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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1364919
異議申立番号 異議2019-700811  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-09 
確定日 2020-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6498991号発明「粘着シートおよび表示体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6498991号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。 特許第6498991号の請求項8ないし13に係る特許を維持する。 特許第6498991号の請求項1?7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6498991号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年3月31日に出願され、平成31年3月22日にその特許権の設定登録がされ、同年4月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年10月9日に特許異議申立人高橋麻衣子(以下、「申立人A」という。)は特許異議の申立てを行い、同月10日に特許異議申立人八代瑞子(以下、「申立人B」という。)は特許異議の申立てを行い、当審は、令和元年11月28日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、令和2年2月3日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その訂正の請求に対して、申立人A及び申立人Bに期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、申立人Bは同年3月19日に意見書を提出し、申立人Aは応答しなかった。

第2 訂正の可否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の訂正事項1?13のとおりである。なお、訂正前の請求項1?8は、請求項2?8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1?8について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記位置の表示構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示構成部材が、プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる保護板であり、
前記他の表示構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と、
紫外線吸収剤(C)と
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなり、
前記粘着剤層のヘイズ値が、2%以下であり、
前記粘着剤層の波長360nmの光線透過率が、1%以下であり、
前記粘着剤層の厚さが50?175μmである
ことを特徴とする表示体。」と訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9?13も同様に訂正する)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「前記紫外線吸収剤(C)は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の表示体。」と記載し、新たに請求項9とする。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、
「前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-50?0℃であることを特徴とする請求項8または9に記載の表示体。」と記載し、新たに請求項10とする。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項4を引用するものについて、独立形式に改め、
「前記粘着剤層中における前記紫外線吸収剤(C)の含有量をX質量%、前記粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の式(I)が成立することを特徴とする請求項8?10のいずれか一項に記載の表示体。50≦X×Y≦500 …(I)」と記載し、新たに請求項11とする。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項5を引用するものについて、独立形式に改め、
「前記粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される透過色相b*は、-2.0?2.0であることを特徴とする請求項8?11のいずれか一項に記載の表示体。」と記載し、新たに請求項12とする。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項8に
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記粘着剤層は、請求項1?7のいずれか一項に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。」
とあるうち、請求項6を引用するものについて、独立形式に改め、
「前記粘着シートを段差付ガラス板に貼付し、85℃、85%RHの湿熱条件下にて72時間保管する耐久試験を行ったときに、下記式で表される前記粘着剤層の段差追従率が、20%以上であることを特徴とする請求項8?12のいずれか一項に記載の表示体。
段差追従率(%)={(耐久試験後、隙間や気泡無く埋められた状態が維持された段差の高さ)/(粘着剤層の厚み)}×100」と記載し、新たに請求項13とする。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、請求項5を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、請求項6を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、請求項7を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項2?7を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であり、さらに、本件明細書の【0086】の「第1の表示体構成部材21は、ガラス板、プラスチック板等の他、それらを含む積層体などからなる保護板であることが好ましい。」という記載に基づき、「一の表示体構成部材」について、「プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる保護板」であることを限定し、同【0090】の「第2の表示体構成部材22は、第1の表示体構成部材21に貼付されるべき光学部材、表示体モジュール(例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等)、表示体モジュールの一部としての光学部材、または表示体モジュールを含む積層体であることが好ましい。」という記載に基づき、「他の表示体構成部材」について、「表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体」であることを限定し、さらに同【0068】の「本実施形態に係る粘着シートの粘着剤層の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)は、10?1000μmであることが好ましく、30?400μmであることがより好ましく、特に50?300μmであることが好ましい。」との記載、及び、同【0137】【表1】の実施例6の粘着剤層の厚さ「175μm」という記載に基づき、「粘着剤層の厚さ」について「50?175μm」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもあって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。さらに、請求項8を引用する請求項9?13も同様に訂正するものである。
(9)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項1及び3?7を引用しないものとした上で、請求項2を引用するものについて新たに請求項9とするための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、訂正事項9は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(10)訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項1?2及び4?7を引用しないものとした上で、請求項3を引用するものについて新たに請求項10とするための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、訂正事項10は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(11)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項1?3及び5?7を引用しないものとした上で、請求項4を引用するものについて新たに請求項11するための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、訂正事項11は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(12)訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項1?4、6及び7を引用しないものとした上で、請求項5を引用するものについて新たに請求項12とするための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、訂正事項12は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(13)訂正事項13について
訂正事項13は、訂正前の請求項8が請求項1?7の記載を引用する記載であるところ、請求項1?5及び7を引用しないものとした上で、請求項6を引用するものについて新たに請求項13とするための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、さらに、訂正前の請求項6では、訂正前の請求項1にあった「粘着剤層を有する粘着シート」を引用して「前記粘着シート」としていたが、訂正後の請求項8には「粘着シート」は存在せず、「粘着剤層」が存在するため、請求項13において「粘着シート」をそのまま引用したのでは不明瞭になってしまうため、「粘着シート」ではなく「粘着剤層」を引用するように、訂正前の請求項6における「前記粘着シート」を「前記粘着剤層」と訂正するものであり、「明瞭でない記載の釈明」をも目的とし、訂正事項13は、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(14)小括
上記のとおり、訂正事項1?13に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?13〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項8?13に係る発明(以下、「本件発明8」?「本件発明13」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項8?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(上記第2のとおり請求項1?7は削除された。)。
「【請求項8】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材が、プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる保護板であり、
前記他の表示体構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と、
紫外線吸収剤(C)と
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなり、
前記粘着剤層のヘイズ値が、2%以下であり、
前記粘着剤層の波長360nmの光線透過率が、1%以下であり、
前記粘着剤層の厚さが50?175μmである
ことを特徴とする表示体。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤(C)は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の表示体。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-50?0℃であることを特徴とする請求項8または9に記載の表示体。
【請求項11】
前記粘着剤層中における前記紫外線吸収剤(C)の含有量をX質量%、前記粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の式(I)が成立することを特徴とする請求項8?10のいずれか一項に記載の表示体。50≦X×Y≦500 …(I)
【請求項12】
前記粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される透過色相b*は、-2.0?2.0であることを特徴とする請求項8?11のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項13】
前記粘着シートを段差付ガラス板に貼付し、85℃、85%RHの湿熱条件下にて72時間保管する耐久試験を行ったときに、下記式で表される前記粘着剤層の段差追従率が、20%以上であることを特徴とする請求項8?12のいずれか一項に記載の表示体。
段差追従率(%)={(耐久試験後、隙間や気泡無く埋められた状態が維持された段差の高さ)/(粘着剤層の厚み)}×100」

第4 取消理由の概要
1 訂正前の請求項1?8に係る特許に対して、当審が令和元年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由1(新規性)
本件発明1?8は、下記の引用例1、2に記載された発明であり、本件発明1、2、5?8は、下記の引用例3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、請求項1?8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)理由2(進歩性)
本件発明1?8は、下記の引用例1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)理由3(実施可能要件)
本件は、発明の詳細な説明の記載について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る特許は、取り消されるべきものである。
(4)理由4(明確性要件)
本件は、特許請求の範囲の請求項1?8の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1?8に係る特許は、取り消されるべきものである。」

2 理由1、2において引用された証拠は次のとおりである。
(1)引用例1:特開2012-211305号公報(申立人Aが提出した甲第1号証)
(2)引用例2:特開2012-207055号公報(申立人Bが提出した甲第1号証)
(3)引用例3:特開2013-227436号公報(申立人Bが提出した甲第2号証)
(4)引用例4:特開2013-75978号公報(申立人Bが提出した甲第5号証)
(5)参考例:「実験成績証明書」(申立人Aが提出した甲第2号証)

第5 取消理由通知に記載した取消理由の理由1、2についての当審の判断
1 引用例の記載
(1)引用例1
摘記1a:
「【請求項1】
画像表示装置における表面保護パネルと液晶モジュールの視認側との間に配設して、2つの部材を一体化させるための両面粘着シートであって、少なくとも1層の紫外線吸収層を有し、波長380nmの光線透過率が30%以下であり、かつ波長430nmよりも長波長側における可視光透過率が80%以上であることを特徴とする画像表示装置用透明両面粘着シート。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
紫外線吸収層が、紫外線吸収剤を含有する粘着剤組成物から形成されてなる層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示装置用透明両面粘着シート。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
粘着剤層又は紫外線吸収層が、アクリル系粘着剤を含有することを特徴とする請求項2?6の何れかに記載の画像表示装置用透明両面粘着シート。
【請求項8】
請求項1?7の何れかに記載の画像表示装置用透明両面粘着シートが、表面保護パネルと液晶モジュールの視認側との間に配設されてなる構成を備えた画像表示装置。」
摘記1b:
「【0017】
<第1の実施形態>
第1の実施形態にかかる本粘着シートは、紫外線吸収剤を含有する粘着剤組成物から形成された紫外線吸収層1を有する両面粘着シートである。つまり、紫外線吸収型の透明両面粘着シートであり、当該紫外線吸収層1が単独で両面粘着シートとしての機能を果たすものである。なお、第1の実施形態にかかる本粘着シートは、図1に示すように、紫外線吸収層1のみからなる単層シートでもよいし、また、紫外線吸収層1の片面ないし両面に、さらに粘着剤層を適宜設けた構成とすることもできるし、紫外線吸収層1を複数積層させた構成とすることもできる。
【0018】
(紫外線吸収剤)
前記紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらは単独あるいは2種類以上を併用して用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0020】
第1の実施形態にかかる本粘着シートは、少なくとも1層の紫外線吸収層1を有し、波長380nmの光線透過率が30%以下であり、かつ波長430nmよりも長波長側における可視光透過率が80%以上であるという分光特性を要する。このような分光特性を有する紫外線吸収層を形成するためには、例えば上記紫外線吸収剤の配合量が下記の範囲となるように調整すればよい。すなわち、前記紫外線吸収剤を紫外線吸収層1に内添する場合、紫外線吸収剤の含有量は、紫外線吸収層1を形成する樹脂全質量のうち0.1質量%?20質量%であるのが好ましい。20質量%以下であれば、紫外線吸収剤自体の着色による外観不良や添加剤の析出や浮出、隣接層や被着体へのブリードアウトによる粘着特性の低下が生じる虞が少ない。また、0.1質量%以上であれば、所定の外線吸収性を付与することが容易となり、被着体を紫外線から保護する機能に劣るなどの虞がない。
このように、紫外線吸収層1における紫外線吸収剤の含有量を上記範囲にすることで優れた紫外線吸収性能と粘着特性とを両立することができる。
【0021】
このような分光特性を有する紫外線吸収層1を備えることで、本粘着シートは、視認側から入射する紫外線を遮断し、部材保護に寄与するとともに、液晶側からの可視光を十分に透過し視認性を確保することができる。
【0022】
(粘着剤)
第1の実施形態において、前記粘着剤組成物、すなわち紫外線吸収剤を配合する粘着剤組成物としては、例えばゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、エポキシ系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤などを挙げることができる。これらの中でも、紫外線硬化型や熱硬化型のアクリル系粘着剤が好ましく、特に熱硬化型のアクリル系粘着剤が、紫外線吸収剤の影響を受けることなく、粘着特性を調整することができる点で好ましい。
【0023】
該アクリル系粘着剤としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体(共重合体を含む意で、以下「アクリル酸エステル系(共)重合体」と称する。)をベース樹脂として用いた粘着剤組成物(以下、「本粘着剤組成物」と称する。)から形成されたものを挙げることができる。
【0024】
ベース樹脂としてのアクリル酸エステル系(共)重合体は、これを重合するために用いるアクリルモノマーやメタクリルモノマーの種類、組成比率、さらには重合条件等を適宜選択することによって、ガラス転移温度(Tg)や分子量等の物性を適宜調整して調製することが可能である。
・・・(中略)・・・
【0026】
(架橋方法)
アクリル酸エステル系(共)重合体を架橋する際には、アクリル酸エステル(共)重合体中に導入した水酸基やカルボン酸基等の反応性基と化学結合しうる架橋剤を添加し、加熱や養生により反応させる方法や、架橋剤としての(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレートおよび光重合開始剤等の反応開始剤を添加し、紫外線照射等によって架橋する方法が挙げられる。
【0027】
(熱架橋剤)
熱架橋剤としては、他とエヴァイソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0045】
<画像表示装置>
本発明の画像表示装置(以下、「本画像表示装置」と称する。)は、2つの画像表示装置構成用部材が、本粘着シートを介して一体化した構成を備えるものである。
画像表示装置用構成部材としては、例えば、周縁部に枠状隠蔽印刷部が形成された構成を有する保護パネルなどの画像表示装置用構成部材を挙げることができる。またそのほかにも、タッチパネル機能が一体化したタッチオンレンズ方式の表面保護パネルを使用することができる。
他方、これと貼合する画像表示装置用構成部材としては、例えば、タッチパネル、画像表示パネルなどを挙げることができる。
前記画像表示パネルとしては、液晶層がガラス基板によっては挟持された構成を有する液晶パネルのほか、表面反射による画質の低下を防ぐために、液晶パネルの視認側に偏光フィルムが積層された構成を有するものなどを挙げることができる。また、前記画像表示パネル内に、タッチパネルを組み込んだオンセル型のほか、液晶の画素の中にタッチセンサ機能を組み込んだインセル型の画像表示パネルなどを用いることもできる。」
摘記1c:
「【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
2-エチルヘキシルアクリレート(Tg-70℃)62質量部と、酢酸ビニル(Tg32℃)36質量部と、アクリル酸(Tg106℃)2質量部とをランダム共重合してなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=60万)100質量部に、紫外線吸収剤として2‐[4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル]‐5‐(ヘキシルオキシ)フェノール1質量部と、架橋剤として、イソシアヌレートを用いてイソホロンジイソシアネートを3量体化し、メチルエチルケトンオキシム(ブロック剤)で保護した3官能イソシアネート架橋剤50質量部とを混合して粘着剤組成物を調製した。前記粘着剤組成物を80℃で溶融し、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製「MRF75」厚み75μm)の剥離処理した側に、アプリケータを用いて250μmとなるよう賦型した後、110℃に加熱してブロック剤を脱保護して架橋反応を進行させて紫外線吸収層を形成した。次に、表面を剥離処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(パナック社製;商品名「NP50Z01」、厚み50μm)の剥離処理した側を、前記紫外線吸収層に重ねて被覆し、温度25℃湿度40%で1週間養生させて両面粘着シート1を作製した。
・・・(中略)・・・
【0059】
<評価>
実施例・比較例で得た両面粘着シートについて、以下に示す試験を行い、評価した。評価結果は表1に示した。
【0060】
(分光透過率)
実施例・比較例で作製した両面粘着シートを2枚のソーダライムガラス(厚み0.5mm)に挟み込むように貼着して試験片を作製した。作製した試験片の波長域200?800nmにおける光線透過率を分光光度計(島津製作所株式会社製;機器名「UV2450」)を用いて測定した。
・・・(中略)・・・
【0063】
【表1】



(2)引用例2
摘記2a:
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ディスプレイパネル等に用いられる光学用箔状粘着剤および光学用粘着シートに関するものである。
・・・(中略)・・・
【0005】
紫外線吸収剤を含有する粘着剤層は、外光が入射してくる表示面とカラーフィルターや蛍光色素等との間に位置して紫外線を吸収し、カラーフィルターや蛍光色素等の劣化を抑制する。この紫外線吸収性能が350nm以下の領域の光線透過率で10%以下であれば、カラーフィルターや蛍光色素等の劣化を抑制することができる。
【0006】
上記のような性能を有する紫外線吸収剤としては、一般的に、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系などの紫外線吸収剤が用いられる(特許文献1?3)。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の紫外線吸収剤は全て水酸基を有するものである。そのため、当該紫外線吸収剤がイソシアネート系架橋剤と共存すると、紫外線吸収剤の水酸基と架橋剤のイソシアネート基とが反応し、粘着剤の水酸基と架橋剤のイソシアネート基との反応が阻害される。これにより、粘着剤の架橋度合、すなわちゲル分率が、紫外線吸収剤を添加していない粘着剤と比較して低下する。紫外線吸収剤は、その用いられる用途等によって、添加する量は幅広く変化するので、それが粘着剤のゲル分率をどの程度低下させるのかを予測することは困難であった。そのため、特性が既知の、紫外線吸収剤を含有しない粘着剤に、紫外線吸収剤を添加しただけでは、ゲル分率の低下により所望の特性の粘着剤が得られないことがあった。具体的には、ゲル分率の低下により、粘着力、保持力、タック等の粘着物性がばらついたり、耐久試験において発泡等の問題が発生することがあった。
・・・(中略)・・・
【0077】
本実施形態に係る光学用箔状粘着剤は、23℃における貯蔵弾性率(G’)が0.05?0.25MPaであることが好ましく、特に0.10?0.15MPaであることが好ましい。この貯蔵弾性率(G’)が0.05MPa以上であれば、外部から衝撃を受けても粘着剤が変形し難く、打痕が付き難い。また、貯蔵弾性率(G’)が0.25MPa以下であれば、印刷や凹凸等の段差、あるいは金属メッシュへ等の追従性が良好となり、気泡残りも防止することができる。なお、上記貯蔵弾性率(G’)は、後述するねじり剪断法により測定した値である

・・・(中略)・・・
【0094】
本実施形態に係る粘着シート1A,1Bは、光学用として、特にプラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイ等の光学ディスプレイパネル用として好適に使用することができる。例えば、粘着シート1Bをガラス基板と所望のフィルム(例えば、所望の機能を有する層が形成されたPETフィルム)との接着に使用する場合は、粘着シート1Bから一方の剥離シート12a(軽剥離タイプ)を剥離して露出した粘着剤層11と、フィルムとを貼合し、次いで他方の剥離シート12b(重剥離タイプ)を剥離して露出した粘着剤層11と、ガラス基板とを貼合する。」
摘記2b:
「【実施例】
【0098】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。なお、各成分の配合量は、全て固形分換算値で示す。
【0099】
〔実施例1〕
アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)およびアクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEA)をBA/MA/HEA/DMAEA=66.5/30/3/0.5の質量比で共重合して得られたアクリル酸エステル系共重合体(重量平均分子量:75万)100質量部(固形分換算,以下同じ)と、キシレンジイソシアネート系架橋剤(綜研化学社製,TD-75)3.75質量部と、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレートからなる紫外線吸収剤(シプロ化社製,SEESORB 501)10質量部とを混合し、次いでメチルエチルケトンにて希釈して、不揮発分濃度25質量%の粘着剤塗布液を調製した。
【0100】
上記粘着剤塗布液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン樹脂で剥離処理した剥離フィルム(リンテック社製,SP-PET382150,厚さ:38μm)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにナイフコーターを用いて塗布し、90℃で60秒間乾燥し、粘着剤層を形成した。
【0101】
次いで、上記粘着剤層を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン樹脂で剥離処理した剥離フィルム(リンテック社製,SP-PET381031H)の剥離処理面に貼合し、23℃、50%RH(相対湿度)の条件下で7日間養生して、これをサンプル(1)(剥離フィルム/粘着剤/剥離フィルム)とした。また、上記粘着剤層を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績社製,PET100A4300)に貼合し、これをサンプル(2)(PETフィルム/粘着剤/剥離フィルム)とした。
・・・(中略)・・・
【0107】
〔比較例3〕
紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,TINUVIN 109)を使用する以外、実施例1と同様にしてサンプル(1)および(2)を作製した。
・・・(中略)・・・
【0114】
〔試験例4〕(光線透過率測定)
実施例または比較例で得られたサンプル(2)から剥離フィルムを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付した。この積層体について、分光光度計(SHIMADZU社製,UV-VIS-NIR SPECTROPHOTOMETER UV-3600)を使用して、350nmの波長の光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
表1から、実施例の粘着剤は、良好な貯蔵弾性率および優れた紫外線吸収性を有するとともに、紫外線吸収剤の添加による架橋の阻害が抑制されていることが分かった。一方、比較例1の粘着剤は、紫外線吸収性が殆どなく、また比較例2?4の粘着剤は、紫外線吸収剤の添加による架橋の阻害が顕著であった。」

(3)引用例3
摘記3a:
「【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂組成物、アクリル系粘着剤、粘着シート、両面粘着シート、透明電極用粘着剤、タッチパネル、画像表示装置、粘着剤層含有積層体の製造方法に関するものであり、詳しくは厚塗り塗工に適し、段差追従性にも優れた活性エネルギー線硬化型の溶剤型アクリル系粘着剤に用いられるアクリル系樹脂組成物に関するものである。
・・・(中略)・・・
【0012】
また、近年、様々な分野で、液晶ディスプレイ(LCD)などの表示装置や、タッチパネルなどの前記表示装置と組み合わせて用いられる入力装置が広く用いられるようになってきており、これらの製造においては、光学部材を貼り合わせる用途に透明な粘着シートが使用されている。
例えば、タッチパネルと各種表示装置や光学部材(保護板等)の貼付に透明な両面粘着シートが使用されているが、上記タッチパネル等の中には、印刷段差等の段差を有する部材を含むものが増えてきており、かかる用途においては、粘着シートには、部材を貼付固定する性能と同時に印刷段差を埋める性能、即ち、優れた段差追従性が要求されている。
【0013】
そこで、本発明ではこのような背景下において、厚塗り塗工が可能であり、綺麗な塗膜表面の粘着剤層を得ることが可能であり、段差追従性にも優れた活性エネルギー線硬化タイプの溶剤系アクリル系粘着剤の製造に用いられるアクリル系樹脂組成物の提供を目的とする。」
摘記3b:
「【0042】
更に、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、-80?10℃、特には-60?-20℃、更には-55?-45℃であることが好ましく、ガラス転移温度が高すぎるとタックが不足する傾向があり、低すぎると耐熱性に低下する傾向がある。実施例範囲外。
・・・(中略)・・・
【0087】
かかる硬化・架橋方法としては、[α]活性エネルギー線および/または熱により硬化する方法、[β]活性エネルギー線および/または熱により硬化する方法と架橋剤を用いて架橋する方法とを組み合わせる方法、等が挙げられる。
・・・(中略)・・・
【0089】
また、上記[β]で架橋剤を用いて架橋する際には、アクリル系樹脂組成物に架橋剤(F)を含有させることで架橋反応を行なうことができる。なお、架橋剤(F)を用いる場合には、アクリル系樹脂(A)は官能基を有するものであることが好ましく、この官能基と架橋剤が反応することにより架橋(硬化)が行なわれる。
・・・(中略)・・・
【0107】
上記架橋剤(F)は、主としてアクリル系樹脂(A)の構成モノマーである官能基含有モノマー(a2)由来の官能基と反応することで、優れた粘着力を発揮するものであり、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、アミン系架橋剤、金属キレート系架橋剤が挙げられる。これらの中でも、基材との密着性を向上させる点やアクリル系樹脂(A)との反応性の点で、イソシアネート系架橋剤が好適に用いられる。
・・・(中略)・・・
【0117】
また、アクリル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、シランカップリング剤、帯電防止剤、その他のアクリル系粘着剤、その他の粘着剤、ウレタン樹脂、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル、フェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂等の粘着付与剤、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、機能性色素等の従来公知の添加剤や、紫外線あるいは放射線照射により呈色あるいは変色を起こすような化合物を配合することができるが、これら添加剤の配合量は、組成物全体の30重量%以下であることが好ましく、特に好ましくは20重量%以下であり、添加剤として分子量が1万よりも低い低分子成分は極力含まないことが耐久性に優れる点で好ましい。」
摘記3c:
「【実施例】
【0155】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
・・・(中略)・・・
【0158】
〔アクリル系樹脂(A)溶液(有機溶媒(B)を含む)の調製〕(表1参照。)
【0159】
[アクリル系樹脂(A-1)]
還流冷却器、撹拌器、窒素ガスの吹き込み口及び温度計を備えた4ツ口丸底フラスコに、2-エチルヘキシルアクリレート(a1)70部、2-ヒドロキシエチルアクリレート(a2)30部及び酢酸エチル80部仕込み、加熱還流開始後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1部を加え、酢酸エチル還流温度で3時間反応後、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1部、酢酸エチル20部を加え、更に4時間反応し、酢酸エチルにて希釈してアクリル系樹脂(A-1)溶液(重量平均分子量75万、分散度3.8、ガラス転移温度-56℃、固形分50%、粘度15,000mPa・s(25℃))を得た。
・・・(中略)・・・
【0163】
[有機溶剤(B)]
有機溶剤(B)として、以下のものを用意した。
・B-1:酢酸エチル(引火点:-3℃)
・B-2:酢酸メチルセルソルブ(引火点:51℃)
・・・(中略)・・・
【0165】
[エチレン性不飽和化合物(C)]
・(C-1):イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業製「ISTA」);引火点154℃;分子量324:ホモポリマーのガラス転移温度:-18℃
・(C-2):トリデシルアクリレート(サートマー製「SR489D」);引火点154℃;分子量254:ホモポリマーのガラス転移温度:-54℃
・(C-3):イソミリスチルアクリレート(共栄社化学製、「ライトアクリレートIM-A」);引火点129℃;分子量282:ホモポリマーのガラス転移温度:-55℃
・(C’-1):2-エチルヘキシルアクリレート;引火点86℃;分子量184:ホモポリマーのガラス転移温度:-70℃
・(C’-2):フェノキシジエチレングリコールアクリレート(共栄社化学製、「ライトアクリレートP2HA」);引火点165℃;分子量236:ホモポリマーのガラス転移温度:-8℃
・(C’-3):ブトキシメチルアクリルアミド(笠野興産製「NBM-3」);引火点112℃;分子量157:ホモポリマーのガラス転移温度:0℃
・(C’-4):シクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業製「FA-512AS」);引火点132℃;分子量248:ホモポリマーのガラス転移温度:10℃
・(C’-5):ブチルアクリレート;引火点40℃;分子量128:ホモポリマーのガラス転移温度:-54℃
・・・(中略)・・・
【0167】
[光重合開始剤(E)]
E-1:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの1:1の混合物(チバジャパン社製、「イルガキュア500」)
【0168】
[架橋剤(F)]
F-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物の55%酢酸エチル溶液(日本ポリウレタン社製、「コロネートL-55E」)
【0169】
〔実施例1?5、比較例1?5、8、9〕
上記のようにして調製,準備した各配合成分を、下記の表2、3に示す割合で配合することによりアクリル系樹脂組成物溶液を調製した。
【0170】
そして、上記で得られたアクリル系樹脂組成物溶液を、ポリエステル系離型シートに、乾燥後の厚みが200μmとなるように塗布し、100℃で5分間乾燥し、粘着剤組成物層を形成させた。粘着剤組成物層を形成させる際の塗工適正を下記の通り評価した。
・・・(中略)・・・
【0175】
実施例1?5、および比較例1?4、7?9では、得られた粘着剤組成物層をポリエステル系離型シートではさみ、高圧水銀UV照射装置にてピーク照度:150mW/cm^(2),積算露光量:1000mJ/cm^(2)で紫外線照射を行ない(500mJ/cm^(2)×2パス)、23℃×65%R.H.の条件下で10日間エージングさせて基材レス両面粘着シートを得た。
・・・(中略)・・・
【0188】
なお、ガラス板のみについて、上記全光線透過率、ヘイズ、色差b値を測定した際の値は、全光線透過率93%、ヘイズ0.1%、色差b値0.2であった。
【0189】
[耐湿熱性]
上記粘着層付きPETフィルムを25mm×25mmになるよう裁断し、離型シートを剥離して、粘着剤層側をスライドガラス(コーニング社製、コーニング1737)に貼り合わせた後、オートクレーブ処理(50℃、0.5MPa、20分)を行ない、「スライドガラス/粘着剤層/PETフィルム」の構成を有する試験片を作製した。
該試験片を用いて、80℃、90%RH雰囲気下で120時間の耐湿熱性試験をおこない、耐湿熱性試験後のヘイズ値を測定し、下記の基準で評価した。なお、ヘイズ値は、拡散透過率及び全光線透過率を、HAZE MATER NDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、得られた拡散透過率と全光線透過率の値を下記式に代入して、ヘイズを算出した。
なお、本機はJIS K7361-1に準拠している。ヘイズ値(%)=(拡散透過率/全光線透過率)×100
(評価)
○・・・耐湿熱性試験後のヘイズ値が2未満
△・・・耐湿熱性試験直後のヘイズ値が2以上3未満
×・・・耐湿熱性試験直後のヘイズ値が3以上
【表2】

表中(A)?(F)内の( )内の数字は、重量部を表す。」

(4)引用例4
摘記4a:
「【請求項1】
全光線透過率が85%以上であり、
波長380nmの光の透過率が5%以下であり、
ヘイズが3%以下であることを特徴とする粘着シート。
【請求項2】
アクリル系ポリマー及びトリアジン系紫外線吸収剤を含有する粘着剤層を有する請求項1記載の粘着シート。」
摘記4b:
「【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、表示装置や入力装置において、光学フィルムを使用しなかったり、その使用量が少なかったりする場合がある。かかる場合において、光学特性を保持したままで、タッチパネルや表示素子等に対してより優れた紫外線カット性を有する表示装置や入力装置が要望されている。
そこで、本発明の目的は、光学フィルムの使用量の少ない場合や、光学フィルムを使用しない場合であっても、光学特性を保持したままで、タッチパネルや表示素子等に対して優れた紫外線カット性を有する表示装置や入力装置を実現することである。
・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0018】
本発明の粘着シートは、上記構成を有するため、タッチパネルや表示素子等に貼付することによって、光学フィルムの使用量の少ない場合や、光学フィルムを使用しない場合であっても、光学特性を保持したままで、タッチパネルや表示素子等に対して優れた紫外線カット性(UVカット性)を有する表示装置や入力装置を実現できる。
・・・(中略)・・・
【0032】
本発明の粘着剤層のヘイズは、3%以下であり、好ましくは1.5%以下である。上記ヘイズは、例えば、ヘイズメーターを用い、JIS K 7136に準じて測定することができる。
・・・(中略)・・・
【0034】
特に、本発明の粘着剤層では、波長330?380nmの全領域の光の透過率が、5%以下であることが好ましく、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。上記波長330?380nmの全領域の光の透過率は、例えば、ヘイズメーターを用い、JIS K 7361-1に準じて測定することができる。
【0035】
本発明の粘着剤層のb^(*)値は、特に限定されないが、0?2.0が好ましく、より好ましくは0?1.5である。本発明の粘着剤層のb^(*)値が2.0以下であると、本発明の粘着シートが用いられた製品(特に後述の光学製品)の外観に悪影響を及ぼしにくくなり、好ましい。なお、b^(*)値は、L^(*)a^(*)b^(*)表色系のb^(*)値であり、JIS Z 8729に準拠し、例えば、簡易型分光色差計(商品名「DOT-3C」、株式会社村上色彩技術研究所製)により測定することができる。
・・・(中略)・・・
【0081】
(架橋剤)
上記粘着剤層(特に、本発明のアクリル系粘着剤層)は、また、被着体に対して十分な接着信頼性を得る点から、架橋剤を含有していてもよい。例えば、本発明のアクリル系粘着剤層におけるアクリル系ポリマーを架橋し、ゲル分率をコントロールすることができる。なお、架橋剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0082】
上記架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン系架橋剤などが挙げられる。中でも、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤が好ましく、より好ましくはイソシアネート系架橋剤である。
・・・(中略)・・・
【0114】
本発明の粘着シートは、上記の特性を有するので、光学用途に用いられることが好ましい。すなわち、本発明の粘着シートは、光学用粘着シートであることが好ましい。より具体的には、例えば、光学部材を貼り合わせる用途(光学部材貼り合わせ用途)や上記光学部材が用いられた製品(光学製品)の製造用途などに用いられる光学用粘着シートである。
・・・(中略)・・・
【0117】
上記光学部材とは、光学的特性(例えば、偏光性、光屈折性、光散乱性、光反射性、光透過性、光吸収性、光回折性、旋光性、視認性など)を有する部材をいう。上記光学部材としては、光学的特性を有する部材であれば特に限定されないが、例えば、表示装置(画像表示装置)、入力装置等の機器(光学機器)を構成する部材又はこれらの機器に用いられる部材が挙げられ、例えば、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電フィルム(ITOフィルム)、意匠フィルム、装飾フィルム、表面保護板、プリズム、レンズ、カラーフィルター、透明基板や、さらにはこれらが積層されている部材(これらを総称して「機能性フィルム」と称する場合がある)などが挙げられる。なお、上記の「板」及び「フィルム」は、それぞれ板状、フィルム状、シート状等の形態を含むものとし、例えば、「偏光フィルム」は、「偏光板」、「偏光シート」を含むものとする。
【0118】
上記光学部材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、金属薄膜などからなる部材(例えば、シート状やフィルム状、板状の部材など)などが挙げられる。なお、本発明における「光学部材」には、上記の通り、被着体である表示装置や入力装置の視認性を保ちながら加飾や保護の役割を担う部材(意匠フィルム、装飾フィルムや表面保護フィルム等)も含むものとする。」
摘記4c:
「【実施例】
【0119】以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0120】
実施例1
モノマー成分として、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA):63重量部、メタクリル酸メチル(MMA):9重量部、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP):15重量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA):13重量部、及び重合溶媒として酢酸エチル:175重量部を、セパラブルフラスコに投入し、窒素ガスを導入しながら1時間攪拌した。このようにして重合系内の酸素を除去した後、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル:0.2重量部を加え、63℃に昇温して10時間反応させた。その後、酢酸エチルを加え、固形分濃度36重量%のアクリル系ポリマー溶液を得た。なお、上記アクリル系ポリマー溶液におけるアクリル系ポリマーの重量平均分子量は、85万であった。
【0121】
次に、上記アクリル系ポリマー溶液に、上記アクリル系ポリマー:100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤(商品名「タケネート D110N」、三井化学株式会社製、有効成分量75%):0.528重量部、シランカップリング剤(商品名「KBM403」、信越化学工業株式会社製、有効成分量100%):0.054重量部、紫外線吸収剤(商品名「Tinuvin 477」、BASF社製、有効成分量80%、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤):2.700重量部、光安定剤(商品名「Tinuvin 123」、BASF社製、有効成分量100%):0.360重量部を加えて混合し、アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0122】
次に、上記アクリル系粘着剤組成物を、表面が剥離処理されたポリエチレンテレフタレートセパレーター(PETセパレーター)(商品名「MRF75」、三菱樹脂株式会社製)の剥離処理面上に、乾燥後の厚みが50μmとなるように塗布し、60℃で1分間の加熱乾燥および140℃で1分間の加熱乾燥を行い、さらに、23℃で120時間エージングを行って、粘着シート(アクリル系粘着剤層/剥離フィルムの構成を有する基材レス粘着シート)を得た。
・・・(中略)・・・
【0125】
(1)ヘイズ 粘着シートの粘着剤層表面を、スライドガラス(商品名「MICRO SLIDE GLASS」、品番「S」、松浪硝子株式会社製、厚さ1.3mm、全光線透過率91.8%、ヘイズ0.1%、水縁磨)に貼り付け、温度23℃、湿度50%RHの環境下で30分間放置して、放置後剥離フィルムを取り除き、試験片とした。 上記試験片のヘイズを、23℃、50%RHの環境下において、ヘイズメーター(商品名「HM-50」、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。 ヘイズの測定は、JIS K 7136に準じて行った。
【0126】
(2)全光線透過率(波長400?780nmの光(可視光)の透過率)、波長380nmの光の透過率 粘着シートの粘着剤層表面を、スライドガラス(商品名「MICRO SLIDE GLASS」、品番「S」、松浪硝子株式会社製、厚さ1.3mm、全光線透過率91.8%、ヘイズ0.1%、水縁磨)に貼り付け、温度23℃、湿度50%RHの環境下で30分間放置して、放置後剥離フィルムを取り除き、試験片とした。 上記試験片の各波長の光の透過率を、23℃、50%RHの環境下において、ヘイズメーター(商品名「HM-150」、株式会社村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。 光の透過率の測定は、JIS K 7361-1に準じて行った。
・・・(中略)・・・
【0130】
【表1】



(5)参考例
摘記5a:第1頁?第2頁
「<実験目的>
熱架橋剤と紫外線吸収剤とを有する甲第1号証(特開2012-211305号公報)の実施例1の粘着シートのヘイズ値が2%以下であり360nmの光線透過率が1%以下であることを示す。
<実験日>
塗工日:令和1年8月2日塗工。令和元年8月23日に実験完了。
<実験手順>
甲第1号証の実施例1と同様にして、重合体(2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)/酢酸ビニル(VAc)/アクリル酸(AAc)=62/36/2)を含む組成物100部、紫外線吸収剤としてて2‐[4,6‐ジフェニル‐1,3,5‐トリアジン‐2‐イル]‐5‐(ヘキシルオキシ)フェノール(チヌビン1577ED)1部、架橋剤としてイソシアヌレートを用いてイソホロンジイソシアネートを3 量体化し、メチルエチルケトンオキシム(ブロック剤)で保護した3 官能イソシアネート架橋剤50質量部を含む粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(三菱ケミカル社製、製品名「MRV#100(V04)」、厚さ:100μm)の剥離処理面に、乾燥後の厚さが250μmになるようにナイフコーターで塗布した後、110℃で30分間加熱してブロック剤を脱保護して架橋反応を進行させた。次いでポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(三菱ケミカル社製、製品名「MRF」、厚さ:75μm)の剥離処理面が上記塗布層に接する様に、当該軽剥離型剥離シートを上記塗布層に貼合して重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:250μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを製造した。
(ヘイズ値及び全光線透過率の測定)特許第6498891号公報の[0123]?[0125]に従い、得られた粘着シートの粘着剤層の軽剥離型剥離シートを剥がしてPETフィルム(東洋紡社製、製品名「コスモシャインA4300」、厚さ:75μm)に貼合した。次いで重剥離型剥離シートを剥がしてスライドグラス(松浪ガラス工業社製、製品名「大型スライドグラスS9112」)に貼合した。その後50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理し、これをサンプルとした。得られたサンプルをJIS K 7361、JIS K 7136に準じて、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所社製、製品名「HM-150」)を用いて粘着シートのヘイズ値と全光線透過率を測定した。
(明度及び色度の測定)
ヘイズの測定に用いたサンプルについてL値、a値、及びb値を、色差計(スガ試験機社製、製品名「Colour Cute i」)を用いて測定し、粘着シートのL値、a値、及びb値とした。
(360nmにおける光線透過率の測定)ヘイズの測定に用いたサンプルについて360nmにおける光線透過率を、分光光度計(日本分光製、製品名「V-770」)を用いて測定し、粘着シートの360nmにおける光線透過率とした。
<実験結果>
得られた実験結果を、下記表1にまとめた。

以上」

2 引用例1?3に記載された発明
(1)引用例1に記載された発明(引用例1発明)
引用例1の請求項1を引用する請求項5を引用する請求項7を引用する請求項8(摘記1a)は、
「画像表示装置用透明両面粘着シートが、表面保護パネルと液晶モジュールの視認側との間に配設されてなる構成を備えた画像表示装置であって、
当該画像表示装置用透明両面粘着シートが、
少なくとも1層の紫外線吸収層を有し、波長380nmの光線透過率が30%以下であり、かつ、
波長430nmよりも長波長側における可視光透過率が80%以上であり、
当該紫外線吸収層が、紫外線吸収剤を含有する粘着剤組成物から形成され、かつ、
当該紫外線吸収層が、アクリル系粘着剤を含有する粘着剤組成物から形成されている画像表示装置用透明両面粘着シートである、画像表示装置」と表すことができる。
また、【0022】(摘記1b)には、粘着剤組成物として、熱硬化型のアクリル系粘着剤が好ましいことが記載され、【0023】(同)には、アクリル系粘着剤のベース樹脂として、(メタ)アクリル酸エステル系重合体(共重合体を含む意味で、以下、「アクリル酸エステル系(共)重合体」と記載する。)が挙げられることが記載されている。そして、【0026】(同)には、「アクリル酸エステル系(共)重合体」の架橋が、架橋剤を添加し、加熱や養生により反応させることにより行うことが記載されている。ここで、加熱による架橋であるから、熱架橋剤が用いられることは明らかである。
さらに、【0045】(同)には、画像表示装置では、2つの画像表示装置構成部材が、上記両面粘着シートを介して一体化した構成を備えるものであることが記載され、一の画像表示装置用構成部材として、周辺部に枠状隠蔽印刷部が形成された構成を有する保護パネルが挙げられることが記載されている。

そうすると、引用例1には、上記請求項8に係る「画像表示装置」の好ましい態様として挙げられたものの一つとして、
「画像表示装置用透明両面粘着シートが、周辺部に枠状隠蔽印刷部が形成された構成を有する表面保護パネルと液晶モジュールの視認側との間に配設されてなる構成を備えた画像表示装置であって、
当該画像表示装置用透明両面粘着シートが、
少なくとも1層の紫外線吸収層を有し、波長380nmの光線透過率が30%以下であり、かつ波長430nmよりも長波長側における可視光透過率が80%以上であり、
当該紫外線吸収層が、紫外線吸収剤及び架橋されたアクリル酸エステル系(共)重合体を含有する粘着剤組成物から形成され、
当該アクリル酸エステル系(共)重合体の架橋は、熱架橋剤が添加され、加熱され反応させることによって行われたものである画像表示装置用透明両面粘着シートである、画像表示装置」(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると認められる。

(2)引用例2に記載された発明(引用例2発明)
引用例2の比較例3(【0107】(摘記2b))は、実施例1(【0099】?【0101】(摘記2b))において、紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,TINUVIN 109)を使用したものであり、実施例1の粘着剤層は、アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)およびアクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEA)をBA/MA/HEA/DMAEA=66.5/30/3/0.5の質量比で共重合して得られたアクリル酸エステル系共重合体(重量平均分子量:75万)100質量部(固形分換算,以下同じ)と、キシレンジイソシアネート系架橋剤(綜研化学社製,TD-75)3.75質量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,TINUVIN 109)10質量部とを混合し、次いでメチルエチルケトンにて希釈して、不揮発分濃度25質量%の粘着剤塗布液を調製し、剥離フィルムの剥離処理面に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにナイフコーターを用いて塗布し、90℃で60秒間乾燥して形成したものである。
そして、【0115】【表1】(摘記2b)には、比較例3の粘着剤層の波長350nm光線透過率が0.1%であることが記載されている。
また、【0094】(摘記2a)には、光学ディスプレイパネルにおいて、粘着剤層をガラス基板と所望のフィルムとの接着に用いることが記載されている。

そうすると、引用例2には、比較例3の粘着剤層を光学ディスプレイパネルに用いたものとして、
「粘着剤層を、ガラス基板とフィルムとの接着に用いた光学ディスプレイパネルであって、
当該粘着剤層は、
アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)およびアクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEA)をBA/MA/HEA/DMAEA=66.5/30/3/0.5の質量比で共重合して得られたアクリル酸エステル系共重合体(重量平均分子量:75万)100質量部と、キシレンジイソシアネート系架橋剤(綜研化学社製,TD-75)3.75質量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,TINUVIN 09)10質量部とを混合した粘着剤組成物を90℃で60秒間乾燥して得られたものであり、
厚さは25μmであり、
波長350nm光線透過率が0.1%である光学ディスプレイパネル」(以下、「引用例2発明」という)が記載されていると認められる。

(3)引用例3に記載された発明(引用例3発明)
引用例3の実施例1は、【0169】?【0170】及び【0189】【表2】(摘記3c)から、アクリル系樹脂(A-1)、有機溶媒(B-1)、エチレン性不飽和化合物(C-1)、多官能性不飽和化合物(D-1)、光重合開始剤(E-1)、架橋剤(F-1)を含むアクリル系樹脂組成物溶液を調製し、ポリエステル系離型シートに、乾燥後の厚みが200μmとなるように塗布し、100℃で5分間乾燥して形成した粘着剤組成物層であり、【0167】(同)には、光重合開始剤(E-1)として、「E-1:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの1:1の混合物(チバジャパン社製、「イルガキュア500」)」を用いることが、【0168】(同)には、架橋剤(F)として、「F-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物の55%酢酸エチル溶液(日本ポリウレタン社製、「コロネートL-55E」)」を用いることが記載されている。また、【0170】、【0189】及び【表2】(同)には、得られた粘着剤組成物層(以下、「粘着剤層」ともいう。)について、「スライドガラス/粘着剤層/PETフィルム」の構成を有する試験片のヘイズ値が0.3であることが記載されている。
そして、【0012】(摘記3a)には、両面粘着シート(粘着剤層)が、液晶ディスプレイ(LCD)などの表示装置や、タッチパネルと組み合わせた入力装置に用いられることが記載され、さらに、タッチパネルには、印刷段差等の段差を有する部材があること、及び、タッチパネルと表示装置の保護板とを貼付することが記載されている。

そうすると、引用例3には、その実施例1の粘着剤層を用いた、段差を有するタッチパネルと表示装置の保護板とを貼付した入力装置について、
「段差を有するタッチパネルと表示装置の保護板とを粘着剤層によって貼付した入力装置において、
当該粘着剤層は、
アクリル系樹脂(A-1)、
有機溶媒(B-1)、
エチレン性不飽和化合物(C-1)、
多官能性不飽和化合物(D-1)、
光重合開始剤(E-1:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの1:1の混合物(チバジャパン社製、「イルガキュア500」))、
架橋剤(F-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物の55%酢酸エチル溶液(日本ポリウレタン社製、「コロネートL-55E」))を含むアクリル系樹脂組成物溶液を調製し、
当該アクリル系樹脂組成物溶液を、ポリエステル系離型シートに、乾燥後の厚みが200μmとなるように塗布し、100℃で5分間乾燥して形成した粘着剤層である、入力装置」(以下、「引用例3発明」という)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)本件発明8について
ア 引用例1を主たる引用例とした場合 本件発明8と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「周辺部に枠状隠蔽印刷部が形成された構成を有する表面保護パネル」及び「液晶モジュール」は、引用例1発明の「枠状隠蔽印刷部」が本件発明8の「段差」に相当するから、それらは、本件発明8の「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材」である「保護板」及び「他の表示体構成部材」である「表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体」にそれぞれ相当する。
また、引用例1発明の「画像表示装置用透明両面粘着シート」は、本件発明8の「一の表示体構成部材と他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層」に相当する。 そして、引用例1発明の「当該紫外線吸収層が、紫外線吸収剤及び架橋されたアクリル酸エステル系(共)重合体を含有する粘着剤組成物から形成され、当該アクリル酸エステル系(共)重合体の架橋は、熱架橋剤が添加され、加熱され反応させることによって行われたものである」構成において、引用例1発明の「アクリル酸エステル系(共)重合体」、「粘着剤組成物」、「熱架橋剤」、「紫外線吸収剤」及び「加熱され反応させること」は、本件発明8の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」、「粘着性組成物」、「熱架橋剤(B)」、「紫外線吸収剤(C)」及び「熱架橋」にそれぞれ相当するから、引用例1発明の当該構成は、本件発明8の「粘着剤層が、(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)と、熱架橋剤(B)と、紫外線吸収剤(C)とを含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からな」る構成に相当する。
また、引用例1発明の「画像表示装置」は、本件発明8の「表示体」に相当する。

そうすると、本件発明8と引用例1発明とは、
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材が、保護板であり、
前記他の表示体構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と、
紫外線吸収剤(C)と、
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなる表示体。」である点において一致し、以下の点で相違が認められる。
(相違点1-1)
粘着剤層のヘイズ値について、本件発明8は「2%以下」であるのに対し、引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値は不明な点。
(相違点1-2)
粘着剤層の波長360nmの光線透過率について、本件発明8は「1%以下」であるのに対し、引用例1発明の「紫外線吸収層」の波長360nmの光線透過率は不明な点。
(相違点1-3)
保護板について、本件発明8は、「プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる」のに対し、引用例1発明の「表面保護パネル」がそのようなものであるかどうかは不明な点。
(相違点1-4)
粘着剤層の厚さについて、本件発明8は「50?175μm」であるのに対し、引用例1発明の「紫外線吸収層」の厚さは規定されていない点。

ここで、事案に鑑み、相違点1-1について検討する。
引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値について、引用例1には、記載も示唆もない。また、引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値が2%以下となる技術常識も存在しない。
そうすると、引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値は不明というほかなく、上記相違点1-1は、実質的な相違点である。

これに対し、参考例1には、引用例1(特開2012-211305号公報)の実施例1について、「<実験目的>熱架橋剤と紫外線吸収剤とを有する甲第1号証(特開2012-211305号公報)の実施例1の粘着シートのヘイズ値が2%以下であり360nmの光線透過率が1%以下であることを示す。」(摘記5a)と記載されている。
そこで、引用例1の「実施例1」についての記載(【0051】(摘記1c))と、参考例1の「<実験手順>」(摘記5a)の記載とを対比すると、両者は少なくとも、次の(a)?(c)の点で相違が認められる。
(a)「粘着剤組成物」に含まれる「アクリル酸エステル共重合体」について、Mw(重量平均分子量)が、引用例1では「60万」であるのに対し、参考例1には、Mwについては記載されていない点。
(b)「粘着剤組成物」の離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルムへの賦型について、引用例1では、「粘着剤組成物を80℃で溶融し」ているのに対し、参考例1では、粘着剤組成物の塗布溶液を得る際に、80℃で溶融させることは記載されてない点。
(c)「紫外線吸収層」について、引用例1では「温度25℃湿度40%で1週間養生させて」いるのに対し、参考例1には、養生させることは記載されていない点。

ここで、「粘着剤組成物」に含まれる「アクリル酸エステル共重合体」の「Mw」が異なれば、「粘着剤組成物」のヘイズ値が異なるものとなることは明らかであり、しかも、当該「Mw」が小さければ、塗布溶液を得る際に加熱が不要となるものが得られることも明らかである。そうすると、「アクリル酸エステル共重合体」の「Mw」及び塗布溶液を得る際の温度について明示のない参考例1の「粘着剤組成物」は、「アクリル酸エステル共重合体」の「Mw」が「60万」ではないもの、すなわち、60万に満たないものが排除されていない。
してみると、参考例1の実験は、必ずしも引用例1の実施例1を忠実に再現ないし追試したものであるとはいえず、かかる実験報告書(参考例1)に基づいて、引用例1の実施例1で得られた粘着シートのヘイズ値が2%以下であるとか、引用例1発明の「画像表示装置用透明両面粘着シート」のヘイズ値が2%以下となる蓋然性が高いなどと認めることはできないというべきである。

そして、引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値を、どのようにすれば2%以下のものとできるかについては、当業者にとって明らかではない以上、仮に、ヘイズ値が2%以下の「紫外線吸収層」が本件の出願前に公知だとしても、引用例1発明の「紫外線吸収層」のヘイズ値を2%以下のものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとすることはできない。

次に、上述したように、本件発明8は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないところ、念のため、取消理由において引用された引用例4について検討する。
引用例4には、その請求項2を引用する請求項1に係る粘着シートについて、「全光線透過率が85%以上であり、波長380nmの光の透過率が5%以下であり、ヘイズが3%以下であり、アクリル系ポリマー及びトリアジン系紫外線吸収剤を含有する粘着剤層を有する粘着シート」が記載されていると認められる。
そして、引用例4に記載された粘着シートは、「光学フィルムの使用量の少ない場合や、光学フィルムを使用しない場合であっても、光学特性を保持したままで、タッチパネルや表示素子等に対して優れた紫外線カット性を有する表示装置や入力装置を実現すること」(【0006】)を目的とし、「例えば、光学部材を貼り合わせる用途(光学部材貼り合わせ用途)や上記光学部材が用いられた製品(光学製品)の製造用途などに用いられる光学用粘着シート」(【0114】)であり、具体的には、「偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電フィルム(ITOフィルム)、意匠フィルム、装飾フィルム、表面保護板、プリズム、レンズ、カラーフィルター、透明基板や、さらにはこれらが積層されている部材」(【0117】)が例示されている。また、「ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、金属薄膜などからなる部材(例えば、シート状やフィルム状、板状の部材など)」、「被着体である表示装置や入力装置の視認性を保ちながら加飾や保護の役割を担う部材(意匠フィルム、装飾フィルムや表面保護フィルム等)」(【0117】)も挙げられている。
そうすると、引用例4に記載された粘着シートは、主に、フィルムといった薄膜に対して用いられるものというべきであり、引用例1発明のように、「周辺部に枠状隠蔽印刷部が形成された構成を有する表面保護パネルと液晶モジュールの視認側との間に配設」するような、段差が生じるような部材を対象とする態様が想定されているとはいえない。
そして、引用例4に記載された粘着シートを、引用例1発明の「画像表示装置用透明両面粘着シート」に用いた場合に、周辺部に形成された枠状隠蔽印刷部に対する段差追従性があるかどうかは明らかではないことから、引用例4に記載された粘着シートを用いることによって、「画像表示装置」として適切に機能するものが得られるかどうかは明らかではない。
そうすると、引用例1発明の「画像表示装置用透明両面粘着シート」に替えて、引用例4に記載された粘着シートを用いる動機付けはない、というべきであり、引用例4を考慮したとしても、本件発明8は、引用例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

そして、本件発明8は、「紫外線による悪影響を受け難く、かつ耐ブリスター性に優れる」(【0019】)という、本件明細書に記載された格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書の実施例1?9において確認されているところ、このような作用効果は、当業者が引用例1発明から予測し得るものではない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用例1発明とはいえないし、しかも、参考例1及び引用例4を考慮したとしても、引用例1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 引用例2を主引例とした場合
引用例2発明の「粘着剤層」、「アクリル酸エステル系共重合体(重量平均分子量:75万)」、「粘着剤組成物」、「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製,TINUVIN 09)」及び「光学ディスプレイ」は、本件発明8の「粘着剤層」、「(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)」、「粘着性組成物」、「紫外線吸収剤(C)」及び「表示体」にそれぞれ相当する。
引用例2発明の「キシレンジイソシアネート系架橋剤(綜研化学社製,TD-75)」は、本件明細書【0046】にも示されたものであり、本件発明8の「熱架橋剤(B)」に相当し、引用例2発明の「90℃で60秒間乾燥」が、本件発明8の「熱架橋」に相当することは明らかである。
引用例2発明の「ガラス基板」及び「フィルム」は、本件発明8の「一の表示体構成部材」及び「他の表示体構成部材」に相当する。

そうすると、本件発明8と引用例2発明とは、
「一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と、
紫外線吸収剤(C)と
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなる、
表示体。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点2-1)
本件発明8の「一の表示体構成部材」は、「プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる保護板であり」、「少なくとも貼合される側の面に段差を有する」のに対し、引用例2発明の「ガラス基板」は、「ガラス」であって、「プラスチック板」ではなく「保護板」かどうか不明であり、引用例2発明の「フィルム」は、「フィルム」であって、「保護板」といった「板」ではなく、しかも、「ガラス基板」及び「フィルム」に、「少なくとも貼合される側の面に段差を有する」かどうか不明な点。
(相違点2-2)
本件発明8の「他の表示体構成部材」は、「表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であ」るのに対し、引用例2発明の「ガラス基板」及び「フィルム」は、「表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であ」ることは規定されていない点。
(相違点2-3)
粘着剤層のヘイズ値について、本件発明8は「2%以下」であるのに対し、引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値は不明な点。
(相違点2-4)
粘着剤層の波長360nmの光線透過率について、本件発明8は「1%以下」であるのに対し、引用例2発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率は不明な点。
(相違点2-5)
粘着剤層の厚さについて、本件発明8は「50?175μm」であるのに対し、引用例2発明の「粘着剤層」の厚さは25μmである点。

ここで、事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値について、引用例2には、記載も示唆もない。また、引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値が2%以下となる技術常識も存在しない。したがって、引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値は不明というほかない。
そうすると、上記相違点2-3は、実質的な相違点である。

また、引用例2発明は「比較例3」に基づくものであり、引用例2に「比較例2?4の粘着剤は、紫外線吸収剤の添加による架橋の阻害が顕著であった。」(【0116】(摘記2b))と記載されるように、引用例2発明の「粘着剤層」は、架橋が十分に行われていないものであるから、粘着剤の粘着力等が劣るものと解される。そうすると、引用例2発明に係る「光学ディスプレイパネル」は、「光学ディスプレイパネル」として適切に機能するものであるということはできない。
しかも、引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値を、どのようにすれば2%以下のものとできるかについては、当業者にとって明らかではなく、仮に、ヘイズ値が2%以下の「粘着剤層」が本件の出願前に公知だとしても、引用例2発明の「粘着剤層」のヘイズ値を2%以下のものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとすることはできない。
そして、上述したように、本件発明8は、「紫外線による悪影響を受け難く、かつ耐ブリスター性に優れる」(【0019】)という、本件明細書に記載された格別顕著な作用効果を奏するものであり、このような作用効果は、当業者が引用例2発明から予測し得るものではない。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用例2発明とはいえないし、しかも、引用例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 引用例3を主引例とした場合
本件発明8と引用例3発明とを対比する。
引用例3発明の「段差を有するタッチパネル」、「表示装置の保護板」、「アクリル系樹脂組成物溶液」、「粘着剤層」、「表示装置」及び「入力装置」は、本件発明8の「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材」、「他の表示体構成部材」、「粘着性組成物」、「粘着剤層」、「表示体モジュール」及び「表示体」にそれぞれ相当する。
引用例3発明の「アクリル系樹脂(A-1)」は、引用例3の【0159】(摘記3b)からみて、本件発明8の「(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)」に相当することは明らかである。
引用例3発明の「架橋剤(F-1:トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネート付加物の55%酢酸エチル溶液(日本ポリウレタン社製、「コロネートL-55E」))」は、本件明細書の【0046】に熱架橋剤として例示されたトリメチロールプロパン変成トリレンジイソシアネートを含むものであるから、本件発明8の「熱架橋剤(B)」に相当し、引用例3発明の「100℃で5分間乾燥」することは、本件発明8の「熱架橋」に相当する。

そうすると、本件発明8と引用例3発明とは、
「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材が、保護板であり、
前記他の表示体構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなる、表示体」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点3-1)
保護板の材質について、本件発明8は「プラスチック板からなる」のに対し、引用例3発明の「保護板」の材質は不明な点。
(相違点3-2)
粘着剤層の成分について、本件発明8は「紫外線吸収剤(C)」を含むのに対し、引用例3発明の「粘着剤層」は、紫外線吸収剤を含むかどうか不明な点。
(相違点3-3)
粘着剤層のヘイズ値について、本件発明8は「2%以下」であるのに対し、引用例3発明の「スライドガラス/粘着剤層/PETフィルム」のヘイズ値は0.3であるものの、「粘着剤層」のヘイズ値は不明な点。
(相違点3-4)
粘着剤層の波長360nmの光線透過率について、本件発明8は「1%以下」であるのに対し、引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率は不明な点。
(相違点3-5)
粘着剤層の厚さについて、本件発明8は「50?175μm」であるのに対し、引用例3発明の「粘着剤層」の厚さは200μmである点。

ここで、事案に鑑み、相違点3-2及び3-4について検討する。
(相違点3-2について)
引用例3発明において、「ベンゾフェノンを含む光重合開始剤」は、光重合開始剤であるから紫外線を吸収するものだとしても、紫外線を吸収するために用いられる紫外線吸収剤としてまで機能するものではなく、引用例3発明の粘着剤層には、紫外線吸収剤が含まれるとはいえない。
したがって、上記相違点3-2は実質的な相違点である。

また、引用例3には、「アクリル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、シランカップリング剤、帯電防止剤、その他のアクリル系粘着剤、その他の粘着剤、ウレタン樹脂、・・・、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、機能性色素等の従来公知の添加剤や、紫外線あるいは放射線照射により呈色あるいは変色を起こすような化合物を配合することができるが、これら添加剤の配合量は、組成物全体の30重量%以下であることが好ましく・・・」(【0117】)と記載され、紫外線吸収剤を配合することが示唆されているものの、引用例3には、紫外線透過率を低下させることについては記載がなく、引用例3発明の粘着剤層は必ずしも紫外線透過率を低下させる必要があるものであるとはいえない。
そうすると、上記【0117】において、多数挙げられた添加剤の中から、紫外線吸収剤を選択して引用例3発明の粘着剤層に配合するようにする動機付けがあるとはいえない。
よって、上記相違点3-2に係る本件発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

(相違点3-4について)
引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率について、引用例3には、記載も示唆もない。また、引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率が1%以下となる技術常識も存在しない。したがって、引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率は不明というほかない。
そうすると、上記相違点3-4は、実質的な相違点である。

また、引用例3発明は「実施例1」に基づくものであるところ、引用例3に、「実施例1?5、および比較例1?4、7?9では、得られた粘着剤組成物層をポリエステル系離型シートではさみ、高圧水銀UV照射装置にてピーク照度:150mW/cm^(2),積算露光量:1000mJ/cm^(2)で紫外線照射を行ない(500mJ/cm^(2)×2パス)、23℃×65%R.H.の条件下で10日間エージングさせて基材レス両面粘着シートを得た。」(【0175】)と記載されるように、実施例1の粘着シートを得るためには、高圧水銀UV照射装置による紫外線照射が必要であって、仮に、引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率を1%以下のものとした場合は、上記【0175】のような紫外線照射によって、引用例3発明に係る「入力装置」が適切に機能するような所望の粘着シートが得られるかどうか明らかではない。
そうすると、仮に、波長360nmの光線透過率が1%以下の「粘着剤層」が本件の出願前に公知だとしても、引用例3発明の「粘着剤層」の波長360nmの光線透過率を1%以下のものとする動機付けはない。
よって、上記相違点3-4に係る本件発明特定事項について、当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。

そして、上述したように、本件発明8は、「紫外線による悪影響を受け難く、かつ耐ブリスター性に優れる」(【0019】)という、本件明細書に記載された格別顕著な作用効果を奏するものであり、このような作用効果は、当業者が引用例3発明から予測し得るものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、引用例3発明とはいえないし、しかも、引用例3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ まとめ
以上のとおり、本件発明8は、引用例1発明?引用例3発明とはいえないし、しかも、引用例1発明?引用例3発明及び引用例4に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明9?13について
本件発明9?13は、本件発明8を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明8と同様に、引用例1発明?引用例3発明とはいえないし、しかも、引用例1発明?引用例3発明及び引用例4に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)まとめ
以上のように、取消理由の理由1、2は理由がない。

第6 取消理由通知に記載した取消理由の理由3(実施可能要件)、理由4(明確性要件)についての当審の判断
1 理由3について
上記理由3は、概ね、訂正前の本件発明1の「ヘイズ値が、2%以下」と「波長360nmの光線透過率が、1%以下」とを同時に満たす粘着剤層、及び、訂正前の本件発明6の「段差追従率」を満たす粘着剤層について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が訂正前の本件発明1、6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない、というものである。

しかしながら、本件明細書には、そのような「ヘイズ値」、「波長360nmの光線透過率」、及び、「段差追従率」を満たす粘着剤層について、実施例1?9が示されており、実施例1?9には、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」について、具体的にどのようなものをどの程度の量で用いて、どのような条件で熱架橋したかについて、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
また、発明の詳細な説明には、実施例1?9以外の「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」の種類や量についても記載されている。
そして、本件発明8?13を実施できないとする具体的な根拠を見いだすことはできない。
そうすると、当業者は、本件発明8?13の実施に当たっては、発明の詳細な説明に基づいて、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」の種類や量を選択して粘着剤層を製造し、仮に、「ヘイズ値」、「波長360nmの光線透過率」、「段差追従率」を満たさないものがあれば、実施例1?9を参考にして、それらを満たすように、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」の種類や量を選択すれば足りるということができる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明8?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである、というべきである。

2 理由4について
理由4は、概ね、実施例の粘着剤層以外のものについて、本件明細書には、上記「ヘイズ値」、「波長360nmの光線透過率」、及び、「段差追従率」を満たす粘着剤層の、材質、形状、構造等が具体的にどのようなものであるか記載されておらず、当業者にとって自明とも認められないから、粘着シートが具体的などのようなものか理解できず、訂正前の本件発明1及び訂正前の本件発明6は明確でない、というものである。
しかしながら、上記理由3について述べたように、発明の詳細な説明には、実施例1?9が記載されているし、実施例1?9以外の「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」の種類や量についても記載されていて、仮に、「ヘイズ値」、「波長360nmの光線透過率」、「段差追従率」を満たさないものがあれば、実施例1?9を参考にして、それらを満たすように、「(メタ)アクリル酸エステル重合体」、「熱架橋剤」及び「紫外線吸収剤」の種類や量を選択すれば足りるものであるから、本件発明8?13に係る粘着シート(粘着剤層)が具体的などのようなものか理解できないとはいえない。
したがって、本件発明8?13は明確である、というべきである。

3 まとめ
以上のように、取消理由の理由3、4は理由がない。

第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断は次のとおりである。
1 申立人Aは、「取消理由4」として、「本件特許明細書の実施例及び比較例を見るに、全ての実施例及び比較例において、段差追従率は30%の一律の数値となっている。このような実施例及び比較例において、段差追従率をどのようにしてコントールするのか理解することができず、結果として請求項6に係る発明を再現することができない。よって、請求項6は実施可能要件を満たしていない。」(特許異議申立書23頁17?21行)と主張している。
しかしながら、訂正前の請求項6(訂正後の請求項13)に係る発明においては、粘着剤層の「段差追従率」について「20%以上であること」が規定されるものの、当該発明は、粘着剤層の「段差追従率」を当該「20%以上」とすることを目的とした発明ではない。
そして、上記第6 1で述べたように、本件の発明の詳細な説明に、粘着剤層の「段差追従率」が「20%以上である」ものについて、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる以上、段差追従率をどのようにしてコントールするのかについて発明の詳細な説明に明示されていないとしても、実施可能要件を満たしていない、ということはできない。

2 申立人Bは、特開2016-69529号公報(甲第3号証)を引用し、本件訂正前の請求項1?5、7?8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と同一であるから、本件訂正前の請求項1?5、7?8に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない旨主張している(特許異議申立書38頁26行?39頁26行)。
そこで、上記公報に係る明細書(以下、「先願明細書」という。)の記載について検討する。
(1)先願明細書の記載
上記先願明細書には、次の記載がある(図面は省略した。)。
摘記6a:
「【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置用粘着シート、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置に関する。」
摘記6b:
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、端末の薄型化を目的に、カバーガラス一体型タッチパネルや、One glass solution(OGS)と呼ばれる、透明保護板にタッチパネルの機能を付与する検討が行われている。この場合、タッチパネル機能付透明保護板と、画像表示ユニットが粘着剤によって貼り合わされるため、タッチパネル機能付透明保護板に形成された段差や配線を気泡無く埋め込むだけでなく、双方の被着体に対する粘着力の信頼性が課題となっている。
【0006】
また、貼り合わせ時に位置ずれ等が生じた場合、被着体から粘着剤を除去し、再度利用することで、歩留まりを向上させることができ、廃棄物を少なくできる(以後、リワークと呼ぶこともある)。この場合、被着体から粘着剤を簡単に除去できる必要性がある。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、被着物上に形成される段差が高い場合であっても、段差への埋め込み性に優れ、接着性及び信頼性にも優れる粘着層を備える画像表示装置用粘着シートを提供することを目的とする。加えて、被着体を再利用する際に、被着体から粘着層を簡単に除去できる画像表示装置用粘着シートとその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その画像表示装置用粘着シートを用いた画像表示装置の製造方法及び画像表示装置を提供することを目的とする。」
摘記6c:
「【0023】
[第一実施形態]
<画像表示装置用粘着シート>
本実施形態の画像表示装置用粘着シートは、粘着層と、前記粘着層を挟むように積層された一対の基材層と、を備えていることが好ましい。また、上記基材層の外縁は、上記粘着層の外縁よりも外側に張り出していることが好ましい。
【0024】
すなわち、図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る粘着シート1は、透明なフィルム状の粘着層2と、粘着層2を挟む重剥離セパレータ3(第2の基材層)及び軽剥離セパレータ4(第1の基材層)とを備えている。重剥離セパレータ3及び軽剥離セパレータ4の外縁は、粘着層2の外縁よりも張り出していてもよい。この粘着層2は、例えば、携帯端末用のタッチパネル式ディスプレイ等の画像表示装置において、透明保護板とタッチパネルとの間、又はタッチパネルと液晶表示ユニットとの間に配置される透明なフィルム(透明樹脂層)として用いることができる。」
摘記6d:
「【0097】
図8は、液晶表示装置の一実施形態を模式的に示す側面断面図である。図8に示す液晶表示装置は、バックライトシステム50、偏光板22、液晶表示セル12及び偏光板20を有し、これらが液晶表示装置の視認側に向けてこの順で積層されている画像表示ユニット7と、偏光板20の視認側の面上に設けられた透明樹脂層32と、透明樹脂層32を間に挟んで画像表示ユニット7と対向する透明保護板(保護パネル)40とから構成される。透明保護板40の透明樹脂層32側の面の周縁部上には、段差部60と透明保護板40とで段差が形成されており、この段差は、透明樹脂層32の一部によって埋め込まれている。
【0098】
透明樹脂層32は、上述の実施形態に係る粘着層2に相当する。装飾部による段差60は、液晶表示装置の大きさ等により異なるが、この高さが20μm?1.0×10^(2)μm、特に35μm?65μmである場合、本実施形態の粘着層を用いることが特に有用である。段差部60の高さが上記範囲の場合、段差埋め込み性の観点から粘着層2の厚さは厚い方が好ましいが、本実施形態の粘着層2は、膜厚が薄くても段差埋め込み性に優れる。上記段差部の高さがh、上記透明樹脂層の厚さがtであるとき、0.25<(h/t)<1であっても優れた段差埋め込み性を奏する。」
摘記6e:
「【0107】
透明保護板40としては、一般的な光学用透明基板を使用することができる。その具体例としては、ガラス基板、石英板等の無機物の板;アクリル樹脂基板、ポリカーボネート板、シクロオレフィンポリマー板等のプラスチック基板;厚手のポリエステルシート等の樹脂シートなどが挙げられる。高い表面硬度が必要とされる場合には、透明保護板はガラス基板又はアクリル樹脂基板であってもよく、ガラス基板であってもよい。これらの透明保護板の片面又は両面に対して、反射防止、防汚、ハードコート等のための処理がなされていてもよい。透明保護板は、その複数枚を組み合わせて使用することもできる。」
摘記6f:
「【0109】
<画像表示装置の製造方法> 粘着シート1は、画像表示装置の組み立て等において次のように使用される。まず、図10に示されるように、軽剥離セパレータ4を粘着シート1から剥離して、粘着層2の粘着面2bを露出させる。続いて、図11に示されるように、粘着層2の粘着面2bを被着物A1に貼り付け、ローラーR等で粘着層2を被着物A1に対して押し付ける。粘着層2を被着物A1に対して押し付ける際、粘着層2を例えば30℃?80℃に加熱してもよい被着物A1は、例えば画像表示ユニット、透明保護板、タッチパネル機能付透明保護板、液晶表示セル又はタッチパネルである。
【0110】
続いて、図12に示されるように、重剥離セパレータ3を粘着層2から剥離して、粘着層2の粘着面2cを露出させる。続いて、図13に示されるように、粘着層2の粘着面2cを被着物A2に貼り付け、得られた積層体を加熱及び加圧する(例えば、オートクレーブによる処理)。被着物A2は、例えば画像表示ユニット、透明保護板又はタッチパネルである。このようにして、粘着層2を介して被着物同士を貼り合わせることができる。積層体を加熱及び加圧する条件は、例えば、温度が20℃?80℃であり、圧力が0.1MPa?0.6MPaである。被着物表面の段差が40μm?1.0×10^(2)μmである場合は、段差近傍の気泡をより効率的に除去できることから、温度が50?70℃であり、圧力が0.2MPa?0.5MPaであってもよい。加熱及び加圧の時間は5分?60分、又は10分?50分であってもよい。」
摘記6g:
「【実施例】
【0133】
以下、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。本実施例では、第一実施形態及び第二実施形態に係る粘着シートを作製しているが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0134】
(A)成分:アクリル重合体
アクリル重合体(A-1)の合成
冷却管、温度計、撹拌装置、滴下漏斗及び窒素導入管を取り付けた反応容器に初期モノマーとして、2-エチルヘキシルアクリレート157.5g、酢酸ビニル42.0g、アクリル酸10.5g、酢酸エチル285gをとり、100ml/minの風量で窒素置換しながら、15分間で常温(25℃)から80℃まで加熱した。その後、温度を80℃に維持しながら、2-エチルヘキシルアクリレート67.5g、酢酸ビニル18.0g、アクリル酸4.5g、ラウロイルパーオキシド0.3gを溶解した溶液を、2.5時間かけて滴下し、滴下終了後さらに4時間反応させ、アクリル樹脂A-1(重量平均分子量450,000)の溶液(固形分濃度50質量%)を得た。
なお、重量平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定し、下記の装置及び測定条件を用いて標準ポリスチレンの検量線を使用して換算することによって決定した値である。検量線の作成にあたっては、標準ポリスチレンとして5サンプルセット(PStQuick MP-H, PStQuick B[東ソー株式会社製、商品名、「PStQuick」は登録商標])を用いた。
装置:株式会社日立製作所製
RI検出器 L-3550
使用溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
カラム:日立化成株式会社製 Gelpac GL-R420+GL-R430+GL-R440
カラム温度:40℃
流量:2mL/分
【0135】
アクリル重合体(A-2)の合成
アクリル酸に代わり2-ヒドロキシエチルメタクリレートを用い、アクリル重合体A-1と同様の方法で合成を行い、アクリル樹脂A-2(重量平均分子量430,000)の溶液(固形分濃度50質量%)を得た。
【0136】
(B)成分:(メタ)アクリロイル基を含む架橋剤
ペンタエリスリトールトリアクリレート(共栄社化学株式会社製ライトアクリレートPE-3A)
(C)成分:水素引き抜き型光開始剤
4-メチルベンゾフェノン(双邦實業股分有限公司製SB-PI712)
(D)成分:紫外線吸収剤
株式会社ADEKA製アデカスタブLA-32(2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール)
【0137】
<実施例1>
[粘着層の作製]
重剥離セパレータ4として厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(藤森工業株式会社製)、並びに仮セパレータ6として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(藤森工業株式会社製)を用いて、以下の(I)?(II)の手順で粘着シートを作製した。
【0138】
(I)アクリル樹脂A-1の溶液(固形分濃度50質量%)200g(アクリル樹脂A-1として100g)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PE-3A)1.5g、4-メチルベンゾフェノン1.0g、紫外線吸収剤(アデカスタブLA-32)1.0g、メチルエチルケトン34gを攪拌混合し、塗布溶液を得た。
【0139】
(II)この塗布溶液を重剥離セパレータ3上に塗工して塗膜を形成した後、100℃の乾燥機で15分間乾燥させた。室温(25℃)まで冷却後、仮セパレータ6を積層し、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製)を用いて、重剥離セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))し、さらに仮セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))することで重剥離セパレータ3と仮セパレータ6とで粘着層2を挟んだ粘着シートを得た。なお、粘着層2の厚みは150μmとなるように調整して塗工した。」
摘記6h:
「【0145】
[各種評価]
各実施例1?3及び比較例1?3で得られた粘着シートについて、以下の(1)?(4)の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0146】
(1)濁度(ヘーズ)
作製した粘着シートを幅40mm、長さ100mmの寸法に切り出し、該粘着シートの片側面のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、幅50mm、長さ100mm、厚み0.5mmの寸法のガラス基板(ソーダライムガラス)に、ハンドローラーを用いて(25℃、荷重:500gf)貼合せた。次いで、粘着シートの反対面のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、粘着層面を光源側として濁度計(日本電色工業株式会社製、商品名「NDH-5000」)を用いて、JIS K 7136(プラスチック-透明材料のヘーズの求め方)に準じて測定した。
濁度(ヘーズ)(%)=(Td/Tt)×100
Td:散乱光(拡散透過率)、Tt:全光線透過率
【0147】
(2)光透過率
前記濁度を測定したサンプルを、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V-570)を用い、同一のガラス基板を参照側として300?800nmの範囲で吸収スペクトルを測定した。表1には、365nmにおける光透過率を示した。
【0148】
(3)段差埋め込み性及び貼り合わせ信頼性
作製した粘着シートを幅50mm、長さ80mmの寸法に切り出し、該粘着シートの片側面のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離し、外周部に幅9mm、厚さ40μmの寸法の段差部を設けた幅56mm、長さ86mm、厚み0.7mmの寸法のガラス基板にハンドローラーを用いて(25℃、荷重:500gf)貼合せた。次いで、粘着シートの段差部を設けたガラス基板を貼合せていないもう一方の面のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離した後、幅56mm、長さ86mm、厚み0.5mmの寸法のガラス基板に、偏光板(住友化学株式会社製)を貼りつけた基板の偏光板面に、真空貼合装置(株式会社タカトリ製、商品名「TPL-0512MH」)を用いて25℃、0.2MPa、真空度1000Paの条件で3秒間貼合せた。その後、オートクレーブによる処理(30℃、0.3MPa)を10分間行って評価サンプルとした。段差埋め込み性は、残存する気泡形状と数を計測し、以下の基準で評価した。なお、実施例2以外では、オートクレーブ処理の後に紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社社製)を用いて、段差部を設けたガラス基板側から2000mJ/cm^(2)の紫外線を照射して価サンプルとした。
次に、評価サンプルを、100℃のオーブンで30分加熱した後、気泡の発生数を計測し、以下の基準で貼り合わせ信頼性を評価した。
段差埋め込み性の評価基準
A:残存気泡なし
B:直径1mm以下の気泡が10個以下残存
C:長さ1cm以上の線状気泡が残存
D:長さ3cm以上の線状気泡が残存
貼り合わせ信頼性の評価基準
A:気泡発生なし
B:直径1mm以下の気泡が10個以下発生
C:長さ5mm以上の線状気泡が発生
D:粘着層の外寸が変化
【0149】
・・・(中略)・・・
【0150】



(2)先願明細書に記載された発明(先願発明)
先願明細書には、図8に示された液晶表示装置の一実施形態として、透明樹脂層32を間に挟んで画像表示ユニット7と対向する透明保護板(保護パネル)40とから構成され、透明保護板40の透明樹脂層32側の面の周縁部上には、段差部60が形成されていることが記載されている(【0097】(摘記6d))。
また、透明樹脂層32は、粘着層2であることが記載されている(【0098】(摘記6d))。
そして、透明保護板40として、プラスチック基板が例示されている(【0107】(摘記6e))。
さらに、粘着剤層2の実施例として、
(I)アクリル樹脂A-1の溶液(固形分濃度50質量%)200g(アクリル樹脂A-1として100g)、
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PE-3A)1.5g、
4-メチルベンゾフェノン1.0g、
紫外線吸収剤(アデカスタブLA-32)1.0g、
メチルエチルケトン34gを攪拌混合し、塗布溶液を得て、
(II)この塗布溶液を重剥離セパレータ3上に塗工して塗膜を形成した後、100℃の乾燥機で15分間乾燥させ、室温(25℃)まで冷却後、仮セパレータ6を積層し、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製)を用いて、重剥離セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))し、さらに仮セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))することで重剥離セパレータ3と仮セパレータ6とで粘着層2を挟んだ粘着シートを得た(なお、粘着層2の厚みは150μmとなるように調整して塗工した)ことが記載されている(【0137】?【0138】(摘記6g))。
そして、実施例1の粘着層をガラス基板に貼り合わせたものは、ヘーズ(ヘイズ値)は0.3%、
粘着層の365nmの光透過率は、0.01%であることが記載されている(【0150】【表1】(摘記6h))。
ただし、「アクリル樹脂A-1の溶液」は、【0134】(摘記6g)に記載されたものである。

そうすると、先願明細書には、図8に示された液晶表示装置の一実施形態において、透明保護板40として例示されたプラスチック基板を用い、さらに、粘着層2として実施例1を用いたものについて、
「透明樹脂層32を間に挟んで画像表示ユニット7と対向する、プラスチック基板の透明保護板40とから構成される液晶表示装置であって、
透明保護板40の透明樹脂層32側の面の周縁部上には段差部60が形成され、
透明樹脂層32は、粘着層2であり、
粘着層2は、
(I)アクリル樹脂A-1の溶液(固形分濃度50質量%)200g(アクリル樹脂A-1として100g)、
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PE-3A)1.5g、
4-メチルベンゾフェノン1.0g、
紫外線吸収剤(アデカスタブLA-32)1.0g、
メチルエチルケトン34gを攪拌混合し、塗布溶液を得て、
(II)この塗布溶液を重剥離セパレータ3上に塗工して塗膜を形成した後、100℃の乾燥機で15分間乾燥させ、室温(25℃)まで冷却後、仮セパレータ6を積層し、紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製)を用いて、重剥離セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))し、さらに仮セパレータ側から紫外線を照射(7.0×10^(2)mJ/cm^(2))することで重剥離セパレータ3と仮セパレータ6とで粘着層2を挟んだ粘着シートを得る(なお、粘着層2の厚みは150μmとなるように調整して塗工した)ことによって形成されたものであり、
粘着層2をガラス基板に貼り合わせたものは、ヘイズ値は0.3%、
粘着層2の365nmの光透過率は、0.01%である、
液晶表示装置」(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
本件発明8と先願発明とを対比する。
先願発明の「透明保護板40」は、「プラスチック基板の透明保護板40」であり、「透明保護板40の透明樹脂層32側の面の周縁部上には段差部60が形成され」ており、当該「段差部30」は本件発明8の「段差」に相当するから、先願発明の「透明保護板40」は、本件発明8の「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材」である「プラスチック板からなる保護板」に相当する。
また、先願発明の「画像表示ユニット」は、本件発明8の「他の表示体構成部材」である「表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体」に相当する。
そして、先願発明の「透明樹脂層32」は「粘着層2」であって、本件発明8の「一の表示体構成部材と他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層」に相当する。 さらに、先願発明の「アクリル樹脂A-1の溶液」、「塗布溶液」及び「紫外線吸収剤(アデカスタブLA-32)」は、本件発明8の「(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)」、「粘着性組成物」及び「紫外線吸収剤(C)」にそれぞれ相当する。
そして、先願発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」は、【0136】(摘記6g)に、「(メタ)アクリロイル基を含む架橋剤」として記載されたものであるから、本件発明8の「熱架橋剤」とは、「架橋剤」である点で共通する。
また、先願発明の「粘着層2」の厚さは、本件発明8の粘着剤層の厚さに含まれる。
そして、先願発明の「液晶表示装置」は、本件発明8の「表示体」に相当する。

そうすると、本件発明8と先願発明とは、 「少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材が、プラスチック板からなる保護板、または、プラスチック板を含む積層体からなる保護板であり、
前記他の表示体構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
架橋剤と、
紫外線吸収剤(C)と
を含有する粘着性組成物から形成された粘着剤からなり、
前記粘着剤層の厚さが50?175μmである
表示体。」 である点において一致し、以下の点で相違が認められる。 (相違点4-1)
粘着剤層のヘイズ値について、本件発明8は「2%以下」であるのに対し、先願発明の粘着層2をガラス基板に貼り合わせたもののヘイズ値は0.3%であるものの、「粘着層2」のヘイズ値は不明な点。
(相違点4-2)
粘着剤層の波長360nmの光線透過率について、本件発明8は「1%以下」であるのに対し、先願発明の「粘着層2」の365nmの光透過率は0.01%であるものの、波長360nmの光線透過率は不明な点。
(相違点4-3)
架橋剤について、本件発明8は「熱架橋剤」であるのに対し、先願発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が熱架橋剤であるかどうか不明であり、粘着剤層について、本件発明8は、粘着性組成物を熱架橋して形成されるのに対し、先願発明の「粘着層2」は熱架橋して形成されたものであるかどうか不明な点。

ここで、事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
先願発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」は、加熱によって架橋することがあるとしても、熱架橋剤として用いられるものであるという技術常識は見当たらない。
そして、先願明細書には、紫外線を照射することは記載されていても、「粘着層2」を熱架橋して形成することについては記載も示唆も見あたらず、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が紫外線による架橋剤であることを排除できない。
そうすると、先願発明において、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が熱架橋剤であるかどうか、及び、「粘着層2」を熱架橋して形成するかどうかは不明としかいうほかなく、上記相違点4-3は実質的な相違点である。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8と先願発明と同一であるということはできない。

(申立人Bの主張について)
これに対し、申立人Bは、先願明細書において、「ペンタエリスリトールトリアクリレートは、官能基として複数のアクリロイル基を含み、また、加熱時にアクリル樹脂と反応し得るため、熱架橋剤に該当する。」(特許異議申立書21頁10?11行)及び「熱架橋剤の存在下で『100℃の乾燥機で15分間乾燥』させることは、本件特許発明における『熱架橋』工程に該当すると言える。」(特許異議申立書22頁12?13行)と主張している。
しかしながら、熱架橋剤とは加熱によって積極的に架橋反応を生じさせる作用があるものといえるところ、加熱時にアクリル樹脂と反応し得るという現象のみからは、直ちに、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が熱架橋剤であるということはできない。また、先願明細書の「100℃の乾燥機で15分間乾燥」という記載からは「熱架橋」が行われているかどうかは明らかではなく、そのような工程は、溶剤を蒸発させるような「乾燥」にとどまるものも含まれるといわざるを得ない。
そうすると、先願発明において、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」が熱架橋剤であるかどうか、及び、「粘着層2」を熱架橋して形成するかどうかは不明としかいうほかなく、申立人Bの上記主張は、採用することができない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明8は先願発明と同一であるとはいえず、本件発明9?13は、本件発明8を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明8と同様に、先願発明と同一であるとはいえない。
よって、申立人Bの特許法第29条の2に係る主張は採用することができない。

3 申立人Bは、本件明細書の実施例は、アクリル酸エステル重合体(A)として2種類のみ、架橋剤(B)として、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートのみ、ヘイズ値として0.2%と0.3%のもののみ、アクリル酸エステル重合体(A)のTgとして-38℃のものと-36℃のもののみ、段差追従率について30%のもののみについて開示していて、訂正前の本件発明1?8の全範囲にわたって、本件発明の効果を奏することが理解できず、訂正前の請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している(特許異議申立書39頁28?40頁14行)。

これに対し、本件発明の課題は、「紫外線による悪影響を受け難く、かつ耐ブリスター性に優れる粘着シートおよび表示体を提供すること」(【0009】)であると解することができるところ、本件発明は、上記第3に記載されるとおりのものであり、本件明細書には、次の記載が認められる。
「上記発明(発明1)における粘着剤層は、上記粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなり、硬化のために紫外線照射を必要としないため、紫外線吸収剤(C)を含有していても、当該紫外線吸収剤(C)による硬化阻害の問題がない。したがって、上記粘着剤層は十分に硬化(架橋)することができ、耐ブリスター性に優れたものとなる。また、上記粘着剤層は紫外線吸収剤(C)を含有し、かつ波長360nmの光線透過率が上記のように低いため、上記粘着剤層は、非常に優れた紫外線吸収能を有する。したがって、当該粘着剤層は、紫外線による悪影響を受け難く、耐候性に優れる。」(【0011】)
そうすると、本件明細書の記載によれば、本件発明は、粘着剤層が、粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤であることにより、粘着剤層は十分に硬化(架橋)することができ、耐ブリスター性に優れたものとなることが理解でき、しかも、粘着剤層に紫外線吸収剤が含まれることにより、紫外線による悪影響を受け難く、耐候性に優れるものであることが理解できる。
そして、本件発明8?13には、粘着剤層が、粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤であって、粘着剤層に紫外線吸収剤が含まれることが規定されていることから、本件発明8?13の全範囲にわたって、本件発明の効果を奏することが理解できないとはいえないし、請求項8?13の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、申立人Bの上記主張は採用することができない。

4 申立人Bは、本件明細書に記載された比較例4を引用し、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
しかしながら、比較例4は本件発明8?13には含まれないものであるから、比較例4が本件発明8?13に含まれない機序について本件明細書に記載されていないとしても、そのような機序が明らかではないことは、本件発明8?13を実施できないとする具体的な根拠にはならない。

また、申立人Bは、「透過色相b*」について、どのようにして-2.0?2.0とすればよいのか当業者が理解することができず、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
しかしながら、本件発明12は、粘着剤層の透過色相b*が-2.0?2.0の範囲のものであることを規定したものであるところ、本件発明12は、粘着剤層の透過色相b*を-2.0?2.0の範囲とすることを目的とした発明ではなく、その範囲を満たすものが本件発明12に含まれ、その範囲を満たさないものは本件発明12に含まれないというだけであって、その範囲を満たす粘着剤層を実施することができないという具体的な根拠が示されていない以上、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項8?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項8?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1?7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人A及び申立人Bによる特許異議の申立てについて、請求項1?7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する一の表示体構成部材と、
他の表示体構成部材と、
前記一の表示体構成部材と前記他の表示体構成部材とを互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記一の表示体構成部材が、プラスチック板からなる保護板、またはプラスチック板を含む積層体からなる保護板であり、
前記他の表示体構成部材が、表示体モジュール、または表示体モジュールを含む積層体であり、
前記粘着剤層が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
熱架橋剤(B)と、
紫外線吸収剤(C)と
を含有する粘着性組成物を熱架橋してなる粘着剤からなり、
前記粘着剤層のヘイズ値が、2%以下であり、
前記粘着剤層の波長360nmの光線透過率が、1%以下であり、
前記粘着剤層の厚さが50?175μmである
ことを特徴とする表示体。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤(C)は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物およびトリアジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載の表示体。
【請求項10】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、-50?0℃であることを特徴とする請求項8または9に記載の表示体。
【請求項11】
前記粘着剤層中における前記紫外線吸収剤(C)の含有量をX質量%、前記粘着剤層の厚さをYμmとしたときに、以下の式(I)が成立することを特徴とする請求項8?10のいずれか一項に記載の表示体。
50≦X×Y≦500 …(I)
【請求項12】
前記粘着剤層のCIE1976L*a*b*表色系により規定される透過色相b*は、-2.0?2.0であることを特徴とする請求項8?11のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項13】
前記粘着剤層を段差付ガラス板に貼付し、85℃、85%RHの湿熱条件下にて72時間保管する耐久試験を行ったときに、下記式で表される前記粘着剤層の段差追従率が、20%以上であることを特徴とする請求項8?12のいずれか一項に記載の表示体。
段差追従率(%)={(耐久試験後、隙間や気泡無く埋められた状態が維持された段差の高さ)/(粘着剤層の厚み)}×100
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-23 
出願番号 特願2015-72293(P2015-72293)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田澤 俊樹  
特許庁審判長 天野 斉
特許庁審判官 川端 修
蔵野 雅昭
登録日 2019-03-22 
登録番号 特許第6498991号(P6498991)
権利者 リンテック株式会社
発明の名称 粘着シートおよび表示体  
代理人 村雨 圭介  
代理人 田中 泰彦  
代理人 田岡 洋  
代理人 飯田 理啓  
代理人 田岡 洋  
代理人 早川 裕司  
代理人 飯田 理啓  
代理人 村雨 圭介  
代理人 早川 裕司  

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