• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1364923
異議申立番号 異議2019-700428  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-27 
確定日 2020-06-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6429031号発明「シルセスキオキサン化合物及び変性シリコーン化合物を含むインプリント材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6429031号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?13]について訂正することを認める。 特許第6429031号の請求項1?13に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6429031号(以下「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての経緯は次のとおりである。
平成25年10月30日 :優先日
平成26年10月 6日 :出願(PCT/JP2014/076702)
平成30年11月 9日 :特許登録
平成30年11月28日 :特許掲載公報発行
令和 元年 5月27日 :特許異議申立人佐藤正興による請求項1?13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 元年 7月30日付け:取消理由通知書
令和 元年 9月27日 :訂正請求書・意見書(特許権者)
令和 元年11月18日 :意見書(特許異議申立人)
令和 2年 1月 9日付け:決定の予告
令和 2年 3月13日 :意見書(特許権者)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和元年9月27日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1?13について請求されている。また、本件訂正のうち、明細書の訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1?13に係る訂正である。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が5質量%以上25質量%以下であるインプリント材料。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、エチリデン基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)」を、
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が20質量%以上25質量%以下であるインプリント材料[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2乃至13も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0005】に記載された
「具体的には、モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.8g/cm以下、なおかつ例えば260℃の温度に曝しても分解物の昇華が起こらない硬化膜が形成される材料を提供することを目的とする。」を、
「具体的には、モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.65g/cm以下、なおかつ例えば260℃の温度に曝しても分解物の昇華が起こらない硬化膜が形成される材料を提供することを目的とする。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件明細書の段落【0006】に記載された
「本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物、及び末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物、を含有し、前記重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物と前記末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の合計100質量%に対し当該末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の割合を5質量%以上25質量%以下とし、更に光重合開始剤及び溶剤を含有する組成物をインプリント材料として使用することを見出した。」を、
「本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物、及び末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物、を含有し、前記重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物と前記末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の合計100質量%に対し当該末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の割合を20質量%以上25質量%以下とし、更に光重合開始剤及び溶剤を含有する組成物をインプリント材料として使用することを見出した。」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件明細書の段落【0007】に記載された
「すなわち、本発明は、第1観点として、下記(A)成分、(B)成分、(C)及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が5質量%以上25質量%以下であるインプリント材料に関する。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に炭素原子数1乃至3のアルキル基を表し、R^(0)は炭素原子数1乃至3のアルキレン基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)」を、
「すなわち、本発明は、第1観点として、下記(A)成分、(B)成分、(C)及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が20質量%以上25質量%以下であるインプリント材料[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]に関する。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件明細書の段落【0054】乃至段落【0056】及び段落【0060】乃至段落【0062】それぞれに記載された「実施例」を、「参考例」と訂正する。

(6)訂正事項6
本件明細書の段落【0070】及び【0071】それぞれに記載された「実施例1乃至実施例12」を「実施例4乃至実施例6、実施例10乃至実施例12、参考例1乃至参考例3、参考例7乃至参考例9」と訂正する。

(7)訂正事項7
本件明細書の段落【0072】に記載された
「【表1】

」を、
「【表1】

」と訂正する。

(8)訂正事項8
本件明細書の段落【0073】に記載された「実施例1乃至実施例12」を、「実施例4乃至実施例6及び実施例10乃至実施例12」と訂正し、また同段落に記載された「0.8g/cm」を「0.65g/cm」と訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、次の内容、すなわち、
(i) 「前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合」(以下「B割合」という。)を、「5質量%以上25質量%以下」から「20質量%以上25質量%以下」に限定すること、
(ii) 「インプリント材料」について、「[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]」ものに限定すること、
(iii) 「エチリデン基」というR^(0)に該当する官能基としては明瞭でない記載を、「-CH(CH_(3))-基」という明瞭な記載にすること、
からなるものである(下線は当審が付した。以下同じ。)。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)の訂正について
本件明細書の【0057】、【0058】、【0063】及び【0064】には、いずれも、「(A)成分・・・及び(B)成分・・・の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は20質量%である」との記載がある。
よって、当該訂正は、新規事項を追加するものではない。

(イ)上記ア(ii)の訂正について
本件明細書の【0057】に記載された実施例4に係るインプリント材料は、(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有していない。すなわち、実施例4は、「AC-SQ TA-100を8g、X-22-1602を2g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a4を調製した。」ものであるところ、このインプリント材料では、「AC-SQ TA-100」が「(A)成分」に相当するとともに、「X-22-1602」が「(B)成分」に相当する。そして、これらの(A)成分及び(B)成分に相当する化合物は重合性基を有する化合物であると認められる一方、これら以外の化合物(すなわち、「Lucirin TPO」及び「ピルビン酸エチル」)は重合性基を有する化合物ではないと認められる。よって、実施例4に係るインプリント材料は、(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有していない。
このように、本件明細書には、(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しないインプリント材料が記載されているから、当該訂正は、新規事項を追加するものではない。

(ウ)上記ア(iii)の訂正について
本件明細書の【0009】には、「エチリデン基[-CH(CH_(3))-基]」との記載がある。
よって、当該訂正は、新規事項を追加するものではない。

(エ)小括
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件明細書の【0005】における「モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.8g/cm以下」との記載を「モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.65g/cm以下」に訂正するものである。このように、訂正事項2は、モールドに対する離型力(以下、この項において、単に「離型力」といい、単位である「g/cm」は省略して表記する。)のうち、その上限の値を訂正するものである。
そこで、本件明細書に記載された各実施例(同【0072】の【表1】)に基づき離型力の上限の値をみると、その値は「0.8」(実施例7)であり、このときのB割合は、同【0060】のとおり、5質量%である。つまり、本件訂正前において、離型力の上限の値(「0.8」)は、本件訂正前の請求項1におけるB割合の下限の値(「5質量%」)に対応していたものである。
そして、本件訂正後においても、離型力の上限の値は、本件訂正後の請求項1におけるB割合の下限の値に対応している。すなわち、本件明細書に記載された各実施例のうち、本件訂正後の請求項1(B割合が20質量%以上25質量%以下である。)に対応する実施例は、実施例4?6及び実施例10?12であると認められるところ、これらにおける離型力の上限の値は「0.65」(実施例10)であり、このときのB割合は、同【0063】のとおり、20質量%である。よって、本件訂正後で離型力の上限の値とされている「0.65」は、本件訂正後の請求項1におけるB割合の下限の値である「20質量%」に対応している。
このように、訂正事項2は、本件訂正によりなされた(B割合の下限の値に係る)請求項1の訂正に伴い、(離型力の上限の値に係る)明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件明細書の【0006】における「前記重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物と前記末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の合計100質量%に対し当該末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の割合」(すなわち、B割合)について、「5質量%以上25質量%以下」から「20質量%以上25質量%以下」に訂正するものである。
そうすると、訂正事項3が、本件訂正によりなされた請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものであることが明らかである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項3は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、次の内容、すなわち、
(i) 「前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合」(B割合)について、「5質量%以上25質量%以下」から「20質量%以上25質量%以下」に訂正すること、
(ii) 「インプリント材料」について、「[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]」ものであると訂正すること、
(iii) 「R^(1)及びR^(2)」について、「それぞれ独立に炭素原子数1乃至3のアルキル基」を表していたものから「メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基」を表しているものに訂正すること、
(iv) 「R^(0)」について、「炭素原子数1乃至3のアルキレン基」を表していたものから「メチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基」を表しているものに訂正すること、
からなるものである。
しかるに、いずれの訂正も、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものであるといえる。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アのとおり、訂正事項4は、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものであるところ、訂正後の請求項1に係る訂正事項1は、上記(1)イ[訂正事項1についての新規事項追加の有無]のとおり、新規事項を追加するものではない。よって、訂正事項4も、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4の小括
よって、訂正事項4は、訂正要件を満たす。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、本件明細書の【0054】乃至【0056】及び【0060】乃至【0062】それぞれに記載された「実施例」を、「参考例」と訂正するものであるところ、これらの段落に記載された「実施例」のB割合は、それぞれ、「5質量%」(実施例1)、「10質量%」(実施例2)、「10質量%」(実施例3)、「5質量%」(実施例7)、「10質量%」(実施例8)及び「10質量%」(実施例9)である。このように、実施例1?3及び7?9は、これらの段落では「実施例」に位置づけられているけれども、いずれも、本件訂正後の請求項1に特定されたB割合を満たさない。そうすると、本件明細書に記載された、これらの実施例1?3及び7?9は、本件訂正により、「参考例」に位置づけられるべきものとなっているといえる。
したがって、訂正事項5は、本件訂正によりなされた請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項5は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項5の小括
よって、訂正事項5は、訂正要件を満たす。

(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、本件明細書の【0070】及び【0071】それぞれに記載された「実施例1乃至実施例12」を「実施例4乃至実施例6、実施例10乃至実施例12、参考例1乃至参考例3、参考例7乃至参考例9」と訂正するものであるところ、これは、要するに、本件訂正前において「実施例」とされていた実施例1?3及び7?9を、いずれも、「参考例」とするものである。
しかるに、上記(5)ア[訂正事項5についての訂正の目的]のとおり、本件訂正前の実施例1?3及び7?9は、「参考例」に位置づけられるべきものであった。そして、実施例4?6及び10?12は、本件訂正後の請求項1においても、引き続き、「実施例」に位置づけられるものである。
そうすると、訂正事項6も、訂正事項5と同様に、本件訂正によりなされた請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものであるといえる。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項6は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項6の小括
よって、訂正事項6は、訂正要件を満たす。

(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、上記1(7)のとおりであるが、これは、要するに、本件訂正前の「実施例1」?「実施例3」及び「実施例7」?「実施例9」を、それぞれ、「参考例1」?「参考例3」及び「参考例7」?「参考例9」に訂正するものである。
そして、上記(5)ア[訂正事項5についての訂正の目的]のとおり、本件訂正前の実施例1?3及び7?9は、「参考例」に位置づけられるべきものであった。
そうすると、訂正事項7も、訂正事項5と同様に、本件訂正によりなされた請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものである。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項7は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項7は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項7の小括
よって、訂正事項7は、訂正要件を満たす。

(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、次の内容、すなわち、
(i) 本件明細書の【0073】に記載された「実施例1乃至実施例12」を、「実施例4乃至実施例6及び実施例10乃至実施例12」と訂正すること、
(ii) 同段落に記載された「0.8g/cm」を「0.65g/cm」と訂正すること、
からなるものである。
そして、(i)及び(ii)の訂正は、それぞれ、上記(5)ア[訂正事項5についての訂正の目的]及び上記(2)ア[訂正事項2についての訂正の目的]と同様に、本件訂正によりなされた請求項1の訂正に伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載と整合させるために行うものである。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
上記アからも明らかなとおり、訂正事項8は、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項8の小括
よって、訂正事項8は、訂正要件を満たす。

(9)訂正要件の判断の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?13]について訂正することを認める。

第3 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件訂正後の請求項1?13に係る特許に対して、当審がした令和2年1月9日付け取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。なお、以下、「甲第1号証」などの表記は、「第」及び「号証」を省いて、「甲1」などと表記する。
1 本件訂正後の請求項1?13に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 本件訂正後の請求項1?13に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用文献等一覧
1.特開2005-92099号公報(甲1)
2.特開2011-54682号公報(甲2)
3.特開2012-99638号公報(甲3、周知例)
4.「シルセスキオキサン誘導体 「光硬化性SQシリーズ」」、東亜合成グループ研究年報 TREND 2009 第12号、27頁?30頁(甲4の1、周知例)
5.「新機能を創造するナノインプリント技術 -総論と将来展望-」、精密工学会誌、Vol.76,No.2,2010,137頁?142頁(甲6の1、周知例)
6.特開2009-73078号公報(周知例。特許異議申立書52頁下から5行?下から4行に特定されている文献である。)

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断
当審は、甲1発明に基づく進歩性欠如(上記第3[取消理由通知(決定の予告)の概要]の1)及び甲2発明に基づく進歩性欠如(上記第3[取消理由通知(決定の予告)の概要]の2)の各取消理由により、本件特許の請求項1?13についての特許を取り消すべきであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 本件訂正発明の認定
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明13」といい、これらの発明を総称して、「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件訂正発明1]
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が20質量%以上25質量%以下であるインプリント材料[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)」

[本件訂正発明2]
「前記(A)成分が完全かご型構造及び/又は不完全かご型構造、並びにランダム構造及びはしご型構造の混合体からなる、請求項1に記載のインプリント材料。」

[本件訂正発明3]
「(E)成分として界面活性剤を更に含有する、請求項1又は請求項2に記載のインプリント材料。」

[本件訂正発明4]
「前記(A)成分及び(B)成分の重合性基がアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のインプリント材料。」

[本件訂正発明5]
「前記式(1)で表される繰り返し単位において、式中kは3を表す、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載のインプリント材料。」

[本件訂正発明6]
「請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のインプリント材料から作製され、パターンが転写された膜。」

[本件訂正発明7]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材。」

[本件訂正発明8]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた固体撮像装置。」

[本件訂正発明9]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたLEDデバイス。」

[本件訂正発明10]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を備えた半導体素子。」

[本件訂正発明11]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた太陽電池。」

[本件訂正発明12]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたディスプレイ。」

[本件訂正発明13]
「請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた電子デバイス。」

以下、次の略語を用いる。
本件訂正発明1に特定されている「前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対」する「当該(B)成分の割合」を、「B割合」という(当審注:上記第2[訂正の適否]の2(1)アで定義した内容と同じである。)。
本件訂正発明1に特定されている「下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物」(当審注:式(1)の具体的内容の表記は、ここでは省略する。)を、「特定シルセスキオキサン化合物」という。
本件訂正発明1に特定されている「下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物」(当審注:式(2)の具体的内容の表記は、ここでは省略する。)を「特定シリコーン化合物」という。

2 甲1及び甲2の記載事項の認定
(1)甲1について
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(特開2005-92099号公報)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「下記一般式(1)で表される3官能シラン化合物を加水分解し縮合させた加水分解縮合物であり、かつ一のケイ素原子の90%以上が他の3つのケイ素原子とシロキサン結合してなるポリシロキサンを含み、光学物品の微細凹凸構造を形成するのに用いられることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
RSiX_(3) ・・・ 一般式(1)
ただし、前記一般式(1)中、Rは、反応性不飽和基又は開環重合性基を含む基を表す。Xは、水酸基、又は加水分解性基を表す。」(【請求項1】)

(イ)「前記一般式(1)において、Rは、反応性不飽和基又は開環重合性基を含有する基を表す。前記反応性不飽和基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非芳香族の不飽和炭素-炭素結合(二重結合又は三重結合)を有する基、などが挙げられ、これらの中でも、エチレン性不飽和基が好適である。
前記エチレン性不飽和基としては、炭素数2?20のものが好ましく、2?15のものがより好ましく、2?10のものが更に好ましく、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、ビニル基、ビニルオキシ基、アリル基、シンナモイル基、等が挙げられ、これらの中でも、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
前記開環重合性基としては、炭素数2?20のものが好ましく、2?15のものがより好ましく、2?10のものが更に好ましく、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、等が挙げられ、これらの中でも、エポキシ基が特に好ましい。」(【0018】)、
「以下、本発明に好適に使用されるラダーポリマー又はラダーオリゴマーの具体例を例示するが、これらに限定されるものではない。」(【0038】)、
「【表4】

」(【0039】。当審注:「S-6」?「S-14」までの表は省略。)、
「【表5】

」(【0040】)、
「【表8】

」(【0049】。当審注:「S-37」?「S-47」までの表は省略。)、
「本発明の硬化性樹脂組成物には、前記ポリシロキサンに加えて、硬度、脆性、基材への密着性、防塵性(帯電防止性)、防汚性、離型性等の観点から、更に必要に応じて、硬化剤、微粒子、シランカップリング剤、界面活性剤、離型剤等の各種添加剤を配合することができる。」(【0053】)、
「前記硬化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分子中にエチレン性不飽和基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルオキシ基、アリル基等)、開環重合性基(例えば、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基等)、反応性シリル基(例えば、アルコキシシリル基、アセトキシシリル基、ヒドロキシシリル基等)、重付加反応性基(例えば、イソシアネート基+水酸基等、ビニル基+ヒドロシリル基等)、重縮合反応性基(例えば、多塩基酸又はその無水物、N-メチロール基、アルデヒド基、カルボニル基、活性メチレン基、ヒドラジン基等)、などを有するモノマー、オリゴマー、又はプレポリマーが挙げられる。
また、ブロックイソシアネートのように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を有するものも好適に挙げることができるが、好ましくは活性エネルギー線の作用により迅速に硬化するものであり、特にエチレン性不飽和基又は開環重合性基を有する化合物が好ましい。」(【0054】)、
「前記シランカップリング剤は、防汚性、密着性等の観点から使用することができ、例えば、前記一般式(1)のシラン化合物又は非加水分解性のシラン化合物等を挙げることができる。特にシリカ等の微粒子を併用する場合に、マトリックスと粒子間の結合力を高める意味で有効な場合がある。
前記シランカップリング剤の添加量は、硬化性樹脂組成物の全固形分の0.1?30質量%が好ましく、0.5?20質量%がより好ましく、1?10質量%が更に好ましい。」(【0059】)、
「前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤のいずれも使用することができる。
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、スリーエム社製のフロラードFC-431等のパーフルオロアルキルスルホン酸アミド基含有ノニオン、大日本インキ社製のメガファックF-171、F-172、F-173、F-176PF等のパーフルオロアルキル基含有オリゴマー等が挙げられる。
前記シリコーン系界面活性剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のオリゴマー等の各種の置換基で側鎖や主鎖の末端が変性されたポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
前記界面活性剤の添加量は、硬化性樹脂組成物の全固形分に対し0.001?10質量%が好ましく、0.01?5質量%がより好ましく、0.5?5質量%が更に好ましい。」(【0060】)、
「前記微細凹凸構造を形状転写法により形成する場合には樹脂層には離型剤成分が含まれていることが好ましい。前記離型剤成分としては、シリコーン系素材が好ましい。該離型剤成分としては、市販品を用いることができ、例えば、AK-5、AK-30、AK-32(いずれも東亜合成株式会社製)、サイラプレーンFM0275、サイラプレーンFM0721(いずれもチッソ株式会社製)、KF-100T、X-22-169AS、KF-102、X-22-3701IE、X-22-164B、X-22-164C、X-22-5002、X-22-173B、X-22-174D、X-22-167B、X-22161AS(いずれも、信越化学工業株式会社製)、RMS033(アズマックス株式会社製)、などが挙げられる。」(【0061】)、
「前記離型剤成分の添加量は、硬化性樹脂組成物の全固形分に対し1?20質量%が好ましく、2?15質量%がより好ましく、3?10質量%が更に好ましい。」(【0062】)、
「本発明の硬化性樹脂組成物には、更に必要に応じて硬化触媒又は開始剤を配合することができる。例えば、エチレン性不飽和基の重合を開始するためにはラジカル重合開始剤が添加される。該ラジカル重合開始剤としては、熱の作用によりラジカルを発生する重合開始剤、又は活性エネルギー線の作用によりラジカルを発生する重合開始剤のいずれの使用も可能である。」(【0063】)、
「前記熱の作用によりラジカル重合を開始する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、ジアゾ化合物、などが好適である。前記有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシド、等が挙げられる。前記無機過酸化物として、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記有機アゾ化合物としては、例えば、2-アゾービスーイソブチロニトリル、2-アゾービスープロピオニトリル、2-アゾ-ビスーシクロヘキサンジニトリル等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p-ニトロベンゼンジアゾニウム、等が挙げられる。」(【0064】)、
「前記活性エネルギー線の作用によりラジカル重合を開始する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、などが挙げられる。前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、1-ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-4-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン等が挙げられる。前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等が挙げられる。前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4-ジクロロベンゾフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノン等が挙げられる。前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
なお、これらの光ラジカル重合開始剤と併用して増感色素も好ましく用いることができる。」(【0065】)、
「前記熱又は活性エネルギー線の作用によってラジカル重合を開始する化合物の添加量としては、炭素-炭素二重結合の重合が開始する量であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記硬化性樹脂組成物の全固形分に対し0.1?15質量%が好ましく、0.5?5質量%がより好ましい。」
(【0066】)、
「本発明の硬化性樹脂組成物は、前記ポリシロキサンを必須成分として、更に必要に応じてその他の成分を適宜配合して製造することができる。この場合、前記成分のいずれかが液状化合物である場合、該成分を溶剤として他の成分を溶解することができれば、別途溶剤を添加する必要はないが、このケースにあてはまらない場合には溶剤を用いて各構成成分を溶解することにより硬化性樹脂組成物を製造することができる。」(【0071】)、
「(光学物品)
本発明の光学物品は、本発明の前記硬化性樹脂組成物を用いて形成される微細凹凸構造層を有し、更に必要に応じてその他の部材を有する。
前記微細凹凸構造層におけるポリシロキサンの縮合率(シロキサン結合を介して他の3つのケイ素原子と結合している一のケイ素原子(T3)の割合)は95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。前記ポリシロキサンの縮合率が95%未満であると、皮膜硬度が不足したり、硬化収縮により微細凹凸形状の変形が問題になることがある。」(【0074】)、
「前記光学物品としては、可視光波長以下の周期的微細凹凸構造を利用した光学素子であれば特に制限はなく、微細凹凸のサイズ、形状に応じて適宜選択することができ、例えば、反射防止膜、反射防止フィルム、偏光分離素子、光導波路、レリーフホログラム、レンズ、光カード、光ディスク等の各種用途が挙げられる。これらの中でも、反射防止膜、反射防止フィルム等の反射防止材料用途に特に好適に用いられる。なお、前記光学物品の用途の詳細については、菊田久雄電子情報通信学会論文 J83-C(3),p.173-181(2000)、などに詳細に記載されている。」(【0075】)、
「前記光学物品の最表面における微細凹凸構造の凹凸周期(Λ)は10?400nmが好ましく、また、微細凹凸構造層の屈折率をnとした時、Λ<400/n(nm)がより好ましい。このような条件では可視光の散乱が起こらない。
前記微細凹凸の高さ(深さ)は、50?1000nmが好ましく、200?1000nmがより好ましく、300?1000nmが更に好ましい。」(【0076】)、
「前記微細凹凸形状の形成方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができるが、安価であり、大面積加工の安定製造の観点から、相補的な微細凹凸構造を有するスタンパーを圧接して樹脂に形状を転写する方法、又は2種類の樹脂等の相分離を利用し、適切な溶剤を用いて1成分のみを溶出することにより微細凹凸構造を形成する方法等が好適に挙げられ、これらの中でも、特にスタンパーを用いた形状転写法が好ましい。」(【0079】)、
「前記紫外線硬化樹脂に対して形状転写を行う場合には、(1)未硬化又は半硬化の樹脂を支持体に塗設した上に、前記スタンパーで圧接し、更に支持体の裏側から紫外線を照射して形状を転写しながら樹脂層を硬化させた後、スタンパーを剥離する方法、(2)未硬化又は半硬化の樹脂層にスタンパーを圧接して形状転写を行い、スタンパーを剥離した後に、紫外線照射を行って樹脂層を硬化させる方法、などがあり、本発明ではいずれの形態も好ましく用いられる。」(【0082】)、
「-反射防止膜-
本発明の光学物品としての反射防止膜は、本発明の前記硬化性樹脂組成物を用いて形成される微細凹凸構造層からなる。
この場合、支持体の上に微細凹凸形状を保有する樹脂層を形成してから、装置(例えば、ディスプレイ等の画像表示装置)に配置して用いられることが好ましいが、微細凹凸構造層を装置に直接配置しても構わない。」(【0087】)

(ウ)「【実施例】」、
「以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。」(【0104】)、
「(実施例1)
-硬化性樹脂組成物の調製-
合成例1のポリシロキサン「S-5」95質量部、離型剤としてのRMS033(商品名、アズマックス社製 メタクリロイル変性シリコーンオイル)5質量部、及び光ラジカル重合開始剤としてのイルガキュア(IRG)907(商品名、チバスペシャリティーケミカル社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例1の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0112】)、
「(実施例2)
-硬化性樹脂組成物の調製-
合成例1のポリシロキサン「S-5」80質量部、硬化剤としてのDPHA(商品名、日本化薬社製、多官能硬化剤KAYARAD)15質量部、離型剤としてのRMS033(商品名、アズマックス社製 メタクリロイル変性シリコーンオイル)5質量部、及び光ラジカル重合開始剤としてのイルガキュア(IRG)907(商品名、チバスペシャリティーケミカル社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例2の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0113】)、
「(実施例3)
-硬化性樹脂組成物の調製-
合成例1のポリシロキサン「S-5」65質量部、アクリロイル基修飾シリカ分散液(ASiO2、固形分20質量%)20質量部、硬化剤としてのDPHA(商品名、日本化薬社製、多官能硬化剤KAYARAD)10質量部、離型剤としてのRMS033(商品名、アズマックス社製 メタクリロイル変性シリコーンオイル)5質量部、及び光ラジカル重合開始剤としてのイルガキュア(IRG)907(商品名、チバスペシャリティーケミカル社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例3の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0114】)、
「(実施例4)
-硬化性樹脂組成物の調製-
合成例1のポリシロキサン「S-5」50質量部、硬化剤としてのDPHA(商品名、日本化薬社製、多官能硬化剤KAYARAD)45質量部、離型剤としてのRMS033(商品名、アズマックス社製 メタクリロイル変性シリコーンオイル)5質量部、及び光ラジカル重合開始剤としてのイルガキュア(IRG)907(商品名、チバスペシャリティーケミカル社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例4の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0115】)、
「(実施例5)
-硬化性樹脂組成物の調製-
ポリシロキサン「S-17」80質量部、硬化剤としてのセロキサイド2021P(商品名、ダイセル化学工業株式会社製、2官能脂環式エポキシ硬化剤)、離型剤としてのX-22-163B(商品名、信越シリコーン株式会社製、エポキシ基変性シリコーンオイル)5質量部、及び光重合開始剤としてのUVI6990(商品名、ユニオンカーバイド日本株式会社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例5の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0116】)、
「(実施例6)
-硬化性樹脂組成物の調製-
ポリシロキサン「S-35」90質量部、硬化剤としてのDPHA(商品名、日本化薬社製、多官能硬化剤KAYARAD)5質量部、離型剤としてのX-22-163B(商品名、信越シリコーン株式会社製、エポキシ基変性シリコーンオイル)5質量部、及び光重合開始剤としてのUVI6990(商品名、ユニオンカーバイド日本株式会社製)5質量部をメチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例6の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0117】)、
「(実施例7)
-硬化性樹脂組成物の調製-
ポリシロキサン「S-48」5質量部、硬化剤としてのセロキサイド2021P(商品名、ダイセル化学工業株式会社製 2官能脂環式エポキシ硬化剤)、離型剤としてのRMS033(商品名、アズマックス社製 メタクリロイル変性シリコーンオイル)5質量部、及び光ラジカル重合開始剤としてのイルガキュア(IRG)907(商品名、チバスペシャリティーケミカル社製)5質量部を、メチルエチルケトンに30質量%(固形分)となるように溶解し、実施例7の硬化性樹脂組成物を調製した。」(【0118】)、
「【表10】

*表10中、( )内の数字は各成分の質量部を表す。」(【0121】)、
「-反射防止フィルムの作製-
厚み100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に実施例1?7及び比較例1?2の各硬化性樹脂組成物をバーコーターを用いて膜厚3μmになるように塗布した後、90℃にて5分間乾燥した。
次に、該フィルムの樹脂層塗布面上に、周期約250nm×高さ約250nmの円錐形状の周期的微細凹凸構造を有するNi材質のスタンパーを押し当て、1MPaの圧力をかけて1分間スタンパーとフィルムを圧接した後、PETフィルムの裏面から750mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射して樹脂層を硬化させた。その後、フィルムとスタンパーを剥離し、更に、窒素雰囲気下(酸素濃度0.1%)、樹脂層の表面から750mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射して、表面に微細凹凸構造の形成された実施例1?7及び比較例1?2の各反射防止フィルムを作製した。」(【0122】)

イ 上記アによれば、甲1には、【0053】及び請求項1の記載に基づいた、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲1発明の認定に用いた段落等を参考までに括弧内に付してある(以下同じ。)。
「ポリシロキサンに加えて、硬度、脆性、基材への密着性、防塵性(帯電防止性)、防汚性、離型性等の観点から、硬化剤、微粒子、シランカップリング剤、界面活性剤、離型剤等の各種添加剤を配合した、硬化性樹脂組成物であって、(【0053】)
前記ポリシロキサンは、下記一般式(1)で表される3官能シラン化合物を加水分解し縮合させた加水分解縮合物であり、かつ一のケイ素原子の90%以上が他の3つのケイ素原子とシロキサン結合してなるポリシロキサンを含み、光学物品の微細凹凸構造を形成するのに用いられる硬化性樹脂組成物、
RSiX_(3)・・・一般式(1)
ただし、前記一般式(1)中、Rは、反応性不飽和基又は開環重合性基を含む基を表す。Xは、水酸基、又は加水分解性基を表す。(【請求項1】)」

(2)甲2について
ア 本件特許に係る出願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2(特開2011-54682号公報)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】」、
「光照射により重合する重合性基を有するシロキサンポリマー(A)と、
末端変性シロキサン化合物(B)と、
重合開始剤(C)と、
を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。」(【請求項1】)、
「末端変性シロキサン化合物(B)が下記式(B1)で表される請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【化1】

式(B1)中、
sは、1?20の整数であり、
R^(3)は、メチル基または水素原子であり、
R^(4)は、炭素数1?9のアルキレン基であり、
X、Yは独立に、炭素数1?6のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、または下記式(I)で表される基(式(I)中、R^(5)?R^(7)は独立に炭素数1?6のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基であり、tは1?3の整数)であり、
【化2】

Zは、炭素数1?6のアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、水酸基、または式(II)で表される基(式(II)中R^(3)’はメチル基または水素原子であり;R^(4)’は炭素数1?9のアルキレン基)である。
【化3】

」(【請求項2】)、
「前記シロキサンポリマー(A)が下記一般式(A1)で表される請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物。
【化4】

式(A1)中、R^(1)は、エチレン性不飽和二重結合を含有する基であり、R^(0)は炭素数1?9のアルキレン基であり、異なるR^(0)を有する場合があってもよく、R^(2)はアルキル基、アリール基、または水素原子であり、異なるR^(2)を有する場合があってもよく、m:nは50:50?100:0の範囲である。」(【請求項3】)、
「シロキサンポリマー(A)と末端変性シリコーンオイル(B)の質量比(W(A)/WB))が30/70?90/10の範囲である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」(【請求項4】)

(イ)「【発明を実施するための形態】」、
「実施の形態に係る感光性樹脂組成物は、光照射により重合する重合性基を有するシロキサンポリマー(A)と、末端変性シロキサン化合物(B)と、重合開始剤(C)と、を含有する。以下、実施の形態に係る感光性樹脂組成物の各成分について詳述する。なお、実施の形態に係る感光性樹脂組成物の用途は、特に限定されないが、リソグラフィ、特にナノインプリントリソグラフィの他に、その透明性を活かして照明器具などの保護膜や光散乱膜への適用が可能である。」(【0011】)、
「式(A1)中、R^(1)におけるエチレン性不飽和二重結合を含有する基としては、末端にエチレン性不飽和二重結合を有するものが好ましく、特に、下記式で表されるものが好ましい。」(【0014】)、
「【化2】

」(【0015】)、
「式(A1)で表されるシロキサンポリマーとして、特に好ましくは下記式(A1-1)あるいは下記式(A1-2)で示されるものが挙げられる。」(【0021】)、
「【化4】

」(【0023】)、
「(B)末端変性シロキサン化合物
実施の形態に係る感光性樹脂組成物を構成する末端変性シロキサン化合物(B)(以下、(B)成分ということがある。)は、末端変性シリコーンオイルの一種であり、下記式(B1)で表される。」(【0026】)、
「シロキサンポリマー(A)と末端変性シリコーンオイル(B)の質量比[W(A)/W(B)]の好ましい範囲は、30/70?90/10であり、より好ましくは35/65?80/20であり、さらに好ましくは40/60?75/25である。質量比[W(A)/W(B)]が30/70以上であると、光照射により得られる硬化膜における硬化収縮の抑制硬化が高まる。一方、質量比[W(A)/W(B)]が90/10より以下であると、本願組成物の各成分の相溶性や安定性に優れ、本願組成物を無溶剤化する場合に好適となる。」(【0034】)、
「(C)重合開始剤
重合開始剤(C)(以下、(C)成分ということがある。)は、光照射時にシロキサンポリマー(A)の重合を開始、促進させる化合物であれば、特に限定されない・・・。」(【0035】)、
「これらの重合開始剤は市販のものを用いることができ、たとえばIRGACURE 907、IRGACURE 369、IRGACURE 651、(いずれも、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が市販されている。これらの重合開始剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。」(【0037】)、
「なお、実施の形態に係る感光性樹脂組成物に溶媒(D)を添加することも可能である。溶媒(D)としては、特に(B)成分との相溶性が良好なことから、アルコール類が好ましく、具体的には・・・などが挙げられる。これらの溶剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記のなかでも、鎖状構造のアルコール類が好ましく、特に好ましくは、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1-ブトキシ-2-プロパノールである。」(【0039】)、
「(パターン形成方法)
図1は、実施の形態に係る感光性樹脂組成物を用いたナノインプリントリソグラフィによるパターン形成方法を示す工程図である。」(【0040】)、
「まず、図1(A)に示すように、基板10に、感光性樹脂組成物20を塗布し、感光性樹脂組成物20の塗布層を形成する。基板10は、ポリカーボネート基板、アクリル系基板、ガラス基板、フィルム、半導体微細加工が施されるSiウェハ、銅配線、絶縁層などからなる。」(【0041】)、
「感光性樹脂組成物20を塗布する際は、バーコーター、ダイコーター、ロールコーター、リバースコーター、スリットコーター、スプレー等を用いる。感光性樹脂組成物20は、その後に実施されるパターン形成等の加工のため基板10に塗布されたときの厚みが均一であることが好ましい。このため、感光性樹脂組成物20を基板10上に積層する際には、バーコーター、またはダイコーターが好適である。」(【0042】)、
「次に、図1(B)に示すように、感光性樹脂組成物20が積層された基板10に、凹凸構造の所定パターンが形成されたモールド30を、感光性樹脂組成物20に対向して押し付け、感光性樹脂組成物20をモールド30の凹凸構造のパターンに合わせて変形させる。」(【0043】)、
「次に、図1(C)に示すように、モールド30を押圧した状態で、感光性樹脂組成物20に露光を行う。具体的には、紫外線(UV)などの電磁波が感光性樹脂組成物20に照射される。露光により、モールド30が押圧された状態で感光性樹脂組成物20が硬化し、モールド30の凹凸構造が転写された感光性樹脂組成物20からなるレジスト膜が形成される。なお、モールド30は、照射される電磁波に対して透過性を有する。」(【0044】)、
「次に、図1(D)に示すように、基板10からモールド30を剥離する。これにより、硬化した状態の感光性樹脂組成物20が基板10上にパターニングされる。このように、感光性樹脂組成物20が硬化した状態でモールド30を基板10から剥離することにより、モールド30の押圧を低圧化しつつ、形成されるパターン形状の、モールド30の凹凸構造に対する追随性を向上させることができる。」(【0045】)、
「このようにして、耐熱性、耐クラック性を有する良好な加工膜を得ることができる。について、シロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格に有さないような有機系の化合物を用いた場合は、本発明の感光性樹脂組成物よりも耐熱性に劣り、また仮に耐熱性を有する有機系の化合物であっても、ナノインプリントリソグラフィによる加工の容易性が劣ると考えられる。本発明の感光性樹脂組成物を用いれば、3?100μmの厚膜を形成した後、さらにその膜表面を容易に加工することが可能である。」(【0046】)

(ウ)「【実施例】」、
「以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。」(【0047】)、
「下記表1に示す各成分を混合、溶解して感光性樹脂組成物を調整した。」(【0048】)、
「【表1】

表1中の記号はそれぞれ以下のものを示す。なお、「(A)/(B)」は(A)成分と(B)成分の質量比である。(C)成分[]の数値は、(A)成分および(B)成分を100質量部としたときの配合量である。
(A)-1:下記式(A)-1で表される化合物(Mw2000、東レ・ファインケミカル(株)製、式中の括弧の隅にある値はモル比である)」(【0049】)、
「【化9】

(A)-2:下記式(A)-2で表される化合物(Mw2000、東レ・ファインケミカル(株)製、式中の括弧の隅にある値はモル比である)」(【0050】)、
「【化10】

(B)-1:テトラエトキシシラン
(B)-2:下記式(B)-2で表される化合物(mは3?8、Mw400?700)」(【0051】)、
「【化11】

(B)-3:下記式(B)-3で表される化合物(mは5?10、粘度10cm^(2)/s)」(【0052】)、
「【化12】

(C)-1:IRGACURE907(Ciba社製)」(【0053】)

イ 上記アによれば、甲2には、甲2の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用する請求項4において、式(B1)におけるZが式(II)であり、式(B1)におけるX、Yが独立に炭素数1?3のアルキル基であり、式(A1)におけるR^(0)が炭素数1?3のアルキレン基である場合に基づいた、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「光照射により重合する重合性基を有するシロキサンポリマー(A)と、
末端変性シロキサン化合物(B)である末端変性シリコーンオイル(B)と、
重合開始剤(C)と、
を含有する感光性樹脂組成物であって、(【請求項1】)
末端変性シロキサン化合物(B)が下記式(B1)で表され、
【化1】

式(B1)中、
sは、1?20の整数であり、
R^(3)は、メチル基または水素原子であり、
R^(4)は、炭素数1?9のアルキレン基であり、
X、Yは独立に、炭素数1?3のアルキル基であり、
Zは、式(II)で表される基(式(II)中R^(3)’はメチル基または水素原子であり;R^(4)’は炭素数1?9のアルキレン基)であり、
【化3】

(【請求項2】)
前記シロキサンポリマー(A)が下記一般式(A1)で表され、
【化4】

式(A1)中、R^(1)は、エチレン性不飽和二重結合を含有する基であり、R^(0)は炭素数1?9のアルキレン基であり、異なるR^(0)を有する場合があってもよく、R^(2)はアルキル基、アリール基、または水素原子であり、異なるR^(2)を有する場合があってもよく、m:nは50:50?100:0の範囲であり、(【請求項3】)
シロキサンポリマー(A)と末端変性シリコーンオイル(B)の質量比(W(A)/W(B))が30/70?90/10の範囲である、(【請求項4】)
感光性樹脂組成物。」

3 甲1発明に基づく進歩性欠如
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明との対比
(ア)甲1発明における「ポリシロキサン」は、次のとおり、本件訂正発明1における特定シルセスキオキサン化合物であるといえる。
甲1発明における「ポリシロキサン」は、「一般式(1)で表される3官能シラン化合物を加水分解し縮合させた加水分解縮合物」であるとともに、一般式(1)で表される3官能シラン化合物は、「反応性不飽和基又は開環重合性基」を含む基「R」を有している。そうすると、甲1発明における「ポリシロキサン」は、「-(R-)SiO_(1.5)-」で表されるシルセスキオキサン化合物であるといえる。そして、甲1発明における「ポリシロキサン」の「R-」は、「反応性不飽和基又は開環重合性基」である。
よって、甲1発明における上記シルセスキオキサン化合物は、本件訂正発明1における「式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有する」との要件を満たすことになるから、特定シルセスキオキサン化合物である。

(イ)本件訂正発明1の特定シリコーン化合物は、本件訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の【0018】の「本発明のインプリント材料における(B)成分の割合は、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量%に対し、5質量%以上25質量%以下である。この割合が5質量%未満である場合には十分な低離型力性を得ることができ」ないとの記載からみて、離型力を小さくする機能があるものと認められる。よって、本件訂正発明1の特定シリコーン化合物と甲1発明の「離型剤」とは、「離型剤」である点で共通する。

(ウ)甲1発明の「硬化性樹脂組成物」は、本件訂正発明1の「インプリント材料」と、「材料」である点で共通する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「下記(A)成分及び(B)成分を含有する材料。
(A):特定シルセスキオキサン化合物
(B):離型剤」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1の1](B)成分である離型剤について、本件訂正発明1は、特定シリコーン化合物であるのに対し、甲1発明は、そうとは特定されていない点。
[相違点1の2](C)成分について、本件訂正発明1は、「光重合開始剤」であるのに対し、甲1発明は、「光重合開始剤」を含んでいるとは特定されていない点。
[相違点1の3](D)成分について、本件訂正発明1は、「溶剤」であるのに対し、甲1発明は、「溶剤」を含んでいるとは特定されていない点。
[相違点1の4]「材料」について、本件訂正発明1は、「インプリント材料」であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」であって、「インプリント材料」であるとは特定されていない点。
[相違点1の5]B割合について、本件訂正発明1は、「20質量%以上25質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、特定されていない点。
[相違点1の6]本件訂正発明1は、「当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない」ものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

ウ 相違点1の1について
(ア)甲1の【0061】には、離型剤成分として、「X-22-169AS」、「X-22-164B」及び「X-22-164C」を用いることができる旨が記載されている。
そして、これらの離型剤成分は、それぞれ、下図で製品名が「X-22-169AS」、「X-22-164B」及び「X-22-164C」であるとして表されたシリコーンオイルであると認められる。

なお、この認定は、「信越シリコーン 反応性・非反応性変性シリコーンオイル」のカタログ(https://www.silicone.jp/catalog/pdf/ModifiedSiliconeFluid_J.pdf、2018年9月、上図はその抜粋)に基づいて行ったものであるところ、上記カタログの発行日は、本件特許に係る出願の優先日の後であるけれども、当該優先日前においても、これらの製品名が具体的に意味する内容に特段の変更はないものと推認される。

(イ)しかるに、甲1に記載されたこれらの離型剤成分(X-22-169AS、X-22-164B、X-22-164C)は、特定シリコーン化合物に相当するものと認められる。なお、X-22-164B及びX-22-164Cについての当該認定は、これらの化合物が、本件訂正明細書の【0016】に、本件訂正発明1の「(B)成分の化合物」の例として記載されていることからも裏付けられる。
そうすると、甲1発明の離型剤として、これらの離型剤成分(X-22-169AS、X-22-164B、X-22-164C)のいずれか一つを選択して、相違点1の1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)これに対し、特許権者は、令和2年3月13日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)9頁6行?11頁4行において、「(B):離型剤」を一致点とした認定及び相違点1の1の認定(上記イ)が誤っている旨主張し、その根拠として、
(i) 本件訂正発明1の(B)成分は、引き剥がし力の程度までをも考慮した点において、それを考慮しない甲1発明の「離型剤」とは異なること、
(ii) 本件訂正発明1の(B)成分は、必須成分である点において、任意成分である甲1発明の「離型剤」とは異なること、
を挙げる。
しかしながら、(i)については、本件訂正発明1の(B)成分が、引き剥がし力の程度までを考慮するものであるのだとしても、それが「離型剤」といえることには変わりないから、特許権者の主張は、上記イでした「(B):離型剤」を一致点とする認定を左右しない。
(ii)については、組成物に含まれる成分が必須成分なのか任意成分なのかは、当該組成物における構成上の差異をもたらすものではないし、さらにいえば、このように構成上の差異をもたらさないことは、次の点、すなわち、甲1発明の「離型剤」が、離型性の観点からは、配合されることが望ましい(甲1の【0053】)ものである以上、当業者が、甲1の記載に基づき「離型剤」を含む甲1発明を把握することに差し支えがない点、からみても、明らかである。
したがって、特許権者の主張は、失当である。

エ 相違点1の2について
甲1の【0063】には、本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、活性エネルギー線の作用によりラジカルを発生する重合開始剤を使用できる旨が記載されているところ、同【0065】末文(「なお、これらの光ラジカル重合開始剤と併用して・・・」と記載されている。)によれば、かかる「活性エネルギー線の作用によりラジカル重合を開始する化合物」として、光ラジカル重合開始剤も想定されていると解される。
そうすると、甲1発明において、光ラジカル重合開始剤を含むようにして、相違点1の2のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

オ 相違点1の3について
甲1の【0071】には、溶剤を用いて各構成成分を溶解することにより硬化性樹脂組成物を製造することができる旨が記載されている。また、甲1の【0082】には、甲1に記載された発明における感光性樹脂を、未硬化又は半硬化の状態で支持体に塗設する旨が記載されているところ、支持体に樹脂を塗設する場合に溶剤を用いることは技術常識でもある。さらに、甲1の各実施例(【0112】?【0118】)は、溶剤を用いている。
そうすると、甲1発明において、必要に応じて溶剤を用いて、相違点1の3のようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

カ 相違点1の4について
甲1には、甲1に記載された硬化性樹脂組成物を用いて微細凹凸構造層が形成されること(【0074】)、微細凹凸構造の凹凸周期(Λ)は10?400nmが好ましく、凹凸の高さは50?1000nmが好ましいこと(【0076】)、微細凹凸形状の形成方法としては、スタンパーを用いた形状転写法が好ましいこと(【0079】)、が記載されている。そうすると、甲1には、甲1に記載された硬化性樹脂組成物をインプリント材料に使用することが記載されていると認められる。
よって、甲1発明に係る硬化性樹脂組成物をインプリント材料に使用するようにして、相違点1の4のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

キ 相違点1の5について
(ア)a 甲1の【0062】には、「前記離型剤成分の添加量は、硬化性樹脂組成物の全固形分に対し1?20質量%が好ましく、2?15質量%がより好ましく、3?10質量%が更に好ましい。」と記載されている。そして、甲1の【0053】には、「本発明の硬化性樹脂組成物には、・・・離型性の観点から、・・・離型剤・・・を配合することができる。」と記載されている。よって、当業者は、甲1発明に配合されている離型剤成分につき、離型性の観点から、その添加量を調整できるといえる。
他方で、当業者は、甲1発明が「硬化性」樹脂組成物に係るものであることから、その「硬化」が阻害されてはならないことも当然に認識する。
このように、当業者は、甲1発明において、離型性の確保と硬化性の確保の双方に着目する契機があるといえるところ、このような当業者からすれば、甲1発明において、離型剤成分の添加量を多くすれば、硬化性樹脂組成物の離型性が優れることとなる一方で、重合性成分の濃度が低下して硬化を阻害するおそれがあることが自明であるし、逆に、離型剤成分の添加量を少なくすれば、硬化物の離型性が劣ることとなることも自明である。また、硬化物の離型性は、硬化性樹脂組成物を構成する成分の種類にも影響を受けることが明らかである。
以上によれば、甲1発明において、離型剤成分の添加量を、硬化を阻害しない範囲で所望の離型性が得られるように、硬化性樹脂組成物を構成する成分の種類に応じて最適化することは、当業者が適宜なし得たことである。

b ところで、甲1の上記記載は、硬化性樹脂組成物の全固形分に対する離型剤成分の添加量につき「1?20質量%が好まし」いとしているにとどまるから、甲1発明において、前記離型剤成分の添加量が「20質量%」を超えた場合を排除しているとは解されない。そして、上記aで認定した定性的な傾向が、甲1発明において、前記離型剤成分の添加量が「1?20質量%」とされた場合のみならず、「20質量%」を超えた場合であっても維持されることは、明らかである。
そうすると、甲1発明において、離型剤成分の添加量を、硬化を阻害しない範囲で所望の離型性が得られるように、硬化性樹脂組成物を構成する成分の種類に応じて最適化しつつ、その結果、B割合が20質量%以上25質量%以下であるようにすることも、当業者が適宜なし得たことといえる。

(イ)a これに対し、特許権者は、本件訂正発明1の(B)成分は、(A)成分と特定の割合で組み合わせることにより、初めて本件訂正発明1の効果を発現させるものであって、(B)成分単独で本件訂正発明1の効果を発現させるものではない一方、甲1発明の離型剤は、単に離型性を付与する任意成分に過ぎないから、甲1に離型剤成分及びその添加量に関する記載があったからといって、当該記載に基づいて、直ちに特定のシリコーン化合物と特定のシルセスキオキサン化合物とを特定の割合で組み合わせることが容易に想到されることにはならない旨主張する(意見書11頁下から12行?12頁3行)。
しかしながら、特許権者の主張は、上記(ア)の認定判断を左右するものではない。

b さらに、特許権者は、
(i) 本件訂正発明1におけるB割合と甲1発明における離型剤成分の添加量とは、基準が異なる、
(ii) 甲1の【0062】の離型剤成分の添加量は、特段の技術的意義を有するものではない、
(iii) 同【0062】には、離型剤成分の添加量は、最大でも20質量%以下であることが好ましい旨の記載があるにもかかわらず、当該記載に反して、離型剤成分の添加量を20質量%以上25質量%以下にする積極的な動機は言い出せない、
などと主張する(意見書12頁下から13行?13頁4行)。
しかしながら、(i)については、B割合と甲1発明における離型剤成分の添加量とが基準が異なるとしても、それをもって、ただちに、上記(ア)の認定判断が左右されることにはならないし、このことは、次の点、すなわち、甲1発明における添加量(質量%)は、硬化性樹脂組成物の全固形物に対する離型剤成分の添加量であるから、当該添加量(質量%)の分母を構成する全固形分の質量は、「ポリシロキサン」と「離型剤成分」以外の物質をも含み得るのであり、よって、当該添加量(質量%)でいう20質量%が、本件訂正発明1のB割合に換算すると、20質量%以上の値となるという点、からみても明らかである。
(ii)については、甲1の【0062】の記載の技術的意義については、上記(ア)aのとおり、甲1発明において、離型剤成分の添加量を多くすれば、硬化性樹脂組成物の離型性が優れることとなる一方で、重合性成分の濃度が低下して硬化を阻害するおそれがあること、逆に、離型剤成分の添加量を少なくすれば、硬化物の離型性が劣ることとなることが、自明である。そして、このような技術的意義が自明である以上、当業者は、上記(ア)a及びbのとおり、甲1発明において相違点1の5に係る構成に至るのである。
(iii)については、上記(ア)bで認定判断したとおりである。
なお、本件訂正発明においてB割合を20質量%以上25質量%以下としたことに格別の効果がないことは、後述(後記ケ)する。
したがって、特許権者の主張は、失当である。

ク 相違点1の6について
甲1発明は、ポリシロキサンに加えて、「硬度、脆性、基材への密着性、防塵性(帯電防止性)、防汚性、離型性等の観点から、硬化剤、微粒子、シランカップリング剤、界面活性剤、離型剤等の各種添加剤を配合した」ものであるところ、これらの添加剤のうち、相違点1の6の判断に関連して問題となる重合性基含有化合物には、離型剤のほか、硬化剤やシランカップリング剤などが考えられる。
しかしながら、甲1においては、【0053】及び【0059】によれば、硬化剤は硬度などの関係から、また、シランカップリング剤は基材への密着性や防汚性などの関係から、いずれも、「必要に応じて」配合することができるものと位置づけられているにとどまるのであり、実際、甲1の【0121】の実施例1では、硬化剤やシランカップリング剤は含まれていない。
そうすると、甲1発明において、離型性の観点から離型剤を配合することを維持しつつ、所望の硬度などの関係で、硬化剤を配合することを不要とし、さらに、基材への密着性や防汚性などの観点からも、シランカップリング剤を配合することを不要として、相違点1の6のようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ケ 本件訂正発明1の効果について
(ア)本件訂正発明1の効果である、低離型力性を有するとともに、例えば260℃の温度に曝されても分解物の昇華が見られないという効果(本件訂正明細書の【0008】)は、甲1の記載に基づいて予測可能である。
すなわち、甲1発明には「離型剤」が配合されているところ、離型剤の添加量をある程度大きくすれば、離型性がよくなること、すなわち、離型力が小さくなることは、当業者にとって自明である。
また、甲1の【0039】のS1?S5や【0049】のS35?S36は、シルセスキオキサン化合物であるところ、これらの化合物は、その構造からみて変形しにくいことが明らかであるから、当業者は、これらの化合物が耐熱性に優れることを予測できる。他方、甲1の【0061】に記載された離型剤である「X-22-169AS」、「X-22-164B」及び「X-22-169C」は、長鎖状の化学構造を有するから、当業者は、これらの離型剤が、シルセスキオキサン化合物に比べて耐熱性に劣ることを予測できる。
そうすると、当業者は、甲1発明において、これらのシルセスキオキサン化合物及び離型剤を採用した場合に、前者の配合割合が増加すれば耐熱性に優れる方向になるとともに後者の配合割合が増加すれば耐熱性に劣る方向になることも予測できる。
よって、本件訂正発明1の効果である、低離型力性を有するとともに、例えば260℃の温度に曝されても分解物の昇華が見られないという効果は、甲1の記載に基づいて、当業者が予測可能なものである。
本件訂正発明1の他の効果も、甲1の記載に基づいて当業者が予測可能なものである。

(イ)特許権者は、本件発明1の効果は甲1発明の効果とは異質なものであり、また、予測できるものではない旨主張し、その根拠として、
(i) 本件発明1は、低離型力性と耐熱性とを両立した硬化膜を形成できるという効果を奏するのに対し、甲1発明は、光学特性及び耐傷性に優れた微細凹凸構造保有型の光学物品を生産するのに好適な硬化性樹脂組成物を提供できるという効果を有することから、両発明の間で作用効果は共通しないこと、
(ii) 甲1発明における離型剤成分の添加量は最大でも20質量%以下であり、実施例において、当該添加量はすべて5質量部であることから、甲1発明における離型力は、本件発明1における離型力よりも高いと推測されること、
を挙げる(意見書13頁14行?14頁3行)。
しかしながら、(i)については、特許権者の主張は、上記(ア)の認定判断を左右するものではない。
(ii)については、甲1発明において、離型剤成分の添加量が20質量%以下の場合に相当するB割合の値は、本件訂正発明1のB割合の値とさほど相違するものではないから、甲1発明の離型力の大きさも、本件訂正発明1のそれと比べて、さほど相違するものではないし、いずれにせよ、上記(ア)のとおり、本件訂正発明1の効果である低離型力性を有するという効果は、甲1の記載に基づいて、当業者が予測可能である。
したがって、特許権者の主張は、失当である。

コ 本件訂正発明1についての小括
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正発明2について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明2と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の6で相違するとともに、次の点で一応相違する。
[相違点1の7](A)成分である特定シルセスキオキサン化合物について、本件訂正発明2は、「完全かご型構造及び/又は不完全かご型構造、並びにランダム構造及びはしご型構造の混合体からなる」のに対し、甲1発明は、そうであるのか明らかでない点。

イ 相違点1の1?相違点1の6の判断
上記(1)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の7の判断
甲4の1の27頁右欄下から8行?下から5行のとおり、シルセスキオキサン誘導体は、ランダム構造やかご型構造などの混合物からなっているのが通常であるし、このようになっていることは周知でもある(以下「周知技術1」という。)。
そうすると、相違点1の7は実質的ではないといえるし、仮に実質的であるとしても、甲1発明の「ポリシロキサン」を相違点1の7のように構成することは、当業者が適宜なし得たことにすぎず、このようにしたことによる格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明2の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明2についての小括
したがって、本件訂正発明2は、本件訂正発明1で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正発明3について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
甲1発明の「界面活性剤」は、本件訂正発明3の「界面活性剤」に相当する。
よって、本件訂正発明3と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致するとともに、本件訂正発明3で追加的に特定された事項でも一致するが、相違点1の1?相違点1の7で相違ないし一応相違する。
ここで、本件訂正発明3と甲1発明との一致点を書き下しておくと、次のとおりである。
[一致点]
「下記(A)成分及び(B)成分を含有する材料。
(A):特定シルセスキオキサン化合物
(B):離型剤
であって、(E)成分として界面活性剤を更に含有する、材料。」

イ 相違点1の1?相違点1の7の判断
上記(1)及び(2)で説示したのと同様である。

ウ 本件訂正発明3の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

エ 本件訂正発明3についての小括
したがって、本件訂正発明3は、本件訂正発明1及び2で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件訂正発明4について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明4と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の7で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の8]特定シルセスキオキサン化合物の重合性基について、本件訂正発明4では、「アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である」のに対し、甲1発明では、そうであるのか明らかではなく、
特定シリコーン化合物の重合性基について、本件訂正発明4では、「アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である」のに対し、甲1発明は、特定シリコーン化合物であるとすら特定されていない点。

イ 相違点1の1?相違点1の7の判断
上記(1)及び(2)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の8の判断
甲1の【0018】には、甲1発明の「R」として、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、ビニル基、アリル基が好ましい旨例示されており、同【0038】には、同【0039】のS1?S5(重合性基がアクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基である。)や同【0049】のS35?S36(重合性基がアクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基である。)が、甲1に記載された発明におけるポリシロキサンとして好適である旨記載されている。そうすると、甲1発明のポリシロキサンとして、重合性基が、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、ビニル基、アリル基のうちのいずれかであるものを採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、相違点1の1における判断で示したとおり、甲1発明の離型剤成分として、X-22-169AS、X-22-164B又はX-22-164C(重合性基がメタアクリロイルオキシ基である。)を採用することも、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、これらを同時に採用することも、インプリント材料の技術分野において、重合性基として(メタ)アクリロイルオキシ基を備えたシルセスキオキサンと、末端が(メタ)アクリル変性されたシリコーンオイルとを併せて用いることが周知技術(周知技術2)でもあることに照らして、格別困難ではないし、格別の効果があるともいえない。
ここで、周知技術2を認定するための周知例としては、
甲2の【0011】・【0012】・【0021】・【0023】・【0032】・【0033】等、
甲3の【0116】の実施例G及びK等(当該各実施例におけるS1は、【0125】のとおり、信越化学社製X-22-1602であるところ、これは、両末端にメタクリル基を有するポリジメチルシロキサンであると認められる(この認定は、特開2008-224750号公報の【0101】に基づいて行った。また、当該X-22-1602は、本件訂正明細書の【0017】に、本件訂正発明の(B)成分の例として記載されている。)。また、実施例G及びK中のC1は、【0123】のとおり、アクロルオキシプロピル基を備えた籠形シルセスキオキサンである。)、
特開2009-73078号公報の請求項1・【0075】・【0078】・【0079】等、
を参照されたい。

よって、相違点1の8は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項及び周知技術2に基づいて当業者にとって容易に想到し得たことであるし、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明4の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明4についての小括
したがって、本件訂正発明4は、本件訂正発明1?3で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件訂正発明5について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明5と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の8で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の9](A)成分である特定シルセスキオキサン化合物について、本件訂正発明5では、式(1)で表される繰り返し単位において、式中kは3であるのに対し、甲1発明では、そうであるとは特定されていない点。

イ 相違点1の1?相違点1の8の判断
上記(1)?(4)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の9の判断
相違点1の8における判断と同様の理由で、甲1発明のポリシロキサンとして、重合性基がアクリロイルオキシプロピル基又はメタアクリロイルオキシプロピル基のもの(甲1の【0039】のS1?S5や【0049】のS35?S36、【0018】の「(メタ)アクリロイルオキシプロピル基」)のもの。)を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、このようにして得られた構成における「k」の値は3である。
よって、相違点1の9は、甲1発明及び甲1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明5の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明5についての小括
したがって、本件訂正発明5は、本件訂正発明1?4で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件訂正発明6について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明6と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の9で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の10]本件訂正発明6は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の9の判断
上記(1)?(5)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の10の判断
甲1の【0074】・【0075】には、硬化性樹脂組成物の用途として、可視光波長以下の周期的微細凹凸構造を利用した光学素子である反射防止膜や反射防止フィルムが記載されているから、相違点1の10は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明6の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明6についての小括
したがって、本件訂正発明6は、本件訂正発明1?5で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件訂正発明7について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明7と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の11]本件訂正発明7は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の11の判断
甲1の【0087】には、甲1に記載された発明の光学物品としての反射防止膜は、甲1に記載された硬化性樹脂組成物を用いて形成される微細凹凸構造層からなり、この場合、支持体の上に微細凹凸形状を保有している樹脂層を形成する旨が記載されている。
そうすると、相違点1の11は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明7の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明7についての小括
したがって、本件訂正発明7は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件訂正発明8について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明8と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の12]本件訂正発明8は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた固体撮像装置であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の12の判断
甲6の1の140頁右欄20行?26行に記載されているとおり、ナノインプリント技術が高精度マイクロレンズ製造に用いられており、マイクロレンズアレイはデジタルカメラや携帯カメラに搭載されていることが技術常識である。
そうすると、相違点1の12は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明8の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明8についての小括
したがって、本件訂正発明8は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件訂正発明9について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明9と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の13]本件訂正発明9は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えたLEDデバイスであるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の13の判断
甲6の1の140頁左欄9行?15行に記載されているように、ナノインプリント技術が携帯電話から液晶テレビのフラットパネルディスプレイに用いられることは技術常識である。
そうすると、相違点1の13は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明9の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明9についての小括
したがって、本件訂正発明9は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件訂正発明10について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明10と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の14]本件訂正発明10は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた半導体素子であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の14の判断
甲6の1の140頁右欄下欄下から8行?142頁左欄9行に記載されているように、ナノインプリントの応用分野に半導体デバイスが含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点1の14は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明10の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明10についての小括
したがって、本件訂正発明10は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(11)本件訂正発明11について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明11と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の15]本件訂正発明11は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた太陽電池であるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の15の判断
甲6の1の137頁左欄末行に記載されているように、ナノインプリントの応用分野に太陽電池が含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点1の15は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明11の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明11についての小括
したがって、本件訂正発明11は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)本件訂正発明12について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明12と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の16]本件訂正発明12は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えたディスプレイであるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の16の判断
甲6の1の140頁左欄9行?15行に記載されているように、ナノインプリントの応用分野にディスプレイ部材が含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点1の16は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明12の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明12についての小括
したがって、本件訂正発明12は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(13)本件訂正発明13について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明13と甲1発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(3)ア[本件訂正発明3についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点1の1?相違点1の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点1の17]本件訂正発明13は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた電子デバイスであるのに対し、甲1発明は、「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 相違点1の1?相違点1の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点1の17の判断
甲6の1の137頁右欄1行に記載されているように、ナノインプリントの応用分野に半導体デバイスが含まれることは技術常識であり、半導体デバイスは、電子デバイスの一種であると解される。
そうすると、相違点1の17は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明13の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明13についての小括
したがって、本件訂正発明13は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(14)甲1発明に基づく進歩性欠如についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1?13は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 甲2発明に基づく進歩性欠如
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
甲2発明の「シロキサンポリマー(A)」は、式(A1)において、R^(0)が炭素数1?3のアルキレン基であり、R^(1)がエチレン性不飽和二重結合を含有する基であるから、特定シルセスキオキサン化合物であるといえる。
甲2発明の「末端変性シリコーンオイル化合物(B)」は、式(B1)において、Zが式(II)であり、X、Yは独立に、炭素数1?3のアルキル基であるから、特定シリコーン化合物であるといえる。
甲2発明のB割合は、[W(A)/W(B)]が30/70?90/10であることからみて、70?10質量%であると認められる。
甲2発明の「重合開始剤(C)」は、本件訂正発明1の(C)成分である「光重合開始剤」と、「重合開始剤」である点で共通する。
甲2発明の「感光性樹脂組成物」は、本件訂正発明1の「インプリント材料」と、「材料」である点で共通する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有する材料。
(A):特定シルセスキオキサン化合物
(B):特定シリコーン化合物
(C):重合開始剤
」で一致し、次の点で相違する。

[相違点2の1](C)成分である重合開始剤について、本件訂正発明1は、「光」重合開始剤であるのに対し、甲2発明は、「光」重合開始剤であるとは特定されていない点。
[相違点2の2](D)成分に関して、本件訂正発明1は、「溶剤」を含んでいるのに対し、甲2発明は、含んでいない点。
[相違点2の3]材料について、本件訂正発明1は、「インプリント材料」であるのに対し、甲2発明は、「インプリント材料」であるとは特定されていない点。
[相違点2の4]B割合について、本件訂正発明1は、20質量%以上25質量%以下であるのに対し、甲2発明は、10?70質量%である点。
[相違点2の5]本件訂正発明1は、(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しないのに対して、甲2発明は、そのように特定されていない点。

ウ 相違点2の1について
甲2発明は「感光性樹脂組成物」に係るものであるから、甲2発明の「重合開始剤(C)」は、光重合開始剤であると解するのが自然である。
また、いずれにせよ、甲2の【0035】には、重合開始剤(C)が、光照射時にシロキサンポリマー(A)の重合を開始、促進させる化合物であればよい旨記載されている。
よって、相違点2の1は、実質的ではないし、仮に、実質的であるとしても、甲2発明において、「重合開始剤(C)」を光重合開始剤として、相違点2の1のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 相違点2の2について
甲2の【0039】には、実施の形態に係る感光性樹脂組成物に溶媒(D)を添加することも可能である旨記載されている。また、甲2の【0041】・【0042】には、感光性樹脂組成物が塗布されることが記載されているところ、一般に、塗布をする際に、溶媒を添加したものを塗布することは技術常識でもある。
そうすると、甲2発明において、溶媒(D)を添加して、相違点2の2のようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

オ 相違点2の3について
甲2の【0011】には、実施の形態に係る感光性樹脂組成物の用途として、ナノインプリントリソグラフィが可能である旨記載されている。
よって、甲2発明をナノインプリントリソグラフィ用途として、相違点2の3のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

カ 相違点2の4について
(ア)甲2の【0034】には、甲2発明の(A)と(B)との質量比[W(A)/W(B)]が、30/70以上(B割合に換算すると、70質量%以下)であると、光照射により得られる硬化膜における硬化収縮の抑制効果(なお、同段落の「抑制硬化」は「抑制効果」の誤記であると認められる。)が高まる旨が記載されるとともに、当該質量比が90/10以下(B割合に換算すると、10質量%以上)であると、甲2に記載された組成物の各成分の相溶性や安定性に優れ、無溶剤化する場合に好適となる旨が記載されている。さらに、同段落には、当該質量比が、より好ましくは、35/65以上(B割合に換算すると、65質量%以下)かつ80/20以下(B割合に換算すると、20質量%以上)である旨が記載されている。
そうすると、硬化収縮の抑制効果を、より好ましく高める観点から、当該質量比を、80/20を上限として大きくする(すなわち、B割合を、20質量%を下限として小さくする)ことは、当業者が、適宜なし得たことである。
なお、甲2発明において当該質量比を大きくすると(B割合を小さくすると)、甲2の上記【0034】によれば、無溶剤化により適しにくくなる方向になるといえるから、この判断は、相違点2の2の判断と整合する。

(イ)これに対し、特許権者は、甲2発明は、厚膜形成に適した感光性樹脂組成物の提供を課題とするものであり、甲2において、末端変性シロキサン化合物(B)が離型力を小さくする作用効果を有することを認識できる記載はないとか、甲2発明において、末端変成シロキサン化合物(B)の割合を20質量%以上25質量%以下にする積極的な動機は見いだせないなどと主張する(意見書16頁下から7行?17頁下から2行)。
しかしながら、特許権者の主張は、上記(ア)の認定判断を左右するものではない。
なお、本件訂正発明においてB割合を20質量%以上25質量%以下としたことに格別の効果がないことは、後述(後記ク)する。
したがって、特許権者の主張は、失当である。

キ 相違点2の5について
甲2発明は、所定のシロキサンポリマー(A)、所定の末端変成シリコーンオイル(B)及び重合開始剤(C)があれば足りる感光性樹脂組成物であるから、他に重合性基を有する化合物を含有しないことが想定されているといえる。実際、甲2の【0049】に記載された各実施例は、他に重合性基を有する化合物を含有していない。
よって、相違点2の5のようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ク 本件訂正発明1の効果について
(ア)本件訂正発明1の効果である、低離型力性を有するとともに、例えば260℃の温度に曝されても分解物の昇華が見られないという効果(本件訂正明細書の【0008】)は、甲2の記載に基づいて予測可能である。
すなわち、甲2発明で特定されたシロキサンポリマーは、シルセスキオキサン化合物であって、その化学構造からみて変形しにくいことが明らかであるから、当業者は、このシロキサンポリマーが耐熱性に優れることを予測できる。
他方、甲2発明で特定された末端変性シロキサン化合物は、シリコーンオイルの一種であるところ(甲2の【0026】)、シリコーンオイルに離型剤としての作用があることは技術常識であるから、当該化合物の添加量をある程度大きくすれば、離型性がよくなること、すなわち、離型力が小さくなることは、当業者にとって自明である。さらに、この化合物は、長鎖状の化学構造を有するから、当業者は、シルセスキオキサン化合物と比べて耐熱性に劣ることを予測できる。
そうすると、当業者は、甲2発明において、このようなシルセスキオキサン化合物及び末端変性シロキサン化合物を採用した場合に、前者の配合割合が増加すれば耐熱性に優れる方向になるとともに後者の配合割合が増加すれば耐熱性に劣る方向になることも予測できる。
よって、本件訂正発明1の効果である、低離型力性を有するとともに、例えば260℃の温度に曝されても分解物の昇華が見られないという効果は、甲2の記載に基づいて、当業者が予測可能なものである。
本件訂正発明1の他の効果も、甲2の記載に基づいて当業者が予測可能である。

(イ)これに対し、特許権者は、本件発明1の効果は甲2発明の効果とは異質なものであり、また、予測できるものではない旨主張し、その根拠として、
(i) 本件発明1は、低離型力性と耐熱性とを両立した硬化膜を形成できるという効果を奏するのに対し、甲2発明は、厚膜形成に適した感光性樹脂組成物を提供できるという効果を有することから、両発明の間で作用効果は共通しないこと、
(ii) 甲2において、シロキサンポリマー(A)と末端変性シロキサン化合物(B)とを特定の割合で組み合わせることにより、甲2発明の感光性樹脂組成物より得られる硬化膜に低離型力性と耐熱性とを発現させることは記載も示唆もないこと、
を挙げる(意見書18頁11行?下から5行)。
しかしながら、(i)及び(ii)ともに、特許権者の主張は、上記(ア)の認定判断を左右するものではない。

ケ 本件訂正発明1についての小括
よって、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正発明2について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明2と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の5で相違するとともに、次の点で一応相違する。
[相違点2の6](A)成分である特定シルセスキオキサン化合物について、本件訂正発明2は、「完全かご形構造及び/又は不完全かご形構造、並びにランダム構造及びはしご型構造の混合体からなる」のに対し、甲2発明は、そうであるのか明らかでない点。

イ 相違点2の1?相違点2の5の判断
上記(1)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の6の判断
上記3(2)ウ[本件訂正発明2に対する甲1発明に基づく進歩性欠如における相違点1の7の判断]と同様の理由で、シルセスキオキサン誘導体は、ランダム構造やかご型構造などの混合物からなっているのが通常であるし、このようになっていることは周知(周知技術1)であるから、相違点2の6は実質的ではないといえるし、仮に実質的であるとしても、甲2発明の「シロキサンポリマー(A)」を相違点2の6のように構成することは、当業者が適宜なし得たことにすぎず、このようにしたことによる格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明2の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明2についての小括
よって、本件訂正発明2は、甲2発明、甲2に記載された技術的事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正発明3について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明3と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の6で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の7]
本件訂正発明3が「(E)成分として界面活性剤を更に含有する」のに対し、甲2発明はそうではない点。

イ 相違点2の1?相違点2の6の判断
上記(1)及び(2)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の7の判断
この種の感光性樹脂組成物に界面活性剤を含有させることは周知技術(例えば、甲1の【0053】・【0060】を参照。)である(周知技術3)。
よって、相違点2の7は、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術3に基づいて当業者が適宜なし得たことにすぎないし、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明3の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明3についての小括
よって、本件訂正発明3は、本件訂正発明1?2で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件訂正発明4について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
甲2発明の「末端変性シリコーンオイル化合物(B)」は、その構造からみて、重合性基がアクリロイルオキシ基又はメタアクリロイルオキシ基である。よって、甲2発明は、本件訂正発明4のうち、「(B)成分の重合性基がアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基」である点を備えている。
そうすると、本件訂正発明4と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、さらに、「前記」「(B)成分の重合性基がアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基」「である」点でも一致するが、相違点2の1?相違点2の7で相違ないし一応相違し、さらに、次の点で相違する。
[相違点2の8]
「前記(A)成分」である特定シルセスキオキサン化合物の重合基について、本件訂正発明4は、「アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である」のに対し、甲2発明は、そのように特定されておらず、エチレン性不飽和二重結合を含有する基であると特定されている点。

イ 相違点2の1?相違点2の7の判断
上記(1)?(3)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の8の判断
甲2の【0014】・【0015】には、シロキサンポリマー(A)の一般式である(A1)において、エチレン性不飽和二重結合を含有する基(R^(1))が、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基であることが特に好ましい旨記載されている。
よって、相違点2の8は、当業者が容易に想到し得たことであるし、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明4の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明4についての小括
よって、本件訂正発明4は、本件訂正発明1?3で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件訂正発明5について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明5と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の8で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の9]特定シルセスキオキサン化合物について、本件訂正発明1は、式(1)中のkが3であるのに対し、甲2発明は、そのように特定されておらず、R^(0)が炭素数1?3のアルキレン基であると特定されている点。

イ 相違点2の1?相違点2の8の判断
上記(1)?(4)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の9の判断
甲2の【0021】・【0023】には、甲2発明の式(A1)で表されるシロキサンポリマーとして特に好ましい構成(A1-2)が記載されており、そこでの「k」の値は3である。
よって、甲2発明の式(A1)で表されるシロキサンポリマーとして(A1-2)のものを採用して、相違点2の9のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるし、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明5の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明5についての小括
よって、本件訂正発明5は、本件訂正発明1?4で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件訂正発明6について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明6と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の9で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の10]本件訂正発明6は、「インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜」であるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の9の判断
上記(1)?(5)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の10の判断
甲2発明の感光性樹脂組成物を、「インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜」として用いることは、甲2の【0011】及び【0041】?【0046】等の記載からみて、当業者が適宜なし得たことにすぎないし、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明6の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明6についての小括
よって、本件訂正発明6は、本件訂正発明1?5で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件訂正発明7について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明7と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の11]本件訂正発明7は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材であるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の11の判断
甲6の1の137頁左欄下から5行?下から3行に記載されているように、ナノインプリント技術が光学部材に用いられることは技術常識である。
そうすると、相違点2の11は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけでもない。

エ 本件訂正発明7の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明7についての小括
よって、本件訂正発明7は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件訂正発明8について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明8と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の12]本件訂正発明7は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材であるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の12の判断
上記3(8)ウ[本件訂正発明8の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の12の判断]で認定したとおり、ナノインプリント技術が高精度マイクロレンズ製造に用いられており、マイクロレンズアレイはデジタルカメラ、携帯カメラに搭載されていることが技術常識である。
そうすると、相違点2の12は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明8の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明8についての小括
よって、本件訂正発明8は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件訂正発明9について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明9と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の13]本件訂正発明9は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えたLEDデバイスであるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の13の判断
上記3(9)ウ[本件訂正発明9の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の13の判断]で認定したとおり、ナノインプリント技術が携帯電話から液晶テレビのフラットパネルディスプレイに用いられることは技術常識である。
そうすると、相違点2の13は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明9の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明9についての小括
よって、本件訂正発明9は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件訂正発明10について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明10と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の14]本件訂正発明10は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた半導体素子であるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の14の判断
上記3(10)ウ[本件訂正発明10の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の14の判断]で認定したとおり、ナノインプリントの応用分野に半導体デバイスが含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点2の14は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明10の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明10についての小括
よって、本件訂正発明10は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(11)本件訂正発明11について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明11と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の15]本件訂正発明11は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた太陽電池であるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の15の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の15の判断
上記3(11)ウ[本件訂正発明11の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の15の判断]で認定したとおり、ナノインプリントの応用分野に太陽電池が含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点2の15は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明11の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明11についての小括
よって、本件訂正発明11は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)本件訂正発明12について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明12と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の16]本件訂正発明10は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えたディスプレイであるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の16の判断
上記3(12)ウ[本件訂正発明12の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の16の判断]で認定したとおり、ナノインプリントの応用分野にディスプレイ部材が含まれることは技術常識である。
そうすると、相違点2の16は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明12の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明12についての小括
よって、本件訂正発明12は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(13)本件訂正発明13について
ア 対比、一致点及び相違点の認定
本件訂正発明13と甲2発明とは、上記(1)イ[本件訂正発明1についての一致点及び相違点の認定]及び上記(4)ア[本件訂正発明4についての対比、一致点及び相違点の認定]で認定した一致点で一致し、相違点2の1?相違点2の10で相違ないし一応相違するほか、次の点で相違する。
[相違点2の17]本件訂正発明13は、インプリント材料から作製され、パターンが転写された膜を基材上に備えた電子デバイスであるのに対し、甲2発明は、「感光性樹脂組成物」である点。

イ 相違点2の1?相違点2の10の判断
上記(1)?(6)で説示したのと同様である。

ウ 相違点2の14の判断
上記3(13)ウ[本件訂正発明13の甲1に基づく進歩性欠如における相違点1の17の判断]で認定したとおり、ナノインプリントの応用分野に半導体デバイスが含まれることは技術常識であり、半導体デバイスは、電子デバイスの一種であると解される。
そうすると、相違点2の17は、当業者が適宜なし得たことであり、この相違点が加わることによって格別の効果があるわけではない。

エ 本件訂正発明13の効果について
上記(1)で説示したのと同様である。

オ 本件訂正発明13についての小括
よって、本件訂正発明13は、本件訂正発明1?6で説示した理由も踏まえると、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(14)甲2発明に基づく進歩性欠如についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1?13は、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由についての当審の判断の小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?13に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって取り消されるべきものである。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 「特許法第29条第1項第3号及び同第2項について(その1)」、「特許法第29条第2項について(その1)」及び「特許法第29条第2項について(その2)」の特許異議申立理由について
特許異議申立人は、甲1の実施例5(【0116】・【0121】等)に記載された発明(以下「甲1の2発明」という。)を主引用発明とした上で、
本件訂正発明1?13が新規性及び進歩性を欠如する(特許法第29条第1項第3号及び同第2項について(その1))旨主張し、
さらに、甲2に記載された発明を副引用発明とした上で、本件訂正発明4?13が進歩性を欠如する(特許法第29条第2項について(その1))旨主張し、
さらに、甲3に記載された発明を副引用発明とした上で、本件訂正発明4?13が進歩性を欠如する(特許法第29条第2項について(その2))旨主張するが、以下のとおり、採用することができない。
ここで、特許異議申立人は、上記第3で挙げたもののほか、以下の証拠を提出している。
甲4の2:東亞合成研究年報12号(http://www.toagosei.co.jp/develop/theses/detail/no12.html)
甲5の1:森秀晴、「機能性シルセスキオキサン微粒子の創製」、ネットワークポリマー、2011年、Vol.32、No.5、259頁?267頁
甲5の2:森秀晴、「機能性シルセスキオキサン微粒子の創製」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/networkpolymer/32/5/32_259/_article/-char/ja/)
甲6の2:松井真二、「展望 新機能を創造するナノインプリント技術 -総論と将来展望-」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/76/2/76_2_137/_article/-char/ja/)
参考資料1:特開2008-189821号公報
参考資料2:坂井信支(外1名)、「光ナノインプリント用光硬化性樹脂とその特性評価方法」、高分子論文集、2009年、Vol.66、No.3、88頁?96頁
参考資料3:特開2010-141064号公報

(1)甲1の2発明の認定
甲1の実施例5(【0039】・【0040】・【0116】・【0121】・【0122】等)に基づき、次の甲1の2発明を認定する。
「80質量部のポリシロキサンS-17、
15重量部の硬化剤としてのセロキサイド2021P、
5質量部の離型剤としてのX-22-163B、
5重量部の光重合開始剤としてのUVI6990を、
30質量%(固形分)となるように、メチルエチルケトンに溶解して
調製された、
硬化性樹脂組成物であって、(【0116】・【0121】)
厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に上記硬化性樹脂組成物をバーコーターを用いて膜厚3μmになるように塗布した後、90℃にて5分間乾燥し、該フィルムの樹脂層塗布面上に、周期約250nm×高さ約250nmの円錐状の周期的微細凹凸構造を有するNi材質のスタンパーを押し当て、1MPaの圧力をかけて1分間スタンパーとフィルムを圧接した後、PETフィルムの裏面から750mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射して樹脂層を硬化させ、その後、フィルムとスタンパーを剥離し、更に、窒素雰囲気下(酸素濃度0.1%)、樹脂層の表面から750mJ/cm^(2)のエネルギーで紫外線を照射して、表面に微細凹凸構造の形成された反射防止フィルムを作製するための、(【0122】)
硬化性樹脂組成物。
ここで、S-17は、次のラダーポリマー又はラダーオリゴマーであって、

(【0039】)
R^(1)とR^(2)が、次のとおりのもの。

(【0040】のS-17)


(2)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1の2発明との対比
甲1の2発明の「ポリシロキサンS-17」は、本件訂正発明1の(A)成分である特定シルセスキオキサン化合物に相当する。
甲1の2発明の「離型剤としてのX-22-163B」は、下図で「X-22-163B」として表されたシリコーンオイルであると認められるから、本件訂正発明1の(B)成分である特定シリコーン化合物に相当する。

なお、この認定は、「信越シリコーン 反応性・非反応性変性シリコーンオイル」のカタログ(https://www.silicone.jp/catalog/pdf/ModifiedSiliconeFluid_J.pdf、2018年9月、上図はその抜粋)に基づいて行ったものであるところ、上記カタログの発行日は、本件特許に係る出願の優先日の後であるけれども、当該優先日前においても、これらの製品名が具体的に意味する内容に特段の変更はないものと推認される。

甲1の2発明のB割合は、5/(80+5)=5.9質量%であると認められる。
甲1の2発明の「光重合開始剤としてのUVI6990」は、本件訂正発明1の(C)成分である「光重合開始剤」に相当する。
甲1の2発明の「メチルエチルケトン」は、本件訂正発明1の(D)成分である「溶媒」に相当する。
甲1の2発明の「硬化性樹脂組成物」は、「厚さ100μmの・・・表面に微細凹凸構造の形成された反射防止フィルムを作製するための」ものであるから、本件訂正発明1の「インプリント材料」であるといえる。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲1の2発明とは、
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有するインプリント材料。
(A):特定シルセスキオキサン化合物
(B):特定シリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点3の1]B割合について、本件訂正発明1は、「20質量%以上25質量%以下」であるのに対し、甲1の2発明は、5.9質量%である点。
[相違点3の2]本件訂正発明1は、「当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない」ものであるのに対し、甲1の2発明は、そうではなく、「15重量部の硬化剤としてのセロキサイド2021P」を含有している点。

ウ 相違点3の1の判断
甲1の2発明のB割合は、5.9質量%であるところ、かかる数値は、甲1の実施例5という特定の実施例におけるものであることをも踏まえれば、特許異議申立人が提出したその余の証拠を考慮しても、当該数値を本件訂正発明1で特定された値にする特段の動機は見当たらず、よって、相違点3の1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、本件訂正発明1は、甲1の2発明ではなく、また、相違点3の2について判断するまでもなく、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件訂正発明2?13について
本件訂正発明2?13は、いずれも、相違点3の1に係る構成を含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲1の2発明ではなく、また、甲1の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、特許異議申立人は、本件訂正発明4?13について、甲1の2発明に加え、甲2に記載された発明又は甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、上記と同様に、相違点3の1に係る構成を容易に想到することができない以上、採用できない。

(4)「特許法第29条第1項第3号及び同第2項について(その1)」、「特許法第29条第2項について(その1)」及び「特許法第29条第2項について(その2)」の特許異議申立理由についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1?13に係る特許を、これらの異議申立理由によって取り消すことはできない。

2 「特許法第29条第1項第3号及び同第2項について(その2)」の特許異議申立理由について
特許異議申立人は、甲2の実施例5(【0049】等)に記載された発明(以下「甲2の2発明」という。)を主引用発明とした上で、本件訂正発明1?13が新規性及び進歩性を欠如する旨主張するが、以下のとおり、採用することができない。
(2)甲2の2発明の認定
甲2の実施例5(【0048】?【0053】・【0035】・【0037】等)に基づき、次の甲2の2発明を認定する。
「(A)成分としての(A)-1、
(B)成分としての(B)-3、
(A)と(B)との質量比が、(A)/(B)=90/10、
重合開始剤としてのIRGACURE907を、
混合、溶解して調整した、
感光性樹脂組成物。
ここで、(A)-1は、次のものであって、

(【0050】)
(B)-3は、次のものである。

(【0053】)


(2)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲2の2発明との対比
甲2の2発明の「(A)-1」は、本件訂正発明1の(A)成分である特定シルセスキオキサン化合物に相当する。
甲2の2発明の「(B)-3」は、本件訂正発明1の(B)成分である特定シリコーン化合物に相当する。
甲2の2発明は、特定シルセスキオキサン化合物及び特定シリコーン化合物以外に重合性基を有する化合物を含有しないと解される。
甲2の2発明のB割合は、1/(1+90/10)=10質量%であると認められる。
甲2の2発明の重合開始剤である「IRGACURE907」は、本件訂正発明1の(C)成分である「光重合開始剤」に相当する。
甲2の2発明の「感光性樹脂組成物」は、本件訂正発明1の「インプリント材料」と、「材料」である点で共通する。

イ 一致点及び相違点の認定
上記アによれば、本件訂正発明1と甲2の2発明とは、
「下記(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有する材料[但し、当該材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]。
(A)成分:特定シルセスキオキサン化合物
(B)成分:特定シリコーン化合物
(C)成分:光重合開始剤
」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点4の1]B割合について、本件訂正発明1は、「20質量%以上25質量%以下」であるのに対し、甲2の2発明は、10質量%である点。
[相違点4の2]本件訂正発明1が(D)成分である「溶剤」を含有しているのに対し、甲2の2発明は、各成分を「混合、溶解して」いるものであるが、溶剤を含有しているのかは明らかでない点。
[相違点4の3]「材料」について、本件訂正発明1は「インプリント材料」であるのに対し、甲2の2発明は「インプリント材料」とは特定されていない点。

ウ 相違点4の1の判断
甲2の2発明のB割合は、10質量%であるところ、かかる数値は、甲2の実施例5という特定の実施例におけるものであることをも踏まえれば、特許異議申立人が提出したその余の証拠を考慮しても、当該数値を本件訂正発明1で特定された値にする特段の動機は見当たらず、よって、相違点4の1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

エ 本件訂正発明1についての小括
したがって、本件訂正発明1は、甲2の2発明ではなく、また、相違点4の2及び4の3について判断するまでもなく、甲2の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件訂正発明2?13について
本件訂正発明2?13は、いずれも、相違点4の1に係る構成を含むものであるから、本件訂正発明1と同様に、甲2の2発明ではなく、また、甲2の2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)「特許法第29条第1項第3号及び同第2項について(その2)」の特許異議申立理由についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1?13に係る特許を、この異議申立理由によって取り消すことはできない。

3 「特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号違反の理由」に係る特許異議申立理由について
(1)実施可能要件について
特許異議申立人は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明が、(メタ)アクリロイルオキシ基などの光ラジカル重合性の重合性基を備えるシルセスキオキサン化合物と、同種の重合性基を備えるシリコーン化合物と、光ラジカル重合開始剤と、溶剤と、を含有するインプリント材料及びその硬化物を記載しているに留まる以上、当該発明の詳細な説明は、本件訂正発明1において規定するシルセスキオキサン化合物、シリコーン化合物及び重合開始剤を用いたときに、インプリント材料及びその硬化物を製造し使用するための十分な手がかりを当業者に与えておらず、技術常識を考慮しても、本件訂正発明1?3及び5?13を実施するに当たり、当業者に期待しうる程度を越える過度な試行錯誤を求めるものであり、実施可能要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、光重合開始剤を用いた重合反応自体は技術常識にすぎないものであるから、本件訂正明細書に接した当業者は、その技術常識に照らして、(A)成分及び(B)成分を用いて適宜インプリント材料を製造できるというのが相当である。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明1?3及び5?13について、実施可能要件を満たしている。

(2)サポート要件について
特許異議申立人は、本件訂正発明1?3及び5?13は、本件訂正発明の課題である「硬化後、離型時においてモールドからパターンが転写された膜を容易に剥がすことができるすなわち低離型力性を有するインプリント材料、及び200℃を超える温度においても分解物の昇華が起こらない高耐熱性を有する硬化膜が形成されるインプリント材料を提供することであり、更に、当該材料から作製され、パターンが転写された膜を提供することである。具体的には、モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.65g/cm以下、なおかつ例えば260℃の温度に曝しても分解物の昇華が起こらない硬化膜が形成される材料を提供することを目的とする。」を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているといえるから、当該各発明の記載は、サポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件訂正明細書(【0072】)は、離型力が0.65g/cm以下、かつ、260℃の温度に曝しても分解物の昇華が起こらない硬化膜が形成される材料に係る実施例を6種類示している。しかも、本件訂正明細書の各実施例、各参考例及び各比較例(【0072】)からみて、本件訂正発明は、(A)成分であるシルセスキオキサン化合物が耐熱性を向上させる成分である一方、(B)成分であるシリコーン化合物が低離型力をもたらす成分であることが明らかであり、そのことは、(A)成分及び(B)成分の構造からみても、明らかである。そうすると、当業者であれば、技術常識に照らして、本件訂正発明1?3及び5?13に係る範囲まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
したがって、本件訂正発明1?3及び5?13の記載は、サポート要件を満たしている。

(3)「特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号違反の理由」に係る特許異議申立理由についての小括
以上のとおり、本件訂正発明1?3及び5?13に係る特許を、この異議申立理由によって取り消すことはできない。

第6 むすび
本件訂正発明1?13は、上記第4の3のとおり、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、上記第4の4のとおり、甲2発明、甲2に記載された技術的事項、周知技術1、周知技術3及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そうすると、本件訂正発明1?13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明1?13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シルセスキオキサン化合物及び変性シリコーン化合物を含むインプリント材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント材料(インプリント用膜形成組成物)及び当該材料から作製され、パターンが転写された膜に関する。より詳しくは、硬化後、離型時においてモールドから前記パターンが転写された膜を容易に剥離可能であるとともに、200℃を超える温度での加熱工程に対する耐熱性を備えた硬化膜が形成されるインプリント材料、並びに当該材料から作製され、パターンが転写された膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1995年、現プリンストン大学のチョウ教授らがナノインプリントリソグラフィという新たな技術を提唱した(特許文献1)。ナノインプリントリソグラフィは、任意のパターンを有するモールドを樹脂膜が形成された基材と接触させ、当該樹脂膜を加圧すると共に、熱又は光を外部刺激として用い、目的のパターンを硬化された当該樹脂膜に形成する技術であり、このナノインプリントリソグラフィは、従来の半導体デバイス製造におけるフォトリソグラフィ等に比べて簡便・安価にナノスケールの加工が可能であるという利点を有する。
したがって、ナノインプリントリソグラフィは、フォトリソグラフィ技術に代わり、半導体デバイス、オプトデバイス、ディスプレイ、記憶媒体、バイオチップ等の製造への適用が期待されている技術であることから、ナノインプリントリソグラフィに用いる光ナノインプリントリソグラフィ用硬化性組成物について様々な報告がなされている(特許文献2、特許文献3)。さらに、シリコーン骨格を有する化合物及び光重合開始剤を含む光インプリント材料が特許文献4に開示されている。
【0003】
ナノインプリントリソグラフィにおいて高価なモールドを使用する場合、モールドの長寿命化が求められるが、硬化された樹脂膜からモールドを引き剥がす力、すなわち離型時における引き剥がし力(以下、本明細書では「離型力」と略称する。)が大きいとモールドへ樹脂が付着しやすくなり、モールドが使用不可能となりやすくなる。このためナノインプリントリソグラフィに用いる材料(以下、本明細書では「インプリント材料」と略称する。)には低離型力性(硬化された樹脂膜をモールドから容易に剥離出来る特性)が求められることとなる。また、デバイス作製ではベーク、はんだ付け等、加熱工程を経ることがある。場合によっては、前記加熱工程で260℃程度の温度に曝されることもあり、その時に膜の耐熱性が低く、当該膜から分解物の昇華が起こると、デバイス内部や、デバイスを作製する装置及び機器を汚染してしまい、大きな問題となる。更にデバイスの種類によっては、熱に曝される箇所で使用されることもあり、そのような場合も同様の問題が起こるため、固体撮像装置、太陽電池、LEDデバイス、ディスプレイなどの製品では、光学部材として作製した構造物に対して高度な耐熱性が求められる。
しかし、これまでにインプリント材料として種々の材料が開示されているものの、低離型力と、200℃を超える温度、例えば260℃において分解物の昇華が起こらない耐熱性とを兼ね備えた材料の報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5772905号明細書
【特許文献2】特開2008-105414号公報
【特許文献3】特開2008-202022号公報
【特許文献4】特開2013-065768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その解決しようとする課題は、硬化後、離型時においてモールドからパターンが転写された膜を容易に剥がすことができるすなわち低離型力性を有するインプリント材料、及び200℃を超える温度においても分解物の昇華が起こらない高耐熱性を有する硬化膜が形成されるインプリント材料を提供することであり、更に、当該材料から作製され、パターンが転写された膜を提供することである。具体的には、モールドに対する離型力が0g/cmより大きく0.65g/cm以下、なおかつ例えば260℃の温度に曝しても分解物の昇華が起こらない硬化膜が形成される材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物、及び末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物、を含有し、前記重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物と前記末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の合計100質量%に対し当該末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の割合を20質量%以上25質量%以下とし、更に光重合開始剤及び溶剤を含有する組成物をインプリント材料として使用することを見出した。その結果、本発明者らは、モールドの凹凸形状を有する面上において当該材料の光硬化によりモールドの凹凸形状パターンが転写された硬化膜をモールドの凹凸形状を有する面から剥離する際に計測される離型力が格段に小さく、また当該材料より作製したパターン転写された膜は260℃の温度の下においても分解物の昇華が見られないという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、第1観点として、下記(A)成分、(B)成分、(C)及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が20質量%以上25質量%以下であるインプリント材料[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]に関する。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)
第2観点として、前記(A)成分が完全かご型構造及び/又は不完全かご型構造、並びにランダム構造及びはしご型構造の混合体からなる、第1観点に記載のインプリント材料に関する。
第3観点として、(E)成分として界面活性剤を更に含有する第1観点又は第2観点に記載のインプリント材料に関する。
第4観点として、前記(A)成分及び(B)成分の重合性基がアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一つに記載のインプリント材料に関する。
第5観点として、第1観点乃至第4観点のうちいずれか一つに記載のインプリント材料から作製され、パターンが転写された膜に関する。
第6観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材に関する。
第7観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた固体撮像装置に関する。
第8観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたLEDデバイスに関する。
第9観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を備えた半導体素子に関する。
第10観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた太陽電池に関する。
第11観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたディスプレイに関する。
第12観点として、第5観点に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた電子デバイスに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のインプリント材料から作製された硬化膜は、低離型力性を有するとともに、例えば260℃の温度に曝されても分解物の昇華が見られない。
また本発明のインプリント材料は、光硬化が可能であり、かつモールドの凹凸形状を有する面からの剥離時にパターンの一部に剥がれが生じないため、所望のパターンが正確に形成された膜が得られる。したがって、良好な光インプリントのパターン形成が可能である。
また、本発明のインプリント材料は、任意の基材上に製膜することができ、インプリント後に形成されるパターンが転写された膜は、太陽電池、LEDデバイス、ディスプレイなどの、高透明性が求められる部材を使用する製品へ好適に用いることができる。
さらに、本発明のインプリント材料は、前記(A)成分、(B)成分及び(D)成分の化合物の種類及び含有割合を変更することで、硬化速度、動的粘度、及び形成される硬化膜の膜厚をコントロールすることができる。したがって、本発明のインプリント材料は、製造するデバイス種と露光プロセス及び焼成プロセスの種類に対応した材料の設計が可能であり、プロセスマージンを拡大できるため、光学部材の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<(A)成分>
(A)成分である重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物は、主鎖骨格がSi-O-Si結合であり、前記式(1)で表される繰り返し単位の式中に1.5個の酸素原子を有し、当該式中のX^(0)で表される重合性基を2つ以上有する化合物を示す。当該重合性基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基が挙げられる。ここで、アクリロイルオキシ基はアクリロキシ基と、メタアクリロイルオキシ基はメタアクリロキシ基と表現されることがある。さらに、前記式(1)においてR^(0)で表される炭素原子数1乃至3のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチリデン基[-CH(CH_(3))-基]、プロパン-2,2-ジイル基[-C(CH_(3))_(2)-基]が挙げられる。
【0010】
上記(A)成分の化合物は、市販品として入手が可能であり、その具体例としては、AC-SQ TA-100、MAC-SQ TM-100、AC-SQ SI-20、MAC-SQ SI-20、MAC-SQ HDM(以上、東亞合成株式会社製)を挙げることができる。
【0011】
前記(A)成分の化合物は、例えば、下記式(3)で表される化合物又は下記式(4)で表される化合物を用いて合成することも可能である。
【化2】

(式中、3つのR^(3)はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基を表し、R^(4)は水素原子又はメチル基を表し、3つのQはそれぞれ独立にハロゲノ基を表す。)
【0012】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル及びメタクリル酸3-(トリエトキシシリル)プロピルが挙げられる。上記式(4)で表される化合物としては、例えば、3-アクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン、メタクリル酸3-(トリクロロシリル)プロピルが挙げられる。
【0013】
上記(A)成分の化合物は、重量平均分子量が例えば700乃至7000のシルセスキオキサン化合物を使用することができ、そのような化合物を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明のインプリント材料における(A)成分は、パターン転写後の膜に対して耐熱性を付与し、200℃を超える温度、例えば260℃の温度下において分解物の昇華を抑制することができる。また、(A)成分の種類、分子量及び含有割合を変更することで、インプリント材料の動的粘度、インプリント時の硬化速度、及び形成される硬化膜の膜厚をコントロールすることができる。
【0015】
<(B)成分>
(B)成分である末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物は、分子内にシリコーン骨格(シロキサン骨格)を有し、当該分子の末端に重合性基を2つ有する化合物を示す。そのシリコーン骨格については、前記式(2)においてR^(1)及びR^(2)がそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表す場合が挙げられるが、特に、R^(1)及びR^(2)がいずれもメチル基を表すジメチルシリコーン骨格が好ましい。さらに、前記重合性基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基が挙げられる。ここで、アクリロイルオキシ基はアクリロキシ基と、メタアクリロイルオキシ基はメタアクリロキシ基と表現されることがある。
【0016】
上記(B)成分の化合物としては市販品として入手が可能であり、その具体例としては、X-22-164、X-22-164AS、X-22-164A、X-22-164B、X-22-164C、X-22-164E、X-22-2445、X-22-1602(以上、信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0017】
上記(B)成分の化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明のインプリント材料における(B)成分の割合は、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量%に対し、5質量%以上25質量%以下である。この割合が5質量%未満である場合には十分な低離型力性を得ることができず、25%を超える場合には200℃を超える温度、例えば260℃の温度に曝されたときに分解物の昇華が起こる。
【0019】
<(C)成分>
(C)成分である光重合開始剤としては、光硬化時に使用する光源に吸収をもつものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、tert-ブチルペルオキシ-iso-ブチレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルジオキシ)ヘキサン、1,4-ビス[α-(tert-ブチルジオキシ)-iso-プロポキシ]ベンゼン、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルジオキシ)ヘキセンヒドロペルオキシド、α-(iso-プロピルフェニル)-iso-プロピルヒドロペルオキシド、tert-ブチルヒドロペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルジオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルジオキシ)バレレート、シクロヘキサノンペルオキシド、2,2’,5,5’-テトラ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(tert-アミルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(tert-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ビス(tert-ブチルペルオキシカルボニル)-4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、ジ-tert-ブチルジペルオキシイソフタレート等の有機過酸化物;9,10-アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン等のキノン類;ベンゾインメチル、ベンゾインエチルエーテル、α-メチルベンゾイン、α-フェニルベンゾイン等のベンゾイン誘導体;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-[4-{4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)ベンジル}-フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モリホリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン等のアルキルフェノン系化合物;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系化合物;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノンO-アセチルオキシム等のオキシムエステル系化合物が挙げられる。
【0020】
上記化合物は、市販品として入手が可能であり、その具体例としては、IRGACURE(登録商標)651、同184、同500、同2959、同127、同754、同907、同369、同379、同379EG、同819、同819DW、同1800、同1870、同784、同OXE01、同OXE02、同250、Darocur(登録商標)1173、同MBF、同4265、Lucirin(登録商標)TPO(以上、BASFジャパン株式会社製)、KAYACURE(登録商標)DETX、同MBP、同DMBI、同EPA、同OA(以上、日本化薬株式会社製)、VICURE-10、同55(以上、STAUFFER Co.LTD製)、ESACURE(登録商標)KIP150、同TZT、同1001、同KTO46、同KB1、同KL200、同KS300、同EB3、トリアジン-PMS、トリアジンA、トリアジンB(以上、日本シイベルヘグナー株式会社製)、アデカオプトマーN-1717、同N-1414、同N-1606(株式会社ADEKA製)が挙げられる。
【0021】
上記(C)成分の光重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
本発明のインプリント材料における(C)成分の含有量は、上記(A)成分及び(B)成分の総質量に対して、0.1phr乃至30phrであることが好ましく、1phr乃至20phrであることがより好ましい。(C)成分の含有量の割合が0.1phr未満の場合には、十分な硬化性が得られず、パターニング特性の悪化が起こるからである。ここで、phrとは、(A)成分および(B)成分の総質量100gに対する、光重合開始剤の質量を表す。
【0023】
<(D)成分>
本発明における(D)成分である溶剤は、上記(A)成分である重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物及び(B)成分である末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物の粘度調節の役割を果たす。
【0024】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、p-キシレン、o-キシレン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコ-ルジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1-オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、γ-ブチロラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ブチルケトン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-プロピル、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、アリルアルコール、n-プロパノール、2-メチル-2-ブタノール、イソブタノール、n-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-エチルヘキサノール、トリメチレングリコール、1-メトキシ-2-ブタノール、イソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N-シクロヘキシル-2-ピロリジンが挙げられ、上記(A)成分及び(B)成分の粘度を調節することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0025】
上記(D)成分の溶剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記(A)成分乃至(C)成分、並びに後述する(E)成分及びその他添加剤を含む全成分から(D)成分の溶剤を除いたものとして定義される固形分は、本発明のインプリント材料に対して10質量%乃至90質量%となる量にて含有することが好ましい。
【0027】
<(E)成分>
本発明のインプリント材料においては、(E)成分として界面活性剤が添加されていてもよい。(E)成分である界面活性剤は、得られる塗膜の製膜性を調整する役割を果たす。
【0028】
上記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤;商品名エフトップ(登録商標)EF301、同EF303、同EF352(三菱マテリアル電子化成株式会社)、商品名メガファック(登録商標)F-553、同F-554、同F-556、同F-477、同F171、同F173、同R-08、同R-30、同R-30N(DIC株式会社製)、フロラードFC430、同FC431(住友スリーエム株式会社製)、商品名アサヒガード(登録商標)AG710、サーフロン(登録商標)S-382、同SC101、同SC102、同SC103、同SC104、同SC105、同SC106(旭硝子株式会社製)等のフッ素系界面活性剤;及びオルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業株式会社製)を挙げることができる。
【0029】
上記界面活性剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。界面活性剤が使用される場合、その割合は、上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の総質量に対して、好ましくは0.01phr乃至40phr、より好ましくは0.01phr乃至10phrである。
【0030】
<その他添加剤>
本発明のインプリント材料は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、必要に応じて、エポキシ化合物、光酸発生剤、光増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、密着補助剤又は離型性向上剤を含有することができる。
【0031】
上記エポキシ化合物としては、例えば、X-22-2046、X-22-343、X-22-2000、X-22-4741、X-22-163、X-22-163A、X-22-163B、X-22-163C、X-22-169AS、X-22-169B、X-22-173BX、X-22-173DX、X-22-9002、KF-102、KF-101、KF-1001、KF-1002、KF-1005、KF-105(以上、信越化学工業株式会社製)、エポリード(登録商標)GT-401、同PB3600、セロキサイド(登録商標)2021P、同2000、同3000、EHPE3150、EHPE3150CE、サイクロマー(登録商標)M100(以上、株式会社ダイセル製)、EPICLON(登録商標)840、同840-S、同N-660、同N-673-80M(以上、DIC株式会社製)が挙げられる。
【0032】
上記光酸発生剤としては、例えば、IRGACURE(登録商標)PAG103、同PAG108、同PAG121、同PAG203、同CGI725(以上、BASFジャパン株式会社製)、WPAG-145、WPAG-170、WPAG-199、WPAG-281、WPAG-336、WPAG-367(以上、和光純薬工業株式会社製)、TFE-トリアジン、TME-トリアジン、MP-トリアジン、ジメトキシトリアジン、TS-91、TS-01(株式会社三和ケミカル製)が挙げられる。
【0033】
上記光増感剤としては、例えば、チオキサンテン系、キサンテン系、ケトン系、チオピリリウム塩系、ベーススチリル系、メロシアニン系、3-置換クマリン系、3,4-置換クマリン系、シアニン系、アクリジン系、チアジン系、フェノチアジン系、アントラセン系、コロネン系、ベンズアントラセン系、ペリレン系、ケトクマリン系、クマリン系、ボレート系が挙げられる。
【0034】
上記光増感剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。当該光増感剤を用いることによって、UV領域の吸収波長を調整することもできる。
【0035】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN(登録商標)PS、同99-2、同109、同328、同384-2、同400、同405、同460、同477、同479、同900、同928、同1130、同111FDL、同123、同144、同152、同292、同5100、同400-DW、同477-DW、同99-DW、同123-DW、同5050、同5060、同5151(以上、BASFジャパン株式会社)が挙げられる。
【0036】
上記紫外線吸収剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。当該紫外線吸収剤を用いることによって、光硬化時に膜の最表面の硬化速度を制御することができ、離型性を向上できる場合がある。
【0037】
上記酸化防止剤としては、例えば、IRGANOX(登録商標)1010、同1035、同1076、同1135、同1520L(以上、BASFジャパン株式会社)が挙げられる。
【0038】
上記酸化防止剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。当該酸化防止剤を用いることで、酸化によって膜が黄色に変色することを防止することができる。
【0039】
上記密着補助剤としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。当該密着補助剤を用いることによって、基材との密着性が向上する。当該密着補助剤の含有量は、上記(A)成分及び上記(B)成分の総質量に対して、好ましくは5phr乃至50phr、より好ましくは10phr乃至50phrである。
【0040】
上記離型性向上剤としては、例えば、フッ素含有化合物が挙げられる。フッ素含有化合物としては、例えば、R-5410、R-1420、M-5410、M-1420、E-5444、E-7432、A-1430、A-1630(以上、ダイキン工業株式会社製)が挙げられる。
【0041】
<インプリント材料の調製>
本発明のインプリント材料の調製方法は、特に限定されないが、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、並びに任意成分である(E)成分及び所望によりその他添加剤を混合し、インプリント材料が均一な状態となっていればよい。
また、(A)成分乃至(E)成分並びに所望によりその他添加剤を混合する際の順序は、均一なインプリント材料が得られるなら問題なく、特に限定されない。当該調製方法としては、例えば、(A)成分に(B)成分を所定の割合で混合する方法が挙げられる。また、これに更に(C)成分、(D)成分、(E)成分を混合し、均一なインプリント材料とする方法も挙げられる。さらに、この調製方法の適当な段階において、必要に応じて、その他の添加剤を更に添加して混合する方法が挙げられる。
【0042】
<光インプリント及びパターンが転写された膜>
本発明のインプリント材料は、基材上に塗布し光硬化させることで所望の硬化膜を得ることができる。塗布方法としては、公知又は周知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法を挙げることができる。
【0043】
本発明のインプリント材料が塗布される基材としては、例えば、シリコンウエハ、インジウム錫酸化物(ITO)が製膜されたガラス(以下、本明細書では「ITO基板」と略称する。)、シリコンナイトライド(SiN)が製膜されたガラス(SiN基板)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)が製膜されたガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル、プラスチック、ガラス、石英、セラミックス等からなる基材を挙げることができる。また、可撓性を有するフレキシブル基材、例えばトリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィン(コ)ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルフォン、並びにこれらポリマーを組み合わせた共重合体からなる基材を用いることも可能である。
【0044】
本発明のインプリント材料を硬化させる光源としては、特に限定されないが、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、無電極ランプ、メタルハライドランプ、KrFエキシマーレーザー、ArFエキシマーレーザー、F_(2)エキシマーレーザー、電子線(EB)、極端紫外線(EUV)を挙げることができる。また、波長は、一般的には、436nmのG線、405nmのH線、365nmのI線、又はGHI混合線を用いることができる。さらに、露光量は、好ましくは、30乃至2000mJ/cm^(2)、より好ましくは30乃至1000mJ/cm^(2)である。
【0045】
なお、前述の(D)成分である溶剤を用いる場合には、光照射前の塗膜及び光照射後の硬化膜の少なくとも一方に対し、溶剤を蒸発させる目的で、ベーク工程を加えてもよい。ベークするための機器としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレート、オーブン、ファーネスを用いて、適切な雰囲気下、すなわち大気、窒素等の不活性ガス、又は真空中で加熱することができるものであればよい。ベーク温度は、溶剤を蒸発させる目的では、特に限定されないが、例えば、40℃乃至200℃で行うことができる。
【0046】
光インプリントを行う装置は、目的のパターンが得られれば特に限定されないが、例えば、東芝機械株式会社製のST50、同社製のST50S-LED、Obducat社製のSindre(登録商標)60、明昌機工株式会社製のNM-0801HB等の市販されている装置が挙げられる。そして当該装置を使用して、基材上に塗布されたインプリント材料とモールドとを圧着し、光硬化後に離型する方法を用いることができる。
【0047】
また、本発明のパターンが転写された膜を作製する際に用いる光インプリント用モールド材としては、例えば、石英、シリコン、ニッケル、アルミナ、カルボニルシラン、グラッシーカーボン、ポリジメチルシリコーンを挙げることができるが、目的のパターンが得られるなら、特に限定されない。また、モールドは、離型性を高めるために、その表面にフッ素系化合物等の薄膜を形成する離型処理を行ってもよい。離型処理に用いる離型剤としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のオプツール(登録商標)HD、同DSXが挙げられるが、目的のパターンが得られるなら、特に限定されない。
【0048】
光インプリントのパターンサイズはナノメートルオーダーであり、具体的には1ミクロン未満のパターンサイズに準ずる。
【0049】
なお、本発明において、離型力を評価する90°剥離試験とは、一般に接着物(本発明ではインプリント材料から形成された硬化膜に相当する)を被着物(本発明では基材として使用するフィルムに相当する)に貼付けし、所定時間後に所定の剥離速度で90°方向に引き剥がす際に生じる抵抗力(張力)を測定する試験である。通常、測定はJIS Z0237を参考にした評価法にて実施される。ここで測定された抵抗力を被着物の幅あたりに換算した値を離型力として評価することができる。
そして本発明のインプリント材料をフィルム上に塗布し、当該フィルム上の塗膜をモールドの凹凸形状を有する面に接着させ、続いて当該塗膜を、モールドの凹凸形状を有する面を接着させたまま光硬化させ、その後フィルム上の硬化膜をモールドの凹凸形状を有する面から90°剥離する試験において計測された離型力、すなわち、当該フィルム上の硬化膜をモールドの凹凸形状を有する面から完全に剥離したときの荷重を当該フィルムの横幅1cmあたりに換算した値は、0g/cmより大きく0.8g/cm以下であることが好ましい。この離型力は、前記範囲において小さい値ほどより好ましい。
【0050】
こうして本発明のインプリント材料から作製され、パターンが転写された膜、さらに当該膜を備えた半導体素子並びに当該膜を基材上に備えた光学部材、固体撮像素子、LEDデバイス、太陽電池、ディスプレイ及び電子デバイスも本発明の対象である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【0052】
後述する合成例1に示すポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、本明細書ではGPCと略称する。)による測定結果である。測定には、(株)島津製作所製GPCシステムを用いた。当該GPCシステムの構成と、測定条件は下記のとおりである。
<GPCシステム構成>
システムコントローラ:CBM-20A、カラムオーブン:CTO-20、オートサンプラ:SIL-10AF、検出器:SPD-20A及びRID-10A、排気ユニット:DGU-20A3
GPCカラム:Shodex(登録商標)KF-804L及びKF-803L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1mL/分
標準試料:異なる重量平均分子量(197000、55100、12800、3950、1260、580)のポリスチレン6種
【0053】
(合成例1)
2000mLの四つ口フラスコに、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン486.98g及びメタノール400.53gを仕込み、攪拌下10℃に冷却し、0.1N塩酸水溶液112.23gとメタノール200.26gの混合溶液を10?25℃で30分かけて滴下した。その後、室温で一時間攪拌し、還流下3時間攪拌した。この溶液に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、本明細書ではPGMEAと略称する。)820gを添加しながら減圧濃縮してPGMEA溶液へ置換し、600.0gのシルセスキオキサン化合物PGMEA溶液を得た。このシルセスキオキサン化合物PGMEA溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、本明細書ではPGMEと略称する。)120.0gを加え、40℃で2時間加熱し、シルセスキオキサン化合物のPGMEA/PGME溶液(PS-1)を得た。得られたPS-1の固形分濃度を、ハロゲン水分計(HR83-P、メトラー・トレド株式会社製)にて150℃で測定したところ、固形分濃度は50%であった。本合成例1で得られたシルセスキオキサン化合物の重量平均分子量を、GPCにより測定したところ、1100であった。このシルセスキオキサン化合物は、前記式(1)で表される繰り返し単位を有し、当該式中、X^(0)はアクリロイルオキシ基を表し、R^(0)はメチレン基を表し、kは3を表す。
【0054】
[インプリント材料の調製]
<参考例1>
AC-SQ TA-100(東亞合成株式会社製)(以下、本明細書では「AC-SQTA-100」と略称する。)を9.5g、X-22-1602(信越化学株式会社製)(以下、本明細書では「X-22-1602」と略称する。)を0.5g、Lucirin(登録商標)TPO(BASFジャパン株式会社製)(以下、本明細書では「Lucirin TPO」と略称する。)を0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a1を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は5質量%である。
【0055】
<参考例2>
AC-SQ TA-100を9g、X-22-1602を1g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a2を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は10質量%である。
【0056】
<参考例3>
AC-SQ TA-100を9g、X-22-1602を1g、Lucirin TPOを0.25g、メガファック(登録商標)R-30N(DIC株式会社製)(以下、本明細書では「R-30N」と略称する。)を0.0051g(AC-SQ TA-100、X-22-1602及びLucirin TPOの総量に対して0.05phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a3を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は10質量%である。
【0057】
<実施例4>
AC-SQ TA-100を8g、X-22-1602を2g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a4を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は20質量%である。
【0058】
<実施例5>
AC-SQ TA-100を8g、X-22-1602を2g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、R-30Nを0.0051g(AC-SQ TA-100、X-22-1602及びLucirin TPOの総量に対して0.05phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a5を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は20質量%である。
【0059】
<実施例6>
AC-SQ TA-100を7.5g、X-22-1602を2.5g、LucirinTPOを0.25g(AC-SQ TA-100及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-a6を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は25質量%である。
【0060】
<参考例7>
合成例1で得たPS-1(固形分濃度50質量%)を9.5g、X-22-1602を0.25g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、PGMEA4.77gを混合し、インプリント材料PNI-a7を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は5質量%である。
【0061】
<参考例8>
合成例1で得たPS-1を9g、X-22-1602を0.5g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、PGMEA5.02gを混合し、インプリント材料PNI-a8を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は10質量%である。
【0062】
<参考例9>
合成例1で得たPS-1を9g、X-22-1602を0.5g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、R-30Nを0.0026g(PS-1から溶剤を除いた固形分、X-22-1602及びLucirin TPOの総量に対して0.05phr)、PGMEA5.02gを混合し、インプリント材料PNI-a9を調製した。本参考例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は10質量%である。
【0063】
<実施例10>
合成例1で得たPS-1を8g、X-22-1602を1g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、PGMEA5.52gを混合し、インプリント材料PNI-a10を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は20質量%である。
【0064】
<実施例11>
合成例1で得たPS-1を8g、X-22-1602を1g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、R-30Nを0.0026g(PS-1から溶剤を除いた固形分、X-22-1602及びLucirin TPOの総量に対して0.05phr)、PGMEA5.52gを混合し、インプリント材料PNI-a11を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は20質量%である。
【0065】
<実施例12>
合成例1で得たPS-1を7.5g、X-22-1602を1.25g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分及びX-22-1602の総量に対して2.5phr)、PGMEA5.77gを混合し、インプリント材料PNI-a12を調製した。本実施例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は25質量%である。
【0066】
<比較例1>
AC-SQ TA-100を10g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100の量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-b1を調製した。本比較例では、(B)成分の割合は0質量%である。
【0067】
<比較例2>
AC-SQ TA-100を7g、X-22-1602を3g、Lucirin TPOを0.25g(AC-SQ TA-100、X-22-1602の総量に対して2.5phr)、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-b2を調製した。本比較例では、(A)成分に該当するAC-SQ TA-100及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は30質量%である。
【0068】
<比較例3>
合成例1で得たPS-1を7g、X-22-1602を1.5g、Lucirin TPOを0.125g(PS-1から溶剤を除いた固形分とX-22-1602の総量に対して2.5phr)、PGMEA6.02gを混合し、インプリント材料PNI-b3を調製した。本比較例では、(A)成分に該当するPS-1から溶剤を除いた固形分及び(B)成分に該当するX-22-1602の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合は30質量%である。
【0069】
<比較例4>
X-22-1602を10g、Lucirin TPOを0.25g、ピルビン酸エチル19gを混合し、インプリント材料PNI-b4を調製した。本比較例では、(B)成分の割合は100質量%である。
【0070】
[光インプリント及び離型力試験]
実施例4乃至実施例6、実施例10乃至実施例12、参考例1乃至参考例3、参考例7乃至参考例9及び比較例1乃至比較例4で得られた各インプリント材料を、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム株式会社製、フジタック(登録商標)を使用)(以下、本明細書では「TACフィルム」と略称する。)上にバーコーター(全自動フィルムアプリケーター KT-AB3120、コーテック株式会社製)を用いて塗布し、溶剤を乾燥除去した。その後、そのTACフィルム上の塗膜をモスアイパターンモールドへローラー圧着させた。続いて当該塗膜に対し、TACフィルム側から無電極均一照射装置(QRE-4016A、株式会社オーク製作所製)にて、350mJ/cm^(2)の露光を施し、光硬化を行った。そしてJIS Z0237を参考にして90°剥離試験を行い、モールドの凹凸形状を有する面と接着している、TACフィルム上に形成された硬化膜すなわちパターンが転写された膜が、モールドの凹凸形状を有する面から完全に剥がれたときの荷重を測定した。そしてフィルムの幅1cm当たりの荷重を算出し、離型力(g/cm)とした。得られた結果を表1に示す。
【0071】
[耐熱性評価]
実施例4乃至実施例6、実施例10乃至実施例12、参考例1乃至参考例3、参考例7乃至参考例9及び比較例1乃至比較例4で得られた各インプリント材料を無アルカリガラス基板上にスピンコートした。その後、当該無アルカリガラス基板上の塗膜にシリコンウエハを接着させ、ナノインプリント装置(NM-0801HB、明昌機工株式会社製)に設置し、10秒間かけて100Nまで加圧して膜中の気泡を除去し、10秒間かけて除圧した後、無電極均一照射装置にて、350mJ/cm^(2)の露光を施した。そして上記シリコンウエハを剥がして無アルカリガラス基板上に厚さ2μmの硬化膜を作製し、260℃に保持したホットプレート上で20分間ベークを行った。そしてベーク時における発煙の有無を目視で観察した。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から実施例4乃至実施例6及び実施例10乃至実施例12で得られたインプリント材料を用いた場合は、いずれも離型力が0.65g/cm以下であり、得られた硬化膜は、260℃の温度でのベーク時に発煙が無く分解物の昇華は見られなかった。一方、比較例1乃至比較例4で得られたインプリント材料を用いた場合は、離型力が0.65g/cmよりもはるかに大きいか、あるいは得られた硬化膜に対する260℃の温度でのベークにおいて発煙が観察されたことにより分解物の昇華が確認された。以上、本発明のインプリント材料から得られる硬化膜は、0.65g/cm以下の比較的低離型力を有し、且つ耐熱性に優れるものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のインプリント材料は、当該材料から形成された硬化膜(パターンが転写された膜)をモールドから容易に剥離することができ、且つ、耐熱性にも優れることから、当該インプリント材料から得られる硬化膜は太陽電池、LEDデバイス、ディスプレイなどの製品へ好適に用いることができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有し、前記(A)成分及び(B)成分の合計100質量%に対し、当該(B)成分の割合が20質量%以上25質量%以下であるインプリント材料[但し、当該インプリント材料は当該(A)成分及び(B)成分以外に重合性基を有する化合物を含有しない]。
(A):下記式(1)で表される繰り返し単位を有し、式中X^(0)で表される重合性基を2つ以上有するシルセスキオキサン化合物
(B):下記式(2)で表される繰り返し単位を有し、末端に重合性基を2つ有するシリコーン化合物
(C):光重合開始剤
(D):溶剤
【化1】

(式中、R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基を表し、R^(0)はメチレン基、-CH(CH_(3))-基、又はプロパン-2,2-ジイル基を表し、kは0乃至3の整数を表す。)
【請求項2】
前記(A)成分が完全かご型構造及び/又は不完全かご型構造、並びにランダム構造及びはしご型構造の混合体からなる、請求項1に記載のインプリント材料。
【請求項3】
(E)成分として界面活性剤を更に含有する、請求項1又は請求項2に記載のインプリント材料。
【請求項4】
前記(A)成分及び(B)成分の重合性基がアクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、ビニル基又はアリル基である、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のインプリント材料。
【請求項5】
前記式(1)で表される繰り返し単位において、式中kは3を表す、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載のインプリント材料。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のインプリント材料から作製され、パターンが転写された膜。
【請求項7】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた光学部材。
【請求項8】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた固体撮像装置。
【請求項9】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたLEDデバイス。
【請求項10】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を備えた半導体素子。
【請求項11】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた太陽電池。
【請求項12】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えたディスプレイ。
【請求項13】
請求項6に記載のパターンが転写された膜を基材上に備えた電子デバイス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-04-22 
出願番号 特願2015-544894(P2015-544894)
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (H01L)
P 1 651・ 121- ZAA (H01L)
P 1 651・ 113- ZAA (H01L)
P 1 651・ 536- ZAA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 植木 隆和  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 宮澤 浩
山村 浩
登録日 2018-11-09 
登録番号 特許第6429031号(P6429031)
権利者 日産化学株式会社
発明の名称 シルセスキオキサン化合物及び変性シリコーン化合物を含むインプリント材料  
代理人 特許業務法人はなぶさ特許商標事務所  
代理人 特許業務法人快友国際特許事務所  
代理人 特許業務法人はなぶさ特許商標事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ