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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
管理番号 1364929
異議申立番号 異議2020-700221  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-01 
確定日 2020-07-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6585756号発明「ウイルス不活性化剤、ノロウイルス不活性化剤及び衛生資材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6585756号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6585756号の請求項1?8に係る特許(以下、「本件特許」という)についての出願は、平成30年3月16日に出願され、令和元年9月13日にその特許権の設定登録がされ、同年10月2日にその特許掲載公報が発行された。
その後、当該発行日から6月以内にあたる、令和2年4月1日に本件特許に対して鈴木 薫(以下、「異議申立人」という)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6585756号の請求項1?8に係る発明(以下、「本件特許発明1」等ともいい、まとめて、「本件特許発明」ともいう)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
水と、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含む水溶液状のウイルス不活性化剤であって、
前記酸剤は、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸、酒石酸、アジピン酸、コハク酸及びフィチン酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、K^(+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせ、Fe^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせ、Cu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせ、K^(+)及びAl^(3+)並びにSO_(4)^(2-)の組み合わせ、NH_(4)^(+)及びAl^(3+)並びにSO_(4)^(2-)の組み合わせ、Na^(+)及びNO_(3)^(-)の組み合わせ、NH_(4)^(+)及びNO_(3)^(-)の組み合わせ、Na^(+)及びNO_(2)^(-)の組み合わせ、K^(+)及びNO_(2)^(-)の組み合わせ、NH_(4)^(+)及びNO_(2)^(-)の組み合わせ、又は、Na^(+)及びSCN^(-)の組み合わせであり、前記ウイルス不活性化剤中の前記酸剤の質量濃度は、0.10?5.00重量%であることを特徴とするウイルス不活性化剤。
【請求項2】
前記ウイルス不活性化剤中の前記エタノールの質量濃度は、8.05?85.70重量%である請求項1に記載のウイルス不活性化剤。
【請求項3】
前記ウイルス不活性化剤中の前記陽イオン及び前記陰イオンの合計質量濃度は、0.001?5.00重量%である請求項1又は2に記載のウイルス不活性化剤。
【請求項4】
前記ウイルス不活性化剤中の前記陽イオンのイオン当量は、0.05?1500mEq/Lである請求項1?3のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項5】
前記ウイルス不活性化剤中の前記陰イオンのイオン当量は、0.05?1500mEq/Lである請求項1?4のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項6】
前記ウイルス不活性化剤のpHは、2?8である請求項1?5のいずれかに記載のウイルス不活性化剤。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載されたウイルス不活性化剤からなることを特徴とするノロウイルス不活性化剤。
【請求項8】
請求項1?6のいずれかに記載のウイルス不活性化剤、又は、請求項7に記載のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする衛生資材。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、全請求項に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由1を主張し、証拠方法として甲第1?2号証を提出している。

<理由>
理由1(進歩性)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明は、甲第1?2号証(主たる証拠は、甲第1号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2012/164253号
甲第2号証:緩衝液の選択と応用-水素イオン・金属イオン,D.D.ペリン,B.デンプシー著,辻 啓一訳,株式会社 講談社,1997年8月10日,第11刷,第152頁
なお、以下、甲第1?2号証を、その番号に対応してそれぞれ、「甲1」?「甲2」ともいう。

第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の記載がある(訳文にて示す)。

(1a)「請求項:
1. 処理された表面に殺菌効果を与える、噴霧可能な加圧された液体の無生物表面処理組成物であって、以下を含む組成物:
銅イオンを処理組成物に放出する銅源材料、好ましくはCu(I)及び/又はCu(II)イオンの供給源;
少なくとも20wt%の少なくとも1つの低級アルキル脂肪族一価アルコール、好ましくは少なくとも約30wt%の低級アルキル脂肪族一価アルコール;
殺菌効果を提供する少なくとも1つの第四級アンモニウム化合物;
水;
噴射剤;
任意に、1つ以上の洗浄性界面活性剤を含む、1つ以上の有利な技術的又は審美的効果を組成物に与える1つ以上のさらなる成分;
ここで、組成物は少なくとも5のpHを有し、
ここで、前記処理組成物は、以下の標準試験プロトコルの1つ又はそれ以上に従って、1つ又はそれ以上の微生物に対して試験した場合に殺菌効果を示すことを特徴とする:懸濁液中のウイルスに対する抗菌剤の有効性に関するASTM E 1052標準試験方法、又は無生物の無孔性環境表面の消毒を目的とした化学物質の殺ウイルス活性を評価するためのASTM E 1053標準試験方法、
又は欧州標準表面試験、EN1369、又はAOAC殺菌スプレー製品の消毒剤試験方法、AOACインデックス、第17版(2000)、特に好ましくはポリオウイルスタイプ1(Sabin)("PV1")に関するもの」(特許請求の範囲)

(1b)「これらの様々な既知の組成物にもかかわらず、当技術分野では、処理組成物が特にエタノール等の殺菌効果を提供する脂肪族アルコールを含む、低減された量のVOCしか含まないが、無生物の表面に適用されるか、空間の処理に使用される場合、特にポリオウイルスなどの根絶困難な望ましくない微生物に対して非常に効果的である、望ましくない微生物の制御又は根絶に特に適した加圧された噴霧可能な処理組成物の製造が依然として急務である。」(第5頁第2段落)

(1c)「この広範な態様の範囲内で、本発明者らは、驚くべきことに、殺菌効果を提供する少なくとも1つの第四級アンモニウム化合物を含有する水性アルコール液体組成物に、特定のpH範囲(特に好ましくはアルカリ性pH範囲)で、少量であるが有効な量の銅イオンを提供する材料、及び(任意であるがほとんどの場合において)、さらに少なくとも1つの界面活性剤を添加すると、殺菌効果の相乗的改善を示す加圧噴霧可能処理組成物を生成できることを見出した。そのような効果は驚くべきことであり、特に技術的に有利である、なぜなら制御(又は根絶)が特に難しい微生物、特にポリオウイルスに対して、殺菌効果の向上が観察されていると同時に、これらの効果が低減されたVOC含有量を有する水性アルコール液体組成物において達成されているからである。当技術分野で知られているように、ポリオウイルスは制御又は根絶が特に困難であり、ポリオウイルスに対する実証された殺菌効力は、制御又は根絶がそれほど困難ではない他の微生物に対する殺菌効力を示すと予想される。」(第6頁第13?26行)

(1d)「本発明の第1の必須の構成は、加圧され、噴霧可能な処理組成物へ銅イオンを放出する銅源材料、好ましくは、Cu(I)及び/又はCu(II)イオンの供給源である。銅イオンは加圧され、噴霧可能な処理組成物に分散可能、混和可能又は可溶でなければならない。例えば、Cu(I)及び/又はCu(II)イオンのような、銅イオンの供給源として機能することができ、アルコール系液体組成物に銅をイオンを供給でき、この出願の明細書に開示され、特に実施例として言及されているいかなる材料又は化合物は本発明の組成物に使用することができる。そのような材料又は化合物の非限定的な例としては、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、オキシ塩化銅、CuCl_(2)・2H_(2)O、Cu(AcO)_(2)・H_(2)0、Cu D-グルコン酸、Cu(I)Cl・H_(2)0や処理組成物中へCu(I)や特にCu(II)イオンを提供するために使用することができる任意の他の化合物又は化学種が挙げられる。非限定的な例として明示的に理解されるものの他に、例えば他の有機化合物又は無機化合物の銅塩等の、銅イオンを供給するために機能する他の材料を使用することができる。銅イオンはアルコール系液体組成物に完全に可溶性である必要はなく、例えば、分散液であってもよい。銅源材料は、任意の有効量で加圧され、噴霧可能な処理組成物中に存在してよいが、有利には少なくとも約0.001wt%から約2.0wt%、好ましくは約0.01wt%から約1wt%であり、特に好ましくは約0.01wt%から約0.5wt%である。或いは、銅源材料は、加圧され、噴霧可能な処理組成物に約1ppmから約10,000ppm、好ましくは約20ppm?約5000ppm、さらにより好ましくは約50ppm?約1000ppm以下であり、特に好ましくは約50ppm?約500ppmのCu(I)及び/又は銅(II)イオンを提供するように十分な量で本明細書で教示される本発明の処理組成物中に存在してもよい。」(第11頁第9行?第12頁第4行)

(1e)「本発明の組成物のさらなる必須の構成は、少なくとも1つの低級アルキル脂肪族一価アルコールである。好ましくは低級アルキル脂肪族一価アルコールの少なくとも1つはまた、組成物中に存在し得るその他の構成要素とは独立して微生物に対する殺菌効果を発揮する。典型的かつ好ましいC_(1)?C_(6)一価アルコール、特にメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の全ての異性体である。これらの中で、C_(1)?C_(3)の一価アルコール類が好ましく、特にエタノールが好ましい。そのような単一のアルコール又は2種類以上のアルコール類の混合物であってもよい。複数アルコールが存在する特定の実施形態では、エタノールが支配的なアルコールであり、特に少なくとも50.1wt%含まれることが好ましく、特に好ましくは、望ましい順に、重量で51%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%、99.5%、100%の少なくとも一種の低級アルキル脂肪族一価アルコールを含むことが好ましい。少なくとも1つの低級アルキル脂肪族一価アルコールは、それが一部を形成する加圧され、噴霧可能な処理組成物に少なくとも20wt%含まれる。好ましくは少なくとも1つの低級アルキル脂肪族一価アルコール成分は、少なくとも約21wt%の量で存在し、加圧され、噴霧可能な処理組成物中に、望ましい順に、重量で少なくとも22%、22.5%、23%、23.5%、24%、24.5%、25%、25.5%、26%、26.5%、27%、27.5%?28%、28.5%、29%、29.5、30、30.5、31、31.5、32、32.5、33、33.5、34、34.5、35、35.5、36、36.5%、37%、37.5%、38%、38.5%、39%、39.5%、40%、40.5%、41%、41.5%、42%、42.5%、43%、43.5%、44%、44.5%、45%、45.5%、46%、46.5%、47%、47.5%、48%、48.5%・・・70%含まれる。同時に及び好ましくは少なくとも一種の低級アルキル脂肪族一価アルコール成分は加圧され、噴霧可能な処理組成物中に重量で約95%までの量で存在し、そして望ましい順に、重量で90%、85%、80%、75%、70%、69%、68%、67%、66%、65%、64%、63%、62%、61%、60%、59、58、57、56、55、54、53、52、51、50、49.5、49、48.5、48、47.5%、47%、46.5%、46%、45.5%、45%、44.5%44%、43.5%、43%、42.5%、42%、41.5%、41%、40.5%、40%、39.5%、39%、38.5%、385、37.5%、37%、36.5%含まれる。
前述したように、特定の好適な実施形態の組成物は、20wt%?40wt%、好ましくは40wt%未満の少なくとも1つの低級アルキル脂肪族一価アルコールを含む。」(第12頁第9行?第13頁第13行)

(1f)「加圧され、噴霧可能な処理組成物のpHは、好ましくは、確立された後、所望のpH又は制限されたpH範囲に維持される。実施例の組成物を考慮することによって、よりよく理解されるように、本発明者らはまた、加圧され、噴霧可能な処理組成物のpHが望ましくない微生物を低減、不活性化又は破壊する加圧され、噴霧可能な処理組成物の全体的な有効性の確立に重要な役割を果たしていることを見出した。一般的に、より高い、よりアルカリ性のpHが同時により少量のアルコール(具体的にはエタノール)を含有する組成物は、低いpHだが増加した量のエタノールを有する他の組成物と同様の殺菌性能を有することが観察された。したがって、本発明の配合組成物の自由度の合理的な程度は、pH及び低級アルキルの一価アルコールの量の慎重な制御によりもたらされる。以下にこの効果を実証する特定の例示的配合物について言及する。本発明の組成物のpHは少なくとも5であるが、それ以上であることが好ましく、特に好ましいある種の実施態様において実質的にアルカリ性である。組成物のpHが5以上であってもよいが、好ましくは組成物のpHは、少なくとも約6であり、より好ましくは約7-14の範囲内、特に約9-12の範囲である。したがって好ましい実施形態において加圧され、噴霧可能な処理組成物(及び/又は殺菌制御系)のpHは少なくとも5であり、望ましい順に少なくとも6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10、10.1、10.2、10.3、10.4、10.5、10.6、10.7、10.8、10.9、11 1 1.1、1 1.2、11.3、1 1.4、11.5、1 1.6、11.7、1 1.8、1 1.9、12、12.1、12.2、12.3、12.4、12.5である。好適な実施の形態において、加圧され、噴霧可能な処理組成物(及び/又は殺菌制御系)のpHは、12.5、12.4、12.3、12.2、12.1、12、1 1.9、1、1.8、1、1.7、1、1.6、1 1.5、1 1.4、1 1.3、1、1.2、11.1、1 1、10.9、10.8、10.7、10.6、10.5、10.4、10.3、10.2、10.1、10、9.9、9.8、9.7、9.6、9.5を超えない。所望であれば、本発明の組成物は、低いpHを有し、1-14の範囲であってよいが、好ましいpHは上記範囲に示されており、実施例により実証される。加圧され、噴霧可能な表面処理組成物のpHは、pH調整成分の有効量を添加することによって、調整及び/又は維持することができる。
任意ではあるが好ましくは、本発明の加圧され、噴霧可能な処理組成物は、加圧され、噴霧可能な処理組成物のpHを望ましいpH又は制限されたpH範囲内に確立及び/又は維持するために用いることができるpH調整成分、すなわちバッファを含有することができる。pH調整成分としては加圧され、噴霧可能な処理組成物のpHを増加又は減少させ得る基本的に任意の材料を考慮することができる。適切なpH調整成分は、有機及び/又は無機化合物又は材料に基づく1つ又はそれ以上の酸及び/又は塩基である。pH調整成分の非限定的な例は、リン含有化合物、ケイ酸、炭酸、ホウ酸、特定の酸及び塩基の一価塩及び多価塩、酒石酸塩及びある種のアセテートを挙げることができる。さらなるpH調整成分の例は、無機酸、塩基性組成物、及び有機酸を挙げることができ、典型的に少量のみ必要とされる。さらなる非限定的な例のpH緩衝組成物は、アルカリ金属のリン酸塩、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、三リン酸塩、四リン酸塩、シリケート、メタシリケート、ポリシリケート、炭酸塩、水酸化物、及びそれらの混合物が挙げられる。アルカリ土類金属リン酸塩、炭酸塩、及び水酸化物など、特定の塩は、バッファとして機能することもできる。アルミノケイ酸塩(ゼオライト)、ホウ酸塩、アルミン酸塩や、グルコン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩等の特定の有機材料、及びこれらのアルカリ金属塩のような材料をバッファとして用いるようにしてもよい。特に有用かつ好ましいのは、pH調整、緩衝効果を提供するのに有効で広く入手可能であるクエン酸ナトリウム等のクエン酸及びその金属塩である。さらなる例示的かつ有用なpH調整成分はモノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン、アルキルジアルカノールアミンやジアルキルモノアルカノールアミンなどのアルキルアルカノールアミンが挙げられる。これらは、洗浄界面活性剤として機能することもできる。アルカノール及びアルキル基は一般に短鎖から中鎖、すなわち、炭素数が1?7である。ジ-及びトリアルカノールアミン及びジアルキルモノアルカノールアミンの場合、これらの基は、同じアミン上で組み合わせることができ、例えば、メチルエチルヒドロキシプロピルヒドロキシルアミンであってよい。当業者であれば、このグループの他のメンバーを容易に把握することができる。好ましいアルカノールアミンはモノエタノールアミンが挙げられる。
噴霧可能な処理組成物のpHの制御は、噴霧可能な処理組成物に曝されるキャニスタの特にウェルドライン、屈曲部、圧着部の腐食を減少させて、噴霧可能な処理組成物を含有する加圧エアゾル缶の保存安定性を向上させるためにも有利である。モノエタノールアミンホウ酸塩、モノイソプロパノールアミンホウ酸塩のようなホウ酸エステルは腐食防止剤の例であるが、当業者に周知の他の材料又は組成物や、本明細書に開示されている他の材料又は組成物も、有効量で使用することができることを理解されたい。
存在する場合には、1つ又はそれ以上のpH調整成分は、加圧され、噴霧可能な処理組成物のpHを望ましい値付近又は範囲で確立及び/又は維持するために効果的な量で含まれる。有利には1つ又はそれ以上のpH調整成分は、1つ又はそれ以上のpH調整成分が一部を形成する加圧され、噴霧可能な処理組成物の約0.001 - 2.5wt%、好ましくは約0.01?1.5wt%で含まれる。好ましいpH調整成分は実施例に示されているもの又はそれ以上のものが挙げられる。幾つかの好ましい実施形態において、1つ又はそれ以上のpH調整成分は、本発明組成物の必須構成として理解されるべきである。」(第33頁第24行?第36頁第9行)

(1g)「実施例
処理組成物ならびにいくつかの比較用組成物を以下の表に記載されたように製造した。これらの特定された組成物において、成分は、それぞれの供給者から“供給されたまま”使用されたため、100wt%より小さい“活性”を構成するか、又は、下記の表に記載された名前の化合物として、100wt%“活性”を構成するように供給されてもよい。本発明の範囲内にあると考えられる処理組成物は、“例示”組成物であることを示す文字“E”で前置きされた数字によって記載される一方、比較のためのみに提供された組成物は、文字“C”で前置きされた数字によって記載され、これは本発明の範囲外の比較例であることを示す。特定の処理組成物では、例えばpH調整成分等の1つ又はそれ以上の成分又は脱イオン水を、望ましいpHを与えるために又は各組成物が100wt%となるように“適量”“q.s.”添加された。これ以降に開示された例示組成物は本発明の好ましい態様を含む。比較例は表Cに開示され、一方で本発明の処理組成物は1つ又はそれ以上のさらなる表、例えば表1等に開示されている。以下の表に開示された組成物は、通常次の手順に沿って、特定された成分を単純に混合し、撹拌して得られた。機械的撹拌機又は磁気撹拌機を装備した適当な大きさの実験室用ビーカーに、脱イオン水の大部分を最初に供給した。すべての成分並びに実験室用ビーカーは室温(約20℃)であり、ビーカーは開放され、混合は常圧で行われた。その後、攪拌条件下(約300rpm)で銅イオン源を添加し、この材料が溶解するまで混合を継続した。続いて、攪拌を続けながら、次に4級アンモニウム化合物を添加し、次にpH調整成分が含有される場合にはpH調整成分を添加した。均質な混合物とするためにさらに15-30分間攪拌を続け、次にアルコール成分を添加した。続いて、表面処理組成物の所望のpHを確立するために、任意のさらなる量のpH調整成分(存在する場合)を含む任意の残りの成分を添加した。“q.s.”で添加されたことが特定されている成分は、形成された組成物のpHを調整するために、又は形成された組成物の重量を100wt%とするために添加された。均質な混合物とするためにさらに1-15分間攪拌を続け、その後、表面処理組成物はビーカーから取り出され、使用又は試験された。
以下に定義されたこれらの組成物は、以下の表Aにおいて定義された特定の成分を用いて調製された。
所定量の適切な噴射剤を既に組み込んだものとして示されていない場合、以下の表に記載される例示的な組成物のいずれに対しても、適切な量の噴射剤を添加することができることを理解すべきである。典型的には、100wt%の例示的な組成物に対して適切な噴射剤を1-10wt%添加することができ、次いで例えばエアロゾルキャニスタ等の、加圧された処理組成物を分配できる共通ノズルのような分配バルブを備えた、密封容器の中に配置できる。

(当審注:表Aの1,6,6,26,28,34番目の項目はそれぞれ以下のとおり
CuSO4.5H2O CuSO_(4).5H_(2)O,テクニカルグレード(100wt%有効)
エタノール(100%) エタノール,テクニカルグレード,100wt%,有効
エタノール(95%) エタノール,テクニカルグレード,95wt%,有効
シトロゾル502(50%) クエン酸水溶液(50%wt有効)(例ADM社製)
クエン酸(1.56%) 試薬グレードの無水クエン酸の水溶液(1.56wt%有効)
di H_(2)O 脱イオン水(100wt%有効))
・・・
以下の表において報告された、試験された微生物及びその呼称は表Bに定義されたとおりである。

(当審注:表Bの1,4番目の項目はそれぞれ以下のとおり
“PV1” ウイルス/例えば米国疾病対策予防センターから供給されているポリオウイルス1型サビン
“FCV” ウイルス/ATCC VR-782として供給されているネコカリシウイルスF-9株(ネコカリシウイルスF-9株は、ノロウイルスの代替ウイルスとして使用された))
・・・
以下の表では表1及びCの両方に記載された試験組成物の外観は、“かすかに濁っている”と記載されたもの以外は全ての液体組成物が透明であり、多くのものは多かれ少なかれ青みがかっていた。
・・・
表1に開示された本発明の組成物は噴射剤の添加と圧入の前に組成物化されて試験され、表2に開示された本発明の組成物は記載された噴射剤と組み合わされた後で試験に付された。
・・・

・・・

・・・

」(第54?82頁)

(2)甲2に記載された事項
甲2には以下の記載がある。
(2a)「



2 甲1に記載された発明
摘示(1g)の特に表1のE35には「Cu_(2)SO_(4).5H_(2)O、エタノール(100%)、シトロゾル502(50%)0.08wt%、脱イオン水を含有し、pH5.0、銅イオン含量254ppm、薄い青色の外観を呈し、ASTM E 1052(log10減少値)でPV>5.62,FCV=<4.27を示した組成物」の発明が記載されている(以下「甲1-1発明」という。)。
摘示(1g)の特に表1のE36には「Cu_(2)SO_(4).5H_(2)O、エタノール(100%)、シトロゾル502(50%)0.066wt%、脱イオン水を含有し、pH5.04、銅イオン含量254ppm、薄い青色の外観を呈し、ASTM E 1052(log10減少値)でPV=>4.73を示した組成物」の発明が記載されている(以下「甲1-2発明」という。)。

3 本件特許発明1について
(1) 甲1-1発明について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明の「Cu_(2)SO_(4).5H_(2)O」は、摘示(1d)からアルコール系液体溶液に溶解等して銅イオンを放出する材料であり、甲1-1発明はアルコール系液体溶液として少なくともエタノールと水を含有するものであるから、少なくともエタノールと水の中で溶解してCu^(2+)とSO_(4)^(2-)を放出するものであって、本件特許発明1の「陽イオンと、陰イオン」及び「前記陽イオン及び前記陰イオンの種類はCu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせ」に相当する。
甲1-1発明の「シトロゾル502(50%)」は、摘示(1g)の表Aの記載から、50重量%濃度のクエン酸水溶液であると理解されるから、本件特許発明1の「酸剤」及び「前記酸剤はクエン酸」に相当する。
また、甲1-1発明の「ASTM E 1052(log10減少値)でPV>5.62,FCV=<4.27を示した組成物」は、摘示(1a)から懸濁液中のウイルスに対する抗菌剤の有効性に関するASTM E 1052標準試験方法によって試験したときに、ポリオウイルス及びネコカリシウイルスに対して活性であったことを意味するものと解されるから、本件特許発明1の「ウイルス不活性化剤」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1-1発明は「水と、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、
前記酸剤は、クエン酸であり、
前記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、Cu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせであることを特徴とするウイルス不活性化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は「水溶液状」のものであるのに対し、甲1-1発明は、そのような特定を有さない点
相違点2:本件特許発明1は、「酸剤の質量濃度は、0.10?5.00重量%である」のに対し、甲1-1発明は、50重量%濃度のクエン酸水溶液である「シトロゾル502(50%)を0.08wt%含有する」点

イ 判断
(ア)相違点1について
甲1-1発明は、水を含有するものであり、外観は、薄い青色を呈するものであって、摘示(1g)から“かすかに濁っている”との記載はなく、透明な液体組成物であることが理解できる。
また、「Cu_(2)SO_(4).5H_(2)O」は、硫酸銅五水和物であって、水に容易に溶解し、水溶液は銅イオンの存在により青色を呈することは技術常識である。
そうすると、摘示(1g)及び技術常識から、甲1-1発明は、「水溶液状」のものであるといえる。

(イ)相違点2について
甲1-1発明は、50重量%濃度のクエン酸水溶液であるシトロゾル502(50%)を0.08wt%含有するものであるから、クエン酸の質量濃度に換算すると、クエン酸を0.04重量%含有するものであるといえる。

ここで、甲1-1発明は、摘示(1a)及び摘示(1f)からみて、銅イオンの供給源、低級アルキル脂肪族一価アルコール、第四級アンモニウム化合物、水、噴射剤を含有し、任意成分として洗浄性界面活性剤やpH調整成分を含有してもよい、pH5以上の、ウイルスに対する殺菌効果を与える、噴霧可能な加圧された液体の無生物表面処理組成物の発明の具体的な態様であると理解され、pH調整成分としてクエン酸を含むが、Na_(2)HPO_(4)を含むものではない。
これに対し、甲2には、摘示(2a)からみて単に0.1Mクエン酸水溶液単独又は0.1Mクエン酸水溶液と0.2M Na_(2)HPO_(4)水溶液を様々な割合で混合して作成可能なpH緩衝液として、pH2.2?8.0の範囲の広域緩衝液を得たことが記載されているにとどまる。
そうすると、甲1-1発明と甲2に記載された事項には何ら関連性がないから、甲1-1発明に甲2に記載された事項を組み合わせることは、当業者にとって動機づけられるものではない。

また、甲1-1発明は、pH5.0のものであり、摘示(1a)及び(1f)からみて、pH5以上、特にアルカリ性が好ましいものであるところ、甲1-1発明においてクエン酸の濃度を0.04重量%よりも増加させると、pH5を下回ってしまうから、甲2に記載された事項にかかわらず、甲1-1発明においてクエン酸の濃度を0.04重量%よりも増加させ、0.10?5.00重量%とすることは、当業者にとって動機づけられるものではない。

そして、本件特許発明1は発明の詳細な説明【0017】に記載されているように、酸剤を含むことで「陽イオン、陰イオン及びエタノールを含むウイルス不活性化剤のウイルス不活性化作用を増強させる効果を示す」ものであり、その結果、発明の詳細な説明【0025】に記載されているように、ウイルス不活性化剤全体として「タンパク質汚れ存在下でも、タンパク質を塩析又は塩溶させて、エタノールをウイルスに接触させることができるので、十分なウイルス不活性化作用を示す」という効果を奏するものであって、この効果は甲1及び甲2に記載された事項から当業者が予想し得ないものである。

ウ 異議申立人の主張
異議申立人は、異議申立書において、摘示(2a)の表から、pH2.2の組成におけるクエン酸の濃度は1.8重量%、pH8.0の組成におけるクエン酸の濃度は0.054重量%と計算され、甲2に基づいてpHを緩衝する目的でクエン酸の濃度を0.054重量%から1.8重量%に調製することは本件特許出願時に公知であったこと、また、この組成を適宜希釈して使用することは当業者が通常行うことであるから、pHを緩衝する目的で、クエン酸の濃度を1.8重量%以下に調整することは、本件特許出願時に公知であったこと、したがって、本件特許発明1は甲1に甲2を適用することによって、当業者が容易に想到可能である旨主張する。

しかしながら、甲1-1発明に甲2を適用する動機付けがないことは上記イにおいて検討したとおりである。
仮に、甲1-1発明に甲2を適用するとしても、甲1-1発明は、pH5.0のものであり、摘示(1a)及び(1f)からみて、pH5以上、特にアルカリ性が好ましいとされているところ、摘示(2a)の表からpH5.0の組成におけるクエン酸の濃度は0.094重量%と計算され、pH5.0?8.0の緩衝液とする場合のクエン酸の濃度は0.094?0.054重量%となるから、本件特許発明1の酸剤の質量濃度の範囲とは重複しない。

エ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成を容易想到の事項ということはできず、また、本件特許発明1は上記相違点2に係る構成に起因して格別顕著な効果を有するものであるから、本件特許発明1は、甲1-1発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(2)甲1-2発明について
ア 対比
本件特許発明1と甲1-2発明を対比する。
甲1-2発明の「Cu_(2)SO_(4).5H_(2)O」は、摘示(1d)からアルコール系液体溶液に溶解等して銅イオンを放出する材料であり、甲1-2発明はアルコール系液体溶液として少なくともエタノールと水を含有するものであるから、少なくともエタノールと水の中で溶解してCu^(2+)とSO_(4)^(2-)を放出するものであって、本件特許発明1の「陽イオンと、陰イオン」及び「前記陽イオン及び前記陰イオンの種類はCu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせ」に相当する。
甲1-2発明の「シトロゾル502(50%)」は、摘示(1g)の表Aの記載から、50重量%濃度のクエン酸水溶液であると理解されるから、本件特許発明1の「酸剤」及び「前記酸剤はクエン酸」に相当する。
また、甲1-2発明の「ASTM E 1052(log10減少値)でPV=>4.73を示した組成物」は、摘示(1a)から懸濁液中のウイルスに対する抗菌剤の有効性に関するASTM E 1052標準試験方法によって試験したときに、ポリオウイルスに対して活性であったことを意味するものと解されるから、本件特許発明1の「ウイルス不活性化剤」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1-2発明は「水と、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、
前記酸剤は、クエン酸であり、
前記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、Cu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせであることを特徴とするウイルス不活性化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:本件特許発明1は「水溶液状」のものであるのに対し、甲1-2発明は、そのような特定を有さない点
相違点4:本件特許発明1は、「酸剤の質量濃度は、0.10?5.00重量%である」のに対し、甲1-2発明は、50重量%濃度のクエン酸水溶液である「シトロゾル502(50%)を0.066wt%含有する」点

イ 判断
(ア)相違点3について
前記(1)イ(ア)において、相違点1について検討したのと同様である。

(イ)相違点4について
甲1-2発明は、50重量%濃度のクエン酸水溶液であるシトロゾル502(50%)を0.066wt%含有するものであるから、クエン酸の質量濃度に換算すると、クエン酸を0.033重量%含有するものであるといえる。

前記(1)イ(イ)において、相違点2について検討したのと同様の理由により、甲1-2発明に甲2に記載された事項を組み合わせることは、当業者にとって動機づけられるものではない。
また、前記(1)イ(イ)において、相違点2について検討したのと同様の理由により、甲1-2発明においてクエン酸の濃度を0.033重量%よりも増加させ、0.10?5.00重量%とすることは、当業者にとって動機づけられるものではない。
そして、本件特許発明1の効果についても前記(1)イにおいて検討したとおりである。

ウ 異議申立人の主張
前記(1)ウにおいて検討したとおりである。

エ 小括
以上のとおり、本件特許発明1の上記相違点4に係る構成を容易想到の事項ということはできず、また、本件特許発明1は上記相違点4に係る構成に起因して格別顕著な効果を有するものであるから、本件特許発明1は、甲1-2発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

(3)他の甲1に記載された発明について
異議申立人は、異議申立書において、甲1に記載された発明として摘示(1g)の表1のE17,E54,E55,E57,E58,E60?E63,E66?E73も挙げている。
しかしながら、甲1-1発明及び甲1-2発明と同様に、これらはいずれも本件特許発明1と「水と、エタノールと、陽イオンと、陰イオンと、酸剤とを含むウイルス不活性化剤であって、
前記酸剤は、クエン酸であり、
前記陽イオン及び前記陰イオンの種類は、Cu^(2+)及びSO_(4)^(2-)の組み合わせであることを特徴とするウイルス不活性化剤。」である点で一致し、本件特許発明1は「水溶液状」のものであるのに対し、これらの発明はそのような特定を有さない点及び本件特許発明1は、「酸剤の質量濃度は、0.10?5.00重量%である」のに対し、これらの発明は、クエン酸の質量濃度が特定されていない点で相違する。
そして、当該相違点については前記(1)イ及びウ並びに(2)イ及びウにおいて検討したとおりである。

4 本件特許発明2?8について
本件特許発明2?6は、本件特許発明1を引用し、さらに限定した「ウイルス不活性化剤」の発明である。
また、本件特許発明7は、本件特許発明1を引用し、さらに不活性化するウイルスの種類を限定した「ノロウイルス不活性化剤」の発明である。
また、本件特許発明8は、本件特許発明1?6いずれかに記載のウイルス不活性化剤、又は本件特許発明7に記載のノロウイルス不活性化剤を含むことを特徴とする「衛生資材」の発明である。
そして、上記3において検討したとおり、本件特許発明1は、当業者が甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
そうすると、本件特許発明2?8も、本件特許発明1と同様の理由により、当業者が甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。

第5 むすび
上記のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-07-20 
出願番号 特願2018-49618(P2018-49618)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 西澤 龍彦  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 大熊 幸治
安孫子 由美
登録日 2019-09-13 
登録番号 特許第6585756号(P6585756)
権利者 株式会社ニイタカ
発明の名称 ウイルス不活性化剤、ノロウイルス不活性化剤及び衛生資材  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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