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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1364953 |
異議申立番号 | 異議2020-700295 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-04-24 |
確定日 | 2020-08-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6601056号発明「熱可塑性樹脂フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6601056号の請求項1及び3ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6601056号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年8月25日(優先権主張 平成26年9月12日)の出願であって、令和1年10月18日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年11月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1及び3ないし5に係る特許に対し、令和2年4月24日に特許異議申立人 岡本敏夫(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるものである。 「【請求項1】 メタクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、および環状酸無水物単量体単位を含む樹脂(A)と、 メタクリル酸エステル単量体単位を含み、芳香族ビニル単量体単位を含まない樹脂(B)とを含有する樹脂組成物からなる熱可塑性樹脂フィルムであって、 樹脂(A)が、樹脂(A)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、 樹脂(B)が、樹脂(B)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、メタクリル酸エステル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、 樹脂(A)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量(W_(A))に対する樹脂(B)の重量(W_(B))の比(W_(B)/W_(A))が1より大きく、 前記樹脂組成物のメルトマスフローレートが1.2g/10min以上である熱可塑性樹脂フィルム。 【請求項2】 樹脂組成物は、さらにゴム弾性体粒子を含有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルム。 【請求項3】 請求項1?請求項2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムを、延伸して得られる延伸フィルム。 【請求項4】 請求項1?請求項2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムまたは請求項3に記載の延伸フィルムからなる偏光子保護フィルム。 【請求項5】 偏光子の少なくとも一方の面に、請求項4に記載の偏光子保護フィルムが配置された偏光板。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件特許の請求項1及び請求項3ないし請求項5に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものであるか、あるいは、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。 <証拠方法> 甲第1号証:国際公開第2014/021264号 甲第2号証:製品設計者のための実務で使える情報サイト 製品設計知識 メルトマスフローレイトの頁(https://seihin-sekkei.com/plastic-words/melt-mass-flow-rate/) なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載にしたがった。 第4 主な甲号証の記載 1 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には次の記載がある。 「[請求項1]芳香族ビニル単量体単位45?85質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5?45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10?20質量%からなり、ASTM D1003に基づき測定した2mm厚みの全光線透過率が88%以上であるメタクリル樹脂耐熱性向上用の共重合体。 [請求項2]芳香族ビニル単量体単位50?80質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位8?38質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位12?18質量%からなる請求項1に記載の共重合体。 [請求項3]重量平均分子量(Mw)が10万?20万である請求項1または2に記載の共重合体。 [請求項4]請求項1?3の何れか1つに記載の共重合体5?50質量%と、メタクリル樹脂50?95質量%とからなる樹脂組成物。 [請求項5]メタクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位70?100質量%、芳香族ビニル単量体単位0?30質量%からなることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。 [請求項6]請求項4または5に記載の樹脂組成物からなる成形体。 [請求項7]光学部品である請求項6に記載の成形体。 [請求項8]光学フィルムである請求項7に記載の成形体。 [請求項9]偏光膜保護フィルム、位相差フィルム、または反射防止フィルムである請求項8に記載の成形体。」 「[0001] 本発明は、メタクリル樹脂耐熱性向上用の共重合体、メタクリル樹脂耐熱性向上用の共重合体とメタクリル樹脂との樹脂組成物、及びその樹脂組成物からなる成形体に関する。」 「[0031] 本発明の共重合体とメタクリル樹脂とからなる樹脂組成物は、メタクリル樹脂の優れた透明性を損なうことなく、課題であった耐熱性の改善がなされており、その樹脂組成物を用いてなる成形体は、耐熱性を必要とされる用途にも広く適用することができる。その用途例としては、車載部品、家電製品部品、および光学部品などが挙げられる。光学部品においては、偏光膜保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルムなどの光学フィルムにとりわけ好適に用いることが出来る。」 「[0037]<共重合体(A-2)の製造例> 20%マレイン酸無水物溶液と2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液は、A-1と同様に調製した。 撹拌機を備えた120リットルのオートクレーブ中に、20%マレイン酸無水物溶液2.8kg、スチレン24kg、メチルメタクレリレート10.4kg、t-ドデシルメルカプタン40gを仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて88℃まで昇温した。昇温後88℃を保持しながら、20%マレイン酸無水物溶液を2.1kg/時、および2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液を375g/時の分添速度で各々連続的に8時間かけて添加し続けた。その後、2%t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート溶液の分添を停止し、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを40g添加した。20%マレイン酸無水物溶液はそのまま2.1kg/時の分添速度を維持しながら、8℃/時の昇温速度で4時間かけて120℃まで昇温した。20%マレイン酸無水物溶液の分添は、分添量が積算で25.2kgになった時点で停止した。昇温後、1時間120℃を保持して重合を終了させた重合液は、ギヤーポンプを用いて二軸脱揮押出機に連続的にフィードし、メチルイソブチルケトンおよび微量の未反応モノマー等を脱揮処理して、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状の共重合体(A-2)を得た。得られた共重合体(A-2)について、A-1と同様に組成分析、分子量、および全光線透過率を測定した。測定結果を表1に示す。」 「[0051]<メタクリル樹脂(C-1)の製造例> 撹拌機を付した容積20リットルの完全混合型反応器、容積40リットルの塔式プラグフロー型反応器、予熱器を付した脱揮槽を直列に接続して構成した。メチルメタクリレート98質量部、エチルアクリレート2質量部、エチルベンゼン18質量部で構成される混合溶液に対して、さらに1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン(日本油脂社製パーヘキサC)0.02質量部、n-ドデシルメルカプタン(花王社製チオカルコール20)0.3質量部、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製IRGANOX1076)を0.1質量部混合し原料溶液とした。この原料溶液を毎時6kgで温度120℃に制御した完全混合型反応器に導入した。なお、完全混合型反応器の撹拌数は200rpmで実施した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、流れの方向に向かって温度130℃から150℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型反応器に導入した。この反応液を予熱器で加温しながら、温度240℃で圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去した。この樹脂液をギヤーポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することによりペレット形状のメタクリル樹脂(C-1)を得た。得られたメタクリル樹脂(C-1)について、A-1と同様に組成分析、分子量、および全光線透過率を測定した。測定結果を表3に示す。」 「[0053][表1] ![]() 」 「[0055][表3] ![]() 」 「[0061][表4] ![]() 」 2 甲第1号証に記載された発明 上記1の記載、特に、実施例4の記載を中心に総合すれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「メチルメタクリレート単量体を25.6質量%、スチレン単量体を60.0質量%、及びマレイン酸無水物単量体を14.4質量%を重合して得られる共重合体(A-2)と、 メチルメタクリレート単量体を98.0質量%、エチルアクリレート単量体を2.0質量%を重合して得られる共重合体であって、スチレン単量体を含まない共重合体(C-1)、とを含有する樹脂組成物であって、 共重合体(A-2)を75質量%、共重合体(C-1)を25質量%の割合で含有する樹脂組成物。」 第5 対比・判断 1 本件発明1について (1) 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「メチルメタクリレート単量体」、「スチレン単量体」、「マレイン酸無水物単量体」はそれぞれ、本件発明1の「メタクリル酸エステル単量体単位」、「芳香族ビニル単量体単位」、「環状酸無水物単量体単位」に相当する。 すると、甲1発明のメチルメタクリレート単量体、スチレン単量体、及びマレイン酸無水物単量体を含むものである「共重合体(A-2)」は、本件発明1の「樹脂(A)」に相当する。 また、甲1発明の「共重合体(C-1)」は、メチルメタクリレート単量体を含み、スチレン単量体を含まないものであるから、本件発明1の「樹脂(B)」に相当する。 そして、甲1発明の「共重合体(A-2)」と「共重合体(C-1)」の成分からみて、甲1発明の樹脂組成物が熱可塑性樹脂の樹脂組成物であることも明らかである。 さらに、甲1発明の共重合体(A-2)におけるスチレン単量体の割合が60.0質量%であること、共重合体(C-1)におけるメチルメタクリレート単量体の割合が98.0質量%であることから、甲1発明の樹脂組成物が、本件発明1の「樹脂(A)が、樹脂(A)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、樹脂(B)が、樹脂(B)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、メタクリル酸エステル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、」との特定事項を満たすものであり、また、甲1発明の樹脂組成物の共重合体(A-2)におけるメチルメタクリレート単量体の含有量(25.6質量%)及び共重合体(A-2)と共重合体(C-1)の割合(75:25)から、共重合体(C-1)の量/共重合体(A-2)におけるメチルメタクリレート単量体の含有量=25/0.256×75≒1.3と算出されるので、本件発明1の「樹脂(A)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量(W_(A))に対する樹脂(B)の重量(W_(B))の比(W_(B)/W_(A))が1より大き」いとの特定事項を満たすことも明らかである。 以上の点をふまえ、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、 「メタクリル酸エステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、および環状酸無水物単量体単位を含む樹脂(A)と、 メタクリル酸エステル単量体単位を含み、芳香族ビニル単量体単位を含まない樹脂(B)とを含有する樹脂組成物であって、 樹脂(A)が、樹脂(A)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、 樹脂(B)が、樹脂(B)を構成するすべての単量体単位100重量%に対して、メタクリル酸エステル単量体単位の含有割合が50重量%以上である樹脂であり、 樹脂(A)中のメタクリル酸エステル単量体単位の含有量(W_(A))に対する樹脂(B)の重量(W_(B))の比(W_(B)/W_(A))が1より大きい、 熱可塑性樹脂組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 ・相違点1 本件発明1は、「フィルム」であるのに対して、甲1発明は、「組成物」である点。 ・相違点2 樹脂組成物のメルトマスフローレートが、本件発明1は「1.2g/10min以上」であるのに対して、甲1発明は、そのような特定を有しない点。 (2) 相違点についての検討 事案に鑑み、相違点2について先ず検討する。 甲第1号証には、共重合体(A-2)、共重合体(C-1)の重量平均分子量が記載されている(表1、表3)ものの、メルトマスフローレートがどの程度になるかについては何ら記載もなく、また、示唆する記載もない。 また、メルトマスフローレートは、重量平均分子量のみならず、分子量分布にも関係するものであることが当業者の技術常識であることからすると、甲1発明の共重合体(A-2)及び共重合体(C-1)の重量平均分子量の値から、直ちにメルトマスフローレートの値が算出あるいは推認できるものであるともいえない。 そして、その他に、甲1発明の樹脂組成物のメルトマスフローレートが1.2g/10min以上であることを示す証拠もない。 そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。 また、上述のとおり甲第1号証には、甲1発明の樹脂組成物のメルトフローレートについての記載がないものであり、かつ、当該技術分野において、甲1発明のような樹脂組成物のメルトフローレートが1.2g/10min以上となるものであるとする技術常識もない。 そして、本件発明1は、相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすことにより、「溶融混練時に環状酸無水物単量体単位に起因する気泡の発生を抑制し得る」(本件明細書の段落【0056】)との格別の効果を奏するものである。 してみれば、甲1発明において、メルトマスフローレートを、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項を満たすものとすることが、当業者にとって容易になし得たものであるということもできない。 この点について、特許異議申立人は、メルトマスフローレートは、樹脂の分子量が小さいほど大きくなるとの技術常識(甲第2号証)を示しつつ、「甲第1号証に記載の共重合体C-1は、本件特許明細書に記載の樹脂B1と、重量(質量)平均分子量以外ほぼ同じものであり、かつ、重量(質量)平均分子量が小さい共重合体(C-1)の方が、メルトマスフローレートが大きいことは当業者の技術常識であるから、共重合体(A-1)と共重合体(C-1)とを25:75(ママ。75:25の誤記と思われる。)の質量比率で含む樹脂組成物(甲第1号証の実施例4)は、本件特許明細書に記載の樹脂C1と樹脂A1を25:75の質量比率で含む樹脂組成物(本件特許明細書の実施例1)よりもメルトマスフローレートが大きくなることは当業者であれば明確に把握できる」(特許異議申立書第20頁第16行ないし第25行)旨主張している。 しかしながら、樹脂のメルトマスフローレートは、平均分子量だけでなく、分子量分布等も影響するものであることが技術常識であり、重量(質量)平均分子量の値にのみ着目してメルトマスフローレートの値や傾向が直ちに導かれるものではない。 このことは、本件特許明細書の実施例1ないし実施例6の各樹脂組成物の重量平均分子量が概ね同じであるにも関わらず、メルトマスフローレートの値が0.8?2.6と大きく異なっていることからも明らかである。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、あるいは、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 2 本件発明3ないし5について 本件発明3ないし5はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。 そして、上記1のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、あるいは、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3ないし5も同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、あるいは、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第6 結論 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び3ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-07-27 |
出願番号 | 特願2015-165491(P2015-165491) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(C08J)
P 1 652・ 113- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 芦原 ゆりか |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
植前 充司 大島 祥吾 |
登録日 | 2019-10-18 |
登録番号 | 特許第6601056号(P6601056) |
権利者 | 住友化学株式会社 |
発明の名称 | 熱可塑性樹脂フィルム |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 三上 敬史 |
代理人 | 福山 尚志 |
代理人 | 清水 義憲 |