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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E02F |
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管理番号 | 1364976 |
判定請求番号 | 判定2020-600006 |
総通号数 | 249 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2020-09-25 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2020-02-25 |
確定日 | 2020-07-31 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5688353号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号図面及びその説明書に示す「浚渫機」は、特許第5688353号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨及び手続きの経緯 1 請求の趣旨 請求人の請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す浚渫機(以下、「イ号物件」という。)は、特許第5688353号発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。 2 手続の経緯 平成23年 9月26日 特許出願(特願2011-209670号) 平成27年 1月30日 特許設定登録 令和 2年 2月25日 本件判定請求書の提出 同 年 4月10日 判定請求答弁書の提出(被請求人) 第2 本件特許発明 1 請求人が上記判定を求める特許第5688353号に係る特許発明(以下「本件特許発明」という。)は、願書に添付した明細書(以下「特許明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、その構成を構成要件毎に符号を付して分説すると、次のとおりである(以下、分説した各構成要件を「構成要件A」ないし「構成要件K」という。)。 下記分説については、請求人及び被請求人の間に争いはない。 「A 浚渫対象を掘削する掘削手段を有する浚渫船であって、 B ジブと、 C 前記掘削手段であるグラブバケットと、 D 前記グラブバケットを支持ワイヤを介して支持する支持ドラムと、 E 前記支持ドラムを駆動するモータと、 F 電力を発生させるエンジン発電機と、 G 前記モータと前記エンジン発電機との間に設けられ、前記エンジン発電機で発生した電力を調整する第1のコンバータと、 H 前記モータと前記第1のコンバータとの間に設けられ、前記モータの動作を制御するインバータと、 I 前記エンジン発電機と並列に設けられ、前記モータからの回生電力を蓄電する蓄電器と、 J 前記インバータと前記蓄電器との間に設けられ、前記蓄電器から送り出される電力を調整する第2のコンバータと、 K を備えることを特徴とする浚渫船。」 2 本件特許発明の目的及び効果 本件特許明細書の記載によれば、本件特許発明は、「回生電力を有効利用できる浚渫船の提供」(段落【0006】)を目的とし、「モータからの回生電力を蓄電器に蓄電して利用することができる。」(段落【0008】)、「この浚渫船では、回生電力を蓄電器に蓄え、必要に応じて蓄電器に蓄えた回生電力を利用するようにした。これにより、従来は熱に変換して捨てていた回生電力を有効に利用でき、エネルギー利用効率を向上させることができる。すなわち、エンジンの燃費を向上させることができる。また消費電力の一部を蓄電器側に負担させるため、その分エンジン発電機の負担電力を減少させることができ、エンジンを小型化することができる。エンジンを小型化することで、浚渫船の本体の大型化を防ぐこともできる。」(段落【0020】)という効果を奏するものである。 第3 請求人の主張 1 請求人が提出した証拠方法 請求人からは、以下の書証が提出されている。 (1)甲第1号証 特許第5688353号公報(本件特許公報) (2)甲第2号証 本件特許発明の審査過程における平成26年6月1 0日付け拒絶理由通知書 (3)甲第3号証 実願昭61-195136号(実開昭63-100 554号)のマイクロフィルム (4)甲第4号証 特開2009-11021号公報 (5)甲第5号証 本件特許発明の審査過程における平成26年8月4 日付け手続補正書 (6)甲第6号証 本件特許発明の審査過程における平成26年8月4 日付け意見書 (7)甲第7号証 東亜建設工業株式会社「深層混合処理船「黄鶴」」 作業船 Workvessel、社団法人日本作業 船協会、No.299、平成22年4月23日発行 、表紙、奥付、第3頁?第8頁の写し (8)甲第8号証 矢野州芳「環境に配慮した作業船技術研究委員会」 作業船 Workvessel、社団法人日本作業 船協会、No.304、平成23年7月25日発行 、表紙、奥付、第34頁?第39頁の写し (9)甲第9号証 特開2000-328594号公報 (10)甲第10号証 特開2010-248719号公報 (11)甲第11号証 三浦拓「建築用タワークレーンのハイブリッド化」 クレーン、第46巻11号、平成20年11月1日 発行、表紙、奥付、第15頁?第19頁の写し (12)甲第12号証 佐藤宗史、他3名「省エネ型ハイブリッドトランス テーナの開発」三井造船技報、No.192、20 07年11月発行、第8頁?第12頁の写し 2 請求人によるイ号物件の特定事項の構成 請求人は、判定請求書(以下「請求書」という。)に添付したイ号製品説明書の第1頁「2 構成の説明」において、以下のとおり、イ号製品の特定事項の構成を説明している。 なお、請求書第21頁下から2行目には、「なお、イ号製品の特定については当事者間で合意済みである。」と記載されている。 「I グラブ浚渫船に装備したクレーンのジブから吊支したグラブバケットと、 II グラブバケットを支持する支持ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤを連結する支持ドラムと、 III グラブバケットを開閉操作する開閉ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤと常時噛合する開閉ドラムギヤを連結する開閉ドラムと、 IV 減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤ及び開閉ドラムギヤを介して支持ドラム及び開閉ドラムを駆動する電動機と、 V 電動機に電力を供給するエンジン発電機と、 VI 電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータと、 VII エンジン発電機と並列に設けられ、電動機からの回生電力を蓄電・放電する蓄電器と、 VIII インバータと蓄電器との間に設けられた昇圧コンバータと、 IX を備えたグラブ浚渫機。」 3 請求人の主張の概要 請求人は、請求書において、概ね次の理由により、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない旨を主張している。 (1)本件特許発明とイ号物件とは、次の相違点において相違する。 ア 相違点1 イ号製品は電動機として、「減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤ及び開閉ドラムギヤを介して支持ドラム及び開閉ドラムを駆動する電動機」(特定事項IV)を採用しており、その前提として、支持ドラムギヤと開閉ドラムギヤを常時噛合させている(特定事項III)。そのため、イ号製品では電動機で支持ドラムと開閉ドラムの双方を駆動し、支持ロープ及び開閉ロープを同速度で繰り出し・巻き取るのに対して、本件特許発明ではそのように構成されているか否か不明である点。 即ち、イ号製品では同一の電動機から支持ドラムと開閉ドラムの双方の駆動力を供給しており、かつ、常時噛合している支持ドラムギヤと開閉ドラムギヤを介して、支持ドラムと開閉ドラムが連結されているのに対して、本件特許発明では、支持ドラムと開閉ドラムの連結の有無、開閉ドラムの駆動源を発明特定事項としていない。(請求書第23頁下から3行?第24頁第12行) イ 相違点2 イ号製品では、「電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」(特定事項VI)を採用しているのに対し、本件特許発明では、「モータとエンジン発電機との間に設けられ、エンジン発電機で発生した電力を調整する第1のコンバータ」(発明特定事項G)及び「モータと第1のコンバータとの間に設けられ、モータの動作を制御するインバータ」(発明特定事項H)を発明特定事項としている点。 即ち、イ号製品では、インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つ1台のインバータを採用しているのに対し、本件特許発明では「第1のコンバータ」と「インバータ」をそれぞれ個別の別部材とすることを発明特定事項としている。(請求書第24頁第13行?最下行) ウ 相違点3 イ号製品では、「インバータと蓄電器との間に設けられた昇圧コンバータ」(特定事項VIII)を採用しているのに対し、本件特許発明では、「インバータと蓄電器との間に設けられ、蓄電器から送り出される電力を調整する第2のコンバータ」(発明特定事項J)を発明特定事項としている点。 即ち、イ号製品では、インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つ1台のインバータと蓄電器との間に昇圧コンバータを採用しているのに対し、本件特許発明では「第1のコンバータ」とは別個に「インバータ」と蓄電器との間に装備した「第2のコンバータ」を発明特定事項としている。(請求書第25頁第1?11行) (2)相違点についての主張 ア 相違点1について (ア)本件特許発明における「支持ドラムを駆動するモータ」(発明特定事項E)の技術的意義は、明細書の記載を考慮すれば「回生電力を発電するためのモータ」(本件特許発明では支持ドラムだけを駆動するモータ)として解釈するものであって、イ号製品の支持ドラムと共に開閉ドラムを駆動するモータは含まれないと解釈するのが相当である。即ち、本件特許発明の明細書には、開閉ドラムの駆動源としてのモータは本件特許発明の発明特定事項としての支持ドラムを駆動するモータとは異なるモータを装備していることが明記されており、技術思想として、開閉ドラムからの運動エネルギーを電力回生に利用することを除外している。(請求書第第29頁第6行?第15行) (イ)なお、グラブバケットの巻下時の荷重の主体は、支持ロープに掛かるため、イ号製品は、本件特許発明による支持ドラムから得られる運動エネルギーに、従たる存在の開閉ドラムから得られる運動エネルギーを付加したものに過ぎず、支持ドラムから運動エネルギーを得るという本件特許発明の発明特定事項を充足することに変わりないとの立論も考えられる。しかしながら、イ号製品は電力として回生可能なグラブバケットの運動エネルギーを漏れなく、即ち、主体となる運動エネルギーとともに、従たる運動エネルギーであっても、その量に関わりなく電力回生のために利用するための具体的な構成を採用した浚渫機であり、電力として回生可能なグラブバケットの運動エネルギーの内、主体となる運動エネルギーのみを利用する本件特許発明とは、具体的な課題を解決する技術思想として、その本質を異にしている。(請求書第29頁下から8行?第30頁第5行) (ウ)イ号製品の電動機と、本件特許発明のモータとは、駆動源としては同一の部材を意味するものの、課題解決手段としては電力を供給する対象物を異にするため、明細書の記載や公知技術に基づいて解釈される本件特許発明の技術的本質に照らせば、イ号製品は本件特許発明の発明特定事項Eを充足していない。(請求書第30頁第13?17行) イ 相違点2及び3について (ア)本件特許発明は、「モータとエンジン発電機との間に設けられ、エンジン発電機で発生した電力を調整する第1のコンバータと、」(発明特定事項G)及び「モータと第1のコンバータとの間に設けられ、モータの動作を制御するインバータと、」(発明特定事項H)と特定しているように、第1のコンバータ(第1コンバータ46)と、インバータ(インバータ52)を個別に設置することを発明特定事項としている。更に、明細書,図面には「第1コンバータ46」は「駆動源18」を構成するものの、「インバータ52」は「駆動源18」には含まないとして、両者の技術的意義を区別している。即ち、「駆動源18」に含まれる「第1コンバータ46」と、含まれない「インバータ52」とは別の機能を有する別部材であることを出願人自らの意思によって本件特許発明の技術的な外延として発明特定事項としている。第三者はこの発明特定事項によって示された本件特許発明の外形を信用して技術的範囲を判断するしかないのである。(請求書第30頁下から8行?第31頁第7行) (イ)本件特許発明では、駆動源に含まれる「第1コンバータ」と駆動源に含まれない「インバータ」を出願人自ら区別して個別に設置するとして特定している。また、「第1のコンバータ」と「インバータ」が個別に設置されていることを前提として、発明特定事項Jにおいて、「インバータと蓄電器との間」に「第2のコンバータ」を設けることを特定している。(請求書第31頁下から5行?第32頁第1行) (ウ)本件特許発明の明細書に記載されておらず、かつ、出願人が自らの意思と判断で特定した発明特定事項と異なるインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つ「インバータ」を採用しているイ号製品は、特許請求の範囲の記載を外形的に信用した第三者の実施を妨げたり、本件特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できた技術に及ぶような本件特許発明の技術的範囲の解釈が許されないことに照らして、発明特定事項G、H、Jを充足しないことは明らかである。(請求書第32頁第16?24行) (3)本件特許発明の技術的範囲とイ号製品の均等 イ号製品は、相違点2,3に関して、本件特許発明の発明特定事項G,H,Jを文言上も充足していない。そこで、相違点2,3に関して、均等論の「第4要件:対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一、または公知技術から容易に推考できたものではないこと。」及び「第5要件:対象製品等が特許発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと。」の成立の可否について付言しておく。(請求書第32頁最下行?第33頁第9行) ア 均等論第4要件 イ号製品は、「作業船No.299」(当審注:甲第8号証)「作業船No.304」(当審注:甲第9号証)に記載された技術と同一か、或いは甲第9号証,甲第10号証や引用文献1等のグラブ浚渫船に搭載されたグラブ浚渫機についての公知技術に、「作業船No.299」「作業船No.304」及び引用文献2を組み合わせることによって、或いはその他の周知技術を適用することによって、当業者がイ号製品の解決課題を設定し、その解決手段に至ることは容易である。よって、イ号製品は、本件特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できた技術そのものであり、均等論第4要件を欠く従来技術そのものである。よって、イ号製品について本件特許発明と均等であるとの立論は成立しない。(請求書第33頁第10?21行) イ 均等論第5要件 相違点2,3に関する本件特許発明の発明特定事項G,H,Jは出願人自らの意思によって本件特許発明の技術的な外延を示す事項として特許請求の範囲に記載した事項であり、本件特許発明の審査過程における手続補正においてもそのまま維持した事項であって、第三者はこの本件特許発明によって本件特許発明の技術的範囲を判断するしかない。そのため、相違点2,3に示すインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つイ号製品の「インバータ」は出願人によって特許請求の範囲から意識的に除外された事項である。よって、この点においてもイ号製品について本件特許発明と均等であるとの立論は成立しない。(請求書第33頁第22行?第34頁第3行) 第4 被請求人の主張 1 被請求人が提出した証拠方法 被請求人は、判定請求答弁書(以下「答弁書」という。)とともに、以下の書証を提出している。 (1)乙第1号証 「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」説明書 (被請求人が、請求人から被請求人に提示されたイ号製品の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」説明書であると説明しているもの。答弁書第13頁第2?3行) 2 被請求人の主張の概要 被請求人は、答弁書において、概ね次のように、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属する旨を主張している。 (1)請求人が主張する相違点1について ア 相違点1は、本件特許発明の発明特定事項Eとイ号製品の特定事項IVを対比したものであるが、イ号製品の特定事項III、IVを以下のように特定して対比することで、一致点および相違点がより明確になると思料する。 「III’グラブバケットを開閉操作する開閉ロープを繰出・巻取可能に巻回する開閉ドラムと、 IVa 減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤを介して支持ドラムを駆動する電動機と、 IVb 支持ドラムギヤと常時噛合して開閉ドラムを駆動する開閉ドラムギャと、」(答弁書第6頁第3?11行) イ 請求人が主張するように、本件特許発明は、開閉ドラムの連結の有無、開閉ドラムの駆動源を発明特定事項としていない。つまり、本件特許発明は、イ号製品の上記特定事項IVbの「支持ドラムギヤと常時噛合して開閉ドラムを駆動する開閉ドラムギヤ」を発明特定事項として備えない。発明特定事項として記載されていないイ号製品の特定事項は、本件特許発明との相違点とはなり得ないため、本件特許発明とイ号製品の間に相違点1は存在しない。 また、請求人が主張するように、イ号製品は、上記特定事項IVa「支持ドラムを駆動する電動機」を備える。したがって、イ号製品は、発明特定事項Eを充足する。(答弁書第6頁第12?20行) (2)請求人が主張する相違点2について ア イ号製品の特定事項VI?VIIIは、以下のように特定できる。 「VIa 電動機とエンジン発電機との間に設けられ、エンジン発電機で発生した交流電力を直流電力に変換するコンバータ機能と、 VIb 電動機とコンバータ機能の間に設けられ、i)電動機の駆動時に直流電力を交流電力に変換し、交流電力を電動機に供給して電動機の動作を制御し、ii)電動機の回生時に電動機からの交流電力を直流電力に変換するインバータ機能と、 VII エンジン発電機と並列に設けられ、電動機からの回生電力を蓄電・放電する蓄電器と、 VIII’ インバータ機能と蓄電器との間に設けられ、i)電動機の駆動時に蓄電器から送り出される直流電力を昇圧するように調整し、昇圧された直流の回生電力をインバータ機能に供給し、ii)電動機の回生時にインバータ機能から供給される直流電力を蓄電器に供給する昇圧コンバータと、」(答弁書第14頁第1?15行) イ 発明特定事項Gの第1コンバータは「電力を調整する」のに対し、特定事項VIaのコンバータ機能では「交流電力を直流電力に変換する」点で相違する。ここで、発明特定事項Gの「電力を調整する」を上記考察に基づいて解釈すれば、「交流電力を直流電力に変換する」ことを意味することは明らかである。 したがって、イ号製品の特定事項VIaは、本件特許発明の発明特定事項Gと一致する。(答弁書第14頁下から6行?第15頁第1行)。 ウ イ号製品のインバータ機能は、「電動機とコンバータ機能の間に設けられ、電動機の動作を制御する」と言える。 したがって、イ号製品の特定事項VIbは、本件特許発明の発明特定事項Hと一致する。(答弁書第15頁第10?13行)。 (3)請求人が主張する相違点3について イ号製品の昇圧コンバータは、「インバータ機能と蓄電器との間に設けられ、蓄電器から送り出される直流電力を昇圧するように調整する」と言える。 したがって、イ号製品の特定事項VIII’は、本件特許発明の発明特定事項Jと一致する。(答弁書第15頁下から4行?第16頁第1行) (4)均等論について ア イ号製品は、本件特許発明の技術的範囲に属するため、均等侵害を検討する必要性はないが、均等論について簡単に検討する。(答弁書第19頁第10?11行) イ 均等論の第1要件?第3要件について (ア) 相違点1について 本件特許発明の技術的範囲の解釈において、イ号製品の特定事項IVb「支持ドラムギヤと常時噛合して開閉ドラムを駆動する開閉ドラムギヤ」を本件特許発明が備えるか否かが不明である。 しかしながら、本件特許発明の本質は、「グラブ浚渫船の支持ドラムを駆動するモータ」にハイブリッドシステムを適用する点にあり、「支持ドラムギヤと常時噛合して開閉ドラムを駆動する開閉ドラムギヤ」は本件特許発明の本質的部分ではない。したがって、相違点1は、均等論の第1要件を充足する。 また、「支持ドラムギヤと常時噛合して開閉ドラムを駆動する開閉ドラムギヤ」の有無によらず、「グラブバケットの昇降に回生電力を利用する」という本件特許発明の目的を達成することができる。したがって、相違点1は、均等論の第2要件を充足する。 請求人は、イ号製品の特定事項III、IVについて「甲第9号証、甲第10号証や引用文献1 (甲第3号証)に示された周知技術である」と主張する。 したがって、周知技術である相違点1の構成を本件特許発明に適用することは、イ号製品の製造時点において容易に想到できる。 以上より、相違点1は、均等論の第1要件?第3要件の全てを充足する。(答弁書第19頁下から8行?第20頁第9行) (イ) 相違点2及び3について 本件特許発明の技術的範囲の解釈において、イ号製品の特定事項VI「電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」を本件特許発明が備えるか否かが不明である。 しかしながら、本件特許発明の本質は、モータの回生電力を利用するために、インバータ、第1コンバータ、第2コンバータのそれぞれの機能が実現される点にあり、これらが一体型であるか否かは本件特許発明の本質的部分ではない。したがって、相違点2、3は、均等論の第1要件を充足する。 また、一体型のインバータであるか否かによらず、「グラブバケットの昇降に回生電力を利用する」という本件特許発明の目的を達成することができる。したがって、相違点2、3は、均等諭の第2要件を充足する。 請求人は、イ号製品の特定事項VI?VIIIについて「甲第11号証、甲第12号証や引用文献2 (甲第4号証)に示された周知技術に過ぎない」と主張する。したがって、周知技術である相違点2、3の構成を本件特許発明に適用することは、イ号製品の製造時点において容易に想到できる。 以上より、相違点2、3は、均等論の第1要件?第3要件の全てを充足する。(答弁書第20頁第10行?下から2行) ウ 第4要件及び第5要件について イ号製品は、本件特許発明と同様、「グラブ浚渫船の支持ドラムを駆動するモータ」にハイブリッドシステムを適用することを特徴としており、その点において公知技術と同一ではなく、公知技術から容易に推考できたものでもない。したがって、均等論の第4要件を充足する。 また、本件特許の審査過程において、イ号製品を意識的に除外しようとする特段の事情等は何ら存在しない。したがって、均等綸の第5要件も充足する。(答弁書第21頁第3?8行) エ まとめ 上述の通り、請求人が主張する相違点1?3は、均等論の第1要件?第5要件の全てを充足する。したがって、本件特許発明とイ号製品の間に相違点1?3の少なくとも一つが存在したとしても、イ号製品の特定事項は、本件特許発明の発明特定事項と均等であり、イ号製品は、本件特許発明の技術的範囲に属する。(答弁書第21頁第9?13行) 第5 イ号物件の認定 1 請求書に添付したイ号製品説明書及びイ号図面の記載 (1)イ号製品説明書 ア イ号製品説明書には、上記第3の2で示した請求人が主張するイ号製品の特定事項の構成が説明されている。 イ イ号製品説明書の第4頁第4?9行 「(5)蓄電器からのアシスト時は、エンジン発電機で発電した交流電力をインバータに供給し、そのコンバータ機能によって昇圧させることなく直流電力に変換するとともに、該直流電力に、蓄電器から昇圧コンバータに供給して昇圧させた直流の回生電力を合流させ、該合流させた直流電力をインバータのインバータ機能によって交流電力に変換してから電動機に供給する。」 (2)イ号物件の認定 上記(1)アの事項からみて、イ号物件は次の構成を具備するものである(以下、分説した各構成を「構成abc」ないし「構成k」という。)。 「abc グラブ浚渫船に装備したクレーンのジブから吊支したグラブバケットと、 d-1 グラブバケットを支持する支持ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤを連結する支持ドラムと、 d-2 グラブバケットを開閉操作する開閉ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤと常時噛合する開閉ドラムギヤを連結する開閉ドラムと、 e 減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤ及び開閉ドラムギヤを介して支持ドラム及び開閉ドラムを駆動する電動機と、 f 電動機に電力を供給するエンジン発電機と、 gh 電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータと、 i エンジン発電機と並列に設けられ、電動機からの回生電力を蓄電・放電する蓄電器と、 j インバータと蓄電器との間に設けられた昇圧コンバータと、 k を備えたグラブ浚渫機。」 第6 当審の判断 1 対比・判断 (1)本件特許発明の各構成要件とイ号物件の各構成との対比・判断 イ号物件が本件特許発明の構成要件AないしKを充足するか否かについて、構成要件AないしKをイ号物件の構成abcないし構成kにそれぞれ対応させて、対比検討する。 ア 構成要件Aについて (ア)本件特許発明の構成要件A「浚渫対象を掘削する掘削手段を有する浚渫船」は、構成要件Kとともに、本件特許発明が「浚渫船」に係る発明であることを特定する。 そして、本件特許発明の目的は、「回生電力を有効利用できる浚渫船の提供」(段落【0006】)であるから、浚渫船を提供することが目的である。 一方、イ号物件は、構成kに記載のように「グラブ浚渫機」である。 イ号物件の構成abcにおける「グラブ浚渫船」は、「グラブ浚渫機」のクレーンが装備される対象を特定するものであり、イ号物件が「浚渫船」であることを特定するものではない。 また、イ号製品説明書には、イ号物件が浚渫船であることや浚渫船を提供することを目的とすることを説明する記載はない。 そうすると、イ号物件は、「グラブ浚渫機」であって「浚渫船」ではない。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Aを充足しない。 (イ)請求人及び被請求人の主張について 請求人は、「イ号製品は、本件特許発明の発明特定事項A,B,C,D,F,I,Kを充足する。」(請求書第23頁下から6行?下から5行)と説明している。 また、被請求人は、本件特許発明の構成要件Aについて相違点として検討していない。 しかしながら、イ号物件が「浚渫船」でないことは上記のとおりである。 イ 構成要件Bについて イ号物件の構成abcの「クレーンのジブ」は、グラブバケットを吊支するジブであるから、本件特許発明の構成要件Bの「ジブ」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Bを充足する。 ウ 構成要件Cについて イ号物件の構成abcの「グラブバケット」は、「グラブ浚渫船に装備したクレーンのジブから吊支」されるものであって、浚渫対象を掘削する掘削手段であることは明らかであるから、本件特許発明の構成要件Cの「前記掘削手段であるグラブバケット」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Cを充足する。 エ 構成要件Dについて 本件特許発明における「支持ワイヤ」は、「支持ドラム」が、「前記グラブバケットを支持ワイヤを介して支持する」ものであるから、支持ドラムとグラブバケットの間に介在して、支持ドラムがグラブバケットを支持するように構成されている部材である。 そして、イ号物件の構成d-1のグラブバケットを支持する「支持ロープ」は、グラブバケットを支持し、支持ドラムが支持ロープを繰出・巻取可能に巻回するから、グラブバケットと支持ドラムの間に介在して、支持ドラムがグラブバケットを支持するように構成されている部材であるといえる。 そうすると、イ号物件の構成d-1の「グラブバケットを支持する支持ロープ」は、本件特許発明の「支持ワイヤ」に相当する。 また、本件特許発明の「支持ドラム」が、支持ワイヤを繰出・巻取可能に巻回するものであることは明らかであるから、イ号物件の構成d-1の「支持ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤを連結する支持ドラム」は、本件特許発明の「支持ドラム」に相当する。 そうすると、イ号物件の構成d-1の「グラブバケットを支持する支持ロープを繰出・巻取可能に巻回するとともに、支持ドラムギヤを連結する支持ドラム」は、本件特許発明の構成要件Dの「前記グラブバケットを支持ワイヤを介して支持する支持ドラム」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Dを充足する。 オ 構成要件Eについて (ア)イ号物件の構成eの「前記減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤ及び開閉ドラムギヤを介して支持ドラム及び開閉ドラムを駆動する電動機」は、支持ドラムを駆動するから、本件特許発明の構成要件Eの「前記支持ドラムを駆動するモータ」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Eを充足する。 (イ)請求人の主張について a 請求人は、上記第3の3(2)ア(ア)の主張をしている。 しかしながら、本件特許発明の「支持ドラムを駆動するモータ」は、(a)支持ドラムを駆動する、(b)インバータにより動作が制御される、(c)蓄電器に充電される回生電力を生じる、という作用機能を有するものであり、イ号製品の電動機についてみると、(a)減速機に連結するピニオンギヤから支持ドラムギヤ及び開閉ドラムギヤを介して支持ドラム及び開閉ドラムを駆動する(イ号製品説明書第1頁下から4行?下から3行)、(b)インバータのインバータ機能により直流電力から変換された交流電力が供給される(イ号製品説明書第4頁第7?9行)、(c)電動機に供給された巻下時及び掴み降ろし時の運動エネルギーによって電動機を逆回転させることにより、交流の回生電力が得られて、得られた交流の回生電力をインバータのコンバータ機能によって直流電力に変換し、昇圧コンバータを介して蓄電器に蓄電する(イ号製品説明書第3頁第7?10行)、という作用機能を有するものであるから、両者の「支持ドラムを駆動する」という作用機能は同じである。 そして、本件特許明細書には、「支持ドラムを駆動するモータ」が、支持ドラム以外の部材も駆動することを除外する記載はないから、技術思想として、支持ドラムと共に開閉ドラムを駆動するモータを除外しているとはいえない。 また、本件特許発明においては、「モータからの回生電力を蓄電器に蓄電して利用することができる。」(段落【0008】)のであり、支持ドラムを駆動するモータに回生電力を生じさせる運動エネルギーの由来について特定していないから、技術思想として、開閉ドラムからの運動エネルギーを電力回生に利用することを除外しているとはいえない。 よって、上記の請求人の主張は採用できない。 b 請求人は上記第3の3(2)ア(イ)の主張をしている。 しかしながら、本件特許発明においては、「モータからの回生電力を蓄電器に蓄電して利用することができる。」(段落【0008】)という効果を有するのであって、イ号物件も電動機からの回生電力を蓄電器に蓄電して利用することができることは明らかであるから、上記効果を有する技術思想として、その本質を異にしているということはできない。 よって、上記の請求人の主張は採用できない。 カ 構成要件Fについて イ号物件の構成fの「前記電動機に電力を供給するエンジン発電機」は、エンジン発電機が電動機に電力を供給するために電力を発生させることは明らかであるから、本件特許発明の構成要件Fの「電力を発生させるエンジン発電機」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Fを充足する。 キ 構成要件Gについて (ア)本件特許発明における「第1のコンバータ」は、「前記モータと前記エンジン発電機との間に設けられ、前記エンジン発電機で発生した電力を調整する」ものである。 上記「前記エンジン発電機で発生した電力を調整する」ことについて、本件特許明細書の【0016】には、「第1コンバータ46はダイオードコンバータ(不図示)と昇圧コンバータ(不図示)とを有する。ダイオードコンバータは、エンジン発電機44からの交流電力を直流電力に変換して昇圧コンバータに供給する。」と記載され、【0018】には、「昇圧コンバータは、ダイオードコンバータによって変換された直流電力の電圧を昇圧して出力する。」と記載されている。 本件特許明細書の上記記載からみて、本件特許発明の「電力を調整する」との特定は、「第1のコンバータ」が単に交流を直流に「変換」するだけでなく、その電圧を「昇圧」すること、または少なくとも、電圧等、電力の大きさ(加減)を整える機能を有することを意味すると解される。 この解釈は、「調整」なる語句の「調子をととのえ過不足をなくし、程よくすること。」(広辞苑 第5版)なる意味に照らしても、自然な解釈である。 一方、上記第5の1(1)イに摘記したイ号製品説明書の記載を踏まえれば、イ号物件の構成ghの「電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」は、エンジン発電機で発電した交流電力をインバータに供給し、そのコンバータ機能によって昇圧させることなく直流電力に変換するから、「エンジン発電機で発電した交流電力を昇圧させることなく直流電力に変換するコンバータ機能を有する手段」(以下「インバータのコンバータ機能手段」という。)を有しているといえる。 そして、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が「電動機とエンジン発電機との間に設けられ」ており、上記「インバータのコンバータ機能手段」が電動機とエンジン発電機との間に設けられることとなるという点は、コンバータ機能を有する手段が、モータとエンジン発電機との間に設けられるという点では、本件特許発明の「第1のコンバータ」が「前記モータと前記エンジン発電機との間に設けられ」る点に一致する。 しかしながら、本件特許発明の「第1のコンバータ」が、「エンジン発電機で発生した電力を調整する」もの、即ち、単に交流を直流に変換するだけでなく、その電圧を昇圧、または少なくとも電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものであるのに対し、イ号物件は「エンジン発電機で発電した交流電力を昇圧させることなく直流電力に変換する」ものであって、交流から直流への変換以外に、「昇圧」を行うものではなく、その他電力の大きさ(加減)を整えるものでもないから、本件特許発明でいうところの「エンジン発電機で発生した電力を調整する」ものではない。 そうすると、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのコンバータ機能手段」は、本件特許発明の構成要件Gにおける「前記エンジン発電機で発生した電力を調整する」に係る構成を充足しない。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Gを充足しない。 (イ)請求人の主張について a 請求人は、本件特許発明の第1のコンバータについて上記第3の3(2)イの主張をしている。 b 本件特許の明細書には、「駆動源18は、インバータ52に直流電力を供給する。インバータ52は供給された直流電力を交流電力に変換してモータ54に供給することで、モータ54の動作を制御する。駆動源18は、エンジン発電機44と、第1コンバータ46と、蓄電器48と、第2コンバータ50と、を含む。」と記載され、図1(b)には、駆動源18の外にインバータ52が図示されている。 一方、本件特許発明は、「駆動源」を構成要件として備えることは規定せずに、「エンジン発電機」、「第1コンバータ」、「蓄電器48」、「第2コンバータ」を個々に構成要件として有するものである。 また、例えば、本件特許発明と同様のハイブリッド電源装置の発明に係る甲第4号証に、「図1は本実施形態のハイブリット電源装置10の概略回路図である。同図において、符号10は本実施形態のハイブリット電源装置を示している。また、符号Aは、ハイブリット電源装置から電力が供給される作業用アクチュエータを示している。なお、以下では、作業用アクチュエータAが、モータ等の電動機M、インバータIを有する例を説明するが、インバータIは、電動機Mと後述する直流母線Laとの間に設けられていればよく、ハイブリット電源装置10に内蔵されていてもよい。」(【0012】)及び「図1において、符号Laは、本実施形態のハイブリット電源装置10から外部に直流電力を供給する直流母線を示している。」(【0013】)と記載されているように、モータと直流電力の供給箇所との間に設けられてモータの動作を制御するインバータが、駆動源の外に設けることもできるものであり、また、駆動源に内蔵することもできるものであることは、電気機器の技術分野の当業者にとって技術常識である。 そうすると、本件特許明細書及び図面において、「インバータ52」を「駆動源18」に含んでいない旨の記載があるとしても、それは実施例として記載されているのであって、本件特許発明では特定されていないから、駆動源に含まれる「第1コンバータ」と駆動源に含まれない「インバータ」を出願人自ら区別して個別に設置するとして特定しているということはできない。 c 本件特許発明の「第1のコンバータ」は、上記(ア)で示したように、「モータとエンジン発電機との間に設けられ、エンジン発電機で発生した電力を調整する」もの、即ち、単に交流を直流に変換するだけでなく、その電圧を昇圧、または少なくとも電力の大きさ(加減)を整える機能を有する機器であり、当該機能を有する機器であれば、その機能のみを有する機器に限定されるものではない。 また、本件特許発明の「インバータ」は、「供給された直流電力を交流電力に変換してモータ54に供給することで、モータ54の動作を制御する」(明細書【0014】)という機能を有する機器であり、当該機能を有する機器あれば、その機能のみを有する機器に限定されるものではない。 d よって、第1のコンバータについての上記第3の3(2)イの請求人の主張は採用できないが、イ号物件が本件特許発明の構成要件Gを充足しないことは、上記(ア)に示したとおりである。 (ウ)被請求人の主張について a 被請求人は、上記第4の2(2)イの主張をしている。 b しかしながら、上記(ア)に示したように、本件特許発明の「第1のコンバータ」が、「エンジン発電機で発生した電力を調整する」もの、即ち、単に交流を直流に変換するだけでなく、その電圧を昇圧、または少なくとも電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものであるのに対し、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのコンバータ機能手段」は、直流電力を昇圧させないし、その他何らの、電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものではないから、エンジン発電機で発生した電力を調整するものではない。 c よって上記の被請求人の主張は採用できない。 ク 構成要件Hについて (ア)イ号物件の構成ghの「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」は、上記第5の1(1)イに摘記したイ号製品説明書の記載のように、エンジン発電機で発電した交流電力をインバータに供給し、そのコンバータ機能によって昇圧させることなく直流電力に変換するとともに、該直流電力に、蓄電器から昇圧コンバータに供給して昇圧させた直流の回生電力を合流させ、該合流させた直流電力をインバータのインバータ機能によって交流電力に変換してから電動機に供給しており、直流電力をインバータのインバータ機能によって交流電力に変換してから電動機に供給するから、「直流電力を交流電力に変換してから電動機に供給するインバータ機能を有する手段」(以下「インバータのインバータ機能手段」という。)を有しているといえる。 そして、「インバータのインバータ機能手段」には、「インバータのコンバータ機能手段」から直流電力が供給されており、「インバータのインバータ機能手段」が、前記供給された直流電力に直流の回生電力を合流させた直流電力を交流電力に変換してから「電動機」に供給するのであるから、「インバータのインバータ機能手段」が、「電動機」と「インバータのコンバータ機能手段」との間に設けられているといえる。 そうすると、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのインバータ機能手段」は、「電動機」と「インバータのコンバータ機能手段」の間に設けられて、直流電力を交流電力に変換してから電動機に供給するから、本件特許発明の構成要件Hの「前記モータと前記第1のコンバータとの間に設けられ、前記モータの動作を制御するインバータ」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Hを充足する。 (イ)請求人の主張について 請求人は、本件特許発明のインバータについて、上記第3の3(2)イの主張をしている。 しかしながら、上記第3の3(2)イの請求人の主張については、上記キ(イ)において示したとおりである、 よって、上記の請求人の主張は採用できない。 ケ 構成要件Iについて イ号物件の構成iの「エンジン発電機と並列に設けられ、電動機からの回生電力を蓄電・放電する蓄電器」は、「蓄電器」から昇圧コンバータに供給して昇圧させた直流の回生電力と、エンジン発電機で発電した交流電力をインバータに供給し、そのコンバータ機能によって昇圧させることなく直流電力に変換した直流電力とが合流して、「インバータのインバータ機能手段」に供給されることからみて、「インバータのインバータ機能手段」に対して「蓄電器」と「エンジン発電機」は並列であるといえる。 よって、イ号物件の「エンジン発電機と並列に設けられ、電動機からの回生電力を蓄電・放電する蓄電器」は、本件特許発明の構成要件Iの「前記エンジン発電機と並列に設けられ、前記モータからの回生電力を蓄電する蓄電器」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Iを充足する。 コ 構成要件Jについて (ア)上記第5の1(1)イに摘記したイ号製品説明書の記載を踏まえると、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」において、「インバータのインバータ機能手段」には、「インバータのコンバータ機能手段」により交流電力を変換した直流電力に、「蓄電器」から「昇圧コンバータ」に供給して昇圧させた直流の回生電力を合流させ、該合流させた直流電力が供給されるのであるから、「昇圧コンバータ」は「インバータのインバータ機能手段」と「蓄電器」との間に設けられているといえる。 そうすると、イ号物件の構成jの「インバータと蓄電器との間に設けられた昇圧コンバータ」は、「インバータのインバータ機能手段」と「蓄電器」との間に設けられ、「蓄電器」から供給された直流の回生電力を昇圧させるから、本件特許発明の構成要件Jの「前記インバータと前記蓄電器との間に設けられ、前記蓄電器から送り出される電力を調整する第2のコンバータ」に相当する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Jを充足する。 (イ)請求人の主張について 請求人は、本件特許発明の第2のコンバータについて、上記第3の3(2)イの主張をしている。 しかしながら、上記上記第3の3(2)イの主張については、上記キ(イ)において示したとおりである。 そして、イ号物件の「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」は、「インバータのコンバータ機能手段」及び「インバータのインバータ機能手段」を有するものであり、イ号物件の「昇圧コンバータ」が、「インバータのインバータ機能手段」と「蓄電器」との間に設けられていることは、上記(ア)に示したとおりである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 サ 構成要件Kについて 上記アに示したとおり、イ号物件は、「グラブ浚渫機」であって「浚渫船」ではない。 したがって、イ号物件は本件特許発明の構成要件Kを充足しない。 (2)まとめ したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A、G及びKを充足しない。 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A、G及びKを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 2 均等論の適用について (1)被請求人は、上記第4の2(4)エにおいて言及したように「イ号製品の特定事項は、本件特許発明の発明特定事項と均等であり、イ号製品は、本件特許発明の技術的範囲に属する」旨主張しているから、以下検討する。 上記1(2)キで示したように、イ号物件の構成ghの「電動機とエンジン発電機との間に設けられたインバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのコンバータ機能手段」は、エンジン発電機で発電した交流電力を昇圧させるものではなく、また、その他何らの、電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものではないから、本件特許発明でいうところの「エンジン発電機で発生した電力を調整する」ものではなく、実質上、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Gにおける「前記エンジン発電機で発生した電力を調整する」に係る構成を充足しない。 そこで、本件特許発明の構成要件とイ号物件の構成のうち、上記構成要件Gに係る構成が均等であるか否かについて検討する。 (2)均等論の適用の成否 均等の判断は、最高裁のボールスプライン判決(平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡))で判示された以下の要件をすべて満たしたとき均等と判断する。 ア 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。 イ 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ、同一の作用効果を奏する(置換可能性)。 ウ 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが、イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。 エ イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない(自由技術の除外)。 オ イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。 そこで、上記イ及びウを満たすか否かを検討する。 (3)均等の第2要件(置換可能性)について 本件特許発明における「エンジン発電機で発生した電力を調整する第1のコンバータ」は、上記第6の1(1)キ(ア)に示したように、「エンジン発電機で発生した電力を調整する」もの、即ち、単に交流を直流に変換するだけでなく、その電圧を昇圧、または少なくとも電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものである。 一方、イ号物件における「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのコンバータ機能手段」は、エンジン発電機で発電した交流電力を直流電力に変換するものの、昇圧させるものではなく、また、その他何らの、電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものではない。 一般に、電気機器において、電力の大きさ(加減)を整えた直流電力と電力の大きさ(加減)を整えない直流電力が同一の作用効果を奏するということはできない。 そして、本件特許発明の「エンジン発電機で発生した電力を調整する第1のコンバータ」をイ号物件の「インバータのコンバータ機能手段」に置き換えて、直流電力の大きさ(加減)を整えないものにした場合に、エンジン発電機で発生した電力は直流電力に変換されるのみで、大きさ(加減)を整えないこととなるから、本件特許発明と同一の作用効果を奏するということはできない。 また、同一の作用効果を奏しないことから、本件特許発明の目的の「回生電力を有効利用できる浚渫船の提供」における「回生電力を有効利用できる」ことが達成できるということもできない。 よって、均等の第2要件は充足しない。 (4)均等の第3要件(置換容易性)について 本件特許発明における「第1のコンバータ」は、「エンジン発電機で発生した電力を調整する」もの、即ち、単に交流を直流に変換するだけでなく、その電圧を昇圧、または少なくとも電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものである。 一方、イ号物件における「インバータ機能とコンバータ機能を一体として併せ持つインバータ」が有する「インバータのコンバータ機能手段」は、エンジン発電機で発電した交流電力を昇圧させるものではなく、また、その他何らの、電力の大きさ(加減)を整える機能を有するものではないから、両者は作用機能が異なるものである。 そして、「直流電力の電圧を昇圧」する「第1のコンバータ」を、作用機能が異なる「インバータのコンバータ機能手段」に置き換えることに動機づけがあるとはいえない。 そうすると、「直流電力の電圧を昇圧」する「第1のコンバータ」を、作用機能が異なる「インバータのコンバータ機能手段」に置き換えることが、イ号物件の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。 よって、均等の第3要件は充足しない。 (5)均等についてのまとめ イ号物件は、均等の第2要件及び第3要件を充足しないから、第1要件、第4要件及び第5要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2020-07-17 |
出願番号 | 特願2011-209670(P2011-209670) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(E02F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 石川 信也 |
特許庁審判長 |
森次 顕 |
特許庁審判官 |
秋田 将行 住田 秀弘 |
登録日 | 2015-01-30 |
登録番号 | 特許第5688353号(P5688353) |
発明の名称 | 浚渫船 |
代理人 | 富所 輝観夫 |
代理人 | 田中 幹人 |
代理人 | 森下 賢樹 |
代理人 | 富所 輝観夫 |
代理人 | 森下 賢樹 |