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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21C
管理番号 1364944
異議申立番号 異議2020-700283  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-22 
確定日 2020-07-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6593233号発明「高清浄鋼の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6593233号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6593233号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成28年3月16日に出願され、令和1年10月4日にその特許権の設定登録がされ、令和1年10月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年4月22日に特許異議申立人吉田敦子(以下、「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。



第2 本件発明
本件特許の請求項1の特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法において、
前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下、かつ、溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした後、
前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し、該脱酸処理から前記連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに10分以上静置して、
前記連続鋳造工程では、溶鋼を受け入れる受湯部と、該溶鋼を連続鋳造する鋳型に注入する排湯部とに仕切る堰が内部に設けられ、該堰の高さを溶鋼深さの0.3倍以上0.8倍以下とした前記タンディッシュに、前記脱酸処理後に静置した溶鋼を注湯することを特徴とする高清浄鋼の製造方法。」



第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第6号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1により、本件発明に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。

甲第1号証:特公昭62-39205号公報
甲第2号証:特開2002-249817号公報
甲第3号証:特開平9-122853号公報
甲第4号証:特開2003-306713号公報
甲第5号証:特開平5-230516号公報
甲第6号証:特開2001-152238号公報

1 申立理由1(進歩性)

(1)申立理由1-1
本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)申立理由1-2
本件発明は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3)申立理由1-3
本件発明は、甲5に記載された発明及び甲2?4、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。



第4 当審の判断
以下に述べるように、申立理由1-1?1-3によっては,本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

1 各甲号証の記載事項

(1)甲1について

ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がなされている(下線は当審が付したもの。また、「・・・」は省略を示す。以下同様)。

(ア)「1 製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬するにさいし、製鋼炉からの出鋼時に製品としてほぼ必要量の脱酸剤を添加すると共に、脱酸生成物の合体浮上促進のためのフラックスを添加し、更に酸化性スラグを改質するためのスラグ還元剤を併用添加することを特徴とする高清浄度鋼の製造方法。」(特許請求の範囲)

(イ)「本発明は高清浄度鋼の製造方法に関するものである。」(第1欄10?11行)

(ウ)「近年、清浄度鋼の要求が益々高まりつつあることは周知のとおりであり、かかる清浄度鋼は、一般に溶鋼を2次精錬する方法により製造されている。」(第1欄12?15行)

(エ)「溶鋼の清浄化のために上記の2次精錬を実施する狙いは、主として次のとおりである。
(1)(当審注:(1)の本来の表記は丸の中に1) RH、DH式真空脱ガス処理時の撹拌エネルギーを利用して溶鋼中に含有されている微小介在物の合体浮上を促進する。
(2)(当審注:(2)の本来の表記は丸の中に2) 真空下におけるカーボン脱酸(〔C〕+〔O〕→CO↑)を利用して、Al、Si等の脱酸剤を添加する時点での溶鋼中の〔O〕を下げることにより、脱酸時に生成するAl_(2)O_(3)、SiO_(2)等の介在物源の生成量を少くする。(この場合、2次精錬での脱〔C〕量分だけ転炉吹止め〔C〕を高くし、転炉吹止め時点での溶鋼中〔O〕を低く抑える方法が採られている)」(第1欄12行?第2欄3行)

(オ)「上記工程によつて高清浄度鋼を製造する場合、・・・Sol〔Al〕10?20×10^(-3)%程度の低Sol〔Al〕材や、〔C〕5×10^(-2)%以下の低炭材を溶製する場合は従来法では十分な溶鋼清浄度が得られないことがわかつた。(第1図及び第2図参照)」(第2欄11?18行)

(カ)「その理由は次のとおりである。
(i) 低炭材の場合転炉において〔C〕吹下げがなされるため、そのスラグはFeO、MnO濃度の高い極めて酸化性の高い組成となる。また低Sol〔Al〕材の場合には脱酸剤の投入量が少ないためスラグ中のFeO、MnO等は十分な還元がなされないまま2次精錬後においてもそのまま高濃度でスラグ中に残存してしまう。これらの取鍋スラグ中に残存したFeO、MnOは2次精錬以後の工程で鋼中の〔Al〕〔Si〕〔Ti〕等のより酸素親和力の強い元素を徐々に酸化させ微小介在物を生成させる。
(ii)脱酸材添加後の微小介在物の合体浮上時間が十分に取れないため溶鋼中に微小介在物が残存してしまう。
これに対して撹拌時間を長くすると、温度降下が大きくなり、その分だけ出鋼温度を高くせねばならず、製鋼炉耐火物の溶損による介在物の増加を来たすことになる。
(iii) 溶鋼に単に撹拌エネルギーを付与しただけでは微小介在物の合体浮上効果は十分に得られない。」(第2欄19行?第3欄15行)

(キ)「本発明は上記の難点を除去し、特に低SolAl領域、低C領域の溶鋼の高清浄化を図ることを目的としたものである。」(第3欄16?18行)

(ク)「本発明の要旨は製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬するにさいし、製鋼炉からの出鋼時に製品としてほぼ必要量の脱酸剤を添加すると共に、脱酸生成物の合体浮上促進のためのフラックスを添加し、更に酸化性スラグを改質するためのスラグ還元剤を併用添加することを特徴とする高清浄度鋼の製造方法にある。」(第3欄19?25行)

(ケ)「すなわち本発明に従つて、出鋼時にAl、Si等の脱酸剤を添加することにより、
(i) 脱酸生成物を早期に生成させ鋳造までの合体・浮上時間を確保する。
(ii)出鋼時の温度降下を低減させることにより出鋼温度を下げ耐火物溶損による介在物源のインプツトを少なくする。あるいはまたその温度低下分だけ2次精錬過程における撹拌時間を延長することが可能となる。
また上記脱酸剤の添加と同時に介在物合体浮上促進用のフラツクスを投入することにより、
(iii) 出鋼時の撹拌エネルギーにより低融点造滓剤が溶鋼中に微細に分散しAl_(2)O_(3)、SiO_(2)等の脱酸生成物同志の合体浮上を促進し、同時に浮上介在物の吸着吸収剤層を溶鋼表面に形成する。
この様にすることにより、溶鋼中介在物の浮上促進が著しく促進され、極めて高清浄度の溶鋼が得られるものである。」(第3欄26行?43行)

(コ)「更に出鋼時の末期に酸化性スラグを改質するためのスラグ還元剤を添加するものであり、これにより、スラグ中のFeO、MnO等の溶鋼汚染源を還元し、より溶鋼の清浄化を達成するものである。」(第3欄44行?第4欄4行)

(サ)「上記スラグ還元剤を出鋼時に添加することにより、出鋼時の撹拌エネルギーを利用して効率よくスラグの還元を図ることが出来、また2次精錬工程に入る以前のできるだけ早い時点ですでにスラグの改質を完了させておくことにより、スラグによる溶鋼再酸化を極小化することができる。」(第4欄5?10行)

(シ)「溶鋼脱酸剤の種類としてはAl、Siを始めどのようなものでも良い。また脱酸剤出鋼時の投入量については、
(i) 溶鋼中の〔O〕をすべて脱酸してしまう。
(ii) 2次精錬工程における脱酸、脱炭メリツトを享受するために150?200ppm程度の鋼中〔O〕を残す。
等の選択が可能である。」(第4欄10?18行)

(ス)「更にフラツクス成分としては一般に広く知られているCaO-CaF_(2)系を始めとしてCaO-コレマナイト系、CaO-抗火石系、CaO-SiO_(2)-Al_(2)O_(3)系あるいはこれらをベースとして微量元素としてLi、Al、Mg等の化合物を少量添加したものが考えられる。一方、スラグ還元剤としては、例えばAl灰、CaC_(2)、等が好適である。」(第4欄18?25行)

(セ)「以下従来例及び本発明実施例を説明する。
従来例
C 0.08%、Si trace、Mn 0.14%、P 0.015%、S 0.015%〔Of〕450PPM、温度1700℃で脱酸剤を投入することなしに出鋼した。取鍋内のスラグ組成を第3図に示す。次に溶鋼をRH式真空脱ガス処理した。この脱ガス処理時間は12分でAl投入量は0.4Kg/t-steelであつた。得られた溶鋼の成分組成は次のとおりである。
C 0.04%、Si trace、Mn 0.15%、P 0.017%、S 0.015%、SolAl 0.012%
この溶鋼を周知の方法で連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延等の工程を経てブリキとした。連続鋳造鋳片のM片相当部分から採取した試験片の表面欠陥状況を第5図に示す。」(第4欄27?40行)

(ソ)「本発明例
C 0.05%、Si trace、Mn 0.14%、P0.016%、S0.016%〔Of〕560PPM、温度1680℃でAl1.30Kg/t-steel、フラツクス(CaO:CaF_(2)=7:3)5Kg/t-steel及びスラグ還元剤(Al灰)3Kg/t-steelを投入しながら取鍋に出鋼した。取鍋内のスラグ組成を第4図に示す。次にこの溶鋼を、真空処理及びSolAl調整を行つた。真空処理時間は10分、Al添加量は0.1Kg/t-steelであつた。得られた溶鋼の成分組成は次のとおりである。
C 0.04%、Si trace、Mn 0.15%、P 0.017%、S 0.016%、SolAl 0.012%
この溶鋼を従来例と同様に処理してブリキとし、その試験片の表面欠陥状況を第6図に示す。」(第4欄41行?第5欄11行)

(タ)「



イ 甲1に記載された発明

(ア)上記ア(ソ)の「この溶鋼を従来例と同様に処理してブリキとし、その試験片の表面欠陥状況を第6図に示す。」との記載、上記ア(セ)の「従来例」に関する「この溶鋼を周知の方法で連続鋳造、熱間圧延、冷間圧延等の工程を経てブリキとした。連続鋳造鋳片のM片相当部分から採取した試験片の表面欠陥状況を第5図に示す。」との記載より、甲1の「本発明例」は「従来例」と同様に「溶鋼」を「連続鋳造」により「連続鋳造鋳片」とするものである。
また、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲より、上記ア(ソ)の上記記載の「この溶鋼」は、「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬」したものと認められる。
したがって、甲1の「本発明例」は、「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬」した後、「連続鋳造」して「連続鋳造鋳片」とするものである。

(イ)上記ア(ア)、ア(イ)より、甲1には「高清浄度鋼の製造方法」の発明について記載されているが、上記ア(ソ)に摘記した「本発明例」は、当該発明の一例であるから、「高清浄度鋼の製造方法」に関するものと認められる。


(ウ)上記ア(ソ)の「・・・フラツクス(CaO:CaF_(2)=7:3)5Kg/t-steel及びスラグ還元剤(Al灰)3Kg/t-steelを投入しながら取鍋に出鋼した。取鍋内のスラグ組成を第4図に示す。次にこの溶鋼を、真空処理及びSolAl調整を行つた。」との記載より、第4図には、「フラクツス」及び「スラグ還元剤」投入後、「真空処理及びSolAl調整」前の「スラグ組成」が記載されている。そして、第4図に記載の「スラグ組成」において、「FeO」は、約4質量%であり、「MnO」は、約1.6質量%と認められるから、FeとOの原子量をそれぞれ56、16とすると、4.0×56/(56+16)+1.6≒4.71より、「T.Fe+MnO」は、約4.71%と認められる。

(エ)上記(ア)?(ウ)の事項及び上記ア(ソ)で摘記した事項より、甲1には、「本発明例」に関し、以下の発明が記載されていると認められる。

「甲1発明」
「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬した後、連続鋳造して連続鋳造鋳片とする高清浄度鋼の製造方法において、
Al1.30Kg/t-steel、フラツクス(CaO:CaF_(2)=7:3)5Kg/t-steel及びスラグ還元剤(Al灰)3Kg/t-steelを投入しながら取鍋に出鋼し、取鍋内のスラグのT.Fe+MnOは、約4.71%であり、次にこの溶鋼を、真空処理及びSolAl調整を行い、このとき、真空処理時間は10分、Al添加量は0.1Kg/t-steelとした、高清浄度鋼の製造方法。」


(2)甲2について
甲2には、以下の記載がなされている。

「【請求項1】 電気炉で溶解した溶鋼を取鍋に受鋼し、取鍋および真空脱ガス装置で取鍋精練および真空脱ガス処理を行った後、取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に5?60分間静置することにより、取鍋側壁から剥離した剥離耐火物の浮上が充分可能な温度に保持して溶鋼中に巻き込まれているスラグ系介在物を浮上させることを特徴とする鋼の清浄度を向上させる方法。
【請求項2】 請求項1記載の方法において、取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前の取鍋の静置時間を15?25分間とすることを特徴とする鋼の清浄度を向上させる方法。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は溶製された溶鋼に不純物として含まれる酸化物量の低減に関する。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、取鍋精錬やRH脱ガス精錬で発生した溶鋼流によって巻き込まれた酸化物が取鍋内に残留することを低減することであり、そのために溶鋼流を沈静させて介在物を浮上させることにより、溶鋼の清浄化を図ることである。また、さらに温度の低下による取鍋からの剥離耐火物の捕捉と静置による介在物の浮上とをバランスさせて保持する最適時間を定めて溶鋼中に巻き込まれる介在物を最小量として、連続鋳造のためタンディッシュへ注入する溶鋼の清浄化を図ることである。」

「【0006】上記の作用を述べると、溶鋼中に巻き込まれて取鍋内の最深部にまで取り込まれていた介在物であっても、溶鋼との比重差によって、時間の経過とともに浮上することとなる。一方、取鍋側壁から剥離した耐火物は、溶鋼温度が低下するにしたがって溶鋼中に捕捉されることとなる。そこで電気炉等で溶製した溶鋼をさらに取鍋精練および真空脱ガス処理した後、取鍋内で溶鋼流を沈静させて抵抗の少ない状態にするとともに、溶鋼温度が剥離耐火物の浮上に十分な温度である時間域にあるようにするために、連続鋳造のためタンディッシュに注入する前に取鍋を静置するものである。この静置は、5?60分の間で介在物減少に効果をもたらし、5分より少ないと剥離耐火物が十分に浮上しきれず、60分を超えると時間の経過とともに溶鋼が冷えるため溶鋼中に剥離耐火物が取り込まれることとなり、鋼製品中に含有される酸素量が増加する傾向となる。また、15?25分とすることで得られた鋼製品中に含有される酸素量は最小になる。そこで、本発明は5?60分の時間を本発明の効果を得るための取鍋静置の適切な時間とし、さらに15?25分の静置時間を取鍋静置の最も効果のある最適時間と設定して行うものである。」

「【0007】
【発明の実施の形態】電気炉にて溶製した溶鋼を取鍋に受鋼した後、取鍋精練に続いてRH真空真空脱ガス処理を行って成分調整したJIS SUJ鋼およびSCM435鋼において、上記の真空脱ガス処理後、脱ガス処理用台車の上で取鍋を5?60分の間静置を行った後、取鍋を連続鋳造ラインに搬送し、タンディッシュへ溶鋼を注入して連続鋳造する。」


(3)甲3について
甲3には、以下の記載がなされている。

「【請求項1】 式(1)及び式(2)を満足する条件下で設置位置及び高さが規制された固定堰で底部を密閉した高清浄度鋼連続鋳造用タンディッシュ。
0.07×L≦D≦0.20×L ・・・・(1)
0.33×H≦h≦0.67×H ・・・・(2)



「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、溶鋼中の介在物を効率良く浮上分離させることにより高清浄度鋼を連続鋳造する際に使用され、耐火物施工性に優れたタンディッシュに関する。」

「【0005】・・・本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、堰の設置位置や高さを適正化することにより、介在物の凝集合体や浮上分離を一層促進させて溶鋼の清浄度を更に高め、健全で品質が高位に安定した連鋳片を得ることを目的とする。」

「【0007】以下、図面を参照しながら、本発明をその作用と共に具体的に説明する。本発明で使用するタンディッシュは、図1に示すように上広がりのタンディッシュ本体10に固定堰20を固定し、固定堰20でタンディッシュ底部を密閉している。タンディッシュ本体10は、耐火レンガを構築した炉壁11に耐火物ライニング12を施しており、上広がりの台形状断面をもっている。一般に、固定堰の高さ及び設置位置がタンディッシュ内での介在物浮上性に及ぼす影響は大きく、その適正化を図ることが高清浄度鋼を得る上で非常に重要である。そこで、本発明者等は、図2に示すようにロングノズル1の入口から投入した模擬介在物が鋳型に流出する状況を把握するため、中空球状のシリカバルーンを模擬介在物とした水モデル実験を行った。水モデル実験では、ロングノズル1から吐出する取鍋溶鋼注入流から固定堰20までの水平距離D及びタンディッシュ及びタンディッシュ底壁14から固定堰頂面までの高さhを種々変化させ、模擬介在物の流出割合に及ぼす水平距離D及び高さhの影響を調査した。
【0008】調査結果を、図3に示す。図3では、取鍋溶鋼注入流から固定堰20までの水平距離Dと取鍋溶鋼注入流から連鋳用鋳型への流出孔までの水平距離Lの比D/Lを横軸にとり、タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/Hを縦軸にとった。そして、堰を設けない場合の流出介在物量に対する堰使用時の流出介在物量の割合(%)をD/L-h/Hの関係で整理した。図3から明らかなように、D/L=0.07?0.20及びh/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置した場合、堰を設けない場合に比較して介在物流出割合が半分以下に抑えられていた。」

「【0015】以上に説明したように、本発明は、内部を上流域及び下流域に仕切る固定堰の設置位置及び高さを適正に調節することにより、介在物の浮上分離が促進され、鋼清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給することができる。そのため、・・・となる。更に、取鍋溶鋼注入流から固定堰までの水平距離及び湯面から堰頂面までの距離が適正範囲に維持されることによって、上流域で固定堰に沿って上昇する溶鋼から介在物が効率よく浮上分離し、清浄度の高い溶鋼が下流域から連鋳用鋳型に送り出され、高清浄度鋼の鋳片が得られる。」

「【図2】




(4)甲4について

ア 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載がなされている。

「【請求項1】 転炉から取鍋に溶鋼を注入した後に、該取鍋の底部から不活性ガスを3Nl/min/ton-steel以下の吹き込み速度で全不活性ガス量として10?20Nl/ton-steel以下吹き込むことを特徴とする高清浄度鋼の製造方法。」

「【請求項3】脱ガス装置などの二次精錬装置において溶鋼をAl脱酸する際に、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上とすることを特徴とする請求項1及び2記載の高清浄度鋼の製造方法。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低コストで高清浄度鋼を製造する製造方法に関するものである。」

「【0003】ブリキに代表される表面品質、内部品質に優れた鋼材は、溶鋼の溶製や連続鋳造時に種々の対策を行っている。表面欠陥としては、(1)脱酸生成物であるアルミナクラスターによるスリバーキズ、(2)連続鋳造時に使用するパウダーの巻き込みにより生成するパウダー系介在物が起因する表面キズ、(3)不可避的に溶鋼内に混入するスラグ粒子が鋳片内に残存し表面キズになるものがある。また、内部欠陥としては、不可避的に溶鋼内に混入するスラグ粒子が鋳片内に残存するものや連続鋳造に使用されるパウダーが鋳型内で巻き込んで鋳片内に残存するものが代表的な欠陥である。脱酸生成物であるアルミナクラスターに関しては、スラグ改質によりスラグの酸化度を低減させ生成するアルミナ系酸化物を低減させる方法、アルミナ吸収能の高い低融点フラックスを使用する方法、脱ガス装置などの二次精錬において十分な攪拌処理を行うことにより脱酸生成物を凝集・浮上除去させる方法、タンディッシュ内での空気酸化を防止する方法、連続鋳造時の浸漬ノズル内への不活性ガスを吹き込む方法、鋳型内において電磁攪拌などの電磁力を用いて溶鋼の流動を制御する方法が行われている。脱酸生成物に関しては、上記の方法で表面欠陥を防止できる。また、連続鋳造時に使用するパウダーの巻き込みに起因する欠陥は、高粘性のパウダーを使用して巻き込みを抑制する方法、鋳型内の電磁力を用いて溶鋼流動を制御する方法などが行われている。」

「【0011】
【発明の実施の形態】まず、二次精錬前の介在物量(スラグ粒子)と鋳片での介在物量との関係を調査した。製造プロセスは、転炉で脱炭を行い取鍋に出鋼した後、二次精錬としてRH脱ガス装置(以下、RHと称す)で脱酸及び成分調整を行い、タンディッシュを介して連続鋳造を行った。・・・」

「【0012】二次精錬前の介在物のばらつきを抑制するためには、混入したスラグ粒子を除去する必要があるが、プロセスを増加させることはコスト増加を招き好ましくない。そこで、出鋼後の取鍋への合金の添加やスラグ改質材の添加において、溶鋼及びスラグの攪拌を行うために実施されることがある取鍋底部からの不活性ガスの吹き込みに着目した。二次精錬や連続鋳造においては、不活性ガスを吹き込み脱酸生成物であるアルミナの除去を促進させることが行われている。」

「【0015】これまで述べてきた不活性ガス吹き込みと静置時間を適正化した条件において、タンディッシュや連続鋳造における介在物浮上促進対策を行っても超介在物厳格材では依然としてばらつきが大きく十分ではない。このような鋼種においては、二次精錬においてさらなるスラグ系介在物の低減が必要である。介在物除去に関しては、凝集合体により介在物を大型化させて浮上させやすくするという考え方が基本となる。そこで、脱酸時に生成する脱酸生成物とスラグ系介在物の凝集合体・浮上除去を促進させる目的で、前記のArガス吹き込み条件の適性範囲内において脱酸条件の適正化を検討した。脱酸脱酸条件はAl脱酸とし、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量と脱酸材の添加方法、つまり一括して脱酸材を添加するか分割して脱酸材を添加するかの違いを検討した。ここで、一括脱酸とは、一回で全て脱酸材を添加することである。分割脱酸とは、溶鋼中フリー酸素をある程度脱酸できる量の脱酸材を添加した後、溶鋼中フリー酸素を測定しさらに必要量の脱酸材を添加することであり、つまり複数回に分けて脱酸材を添加することである。・・・脱酸前の溶鋼中フリー酸素量と鋳片でのスラグ系介在物指標との関係を図4に示す。図4に示すように、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上となる場合に1以下となることがわかる。これは、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が多い方が生成するアルミナ(脱酸生成物)が多くなり、スラグ系介在物との凝集合体が促進された結果、スラグ系介在物の浮上除去効果が大きくなったためと推定される。また、脱酸材を一括添加した方が分割添加した場合よりも低位安定することがわかる。
【0016】以上の脱酸条件の影響をまとめると、内部欠陥で問題となるスラグ系介在物に対しては脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上で良好な結果となる。スラグ系介在物の低減を徹底的に図りたい場合には、脱酸前の溶鋼中フリー酸素を100ppm以上で一括脱酸を行うことが好ましい。」

「【0018】本発明の対象鋼種は特に限定するものではないが、キルド鋼、特にアルミキルド鋼である。
【0019】
【実施例】実施例を以下に示す。一般的なブリキ用素材について実施した。成分を表1のBに示す。製造工程は、溶銑予備処理、転炉、二次精錬(RH)、連鋳である。代表的な条件を表2に示す。本発明例1?6は、転炉から出鋼した後に取鍋の底部からArガスを吹き込む際の条件としてAr吹き込み速度を2?3Nl/min/ton-steel、Ar吹き込み量を12?15Nl/ton-steelとした。また、連鋳モールドパウダーの巻き込みを防止するために高粘性のパウダーを使用した。評価の指標としては、500mm四方にカットされたブリキ板でのスラグに起因する欠陥の発生率とした。欠陥発生率の合格基準は、0.1%である。欠陥発生無しは◎、欠陥発生率が0.05%以下は○、欠陥発生率が0.1%を超える場合には×とした。表3に結果を示す。」

「【0021】本発明例2では、取鍋底部からの不活性ガスの吹き込み条件を満足し、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上で一括脱酸しており、本発明例1よりもさらに製品成績は良好である。
【0022】本発明例3では、取鍋底部からの不活性ガスの吹き込み条件を満足し、脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上で脱酸しており、製品成績は良好である。
・・・
【0024】本発明例5、6では、取鍋底部からの不活性ガスの吹き込み条件、静置時間の条件を満足しており、さらに脱酸前の溶鋼中フリー酸素量が100ppm以上で脱酸しているため、欠陥の発生はない。」

「【0029】
【表1】



「【0030】
【表2】

【0031】
【表3】



「【図4】



イ 甲4に記載された発明
(ア)上記アで摘記した請求項1より、甲4に記載された発明は、「高清浄度鋼の製造方法」の発明であるから、上記アで摘記した【0019】、【0021】、【0030】、【0031】に記載の実施例も「高清浄度鋼の製造方法」と認められる。

(イ)上記アで摘記した【0030】の【表2】より、実施例においては、「CaO」を500kg及び「Al」を100kg投入して「スラグ改質」していることが認められる。

(ウ)上記アで摘記した【0019】には、製造の代表的な条件を【表2】に示すことが記載され、上記アで摘記した【0029】の【表2】には、「スラグ改質」の際に投入する材料が記載されているが、【0019】、【0029】を参照しても、「スラグ改質」をいずれの時点で行うのかが特定されておらず、これらの記載のみからは、実施例において、いずれの時点で「スラグ改質」を行っているのか十分明らかでない。
一方で、上記アで摘記した【0012】には、「そこで、出鋼後の取鍋への合金の添加やスラグ改質材の添加において、溶鋼及びスラグの攪拌を行うために実施されることがある取鍋底部からの不活性ガスの吹き込みに着目した。」と記載されており、甲4に記載された発明において、「スラグ改質」は、「取鍋」への「出鋼後」、「不活性ガス」の吹き込み前に行われると認められる。したがって、甲4の【0019】以降の実施例においても、「スラグ改質」は、不活性ガス(【0019】では「Arガス」)の吹き込みの前に行われると認められる。

(エ)上記アで摘記した請求項3、【0015】より、甲4においては「脱酸」は「Al脱酸」であり、「実施例」においても、「脱酸」は「Al脱酸」により行われると認められる。

(オ)上記アで摘記した【0030】の【表2】より、「実施例」において、「脱酸後攪拌時間」は、5分である。

(カ)上記アで摘記した【0031】の【表3】より、「実施例」の「本発明例2」において、「脱酸前溶鋼中フリー酸素」は「156ppm」である。

(キ)上記アで摘記した請求項3の「脱ガス装置などの二次精錬装置において溶鋼をAl脱酸する際に」との記載、及び、上記アで摘記した【0019】の「製造工程は、溶銑予備処理、転炉、二次精錬(RH)、連鋳である」との記載より、「実施例」において、「Al脱酸」は、「二次精錬(RH)」で行われると認められる。
また、上記アで摘記した【0011】の「RH脱ガス装置(以下、RHと称す)」との記載より、「実施例」の「二次精錬(RH)」は、「RH脱ガス装置」を指すと認められる。

(ク)上記(ア)?(キ)及び上記アで摘記した【0019】、【0021】、【0030】、【0031】より、甲4には、「実施例」の「本発明例2」に関し、以下の発明が記載されていると認められる。

「甲4発明」
「溶銑予備処理、転炉、二次精錬(RH)、連鋳を行う高清浄度鋼の製造方法において、
転炉から出鋼した後に、CaOを500kgとAlを100kgとを投入してスラグ改質し、取鍋の底部からArガスを吹き込む際の条件としてAr吹き込み速度を2.5Nl/min/ton-steel、Ar吹き込み量を12Nl/ton-steelとし、
脱酸前溶鋼中フリー酸素量が156ppmでRH脱ガス装置でAl一括脱酸し、
脱酸後撹拌時間が5分である、高清浄度鋼の製造方法。」


(5)甲5について

ア 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がなされている。

「【請求項1】 (1) 高炉からの溶銑に含まれるPおよびSを、それぞれ0.05wt%以下,0.01wt%以下に抑制する予備処理工程、(2) 上記予備処理工程を経た溶銑を転炉にてC:0.02?0.1 wt%の範囲まで脱炭する工程、(3) 脱炭終了後の溶鋼を収容した取鍋内浴面上に、還元剤やフラックスを添加することにより、その浴面上に形成させるスラグの組成を、FeO およびMnO の合計濃度が5wt%以下になるように調整する工程、(4) この取鍋からRH真空脱ガス装置の真空槽内に導入する溶鋼浴面上に酸化性ガスを吹きつけることにより、該溶鋼の酸素濃度および温度を調整した後、含水素粉体を吹きつけて溶鋼のC濃度を所定範囲に調整し、その後真空槽内に脱酸剤を添加して溶鋼の脱酸を行う工程、を経ることを特徴とする極低炭素鋼の溶製方法。」

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、極低炭素鋼の溶製方法に関するものである。極低炭素鋼の溶製は、転炉において脱炭および脱燐を行った後、RH真空脱ガス装置またはDH装置を用いて所定の極低炭素濃度まで脱炭および脱酸を行うのが通例である。そして脱炭および脱酸を、より低濃度域まで迅速に行うことが、鋼の材質特性やAl_(2)O_(3) 系介在物による表面欠陥防止のために望ましい。」

「【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記の諸問題を解消し、高品質かつ安価な極低炭素鋼を量産し得る方法について提案することを目的とする。」

「【0007】以下、図1に示す工程図に基づいて、本発明方法の詳細について説明する。
(1) 溶銑予備処理工程
・・・
【0008】(2) 転炉工程
次に転炉では主に脱炭を行う。ここで転炉における吹止めC濃度を0.02?0.1%としたのは、0.02%未満ではスラグ中の酸化鉄濃度が高くなり過ぎて転炉耐火物に悪影響を及ぼすこと、スラグ改質が不安定になること、そして、次工程のRH真空脱ガス処理時にCaO 等を上吹きランスから吹付けても、CaO とFeO 等のスラグ成分との滓化がすみやかに進行してスラグによる再酸化が生じ、脱酸が効率よく進まなくなること、などの理由による。一方、C濃度が0.1 %をこえると、次工程のRH真空脱ガス処理における脱炭での酸素濃度が低くなり過ぎて迅速な脱炭が達成できない。なお、この低炭素域まで脱炭する際は、副次的にわずかの脱燐も生じる。」
【0009】(3) スラグ改質工程
続いて脱炭後の溶鋼を出湯した取鍋においてスラグの改質を行なうが、ここではスラグ成分を(FeO )+(MnO )≦5%に調整することが、スラグからの再酸化を防止する上で肝要である。」
【0010】(4) RH真空脱ガス処理工程
次いで、上記溶鋼をRH真空脱ガス処理にて、所定の炭素濃度および酸素濃度とする。すなわち、上記までの工程で得られた炭素濃度および溶存酸素濃度、さらには、溶鋼温度に応じて、RH真空脱ガス装置の真空槽に配置した上吹きランスから、真空槽内の鋼浴面に酸素または酸素を含む酸化性ガスを吹付ける。ここで溶存酸素濃度が不足している場合は、吹付けた酸素は鋼中酸素源となって脱炭速度の上昇に寄与し、また、一部の酸素は脱炭で生じたCOガスを燃やしてCO_(2) となり、その際の燃焼熱を溶鋼に伝える。この酸化性ガスの吹付けによって、RH真空脱ガス処理に供する溶鋼の酸素濃度および処理温度を制御することができるため、前工程の転炉およびスラグ改質工程での成分および温度の厳密な管理は不要となる。
【0011】さらに、極低炭素領域までの脱炭には、上記の上吹きランスから、Ca(OH)_(2),Mg(OH)_(2), ミョウバンなどの水素を含む粉体を真空槽内の鋼浴面に吹付ける。すると、例えばCa(OH)_(2) を吹きつけた場合は、Ca(OH)_(2)→CaO +2H+O の反応によって生じた鋼中水素Hが、2H→H_(2) となって鋼浴面近傍に発生する際に、反応界面積の増加を伴うため、C+O→COの脱炭反応が促進される。従って、従来は、極低炭素領域で発生していた脱炭の停滞を打破することができ、よって、精錬限界炭素濃度までの低下を迅速に実施できる。
【0012】そして、所定の極低炭素濃度に調整したのちは、引き続いて真空槽内にAlなどの還元剤を添加して溶鋼の脱酸をはかり、さらに、成分調整等も行なって所望の成分の極低炭素鋼とする。」
【0013】
【実施例】
(1) 溶銑予備処理工程
高炉からトピードカー内に出銑した溶銑300 tに、浸漬ランスからフラックスを吹き込んで脱燐および脱硫をその間に脱燐スラグの除滓を挟んで行った。・・・
【0014】 (2) 転炉工程
次いで、 300tの溶銑を、上底吹き転炉で吹錬し、吹止め時のC含有量を0.02?0.10%、および溶鋼温度を1610?1630℃とした。なお、上吹きO_(2) 流量は700Nm^(3)/min および底吹き不活性ガス流量は20?30Nm^(3)/min で操業した。
【0015】(3) スラグ改質工程
上記転炉から取鍋に出鋼中に金属Alを40%含みCaO を主成分とするフラックスを、溶鋼1t当たり1.3 ?1.5kg 添加し、取鍋内鋼浴上のスラグ中のFeO とMnOとの合計濃度を1.3 ?5.0 %に調整した。このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppmおよび溶鋼温度は1590?1610℃であった。
【0016】(4) RH真空脱ガス処理工程
次に、RH真空脱ガス処理開始2分後に、真空槽の上から下へ垂直に挿入した水冷ランスをその先端が浴面から1.5 ?2.0 mの位置で固定し、このランスからO_(2) ガスを30?50Nm^(3)/min の流量で吹きつけ、吹きつけ後のO濃度を500 ?600ppmおよび溶鋼温度を1595?1610℃とした。
【0017】その後、浴面から1.5 ?1.8 mの位置の上記ランスから、Arガス(2?3Nm^(3)/min )をキャリアガスとして、Ca(OH)_(2)粉を30?60kg/minの吹きつけ速度で供給し、C:5?7ppm およびO:450 ?550ppm とした。さらに、還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加し、引き続き、溶鋼の脱ガス処理を8?10分間行ってRH脱ガス処理を終了した。上記の処理を経た溶鋼の成分組成は、C:5?7ppm ,Al:0.03?0.04%,P:0.024 ?0.030%,S:0.004 ?0.008 %および溶鋼温度:1570?1580℃であった。」

「【0019】
【表1】

【0020】この発明によれば、高純度で清浄度の高い極低炭素鋼を、迅速に、しかも経済的に大量生産することができる。」

イ 甲5に記載された発明

(ア)上記アで摘記した請求項1より、甲5の請求項1に係る発明は、「極低炭素鋼の溶製方法」の発明であり、【0013】?【0017】に記載の「実施例」も「極低炭素鋼の溶製方法」であると認められる。

(イ)上記(ア)、及び、上記アで摘記した【0013】?【0017】より、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。

「甲5発明」
「溶銑予備処理工程と、
300tの溶銑を、上底吹き転炉で吹錬し、吹止め時のC含有量を0.02?0.10%、および溶鋼温度を1610?1630℃とし、上吹きO_(2) 流量は700Nm^(3)/min および底吹き不活性ガス流量は20?30Nm^(3)/min で操業する、転炉工程と、
上記転炉から取鍋に出鋼中に金属Alを40%含みCaO を主成分とするフラックスを、溶鋼1t当たり1.3 ?1.5kg 添加し、取鍋内鋼浴上のスラグ中のFeO とMnOとの合計濃度を1.3 ?5.0 %に調整し、このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppmおよび溶鋼温度は1590?1610℃であるスラグ改質工程と、
RH真空脱ガス処理開始2分後に、真空槽の上から下へ垂直に挿入した水冷ランスをその先端が浴面から1.5 ?2.0 mの位置で固定し、このランスからO_(2) ガスを30?50Nm^(3)/min の流量で吹きつけ、吹きつけ後のO濃度を500 ?600ppmおよび溶鋼温度を1595?1610℃とし、
その後、浴面から1.5 ?1.8 mの位置の上記ランスから、Arガス(2?3Nm^(3)/min )をキャリアガスとして、Ca(OH)_(2) 粉を30?60kg/minの吹きつけ速度で供給し、C:5?7ppm およびO:450 ?550 ppm とし、さらに、還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加し、引き続き、溶鋼の脱ガス処理を8?10分間行ってRH脱ガス処理を終了する、RH真空脱ガス処理工程と、を備える、極低炭素鋼の溶製方法。」


(6)甲6について
甲6には、以下の記載がなされている。

「【請求項1】溶鋼を大気圧下で脱炭する一次精錬炉及び該一次精錬炉から出鋼した溶鋼を再度真空下で精錬する真空脱ガス装置を順次用いて、炭素濃度が0.02?0.06質量%の低炭素溶鋼を溶製するに際し、
前記一次精錬炉で溶鋼中の炭素濃度を0.02?0.05質量%まで脱炭すると共に、出鋼時に加炭処理し、出鋼した溶鋼を真空脱ガス装置内で真空脱炭・脱酸して溶存酸素の濃度を0.02質量%以下にしてから、さらに脱酸剤を添加して脱酸処理を行なうことを特徴とする高清浄度低炭素鋼の溶製方法。」

「【請求項3】一次精錬炉からの出鋼時又は出鋼後の真空精錬前に、溶鋼が伴うスラグ中に還元剤を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の高清浄度鋼の溶製方法。」

「【0001】本発明は、高清浄度低炭素鋼の溶製方法に係わり、とりわけ、炭素を0.02?0.06質量%含有し、且つ高度に清浄化された缶用鋼板素材に好適な鋼の溶製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、炭素鋼を溶製するには、転炉等で主として脱炭、脱燐、脱硫等(以下、一次精錬ということが多い)を行なった後、溶鋼中の介在物の浮上分離を狙うため、出鋼時に金属アルミニウム、あるいは鉄-Si合金を用いて不純物元素を酸化し、この酸化から鋳造開始までの時間を長くする処置が取られていた。この一次精錬後に生成した大量の酸化物(以下、介在物という)を浮上させて溶鋼から除去するには、その後に真空脱ガス装置、取鍋等で実施される所謂二次精錬において、溶鋼中に吹き込む撹拌用ガスの増量、二次精錬時間の延長、あるいは鋳造速度の規制等の手法が取られてきた。また、大量に生成した介在物がスラグ中に一旦取り込まれた後に再び溶鋼中に懸濁しないように、溶鋼に塩基度(CaO/SiO_(2))の高いフラックスを投入して、二次精錬時に生じるスラグの融点を高め、固化させるといった手法も取られてきた。」

「【0006】上記したように、従来の技術では、介在物を低減した高清浄度鋼を得ようとすると、予備処理負荷が著しく高まったり、真空脱ガス処理での操業を困難にする等の問題があり、低コストで高清浄度鋼を安定して溶製できなかった。本発明は、かかる事情に鑑み、従来より予備処理負荷が少なく、真空脱ガス処理に際して操業を阻害することのない高清浄度低炭素鋼の溶製方法を提供することを目的としている。」

「【0011】以下、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。
【0012】本発明で溶製の対象とする鋼は、炭素濃度が0.02?0.06質量%の低炭素鋼であり、より詳しくは、飲料缶や食缶などの缶用鋼板素材であって、絞り加工やしごき加工などの高度の成形加工をなされるために、大型の非金属介在物の含有量を極限まで低減されることが望まれる鋼である。なお、炭素以外の成分の含有量については、特に限定するものではない。
【0013】まず、このような鋼の溶製にあたって、本発明では、溶鋼を大気圧下で脱炭、脱燐等をする一次精錬炉において、予備処理を溶銑中燐濃度が0.10質量%となるまでにしか施していない溶銑を用い、溶鋼中の炭素濃度を0.02?0.05質量%になるよう脱炭する。一次精錬炉としては、DCアーク炉やACアーク炉等の電気炉を使用しても良いが、一般的には、転炉の使用が好ましい。この転炉は、上吹き転炉、底吹き転炉、上底吹き転炉のいずれでも良い。また、電気炉を使用する場合には、酸素ガスを溶鋼に吹き付るランスを備えた電気炉の使用が好ましい。
【0014】ここで、一次精錬炉での精錬終了時(吹止め時)に、溶鋼中の炭素濃度を0.02?0.05質量%としたのは、0.05質量%以下だと溶鋼中の溶存酸素濃度及びスラグ中のFeOが脱燐に寄与するのに十分なだけ高まり、通常の製品鋼材中の燐濃度範囲である0.020質量%以下が容易に達成できるからである。一方、炭素濃度を0.02質量%未満にまで低下させると、スラグのFeO濃度が高くなり過ぎると共に、溶鋼の温度が著しく高温となって、一次精錬炉の内張り耐火物を傷めること、このようなスラグが出鋼時に取鍋に流出することによって、溶鋼がスラグで再酸化し、真空脱ガス終了後に介在物が増大する恐れがあること、及び溶鋼中の溶存酸素が過度に高まって、その後に炭素添加してもそれ以下に酸素が低下しないことから、炭素濃度の下限を0.02質量%とした。なお、この一次精錬での溶鋼温度は、出鋼時で1610℃程度と通常の精錬時と同等か、それ以下である。
【0015】次に、本発明では、このように適正な炭素濃度で一次精錬を終了した溶鋼に対して、出鋼時に加炭処理を行う。加炭する目的は、C-O反応によって溶鋼中の酸素を除去し、炭素と平衡する溶存酸素の含有量を低減して、引き続き行なわれる真空脱ガス処理において、迅速に目標とする炭素濃度、酸素濃度の範囲に入るようにするためである。その加炭後の溶鋼中の炭素と酸素の関係は、ほぼCO分圧1気圧(0.1MPa)に平衡する関係にある。この関係は、図1に示すように、ほぼそのまま真空脱ガス開始時まで保持される。加炭材は、通常の製鋼で使用される黒鉛、コークス、高炭素フェロマンガン等で良い。
【0016】そして、引き続き、本発明では、真空脱ガス装置において真空脱炭・脱酸精錬を行ない、溶存酸素濃度を0.02質量%以下とした後に、アルミニウム等の脱酸剤を添加して最終脱酸処理を行なう。ここで、脱酸剤添加直前の溶存酸素濃度を0.02質量%以下、且つ炭素濃度を0.02?0.06質量%の範囲に収めるには、CとOの当量関係(図1の点線で示した直線)の傾きから見れば、真空脱ガス処理開始時(つまり、出鋼時の加炭後)の炭素濃度を0.04?0.065質量%にしておけば良いことが予想される。しかし、現実には、真空脱ガス装置での大気のリーク、溶鋼上のスラグや取鍋耐火物からの再酸化等があるので、炭素濃度の低下に比べ酸素濃度の低下が小さくなる傾向がある。そこで、本発明では、好ましい真空脱ガス処理開始時の炭素濃度範囲として、加炭後の炭素濃度を上記の当量関係から必要とされる範囲よりも高い0.06質量%以上にすることにした。」

「【0018】また、最短時間で真空脱炭・脱酸処理するには、スラグからの再酸化を防止することが好ましい。そのため、本発明では、一次精錬炉からの出鋼時または出鋼後に、溶鋼に伴なわれているスラグ中に金属アルミニウム、アルミ滓などの還元剤を添加してスラグ中のFeOやMnOなどの酸化性成分を低減しておくのが良い。還元の目安としては、スラグ中のFeOを3.0質量%以下にすることである。
【0019】
【実施例】溶銑予備処理により燐濃度を0.10質量%程度とした溶銑を用い、生産能力260トンの底吹き転炉で一次精錬した溶鋼に、本発明に従い、加炭処理(加炭材は黒鉛を使用)、真空脱ガス装置での真空脱炭・脱酸処理及び脱酸剤の添加を順次施した。また、発明の効果確認のため、前記溶鋼を、加炭処理せずに真空脱ガス装置で単に真空脱炭・脱酸処理した場合も実施した。なお、一次精錬の出鋼時における溶鋼温度は、1600?1620℃の範囲であった。」

「【0021】溶鋼中の炭素濃度と溶存酸素濃度との関係を図1に示す。図1では、RH真空脱ガス装置での真空脱炭・脱酸処理前の溶鋼を中抜きの丸印で、真空脱炭・脱酸処理後の溶鋼を黒塗りつぶし丸印で表わしている。また、丸印の大きいものは、加炭を実施した場合であり、小さいものは、加炭しなかった場合である。つまり、大きい丸印が本発明に、小さい丸が比較例に相当する。
【0022】図1より、出鋼中に黒鉛を添加せず、真空脱炭・脱酸処理前の炭素濃度が0.04質量%以下の場合は(比較例)、真空脱炭・脱酸処理後の酸素濃度が200ppm以下とならない。一方、本発明のように、一次精錬後の出鋼途中で黒鉛を添加した場合には、真空脱炭・脱酸処理処理後の溶存酸素濃度を200ppm以下とすることができる。特に、真空脱炭・脱酸処理前の炭素濃度を0.06質量%以上とした場合には、真空脱炭・脱酸処理後の溶存酸素濃度を100ppm以下とすることができた。
【0023】このようにして真空脱炭・脱酸処理した後に、溶鋼にアルミニウムを添加して最終脱酸処理を施した。このようにして溶製した溶鋼は、連続鋳造機に搬送され、タンディッシュを介して鋳型に注入し、連続鋳造した。そして、連続鋳造を開始してから取鍋内の溶鋼量の1/4、1/2、3/4、全量鋳込んだ時点でタンデイッシュ内の溶鋼からサンプルを採取し、それに含まれる全酸素量(溶存酸素と介在物となって含まれている酸素との合計量、以下、Tot.Oと略記)を分析した。分析結果を、真空脱炭・脱酸処理後の溶存酸素とタンディッシュ内サンプル中のTot.Oとの関係で整理し図2に示す。なお、図2では、上記鋳込み1/4時を白丸、2/4時を黒丸、3/4時を黒塗りつぶし三角、全量鋳込時を四角で表している。
【0024】図2より、真空脱炭・脱酸処理を終了して金属アルミニウムによる脱酸処理を行う際に、従来法で溶製した溶鋼中の溶存酸素濃度が200ppmを超えている場合には、介在物の発生量が多いばかりでなく、Tot.Oの測定値そのものも『ばらつき』が大きくなることが明らかである。これは、サンプル中に大型介在物が多量に偏在しているために他ならない。一方、本発明による溶製の場合には、金属アルミニウムによる脱酸処理を行う際の溶存酸素濃度を200ppm以下とすることで、介在物の発生量が少なく、Tot.Oの測定値そのものの『ばらつき』が著しく小さくなっている。つまり、図2は、本発明によれば、サンプリングによる溶鋼清浄度の判定が明確になり、判定の信頼性も向上することを示している。」

「【図2】




2 申立理由1-1について

(1)本件発明と甲1発明との対比

ア 「製鋼炉」から「出鋼」される「溶鋼」は、通常、何らかの精錬をされていると認められるから、甲1発明の「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼」との事項において、「製鋼炉」から「取鍋」へ出鋼」される直前の溶鋼は、本件発明の「一次精錬を行った溶鋼」に相当する。

イ 甲1発明の「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼」との事項から、甲1発明が本件発明の「出鋼工程」に相当する工程を有することは明らかである。

ウ 甲1発明の「Al1.30Kg/t-steel」の「投入」及び「SolAl調整」は、本件発明の「合金添加」に相当する。

エ 「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯することは技術常識であるから、甲1発明においても、「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯するものと認められる。

オ 上記ア?エより、甲1発明の「製鋼炉から取鍋へ出鋼した溶鋼を2次精錬した後、連続鋳造して連続鋳造鋳片とする高清浄度鋼の製造方法」との事項と、本件発明の「大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法」との事項とは、「一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法」との事項において一致する。

カ 甲1発明の「フラツクス(CaO:CaF_(2)=7:3)」の「CaO」は、本件発明の「生石灰」に相当し、甲1発明の「Al」は、本件発明の「金属アルミニウム」に相当し、甲1発明の「取鍋内のスラグのT.Fe+MnOは、約4.71%であり」との事項は、本件発明の「スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下」との事項に含まれるから、甲1発明の「Al1.30Kg/t-steel、フラツクス(CaO:CaF_(2)=7:3)5Kg/t-steel及びスラグ還元剤(Al灰)3Kg/t-steelを投入しながら取鍋に出鋼し、取鍋内のスラグのT.Fe+MnOは、約4.71%であり」との事項と、本件発明の「前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下、かつ、溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした」との事項とは、「前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウムを添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下とした」との事項において一致する。

キ 甲1の上記1(1)ア(セ)で摘記した「従来例」に関する記載を参照すると、「RH式真空脱ガス処理」がなされており、上記1(1)ア(ソ)の「本発明例」における「真空処理」は、同様に「RH式真空脱ガス処理」といえる。したがって、「本発明例」に関する発明である甲1発明の「真空処理」は、「RH式真空脱ガス処理」を含むといえる。
また、甲1の上記1(1)ア(エ)で摘記した部分には、「RH、DH式真空脱ガス処理時の撹拌エネルギーを利用して」と記載されているから、「RH式真空脱ガス処理」においては、撹拌が生じるといえる。
さらに、一般に溶鋼中の酸素濃度を完全に0とすることは困難といえるから、甲1発明において、「SolAl調整」のため「Al」を添加した場合、少なくとも一部脱酸が生じるといえる。
そうすると、甲1発明の「次にこの溶鋼を、真空処理及びSolAl調整を行い、このとき、真空処理時間は10分、Al添加量は0.1Kg/t-steelとした」との事項は、本件発明の「前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し」との事項に相当する。

ク 上記エでも示したとおり、「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯することは技術常識であるから、本件発明1と甲1発明とは、「前記連続鋳造工程では、タンディッシュに、前記脱酸処理」した「溶鋼を注湯する」との事項で一致する。

ケ 上記ア?クより、本件発明と甲1発明とは、以下の一致点1で一致し、以下の相違点1?4で相違する。

[一致点1]
「一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法において、
前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウムを添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下とした後、
前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し、
前記連続鋳造工程では、タンディッシュに、前記脱酸処理した溶鋼を注湯する、高清浄鋼の製造方法。」

[相違点1]
本件発明は、「一次精錬」が「大気圧下で吹酸脱炭する」ものであるのに対し、甲1発明は、「製鋼炉」においてどのような処理がされているのかが不明である点。

[相違点2]
本件発明は、「スラグ改質」後の「溶鋼の溶存酸素濃度」を「100ppm以上300ppm以下の範囲」とするものであるのに対し、甲1発明は、「溶鋼」の「溶存酸素濃度」が特定されていない点。

[相違点3]
本件発明は、「該脱酸処理から前記連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに10分以上静置」するものであるのに対し、甲1発明は、「連続鋳造」の前に「静置」するものではない点。

[相違点4]
本件発明は、「前記連続鋳造工程では、溶鋼を受け入れる受湯部と、該溶鋼を連続鋳造する鋳型に注入する排湯部とに仕切る堰が内部に設けられ、該堰の高さを溶鋼深さの0.3倍以上0.8倍以下とした前記タンディッシュに、前記脱酸処理後に静置した溶鋼を注湯する」ものであるのに対し、甲1発明では、そのような「連続鋳造工程」を備えていない点。


(2)相違点3、4についての判断

ア 事案に鑑み、相違点3、4についてまとめて検討する。

イ 甲2の上記1(2)に摘記した請求項1には、「取鍋および真空脱ガス装置で取鍋精練および真空脱ガス処理を行った後、取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に5?60分間静置すること」により「取鍋側壁から剥離した剥離耐火物の浮上が充分可能な温度に保持して溶鋼中に巻き込まれているスラグ系介在物を浮上させる」ことが記載され、さらに、上記1(2)で摘記した請求項2には、「静置時間を15?25分」とすることが記載されている。

ウ 甲3の上記1(3)に摘記した【0007】、【0015】には、「鋼(「高」の誤記と認める。)清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給する」「タンディッシュ」において、「上広がりのタンディッシュ本体10に固定堰20を固定し、固定堰20でタンディッシュ底部を密閉し」、「タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/H」を「h/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置した場合、堰を設けない場合に比較して介在物流出割合が半分以下に抑えられていた」ことが記載されている。

エ そして、甲1発明に、甲2の「取鍋および真空脱ガス装置で取鍋精練および真空脱ガス処理を行った後、取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に15?25分間静置すること」との事項を適用するとともに、甲3の「鋼清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給する」「タンディッシュ」において、「タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/H」を「h/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置した」との事項を適用すると、甲1発明が相違点3、4に係る事項を備えるものとなるので、甲2の「取鍋および真空脱ガス装置で取鍋精練および真空脱ガス処理を行った後、取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に15?25分間静置すること」との事項、及び、甲3の「鋼清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給する」「タンディッシュ」において、「タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/H」を「h/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置した」との事項のそれぞれを、甲1発明に適用することが当業者に容易に想到し得るものであるか否かについて、以下に検討する。

オ 上記イで示したとおり、甲2には、「取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に15?25分間静置すること」で「介在物」を減少させることが記載されている。
そして、甲1発明は、「取鍋」での処理工程を含み、甲1の上記1(1)ケで摘記した部分に「この様にすることにより、溶鋼中介在物の浮上促進が著しく促進され、極めて高清浄度の溶鋼が得られるものである」との記載のように、「介在物」を減少させる課題を有するものである。
そうすると、甲1発明と甲2に記載された事項とは、「取鍋」での処理に関する点、「介在物」を減少させる課題を有する点で共通するから、甲1発明の「取鍋」での処理工程において、甲2に記載された、「取鍋を連続鋳造ラインへ移送する前に15?25分間静置すること」を採用する動機付けは存在するといえる。

カ また、上記ウで示したとおり、甲3には、「高清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給する」「タンディッシュ」において、「上広がりのタンディッシュ本体10に固定堰20を固定し、固定堰20でタンディッシュ底部を密閉し」、「タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/H」を「h/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置」することで「介在物」を減少させることが記載されている。
そして、甲1発明は、「連続鋳造」工程を含み、上記オで示したとおり「介在物」を減少させる課題を有するものである。
そうすると、甲1発明と甲3に記載された事項とは、「連続鋳造」工程に関する点、「介在物」を減少させる課題を有する点で共通するから、甲1発明の「連続鋳造」工程において、甲3に記載された、「高清浄度鋼を連鋳用鋳型に供給する」「タンディッシュ」において、「上広がりのタンディッシュ本体10に固定堰20を固定し、固定堰20でタンディッシュ底部を密閉し」、「タンディッシュ底壁14から固定堰20の頂面までの高さhとタンディッシュ内の鋼浴深さHの比h/H」を「h/H=0.33?0.67となる条件下で固定堰20を設置」することを採用する動機付けは存在するといえる。

キ したがって、甲1発明に、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項を適用する動機付けは存在するといえる。

ク ここで、発明の構成に至る動機付けがある場合であっても、優先日当時、当該発明の効果が、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである場合には、当該発明は、当業者が容易に発明をすることができたとは認められないから、本件発明がこのような予測できない顕著な効果を有するかどうかについて検討する。

ケ 本件特許の明細書には、相違点3、4に係る事項に関する効果について以下の記載がある。

「【0024】
(3)溶鋼の静置に関する知見
上記した撹拌処理によって凝集合体による浮上効果を更に高めるためには、撹拌処理(最終脱酸)後の静置が有効である。
凝集合体による粗大化により、介在物自体の浮力は大きくなるが、撹拌処理時はバブリングによる上昇流の形成と共に、それに相当する下降流も生じているため、撹拌処理のみでは介在物の浮上除去に不十分な場合がある。このため、撹拌処理後から連続鋳造開始までの間に10分以上、好ましくは30分以上の静置時間をとることで、介在物の浮上除去を著しく促進できる。
この浮上除去の促進は、特に粒径が70μm以上の介在物に有効である。なお、粒径が5?50μm程度の介在物では、顕著な浮上除去効果は認められにくいが、凝集合体の促進効果は認められ、5?20μmの介在物の個数減少には効果がある。」

「【0025】
(4)タンディッシュに関する知見
・・・
しかし、タンディッシュの内部に堰(下堰)を立設し、タンディッシュ内の溶鋼にd上昇流を発生させると、タンディッシュ内の湯面に存在するスラグの撹拌効果を抑制した状態で、30?50μm程度の粒子径を有する溶鋼中の介在物を浮上させ、これをスラグに捕捉させる効果が期待できる。」

「【0027】
以上の知見に基づき、本発明者らは、スラグ改質と最終脱酸の各処理を施した溶鋼を静置する精錬の効果を、タンディッシュの効果で補完する、高清浄鋼の製造方法に想到した。具体的には、精錬の効果、即ち、粒径5?20μmクラスの微小介在物の個数減少に伴う、粒径30?50μmクラスの介在物の個数増加と、粒径70μm以上の介在物の浮上除去の促進を、タンディッシュの効果、即ち、粒径が30?50μm程度の介在物の浮上除去の促進で、補完することにより、従来よりもアルミナ介在物の個数を低減でき、特に粒径が20μm以下クラスのアルミナ介在物の個数が低減可能となる。・・・」

コ したがって、本件発明は、相違点3に係る特定事項である「静置」の段階を備えることにより、粒径5?20μmと70μm以上の介在物の浮上除去を促進する効果を奏するものであり、さらに、相違点4に係る特定事項である所定の「堰」を設けた「タンディッシュ」を用いることにより、「タンディッシュ内の湯面に存在するスラグの撹拌効果を抑制した状態で、30?50μm程度の粒子径を有する溶鋼中の介在物を浮上させ、これをスラグに捕捉させる」効果を奏するものである。
そして、請求項1に記載される所定の「スラグ改質」の処理という特定事項と、相違点3に係る特定事項である「静置」の処理と、相違点4に係る特定事項である所定の「堰」を設けた「タンディッシュ」での処理とを併用することで、「粒径5?20μmクラスの微小介在物の個数減少に伴う、粒径30?50μmクラスの介在物の個数増加と、粒径70μm以上の介在物の浮上除去の促進を、タンディッシュの効果、即ち、粒径が30?50μm程度の介在物の浮上除去の促進で、補完することにより、従来よりもアルミナ介在物の個数を低減でき、特に粒径が20μm以下クラスのアルミナ介在物の個数が低減可能となる」との効果を奏するものである。

サ 一方で、甲2、甲3においては、「静置」や「堰」を設けた「タンディッシュ」により「介在物」が減少する効果までは記載があるものの(上記1(2)で摘記した【0006】、上記1(3)で摘記した【0015】)、「介在物」の粒径分布に与える影響や、「スラグ改質」と「静置」による30?50μmの介在物の個数増加を「堰」を設けた「タンディッシュ」での処理により補完する効果は記載されておらず、甲1にも、「静置」や「堰」を設けた「タンディッシュ」の効果に関する記載もなく、それらについて認識されていたものとは考えられない。
また、これらの効果が技術常識であるとも認められないから、本件発明の上記の各効果は、甲1?甲3の記載から当業者が予測し得るものとはいえない。

シ したがって、甲1発明に、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項を適用することの効果は当業者に予測し得るものではないから、甲1発明に、甲2に記載された事項及び甲3に記載された事項を適用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。

ス また、甲4?甲6にも「撹拌処理」後の「静置」や「タンディッシュ」に設けた「堰」と「介在物」の粒径の関係に関する記載はなく、甲4?6を参照しても、本件発明の上記効果は、当業者に予測し得るものとはいえない。

セ したがって、甲1発明に、甲2?6に記載された事項を適用して、相違点3、4に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。


(3)小括
したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


3 申立理由1-2について

(1)本件発明と甲4発明との対比

ア 「転炉」から出鋼される溶鋼は、通常、何らかの精錬をされていると認められるから、甲4発明の「転炉から出鋼した後に」との事項において、「転炉」から出鋼される直前の溶鋼は、本件発明の「一次精錬を行った溶鋼」に相当する。

イ 甲4発明の「転炉から出鋼した後に」との事項から、甲4発明が本件発明の「出鋼工程」に相当する工程を有することは明らかである。

ウ 甲4発明の「脱酸前溶鋼中フリー酸素量が156ppmでAl一括脱酸し」との事項は、本件発明の「合金添加」に相当する。

エ 甲4発明の「転炉から出鋼した後に、・・・、取鍋の底部から・・・Al一括脱酸し、」の段階は、「取鍋の底部から」との記載からも理解されるように、「取鍋」で行われる工程であるから、本件発明の「取鍋処理工程」に相当する。

オ 甲4発明の「連鋳」は、本件発明の「連続鋳造工程で連続鋳造する」ことに相当する。また、「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯することは技術常識であるから、甲4発明においても、「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯するものと認められる。

カ 上記ア?オより、甲4発明の「溶銑予備処理、転炉、二次精錬(RH)、連鋳を行う高清浄度鋼の製造方法において、転炉から出鋼した後に・・・取鍋の底部から・・・Al一括脱酸し、・・・高清浄度鋼の製造方法」との事項と、本件発明の「大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法」との事項とは、「一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程で連続鋳造する高清浄鋼の製造方法」との事項において一致する。

キ 甲4発明の「転炉から出鋼した後に、CaOを500kgとAlを100kgとを投入してスラグ改質し」との事項は、本件発明の「前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し」との事項に相当する。

ク 甲4発明の「脱酸前溶鋼中フリー酸素量が156ppmでAl一括脱酸し」との事項は、本件発明の「溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした後、前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し」との事項に相当する。

ケ 「RH脱ガス装置」においては当然溶鋼が撹拌されるから(例えば、甲1の上記1(1)ア(エ)で摘記した部分を参照)、甲4発明の「RH脱ガス装置でAl一括脱酸し」との事項は、本件発明の「該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し」との事項と、「該溶鋼を撹拌処理して脱酸処理し」との事項で一致する。

コ 甲4発明の「脱酸後撹拌時間が5分である」との事項について、「RH脱ガス装置でAl一括脱酸し」との工程の後に5分撹拌することを示すのか、「RH脱ガス装置でAl一括脱酸し」との工程での撹拌時間が5分であることを示すのか不明であって、甲4発明における「Al」添加後の撹拌時間を特定することはできない。
したがって、甲4発明は、本件発明と「金属アルミニウムを更に添加し」た後の「撹拌処理」が、「3分以上10分以下」である点で一致するとはいえない。

サ 上記オでも示したとおり、「連続鋳造」において、溶鋼を「タンディッシュ」に注湯することは技術常識であるから、本件発明1と甲4発明とは、「前記連続鋳造工程では、タンディッシュに、前記脱酸処理」した「溶鋼を注湯する」との事項で一致する。

シ 上記ア?サより、本件発明と甲4発明とは、以下の一致点2で一致し、以下の相違点5?9で相違する。

[一致点2]
「一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した後、連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する高清浄鋼の製造方法において、
前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした後、
前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を撹拌処理して脱酸処理する、
前記連続鋳造工程では、タンディッシュに、前記脱酸処理した溶鋼を注湯する、高清浄鋼の製造方法。」

[相違点5]
本件発明は、「一次精錬」が「大気圧下で吹酸脱炭する」ものであるのに対し、甲4発明は、「製鋼炉」においてどのような処理がされているかが不明である点。

[相違点6]
本件発明は、「前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウムを添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下とした」ものであるのに対し、甲4発明は、「スラグを改質処理」した後の「スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計」が不明な点。

[相違点7]
本件発明は、「撹拌処理」が「3分以上10分以下」であるのに対し、甲4発明は、「撹拌処理」を行う時間が不明な点。

[相違点8]
本件発明は、「該脱酸処理から前記連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに10分以上静置」するものであるのに対し、甲4発明は、「連続鋳造」の前に「静置」するものではない点。

[相違点9]
本件発明は、「前記連続鋳造工程では、溶鋼を受け入れる受湯部と、該溶鋼を連続鋳造する鋳型に注入する排湯部とに仕切る堰が内部に設けられ、該堰の高さを溶鋼深さの0.3倍以上0.8倍以下とした前記タンディッシュに、前記脱酸処理後に静置した溶鋼を注湯する」ものであるのに対、甲4発明では、そのような「連続鋳造工程」を備えていない点。


(2)判断

ア 事案に鑑み、相違点8、9についてまとめて検討する。

イ 上記相違点8、9は、上記相違点3、4と同様の相違点である。

ウ そして、上記相違点3、4に関して上記2(2)イ?エで示したのと同様に、甲2、甲3には、上記相違点8、9に係る事項が開示されているものの、上記2(2)オ?セで示した理由と同様の理由で、技術常識を参酌しても、本件発明において上記相違点8、9に係る事項を採用したことの効果が当業者に予測し得る程度のものとはいうことはできず、甲4発明に、甲2、3、5、6に記載された事項を適用して、相違点8、9に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。


(3)小括
したがって、相違点5?7について検討するまでもなく、本件発明は、甲4に記載された発明及び甲2、3、5、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


4 申立理由1-3について

(1)本件発明と甲5発明との対比

ア 甲5発明の「300tの溶銑を、上底吹き転炉で吹錬し、吹止め時のC含有量を0.02?0.10%、および溶鋼温度を1610?1630℃とし、上吹きO_(2) 流量は700Nm^(3)/min および底吹き不活性ガス流量は20?30Nm^(3)/min で操業する、転炉工程」は、本件発明の「大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬」に相当する。

イ 甲5発明の「上記転炉から取鍋に出鋼中に金属Alを40%含みCaO を主成分とするフラックスを・・・添加し、・・・スラグ改質工程」及び「RH真空脱ガス処理工程」は、本件発明の「少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製した」工程に相当する。

ウ 上記1(5)アで摘記した【0020】の「高純度で清浄度の高い極低炭素鋼」との記載より、甲5発明の「極低炭素鋼」は清浄度が高いものであるから、甲5発明の「極低炭素鋼の溶製方法」は、本件発明の「高清浄鋼の製造方法」に相当する。

エ 上記ア?ウより、甲5発明と本件発明とは、「大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製する、高清浄鋼の製造方法」である点で一致する。

オ 甲5発明の「上記転炉から取鍋に出鋼中に金属Alを40%含みCaO を主成分とするフラックスを、溶鋼1t当たり1.3 ?1.5kg 添加し、取鍋内鋼浴上のスラグ中のFeO とMnOとの合計濃度を1.3 ?5.0 %に調整し、このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppmおよび溶鋼温度は1590?1610℃であるスラグ改質工程」は、本件発明の「前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下」とする事項に相当する。

カ 以下に示すとおり、甲5発明の「スラグ改質工程」において「このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppm」とした点は、本件発明において、「溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした」点には相当しない。
本件発明は、「溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした後、前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し」との事項を備えるが、当該事項における「溶鋼の溶存酸素濃度」は「金属アルミニウム」の添加時点の「溶鋼の溶存酸素濃度」を示すと認められる。
一方で、甲5発明は、「スラグ改質工程」の後に「O_(2) ガス」の吹きつけ等の工程を行っており、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際には、「O:450 ?550 ppm」となっているから、甲5発明の「スラグ改質工程」において「このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppm」であるのは、「Al」添加時ではない。
したがって、甲5発明の「スラグ改質工程」において「このとき鋼中のO濃度は100 ?550ppm」とした点は、本件発明において、「溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした」点には相当しない。
なお、上述のとおり、本件発明の「溶鋼の溶存酸素濃度」は、「金属アルミニウム」の添加時点の「溶存酸素濃度」を示すと認められるから、甲5発明において本件発明の「溶鋼の溶存酸素濃度」に相当するものは、甲5発明の「O:450 ?550 ppm とし、さらに、還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加し」との事項における「O」濃度である。

キ 「RH脱ガス処理」においては当然溶鋼が撹拌されるから(例えば、甲1の上記1(1)ア(エ)で摘記した部分を参照)、甲5発明の「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加し、引き続き、溶鋼の脱ガス処理を8?10分間行ってRH脱ガス処理を終了する」との事項は、本件発明の「前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理し」との事項に相当する。

ク 上記ア?キより、本件発明と甲5発明とは、以下の一致点3で一致し、以下の相違点10?12で相違する。

[一致点3]
「大気圧下で吹酸脱炭する一次精錬を行った溶鋼を、少なくとも出鋼工程と合金添加を含む取鍋処理工程で順次処理して溶製する、高清浄鋼の製造方法であって、
前記出鋼工程での溶鋼の出鋼の際に、溶鋼及びスラグのいずれか一方又は双方に生石灰を投入すると共に、金属アルミニウム及び金属アルミニウムを含むフラックスのいずれか一方又は双方を添加して、スラグを改質処理し、スラグのT.Fe濃度とMnO濃度の合計を5質量%以下とし、
前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加し、該溶鋼を3分以上10分以下撹拌処理して脱酸処理する、高清浄鋼の製造方法。」

[相違点10]
本件発明は、「連続鋳造工程でタンディッシュに注湯して連続鋳造する」ものであるのに対し、甲5発明では、「連続鋳造」することが特定されていない点。

[相違点11]
本件発明は、「前記取鍋処理工程で溶鋼に金属アルミニウムを更に添加」する際に「溶鋼の溶存酸素濃度を100ppm以上300ppm以下の範囲とした」ものであるのに対し、甲5発明は、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際に「O:450 ?550 ppm」とした点。

[相違点12]
本件発明は、「該脱酸処理から前記連続鋳造工程で連続鋳造を開始するまでに10分以上静置」するものであるのに対し、甲5発明は、「連続鋳造」の前に「静置」するものではない点。

[相違点13]
本件発明は、「前記連続鋳造工程では、溶鋼を受け入れる受湯部と、該溶鋼を連続鋳造する鋳型に注入する排湯部とに仕切る堰が内部に設けられ、該堰の高さを溶鋼深さの0.3倍以上0.8倍以下とした前記タンディッシュに、前記脱酸処理後に静置した溶鋼を注湯する」ものであるのに対、甲5発明では、そのような「連続鋳造工程」を備えていない点。


(2)判断

ア 相違点11について

(ア)事案に鑑み、まず、相違点11について検討する。

(イ)甲5発明においては、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際の酸素濃度が「O:450 ?550 ppm」であるところ、酸素濃度を減少させて100?300ppmとすれば、甲5発明が、上記相違点11に係る事項を備えるものとなるので、甲5発明において、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際の酸素濃度である「O:450 ?550 ppm」を100?300ppmへと低下させることが、当業者に容易に想到し得ることであるか否かについて、以下に検討する。

(ウ)上記1(5)で摘記した甲5の【0004】から、甲5に記載された発明の課題は、「高品質かつ安価な極低炭素鋼を量産」することと認められる。

(エ)そして、上記1(5)で摘記した甲5の【0010】?【0012】には、「RH真空脱ガス装置の真空槽に配置した上吹きランスから、真空槽内の鋼浴面に酸素または酸素を含む酸化性ガスを吹付ける。ここで溶存酸素濃度が不足している場合は、吹付けた酸素は鋼中酸素源となって脱炭速度の上昇に寄与し、また、一部の酸素は脱炭で生じたCOガスを燃やしてCO_(2) となり、その際の燃焼熱を溶鋼に伝える。この酸化性ガスの吹付けによって、RH真空脱ガス処理に供する溶鋼の酸素濃度および処理温度を制御することができるため、前工程の転炉およびスラグ改質工程での成分および温度の厳密な管理は不要となる。・・・さらに、極低炭素領域までの脱炭には、上記の上吹きランスから、Ca(OH)_(2),Mg(OH)_(2), ミョウバンなどの水素を含む粉体を真空槽内の鋼浴面に吹付ける。・・・そして、所定の極低炭素濃度に調整したのちは、引き続いて真空槽内にAlなどの還元剤を添加して溶鋼の脱酸をはかり、さらに、成分調整等も行なって所望の成分の極低炭素鋼とする。」と記載されている。
すると、甲5において、「Al」による「脱酸」の前に、脱炭のために溶鋼の酸素濃度を増加させることは、上記課題の解決のために必須の事項であり、「Al」による「脱酸」の前に溶鋼の酸素濃度を低下させた場合、脱炭が不十分で「極低炭素鋼」が得られず、上記課題を解決し得ないおそれがある。

(オ)したがって、甲5発明において、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際の酸素濃度を低下させることには阻害要因があるから、甲5発明において、「還元剤としてAlを1.2 ?1.4kg/t 添加」する際の酸素濃度である「O:450 ?550 ppm」を100?300ppmへと低下させ、甲5発明が相違点11に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。


イ 相違点12、13について

(ア)次に、相違点12、13について、まとめて検討する。

(イ)上記相違点12、13は、上記相違点3、4と同様の相違点である。

(ウ)そして、上記相違点3、4に関して上記2(2)イ?エで示したのと同様に、甲2、甲3には、上記相違点12、13に係る事項が開示されているものの、上記2(2)オ?セで示した理由と同様の理由で、技術常識を参酌しても、本件発明において上記相違点12、13に係る事項を採用したことの効果が当業者に予測し得る程度のものとはいうことはできず、甲5発明に、甲2、3、4、6に記載された事項を適用して、相違点12、13に係る特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。


(3)小括
したがって、相違点10について検討するまでもなく、本件発明は、甲5に記載された発明及び甲2、3、4、6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


5 まとめ
よって、請求項1に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。



第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由1によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2020-07-20 
出願番号 特願2016-52428(P2016-52428)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河口 展明  
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 中澤 登
北村 龍平
登録日 2019-10-04 
登録番号 特許第6593233号(P6593233)
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 高清浄鋼の製造方法  
代理人 中前 富士男  

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