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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1364960 |
異議申立番号 | 異議2020-700243 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-04-07 |
確定日 | 2020-08-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6591161号発明「フィルム状微細構造転写装置及びフィルム状微細構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6591161号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6591161号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成26年12月26日に特許出願され、令和元年9月27日付けでその特許権の設定登録がされ、令和元年10月16日に特許掲載公報が発行された。その後、令和2年4月7日付けで特許異議申立人 中水 麻衣(以下「申立人」という。)より請求項1?8に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 1 請求項1?8に係る発明 本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 微細凹凸パターンが外周面に形成された転写ロールと、 長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して前記転写ロールに接離可能に設けられ、前記転写ロールに接近した場合に前記基材を前記転写ロールと共に挟持する、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロールと、 前記基材のパスライン及び前記ニップロールの移動線を横切って移動し、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側又は後側の少なくともいずれか一方に設けられたパスガイドロールと、 を具備することを特徴とするフィルム状微細構造転写装置。 【請求項2】 前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側に設けられた前記基材を繰出すフィルム繰出し部と、 前記転写ロールの前記基材の搬送方向後側に設けられた前記基材を巻き取るフィルム巻取り部と、 前記基材の搬送方向前側に設けられた前側の前記ニップロールと前記フィルム繰出し部との間、及び、前記基材の搬送方向後側に設けられた後側の前記ニップロールと前記フィルム巻取り部との間の少なくともいずれか一方に設けられたブレーキ部と、 をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のフィルム状微細構造転写装置。 【請求項3】 転写ロールの微細凹凸パターンが形成された外周面と、フィルム状の基材の表面とを、前記基材の面方向から当接させる当接工程と、 前記転写ロールを回転させつつ前記基材の表面に前記転写ロールの前記微細凹凸パターンを転写する転写工程と、を有し、 前記当接工程は、 前記基材に張力をかけながら行うこと、及び、 前記基材のパスライン及び前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロールの移動線を横切って移動可能に設けられ、且つ、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側又は後側の少なくともいずれか一方に設けられたパスイドロールを、前記基材に張力をかけつつ、前記基材を前記転写ロールから引き離された状態になる第1の位置から、前記基材が前記転写ロールに当接した状態になる第2の位置に移動させ、前記基材の余剰分を巻き取った後、前記ニップロールを、前記基材を介して前記転写ロールに押し当てることを特徴とするフィルム状微細構造体の製造方法。 【請求項4】 前記転写ロールを前記基材と同期させることを特徴とする請求項3記載のフィルム状微細構造体の製造方法。 【請求項5】 前記転写ロールとの抱角を大きくとり、且つ、前記基材の張力を強くし、前記転写ロールの駆動抵抗を小さくすることで前記転写ロールを前記基材と同期することを特徴とする請求項4記載のフィルム状微細構造体の製造方法。 【請求項6】 前記ニップロールの面圧が、0.05?0.2kgf/cm2であることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載のフィルム状微細構造体の製造方法。 【請求項7】 前記基材の前記余剰分を巻取る方向と前記転写ロールを挟んで逆側に位置する一方の前記ニップロールを前記転写ロールに当接した状態で、前記基材の前記余剰分を巻き取ることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれかに記載のフィルム状微細構造体の製造方法。 【請求項8】 前記基材の前記余剰分を巻取る方向と前記転写ロールを挟んで逆側でブレーキをかけ、前記基材の前記余剰分を巻き取ることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれかに記載のフィルム状微細構造体の製造方法。」 第3 申立理由の概要 理由1 申立人は、主たる証拠として甲第1号証、及び、従たる証拠として甲第2号証又は甲第3号証を提出し、請求項1?8に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。 理由2 申立人は、請求項1?3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるため、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2011-102039号公報 甲第2号証:特開2014-142392号公報 甲第3号証:特開2011-245706号公報 第4 理由1(第29条第2項)について 1 甲第1号証ないし甲第3号証 (1)甲第1号証について ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。 (ア)「【0001】 本発明は、ローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法に関する。より詳しくは、低反射率が得られる表面処理がなされた樹脂シートを製造するのに好適なローラー型インプリント装置、及び、インプリントシートの製造方法に関するものである。」 (イ)「【0030】 上記第1、第2の形態において、被転写シートは、転写ロールを型押しすることで所望のパターンを形成することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、樹脂材料からなる被転写シートが好適である。樹脂材料からなる被転写シートとしては、シートに直接に構造体を形成できるものや、基材フィルムに構造体をプリントするための樹脂(以下、転写樹脂と称す。)を塗布して、未硬化又は半硬化の転写樹脂に型押しするものが挙げられる。前者は主に熱インプリントに用いられ、後者は紫外線(UV)インプリントに用いられる。基材フィルムの材質は特に限定されるものではなく、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。転写樹脂としては、紫外線、可視光等の電磁波等のエネルギー線により硬化する樹脂が好適である。」 (ウ)「【0034】 また、被転写シートにテンションが掛かった状態で転写ロールを交換できるため、例えば、長尺の被転写シートの途中で型押し不良が生じた場合や、被転写シートと転写ロールとの間に異物が挟まって修理や調整等が必要となった場合等に、被転写シートを切断することなく調整作業や交換作業ができる。これにより、被転写シートの無駄や、修理・調整等に掛かる時間を低減できる。」 (エ)「【0051】 以下に、本発明に係るローラー型インプリント装置(以下、インプリント装置と称す。)及びこれを用いたインプリントシートの製造方法について、図面を参照して説明する。 【0052】 図1(a)は、転写ロールによる被転写シートへの転写が行われる前のインプリント装置の要部の状態を示している。図1(b)は、転写時のインプリント装置の要部の状態を示している。 【0053】 本実施形態のインプリント装置は、第1?第3の挟持ロール2a?2c、転写ロール3、及び、シャフト(軸部材)5を備えるが、図1(b)に示すように、転写ロール3の回転軸と一致する回転用軸は持たない。 【0054】 第1?第3の挟持ロール2a?2cは、転写ロール3と共に被転写シート1を挟持して、転写ロール3を保持しつつ回転させる役割を有すると共に、第1?第3の挟持ロール2a?2cのうち少なくとも2つは、転写前に、被転写シート1を張り伸ばしてテンション調整を行う張伸ロールの役割を果している。 【0055】 転写ロール3は、外周面にナノメートルサイズの転写パターンが形成された円筒体である。転写ロール3には、従来の転写ロールとは異なり回転用軸は設けられておらず、転写ロール3の筒内には、円柱状のシャフト5が筒内を貫通するように挿入されているだけである。シャフト5は、円柱状であるが、円筒状にされてもよい。また径が均一な円柱状又は円筒状でなくてもよく、後述する図9(b)の形態のように、一部で円筒の径が異なっていても良い。 【0056】 シャフト5は転写ロール3に対して一体的に取り付けられたものではなく、単に筒内に挿されているだけである。したがって、転写ロール3に回転用軸を形成するための機械加を施す必要はない。また、転写ロール3とシャフト5とは、それぞれ相関なく回転するように回転軸の中心が独立しており、かつ、それぞれの回転軸の中心が異なるように配置されている。このように、本実施形態においては、転写ロール3に複雑な機構が無いことから転写ロール3の着脱及び交換を容易に行える。 【0057】 本実施形態においては、被転写シート1への型押しに先立って、図1(a)に示す状態で、被転写シート1のテンション調整が行われる。図1(a)において、転写ロール3は、被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと対向する位置に配置されており、シャフト5は、転写ロール3の内周面の上部に転写ロール3を吊り下げる状態で待機している。このように、被転写シート1と転写ロール3とが接触しない状態で、被転写シート1には第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cによって矢印A方向及びB方向にテンションがかけられ、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2c間に基材フィルム1が張り伸ばされ、被転写シート1が装置内を滞りなく流れることが確認される。すなわち、ここでは、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cが、本発明における少なくとも2本の張伸ロールとしての役割を兼ねている。 【0058】 被転写シート1への型押し前に被転写シート1を張り伸ばすことにより、被転写シート1転写ロール3と擦れながら矢印A方向及びB方向に引っ張られることが無くなる。従来では、転写処理前に、被転写シートが捩れた状態のまま転写処理を行うことを防止するため、被転写シート上に被転写材料(樹脂)を塗布せずに予備的な転写処理(いわゆる空打ち処理)を行っていたが、本実施形態においては、空打ち処理は不要である。この空打ち理では、転写ロール3と被転写シート1との間に異物が挟まった場合等に、被転写材料よる緩衝がないため、転写ロール3の表面の損傷が生じやすいという問題があったが、本実施形態では、そのような問題は生じない。なお、テンション調整時には、第2の挟持ロール2bは、回転していても止まっていてもよい。 【0059】 テンション調整により、被転写シート1が滞りなく搬送されることが確認されると、シャフト5は矢印D方向へ下降する。そして、転写ロール3が被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと当接した状態となると、シャフト5は、図1(b)に示すように、転写ロール3を第2の挟持ロール2bの方向へ加圧して、又は、挟持ロール2bも転写ロール3の接触と共に下降して、転写ロール3は第2の挟持ロール2bとともに下降する。 【0060】 これにより、シャフト5と第2の挟持ロール2bとにより被転写シート1が挟持され、一方で、挟持ロール2a、2cが転写ロール3を巻き込むように動き、転写ロール3は、第1?第3の挟持ロール2a?2cによって3点支持される。このとき、第1の挟持ロール2aの回転軸n1及び第3の挟持ロール2cの回転軸n2は、転写ロール3の回転軸m1よりも上方にあることが好ましい。これにより、第1の挟持ロール2a及び第3の挟持ロール2cが転写ロール3を抱き込むような配置となり、転写ロール3は、第1?第3の挟持ロール2a?2cによって互いに押さえつけられることから、転写ロール3をより確実に保持できる。 【0061】 なお、挟持ロール2aの回転軸n1及び第3の挟持ロール2cの回転軸n2は、必ずしも転写ロール3の回転軸m1よりも上方になくてもよく、このときは、シャフト5が転写に必要な加重をかけることになる。 【0062】 そして、第1?第3の挟持ロール2a?2cは、転写ロール3を保持しつつ矢印E方向へと回転させることにより、被転写シート1を搬送(引き込み及び送り出し)しつつ、被転写シート1の表面を転写ロール3により均一に加圧して転写ロール3の表面に形成された凹凸パターンを被転写シート1に転写できる。上記方法によれば、被転写シート1を均一に加圧できるので、転写後の被転写シート1は、膜厚が均一なものとなる。 【0063】 (第2のフィルム状モールドの複製工程) 図8は、本実施の形態に係るフィルム状モールドの製造方法の第2のフィルム状モールドの複製工程に用いられる転写装置を示す概略図である。 【0064】 図8に示す転写装置200は、被転写基材201を送り出すための第1の送り出しロール202と、完成した第2のフィルム状モールド203を巻き取るための第1の巻き取りロール204とを備える。第1の送り出しロール202と第1の巻き取りロール204との間には、第1のフィルム状モールド103の搬送方向MDにおける上流側から下流側に向けて順に、被転写基材201の表面に光硬化性樹脂を塗布する塗布手段205と、第1のフィルム状モールド103を送り出すための第2の送り出しロール206と、第1のフィルム状モールド103と被転写基材201とを貼り合わせるための貼合手段207と、ガイドロール208と、第1のフィルム状モールド103と被転写基材201とを密着させるための押圧手段209と、光硬化性樹脂層に光を照射する光源210と、ガイドロール211と、第1のフィルム状モールド103を巻き取るための第2の巻き取りロール212と、が設けられている。 【0065】 貼合手段207は、一対のラミネートロール207a、207bで構成されている。押圧手段209は、第1のフィルム状モールド103と被転写基材201がその外周面上を搬送されるゴムロール209aと、ゴムロール209aに第1のフィルム状モールド103と被転写基材201を押圧するニップロール209b、209cと、で構成されている。 【0066】 以下では、本実施形態に係るインプリント装置及びプリントシートの製造方法について、紫外線硬化性樹脂を用いたUVインプリントの具体例を、図2?図7を参照しつつ説明する。 【0067】 図2は、被転写シートのテンション調整時のインプリント装置を示す模式図である。図2において、インプリント装置100には、まず、フィルムロール(図示せず)にロール状に巻き取られた基材フィルム1aがセットされる。基材フィルム1aには、TACフィルムを用いた。なお、基材フィルム1aの幅は、後述の転写工程において、転写ロール3と第1?第3の挟持ロール2a?2cによって基材フィルム1aを均一に挟み込めるように、転写ロール3及び第1?第3の挟持ロール2a?2cの幅よりも狭くなるように設定した。フィルムロールから送り出された基材フィルム1aは、矢印A方向及びB方向にテンションがかけられて、装置内を滞りなく搬送されるようにテンション調整が行われる。」 (オ)図1は次のものである。 (カ)図2は次のものである。 イ 上記記載から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「低反射率が得られる表面処理がなされた樹脂シートを製造するのに好適なローラー型インプリント装置であって、(【0001】) 該樹脂シートは長尺の被転写シートであって、(【0034】) 樹脂材料からなる被転写シートとしては、シートに直接に構造体を形成できるものや、基材フィルムに構造体をプリントするための樹脂を塗布して、未硬化又は半硬化の転写樹脂に型押しするものが挙げられ、(【0030】) インプリント装置は、第1?第3の挟持ロール2a?2c、転写ロール3、及び、シャフト5を備え、(【0053】) 転写ロール3は、外周面にナノメートルサイズの転写パターンが形成され、(【0055】) 該転写パターンは凹凸パターンであって、(【0062】) 第1?第3の挟持ロール2a?2cは、転写ロール3と共に被転写シート1を挟持して、転写ロール3を保持しつつ回転させる役割を有すると共に、第1?第3の挟持ロール2a?2cのうち少なくとも2つは、転写前に、被転写シート1を張り伸ばしてテンション調整を行う張伸ロールの役割を果し、(【0054】) テンション調整により、被転写シート1が滞りなく搬送されることが確認されると、シャフト5は下降し、(【0059】) 転写ロール3が被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと当接した状態となると、シャフト5は、転写ロール3を第2の挟持ロール2bの方向へ加圧して、又は、挟持ロール2bも転写ロール3の接触と共に下降して、転写ロール3は第2の挟持ロール2bとともに下降し、(【0059】) これにより、シャフト5と第2の挟持ロール2bとにより被転写シート1が挟持され、一方で、挟持ロール2a、2cが転写ロール3を巻き込むように動き、転写ロール3は、第1?第3の挟持ロール2a?2cによって3点支持される、(【0060】) インプリント装置。(【0053】)」 (2)甲第2号証について ア 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0008】 本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、56 ℃ 以上と高温のホウ酸処理浴を用いても、作業性及び生産効率が良好である偏光フィルムの製造方法を提供することにある。」 (イ)「【0011】 この方法において、上記の1本のガイドロールを含む複数のガイドロールは、ホウ酸処理浴の中と外の間で昇降可能に設置されており、フィルムが最初にホウ酸処理浴中に導入されるとき、昇降可能に設置された複数のガイドロールをホウ酸処理浴の外に配置しておく。そしてフィルムの先端が、入口側ニップロールを通過した後、ホウ酸処理浴の外に配置された複数のガイドロールのうち、少なくとも1本の上側を通過し、別の少なくとも1本の下側を通過し、最後に出口側ニップロールを通過してホウ酸処理浴から導出されるようにする。この状態で、ホウ酸処理浴の外に配置された複数のガイドロールを降下させてフィルムをホウ酸処理浴に浸漬し、ホウ酸処理浴中でフィルムに架かる張力を一定に保ちつつ、フィルムをホウ酸処理浴出口側ニップロールに導くようにホウ酸処理が行われる。 【0012】 上記のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理に供される原反フィルムの厚さが1?60μmのものを使用することができる。 【0013】 染色処理が施されたフィルムをガイドロールに通す際、フィルムの先端は、ホウ酸処理浴中に設置された入口側ニップロールの直後にある昇降可能なガイドロールの上側を通過させ、ホウ酸処理浴中に設置された出口側ニップロールの直前にある昇降可能なガイドロールの下側を通過させるのが好ましい。また、染色処理が施されたフィルムは、昇降可能なガイドロールをホウ酸処理浴の外に配置した状態において、ホウ酸処理浴に浸漬している時間が20秒以内となるようにするのが好ましい。」 (ウ)「【0043】 図2(A)を参照して、ホウ酸処理浴の温度が56℃以上の場合は、上記したホウ酸処理浴中で接する1本のガイドロールを含む複数のガイドロール35が、ホウ酸処理浴の中と外の間で昇降可能に設置されており、これらはポリビニルアルコール系樹脂フィルムを最初にホウ酸処理浴中へ導入するとき(フィルムの先端を装置に通すとき)、ホウ酸処理浴の外に配置されている。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、この状態でフィルムの先端が入口側ニップロール30を通過した後、ホウ酸処理浴の外に配置された複数のガイドロール35のうちの少なくとも1本の上側を通過させ、また、別の少なくとも1本のガイドロールの下側を通過させ、最後に出口側のニップロール33を通過してホウ酸処理浴から導出されるように通される。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、それが下側を通過するガイドロールと特に接している必要はない。 【0044】 また、図2(A)には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが、入口側ニップロール30の直後のガイドロール35の上側を通過し、別のガイドロール35の下側を通過している例を示したが、フィルムを通す方法は逆であってもよく、入口側ニップロール30の直後のガイドロール35の下側を通過し、別のガイドロール35の上側を通過するように通すこともできる。入口側ニップロール30の直後におけるフィルムの浸漬時間を考慮すると、同図(A)に例示したようにフィルムを通すのが好ましい。 【0045】 このようにポリビニルアルコール系樹脂フィルムを通すことにより、フィルムが高温のホウ酸処理浴に浸漬した状態を短時間にすることができるため、フィルムの溶失や破断を抑制することができる。 【0046】 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのホウ酸処理浴への浸漬は、上記の図2(A)の状態からホウ酸処理浴の外側に配置された複数のガイドロール35をホウ酸処理浴中へ降下させ、同図(B)に示す形態にて行われる。このとき、フィルムにかかる張力が一定になるよう、入口側ニップロール30と出口側ニップロール33の回転周速が調整される。また、ガイドロール35の位置調整により、得られる偏光フィルムの色相及び偏光性能等の光学特性、並びにフィルム幅を調節することが可能となる。」 (エ)図2は次のものである。 (3)甲第3号証について ア 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0011】 <凹凸転写手段> 本発明において凹凸転写手段におけるロールのうち少なくとも1つのロールは位置変更可能な可動式である。可動式とは、製造ラインにおいて光学フィルムの連続的製造の最中であっても、当該ロールを、軸についてフィルム幅手方向に対して平行を保ちつつ、かつ他のロールと接触させることなく、駆動手段によって移動させることができる、という意味である。製造ラインにおいて光学フィルムを連続的に製造しているとき、ある一定量の光学フィルムの製造が完了したら、可動式ロールの位置を変更することにより、製造ラインを止めることなく、可動式ロールの取り外し・交換および取り付け位置の調整が可能となる。そのため、用途の異なる光学フィルムを連続的に製造でき、生産性が向上する。また新しいロールへの交換時およびロールの清掃時にも製造ラインを止める必要がなくなる。 【0012】 詳しくは、鋳型ロールおよび/または鏡面ロールを、軸方向からみたときの位置で、フィルムと当接しない位置まで退避させると、製造ラインを止めることなく、当該ロールの取り外し・交換が可能になる。具体的には、例えば、図1(A)または図2(A)に示すように、フィルム1を鋳型ロール2と鏡面ロール3に交互に張架させて搬送することにより、鋳型ロール2表面の凹凸形状をフィルム1に転写させているとき、鋳型ロール2を方向D1で移動させ、図1(B)または図2(B)に示すように、フィルム1と当接しない位置まで退避させると、製造ラインを止めることなく、当該ロールの取り外し・交換が可能になる。このとき、新たに取り付けられるロールを選択することにより、鋳型ロール2の移動前とは凹凸の寸法や形成領域や形状が異なる所望の光学フィルムを連続的に製造できる。また退避させたロールをそのままの状態に維持するか、取り外すことにより、鋳型ロールによる凹凸を表面に有さない光学フィルムを連続的に製造できる。」 (イ)図1は次のものである。 (ウ)図2は次のものである。 2 対比・判断 (1)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「転写ロール3」は、「外周面にナノメートルサイズ」の「凹凸パターン」が形成されるものであるから、本件特許発明1の「微細凹凸パターンが外周面に形成された転写ロール」に相当する。 (イ)甲1発明の「被転写シート」は、「基材フィルム」を備え、「長尺」方向に搬送されるものであるから、本件特許発明1の「長尺方向に走行するフィルム状の基材」に相当する。 (ウ)甲1発明の「挟持ロール2a、2c」は、「被転写シート」の搬送方向に対して「転写ロール3」の前側及び後側にそれぞれ設けられ、「シャフト5」が一番下まで「下降」することにより「転写ロール3」が「挟持ロール2a、2c」に接近した際に、「被転写シート」を「転写ロール3」と共に挟持するものであるから、本件特許発明1の「長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して前記転写ロールに接離可能に設けられ、前記転写ロールに接近した場合に前記基材を前記転写ロールと共に挟持する、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロール」に相当する。 (エ)甲1発明の「インプリント装置」は、「転写ロール3」、「挟持ロール2a、2c」を備えることから、本件特許発明1の「フィルム状微細構造転写装置」に相当する。 したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、次の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「微細凹凸パターンが外周面に形成された転写ロールと、 長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して前記転写ロールに接離可能に設けられ、 前記転写ロールに接近した場合に前記基材を前記転写ロールと共に挟持する、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロールと、 を具備することを特徴とするフィルム状微細構造転写装置。」 (相違点) 本件特許発明1においては、「前記基材のパスライン及び前記ニップロールの移動線を横切って移動し、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側又は後側の少なくともいずれか一方に設けられたパスガイドロール」を有するのに対し、甲1発明においては、そのような部材を有しない点 イ 判断 (ア)上記相違点について検討するにあたり、甲1発明をどのように変更すれば、上記相違点に係る構成に至るのかについて検討する。 甲1発明においては、「転写ロール3が被転写シート1を介して第2の挟持ロール2bと当接した状態」(【0059】)から「転写ロール3」が「第2の挟持ロール2bとともに下降する」(【0059】)際、「挟持ロール2a、2cが転写ロール3を巻き込むように動(く)」(【0060】)ものであるから、「挟持ロール2a」の「回転軸n1」又は「挟持ロール2c」の「回転軸n2」における、このような巻き込み動作時の軌跡が、本件特許発明1でいう「前記ニップロールの移動線」に相当する。そうすると、甲1発明において、上記の「挟持ロール2a」及び「挟持ロール2c」の巻き込み動作時の軌跡及び「被転写シート」の搬送経路を横切って移動するような「パスガイドロール」を追加すれば、相違点に係る構成に至ることになる。 (イ)そこで、検討すると、本件特許発明1には、「パスガイドロール」が、「前記基材のパスライン及び前記ニップロールの移動線を横切って移動」するものであることが特定されているところ、当該「パスガイドロール」は、このように移動することにより「転写ロール」と「基材」とを接触させるという機能・作用を持つと解される(【0039】、図3、図4)。 しかしながら、甲1発明は「シャフト5」に追随する「転写ロール3」の下降によって「転写ロール3」と「被転写シート」を接触させるものであるから(甲第1号証の【0059】、【0060】、図1)、そもそも甲1発明は、「パスガイドロール」がもつ上記機能・作用に相当する構成を備えている。そのため、甲1発明に「パスガイドロール」を追加する動機があるとは言えない。 なお、当業者が、甲1発明において、「転写ロール3」と「被転写シート」を接触させるために、甲1発明は「シャフト5」に追随する「転写ロール3」の下降なしで、「パスガイドロール」を採用することが容易になし得るかどうかについても検討しておくと、当該「転写ロール3」を下降させずに「転写ロール3」と「被転写シート」を接触させるためには、「第1?第3の挟持ロール2a?2c」を上昇させる必要があり、かつ、それで足りる。そうすると、当該各挟持ロールを上昇させることに加えて、さらに、「パスガイドロール」を加える必要性があるとはいえず、よって、この意味からも、甲1発明に「パスガイドロール」を採用する動機があるとは言えない。 (ウ)また、仮にこの点を措くとしても、以下に示すように、甲1発明に甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術を適用し、上記相違点に係る構成に至るものとすることはできない。 a 甲第2号証には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸処理槽17に浸漬する工程において(図1)、複数のガイドロール35をホウ酸処理浴の中と外の間で昇降可能に設置し、該フィルムをホウ酸処理浴中に導入するとき、フィルムの先端が入口側ニップロール30を通過した後、ホウ酸処理浴の外に配置された複数のガイドロール35のうちの少なくとも1本の上側を通過させ、また、別の少なくとも1本のガイドロールの下側を通過させ、最後に出口側のニップロール33を通過してホウ酸処理浴から導出することで(【0043】、図2)、該工程において、ガイドロール35の位置調整により、得られる偏光フィルムの色相及び偏光性能等の光学特性、並びにフィルム幅を調節することを可能とした技術が記載されている。(【0046】) ここで、上記技術は、フィルム状の基材を搬送する装置に関するものである点で甲1発明と共通しているといえるものの、そもそも上記(イ)で述べた「パスガイドロール」の機能・作用(特に「転写ロール」と「基材」を接触させるように動作する点)を開示するものでないことから、甲1発明に上記技術を適用したとしても、上記相違点に係る構成を得ることはできない。 さらにいえば、甲1発明における「回転軸n1」又は「回転軸n2」の巻き込み動作時の軌跡は、下降する「転写ロール3」によって「挟持ロール2a、2c」がそれぞれ左右に押し広げられる程度の長さであって(甲第1号証の図1)、そのような軌跡を横切るように、かつ、巻き込み動作を妨げることなく他のロールを配置することは甲1発明の構造上困難であるとも考えられる。よって、甲1発明に上記技術を適用し、上記軌跡を横切るように「パスガイドロール」を配置することは、当業者といえども容易ではないといえる。 b 甲第3号証には、光学フィルムの製造装置において、凹凸転写手段であるロールのうち少なくとも1つのロールを位置変更可能な可動式とすることで、製造ラインにおいて光学フィルムを連続的に製造しているとき、可動式ロールの位置を変更することにより、製造ラインを止めることなく、可動式ロールの取り外し・交換および取り付け位置の調整が可能である技術が実施例と共に記載されている。(【0011】【0012】) しかしながら、上記技術についても、上記aと同様の議論が成り立つ。 (エ)したがって、上記相違点に係る本件特許発明1の構成は、甲1発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、本件特許発明1は、甲1発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2?8について 本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、製造方法の発明である本件特許発明3は、本件特許発明1とは発明のカテゴリーが異なる独立した発明であるが、本件特許発明1をさらに減縮したものであると認められるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明、及び、甲第2号証又は甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件特許発明3を引用する本件特許発明4?8についても同様である。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件特許発明1?8に係る特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。 第5 理由2(特許法第36条第6項第1号)について 1 本件明細書の記載 本件明細書には、以下の記載がある。 (1)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 特許文献1から特許文献3では、いずれも、フィルムを転写ロールに接触させるときに、フィルムによって転写ロールの表面に擦過痕をつけてしまうことについての課題認識がなく、したがってそれを解決する手段も提示されていない。 【0008】 本発明は、上記説明した問題点に鑑みてなされたものであり、フィルム状の基材の表面を転写ロールの外周面に接触させるときに、基材によって転写ロールの外周面に擦過痕がつくのを防止できるフィルム状微細構造転写装置及びフィルム状微細構造体の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明のフィルム状微細構造転写装置は、微細凹凸パターンが外周面に形成された転写ロールと、長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して前記転写ロールに接離可能に設けられ、前記転写ロールに接近した場合に前記基材を前記転写ロールと共に挟持する、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロールと、前記基材のパスライン及び前記ニップロールの移動線を横切って移動し、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側又は後側の少なくともいずれか一方に設けられたパスガイドロールと、を具備することを特徴とする。 【0010】 この構成によれば、パスガイドロールにより、基材と転写ロールとの接触を回避し、通紙時の転写ロールへの擦過を防止することができる。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0023】 以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨の範囲内で種々変形して実施することができる。 【0024】 本実施の形態は、フィルム状微細構造体の製造開始時に、転写ロールの外周面がフィルム状の基材に接触して、転写ロールの外周面に擦過痕が生じるのを防止するものである。」 (3)「【0027】 そこで、本実施の形態は、転写工程に先立って、転写ロールの微細凹凸パターンが形成された外周面と、フィルム状の基材の表面とを、前記基材の面方向から当接させる当接工程を、基材に張力をかけながら行うことにより、転写ロールの外周面への擦過を防止する。 【0028】 以下、本実施の形態に係るフィルム状微細構造体の製造方法について、本実施の形態の転写装置を参照しながら説明する。本実施の形態では、フィルム状モールドを例に挙げて説明する。 【0029】 (第1のフィルム状モールド作製工程) 図1は、本実施の形態に係る第1のフィルム状モールドの製造方法に用いられる転写装置の概略図である。 【0030】 図1に示す転写装置100は、モールド基材101を繰出す繰出し駆動部102と、モールド基材101を巻取る巻取り駆動部104とを備える。繰出し駆動部102と巻取り駆動部104との間には、モールド基材101の搬送方向MDにおける上流側から下流側に向けて順に、モールド基材101上に光硬化性樹脂を塗布する塗布手段105と、ガイドロール106と、外周面に微細凹凸パターンを有する転写ロール(円筒状金型)107と、モールド基材101上の光硬化性樹脂と転写ロール107の外周面との間を密着させるニップロール108a、108bからなる押圧手段108と、光硬化性樹脂に光を照射する光源109とが設けられている。 【0031】 なお、溶媒を用いて光硬化性樹脂を塗布する場合には、光硬化性樹脂中の溶媒を乾燥する乾燥炉111をさらに備えていても良い。 【0032】 ここで、ニップロール108a、108bは、長尺方向(搬送方向MD)に走行するモールド基材101を介して転写ロール107に接離可能に設けられている。例えば、図1に示すように、ニップロール108aは移動線Iに沿って移動する。 【0033】 また、転写ロール107のモールド基材101の搬送方向前側には、パスガイドロール112が、モールド基材101のパスライン(搬送経路)、及び、モールド基材101の搬送方向前側に設けられた前側のニップロール108aの移動線Iを横切って移動可能に設けられている。すなわち、パスガイドロール112は、本実施の形態においては、前側のニップロール108aが、転写ロール107から離間した状態において、前側のニップロール108aと転写ロール107との間のモールド基材101のパスラインに対し、上方の第1の位置A(図1中一点破線で示す)と、下方の第2の位置B(図1中実線で示す)の間で移動可能に構成されている。つまり、第1の位置とは、パスガイドロール112がモールド基材101に当接していない状態となる位置であり、第2の位置とは、パスガイドロール112がモールド基材101に当接し、モールド基材101を転写ロール107から引き離した状態となる位置である。 【0034】 さらに、転写ロール107に対して、モールド基材101の搬送方向前側に設けられた前側のニップロール108aと、繰出し駆動部102との間に、第1ブレーキ部113が設けられている。一方、転写ロール107に対して、モールド基材101の搬送方向後に設けられた後側のニップロール108bと、巻取り駆動部104との間に、第2ブレーキ部114が設けられている。 【0035】 上記のような構成からなる転写装置100を用いて、次のように第1のフィルム状モールドを作製する。 【0036】 (当接工程) 本実施の形態では、転写工程に先立って、転写ロール107の微細凹凸パターンが形成された外周面と、モールド基材101の表面とを、モールド基材101の面方向から当接させる。この工程を当接工程と呼ぶ。 【0037】 図2?図6は、本実施の形態に係る第1のフィルム状モールドの製造方法に用いられる転写装置の概略図であり、特に当接工程を示している。図2に示すように、パスガイドロール112を、第2の位置に配置する。この状態で、モールド基材101を繰出し駆動部102から繰出し、図2中一点鎖線で示すようにモールド基材101を通紙する。つまり、モールド基材101をパスガイドロール112にかかるようにして、転写ロール107に当接させることなく、通紙する。 【0038】 次に、図3に示すように、第1ブレーキ部113及び第2ブレーキ部114をON状態にする。次いで、繰出し駆動部102及び巻取り駆動部104を動作させる。この際の繰出し駆動部102及び巻取り駆動部104は、トルク30Nで駆動する。 【0039】 次に、図4に示すように、第1ブレーキ部113をOFF状態にし、パスガイドロール112を第1の位置に移動させ、モールド基材101を転写ロール107に当接させる。次いで、モールド基材101の搬送方向前側に設けられた前側のニップロール108aで、モールド基材101を転写ロール107の外周面に圧着する。 【0040】 次に、図5に示すように、第1ブレーキ部113をON状態にし、第2ブレーキ部114をOFF状態にする。そして、モールド基材101の搬送方向後側に設けられた後側のニップロール108bで、モールド基材101を転写ロール107の外周面に圧着する。 【0041】 次に、図6に示すように、第2ブレーキ部114をON状態にする。この結果、転写ロール107の微細凹凸パターンが形成された外周面と、フィルム状のモールド基材の表面とを、前記モールド基材の面方向から当接させ、且つ、モールド基材101に張力をかけけることができる。 【0042】 以上説明したように、当接工程において、図2に示すように、パスガイドロール112により、モールド基材101と転写ロール107との接触を回避し、通紙時の転写ロール107への擦過を防止することができる。 【0043】 また、当接工程において、モールド基材101に張力をかけることにより、モールド基材101の搬送方向の移動を抑制し、擦過痕を防止することができると共に、転写ロール107に当接されるニップロール108a、108bの速度が抑えられ、衝撃が緩和されることで、転写ロール107のダメージを軽減することができる。」 (4)「【0049】 まず、当接工程では、パスガイドロール112を、モールド基材101を転写ロール107から引き離された状態になる第1の位置から、モールド基材101が転写ロール107に当接した状態になる第2の位置に移動させる際、モールド基材101の弛みによる転写ロール107の擦過を防止するために、モールド基材101の余剰分を繰出し駆動部102によって巻き取ることで、常に張力をかける。次いで、張力を維持した状態で、モールド基材101をニップロール108aによって固定する。この固定により、モールド基材101にブレーキをかけることができる。 【0050】 同様に、転写ロール107とニップロール108bによって、転写ロール107と巻取り駆動部104の間のモールド基材101を固定するために、第2ブレーキ部114を解除する。この解除により、モールド基材101の余剰分を巻取り駆動部104によって巻き取ることで、常に張力をかけることができる。次いで、張力を維持した状態で、モールド基材101をニップロール108bによって固定する。この固定により、モールド基材101にブレーキをかけることができる。 【0051】 当接工程では、モールド基材101の一部を第1ブレーキ部113又は第2ブレーキ部114で固定し、転写ロール107を挟んで反対側の繰出し駆動部102により、モールド基材101の余剰分を一方向で巻き取ることで、転写ロール107とモールド基材101との当接部でのMD方向の移動を抑制し、停止した転写ロール107に擦過なく当接することが望ましい。 【0052】 上記のように、第1ブレーキ部113又は第2ブレーキ部114で固定し、転写ロール107を挟んでそれぞれの反対側の巻取り駆動部104又は繰出し駆動部102により、モールド基材101の余剰分を一方向で巻き取ることで、転写ロール107にモールド基材101が当接した状態を保持することでMD方向の移動を抑制し、停止した転写ロール107に擦過なく当接することが可能である。」 (5)「【0080】 本実施の形態では、パスガイドロール112を、転写ロール107と前側のニップロール108aとの間に配置しているが、転写ロール107と後側のニップロール108bとの間に配置しても良いし、これらの両方に配置しても良い。」 (6)図1は次のものである。 (7)図2は次のものである。 (8)図3は次のものである。 (9)図4は次のものである。 (10)図5は次のものである。 (11)図6は次のものである。 2 本件特許発明1について (1)判断 ア 本件特許発明1は、先行技術文献では「フィルムを転写ロールに接触させるときに、フィルムによって転写ロールの表面に擦過痕をつけてしまうこと」(【0007】)を課題としていると認められる。 イ そして、本件特許発明1は、上記課題の課題解決手段として、 A「長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して前記転写ロールに接離可能に設けられ、前記転写ロールに接近した場合に前記基材を前記転写ロールと共に挟持する、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロール」(以下、「構成A」という。)と、 B「前記基材のパスライン及び前記ニップロールの移動線を横切って移動し、前記転写ロールの前記基材の搬送方向前側又は後側の少なくともいずれか一方に設けられたパスガイドロール」(以下、「構成B」という。) を備えているものと解される。(【0009】) ウ そこで、上記課題解決手段により上記課題が解決できることを、当業者が認識できるか否かについて検討する。 本件明細書には、「転写行程に先立って」「当接行程」を設け(【0036】)、該当接行程において転写装置100に「モールド基材101を通紙する」際(【0037】)、「パスガイドロール112」を「モールド基材101のパスライン(搬送経路)、及び、モールド基材101の搬送方向前側に設けられた前側のニップロール108aの移動線Iを横切って移動」させておくことで(【0033】、図1)、「モールド基材101と転写ロール107との接触を回避し、通紙時の転写ロール107への擦過を防止する」とともに(【0042】)、モールド基材101を転写ロール107に当接させる際、「モールド基材101」を「固定し」(【0051】)、「停止した転写ロール107」に対し(【0051】【0052】)、「ニップロール108a、108b」を転写ロール107に接近させてモールド基材101を当接させることで、転写ロールへの「衝撃」を「緩和」し、「ダメージを軽減」した(【0043】)点が記載されていると認められる。また、【0080】には「パスガイドロール112を」「転写ロール107と後側のニップロール108bとの間に配置しても良いし、これらの両方に配置しても良い」と記載されている。 つまり、本件明細書には、“転写ロール(転写ロール107)の基材(モールド基材101)の搬送方向前側(又は後側の少なくともいずれか一方)に設けられたパスガイドロール(パスガイドロール112)”を“基材のパスライン及びニップロール(ニップロール108a)の移動線(移動線I)を横切って移動”させておくことで通紙時の転写ロールへの擦過を防止するとともに、“転写ロールの基材の搬送方向前側及び後側にそれぞれ設けられた一対のニップロール(ニップロール108a、108b)”を“長尺方向に走行するフィルム状の基材を介して転写ロールに接離可能に設け”、“転写ロールに接近した場合(転写ロールに基材を当接させる場合)に基材を転写ロールと共に挟持する”ことで転写ロールへの衝撃を緩和し、ダメージを軽減する点が記載されているといえる。 エ そうすると、当業者であるなら、上記課題が構成A及びBによって解決できることを認識できる。 (2)申立人の主張について ア 申立人は、申立書において下記(ア)の主張をしている。 (ア)「本件特許発明1、2及び3に係る構成では、前記基材の搬送と前記転写ロールの回転とを同期させた状態で前記基材と前記転写ロールとを当接させることを必須としていないので、本件特許発明1、2及び3の課題を解決し得ると当業者が理解することはできないと考える。 事実、本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、図3?7に示された動作のように、「転写ロール107」の上流側に位置する一対のローラによる「第1ブレーキ部113」と、「転写ロール107」の下流側に位置する一対のローラによる「第2ブレーキ部114」とにより、搬送されながら移動し「転写ロール107」に当接される「モールド基材101」の搬送(移動)を適宜止め、「モールド基材101」の搬送方向が直線状にならないように、「モールド基材101」と「転写ロール107」との接触面積が大きくなるように(図4から図5の動作参照)「モールド基材101」に張力をかけながら「転写ロール107」に接触させルールことによって、「転写ロール107」の回転と「モールド基材101」の搬送(移動)とを同期させており、これによって、「転写ロール107」と「モールド基材101」との当接の際に、「転写ロール107」表面における微細凹凸パターンに、接触の衝撃が加わらないようにして、前記課題を解決しているものと理解できる。」 (申立書11頁2行?19行) (イ)上記(ア)の主張について検討する。 申立人は、本件特許発明1は基材の搬送と転写ロールの回転とを同期させた状態で基材と転写ロールとを当接させることを必須としていないことから、上記課題を解決し得ることを当業者が理解できない旨を主張する。しかしながら、上記(1)ウにおいて述べたように、そもそも当接行程は、ブレーキ部113、114によってモールド基材101を固定し(【0051】【0052】)、転写ロール107を停止した状態で行うものであるから(【0051】【0052】)、基材と転写ロールの当接を、基材を搬送し、転写ロールを回転した状態で行うとする上記主張は、失当である。 よって、申立人の主張は採用できない。 (3)小括 したがって、本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 3 本件特許発明2?3について 本件特許発明2は、本件特許発明1に従属し、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件特許発明1と同様の理由(上記2参照)により、本件特許発明2は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 また、製造方法の発明である本件特許発明3は、本件特許発明1とは発明のカテゴリーが異なる独立した発明であるが、構成A及びBに相当する構成を備えていると認められるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 4 まとめ よって、本件特許発明1?3に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているので、同法第113条第4号により取り消すことができない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2020-07-30 |
出願番号 | 特願2014-263794(P2014-263794) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 今井 彰 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
佐藤 洋允 山村 浩 |
登録日 | 2019-09-27 |
登録番号 | 特許第6591161号(P6591161) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | フィルム状微細構造転写装置及びフィルム状微細構造体の製造方法 |
代理人 | 三輪 正義 |
代理人 | 天田 昌行 |
代理人 | 青木 宏義 |