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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
管理番号 1364950
異議申立番号 異議2019-701019  
総通号数 249 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-09-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-12 
確定日 2020-07-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6530681号発明「殺菌装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6530681号の請求項1に係る特許を取り消す。 特許第6530681号の請求項2ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6530681号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成27年9月7日の出願であって、令和1年5月24日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年6月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月12日に特許異議申立人 山内 生平(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされ、令和2年2月12日付けで取消理由が通知され、それに対し、特許権者 日機装株式会社からは何ら応答がなかったものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
入口に整流板が設けられ、前記整流板を通過した流体が第1方向に流れる処理室と、
前記処理室を挟んで前記整流板と前記第1方向に対向する面内にアレイ状に配置され、前記処理室内の流体に紫外光を照射する複数の発光素子と、
前記複数の発光素子を内部に収容する光源室と、
前記光源室の側方に設けられ、前記処理室を通過した流体が前記第1方向に流れる排出路と、を備えることを特徴とする殺菌装置。
【請求項2】
前記複数の発光素子が発する紫外光を前記第1方向に進む平行光に変換する光学素子をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の殺菌装置。
【請求項3】
前記光学素子は、前記複数の発光素子が並置される方向に延びるロッドレンズであることを特徴とする請求項2に記載の殺菌装置。
【請求項4】
前記光源室を挟んで前記処理室と反対側に設けられ、前記複数の発光素子を冷やすための冷却流路をさらに備え、
前記冷却流路は、前記排出路を介して前記処理室と連通しており、前記処理室内の流体の少なくとも一部が前記冷却流路を通って外部へ流出するよう構成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項5】
前記処理室の内面は、前記複数の発光素子が発する紫外光を反射するフッ素樹脂材料で構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の殺菌装置。
【請求項6】
前記処理室、前記光源室および前記排出路を内部に区画する筐体をさらに備え、前記筐体は、
前記処理室を区画する上流壁と、前記光源室を区画する内壁と、前記内壁との間で前記排出路を区画する下流壁と、前記上流壁と前記下流壁の間を接続する接続壁と、を有し、
前記接続壁の前記第1方向に直交する第2方向の厚さは、前記上流壁から前記下流壁に向かう方向に小さくなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の殺菌装置。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和1年12月12日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

(1)申立理由1(甲第8、10及び11号証それぞれに基づく新規性及び進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献(甲第8、10及び11号証)等に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、または該発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献(甲第1号証)等に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
本件特許発明1の課題を解決するためには、発光素子の光を平行光に変換する構成が必要であるが、本件特許の請求項1には、かかる構成が記載されておらず、発明の課題を解決するための手段が反映されているとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由4(明確性要件)
本件特許発明1の効果を得るためには、発光素子の光を平行光に変換する必要があるが、本件特許の請求項1には、そのための構成が記載されておらず、本件特許発明1の構成が明確であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(5)申立理由5(新規事項)
本件特許の請求項1は、平成31年2月8日に提出された手続補正書により補正されたものであるが、出願当初の明細書等に記載が無い内容まで含んでしまっている。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。

(6)証拠方法
甲第1号証:米国特許第6524447号明細書
甲第2号証:特開平1-284385号公報
甲第3号証:実願平2-98489号(実開平4-55353号)のマイクロフィルム
甲第4号証:米国特許出願公開第2015/0114912号明細書
甲第5号証:特開平5-72440号公報
甲第6号証:特開2014-205082号公報
甲第7号証:特開2014-61483号公報
甲第8号証:特表2016-511138号公報
甲第9号証:特開2006-346676号公報
甲第10号証:特表2009-506860号公報
甲第11号証:国際公開第2014/141269号
甲第12号証:特開2010-194415号公報
甲第13号証:特開2014-233712号公報
甲第14号証:特開2014-194918号公報
甲第15号証:特開2007-225591号公報
甲第16号証:特開2015-125003号公報
甲第17号証:特表2011-509169号公報
甲第18号証:特表2012-512723号公報
甲第19号証:特開2014-4506号公報
甲第20号証:特開2014-4507号公報
甲第21号証:特開昭63-302940号公報
なお、甲号証の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

2 取消理由の概要
令和2年2月12日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。

(進歩性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

文献:
・国際公開第2014/115146号(甲8のいわゆるファミリー文献である。)
・甲3

第4 当審の判断
1 本件特許の請求項1に係る特許について
本件特許の請求項1に係る特許について、令和2年2月12日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、取消理由によって取り消すべきものである。

2 本件特許の請求項2ないし6に係る特許について
以下に述べるとおり、申立理由1ないし5はいずれも理由がないものと判断される。

(1)申立理由1(甲8、10及び11それぞれに基づく新規性及び進歩性)について
申立理由1は、本件特許の請求項1に係る特許についてのものであるところ、上記1のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は取り消されることから、検討を要しない。

(2)申立理由2(甲1に基づく進歩性)について
上述のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は取消理由によって取り消されることになるが、本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるため、決定の便宜上、本件特許発明1に対する申立理由2の当否についても、以下判断する。申立理由3及び4についても同様である。

ア 甲1に記載された事項等
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、「Apparatus and method for photocatalytic purification and disinfection of water and ultrapure water」(訳:水及び超純水の光触媒浄化及び消毒のための装置及び方法)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、摘記に際し、原文の摘記は省略し、訳文のみを記す。

・「触媒を通る水流は有機汚染物質と触媒表面で生成される酸化種との間の混合と物質移動の割合を促進するために乱流であるべきである。層流は避けるべきである。」(第4欄第56ないし59行)

・「図1Aに、光活性化光源としてのLEDを有する反応器10の使用方法の一例を示す。汚れを含んだ原水が流入口22を通って反応器へ流れ込む。かかる原水は、LEDライト14によって光活性化された網目状半導体部18を通り抜けて流れる。支持/配線板16は、LEDライトを支持する。水晶板20は、LEDライトを水流から隔てるように設けられる。浄化された水は、流出口24を通って反応器から出て行く。反応器筺体12は、ポリプロピレンなどの種々の熱可塑性樹脂や、SUS304、SUS316といった種々の金属、LED光源による劣化に対して不活性であり、かつ、水による腐食に強い他の材料を用いて構成することができる。
反応器は、370nm以下のエネルギーを有する紫外線を発するLEDによって光活性化される網目状半導体部を用いることができる。また、反応器は、バンドギャップを可視光域へシフトさせるようにドープされた網目状半導体部を用いてもよい。この反応器には、可視光を発するLEDが用いられている。後者の構成によれば、LEDのエネルギーをより効率的に使用することができる。
反応器は、家庭内の飲料水などの精製水に対する低くて断続的な需要に限定された市場における商業化を目的として設計されている。この反応器は既存の技術よりも優れている。なぜなら、使用するエネルギーの割合が少なく、さらに、使用されていない期間は作製した水に熱を伝達しない(作製した水を使用する前にシステムを周囲温度まで下げる必要がない)からである。さらに、反応器はLEDごとに低い電力しか必要としないため、水および電気を含む環境下においてユーザにとって安全であり、かつ、反応器を携帯用途(バッテリ駆動)で使用することが可能である。」(第8欄第14ないし46行)

・「図1Bは、光活性化用ライトとして、管型のランプを有する商業的/工業的な反応器10の側面図の例を示す。図1Cは、同じ商業的/工業的な反応器10の端からみた図である。」(第8欄第47ないし50行)

・「



(イ)甲1発明
甲1に記載された事項を、FIG.1Aないし1Cに関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「光活性化光源としての紫外線を発するLEDライト14及び反応器筺体12を備える反応器10であって、流入口22から、汚れを含んだ原水が流れ込み、かかる原水は、LEDライト14によって光活性化された網目状半導体部18を通り抜けて流れ、支持/配線板16は、LEDライト14を支持し、水晶板20は、LEDライト14を水流から隔てるように設けられ、浄化された水は、流出口24を通って反応器筺体12から出ていくようにされた反応器10。」

イ 対比・判断
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「光活性化光源としての紫外線を発するLEDライト14」は本件特許発明1における「処理室内の流体に紫外光を照射する複数の発光素子」に相当する。
甲1発明における「反応器10」は本件特許発明1における「殺菌装置」に相当する。
甲1発明における「流入口22」は本件特許発明1における「入口」に相当する。
甲1発明における「汚れを含んだ原水」及び「浄化された水」は本件特許発明1における「流体」に相当する。
甲1発明における「水晶板20」により仕切られた「反応器筺体12」の空間のうち、「LEDライト14」が設けられていない方の空間は本件特許発明1における「流体が第1方向に流れる処理室」に相当する。
甲1発明における「水晶板20」により仕切られた「反応器筺体12」の空間のうち、「LEDライト14」が設けられた方の空間は本件特許発明1における「光源室」に相当する。
甲1発明における「流出口24」は本件特許発明1における「流体が第1方向に流れる排出路」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「入口を通過した流体が第1方向に流れる処理室と、
前記処理室内の流体に紫外光を照射する複数の発光素子と、
前記複数の発光素子を内部に収容する光源室と、
前記光源室の側方に設けられ、前記処理室を通過した流体が第1方向に流れる排出路と、を備える殺菌装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「入口」に「整流板」が設けられているのに対し、甲1発明においては、「入口」に相当する「流入口22」には「整流板」が設けられていない点。

<相違点2>
本件特許発明1においては、「前記処理室内の流体に紫外光を照射する複数の発光素子」が「前記処理室を挟んで前記整流板と前記第1方向に対向する面内にアレイ状に配置され」ているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

b 判断
(a)相違点1について
甲1の「触媒を通る水流は有機汚染物質と触媒表面で生成される酸化種との間の混合と物質移動の割合を促進するために乱流であるべきである。層流は避けるべきである。」(第4欄第56ないし59行)という記載によると、甲1発明において、「流入口22」に「整流板」を設けることには阻害要因があるというべきである。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(b)相違点2について
甲1のFIG.1Aないし1Cから、甲1発明における「LEDライト14」は、「汚れを含んだ原水」が流れる方向、すなわち第1方向に対向する位置ではなく、第1方向に沿って配置されていることが看取される。
そして、甲1には、「LEDライト14」を第1方向に対向する面内にアレイ状に配置することは記載されていないし、それを示唆する記載もない。
また、他の証拠にも、甲1発明において、「LEDライト14」を第1方向に対向する位置に配置することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。

(c)効果について
そして、本件特許発明1は、「少ない数の発光素子を用いて装置の殺菌能力を向上させることができる」という甲1発明及び他の証拠に記載された事項からみて格別顕著な効果を奏するものである。

c まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 申立理由2(甲1に基づく進歩性)についてのむすび
したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立理由3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ サポート要件の判断
(ア)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(イ)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細の記載は次のとおりである。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌装置に関し、特に、流体に紫外光を照射して殺菌する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外光には殺菌能力があることが知られており、医療や食品加工の現場などでの殺菌処理に紫外光を照射する装置が用いられている。また、水などの流体に紫外光を照射することで、流体を連続的に殺菌する装置も用いられている。このような殺菌装置として、例えば、流路に沿って複数の紫外光発光素子を並べた流水殺菌モジュールが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-233646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紫外光の照射による殺菌効果を高めるには、流体に対する紫外光の照射量を増やす必要があるが、適切な殺菌効果が得られるよう発光素子の数を増やさなければならないとするとコストの増大につながる。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、少ない発光素子数で殺菌能力を高めることのできる殺菌装置を提供することにある。」

・「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の殺菌装置は、入口に整流板が設けられ、整流板を通過した流体が第1方向に流れる処理室と、処理室を挟んで整流板と第1方向に対向する面内にアレイ状に配置され、処理室内の流体に紫外光を照射する複数の発光素子と、を備える。
【0007】
この態様によると、入口に設けられる整流板によって第1方向の流れとなるように整流された流体に対し、第1方向に紫外光を照射して殺菌処理を施すことができる。その結果、流体が整流板を通過してから複数の発光素子の近傍まで第1方向に流れていく時間にわたって、発光素子からの紫外光を流体に作用させることができる。つまり、流路に沿って複数の発光素子を配置し、流体の流れに垂直に紫外光を照射する場合と比べて、一つの発光素子からの紫外光が流体に作用する時間を長くできる。したがって、本態様によれば、より少ない数の発光素子を用いる場合であっても、流体に対する紫外光の積算照射量を高めて殺菌能力を向上させることができる。
【0008】
複数の発光素子が発する紫外光を第1方向に進む平行光に変換する光学素子をさらに備えてもよい。
【0009】
光学素子は、複数の発光素子が並置される方向に延びるロッドレンズであってもよい。
【0010】
複数の発光素子を挟んで処理室と反対側に設けられ、複数の発光素子を冷やすための冷却流路をさらに備えてもよい。冷却流路は、処理室と連通しており、処理室内の流体の少なくとも一部が冷却流路を通って外部へ流出するよう構成されてもよい。
【0011】
処理室の内面は、複数の発光素子が発する紫外光を反射するフッ素樹脂材料で構成されてもよい。」

・「【発明の効果】
【0012】
本発明の殺菌装置によれば、少ない数の発光素子を用いて装置の殺菌能力を向上させることができる。」

・「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0015】
図1は、実施の形態に係る殺菌装置10の構成を概略的に示す断面図であり、図2は、図1のA-A線断面を示す。殺菌装置10は、飲料水などの流体を入口30の整流板36を通じて処理室40に流入させ、処理室40内の流体に向けて複数の発光素子12からの紫外光を照射し、処理対象となる流体に殺菌処理を施す。殺菌装置10は、処理室40内での流体の流れの方向Bに沿って紫外光Cを照射することにより、処理室40内を流れている流体に紫外光が作用する時間を長くする。
【0016】
殺菌装置10は、複数の発光素子12と、基板14と、ロッドレンズ16と、窓部18と、筐体20と、整流板36とを備える。図面において、複数の発光素子12が並置される方向をx方向およびy方向とし、x方向およびy方向の双方と直交する方向をz方向としている。また、ロッドレンズ16が延びる方向をx方向としている。
【0017】
筐体20は、箱形形状を有し、その内部に処理室40と、光源室42と、冷却流路44と、第1排出路46と、第2排出路48とを区画する。筐体20は、第1方向(z方向)に延在し、z方向に離れた両端に入口30と出口32が設けられる。筐体20の内面は、発光素子12が発する紫外光の反射率が高い部材で構成されることが望ましく、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの紫外光の反射率の高いフッ素樹脂で構成されることが好ましい。この場合、筐体20をPTFEなどのフッ素樹脂で構成してもよいし、筐体20の内面をPTFE製のライナで被覆してもよい。」

・「【0030】
本実施の形態によれば、複数の発光素子12からの紫外光を第1方向(z方向)に伝播させるため、紫外光が出射される窓部18の近傍の流体だけでなく、窓部18から離れた整流板36の近くの流体にまで高強度の紫外光を照射できる。特に、処理室40に流入する流体が整流板36によって層流化されるため、処理室40の内部において流体が乱流状態となる場合よりも紫外光をより遠くまで伝播させやすくできる。これにより、所定強度以上の紫外光が流体に作用する時間を長くして、処理室40を通過する流体に対する紫外光の積算照射量を高めることができる。
【0031】
本実施の形態によれば、複数の発光素子12からの紫外光がロッドレンズ16によって平行化されるため、紫外光の強度をそれほど減衰させることなく窓部18から離れた整流板36の近くまで紫外光を伝播させることができる。これにより、流体に作用する紫外光の積算照射量を高めて殺菌能力を向上させることができる。
【0032】
本実施の形態によれば、筐体20の内面が紫外光反射率の高い材料で構成されるため、筐体20の内面に向かう紫外光を反射させて流体に向かわせることができる。これにより、処理室40の流体に作用する紫外光の積算照射量を高めて、殺菌能力をより向上させることができる。
【0033】
本実施の形態によれば、処理室40の通水断面積を窓部18が設けられる範囲と同程度、もしくは、それよりも狭くすることで、処理室40を流れる流体の全体にわたって複数の発光素子12からの紫外光を照射できる。仮に、処理室40のx方向の幅Waを光源室42のx方向の幅Wbよりも大きくしてしまうと、上流壁22aの内面に沿って流れる流体は、紫外光が十分に照射されないまま排出されてしまう。一方、本実施の形態によれば、複数の発光素子12からの平行光が照射される範囲に処理室40の幅が制限されるため、処理室40を流れる流体の全体にわたって好適に紫外光を照射できる。
【0034】
本実施の形態によれば、処理室40を流れる流体の一部を発光素子12の冷却に用いるため、発光素子12の発熱による紫外光出力の低下や、発光素子12の短寿命化といった影響を低減させることができる。」

ウ 判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0005】によると、本件特許発明1及び4ないし6の解決しようとする課題は、「少ない発光素子数で殺菌能力を高めることのできる殺菌装置を提供すること」(以下、「発明の課題」という。)である。
そして、発明の詳細な説明の【0007】によると、「入口に設けられる整流板によって第1方向の流れとなるように整流された流体に対し、第1方向に紫外光を照射」すれば、「流体に対する紫外光の積算照射量を高めて殺菌能力を向上させることができる」ことを当業者は理解することができ、同じく【0008】によると、「紫外光を第1方向に進む平行光に変換」すればさらに効果があること、すなわち「紫外光を第1方向に進む平行光に変換」しなくともある程度は効果があることを当業者は理解することができるから、「紫外光を第1方向に進む平行光に変換」する「光学素子」を備えることが特定されていないとしても、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
そして、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明4ないし6についても同様である。
したがって、本件特許発明1及び4ないし6に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件を充足する。

エ 申立理由3(サポート要件)についてのむすび
したがって、申立理由3によっては、本件特許の請求項1及び4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

(4)申立理由4(明確性要件)について
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであって、発明に係る機能、特性、解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない。
そこで、検討する。

明確性要件の判断
本件特許の請求項1自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明に本件特許の請求項1に記載された各発明特定事項について、詳細に記載されているから、本件特許発明1がどのようなものか当業者は理解することができる。
また、本件特許発明4ないし6は、請求項1を引用するものであるところ、請求項4ないし6にも不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明に本件特許の請求項4ないし6に記載された各発明特定事項について、詳細に記載されているから、本件特許発明4ないし6がどのようなものか当業者は理解することができる。
したがって、本件特許発明1及び4ないし6に関して、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不等に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1及び4ないし6に関して、特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足する。

ウ 申立理由4(明確性要件)についてのむすび
したがって、申立理由4によっては、本件特許の請求項1及び4ないし6に係る特許を取り消すことはできない。

5 申立理由5(新規事項)について
申立理由5は、本件特許の請求項1に係る特許についてのものであるところ、上記1のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は取り消されることから、検討を要しない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項2ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
他に本件特許の請求項2ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-06-09 
出願番号 特願2015-176159(P2015-176159)
審決分類 P 1 651・ 537- ZC (A61L)
P 1 651・ 113- ZC (A61L)
P 1 651・ 121- ZC (A61L)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 柴田 啓二  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
大畑 通隆
登録日 2019-05-24 
登録番号 特許第6530681号(P6530681)
権利者 日機装株式会社
発明の名称 殺菌装置  
代理人 森下 賢樹  
代理人 三木 友由  
代理人 村田 雄祐  

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