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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1364949
異議申立番号 異議2020-700211  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-25 
確定日 2020-08-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6581226号発明「緑茶を有効成分とする牧草臭マスキング剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6581226号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6581226号の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年2月7日に出願され、令和元年9月6日にその特許権の設定登録がされ、同年9月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和2年3月25日に特許異議申立人竹田穣(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明について
本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表示した。
「[請求項1]
緑茶粉砕物又は抹茶から成る牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
理由1(新規性、甲第1号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由3(新規性、甲第3号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由4(進歩性、甲第3号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第3号証、甲第2号証及び甲第12号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由5(新規性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4?7号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由6(進歩性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第4?7号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
理由7(進歩性、甲第8、9号証を主引用例とする場合)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第8、9号証、甲第2号証、甲第6号証、甲第7号証、甲第10号証及び甲第11号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2003-334046号公報
甲第2号証:特開2010-166886号公報
甲第3号証:株式会社伊藤園,「伊藤園 毎日1杯の青汁 粉末タイプ(糖類不使用)5.6g×20包」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/伊藤園-毎日1杯の青汁-粉末タイプ-無糖-5-6g×20包/dp/B01C6UTCUK>
甲第4号証:特開2005-210972号公報
甲第5号証:特開2016-47036号公報
甲第6号証:株式会社エバーライフ,「エバーライフ おいしい青汁 新鮮搾り 30包×3箱セット」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/エバーライフ-おいしい青汁-新鮮搾り-30包×3箱セット/dp/B0020UQDQI>
甲第7号証:ヤクルトヘルスフーズ株式会社,「ヤクルト 青汁のめぐり 225g(7.5g×30袋)」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/ヤクルトヘルスフーズ-ヤクルト-青汁のめぐり-225g-7-5g×30袋/dp/B000W9F9O6>
甲第8号証:特開平8-59486号公報
甲第9号証:特開2004-33717号公報
甲第10号証:特開2009-165439号公報
甲第11号証:特開2014-155437号公報
甲第12号証:消費者庁,「知っておきたい食品の表示」,平成28年6月

以下、「甲第1号証」?「甲第12号証」をそれぞれ「甲1」?「甲12」という。まとめて、「甲号証」ということもある。

理由8(実施可能要件、サポート要件、明確性)
理由8-1(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1に係る発明についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由8-2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、請求項1に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由8-3(明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、請求項1に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 特許異議申立理由についての判断
1.理由1(新規性、甲第1号証を主引用例とする場合)及び理由2(進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合)について
(1)甲号証及びその記載事項
(i)甲1(特開2003-334046号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1-1)「[請求項1] 以下の(a)?(c)の各成分が必須成分として含有されてなることを特徴とする粉末飲料。
(a)大麦(Hordeum vulgare)の若葉の微粉末及び/又はケール(Brassica oleraceaL.var.acephala)の微粉末
(b)不醗酵茶の微粉末及び/又は半醗酵茶の微粉末
(c)多糖類の微粉末」

(1-2)「[0003]しかしながら、大麦若葉やケールは、苦味や臭みが強いために、嗜好性に劣り美味しく飲用することが困難であった。そこで、本願発明者は、先に、特開平11-221060号公報及び特開平11-332530号公報において、大麦若葉やケールに、不醗酵茶及び/又は半発酵茶を加えた飲料を開示している。大麦若葉やケールに不醗酵茶や半醗酵茶を加えることにより、大麦若葉やケールの苦味や臭みを解消して、嗜好性に優れた飲料を得ることができる。
[0004]
[発明が解決しようとする課題]しかしながら、特開平11-221060号公報及び特開平11-332530号公報に開示された飲料には、以下のような問題が存在した。まず、これらの飲料は、湯や水を注いで飲用する際に、経時的に大麦若葉やケールが沈殿して分散性や溶解性に劣るといった問題が存在した。また湯や水を注いだ状態で保存すると、経時的に風味や味が劣化するという問題が存在した。さらには、不醗酵茶や半発酵茶を加えることにより、大麦若葉やケールの苦味や臭みをある程度解消することができるものの、その効果は充分満足できるものではなく、誰もが美味しく飲用することはできなかった。
[0005]本発明は、大麦若葉やケールに含まれる栄養成分を効果的に摂取することができるとともに、湯や水に対する溶解性や分散性に優れ、しかも長期間保存しても風味などが劣化することなく嗜好性に優れた大麦若葉及び/又はケールを含有する粉末飲料並びに飲料を提供することを課題とする。」

(1-3)「[0014]<(b)成分>本発明においては、茶(Thae sinensis)のうちの、不醗酵茶及び/又は半醗酵茶の微粉末が用いられる。(a)成分である大麦若葉やケールは臭みが強いため、単独では嗜好性に劣るが、不醗酵茶及び/又は半醗酵茶の微粉末を混合することにより、大麦若葉やケールの臭みが緩和され、飲用しやすくなるとともに、不醗酵茶や半醗酵茶に含まれる栄養成分も同時に摂取することができる。尚、茶は一般に製造方法等により、不醗酵茶(緑茶)、半醗酵茶(ウーロン茶)、醗酵茶(紅茶)の3種類に分けることができ、茶の葉に含まれる酸化酵素(ポリフェノールオキシダーゼ)を加熱により失活させて製造される通常の緑茶を不醗酵茶、製造の最終段階まで加熱せず、酵素作用を十分利用して製造される通常の紅茶を醗酵茶、不醗酵茶と醗酵茶の中間の製法により製造されるウーロン茶などを半醗酵茶と呼ぶ。
[0015]不醗酵茶は加熱の方法により更に細かく分類され、蒸熱処理により酵素を失活させて得られる緑茶は蒸し製茶と呼ばれ、また、釜炒りにより酵素を失活させて得られる緑茶は釜炒り製茶と呼ばれている。本発明においては、煎茶、玉露、抹茶、番茶、ほうじ茶、かぶせ茶、玉緑茶、緑だん茶等の蒸し製茶、青柳茶、嬉野茶、中国緑茶等の釜炒り製茶、更にウーロン茶などの半醗酵茶のうちの任意の1種又は2種以上を好適に使用することができる。」

(1-4)「[0017]<c成分>多糖類としては、食品素材として使用することができるものであれば、特に限定されることなく使用することができるが、澱粉、化工デンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアガム、グアガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、カラヤガム、グルコマンナン、キサンタンガム、寒天、カラギーナン、アルギン酸、シクロデキストリン、プルランなどを例示することができる。特に本発明では、多糖類として、デンプン、グアガム、プルランのうちの一種以上を使用することが好ましい。この理由は、これらの多糖類は、他の多糖類に比べて、大麦若葉又はケールの呈味性の改善効果に優れるからである。
[0018](c)成分の配合量は特に限定されないが、0.5?5重量%、より好ましくは0.5?3重量%、より好ましくは1?3重量%とされる。この理由は、0.5重量%未満の配合量では、大麦若葉やケールが本来有する風味や味を改善することができず、しかも粉末飲料の溶解性や分散性を高めることができないからである。また5重量%を超えて配合したとしても、それ以上の効果が得られないばかりか、逆に風味や味などの嗜好性が悪化するために、好ましくないからである。」

(1-5)「[0043]
[実施例]以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<試料の調製>表1及び表2に記載の組成に従って、各成分を十分に混合することにより、実施例1?10及び比較例1?10の粉末飲料を調製した。尚、大麦若葉としては、結実前の大麦若葉を十分に乾燥して、微粉砕したものを使用した。ケールとしては、ケールの葉を十分乾燥して、微粉砕したものを使用した。煎茶及び玉露は市販されているものを微粉砕して使用した。デンプン、プルラン、グアガムは、それぞれ、微粉砕したものを使用した。
[0044]
[表1]

[表2]



(1-6)「[0045]<試験例1:呈味試験>上記調製した実施例1?10及び比較例1?10の各試料(約2g)に、約50mLの熱湯を加えて飲料を調製した。
得られた飲料を10名のパネラーに飲用してもらい、以下の基準で採点してもらった。10名のパネラーの点数の平均点を算出した。結果を表3及び表4に記載する。
<評価基準>
苦味や嫌な臭みが強く、飲用に適さない・・・1点
苦味や嫌な臭みがやや強い・・・2点
苦味や嫌な臭みがやや有るが、飲用することはできる・・・3点
苦味や嫌な臭みは殆どなく、飲用することができる・・・4点
苦味や嫌な臭みは全く無く、美味しく飲用することができる・・・5点
[0046]
[表3]

[表4]

[0047]表3及び表4の結果の通り、本発明に係る粉末飲料は、大麦若葉/ケールの微粉末に加えて、半発酵茶/不醗酵茶の微粉末及び多糖類の微粉末を配合していることにより、大麦若葉やケールのみを配合した場合、および大麦若葉やケールに加えて、半発酵茶や不醗酵茶を配合した場合に比べて、嫌な風味や臭いなど無く、嗜好性に優れ、美味しく飲用することができる。」

(ii)甲2(特開2010-166886号公報)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「[従来技術]
[0002]
酵母は、消費者の天然物志向や安全性志向を背景に、うまみ付与等の目的で、調味料の一つとして食品に用いられることが検討されてきた(非特許文献1?4)。
一方で、魚肉や畜肉を原材料とする加工食品は、それらのもつ生臭さ、獣臭などの独特の不快臭があり、臭いの向上に関して種々の検討がなされてきた(特許文献1?5)が、近年の食品産業の多様化、発展に伴い、加工食品の原材料として安価な輸入品が用いられることがあり、国産品との風味の差が課題となることがある。とりわけ、牛肉に関しては、輸入品には独特の土臭さ、牧草臭(草臭さ、又はグラス臭と評されることもある。)が感じられ、国産品の代替とする際の大きな障壁となっている。なお、牛肉の臭いに関しては、非特許文献5において、牧草臭、黄色脂肪、トコフェロールその他の酸化防止剤及び牧草の毒性的影響等について言及されているほか、非特許文献6において、パーム油添加飼料及び熟成期間による牛の筋肉内脂肪酸組成及び官能的特性が評価されているが、パーム油添加飼料によりC16:0及びC18:0の比率のみが有意な影響を受け、また熟成時間は牧草臭、柔軟性、多汁性、繊維性、肝臓臭及び酸臭に影響を及ぼしたが、パーム油添加物は肉の官能特性を改悪することはなかったことが報告されている。」

(2)甲1に記載された発明
甲1の請求項1(摘記1-1)には、「以下の(a)?(c)の各成分が必須成分として含有されてなることを特徴とする粉末飲料。 (a)大麦(Hordeum vulgare)の若葉の微粉末及び/又はケール(Brassica oleracea L.var.acephala)の微粉末 (b)不醗酵茶の微粉末及び/又は半醗酵茶の微粉末 (c)多糖類の微粉末」が記載されており、[0043]?[0044]の表1及び表2(摘記1-5)には、表1及び表2に記載の組成に従って各成分を十分に混合することにより、請求項1に係る発明の実施例及び比較例に相当する粉末飲料を調製したこと、並びに煎茶及び玉露は市販されているものを微粉砕して使用したことが記載されている。
そして、表2には、比較例2の粉末飲料が大麦若葉55重量部及び玉露45重量部の組成からなること、及び比較例3の粉末飲料が大麦若葉60重量部及び煎茶40重量部の組成からなることが記載されている。
そうすると、甲1には以下の発明が記載されているものと認められる。
「大麦若葉55重量部及び玉露微粉砕物45重量部からなる粉末飲料、並びに大麦若葉60重量部及び煎茶微粉砕物40重量部からなる粉末飲料。」(以下、「甲1発明」という。)

(3)本件発明と甲1発明との対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「玉露微粉砕物」及び「煎茶微粉砕物」は、いずれも本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点1:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲1発明においては大麦若葉を含有する粉末飲料の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(4)相違点1について
ア 牧草臭マスキング剤と粉末飲料について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲1発明の粉末飲料は玉露微粉砕物又は煎茶微粉砕物に加え、大麦若葉を含有する。よって、相違点1は実質的な相違点であるといえる。

イ 呈味試験の評価基準について
甲1の[0045]?[0046]の表3及び表4(摘記1-6)には、実施例及び比較例の各試料(約2g)に、約50mLの熱湯を加えて飲料を調製し、呈味試験を行ったこと及びその評価結果が記載されているが、評価基準は、
「苦味や嫌な臭みが強く、飲用に適さない・・・1点
苦味や嫌な臭みがやや強い・・・2点
苦味や嫌な臭みがやや有るが、飲用することはできる・・・3点
苦味や嫌な臭みは殆どなく、飲用することができる・・・4点
苦味や嫌な臭みは全く無く、美味しく飲用することができる・・・5点」
であり、「苦み」と「嫌な臭み」とは分けて採点されていないから、表3及び表4の評価結果を参照しても、「苦み」についての評価であるのか「嫌な臭み」についての評価であるのかは明らかではない。

ウ 呈味試験の結果について
甲1の[0046]の表4(摘記1-6)には、甲1発明に相当する比較例2及び3の評価はそれぞれ3.4及び3.5点であったことが記載されているから、「苦味や嫌な臭みがやや有るが、飲用することはできる・・・3点」は超えるものの、「苦味や嫌な臭みは殆どなく、飲用することができる・・・4点」には届かない評価であったことが読み取れる。そうすると、甲1発明は「苦みや嫌な臭み」がなくなってはいないから、「玉露微粉砕物」や「煎茶微粉砕物」が含まれていても、「苦みや嫌な臭み」をマスキングできておらず、牧草臭のマスキングまでは確認できていないものと理解できる。
また、上記1.(4)イ「呈味試験の評価基準について」における検討を踏まえると、「やや有る」又は「殆どなく」との評価結果が、直ちに「嫌な臭み」のマスキングを意味するものとはいえない。

エ 玉露粉砕物及び煎茶粉砕物の作用効果について
甲1の[0003]?[0004](摘記1-2)には、「大麦若葉やケールは、苦味や臭みが強いために、嗜好性に劣り美味しく飲用することが困難であった」こと、及び「不醗酵茶や半発酵茶を加えることにより、大麦若葉やケールの苦味や臭みをある程度解消することができるものの、その効果は充分満足できるものではなく、誰もが美味しく飲用することはできなかった」ことが解決すべき課題として記載されており、当該記載は上記1.(4)ウ「呈味試験の結果について」において検討した比較例2、3の評価結果と整合している。
また、当該課題を解決する手段として、甲1の請求項1(摘記1-1)及び[0017]?[0018](摘記1-4)には、(c)多糖類の微粉末を必須成分としたこと、及び「0.5重量%未満の配合量では、大麦若葉やケールが本来有する風味や味を改善することができ」ないことが記載されている。
そうすると、甲1の[0014](摘記1-3)に「不醗酵茶及び/又は半醗酵茶の微粉末を混合することにより、大麦若葉やケールの臭みが緩和され」ることが記載されているとしても、緩和効果は充分満足できるものではなく、(c)多糖類の微粉末による風味や味の改善効果を加えなければ、大麦若葉やケールの苦みや臭みを解消するという課題を解決できないものと理解することができる。

オ 甲2について
甲2の[0002](摘記2-1)には、牛肉に関して、「輸入品には独特の土臭さ、牧草臭(草臭さ、又はグラス臭と評されることもある。)が感じられ」ることが記載されているが、大麦若葉の牧草臭及びそのマスキング剤については記載も示唆もされていないから、甲2の記載により、甲1発明の「玉露微粉砕物」及び「煎茶微粉砕物」を、上記相違点1に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。

カ 相違点1についての判断(進歩性について)
甲1には、甲1発明における「玉露微粉砕物」及び「煎茶微粉砕物」が、「大麦若葉の苦味や嫌な臭み」を「殆どない」又は「全くない」ものとすることができることは記載されているとはいえないし、特に「苦み」ではなく「嫌な臭み」をマスキングできることも記載されていないといえる。また、甲2も大麦若葉の牧草臭及びそのマスキング剤について記載するものではない。
よって、甲1発明の粉末飲料の配合組成並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、「玉露微粉砕物」又は「煎茶微粉砕物」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(5)本件発明の効果について
本件発明は相違点1に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲1及び甲2から予測することができないものといえる。

(6)理由1(新規性、甲第1号証を主引用例とする場合)及び理由2(進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合)のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲1発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由1(新規性、甲第1号証を主引用例とする場合)及び理由2(進歩性、甲第1号証を主引用例とする場合)によって、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

2.理由3(新規性、甲第3号証を主引用例とする場合)及び理由4(進歩性、甲第3号証を主引用例とする場合)について
(1)甲号証及びその記載事項
(i)甲3(株式会社伊藤園,「伊藤園 毎日1杯の青汁 粉末タイプ(糖類不使用)5.6g×20包」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/伊藤園-毎日1杯の青汁-粉末タイプ-無糖-5-6g×20包/dp/B01C6UTCUK>)には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「伊藤園毎日1杯の青汁粉末タイプ (糖類不使用) 5.6g×20包」(第1頁商品名)

(3-2)「原材料:食物繊維、大麦若葉粉末、緑茶粉末、ほうれん草粉末、ブロッコリー粉末、ケール粉末、米こうじ粉末、ボタンボウフウ粉末、スピルリナ、ケフィア粉末(乳成分を含む)、でん粉、大根葉粉末」(第1頁「原材料」の欄)

(3-3)「Amazon.co.jp での取り扱い開始日 2016/3/13」(第2頁「登録情報」の欄)

(3-4)「商品紹介
『生きた乳酸菌』と『活きた酵素』が補給できる糖類不使用の粉末青汁。
無糖タイプで毎日飲み続けられるスッキリした味わい。
・・・
メーカーより
あの青汁がこんなに美味しくなりました
青汁は、特有の青臭みがあって『マズイ』『苦い』というイメージ・・・
野菜不不足を補いたい、と思いつつもついつい敬遠してしまうという方も・・・
『青汁=健康でおいしい』の時代。
毎日1杯の青汁は、緑茶粉末を入れることで、すっきり飲みやすい味わいに仕上げました 。」(第2頁「商品の説明」の欄)

(3-5)「frontline
近くのスーパーでもうちょっと安く売ってるのを発見
2017年10月29日
サイズ:糖類不使用 5.6g×20包 Amazonで購入
使い方としては反則なのですが、お茶を口に含んで、その中に粉を入れて飲んでます。
忙しいと後片付けのいらないこの方法が楽なのです。
・・・
青汁を健康法として飲みたい人には必要な部分をしっかり抑えてあり、乳酸菌と酵素が取れる点はとてもよいと思います。
・・・
tanoue takako
飲みやすい
2018年1月3日
サイズ:糖類不使用 5.6g×20包 Amazonで購入
普通に飲みやすいです。青汁も1種類でなく何種類かの野菜が入っている方がいいと西式健康方の本に書いてありました。青汁を作るのは大変てすし、青臭くて気分が悪くなってしまいます。粉末タイプでも充分に効果あるそうで重宝しています。」(第6?7頁「カスタマーレビュー」の欄)

(ii)甲12(消費者庁,「知っておきたい食品の表示」,平成28年6月)には、以下の事項が記載されている。
(12-1)「原材料は、最も一般的な名称で、使用した重量の割合の高い順に表示されています。」(第8頁「トピックス6 原材料名と添加物の見方」の項)

(2)甲3に記載された発明
甲3の第1?2頁(摘記3-1?3-4)には、「伊藤園 毎日1杯の青汁 粉末タイプ (糖類不使用) 5.6g×20包」という商品が、アマゾンジャパン合同会社の運営するAmazon.co.jpウェブサイトで2016年3月13日に取り扱い開始された商品であり、その原材料が「食物繊維、大麦若葉粉末、緑茶粉末、ほうれん草粉末、ブロッコリー粉末、ケール粉末、米こうじ粉末、ボタンボウフウ粉末、スピルリナ、ケフィア粉末(乳成分を含む)、でん粉、大根葉粉末」であること、及び「『生きた乳酸菌』と『活きた酵素』が補給できる糖類不使用の粉末青汁」であることが記載されている。
そうすると、甲3には以下の発明が記載されているものと認められる。
「食物繊維、大麦若葉粉末、緑茶粉末、ほうれん草粉末、ブロッコリー粉末、ケール粉末、米こうじ粉末、ボタンボウフウ粉末、スピルリナ、ケフィア粉末(乳成分を含む)、でん粉、大根葉粉末を原材料とする粉末青汁。」(以下、「甲3発明」という。)

(3)本件発明と甲3発明との対比
本件発明と甲3発明とを対比すると、甲3発明における「緑茶粉末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点2:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲3発明においては粉末青汁の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

(4)相違点2について
ア 牧草臭マスキング剤と粉末飲料について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲3発明の粉末青汁は緑茶粉末以外の原材料を含有する。よって、相違点2は実質的な相違点であるといえる。

イ 緑茶粉末について
甲3の第3頁「商品の説明」欄(摘記3-4)には、甲3発明の粉末青汁が「無糖タイプで毎日飲み続けられるスッキリした味わい」であること、「青汁は、特有の青臭みがあって『マズイ』『苦い』というイメージ」があるところ、「緑茶粉末を入れることで、すっきり飲みやすい味わいに仕上げ」たことが記載されている。
しかし、「毎日飲み続けられるスッキリした味わい」及び「すっきり飲みやすい味わい」という記載からは、青汁の「特有の青臭み」がマスキングされていることまでは読み取れない。
また、「緑茶粉末を入れることで、すっきり飲みやすい味わいに仕上げ」たと記載されていても、甲3発明の粉末青汁は、緑茶以外の成分として「食物繊維、大麦若葉粉末」、「ほうれん草粉末、ブロッコリー粉末、ケール粉末、米こうじ粉末、ボタンボウフウ粉末、スピルリナ、ケフィア粉末(乳成分を含む)、でん粉、大根葉粉末」を含有するから、「特有の青臭み」が「大麦若葉粉末」に由来する「牧草臭」であるのか明らかではないし、「すっきり飲みやすい味わい」が「緑茶粉末」のみによってもたらされるものであるのかも明らかではない。
そうすると、甲3の上記記載から、甲3発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

ウ カスタマーレビューについて
甲3の第6?7頁「カスタマーレビュー」欄(摘記3-5)には、「お茶を口に含んで、その中に粉を入れて飲んで」いること、及び「普通に飲みやすい・・・青汁を作るのは大変ですし、青臭くて気分が悪くなってしま」うことが記載されているが、「お茶を口に含んで」いるレビューは、粉末青汁そのものの風味について評価できるものではない。
また、「普通に飲みやすい」というレビューも、飲むときの臭いについて評価されているものではないし、青汁を作るときの「青臭くて気分が悪くなってしまう」臭いは、甲3発明の粉末青汁を飲むときの臭いとは異なるものである。
そうすると、甲3の上記記載を参酌しても、甲3発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

エ 甲12について
甲12の第8頁(摘記12-1)には、「原材料は、最も一般的な名称で、使用した重量の割合の高い順に表示されてい」ることが記載されているから、甲3発明の原材料において、緑茶粉末は食物繊維及び大麦若葉粉末に次いで3番目に高い重量割合で配合された原材料であると理解することができる。
しかし、上記2.(4)イ「緑茶粉末について」に記載したとおり、甲3発明の粉末青汁は、緑茶以外の成分として「食物繊維、大麦若葉粉末」、「ほうれん草粉末、ブロッコリー粉末、ケール粉末、米こうじ粉末、ボタンボウフウ粉末、スピルリナ、ケフィア粉末(乳成分を含む)、でん粉、大根葉粉末」を含有するものであり、各成分の具体的な重量割合が明らかになっているものでもないから、甲12の記載を参酌しても、甲3発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

オ 甲2について
甲2の[0002](摘記2-1)には、牛肉に関して、「輸入品には独特の土臭さ、牧草臭(草臭さ、又はグラス臭と評されることもある。)が感じられ」ることが記載されているが、大麦若葉の牧草臭及びそのマスキング剤については記載も示唆もされていないから、甲2の記載を参酌しても、甲2発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

カ 相違点2についての判断(進歩性について)
甲3には、甲3発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることは記載されているとはいえないし、甲2及び甲12の記載を参酌しても、「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であると理解することはできないから、甲2及び甲12の記載を参酌しても、甲3発明における「緑茶粉末」を上記相違点2に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。
よって、甲3発明の青汁粉末並びに甲3、甲2及び甲12に記載された事項に基づいて、「緑茶粉末」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(5)本件発明の効果について
本件発明は相違点2に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲3、甲2及び甲12から予測することができないものといえる。

(6)理由3(新規性、甲第3号証を主引用例とする場合)及び理由4(進歩性、甲第3号証を主引用例とする場合)のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲3発明並びに甲3、甲2及び甲12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由3(新規性、甲第3号証を主引用例とする場合)及び理由4(進歩性、甲第3号証を主引用例とする場合)によって、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

3.理由5(新規性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)及び理由6(進歩性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)について
(1)甲号証及びその記載事項
(i)甲4(特開2005-210972号公報)には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「[請求項1]
少なくとも茶葉、桑の葉、大麦若葉の3種類を微粉砕して得られる葉の粉末と、黒砂糖を微粉砕して得られる黒砂糖粉末と、蜂蜜を澱粉と混合して乾燥させ、微粉砕して得られる蜂蜜粉末と、グラニュ糖と、の混合物を顆粒状に造粒してなる粉末食品。」

(4-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0004]
しかし、従来の抹茶や桑の葉、大麦若葉の粉末は、液体に溶かした時にダマができてしまい、それが表面に浮いて飲みにくく、また味に関しても、青汁では青臭さがきわだち飲みにくくなっていた。糖分を増やすと葉の粉末が液体中で分散しやすくなるが、甘すぎて飲用しづらく、造粒品の抹茶ミルクでは、抹茶の使用量が少ないため、風味が弱く、味がものたりないのが現状であった。
[0005]
そこで、請求項1及び3に記載の発明は、茶葉、桑の葉、桑の葉の全てを比較的多量に使用できるのに加えて、粉末が液体に分散しやすくて飲みやすく、風味や色調も好適な粉末食品及びその製造方法を提供することを目的としたものである。
[課題を解決するための手段]
[0006]
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、粉末食品として、少なくとも茶葉、桑の葉、大麦若葉の3種類を微粉砕して得られる葉の粉末と、黒砂糖を微粉砕して得られる黒砂糖粉末と、蜂蜜を澱粉と混合して乾燥させ、微粉砕して得られる蜂蜜粉末と、グラニュ糖と、の混合物を顆粒状に造粒したものである。」

(4-3)「[発明の効果]
[0008]
請求項1及び3に記載の発明によれば、各葉は風味、色彩を損なわず微粉末として多量に使用でき、さらに分散しやすい甘味であるグラニュ糖、黒砂糖、蜂蜜を加えて造粒することで、牛乳などの液体に混合してもダマになることなく混合されて擬似エマルジョン化し、液体への分散が良くなって飲みやすくなり、味に深みも出る粉末食品が得られる。
特に、各成分の原料について、抹茶に含まれるカテキンは、抗酸化作用、抗ガン作用、血中コレステロール上昇抑制作用、殺菌消臭作用など様々な作用が得られ、大麦若葉は、各種のビタミンやミネラルをバランス良く含み、桑の葉は、桑の葉特有の成分であるデオキシノギリマイシンやγ-アミノ酪酸(ギャバ)やフラボノイド類、ビタミン、ミネラルが含まれており、これら微量栄養素を多く含んでいることで現代人に不足しがちな微量栄養素を美味しく補給できる。また、黒砂糖に含まれるオリゴ糖、ラフィノースは腸内のビフィズス菌を増殖させ、免疫力を高め、肥満予防、冷え性、便秘に効果がある。」

(ii)甲5(特開2016-47036号公報)には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「[請求項1]緑葉末、茶粉末、並びに、黒糖及び加工黒糖のうち少なくとも一種を含有する健康食品。
[請求項2]前記緑葉末が、大麦、ヨモギ、アシタバ、クワ、及びモロヘイヤからなる5種の緑葉末の組合せである、請求項1に記載の健康食品。
[請求項3]前記緑葉末が、乾燥粉砕末である、請求項1又は請求項2に記載の健康食品。」

(5-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0005]
本発明の目的は、上述の生活習慣病や不定愁訴の改善を図るための一助となり、便通改善や肌荒れ改善、さらには高血圧改善効果も期待できる健康食品を提供することにある。また本発明の目的は、美味しく摂取できることによって積極的に長期間摂取することができ、それによりさらなる上述の事項の改善効果を図れる健康食品を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
[0006]
本発明者らは、種々の栄養成分を豊富に含む緑葉末に対して、茶粉末及び黒糖類を組み合わせることにより、食物繊維やビタミン、ミネラルを手軽に、そして豊富な量で美味しく摂取できるとともに、その結果、優れた便通改善効果や肌荒れ改善効果が期待でき、さらに、高血圧の改善効果も期待できることを見出し、本発明を完成させた。」

(5-3)「[発明の効果]
[0009]
本発明の健康食品は、上記緑葉末、特に特定の5種の緑葉末に対して、茶粉末及び黒糖類を組み合わせることにより、抹茶風味で上品な甘みを有する食品となるため、嗜好性が向上した健康食品となる。すなわち本発明により、美味しく摂取できる健康食品に仕上がることから、老若男女を問わず、長期間、継続して摂取可能な健康食品を提供することができるという効果が得られる。
また、本発明にあっては、上記緑葉末、茶粉末及び黒糖類を組み合わせたことにより、豊富な栄養素をほぼ十分な量にて手軽に摂取でき、特に緑葉末として大麦、ヨモギ、アシタバ、クワ及びモロヘイヤからなる5種の緑葉末を採用することにより、不足しがちな食物繊維、各種ビタミン、各種ミネラル(カルシウム、鉄、カリウム等)をバランスよく摂取することができる。
そしてこうした栄養バランスに優れ、長期間継続摂取可能な嗜好性を備える本発明の健康食品は、便通の改善、体重の減少、肌荒れの改善がみられるとともに、高血圧の改善も期待できるものである。」

(5-4)「[0017]
<茶粉末>
本発明の健康食品を構成する茶粉末として、煎茶粉末や抹茶を用いることができる。これらは、健康食品に茶の風味を付与して嗜好性を向上させることができるとともに、茶粉末はカテキン類を主とする豊富なポリフェノールを含有するため、健康増進にも寄与する。」

(5-5)「[実施例]
[0025]
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はいかなる場合も下記の実施例に限定されるものではない。
[0026]
例1?6:大麦若葉加工食品の製造及び評価(1)
下記表1に示す割合で各成分を配合し、健康食品として顆粒形態の大麦若葉加工食品を調製した。
そして、得られた各大麦若葉加工食品3gを、それぞれ100mLの水に懸濁したものを試料として調製した。該試料を被験者(男女各5名)に摂取させ、匂いや味、舌触りなどの嗜好性について評価した。嗜好性の評価は以下のとおりであり、10名の被験者の平均点として算出した。
結果を表1に合わせて示す。
[嗜好性評価]
美味しく飲用できる・・・・・・・・・・・・・・5点
違和感なく飲むことができる・・・・・・・・・・4点
違和感はあるが試料全部を飲むことができる・・・3点
試料全部を飲み干すことができない・・・・・・・2点
試料を殆ど飲むことができない・・・・・・・・・1点
[0027]
[表1]



(iii)甲6(株式会社エバーライフ,「エバーライフ おいしい青汁 新鮮搾り 30包×3箱セット」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/エバーライフ-おいしい青汁-新鮮搾り-30包×3箱セット/dp/B0020UQDQI>)には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「エバーライフ おいしい青汁 新鮮搾り 30包×3箱セット」(第1頁商品名)

(6-2)「・毎日飲むものだから、さらっとしたおいしい口あたりに仕上げました。
・大麦若葉を主原料に熊笹、ローヤルゼリー、ヒアルロン酸をバランスよく配合しました。さらに抹茶と黒糖を配合しおいしさにもこだわりました。」(第1頁商品説明欄)

(6-3)「Amazon.co.jp での取り扱い開始日 2009/3/25」(第3頁「登録情報」の欄)

(6-4)「摂取方法 栄養補助食品として1袋を冷水・お湯・牛乳(約100cc)などに溶かして1日1?2包を目安にお召し上がりください。・・・原材料 還元麦芽糖、難消化性デキストリン、大麦若葉粉末、抹茶末、黒糖粉末、熊笹粉末、イソマルトオリゴ糖、スピルリナ末、澱粉、ローヤルゼリー、サンゴカルシウム、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、ヒアルロン酸、葉酸」(第3頁「商品の説明」の欄)

(6-5)「n
美味しい
2014年11月2日
サイズ:30包×3箱セット Amazonで購入
青汁のイメージが変わりました。
飲みやすく、健康になったかも?・・・

好奇心
やはり体にいいのでしょう
2014年11月7日
サイズ:30包×3箱セット Amazonで購入
野菜不足を感じる体には手軽に補えるものです。牛乳に入れて飲んでいます」(第4頁「カスタマーレビュー」の欄)

(iv)甲7(ヤクルトヘルスフーズ株式会社,「ヤクルト 青汁のめぐり 225g(7.5g×30袋)」,Amazon.co.jpウェブサイト,アマゾンジャパン合同会社,検索日2020年2月21日,<URL:https://www.amazon.co.jp/ヤクルトヘルスフーズ-ヤクルト-青汁のめぐり-225g-7-5g×30袋/dp/B000W9F9O6>)には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「ヤクルト 青汁のめぐり 225g(7.5g×30袋)」(第1頁商品名)

(7-2)「タイプ :粉末
・・・原材料名:大麦若葉末、マルチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン(食物繊維)、明日葉末、抹茶、煎茶、酵素処理ルチン
・・・新発想『めぐる』青汁は、厳選された素材と製法を用い、上質な『栄養素』とカラダのすみずみまでいきわたる『吸収力』にこだわって開発された、『高機能』青汁です。 」(第1頁商品情報欄)

(7-3)「Amazon.co.jp での取り扱い開始日 2008/1/19」(第3頁「登録情報」の欄)

(7-4)「商品紹介
・・・
良質な大麦若葉の栄養素や色をそのまま閉じ込める製法と、『ヤクルトのオリゴ糖』により、青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げています。」(第3頁「商品の説明」の欄)

(7-5)「816mania
美味しいです。
2018年10月28日
サイズ:225g(7.5g×30袋) Amazonで購入
青汁は種類がありすぎて悩みますがこちらはヤクルトなので安心して選びました。
味は全然苦くなく、クセもなく、私には味もあまり感じません。
香りは結構青臭いですが味は青臭さはないです。
・・・
御家人
飲みやすいです
2017年6月7日
サイズ:225g(7.5g×30袋) Amazonで購入
青汁はいろいろ買いましたが、この青汁は青臭さが少なくてとても飲みやすいです。
青汁だけを飲んで生きている訳では無いので、体にどれだけ効果があったかというのは判りません。
そろそろ3回目の購入になります。飲みやすいので続ています。」(第5?6頁「カスタマーレビュー」の欄)

(v)甲8(特開平8-59486号公報)には、以下の事項が記載されている。
(8-1)「[請求項2]コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化してこれを主材料とすると同時に可食性消臭材料を混合してなるカルシウム剤。
・・・
[請求項4]『可食性消臭材料』が緑茶粉末である『請求項2』に記載のカルシウム剤。」

(8-2)「[0001]
[産業上の利用分野]この発明は人間を始めとする生物全般に必要なカルシウム等を吸収・利用し易い形で提供するもので、更には農業や環境保全方面にも適用しうるものである。
・・・
[0007]このコウイカの骨又は甲羅(以下まとめて甲羅と称する)を分級平均値に於いて粒径70μ以下に微粉化し、これをカルシウム不足からくる疾患者に少量ずつ与えたところ、比較的短期間において目覚ましい病状の改善がみられた。又、一見カルシウム不足とは関係のなさそうな慢性病等が著しく好転する例も生じた。
[0008]これ等の事実は粒径を70μ以下にした場合により顕著に現れたが、この粉末には特有の臭気があって、それが摂取に大きな抵抗となることも判明した。従ってこれに無害な可食性の消臭材料を配合して初めて実用的なカルシウム剤となりうることが明らかになったが、その甚だ望ましいものとして酵素類が挙げられ、それらの多くは消臭性能を有していることも判明した。
・・・
[0010]又、緑茶の粉末を混合しても、同様の消臭効果を認めることができた。この場合も同時に日持ちがよくなり、動物性材料に植物性材料を配合することは栄養上のバランスからも望ましいことであると考えられる。」

(vi)甲9(特開2004-33717号公報)には、以下の事項が記載されている。
(9-1)「[請求項1]
0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末30?70重量%に、粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%を加え、さらに10mm以下の竹炭短片5?20重量%を加えて調合混合し、脱臭消臭の複合効果を高めた脱臭消臭材。」

(9-2)「[産業上の利用分野]
[0001]
本発明は環境改善に関するものである。さらに詳しくは今日的課題の環境浄化の重要項目である異臭防止に、含有主成分のカテキン類によって脱臭消臭効果の機能を持つ緑茶及び緑茶粉末を主材料にして、イオン交換機能によりアンモニアやチッソの吸着特性が大きい鉱物ゼオライトの粉粒を加え、さらに脱臭消臭効果が大きい竹炭短片を加えて調合混合し、三種材料により脱臭消臭能力の相乗効果を高め、脱臭消臭機能の大幅な向上を図ったものである。
[0002]
三種の材料を調合して脱臭消臭の複合能力を大きく向上させた本発明により家庭、事業所などで異臭を発する排出ごみ、冷蔵庫、食器棚、押入れ、下駄箱、トイレなど、また自動車内などの異臭を防止することが出来る。」

(9-3)「[発明が解決しようとする課題]
[0005]
前項で記したように天然鉱物のゼオライト及び木炭や竹炭は、各自の持つ特性は優れているものの、単独での脱臭消臭の開発製品が少ないのが現状である。そこで本発明者は天然鉱物のゼオライト及び竹炭の優れた特性を生かすため、この二者を脱臭消臭の補助材として活用し、主成分として緑茶を使用することを考案した。発明者は緑茶の製造を業としてきたが、製造工程で必然的に生じる緑茶粉末の有効的な活用を模索している中に、現在の環境改善の重要項目の一つである脱臭消臭材として、緑茶及び緑茶粉末の利用を思い描くに至った。」

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲4に記載された発明
甲4には、その請求項1(摘記4-1)に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「少なくとも茶葉、桑の葉、大麦若葉の3種類を微粉砕して得られる葉の粉末と、黒砂糖を微粉砕して得られる黒砂糖粉末と、蜂蜜を澱粉と混合して乾燥させ、微粉砕して得られる蜂蜜粉末と、グラニュ糖と、の混合物を顆粒状に造粒してなる粉末食品。」(以下、「甲4発明」という。)

イ 甲5に記載された発明
甲5の請求項1?3(摘記5-1)には、「緑葉末、茶粉末、並びに、黒糖及び加工黒糖のうち少なくとも一種を含有する健康食品」、「前記緑葉末が、大麦、ヨモギ、アシタバ、クワ、及びモロヘイヤからなる5種の緑葉末の組合せである、請求項1に記載の健康食品」及び「前記緑葉末が、乾燥粉砕末である、請求項1又は請求項2に記載の健康食品」が記載されているから、甲5には、その請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「大麦、ヨモギ、アシタバ、クワ、及びモロヘイヤからなる5種の緑葉末の乾燥粉砕末の組合せ、茶粉末、並びに、黒糖及び加工黒糖のうち少なくとも一種を含有する健康食品。」(以下、「甲5発明」という。)

ウ 甲6に記載された発明
甲6の第1、3頁(摘記6-1、6-3、6-4)には、「エバーライフ おいしい青汁 新鮮搾り 30包×3箱セット」という商品が、アマゾンジャパン合同会社の運営するAmazon.co.jpウェブサイトで2009年3月25日に取り扱い開始された商品であり、その原材料が「還元麦芽糖、難消化性デキストリン、大麦若葉粉末、抹茶末、黒糖粉末、熊笹粉末、イソマルトオリゴ糖、スピルリナ末、澱粉、ローヤルゼリー、サンゴカルシウム、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、ヒアルロン酸、葉酸」であること、及び「栄養補助食品として1袋を冷水・お湯・牛乳(約100cc)などに溶かして」食するものであることが記載されている。
そうすると、甲6には以下の発明が記載されているものと認められる。
「還元麦芽糖、難消化性デキストリン、大麦若葉粉末、抹茶末、黒糖粉末、熊笹粉末、イソマルトオリゴ糖、スピルリナ末、澱粉、ローヤルゼリー、サンゴカルシウム、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、ヒアルロン酸、葉酸を原材料とする固形栄養補助食品。」(以下、「甲6発明」という。)

エ 甲7に記載された発明
甲7の第1、3頁(摘記7-1?7-3)には、「ヤクルト 青汁のめぐり 225g(7.5g×30袋)」という商品が、アマゾンジャパン合同会社の運営するAmazon.co.jpウェブサイトで2008年1月19日に取り扱い開始された商品であり、その原材料が「大麦若葉末、マルチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン(食物繊維)、明日葉末、抹茶、煎茶、酵素処理ルチン」であること、及び「粉末」タイプの「『高機能』青汁」であることが記載されている。
そうすると、甲7には以下の発明が記載されているものと認められる。
「大麦若葉末、マルチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン(食物繊維)、明日葉末、抹茶、煎茶、酵素処理ルチンを原材料とする粉末青汁。」(以下、「甲7発明」という。)

(3)甲4を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲4発明との対比
本件発明と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「茶葉・・・を微粉砕して得られる葉の粉末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点3:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲4発明においては粉末食品の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点3について
(ア)牧草臭マスキング剤と粉末食品について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲4発明の粉末食品は「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」以外の原材料を含有する。よって、相違点3は実質的な相違点であるといえる。

(イ)甲4発明の課題及び解決手段について
甲4の[0004]?[0005](摘記4-2)には、「従来の抹茶や桑の葉、大麦若葉の粉末は、液体に溶かした時にダマができてしまい、それが表面に浮いて飲みにくく、また味に関しても、青汁では青臭さがきわだち飲みにくくなっていた」こと、及び甲4発明は「茶葉、桑の葉、桑の葉(当審注:「大麦若葉」の誤記と認められる。)の全てを比較的多量に使用できるのに加えて、粉末が液体に分散しやすくて飲みやすく、風味や色調も好適な粉末食品・・・を提供することを目的としたものである」ことが記載されているから、抹茶、桑の葉及び大麦若葉の粉末の三成分だけでは「青臭さがきわだち飲みにくくなっていた」という課題を解決できなかったと解することができる。
また、甲4の[0006](摘記4-2)には、甲4発明が、上記課題を解決するためにさらに「黒砂糖を微粉砕して得られる黒砂糖粉末と、蜂蜜を澱粉と混合して乾燥させ、微粉砕して得られる蜂蜜粉末と、グラニュ糖と」を混合したものであることが記載されているから、「風味や色調も好適な粉末食品」が得られたのは、黒砂糖粉末、蜂蜜粉末及びグラニュ糖を混合したことによる効果であり、茶葉による効果ではないと解することができる。
さらに、甲4発明に含まれる葉の粉末は、茶葉及び大麦若葉だけでなく、桑の葉も混合されているから、「風味や色調も好適な粉末食品」が得られたといっても、それが「大麦若葉」に由来する風味が改善したことを意味するのかは明らかではない。
そうすると、甲4の上記記載から、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(ウ)カテキンの作用について
甲4の[0008](摘記4-3)には、「抹茶に含まれるカテキンは、抗酸化作用、抗ガン作用、血中コレステロール上昇抑制作用、殺菌消臭作用など様々な作用が得られ」るものであることが記載されているが、「大麦若葉粉末」の「牧草臭」を消臭する効果が得られることまでは記載されていないし、実際、[0004]?[0005](摘記4-2)の記載を参酌すると、抹茶では「青臭さがきわだち飲みにくくなっていた」という課題を解決できないと認識されていたものと解される。
そうすると、甲4の上記記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(エ)甲2及び甲3について
甲2の[0002](摘記2-1)には、牛肉に関して、「輸入品には独特の土臭さ、牧草臭(草臭さ、又はグラス臭と評されることもある。)が感じられ」ることが記載されているが、大麦若葉の牧草臭及びそのマスキング剤については記載も示唆もされていないから、甲2の記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。
また、上記2.「理由3(新規性、甲第3号証を主引用例とする場合)及び理由4(進歩性、甲第3号証を主引用例とする場合)について」における検討を踏まえると、甲3の記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(オ)甲8について
甲8の請求項2(摘記8-1)には、「コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化してこれを主材料とすると同時に可食性消臭材料を混合してなるカルシウム剤」が記載されており、[0007]?[0010](摘記8-2)には、コウイカの骨又は甲羅の「粉末には特有の臭気があって、それが摂取に大きな抵抗となる」こと、及び「緑茶の粉末を混合」すると「消臭効果を認めることができた」ことが記載されている。
しかし、甲8には、「緑茶の粉末」が大麦若葉の牧草臭を消臭ないしマスキングすることについては記載も示唆もされていないから、甲8の記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(カ)甲9について
甲9の請求項1(摘記9-1)には、「0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末30?70重量%に、粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%を加え、さらに10mm以下の竹炭短片5?20重量%を加えて調合混合し、脱臭消臭の複合効果を高めた脱臭消臭材」が記載されており、[0001]?[0002](摘記9-2)には、「含有主成分のカテキン類によって脱臭消臭効果の機能を持つ緑茶及び緑茶粉末を主材料にし」たこと、及び「家庭、事業所などで異臭を発する排出ごみ、冷蔵庫、食器棚、押入れ、下駄箱、トイレなど、また自動車内などの異臭を防止することが出来る」ことが記載されている。
しかし、甲9には、「緑茶及び緑茶粉末」が大麦若葉の牧草臭を脱臭消臭ないしマスキングすることについては記載も示唆もされていないから、甲9の記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(キ)相違点3についての判断(進歩性について)
甲4には、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることは記載されているとはいえないし、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であると理解することはできないから、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲4発明における「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」を上記相違点3に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。
よって、甲4発明の粉末食品並びに甲4、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて、「茶葉を微粉砕して得られる葉の粉末」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点3に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲4、甲2、甲3、甲8及び甲9から予測することができないものといえる。

エ 甲4を主引用例とする場合のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲4発明並びに甲4、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)甲5を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲5発明との対比
本件発明と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「茶粉末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点4:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲5発明においては健康食品の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点4について
(ア)牧草臭マスキング剤と健康食品について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲5発明の健康食品は「茶粉末」以外の原材料を含有する。よって、相違点4は実質的な相違点であるといえる。

(イ)甲5発明の課題及び解決手段について
甲5の[0005]?[0006](摘記5-2)には、甲5発明の目的の一つが「美味しく摂取できることによって積極的に長期間摂取することができ、それによりさらなる上述の事項の改善効果を図れる健康食品を提供することにある」こと、及び当該課題が「種々の栄養成分を豊富に含む緑葉末に対して、茶粉末及び黒糖類を組み合わせること」により解決されることが記載されている。
ここで、甲5発明に含まれる「緑葉末」は、「大麦、ヨモギ、アシタバ、クワ、及びモロヘイヤからなる5種の緑葉末の乾燥粉砕末の組合せ」であるから、「美味しく摂取できる」といっても、それが「大麦」に由来する風味が改善したことを意味するのかは明らかではない。
また、甲5発明においては、緑葉末に対して「茶粉末及び黒糖類を組み合わせる」ことにより上記課題が解決されることが記載されているから、「茶粉末」だけで「美味しく摂取できる」という効果が得られるのかは明らかではない。
さらに、甲5の[0009](摘記5-3)には、「特に特定の5種の緑葉末に対して、茶粉末及び黒糖類を組み合わせることにより、抹茶風味で上品な甘みを有する食品となるため、嗜好性が向上した健康食品となる。すなわち本発明により、美味しく摂取できる健康食品に仕上がることから、老若男女を問わず、長期間、継続して摂取可能な健康食品を提供することができるという効果が得られる」ことが記載されているが、上記の検討を踏まえると、甲5発明の健康食品が「嗜好性が向上した」ものであり、「美味しく摂取できる」ものであり、「老若男女を問わず、長期間、継続して摂取可能な」ものであるといっても、それによって「茶粉末」だけで「大麦」に由来する風味を改善し得ると理解することはできはない。
そうすると、甲5の上記記載から、甲5発明における「茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(ウ)茶粉末の効果について
甲5の[0017](摘記5-4)には、「本発明の健康食品を構成する茶粉末として、煎茶粉末や抹茶を用いることができる。これらは、健康食品に茶の風味を付与して嗜好性を向上させることができるとともに、茶粉末はカテキン類を主とする豊富なポリフェノールを含有するため、健康増進にも寄与する」ことが記載されている。
しかし、「茶の風味を付与して嗜好性を向上させることができる」といっても、「大麦」に由来する臭いがマスキングされているのかは明らかではない。
また、[0025]?[0027]の表1(摘記5-5)には、甲5発明の実施例及び比較例に相当する大麦若葉加工食品を調製し、得られた各大麦若葉加工食品3gを、それぞれ100mLの水に懸濁したものを試料として調製し、嗜好性について評価したこと及びその評価結果が記載されているが、評価基準は、
「美味しく飲用できる・・・・・・・・・・・・・・5点
違和感なく飲むことができる・・・・・・・・・・4点
違和感はあるが試料全部を飲むことができる・・・3点
試料全部を飲み干すことができない・・・・・・・2点
試料を殆ど飲むことができない・・・・・・・・・1点」
であり、「臭い」の要素は分けて採点されていないから、表1の評価結果を参照しても、甲5発明の「臭い」についての効果を理解することはできない。
そうすると、甲5の上記記載から、甲5発明における「茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(エ)甲2、甲3、甲8及び甲9について
上記3.(3)イ(エ)「甲2及び甲3について」?同(カ)「甲9について」における検討を踏まえると、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲5発明における「茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(オ)相違点4についての判断(進歩性について)
甲5には、甲5発明における「茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることは記載されているとはいえないし、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、「茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であると理解することはできないから、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲5発明における「茶粉末」を上記相違点4に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。
よって、甲5発明の健康食品並びに甲5、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて、「茶粉末」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点4に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲5、甲2、甲3、甲8及び甲9から予測することができないものといえる。

エ 甲5を主引用例とする場合のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲5に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲5発明並びに甲5、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(5)甲6を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲6発明との対比
本件発明と甲6発明とを対比すると、甲6発明における「抹茶末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点5:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲6発明においては固形栄養補助食品の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点5について
(ア)牧草臭マスキング剤と固形栄養補助食品について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲6発明の固形栄養補助食品は抹茶末以外の原材料を含有する。よって、相違点5は実質的な相違点であるといえる。

(イ)抹茶末について
甲6の第1頁商品説明欄(摘記6-2)には、「大麦若葉を主原料に熊笹、ローヤルゼリー、ヒアルロン酸をバランスよく配合しました」、「毎日飲むものだから、さらっとしたおいしい口あたりに仕上げました」、及び「抹茶と黒糖を配合しおいしさにもこだわりました」と記載されている。
しかし、「大麦若葉を主原料に」しており、かつ「さらっとしたおいしい口あたりに仕上げ」られており、「おいしさにもこだわ」ったと記載されていても、固形栄養補助食品の臭いは明らかではない。
また、「大麦若葉を主原料に」しているといっても、甲6発明には「熊笹粉末」等の他の成分も配合されているから、「さらっとしたおいしい口あたりに仕上げ」られ、「おいしさにもこだわ」ったものであるといっても、それが「大麦若葉」に由来する風味が改善したことを意味するのかは明らかではない。
さらに、甲6発明においては、「抹茶末」だけでなく、「抹茶と黒糖を配合しおいしさにもこだわった」こと、及び「ローヤルゼリー、ヒアルロン酸をバランスよく配合」したことが記載されるとともに、上記以外にも「還元麦芽糖、難消化性デキストリン、・・・イソマルトオリゴ糖、スピルリナ末、澱粉、・・・サンゴカルシウム、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、・・・葉酸」を原材料として含むものであるから、「抹茶末」だけで「さらっとしたおいしい口あたりに仕上げ」られ、「おいしさにもこだわ」ったものとすることができるのかは明らかではない。
そうすると、甲6の上記記載から、甲6発明における「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(ウ)カスタマーレビューについて
甲6の第4頁「カスタマーレビュー」欄(摘記6-5)には、「美味しい」、「青汁のイメージが変わりました。飲みやすく、健康になったかも?」及び「野菜不足を感じる体には手軽に補えるものです」と記載されているが、「美味しい」、「青汁のイメージが変わりました」、「飲みやすく」及び「手軽に補える」等のいずれのコメントからも、甲6発明の固形栄養補助食品の臭いは明らかではない。
そうすると、甲6の上記記載を参酌しても、甲6発明における「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(エ)甲2、甲3、甲8及び甲9について
上記3.(4)イ(エ)「甲2、甲3、甲8及び甲9について」における検討を踏まえると、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲6発明における「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(オ)相違点5についての判断(進歩性について)
甲6には、甲6発明における「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることは記載されているとはいえないし、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であると理解することはできないから、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲6発明における「抹茶末」を上記相違点5に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。
よって、甲6発明の固形栄養補助食品並びに甲6、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて、「抹茶末」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点5に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲6、甲2、甲3、甲8及び甲9から予測することができないものといえる。

エ 甲6を主引用例とする場合のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲6に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲6発明並びに甲6、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(6)甲7を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲7発明との対比
本件発明と甲7発明とを対比すると、甲7発明における「抹茶」及び「煎茶」は、甲7発明が「粉末青汁」であることを参酌するといずれも粉末であり、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点6:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲7発明においては粉末青汁の成分である点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点6について
(ア)牧草臭マスキング剤と粉末青汁について(新規性について)
本件発明の牧草臭マスキング剤は、「緑茶粉砕物又は抹茶からなる」ものであるから、緑茶粉砕物又は抹茶以外の成分を含有しないものと解される。これに対し、甲7発明の粉末青汁は抹茶及び煎茶以外の原材料を含有する。よって、相違点6は実質的な相違点であるといえる。

(イ)商品の説明について
甲7の第1頁商品説明欄(摘記7-2)及び第3頁の商品紹介欄(摘記7-4)には、甲7発明が「厳選された素材と製法を用い、上質な『栄養素』とカラダのすみずみまでいきわたる『吸収力』にこだわって開発された、『高機能』青汁」であること、及び「良質な大麦若葉の栄養素や色をそのまま閉じ込める製法と、『ヤクルトのオリゴ糖』により、青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げ」たものであることが記載されている。
しかし、「大麦若葉の栄養素や色をそのまま閉じ込め」ており、かつ「青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げ」られた、「『高機能』青汁」であると記載されていても、その臭いは明らかではない。
また、「大麦若葉末」を含有しているといっても、甲7発明には「マルチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン(食物繊維)、明日葉末、・・・酵素処理ルチン」等の他の成分も配合されているから、「青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げ」られているといっても、それが「大麦若葉末」に由来する風味が改善したことを意味するのかは明らかではない。
さらに、甲7発明においては、「抹茶」及び「煎茶」だけでなく、「ヤクルトのオリゴ糖(ガラクトオリゴ糖)」により、「青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げ」たことが記載されるとともに、上記以外にも「マルチトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトマンナン(食物繊維)、明日葉末、・・・酵素処理ルチン」を原材料として含むものであるから、「抹茶」及び「煎茶」だけで「青汁が苦手な方にも飲みやすい、後味のすっきりした飲み続けやすいおいしさに仕上げ」られるのかは明らかではない。
そうすると、甲7の上記記載から、甲7発明における「抹茶」及び「煎茶」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(ウ)カスタマーレビューについて
甲7の第5?6頁「カスタマーレビュー」欄(摘記7-5)には、「美味しいです」、「味は全然苦くなく、クセもなく、私には味もあまり感じません。香りは結構青臭いですが味は青臭さはないです」、「飲みやすいです」、「この青汁は青臭さが少なくてとても飲みやすいです」及び「飲みやすいので続ています」と記載されているが、「香りは結構青臭いですが味は青臭さはないです」というコメントからみて、甲7発明の粉末青汁は香りが「青臭い」ものであると解することができ、「美味しい」、「全然苦くなく、クセもなく」、「飲みやすい」等のコメントもこれと矛盾するものではない。また、「この青汁は青臭さが少なくてとても飲みやすいです」というコメントは、味の青臭さについてのコメントであると解することができる。
そうすると、甲7の上記記載を参酌しても、甲7発明における「抹茶」及び「煎茶」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(エ)甲2、甲3、甲8及び甲9について
上記3.(4)イ(エ)「甲2、甲3、甲8及び甲9について」における検討を踏まえると、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲7発明における「抹茶末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえない。

(オ)相違点6についての判断(進歩性について)
甲7には、甲7発明における「抹茶」及び「煎茶」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることは記載されているとはいえないし、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、「抹茶」及び「煎茶」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であると理解することはできないから、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載を参酌しても、甲7発明における「抹茶」及び「煎茶」を上記相違点6に係る大麦若葉由来の牧草臭のマスキング剤とすることが動機付けられるものではない。
よって、甲7発明の粉末青汁並びに甲7、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて、「抹茶」及び「煎茶」を「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点6に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲7、甲2、甲3、甲8及び甲9から予測することができないものといえる。

エ 甲7を主引用例とする場合のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲7発明並びに甲7、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(7)理由5(新規性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)及び理由6(進歩性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲4、甲5、甲6及び甲7のいずれに記載された発明でもないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明は甲4発明、甲5発明、甲6発明又は甲7発明並びに甲4?甲7、甲2、甲3、甲8及び甲9に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由5(新規性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)及び理由6(進歩性、甲第4?7号証を主引用例とする場合)によって、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

4.理由7(進歩性、甲第8、9号証を主引用例とする場合)について
(1)甲号証及びその記載事項
(i)甲8、甲9の記載事項については、上記3.(1)「甲号証及びその記載事項」の(v)及び(vi)を参照。

(ii)甲10(特開2009-165439号公報)には、以下の事項が記載されている。
(10-1)「[発明が解決しようとする課題]
[0004]
したがって、本発明は、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
[0005]
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、製造方法において、金属イオンを添加し、pHを特定範囲に調整し、かつ直接殺菌の3つのポイントを組み合わせることにより、常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させ、食味を改善した容器詰青汁飲料が得られるという特有の顕著な効果を見出し、本発明を完成した。」

(10-2)「[0008]
1.青汁
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法における青汁とは、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケールなどの緑葉野菜である。好ましくは大麦若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケール、最も好ましくは大麦若葉である。これらのうちの1種又は複数を組み合わせて使用してもよい。」

(10-3)「[0009]
2.金属イオン
本発明の容器詰青汁飲料及びその製造方法においては、金属イオンを添加することを特徴とする。金属イオンを添加することにより、青汁特有の鮮やかな緑色を保持することが可能となる。
金属イオンとは、二価の金属陽イオンを用いることができ、銅イオン、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン及びマンガンイオンから選択され、いずれを単独で、または組み合わせて添加してもよい。緑色保持の観点から、銅イオン及び亜鉛イオンが好ましく、とりわけ銅イオンが光を照射した場合であっても最も効果的に緑色を保持し、好ましい。これらの金属イオンはグルコン酸塩、硫酸塩、クエン酸塩等の水溶性塩の形態で添加することが好ましく、例えばグルコン酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等の亜鉛塩類、グルコン酸銅等の銅塩類を使用することが好ましい。」

(10-4)「[0019]
(実施例2)
殺菌方法の比較
水6000gに実施例1の大麦若葉粉末を1.2重量%の割合で添加し、その後グルコン酸亜鉛を50ppm添加してpHを炭酸水素ナトリウムにて6.8に調整し、サンプルを作製した。
一方のサンプルをテトラパック社製直接加熱兼用加熱殺菌機(VTIS 100)にて140℃、30秒間直接殺菌し、もう一方のサンプルを同機械にて140℃、30秒間間接殺菌した。その後5℃で4週間にわたって糖度(Bx)及び色調(L,a,b)の経時変化を観察した。4週間後のサンプルのみ外観及び官能評価を行った。外観及び官能評価は20人のパネラーが以下の評価方法に基づいて評価し、最も多かった評価を記載した。結果を以下に示す。
・・・
[0022]
この結果、直接殺菌処理したサンプルは、いずれも-a/bが0.7を越えており、間接殺菌したサンプルと比較して、1ヶ月経過した後でも鮮やかな緑色の外観を維持していた。また、青汁特有の異臭である「わら臭」が抑えられていた一方で、「うま味」は残っており、全体としての評価が良かった。以上の結果より、容器詰青汁飲料の殺菌には直接殺菌が適していることが分かった。」

(iii)甲11(特開2014-155437号公報)には、以下の事項が記載されている。
(11-1)「[発明が解決しようとする課題]
[0008]
本発明は、青汁独特の臭みを抑えることにより、青汁の摂取経験が少ない一般消費者も美味しく飲用することができるようにしながらも、青汁ヘビーユーザーである消費者もいわゆる青汁感を感じることができるという、一見相反する要請を満たすための緑色系飲料の青汁感向上剤及びこれを含有する容器詰飲料、並びに緑色系飲料における青汁感の向上方法を提供することを目的とする。
[課題を解決するための手段]
[0009]
上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明者らは、一般消費者も飲用できるよう調整した青汁等の緑色系飲料にブロッコリー粉末を添加することにより、青汁由来の臭みを抑えて飲みやすさを維持しながらも、ヘビーユーザーにとっても青汁らしさを感じることができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(11-2)「[0013]
(クロロフィル含有植物)
本発明におけるクロロフィル含有植物とは、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツなどの、主に緑葉を可食部とする野菜をいい、好ましくは大麦若葉、ホウレンソウ、モロヘイヤ、メキャベツ、ケール、最も好ましくは大麦若葉及び/又はケールが挙げられる。本発明におけるクロロフィル含有植物としては、これらの植物のうち1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。」

(11-3)「[実施例]
[0033]
(試験例1:異なる野菜種よる緑色系飲料組成物における青汁感向上効果の相違)
大麦若葉粉末を0.9質量%、ケール粉末を0.02質量%、豆乳を1.9質量%、グラニュー糖を2.7質量%となるように蒸留水を加えて100mLの緑色系飲料組成物を調製した。
次に、緑色系飲料組成物の青汁感を付与する効果が野菜粉末の種類により異なるか調べるため、ブロッコリー粉末、 ダイコン葉粉末、ゴーヤ粉末、小松菜粉末、パセリ粉末、ほうれん草粉末、セロリ粉末、 モロヘイヤ粉末、明日葉粉末、ごぼう粉末、ケール粉末(モロヘイヤ粉末はこだま社製、それ以外は日本粉末薬品社製)をそれぞれ緑色系飲料組成物に添加して官能評価のためのサンプルを調製した。
これらのサンプルについて、10人のパネラーが以下の評価方法に基づいて評価し、最も多かった評価及びコメントの結果を表1に示す。・・・
・・・
[0035]
(考察)
表1が示すとおり、ブロッコリーには極めて優れた緑色系飲料の青汁感向上効果が確認された(サンプル1)。また、ダイコン葉についても優れた緑色系飲料の青汁感向上効果が確認された(サンプル2)。この結果は、同じくアブラナ科に属するケールとは極めて対照的な結果であり(サンプル11)、アブラナ科に属する植物であれば同様の効果を必ず奏するものではないことが明らかとなった。
また、ゴーヤ(サンプル3)、小松菜(サンプル4)、パセリ(サンプル5)、ホウレンソウ(サンプル6)、セロリ(サンプル7)については、緑色系飲料の青汁感向上効果が一定程度において確認されたが、ブロッコリーやダイコン葉との比較においては顕著なものとは言えるものではなかった。
さらに、モロヘイヤ(サンプル8)、明日葉(サンプル9)、ゴボウ(サンプル10)、ケール(サンプル11)については、緑色系飲料の青汁感向上効果が殆んど又は全く確認できない上に、総合評価においても極めて評価が低かった。」

(2)甲号証に記載された発明
ア 甲8に記載された発明
甲8には、その請求項2を引用する請求項4(摘記8-1)に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化してこれを主材料とすると同時に、緑茶粉末である可食性消臭材料を混合してなるカルシウム剤。」(以下、「甲8発明」という。)

イ 甲9に記載された発明
甲9には、その請求項1(摘記9-1)に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末30?70重量%に、粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%を加え、さらに10mm以下の竹炭短片5?20重量%を加えて調合混合し、脱臭消臭の複合効果を高めた脱臭消臭材。」(以下、「甲5発明」という。)

(3)甲8を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲8発明との対比
本件発明と甲8発明とを対比すると、甲8発明における「緑茶粉末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点7:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲8発明においては「カルシウム剤」の成分である「可食性消臭材料」である点
相違点8:甲8発明は「コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化してこれを主材料とする」のに対し、本件発明は「緑茶粉砕物又は抹茶」からなる点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点8について
事案に鑑みて、まず相違点8について検討する
(ア)甲8発明の課題解決手段について
甲8の[0001]および[0008](摘記8-2)には、甲8発明が「人間を始めとする生物全般に必要なカルシウム等を吸収・利用し易い形で提供するもの」であることが記載されるとともに、相違点8に係る「コウイカの骨又は甲羅・・・を分級平均値に於いて粒径70μ以下に微粉化し」たものは、「カルシウム不足からくる疾患者に少量ずつ与えたところ、比較的短期間において目覚ましい病状の改善がみられた。又、一見カルシウム不足とは関係のなさそうな慢性病等が著しく好転する例も生じた」という成分であることが記載されているから、甲8発明において必須の成分であることが明らかである。
また、甲8の[0008]?[0010](摘記8-2)には、上記相違点8に係る「コウイカの骨又は甲羅・・・を分級平均値に於いて粒径70μ以下に微粉化し」たものには「特有の臭気があって、それが摂取に大きな抵抗となること」から「これに無害な可食性の消臭材料を配合して初めて実用的なカルシウム剤となりうる」こと、及び「緑茶の粉末を混合しても、・・・消臭効果を認めることができた」ことが記載されているから、甲8発明における緑茶粉末は、相違点8に係る「コウイカの骨又は甲羅・・・を分級平均値に於いて粒径70μ以下に微粉化し」た主材料の特有の臭気を消臭するために、当該主材料と組み合わせて用いられる成分であると理解することができる。
そして、上記3.(3)イ(オ)「甲8について」における検討を踏まえると、甲8の他の記載を参酌しても、甲8発明において、甲8発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点8に係る主材料を変更したり除去したりすることは記載も示唆もされていない。

(イ)甲2、甲6及び甲7について
上記3.(3)イ(エ)「甲2及び甲3について」、同(5)「甲6を主引用例とする場合について」及び同(6)「甲7を主引用例とする場合について」における検討を踏まえると、甲2、甲6及び甲7の記載を参酌しても、甲8発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点8に係る主材料を変更したり除去したりすることについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

(ウ)甲10について
甲10の[0004]?[0005](摘記10-1)には、甲10に記載された発明の目的が「常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させた容器詰青汁飲料を提供すること」にあること、及びその解決手段が「製造方法において、金属イオンを添加し、pHを特定範囲に調整し、かつ直接殺菌の3つのポイントを組み合わせること」であり、それにより「常温で流通させても鮮やかな緑色を保持しており、かつ青汁特有の異臭を低減させ、食味を改善した容器詰青汁飲料が得られるという特有の顕著な効果を見出し」たことが記載されているから、甲10に記載された発明の課題及び解決手段は甲8発明の課題及び解決手段とは相違するものである。
また、甲10の他の記載(摘記10-2?10-4等)を参照しても、甲10の課題とする「青汁特有の異臭を低減」させる手段が「緑茶粉末」であることは記載されていないし、まして、「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることも、記載も示唆もされていない。
よって、甲10の記載を参酌しても、甲8発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点8に係る主材料を変更したり除去したりすることについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

(エ)甲11について
甲11の[0008]?[0009](摘記11-1)には、甲11に記載された発明の目的が「青汁独特の臭みを抑えることにより、青汁の摂取経験が少ない一般消費者も美味しく飲用することができるようにしながらも、青汁ヘビーユーザーである消費者もいわゆる青汁感を感じることができるという、一見相反する要請を満たすための緑色系飲料の青汁感向上剤及びこれを含有する容器詰飲料、並びに緑色系飲料における青汁感の向上方法を提供する」にあること、及びその解決手段が「一般消費者も飲用できるよう調整した青汁等の緑色系飲料にブロッコリー粉末を添加すること」であり、それにより「青汁由来の臭みを抑えて飲みやすさを維持しながらも、ヘビーユーザーにとっても青汁らしさを感じることができることを見出し」たことが記載されているから、甲11に記載された発明の課題及び解決手段は甲8発明の課題及び解決手段とは相違するものである。
また、甲11の他の記載(摘記11-2?11-4等)を参照しても、甲11の課題とする「青汁独特の臭みを抑える」手段が「緑茶粉末」であることは記載されていないし、まして、「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であることも、記載も示唆もされていない。
よって、甲11の記載を参酌しても、甲8発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点8に係る主材料を変更したり除去したりすることについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

(オ)相違点8についての判断
甲8には、甲8発明における主材料である「コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化」したものをカルシウム剤の成分から除外することは記載も示唆もされていないし、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11の記載を参酌しても、甲8発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとは認識できないし、甲8発明における上記主材料をカルシウム剤の成分から除外することについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点7及び8に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲8、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11から予測することができないものといえる。

エ 甲8を主引用例とする場合のまとめ
以上のことから、相違点7について検討するまでもなく、本件発明は甲8発明並びに甲8、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)甲9を主引用例とする場合について
ア 本件発明と甲9発明との対比
本件発明と甲9発明とを対比すると、甲9発明における「0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末」は、本件発明における「緑茶粉砕物又は抹茶」に相当するから、両者は、
「緑茶粉砕物又は抹茶」の点で一致し、
相違点9:「緑茶粉砕物又は抹茶」が、本件発明においては「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるのに対し、甲4発明においては「脱臭消臭材」の成分である点
相違点10:甲9発明は「粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%を加え、さらに10mm以下の竹炭短片5?20重量%を加えて調合混合し、脱臭消臭の複合効果を高めた」ものであるのに対し、本件発明は「緑茶粉砕物又は抹茶」からなる点
で相違する。そこで、上記相違点について検討する。

イ 相違点10について
事案に鑑みて、まず相違点10について検討する
(ア)甲9発明の課題解決手段について
甲9の[0005](摘記9-3)には、甲9発明の目的が「天然鉱物のゼオライト及び木炭や竹炭は、各自の持つ特性は優れているものの、単独での脱臭消臭の開発製品が少ない」ことから、「天然鉱物のゼオライト及び竹炭の優れた特性を生かすため、この二者を脱臭消臭の補助材として活用」することにあることが記載されている。
また、甲9の[0001]?[0002](摘記9-2)には、甲9発明が「今日的課題の環境浄化の重要項目である異臭防止に、含有主成分のカテキン類によって脱臭消臭効果の機能を持つ緑茶及び緑茶粉末を主材料にして、イオン交換機能によりアンモニアやチッソの吸着特性が大きい鉱物ゼオライトの粉粒を加え、さらに脱臭消臭効果が大きい竹炭短片を加えて調合混合し、三種材料により脱臭消臭能力の相乗効果を高め、脱臭消臭機能の大幅な向上を図ったものである」ことが記載されているから、相違点10に係る「粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%」及び「10mm以下の竹炭短片5?20重量%」は、いずれも甲9発明において必須の成分であることが明らかである。
また、上記3.(3)イ(カ)「甲9について」における検討を踏まえると、甲9の他の記載を参酌しても、甲9発明において、甲9発明における「0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点10に係る補助材を変更したり除去したりすることは記載も示唆もされていない。

(イ)甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11について
上記4.(3)イ(イ)「甲2、甲6及び甲7について」?同(エ)「甲11について」における検討を踏まえると、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11の記載を参酌しても、甲9発明における「0・105mm?10mmの緑茶及び緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとはいえないし、まして、相違点10に係る補助材を変更したり除去したりすることについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

(ウ)相違点10についての判断
甲9には、甲9発明における副材料である「粒径0.5?4mmの天然鉱物ゼオライト10?40重量%」及び「10mm以下の竹炭短片5?20重量%」を脱臭消臭材の成分から除外することは記載も示唆もされていないし、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11の記載を参酌しても、甲9発明における「緑茶粉末」が「大麦若葉粉末」の「牧草臭」をマスキングする成分であるとは認識できないし、甲9発明における上記補助材を脱臭消臭材の成分から除外することについて当業者が容易に想到し得るものとも認められない。

ウ 本件発明の効果について
本件発明は相違点9及び10に係る発明特定事項を備えることにより、「原料に由来するいわゆる牧草臭をマスキングした飲食物が提供できる」(本件明細書の[0011])という効果を奏するものであり、当該効果は甲9、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11から予測することができないものといえる。

エ 甲9を主引用例とする場合のまとめ
以上のことから、相違点9について検討するまでもなく、本件発明は甲9発明並びに甲9、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(5)理由7(進歩性、甲第8、9号証を主引用例とする場合)のまとめ
以上のとおり、本件発明は甲8発明又は甲9発明並びに甲8、甲9、甲2、甲6、甲7、甲10及び甲11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載された理由7(進歩性、甲第8、9号証を主引用例とする場合)によって、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

5.理由8(実施可能要件、サポート要件、明確性)について
(1)理由8-1(実施可能要件)について
ア マスキングについて
本件発明は「緑茶粉砕物又は抹茶から成る牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」であるところ、本件明細書の[0013]には、「マスキング」について「不快な臭いを包み隠す方法を指す。なお、マスキングの程度には、不快な臭いを完全に包み隠す場合を含むのは勿論のこと、不快な臭いが許容範囲内に収まる場合についても含まれる」ことであると記載され、「かかるマスキング作用を期待して添加するものをマスキング剤と呼ぶ」ことも記載されている。
また、「牧草臭」については、本件明細書の[0012]に「青草の臭い」等の一般的な説明が記載されているが、本件発明においては「牧草臭が大麦若葉由来である」ことが特定されているから、本件発明は、本件明細書の[0015]等に記載されるように「大麦若葉・・・に由来する臭気に対して好適にマスキング作用を奏する」ものであると理解することができる。

イ 緑茶粉砕物又は抹茶について
本件発明は「緑茶粉砕物又は抹茶から成る」ことが特定されているところ、当該「緑茶粉砕物又は抹茶」については、本件明細書の[0017]に具体的に記載されており、一般的に入手又は製造可能なものと理解することができる。

ウ 実施例について
(ア)試験1-1について
本件明細書の[0026]?[0029]の試験1-1には、「摘採した大麦若葉(九州産)を乾燥し、得られた乾燥大麦若葉をジェットミルでもって粉砕して大麦若葉粉末を得た。得られた大麦若葉粉末を表1に記載のとおりの所定量となるように常温水に配合し、さらに表1に記載があるものについては当該原料を所定量となるように配合した」ことが記載され、[0028]の表1を参照すると、実施例1においては抹茶、実施例2においては緑茶粉末がそれぞれ配合されたことが読み取れる。
また、[0027]には、「表1に記載に基づき調製したサンプルについて、専門家4人による官能評価を実施した」こと、及びその評価基準が記載されているところ、[0028]の表1を参照すると、実施例1及び2は、いずれも「牧草臭の強さ」の評価が「2:牧草臭をほとんど感じない、本件課題を解決している。」であったことが読み取れる。

(イ)試験3について
本件明細書の[0033]?[0036]の試験3には、「大麦若葉粉末と緑茶粉末の配合量を変化させることにより、当該効果の現れ方に変化があるかを調べた」ことが記載され、[0034]の[表3]には大麦若葉粉末と緑茶粉末の配合量を変化させた実施例3?実施例11の配合量等が記載され、[0035]の[表4]には大麦若葉と抹茶の配合量を変化させた実施例12?20の配合量等が記載されている。
また、[0033]には、「官能評価は、試験1で実施したのと同様のものであ」ること、及び官能評価の評価基準が記載されているところ、[0034]の[表3]及び[0035]の[表4]を参照すると、実施例3?8、10?17、19及び20については、「2:牧草臭をほとんど感じない、本件課題を解決している。」又は「1:参考例と比較して牧草臭がやや弱く感じられ、本件課題を解決している。」という評価であったことが読み取れる。
また、実施例9及び18については、「0:参考例と同等の牧草臭であり、本件課題を解決していない。」という評価であったこと、及び緑茶粉末又は抹茶の配合量が他の実施例よりも少なかったことが読み取れる。

実施可能要件の判断
本件明細書に記載された試験1-1及び試験3における「牧草臭の評価」は、本件明細書の[0013]及び[0015]等に記載された「大麦若葉・・・に由来する臭気に対して好適にマスキング作用を奏する」か否かの評価に相当するものと理解することができ、また、大麦若葉粉末と緑茶粉末又は抹茶を組み合わせた実施例1?8、10?17、19及び20において、「2:牧草臭をほとんど感じない、本件課題を解決している。」又は「1:参考例と比較して牧草臭がやや弱く感じられ、本件課題を解決している。」という評価が得られていることから、当業者は一般的に入手又は製造することが可能な緑茶粉末又は抹茶について、大麦若葉粉末を含有する飲料に対して適量を用いれば、「牧草臭マスキング剤であって、牧草臭が大麦若葉由来である、牧草臭マスキング剤」として使用することができるものであることを理解することができる。
また、実施例9及び18の実験データを参酌することにより、当業者は緑茶粉末又は抹茶を牧草臭マスキング剤として使用するためには、大麦若葉に対する配合量を適宜調整すればよいことも理解することができる。
そうすると、本件明細書は、本件発明に相当する牧草臭マスキング剤を当業者が製造することができ、かつ使用することができるように記載されているということができる。

オ 理由8-1(実施可能要件)のまとめ
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(2)理由8-2(サポート要件)について
ア 本件発明の課題について
本件明細書の[0002]?[0007]等の記載及び本件発明の発明特定事項を参酌すると、本件発明は「大麦若葉に由来するいわゆる牧草臭をマスキングする牧草臭マスキング剤を提供する」ことを課題とするものと解される。

イ 本件明細書の記載について
本件明細書には、上記5.(1)ア「マスキングについて」?同ウ「実施例について」に記載したとおりの事項が記載されている。

ウ サポート要件の判断
本件明細書に記載された試験1-1及び試験3における「牧草臭の評価」は、本件発明の課題が解決されるか否かの評価に相当するものと理解することができ、また、大麦若葉粉末と緑茶粉末又は抹茶を組み合わせた実施例1?8、10?17、19及び20において、「2:牧草臭をほとんど感じない、本件課題を解決している。」又は「1:参考例と比較して牧草臭がやや弱く感じられ、本件課題を解決している。」という評価が得られていることから、当業者は「緑茶粉末」及び「抹茶」のいずれについても、それのみによって、大麦若葉粉末を含有する飲料に対して適量を用いる場合に「大麦若葉に由来するいわゆる牧草臭をマスキングする」という課題を解決し得るものであることを理解することができる。
また、実施例9及び18の実験データを参酌することにより、当業者は「緑茶粉末又は抹茶から成る牧草臭マスキング剤」は、他の成分を併用することなく、大麦若葉に対する配合量を適宜調整するだけで上記課題を解決し得るものであることも理解することができる。
そうすると、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものであるといえる。

エ 理由8-2(サポート要件)のまとめ
よって、本件発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(3)理由8-3(明確性)について
上記5.(1)「理由8-1(実施可能要件)について」及び同(2)「理由8-2(サポート要件)について」における検討を踏まえると、本件発明の発明特定事項は、本件明細書の記載からみて明確であるといえ、また、「緑茶粉末又は抹茶」以外の成分を併用することなく「大麦若葉由来の牧草臭」をマスキングすることができるものであるから、大麦若葉と緑茶粉末又は抹茶の配合量や割合が特定されていないとしても、そのことによって本件発明が不明確になるものではない。
よって、本件発明は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであり、本件発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。

(4)理由8(実施可能要件、サポート要件、明確性)のまとめ
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、本件発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
また、本件発明は特許法第36条第6項第1号及び同第2号に規定する要件を満たすものであり、本件発明についての特許は、同法同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、特許異議申立書に記載された理由8(実施可能要件、サポート要件、明確性)によって、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-07-28 
出願番号 特願2018-20117(P2018-20117)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂井田 京清野 千秋川合 理恵  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 天野 宏樹
櫛引 智子
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6581226号(P6581226)
権利者 株式会社 伊藤園
発明の名称 緑茶を有効成分とする牧草臭マスキング剤  
代理人 宮▲崎▼ 浩充  
代理人 内藤 和彦  
代理人 田中 克郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 遠山 友寛  

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