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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
審判 全部申し立て 特174条1項  H01B
管理番号 1364927
異議申立番号 異議2019-700268  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-09 
確定日 2020-07-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6402791号発明「導電膜基板及びその使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6402791号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6402791号の請求項1、3?10に係る特許を維持する。 特許第6402791号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6402791号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2009年(平成21年)7月23日(優先権主張 2008年(平成20年)8月22日)を国際出願日とする特願2010-525646号の一部を平成23年3月10日に新たな特許出願(特願2011-53486号)とし、その一部を平成25年9月6日に新たな特許出願(特願2013-185283号)とし、その一部を平成27年5月21日に新たな特許出願(特願2015-103844号)とし、その一部を平成29年2月16日に新たな特許出願(特願2017-27072号)としたものであって、平成30年9月21日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年10月10日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成31年4月9日に特許異議申立人 渋谷 都(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1?8)がされたものである。
その後、令和1年6月21日付けで取消理由が通知され、同年8月23日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、同年同9月10日付けで審判長から訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して同年10月8日に申立人から意見書が提出された。
その後、令和1年12月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和2年2月17日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、同年3月16日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対して同年4月9日に申立人から意見書が提出された。
なお、令和1年8月23日に提出された訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について

1 請求の趣旨
特許権者が令和2年2月17日に行った訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、「特許第6402791号特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が1nm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物を含有しており、」と記載されているのを、
「前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径がlnm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、」に訂正する。

併せて、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項3?6及び8についても請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「アクリル樹脂である」と記載されているのを、
「アクリル樹脂であり、前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000である」に訂正する。

併せて、請求項3を直接あるいは間接的に引用する請求項4?6及び8についても請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項2に」と記載されているのを、「請求項1に」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「少なくとも1種である」と記載されているのを、「少なくとも1種であり、前記光重合性加工物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、前記感光性樹脂組成物における前記光重合性加工物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性加工物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含む」に訂正する。

併せて、請求項4を直接あるいは間接的に引用する請求項5、6及び8についても請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項3に」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項1、3又は4に」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項1、3、4又は5に」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に「前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/口以下である、請求項1?6のいずれか一項に記載の導電膜基板。」と記載されているのを、
「基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が1nm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記導電性繊維が、金属繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光重合生化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物に含有割合は、バインダ-ポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記基板が、プラスチック基板であり
前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/口以下であり、450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。」に訂正する。

併せて、請求項7を引用する請求項8についても同様に請求項7を訂正したことに伴う訂正をする。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1?7のいずれか一項に」と記載されているのを、「請求項1、3、4、5、6又は7に」に訂正する。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲に新たに請求項9を設け、
「基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダ-ポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パタ一ンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカ一ボネ一ト基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。」と記載する。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲に新たに請求項10を設け、
「基板と、前記基板上に設けられた導電パタ一ンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバイ ンダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パタ一ンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、 30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パタ一ンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカーボネート基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法。」と記載する。

(2)一群の請求項について
訂正事項1?12による本件訂正は、訂正前の請求項1?8を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?8は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?8は一群の請求項であって、訂正事項1?12による本件訂正は、一群の請求項〔1?10〕について請求されたものである。

3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1に係る訂正(訂正事項1)について
ア 訂正前(本件特許の設定登録時)の請求項1では、「導電パターン」の構造に関し、
「前記基板上に設けられた、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり」と、また、
「前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物を含有しており」と特定されており、
「導電パターン」の「下部部分」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」と、「上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」とが、後者の「感光性樹脂組成物」に対して「前記」という記載が付されていないため、「同じ」感光性樹脂組成物からなる硬化物の場合と、「異なる」感光性樹脂組成物からなる硬化物の場合の両方の場合が包含されると解される記載となっていた。

イ 訂正事項1は、
(i)「導電パターン」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」を、「導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物」に限定するとともに、
(ii)上記アに記載した「導電パターン」の構造について、
「導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり」、
「前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており」(下線部は、訂正箇所である。)
と訂正することで、
「導電パターン」を、その「下部部分」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」と、「上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」とが、「同じ」感光性樹脂組成物からなる硬化物である場合に限定するものである。
すなわち、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」ともいう。)の範囲内のものであることは、訂正前の請求項1及び2、【0025】、【0035】、【0045】、【0075】、【0081】、【図1】及び【図2】の記載から当業者に自明であるから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正後の請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項3?6及び8についての訂正も同様である。

(2)請求項2に係る訂正(訂正事項2)について
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるし、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)請求項3に係る訂正(訂正事項3及び4)について
ア 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3に記載の「アクリル樹脂」を、本件特許明細書の【0041】、【0046】及び【0047】の記載に基づいて、「スチレンが共重合されており、前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000である」ものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるし、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項3が請求項2の記載を引用する記載であるところ、訂正事項2により請求項2が削除され、訂正前の請求項2の内容は訂正事項1により請求項1に組み入れられたことから、訂正事項1及び2による訂正に整合させるために、請求項3の引用請求項の記載を、「請求項2」から「請求項1」に訂正するものであり、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)請求項4に係る訂正(訂正事項5及び6)について
ア 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項4において、感光性樹脂組成物に含まれる光重合性化合物を、本件特許明細書の【0050】の記載に基づいて「多価アルコ-ルにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物」に限定し、感光性樹脂組成物を、同【0054】の記載に基づいて「前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部」であるものに限定し、さらに、当該感光性樹脂組成物を、同【0036】、【0056】及び【0106】の記載に基づいて「2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含む」ものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項4を直接あるいは間接的に引用する請求項5、6及び8の訂正についても同様である。

イ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項4における引用請求項の記載が「請求項1?3のいずれか一項」であったのを、訂正事項1及び2による訂正と整合させるために、請求項2を削除するとともに、引用する請求項から請求項1を削除し、引用請求項の記載を「請求項1」に訂正するものであるから、訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)請求項5に係る訂正(訂正事項7)について
訂正事項7は、訂正前の請求項5における引用請求項の記載が「請求項1?4のいずれか一項」であったのを、訂正事項1及び2による訂正と整合させるために、引用する請求項から請求項2を削除して「請求項1、3又は4」に訂正するものであるから、訂正事項7は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
また、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)請求項6に係る訂正(訂正事項8)について
訂正事項8は、訂正前の請求項6における引用請求項の記載が「請求項1?5のいずれか一項」であったのを、訂正事項1及び2による訂正と整合させるために、引用する請求項から請求項2を削除して「請求項1、3、4又は5」に訂正するものであるから、訂正事項8は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
また、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)請求項7係る訂正(訂正事項9及び11)について
ア 訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4を引用する請求項6を引用する請求項7について、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めた上で、訂正事項1、訂正事項3及び訂正事項5と同様の訂正をし、さらに、本件特許明細書の【0098】の記載に基づいて、導電膜基板を「450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である」ものに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
なお、訂正事項9により、請求項7を引用する請求項8についても同様に訂正されることになる。

イ 訂正事項11について
訂正事項11は、訂正前の請求項7が請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を引用する場合の発明について、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めた上で、訂正事項1、訂正事項3及び訂正事項5と同様の訂正をするとともに、本件特許明細書の【0033】の記載に基づいて、導電性繊維を、「前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μm」であるものに限定し、同【0073】の記載に基づいて、基板を「ポリカ一ボネ一ト基板」に限定し、さらに、同【0098】の記載に基づいて、導電膜基板を「450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である」ものに限定するものである。すなわち、訂正事項11は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(8)請求項8に係る訂正(訂正事項10及び12)について
ア 訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項8における引用請求項の記載が「請求項1?7のいずれか一項」であったのを、訂正事項1及び2による訂正と整合させるために、請求項2を削除して「請求項1、3、4、5、6又は7」に訂正するものであるから、訂正事項10は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
また、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項12について
訂正事項12は、訂正前の請求項8が請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を引用する請求項7を引用するものである場合の発明について、請求項間の引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めた上で、訂正事項1、訂正事項3及び訂正事項5と同様の訂正をするとともに、本件特許明細書の【0033】の記載に基づいて、導電性繊維を、「前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μm」であるものに限定し、同【0073】の記載に基づいて、基板を「ポリカ一ボネ一ト基板」に限定し、さらに、同【0098】の記載に基づいて、導電膜基板を「450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である」ものに限定するものである。すなわち、訂正事項12は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内のものであって新規事項の追加に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(9)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1?8について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1?8に係る訂正事項1?12に関して、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2で検討のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1?10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径がlnm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない、導電膜基板。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000である、請求項1記載の導電膜基板。
【請求項4】
前記導電性繊維が、金属繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含む、請求項3に記載の導電膜基板。
【請求項5】
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1、3又は4に記載の導電膜基板。
【請求項6】
前記基板が、プラスチック基板である、請求項1、3、4又は5に記載の導電膜基板。
【請求項7】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が1nm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記導電性繊維が、金属繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光重合生化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物に含有割合は、バインダ-ポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記基板が、プラスチック基板であり
前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/口以下であり、450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。
【請求項8】
請求項1、3、4、5、6又は7に記載の導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法。
【請求項9】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パタ一ンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカ一ボネ一ト基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。
【請求項10】
基板と、前記基板上に設けられた導電パタ一ンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバイ ンダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パタ一ンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα、β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、 30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パタ一ンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカーボネート基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法。」

第4 申立人が主張する申立て理由及び取消理由(決定の予告)の概要

1 申立人が主張する申立て理由の概要
上記第2 3(7)で検討したとおり、訂正後の請求項9は、訂正前の請求項7について、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的として訂正し、新たな請求項としたものであるし、訂正後の請求項10についても、上記第2 3(8)で検討したとおり、訂正前の請求項8について、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的として訂正し、新たな請求項としたものであるから、申立人は訂正後の請求項9、10についても特許異議の申立てをすると解釈される。
すなわち、申立人が主張する特許異議の申立ての理由は、概略、以下の(1)?(3)のとおりであると認められる。また、申立人は、証拠方法として下記(4)の甲第1号証?甲第5号証(以下、証拠番号に従い、「甲1」等という。)を提出している。

(1)申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件訂正後の請求項1?10に係る発明は甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正後の請求項1?10に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(新規事項の追加)
平成29年3月21日付けの手続補正書による手続補正は、新規事項を追加する補正であるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。よって、本件特許の請求項1?10に係る特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲1:特表2009-505358号公報
甲2:特開2003-15286号公報
甲3:特開2007-257963号公報
甲4:特表2007-514389号公報
甲5:式田光宏「エッチング技術を駆使した微細なモノづくり」、表面技術(2008)、Vol.59、No.2
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/59/2/59_2_84/_pdf)

2 取消理由(決定の予告)の概要
令和1年12月13日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。なお、該取消理由(決定の予告)は、令和1年8月23日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に対するものである。

(進歩性欠如)請求項1?8に係る発明は、下記の引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1?8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
引用文献:国際公開第2007/022226号
(なお、上記引用文献は、甲1のいわゆるパテントファミリーである。)

第5 取消理由(決定の予告)についての判断

1 引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献に記載された事項
引用文献は外国語で作成された文献であるが、以下において、摘記は、引用文献のファミリー文献である甲1の記載を基礎として、当審合議体が適宜加筆修正した訳文のみを記載する。なお、便宜のために、引用文献の記載箇所の指摘に、括弧書きで、引用文献のファミリー文献である甲1の対応記載箇所も指摘した。また、下線は、当審合議体が付した。以下、この決定において同様である。

ア 62?72頁CLAIMS(2?7頁特許請求の範囲)
「【請求項1】
基板と、
該基板上の導電層であって、複数の金属ナノワイヤーを含む導電層と、
を備える透明導電体。
【請求項2】
前記金属ナノワイヤーは、銀ナノワイヤーである、請求項1に記載の透明導電体。
・・・
【請求項4】
前記導電層はマトリクスを含む、請求項1に記載の透明導電体。
・・・
【請求項12】
前記基板は、ガラス、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、フッ素重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、シリコン、ガラス樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリノルボルネン、ポリエステル、ポリビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、またはポリカーボネート、あるいはこれらの物質の共重合体または混合物または積層である、請求項11に記載の透明導電体。
・・・
【請求項15】
一つ以上の反射防止層、防眩層、接着層、障壁、硬質被膜、または保護膜をさらに備える、請求項1に記載の透明導電体。
【請求項16】
前記導電層上に配置される反射防止層と、前記導電層と前記基板との間に配置される接着層とを備える、請求項15に記載の透明導電体。
・・・
【請求項26】
1×10^(6)Ω/□以下の表面抵抗率を有する、請求項1に記載の透明導電体。
【請求項27】
前記金属ナノワイヤーは、複数のナノワイヤー交差点を含む導電網を形成し、前記複数のナノワイヤー交差点の少なくとも一部のうちの各々における前記ナノワイヤーの少なくとも一つは、平坦な断面を有する、請求項1に記載の透明導電体。
【請求項28】
透明導電体を作製する方法であって、
複数の金属ナノワイヤーを基板の表面上に蒸着するステップであって、該金属ナノワイヤーは液体に分散されるステップと、
該液体を乾燥させることによって、金属ナノワイヤー網層を該基板上に形成するステップと、
を含む方法。
・・・
【請求項38】
前記金属ナノワイヤー網層上にマトリクス材を蒸着するステップと、
マトリクスを形成するために、前記マトリクス材を硬化するステップであって、そこに埋め込まれる前記マトリクスおよび前記金属ナノワイヤーは、導電層を形成するステップと、
をさらに含む、請求項28に記載の方法。
・・・
【請求項42】
前記マトリクス材はプレポリマーを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記プレポリマーは光硬化型である、請求項42に記載の方法。
・・・
【請求項51】
前記基板は柔軟性である、請求項28に記載の方法。
【請求項52】
前記基板は、移動経路に沿ってリールを回転させることによって駆動され、前記金属ナノワイヤーは、前記移動経路に沿って第一の蒸着機構で蒸着され、前記マトリクス材は、前記移動経路に沿って第二の蒸着機構で蒸着される、請求項51に記載の方法。
・・・
【請求項54】
前記移動経路に沿ってパターン化機構で前記マトリクス材を硬化するステップをさらに含む、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
硬化するステップは、前記マトリクス材を光照射に連続的に暴露するステップを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記光照射は、パターンに応じて前記マトリクス材に投影される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
硬化するステップは、断熱マスクを使用して、パターンに応じて前記マトリクス材層を加熱するステップを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記マトリクス材は、硬化領域および非硬化領域にパターン化される、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記非硬化領域における前記マトリクス材および前記金属ナノワイヤーは、除去されるステップをさらに含む、請求項58に記載の方法。
・・・
【請求項70】
柔軟性を有するドナー基板と、
複数の金属ナノワイヤーに埋め込まれるマトリクスを含む導電層と、
を含む積層構造。
・・・
【請求項72】
前記導電層上に配置される接着層をさらに備える、請求項70に記載の積層構造。
・・・
【請求項75】
導電層を有する少なくとも一つの透明電極であって、該導電層は複数の金属ナノワイヤーを含む透明電極を備える、表示装置。
【請求項76】
前記導電層はマトリクスをさらに備え、前記金属ナノワイヤーは該マトリクスに埋め込まれる、請求項75に記載の表示装置。
【請求項77】
前記金属ナノワイヤーは銀ナノワイヤーである、請求項75に記載の表示装置。
・・・
【請求項82】
前記表示装置は、タッチスクリーン、液晶ディスプレー、またはフラットパネルディスプレイである、請求項75に記載の表示装置。」

イ 9頁10?17行(【0028】)
「本明細書で使用される際、「金属ナノワイヤー」は、元素金属、金属合金、または金属化合物(金属酸化物を含む)を含む金属ワイヤーを言及する。金属ナノワイヤーの少なくとも一つの断面寸法は、500nm未満および200nm未満、より好ましくは100nm未満である。上述のように、金属ナノワイヤーは、10を越える、好ましくは50を越える、さらに好ましくは100を越えるアスペクト比(長さ:幅)を有する。適切な金属ナノワイヤーは、銀、金、胴、ニッケル、および金めっきの銀を含むがそれだけに限定されないいかなる金属にも基づくことができる。」

ウ 15頁1?19行(【0050】)
「特定の実施形態において、マトリクスは高分子であり、高分子マトリクスとしても呼ばれる。光学的に透明な高分子は、当技術分野において既知である。適切な高分子マトリクスの例として、ポリメタクリレート(例えば、ポリ(メタクリル酸メチル))、ポリアクリレート、およびポリアクリロニトリルなどのポリアクリル、ポリビニルアルコール、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、およびポリカーボネート)・・、シリコンおよびその他のシリコン含有高分子(例えば、ポリシルセスキオキサンおよびポリシラン)・・・が挙げられるがそれだけに限定されない。」

エ 15頁28?31行(【0053】)
「「導電層」または「導電膜」は、透明導電体の導電性媒体を提供する金属ナノワイヤーの網層を言及する。マトリクスが存在する場合、金属ナノワイヤーの網層とマトリクスとの組み合わせも、「導電層」と呼ばれる。」

オ 17頁16?29行(【0058】)
「「基板」または「選択の基板」は、その上に導電層が被覆または積層される材料を言及する。基板は、剛性または柔軟性を有することができる。基板は、透明または不透明であることができる。「選択の基板」という用語は、本明細書で説明される場合、一般的に、積層プロセスに関して使用される。適切な剛性基板は、例えば、ガラス、ポリカーボネート、アクリル、および同様なものを含む。適切な柔軟性を有する基板は、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、およびポリカーボネート)、ポリオレフィン(例えば、直鎖、分枝、および環状ポリオレフィン)、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリアクリレート、および同様なもの)、セルロースエステルベース(例えば、三酢酸セルロース、酢酸セルロース)、ポリエーテルスルホンなどのポリスルホン、ポリイミド、シリコン、およびその他の従来の高分子膜を含むがそれだけに限定されない。適切な基板の追加の例は、例えば、米国特許第6,975,067号に見られる。」

カ 20頁29行?21頁6行(【0072】)
「「接着層」は、いずれの層の物理的、電気的、または光学的特性に影響を及ぼすことなく、二つの隣接する層(例えば、導電層および基板)を接着するいかなる光学的に透明な材料も言及する。光学的に透明な接着材料は、当技術分野においてよく知られており、アクリル樹脂、塩素化オレフィン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体の樹脂、マイレン酸樹脂、塩化ゴム樹脂、環化ゴム樹脂、ポリアミド樹脂、クマロンインデン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体の樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、ポリシロキサン、および同様なものを含むがそれだけに限定されない。」

キ 27頁12行?28頁19行(【0096】?【0099】)
「「マトリクス材」は、本明細書で定義されるように、マトリクスに硬化可能な材料または材料の組み合わせを言及する。「硬化する」または「硬化」は、単量体または部分的な高分子(150単量体未満)が、重合および/または架橋して、固体高分子マトリクスを形成するプロセスを言及する。適切な重合条件は、当技術分野においてよく知られており、一例として、可視光線または紫外線、電子線、および同様なものによる単量体の加熱、単量体の照射が含まれる。さらに、溶媒除去によって同時にもたらされる高分子/溶媒系の「凝固」も、「硬化」の意味に含まれる。
特定の実施形態において、マトリクス材は、高分子を含む。光学的に透明な高分子は、当技術分野において既知である。適切な高分子マトリクスの例として、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、およびポリアクリロニトリルなどのポリアクリル、ポリビニルアルコール・・・が挙げられるがそれだけに限定されない。
その他の実施形態において、マトリクス材はプレポリマーを含む。「プレポリマー」は、本明細書で記載されるように、重合および/または架橋して高分子マトリクスを形成可能な、単量体の混合物またはオリゴマーまたは部分的な高分子の混合物を言及する。当技術分野に精通する者は、所望の高分子マトリクスの観点から適切な単量体または部分的な高分子を選択することについて認識している。
好適な実施形態において、プレポリマーは光硬化型であり、つまり、プレポリマーは、照射に暴露されて重合および/または架橋する。より詳しく説明されるように、光硬化型なプレポリマーに基づくマトリクスは、選択領域において照射に暴露することによってパターン化されることができる。その他の実施形態において、プレポリマーは熱硬化型であり、熱源に選択的に暴露することによってパターン化されることができる。」

ク 41頁26行?43頁26行(【0159】?【0168】)
「その他の実施形態において、接着層が、積層工程中に、導電層と基板との間のより優れた結合を提供するために使用可能である。図17Aは、柔軟性を有するドナー基板240、剥離層244、および導電層250の他に、オーバーコート274および接着層278を備える積層構造270を示す。接着層278は接着表面280を有する。
積層構造270は、ウェブ被覆システム146が、接着層およびオーバーコート膜を被覆するための追加の機構を提供するように構成されるという理解のもと、図15Aに関連して説明されたリール間プロセスにより作製可能である。接着層は、本明細書で定義されるようなもの(例えば、ポリアクリレート、ポリシロキサン)であり、感圧、熱溶解、照射硬化型、および/または熱硬化型である。オーバーコート層は、硬質被膜、反射防止層、保護膜、障壁層、および同様なものを含む性能向上層のうちの一つ以上であることができる。
図17Bにおいて、積層構造270は、接着表面280を介して基板260と結合される.その後、図17Cに示されるように、柔軟性を有するドナー基板240は、オーバーコート274から剥離層244を剥離することによって除去される。
特定の実施形態において、接着層(または接着層がない場合は導電層)と基板との結合を強化するために、積層プロセス中に熱または圧力が使用可能である。
その他の実施形態において、柔軟性を有するドナー基板および選択の基板に対する導電層の親和性の違いにより、剥離層は必要なくなる。例えば、導電層は、織物状のドナー基板よりも、ガラス基板に対して、より高い親和性を有してもよい。積層プロセスの後、織物状のドナー基板は除去可能であるが、導電層は、ガラス基板にしっかりと結合される。
特定の実施形態において、パターン化移行が積層プロセス中に可能である。例えば、基板は、既定のパターンに応じて、基板上の加熱領域および非加熱領域を提供する温度勾配によって加熱可能である。加熱領域のみが、親和性(例えば、接着)が強化されることによって導電層に積層され、パターン化された導電層を基板上に提供する。基板上の加熱領域は、例えば、加熱される基板部分の下に配置されるニクロム線ヒーターによって生成可能である。
その他の実施形態において、パターン化移行は、特定のマトリクス材または接着剤に示される感圧親和性に基づく圧力勾配によって作用可能である。例えば、パターン化される積層ローラーは、既定のパターンに応じて異なる圧力を加えるために使用可能である。パターン化される積層ローラーは、加圧領域と非加圧領域との親和性の違いを推進するために加熱も可能である。
・・・
パターン化
上述のとおり、パターン化される導電層は、パターンに応じてプレポリマー被覆を選択的に硬化することによって形成可能である。硬化プロセスは、光分解または熱によって実行可能である。図18は、導電層が光によってパターン化される実施形態を示す。より具体的には、金属ナノワイヤーの網層114は、本明細書に記載される方法(例えば、図13A?13D)に準じて基板14に蒸着される。基板14は、柔軟性を有するドナー基板をはじめとするいかなる基板でもよいことが理解されたい。
その後、プレポリマー被覆300は、金属ナノワイヤー114の網層に蒸着される。照射源310は、プレポリマー被覆を硬化するために光子エネルギーを提供する。マスク314は、プレポリマー被覆300と照射源310との間に配置される。暴露されると、照射に暴露される領域のみが硬化され(つまり、領域320)、非硬化領域324のプレポリマー被覆およびナノワイヤーは、適切な溶媒で洗浄またはブラッシングされること、あるいは粘着性のあるローラーでそれらを持ち上げることによって除去可能である。」

ケ 46頁14?21行(【0179】)
「本明細書で記載される透明導電体は、金属酸化物皮膜などの透明導電体を現在利用するいかなる装置も含む、多種多様の装置において電極として使用可能である。適切な装置の例として、フラットパネルディスプレイ、LCD、タッチスクリーン、電磁波シールド、機能ガラス(例えば、エレクトロクロミック窓)、光電子デバイス、および同様なものなどが挙げられる。さらに、本明細書における透明導電体は、フレキシブルディスプレイおよびタッチスクリーンなどの柔軟性を有する装置において使用可能である。」

コ 47頁30行?48頁3行(【0184】)
「本実施形態によれば、内側の導電表面594および上部の導電表面576は、約10?1000Ω/□、より好ましくは約10?500Ω/□の範囲の表面抵抗率をそれぞれ有する。任意で、第一および第二の透明導電体は、画像を透過可能にするために高透過率(例えば、>85%)を有する。」

サ 49頁9?11行(【0190】)
「銀ナノワイヤーの水分散体がまず準備された。銀ナノワイヤーは、幅が約70nmから80nmで、長さが約8μmである。」

シ Fig.17A?17C、Fig18(図17A?17C、図18)










(2)引用発明
引用文献の請求項1、4、15及び16(上記(1)ア)の記載、15頁28?31行(【0053】)(上記(1)エ)の「「導電層」または「導電膜」は、透明導電体の導電性媒体を提供する金属ナノワイヤーの網層を言及する。マトリクスが存在する場合、金属ナノワイヤーの網層とマトリクスとの組み合わせも、「導電層」と呼ばれる。」との記載、並びに、請求項42及び43の記載によれば、引用文献には、導電体の導電層がマトリクスを含むか否かの点で異なる2通りの導電体の発明、つまり、「基板と、該基板上の導電層と、前記導電層と前記基板との間に配置される接着層を備える透明導電体であって、導電層が、複数の金属ナノワイヤーの網層、あるいは、該網層と光硬化型プレポリマーの硬化物であるマトリクスとの組み合わせからなる透明導電体。」の2通りの発明が記載されているといえる。

そして、特に、41頁26行?43頁4行(【0159】?【0165】)及び図17C(上記(1)ク)に、具体的態様として、基板上(260)に設けられた接着層(278)と、接着層を介して基板と結合される導電層(250)とを有する基板が記載され、該接着層は照射硬化型であってよいこと、接着層(接着層がない場合は導電層)と基板との結合を強化するために、積層プロセス中に熱または圧力が使用可能であること、パターン化移行が積層プロセス中に可能であり、例えば、基板を既定のパターンに応じて加熱し、加熱領域のみの親和性(例えば、接着)を強化することにより、パターン化された導電層を基板上に提供したり、パターン化される積層ローラーを使用して、特定のマトリクス材または接着剤の(基材への)圧力勾配を作用させて行うことが可能である旨の記載があり、上記記載に接した当業者であれば、以下のことが理解できるといえる。
・「熱硬化型」の接着層を用いれば、パターンとして残したい部分のみを加熱して基板との親和性(接着性)を強化することによりパターン化することが可能であること。
・「感圧型」の接着層を用いれば、パターンとして残したい部分のみを積層ローラー等により加圧して基板との親和性(接着性)を強化することによりパターン化することが可能であること。
・同様に、「照射硬化型」の接着層を用いれば、明記はないものの、パターンとして残したい部分のみを照射に暴露されるようにして硬化させ、基板との親和性(接着性)を強化することによりパターン化することが可能であること。
(「照射硬化型」の接着層を用いる場合、パターンの形成を、パターン化された照射により照射部位を硬化し、その後非照射部(つまり非硬化部)を除去して行う手法が一般的に知られている(例えば、申立人が令和1年10月8日付けの意見書に添付して提出した甲第2号証である特開2003-15286号公報の【0113】?【0120】及び図6の記載や、引用文献の43頁10?26行(【0167】?【0168】)(上記(1)ク)に、導電層に含まれるプレポリマー被覆についてのものではあるが、パターン化をそのように行う旨記載されていることからも理解できる。)から、照射硬化型の接着層を介して導電層が結合された基板であってパターン化されたものについても上記一般的な手法により得られることは、当業者に自明のことである。そして、この場合、非照射部を除去した後に、基板上に設けられた接着層は導電層と共にパターン化されることになる。)

そうすると、引用文献には、照射硬化型の接着層を介して導電層が結合された基板であって、接着層と導電層が共にパターン化されたものも開示されているといえる。
すなわち、引用文献には、以下の発明が開示されているといえる。

「基板と、該基板上の導電層であって、複数の金属ナノワイヤーの網層からなる導電層と、前記導電層と前記基板との間に配置される照射硬化型の接着剤の硬化物である接着層を備える透明導電体であって、接着層と導電層は共にパターン化されている透明導電体。」(以下、「引用発明1」という。)

また、引用文献の46頁14?21行(【0179】)(上記ケ)の「本明細書における透明導電体は、フレキシブルディスプレイおよびタッチスクリーンなどの柔軟性を有する装置において使用可能である。」なる記載によれば、引用文献には、以下の発明も開示されているといえる。

「引用発明1の透明導電体をフレキシブルディスプレイおよびタッチスクリーンなどの柔軟性を有する装置に使用する方法。」(以下、「引用発明3」という。)

2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「金属ナノワイヤー」及び「複数の金属ナノワイヤーの網層からなる導電層」は、それぞれ、本件発明1の「導電性繊維」及び「導電性繊維同士が接触してなる網目構造」に相当する。
(イ)引用発明1の「照射硬化型の接着剤」に、光照射により硬化するタイプの接着剤が含まれ、これが、光重合性の化合物を含む感光性の樹脂であることは、当業者に自明であるから、引用発明1の「照射硬化型の接着剤の硬化物」は、本件発明1の「光重合性化合物」「を含む感光性樹脂組成物の硬化物」及び「前記硬化物」に相当する。
(ウ)引用発明1の「接着層と導電層は共にパターン化されている」ものは、本件発明1の「導電パターン」に相当するし、引用発明1において、接着層は導電層と基板の間に配置されることから、引用発明1の「接着層」と「導電層」は、それぞれ、本件発明1の導電パターンを構成する、「基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分」と「下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分」に相当する。
(エ)引用発明1の接着層は、基板と導電層を接着するものであるし、導電層は、複数の金属ナノワイヤーの網層からなるものであるから、導電層が接着層に固定されるためには、導電層の接着層との境界部分における網状となった金属ナノワイヤーの間隙に、含浸した硬化前の接着剤が硬化した硬化物が存在していると認められる。
したがって、引用発明1のパターン化された導電層は、本件発明1の「前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており」との構成を満足するものと認められる。
(オ)引用発明1の接着層であって、導電層との境界部分を除く部分には、金属ナノワイヤーの網層は含まれないから、当該部分は、本件発明1の「下部部分」であって、「導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない」ものとの構成を満足する。
(カ)引用発明1の「透明導電体」は、本件発明1の「導電膜基板」に相当する。

してみると、本件発明1と引用発明1は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない、導電膜基板。」
<相違点1>
導電膜基板の導電パターンの上部部分を構成する導電性繊維について、本件発明1では、「繊維径が1nm?50nm」であり、「繊維長が1μm?100μm」であると特定されているが、引用発明1では、そのような特定はされていない点。
<相違点2>
導電膜基板の導電パターンの硬化物を構成する光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物について、本件発明1では、さらに、「カルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む」ことが特定されているが、引用発明1では、そのような特定はされていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。

引用発明1のように、基板、該基板上に設けられた導電層及び前記導電層と前記基板との間に配置される接着層からなる導電性パターンを有する導電体における当該接着層を形成する感光性樹脂組成物について、カルボキシル基を有するバインダーポリマーを有するものとすることは、証拠の何れにも記載されていないし、この点が優先日当時の周知技術であったともいえない。取消理由(決定の予告)で提示した特開2002-202591号公報、特開2003-217350号公報、特開2004-206883号公報に記載されている技術は、基板上に光照射により硬化させて導電性パターンを形成するために使用される感光性樹脂組成物であって導電層を構成するもの、すなわち、引用文献1におけるマトリクスを含む導電層のマトリクスに相当する感光性樹脂組成物に関するものであって、これら文献に記載されている技術を引用発明1に適用しても、相違点2に係る構成とはならない。
そうすると、当業者は、引用発明1の導電膜基板を、その導電パターンを構成する接着剤層がカルボキシル基を有するバインダーポリマーを有するものとすることを動機付けられるとはいえない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、少なくとも相違点2で引用発明1と相違する本件発明1は、引用発明1、すなわち、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明3?6について
本件発明3?6は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項に係る発明であるから、上記(1)で述べたとおり、本件発明1が、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3?6についても同様に、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明7及び9について
本件発明7及び9は、いずれも、本件発明1の
「基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、」
「前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない」との発明特定事項に相当する発明特定事項を備えている。

そして、上記(1)アにおける本件発明1と引用発明1との対比を踏まえて、本件発明7及び9と引用発明1とを対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点2で相違している。
そうすると、少なくとも相違点2で引用発明1と相違する本件発明7及び9についても、上記(1)イで引用発明1についての判断で記載したと同様の理由により、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明8について
本件発明8は、請求項1、3、4、5、6又は7に記載の導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法についての発明であり、本件発明1、3、4、5、6又は7に記載の発明特定事項を備える発明である。
そして、上記(1)?(3)で述べたとおり、本件発明1、3?7が、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、これらの本件発明の構成を備える本件発明8についても、同様に、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1の、
「基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、」
「前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない」との発明特定事項に相当する発明特定事項を備えている。

そして、上記(1)アにおける本件発明1と引用発明1との対比を踏まえて、本件発明10と引用発明3とを対比すると、両者は、少なくとも、上記(1)アで記載した相違点2と同様の相違点で相違している。
そうすると、少なくとも相違点2と同様の相違点で引用発明3と相違する本件発明10についても、上記(1)イで引用発明1についての判断で記載したと同様の理由により、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)小括
以上のとおりであるから、取消理由によっては,本件特許の請求項1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。

第6 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

1.申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
申立人が、申立理由1及び2を主張するにあたり、その証拠方法として提出した甲1(刊行物)は、本件特許に係る出願の優先日(平成20年8月22日)より後の平成21年2月5日に公開されたものである。また、本件特許に係る出願について、パリ条約による優先権主張が認められないとする理由はみあたらない。そうすると、甲1は特許法29条1項3号所定の刊行物であるとはいえないから、このことを前提とする上記の特許異議申立理由(申立理由1及び2)は、その前提において理由がない。
よって、申立理由1及び2には理由がなく、申立理由1及び2によっては、本件特許の請求項1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。

2.申立理由3(新規事項の追加)について
申立人が主張する申立理由3は、要するに、平成29年3月21日付け手続補正書により補正された請求項1(すなわち、設定登録時の請求項1)の記載によれば、導電パターンの下部部分の硬化物と上部部分の下部領域の硬化物は、光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物であれば、同じ組成の硬化物であっても良いし、異なった組成の硬化物であってもよいと解釈可能であるところ、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、導電パターンの下部部分の硬化物と上部部分の下部領域の硬化物が、互いに異なった組成の硬化物であってもよいと解釈できる記載はないから、上記補正書による補正は、新規事項を追加する補正であり、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしていない補正をした特許出願に対してされた特許に該当するというものである。
しかしながら、上記第2 3(1)で指摘したとおり、本件訂正(訂正事項1)により、請求項1は、「導電パターン」が、その「下部部分」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」と、「上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造」に含まれる「光重合性化合物を含む感光性樹脂組成物の硬化物」とが、「同じ」感光性樹脂組成物からなる硬化物である場合に限定されており、訂正後の請求項1に係る発明には、導電パターンの下部部分の硬化物と上部部分の下部領域の硬化物が、互いに異なった組成の硬化物である場合は含まれていない。

そして、訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明(すなわち、本件発明1)が、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、特に、本件特許明細書の【0025】、【0035】、【0045】、【0075】、【0081】、【図1】及び【図2】の記載を含めたすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。

また、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明である本件発明3?6及び8、並びに、訂正事項1と同様の訂正がなされている本件発明7、9及び10についても、同様である。

したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、3?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、3?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により本件特許の請求項2が削除された結果、請求項2に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、本件特許の請求項2に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が1nm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有していない、導電膜基板。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000である、請求項1に記載の導電膜基板。
【請求項4】
前記導電性繊維が、金属繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含む、請求項3に記載の導電膜基板。
【請求項5】
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1、3又は4に記載の導電膜基板。
【請求項6】
前記基板が、プラスチック基板である、請求項1、3、4又は5に記載の導電膜基板。
【請求項7】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が1nm?50nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が1μm?100μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記導電性繊維が、金属繊維及び炭素繊維からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記基板が、プラスチック基板であり、
前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。
【請求項8】
請求項1、3、4、5、6又は7に記載の導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法。
【請求項9】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカーボネート基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板。
【請求項10】
基板と、前記基板上に設けられた導電パターンと、を備え、
前記導電パターンは、導電性繊維と、光重合性化合物及びカルボキシル基を有するバインダーポリマーを含む感光性樹脂組成物の硬化物とからなり、
前記導電パターンは、
前記基板上に設けられた、前記硬化物を含有する下部部分と、
前記下部部分上に設けられた、前記導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有する上部部分と、からなり、
前記導電性繊維の繊維径が3nm?10nmであり、
前記導電性繊維の繊維長が3μm?10μmであり、
前記上部部分の前記網目構造のうち、少なくとも前記下部部分との境界に隣接する下部領域における網目構造が、前記硬化物を含有しており、
前記下部部分が、導電性繊維同士が接触してなる網目構造を有しておらず、
前記バインダーポリマーが、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来するモノマー単位を構成単位として有するアクリル樹脂であり、
前記アクリル樹脂はスチレンが共重合されており、
前記バインダーポリマーが有するカルボキシル基の比率は、使用する全重合性単量体に対するカルボキシル基を有する重合性単量体の割合として、15?25質量%であり、
前記バインダーポリマーの重量平均分子量は30000?100000であり、
前記光重合性化合物が多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物であり、
前記感光性樹脂組成物における前記光重合性化合物の含有割合は、バインダーポリマー及び光重合性化合物の総量100質量部に対して、30?80質量部であり、
前記感光性樹脂組成物が2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1を含み、
前記導電性繊維が、金繊維、銀繊維、白金繊維及びカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記導電パターンの表面抵抗率が1000Ω/□以下であり、
前記基板がポリカーボネート基板であり、
450?650nmの波長域における最小光透過率が85%以上である、導電膜基板をフラットパネルディスプレイ、タッチスクリーン又は太陽電池に適用する導電膜基板の使用方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-06-26 
出願番号 特願2017-27072(P2017-27072)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01B)
P 1 651・ 55- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
登録日 2018-09-21 
登録番号 特許第6402791号(P6402791)
権利者 日立化成株式会社
発明の名称 導電膜基板及びその使用方法  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  
代理人 清水 義憲  
代理人 平野 裕之  
代理人 長谷川 芳樹  

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