ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A61K |
---|---|
管理番号 | 1365305 |
審判番号 | 無効2018-800055 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-05-07 |
確定日 | 2020-08-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5643872号発明「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5643872号(以下「本件特許」という。)に係る発明についての出願は、平成11年5月6日を出願日とする特願平11-125903号の一部を平成19年6月11日に新たな出願(特願2007-154216号)とし、その一部を平成23年1月18日に新たな出願(特願2011-8226号)とし、さらにその一部を平成25年4月26日に新たな出願としたものであって、平成26年11月7日に特許権の設定登録がなされたものである。 これに対して、請求人は、平成30年5月7日受付け審判請求書(平成30年5月2日付け審判請求書)により、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明についての特許を無効にすることを求めて、本件特許無効審判を請求した。以後の手続の経緯は次のとおりである。 平成30年 6月13日付け 手続補正書(請求人) 同年 9月 7日付け 答弁書(被請求人) 同年12月 3日付け 審理事項通知書(当審合議体) 平成31年 1月23日付け 口頭審理陳述要領書(請求人) 同年 1月23日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人) 同年 2月22日 第1回口頭審理 第2 本件発明 本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって、 水及び増粘剤を含む粘性組成物と、 炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤と、 を含み、 前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が、前記粘性組成物と、前記複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤とを混合することにより得られ、前記二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の前記増粘剤の含有量が1?15質量%である、 キット。 【請求項2】 前記複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤が、酸として、クエン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、及びリン酸ニ水素カリウムからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1に記載のキット。 【請求項3】 前記粘性組成物が、増粘剤として、天然高分子、半合成高分子、及び合成高分子からなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載のキット。 【請求項4】 前記粘性組成物が、増粘剤として、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー 、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリビニルアルコールからなる群から選択された少なくとも1種を含む、請求項1?3のいずれかに記載のキット。」 第3 請求人の主張及び証拠方法 請求人が提出した審判請求書、平成30年6月13日付け手続補正書、及び口頭審理陳述要領書、並びに第1回口頭審理調書によれば、請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された発明には、以下の無効理由が存在する旨を主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。 (無効理由) 本件発明1?4は、甲第1号証に記載の発明又は甲第2号証に記載の発明に公知技術等を適用することにより容易に想到できるものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法123条第1項第2号に該当し、無効とするべきものである。 (証拠方法) 甲第1号証 特開昭60-215606号公報 甲第2号証 特公平7-39333号公報 甲第3号証 「広辞苑」第5版,株式会社岩波書店,1998年11月 11日,「キット」の項,奥付 甲第4号証 特開平8-268828号公報 甲第5号証 特開平9-206001号公報 甲第6号証 特開平6-179614号公報 甲第7号証 化粧品製造製品届書,香椎化学工業株式会社,平成13年 1月11日 甲第8号証 化粧製造品目追加許可書,平成3年11月12日 甲第9号証 特開平7-53324号公報 甲第10号証 「化粧品成分ガイド」第5版,フレグランスジャーナル社 ,2009年2月25日,p.18?21,奥付 甲第11号証 M.A.Lesser, Alginates in Drugs and Cosmetics, Economic Botany, p.317-321 甲第12号証 米国特許第2930701号明細書 甲第13号証 「医学書院 医学大辞典」第1版,株式会社医学書院, 2003年3月1日,p.61,奥付 甲第14号証 「増粘剤」,色材,1993年,Vol.66,No.7 ,p.434-444,奥付 甲第15号証 「生活の界面科学」,三共出版株式会社,昭和45年5月 10日,p.26?27,奥付 甲第16号証 「化粧品における水溶性高分子の利用」,高分子, 1972年,Vol.21,No.242, p.250?253 甲第17号証 鈴木正人監修「機能性化粧品の開発III」,株式会社 シーエムシー出版,2007年6月21日, p.314?321,表紙,奥付 甲第18号証 特開昭63-310807号公報 甲第19号証 特開平4-217609号公報 甲第20号証 「各種水溶液でのCO_(2)ガスの吸収/放散に関する基礎的研 究」,津山高専紀要,1998年,第40号, p.47?53 甲第21号証 「アルギン酸ナトリウム(アルロイド)の局所止血および 創傷治癒効果」,薬理と治療,1983年,Vol.11 ,No.2,p.81?87 甲第22号証 「可溶性アルギン酸ナトリウムの毒性試験」,基礎と臨床 ,1992年,Vol.26,No.1, p.197?206,Photo.1?5 甲第23号証 「胃X線検査用発泡散に関する薬剤学的研究」,病院薬学 ,1975年,Vol.1,No.1,p.24?26 甲第24号証 特開平6-256193号公報 (以上、審判請求書に添付。) 甲第25号証 PubMedでの"Alginates in Drugs and Cosmetic"の 検索結果 甲第26号証 「広辞苑」第6版,株式会社岩波書店,平成20年1月 11日,p.2183 (以上、平成31年1月23日付け口頭審理陳述要領書に添付。) 第4 被請求人の主張及び証拠方法 被請求人が提出した答弁書及び口頭審理陳述要領書、並びに第1回口頭審理調書によれば、被請求人は、請求人の主張する無効理由には理由がないと主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。 (証拠方法) 乙第1号証 「広辞苑」第7版,株式会社岩波書店,2018年1月 12日,p.1039,「固形」「固形物」の項,奥付 (以上、平成30年9月7日付け答弁書に添付。) 乙第2号証 特許第4659980号に対する特許無効審判 (無効2013-800042号)の審決 乙第3号証 大阪地方裁判所平成23年(ワ)第4836号 特許権侵害差止等請求事件 判決 乙第4号証 知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10016号 特許権侵害差止等請求控訴事件 判決 (以上、平成31年1月23日付け口頭審理陳述要領書に添付。) 第5 当合議体の判断 当合議体は、本件発明1?4についての特許は、請求人が主張する無効理由によって無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 各甲号証の記載 甲第1、2、6?10、20、21、23、24号証には、それぞれ、以下の記載がある。 (1)甲第1号証 (1a)「1.炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有することを特徴とするパツク剤。 2.炭酸ガス発生物質が炭酸塩と酸である特許請求の範囲第1項記載のパツク剤。」(特許請求の範囲第1項及び第2項) (1b)「本発明はパツク剤に関し、更に詳細には、炭酸ガスによる血行促進作用によつて皮膚をしつとりさせることができるパツク剤に関する。 パツク剤は、通常ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし、これに種々の添加成分を配合したもので、その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に、皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つである。」(1頁左欄下から3行?右欄7行) (1c)「そこで、本発明者は、このような欠点がなく、血行をよく促進するパツク剤を提供すべく鋭意研究を行った結果、炭酸ガスを皮膚に直接作用させると皮膚の血流がよくなり、皮膚にしつとり感を与えることを見出し、本発明を完成した。」(2頁左上欄1?6行) (1d)「本発明のパツク剤は次のような形態とすることができる。 (1)(審決注:原文では○中1。以下の「(2)」「(3)」についても同様。) 従来公知のパツク剤を耐圧容器に入れ、これに高圧炭酸ガス、あるいは炭酸塩と酸、もしくはドライアイス等の炭酸ガス発生源を加えて密閉する。 本パツク剤は使用時内容物を吐出させて被パツク部位に塗布する。 (2) 炭酸塩と酸を実質的に水の存在しない状態で、一つの不織布、布、紙等の担体に担持させる。更にこの担体に公知のパツク剤成分を一緒に担持させておいてもよい。 本パツク剤は、使用時被パツク部位に付着させ、この上に蒸しタオルを重ねるとか、水を添加するとかの方法によつてパツク剤に水を供給して、当該炭酸塩と酸とを反応させて炭酸ガスを発生させる。 (3) 炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの上記担体に担持させる。この担体には、(2)と同様に公知のパツク剤成分を担持させることも、また水分を保持させることもできる。 本パツク剤は、使用時被パツク部位に重ねて付着させ、必要な場合(パツク剤が水を含まない場合)には、(2)と同様に水を供給して炭酸ガスを発生させる。」(2頁左上欄下から2行?左下欄8行) (1e)「また、酸としては、有機酸及び無機酸の何れも使用できるが、水溶性で固体のものが好ましい。」(2頁右下欄10?12行) (1f)「本発明のパツク剤には上記必須成分のほかに、通常のパツク剤に使用される油性基剤、エモリエント剤、保湿剤、皮膜剤、ゲル化剤、増粘剤、アルコールおよび精製水、さらに必要に応じて界面活性剤、血行促進剤、消炎剤、ビタミン類、殺菌剤などの薬効剤、防腐剤、香料、色素などを適宜配合することができる。」(3頁左下欄5?11行) (1g)「叙上の如く、本発明のパツク剤は、短時間ですぐれた血行促進作用を示し、また適用部位に不快な刺激感を与えず、肌にしつとり感を与え、連続使用しても皮膚炎をおこす心配がないというすぐれた性質を示す。」(3頁左下欄最下行?右下欄4行) (1h)「実施例1 製造例1?4で得た本発明のパツク剤、従来法で得たパツク剤〔(P)及び(Q)〕について、血流量、NMF値及びしつとり感を測定した。 パツク剤(P) 平均分子量40万のポリビニルアルコール15部、平均分子量10万のポリビニルアルコール6部、ポリエチレングリコール(平均分子量300)2部、1,3-ブチレングリコール6部、エタノール5部、酸化チタン3部、香料0.2部、ホウ砂0.1部、色素を微量、および水63.8部から常法により製造した。 パツク剤(Q) 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール5部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール5部、コラーゲン2部、酸化チタン2部、香料0.2部、色素を微量、および水61.8部から常法により製造した。 製造例1 パツク剤(P)を耐圧容器に入れ、高圧の炭酸ガスを封入し、炭酸ガス含有のパツク剤を得た。耐圧容器内の最終ガス圧は4気圧とした。使用時のpHは6.1。 製造例2 平均分子量40万のポリビニルアルコール15部、平均分子量5万のポリビニルアルコール5部、1,3-ブチレングリコール20部、エタノール5部、スクワラン10部、酸化チタン5部、ポリエチレングリコール(平均分子量300)30部、炭酸水素ナトリウム5部、クエン酸5部から常法により製造した。使用時のpHは6.3。 製造例3 製造例2で製したパツク剤を不織布に均一に塗布して得た。 製造例4 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール4部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール6部、カルボキシメチルセルロースナトリウム3部、亜鉛華4部、炭酸水素ナトリウム5部、香料0.3部、色素を微量および水53.7部から、常法により製造したものをA剤とした。 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール5部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール5部、コラーゲン2部、酸化チタン2部、酒石酸5部、香料0.3部、色素を微量および水56.8部から常法により製造して得たものをB剤とした。使用時、A剤2重量部とB剤3重量部を混合する。使用時のpHは6.2。 〔測定方法〕 (1) 血流量 レザードツプラー血流計を用いて測定した。ヒト(24才、女性)の左腕内側に血流計のプローブを装着し、平常時の血流を測定した後、プローブの周囲に多量のパツク剤を塗布し、血流の変化を観察した。 (2) 皮膚水分量(NMF値) 電気伝導度が水分量に比例する原理を用いたソフイーナメーターによつて測定できるNMF値を角質水分量とした。 実験条件:被検者:女性(21?24歳、両腕内側、n=4) 室温:25℃ 湿度:72?76% 実験方法:入室10分後に両腕を石鹸で洗浄し、タオルでふきとり、15分間放置後、平常値を測定し一定面積(5×5cm)を両腕内側に左右対称に設定し、従来のパツク剤とCO_(2)含有パツク剤を各0.8gとつて均一に塗布する。 乾燥後(約30?40分後)皮膜となつたパツク剤を剥離した直後から、ソフイーナメーターによつてNMF値を3分おきに30分後まで測定する。 ソフイーナメーターによるNMF値はプルーブのあて方によつて誤差が生じやすいので、5回測定し、その平均値とした。 (3) しつとり感 石鹸で洗顔後、パツク剤を顔面に塗布し、乾燥後(約30?40分)パツク剤を剥離し、その30分後のしつとり感を評価した。評価は、非常にしつとりする(3点)、しつとりする(2点)、ややしつとりする(1点)、しつとりしない(0点)とし、健康な女性4人によつて評価した。 〔結果〕 その結果は第1表のとおりである。 第1表 (1) 血流量は、塗布前を1とした相対値で示した。 (2) NMF値は塗布30分後の値を塗布前を1とした相対値で示した。 (3) しつとり感はn=4の平均値を示した。 第1表から明らかなように、発明品は従来品に比較し、血流量、NMF値及びしつとり感の何れにおいても顕著に優れている。」(3頁右下欄6行?5頁右下欄4行) (2)甲第2号証 (2a)「【請求項1】 水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚、毛髪をマッサージするための発泡性化粧料であって、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤とを含むことを特徴とする発泡性化粧料。 ・・・ 【請求項6】 炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤とから成り、重量モル比に応じた第1剤と第2剤を含む発泡性化粧料に水を加え、練状にするとともに、第1剤と第2剤とを水のもとで反応させて炭酸ガスを発生させ、前記練状物を皮膚に接しさせることにより、炭酸ガスの気泡の破裂による刺激を与えてパックを行なう発泡性化粧料の使用方法。」(特許請求の範囲第1項、第6項) (2b)「【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の点に鑑みなされたもので、その課題とするところは、皮膚や毛髪に無用の刺激を与えることなく必要十分な効果が得られるようにすることである。 【課題を解決するための手段】前記の課題を解決するため本発明は、水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚、毛髪をマッサージするための発泡性化粧料として、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤とを含む組成を有する。本発明に係る化粧料はその組成からも明らかなように常態では粉状である。」(段落【0006】?【0007】10行) (2c)「他の添加剤の1には増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを1?15重量部の範囲で含めることができる。アルギン酸ナトリウムはほど良い気泡膜を形成させるので、これも気泡の強弱を調節できるが、1重量部未満では気泡及び炭酸ガスの発生状態が強過ぎ、20重量部を越えると長く持続する反面弱くなり過ぎる。また発生した気泡が破裂する音の強弱のコントロールにも使用される。」(段落【0012】) (2d)「他の添加剤の2には増量剤として炭酸マグネシウムを含めることができる。炭酸マグネシウムは皮膚、毛髪に対して感触の良い無機質剤として配合されると同時に、本発明に係る化粧料を使用するまで乾燥状態に置くための乾燥剤の役も果たす。比率は各組成比率の合計に加えて全量を100とする量を2重量部を越えない範囲で配合する。」(段落【0013】) (2e)「前記の組成からなる発泡性化粧料は第1剤と第2剤とが水の存在下で反応し、炭酸ガスを発生する。水は上水のほか、化粧水、或いはコールドパーマ用酸化剤のような水溶液の類も含まれる。代表的な処方例では化粧料使用量に対し重量比で水3倍量が適当である。 この化粧料を適量の水で溶いたとき、室温や組成の相違等による差はあるが、概ね1分以内で音を立てながら炭酸ガスを発生し、そのガスは気泡を連続して形成し、無数の気泡は文字通り泡を吹くように膨れあがり、やがて破裂して消失するが、この作用は2?3分から数分間持続する。 発泡させた化粧料を皮膚、毛髪等に付着させるときは、無数の泡が連続的に発生し、膨張し、流動し、破裂しているので、皮膚、毛髪等が刺激され、それによりマッサージと同等の作用が得られる。発泡、膨張、流動、破裂等の個々の泡の変化は微小であるが、無数に繰返され、しかも連続して作用するのでマッサージ作用は顕著であり、人為的なマッサージよりも処方に合致したマッサージ効果を得やすい。」(段落【0016】?【0018】) (2f)「【実施例】I.第1剤として炭酸水素ナトリウム35重量部、第2剤として硫酸カルシウム60重量部、添加剤として脱脂粉乳、でんぷん各1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、予め処方したグリチルリチン酸ジカリウム以下香料までの別表に示す10種及び残部炭酸マグネシウム若干量の各粉末を混合し、発泡性化粧料を調製した。この化粧料は弱アルカリを示す。 【表1】 II.第1剤の炭酸水素ナトリウムを15重量部に減じ、第2剤はクエン酸に変えるとともに35重量部に減じ、脱脂粉乳、でんぷんは各15重量部に増した上、アルギン酸ナトリウムも10重量部に増し、他は実施例Iと同様にして発泡性化粧料を調製した。 III.第1剤炭酸水素ナトリウム25重量部、第2剤アスコルビン酸50重量部、脱脂粉乳、でんぷん及びアルギン酸ナトリウム各5重量部、残部表1に示す添加剤により実施例Iと同様にして発泡性化粧料を調製した。 実施例II、IIIの発泡性化粧料はいずれも弱酸性を示す。故にパーマネント用にはII、IIIのものが使用される。 IV、V、VIこれらの例は、表1に示した通り、第1剤を炭酸水素アンモニウムに変更し、第2剤以下は前記実施例I?IIIと同様にして調製した4種であり、IVのものが弱アルカリ性のほか2種は弱酸性を示す。 上述の各発泡性化粧料I?VIに、重量比で略3倍に相当する量の上水を夫々添加し、皮膚に対するパック剤として使用した。被験者の感想を聴取し、また皮膚を観察したところ使用感は良好であり、気泡によるマッサージ効果も強弱様々選択できるため好評であり、また何の異状も認められなかった。さらに化粧料II、III、V、VIを頭髪に対するコールドパーマネントの酸化の際に使用した結果、従来15分程度を要した処理時間が7分程度に短縮できることが確認された。また従来のローションと異なり発泡性のため、液が頭皮を伝い目に入るということがない点でも好評であった。」(段落【0021】?【0026】) (2g)「【発明の効果】本発明は以上の如く構成され、作用するものであるから、適量の水を添加するだけで使用することができ、全くマッサージを施すことなくマッサージを施したのと同等の効果が得られ、しかも皮膚や毛髪等に無用の刺激を与えることなく必要十分なマッサージをなすことができた。」(段落【0027】) (3)甲第6号証 (6a)「アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料。」(特許請求の範囲第1項) (6b)「【産業上の利用分野】本発明はアルギン酸水溶性塩類およびこれと反応しうる二価以上の金属塩類を配合した使用性の良好な反応タイプのパック化粧料に関する。」(段落【0001】) (6c)「本発明のパック化粧料は、洗い落とす面倒のない、剥がすタイプのものでありながら、乾燥時間が短く、しかも皮膚に適度な緊張感があり、剥がすとき肌に残りにくく、とりやすい特色を有するほか、使用性が良好で、経時的にも安定であるという特徴がある。本発明のパック化粧料にあっては、使用直前にゲル状パーツと粉末パーツを混合する。この際、ゲル状パーツに含まれるアルギン酸水溶性塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)と、粉末パーツに含まれる二価以上の金属塩(例えば硫酸カルシウム)とが水の存在下で化学式1に示すような硬化反応を起こして皮膚形成能のあるアルギン酸金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)となり、この結果、弾力性のある凝固体が与えられる。」(段落【0005】) (4)甲第7号証 (7a)「【新たに製造し、又は輸入する製品】 【販売名】 :プラスキンII パウダー パック」(1頁(2枚目)下から11?12行) (5)甲第8号証 (8a)「 」(新たに製造する品目の表) (6)甲第9号証 (9a)「【請求項1】 澱粉又はその加水分解物とアルケニルコハク酸とのエステル化物、及び油性成分を含んでなることを特徴とする粉末状油性成分内包組成物。・・・ 【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の粉末状油性成分内包組成物を配合してなる化粧料又は外用剤。 【請求項5】 化粧料又は外用剤が粉末状である請求項4記載の化粧料又は外用剤。」(特許請求の範囲第1、4、5項) (9b)「【従来の技術】化粧品あるいは外用剤など人間の皮膚に直接塗布するものに対し、その原材料には安全であると同時に皮膚に対して優れた効果をもたらす性質が要求される。例えば、(1)皮膚に柔軟性、滑沢性を与える、(2)加脂助剤として皮膚を保護する、(3)皮膜形成によって外部からの有害物の進入を防止する、(4)皮膚にうるおいを与えるための保湿性を有する、などの働きを行うことがあげられる。このような機能を満たすものとして従来から油性成分が大きな役割をはたしており、この油性成分を皮膚になじみやすく付与するために水系のクリーム、乳液、化粧水などの剤形が一般にとられている。 最近、美白や保湿を目的として、粉末或いは顆粒状の組成物を、使用する直前に化粧水や乳液に分散せしめ、皮膚に塗布するいわゆる用時混合タイプのものが市販されるようになった。このような剤形は、前記のクリーム、乳液、化粧水などの剤形が取りにくい成分、例えば水共存下において酸化しやすい物質や液剤中で安定的に混在しにくい物質を剤形化するには有利である。」(段落【0002】?【0003】) (7)甲第10号証 (10a)「 化粧品の剤形タイプ 1.溶液タイプ(化粧水) 2.ジェルタイプ(クレンジングフォーム) 3.乳化タイプ(乳液) 4.固体タイプ(石けん、口紅) 5.粉体タイプ(プレストパウダー) 6.ペーストタイプ(ファンデーション) 7.皮膜タイプ(パック) 8.エアゾールタイプ(ヘアスプレー、デオドラントスプレー)」 (19頁下から1?9行) (8)甲第20号証 (20a)「水溶液中へのCO_(2)ガスの吸収反応は,硫酸あるいは硝酸を工業的に製造する場合に使用される酸素ガス中の不純物であるCO_(2)ガスの除去等と関連して重要であり,従来から種々研究されている。 ・・・しかし,これらの溶液の吸収反応は,(i)水溶液中へのCO_(2)ガスの溶解過程と(ii)溶解したCO_(2)とアルカリ水溶液の化学反応の逐次反応からなる化学吸収である。この後者のアルカリ水溶液とCO_(2)ガスの化学反応が非常に速いため,反応条件によっては,前者の溶解過程がCO_(2)ガスの吸収反応の律速過程となる。」(47頁左欄2?15行) (9)甲第21号証 (21a)「実験方法 ・・・ 2 使用薬物 アルロイドはLaminariaceaeより抽出されたアルギン酸ナトリウムの8%溶液である。 3 止血に対する効果 ・・・ 4)創縁の拡張力 ラットの背部に切創(3cm)を作成し,アルロイドを創面に1回0.5mlを縫合直後および翌日,翌々日の朝,夕の計5回塗布した。拡張力試験は5日後と9日後の創部について,山浦ら9)の方法に準じて,牽引法によって行なった。」(81頁右欄5行?82頁左欄29行) (21b)「アルギン酸ナトリウムの液剤(8%,アルロイド)の局所止血,創傷治癒作用について検討した。 アルロイドはin vitroで血液凝固時間を短縮させ,in vivoで肝刺傷,肝生検による出血に対して出血時間を短縮させ,出血量を減少させた。 切創の一次的治癒について,アルロイドは癒合を促進させ,組織学的にも上皮,膠原線維の発育促進が認められた。 すなわち,アルロイドはアルギン酸ナトリウムの固形製剤であるアルト,アルマンと同様な止血,治癒促進効果を示し,その作用機序は物理的および生化学的作用によるものと推察される。」(87頁左欄下から11行?右欄3行) (10)甲第23号証 (23a)「胃X線検査用発泡散に関する薬剤学的研究」(表題) (23b)「二重造影の補助手段としての陰性造影剤を胃に注入する方法として((1)(当審注:原文は○中1。「(2)」、「(3)」についても同様。)可逆的に陽性造影剤を空気とともに服用させる方法,(2)カテーテルを胃腔内に挿入して空気を注入する方法,(3)発泡剤を服用させ胃内にガスを発生させる方法があるが,被験者に苦痛を与えず,的確で簡便な方法としては(3)の方法をあげることができる2). 著者らは陰性造影剤として胃X線検査用発泡散(以下発泡散と略す)の試製について報告し2),現在,実用化されるに至っている. ・・・ 本報では発泡散の作用持続化について検討を加えた結果を報告する.」(24頁左欄8?27行) (23c)「表1 胃X線検査用発泡散 Rp. クエン酸カリウム 0.3 炭酸水素ナトリウム 0.7 酒石酸 0.4 クエン酸 0.27 甘味料 0.3 香料 0.03 全量 2.0g 2gから発生するCO2量=330mg以上」(表1) (11)甲第24号証 (24a)「【請求項1】 ダナゾールと界面活性剤とからなるダナゾール組成物を用いた胃溶性顆粒と、その胃溶性顆粒に腸溶性剤皮を施した腸溶性顆粒を混合して得られるダナゾールの経口用持続性複合顆粒製剤 【請求項2】 胃溶性顆粒と腸溶性顆粒の比率が2:8?7:3である請求項1記載のダナゾール経口用持続性複合顆粒剤」(特許請求の範囲第1、2項) 2 甲第1号証を主引例とする無効理由(以下「無効理由1」という。)について (1)甲第1号証に記載された発明 ア 摘示(1a)?(1b)、(1g)及び(1h)から、甲第1号証には、 「平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール4部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール6部、カルボキシメチルセルロースナトリウム3部、亜鉛華4部、炭酸水素ナトリウム5部、香料0.3部、色素を微量及び水53.7部から製造したA剤と、 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部、平均分子量5万のポリビニルアルコール5部、1,3-ブチレングリコール8部、エタノール5部、コラーゲン2部、酸化チタン2部、酒石酸5部、香料0.3部、色素を微量及び水56.8部から製造したB剤の組み合わせからなるパック剤であって、 使用時にA剤2重量部とB剤3重量部を混合することで、pHが6.2となるとともに、発生する炭酸ガスによる血行促進作用により、皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 イ ここで、請求人は、甲第1号証には、以下の発明が開示されていると主張している。 「ア 化粧料として使用される炭酸ガスを含有するパック剤を得るためのキットであって、 イ 炭酸水素ナトリウム及び増粘剤を含有する含水粘性組成物と、酒石酸及び増粘剤を含有する含水粘性組成物からなり、 ウ パック剤に気泡状の二酸化炭素を保持することを特徴とする、 エ 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有するパック剤を得ることができるキット」(審判請求書6頁18行?7頁下から4行) しかしながら、摘示(1a)?(1h)をはじめとする甲第1号証の記載を検討しても、「炭酸水素ナトリウム及び増粘剤を含有する含水粘性組成物と、酒石酸及び増粘剤を含有する含水粘性組成物からな」るキットが記載されているといえる根拠を見いだすことはできず、摘示(1a)?(1c)、(1g)、(1h)によれば、上記アで説示した甲1発明が記載されていると認定するのが相当である。 (2)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「炭酸水素ナトリウム」、「酒石酸」は、それぞれ、本件発明1における「炭酸塩」、「酸」に相当する。 甲1発明における「ポリビニルアルコール」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、本件明細書の「本発明で増粘剤に用いる合成高分子としては、・・・ポリビニルアルコール、・・・などがあげられる」(段落【0060】)、「本発明で増粘剤に用いる半合成高分子の中のセルロース系高分子としては・・・カルボキシメチルセルロース及びその塩類、・・・などがあげられる」(段落【0056】)との記載からみて、本件発明1における「増粘剤」に相当し、当該増粘剤と水とを含有する甲1発明のA剤及びB剤はいずれも、本件発明1の「水及び増粘剤を含む粘性組成物」に相当する。そして、甲1発明のA剤及びB剤からなるパック剤における増粘剤の含有割合は、A剤中に23部、B剤中に21部含まれ、A剤2重量部とB剤3重量部が混合されることから、23×2/5+21×3/5=21.8部、すなわち21.8質量%と算出される。 また、甲1発明の「炭酸ガス」は、本件発明1における「気泡状の二酸化炭素」に相当するところ、使用時に甲1発明のA剤及びB剤を混合して得られる「発生する炭酸ガスによる血行促進作用により、皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与える」パック剤は、二酸化炭素を経皮・経粘膜吸収させる組成物であるといえるから、本件発明1における「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料」に相当する。 さらに、甲1発明におけるA剤及びB剤の組み合わせは、使用時に両者を混合してパック剤を得るものであるから、本件発明1における「パック化粧料を得るためのキット」に相当する。 ここで、甲1発明におけるA剤及びB剤は、「炭酸水素ナトリウム」(炭酸塩)、「酒石酸」(酸)、水等の成分以外の成分も含むものであるが、本件発明1における「顆粒(細粒、粉末)剤」及び「含水粘性組成物」も、「・・・を含む」、「・・・を含有する」との記載から、上記成分以外の成分を含み得るものと解されるから、この点で両者が相違するとはいえない。 そうすると、両者は、 「気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって、 水及び増粘剤を含む粘性組成物 を含むキット。」 の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1-1) キットの構成について、本件発明1では、「水及び増粘剤を含む粘性組成物と、炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤と、を含み」、両者を混合することにより二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が得られることが特定されるのに対し、甲1発明では、「炭酸水素ナトリウム」、「水」及び「ポリビニルアルコール」、「カルボキシルメチルセルロースナトリウム」を含む「A剤」と、「酒石酸」、「水」及び「ポリビニルアルコール」を含む「B剤」とからなり、両者を混合することにより二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物が得られる点 (相違点1-2) 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物中の増粘剤の含有割合が、本件発明1では、「1?15質量%」に特定されるのに対し、甲1発明では、21.8質量%と算出される点 (イ)相違点1-1について a 摘示(1d)にはパック剤の形態についての記載があるものの、そこには、炭酸塩と酸を、実質的に水の存在しない状態で一つの担体に担持させても、それぞれ異なる2つの担体に担持させてもよいこと、一つの担体に担持させたパック剤の場合には、当該パック剤を使用時に被パック部位に付着させ、この上に蒸しタオルを重ねるか、水を添加する方法によって水を供給し、炭酸塩と酸とを反応させて炭酸ガスを発生させること、及び、上記担体が不織布、布、紙等であることが示されるにとどまり、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」や「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」の形態は記載されておらず、甲1発明のパック剤を、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」の組み合わせからなる形態とすることを当業者に動機付ける根拠となる記載は見当たらない。 また、摘示(1e)の「酸としては、有機酸及び無機酸の何れも使用できるが、水溶性で固体のものが好ましい」との記載は、B剤に添加する酒石酸を「固体」とすることをいうものにすぎず、さらに、摘示(1h)の製造例1?3をはじめとする甲第1号証の他の記載や他の甲号証の記載を検討しても、甲1発明において、A剤とB剤の剤形を、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」同士の組み合わせから、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」の組み合わせに代えることを当業者に動機付けるに足る根拠を見いだすことはできない。 b 請求人は、以下の主張を行っている。 「炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤は慣用技術であるところ(甲23:「胃X線検査用発泡剤に関する薬剤学的研究」、甲24:特開平6-256193)、これらは、一つの粉末剤に含有させることにより必要な剤形の数を減少させることができるとともに、炭酸塩及び酸を含むものの剤形を粉末にすることにより炭酸ガス発生の速度を遅延させることができるというメリットがある。すなわち、2剤がともに液状(粘性組成物を含む)である場合には、酸と炭酸塩が直ちに反応し、短時間で炭酸ガスの発生が終了し、持続性に欠けることになるのに対し、一方が固形物である場合には、固形物の溶解に時間を要するため、炭酸ガスの発生反応がその溶解速度によって決定されることになるからである(甲20:各種水溶液でのCO2ガスの吸収/放散に関する基礎的研究)。このことは、用時混合型の2剤型の化粧品において、A剤を含水粘性組成物とし、B剤を粉末等の固形物とすることが慣用技術であることからも裏付けられる。 さらに、甲1には、「担体」として、不織布、布及び紙が例示されていることから(2頁右上欄)、「担体」に固形物が含まれることが明示されている。加えて、甲1には、「この担体には・・・水を含ませることもできる」(2頁左下欄)との記載があるが、この記載は、担体には水を含まない固形物も含まれることを前提として上で、水を含ませることも可能であることを開示したものであり、水を含まない固形物が「担体」に含まれることを示唆しているといえる。 したがって、引用発明1において、「担体」を「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」に置換することは容易である。」(審判請求書11頁1?20行) c そこで、検討するに、摘示(1b)には、「パック剤は、通常ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし、これに種々の添加成分を配合したもので、その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に、皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つである」と記載され、摘示(1h)の実施例では、甲1発明のA剤及びB剤を混合して得られるパック剤(製造例4)を腕内側に塗布し、乾燥後に皮膜となったパック剤を剥離して使用していることからみて、甲1発明のパック剤は、使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するものであるといえる。また、摘示(1g)には、甲第1号証に記載されるパック剤について、使用時に「短時間で」優れた血行促進作用を示すものであることも記載されている。 そうすると、甲第1号証の記載を検討しても、使用時に皮膚上で乾燥して皮膜を形成し、「短時間で」優れた血行促進作用を示す甲1発明のパック剤において使用時の炭酸ガスの発生を遅延させ、持続性を持たせることを当業者に動機付けるに足る根拠は見いだせないし、請求人が、「一方が固形物である場合に、その溶解速度によって炭酸ガスの発生反応が決定される」ことの根拠とする甲第20号証は、摘示(20a)によれば、水溶液中への炭酸ガスの吸収反応に関するものであって、炭酸ガスの発生反応と、酸と炭酸塩の溶解速度との関係を示すものではないから、上記主張はその根拠を欠いている。 また、請求人が、「炭酸塩及び酸を含む「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」が慣用技術である」ことの根拠とする甲第23、24号証は、摘示(23a)?(23c)、(24a)のとおり、いずれも、経口投与用薬剤に関するものであって、皮膚に適用する化粧料に関するものではなく、甲第24号証に至っては、炭酸塩及び酸を含む「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」すら記載されていない。 加えて、請求人が、「用時混合2剤型の化粧品において、含水粘性組成物と固形物の組み合わせが慣用技術である」ことの根拠とする甲第6?10号証(審判請求書17頁別紙の2の項参照。)はいずれも、炭酸ガスを発生させて、発生する炭酸ガスによる血行促進作用により、皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤に関するものではないから(摘示(6a)?(6c)、(7a)、(8a)、(9a)、(9b)、(10a))、上記慣用技術が存在したとしても、その慣用技術を、炭酸ガスを発生させて、発生する炭酸ガスによる血行促進作用により、皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤である甲1発明に適用することが、当業者に動機付けられるとはいえない。 さらに、請求人が指摘する甲第1号証の2頁右下欄及び同頁左下欄(摘示(1d)参照)の記載を検討しても、甲1発明のパック剤を、「水及び増粘剤を含む粘性組成物」と「複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」の組み合わせからなる形態とすることを当業者に動機付けるに足る根拠が見いだせないことは、上記aで説示したとおりである。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (ウ)相違点1-2について a 摘示(1b)、(1f)、(1h)をはじめとする甲第1号証の記載を検討しても、甲1発明のパック剤における「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセルロースナトリウム」の含有割合は、上記(ア)で説示したとおり算出されるものの、その他に「ポリビニルアルコール」や「カルボキシメチルセルロースナトリウム」の含有割合について言及する記載は見当たらない。 そして、上記(イ)cで説示したとおり、甲1発明のパック剤は、使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するものであり、その主剤である水性粘稠液を構成する「ポリビニルアルコール」や「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、皮膜形成に寄与するものといえるところ、甲第1号証や他の甲号証の記載を検討しても、それらの成分の含有割合を上記(ア)で説示した「21.8質量%」から低下させ、「1?15質量%」の範囲とすることを当業者に動機付けるに足る根拠を見いだすことはできない。 b 請求人は、「増粘剤の割合を調整することは単なる設計事項にすぎず、相違点1-2の克服は容易である」(審判請求書11頁下から2?3行)と主張している。 そこで検討するに、本件発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料」は、「二酸化炭素は、炭酸飲料や発泡性製剤のように短時間、例えば数秒から数分以内に消失するものではなく、本発明の組成物に気泡状態で保持され、持続的に放出される」(段落【0037】)や「本発明の組成物は二酸化炭素の持続的経皮・経粘膜吸収が目的である」(段落【0042】)をはじめとする本件明細書の記載からみて、気泡状の二酸化炭素を保持し、持続的に経皮・経粘膜吸収させることを目的とするものといえる。 一方、甲1発明のパック剤は、上記aで説示したとおり、使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するものであって、本件発明1とは目的や作用を異にするものであるところ、甲1発明において、その目的や作用に寄与する成分である「ポリビニルアルコール」や「カルボキシメチルセルロースナトリウム」の含有割合を調整することが、単なる設計事項であるとすることはできない。 また、他の甲号証の記載を検討しても、甲1発明のパック剤において、「ポリビニルアルコール」及び「カルボキシメチルセルロースナトリウム」の含有割合を「1?15質量%」とすることが単なる設計事項であるといえる根拠は見いだせない。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (エ)小括 以上のことから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4はいずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、上記アで説示したとおり、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2?4も、甲第1号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)まとめ したがって、本件発明1?4についての特許を無効理由1によって無効にすることはできない。 3 甲第2号証を主引例とする無効理由(以下「無効理由2」という。)について (1)甲第2号証に記載された発明 ア 摘示(2a)によれば、甲第2号証には、「水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚、毛髪をマッサージするための発泡性化粧料であって、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤とを含むことを特徴とする発泡性化粧料」が記載され、当該発泡性化粧料に「水を加え、練状にするとともに、第1剤と第2剤とを水のもとで反応させて炭酸ガスを発生させ、前記練状物を皮膚に接しさせることにより、炭酸ガスの気泡の破裂による刺激を与えてパックを行なう発泡性化粧料の使用方法」も記載されている。また、摘示(2c)、(2d)には、上記発泡性化粧料に、他の添加剤を含めることができることも記載されている。 以上のことから、甲第2号証には、 「水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚をマッサージするための発泡性化粧料であって、 炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤と、他の添加剤とを含み、 水を加え、練状にするとともに、第1剤と第2剤とを水のもとで反応させて炭酸ガスを発生させ、前記練状物を皮膚に接しさせることにより、炭酸ガスの気泡の破裂による刺激を与えてパックを行って使用する発泡性化粧料。」 の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 イ ここで、請求人は、甲第2号証には、以下の発明が開示されていると主張している。 「ア 発泡性化粧料を得るためのキットであって、 イ 炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素アンモニウムのいずれかを含む第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と ウ 硫酸カルシウム,クエン酸又はアスコルビン酸のいずれかを含む第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と エ 水と オ アルギン酸ナトリウムとを含み、 カ これらを混合した場合、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素アンモニウムと硫酸カルシウム,クエン酸又はアスコルビン酸とが反応して炭酸ガスが発生し、 カ 当該気泡状の炭酸ガスを含む、アルギン酸ナトリウムを含有する粘性の水溶液であるパック化粧料を得ることができる キ キット」(審判請求書9頁1?14行) しかしながら、摘示(2a)?(2g)をはじめとする甲第2号証の記載を検討しても、「発泡性化粧料を得るためのキット」に「水」を含むことが記載されているといえる根拠を見いだすことはできず、摘示(2a)、(2c)、(2d)によれば、上記アで説示した甲2発明が記載されていると認定するのが相当である。 (2)対比・判断 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)」、「硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)」は、それぞれ、本件発明1における「炭酸塩」、「酸」に相当する。 甲2発明における「炭酸ガスの気泡」は、本件発明1における「気泡状の二酸化炭素」に相当する。 そして、甲2発明の発泡性化粧料に対し「水を加え、練状にするとともに、第1剤と第2剤とを水のもとで反応させて炭酸ガスを発生させ」た「練状物」は、発生した炭酸ガスの気泡が全て破裂するまでは気泡状の炭酸ガスを含むと認められ、また、「皮膚の接しさせることにより、……パックを行って使用する」ものであるから、甲2発明の「水を加え、練状にするとともに、第1剤と第2剤とを水のもとで反応させて炭酸ガスを発生させ、前記練状物を皮膚に接しさせることにより、……パックを行って使用する発泡性化粧料」は、本件発明1の「気泡状の二酸化炭素を含有する……パック化粧料を得るためのキット」に相当する。 そうすると、両者は、 「気泡状の二酸化炭素を含有する組成物からなるパック化粧料を得るためのキットであって、 炭酸塩及び酸 を含む キット」 の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点2-1) キットの構成が、本件発明1では、「水及び増粘剤を含む粘性組成物と、炭酸塩及び酸を含む、複合顆粒剤、複合細粒剤、または複合粉末剤」を含み、それらを混合することにより得られる組成物中の増粘剤の含有量が1?15重量%であるのに対し、甲2発明では、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムから選ばれた第1の炭酸ガス発生剤(第1剤)と、硫酸カルシウム、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれた第2の炭酸ガス発生剤(第2剤)と、脱脂粉乳、でんぷんから選ばれた添加剤と、他の添加剤とを含む点 (相違点2-2) 気泡状の二酸化炭素を含有する組成物について、本件発明1では、「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用」と特定されるのに対し、甲2発明では、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚をマッサージするものとされる点 (イ)相違点2-1について a 上記(1)アのとおり、甲2発明の発泡性化粧料は、「水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚をマッサージするための」ものである。 そして、摘示(2b)に「本発明に係る化粧料はその組成からも明らかなように常態では粉状である」ことが、摘示(2g)に「本発明は以上の如く構成され、作用するものであるから、適量の水を添加するだけで使用することができ」ることが、摘示(2d)に「本発明に係る化粧料を使用するまで乾燥状態に置くための乾燥剤の役も果たす」炭酸マグネシウムを含めることができることが、それぞれ記載されていることも併せみれば、甲2発明の発泡性化粧料は、炭酸ガスの発生を抑制するために、使用するまで乾燥状態に置くことが前提とされているといえる。 そうすると、その前提に反して、使用する前の段階で甲2発明の発泡性化粧料に水を予め添加することが、甲第2号証の記載に接した当業者に動機付けられるとはいえず、さらに、甲第2号証の他の記載や他の甲号証の記載を検討しても、上記発泡性化粧料に含まれる成分から増粘剤であるアルギン酸ナトリウムを選択し、それに水を予め添加することを、当業者に動機付けるに足る根拠を見いだすことはできない。 b 請求人は、以下の主張を行っている。 「引用発明2の課題は、発生させた二酸化炭素の気泡を利用して適度な強度のマッサージ効果を与えることにある。 そして、甲2には、増粘剤としてのアルギン酸ナトリウムの割合を調整することにより気泡の強弱を調節できることが記載されている。 他方、アルギン酸ナトリウムが水に徐々に溶解するものであり、また、粉末の場合にはダマ(ままこ)が形成されるという問題があることが周知である。そのため、アルギン酸ナトリウムのダマ(ままこ)の形成を防ぎ、増粘作用を効率的に利用するためには、事前に水に溶解させて、均一な水溶液(均一化していなければ「溶解」とはいえない)として利用することが必要である。また、アルギン酸ナトリウムは酸性水溶液中には溶解しないため、塩基性又は中性のアルギン酸ナトリウム水溶液が慣用されている。 したがって、「炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素アンモニウム、水及びアルギン酸ナトリウム」を慣用の塩基性又は中性のアルギン酸ナトリウム水溶液に置換することには、「アルギン酸ナトリウムの割合を調整することによる気泡の強弱の調節作用をより適切なものとする」という十分な動機付けがあるものといえる。」(審判請求書12頁2?16行) c しかしながら、アルギン酸ナトリウム粉末にダマが形成される問題があることが周知であるとしても、アルギン酸ナトリウム単体ではなく、炭酸塩や酸等の各種成分と混合した甲2発明の発泡性化粧料においても同様の問題が生じるとまで、甲第2号証や他の甲号証の記載から当業者が認識し得るとはいえない。 仮に認識し得るとしても、アルギン酸ナトリウムに関する摘示(2c)の記載は、甲2発明の発泡性化粧料において、アルギン酸ナトリウムの含有量を調整することをいうにすぎず、使用するまで乾燥状態に置くことを前提とする甲2発明の発泡性化粧料において、その前提に反して予め水を添加することを当業者に動機付けるに足る根拠が見いだせないことは、上記aで説示したとおりである。 したがって、上記請求人の主張は採用できない。 (ウ)相違点2-2について a 上記2(2)ア(ウ)bで説示したとおり、本件発明1の「二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物からなるパック化粧料」は、本件明細書の段落【0037】、【0042】をはじめとする本件明細書の記載からみて、気泡状の二酸化炭素を保持し、持続的に経皮・経粘膜吸収させるものであるといえる。 一方、甲2発明は、「発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚をマッサージするための発泡性化粧料」であって、気泡状の二酸化炭素を保持し、持続的に経皮・経粘膜吸収させるものとはいえない。 また、摘示(2e)、(2f)をはじめとする甲第2号証の他の記載や他の甲号証の記載を検討しても、炭酸ガスの気泡の破裂による刺激を与えてパックを行って使用する甲2発明の発泡性化粧料を、気泡状の二酸化炭素を保持し、持続的に経皮・経粘膜吸収させるために用いることを当業者に動機付けるに足る根拠を見いだすことはできない。 b 請求人は、以下の(a)及び(b)の主張を行っている。 (a)「甲2には、「アルギン酸ナトリウムはほど良い気泡膜を形成させる」との記載があり、また、アルギン酸ナトリウムのような高分子が水溶液中で三次元の網目構造を形成し、その結果、発生した気泡の安定化に寄与することは技術常識でもある。 さらに、甲5(カネボウフーズ001)には、「特定の増粘多糖類を一旦溶液化して特定温度に保持し、適度な粘性を付与した状態で、発泡成分と接触させることにより、発泡成分が充分に溶解して発泡するとともに、それによって生じた炭酸ガスの気泡が、粘性を帯びた増粘多糖類に封じ込められ、外部へ逃散しないことを見出した」という記載があることから(【0006】)、増粘剤が炭酸ガスを閉じ込める効果があることは公知であったといえる。 他方、発生した気泡がすぐに崩壊する又は空気中に拡散する場合には、発生した気泡を効率的に活用することができないという課題が生じることは自明である。 以上に照らせば、発生した気泡を効率的に活用するために、気泡の安定化及び拡散防止を図るという目的を実現するために、発生した二酸化炭素を「気泡状で保持できる」ことが可能となるようにアルギン酸ナトリウムの量を調整することには、十分な動機付けがあるものといえる。」(審判請求書12頁下から8行?13頁8行) (b)「引用発明2の課題は、発生させた二酸化炭素の気泡を利用して適度な強度のマッサージ効果を与えることにあるところ、解決手段として、「気泡の破裂により皮膚、毛髪をマッサージするため」という記載があることから(甲2の【0007】)、引用発明2に対し、「発生した二酸化炭素を「気泡状で保持できる」ことが可能となるようにアルギン酸ナトリウムの量を調整する」技術を適用することには阻害要因があるとの見解があり得るが、失当である。 すなわち、第1に、「気泡の破裂」を発生させるためには、気泡状の二酸化炭素の形成が不可欠であるところ、気泡が小さければ、当該気泡が破裂しても、大きな気泡と比較して、当然、その破裂によるマッサージ作用は弱いのであるから、より大きな「気泡の破裂」を得るためには、「気泡状の二酸化炭素」を一定時間保持して、大きな気泡を形成させる必要がある。・・・ 第2に、マッサージ効果は強ければ良いというものではなく、その強弱のコントロールが必要であり(甲2の【0011】及び【0012】)、そのためには、「発生した二酸化炭素を「気泡状で保持できる」ことが可能となるようにアルギン酸ナトリウムの量を調整する」技術が必要である。 以上のとおりであるから、引用発明2に対し、「発生した二酸化炭素を「気泡状で保持できる」ことが可能となるようにアルギン酸ナトリウムの量を調整する」技術を適用することには阻害要因があるとは到底いえない^(1)。」(審判請求書13頁13行?14頁12行) c しかしながら、上記(1)アのとおり、甲2発明の発泡性化粧料は、「水のもとで反応し、発生した炭酸ガスの気泡の破裂により皮膚をマッサージするための」ものであることからみれば、摘示(2c)の「アルギン酸ナトリウムはほど良い気泡膜を形成させる」との記載は、炭酸ガスの気泡の破裂を前提として、短時間存在する一時的な気泡膜を形成させることを意図するものであるといえる。 また、上記(b)の第1の点も第2の点も、甲2発明において、マッサージ作用をもたらす炭酸ガスの気泡の破裂を前提として、一時的な気泡膜を形成させることをいうものであることに変わりはない。 そして、甲第2号証や他の甲号証の記載を検討しても、二酸化炭素の気泡の破裂によるマッサージ作用を目的とする甲2発明において、その目的に反して、二酸化炭素の気泡を破裂させずに保持し、経皮・経粘膜吸収させることを、当業者に動機付けるに足る根拠は見いだせない。 仮に甲2発明において、マッサージ作用の強弱を調節するために、二酸化炭素の気泡を一定時間保持させることが動機付けられるとしても、そのために発泡性化粧料に含まれる成分からアルギン酸ナトリウムを選択し、それに水を予め添加することを、当業者に動機付けるに足る根拠が見いだせないことは、上記(イ)a?cで説示したとおりである。 したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。 (エ)小括 以上のことから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4はいずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから、上記アで説示したとおり、本件発明1が、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2?4も、甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)まとめ したがって、本件発明1?4についての特許を無効理由2によって無効にすることはできない。 4 むすび 以上のとおり、本件発明1?4についての特許は、無効理由1及び2によって無効にすべきものであるとはいえない。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-03-29 |
結審通知日 | 2019-04-03 |
審決日 | 2019-05-07 |
出願番号 | 特願2013-93612(P2013-93612) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小堀 麻子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 榎本 佳予子 |
登録日 | 2014-11-07 |
登録番号 | 特許第5643872号(P5643872) |
発明の名称 | 二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物 |
代理人 | ▲高▼橋 淳 |
代理人 | 柴田 和彦 |
代理人 | 田中 順也 |
代理人 | 迫田 恭子 |
代理人 | 松本 響子 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 山田 威一郎 |