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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1365262
審判番号 不服2018-12567  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-20 
確定日 2020-08-12 
事件の表示 特願2016-537228「UV硬化性相変化インクを用いて画像を塗布する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月 5日国際公開,WO2015/028355,平成28年11月 4日国内公表,特表2016-533929〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2014年(平成26年)8月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年8月27日,欧州特許庁)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成28年4月19日に明細書,請求の範囲及び図面(図面の中の説明)の日本語による翻訳文(特許法184条の6第2項の規定により,明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文を,願書に添付して提出した明細書及び特許請求の範囲とみなし,国際出願日における図面及び図面の中の説明の翻訳文を,願書に添付して提出した図面とみなす。)が提出され,同月27日に手続補正書が提出され,平成30年3月27日付けで拒絶理由が通知され,同年5月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年6月8日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,「原査定を取り消す。本願の発明は特許をすべきものとする,との審決を求め」て,同年9月20日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,令和1年7月31日付けで拒絶理由が通知され,同年10月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 請求項1に係る発明
(1)請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし7に係る発明は,令和1年10月31日に提出された手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1の記載は次のとおりである。

「受容媒体上に画像を塗布する方法であって,
a)高温のインクジェットプリントヘッドから受容媒体上へ紫外線硬化性相変化インクの液滴を噴射するステップであって,高温は相転移温度T_(1)より高い温度であり,相転移温度T_(1)は,それ以下になるとインクが固定化状態になる温度である,ステップと,
b)堆積したインクの液滴をT_(1)より低い温度まで冷却するステップであって,インクの液滴はこれにより液体状態から固定化状態に変化する,ステップと,
c)第一紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクの液滴を前硬化させるステップであって,第一ビームは第一強度を有する,ステップと,
d)第二紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクを後硬化させるステップであって,第二ビームは第二強度を有する,ステップと,
を備え,
インクジェットプリントヘッドは,紫外線源に対して用紙搬送方向に一定距離を置いて位置決めされ,紫外線源は,第一紫外線ビームおよび第二紫外線ビームを提供するように構成され,
前硬化は後硬化の前に行われ,
第一ビームの第一強度は,少なくとも前硬化ステップにおいて,インクの温度がT_(1)を超過しないように設定され,
第二強度は第一強度より高い,方法。」(以下,「本件発明」という。)

(2)本件発明の「固定化状態」について
本件明細書の「【0017】凝固する可能性のある成分を組み込んだ結果,凝固性インク,すなわちホットメルトインクが形成される。ホットメルトインクは,相変化インクの一例である。インクの液滴が凝固すると,インクの液滴は固定化状態になり,このため液滴はもはや流動せず,したがって液滴の拡散および液滴間のスミアリングが防止される。【0018】加えて,または代わりに,インク組成物はゲル化剤を備えてもよい。ゲル化剤を備えるインクは,ゲル化剤のゲル化温度より上では液相であってもよく,ゲル化剤のゲル化温度より下ではゲル化状態であってもよい。ゲル化剤のゲル化温度は,T_(1)であってもよい。ゲル化相は,固体ゲル化物質と流体との間の動的平衡としてゲルが存在する相である。ゲル相は,非共有相互作用によって結合状態で保持された分子成分の動的ネットワーク状アセンブリである。ゲル化相の形成時に,インク組成物の粘度が上昇してもよい。粘度が高い方がより高い粘度は液滴の流動を防止し,これにより液滴を固定化することができる。このため,インクの液滴のゲル化もまた,液滴の拡散および液滴間のスミアリングを防止することができる。【0019】このためゲル化および凝固はいずれも,インクを固定化して液滴の拡散および液滴間のスミアリングを防止するのに適した相変化であり,いずれの相変化も,放射線硬化インクなどのインクに適切に適用されてよい。」という記載を参酌すると,本件発明の「固定化状態」とは,凝固性インク(ホットメルトインク)では,凝固した状態を指し,ゲル化剤を備えるインクでは,ゲル化した状態を指すと解するのが相当である。

(3)本件発明の「紫外線源は,第一紫外線ビームおよび第二紫外線ビームを提供するように構成され」について
請求項1の記載を間接的に引用する形式で記載された請求項7に「第一紫外線ビームが,第一紫外線源によって提供され,第二紫外線ビームが,第二紫外線源によって提供され,」という発明特定事項が記載されていることを考慮すると,本件発明の「紫外線源」が「第一紫外線ビームおよび第二紫外線ビームを提供するように構成され」とは,第一紫外線ビームを照射する紫外線源と,第二紫外線ビームを照射する紫外線源とが,異なるものを包含する構成を特定するものと解するのが相当である。

(4)本件発明の「用紙搬送方向」について
本件明細書の【0046】の「現在のスワスが完了した後,キャリッジおよび受容媒体は互いに対して,副走査方向としても知られる用紙搬送方向に移動させられてもよい。」という記載及び【0068】の「画像受容媒体2は,ウェブまたはシート状の媒体であってもよく,たとえば紙,ボール紙,ラベル素材,コート紙,プラスチック,または布から成ってもよい。あるいは,画像受容媒体2はまた,無端であってもなくてもよい,中間部材であってもよい。」という記載を参酌すると,本件発明の「用紙搬送方向」とは,副走査方向である「受容媒体を搬送する方向」を規定するに止まり,「受容媒体」が「用紙」であることまでを規定するものではないと解するのが相当である。

3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において,平成30年9月20日に提出された手続補正書による補正後の請求項1に対して,令和1年7月31日付けで通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)を含んでいる。
(進歩性欠如)本件出願の請求項1に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

当審拒絶理由において引用された引用例及び周知例は,次のとおりである。
引用文献1:特開2012-61852号公報
引用文献2:特開2009-285853号公報
引用文献3:特開2011-131426号公報

4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由において引用された引用文献1は,本件出願の優先権主張の日より前である平成24年3月29日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には,次の記載がある。(下線部は,後述する「引用発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【請求項6】
印刷の際に基板上に画像を形成する方法であって,
紫外線(UV)硬化性インクを,基板の表面上へ付着するステップと,
前記基板の前記表面上の前記UV硬化性インクに,第1UV放射を照射して,前記UV硬化性インクを部分硬化させるステップと,
挟持部を形成する,第1ロールの第1表面および第2ロールの第2表面を備える前記挟持部において,前記基板および部分硬化したUV硬化性インクに圧力を加えて,前記UV硬化性インクを前記基板の前記表面上で平坦にするステップと,
前記基板の前記表面上の前記平坦にされた状態のUV硬化性インクに,第2UV放射を照射して,前記UV硬化性インクを実質的に完全に硬化させるステップとを含む,方法。
【請求項7】
前記インクは,少なくとも1つのモノマー,任意選択で少なくとも1つの光開始剤,および任意選択で少なくとも1つの着色剤を含む,請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記インクは,さらに,少なくとも1つの有機ゲル化剤を含む,請求項7に記載の方法。」

(イ) 「【背景技術】
【0001】
印刷プロセスでは,マーキング部材が基板へ付着されて画像を形成する。これらのプロセスでは,表面との接触によって圧力が基板およびマーキング部材へ加えられて,マーキング部材を基板上で平坦にすることができる。マーキング部材は,接触表面へオフセットすることがあり,結果として定着画像は不満足なものとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
印刷の際に基板上に画像を形成する方法および画像を形成する装置であって,装置の表面へのインクのオフセットなしに,インクを用いて基板上に画像を形成することができる,方法および装置を提供することが望ましいことになる。」

(ウ) 「【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】画像に関するインクの部分硬化および接触による平坦化を用いて,基板上に画像を形成する印刷装置の典型的な実施形態を描写する図である。
【図2】図1の印刷装置における部分硬化デバイスの実施形態によって放出することができる発光体エネルギーの典型的なスペクトラムを描写する図である。
【図3】平坦化デバイスの挟持部において受けられる前に部分硬化デバイスにおいて位置付けられた,インクが配置されるための正表面を含む基板を示すとともに,挟持部を通過後の基板を示す図である。」

(エ) 「【0006】
印刷の際に基板上に画像を形成する方法の別の典型的な実施形態は,紫外線(UV)硬化性インクを基板の表面上へ付着するステップと,基板の表面上のUV硬化性インクに第1UV放射を照射して,UV硬化性インクを部分硬化させるステップと,挟持部を形成する第1ロールの第1表面および第2ロールの第2表面を備える挟持部において,基板および部分硬化したUV硬化性インクに圧力を加えてUV硬化性インクを基板の表面上で平坦にするステップと,基板の表面上の平坦にされた状態のUV硬化性インクに,第2UV放射を照射してUV硬化性インクを実質的に完全に硬化させるステップとを含む。
・・・(中略)・・・
【0008】
紫外線(UV)硬化性相変化インクは,印刷の際に基板上に画像を形成するのに,印刷ヘッドに対して用いることができる。これらのインクは,周囲温度において,粘性のあるゲル状の粘度を有する。これらのインクは,約周囲温度から高温まで加熱されると,低粘度の液体への相変化を受ける。これらのインクは,液体に変化するまで加熱され,次いで印刷ヘッドから直接に基板上へインク小滴として噴出することができる。噴出されたインクがいったん基板上に衝突すると,インクは冷たくなり,液相からさらに粘性のあるゲル粘度へ相を戻す。
基板へ付着されたUV硬化性ゲルインクは,UV放射へ暴露されて,インクを硬化させることができる。用語「硬化性」は,例えばフリーラジカル経路を含む重合を経由して硬化することができる,および/または放射感受性の光開始剤を用いて重合が光開始することができる部材を例えば説明する。用語「放射硬化性」は,例えば放射源への暴露時に硬化させるすべての形態を指し,光源および熱源を含めて,ならびに開始剤の有無を含めて指す。典型的な放射硬化技術は,紫外線(UV)光を用いた硬化であって,例えば200?400nmの波長またはさらにまれに可視光を有するとともに,任意選択で光開始剤および/または増感剤の存在下において行われる光硬化,熱硬化を用いた硬化であって,高温熱開始剤(吐出温度において大部分が不活性でもよい)の有無を含む熱硬化,ならびにこれらの適切な組み合わせを含むが,これらに限定されない。
【0009】
しかしながら,種々の用途にとっては,このUV硬化の前にインクが平坦にされることが望ましい。この平坦化によって,さらに一様な画像光沢を生み出すことができ,印刷ヘッドの吐出不足を目立たなくすることができる。さらに加えて,包装などの一部の印刷用途は,印刷物に関して比較的一定の厚さの薄膜インク層を有することから,利益を享受することができる。
【0010】
これらのインクは,周囲温度では,硬化する前には粘着力をほとんど有しない。さらにその上,これらのインクは,多くのタイプの部材に対して良好な親和性を有するように調製することができる。したがって,電子写真法で使用されることがある従来の定着ロールなどの,他のインク形式の層を平坦にするのに用いられる,従来の方法およびデバイスは,ゲルインクが,平坦にしようとするのに用いられるデバイス上へ,分かれるとともにオフセットする傾向があるので,硬化の前にゲルインクを平坦にすることには適していないことが指摘されている。」

(オ) 「【0013】
図1は,インクを用いて,基板上に画像を形成するのに役立つ印刷装置100の典型的な実施形態を描写する。装置100は,マーキングデバイス120,部分硬化デバイス140,平坦化デバイス160および第2の硬化デバイス180を含み,この順序でプロセス方向Pに沿って配置される。正表面112および反対側の背表面114を有する基板110が示される。マーキングデバイス120は,基板110の正表面112上へインクを堆積させて,インク層116を形成するように動作可能である。部分硬化デバイス140は,インク層116を部分硬化させるのに効果的な発光体エネルギーを,インク層116に照射するように動作可能である。平坦化デバイス160は,インク層116に圧力を加えることによって,部分硬化したインク層116を基板110の正表面112上で平坦にする(すなわち,広げる)。第2の硬化デバイス180は,平坦にされた状態のインク層116に発光体エネルギーを照射して,インク層116をさらに硬化させるように動作可能である。
【0014】
実施形態では,マーキングデバイス120,部分硬化デバイス140および第2の硬化デバイス180は静止して,基板110は,インク層116が付着され,次いで照射されている間,これらのデバイスのそばを通り過ぎる。基板110へ加えられる発光体エネルギーの適用量は,滞留時間または強度を制御することによって,制御することができる。部分硬化デバイス140および第2の硬化デバイス180のそばを通り過ぎる基板110の搬送速度,ならびに部分硬化デバイス140および第2の硬化デバイス180に属する発光体エネルギー源の数は,インク層116の暴露時間を制御するように選択することができる。実施形態では,部分硬化デバイス140および第2の硬化デバイス180に属する発光体エネルギー源は,インク層116の部分硬化および第2の硬化の全体を通してオンすることができ,それによって基板110が,これらのデバイスのそばを連続的に通り過ぎながら,最大で正表面112全体を照射することを可能にする。
【0015】
図示された基板110は,シートである。例えば基板110は,普通紙,ポリマーフィルム,金属箔,包装部材,または同類のものなどの,一枚のシートとすることができる。別の実施形態では,基板は,普通紙,ポリマーフィルム,金属箔,包装部材,または同類のものなどの部材からなる,途切れのないウェブの形をした部材とすることができる。
【0016】
図示された実施形態では,マーキングデバイス120は,一連の印刷ヘッド122,124,126および128を含み,これらの印刷ヘッドは,「基板に向かう」配置に配置されて,基板110が,プロセス方向Pに前進しながら,基板110の正表面112上にインク小滴を堆積させる。例えば印刷ヘッド122,124,126および128は,加熱された圧電印刷ヘッド,MEMS(微小電気機械システム=micro-electro-mechanical system)印刷ヘッド,または同類のものとすることができる。印刷ヘッド122,124,126および128は,正表面112上へ別々の色分解を配置して,入力デジタルデータに従って所望のフルカラー画像を組み立てることができる。
・・・(中略)・・・
【0019】
マーキングデバイス120に属する印刷ヘッド122,124,126および128は,例えば,相変化インクの粘度を低減して,印刷ヘッド122,124,126および128のノズルから基板110上へ小滴を吐出するために十分に高い温度まで,相変化インクを加熱するのに用いることができる。相変化インクが基板110上に衝突すると,熱が,インクから冷たい基板110へ伝達される。堆積した状態の相変化インクは急速に冷たくなり,基板110上にゲル粘度を現像する。この急速冷却が原因で,相変化インクは,ゲル粘度が生じる前に,基板110の正表面112上で,横方向にリフローするまたは平坦になるのに十分な時間を有しない。
【0020】
印刷装置100の実施形態では,基板110の正表面112上の堆積した状態のインク層116は,インクを部分硬化させるのに効果的な発光体エネルギーを有する部分硬化デバイス140によって照射される。本明細書では,用語「部分硬化させる」は,部分硬化デバイス140によって放出される発光体エネルギーが,インクの部分的な重合だけが生じるように,インク内に含有されるいくらかの光開始剤を活性化するのに効果的であることを意味する。インクは,いくつかの光開始剤を含有することができ,部分硬化させる放射によって,この光開始剤の一部は部分的に活性化され,一部はまったく活性化されない。この部分重合の結果として,インクの粘度は,照射された状態のインクが挟持部を通過し,挟持部内のインクのオフセット現象なしに圧力が加えられることを可能にするのに十分に高い粘度まで増加する。基板110が挟持部に入ると,インク層を正表面112上で所望のように平坦にするのに十分な圧力が加えられるときに,部分硬化したインク層は,基板110の正表面112上で流れるまたは広がることを可能にする粘度を有する。
【0021】
部分硬化したインク層116は,平坦化デバイス160を用いて正表面112上でインクを横方向に広げるように平坦にされて,インク層116の線の太さを増加させることを可能にする,粘度および凝集力特性を有している。実施形態では,部分硬化デバイス140は,少なくとも1つの発光体エネルギー源を含む。例えば発光体エネルギー源は,発光ダイオード(LED)アレイ,または同類のものとすることができる。発光体エネルギー源は,インク層116について最適化された部分硬化を生み出すために,印刷の際に用いられるインク組成物に最適化されたスペクトラムを有する発光体エネルギーを放出するように選択することができる。発光体エネルギーのスペクトラムは,一般に遠UV(遠紫外,約100nm波長)から近UV(近紫外,約400nm波長)まで広がる波長範囲において,発光体エネルギーの強度を与えるグラフによって提供される。図2は,部分硬化デバイス140によって放出される発光体エネルギーの典型的なスペクトラムを示す。
【0022】
部分硬化の間に,基板110およびインク層116の温度は,温度制御されたプラテン130を用いて制御することができる。例えばプラテン130は,約15°Cから約20°Cまでなどの,約10°Cから約30°Cまでの温度にあり,基板110およびインク層116の温度を所望の温度に制御することができる。インク層116は,部分硬化の間に,周囲温度を下回る温度,周囲温度,または周囲温度を上回る温度とすることができる。
【0023】
平坦化デバイス160は,基板110上のインク層116に圧力を加えるための対向する表面を有する部材を含む。部材は,2つのロール,1つのロールおよび1つのベルト,または2つの,ロール上に設けられたベルトを含むことができ,この1つのロールおよび1つのベルトは,第1ロール,および第2ロール上に設けられた1つのベルトである。図3は,平坦化ロール162および圧力ロール164を含む平坦化デバイス160の典型的な実施形態を示す。LEDアレイ142を含む部分硬化デバイス140の一実施形態も示される。平坦化ロール162および圧力ロール164は,挟持部166において互いに接触し,基板110およびインク層116は,挟持部166において,部分硬化したインク層116を平坦にするのに十分な圧力を受けて,平坦にされたインク層116’を生み出す。典型的には,挟持部166において加えられる圧力は,約30psiから約120psiまでなどの,約10psiから約800psiまでの範囲内とすることができる。
・・・(中略)・・・
【0027】
装置100において,第2の硬化デバイス180は,少なくとも1つの発光体エネルギー源を含み,この発光体エネルギー源は,平坦化デバイス160によるインク層116の平坦化に引き続いて,インク相(審決注:「インク層」の誤記と解される。)116を実質的に完全に硬化させるのに効果的なスペクトラムを有する発光体エネルギーを放出するように動作可能である。実施形態では,第2の硬化デバイス180に属する発光体エネルギー源のスペクトラムは,部分硬化デバイス140に属する発光体エネルギー源によって放出される発光体エネルギーのスペクトラムと,同じでも,異なってもよい。例えば第2の硬化デバイス180は,部分硬化デバイス140内に含まれる発光体エネルギー源とは異なるピーク波長および強度のエネルギーを放出するUV-LEDアレイを含むことができる。」

(カ) 「【図1】

【図2】

【図3】



イ 引用文献1の記載から把握される発明
前記ア(ア)ないし(カ)で摘記した記載から,請求項8に係る「画像を形成する方法」の発明の実施形態として,【0022】に記載された,部分硬化の間,基板110及びインク層116の温度を制御するという手段を採用した発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。

「シート又はウェブの形をした基板110をプロセス方向Pに前進させるとともに,マーキングデバイス120,部分硬化デバイス140,平坦化デバイス160及び第2の硬化デバイス180が,この順序で前記プロセス方向Pに沿って配置された印刷装置100によって,前記基板110上に画像を形成する方法であって,
前記マーキングデバイス120に属する印刷ヘッド122,124,126及び128によって,十分に高い温度まで有機ゲル化剤を含むUV硬化性相変化インクを加熱して粘度を低減し,前記ノズルから前記基板110上へインク小滴を吐出することによって,前記UV硬化性相変化インクを前記基板110の正表面112上へ堆積させて,インク層116を形成する第1ステップと,
前記部分硬化デバイス140によって,前記インク層116に第1UV放射を照射して,前記インク層116を部分硬化させ,部分硬化の結果,前記UV硬化性相変化インクの粘度が,後述の挟持部166内で圧力が加えられるときにオフセット現象なしに前記基板110の正表面112上で流れる又は広がることを可能にするのに十分に高い粘度まで増加する第2ステップと,
前記平坦化デバイス160が含む平坦化ロール162及び圧力ロール164が互いに接触する挟持部166において,前記基板110及び部分硬化した前記インク層116に圧力を加えて,前記UV硬化性インクを前記基板110の正表面112上で平坦にする第3ステップと,
前記第2の硬化デバイス180によって,前記基板110の正表面112上の前記平坦にされたインク層116’に第2UV放射を照射して,前記UV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化させる第4ステップとを含み,
前記第1ステップでは,前記UV硬化性相変化インクが前記基板110上に衝突すると,熱が,前記UV硬化性相変化インクから冷たい前記基板110へ伝達され,前記UV硬化性相変化インクは急速に冷たくなり,前記基板110上でゲル粘度を生じ,
前記第2ステップでは,部分硬化の間,約10°Cから約20°Cまでの温度に温度制御されたプラテンを用いて,前記基板110及び前記インク層116の温度を所望の温度に制御する,
画像を形成する方法。」(以下,「引用発明」という。)

(2)周知の技術事項
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由において周知例として例示された引用文献2は,本件出願の優先権主張の日より前である平成21年12月10日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には,次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0132】
実施例1
《インクの調製》
・・・(中略)・・・
【0146】
・・・(中略)・・・
《画像形成》
〔画像1の形成〕
ピエゾ型のインクジェットヘッド12を備えた図1に記載の構成からなるライン方式のインクジェット記録装置に,上記調製した表1に記載のインクセット2(インク2K,2C,2M,2Y)を装填し,記録媒体として,巾600mm,長さ20m,厚さ40μmの長尺の白色ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い,搬送速度500mm/秒で,下記の条件で吐出した。インク供給系は,インクタンク14,供給パイプ,ヘッド直前の前室インクタンク,フィルター付き配管,ピエゾ型のヘッドからなり,前室タンクからヘッド部分まで断熱して50℃の加温を行った。なお,各インクの粘度にあわせてヘッド部を加温し,720×720dpi(dpiとは,2.54当たりのドットの数を表す。)の解像度で吐出できるよう駆動して,上記各インクを連続吐出して,各2次色のベタ画像と文字画像を印字した。全色のインクを吐出した後,完全硬化光源として,高圧水銀ランプVZero085(INTEGRATION TECHNOLOGY社製)のみを用い,150mJ/cm^(2)の条件で記録媒体上に着弾したインクを,一度に硬化して,画像1を形成した。
・・・(中略)・・・
【0149】
〔画像2の形成〕
上記画像1の形成において,1色目のインク(2K)が着弾した後,下記半硬化光源16A(LED光源)より活性エネルギー線を照射し,瞬時(着弾後0.5秒未満)に半硬化させた。次いで,半硬化した1色目のインクの上に2色目のインク(2C)が着弾した後,下記の半硬化光源(LED光源)より活性エネルギー線を照射し,瞬時(着弾後0.5秒未満)に半硬化させた。次いで,半硬化した2色目のインクの上に3色目のインク(2M)が着弾した後,下記の半硬化光源(LED光源)より活性エネルギー線を照射し,瞬時(着弾後0.5秒未満)に半硬化させ,最後に,半硬化した3色目のインクの上に4色目のインク(2Y)が着弾した後,下記の半硬化光源(LED光源)より活性エネルギー線を照射し,瞬時(着弾後0.5秒未満)に半硬化させ,次いで,下記の完全硬化光源(LED光源)より活性エネルギー線を照射し,完全硬化させた以外は,画像1の形成と同様にして,画像2を形成した。
【0150】
半硬化用LED光源:インク2K,2C,2M,2Y用のLED光源(半硬化光源16)は,LEDZero 395(INTEGRATION社製,ピーク波長:395nm,照度:1?2.5W/cm^(2))を使用し,10mJ/cm^(2)の条件で照射した。
【0151】
完全硬化用LED光源(完全硬化光源18)は,日亜化学社製(特注品)のピーク波長:365nm,照度:100mW/cm^(2)のLEDを使用し,50mJ/cm^(2)の条件で照射した。
【0152】
上記方法で半硬化工程及び完全硬化工程におけるカラー画像中のカチオン重合性化合物の反応率を,フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR,島津製作所社製のIR Prestige-21)を用いて測定した結果,半硬化工程における反応率は20.0%,完全硬化工程における反応率は66%であった。」

イ 引用文献3の記載
当審拒絶理由において周知例として例示された引用文献3は,本件出願の優先権主張の日より前である平成23年7月7日に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献3には,次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0013】
===第1実施形態===
<プリンターの構成について>
・・・(中略)・・・
【0015】
プリンター1は,用紙,布,フィルムシート等の媒体に向けて,液体の一例として,紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型インクを吐出することにより,媒体に画像を印刷する装置である。紫外線硬化型インクは,紫外線硬化樹脂を含むインクであり,紫外線の照射を受けると紫外線硬化樹脂において光重合反応が起こることにより硬化する。・・・(中略)・・・
【0025】
紫外線照射ユニット40は,ヘッド31が用紙Sに向けて吐出したインクに紫外線を照射してインクを硬化させるためのものである。この紫外線照射ユニット40は,インクに紫外線を照射してインクを仮硬化させるための仮硬化部41とインクに紫外線を照射してインクを本硬化させるための本硬化部43とを備える。
・・・(中略)・・・
【0027】
仮硬化部41は,紫外線照射の光源としてそれぞれ多数の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を備える。各LEDは,入力電流の大きさを制御することによって,照射強度(mW/cm^(2))を容易に変更することが可能である。また,本硬化部43は,紫外線照射の光源として,ランプ(メタルハライドランプ,水銀ランプなど)を備える。
【0028】
また,仮硬化部41は本硬化部43に比べて照射強度の弱い紫外線を照射する。そして,このことにより,ヘッド31から吐出された紫外線硬化型インクは,仮硬化部41にて照射される紫外線では完全には硬化せず(仮硬化),本硬化部43にて照射される紫外線によって完全に硬化する(本硬化)。本硬化部43は,搬送方向の最も下流側に一つだけ設けられる。」

ウ 引用文献2及び3の記載から把握される周知の技術事項
前記アで摘記した引用文献2の記載及び前記イで摘記した引用文献3の記載から,次の技術が,本件出願の優先権主張の日より前に,周知であったと認められる。

「紫外線硬化性組成物を半硬化させた後に完全硬化させる際に,完全硬化における紫外線の照射強度を,半硬化における紫外線の照射強度より高く設定する技術。」(以下,「周知技術」という。)

5 対比
ア 技術的にみて,引用発明の「シート又はウェブの形をした基板110」,「印刷ヘッド122,124,126及び128」,「UV硬化性相変化インク」,「第1UV放射」,「インク小滴」及び「第2UV放射」は,本件発明の「受容媒体」,「インクジェットプリントヘッド」,「紫外線硬化性相変化インク」,「第一紫外線ビーム」,「インクの液滴」及び「第二紫外線ビーム」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明における,インク小滴を吐出して,「シート又はウェブの形をした基板110」(本件発明の「受容媒体」に対応する。以下,「5 対比」欄において,「」で囲まれた引用発明の構成に付した()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を表す。)の正表面112上へ堆積させることは,「塗布」といえるから,引用発明の「基板110上に画像を形成する方法」は,「基板110」上に画像を塗布する方法であるといえる。
したがって,本件発明と引用発明は,「受容媒体上に画像を塗布する方法」である点で一致する。

ウ 引用発明において,「印刷ヘッド122,124,126及び128」から吐出されたインク小滴は,第1ステップにおいて,基板110上に衝突すると,熱が,UV硬化性相変化インクから冷たい基板110へ伝達され,UV硬化性相変化インクは急速に冷たくなり,基板110上でゲル粘度を生じるのであるから,UV硬化性相変化インクを加熱する「印刷ヘッド122,124,126及び128」(インクジェットプリントヘッド)の温度が,UV硬化性相変化インクがゲル化する温度より高い温度であることは明らかである。
そして,前記2(2)で述べた「固定化状態」の解釈によれば,引用発明の「有機ゲル化剤を含むUV硬化性相変化インク」がゲル化することは,本件発明の「固定化状態」になることに相当するから,前記「UV硬化性相変化インクがゲル化する温度」は,本件発明の「それ以下になるとインクが固定化状態になる温度である」「相転移温度T_(1)」に相当する。
したがって,引用発明の「第1ステップ」のうち,「マーキングデバイス120に属する印刷ヘッド122,124,126及び128によって,十分に高い温度までUV硬化性相変化インクを加熱して粘度を低減し,ノズルから基板110上へインク小滴を吐出する」という工程は,本件発明の「高温のインクジェットプリントヘッドから受容媒体上へ紫外線硬化性相変化インクの液滴を噴射するステップであって,高温は相転移温度T_(1)より高い温度であり,相転移温度T_(1)は,それ以下になるとインクが固定化状態になる温度である,ステップ」に相当する。

エ 引用発明では,第1ステップにおいて,UV硬化性相変化インクが基板110上に衝突すると,熱が,UV硬化性相変化インクから冷たい基板110へ伝達され,UV硬化性相変化インクは急速に冷たくなり,基板110上でゲル粘度を生じるところ,基板110上に衝突する「UV硬化性相変化インク」とは,ノズルから吐出した「インク小滴」のことであり,熱が基板110へ伝達され,急速に冷たくなり,基板110上でゲル粘度を生じる「UV硬化性相変化インク」とは,基板110上に堆積することでインク層116を構成する前記「インク小滴」のことである。
そして,UV硬化性相変化インクが基板110上でゲル粘度を生じるということは,基板110上に堆積した「インク小滴」(インクの液滴)が,「ゲル化する温度」(相転移温度T_(1))以下に冷却され,液体状態から「ゲル化した状態」(固定化状態)に変化するということにほかならない。
したがって,引用発明の「第1ステップ」のうち,「UV硬化性相変化インクが基板110上に衝突すると,熱が,UV硬化性相変化インクから冷たい基板110へ伝達され,UV硬化性相変化インクは急速に冷たくなり,基板110上でゲル粘度を生じ」るという工程は,本件発明の「堆積したインクの液滴をT_(1)より低い温度まで冷却するステップであって,インクの液滴はこれにより液体状態から固定化状態に変化する,ステップ」に相当する。

オ 引用発明の「第2ステップ」は,部分硬化デバイス140によって,インク層116に「第1UV放射」(第一紫外線ビーム)を照射して,インク層116を部分硬化させるステップであるところ,当該「部分硬化」は,2度行われる硬化のうちの先に行う硬化であるから,「前硬化」といえる。
また,引用発明の「部分硬化」(前硬化)させる「インク層116」は,ノズルから吐出した「インク小滴」(インクの液滴)を,基板110上に堆積させたものであるから,「堆積したインク小滴」といえるところ,引用発明の「第2ステップ」における「インク層116に第1UV放射を照射して,インク層116を部分硬化させる」ことは,「第1UV放射」(第一紫外線ビーム)を堆積した「インク小滴」(インクの液滴)に照射することによって,堆積した「インク小滴」(インクの液滴)を「部分硬化」(前硬化)させることといえる。
さらに,引用発明の「第1UV放射」(第一紫外線ビーム)が,インク層116中のUV硬化性相変化インクを部分硬化させるような強度及び照射時間で照射されることは明らかであるところ,当該「第1UV放射の強度」を「第一強度」ということができる。
したがって,引用発明の「部分硬化デバイス140によって,インク層116に第1UV放射を照射して,インク層116を部分硬化させる第2ステップ」は,本件発明の「第一紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクの液滴を前硬化させるステップであって,第一ビームは第一強度を有する,ステップ」に相当する。

カ 引用発明の「第4ステップ」は,基板110の正表面112上の前記平坦にされたインク層116’に第2UV放射を照射して,前記UV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化させるステップであるところ,当該「第4ステップ」における「硬化」は,2度行われる硬化のうちの後に行う硬化であるから,「後硬化」といえる。
また,引用発明の第4ステップにおいて,第2UV放射を照射する「基板110の正表面112上の平坦にされたインク層116’」は,基板110上に堆積させた「インク小滴」(インクの液滴)を部分硬化した後,平坦化したものであるから,「基板110の正表面112上の平坦にされたインク層116’に第2UV放射を照射し,UV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化させる」ことは,「第2UV放射」(第二紫外線ビーム)を「インクの液滴」に照射することによって堆積した「インク小滴」(インク)を実質的に完全に「硬化」(後硬化)させることといえる。
さらに,引用発明の「第2UV放射」(第二紫外線ビーム)が,インク層116中のUV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化させることができるような強度及び照射時間で照射されることは明らかであるところ,当該「第2UV放射の強度」を「第二強度」ということができる。
したがって,引用発明の「第2の硬化デバイス180によって,基板110の正表面112上の平坦にされたインク層116’に第2UV放射を照射して,UV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化させる第4ステップ」は,本件発明の「第二紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクを後硬化させるステップであって,第二ビームは第二強度を有する,ステップ」に相当する。

キ 引用発明において,第2ステップにおける「部分硬化」(前硬化)は,第4ステップにおける「硬化」(後硬化)の前に行われるから,本件発明と引用発明は,「前硬化は後硬化の前に行われる」点で一致する。

ク 引用発明において,マーキングデバイス120,部分硬化デバイス140,平坦化デバイス160及び第2の硬化デバイス180は,この順序でプロセス方向Pに沿って配置されているから,マーキングデバイス120が含む「印刷ヘッド122,124,126及び128」(インクジェットプリントヘッド)は,「部分硬化デバイス140」及び「第2の硬化デバイス180」に対して「プロセス方向P」に一定距離を置いて位置決めされているといえる。
ここで,引用発明の「プロセス方向P」は,基板110を前進させる方向であるから,前記2(4)で述べた解釈によれば,本件発明の「用紙搬送方向」に相当する。
また,引用発明の「部分硬化デバイス140」及び「第2の硬化デバイス180」は,それぞれ「第1UV放射」(第一紫外線ビーム)及び「第2UV放射」(第二紫外線ビーム)を照射するものであるから,前記2(3)で述べた解釈によれば,本件発明の「紫外線源」に相当する。
したがって,本件発明と引用発明は,「インクジェットプリントヘッドは,紫外線源に対して用紙搬送方向に一定距離を置いて位置決めされ,紫外線源は,第一紫外線ビームおよび第二紫外線ビームを提供するように構成され」ている点で一致する。

ケ 前記アないしクに照らせば,本件発明と引用発明は,
「受容媒体上に画像を塗布する方法であって,
a)高温のインクジェットプリントヘッドから受容媒体上へ紫外線硬化性相変化インクの液滴を噴射するステップであって,高温は相転移温度T_(1)より高い温度であり,相転移温度T_(1)は,それ以下になるとインクが固定化状態になる温度である,ステップと,
b)堆積したインクの液滴をT_(1)より低い温度まで冷却するステップであって,インクの液滴はこれにより液体状態から固定化状態に変化する,ステップと,
c)第一紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクの液滴を前硬化させるステップであって,第一ビームは第一強度を有する,ステップと,
d)第二紫外線ビームをインクの液滴に照射することによって堆積したインクを後硬化させるステップであって,第二ビームは第二強度を有する,ステップと,
を備え,
インクジェットプリントヘッドは,紫外線源に対して用紙搬送方向に一定距離を置いて位置決めされ,紫外線源は,第一紫外線ビームおよび第二紫外線ビームを提供するように構成され,
前硬化は後硬化の前に行われる,方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明では,第一強度が,少なくとも「前硬化ステップ」において,インクの温度がT_(1)を超過しないように設定されるのに対して,
引用発明では,第1UV放射の強度が,どのように設定されるものであるのかは,特定されていない点。

相違点2:
本件発明では,第二強度が第一強度より高いのに対して,
引用発明では,第1UV放射の強度と第2UV放射の強度の大小関係は,特定されていない点。

6 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明において,第2ステップで基板110及びインク層116の温度制御をする目的について検討してみると,技術的にみて,第2ステップにおいて,基板110やインク層116の温度が,約10℃から約20℃というプラテンの温度よりも低くなるとはおよそ考えられないから,前記温度制御が,基板110やインク層116を加熱するためになされているのでないことは明らかである。
一方,部分硬化デバイス140による第1UV放射の照射により,基板110やインク層116が加熱されてしまうことは,自然法則から自明であるところ,当該第1UV放射の照射以外に,第1ステップから第2ステップまでの間に,基板110やインク層116を加熱してしまうような加熱源は見当たらない。
そうすると,第2ステップにおける基板110及びインク層116の温度制御が,部分硬化デバイス140による第1UV放射の照射によって,基板110やインク層116の温度が上昇してしまうのを防止するために行われていることは,技術的にみて明らかである。
ここで,プラテンの吸熱能力が無限ではないことは当業者に自明の事項である。そして,第1UV放射の照射によって基板110やインク層116に与えられる単位時間当たりの熱量が,前記プラテンの吸熱能力を超えてしまう場合には,基板110及びインク層116の温度が上昇してしまい,所望の温度に維持することができなくなってしまうことは,引用発明を具体化するに際して当業者が直ちに理解できることであるから,そのようなことにならないように,第1UV放射の強度を,当該第1UV放射の照射により基板110やインク層116に与えられる単位時間当たりの熱量がプラテンの吸熱能力を超えないような値に設定すること,すなわち,第1UV放射の強度を,プラテンにより温度制御される基板110及びインク層116の温度が所望の温度に維持されるような値に設定することは,当業者が容易になし得たことというべきである。

イ 引用文献1の【0008】の「紫外線(UV)硬化性相変化インクは,印刷の際に基板上に画像を形成するのに,印刷ヘッドに対して用いることができる。これらのインクは,周囲温度において,粘性のあるゲル状の粘度を有する。これらのインクは,約周囲温度から高温まで加熱されると,低粘度の液体への相変化を受ける。」という記載,及び,引用発明において,第1ステップでは,UV硬化性相変化インクが基板110上に衝突すると,熱が,UV硬化性相変化インクから冷たい基板110へ伝達され,UV硬化性相変化インクは急速に冷たくなり,基板110上でゲル粘度を生じることから,UV硬化性相変化インクがゲル化する温度(以下,便宜上「ゲル化温度」という。)は,周囲温度より相当高い温度であると認められ,また,第2ステップで,部分硬化の間,基板110及びインク層116の温度制御を行うプラテンの約10°Cから約20°Cまでという温度は,通常使用される周囲温度であることは明らかであるから,当該温度に温度制御されたプラテンを用いて制御される基板110及びインク層116の温度である「所望の温度」は,「ゲル化温度」よりも低い値であると認められる。
したがって,前記アで述べた「第1UV放射の強度を,プラテンにより温度制御される基板110及びインク層116の温度が所望の温度に維持されるような値に設定する」という構成は,第1UV放射の強度を,基板110及びインク層116の温度が「ゲル化温度」より低い温度となるように設定することにほかならないから,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明は,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。

ウ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

エ なお,請求人は,令和1年10月31日に提出した意見書において,当業者が,引用文献1において,温度制御のためにプラテン130を用いる代わりに,第一ビームの第一強度を,少なくとも前硬化ステップにおいて,インクの温度がT_(1)を超過しないように設定することは容易であったとはいえないとか,プラテン130を用いて,周囲温度を下回る温度などの所望の温度に制御することと,相転移温度T_(1)を超過しないように第一ビームの第一強度を設定することとは,技術的に非常に異なり,そのため,当業者は,前者に接することによって,後者に想到することはないなどと主張する。
しかしながら,前記アで述べたように,引用発明において,第1UV放射の照射によって基板110やインク層116に与えられる単位時間当たりの熱量が,プラテンの吸熱能力を超えてしまう場合には,基板110及びインク層116の温度が上昇してしまい,所望の温度に維持することができなくなってしまうことは,当業者が直ちに理解できることであるから,そのようなことにならないように,第1UV放射の強度を,当該第1UV放射の照射により基板110やインク層116に与えられる単位時間当たりの熱量がプラテンの吸熱能力を超えないような値に設定することは,当業者が容易になし得たことである。すなわち,引用発明において,プラテンによる基板110及びインク層116の温度制御を行うとともに,第1UV放射の強度を,プラテンの吸熱能力を考慮した値に設定することは,当業者が容易になし得たことである。
そして,前記イで述べたように,第1UV放射の強度を,当該第1UV放射の照射により基板110やインク層116に与えられる単位時間当たりの熱量がプラテンの吸熱能力を超えないような値に設定するという前述した構成の変更を行った引用発明は,相違点1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備することとなる。
さらに,本件出願の請求項1の記載中に,プラテン等の何らかの手段によって受容媒体及び当該受容媒体に堆積したインクの液滴の温度制御を行うものでないことを規定するような発明特定事項は見当たらないから,前述した構成の変更を行った引用発明が,請求項1から除外されているわけでもない。
したがって,請求人の主張は,採用できない。

(2)相違点2について
引用発明において,第2ステップにおける部分硬化は,インク層116中のUV硬化性相変化インクの粘度を,「挟持部166内で圧力が加えられるときにオフセット現象なしに基板110の正表面112上で流れる又は広がることを可能にするのに十分に高い粘度」(以下,便宜上「特定粘度」という。)まで増加するために行うものであるところ,紫外線照射後のUV硬化性相変化インクの粘度は,UV硬化性相変化インクがどの程度硬化しているのか(以下,「硬化の程度」という。)によって決まるものであるから,前記部分硬化における紫外線の照射量(照射強度と照射時間の積)は,特定粘度が実現されるUV硬化性相変化インクの硬化の程度によって,定めるべきパラメータであるが,部分硬化における紫外線の照射強度は,照射時間を変更することによって適宜の値に変更することのできるパラメータである。
一方,第4ステップにおける硬化は,部分硬化したインク層116中のUV硬化性相変化インクを実質的に完全に硬化するために行うものであるから,その紫外線の照射量は,UV硬化性相変化インクの未硬化の成分を実質的に完全に硬化するのに必要な照射量以上の値とすればよいものであり,その最小値は,部分硬化したUV硬化性相変化インクの硬化の程度に応じて定めるべきパラメータであるが,当該硬化における紫外線の照射強度は,部分硬化における紫外線の強度と同様,照射時間を変更することによって適宜の値に変更することのできるパラメータである。
したがって,第2ステップの部分硬化における紫外線の照射強度と第4ステップの硬化における紫外線の照射強度の大小関係は,それぞれの硬化における紫外線の照射時間を適宜の値に変更することによって,適宜の関係とすることができるものと認められる。
そして,前記4(2)ウで認定したように,「紫外線硬化性組成物を半硬化させた後に完全硬化させる際に,完全硬化における紫外線の照射強度を,半硬化における紫外線の照射強度より高い値に設定する技術。」(周知技術)が,本件出願の優先権主張の日より前に周知であったことを考慮すると,引用発明において,第2UV放射の強度を第1UV放射の強度より高くすること,すなわち,相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことというほかない。

(3)効果について
本件発明が奏する効果は,当業者が予測できた程度のものと認められる。

(4)小括
以上のとおり,本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
本件発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2020-03-06 
結審通知日 2020-03-10 
審決日 2020-03-24 
出願番号 特願2016-537228(P2016-537228)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長田 守夫島▲崎▼ 純一小宮山 文男藏田 敦之  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 清水 康司
藤田 年彦
発明の名称 UV硬化性相変化インクを用いて画像を塗布する方法  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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