験データ並びに体積平均粒子径の測定方法及び評価方法に関する記載(摘記2-7)を参照すると、実施例1の水性分散体は、樹脂の酸価が45mgKOH/g、固形分濃度が30重量%、体積平均粒子径が0.1μm、ポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになるように形成された皮膜をイオン交換水に24時間浸漬した後の被膜の状態は○(全く変化しない)であったことが読み取れる。
さらに、実施例1の水性分散体は、水溶性高分子を含有していない。
そうすると、引用文献2には、実施例1に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「プロピレン80モル%、1-ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィンを無水マレイン酸で変性した、酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂及び水を含有し、水溶性高分子の含有量が酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂に対して0重量%である水性分散体であって、酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂の酸価が45mgKOH/gであり、酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂の水性分散体中での体積平均粒子径が0.1μmである、水性分散体。」(以下、「引用発明2」という。)

また、引用文献2の上記[表1](摘記2-8)の被膜の耐水性試験に用いられた試験片は、「ポリオレフィン系樹脂水性分散体を・・・ポリプロピレン製モールドに乾燥後の膜厚が0.2±0.1mmになる量を流し込み、・・・乾燥して得られた皮膜」(摘記2-7)であるから、引用文献2には以下の発明が記載されているものと認められる。
「引用発明2の水性分散体から水性媒体を除去してなる皮膜。」(以下、「引用発明2b」という。)
「ポリプロピレン製モールド上に引用発明2bの皮膜が積層されてなる積層体。」(以下、「引用発明2c」という。)

6.理由IV(新規性)及び理由V(進歩性)について
(1)引用文献1を主引用例とする場合
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明1との対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)」、「無水マレイン酸」、「無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体」、「水」、「親水性高分子」及び「水性樹脂分散体」は、それぞれ本件発明1における「オレフィン成分」、「不飽和カルボン酸成分」、「ポリオレフィン樹脂」、「水性媒体」、「水溶性高分子」及び「水性分散体」に相当する。
また、引用発明1における「プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製、タフマーXM7070;共重合体1)」は、プロピレンを共重合成分として含み、エチレンを共重合成分として含まないものであるから、本件発明1の「オレフィン成分がプロピレンを・・・含有し、エチレンを含有せず」という要件を満たすものであり、さらに、[0199]の[表1](摘記1-10)を参照すると、当該共重合体1は、プロピレン含量(モル%)が73.9モル%であることが記載されているから、プロピレン(C_(3)H_(6)、分子量約42)73.9モル%及びブテン(C_(4)H_(8)、分子量約56)26.1モル%を構成単位とする共重合体であると理解でき、当該モル比を質量比に換算すると、プロピレン:ブテン=42×73.9:56×26.1=約68:32であるから、本件発明1におけるオレフィン成分におけるプロピレンの含有量(60?95質量%)の要件を満たすものである。
加えて、引用発明1における無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体は、「無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は5.8重量%」であるところ、当該グラフト率が「検量線に基づき、重合体中の酸性分含有量を算出し」たもの(摘記1-8)であることに鑑みると、上記無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体は、プロピレン-ブテン共重合体(共重合体1)100重量部に対して、無水マレイン酸に由来する単位を5.8×(100/94.2)=約6.2重量部含有するものであるから、本件発明1における不飽和カルボン酸成分の含有量(オレフィン成分の0.5?15質量%)の要件を満たすものである。
そして、引用発明1は、本件発明1の「不揮発性水性化助剤」に相当する成分を含んでいないから、本件発明1における「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満」という要件を満たすものである。
そうすると、両者は、
「ポリオレフィン樹脂、および水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%である、水性分散体。」の点で一致し、

相違点1:ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での平均粒子径が、本件発明1においては「重量平均粒子径が0.15μm以下」であるのに対し、引用発明1においては「50%粒子径が0.041μmであり、90%粒子径が0.063μm」である点
相違点2:水性分散体が、本件発明1は「樹脂成形体用プライマー」であるのに対し、引用発明1はそのような用途が特定されていない点
相違点3:水性分散体が、本件発明1は架橋剤を含有するのに対し、引用発明1は架橋剤を含有していない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点3について
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
引用文献1の[0195](摘記1-9)には、水性分散体の評価試験項目の一つとして耐ガソホール性試験が実施されたことが記載されており、具体的には、「密着性試験(7)-2と同様に作製した塗装板を、20℃に保ったレギュラーガソリンとエタノールとの混合溶液(重量比:レギュラーガソリン:エタノール=9:1)中に浸漬して、塗膜に剥離が生じるまでの時間を測定」し、評価結果は「◎:60分以上 ○:15分以上60分未満 △:5分以上15分未満 ×:5分未満」と表示したことが記載されている。また、引用文献1の[0235][表3](摘記1-13)には、実施例6(引用発明1)の耐ガソホール性が「○」であったことが記載されている。
ここで、引用文献1の[0106](摘記1-6)には、「耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を分散体中の樹脂100重量部に対して0.01?100重量部添加することができる」ことが記載されているが、引用文献1には、水性分散体に架橋剤を実際に添加した具体例は記載されていないから、耐水性、耐溶剤性がどの程度向上するかは明らかではなく、また、耐ガソホール性が向上するかも明らかではない。
また、引用文献3には、酸変性ポリオレフィン樹脂、ゴム成分及び粘着付与成分を含有し(摘記3-1等)、ポリオレフィン樹脂とゴムとを十分に接着させることができ、様々な積層体の製造に用いることができるほか、自動車バンパー用プライマーなど幅広い用途で用いることができるものとされている(摘記3-7)水性分散体において、「架橋剤や加硫剤を添加することで、より接着性を向上させたり、耐熱接着性を向上させることが可能となる」(摘記3-5)ことが記載されているが、引用文献3には、水性分散体をプライマーとして用いた具体例は記載されておらず、塗膜の耐ガソリン性が向上することについても記載されていない。
そうすると、引用発明1において、塗膜の耐ガソホール性を向上させる目的で架橋剤を添加することは、引用文献1、3の記載から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
本件明細書の[0051]には、水性分散体の塗膜の耐ガソリン性試験が実施されたこと、具体例には「上記(5)に記載された方法によりポリプロピレン板上に塗膜を形成し、疑似ガソリン(トルエン/イソオクタン=1/1)に1日浸漬した。疑似ガソリンから取り出し、塗膜における、膨潤・膨れの有無を確認」したことが記載されており、浸漬時間が「1日」である点で、引用文献1に記載された耐ガソホール試験の条件(60分以上/15分以上60分未満/5分以上15分未満/5分未満の区分)よりも厳しい条件で試験が行われたものと認められる。
また、本件明細書における耐ガソリン試験の評価結果は、「◎:塗膜に膨潤・膨れなし ○:塗膜面積の20%未満に膨れあり △:塗膜面積の20%以上、50%未満に膨れあり ×:塗膜面積の50%以上に膨潤あり」と表示したことが記載されているところ、[0063][表2]を参照すると、本件発明1の実施例に相当する架橋剤を含有する水性分散体(実施例4、5)は「◎」であったのに対し、架橋剤を含有しない点以外は同じ成分組成を有する水性分散体(実施例1、2)では「○」であったことが読み取れる。
そうすると、本件発明1は上記相違点3に係る架橋剤を含有し、さらに、相違点1、2に係る構成も備えていることにより、疑似ガソリンに1日浸漬しても塗膜に膨潤・膨れを生じないという改善された耐ガソリン性を発揮するものであり、引用文献1に記載された試験条件との違いも勘案すると、本件発明1の優れた耐ガソリン性は引用文献1、3から当業者が予測し得る程度を超える顕著なものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第10?12頁)において、「プライマーや水分散体の性能向上を目的として架橋剤を用いることは、当業者が当然行うことであり、プライマーであれば当然、耐ガソリン性が求められることは当業者にとって自明です。」と主張し、甲第9号証の1?甲第9号証の3を例として提示しているが、いずれの証拠に記載された水性分散体も、アクリル樹脂等の成分を含む点で引用発明1とは成分組成が異なること、及び耐ガソホール試験の条件が本件明細書に記載された疑似ガソリンに「1日」浸漬するという厳しい条件で行われていないことからみて、引用文献1及び3に加えてこれらの証拠を参酌しても、本件発明1の優れた耐ガソリン性の効果を予測することはできないといえる。
また、申立人は、上記意見書(第12頁)において、「架橋剤の添加によって、『耐溶剤性(耐ガソリン性)』の向上を図ることは、当業者にとって技術常識です。・・・甲第9号証4の107頁・・・には、水系塗料(プライマー用の水性分散体など)で性能を発揮するキーテクノロジーとして架橋剤の使用が記載され・・・耐水性や耐溶剤性や耐薬品性が向上することが記載されています。」と主張し、甲第9号証の4を提示しているが、甲第9号証の4には、「プライマー」は具体的には記載されておらず、「基材としての樹脂成形体に対しても、また塗膜の上に積層された塗料に対しても優れた密着性を有する」(本件明細書の[0006])ことが求められるプライマーと、一般的な水性塗料とでは必要な性質が異なるし、また、甲第9号証の4を参照しても、耐ガソリン性の改善の程度を予測することはできないから、引用文献1及び3に加えて上記証拠を参酌しても、本件発明1の優れた耐ガソリン性の効果を予測することはできないといえる。
よって、申立人の主張は、いずれも採用することができない。

(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点3は実質的な相違点であり、また、引用文献1、3及び他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明1は、引用文献1、3から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1は引用発明1及び引用文献1、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1と同様の発明特定事項を備え、さらにオレフィン成分がブテンを含有することが特定された発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明2は引用発明1及び引用文献1、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と引用発明1との対比
本件発明5と引用発明1とを対比すると、両者は、上記第5 6.(1)ア(ア)「本件発明1と引用発明1との対比」に記載した一致点で一致し、相違点1及び2で相違することに加え、
相違点4:ポリオレフィン樹脂が、本件発明5においてはγ線架橋されたものであるのに対し、引用発明1においてはγ線架橋されたものではない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点4について
事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
上記第5 6.(1)ア(イ)「相違点3について」に記載したとおり、引用文献1の[0106](摘記1-6)には、「耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能をさらに向上させるために、架橋剤を分散体中の樹脂100重量部に対して0.01?100重量部添加することができる」ことが記載されているが、引用文献1には、水性分散体に架橋剤を実際に添加した具体例は記載されていないから、耐水性、耐溶剤性がどの程度向上するかは明らかではなく、また、耐ガソホール性が向上するかも明らかではない。
また、例えば引用文献4(摘記4-1)に記載されているように、ポリオレフィン樹脂を架橋させる方法の一つとして、γ線を照射する方法は、本件特許に係る出願の出願日前に周知の技術的事項であるが、引用発明1におけるポリオレフィン樹脂をγ線架橋されたものに置き換えたときにどのような性質が得られるかは具体的に予測し得るものではないから、引用文献1の上記記載と合わせても、耐水性、耐溶剤性がどの程度向上するかは明らかではなく、また、耐ガソホール性が向上するかも明らかではない。
そうすると、引用発明1において、塗膜の耐ガソホール性を向上させる目的で、引用発明1の水性樹脂分散体に含まれる無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体をγ線架橋されたものに置き換えること、引用文献1、4の記載から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記第5 6.(1)ア(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件明細書の[0051]及び[0063][表2]には、水性分散体の塗膜の耐ガソリン性試験について記載されているところ、本件発明5の実施例に相当するγ線架橋されたポリオレフィン樹脂を用いた水性分散体(実施例6、7)は「◎」であったのに対し、γ線架橋されていないポリオレフィン樹脂を用いる点以外は同じ成分組成を有する水性分散体(実施例1、2)では「○」であったことが読み取れる。
そうすると、本件発明5は上記相違点4に係るγ線架橋されたポリオレフィン樹脂を用い、さらに、相違点1、2に係る構成も備えていることにより、疑似ガソリンに1日浸漬しても塗膜に膨潤・膨れを生じないという改善された耐ガソリン性を発揮するものであり、引用文献1に記載された試験条件との違いも勘案すると、本件発明5の優れた耐ガソリン性は引用文献1、4から当業者が予測し得る程度を超える顕著なものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第13頁)において、「γ線架橋を行うことについては・・・当業者にとって技術常識であります。」と主張している。
しかし、γ線架橋を行うことが周知であるとしても、引用発明1におけるポリオレフィン樹脂をγ線架橋されたポリオレフィン樹脂に置き換えることにより、本件発明5の優れた耐ガソリン性の効果が得られることは、いずれの証拠にも具体的に記載されておらず、当業者が予測し得ることではない。
また、架橋剤による架橋との類似性を勘案することができるとしても、上記第5 6.(1)ア(エ)「申立人の主張について」に記載したとおり、引用文献1、3及びその他の証拠を参酌しても、引用発明1において架橋剤を添加することによる耐ガソリン性向上の効果を予測することはできなかったといえるから、架橋剤に代えてγ線により架橋されたポリオレフィン樹脂を用いる場合についても、耐ガソリン性向上の効果を予測することはできなかったといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明5についてのまとめ
以上のことから、相違点4は実質的な相違点であり、また、引用文献1、4及び他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明5は、引用文献1、4及び他の証拠から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明5は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明5は引用発明1及び引用文献1、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明6について
(ア)本件発明6と引用発明1bとの対比、判断
本件発明6と引用発明1bとを対比すると、引用発明1bにおける「水性媒体」、「除去」及び「塗膜」は、それぞれ本件発明6における「水性媒体」、「除去」及び「塗膜」に相当する。
また、引用発明1bにおける「引用発明1の水性樹脂分散体」と本件発明6における「請求項1、2、5のいずれかに記載の樹脂成形体用プライマー」との対比、判断は、上記第5 6.(1)ア「本件発明1について」?同ウ「本件発明5について」に記載したとおりである。

(イ)本件発明6についてのまとめ
よって、本件発明6は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明6は、引用発明1及び引用文献1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明7について
(ア)本件発明7と引用発明1cとの対比、判断
本件発明7と引用発明1cとを対比すると、引用発明1cにおける「塗料」、「積層」及び「積層体」は、それぞれ本件発明7における「塗料」、「積層」及び「積層体」に相当する。
また、引用発明1cにおける「引用発明1bの塗膜」と本件発明7における「請求項6記載の塗膜」との対比、判断は、上記第5 6.(1)エ「本件発明6について」に記載したとおりである。

(イ)本件発明7についてのまとめ
よって、本件発明7は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明7は、引用発明1及び引用文献1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 本件発明8について
本件発明8は、本件発明5を引用し、本件発明5と同様の発明特定事項を備え、さらにオレフィン成分がブテンを含有することが特定された発明である。
そうすると、本件発明5と同様の理由により、本件発明8は引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明8は引用発明1及び引用文献1、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

キ 理由IV(新規性)及び理由V(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1、2、5?8は、いずれも引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1、2、5?8は、いずれも引用文献1に記載された発明及び引用文献1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由IV(新規性)及び理由V(進歩性):引用文献1を主引用例とする場合についての取消理由により、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

(2)引用文献2を主引用例とする場合
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明2との対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「プロピレン80モル%、1-ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィン」、「無水マレイン酸」、「酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂」、「水」、「水溶性高分子」及び「水性分散体」は、それぞれ本件発明1における「ポリオレフィン成分」、「不飽和カルボン酸成分」、「ポリオレフィン樹脂」、「水性媒体」、「水溶性高分子」及び「水性分散体」に相当する。
また、引用発明2における「プロピレン80モル%、1-ブテン20モル%を構成単位とするポリオレフィン」は、プロピレン(C_(3)H_(6)、分子量約42)80モル%、1-ブテン(C_(4)H_(8)、分子量約56)20モル%を構成単位とするポリオレフィンであるところ、当該モル比を質量比に換算すると、プロピレン:1-ブテン=42×80:56×20=75:25であり、エチレンを共重合成分として含有しないことも明らかであるから、本件発明1の「オレフィン成分がプロピレンを・・・含有し、エチレンを含有せず」という要件を満たすものであり、オレフィン成分におけるプロピレンの含有量(60?95質量%)の要件も満たすものである。
さらに、引用発明2における酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂は、酸価が45mgKOH/gであること、KOHの分子量は約56であること、及び変性に用いた無水マレイン酸(C_(4)H_(2)O_(3)、分子量約98)がジカルボン酸無水物であることから、変性樹脂1gに占める無水マレイン酸由来の単位の重量は98×(45/56)×1/2×10^(-3)=約39×10^(-3)gであり、これをオレフィン成分100g当たりに換算すると、無水マレイン酸は3.9×(100/96.1)=約4.1gであるから、本件発明1における不飽和カルボン酸成分の含有量(オレフィン成分の0.5?15質量%)の要件を満たすものである。
そして、引用発明2は、本件発明1の「不揮発性水性化助剤」に相当する成分を含んでいないから、本件発明1における「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満」という要件を満たすものである。
そうすると、両者は、
「ポリオレフィン樹脂、および水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%である、水性分散体。」
の点で一致し、

相違点1’:ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での平均粒子径が、本件発明1においては「重量平均粒子径が0.15μm以下」であるのに対し、引用発明2においては「体積平均粒子径が0.1μm」である点
相違点2’:水性分散体が、本件発明1は「樹脂成形体用プライマー」であるのに対し、引用発明2はそのような用途が特定されていない点
相違点3’:水性分散体が、本件発明1は架橋剤を含有するのに対し、引用発明2は架橋剤を含有していない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点3’について
事案に鑑み、まず、相違点3’について検討する。
引用文献2の[0004](摘記2-2)には、引用発明の目的は「分散安定性に優れると共に、乾燥被膜の耐水性に優れるポリオレフィン系樹脂水性分散体を提供することにある」ことが記載されている。また、[0061](摘記2-8)には、「本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、耐水性に優れた被膜を与えることが可能であるため、自動車、電気・電子製品、建築及び包装材料等のさまざまな分野で使用される塗料・インキ用のバインダー、プライマー、コーティング剤及び接着剤として、またガラス繊維の集束剤として好適に使用できる」ことが記載され、[0031](摘記2-4)には、「本発明のポリオレフィン系樹脂水性分散体は、ポリオレフィン系樹脂(A)、水並びに必要により上記有機溶剤(s)及びその他の添加剤を構成成分とする」ことが記載されているが、被膜の耐ガソリン性については、具体的には記載されていない。
また、引用文献1の[0106](摘記1-6)には、酸変性ポリオレフィン樹脂を含有する水性分散体において、耐水性、耐溶剤性などの各種の塗膜性能を向上させるために架橋剤を添加することができることが記載され、また、引用文献3には、酸変性ポリオレフィン樹脂、ゴム成分及び粘着付与成分を含有し(摘記3-1等)、ポリオレフィン樹脂とゴムとを十分に接着させることができ、様々な積層体の製造に用いることができるほか、自動車バンパー用プライマーなど幅広い用途で用いることができるものとされている(摘記3-7)水性分散体において、「架橋剤や加硫剤を添加することで、より接着性を向上させたり、耐熱接着性を向上させることが可能になる」(摘記3-5)ことが記載されているが、いずれの文献にも、水性分散体に架橋剤を実際に添加した具体例は記載されておらず、耐ガソホール性向上の目的で架橋剤を添加することが記載されているとはいえない。
そうすると、引用発明2は耐ガソリン性の向上を課題とするものではなく、架橋剤の添加について記載も示唆もされていないといえ、さらに引用文献1及び3の記載を参酌しても、引用発明2と課題が共通しているとはいえず、耐ガソリン性向上の目的で架橋剤を添加することの動機づけとなるものではないから、引用発明2において、塗膜の耐ガソリン性向上の目的で架橋剤を添加することは、引用文献2、1、3の記載から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明1の効果について
上記第5 6.(1)ア(ウ)「本件発明1の効果について」に記載したとおり、本件発明1は上記相違点3’に係る架橋剤を含有し、さらに、相違点1’及び2’に係る構成も備えていることにより、疑似ガソリンに1日浸漬しても塗膜に膨潤・膨れを生じないという改善された耐ガソリン性を発揮するものである。
そして、引用文献1に記載された試験条件との違い等も勘案すると、本件発明1の優れた耐ガソリン性は、引用文献2、1、3から当業者が予測し得る程度を超える顕著なものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第10?12頁)において、上記第5 6.(1)ア(エ)「申立人の主張について」に記載したとおりの主張をしているが、引用文献2の記載を参酌しても、本件発明1の優れた耐ガソリン性の効果を予測することはできないといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、相違点3’は実質的な相違点であり、また、引用文献2、1、3及び他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明1は、引用文献2、1、3から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1’及び2’について検討するまでもなく、本件発明1は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1は引用発明2及び引用文献2、1、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1と同様の発明特定事項を備え、さらにオレフィン成分がブテンを含有することが特定された発明である。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明2は引用発明2及び引用文献2、1、3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と引用発明2との対比
本件発明5と引用発明2とを対比すると、両者は、上記第5 6.(2)ア(ア)「本件発明1と引用発明2との対比」に記載した一致点で一致し、相違点1’及び2’で相違することに加え、
相違点4’:ポリオレフィン樹脂が、本件発明5においてはγ線架橋されたものであるのに対し、引用発明1においてはγ線架橋されたものではない点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点4’について
事案に鑑み、まず、相違点4’について検討する。
上記第5 6.(2)ア(イ)「相違点3’について」に記載したとおり、引用発明2において、塗膜の耐ガソリン性向上の目的で架橋剤を添加することは、引用文献2、1、3の記載から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、例えば引用文献4(摘記4-1)に記載されているように、ポリオレフィン樹脂を架橋させる方法の一つとして、γ線を照射する方法は、本件特許に係る出願の出願日前に周知の技術的事項であるが、引用発明2は耐ガソリン性の向上を課題とするものではなく、架橋剤の添加について記載も示唆もされていないのであるから、引用文献4の記載を合わせて参酌しても、引用発明2において、塗膜の耐ガソリン性向上の目的でγ線架橋されたポリオレフィン樹脂含有させることは、引用文献2、1、3、4の記載から当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(ウ)本件発明5の効果について
上記第5 6.(1)ウ(ウ)「本件発明5の効果について」に記載したとおり、本件発明5は上記相違点4’に係るγ線架橋されたポリオレフィン樹脂を用い、さらに、相違点1’及び2’に係る構成も備えていることにより、疑似ガソリンに1日浸漬しても塗膜に膨潤・膨れを生じないという改善された耐ガソリン性を発揮するものである。
そして、引用文献1に記載された試験条件との違い等も勘案すると、本件発明5の優れた耐ガソリン性は、引用文献2、1、3、4から当業者が予測し得る程度を超える顕著なものといえる。

(エ)申立人の主張について
申立人は、令和2年3月13日に提出した意見書(第13頁)において、上記第5 6.(1)ウ(エ)「申立人の主張について」に記載したとおりの主張をしているが、引用文献2の記載を参酌しても、本件発明5の優れた耐ガソリン性の効果を予測することはできないといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(オ)本件発明5についてのまとめ
以上のことから、相違点4’は実質的な相違点であり、また、引用文献2、1、3、4及び他の証拠に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
そして、本件発明5は、引用文献2、1、3、4から当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点1’及び2’について検討するまでもなく、本件発明5は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明5は引用発明2及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 本件発明6について
(ア)本件発明6と引用発明2bとの対比、判断
本件発明6と引用発明2bとを対比すると、引用発明2bにおける「水性媒体」、「除去」及び「皮膜」は、それぞれ本件発明6における「水性媒体」、「除去」及び「塗膜」に相当する。
また、引用発明2bにおける「引用発明2の水性樹脂分散体」と本件発明6における「請求項1、2、5のいずれかに記載の樹脂成形体用プライマー」との対比、判断は、上記第5 6.(2)ア「本件発明1について」?同ウ「本件発明5について」に記載したとおりである。

(イ)本件発明6についてのまとめ
よって、本件発明6は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明6は、引用発明2及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

オ 本件発明7について
(ア)本件発明7と引用発明2cとの対比、判断
本件発明7と引用発明2cとを対比すると、引用発明2cにおける「皮膜」及び「積層体」は、本件発明7における「塗膜」及び「積層体」に相当するから、両者は、「塗膜を有する積層体」の点で一致し、
また、引用発明2cにおける「引用発明2bの塗膜」と本件発明7における「請求項6記載の塗膜」との対比、判断は、上記第5 6.(2)エ「本件発明6について」に記載したとおりである。

(イ)本件発明7についてのまとめ
よって、本件発明7は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明7は、引用発明2及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

カ 本件発明8について
本件発明8は、本件発明5を引用し、本件発明5と同様の発明特定事項を備え、さらにオレフィン成分がブテンを含有することが特定された発明である。
そうすると、本件発明5と同様の理由により、本件発明8は引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明8は引用発明2及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

キ 理由IV(新規性)及び理由V(進歩性):引用文献2を主引用例とする場合のまとめ
以上まとめると、本件発明1、2、5?8は、いずれも引用文献2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1、2、5?8は、いずれも引用文献2に記載された発明及び引用文献2、1、3、4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由IV(新規性)及び理由V(進歩性):引用文献2を主引用例とする場合についての取消理由により、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
理由1(新規性)
訂正前の本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから(甲第2号証の1?甲第2号証の6、甲第3号証及び甲第6号証参照)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由2(新規性)
訂正前の本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから(甲第2号証の1?甲第2号証の6、甲第3号証及び甲第6号証参照)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由3(進歩性)
訂正前の本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから(甲第6号証参照)、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

理由4(委任省令要件)
訂正前の本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
訂正前の請求項1は、「ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であること」を規定する発明特定事項を含んでいる。換言すれば、「ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であること」は、訂正前の請求項1に係る発明が解決しようとする課題の解決手段であるといえる。
しかし、本件明細書には、「重量平均粒子径の定義」に関する記載はなく、重量平均粒子径の測定方法についても、段落[0048]に示されるように「日機装社製のマイクロトラック粒度分布計UPA150(Model No.9340)」を用いたことしか記載されていない。
したがって、訂正前の請求項1に係る発明が解決しようとする課題の解決手段が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、訂正前の請求項1は委任省令要件を充足していない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由5(サポート要件)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
訂正前の請求項1は、本件明細書でサポートされている範囲(不飽和カルボン酸成分の含有量がオレフィン樹脂成分に対して4.5及び4.0質量%)を超えた範囲まで包含するものとなっているので、サポート要件を満たさない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由6(サポート要件)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
訂正前の請求項1は、本件明細書でサポートされている範囲(ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が40,000?50,000)を超えた範囲まで包含するものとなっているので、サポート要件を満たさない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由7(明確性)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項1?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
本件明細書の記載や技術常識等を参酌しても、「平均粒子径」の測定方法を一義的に決定することができない結果、「ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下である」にて規定される範囲を明らかにすることができない。したがって、訂正前の請求項1は明確性要件を満たしていない。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由8(明確性)
訂正前の本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、訂正前の請求項3?7に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
下位の請求項である訂正前の請求項3が、上位の訂正前の請求項1を引用する際に、訂正前の請求項1には記載されていない上位概念の用語(不揮発性水性化助剤)をもって規定することは、その範囲を著しく不明確としている。したがって、訂正前の請求項3は明確性要件を充足していない。訂正前の請求項3を引用する訂正前の請求項4?7も同様である。

理由9(新規事項)
訂正前の請求項1?7は、平成30年6月1日付けの手続補正書によってなされた請求項1についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである(甲第7号証の1、甲第7号証の2及び甲第8号証の1?甲第8号証の3参照)。
平成30年6月1日付け手続補正書によって訂正前の請求項1に対してなされた、オレフィン成分が「プロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、」とする補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。そのため、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものである。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由10(新規事項)
訂正前の請求項1?7は、平成30年6月1日付けの手続補正書によってなされた請求項1についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである(甲第7号証の1及び甲第7号証の2参照)。
平成30年6月1日付け手続補正書によって訂正前の請求項1に対してなされた、水性分散体が「水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」とする補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。そのため、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものである。訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?7も同様である。

理由11(新規事項)
訂正前の請求項3?7は、平成30年6月1日付けの手続補正書によってなされた請求項3についての補正が、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、それらの発明についての特許は同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである(甲第7号証の1及び甲第7号証の2参照)。
平成30年6月1日付け手続補正書によって訂正前の請求項3に対してなされた、「水性分散体における不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成形体用プライマー。」とする補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものとはいえない。そのため、特許法第17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものである。訂正前の請求項3を引用する訂正前の請求項4?7も同様である。

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2007-270122号公報(引用文献1)
甲第2号証の1:マイクロトラック・ベル株式会社, "THE MICROTRAC UPA 150 ULTRAFINE PARTICLE ANALYZERのカタログ", 検索日2019年2月8日,
甲第2号証の2:日機装株式会社, "Microtrac Nanotrac wave取扱説明書", 2013年2月6日更新(甲第2号証の8参照)
甲第2号証の3:日機装株式会社, "Microtrac DMS2ソフトウエア取扱説明書", 2014年1月31日更新(甲第2号証の9参照)
甲第2号証の4:第2号証の1の一部の和訳, 作成日2019年2月8日
甲第2号証の5:マイクロトラック・ベル株式会社, "企業情報 Microtracについて", 検索日2019年2月8日,
甲第2号証の6:マイクロトラック・ベル株式会社, "粒子径分布測定装置ナノトラックシリーズ「Nanotrac UPA」 適用OSに関するご連絡と新機種のご案内", 検索日2019年2月8日,
甲第2号証の7:V&A HI-Tech CO.,LTD., "Index of/datasheet/Microtrac", 検索日2019年2月8日,
甲第2号証の8:日機装株式会社, "甲第2号証の2 取扱説明書NanotracWaveManual.pdfの文書プロパティ", 作成日2019年2月8日
甲第2号証の9:日機装株式会社, "甲第2号証の3 ソフトウエア取扱い説明書DMS2UserManual.pdfの文書プロパティ", 作成日2019年2月8日
甲第3号証:特開2013-189345号公報
甲第4号証:特開2012-172099号公報(引用文献2)
甲第5号証:国際公開第2012/176677号(引用文献3)
甲第6号証:祖父江寛, 但馬義夫, 田畑米穂, "ポリプロピレンのγ線照射による架橋", 工業化学雑誌, 公益社団法人日本化学会, 1959年, 第62巻第11号, p.1774-1776(引用文献4)
甲第7号証の1:本件特許に係る出願(特願2013-222850号)の平成30年6月1日付け手続補正書
甲第7号証の2:本件特許に係る出願(特願2013-222850号)の平成30年6月1日付け意見書
甲第8号証の1:特開2014-198472号公報
甲第8号証の2:甲第8号証の1に係る出願(特願2014-053523号)の平成30年4月17日付け手続補正書
甲第8号証の3:甲第8号証の1に係る出願(特願2014-053523号)の平成30年4月17日付け意見書
甲第8号証の4:甲第8号証の1に係る出願(特願2014-053523号)の平成30年12月18日付け意見書

2.理由1(新規性)について
申立人が主張する理由1(新規性)の取消理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由IV(新規性):引用文献1を主引用例とする場合に当たるから、上記第5 6.(1)「引用文献1を主引用例とする場合」に記載したとおりである。
なお、申立人が参照する甲第2号証の1?甲第2号証の8及び甲第3号証は、いずれも本件発明1における「重量平均分子量」という発明特定事項に関する証拠であるが、これらの証拠の記載を参酌しても、上記の判断が変わるものではない。
また、申立人が参照する甲第6号証(引用文献4)については、上記項目で検討したとおりである。
よって、特許異議申立書に記載された理由1(新規性)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

3.理由2(新規性)について
申立人が主張する理由2(新規性)の取消理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由IV(新規性):引用文献2を主引用例とする場合に当たるから、上記第5 6.(2)「引用文献2を主引用例とする場合」に記載したとおりである。
なお、申立人が参照する甲第2号証の1?甲第2号証の8及び甲第3号証は、いずれも本件発明1における「重量平均分子量」という発明特定事項に関する証拠であるが、これらの証拠の記載を参酌しても、上記の判断が変わるものではない。
また、申立人が参照する甲第6号証(引用文献4)については、上記項目で検討したとおりである。
よって、特許異議申立書に記載された理由2(新規性)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

4.理由3(進歩性)について
申立人が主張する理由3(進歩性)の取消理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由V(進歩性):引用文献2を主引用例とする場合に当たるから、上記第5 6.(2)「引用文献2を主引用例とする場合」に記載したとおりである。
よって、特許異議申立書に記載された理由3(進歩性)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

5.理由4(委任省令要件)について
上記第5 1.(1)「『重量平均粒子径』について」において検討したとおり、本件発明1における「重量平均粒子径」は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された「日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)」を用いて測定される体積分布に基づくD50%(μm)を意味するものと理解することができる。そうすると、本件発明1において解決しようとする課題の解決手段について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえるから、本件の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(委任省令要件)を満たしているといえる。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由4(委任省令要件)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

6.理由5(サポート要件)について
ポリオレフィン樹脂成分に対する不飽和カルボン酸成分の含有量については、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、その含有量に応じて緩やかに樹脂の性質を変化させるものと解することができるから、本件明細書の[0012]の記載等に基づいて当業者が適宜に調整し得る事項であると認められる。そうすると、実施例で採用された4.5及び4.0質量%から、本件発明1における「0.5?15質量%」まで範囲を拡張しても、本件発明の課題が解決できなくなるとまではいえないから、本件発明1が上記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由5(サポート要件)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

7.理由6(サポート要件)について
ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量については、本件特許に係る出願の出願時における技術常識を参酌すると、塗工性と塗膜の性質に応じて、例えば数千から数十万の範囲で変更し得るものと解することができるから、本件明細書の[0017]の記載に基づいて当業者が適宜に調整し得る事項であると認められる。そうすると、本件発明1において、ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が実施例で採用された40,000?50,000に特定されていなくても、本件発明の課題が解決できなくなるとまではいえないから、本件発明1が上記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由6(サポート要件)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

8.理由7(明確性)について
申立人が主張する理由7(明確性)の取消理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由I(明確性)の(1)「重量平均分子量」について、に当たるから、上記第5 1.(1)「『重量平均粒子径』について」に記載したとおりである。
よって、特許異議申立書に記載された理由7(明確性)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

9.理由8(明確性)について
申立人が主張する理由8(明確性)の取消理由は、取消理由通知(決定の予告)に記載した理由I(明確性)の(2)「不揮発性水性化助剤」について、に当たるから、上記第5 1.(2)「『不揮発性水性化助剤』について」に記載したとおりである。
よって、特許異議申立書に記載された理由8(明確性)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

10.理由9(新規事項)について
本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書の[0010]には、プロピレン以外のオレフィン成分について、「プロピレン以外のオレフィン成分は、ブテン(1-ブテン、イソブテンなど)であることが好ましい」ことが記載され、[0053]?[0056]には、オレフィン成分にエチレンを含有しない具体例も記載されている。そうすると、本件発明1における「エチレンを含有せず、」という発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で補正されたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由9(新規事項)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

11.理由10(新規事項)について
本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書の[0010]には、プロピレン以外のオレフィン成分について、「プロピレン以外のオレフィン成分は、ブテン(1-ブテン、イソブテンなど)であることが好ましい」ことが記載され、[0053]?[0056]には、オレフィン成分にエチレンを含有しない具体例も記載されている。そうすると、本件発明1における「エチレンを含有せず、」という発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で補正されたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由9(新規事項)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

12.理由11(新規事項)について
本件訂正により、本件発明1においては、「水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であ」ることに加え、「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」ことも特定されることとなった。これらの事項は、本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書の[0021]?[0023]及び実施例等に記載されたものであるから、本件発明1における上記発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で補正されたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由10(新規事項)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

13.理由12(新規事項)について
本件特許に係る出願の願書に最初に添付した明細書の[0021]には、「水性化助剤は、含有量がゼロであることが特に好ましいが、本発明の効果を損ねない範囲で、ポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満程度含まれていても差し支えない」ことが記載され、[0022]には、不揮発性水性化助剤の例示の一つとして「水溶性高分子」が記載されていたから、これらの記載を合わせると、本件発明1における「水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であ」ることに加え、「不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である」という発明特定事項は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で補正されたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているといえる。本件発明1と同様の発明特定事項を含む本件発明5、及び本件発明1又は5を直接又は間接的に引用する本件発明2、6?8についても同様である。
よって、特許異議申立書に記載された理由12(新規事項)の取消理由によっては、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、5?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3、4は訂正により削除され、本件特許の請求項3、4に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂、架橋剤および水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。
【請求項2】
オレフィン成分がブテンを含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体用プライマー。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
γ線架橋されたポリオレフィン樹脂と水性媒体を含有し、水溶性高分子の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満であり、不揮発性水性化助剤の含有量がポリオレフィン樹脂成分に対して0.5質量%未満である水性分散体からなるプライマーであって、
ポリオレフィン樹脂がオレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分がプロピレンを60?95質量%含有し、エチレンを含有せず、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分の0.5?15質量%であり、
ポリオレフィン樹脂の水性分散体中での重量平均粒子径が0.15μm以下であることを特徴とする樹脂成形体用プライマー。
【請求項6】
請求項1、2、5のいずれかに記載の樹脂成形体用プライマーから水性媒体を除去してなることを特徴とする塗膜。
【請求項7】
請求項6記載の塗膜上に塗料が積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項8】
オレフィン成分がブテンを含有することを特徴とする請求項5記載の樹脂成形体用プライマー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-03 
出願番号 特願2013-222850(P2013-222850)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C09D)
P 1 651・ 536- YAA (C09D)
P 1 651・ 55- YAA (C09D)
P 1 651・ 537- YAA (C09D)
P 1 651・ 121- YAA (C09D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 天野 宏樹
蔵野 雅昭
登録日 2018-08-10 
登録番号 特許第6381196号(P6381196)
権利者 ユニチカ株式会社
発明の名称 樹脂成形体用プライマー  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所  

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