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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12C
管理番号 1364912
異議申立番号 異議2019-700911  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-15 
確定日 2020-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6513908号発明「起泡・泡持ち向上剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6513908号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕,3,4について訂正することを認める。 特許第6513908号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6513908号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成26年5月29日に特許出願され、平成31年4月19日に特許権の設定登録がされ、令和1年5月15日にその特許公報が発行され、その後、令和1年11月15日に、特許異議申立人 篠崎(審決注:原文では、「さき」のつくりは「立」に「可」)哲也(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年1月20日付けで当審から取消理由通知が通知され、同年3月23日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年3月26日付けで当審から特許法120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人から令和2年5月7日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
令和2年3月23日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下の訂正事項1?3のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1の「重合度が11?35の分岐グルカン」との記載を訂正後に「重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)」とする。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項3の「重合度が11?35の分岐グルカン」との記載を訂正後に「重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)」とする。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項4の「重合度が11?35の分岐グルカン」との記載を訂正後に「重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)」とする。

なお、訂正前の請求項1?2について、請求項2は請求項1を直接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?2に対応する訂正後の請求項1?2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

2 判断
訂正事項1について
ア 目的要件の適否について
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、請求項1の「重合度が11?35の分岐グルカン」から「(但し、難消化性デキストリンを除く)」との特定事項を加え、「難消化性デキストリン」に該当する場合を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

特許異議申立人は、令和2年5月7日付け意見書4頁において、訂正の前後で分岐グルカンの構造的特徴は全く変わっておらず、どのような分岐グルカンが包含されることになったか不明であるので特許請求の範囲の減縮にあたらない旨主張しているが、訂正後の請求項1の「重合度が11?35の分岐グルカン」から「難消化性デキストリン」に該当する場合を除外するものになっている以上、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは上述のとおりである。

イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、甲第1号証【0002】に従来技術として示された難消化性デキストリン(難消化性デキストリンは、1,2、1,3のグルコシド結合が分子内に生じ、還元末端のグルコース残基が分子内で脱水された1-6アンヒドログルコース構造を有するデキストリン)と訂正前の請求項1の「重合度が11?35の分岐グルカン」との重なりを除いたものにすぎず、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。

特許異議申立人は、令和2年5月7日付け意見書5頁において、訂正前の請求項1の「重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」が「ビールテイスト飲料における起泡・泡持ち向上効果に優れている旨の記載はあるものの、上記構造的特徴に加え「難消化デキストリンを除く」分岐グルカンであることが泡・泡持ち向上効果に優れることの要件であるとの記載は一切なく新規事項の追加になる旨主張しているが、「難消化性デキストリン」に該当する場合を除外するものになっているだけであって、新たな技術的事項の導入があるとはいえず、新規事項の追加にあたるとはいえないことは上述のとおりである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
また、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮したものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。

エ また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2の訂正も、同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

オ 訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2,3について
ア 上記(1)で検討したのと同様に、訂正事項2,3は、それぞれ、請求項3,4について、訂正前の「重合度が11?35の分岐グルカン」から「(但し、難消化性デキストリンを除く)」との特定事項を加え、「難消化性デキストリン」に該当する場合を除外するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記(1)で検討したのと同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2及び3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

よって、訂正後の請求項〔1,2〕,3,4について訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1?2,3,4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明2」、「本件特許発明3」、「本件特許発明4」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求
項1、?2,3,4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を有効成分として含んでなる、ビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である、ビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤。
【請求項2】
分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1?2個のグルコース残基である、請求項1に記載の起泡および/または泡持ち向上剤。
【請求項3】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で添加してなる、起泡および/または泡持ちが向上したビールテイスト飲料であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合であるビールテイスト飲料。
【請求項4】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で飲食品の製造原料として使用する、起泡および/または泡持ちが向上したビールテイスト飲料の製造方法であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である製造方法。」

第4 取消理由及び特許異議申立理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
(1)新規性
異議理由1-1:甲第1号証には、甲第2号証を参照すると、訂正前の本件特許発明3,4の構造に該当する分岐グルカン(比較例1の「ファイバーソル-2」)である難消化デキストリンを飲食品あたり該当量添加したビールテイスト飲料が記載されているので、訂正前の本件特許発明3,4は、甲第1号証に記載された発明である。
異議理由1-2:甲第1号証には、甲第1号証の方法でも製造できるとの本件明細書の記載に記載されていることから、実施例1,2,6として、訂正前の本件特許発明3,4が記載されており、訂正前の本件特許発明3,4は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)進歩性
異議理由2:甲第1号証の比較例1の糖組成物は、甲第2号証を参照すると、訂正前の本件特許発明の構造に該当する分岐グルカンである難消化性デキストリンであり、甲第3号証から難消化性デキストリンの起泡・泡持ち効果は公知なので、訂正前の本件特許発明1?4は、甲第1?3号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたものである。
(3)実施可能要件
異議理由3-1:発明の詳細な説明には、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」であって、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα?1,6-結合またはα?1,3-結合である」訂正前の本件特許発明の分岐グルカンにビールテイスト飲料の起泡・泡持ち向上効果があることを実際に確認した記載は存在せず、本件特許発明が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
異議理由4-1:また、特許権者が提出した甲第4号証の記載から所期の起泡・泡持ち向上効果が得られない分岐グルカンであっても、訂正前の本件特許発明の構成の分岐グルカンを一部有しており、発明の詳細な説明の記載は、訂[TM2]正前の本件特許発明が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(4)サポート要件
異議理由3-2:発明の詳細な説明の記載には、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」であって、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα?1,6-結合またはα?1,3-結合である」訂正前の本件特許発明の分岐グルカンにビールテイスト飲料の起泡・泡持ち向上効果があることを実際に確認した記載は存在せず、訂正前の本件特許発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
異議理由4-2:また、特許権者が提出した甲第4号証の記載から所期の起泡・泡持ち向上効果が得られない分岐グルカンであっても、訂正前の本件特許発明の構成の分岐グルカンを一部有しており、訂正前の本件特許発明の特定の分岐構造と重合度を有する分岐グルカンの含有だけでは所期の効果は得られないから、訂正前の本件特許発明は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2 当審が通知した取消理由
理由1:訂正前の請求項1?4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基いて、本件特許出願にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである。
理由2:訂正前の請求項1?4に係る特許は、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」であって、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα?1,6-結合またはα?1,3-結合である」訂正前の本件特許発明の分岐グルカン以外のものを含めて測定していると考えられることから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由3:訂正前の請求項1?4に係る特許は、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」であって、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα?1,6-結合またはα?1,3-結合である」訂正前の本件特許発明の分岐グルカン以外のものを含めて測定していると考えられることから、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



刊行物1:特開2011-200225号公報(甲第1号証)
刊行物2:SUSAN SUNGSOO CHO and PRISCILLA SAMUEL編「FIBER INGREDIENTSFood Applications and Health Benefits」、CRC Press、2009年、p.61-64(甲第2号証)
刊行物3:鈴木一、藤原英樹著「加工澱粉・デキストリンの炭酸系飲料への応用」月刊フードケミカル2010-11、(平成22年11月1日発行)、71?73頁(甲第3号証)

第5 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由について
1 理由1(特許法第29条第2項)
(1)甲号証の記載事項
(1-1)甲第1号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は糖組成物及びそれを用いた飲食品に関する。より詳しくは、食物繊維を含有する糖組成物及びそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の糖組成物は、水溶性の食物繊維として、飲料や菓子等の食品分野で広く用いられている。
難消化性デキストリンは、澱粉(コーンスターチ等)を酸の存在下で焙焼することにより製造される。その製造過程で、澱粉の焙焼中に、還元末端のグルコース残基の還元性基で分子内脱水をおこしたり、解離したグルコース残基がランダムに他の水酸基に転移したりする結果、澱粉本来の結合の他に1,2、1,3のグルコシド結合が分子内に生じる・・・。難消化性デキストリンは、還元末端のグルコース残基が分子内で脱水された1-6アンヒドログルコース構造を有するデキストリンで、・・・。」(下線は、当審にて追加。以下、同様。)

(1b)「【0026】
3糖以上の成分でその構造中に1,2結合や1,3結合が含有されるかの判定には、上記の酵素-HPLC法で算出される食物繊維含量によっても判断することができる。
【0027】
ところで、澱粉糖におけるグルコース間の結合様式は、α1,4結合、α1,6結合であり、通常の澱粉糖にはα1,2結合やα1,3結合は殆ど存在しない。上記の酵素-HPLC法を用いた分析例より、澱粉を酸焙焼すると、1,2結合及び/又は1,3結合(α、βの結合様式は不明)の含有量が増加し、食物繊維含量が上昇することが記載されている(Journalof Applied Glycoscience 第49巻 第479項 2002年)が、本発明の転移酵素を用いれば、α1,2結合およびα1,3結合の糖質を顕著に増加させることができる。」

(1c)「【0045】
<実施例1>
30重量%、DE12馬鈴薯澱粉液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH6.0に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分3U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.005重量%添加し36時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、75重量%の実施例1の糖組成物を得た。
また、DEはデキストロース・エクイバレント(DextroseEquivalent,DE)であって、澱粉分解物の分解度の指標であり、この値の小さいものは分子が大きく高粘度である。また、耐熱性転移酵素の力価と測定法については後述する。
【0046】
<実施例2>
35重量%、DE18コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度50℃、pH5.5に調整した後、後述する参考例1の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分30U、24時間作用させた。反応後の糖液に、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.15重量%、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.1重量%を添加しさらに24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱した強酸性カチオン交換樹脂(FX1040、オルガノ社製)を充填した連続式クロマト分離装置(トレソーネ、オルガノ社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例2の糖質を得た。
【0047】
<実施例3>
40重量%、DE10ワキシーコーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH5.5に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分10U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.05重量%添加し、48時間作用させた。反応後の糖液に、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.3重量%を添加し、40℃にて24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱したゲルろ過カラム(TOYOPEARLHW-40S、東ソー社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例3の糖質を得た。
【0048】
<実施例4>
20重量%、DE8コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度60℃、pH6.0に調整した後、後述する参考例1の方法で精製した耐熱性転移酵素を対固形分6U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.02%、βアミラーゼ(β-アミラーゼ#1500、ナガセ生化学工業製)を対固形分0.03重量%添加し、36時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例4の糖質を得た。
なお、実施例1?4の澱粉液化液は、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)による酵素液化により調製することができる。また、実施例1?4で用いた耐熱性転移酵素は、濃縮したものを用いることができる。実施例1?4で用いた耐熱性転移酵素の添加量は固形分1gあたりの酵素量(U)のことを示す。
【0049】
<実施例5>
実施例4の糖組成物と、関東化学(株)製のマルトース(特級)を、固形分当たり、18:82の比率で混合し、水を加えて溶解した後、溶解液をスプレードライヤーにて粉末化し、実施例5の糖組成物を得た。
【0050】
<実施例6>
塩酸による酸液化により調製した、20重量%、DE30コーンスターチ液化液(澱粉部分分解物)を温度65℃、pH6.5に調整した後、後述する参考例1の方法で精製後、濃縮した耐熱性転移酵素を固形分1g当たり0.5U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)対固形分0.1%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.3重量%添加し、96時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例6の糖質を得た。
【0051】
<実施例7>
αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)による酵素液化により調製した、45重量%、DE30馬鈴薯澱粉液化液(澱粉部分分解物)を温度70℃、pH4.0に調整した後、後述する参考例1、2の方法で精製後、濃縮した耐熱性転移酵素を固形分1g当たり60U、αアミラーゼ(ターマミル120L、ノボザイムズ社製)を対固形分0.5重量%、枝切酵素(クライスターゼPLF、天野エンザイム社製)対固形分0.8重量%添加し、添加し1時間作用
させた。反応後の糖液に、グルコアミラーゼ(AMG、ノボザイムズ社製)対固形分0.3重量%を添加し、40℃にて24時間作用させた。この澱粉分解物の溶液を、活性炭・イオン精製処理・濃縮し、50重量%の水溶液に調製し、60℃に加熱したゲルろ過カラム(TOYOPEARL HW-40S、東ソー社製)に供し、低分子を除去した。
分画された澱粉分解物の溶液を活性炭・イオン精製処理した後、濃縮し、スプレードライヤーで粉末化し実施例7の糖質を得た。
【0052】
<比較例1?3>
比較例1として松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)を、比較例2として昭和産業(株)製の商品名「IMO900P」を、比較例3として関東化学(株)製のマルトース(特級)をそれぞれ用いた。
【0053】<糖組成> 実施例1?7、比較例1?3の糖組成物について、グルコースを構成糖とする重合度3、4の食物繊維、グルコースを構成糖とする重合度5?9の食物繊維、グルコースを構成糖とする重合度10以上の食物繊維、グルコースを構成糖とする食物繊維の合計を酵素-HPLC法により求め、得られた含有量から、x、y、z、即ち、食物繊維の合計に対する、各重合度の食物繊維の割合(重量比)を求めた。
【0054】
【表1】

」(下線は、当審にて追加。以下、同様。)

(1d)「【0058】
<食品添加試験2>
麦汁エキス40g、マルトース100g、ホップエキス5g、大豆ペプチド1.7g、酵母0.6gに・・・比較例1、2、3(事前に固形分75%に調製したもの)を30g混合し、水を加え終重量1000gになるように調整した後、7日間発酵を行った。・・・発酵後、珪藻土にて酵母を除去しビール(発泡酒)を試作した。その評価試験を下記表3に示す。
【0059】
【表3】



(1-2)甲第2号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(2a)「この食物繊維のギャップを埋めるべく、日本の科学者たちは様々種類の低分子量の食物繊維やオリゴ糖を開発してきた。その中でも傑出した食物繊維製品が、松谷化学工業株式会社(伊丹市、兵庫県、日本)により開発・登録された難消化性マルトデキストリン製品であるファイバーソル^(R)-2である。」(原文ではRは丸記号であり、商標であることを示している記号であると認める。)(62頁下から4行?63頁1行)

(2b)「

図5.3
難消化性マルトデキストリンの構造的特徴:酵素または酸による加水分解によって調製された従来のマルトデキストリンとの比較(Okuma,K. and Matsuda,I.,J.Appl.Glycosci.,49,479-485,2002から引用)」(64頁)

(2c)「難消化性マルトデキストリンとは何か。
ファイバーソル^(R)-2は、湿潤スターチ(コーン、タピオカ等)から少量の酸と140℃?160℃で加熱を経て調製される(図5.2)
・・・
難消化性マルトデキストリンは、重合度(DP)が1?9である糖質を少ない割合で含み、大部分は重合度が10またはそれ以上の多糖類から構成されている。
難消化性マルトデキストリンは、典型的には、DE(デキストロース当量)10程度のマルトデキストリンのような炭水化物組成を有し、その平均分子量は2000程度である。(63頁下から37行?15行)

(1-3)甲第3号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「1.はじめに
炭酸飲料や炭酸入りアルコール飲料では,泡は重要な要素の一つとなる。中でも,泡の発生(起泡)や,泡持ち,キメなどを重視していることが多いのはビール類で,起泡性が良く,きめの細かい泡を,長時間持続させる研究がビールメーカーを中心に行われている。」(71頁左欄1?7行)
(3b)「5.粘度を利用した泡持ち改善効果
炭酸飲料にデキストリンや難消化性デキストリンを利用すると若干の粘性をつけることができ,これにより泡持ち改善効果が得られ,クリーミーな泡感を付与し,さらには適度な濃厚感を付与することができる。この効果を利用して最近,糖類の少ない炭酸飲料などではデキストリンや難消化性デキストリンを利用するケースが増えてきている。
また,ビール類でも同様の起泡・泡持ち改善効果が認められる。これは,添加したデキストリンや難消化性デキストリンにより,液中の粘度が若干上昇し,これらの物質とホップ由来成分との結合により,泡持ちの改善につながっていることが推測される。」(72頁右欄下から24行?下から10行)。

(3c)「デキストリンや難消化性デキストリン,加工澱粉は,ビール類において,従来コク味付与剤として,すでにビール類に利用されているが,粘性を使用することで起泡,泡持ちに使用できるため,今後は泡に関係した目的での利用も期待できる。」(73頁左欄表2下9?14行)

(1-4)甲第4号証
本件特許の審判請求書の手続補正書(方式)には、以下の記載がある。
(4a) 5頁の表1として、「直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンの含有量(%)」が、26.6、17.9、75.5のそれぞれ分岐グルカン1、分岐グルカン2,分岐グルカン3が「起泡および泡持ち向上効果」が「高い」こと、「デキストリンA」の「直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンの含有量(%)」が「2.6%^(※2)」であること、「※2大半が重合度36以上の高分子(βリミットデキストリン)であった。」こと、「起泡および泡持ち向上効果」が「低い」ことが記載されている。

(2)甲第1号証に記載された発明
ア 摘記(1a)には、従来から難消化性デキストリンなどの糖組成物が広く用いられていることが記載され、摘記(1c)には、特許請求の範囲に対応した実施例とともに、比較例1として松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)が用いられ、摘記(1d)には、それがビール製造に用いられたことが記載されているのであるから、甲第1号証には、具体的記載として、「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)を用いたビール用糖組成物」に係る発明(以下「甲1糖組成物発明」という。)が開示されている。
イ また、摘記(1d)には、比較例1の難消化性デキストリンからビール(発泡酒)を試作したことが記載され、「麦汁エキス40g、マルトース100g、ホップエキス5g、大豆ペプチド1.7g、酵母0.6gに松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を固形分75%に調製したものを30g混合し、水を加え終重量1000gになるように調整した後、7日間発酵を行い、発酵後、珪藻土にて酵母を除去しビール(発泡酒)を試作したことが記載されているのであるから、以下の発明も記載されているといえる。
「「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を固形分75%に調製したものを原料1000gに対し30g添加し、発酵させて製造したビール(発泡酒)」(以下「甲1ビール発明」という。)
「「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を固形分75%に調製したものを30g混合し、終重量1000gになるように調整した後、発酵を行いビール(発泡酒)を製造する方法」(以下「甲1ビール製造方法発明」という。)

(3) 対比・判断
(3-1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1糖組成物発明とを対比すると、甲1糖組成物発明の「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」は、本件特許発明1の「グルカン・・・またはその還元物」に該当し、甲1糖組成物発明の「ビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に該当するので、甲1の糖組成物発明の「「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)を用いたビール用糖組成物」は、ビールテイスト飲料用の糖組成物である限りにおいて、本件特許発明1の「グルカン・・・またはその還元物を有効成分として含んでなる、ビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤」と共通するといえる。

したがって、本件特許発明1は、甲1糖組成物発明と、「グルカンまたはその還元物を有効成分として含んでなる、ビールテイスト飲料用の糖組成物」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1は、グルカンまたはその還元物に関して、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物」で、そ「の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」と特定されているのに対して、甲1糖組成物発明においては、「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」であるとされている点。
相違点2-1:ビールテイスト飲料用の糖組成物に関して、本件特許発明1は、起泡および/または泡持ち向上剤であると特定されているのに対して、甲1糖組成物発明においては、起泡および/または泡持ち向上剤であるとの特定はない点。

(イ)判断
a 相違点1-1について
(a)甲1糖組成物発明で用いられる「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)の構造、重合度、結合様式の直接の記載は、甲第1号証に記載はないが、摘記(1a)、摘記(1b)に記載されるように、難消化性デキストリンは、澱粉(コーンスターチ等)を酸の存在下で焙焼することにより製造され、その製造過程で、澱粉の焙焼中に、還元末端のグルコース残基の還元性基で分子内脱水をおこしたり、解離したグルコース残基がランダムに他の水酸基に転移したりする結果、澱粉本来の結合の他に1,2、1,3のグルコシド結合が分子内に生じることや、難消化性デキストリンは、還元末端のグルコース残基が分子内で脱水された1-6アンヒドログルコース構造を有するデキストリンであることや、澱粉糖におけるグルコース間の結合様式は、α1,4結合、α1,6結合であり、通常の澱粉糖にはα1,2結合やα1,3結合は殆ど存在しないが、澱粉を酸焙焼すると、1,2結合及び/又は1,3結合(α、βの結合様式は不明)の含有量が増加することが記載されている。

(b)そして、甲第2号証の摘記(2a)には、松谷化学工業株式会社により開発・登録された難消化性マルトデキストリン製品であるファイバーソル^(R)-2が製造されたこと、摘記(2b)には、図5.3にファイバーソル^(R)-2の化学構造が示され、非還元末端である1→6結合で直鎖に分岐構造が生じていることが示され、1→4グルコシド結合(58.5%)、1→6グルコシド結合(27.0%)、1→3グルコシド結合(11.3%)を有していることが記載されている(甲第1号証の「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」は、甲第2号証のファイバーソル^(R)-2と同一商標のものと認める。)。
また、摘記(2c)には、ファイバーソル^(R)-2は、湿潤スターチ(コーン、タピオカ等)から少量の酸と140℃?160℃で加熱を経て調製され、大部分は重合度が10またはそれ以上の多糖類から構成され、その平均分子量は2000程度であることが記載されている。
さらに、平均分子量2000程度であることと、グルコースの分子量180g/mol、結合による水18g/molの放出等の計算から平均重合度は12?13程度であると理解できる。

(c)しかしながら、甲1糖組成物発明は、「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」であるのだから、難消化性デキストリンである、ファイバーソル2を発明の特定事項とするものであり、甲第1号証においては、甲1糖組成物発明である比較例1の難消化性デキストリンである、ファイバーソル2以外には、請求項1にグルコースを構成糖とする重合度が3以上9以下(3,4及び5?9)の食物繊維を主成分とする糖組成物が特定され、実施例として、請求項に対応したグルコースを構成糖とする重合度が3以上9以下の食物繊維を主成分とする糖組成物が例示されているだけである(摘記(1c))。

(d)したがって、本件訂正によって、甲1糖組成物発明に用いられる難消化性デキストリンが本件特許発明1から除かれた以上、甲1糖組成物発明及び甲第1号証の記載からグルカンまたはその還元物に関して、相違点1の「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物」で、なおかつ、そ「の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」との分岐構造、重合度、分岐構造の結合様式を同時に特定することは、当業者といえども容易に想到する技術的事項であるとはいえない。

(e)また、甲第3号証の摘記(3a)?摘記(3c)に記載されるような、泡の発生(起泡)や、泡持ち、キメなどを重視し、起泡性が良く、きめの細かい泡を、長時間持続させる研究が行われ、難消化性デキストリンを利用することで粘性の付与によりビール類に起泡・泡持ち改善効果が認められることが定性的に知られているとはいえ、甲1糖組成物発明は、比較例1として、風味、キレ、後味、総合評価のよくない例として記載されているものであり、本件特許発明1は、上記分岐構造、重合度、分岐構造の結合様式を同時に満足することで、本件明細書【0051】?【0058】及び【図1】?【図3】に示す、従来技術と比較した泡持ち時間の改善、生成した泡の容量の増加という顕著な効果を奏しているといえる。
そして、乙第1号証の実験成績報告書に示されるように、本件特許明細書の製造例2の分岐グルカンと甲1糖組成物発明である難消化性デキストリンであるファイバーソル2との比較において、泡容量残存率が優位に向上していたこと、甲第4号証の「デキストリンA」に比較した「分岐グルカン1」「分岐グルカン2」「分岐グルカン3」の高い気泡安定性(起泡・泡持ち向上効果)の結果からも、上記本件特許発明1の効果が当業者の予測を超えたものであることは、裏付けられているといえる。

b まとめ
したがって、相違点2-1を検討するまでなく、本件特許発明1は、甲1糖組成物発明及び甲第1?3号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)小括
本件特許発明1は、甲1号証に記載された発明及び甲第1号証?甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3-2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1において、さらに、「分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1?2個のグルコース残基である」ことをさらに特定したものである。
したがって、甲第2号証の摘記(2b)には、図5.3にファイバーソル^(R)-2の化学構造が示され、非還元末端である1→6結合で直鎖に分岐構造が生じていることが示され、分岐構造が1?2個のグルコースで形成されていることが示されているものの、これは、本件特許発明2において、すでに除かれている難消化デキストリンであるファイバーソル2の構造に関するものであり、上記(1)の本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明2も、甲1糖組成物発明及び甲第1号証?甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3-3)本件特許発明3について
ア 本件特許発明3との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明3と甲1ビール発明とを対比すると、甲1ビール発明の「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」は、本件特許発明3の「グルカン・・・またはその還元物」に該当し、甲1ビール発明の「ビール」は、本件特許発明3の「ビールテイスト飲料」及び「飲食品」に該当するので、甲1の「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を・・・添加し、発酵させて製造したビール」は、グルカンまたはその還元物を、飲食品に添加してなる、ビールテイスト飲料である限りにおいて、本件特許発明3の「グルカン・・・またはその還元物を、飲食品」に「添加してなる、起泡および/または泡持ちが向上したビールテイスト飲料」と共通するといえる。
また、甲1ビール発明の「「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を固形分75%に調製したものを原料1000gに対し30g添加し、発酵させて製造した」ことは、本件特許発明3の「グルカンまたはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で添加してなる」ことに該当する。

したがって、本件特許発明3は、甲1ビール発明と、「グルカンまたはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で添加してなる、ビールテイスト飲料」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-3:本件特許発明3は、グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物が、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」で、そ「の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」と特定されているのに対して、甲1ビール発明においては、「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」であるとされている点。
相違点2-3:ビールテイスト飲料に関して、本件特許発明3は、起泡および/または泡持ちが向上したと特定されているのに対して、甲1ビール発明においては、起泡および/または泡持ち向上したとの特定はない点。

(イ)判断
a 相違点1-3について
相違点1-3については、甲1ビール発明は、「松谷化学工業(株)製の商品名「ファイバーソル2」(難消化性デキストリン)」を原料に添加して製造したビールであるのだから、難消化性デキストリンである、ファイバーソル2を発明の特定事項とするものであり、前記(3-1)ア(イ)aで検討したのと同様に、本件訂正によって、甲1ビール発明の原料添加成分である難消化性デキストリンが本件特許発明3から除かれた以上、甲1ビール発明及び甲第1号証の記載からグルカンまたはその還元物に関して、相違点1-3の「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物」で、なおかつ、そ「の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」との分岐構造、重合度、分岐構造の結合様式を同時に特定することは、当業者といえども容易に想到する技術的事項であるとはいえない。

b まとめ
したがって、相違点2-3を検討するまでなく、本件特許発明3は、甲1ビール発明及び甲第1?3号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)小括
本件特許発明3も、甲1ビール発明及び甲第1号証?甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3-4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3のビールテイスト飲料の発明を、そのままビールテイスト飲料の製造方法として記載したものである。
したがって、本件特許発明4は、前記(3-1)及び(3-3)において検討したのと同様に、甲1ビール製造方法発明及び甲第1号証?甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4) 取消理由1の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?4は、甲第1号証?甲第3号証記載の発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえないので、取消理由1は解消している。

2 理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明1、2の課題は、【0002】?【0004】の【背景技術】の記載及び【0006】?【0007】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、本件特許発明1、2の課題は、直鎖状グルカンと分岐構造とからなる重合度11?35のグルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)又はその還元物であって、少なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が導入されたものを有効成分として含む起泡および/または泡持ち向上剤の提供にあり、本件特許発明3の課題は、直鎖状グルカンと分岐構造とからなる重合度11?35のグルカンであって、少なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が導入されたものを添加したビールテイスト飲料の提供であり、本件特許発明4の課題は、該ビールテイスト飲料の製造方法を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1?4には、前記第2のとおり、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物」との特定事項と、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」との特定事項を有するビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤、ビールテイスト飲料、その製造方法の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
一方、発明の詳細な説明には、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」との特定事項や、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」との特定事項に対応する記載としては、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除くと、【0012】に「本発明による分岐グルカンの更なる具体例としては、α-1,4-グルコシド結合により構成された直鎖状グルカンと、その直鎖状グルカンの非還元末端のみに導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度11?35の分岐メガロ糖が挙げられる。」との一般的例示記載がある。
そして、具体的記載としては、【0047】の製造例1で、糖組成物(分岐グルカン1)を製造し、【0048】の製造例2で糖組成物(分岐グルカン2)を製造し、それぞれ、得られた糖組成物中の「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン」含量を特開2010-95701号公報の試験例2に記載された方法で測定したところ、26.6%、17.9%であったことが以下のとおり記載されている。
「 【0047】
製造例1:分岐グルカンの製造(1)
30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃、pH6.0に調整し、これにパエニバチルス・エスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形当たり2単位、マイロイデス・オドラータスのイソアミラーゼを対固形分1g当たり200単位、プルラナーゼ「アマノ」3(アマノエンザイム社製)を対固形分当たり0.02%、アクレモニウム・エスピーのα-グルコシダーゼを対固形分1g当たり0.75単位、クライスターゼL-1(大和化成社製)を対固形分1g当たり0.006%添加して40時間糖化した。これを80℃に加温し、クライスターゼL-1を対固形分当たり0.005%添加してヨード反応が消失するまで作用させた。続いて、定法に従い精製、濃縮することで分岐グルカンを製造した。得られた糖組成物(分岐グルカン1)中の「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン」含量を特開2010-95701号公報の試験例2に記載された方法で測定したところ、26.6%であった。」
「【0048】
製造例2:分岐グルカンの製造(2)
特開2010-95701号公報の製造例に記載された方法に準じて分岐グルカン(分岐グルカン2)を製造した。詳しくは、30%(w/w)DE6.5コーンスターチ液化液を温度53℃、pH6.0に調整し、これにパエニバチルス・エスピーのシクロデキストリン生成酵素を対固形当たり1単位、マイロイデス・オドラータスのイソアミラーゼを対固形分1g当たり100単位、プルラナーゼ「アマノ」3(アマノエンザイム社製)を対固形分当たり0.01%、アスペルギルス・ニガーのα-グルコシダーゼを対固形分1g当たり3.75単位添加して72時間糖化した。これを80℃に加温し、クライスターゼL1(大和化成社製)を対固形分当たり0.005%添加してヨード反応が消失するまで作用させた。続いて、定法に従い精製、濃縮することで分岐グルカンを製造した。得られた糖組成物(分岐グルカン2)中の「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン」含量を特開2010-95701号公報の試験例2に記載された方法で測定したところ、17.9%であった。」(タイトル以外の下線は、当審にて追加。以下同様)

(5)対比・判断
本件特許の出願時の技術常識であるといえる、特許異議申立人の提出した参考資料2の中村道徳・貝沼圭二編 「瓜谷郁三・志村憲助・中村道徳・船津 勝編集 生物化学実験法19 澱粉・関連糖質実験法」,学会出版センター,1986年10月10日p.105の「β-アミラーゼ・・・は,澱粉,グリコーゲン,デキストリンなどを非還元末端から順次マルトース単位に分解し,異常な結合やα-1,6-結合の分岐点付近で反応が停止する.」との記載や、アミロペクチンの一部とβ-アミラーゼ作用点に関して図示したp.107頁の図IV-14を考慮すると、そのような現象の可能性の存在は窺えるものの、乙第2号証【0002】【0053】【0055】【0131】【0132】【0139】【0140】、乙第3号証【0042】【0043】、乙第4号証【0006】【0008】、乙第5号証721頁右欄29?30,33?35行に記載されるような糖転移酵素に関する技術常識及び本件特許明細書【0047】【0048】で実際に用いている枝切り酵素(イソアミラーゼ、プルラナーゼ)、αグルコシダーゼによる分岐構造の導入に関する記載を考慮すると、切断が不十分になることを避ける配慮がなされているといえ、本件特許明細書の記載に基づく製造例のものが、測定によって異なるものを含めて実質的に測定しているとまではいえない。
したがって、本件明細書で示された特開2010-95701号公報の試験例2に記載された、生成した糖に対して、β-アミラーゼを作用させ、HPLCにより得られたクロマトグラムのピーク面積方法での測定する方法では、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物」以外のものも含めて測定していることになるとはいえないし、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」かは、上記乙第2号証?乙第5号証記載の技術常識から明らかであると考えられる。

以上のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明の特定事項に対応した、直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる特定重合度の構造を有し、その分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合であることが確認された、分岐グルカンまたはその還元物が得られており、本件特許発明に対応した得られた分岐グルカン1,2を用いて起泡性又は気泡安定性の評価で、特定の従来の糖類との比較により向上した結果が得られているのであるから本件特許発明の課題が解決できていると認識できる。

(6)取消理由2のまとめ
したがって、請求項1?4に係る特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、取消理由2は解消している。

3 理由3(特許法第36条第4項第1号)について
前記理由2の検討で述べたとおり、発明の詳細な説明においては、本件特許発明の特定事項に対応した、直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる特定重合度の構造を有し、その分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である、分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物が確認できているといえるのであるから、「α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカンまたはその還元物」との特定事項と、「前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である」との特定事項を有する特許請求の範囲の分岐グルカンまたはその還元物が、発明の詳細な説明において、実際に得られているといえ、当業者が容易に本件特許発明を実施できるといえる。

したがって、発明の詳細な説明の記載が、請求項1?4に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。

特許異議申立人は、意見書17頁において、理由2,3に関して、「難消化デキストリンではない」との特定事項を有する本件訂正後の全ての分岐グルカンが格別顕著な効果を奏することの開示がないし、そのような分岐グルカンを選択するのに過度な試行錯誤を要する旨主張している。
しかしながら、サポート要件、実施可能要件に関していえば、本件特許発明が実施でき、一定の課題解決、作用効果を示せば良いのであって、乙第1号証の実験結果において、難消化性デキストリンとの効果の違いが示され、甲第4号証において、デキストリンAとの効果の違いも示されていること、上述のとおり、本件特許明細書の製造例1,2等の記載や乙第2号証?乙第5号証の技術常識を考慮すれば、分画技術を用いる等して、当業者が過度な試行錯誤なく製造できることから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討
1 新規性について
(1) 特許異議申立人は、異議申立書24頁において、甲第1号証の「ファイバーソル2」を先行発明2として認定し、訂正前の本件特許発明3,4と対比し、「起泡および/または泡持ちが向上した」との点が両者の一応の相違点であるが、化学構造上の差異のない分岐グルカンを原料としたものであるから「起泡および/または泡持ちが向上した」ものであることは明らかであるとして、訂正前の本件特許発明3,4は、新規性を欠如している旨主張している。

しかしながら、前述のとおり、本件訂正によって、甲第1号証の「ファイバーソル2」である難消化性デキストリンは、訂正後の本件特許発明3,4から除外されており、上記相違点は実質的なものであるといえるので、本件特許発明3,4は甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、新規性を欠如しているとはいえない。

(2) 特許異議申立人は、異議申立書28頁において、甲第1号証の実施例1,2,6で得た糖質を先行発明3であると認定し、本件特許明細書【0027】において、甲第1号証にあたる「特開2011-200225号公報・・・に記載の方法でも製造することができる。」との記載から、先行発明3は、訂正前の本件特許発明3,4と同じ分岐構造、重合度であることを合理的に推認できるとし、化学構造上の差異のない分岐グルカンを原料としたものであるから「起泡および/または泡持ちが向上した」ものであることも明らかであるとして、訂正前の本件特許発明3,4は、新規性が欠如している旨主張している。

しかしながら、前述のとおり、本件訂正によって、難消化性デキストリンは、訂正後の本件特許発明3,4から除外されており、本件特許明細書において、単にその方法でも製造可能性があることの示唆があることをもって、実際に甲第1号証の実施例1,2,6が本件特許発明3,4と同じ分岐構造、重合度であるとは何ら確認できず、むしろ、重合度が3?9のものが主成分であるという結果となっている。
したがって、上記相違点は実質的なものであるといえるので、本件特許発明3,4が甲第1号証に記載された発明とはいえず、新規性を欠如しているとはいえない。

2 サポート要件・実施可能要件について
特許異議申立人は、異議申立書36?38頁において、前記異議理由4-1、4-2に記載したように、特許権者が提出した甲第4号証の記載から所期の起泡・泡持ち向上効果が得られない分岐グルカンであっても、訂正前の本件特許発明の構成の分岐グルカンを一部有しているから、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

しかしながら、甲第4号証のデキストリンAは、大半が重合度36以上の高分子であったことを脚注で説明しているものであり、本件特許発明の分岐グルカンを2.6%含有しているものの起泡および泡持ち向上効果が低いという結果は、主成分によるものであることが明らかであるから、この結果をもとに、本件特許発明がサポート要件・実施可能要件を欠如しているということはできない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものであり、発明の詳細な説明の記載は、同法同条第4項第1号の要件を満たすものである。

特許異議申立人の意見書における乙第2号証?第5号証に関する主張について
特許異議申立人は、意見書8?16頁において、乙第2号証?第5号証を参酌しても、内部分岐構造の完全な切断ができていないことや本件特許発明の分岐グルカン(分岐メガロ糖)以外を完全に排除して測定している根拠にならない旨主張している。
しかしながら、上記特許異議申立人の主張は、切断の完全性に基づく可能性を論じているにすぎず、そのことをもって本願の特許請求の範囲や発明の詳細な説明の記載がサポート要件、実施可能要件を満たさない根拠となるものではない。
よって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第6 むすび
したがって、請求項1?4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を有効成分として含んでなる、ビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である、ビールテイスト飲料用の起泡および/または泡持ち向上剤。
【請求項2】
分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造が直鎖状グルカンの非還元末端に結合した1?2個のグルコース残基である、請求項1に記載の起泡および/または泡持ち向上剤。
【請求項3】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で添加してなる、起泡および/または泡持ちが向上したビールテイスト飲料であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合であるビールテイスト飲料。
【請求項4】
α-1,4-結合により構成された直鎖状グルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度が11?35の分岐グルカン(但し、難消化性デキストリンを除く)またはその還元物を、飲食品当たり0.1重量%?30重量%の添加量で飲食品の製造原料として使用する、起泡および/または泡持ちが向上したビールテイスト飲料の製造方法であって、前記分岐グルカンまたはその還元物の分岐構造の直鎖状グルカンへの結合様式がα-1,6-結合またはα-1,3-結合である製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-12 
出願番号 特願2014-111482(P2014-111482)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C12C)
P 1 651・ 537- YAA (C12C)
P 1 651・ 536- YAA (C12C)
P 1 651・ 113- YAA (C12C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 美穂北村 悠美子  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 瀬良 聡機
冨永 みどり
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6513908号(P6513908)
権利者 日本食品化工株式会社
発明の名称 起泡・泡持ち向上剤  
代理人 横田 修孝  
代理人 榎 保孝  
代理人 横田 修孝  
代理人 大森 未知子  
代理人 榎 保孝  
代理人 大森 未知子  

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