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審決分類 審判 一部無効 特29条の2  F24C
審判 一部無効 2項進歩性  F24C
管理番号 1365219
審判番号 無効2018-800152  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-12-20 
確定日 2020-08-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2908792号発明「ガス器具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2908792号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許無効審判の請求に係る特許第2908792号(以下「本件特許」という。)の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成10年 6月 5日 特許出願
平成11年 4月 2日 設定登録
平成30年12月20日 本件無効審判請求(請求項1、6、7に対して)
平成31年 2月 4日 上申書(請求人)
平成31年 2月14日 訂正請求書及び答弁書
平成31年 4月 4日 弁駁書
平成31年 4月25日付け 審理事項通知書(第1回)
令和 元年 6月 6日 口頭審理陳述要領書(第1回)(被請求人)
令和 元年 6月11日 口頭審理陳述要領書(請求人)
令和 元年 6月12日付け 審理事項通知書(第2回)
令和 元年 6月21日 口頭審理陳述要領書(第2回)(被請求人)
令和 元年 6月28日 口頭審理

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
平成31年2月14日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に「上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、」とあるのを、「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、」に訂正する(以下「訂正事項1」という。)。
なお、本件訂正前の請求項2ないし8は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項であり、訂正事項1に係る本件訂正は一群の請求項ごとにされるものである。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0007】に「上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、」とあるのを、「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、」に訂正する(以下「訂正事項2」という。)。
なお、訂正事項2に係る本件訂正は、当該明細書の訂正に係る一群の請求項〔1?8〕の全てについて行われるものである。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入」することについて、その導入が「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに」されるものであることを特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項1を引用する請求項2ないし8についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
また、上記訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】、【0017】及び図3に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、上記訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るために段落【0007】の記載を訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項2に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0016】、【0017】及び図3に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、上記訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)独立特許要件について
前述のとおり、訂正事項1は、請求項2ないし8についても特許請求の範囲を減縮するものであるところ、請求項2ないし5及び8は、本件特許無効審判の請求がされていない請求項であるから、その訂正については、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定が適用される。
そこで、訂正後の請求項2ないし5及び8に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否かについて検討する。
下記「第6 当審の判断」において記載するように、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許に係る特許出願の出願日前の他の特許出願であって本件特許に係る特許出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではなく、また、本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
訂正後の請求項2ないし5及び8は、訂正後の請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、訂正後の請求項2ないし5及び8に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、訂正後の請求項2ないし5及び8に係る発明は、「第6 当審の判断」において記載することと同様の理由により、本件特許に係る特許出願の出願日前の他の特許出願であって本件特許に係る特許出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではなく、また、本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、訂正後の請求項2ないし5及び8に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする他の理由も見当たらない。
よって、本件訂正は、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するものである。

3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第9項の規定によって準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するものであるから、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正することを認める。

第3 請求人の主張
請求人は、「特許第2908792号発明の特許請求の範囲の請求項1,6及び7に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証(以下「甲1」ないし「甲7」という。)を提出し、次の無効理由を主張する。

1 無効理由1(特許法第29条の2)
本件特許の請求項1、6及び7に係る発明は、本件特許に係る特許出願の出願日前の他の特許出願であって本件特許に係る特許出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲1)に記載された発明と同一であり、本件特許に係る特許出願の出願人及び発明者は、他の特許出願の出願人及び発明者と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1、6及び7に係る発明は、本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲2に記載された発明及び甲3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
甲1:特開平11-311417号公報
甲2:実願昭57-78824号(実開昭58-181100号)のマイクロフィルム
甲3:登録実用新案第3015222号公報
甲4:甲1の図6及び8の拡大図面
甲5:実願昭61-136931号(実開昭63-45300号)のマイクロフィルム
甲6:実願平2-944号(実開平3-93303号)のマイクロフィルム
甲7:特開平7-332652号公報

なお、甲1ないし甲7の成立につき当事者間に争いはない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、無効理由がいずれも成り立たないと主張する。

第5 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス器具であって、一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり、標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており、小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備したことを特徴とするガス器具。
【請求項2】 開口は器具本体にセットされるガス容器の直径よりもやや大径の円形開口である請求項1記載のガス器具。
【請求項3】 ガス容器をセットする容器収め部を開閉可能に覆う容器カバーを有し、当該容器カバーは断熱構造を有し、かつ空気導入部から導入された空気の排出部を有している請求項1記載のガス器具。
【請求項4】 器具本体にはガス容器の収め部と、ガスを燃焼させる作動部とが隣接して配置されており、その境界部分に仕切り板を有し、加熱された器内の気流を外部へ強制的に排気するためのガイド部を仕切り板上部に設けた構成を有する請求項1記載のガス器具。
【請求項5】 仕切り板上部へ誘導される気流の排気のための導出口が汁受け皿に設けた隆起部の面に開口されている請求項4記載のガス器具。
【請求項6】 標準型ガス容器のほぼ半分の内容量を有する小型ガス容器を使用する請求項1記載のガス器具。
【請求項7】 小型ガス容器を器具本体にセットしたときは小型ガス容器のほぼ全体が器具本体内に収まる請求項1記載のガス器具。
【請求項8】 小型ガス容器及び標準型ガス容器をノズル周囲のフランジ部に磁気吸着して保持する磁気保持手段を有する請求項1記載のガス器具。」

第6 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲1について
ア 甲1に係る出願について
甲1に係る出願(特願平10-121072号)は、平成10年4月30日に出願され、平成11年11月9日に出願公開がされたものであるから、本件特許出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものである(以下甲1に係る出願を「甲1先願」という。)。また、本件特許の出願人はその出願時において、甲1先願の出願人と同一の者ではなく、発明者も同一の者ではない。

イ 甲1の記載
甲1には、「ガスコンロ装置」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスボンベが装填されテーブル等に載置されて使用される小型のガスコンロ装置に関する。」

「【0010】以上のように構成された本発明にかかるガスコンロ装置によれば、全体小型に構成されており、ボンベ装填部内に専用の小型ガスボンベが装填される。卓上ガスコンロ装置は、入手が容易な標準汎用型のガスボンベを使用する場合には、このガスボンベが背面部を開放されたボンベ装填部内に後端部分を背面側へと飛び出させた状態で装填される。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。実施の形態として示すガスコンロ装置1には、詳細を後述するように、ガスボンベ2として好適に使用される専用小型ガスボンベ2Aとともに、従来一般に用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2Bも使用することが可能とされる。ガスコンロ装置1は、シャーシ3に対して一方側面を開放したコ字状の化粧枠部材4が取り付けられるとともに、この化粧枠部材4の開放部位に詳細を後述するカバー部材5及び背面カバー部材6とが組み合わされて全体略箱型に構成されてなる。
【0012】ガスコンロ装置1は、図1及び図2に示すように、一方領域が燃焼部7として構成されるとともに、化粧枠部材4の開放部位側の他方領域が仕切板9を介してボンベ装填部8として構成されてなる。ガスコンロ装置1には、ボンベ装填部8に対応する化粧枠部材4の前方側面4aにダイヤルツマミ10が配設されるとともに、シャーシ3の底面の四隅近傍に位置してそれぞれ設置用の脚部11が設けられている。ガスコンロ装置1は、例えば横寸法が約263mm、奥行き寸法が最大約211mm(背面カバー部材6から化粧枠部材4の前面4aに設けたダイヤルツマミ10の先端までの寸法。なお、本体部位は約200mmである。)の外形仕様を以って構成されている。」

「【0021】カバー部材5は、金属薄板を素材とし、ボンベ装填部8の天井部と側面部とを構成する天井部19と側面部20とが一体に形成されることによって断面L字状を呈している。カバー部材5には、詳細を省略するが側面部21の下端部に軸穴を有するヒンジ部21が一体に形成されている。カバー部材5は、ヒンジ部21の軸穴にシャーシ3に支架した支軸22が挿通されており、この支軸22を支点としてシャーシ3に対して回動自在に支持されている。
【0022】カバー部材5には、その天井部19に、後述するようにボンベ装着部8に装填されたガスボンベ2とガバナ機構17との結合状態を視認可能とする開口23が設けられている。開口23は、例えばカバー部材5を開放操作するに際して指が差し込まれる指掛け穴としても機能する。カバー部材5には、使用時にボンベ装填部8内が所定の温度以上にならないようにするために、側面部20に溜まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成されている。」

「【0025】背面カバー部材6は、金属薄板やポリカーボネート樹脂等の合成樹脂を素材として、ボンベ装填部8の開放された背面部を閉塞するに足る外形寸法を有する全体略板状に形成されている。背面カバー部材6には、図2及び図3に示すように、下端部の両側に位置して軸穴を有するヒンジ部25(25a、25b)が一体に折曲形成されている。背面カバー部材6は、ヒンジ部25の軸穴にシャーシ3に支架した支軸26が挿通され、この支軸26を支点としてシャーシ3に対して回動自在に支持されている。」

「【0028】以上のように構成された背面カバー部材6は、通常ボンベ装填部8の背面部を閉塞しているが、後述するように大型の標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には支軸26を支点として回動操作されることによって、ボンベ装填部8の背面部を開放する。ガスコンロ装置1は、後述するように開放されたボンベ装填部8の背面部から標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされることによりこの標準汎用ガスボンベ2Bの使用を可能とする。」

「【0034】ガスコンロ装置1は、ボンベ装填部8に専用小型ガスボンベ2Aが装填される場合には、カバー部材5のみが支軸22を支点として回動操作されてボンベ装填部8がその天井部と側面部とを開放される。ガスコンロ装置1には、開放されたボンベ装填部8に専用小型ガスボンベ2Aが装填されてカバー部材5が閉じられる。ガスコンロ装置1は、これによって、図4に示すように専用小型ガスボンベ2Aが装填されたボンベ装填部8がカバー部材5と背面カバー部材6とによって閉塞された状態で使用される。ガスコンロ装置1は、上述したように全体小型に構成されていることから、テーブル等に載置して使用した場合にも大きな面積をとらずにスペース効率を向上させる。
【0035】ガスコンロ装置1は、ボンベ装填部8に標準汎用ガスボンベ2Bが装填される場合には、カバー部材5とともに、図6矢印で示すように背面カバー部材6が支軸26を支点として回動操作される。ガスコンロ装置1には、開放されたボンベ装填部8に大型の標準汎用ガスボンベ2Bが装填されてカバー部材5が閉じられる。ガスコンロ装置1は、図5及び図6鎖線で示すように背面カバー部材6が回動操作した状態のまま保持される。ガスコンロ装置1は、これによって標準汎用ガスボンベ2Bがその後端部を開放されたボンベ装填部8の背面部から後方へと突出露呈した状態で使用される。ガスコンロ装置1は、このように専用小型ガスボンベ2Aとともに大型の標準汎用ガスボンベ2Bの使用が可能とされる。」

「【0037】上述したガスコンロ装置1においては、背面カバー部材6がシャーシ3に対して支軸26によって回動自在に支持されたが、かかる構成に限定されるものでは無い。図8に示したガスコンロ装置30は、背面カバー部材31がシャーシ3に対して着脱自在に組み合わされた構成を特徴とする。背面カバー部材31は、例えば合成樹脂材料によってボンベ装填部8の背面部を閉塞するに足る外形寸法を有する板状に形成されてなる。背面カバー部材31には、その両側縁に係合凸部32が形成されており、この係合凸部32が仕切板9及びシャーシ3に立設した図示しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝に相対係合される。
【0038】ガスコンロ装置30は、専用小型ガスボンベ2Aを使用する場合には、背面カバー部材31を取り付けた状態のままとされる。また、ガスコンロ装置30は、標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には、背面カバー部材31がボンベ装填部8から抜き取られる。したがって、ガスコンロ装置30は、図8において鎖線で示すように、標準汎用ガスボンベ2Bがその後端部を開放された背面部から突出した状態でボンベ装填部8に装填される。」





ウ 甲1に記載された技術的事項
上記イの記載から、甲1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 甲1に記載された技術は、一方領域が燃焼部7として構成されるとともに他方領域がボンベ装填部8として構成されてなり、前記ボンベ装填部8に横向きに装填される円筒形のガスボンベ2を使用するガスコンロ装置1に関するものである(特に段落【0012】及び図1ないし8を参照。)。
b ガスコンロ装置1は、前記ボンベ装填部8の背面部に、ガスコンロ装置1のシャーシ3に対して回動自在に支持される背面カバー部材6又は前記シャーシ3に対して着脱自在に組み合わされる背面カバー部材31を備えている(特に段落【0025】及び【0037】を参照。)。
c ボンベ装填部8の天井部と側面部とを構成するカバー部材5には、当該カバー部材5の側面部20に溜まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成されている(特に段落【0021】及び【0022】を参照。)。
d ガスコンロ装置1は、従来一般に用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2Bと、専用小型ガスボンベ2Aとが使用可能である(特に段落【0011】を参照。)。
e 前記標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には、開放されたボンベ装填部8の背面部から前記標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされる(特に段落【0028】を参照。)。

エ 甲1発明
上記イ、ウから、甲1先願の願書に最初に添付された明細書又は図面には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「一方領域が燃焼部7として構成されるとともに他方領域がボンベ装填部8として構成されてなり、前記ボンベ装填部8に横向きに装填される円筒形のガスボンベ2を使用するガスコンロ装置1であって、
ガスコンロ装置1は、前記ボンベ装填部8の背面部に、ガスコンロ装置1のシャーシ3に対して回動自在に支持される背面カバー部材6又は前記シャーシ3に対して着脱自在に組み合わされる背面カバー部材31を備えており、
前記ボンベ装填部8の天井部と側面部とを構成するカバー部材5には、当該カバー部材5の側面部20に溜まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成され、
従来一般に用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2Bと、専用小型ガスボンベ2Aとを使用可能であり、
前記標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には、開放されたボンベ装填部8の背面部から前記標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされる、
ガスコンロ装置1。」

(2)甲4について
甲4には、以下のとおり、甲1の図6及び8の拡大図面が記載されている。





(3)甲5について
ア 甲5には、「ガスボンベの取付装置」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「ガスボンベを保持する受け体と、この受け体の一側に設けガスボンベのノズルが接続する流量調節弁と、前記受け体の他側に枢着するガスボンベのセット金具を備え、前記セット金具がガスボンベの周面に当接する当接部とガスボンベの底部に係止可能な係止部と外側に延設する押圧部から成ることを特徴とするガスボンベの取付装置。」(第1ページ第5ないし12行)





イ 第3図からは、ガスボンベの底部側において、器具本体の壁面に開口が設けられていることが分かる。

(4)甲6について
甲6には、「携帯ガスコンロ」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「本体内に装着されたカセットボンベによる火力で加熱調理するガスコンロにおいて、構成部品を直列に配置し、携帯に便利な筒形の携帯ガスコンロ。」(第1ページ第5ないし8行)

「(実施例)
使用の例として、始めにボンベケース12にカセットボンベ1を挿入し、ボンベケース12を中央胴11に連結するとスプリング15により、カセットボンベ1が押されガバナ2に装着される。」(第3ページ第11ないし15行)







」(第4ページ第11ないし16行)

(5)対比、判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりとなる。
甲1発明における「ガスボンベ2」及び「ガスコンロ装置1」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件特許発明1における「ガス容器」及び「ガス器具」に相当する。
また、甲1発明における「燃焼部7として構成される」「一方領域」と「ボンベ装填部8として構成され」る「他方領域」とを併せた部分は、器具といい得るガスコンロ装置1の本体をなすものであるから、本件特許発明1における「器具本体」に相当する。
甲1発明における「ガスボンベ2」が「横向きに装填される」態様は、本件特許発明1における「ガス容器」が「一定の姿勢で横たえてセットされる」態様に相当する。
甲1発明における「従来一般に用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2B」は、一定の構造と内容量を有することは明らかであるから、本件特許発明1における「一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器」に相当する。
甲1発明における「専用小型ガスボンベ2A」は、大型の標準汎用ガスボンベ2Bよりも内容量が小さいことは明らかであるから、本件特許発明1における「それ(標準型ガス容器)よりも内容量が小さい小型ガス容器」に相当する。
甲1発明において、「標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には、開放されたボンベ装填部8の背面部から前記標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされる」のであるから、ボンベ装填部8の背面部側の壁面に標準汎用ガスボンベ2Bの後端部をガスコンロ装置1外へ出す開口があることは明らかである。したがって、甲1発明における「標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には、開放されたボンベ装填部8の背面部から前記標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされる」態様は、本件特許発明1における「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有して」いる態様に相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス器具であって、
一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり、
標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有するガス器具。」

[相違点]
本件特許発明1においては、「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備」するのに対し、甲1発明においては、「ガスコンロ装置1は、前記ボンベ装填部8の背面部に、ガスコンロ装置1のシャーシ3に対して回動自在に支持される背面カバー部材6又は前記シャーシ3に対して着脱自在に組み合わされる背面カバー部材31を備えており」、「前記ボンベ装填部8の天井部と側面部とを構成するカバー部材5には、当該カバー部材5の側面部20に溜まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成されている」点(以下「相違点1」という。)。

(イ)判断
甲1発明は、「前記ボンベ装填部8の背面部に」、「ガスコンロ装置1のシャーシ3に対して回動自在に支持される背面カバー部材6」又は「前記シャーシ3に対して着脱自在に組み合わされる背面カバー部材31」を備えており、甲1の段落【0034】の「ガスコンロ装置1は、これによって、図4に示すように専用小型ガスボンベ2Aが装填されたボンベ装填部8がカバー部材5と背面カバー部材6とによって閉塞された状態で使用される。」との記載、段落【0038】の「ガスコンロ装置30は、専用小型ガスボンベ2Aを使用する場合には、背面カバー部材31を取り付けた状態のままとされる。」との記載及び図2ないし4において示される専用小型ガスボンベ2Aがボンベ装填部8に装填されている態様を踏まえれば、専用小型ガスボンベ2Aを使用するときには、背面カバー部材6は閉じられる又は背面カバー部材31は取り付けた状態とされるものである。
そうすると、甲1発明において、「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口」は、専用小型ガスボンベ2Aを使用するときには、背面カバー部材6又は背面カバー部材31により閉塞された状態とされるから、甲1発明は、「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに」、「器具本体内へ空気を導入」する「上記開口を含む空気導入口」を有するものとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1発明と同一であるとはいえはない。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲1発明において、ボンベ装填部8の背面部が背面カバー部材6によって閉じられている状態においても、該背面カバー部材6の縁側には隙間が形成され、通気性が確保されており、この隙間は背面部に含まれる領域に形成されている旨主張する(令和元年6月11日付け口頭審理陳述要領書第4ページ第2ないし34行等)。
しかし、上記(イ)に記載したとおり、甲1発明において、「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口」は、専用小型ガスボンベ2Aを使用するときには、背面カバー部材6又は背面カバー部材31により閉塞された状態とされるものであり、仮に、図6等(甲4の図6及び8も併せて参照。)において、背面カバー部材6と、仕切板9、カバー部材5の天井部19及び側面部20との間に隙間があることが看取できたとしても、該隙間が「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口」「を含む」ものであるとまではいえない。

また、請求人は、甲1発明において、専用小型ガスボンベ2Aの使用時、背面カバー部材31によってボンベ装填部8の背面側を開放した状態で保持させておくことや、背面カバー部材31を取り外した状態で保持させておくことは当然に想定されているものと解されるか、そうでなくても、本件特許に係る出願時において周知・慣用技術であった旨主張し(平成31年4月4日付け審判事件弁駁書第4ページ第40行ないし第5ページ第11行)、該周知・慣用技術を裏付ける証拠として甲5及び甲6を提出している。
しかし、上記(イ)に記載したとおり、専用小型ガスボンベ2Aを使用するときには、背面カバー部材6は閉じられる又は背面カバー部材31は取り付けた状態とされるものであり、甲1における他の記載を勘案しても、甲1発明において、専用小型ガスボンベ2Aの使用時、背面カバー部材31によってボンベ装填部8の背面側を開放した状態で保持させておくことや、背面カバー部材31を取り外した状態で保持させておくことが当然に想定されているとまではいえない。
また、上記周知・慣用技術を裏付ける証拠として提出された甲5には、甲1発明の背面カバー部材に相当する部材が記載されていないから、甲5は上記周知・慣用技術を裏付ける証拠とはいえない。さらに、甲6には、カセットボンベ1をボンベケース12に挿入することが記載されているが、背面カバーに相当する部材も、カセットボンベ1の背面側を開放させることも記載されていないから、甲6は上記周知・慣用技術を裏付ける証拠とはいえない。
なお、請求人は、甲6について、「また、同号証の第五図によれば、ボンベケース12の外周面における一対の対称位置の一方位置から該ボンベケース12の開放された部分を通過して他方位置に至るコの字状に屈曲され且つ帯状をなすスプリング支持ブラケットが設けられている。」と主張する(口頭審理陳述要領書第5ページ「2)甲第6号証について」)。
しかし、甲6には、「スプリング支持ブラケット」についての記載はなく、第五図における横方向に延びる2つの線は、第五図の左側面図のものの上面図である第三図と併せて見れば、肩紐19を表すものであると推認される。
また、甲6には、「ボンベケース12の開放された部分」についての記載はなく、第五図においてボンベケース12を表す円の内側にカセットボンベ1が図示されていないことから、ボンベケース12は有底筒状であると推認される。

さらに、請求人は、甲1発明において、専用小型ガスボンベ2Aの使用中に、ボンベ装填部8の背面側を開放させておくことが困難な特段の事情を見出すことができないとも主張する(平成31年4月4日付け審判事件弁駁書第4ページ第4ないし39行)。
しかし、仮に専用小型ガスボンベ2Aの使用中に、ボンベ装填部8の背面側を開放させておくことが当業者にとって困難なことではないとしても、上記のとおり、そのような使用態様が甲1発明において当然に想定されているとまではいえないから、専用小型ガスボンベ2Aの使用中に、ボンベ装填部8の背面側を開放させておくことが甲1に記載されているとはいえない。

したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、相違点1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲1発明と同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明6及び7について
本件特許の請求項6及び7は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載したものであるから、本件特許発明6及び7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件特許発明6及び7は、上記アの本件特許発明1と同様の理由により、甲1発明と同一であるとはいえない。

(6)小括
以上のとおり、本件特許発明1、6及び7は、甲1発明と同一であるとはいえないから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものとはいえない。
よって、本件特許発明1、6及び7についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。

2 無効理由2について
(1)甲2について
ア 甲2には、「簡易ガスコンロ」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「ガスバーナーに接続されるガス供給路のボンベ接続口が臨むボンベ室の底部に、ボンベ接続口に接続されるガスボンベを受けてボンベ接続口に対し押圧接続しまたその接続を解除できるよう摺動可能とされたボンベ受台を備え、コンロ器体に設けられているボンベ出し入れ用の開閉蓋の閉じ動作によつてボンベ受台に受けられているガスボンベを前記ボンベ接続口に対しボンベ受台を介して押圧接続しかつ開き動作によつてその押圧接続を解くボンベ接続手段を設けたことを特徴とする簡易ガスコンロ」(第1ページ第5ないし15行)

「この考案は、小容量ガスボンベを燃料源として着脱式に用いる簡易ガスコンロに関する。」(第3ページ第3ないし4行)

「第4図の実施例は、ボンベ室7の開閉蓋12が、その器体1後面側の下縁を、ボンベ室7の開口11の器体l後面下方部口縁に軸41により枢着され、軸41を中心とした回動により開閉されるようにしている。この開閉蓋12の側壁に、ボンベ受台14の一部に突設された受動ピン51と係合するカム孔52を設け、蓋12の閉じ動作および開き動作にピン51を介しボンベ受台14が連動されて、ガスボンベ6をボンベ接続口に対し押圧接続し、またその押圧接続を解くようにしている。」(第14ページ第3ないし12行)



」(第18ページ第1ないし9行)





イ また、第1図ないし第5図から、ガスボンベ6は、器体1に横向きに装填される円筒形のものであることが分かる。

ウ そうすると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「器体1に横向きに装填される円筒形のガスボンベ6を使用する簡易ガスコンロであって、ガスバーナー2に接続されるガス供給路4のボンベ接続口5が臨むボンベ室7の底部に、ボンベ接続口5に接続されるガスボンベ6を受けてボンベ接続口5に対し押圧接続しまたその接続を解除できるよう摺動可能とされたボンベ受台14を備えるとともに、前記ボンベ室7の開口11の器体1後面下方部口縁に軸41により枢着された開閉蓋12を備え、この開閉蓋12の側壁に、前記ボンベ受台14の一部に突設された受動ピン51と係合するカム孔52を設け、開閉蓋12の閉じ動作及び開き動作にピン51を介しボンベ受台14が連動されて、ガスボンベ6をボンベ接続口5に対し押圧接続し、またその押圧接続を解くようにした簡易ガスコンロ。」

(2)甲3について
ア 甲3には、「携帯式ガスコンロ」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「 【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、屋外で使用するテーブルタイプのガスコンロに関し、特に、カートリッジに貯蔵された液化ガスコンロを燃料として使用するガスコンロに関する。」

「 【0008】
【作用】
本考案では、ケーシング内に配置したバーナ支持台をケーシングの左右側壁部分に前後移動可能な状態で支持させ、このバーナ支持台に複数のガスバーナを固定するとともに、各ガスバーナに一端部を固定した燃料ガス供給管の他端部を液化ガスカートリッジ固定部に連通接続するとともに、燃料ガス供給管に各ガスバーナへのガス供給量を個々に制御する流量調整弁を配置し、バーナ支持台の前後移動操作で液化ガスカートリッジ固定部がケーシングの前壁外に突出する使用姿勢と、ガスカートリッジ固定部がケーシング内に位置する収納姿勢とに切換え可能に構成しているので、ガスコンロ使用時には液化ガスカートリッジ固定部がケーシングの前壁から突出する状態にバーナ支持台を移動させ、液化ガスカートリッジ固定部に液化ガスカートリッジを装着固定することにより、ガスカートリッジがケーシング投影面積内での下側に突出することがなくなる。これにより、ガスコンロをテーブルや支持台上に載置して使用することができるから、専用のスタンドを持参しなくてもよくなる。
また、ガスコンロ使用時に液化ガスカートリッジがケーシング外で液化ガスカートリッジ固定部に装着されることから、ケーシングの底壁部分にカートリッジ装着孔を開口しておかなくてもよく、意匠的に優れたものとなる。」

「 【0020】
そして、このテーブルタイプのガスコンロ(1)を使用姿勢にした状態では、器具栓ブロック(22)がケーシング(2)の前面壁(6)外に位置することになるから、ガスコンロ(1)の前面壁(6)部分をテーブル等のコンロ支持部材(24)の前端縁部に位置する状態にセットすることにより、器具栓ブロック(22)に装着した液化ガスのガスカートリッジ(19)が背丈の高い大容量カートリッジであっても支障なく使用することができることになる。また、バーナ支持台(4)はスリット溝(14)にロッド(16)で支持されているから回動させることができ、バーナ支持台(4)を回動させた際には器具栓ブロック(22)が燃料ガス供給管(17)やガスバーナ(5)とともに俯仰揺動することから、器具栓ブロック(22)をガスカートリッジ(19)の着脱しやすい角度に回動させて、カートリッジ(19)の着脱操作を行うことができる。」





イ また、図3からは、ガスコンロは、相対的に大容量の液化ガスカートリッジと相対的に小容量の液化ガスカートリッジとを使用するものであることが分かる。

ウ そうすると、甲3には次の事項が記載されている。

「ケーシング外に装着される液化ガスカートリッジを使用するガスコンロにおいて、相対的に大容量の液化ガスカートリッジと相対的に小容量の液化ガスカートリッジとを使用すること。」

(3)甲7について
甲7には、「カセットガス容器の不等消費装置」に関して、図面とともに以下の記載がある。

「【0015】図示の実施例において、各ガス容器Cは磁気保持手段によって、その先端部のフランジfが磁気吸着され、接続状態に保たれている。34はリング状の磁石、35はそれを保持したヨークであり、前記外筒30の外側に取り付けてある。しかしガス容器を保持する手段はこの磁気吸着手段以外のものも使用できる。例えば複数個のガス容器Cの後端eを各別に又は同時に押す部材を収容室の後部に設け、それをレバー操作によって器外から前後動させることによりガス容器の着脱を行なう構造は周知のものであるが、そのような構成の容器保持手段も当然使用することができる。」





(4)対比、判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「器体1」、「ガスボンベ6」、「簡易ガスコンロ」、「装填される」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件特許発明1における「器具本体」、「ガス容器」、「ガス器具」、「セットされる」にそれぞれ相当する。
甲2発明の「横向きに装填される」ことは、本件特許発明1の「一定の姿勢で横たえてセットされる」ことに相当する。

したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス器具。」

[相違点]
本件特許発明1においては、「一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり、標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており、小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備」するのに対し、甲2発明においては、当該構成について特定されていない点(以下「相違点2」という。)。

(イ)判断
甲3には、相対的に大容量のガスカートリッジと、相対的に小容量のガスカートリッジとの両方を使用することが記載されているものの(上記(2)ウ)、甲3に記載されたガスカートリッジは、ガスコンロのケーシング外に装着されるものであって、器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされるものではなく、また、該ガスコンロは、相対的に大容量のガスカートリッジの端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有するものでもない(上記(2)ア)。
また、甲2発明は、開閉蓋12の閉じ動作及び開き動作にピン51を介しボンベ受台14が連動されて、ガスボンベ6をボンベ接続口5に対し押圧接続し、またその押圧接続を解くようにしたことに特徴がある簡易ガスコンロであって、ガスボンベ6の後端にはボンベ受台14等の部材が配置されているところ、敢えて当該部材を取り除いてガスボンベ6の後端側の器体1壁面にガスボンベ6の後端側を突出させる開口を設けるよう構成することの動機付けが存在しない。
したがって、甲2発明において、甲3に示される周知技術を適用する動機付けはなく、また、仮に甲2発明において甲3に示される周知技術を適用することができたとしても、甲3において示されるのは相対的に大容量のガスカートリッジと、相対的に小容量のガスカートリッジとの両方を使用することにとどまるから、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることが当業者にとって容易に想起し得たとすることはできない。

(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲2発明において、甲2の図4に示されたガスボンベ6よりも全長が長いガスボンベを使用することが可能である旨主張し(平成30年12月20日付け審判請求書第16ページ第5ないし10行)、その証拠として甲5ないし7を提出している。
しかし、甲5ないし7のいずれにも、器体内のボンベ室に装填されるガスボンベより全長が長いガスボンベを使用することは記載されておらず、甲5ないし7は、甲2発明において甲2の図4に示されたガスボンベ6よりも全長が長いガスボンベを使用することが可能であることをいうものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、甲5ないし7の記載を考慮しても、本件特許発明1は、甲2発明及び甲3に示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明6及び7について
本件特許の請求項6及び7は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載したものであるから、本件特許発明6及び7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件特許発明6及び7は、上記アの本件特許発明1と同様の理由により、甲2発明及び甲3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)小括
以上のとおり、本件特許発明1、6及び7は、甲2発明及び甲3に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
よって、本件特許発明1、6及び7についての特許は、無効理由2により無効とすることはできない。

第7 むすび
請求人が主張する無効理由及び提出した証拠によっては本件特許発明1、6及び7についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガス器具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス器具であって、一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり、標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており、小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備したことを特徴とするガス器具。
【請求項2】 開口は器具本体にセットされるガス容器の直径よりもやや大径の円形開口である請求項1記載のガス器具。
【請求項3】 ガス容器をセットする容器収め部を開閉可能に覆う容器カバーを有し、当該容器カバーは断熱構造を有し、かつ空気導入部から導入された空気の排出部を有している請求項1記載のガス器具。
【請求項4】 器具本体にはガス容器の収め部と、ガスを燃焼させる作動部とが隣接して配置されており、その境界部分に仕切り板を有し、加熱された器内の気流を外部へ強制的に排気するためのガイド部を仕切り板上部に設けた構成を有する請求項1記載のガス器具。
【請求項5】 仕切り板上部へ誘導される気流の排気のための導出口が汁受け皿に設けた隆起部の面に開口されている請求項4記載のガス器具。
【請求項6】 標準型ガス容器のほぼ半分の内容量を有する小型ガス容器を使用する請求項1記載のガス器具。
【請求項7】 小型ガス容器を器具本体にセットしたときは小型ガス容器のほぼ全体が器具本体内に収まる請求項1記載のガス器具。
【請求項8】 小型ガス容器及び標準型ガス容器をノズル周囲のフランジ部に磁気吸着して保持する磁気保持手段を有する請求項1記載のガス器具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス器具に関し、特に小型のガス容器を使用するガス器具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
円筒形の小型のガス容器を使用するガス器具は扱いが簡便で安価であるため広く普及しつつある。特にガス配管を必要としないので移動の自由度が高く、卓上型こんろは業務目的から家庭用途にまで使用されている。ところが従来のガス器具を卓上でなく狭いカウンターで使用するような場合、ガス器具が大き過ぎるという指摘があった。
【0003】
そこで上記のガス器具よりも小型のガス容器の開発が進行している。新たな小型のガス容器とガス器具は、単に小型であるだけではなく、従来のガス容器(以下標準型ガス容器という。)及びガス器具と要部において共通していることが望ましい。例えば、ノズル周りのフランジに設ける位置決め手段を従来と共通とすることにより、誤ったガス容器の装填を減らすことができるからである。しかし一方では器具の小型化が発熱の問題をもたらすことも予想される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり、その課題は標準型ガス容器と細部において共通した小型ガス容器を使用可能な安全性の高い小型ガス器具を提供することである。
【0005】
本発明の他の課題は、小型ガス容器のほかに標準型ガス容器をも使用可能とすることである。
【0006】
また本発明の他の課題は、標準型ガス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能であるにも拘らず、熱害の心配のない小型ガス器具を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため本発明は、一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり、標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており、小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し、導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備するという手段を講じたものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に係るガス器具は、器具本体10に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器11を使用するタイプのものである。
【0009】
上記のガス容器11は、一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器12と、それよりも内容量が小さい小型ガス容器13とを含む。小型ガス容器13は、標準型ガス容器12と同様に、円筒状容器構造の先端に、常閉の弁機構を内蔵したノズル14を有し、それを取り囲むフランジ部15に、位置決め手段16の一方として係合部17を有する。ガス器具側には上記係合部17と係合してガス容器12、13を一定の姿勢にする係合相手18が備わる。
【0010】
ノズル14の受け入れのためにガス器具側には接続口19があり、小型及び標準型のガス容器12、13は保持手段20によってガス器具側に保持される。保持手段20は両型のガス容器12、13を接続状態にしておくためのもので、機械的な押し付けまたは引き寄せ、或いは磁気吸着による接続方法等を取ることができる。
【0011】
図に示した保持手段20は、ガス容器11に共通に備わっているフランジ15を磁気吸着する磁石或いは磁性体21を有する。磁石或いは磁性体21はヨーク22に吸着し、ヨーク22の端部がフランジ15に磁気吸着する。図2参照。このような磁気保持手段は、例えば特許第1714851号に記載の構成を適用することができる。機械的保持手段の例としては、登録実用新案第1856727号に開示されている、前記係合部17に引っ掛かる係合相手18を有する構成を例示することができる。
【0012】
器具本体10にガス容器11をセットすることによりガスは噴出可能な状態になり(弁機構が開弁し)、減圧器23にて圧力調整され、操作部24で操作される器具栓等を経てバーナなどの作動部25に送給され、燃焼可能な状態とされる。例示された小型ガス容器13は、器具本体10にセットしたときに、容器ほぼ全体が器具本体に収まる。図3の破線参照。
【0013】
このような小型ガス容器13の容量は標準型ガス容器12のほぼ半分というのが一つの目安となる。しかしながら小型ガス容器13イコール標準型ガス容器12の半分の容量という訳ではなく、標準型ガス容器12よりも容量の小さいもの全部が小型ガス容器13であり、何種も存在し得る。
【0014】
したがって器具本体10は、上記寸法の小型ガス容器13をセットするための容器収め部26を作動部25に隣接して設けられる程度の大きさ(縦、横)を有することができる。しかし高さについては、良好な燃焼を得るためにある程度の寸法が必要である、という観点から判断する場合、標準型ガス容器12を用いる従来のガス器具と同程度が良い。
【0015】
小型ガス容器13を使用する小型ガス器具であって、標準型ガス容器12を使用できるものはより歓迎されるであろう。また本発明のガス器具は、長さ以外は共通の構成を有する小型ガス容器13を使用するので、標準型ガス容器12の収め方を工夫することによりそれをそのまま使用することができる。そこで本発明では、標準型ガス容器12をセットしたときに標準型ガス容器12の、器具本体10を越える端部を器具本体外へはみ出させるために、開口27を器具本体10の壁面を貫通するように設ける。
【0016】
つまりこのガス器具は、小型ガス容器13をセットすると、その後端が開口27から見えるけれども全体が内部に収まるミニこんろとなる。他方、標準型ガス容器12をセットすると、その端部が開口27から器具本体外へはみ出すけれどもミニこんろとして全く同様に使用できるものとなる。図3鎖線図示参照。例示の開口27は器具本体10の壁面に大部分が位置し、上部は後述する容器カバー30で囲まれる。故に開口27は器具本体10に設けてあるとも、それと容器カバー30の双方にわたって設けてあるとも言うことができる。
【0017】
本発明では上記の開口27を、器具本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し、冷却性能を向上させるための空冷機構を構成する。本発明のガス器具は、既に述べたように、標準型ガス容器を使用する従来のガス器具よりも一周り乃至二周りほど小型のものとされるが、作動部25での熱量を特に変更しない場合、調理能力は従来のガス器具と同等とすることができる。従って、相対的に大きな熱量を扱うことになる本発明の小型ガス器具では、その分冷却性能の向上を図ることが好ましいのに対して、前記の開口27を空冷機構の一部として活用することができるという特徴を発揮する。
【0018】
空気導入口28として、多数の小開口29を容器収め部26の底部や器具本体10の底板等に、上記開口27とは別に設けることができる。また、作動部25側からの燃焼熱でガス容器11が加熱されないために、ガス容器11を囲む容器カバー30に断熱構造を持たせる。
【0019】
図示の例では、容器カバー30を間に空気断熱層31を有する多重構造として外部からの熱の影響を遮断する。一方、開口27や小開口29よりなる空気導入口28等から内部へ進入し、加熱された空気は同カバー30に設けた排出部32から外部へ排出する。断熱構造はガス容器部のみならず減圧器部をもカバーするよう、容器カバー30のほぼ全体を占めている。33は同カバー30の開閉のための取り付け軸を示す。
【0020】
さらに、作動部25側の熱についても、同様に外気導入口34及び導出口35を冷却及び発熱の遮断等のために設け、作動部25と容器収め部26との間に仕切り板36を設ける。仕切り板36は下部で本体底部に取りつけられており、上部には外方(容器収め部側)へ傾斜したガイド部37を有し、バーナ等によって加熱された気流を外部へ強制的に排気することで、作動部側の熱が容器収め部26側へ伝わるのを遮断する。例示の導出口35はバーナを囲む汁受け皿38の縁に設けた土手状の隆起部39の面に設けてある。この隆起部39は熱の誘導と汁止めの機能を果たす。
【0021】
作動部25であるバーナの取り付け台部40は他の部分よりも上方へ高められた位置にある。これにより発熱部が卓上等から離れるため熱の影響が減少し、また良好な燃焼を得ることができる。41は五徳を示す。
【0022】
このガス器具を使用するには容器カバー30を開き、小型ガス容器13か、または標準型ガス容器12を、それらの姿勢を確認した上で、ガス器具側の接続部19に接続する。ガス容器11が小型(13)か標準型(12)かによってセット方法が変わる点はなく、着火操作、取り外し方法及び他の取扱い方法全般も共通している。
【0023】
作動中、バーナの燃焼炎等によって器具本体10と関連部品及びガス容器11が熱の影響下に置かれる。そのとき、作動部25の側では底板に適宜開けられた空気導入口や壁面の外気導入口34から空気が器内に随時流入し、加熱されるとバーナ周辺の隙間及び導出口35から外部へ排気されて作動部外への熱の伝達を遮断する。また容器収め部26の側も鍋底等から輻射される熱を受けるが、2重の容器カバー30が輻射熱を遮断し、かつ後部開口27や小開口29よりなる空気導入口28から流入する多量の空気が排出部32へ抜けるので、この部分でも熱の問題は生じない。
【0024】
【発明の効果】
本発明は以上の如く構成されかつ作用するものであるから、標準型ガス容器と細部において共通し、長さだけが異なる小型のガス容器を用い、それにより標準型ガス容器を用いるガス器具よりも著しく小型のガス器具を得ることができ、しかも小型ガス容器と標準型ガス容器とを共用可能とするために設けた開口を空気導入口としても活用した空冷機構を有するものであるから、標準型ガス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能であるにも拘ず、熱害の心配のない小型ガス器具を提供することができる。
【0025】
特に本発明のガス器具は、標準型ガス容器を用いるガス器具と同等の火力が得られ、かつまた小型ガス容器のほかに標準型ガス容器をも使用可能であるので、より広い場所では従来のガス器具と全く同様に使用することができる等、顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るガス器具の1実施例を示す斜視図。
【図2】(a)ガス容器の位置決め手段の例を示す平面図。
(b)ガス容器の保持手段の例を示す破断側面図。
【図3】図1の装置の外観を示す平面図。
【図4】図3のものに対する平面図。
【図5】図4のものに対する背面図。
【図6】図3のVI-VI線に沿う断面図。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-07-23 
結審通知日 2019-07-26 
審決日 2019-08-22 
出願番号 特願平10-173999
審決分類 P 1 123・ 121- YAA (F24C)
P 1 123・ 16- YAA (F24C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 唯  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 紀本 孝
大屋 静男
登録日 1999-04-02 
登録番号 特許第2908792号(P2908792)
発明の名称 ガス器具  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 河野 誠  
代理人 河野 生吾  
代理人 上西 浩史  
代理人 伊東 秀明  
代理人 三橋 史生  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 三橋 史生  
代理人 上西 浩史  
代理人 伊東 秀明  
代理人 楠 和也  

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