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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61L |
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管理番号 | 1364920 |
異議申立番号 | 異議2019-700514 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-06-27 |
確定日 | 2020-07-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6507943号発明「潤滑剤溶液、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法、および潤滑剤塗膜付き物品。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6507943号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正することを認める。 特許第6507943号の請求項1?3及び7?12に係る特許を維持する。 特許第6507943号の請求項4?6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6507943号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成27年8月28日に出願され、平成31年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和元5月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和元年6月27日に特許異議申立人田中理恵子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和2年1月14日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和2年3月17日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、特許異議申立人は、令和2年5月1日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「ジアミン変性シリコーンオイルを含む潤滑剤と、溶剤を含み、 前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体であることを特徴とする潤滑剤溶液。」 と記載されているのを、 「分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなる潤滑剤と、溶剤とを含み、 前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、 前記1-クロロ-3,3,3-卜リフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であることを特徴とする潤滑剤溶液。」 に訂正する。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、7?12も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7に、 「前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類とを含み、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が50?99%、アルコール類が1?50%である、請求項1?4のいずれか一項に記載の潤滑剤溶液。」 と記載されているのを、 「1-クロロ-3,3,3-卜リフルオロプロペンのZ異性体と、前記アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、前記アルコール類が1?10%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の潤滑剤溶液。」 に訂正する。 請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8?12も同様に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項9に、 「請求項1?8」 と記載されているのを、 「請求項1?3、および、7?8」 に訂正する。 請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9?12も同様に訂正する。 2 本件訂正の適否 (1)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1?12は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 (2)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、(1)請求項1に係る発明特定事項である「ジアミン変性シリコーンオイルを含む潤滑剤」を「分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなる潤滑剤」と範囲を減縮し、(2)請求項1に係る発明特定事項である「溶剤」を「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み」と範囲を減縮し、(3)該「溶剤」を「前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であり」と範囲を減縮するものである。 よって、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、(1)「ジアミン変性シリコーンオイルを含む潤滑剤」を「分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなる潤滑剤」と構成を減縮し、(2)「溶剤」を「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み」と構成を減縮し、(3)該「溶剤」を「前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であり」と構成を減縮するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1における潤滑剤溶液の減縮は、本件特許明細書段落番号0093表7の例37?例40に基づいている。 さらに付言すると、訂正事項1における(1)の「ジアミン変性シリコーンオイル」の減縮は、訂正前の請求項4にも基づいている。 また、訂正事項1における(2)の「溶剤」の減縮は、本件特許明細書段落番号0024、および段落番号0031にも基づいている。 してみれば、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項2について ア 訂正の目的について 訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、請求項4を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (4)訂正事項3について ア 訂正の目的について 訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、請求項5を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (5)訂正事項4について ア 訂正の目的について 訂正事項4は、請求項6を削除するものであるから、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、請求項6を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4は、請求項6を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (6)訂正事項5について ア 訂正の目的について 訂正事項5は、(2)訂正事項1で、「溶剤」を「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶なアルコール類とを含み」と減縮するため、訂正前の請求項7の「前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3、-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類とを含み、」を削除し、(2)訂正事項1で、「溶剤」を「前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であり」と減縮するのと整合させるため、訂正前の請求項7の「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が50?99%、アルコール類が1?50%である、」を「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、前記アルコール類が1?10%である、」と構成を減縮するものである。 また、請求項4の削除に伴い、請求項7における「請求項1?4」との記載を「請求項1?3」に訂正するものである。 よって、訂正事項5は、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は、「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が50?99%、アルコール類が1?50%である、」を「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、前記アルコール類が1?10%である、」と構成を減縮するものであり、また、請求項4の削除に伴い、請求項7における「請求項1?4」との記載を「請求項1?3」に訂正するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲ヌは図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項5における潤滑剤溶液の減縮は、本件特許明細書段落番号0093表7の例37?例40に基づいている。してみれば、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (7)訂正事項6について ア 訂正の目的について 訂正事項6は、請求項4?6の削除に伴い、請求項9における「請求項1?8」との記載を「請求項1?3、および、7?8」に訂正するものであるから、訂正事項6は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項6は、請求項4?6の削除に伴い、請求項9における「請求項1?8」との記載を「請求項1?3、および、7?8」に訂正するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項6は、引用する請求項を減縮するものであるから、何ら実質的な内容の変更を伴うものではない。 よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (8)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項の規定に適合する。 したがって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1?12について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1?3、7?12に係る発明は、令和2年3月17日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3、7?12に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」?「本件発明3」、「本件発明7」?「本件発明12」ともいう。)である。 「【請求項1】 分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなる潤滑剤と、溶剤とを含み、 前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、 前記1-クロロ-3,3,3-卜リフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であることを特徴とする潤滑剤溶液。 【請求項2】 前記潤滑剤の割合が、前記潤滑剤溶液の100質量%のうち、0.01?50質量%であり、前記溶剤の割合が、前記潤滑剤溶液の100質量%のうち、50?99.99質量%である、請求項1に記載の潤滑剤溶液。 【請求項3】 前記潤滑剤溶液が、架橋剤をさらに含み、前記架橋剤がアミン基含有アルコキシシランまたはその多量体である、請求項1または2に記載の潤滑剤溶液。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 1-クロロ-3,3,3-卜リフルオロプロペンのZ異性体と、前記アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、前記アルコール類が1?10%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の潤滑剤溶液。 【請求項8】 前記アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類である、請求項7に記載の潤滑剤溶液。 【請求項9】 下記の工程(a)および工程(b)を有する、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。(a)請求項1?3、および、7?8のいずれかの潤滑剤溶液を物品表面に塗布する工程。 (b)前記物品の表面に塗布された前記潤滑剤溶液から前記溶剤を蒸発させ、前記物品の表面に前記潤滑剤を含む塗膜を形成する工程。 【請求項10】 前記潤滑剤塗膜が0.01μm?500μmの膜厚である、請求項9に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 【請求項11】 前記潤滑剤塗膜中の潤滑剤の量が0.01μg/cm^(2)?500μg/cm^(2)である、請求項10に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 【請求項12】 前記物品が、注射針またはカテーテルである、請求項10または11に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、当審が令和2年1月14日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア 本件特許発明1?12は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件特許発明1?12に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2011-46688号公報 甲第2号証:特開平6-63144号公報 甲第3号証:伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、平成2年8月31日発行、pp165-166 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証 1a「【特許請求の範囲】 【請求項1】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤。 【請求項2】 (A)1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、と、(B)1,1,2,2-テトラフルオロ-1-メトキシエタン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、及び、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる化合物を含む、シリコーン化合物用溶剤組成物。 【請求項3】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン40?80質量%と1,1,2,2-テトラフルオロ-1-メトキシエタン60?20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。 【請求項4】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン60?80質量%と1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン40?20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。 【請求項5】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン70?80質量%と1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン30?20質量%からなる、請求項2に記載のシリコーン化合物用溶剤組成物。 【請求項6】 シリコーン化合物と、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のシリコーン化合物用溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布溶液。 【請求項7】 前記シリコーン化合物が、ストレートシリコーンであることを特徴とする請求項6に記載のシリコーン化合物塗布溶液。 【請求項8】 請求項6又は請求項7に記載のシリコーン化合物塗布溶液を物品表面に塗布し、前記塗布溶液中のシリコーン化合物用溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させることを特徴とする、シリコーン化合物の塗布方法。 【請求項9】 物品が金属又は樹脂であることを特徴とする請求項8に記載のシリコーン化合物の塗布方法。」 1b「【0005】 例えば、HFE類とシリコーン化合物の相溶性を向上させるために、ヘキサメチルジシロキサンを4?30質量%添加する方法(特許文献1)、ノルマルへキサンなどの炭化水素類やアルコール類などを15?60質量%添加する方法(特許文献2)が開示されている。」 1c「【0033】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、置換基の種類により、立体異性体としてシス体(Z体)及びトランス体(E体)が存在するが、両者の異性体は、蒸留により分離、精製することができる。なお、シス体(Z体)の沸点は39.0℃であり、トランス体(E体)の沸点は21.0℃である。 【0034】 なお、これらの立体異性体は特に制限はなく、トランス体(E体)、シス体(Z体)の何れか一方、もしくは混合物を使用することができる。 【0035】 (他の溶剤組成物) 本発明において、シリコーン化合物を溶解させる溶剤として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを単独でも使用できるが、用途によって、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに他の溶剤を添加することもできる。 【0036】 本願発明で用いる1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンは、それ自身溶解能力が非常に高く好ましい溶剤であるが、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン単独で用いる場合、樹脂部材に損傷を与えてしまうことがある。そのため、溶解能力の調整を目的とし、シリコーン化合物を塗布する物品の種類に応じ、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに対し、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-メトキシエタン(HFE-254pc)や1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC-365mfc)、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)エタン(HFE-347pc-f)、メチルノナフルオロイソブチルエーテル(HFE-7100)などを混合することが好ましい。 【0037】 上記に例示した溶剤を、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに混合する場合に適用できる樹脂部材としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、などの熱硬化性樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの熱可塑性樹脂、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素樹脂が挙げられる。また、ゴム部材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、シリコンゴム、ウレタンゴムなどの合成ゴム、または、天然ゴムなどが挙げられる。 【0038】 樹脂部材またはゴム部材からなる物品にシリコーン化合物をコーティングする場合には、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンに対し、上記に例示した溶剤を添加することで、樹脂部材またはゴム部材からなる物品に対する損傷を与えることなくシリコーン化合物を表面に塗布することができる。なお、上記に例示した溶剤を1種類、又は2種類以上を混合させることができる。 【0039】 次に、具体的な溶剤組成物における各成分の好ましい組成比について説明する。 【0040】 各成分の好ましい組成物比は、シリコーン化合物の溶解性とシリコーン化合物溶剤組成物の取り扱いやすさ(引火性など)を考慮して調整されることが好ましい。 【0041】 1,1,2,2-テトラフルオロ-1-メトキシエタン(HFE-254pc)を混合する場合は、混合割合として、それぞれ1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを40?80質量%、1,1,2,2-テトラフルオロ-1-メトキシエタン(HFE-254pc)を60?20質量%にすることが好ましい(後述の実施例2、3参照)。」 1d「【0045】 <シリコーン化合物塗布溶液> 本発明では、上述したシリコーン化合物用溶剤組成物とシリコーン化合物とを混合させることで、シリコーン化合物塗布溶液として使用する。本発明に使用されるシリコーン化合物としては、例えば、表面コーティング用に使用されている各種のシリコーンを使用することができる。 【0046】 中でも、メチル基、フェニル基、水素原子を置換基として結合したジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチル水素シリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル、また、ストレートシリコーンオイルから二次的に誘導された構成部分を持つ、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイルなどが挙げられる。本発明のシリコーン化合物溶剤組成物は、特に、ストレートシリコーンを溶かしやすく好適である(実施例参照)。 【0047】 また、アミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体を主成分とするもの、アミノ基含有シランとエポキシ基含有シランとの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とするもの、側鎖又は末端にアミノ基を含有するシリコーンとポリジオルガノシロキサンからなるシリコーン混合物、アミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランおよび両末端にシラノール基を有するシリコーンを反応させて得られたシリコーンと非反応性シリコーンとの混合物等が挙げられる。 【0048】 コーティング用シリコーン溶液における本発明のシリコーン化合物の割合は0.1?80質量%、特には、1?20質量%であるのが好ましい。0.1質量%未満では、十分な膜厚のコーティング被膜が形成されにくく、80質量%を超えると均一な膜厚のコーティング被膜が得られにくい。 【0049】 <塗布方法> 本発明においては、物品表面に上述したシリコーン化合物塗布溶液を塗布し、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のシリコーン化合物溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成する。本発明の方法を適用できる物品としては、金属部材、樹脂部材、セラミックス部材、ガラス部材などの各種材質に適用することができ、特に、注射針の針管部や、ディスペンサー(液体定量噴出装置)のスプリングやバネ部分等に適用することが好ましい。 【0050】 例えば、注射針の針管部などに適用する場合、シリコーン化合物を注射針の針管部に塗布する方法としては、注射針の針管部を、シリコーン化合物塗布溶液に浸漬させ、針管部の外表面に塗布した後、室温あるいは加温下に放置して溶剤組成物を蒸発させ、シリコーン化合物の被膜を形成させるディップコート法が挙げられる。」 1e「【0055】 [実施例1-1?1-5及び比較例1-1] 【表1】 」 (2)甲第2号証 2a「【0013】先端潤滑剤12はカテーテルの先端14を先端潤滑剤12の溶液に浸漬することにより先端に塗布される。別法として、先端潤滑剤12はこの潤滑剤を先端14上に直接スプレーすることにより塗布することができる。軸潤滑剤18は湿分硬化性シリコーンの組成物である。硬化時のシリコーン組成物は、シリコーンのカテーテルへの付着性が増大し、またシリコーンが乾燥されて強靱になり、それによりあまり粉塵のような異物を捕捉しなくなるという利点を有する。シリコーンの増大した付着性は潤滑剤が容易にカテーテルからぬぐい取られないという利点を有する。 【0014】好ましい湿分硬化性シリコーンは米国特許第3,574,673号に記載され、ダウMDX4-4159という名称のアミンを末端基とする有機シロキサンコポリマーである。好ましくは、軸潤滑剤18は96.25?約99.0重量%の溶媒を約1.0?約2.5重量%のダウ360シリコーンおよび約1.0?約2.5重量%のダウMDX4-4159と混合してなる潤滑剤である。軸潤滑剤18の粘度は1,000?約100,000CTKSである。軸潤滑剤18に使用される溶媒は先端潤滑剤12に使用されるものとして上記した溶媒から選択することができる。最も好ましい軸潤滑剤18は96.5重量%のヘキサンを2.5重量%のダウ360シリコーン(12,500CTKS)および1.25重量%のダウMDX4-4159(12,500CTKS)と混合してなるものである。」 (3)甲第3号証 3a「6.4.3 アミノ変性シリコーン アミノ変性シリコーンは,アミノ基の吸着能力を生かして繊維油剤,艶出し剤,塗料添加剤および樹脂改質用おいるとして用いられている。アミノ基の種類としては,アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)イミノプロピル基,アミノフェノキシメチル基などがあげられ,さらにこれらのアミノ基を二級,三級,四級アンモニウム塩などにしたものが挙げられる。(第165ページ下から第11?6行) 3 甲号証に記載された発明 (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の請求項1、6には、それぞれ「1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤」、「シリコーン化合物と、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のシリコーン化合物用溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布溶液。」が記載されているから(摘記1a参照)、甲第1号証には、「シリコーン化合物と、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むシリコーン化合物用溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布溶液。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4 対比・判断 (1)本件特許発明1について ア 引用発明との対比 本件特許発明1と引用発明を対比する。 引用発明のシリコーン化合物は、主としてシリコーンオイルを予定したものであって(摘記1dの【0046】参照)、当該技術分野の技術常識(例えば、甲第2号証参照)に照らせば、注射針の針管部や、ディスペンサー(液体定量噴出装置)のスプリングやバネ部分等、注射針の針管部などに適用できるものであるから(摘記1c参照)、潤滑剤であることは明らかであり、引用発明の「シリコーン化合物塗布溶液」は、本件特許発明1の「潤滑剤溶液」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と引用発明は、「シリコーンオイルを含む潤滑剤と、溶剤とを含み、 前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンであることを特徴とする潤滑剤溶液。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 潤滑剤が、本件特許発明1では分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなるであると特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 <相違点2> 溶剤が、本件特許発明1では1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体と1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であることが特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 イ 相違点についての検討 相違点について検討する。 <相違点1>について 甲第2号証には、軸潤滑剤である湿分硬化性シリコーンの組成物としてアミンを末端基とする有機シロキサンコポリマーであるダウMDX4-4159が記載されており(摘記2a参照)、ダウMDX4-4159は、本願明細書【0089】に記載されるように、本件特許発明1で実際に使用されるジアミン変性シリコーンオイルである。 しかし、甲第2号証ではダウMDX4-4159は、ダウ360シリコーンと混合での使用のみが記載されており(摘記2a参照)、ダウMDX4-4159のみを潤滑剤として使用することは記載も示唆もされていない。 また、甲第3号証にはN-(β-アミノエチル)イミノプロピル基を有するシリコーンオイルが記載されているが(摘記3a参照)、N-(β-アミノエチル)イミノプロピル基を有するシリコーンオイルは本件特許発明1の分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルに相当するものではない。 そうすると、引用発明の潤滑剤であるシリコーン化合物塗布溶液において、潤滑剤として分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなるものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。 <相違点2>について 甲第1号証には1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンとしてシス体(Z体)を使用することができることが記載されており(摘記1c参照)、実施例においてシス体(Z体)が使用されたことが記載されている(摘記1e参照)。 また、甲第1号証には、HFE類とシリコーン化合物の相溶性を向上させるために、ノルマルへキサンなどの炭化水素類やアルコール類などを15?60質量%添加する方法(特許文献2)が記載されていることから(摘記1b参照)、シリコーン化合物の相溶性を向上させるためにアルコール類を添加するのは従来から知られている技術であることがわかる。 しかし、上記アルコール類などを15?60質量%添加するという記載からみて、溶剤中のアルコール類以外のものは溶剤100質量%のうちの残りの量であることからすると、引用発明において、本件特許発明1のように、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体と1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体に可溶な有機溶剤とを含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 ウ 特許異議申立人の意見について 特許異議申立人は、「引用発明と甲第2号証では、技術分野が関連し、課題が共通し、作用や機能が共通し、更に甲第1号証は、引用発明を医療用器具に適用することが好ましいという記述によって甲第2号証の技術事項を適用するに足る十分な示唆を与えている。よって引用発明に甲第2号証の記載事項を組み合わせることについて十分な動機付けが存在するといえる。 ・・・ ダウMDX4-4159にはアルコール類が含まれる。 ・・・ 引用発明に甲第2号証に記載された技術的事項を適用することで相違点に到達する。 ・・・ 甲第2号証には、ダウMDX4-4159として分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルが開示されている。このことから、引用発明に甲第2号証に記載された技術事項を適用することで、相違点に到達する。」と主張する。 しかし、イ<相違点1>についてで検討したとおり、潤滑剤として分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなるものを採用することは、当業者が容易に想到し得ることではないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 エ 小括 したがって、本件特許発明1は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2は、本件特許発明1において「潤滑剤の割合が、潤滑剤溶液の100質量%のうち、0.01?50質量%であり、溶剤の割合が、潤滑剤溶液の100質量%のうち、50?99.99質量%である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (3)本件特許発明3について 本件特許発明3は、本件特許発明1において「潤滑剤溶液が、架橋剤をさらに含み、前記架橋剤がアミン基含有アルコキシシランまたはその多量体である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明3は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (4)本件特許発明7について 本件特許発明7は、本件特許発明1において「溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類とを含み、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、アルコール類が1?10%である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明7は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (5)本件特許発明8について 本件特許発明8は、本件特許発明7において、「アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明8は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (6)本件特許発明9について 本件特許発明9は、「下記の工程(a)および工程(b)を有する、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 (a)本件特許発明1?3、および、7?8の潤滑剤溶液を物品表面に塗布する工程。 (b)前記物品の表面に塗布された前記潤滑剤溶液から前記溶剤を蒸発させ、前記物品の表面に前記潤滑剤を含む塗膜を形成する工程。」である。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明9は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (7)本件特許発明10について 本件特許発明10は、本件特許発明9において「潤滑剤塗膜が0.01μm?500μmの膜厚である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明10は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (8)本件特許発明11について 本件特許発明11は、本件特許発明10において「潤滑剤塗膜中の潤滑剤の量が0.01μg/cm^(2)?500μg/cm^(2)である」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明11は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 (9)本件特許発明12について 本件特許発明12は、本件特許発明10において「物品が、注射針またはカテーテルである」と特定するものである。 そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明12は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものではない。 第5 令和2年5月1日に特許異議申立人が提出した意見書の特許異議申立理由について 特許異議申立人は、本件明細書の例36に用いられている「MDX4-4159」にはアルコール類が元来含まれており、例36は本件特許発明に含まれることとなるが、保存安定性が悪いことが示されていることから、本件特許発明が発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を逸脱していると主張する。 しかし、本件請求項1に係る発明は、潤滑剤と溶剤とを含む潤滑剤溶液であって、前記溶剤が1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と前記Z異性体に可溶な有機溶剤であるアルコール類を含み、前記溶剤の100質量%のうち1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が90質量%以上であること、すなわち溶剤のうちのアルコール類は残部以下であることを特定しているのであるから、たとえ潤滑剤である「MDX4-4159」中にアルコール類が含まれていたとしても、溶剤中のアルコール類の割合には影響されないことが明らかであって、例36は本件特許発明に含まれないことは明らかである。 加えて、本件特許発明の課題は、本件明細書【0005】からみて、地球環境に悪影響を及ぼさず、物品への塗布性に優れた潤滑剤溶液、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法、および潤滑剤塗膜付き物品を提供することにあると認められ、保存安定性を示すことまで求められるものではないから、いずれにしても特許異議申立人の上記主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、令和2年1月14日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び令和2年5月1日に特許異議申立人が提出した意見書の特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3、7?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3、7?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件請求項4?6に係る特許は訂正により削除されたため、本件特許の請求項4?6に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 分子中にアルコキシ基を有するジアミン変性シリコーンオイルのみからなる潤滑剤と、溶剤とを含み、 前記溶剤が、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶材とを含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体に可溶な有機溶剤がアルコール類を含み、 前記1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体の割合が、前記溶剤の100質量%のうち、90質量%以上であることを特徴とする潤滑剤溶液。 【請求項2】 前記潤滑剤の割合が、前記潤滑剤溶液の100質量%のうち、0.01?50質量%であり、前記溶剤の割合が、前記潤滑剤溶液の100質量%のうち、50?99.99質量%である、請求項1に記載の潤滑剤溶液。 【請求項3】 前記潤滑剤溶液が、架橋剤をさらに含み、前記架橋剤がアミン基含有アルコキシシランまたはその多量体である、請求項1または2に記載の潤滑剤溶液。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体と、前記アルコール類の合計100質量%のうち、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンのZ異性体が90?99%、前記アルコール類が1?10%である、請求項1?3のいずれか一項に記載の潤滑剤溶液。 【請求項8】 前記アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルコール類である、請求項7に記載の潤滑剤溶液。 【請求項9】 下記の工程(a)および工程(b)を有する、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 (a)請求項1?3、および、7?8のいずれかの潤滑剤溶液を物品表面に塗布する工程。 (b)前記物品の表面に塗布された前記潤滑剤溶液から前記溶剤を蒸発させ、前記物品の表面に前記潤滑剤を含む塗膜を形成する工程。 【請求項10】 前記潤滑剤塗膜が0.01μm?500μmの膜厚である、請求項9に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 【請求項11】 前記潤滑剤塗膜中の潤滑剤の量が0.01μg/cm^(2)?500μg/cm^(2)である、請求項10に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 【請求項12】 前記物品が、注射針またはカテーテルである、請求項10または11に記載の潤滑剤塗膜付き物品の製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2020-06-30 |
出願番号 | 特願2015-169381(P2015-169381) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A61L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 伊藤 基章 |
特許庁審判長 |
天野 斉 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 瀬下 浩一 |
登録日 | 2019-04-12 |
登録番号 | 特許第6507943号(P6507943) |
権利者 | AGC株式会社 |
発明の名称 | 潤滑剤溶液、潤滑剤塗膜付き物品の製造方法、および潤滑剤塗膜付き物品。 |
代理人 | 竹本 洋一 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 竹本 洋一 |
代理人 | 伊東 秀明 |
代理人 | 蜂谷 浩久 |
代理人 | 伊東 秀明 |