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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1364922
異議申立番号 異議2019-700303  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-17 
確定日 2020-07-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6407707号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6407707号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について、訂正することを認める。 特許第6407707号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6407707号(設定登録時の請求項の数は4。以下、「本件特許」という。)は、平成26年12月25日を出願日とする特願2014-262044号に係るものであって、平成30年9月28日にその特許権が設定登録され、同年10月17日に特許掲載公報が発行された。
特許異議申立人 平田和恵(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成31年4月17日、本件特許の請求項1ないし4に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、令和1年7月22日付けで取消理由が通知され、同年9月20日に特許権者から訂正請求書及び意見書が提出され、同年10月8日付けで異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をしたところ、異議申立人は、同年11月5日に意見書を提出した。
当審において、令和1年12月5日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、令和2年2月5日に特許権者から意見書が提出されると共に訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出されたので、同年月日付けで異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をしたところ、同年3月30日に異議申立人から意見書が提出された。
なお、令和1年9月20日提出の訂正請求書は取り下げられたものとみなされる。(特許法第120条の5第7項)

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである。ここで、訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1?4の一群の請求項に係る訂正である。なお、下線は、訂正箇所に合議体が付したものである。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1ゴム層が、前記カーカスプライの巻き上げ部と前記ビードフィラーとの間に前記ビードフィラーと接触させて設けられている」と記載されているのを、「前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びている」に訂正する。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様に訂正する。

イ 訂正事項2
明細書の段落【0007】に「前記第1ゴム層が、前記カーカスプライの巻き上げ部と前記ビードフィラーとの間に前記ビードフィラーと接触させて設けられていることを特徴とする」と記載されているのを、「前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びていることを特徴とする」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1の訂正における、「前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、」を加える点については、ビードフィラーの構成をより特定するものであり、また、訂正事項1の訂正における、「前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ」と訂正する点及び「前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びている」と訂正する点については、訂正前の請求項1では、第1ゴム層が、カーカスプライの巻き上げ部とビードフィラーとの間にビードフィラーと接触させて設けられていること、及び、カーカスプライの巻き上げ部とビードフィラーとの間にビードフィラーと接触させて設けられていることのみを特定していたものを、第1ゴム層の配置に関する構成をより限定するものであるから、訂正事項1の請求項1についての訂正の目的は、特許請求の範囲の減縮に該当する。

イ 訂正事項1の請求項1についての訂正は、明細書の段落【0016】、【0022】、【0023】、【0027】及び図2の記載から、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないと判断されるから、明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についての訂正も同様である。

(2) 訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正するものであって、その目的は、明瞭でない記載の釈明に該当する。

イ 訂正事項2は、訂正事項1と同様に、明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?4]について、訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、令和2年2月5日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライと、前記カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と、前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカスプライ及び前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設された第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられ前記第1ゴム層より100%伸長時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層と、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に設けられた有機繊維コードを含む繊維補強層とを備え、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、
前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、
更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、
前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側において、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端が、前記ビードコアの中心よりタイヤ径方向外方に位置し、前記繊維補強層が、前記カーカスプライのタイヤ径方向外側端よりタイヤ径方向外方の位置から前記ビードコアの中心よりタイヤ径方向内方の位置まで設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記繊維補強層は、前記金属補強層の外側においてタイヤ軸方向外側から内側に巻き上げられ、
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向内側において、前記繊維補強層のタイヤ径方向外側端が、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端よりタイヤ径方向内方で終端することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側において、前記カーカスプライのタイヤ径方向外側端と、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端とが、タイヤ径方向に異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。」

第4 特許異議申立書に記載した理由の概要

平成31年4月17日に異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(特許法第29条第2項:甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由2(特許法第29条第2項:甲4に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証 :特開2013-1223号公報
甲第2号証 :特開平5-77616号公報
甲第3号証 :特開昭63-110006号公報
甲第4号証 :特開2009-101943号公報

第5 取消理由<決定の予告>の概要

本件訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和1年12月5日に特許権者に通知した取消理由<決定の予告>は、概ね次のとおりである。なお、当該取消理由は、概ね、特許異議申立書に記載の申立理由と同旨である。

「本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、その発明に係る特許は、取り消されるべきものである。

・・・
第2 刊行物
特開2013-1223号公報(甲第1号証)
特開平5-77616号公報(甲第4号証)
・・・
第6 当審の判断
・・・
1 本件発明1ないし4に対する甲1に基づく取消理由(進歩性)について
・・・
(8) まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1ないし4は、甲1発明及び甲4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・・
2 本件発明1ないし4に対する甲1に基づく取消理由(進歩性)について
・・・
(7) まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1ないし4は、甲4発明及び甲1に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・・」

第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断

当合議体は、以下述べるように、上記取消理由<決定の予告>(甲1に基づく進歩性、甲4に基づく進歩性)には、理由がないと判断する。

1 本件発明1ないし4に対する甲1に基づく取消理由 (進歩性)について
(1) 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたゴムフィラーと、前記ビードコアの回りで内側から外側に巻き上げられたカーカスプライと、前記ビードコアの回りで巻き上げられて前記カーカスプライの外側に配置されたチェーファとを備え、
前記ゴムフィラーが、前記ビードコアを包囲する断面丸型の下部フィラーと、その下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置され、前記下部フィラーよりもゴム硬度が低い上部フィラーとを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記チェーファが金属コードを含んでなるとともに、前記カーカスプライの巻き上げ端が、前記下部フィラーの上端及び前記チェーファの巻き上げ端よりもタイヤ径方向外側に配置されていて、
前記カーカスプライの巻き上げ端を挟み込むようにして、前記上部フィラーよりもゴム硬度の高いゴムパッドが設けられ、そのゴムパッドが、前記カーカスプライの巻き上げ部の内側に接しつつ前記下部フィラーの上端よりもタイヤ径方向内側に延びていることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、カーカスプライの巻き上げ部の内側箇所におけるセパレーションを抑制して、ビード部の耐久性に優れた空気入りラジアルタイヤを提供することにある。」

ウ 「【0018】
このタイヤTは、一対のビード部1と、ビード部1からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部3とを備える。ビード部1には、ゴム被覆したビードワイヤを積層巻回した収束体よりなる環状のビードコア1aと、そのビードコア1aのタイヤ径方向外側に位置するゴムフィラー1bとが配設されている。
【0019】
カーカスプライ4は、一対のビード部1に配設されたビードコア1a間で延在し、そのビードコア1aの回りに内側から外側に巻き上げられている。ビードコア1a又はゴムフィラー1bのタイヤ軸方向外側には、カーカスプライ4の巻き上げ部が配置され、その先端が巻き上げ端4Eとなる。カーカスプライ4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列したプライコードを、トッピングゴムで被覆して形成されている。プライコードとしては、スチールコードや有機繊維コードが好適に使用される。」

エ 「【0021】
チェーファ6は、ビードコア1aの回りで巻き上げられてカーカスプライ4の外側に配置されている。6Eは、チェーファ6の巻き上げ端である。本実施形態のチェーファ6は、カーカスプライ4を包むように内側から外側に巻き上げられているが、これに限らず、ビードコア1aのタイヤ径方向内側の位置から巻き上げても構わない。チェーファ6は、スチールコード(金属コードの一例)を含んでなるスチールチェーファで構成されている。スチールコードは、タイヤ周方向に対して斜め(例えば、傾斜角度が20?50°)に配列され、トッピングゴムにより被覆されている。」

オ 「【0023】
巻き上げ端4Eは、ゴムフィラー1bの中腹部の高さに位置し、下部フィラー11の上端11T及びチェーファ6の巻き上げ端6Eよりもタイヤ径方向外側に配置されている。また、その巻き上げ端4Eを挟み込むようにして、上部フィラー12よりもゴム硬度の高いゴムパッド13が設けられている。図2,3に拡大して示すように、ゴムパッド13は、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側に接しつつ、上端11Tよりもタイヤ径方向内側に延びている。これにより、ビード部1におけるタイヤ径方向での剛性段差を緩和して、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側箇所でのセパレーションの発生を抑制できる。」

カ 「【0025】
また、本実施形態では、ゴムフィラー1bのタイヤ軸方向外側に、ゴム硬度56?80のパッド7が配置されている。パッド7は、上部フィラー12と共にゴムパッド13を挟み込んでいる。カーカスプライ4の巻き上げ端4Eに作用する歪みを低減する観点から、パッド7には上部フィラー12と同配合のゴム材料、若しくはそれ以上の硬度を有するゴム材料を用いることが好ましい。
【0026】
下部フィラー11のゴム硬度は85?95が好ましく、90?95がより好ましい。かかる硬質ゴムで下部フィラー11を形成することで、カーカスプライ4の倒れ込みを低減して巻き上げ端4Eのせん断歪みを低減できる。上部フィラー12のゴム硬度は56?66が好ましく、60?66がより好ましい。これにより、ビード部1全体の剛性を確保しながら、巻き上げ端4Eへの応力集中を抑えられる。ゴムパッド13のゴム硬度は68?78が好ましく、これによりビード部1におけるタイヤ径方向の剛性段差を緩和できる。」

キ 「【0035】
図4は、本発明の別実施形態におけるビード部1を示す断面図である。この例では、ゴムパッド13が、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側で、タイヤ径方向内側に向けて厚みを増しつつ下部フィラー11に接している。かかる構成によれば、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側をゴムパッド13で覆いつつ、そのゴムパッド13の厚みを確保して、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側箇所でのセパレーションを効果的に抑制できる。」

ク 「



(2) 甲1に記載された発明
甲1には、特許請求の範囲の請求項1、段落【0023】、【0025】、【0026】、【0035】、図1?4(上記(1)アないしク)の記載(特に図4)から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「ビード部に埋設されたビードコアと、
前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたゴムフィラーと、
前記ビードコアの回りで内側から外側に巻き上げられたカーカスプライと、
前記ビードコアの回りで巻き上げられて前記カーカスプライの外側に配置されたチェーファとを備え、
前記ゴムフィラーが、前記ビードコアを包囲する断面丸型の下部フィラーと、その下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置され、前記下部フィラーよりもゴム硬度が低い上部フィラーとを有する空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記チェーファが金属コードを含んでなるとともに、前記カーカスプライの巻き上げ端が、前記下部フィラーの上端及び前記チェーファの巻き上げ端よりもタイヤ径方向外側に配置されていて、
カーカスプライの巻き上げ端を挟み込むようにして、上部フィラーよりもゴム硬度の高いゴムパッド(好ましいゴム硬度は68?78)が下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って上部フィラーに接触して設けられ、ゴムパッドは、カーカスプライの巻き上げ部の内側に接しつつ、上端よりもタイヤ径方向内側に延びており、
ゴムフィラーのタイヤ軸方向外側に、上部フィラー(好ましいゴム硬度は56?66)と同配合のゴム材料のパッドが設けられている、空気入りラジアルタイヤ。」

(3) 甲4の記載と甲4に記載された技術事項
ア 甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。

(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
対をなすビードコアと、これらビードコア間をトロイダル状に延びる本体部およびビードコアの回りに内側から外側に向かって折返された折返し部からなるカーカス層と、カーカス層の軸方向両外側に配置されたサイドトレッドと、少なくとも前記折返し部を覆うよう配置され、内部に多数本の互いに平行な補強コードが埋設された補強層と、前記ビードコアの周囲でカーカス層および補強層を覆うよう配置されるとともに、空気入りタイヤが組み付けられるリムと補強層との間に介装されたゴムチェーファーとを備え、補強層に対する法線のうちビードヒールを通過する直線Lと該補強層とが交差する点をAとし、前記補強層に対する法線のうちリムのリムフランジとゴムチェーファーとの離反点Rを通る直線Mと補強層とが交差する点をBとした重荷重用空気入りタイヤにおいて、いずれかの補強層の半径方向外端が点B上またはこれより半径方向外側に位置しているとき、該補強層とゴムチェーファーとの間に、少なくとも点Aから点Bまで延在し、100%モジュラス値がゴムチェーファーの100%モジュラス値より小さい緩衝ゴム層を配置したことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。」

(イ) 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようにカーカス層の折返し部の軸方向外側にスチール補強層、有機繊維補強層および該有機繊維補強層に密着した高モジュラスのゴムチェーファーを配置すると、前述のような負荷転動によってビード部、サイドウォール部が倒れ込み変形をしたとき、空気入りタイヤに向かって凸状に湾曲した弧状のリムフランジに押されて、ゴムチェーファーは厚さ方向に圧縮変形するとともに、押し除けられながら子午線方向両側に向かって変形する。このようなゴムチェーファーの子午線方向への変形により、リムフランジとゴムチェーファーとの離反点より半径方向内側の領域においてゴムチェーファーと有機繊維補強層との間に大きなせん断応力が発生し、これらの間に亀裂、セパレーションが発生することがあるという課題があった。
【0007】
この発明は、補強層とゴムチェーファーとの間に生じる亀裂、セパレーションを効果的に抑制することができる重荷重用空気入りタイヤを提供することを目的とする。」

(ウ) 「【0015】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1において、11はトラック、バス等に装着される重荷重用空気入りタイヤであり、この空気入りタイヤ11は、リム10に組み付けられた後、内部に空気が充填された状態で使用される。前記空気入りタイヤ11は一対のビード部13を有し、各ビード部13には対をなす(ここでは一対であるが、複数対のこともある)ビードコア12が埋設されている。また、前記空気入りタイヤ11は、これらビード部13から略半径方向外側に向かってそれぞれ延びるサイドウォール部14と、両サイドウォール部14の半径方向外端同士を連結する略円筒状のトレッド部とをさらに備えている。
【0016】
・・・
【0017】
また、前記空気入りタイヤ11はカーカス層18を有し、このカーカス層18は対をなすビードコア12間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部を補強する本体部19と、ビードコア12の回りに内側から外側に向かって折返されることにより、ビードコア12、本体部19より軸方向外側に配置されるとともに、前記本体部19にほぼ沿って延びる折返し部20とから構成されている。
【0018】
そして、前記カーカス層18は少なくとも1枚、ここでは1枚のカーカスプライ22から構成され、このカーカスプライ22内にはタイヤ赤道に対して70?90度のコード角で交差する、即ち、実質上ラジアル方向(子午線方向)に延び、互いに平行な非伸張性の補強コード、例えばスチールコードが多数本埋設されている。23は各折返し部20の半径方向外端部にこれを包み込むようにして配置されたゴム部材としてのプライエンドゴムであり、これらのプライエンドゴム23は耐亀裂成長性の良好なゴムから構成され、該部位における亀裂を抑制している。
【0019】
また、この空気入りタイヤ11は各ビードコア12からほぼ半径方向外側に向かって延びるスティフナー26を有し、これらスティフナー26の半径方向内側部は前記本体部19と折返し部20との間にこれらに密着した状態で配置され、また、その半径方向外側部は本体部19の軸方向外側にこれに密着した状態で配置されている。各スティフナー26は半径方向内側に位置し硬度の高いゴムからなる硬スティフナー部26aと、半径方向外側に位置し硬度が硬スティフナー部26aより低いゴムからなる軟スティフナー部26bとから構成されている。
【0020】
前記カーカス層18の軸方向両外側にはサイドトレッド28がそれぞれ配置され、また、前記カーカス層18の半径方向外側には図示していないベルト層およびトップトレッドが配置されている。さらに、カーカス層18の本体部19の内側にはインナーライナー29が配置されている。30はビード部13におけるカーカス層18の外側に重ね合わされた補強層としての1層の内側補強層であり、該内側補強層30の軸方向外側部30aは前記折返し部20を軸方向外側から、一方、その軸方向内側部30bは本体部19を軸方向内側からそれぞれ覆っており、この結果、前記内側補強層30は少なくとも折返し部20を覆っていることになる。
【0021】
前記内側補強層30の内部には多数本の互いに平行な補強コード、ここでは非伸張性のスチールコードが埋設されており、これらの補強コードは子午線方向に対して30?50度の角度で傾斜している。そして、このように内側補強層30は、前述のように内部にスチールコードが埋設されているので、通常、ワイヤーチェーファーと呼ばれている。
【0022】
33、34は互いに重ね合わされた2層の外側補強層であり、これら外側補強層33、34の内部には多数本の互いに平行な補強コード、ここでは有機繊維(ナイロン)コードが埋設されている。ここで、前記有機繊維コードは子午線方向に対して40?50度の角度で傾斜するとともに、外側補強層33、34において逆方向に傾斜し、互いに交差している。そして、このように外側補強層33、34は、内部にナイロンコードが埋設されているので、通常、ナイロンチェーファーと呼ばれている。
【0023】
前述した外側補強層33、34のうち、内側補強層30に密着している外側補強層33は内端がビードコア12の軸方向内側まで延在する一方、外端がリム10のリムフランジ10aと空気入りタイヤ11(詳しくは後述のゴムチェーファー)との離反点Rよりかなり半径方向外側まで延在している。一方、外側補強層33の外側に密着している外側補強層34は内端がビードコア12の半径方向内側まで延在する一方、外端が前記外側補強層33の半径方向外端より若干半径方向外側まで延在している。この結果、補強層としての外側補強層33、34は、少なくともカーカス層18の折返し部20を軸方向外側から覆うよう配置、ここでは、前記折返し部20に加え、内側補強層30の軸方向外側部30a、プライエンドゴム23、スティフナー26を軸方向外側から覆うよう配置されていることになる。」

(エ) 「【0028】
ここで、点Aとは、補強層、ここでは最外側に位置する外側補強層34に対する法線のうち、空気入りタイヤ11のビードヒール39を通過する直線Lと、該最外側に位置する外側補強層34の外表面とが交差する点をいい、点Bとは、補強層、ここでは最外側に位置する外側補強層34(最外側の補強層が離反点Rまで届かず途中で終了している場合にはその延長形状)に対する法線のうち、前記離反点Rを通る直線Mと、該最外側に位置する外側補強層34の外表面とが交差する点をいい、通常の重荷重用空気入りタイヤ11では前記点Aから空気入りタイヤ11の外表面に沿って半径方向外側に30mmだけ離れた点である。
・・・
【0031】
このように低モジュラスの緩衝ゴム層(ここではサイドトレッド28)をA、B点間の領域において外側補強層34とゴムチェーファー37(外側部37a)との間に配置すると、該緩衝ゴム層(少なくとも点A、B間のサイトレッド28)が前述のせん断応力を効果的に緩和し、これにより、これらの間に発生する亀裂、セパレーションが効果的に抑制される。そして、このようにサイドトレッド28を半径方向内側に延長することで緩衝ゴム層を成形するようにすれば、特別なゴム層を設ける必要がないため、空気入りタイヤ11を安価でかつ容易に製造することができる。」

(オ) 「【0036】
さらに、前述のようにゴムチェーファー37の100%モジュラス値が3.5?7.0MPaの範囲内であるときには、緩衝ゴム層(サイドトレッド28)の100%モジュラス値を1.0?2.0MPaの範囲内とすることが好ましい。その理由は、前記値が1.0MPa以上であると、ビードコア12の変位増大に基づく折返し部20の半径方向外端でのセパレーションの増大を容易に抑制することができ、一方、 2.0MPa以下であると、補強層(外側補強層34)とゴムチェーファー37との間に生じる亀裂、セパレーションを強力に抑制することができるからである。」

(カ) 「



イ 甲4に記載の技術事項
甲4の【0015】、【0017】?【0023】、【0031】、【0036】及び図1(上記ア(ア)ないし(カ))から、次の事実を認めることができる。

<甲4に記載の技術事項>
甲4には、空気入りタイヤのビード部に関する技術分野であって、補強層とゴムチェーファーとの間に生じる亀裂、セパレーションを効果的に抑制することを課題とした、ビード部の耐久性の向上を目的とする以下の技術が開示されている。
カーカス層18(カーカスプライ)の外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたスチールコードが埋設された内側補強層30と、スティフナー26a,26b(ビードフィラー)のタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカス層18(カーカスプライ)及び前記内側補強層30のタイヤ径方向外側端部が埋設されたプライエンドゴム23と、前記プライエンドゴム23のタイヤ軸方向外側に設けられた低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28と、プライエンドゴム23と前記低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28との界面に設けられた有機繊維コードが埋設された外側補強層33(有機繊維コードを含む繊維補強層)が内側補強層に密着して設けられていること。

(4) 本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ビード部」、「ビードコア」、「ゴムフィラー」、「上部フィラー」、「下部フィラー」は、それぞれ、本件発明1における「ビード部」、「ビードコア」、「ビードフィラー」、「上部フィラー」、「下部フィラー」に相当し、甲1発明も「ビード部に埋設されたビードコアと、ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと」を有しているといえる。
甲1発明の「カーカスプライ」は、「プライコードを、トッピングゴムで被覆してなるカーカスプライ」(段落【0019】)であるから、本件発明1における「プライコードを含むカーカスプライ」に相当し、甲1発明も「ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライ」を有している。
甲1発明の「金属コードを含んでなる」「チェーファ」は、本件発明1における「金属コードを含む金属補強層」に相当し、甲1発明においても「カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と」を有している。
甲1発明の「ゴムパッド(好ましい硬度は68?78)」は、本件発明1における「第1ゴム層」に相当し、甲1の「ゴムパッド13が、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側で、タイヤ径方向内側に向けて厚みを増しつつ下部フィラー11に接している」(段落【0035】)及び図4の記載からみて、甲1発明のゴムパッド(第1ゴム層)に、カーカスプライのタイヤ径方向外側端部が埋設されているといえるとともに、甲1のゴムパッド(第1ゴム層)は、ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ、また、下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿ってカーカスプライの巻き上げ部とビードフィラーとの間に上部フィラーと接触させて設けられているといえる。
また、甲1発明の「ゴムパッド」は、「ビード部1におけるタイヤ径方向での剛性段差を緩和して、カーカスプライ4の巻き上げ部の内側箇所でのセパレーションの発生を抑制」(段落【0023】)するもので、「巻き上げ端4E,6Eの各々にエッジテープをU字状に取り付けており、それらを起点としたセパレーションの発生及び進展の抑制を図っている」(段落【0024】)のであるから、巻き上げ端6E(本件発明1の「金属補強層のタイヤ径方向外側端部」)からのセパレーションの発生を抑制するために設けられたものともいえ、さらに図1ないし4を併せ見れば、甲1発明の「ゴムパッド」に、「金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設されている」といえる。
甲1発明の「パッド」は、本件発明1における「第2ゴム層」に相当し、図1及び図4からみて、甲1発明の「パッド」(第2ゴム層)も「前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられ」ているといえる。
甲1発明の「空気入りラジアルタイヤ」は、本件発明1における「空気入りタイヤ」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライと、前記カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と、前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカスプライ及び前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設された第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられている第2ゴム層とを備え、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、
前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記ビードフィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられている空気入りタイヤ。」

の点で一致し、下記の相違点1ないし3で相違する。

<相違点1>
第1ゴム層と第2ゴム層のゴムの性質に関し、本件発明1は、「第1ゴムより100%伸張時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層」と特定するのに対し、甲1発明においては、この点を特定しない点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に設けられた有機繊維コードを含む繊維補強層とを備え」、「前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びている」と特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。
<相違点3>
第1ゴム層に関し、本件発明1は、「前記第1ゴム層が、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ」ていると特定するのに対し、甲1発明は、この点を特定しない点。

事案に鑑み、相違点3から検討する。
相違点3に係る第1ゴム層に係る発明特定事項、特に「前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ」ている点については、甲1、甲4及び他の証拠のいずれにも記載されていない(甲1の図1ないし図3において、第1ゴム層に相当する「ゴムパッド(13)」は、「チェーファ(6)」(金属補強層)の端部を取り囲んでいるように見えるが、そのゴムパッド(13)は、ビードコアのタイヤ軸方向外側から設けられてはいない。)。
そうすると、相違点3の発明特定事項は、いずれの文献にも記載されておらず、甲1発明において、ゴムパッド(第1ゴム層)を当該相違点3に係る構成とする動機もないから、当業者において想到容易とはいえない。

したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) 本件発明2ないし4と甲1発明との対比・判断
本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6) まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1ないし4は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、甲1に基づく取消理由は、理由がない。

2 本件発明1ないし4に対する甲4に基づく取消理由 (進歩性)について
(1) 甲4に記載された事項
甲4には、上記1(3)ア(ア)ないし(ク)のとおりの事項が記載されている。

(2) 甲4に記載された発明
甲4の【0015】、【0017】?【0023】、【0031】(上記1(3)ア(ウ)及び(エ))の記載を整理すると、
「ビード部には、ビードコア12が埋設され、
ビードコア12からほぼ半径方向外側に向かって延びるスティフナー26を有し、
スティフナー26は半径方向内側に位置し硬度の高いゴムからなる硬スティフナー部26aと、半径方向外側に位置し硬度が硬スティフナー部26aより低いゴムからなる軟スティフナー部26bとから構成され、
ビードコア12の回りに内側から外側に向かって折返されるカーカス層18と、
ビード部13におけるカーカス層18の外側に重ね合わされ、その軸方向外側部30aはカーカス層18の折返し部20を軸方向外側から、一方、その軸方向内側部30bはカーカス層18の本体部19を軸方向内側からそれぞれ覆っている補強層としての1層の内部にスチールコードが埋設されている内側補強層30と、
カーカス層18の折返し部20の半径方向外端部にこれを包み込むようにして配置された耐亀裂成長性の良好なゴムから構成されたプライエンドゴム23と、
A、B点間の領域(ここで、点Aとは、補強層、ここでは最外側に位置する外側補強層34に対する法線のうち、空気入りタイヤ11のビードヒール39を通過する直線Lと、該最外側に位置する外側補強層34の外表面とが交差する点をいい、点Bとは、補強層、ここでは最外側に位置する外側補強層34に対する法線のうち、前記離反点Rを通る直線Mと、該最外側に位置する外側補強層34の外表面とが交差する点をいう。)において外側補強層34とゴムチェーファー37(外側部37a)との間に配置された低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28と、
少なくともカーカス層18の折返し部20を軸方向外側から覆うよう配置し、前記折返し部20に加え、内側補強層30の軸方向外側部30aに密着して設けられ、プライエンドゴム23、スティフナー26を軸方向外側から覆うよう配置されている有機繊維コードが埋設されている外側補強層33、34とを備えた、
空気入りタイヤ。」
が記載されている。

ここで、上記摘示箇所(1(3)ア(ウ)及び(エ))に記載のタイヤの「ビードコア12からほぼ半径方向外側に向かって延びるスティフナー26」とは、ビードコア12のタイヤ径方向外側に配置されたスティフナー26と同義であり、図1からみると、硬スティフナー部26aは、ビードコアを包囲している。
また、甲4の図1を併せ見れば、上記摘示箇所(上記1(3)ア(ウ)及び(エ))に記載のタイヤのプライエンドゴム23は、スティフナ-26のタイヤ軸方向外側に設けられているといえ、また、「プライエンドゴム23は耐亀裂成長性の良好なゴムから構成され、該部位における亀裂を抑制している。」(段落【0018】)との記載と図1からみて、カーカス層の折返し部20の半径方向外端部を包み込んでいるから、プライエンドゴム23には、カーカス層の折返し部20の半径方向外端部が埋設されているといえる。
また、上記摘示箇所(1(3)ア(ウ)及び(エ))に記載のタイヤのプライエンドゴム23は、図1からみて、タイヤ径方向外方に向けて軟スティフナー26bのタイヤ軸方向外側に沿って、カーカスプライの巻き上げ部と前記軟スティフナー26bとの間に前記軟スティフナ-26bと接触させて設けられていることも明らかである。
さらに、上記摘示箇所(1(3)ア(ウ)及び(エ))の記載と図1を併せ見れば、上記摘示箇所(1(3)(ウ)及び(エ))に記載のタイヤの外側補強層33、34は、プライエンドゴム23と緩衝ゴム層であるサイドトレッド28との界面に設けられていて、プライエンドゴムと緩衝ゴム層であるサイドトレッド28との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方に延びているといえるし、同じく低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28は、プライエンドゴム23のタイヤ軸方向外側に設けられていることも明らかである。

以上を踏まえると、甲4には、以下の発明(甲4発明)が記載されているといえる。
「ビード部に埋設されたビードコア12と、
ビードコア12のタイヤ径方向外側に配置されたスティフナー26と、
スティフナーは、ビードコアを包囲する半径方向内側に位置し硬度の高いゴムからなる硬スティフナー部26aと、半径方向外側に位置し硬スティフナー部26aより硬度の低いゴムからなる軟スティフナー部26bとから構成され、
ビードコア12の周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたカーカス層18と、
カーカス層18の外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたスチールコードが埋設された内側補強層30と、
スティフナー26のタイヤ軸方向外側に設けられカーカス層18及び内側補強層30のタイヤ径方向外側端部が埋設されたプライエンドゴム23と、
プライエンドゴム23タイヤ軸方向外側に設けられ、低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28と、
プライエンドゴム23とサイドトレッド28との界面に設けられ、内側補強層30に密着して設けられた有機繊維コードが埋設された外側補強層33,34とを備え、
プライエンドゴム23が、タイヤ径方向外方に向けて軟スティフナー26bのタイヤ軸方向外側に沿って、カーカスプライの巻き上げ部と前記軟スティフナー26bとの間に前記軟スティフナ-26bと接触させて設けられていて、
外側補強層33,34がプライエンドゴム23と緩衝ゴム層であるサイドトレッド28との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方に延びている、
空気入りタイヤ。」

(3) 甲1に記載されている技術事項
甲1には、上記1(1)アないしクの事項が記載されており、そのうちの段落【0035】及び図4(上記1(1)キ及びク)から、次の事実を認めることができる。

<甲1に記載の技術事項>
甲1には、空気入りタイヤのビード部に関する技術分野であって、カーカスプライの巻き上げ部の内側箇所におけるセパレーションを抑制して、ビード部の耐久性に優れた空気入りタイヤを提供するものにおいて、カーカスプライの巻き上げ部の内側箇所でのセパレーションを効果的に抑制できるゴムパッドの具体的な形状として、カーカスプライの巻き上げ端を挟み込むようにして、上部フィラーよりもゴム硬度の高いゴムパッド(好ましいゴム硬度は68?78)を下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って上部フィラーに接触して設ける技術。

(4) 本件発明1と甲4発明との対比・判断
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「スティフナー26」、「硬スティフナー26a」、「軟スティフナー26b」、「カーカス層18」、「スチールコードが埋設された内側補強層30」、「有機繊維コードが埋設された外側補強層33,34」は、それぞれ、本件発明1における「ビードフィラー」、「下部フィラー」、「上部フィラー」、「プライコードを含むカーカスプライ」、「金属コードを含む金属補強層」、「有機繊維コードを含む繊維補強層」に相当する。
甲4発明の「プライエンドゴム23」、「低モジュラスの緩衝ゴム層であるサイドトレッド28」は、それぞれ、本件発明1における「第1ゴム層」、「第2ゴム層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライと、前記カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と、前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカスプライのタイヤ径方向外側端部が埋設された第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられた第2ゴム層と、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に設けられた有機繊維コードを含む繊維補強層とを備え、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、
前記第1ゴム層が、タイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、
前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びている空気入りタイヤ。」

の点で一致し、下記の相違点4及び5で相違する。

<相違点4>
第1ゴム層に関し、本件発明1は、「下部フィラーから」と特定するとともに、さらに「金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設され」、「かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ」と特定するのに対し、甲4発明は、この点を特定しない点。
<相違点5>
第1ゴム層と第2ゴム層のゴムの性質に関し、本件発明1は、「第1ゴムより100%伸張時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層」と特定するのに対し、甲4発明は、この点を特定しない点。

事案に鑑み、相違点4から検討する。
相違点4の発明特定事項、特に「前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ」ている点は、いずれの文献にも記載されておらず、外側補強層が内側補強層に密着して設けられている甲4発明において、プライエンドゴム23(第1ゴム層)をビードコアのタイヤ軸方向外側部分まで内側補強層と外側補強層との間に設けようとすること、すなわち、「ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設け」ることには阻害要因がある。
よって、甲4発明において、当該相違点4に係る構成とすることは、当業者において想到容易とはいえない。

したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明、すなわち、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5) 本件発明2ないし4と甲4発明との対比・判断
本件発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載されている発明特定事項を全て有するものであることから、本件発明1と同様に、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6) まとめ
上記のとおりであるから、本件発明1ないし4は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、甲4に基づく取消理由は、理由がない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、当審において通知した取消理由<決定の予告>、及び、特許異議申立書に記載の申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
空気入りタイヤ
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ、とりわけ重荷重用空気入りタイヤにおいては、ビード部の耐久性を向上することが求められる。ビード部の耐久性を向上するためには、ビード部の変形を抑制することにより、カーカスプライの巻き上げ端での歪みを低減させることが有効である。そのため、特許文献1には、カーカスプライの巻き上げ部に沿って、チェーファと呼ばれる補強層を設けた空気入りタイヤが開示されている。
【0003】
特許文献1には、このような補強層として金属コードを含む金属補強層をカーカスプライの巻き上げ部に設けるとともに、カーカスプライの巻き上げ端部を挟み込むようにしてビードフィラーよりもゴム硬度の高いゴムパッド層を設けた空気入りタイヤが開示されているが、更なるビード部の耐久性向上が望まれている。
【0004】
そこで、特許文献2及び3には、カーカスプライの巻き上げ部に沿って金属コードを含む金属補強層に加えて金属補強層の外側に沿って有機繊維を含む繊維補強層を設けた空気入りタイヤが開示されている。しかしながら、特許文献2及び3のように金属補強層に加えて繊維補強層をカーカスプライの巻き上げ部に沿って設けると、カーカスプライの巻き上げ端の近傍に複数の補強層の端部が近接しやすいため、端部が近接する位置にひずみ応力が集中してセパレーションが発生しやすくビード部の耐久性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2013-1223号公報
【特許文献2】 特開2008-290662号公報
【特許文献3】 特開2006-1433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、ビード部の耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤは、ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライと、前記カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と、前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカスプライ及び前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設された第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられ前記第1ゴム層より100%伸長時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層と、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に設けられた有機繊維コードを含む繊維補強層とを備え、前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーカスプライの外側に金属コードを含む金属補強層とともに有機繊維コードを含む繊維補強層を設けても、カーカスプライの巻き上げ端の近傍に歪み応力が集中しにくくビード部の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図である。
【図2】図1の空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
【図3】比較例1の空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
【図4】比較例2の空気入りタイヤのビード部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に示すタイヤ10は、本発明に係る空気入りタイヤ(以下、「タイヤ」という)の一例であり、規定リム1に装着した状態におけるタイヤ子午線断面が示されている。規定リム1装着時は、タイヤサイズに対応してJATMAで定められた標準となるリムに装着し、同じくタイヤサイズに対応してJATMAで定められる単輪最大負荷能力に対応する最高空気圧をかけた時の状態をさす。図2は、そのタイヤ10のビード部12を拡大して示す断面図である。
【0011】
なお、本明細書において、タイヤ軸方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であって、タイヤ幅方向と同義であり、図において符号Yで示し、タイヤ軸方向内側及び外側をそれぞれ符号Y1及びY2で示す。また、タイヤ径方向(ラジアル方向)とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、図において符号Zで示し、タイヤ径方向内側及び外側をそれぞれ符号Z1及びZ2で示す。
【0012】
本実施形態に係るタイヤ10は、左右一対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部14と、左右のサイドウォール部14の径方向外方端部同士を連結するように両サイドウォール部14間に設けられたトレッド部16とを備える。
【0013】
タイヤ10の内部には、一対のビード部12間にまたがって延びるカーカスプライ18が埋設されている。カーカスプライ18は、トレッド部16からサイドウォール部14を通って延在し、ビード部12において両端部が係止されている。トレッド部16におけるカーカスプライ18の外周側にはベルト20が設けられており、カーカスプライ18の外周でトレッド部16を補強する。カーカスプライ18は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に配列したプライコードをトッピングゴムで被覆してなる。プライコードとしては、スチールコードや有機繊維コードが用いられる。
【0014】
カーカスプライ18の内側には、タイヤ10の内周面を構成する耐空気透過ゴム層としてのインナーライナー22が設けられている。また、サイドウォール部14では、カーカスプライ18の外側に、タイヤ10の外壁面を構成するサイドウォールゴム24が設けられている。
【0015】
図2に拡大して示すように、ビード部12には、ゴム被覆したビードワイヤを積層巻回した収束体よりなる環状のビードコア26と、該ビードコア26のタイヤ径方向外側Z2に配置されたゴム製のビードフィラー28とが埋設されている。
【0016】
ビードフィラー28は、ビードコア26を包囲する断面丸形の下部フィラー28Aと、下部フィラー28Aのタイヤ径方向外側Z2に配置された上部フィラー28Bとを備える。上部フィラー28Bは、下部フィラー28Aよりも100%伸長時モジュラスが低いゴムから構成されている。上部フィラー28Bは、タイヤ径方向外側Z2に向けて細くなる先細形状をなしている。
【0017】
カーカスプライ18は、ビードコア26の周りにタイヤ軸方向内側Y1から外側Y2に巻き上げられている。詳細には、カーカスプライ18は、サイドウォール部14から延びる本体部18Aがビードコア26及びビードフィラー28のタイヤ軸方向内側面に沿って配され、ビードコア26のタイヤ径方向内側(図1及び2の下側)Z1を通ってタイヤ軸方向外側Y2に巻き上げられている。つまり、カーカスプライ18は、ビードコア26のタイヤ径方向内側Z1において折り返され、ビードコア26のタイヤ軸方向外側Y2が巻き上げ部18Bをなしている。
【0018】
カーカスプライ18の巻き上げ部18Bは、ビードコア26及びビードフィラー28の下部フィラー28Aのタイヤ軸方向外側面に沿って配され、下部フィラー28Aのタイヤ径方向外側において、第1ゴム層40を介在させて上部フィラー28Bのタイヤ軸方向外側Y2に沿って配されており、その先端(即ち、巻き上げ部18Bのタイヤ径方向外側端)が巻き上げ端18Eとなる。
【0019】
ビード部12におけるカーカスプライ18の周りには、金属コードを含む金属補強層32と、有機繊維コードを含む繊維補強層34とが設けられている。
【0020】
金属補強層32は、スチールコードなどの金属コードにトッピングゴムを被覆することで形成されたスチールチェーファであり、カーカスプライ18の外側をタイヤ軸方向内側Y1から外側Y2に巻き上げられている。すなわち、金属補強層32は、ビード部12においてカーカスプライ18を包むようにその外表面に重ね設けられ、ビードコア26のタイヤ軸方向内側Y1においてカーカスプライ18の本体部18Aに隣接して設けられ、ビードコア26のタイヤ軸方向外側Y2において巻き上げ部18Bに隣接して設けられている。
【0021】
金属補強層32は、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に位置するタイヤ径方向外側端(巻き上げ端)32Eoutが、ビードコア26の中心26Cよりタイヤ径方向外方Z2であって、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eよりタイヤ径方向内方Z1に位置しており、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eと重なり合わない位置に配置されている。金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutは、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eとともに第1ゴム層40に埋設されている。
【0022】
第1ゴム層40は、上部フィラー28Bより100%伸長時モジュラスが高いゴム材料からなり、カーカスプライ18の巻き上げ部18B及び金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutを挟み込むようにビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に設けられている。
【0023】
第1ゴム層40は、下部フィラー28Aからタイヤ径方向外方Z2に向けて上部フィラー28Bのタイヤ軸方向外側Y2に沿って延び、上部フィラー28Bのタイヤ径方向外側端28BEよりもタイヤ径方向内方Z1で終端している。
【0024】
第1ゴム層40のタイヤ軸方向外側Y2には、第1ゴム層40より100%伸長時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層42が設けられている。第2ゴム層42は、下部フィラー28A及び上部フィラー28Bとともに第1ゴム層40を挟み込んでいる。なお、第2ゴム層42は、図1に示すように上部フィラー28Bのタイヤ径方向外側端28BEよりタイヤ径方向外方Z2まで設けてもよく、また、上部フィラー28Bのタイヤ径方向外側端28BEよりタイヤ径方向内方Z1で終端してもよい。
【0025】
ここで、第1ゴム層40及び第2ゴム層42を構成するゴムの100%伸長時モジュラスの一例を挙げると、上部フィラー28Bを構成するゴムの100%伸長時モジュラスが、1.8?3.8MPaの場合に、第1ゴム層40を構成するゴムの100%伸長時モジュラスは、例えば、第2ゴム層40を構成するゴムの100%伸長時モジュラスの1.05?2.0倍に設定することができ、第1ゴム層40の100%伸長時モジュラスを4.0?6.0MPaに、第2ゴム層42の100%伸長時モジュラスを2.0?3.8MPaに、それぞれ設定することができる。
【0026】
繊維補強層34は、ナイロン繊維コードなどの有機繊維コードにトッピングゴムを被覆することで形成された1層又は複数層(この例では1層)からなる補強層であり、金属補強層32の外側においてタイヤ軸方向内側Y1から外側Y2に巻き上げられており、金属補強層32を包むようにその外表面に設けられている。
【0027】
この例では、繊維補強層34は、ビードフィラー28のタイヤ径方向内側Z1及びタイヤ軸方向内側Y1において金属補強層32の外側に重ねて設けられ、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2において第1ゴム層40の外側に設けられ第1ゴム層40と第2ゴム層42との界面に沿ってタイヤ径方向外方Z2に延びている。
【0028】
つまり、この例では、繊維補強層34は、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2において、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eよりタイヤ径方向外方Z2の位置から第1ゴム層40と第2ゴム層42との界面に沿ってタイヤ径方向内方Z1に向かって設けられ、ビードコア26のタイヤ径方向内側Z1を通ってタイヤ軸方向内側Y1に巻き上げられている。
【0029】
以上のような本実施形態の空気入りタイヤでは、カーカスプライ18の外側に金属コードを含む金属補強層32に加えて、有機繊維コードを含む繊維補強層34が設けられているため、ビード部12の剛性を高めることができる。
【0030】
しかも、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2において、カーカスプライ18の巻き上げ端部18B及び金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutが、100%伸長時モジュラスの高いゴムからなる高剛性の第1ゴム層40に埋設されているため、セパレーションを抑制することができるとともに、第1ゴム層40のタイヤ軸方向外側Y2に、第1ゴム層40より100%伸長時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層42が設けられているため、カーカスプライ18の巻き上げ端部18B及び金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eout近傍における剛性を段階的に変化させて歪み応力の集中を緩和することができ、ビード部12の耐久性を向上させることができる。
【0031】
また、本実施形態の空気入りタイヤでは、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2において、金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutが、ビードコア26の中心26Cよりタイヤ径方向外方Z2に位置し、繊維補強層34が、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eよりタイヤ径方向外方Z2の位置から第1ゴム層40と第2ゴム層42との界面に沿ってタイヤ径方向内方Z1に向かって設けられ、ビードコア26のタイヤ径方向内側(図1及び2の下側)Z1を通ってタイヤ軸方向内側Y1に巻き上げられている。このように繊維補強層34を配置することにより、第1ゴム層40に埋設されたカーカスプライ18の巻き上げ端18Eと金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutとを外側から覆うように繊維補強層34が配置され、カーカスプライ18の巻き上げ端18E及び金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eout近傍を効果的に補強することができるとともに、繊維補強層34がビードコア26の中心26Cよりタイヤ径方向内方Z1まで配置され規定リム1と接触する部分の耐久性も向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態では、第1ゴム層40に埋設されたカーカスプライ18の巻き上げ端18Eと金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutとが、タイヤ径方向Zに異なる位置に配置されているため、第1ゴム層40において歪み応力を分散させることができ、ビード部12の耐久性を向上させることができる。
【0033】
なお、上記した実施形態では、繊維補強層34が金属補強層32の外側においてタイヤ軸方向外側Y2から内側Y1に巻き上げられ、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2及び内側Y1に設けられる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。繊維補強層34は、第1ゴム層40に埋設されたカーカスプライ18の巻き上げ端18Eと金属補強層32のタイヤ径方向外側端32Eoutとを外側から覆うように配置されることが好ましく、例えば、ビードコア26のタイヤ径方向内側Z1を通ってビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2から内側Y1に巻き上げられることなく、カーカスプライ18の巻き上げ端18Eよりタイヤ径方向外方Z2の位置からビードコア26の中心26Cよりタイヤ径方向内方Z1の位置で終端してもよい。
【0034】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1及び比較例1?2の空気入りタイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を試作した。これらの各試作タイヤは、基本的なタイヤ内部構造及びトレッドパターンを同一とし、ビード部の構成を変更して作製したものである。
【0037】
具体的には、実施例1は、図1及び図2に示すビード部構成を持つ例であり、カーカスプライ18の外側においてタイヤ軸方向内側から外側に金属補強層32及び繊維補強層34が巻き上げられ、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に第1ゴム層40及び第2ゴム層42が設けられ、第1ゴム層40及び第2ゴム層42の界面に繊維補強層34が設けられた例である。
【0038】
比較例1は、図3に示すビード部構成を持つ例であり、カーカスプライ18の外側においてタイヤ軸方向内側から外側に金属補強層32が巻き上げられ、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に第1ゴム層40及び第2ゴム層42が設けられているが、繊維補強層34が設けられていない例である。
【0039】
比較例2は、図4に示すビード部構成を持つ例であり、カーカスプライ18の外側においてタイヤ軸方向内側から外側に金属補強層32及び繊維補強層34が巻き上げられているが、ビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に第1ゴム層40及び第2ゴム層42が設けられていない例である。
【0040】
なお、実施例1及び比較例1?2の空気入りタイヤにおける、第1ゴム層40、第2ゴム層42、及び上部フィラー28Bの100%伸長時モジュラスは、下記表に示すとおりである。比較例2においてビードフィラー28のタイヤ軸方向外側Y2に設けられたゴムは、100%伸長時モジュラスが比較例1や実施例1の第2ゴム層42を構成するゴムと同一のゴムで構成されている。
【0041】
実施例1及び比較例1?2の各空気入りタイヤについてビード部耐久性評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
【0042】
(ビード部耐久性)
実施例1及び比較例1?2の各空気入りタイヤをJATMA記載の標準リムに組み付け、内圧1250KPaまでエアを充填し、JATMA基準荷重の200%の荷重条件にて速度25Km/hで走行し、ビード部においてセパレーション等の故障が確認されるまでの走行距離を測定した。評価は、ビード部に故障が確認されるまでの走行距離を、比較例1を100として指数化した。数値が大きいほど高速耐久性が良好であることを示す
【0043】
【表1】

【0044】
結果は、表1に示すとおりであり、実施例1では、比較例1及び2に比べて、ビード部の耐久性を向上することができた。
【符号の説明】
【0045】
10…タイヤ
12…ビード部
14…サイドウォール部
16…トレッド部
18…カーカスプライ
18A…本体部
18B…巻き上げ部
18E…巻き上げ端
20…ベルト
22…インナーライナー
24…サイドウォールゴム
26…ビードコア
26C…ビードコアの中心
28…ビードフィラー
28A…下部フィラー
28B…上部フィラー
32…金属補強層
34…繊維補強層
40…第1ゴム層
42…第2ゴム層
Y…タイヤ軸方向
Z…タイヤ径方向
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設されたビードコアと、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に配置されたビードフィラーと、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられたプライコードを含むカーカスプライと、前記カーカスプライの外側においてタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられた金属コードを含む金属補強層と、前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側に設けられ前記カーカスプライ及び前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部が埋設された第1ゴム層と、前記第1ゴム層のタイヤ軸方向外側に設けられ前記第1ゴム層より100%伸長時モジュラスが低いゴムからなる第2ゴム層と、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に設けられた有機繊維コードを含む繊維補強層とを備え、
前記ビードフィラーは、前記ビードコアを包囲する下部フィラーと、前記下部フィラーのタイヤ径方向外側に配置された上部フィラーとを備え、
前記第1ゴム層が、前記下部フィラーからタイヤ径方向外方に向けて前記上部フィラーのタイヤ軸方向外側に沿って前記カーカスプライの巻き上げ部と前記上部フィラーとの間に前記上部フィラーと接触させて設けられ、かつ、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、
更に、前記第1ゴム層が、前記ビードコアのタイヤ軸方向外側からタイヤ径方向外側に向けて前記金属補強層のタイヤ径方向外側端部と前記繊維補強層との間に設けられ、
前記繊維補強層が、前記第1ゴム層と前記第2ゴム層との界面に沿って先端に行くほどタイヤ径方向外方へ延びていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側において、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端が、前記ビードコアの中心よりタイヤ径方向外方に位置し、前記繊維補強層が、前記カーカスプライのタイヤ径方向外側端よりタイヤ径方向外方の位置から前記ビードコアの中心よりタイヤ径方向内方の位置まで設けられていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記繊維補強層は、前記金属補強層の外側においてタイヤ軸方向外側から内側に巻き上げられ、
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向内側において、前記繊維補強層のタイヤ径方向外側端が、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端よりタイヤ径方向内方で終端することを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ビードフィラーのタイヤ軸方向外側において、前記カーカスプライのタイヤ径方向外側端と、前記金属補強層のタイヤ径方向外側端とが、タイヤ径方向に異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-12 
出願番号 特願2014-262044(P2014-262044)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大島 祥吾
渕野 留香
登録日 2018-09-28 
登録番号 特許第6407707号(P6407707)
権利者 TOYO TIRE株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 前澤 龍  
代理人 蔦田 正人  
代理人 有近 康臣  
代理人 中村 哲士  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 尋木 浩司  
代理人 中村 哲士  
代理人 有近 康臣  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 前澤 龍  
代理人 富田 克幸  
代理人 蔦田 正人  
代理人 富田 克幸  

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