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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1364916
異議申立番号 異議2019-700858  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-29 
確定日 2020-07-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6511187号発明「樹脂組成物および成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6511187号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第6511187号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6511187号(出願日:平成30年10月15日、優先日:平成29年10月17日)は、平成31年4月12日付けでその特許権の設定登録がされ、令和元年5月15日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?11に係る特許に対して、同年10月29日に特許異議申立人 林法子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

令和2年1月 9日付け:取消理由の通知
同年3月13日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年4月24日 :意見書の提出(申立人)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
令和2年3月13日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?11は一群の請求項である。

訂正事項A:明細書の【0104】に記載された「、粘度平均分子量より、」を削除する。すなわち、【0104】の
「<ポリカーボネート樹脂のモル比率>
後述する表2、表3におけるモル比率(モル%)は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位の含有量を示す指標であり、用いた樹脂の混合比率および式(1)で表される構造単位の分子量を用いて、粘度平均分子量より、算出した。」を、
「<ポリカーボネート樹脂のモル比率>
後述する表2、表3におけるモル比率(モル%)は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位の含有量を示す指標であり、用いた樹脂の混合比率および式(1)で表される構造単位の分子量を用いて算出した。」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項Aは、【0104】において説示される樹脂のモル比率、すなわちモル分率の算出において、関与することのない「粘度平均分子量」の文言を削除するものである。
モル分率の算出に「粘度平均分子量」が関与しないことは、特許権者が訂正請求書に添付した乙第1号証(大木道則他編「化学辞典」第1版第8刷、1454頁「モル分率」の項、2007年2月1日、東京化学同人)からも明らかである。
したがって、この訂正は誤記の訂正を目的とするものと認められる。また、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件請求項1?11に係る発明
本件請求項1?11に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?11に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部含む樹脂組成物であって、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構造単位中、下記式(1)で表される構造単位を50?100モル%含み、
前記(B)エステル化合物がアルコールとカルボン酸から構成され、
前記樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、ヘイズが5.0%以下であり、かつ、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下である樹脂組成物;
式(1)
【化1】

式(1)中、R^(1)はメチル基を表し、R^(2)は水素原子またはメチル基を表し、X^(1)は下記のいずれかの式を表し、
【化2】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【請求項2】
前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、前記(B)エステル化合物を0.5?10.0質量部含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)エステル化合物が、脂肪酸エステルである、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)エステル化合物が、飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成されている、請求項1?3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)エステル化合物が、モノエステル化合物の少なくとも1種である、請求項1?4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリカーボネート樹脂は、さらに、下記式(2)で表される構造単位を含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の樹脂組成物;
式(2)
【化3】

式(2)中、X^(2)は下記のいずれかの式を表し、
【化4】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【請求項7】
前記(A)ポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、前記式(1)で表される構造単位を50?95モル%と、前記式(2)で表される構造単位50?5モル%を含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)ポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、前記式(1)で表される構造単位を60?90モル%と、前記式(2)で表される構造単位40?10モル%を含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物が無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下の割合で含む、請求項1?8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、サラシを使用した初期往復摩耗試験前後のヘイズの差であるΔヘイズが3.00%以下である、請求項1?9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1?10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成される成形品。

第4 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特開2013-64045号公報
甲第2号証:特開2008-308606号公報
(以下、甲第1?2号証を「甲1」?「甲2」という。)

・申立ての理由1
本件発明1?11は発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2
本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?11を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由3
本件発明1?11は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由4
本件発明1?11は、甲1及び甲2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1?11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1について
申立ての理由1に関し、申立人の主張は大旨以下のとおりである。
「本件発明1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための事項が発明特定事項として反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が請求されているものといえる。」(申立書26頁1?3行)

本件発明が解決しようとする課題は、【0005】に記載された以下のものにあると認められる。
「表面硬度に優れ、耐擦傷性に優れ、特に、摩耗試験後の透明性の維持率が高く、かつ、押出性に優れた樹脂組成物、および、前記樹脂組成物を用いた成形品を提供する」

請求人が主張するとおり、本件実施例には、係る課題が解決できることを具体的に示した組成物は、
(A)ポリカーボネート樹脂として、ビスフェノールCに由来する骨格を有するポリカーボネート樹脂A1と、ビスフェノールAに由来する骨格を有するポリカーボネート樹脂A2を、「式(1)の比率」が72?77モル%となるように配合したもの、
(B)エステル化合物として、B1及びB8?14を用いたものである。

しかし、本件実施例及び比較例からみて、本件発明は、「(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部」含み、そして、「樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、ヘイズが5.0%以下であり、かつ、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下」という物性を有する「樹脂組成物」が、上記課題を解決するものと解することができる。
したがって、本件発明1?11は、本件発明の詳細な説明に記載したものといえる。
よって、申立ての理由1には理由がない。

3 申立ての理由2について
申立ての理由2に関し、申立人の主張は二つ存在するものと認められるため、それぞれについて以下のとおり検討する。

(1)申立人は、【0104】の記載について、以下のとおり主張する。
「1)用いた樹脂の混合比率、2)式(1)で表される構造単位の分子量、及び3)粘度平均分子量から、どのようにして上記構造単位の含有率を算出するのかは理解できず、当業者といえども上記構造単位の含有率を正確に算出することはできない。」(27頁20?23行)

この点に関し、上記第2で検討したとおり、【0104】は
「<ポリカーボネート樹脂のモル比率>
後述する表2、表3におけるモル比率(モル%)は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位の含有量を示す指標であり、用いた樹脂の混合比率および式(1)で表される構造単位の分子量を用いて算出した。」となった。
すなわち、「ポリカーボネート樹脂のモル比率」は「用いた樹脂の混合比率および式(1)で表される構造単位の分子量」から算出される。そして、この記載は、「モル比率」(モル分率)の算出において妥当である。

(2)また、申立人は、以下のとおり主張する。
「本件明細書の実施例・比較例からは、上記成分事項を満たせば必ず上記物性事項が達成されるとはいえず、さらに、本件明細書にも、上記成分事項をどのように調整すれば上記物性事項が達成できるのかについての一般的な教示はされていないので、当業者が上記物性事項を達成するためには過度の試行錯誤を要する。」(27頁末行?28頁4行)

この点に関し、本件発明は、「(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部」含み、そして、「樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、ヘイズが5.0%以下であり、かつ、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下」という物性を有する樹脂組成物に係るものである。そして、本件発明の詳細な説明は、実施例及び比較例を参照すれば、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。

(3)以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?11を実施しうる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
よって、申立ての理由2には理由がない。

4 申立ての理由3及び4について
(1)甲1の記載事項
ア「【請求項1】
下記一般式(1)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000?35,000のポリカーボネート樹脂(A)及び下記一般式(2)の構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000?28,000のポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有し、ASTM D2794に従って測定した25℃におけるデュポン衝撃強度が10J以上、JIS K5600に従って測定した鉛筆硬度がF以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】

(一般式(1)中、R^(1)はメチル基、R^(2)は水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化2】

を示し、R^(3)及びR^(4)は水素原子またはメチル基を示し、ZはCと結合して炭素数6?12の置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【化3】

(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【請求項2】
厚み2mmの成形品についてJIS K7136に従って測定したヘイズ値が2%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。

【請求項6】
さらに、離型剤として脂肪酸エステルを、前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.05?1量部含有することを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
離型剤が、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸ステアレート及びステアリン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載のポリカーボネート樹脂組成物。

【請求項9】
請求項1?8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる表示装置用部材または表示装置用カバー。
【請求項10】
請求項1?8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる保護具。
【請求項11】
請求項1?8のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる車載用部品。」

イ「【0007】
本発明者らは、それぞれ特定の構造単位と特定の分子量を有する2種のポリカーボネート樹脂を特定割合で含有し、特定のデュポン衝撃強度と硬度を有するポリカーボネート樹脂組成物が、高い表面硬度と耐衝撃性、さらに高度透明性を併せ有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及びこれを成形してなる以下の成形品を提供する。」

(2)甲1に記載された発明
請求項1又は2を引用する請求項6を、更に引用する請求項7、そして請求項7を引用する請求項9?11からみて、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
なお、請求項7の「ステアリン酸ステアレート」については、このような名称の化合物は存在しないが、その実施例として使用される「ユニスターM9676」(日油社製)がステアリン酸ステアリルである(当審注:https://www.nof.co.jp/business/oleo/pdf/comprehensive.pdf参照。)ことから、「ステアリン酸ステアリル」の誤記と認める。
また、請求項6の「0.05?1量部」は、「前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、」との文言を受けた表現であることに鑑みると、「0.05?1質量部」の誤記と認める。

甲1発明:
「下記一般式(1)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(A)及び下記一般式(2)の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(B)を、(A)/(B)の質量比で80/20?20/80の割合で含有し、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリン酸ステアリル及びステアリン酸モノグリセリドから選ばれる少なくとも1種である脂肪酸エステルを、前記ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.05?1質量部含有する、厚み2mmの成形品についてJIS K7136に従って測定したヘイズ値が2%以下である、ポリカーボネート樹脂組成物。」(当審注:一般式(1)及び(2)は省略。)

(3)対比・判断
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明とを対比すると、ポリカーボネート樹脂(A)は、一般式(1)で表される構造単位のみで構成されるものを包含するから、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。
相違点:本件発明1は、係る樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片が、「荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下」であるのに対し、甲1発明ではそのような特定はされていない点。

この相違点について検討する。
本件発明1と甲1発明とは、組成物の構成成分、及び各成分の構成比において一致するものである。
しかし、特許権者が令和2年3月13日提出した意見書において示した引用例1すなわち甲1の実施例1及び2の再現結果を参照すると、甲1発明の樹脂組成物は、必ずしも該組成物を用いて成形した厚み2mmの試験片が「荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下」という物性を有するとはいえない。
このため、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1ないし甲2に記載された技術的事項を勘案しても、甲1発明の樹脂組成物を用いて成形した厚み2mmの試験片に対して「荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下」という物性を有するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることということはできない。

イ 本件発明2?11
本件発明2?11は、本件発明1を直接的あるいは間接的に引用するものである。そうすると、本件発明1と同様、本件発明2?11は甲1発明であるとはいえず、本件発明2?11は甲1発明及び甲1ないし甲2に記載された技術的事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得ることということはできない。

(4)まとめ
したがって、本件発明1?11は、特許法第29条第1項ないし同第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、申立ての理由3及び4には理由がない。

5 まとめ
以上検討したとおり、申立人が主張する申立ての理由1?4には、いずれも理由がなく、これらの理由によって、本件発明1?11の特許を取り消すことはできない。

第5 令和2年1月9日付け取消理由について
当審は令和2年1月9日付け取消理由通知において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。
「A (新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
B (実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」

1 理由Aについて
理由Aは、上記第4で示した申立ての理由3と同旨である。そして、上記第4の4で示したとおりであるから、理由Aには理由がない。

2 理由Bについて
理由Bは、上記第4で示した申立ての理由2のうち、第4の3(1)で示した主張と同旨である。そして、第4の3(1)で示したとおりであるから、理由Bには理由がない。

3 まとめ
よって、令和2年1月9日付け取消理由A及びBには、いずれも理由がなく、これらの理由によって、本件発明1?11の特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
樹脂組成物および成形品
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、ポリカーボネート樹脂を用いた透明性および耐擦傷性等に優れ、表面硬度に優れた成形品を提供可能な樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気電子機器分野、自動車分野等の様々な分野において幅広く利用されている。近年、これらの分野においては、成形加工品の薄肉化、低コスト化、小型化、軽量化が進展し、成形素材のさらなる性能向上が要求され、いくつかの提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、所定の構造を有するポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、ポリエチレン系重合体を主鎖とし、ビニル系重合体セグメントを側鎖とするグラフト共重合体(B)0.1?12質量部を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。同文献には、前記ポリカーボネート樹脂組成物が爪での傷付き耐性に優れることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-110180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、ビスフェノールC由来の構造単位を含むポリカーボネート樹脂は、鉛筆硬度が高い傾向にあることが知られている。ここで、ビスフェノールC由来の構造単位を含むポリカーボネート樹脂から成形される成形品上に塗装等の処理(以下、「塗装レス」ということがある)を施さずに製品として使用する場合がある。しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、このような成形品は、鉛筆硬度が高いにもかかわらず、爪傷付き耐性にやや問題があることがわかった。上記特許文献1に記載の樹脂組成物は、爪傷付き耐性に優れた樹脂組成物であるが、同文献の実施例では漆黒性などを追及している。すなわち、透明性を求める用途については、新たな素材の開発が求められる。また、摩耗試験後にも、高い透明性を維持することが求められる。
さらに、ポリカーボネート樹脂に適切な添加剤を配合して、耐擦傷性に優れていても、特に、摩耗試験後の透明性を高く維持できても、添加剤の配合量が多いと押出性が劣ってしまう場合がある。
本発明は、上記課題を解決することを目的とするものであって、表面硬度に優れ、耐擦傷性に優れ、特に、摩耗試験後の透明性の維持率が高く、かつ、押出性に優れた樹脂組成物、および、前記樹脂組成物を用いた成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、所定のポリカーボネート樹脂にエステル化合物を配合し、さらに、所定のヘイズおよび動摩擦係数を所定の範囲とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>?<11>により、上記課題は解決された。
<1>(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部含む樹脂組成物であって、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構造単位中、下記式(1)で表される構造単位を50?100モル%含み、前記樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、ヘイズが5.0%以下であり、かつ、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下である樹脂組成物;
式(1)
【化1】

式(1)中、R^(1)はメチル基を表し、R^(2)は水素原子またはメチル基を表し、X^(1)は下記のいずれかの式を表し、
【化2】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
<2>前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、前記(B)エステル化合物を0.5?10.0質量部含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記(B)エステル化合物が、脂肪酸エステルである、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記(B)エステル化合物が、飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成されている、<1>?<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記(B)エステル化合物が、モノエステル化合物の少なくとも1種である、<1>?<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>(A)ポリカーボネート樹脂は、さらに、下記式(2)で表される構造単位を含む、<1>?<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物;
式(2)
【化3】

式(2)中、X^(2)は下記のいずれかの式を表し、
【化4】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
<7>前記(A)ポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、前記式(1)で表される構造単位を50?95モル%と、前記式(2)で表される構造単位50?5モル%を含む、<6>に記載の樹脂組成物。
<8>前記(A)ポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、前記式(1)で表される構造単位を60?90モル%と、前記式(2)で表される構造単位40?10モル%を含む、<6>に記載の樹脂組成物。
<9>前記樹脂組成物が無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下の割合で含む、<1>?<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、サラシを使用した初期往復摩耗試験前後のヘイズの差であるΔヘイズが3.00%以下である、<1>?<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>?<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成される成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、表面硬度に優れ、耐擦傷性に優れ、特に、摩耗試験後の透明性の維持率が高く、かつ、押出性に優れた樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた成形品が提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「?」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部含む樹脂組成物であって、前記(A)ポリカーボネート樹脂が、全構造単位中、下記式(1)で表される構造単位を50?100モル%含み、前記樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片は、ヘイズが5.0%以下であり、かつ、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下であることを特徴とする。
式(1)
【化5】

式(1)中、R^(1)はメチル基を表し、R^(2)は水素原子またはメチル基を表し、X^(1)は下記のいずれかの式を表し、
【化6】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
このような構成とすることにより、耐擦傷性に優れ、特に、摩耗試験後も高い透明性を高く維持でき、かつ、押出性に優れた樹脂組成物を提供可能になる。
以下、本発明の詳細について説明する。
【0010】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、式(1)で表される構造単位を50?100モル%の割合で含む。
式(1)
【化7】

式(1)中、R^(1)はメチル基を表し、R^(2)は水素原子またはメチル基を表し、X^(1)は下記のいずれかの式を表し、
【化8】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0011】
式(1)中の2つのR^(2)は、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、好ましくは同一である。R^(2)は水素原子であることが好ましい。
【0012】
式(1)中、X^(1)は、
【化9】

である場合、R^(3)およびR^(4)は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX^(1)が、
【化10】

の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6?12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(1)中、X^(1)は下記構造が好ましい。
【化11】

【0013】
本発明における(A)ポリカーボネート樹脂は、全構造単位中、式(1)で表される構造単位を、50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上含む。また、上限値は、100%以下であり、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは85モル%以下、一層好ましくは80モル%以下含む。
【0014】
本発明では、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構造単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
上記式(1)の好ましい構造単位の具体例としては、以下のi)?iv)が挙げられる。
i)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンから構成される構造単位、すなわち、R^(1)がメチル基、R^(2)が水素原子、X^(1)が-C(CH_(3))_(2)-である構造単位、
ii)2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンから構成される構造単位、すなわち、R^(1)がメチル基、R^(2)がメチル基、X^(1)が-C(CH_(3))_(2)-である構造単位、
iii)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンから構成される構造単位、すなわち、R^(1)がメチル基、R^(2)が水素原子、X^(1)がシクロヘキシリデン基である構造単位、
iv)2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)シクロドデカンから構成される構造単位、すなわち、R^(1)がメチル基、R^(2)が水素原子、X^(1)がシクロドデシリデン基である構造単位である。
これらの中で、上記i)、ii)およびiii)が好ましく、上記i)およびiii)がより好ましく、上記i)がさらに好ましい。
【0016】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位以外の他の構造単位を有していてもよい。他の構造単位としては、下記式(2)で表される構造単位が好ましい。
式(2)
【化12】

式(2)中、X^(2)は下記のいずれかの式を表し、
【化13】

R^(3)およびR^(4)は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6?12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
ZがCと結合して形成される脂環式炭化水素としては、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。ZがCと結合して形成される置換基を有する脂環式炭化水素としては、上述した脂環式炭化水素基のメチル置換体、エチル置換体などが挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0017】
式(2)のX^(2)の好ましい範囲は、式(1)のX^(1)の好ましい範囲と同義である。すなわち、式(2)中、X^(2)は下記構造が好ましい。
【化14】

R^(3)およびR^(4)は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
【0018】
上記式(2)で表される構造単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール-Aから構成される構造単位(カーボネート構造単位)である。
本発明では、式(2)で表される構造単位を、全構造単位中、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、一層好ましくは20モル%以上含む。また、式(2)で表される構造単位を、全構造単位中、50モル%以下含むことが好ましく、40モル%以下含むことがより好ましく、30モル%以下含むことがさらに好ましく、25モル%以下含むことが一層好ましい。
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構造単位を含まなくてもよいし、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される構造単位および式(2)で表される構造単位以外の他の構造単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のような芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる;
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’-ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-6-メチル-3-tert-ブチルフェニル)ブタン。
【0020】
また、他の構造単位の一実施形態として、WO2017/099226号パンフレットの段落0008に記載の式(1)で表される構造単位も例示され、さらに、WO2017/099226号パンフレットの段落0043?0052の記載も参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0021】
さらにまた、他の構造単位の他の一実施形態として、下記式(3)で表される構造単位も例示される。
【化15】

式(3)中、R^(15)?R^(18)は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1?9のアルキル基、炭素数6?12のアリール基、炭素数1?5のアルコキシ基、炭素数2?5のアルケニル基または炭素数7?17のアラルキル基を表す;n1、n2およびn3は、それぞれ独立に、0?4の整数を表す。
式(3)で表される構造単位の詳細は、特開2011-046769号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0022】
(A)ポリカーボネート樹脂は、上記式(1)で表される構造単位および式(2)で表される構造単位以外の構造単位の含有量は、全構造単位中、30モル%以下であるのが好ましく、より好ましくは20%モル以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、5モル%以下であってもよく、1モル%以下であってもよい。
【0023】
以下に、本発明における(A)ポリカーボネート樹脂の実施形態を述べる。
(1)全構造単位のうち、式(1)で表される構造単位を50?100モル%含むポリカーボネート樹脂
(2)全構造単位のうち、式(1)で表される構造単位を50?95モル%(好ましくは60?90モル%)と、式(1)で表される構造単位以外の構造単位(好ましくは式(2)で表される構造単位)を50?5モル%(好ましくは40?10モル%)を含むポリカーボネート樹脂
本発明で用いるポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構造単位以外の構造単位(好ましくは式(2)で表される構造単位)を含む場合、以下のブレンド形態が例示される。
・全構造単位の50モル%超(好ましくは、70モル%以上、95モル%以上)が式(1)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂(A1)と、全構造単位の95モル%超が式(2)で表される構造単位からなるポリカーボネート樹脂(A2)の混合物:
・式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位の合計が全構造単位の95モル%超を占める共重合ポリカーボネート樹脂(A3):
・上記ポリカーボネート樹脂(A1)と、上記ポリカーボネート樹脂(A2)と、上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の混合物:
・上記ポリカーボネート樹脂(A1)と上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の混合物;
・上記共重合ポリカーボネート樹脂(A3)と上記ポリカーボネート樹脂(A2)の混合物;
・上記のいずれかの態様において、ポリカーボネート樹脂(A1)、ポリカーボネート樹脂(A2)および共重合ポリカーボネート樹脂(A3)の少なくとも1つについて、2種以上含む混合物;
いずれの実施形態においても、(A)ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位を50モル%?100モル%の割合で含んでいればよく、さらには、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位が全構造単位中に、上述の好ましい範囲を満たす割合で含まれていることが好ましい。
【0024】
本発明において、上記に例示したブレンド形態において、特に(A1)ポリカーボネート樹脂と(A2)ポリカーボネート樹脂を含む形態が好ましい。(A1)ポリカーボネート樹脂と(A2)ポリカーボネート樹脂を含む場合、両者の混合比は、質量比で、50:50?95:5であることが好ましく、60:40?90:10であることがより好ましく、70:30?85:15であることがさらに好ましく、75:25?80:20であることが一層好ましい。本発明の樹脂組成物は、(A1)ポリカーボネート樹脂および(A2)ポリカーボネート樹脂を、それぞれ、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。このような構成とすることにより、鉛筆硬度をB?2Hとすることができる。
【0025】
本発明において、(A)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下限値が9,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、12,000以上であることがさらに好ましい。また、Mvの上限値は、32,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、28,000以下であることがさらに好ましい。
粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、成形性が向上し、かつ、機械的強度の大きい成形品が得られる。また、上記上限値以下とすることにより、成形品の流動性が向上し、薄肉の成形品なども効率的に製造することができる。
粘度平均分子量(Mv)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される(以下、Mvについて同じ)。2種以上の(A)ポリカーボネート樹脂を含む場合は、各ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量に質量分率をかけた値の合計とする。以下、粘度平均分子量について同様に考える。
【0026】
上記(A)ポリカーボネート樹脂は、ISO 15184に従って測定した鉛筆硬度が3B?2Hであることが例示され、B?2Hであることが好ましく、HB?2Hであることがより好ましい。鉛筆硬度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される(以下、鉛筆硬度について同じ)。2種以上の(A)ポリカーボネート樹脂を含む場合は、混合物の鉛筆硬度が上記範囲であることが好ましい。
【0027】
上記(A)ポリカーボネート樹脂を製造する方法は、特に限定されるものではなく、公知の任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法およびプレポリマーの固相エステル交換法を挙げることができる。これらの中でも、界面重合法および溶融エステル交換法が好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を組成物の80質量%以上の割合で含むことが好ましく、85質量%以上の割合で含むことがより好ましく、90質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、93質量%以上の割合で含むことが一層好ましい。(A)ポリカーボネート樹脂の上限は特に定めるものではないが、例えば、99.4質量%以下とすることができる。
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0029】
<(B)エステル化合物>
本発明の樹脂組成物は、(B)エステル化合物を含む。本発明で用いる(B)エステル化合物はアルコールとカルボン酸から構成されるものであり、その種類等は問わず、公知のエステル化合物から適宜選択することができる。
【0030】
本発明におけるエステル化合物の実施形態の一例として、例えば、脂肪酸エステルであり、より具体的には飽和直鎖カルボン酸と飽和直鎖アルコールから形成されているエステル化合物が例示される。以下、本発明のエステル化合物の好ましい実施形態について、具体的に説明するが、中でも、特にモノエステル化合物であるのが好ましい。
【0031】
本発明における(B)エステル化合物の第一の実施形態は、1価カルボン酸と1価アルコールとから形成される、エステル基の数が1つであるモノエステル化合物である。このようにエステル基の数を減らすことにより、得られる成形品の透明性をより向上させることができる。
【0032】
本発明で用いるモノエステル化合物は、水酸基価が100mgKOH/g以下および/または炭素数が42以上であることが好ましい。
水酸基価を低くすることにより、押出時にモノエステル化合物およびポリカーボネート樹脂が分解しにくくなり、成形時等のガスの発生を効果的に抑制できる。水酸基価は、より好ましくは、80mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下、一層好ましくは35mgKOH/g以下である。
水酸基価は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0033】
また、本発明においては、炭素数が所定の値以上のモノエステル化合物を用いることによって、押出および成形時のガスの発生を効果的に抑制可能となる。
モノエステル化合物の炭素数は、42以上であることが好ましく、44以上であることがより好ましい。モノエステル化合物の炭素数の上限は、特に定めるものではないが、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましい。(モノエステル化合物の炭素数は、一分子に含まれる炭素原子の合計数である。従って、モノエステル化合物が、1価カルボン酸と1価アルコールから形成される場合、1価カルボン酸と1価アルコールに含まれる合計炭素数がモノエステル化合物の炭素数となる。
また、モノエステル化合物を2種以上含む場合、炭素数は、各モノエステル化合物の炭素数に質量分率をかけた値の合計値とする。
【0034】
本発明で用いるモノエステル化合物の分子量は、2000以下であることが好ましく、1500以下であることがより好ましく、1200以下であることがさらに好ましい。このような構成とすることにより、高透明性と高爪傷付き耐性のバランスにより優れた成形品を得ることができる。構造等の詳細は詳述する。
【0035】
本発明で用いるモノエステル化合物は、直鎖構造であっても、枝分かれ構造であっても構わないが、好ましくは直鎖構造であって、両末端が炭素数15以上のアルキル基(好ましくは炭素数15?30のアルキル基)である。このような構成とすることにより、高透明性と高爪傷付き耐性のバランスにより優れた成形品を得やすくなる。
【0036】
次に、カルボン酸について説明する。
本発明では、カルボン酸は、1価カルボン酸であれば飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、芳香族カルボン酸、のいずれであってもよく、枝分かれ構造を有していてもよい。本発明におけるカルボン酸は、飽和脂肪酸であることが好ましく、特に直鎖飽和脂肪酸であることが好ましい。
また、カルボン酸は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。
さらに、カルボン酸は、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。カルボン酸の炭素数は、2?45であることが好ましく、10?40であることがより好ましく、15?36であることがさらに好ましく、20?30が特に好ましい。
カルボン酸(カッコ内の数字は炭素数)の具体例としては、ラウリン酸(飽和C12)、ミリスチン酸(飽和C14)、パルミチン酸(飽和C16)、ステアリン酸(飽和C18)、オレイン酸(不飽和C18)、リノール酸(不飽和C18)、アラキジン酸(飽和C20)、エイコセン酸(不飽和C20)、ベヘン酸(飽和C22)、エルカ酸(不飽和C22)、リグノセリシン酸(飽和C24)、セロチン酸(飽和C26)、モンタン酸(飽和C28)、メリシン酸(飽和C30)が例示される。
【0037】
次に、アルコールについて説明する。
本発明では、アルコールは、1価アルコールが好ましく、飽和アルコール、不飽和アルコール、芳香族アルコールのいずれであってもよく、枝分かれ構造を有していてもよい。本発明におけるアルコールは、飽和アルコールであることが好ましく、特に直鎖飽和アルコールであることが好ましい。
また、アルコールは、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。
さらに、アルコールは、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。
アルコールの炭素数は、2?45であることが好ましく、5?36であることがより好ましい。
アルコール(カッコ内の数字は炭素数)の具体例としては、オクタノール(飽和C8)、ドデカノール(飽和C12)、ステアリルアルコール(飽和C18)、オレイルアルコール(不飽和C18)、ベヘニルアルコール(飽和C22)、エルシルアルコール(不飽和C22)、およびモンタニルアルコール(飽和C28)が例示される。
【0038】
モノエステル化合物は、カルボン酸の炭素数とアルコールの炭素数の差が6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であってもよく、2以下であってもよく、炭素数差がない、すなわち炭素数が同じであってもよい。
【0039】
本発明で用いるモノエステル化合物(カッコ内は炭素数)の具体例としてはベヘニルベヘネート(C44)、モンタニルモンタネート(C56)、ステアリルモンタネート(C46)、モンタニルステアレート(C46)、ベヘニルモンタネート(C50)、モンタニルベヘネート(C50)、が例示され、特に、モンタニルモンタネート(C56)およびベヘニルベヘネート(C44)が好ましい。
【0040】
本発明で用いるモノエステル化合物は、炭素数の異なる複数の化合物の混合物であることが多いが、本発明においては、主成分(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)として含有するエステル化合物をさすこととする。
【0041】
本発明における(B)エステル化合物の第二の実施形態は、ジエステル化合物である。
本発明で用いるジエステル化合物は、多価カルボン酸と1価アルコール(好ましくは炭素数16以上の1価アルコール、より好ましくは炭素数16?50の1価アルコール)とから得られるジエステル化合物、多価アルコールと1価カルボン酸(好ましくは炭素数16以上の1価カルボン酸、より好ましくは炭素数16?50の1価カルボン酸)とから得られるジエステル化合物、または、その両方の混合物が好ましい。
本発明の樹脂組成物がこのようなジエステル化合物を含有することにより、ポリカーボネート樹脂の分解が抑制され、成形時等のガスの発生を効果的に抑制でき、さらにポリカーボネート樹脂との相溶性が優れる。このため、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期およびエタノールを浸み込ませたコットンにて拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた成形品を形成できる樹脂組成物とすることができる。
【0042】
前記ジエステル化合物は、2価カルボン酸と1価アルコールとからなるジエステル化合物、1価カルボン酸と2価アルコールとからなるジエステル化合物、またはその混合物が好ましい。前記1価カルボン酸および前記1価アルコールは、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造および/または芳香族構造を含んでいてもよく、それぞれ、脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。前記1価カルボン酸および前記1価アルコールは、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。
1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、炭素数16以上であり、さらには、炭素数18以上、炭素数20以上であってもよい。また、1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、炭素数の上限は50以下が好ましく、40以下がより好ましく、32以下がさらに好ましく、30以下が一層好ましく、28以下であってもよい。
前記2価カルボン酸および前記2価アルコールは、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造および/または芳香族構造を含んでいてもよく、それぞれ、脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。
前記2価カルボン酸および前記2価アルコールは、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。前記2価カルボン酸および前記2価アルコールの炭素数は、それぞれ、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましく、6以上であることが一層好ましい。また、前記2価カルボン酸および前記2価アルコールの炭素数は、それぞれ、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0043】
特に、本発明で用いるジエステル化合物は、炭素数3?10の2価カルボン酸と炭素数16?40の1価アルコールとから得られるジエステル化合物、または炭素数3?10の2価アルコールと炭素数16?40の1価カルボン酸ととから得られるジエステル化合物、またはその混合物であることが好ましく、炭素数3?10の2価カルボン酸と炭素数16?30の1価アルコールとから得られるジエステル化合物、または炭素数3?10の2価アルコールと炭素数16?30の1価カルボン酸ととから得られるジエステル化合物、またはその混合物であることがより好ましく、炭素数3?10の2価カルボン酸と炭素数16?30の1価アルコールとから得られるジエステル化合物またはその混合物であることがさらに好ましい。
さらに、本発明で用いる2価カルボン酸と1価アルコールとからなるジエステル化合物は、1価アルコールの炭素数が、2価カルボン酸の炭素数よりも、10以上大きいことが好ましく、10?20大きいことがより好ましい。あるいは、本発明で用いる1価カルボン酸と2価アルコールとからなるジエステル化合物は、2価アルコールの炭素数が、1価カルボン酸の炭素数よりも、10以上大きいことが好ましく、10?20大きいことがより好ましい。このような構成とすることにより、押出時や成形時にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性がより向上する傾向にある。
【0044】
1価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ベヘン酸(22)、リグノセリシン酸(24)、セロチン酸(26)、モンタン酸(28)、メリシン酸(30)などが挙げられる。
【0045】
1価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ステアリルアルコール(18)、ベヘニルアルコール(22)およびモンタニルアルコール(28)等が挙げられる。
【0046】
2価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、シュウ酸(2)、マロン酸(3)、コハク酸(4)、グルタル酸(5)、アジピン酸(6)、ピメリン酸(7)、スベリン酸(8)、アゼライン酸(9)、セバシン酸(10)、フタル酸(8)、イソフタル酸(8)、テレフタル酸(8)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(8)、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸(8)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸(8)等が挙げられる。
【0047】
2価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、エチレングリコール(2)、プロピレングリコール(3)、テトラメチレングリコール(4)、ジエチレングリコール(4)、1,4-ベンゼンジメタノール(8)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(8)等が挙げられる。
【0048】
前記ジエステル化合物の水酸基価は、100mgKOH/g以下であることが好ましく、70mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが一層好ましい。前記ジエステル化合物の水酸基価の下限値は、特に定めるものではないが、例えば、1mgKOH/g以上である。ジエステル化合物の水酸基価を100mgKOH/g以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の分解の促進を効果的に抑制し、押出時や成形時等にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性が向上する傾向にあり、好ましい。
この態様によれば、本発明の組成物から得られた成形品は、エタノールを浸み込ませたコットンにて拭き取り後の爪傷付き耐性にも優れる。
【0049】
本発明で用いるジエステル化合物は、炭素数の異なる複数の化合物の混合物であることが多いが、本発明においては、主成分(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)として含有するエステル化合物をさすこととする。
また分子量は、2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましく、1400以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが一層好ましく、900以下であることがより一層好ましい。下限は、200以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。ジエステル化合物の分子量が上記範囲であれば、高い透明性と高い爪傷付き耐性のバランスに優れた成形品を得ることができる。なお、エステル化合物が混合物である場合、数平均分子量とする。
本発明で用いるジエステル化合物は、炭素数の異なる複数の化合物の混合物であることが多いが、本発明においては、主成分(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)として含有するエステル化合物をさすこととする。
【0050】
本発明におけるエステル化合物の第三の実施形態は、トリエステル化合物である。
本発明で用いるトリエステル化合物は、多価カルボン酸と炭素数20以上(好ましくは炭素数20?50)の1価アルコールとから得られるエステル化合物、多価アルコールと炭素数20以上(好ましくは炭素数20?50)の1価カルボン酸とから得られるエステル化合物、または、その両方の混合物であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物がこのようなトリエステル化合物を含有することにより、ポリカーボネート樹脂の分解が抑制され、成形時等のガスの発生を効果的に抑制でき、さらにポリカーボネート樹脂との相溶性が優れる。このため、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期および溶媒拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた成形品を形成できる樹脂組成物とすることができる。
【0051】
前記トリエステル化合物は、3価カルボン酸と1価アルコールとからなるトリエステル化合物、1価カルボン酸と3価アルコールとからなるトリエステル化合物、またはその混合物が好ましい。
前記1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造および芳香族構造の少なくとも1つを含んでいてもよく、それぞれ脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。前記1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。
1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、炭素数20以上であり、炭素数21以上であることが好ましく、また、炭素数の上限は50以下が好ましく、40以下がより好ましく、32以下がさらに好ましく、30以下が一層好ましい。
前記3価カルボン酸および前記3価アルコールは、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造および芳香族構造の少なくとも1つを含んでいてもよく、それぞれ、脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。
前記3価カルボン酸及び前記3価アルコールは、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。前記3価カルボン酸及び前記3価アルコールの炭素数は、それぞれ、3以上であることが好ましい。また、前記3価カルボン酸及び前記3価アルコールの炭素数は、それぞれ、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0052】
特に、本発明で用いるトリエステル化合物は、炭素数3?10の3価カルボン酸と炭素数20?40の1価アルコールとから得られるトリエステル化合物、炭素数3?10の3価アルコールと炭素数20?40の1価カルボン酸ととから得られるトリエステル化合物、または、それらの2種以上の混合物であることが好ましく、炭素数3?10の3価カルボン酸と炭素数20?30の1価アルコールとから得られるトリエステル化合物、炭素数3?10の3価アルコールと炭素数20?30の1価カルボン酸とから得られるトリエステル化合物、または、それらの2種以上の混合物であることがより好ましく、炭素数3?10の3価アルコールと炭素数20?30の1価カルボン酸とから得られるトリエステル化合物または、それらの2種以上の混合物であることがさらに好ましい。
さらに、本発明で用いる3価アルコールと1価カルボン酸とからなるトリエステル化合物は、1価カルボン酸の炭素数が、3価アルコールの炭素数よりも、10以上大きいことが好ましく、10?20大きいことがより好ましい。このような構成とすることにより、押出時や成形時にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性がより向上する傾向にある。
【0053】
炭素数20以上の1価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ベヘン酸(22)、リグノセリシン酸(24)、セロチン酸(26)、モンタン酸(28)、メリシン酸(30)などが挙げられる。
【0054】
炭素数20以上の1価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ベヘニルアルコール(22)およびモンタニルアルコール(28)等が挙げられる。
【0055】
3価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、トリカルバリル酸(6)、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸(9)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(9)、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(9)、5-メチル-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(10)、1,2,3-シクロヘキサントリカルボン酸(9)、1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸(9)、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸(9)等が挙げられる。
【0056】
3価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、グリセリン(3)、トリメチロールプロパン(6)、トリメチロールエタン(5)、トリエチロールエタン(8)、1,2,4-ブタントリオール(4)、ヒドロキシキノール(6)、フロログルシノール(6)、ピロガノール(6)、1,2,4-シクロヘキサントリオール(6)等が挙げられる。
【0057】
前記トリエステル化合物の水酸基価は、100mgKOH/g以下であることが好ましく、70mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが一層好ましい。前記トリエステル化合物の水酸基価の下限値は、特に定めるものではないが、例えば、1mgKOH/g以上である。トリエステル化合物の水酸基価を100mgKOH/g以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の分解の促進を効果的に抑制し、押出時や成形時等にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性が向上する傾向にあり、好ましい。
この態様によれば、本発明の組成物から得られた成形品は、エタノールを浸み込ませたコットンにて拭き取り後の爪傷付き耐性にも優れる。
【0058】
本発明で用いるトリエステル化合物の分子量は、2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましく、1400以下であることがさらに好ましい。下限は、1000以上であることが好ましい。トリエステル化合物の分子量が上記範囲であれば、高い透明性と高い爪傷付き耐性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【0059】
本発明で用いるトリエステル化合物は、炭素数の異なる複数の化合物の混合物であることが多いが、本発明においては、主成分(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)として含有するエステル化合物をさすこととする。
【0060】
本発明における(B)エステル化合物の第四の実施形態は、テトラエステル化合物である。
本発明で用いるテトラエステル化合物は、多価カルボン酸と炭素数20以上(好ましくは炭素数20?50)の1価アルコールとから得られるエステル化合物、多価アルコールと炭素数20以上(好ましくは炭素数20?50)の1価カルボン酸とから得られるエステル化合物、または、その両方の混合物であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物がこのようなテトラエステル化合物を含有することにより、ポリカーボネート樹脂の分解が抑制され、成形時等のガスの発生を効果的に抑制でき、さらにポリカーボネート樹脂との相溶性が優れる。このため、押出性に優れ、透明性が高く、かつ、初期およびエタノールを浸み込ませたコットンにて拭き取り後の爪傷付き耐性に優れた成形品を形成できる樹脂組成物とすることができる。
【0061】
前記テトラエステル化合物は、4価カルボン酸と1価アルコールとからなるテトラエステル化合物、1価カルボン酸由来と4価アルコールとからなるテトラエステル化合物、またはその混合物が好ましい。
前記1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造および芳香族構造の少なくとも1つを含んでいてもよく、それぞれ、脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。前記1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。
1価アルコールおよび1価カルボン酸は、それぞれ、炭素数20以上であり、炭素数21以上であることが好ましく、また、炭素数の上限は50以下が好ましく、40以下がより好ましく、32以下がさらに好ましく、30以下が一層好ましい。
前記4価カルボン酸および前記4価アルコールは、それぞれ、脂肪族構造、脂環式構造、および、芳香族構造の少なくとも1つを含んでいてもよく、それぞれ、脂肪族構造および/または脂環式構造を含むことが好ましい。
前記4価カルボン酸および前記4価アルコールは、それぞれ、直鎖または分岐の脂肪族構造あるいは脂環式構造と、カルボキシル基または水酸基とから構成されることが好ましい。前記4価カルボン酸および前記4価アルコールの炭素数は、それぞれ、3以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上である。また、前記4価カルボン酸および前記4価アルコールの炭素数は、それぞれ、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0062】
特に、本発明で用いるテトラエステル化合物は、炭素数3?10の4価カルボン酸と炭素数20?40の1価アルコールとから得られるテトラエステル化合物、または炭素数3?10の4価アルコールと炭素数20?40の1価カルボン酸ととから得られるテトラエステル化合物、またはその混合物であることが好ましく、炭素数3?10の4価カルボン酸と炭素数20?30の1価アルコールとから得られるテトラエステル化合物、または炭素数3?10の4価アルコールと炭素数20?30の1価カルボン酸とから得られるテトラエステル化合物、またはその混合物であることがより好ましく、炭素数3?10の4価アルコールと炭素数20?30の1価カルボン酸とから得られるテトラエステル化合物またはその混合物であることがさらに好ましい。
さらに、本発明で用いる4価アルコールと1価カルボン酸とからなるテトラエステル化合物は、1価カルボン酸の炭素数が、4価アルコールの炭素数よりも、10以上大きいことが好ましく、10?20大きいことがより好ましい。このような構成とすることにより、押出時や成形時にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性がより向上する傾向にある。
上記4価のカルボン酸は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。カルボン酸は、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。
【0063】
炭素数20以上の1価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ベヘン酸(22)、リグノセリシン酸(24)、セロチン酸(26)、モンタン酸(28)、メリシン酸(30)などが挙げられる。
【0064】
炭素数20以上の1価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、ベヘニルアルコール(22)およびモンタニルアルコール(28)等が挙げられる。
【0065】
4価カルボン酸(カッコ内は炭素数)の具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸(10)、1,2,3,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸(10)、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(10)、1,2,3,5-ベンゼンテトラカルボン酸(10)等が挙げられる。
【0066】
4価アルコール(カッコ内は炭素数)の具体例としては、エリトリトール(4)、ペンタエリトリトール(5)、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラオール(6)、1,2,3,5-シクロヘキサンテトラオール(6)、1,2,4,5-ベンゼンテトラオール(6)、1,2,3,5-ベンゼンテトラオール(6)等が挙げられる。
【0067】
本発明で用いるテトラエステル化合物は、下記式(B1)で表される部分構造を含むことが好ましい。
式(B1)
【化16】

上記式中、波線は結合手を表す。
【0068】
なかでも、本発明で用いるテトラエステル化合物は、下記式(B10)で表される化合物であることが好ましい。
式(B10)
【化17】

【0069】
上記式中、RB^(1)?RB^(4)は、それぞれ独立して炭素数1以上の脂肪族炭化水素基を表し、RB^(1)?RB^(4)の少なくとも一つが炭素数20以上の脂肪族炭化水素基を表す。RB^(1)?RB^(4)が表す脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。RB^(1)?RB^(4)が表す脂肪族炭化水素基の炭素数は、2以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、20以上であることが特に好ましい。上限は、45以下が好ましく、40以下がより好ましく、36以下が更に好ましい。RB^(1)?RB^(4)が表す脂肪族炭化水素基の炭素数は、それぞれ独立して20以上であることが好ましい。
【0070】
本発明で用いるテトラエステル化合物は、炭素数の異なる複数の化合物の混合物であることが多いが、本発明においては、主成分(好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上)として含有するエステル化合物をさすこととする。
【0071】
前記テトラエステル化合物の水酸基価は、100mgKOH/g以下であることが好ましく、70mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることがさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが一層好ましい。前記テトラエステル化合物の水酸基価の下限値は、特に定めるものではないが、例えば、1mgKOH/g以上である。テトラエステル化合物の水酸基価を100mgKOH/g以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の分解の促進を効果的に抑制し、押出時や成形時等にガスが発生しにくくなり、成形品の外観や物性が向上する傾向にあり、好ましい。
この態様によれば、本発明の組成物から得られた成形品は、エタノールを浸み込ませたコットンにて拭き取り後の爪傷付き耐性にも優れる。
【0072】
本発明で用いるテトラエステル化合物の分子量は、2200以下であることが好ましく、2000以下であることがより好ましく、1800以下であることがさらに好ましい。下限は、1400以上であることが好ましい。テトラエステル化合物の分子量が上記範囲であれば、高透明性と高爪傷付き耐性のバランスにより優れた成形品を得ることができる。
【0073】
本発明で用いるテトラエステル化合物においては、上記エステル構造を構成するカルボン酸は、置換基を有していてもよいし有していなくてもよいが、有していない方が好ましい。置換基を有さない方が得られる成形品の透明性がより向上する傾向にある。カルボン酸は、酸素原子、炭素原子、水素原子のみから構成されることが好ましい。
【0074】
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B)エステル化合物を0.4?10.0質量部含む。
前記(B)エステル化合物の配合量の下限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることがさらに好ましく、1.0質量部以上であることが一層好ましく、1.5質量部以上であることがより一層好ましく、1.8質量部以上であることが特に一層好ましく、さらには、2.0質量部以上であるのが好ましいく、2.0質量部超、2.2質量部以上であってもよい上記範囲とすることにより、爪傷付き耐性をより向上させることができる。
前記(B)エステル化合物の配合量の上限値は、(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、9.0質量部以下であることが好ましく、8.0質量部以下であることがより好ましく、7.0質量部以下であることがさらに好ましく、6.0質量部以下であることが一層好ましく、5.0質量部以下であることがより一層好ましく、4.0質量部以下、3.5質量部以下、3.2質量部以下であってもよい。好ましい範囲とすることにより、耐加水分解性が向上し、金型汚染をより効果的に抑制できる。本発明では、(B)エステル化合物の配合量が少なくても、爪傷付き耐性に優れる構成とできる。
本発明の樹脂組成物は、(B)エステル化合物を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0075】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、上記したポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂(例えば、アクリル樹脂等)、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、また、無機充填材を含まないことが好ましいが、無機充填材を含んでいてもよい。無機充填材を含むことにより、得られる成形品の機械的強度をより向上させることができる。本発明の樹脂組成物の一実施形態として、無機充填材を含まないか、前記(A)ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、無機充填材を8質量部以下(好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下)の割合で含む樹脂組成物が例示される。無機充填材を含まないか、上記配合量の範囲とすることにより、得られる成形品の透明性をより向上させることができる。無機充填材としては、特開2017-110180号公報の段落0075?0079の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
樹脂添加剤としては、例えば、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。
【0076】
<<アクリル樹脂>>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、他の熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含んでいてもよい。アクリル樹脂は、好ましくは、下記式(X)で表される構造単位を有するアクリル樹脂である。
式(X)
【化18】

式(X)中、R^(6)、R^(7)およびR^(8)は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1?20の炭化水素基を表し、R^(9)は置換基を有していてもよい炭素数6?20の芳香族炭化水素基、または、置換基を有していてもよい炭素数6?17の芳香族炭化水素基で置換された炭素数1?3の脂肪族炭化水素基を表す。
【0077】
本発明で用いられるアクリル樹脂は、上述の他、WO2014/038500号公報、WO2013/094898号公報、特開2006-199774号公報、特開2010-116501号公報に記載のものを採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
アクリル樹脂を配合する場合、配合量は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の1?30質量%の範囲であることが好ましく、1?10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0078】
<<安定剤>>
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
熱安定剤としては、リン系安定剤が好ましく用いられる。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0079】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標。以下同じ)1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP-10」、城北化学工業社製「JP-351」、「JP-360」、「JP-3CP」、BASF社製「イルガフォス(登録商標。以下同じ)168」等が挙げられる。
【0080】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0081】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0082】
本発明の樹脂組成物における安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
【0083】
<<紫外線吸収剤>>
紫外線吸収剤としては、特開2016-216534号公報の段落0059?0062の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0084】
<<帯電防止剤>>
帯電防止剤としては、特開2016-216534号公報の段落0063?0067の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0085】
<<難燃剤>>
難燃剤としては、特開2016-216534号公報の段落0068?0075の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0086】
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、低いヘイズを達成できる。本発明の樹脂組成物を2mm厚さに成形した成形品のヘイズは5.0%以下であり、さらには3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.4%以下とすることもできる。ヘイズの下限値としては、0%が理想であるが、0.01%以上、さらには0.07%以上でも実用レベルである。ヘイズの測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
【0087】
本発明の樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片(好ましくは長さ150mm×幅100mm×厚み2mmの試験片)は、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.35以下であり、0.34以下であることが好ましく、0.30以下であることがより好ましく、0.29以下であることがさらに好ましく、0.28以下であることがさらに好ましい。動摩擦係数の下限値としては、0が理想であるが、0.01以上、さらには0.10以上でも実用レベルである。動摩擦係数の測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
【0088】
本発明の樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片(好ましくは長さ150mm×幅100mm×厚み2mmの試験片)は、サラシ(綿100%、20×20番手)を使用した初期往復摩耗試験前後のヘイズの差であるΔヘイズが3.00%以下であり、2.90%以下であることが好ましく、2.80%以下であることがより好ましく、2.70%以下であることがさらに好ましく、2.60%以下であることが一層好ましい。初期往復摩耗試験前のΔヘイズの下限値としては、0%が理想であるが、0.01%以上、さらには0.07%以上でも実用レベルである。
初期往復摩耗試験前後のΔヘイズの測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
【0089】
本発明の樹脂組成物から形成される厚み2mmの試験片(好ましくは長さ150mm×幅100mm×厚み2mmの試験片)の、溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズの値と上記の初期往復摩耗試験前後のΔヘイズの値の差(溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズ-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズ)が、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることがさらに好ましく、1.5以下であることが一層好ましく、1.0以下であることがより一層好ましい。上記溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズ-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズの下限値は、0%が理想であるが、0.01%以上、さらには0.07%以上でも実用レベルである。
上記溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズ-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズは、後述する実施例の記載に従う。
【0090】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記ポリカーボネート樹脂およびエステル化合物、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240?320℃の範囲である。
【0091】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物から成形される。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。中でも、フィルム状、枠状、パネル状のものが好ましく、厚さは例えば、枠状、パネル状の場合、1mm?5mm程度である。
【0092】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本発明の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本発明の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0093】
本発明の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、電気電子機器、OA機器、情報端末機器および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)に用いられ、中でも車輌内装部品が好適である。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0095】
1.原料
<製造例1:ポリカーボネート樹脂A1の製造>
ビスフェノールC(BPC)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および留出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs_(2)CO_(3))を、BPC1モルに対し1.5×10^(-6)モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを留出させた。
次に、反応器内の温度を60分かけて284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の撹拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、撹拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂A1のペレットを得た。
【0096】
<製造例2:アジピン酸ジベヘニルの合成>
アジピン酸ジエチル(東京化成工業(株)製、40.0g)、ベヘニルアルコール(東京化成工業(株)製、129g)およびオルトチタン酸テトラブチル(東京化成工業(株)製)の5質量%トルエン溶液(2.64mL)を混合し、窒素雰囲気下220℃で3時間、次いで6kPaまで減圧して220℃で2時間加熱し、生成するエタノールを留去しながら反応させた。反応後、トルエン(300mL)に希釈し、クエン酸水素二ナトリウム1.5水和物(富士フイルム和光純薬(株)製)の1質量%水溶液(150g)で洗浄した後、水(150g)で2回洗浄した。得られた油層を、セライトを通してろ過し残留不溶分を取り除いた後、減圧下で溶媒を留去した。残渣にクロロホルム(300mL)およびトルエン(150mL)の溶液を加え再結晶後、残留溶媒を減圧下にて留去することでアジピン酸ジベヘニル(130g)の白色粉末を得た。
【0097】
<製造例3:p-シクロヘキサンジカルボン酸ジベヘニルの合成>
p-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(東京化成工業(株)製、40.0g)、ベヘニルアルコール(東京化成工業(株)製、131g)およびオルトチタン酸テトラブチル(東京化成工業(株)製)の5質量%トルエン溶液(2.60mL)を混合し、窒素雰囲気下220℃で3時間、次いで6kPaまで減圧して220℃で2時間加熱し、生成するメタノールを留去しながら反応させた。反応後、トルエン(280mL)に希釈し、クエン酸水素二ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)1.5水和物の1質量%水溶液(140g)で洗浄した後、水(140g)で2回洗浄した。得られた油層を、セライトを通してろ過し残留不溶分を取り除いた後、減圧下で溶媒を留去した。残渣にアセトン(480mL)およびトルエン(160mL)の溶液を加え再結晶後、残留溶媒を減圧下にて留去することでp-シクロヘキサンジカルボン酸ジベヘニル(136g)の白色粉末を得た。
【0098】
<製造例4:トリメリット酸トリベヘニルの合成>
トリメリット酸トリメチル(東京化成工業(株)製、32.0g)、ベヘニルアルコール(東京化成工業(株)製、124g)およびオルトチタン酸テトラブチル(東京化成工業(株)製)の5質量%トルエン溶液(2.40mL)を混合し、窒素雰囲気下220℃で3時間、次いで6kPaまで減圧して220℃で2時間加熱し、生成するメタノールを留去しながら反応させた。反応後、トルエン(280mL)に希釈し、クエン酸水素二ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)1.5水和物の1質量%水溶液(140g)で洗浄した後、水(140g)で2回洗浄した。得られた油層をセライトを通してろ過し残留不溶分を取り除いた後、減圧下で溶媒を留去した。残渣にクロロホルム(140mL)およびトルエン(140mL)の溶液を加え再結晶後、残留溶媒を減圧下にて留去することでトリメリット酸トリベヘニル(103g)の白色粉末を得た。
【0099】
本発明の樹脂組成物の製造には、下記表1に示す材料を用いた。
【表1】

【0100】
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の測定>
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度(η)(単位:dL/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出した。
η=1.23×10^(-4)Mv^(0.83)
【0101】
<ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度の測定>
ポリカーボネート樹脂ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製「α-2000i-150B」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度70℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)を作製した。この平板状試験片について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機(株)製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0102】
<エステル化合物の水酸基価の測定>
水酸基価は試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、エステル化合物の原料であるアルコールがカルボン酸化合物とエステル化したときに、未反応で残った水酸基の数を示す指標である。
水酸基価は、JIS K 0070に規定された方法に従って測定した。
【0103】
2.実施例1?実施例18、比較例1?比較例12
<樹脂組成物ペレットの製造>
上記表1に記載した各成分を、下記の表2、3に示す割合(全て質量部にて表示)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α)を用いて、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数180rpm、吐出量30kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練して樹脂組成物ペレットを得た。ただし、比較例6と比較例8は押出ができなかった。
【0104】
<ポリカーボネート樹脂のモル比率>
後述する表2、表3におけるモル比率(モル%)は、樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構造単位の含有量を示す指標であり、用いた樹脂の混合比率および式(1)で表される構造単位の分子量を用いて算出した。
【0105】
<押出可否>
上記樹脂組成物ペレットの製造において、押出の可否を目視により確認し、以下の通り評価した。
a:押出可能
b:押出不安定
c:押出不可能(ポリカーボネート樹脂が分解)
【0106】
<押出ガス発生量>
上記樹脂組成物ペレットの製造において、比較例1で発生したガス量を基準として、それと同等もしくは同等以下の発生量の時をガス発生量標準(a)と評価し、基準量と比較した押出ガス発生量を目視により以下の通り評価した。
a:ガス発生量標準
b:やや多い
c:多い
【0107】
<押出性総合評価>
上記押出可否とガス発生量の結果に基づき、以下の通り評価した。
A:押出可否とガス発生量の両方がaである。
B:上記Aおよび下記C以外である。
C:押出可否とガス発生量の少なくとも一方がcである。
【0108】
<成形体としての評価用試験片の製造>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製「α-2000i-150B」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度70℃、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、150mm×100mm×2mm厚の平板状試験片を射出成形した。
【0109】
<ヘイズ(Haze)の測定>
上記で得られた平板状試験片について、ヘイズメーターを用いてヘイズ(単位:%)を測定した。
ヘイズメーターは、日本電色工業(株)製のNDH-2000型ヘイズメーターを用いた。
【0110】
<樹脂組成物の鉛筆硬度の測定>
上記で得られた平板状試験片について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、1kg荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
鉛筆硬度試験機は、東洋精機製作所社製を用いた。
【0111】
<動摩擦係数(30N)>
上記で得られた平板状試験片について、ISO 19252に準拠し、スクラッチテスターを用いて、1mmφの球状の端子にて、試験速度100mm/秒、試験距離100mmの間を垂直荷重1Nから50Nまで可変させながら走査し、荷重30Nの地点にて、水平荷重と垂直荷重を測定し、動摩擦係数(水平荷重/垂直荷重)を求め、以下の通り評価した。動摩擦係数は小さい方が好ましい。
スクラッチテスターは、カトーテック(株)製のものを用いた。
a:0.30以下
b:0.30超0.35以下
c:0.35超
【0112】
<爪傷付き耐性>
上記で得られた平板状試験片について、爪で10往復こすり、官能評価を行った。
a:傷が付かず、滑りがよい。
b:少し傷は付くが滑りはよい。
c:dより傷は少ないが、傷つく。
d:傷つく。
【0113】
<初期往復摩耗試験前後のΔヘイズ>
上記で得られた平板状試験片について、上記と同様にヘイズを測定した(この時のヘイズをヘイズaとする)。
一方、上記で得られた同様の平板状試験片について、平面摩耗試験機を用い、サラシ(15cm×33cmにカットした、綿100%、20×20番手のサラシ)を18重に畳み、平面摩耗試験機の治具に取り付け、往復サイクル40回/分、荷重1kg、往復回数500回にて、試験した。往復摩耗試験後の平板状試験片について、上記と同様にヘイズを測定した(この時のヘイズをヘイズbとする)。「ヘイズb-ヘイズa」を初期往復摩耗試験前後のΔヘイズとし、以下の区分に従って評価した。
平面摩耗試験機は、大栄科学精機製作所製を用いた。
サラシは、南海(株)製のサラシを用いた。
a:2.00%以下
b:2.00%超3.00%以下
c:3.00%超
【0114】
<溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズ-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズ>
上記で得られた平板状試験片表面を、エタノールを浸み込ませたガーゼで拭き取った後、上記と同様にヘイズを測定した(この時のヘイズをヘイズcとする)。
次いで、上記と同様、平面摩耗試験機を用い、サラシ(15cm×33cmにカットした、綿100%、20×20番手のサラシ)を18重に畳み、平面摩耗試験機の治具に取り付け、往復サイクル40回/分、荷重1kg、往復回数500回にて、試験した。往復摩耗試験後の平板状試験片について、上記と同様にヘイズを測定した(この時のヘイズをヘイズdとする)。「ヘイズd-ヘイズc-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズ」を、「溶媒拭き取り後の往復摩耗試験前後のΔヘイズ-初期往復摩耗試験前後のΔヘイズ」とした。
平面摩耗試験機は、大栄科学精機製作所製を用いた。
サラシは、南海(株)製のサラシを用いた。
【0115】
<ヘイズ、押出性総合評価、爪傷付き耐性、動摩擦係数および初期往復摩耗試験前後のヘイズの低下率(対比)の総合評価>
上記ヘイズ、押出性総合評価、爪傷付き耐性、動摩擦係数および往復摩耗試験前後のヘイズの低下率(対比)の結果に基づき、以下の通り評価した。
A:ヘイズが5.0%以下で、かついずれの評価もaまたはAである。
B:上記Aおよび下記C以外である。
C:ヘイズが5.0%以上または、少なくとも1つの評価がc、d、CまたはDである。
【0116】
結果を下記表2、3に示す。
【0117】
【表2】

【表3】

【0118】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、耐擦傷性に優れ、特に、摩耗試験前後の透明性の維持率が高く、かつ、押出性に優れていた(実施例1?実施例18)。
これに対し、ヘイズが低くても、動摩擦係数が高い場合やエステル化合物の配合量が少ない場合、摩耗試験前後のヘイズが格段に低下し、耐擦傷性が劣っていた(比較例1、4、5、9?11)。
比較例2、3、7、12は、そもそものヘイズが非常に高かったため、初期往復摩耗試験前後のΔヘイズの低下率は測定しなかった。
また、エステル化合物の配合量が多い場合(比較例6、8)、押出ができなかった。また、比較例6、8は押出できなかったため、鉛筆硬度やヘイズ等を測定しなかった。
式(1)で表される構造単位を含まない場合、鉛筆硬度が低かった(比較例4、比較例9?11)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-23 
出願番号 特願2018-194540(P2018-194540)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 今井 督佐々木 道子  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 橋本 栄和
大熊 幸治
登録日 2019-04-12 
登録番号 特許第6511187号(P6511187)
権利者 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
発明の名称 樹脂組成物および成形品  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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