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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1365309
審判番号 不服2019-6259  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-14 
確定日 2020-08-14 
事件の表示 特願2015-542401「血管塞栓システム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月22日国際公開、WO2014/076660、平成28年 1月18日国内公表、特表2016-501066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年11月14日(パリ条約による優先権主張 2012年11月14日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成28年11月11日 :補正書の提出
平成29年10月24日付け :拒絶理由通知
平成30年 2月26日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年 4月18日付け :拒絶理由通知
平成30年 8月23日 :意見書及び手続補正書の提出
平成30年10月22日付け :拒絶理由通知
平成30年12月25日 :意見書及び誤訳訂正書の提出
平成31年 2月 8日付け :拒絶査定
令和 1年 5月14日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和 1年 6月21日 :手続補正書(請求の理由)の提出

第2 本願発明

本願の請求項1?14に係る発明は、令和 1年 5月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
血管において少なくとも部分的遮断、滞留、閉塞もしくは閉栓を形成し、被験体における腫瘍から血液供給を取り除くことによって、該被験体においてがん細胞の低減または排除に使用するための組成物であって、該組成物は、
生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該血管の少なくとも部分的遮断を可能にして塞栓効果またはその中の細胞壊死効果を提供するために、有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液;
を包含する、組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、平成30年 4月18日付け拒絶理由通知書において理由3として記載された内容を踏まえたものであり、本願の請求項1?14に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

平成30年 4月18日付け拒絶理由通知書の理由3の拒絶理由の対象とされた本願に係る発明には、平成30年 2月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1、請求項8に記載された事項により特定される次のとおりの発明が含まれている。

「【請求項1】
被験体において生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気の処置または生物学的脈管を介したがん細胞の処置に使用するための組成物であって、該組成物は、
生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該血管の少なくとも部分的遮断を可能にして塞栓効果またはその中の細胞壊死効果を提供するために有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液;
を包含する、組成物。

【請求項8】
形成される前記遮断は、がん細胞の低減において使用される、請求項1に記載の組成物。」

令和 1年 5月14日提出の手続補正書による補正後の請求項1では、平成30年 2月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項であった「被験体において生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気の処置または生物学的脈管を介したがん細胞の処置に使用するため」との規定が削除されるとともに、「血管において少なくとも部分的遮断、滞留、閉塞もしくは閉栓を形成し、被験体における腫瘍から血液供給を取り除くことによって、該被験体においてがん細胞の低減または排除に使用するため」という発明特定事項が新たに追加されている。
平成30年12月25日に提出された誤訳訂正書による補正後の明細書の段落0078の以下に示す記載によれば、平成30年 2月26日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の「被験体において生物学的脈管における障害、奇形、もしくは先天的病気の処置または生物学的脈管を介したがん細胞の処置に使用するための組成物」が、「血管において少なくとも部分的遮断、滞留、閉塞もしくは閉栓を形成し、被験体における腫瘍から血液供給を取り除くことによって、該被験体において」「がん細胞の処置」「に使用するための組成物」であり、また、同請求項8の規定によれば、同請求項1の「がん細胞の処置に使用するための組成物」が、「がん細胞の低減において使用するための組成物」であることは、令和 1年 5月14日提出の手続補正書による補正の前後で変更はないから、平成30年 4月18日付け拒絶理由通知書の理由3の拒絶理由の対象とされた請求項1を引用する請求項8に係る発明は、前記「第2」に示した「本願発明」に対応するものである。

「【0078】
上記膜もしくはヒドロゲルは、本開示の方法およびキットを使用して所望の効果を提供するために十分な期間にわたって、上記標的領域の所定の場所に留まり得る。所望の効果は、生物学的経路もしくはチャネルを介して流体の流れを低減もしくは妨げることであり得る。所望の効果は、1つ以上の生物学的経路もしくはチャネルにおける遮断、滞留、閉塞、もしくは塞栓であり得る。所望の効果は、腫瘍もしくは他の病理過程からそれらの血液供給を取り除く(灌流)ために、このような遮断、滞留もしくは閉塞を意図的に作り出すことであり得る。」

引用文献1:国際公開第2010/041636号
引用文献2:消化器外科 NURSING,2008,Vol.13,No.10,pp.39-42(周知技術として)

第4 引用文献の記載事項等

1 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている 。

1a「請求の範囲
[請求項1] ペプチドを含有する組織閉塞剤であって、該ペプチドが、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合し、アミノ酸残基8?200を有する両親媒性のペプチドであり、生理的pHおよび/または陽イオンの存在下、水溶液中でβ構造を示す自己組織化ペプチドである組織閉塞剤。

[請求項2] 前記ペプチドが、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニンからなる配列、イソロイシン、グルタミン酸、イソロイシン、およびリジンからなる配列、または、リジン、ロイシン、アスパラギン酸の及びロイシンからなる配列の繰り返し配列を有する、請求項1記載の組織閉塞剤。

[請求項3] 前記ペプチドが、配列番号1、配列番号2、または配列番号3記載のアミノ酸配列からなる、請求項1または2記載の組織閉塞剤。

[請求項4] さらに、低分子薬剤を含有する、請求項1?3のいずれか1項に記載の組織閉塞剤。
・・・
[請求項14] 請求項1?5のいずれか一項に記載の組織閉塞剤を含む、動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤または静脈瘤硬化療法における静脈瘤硬化剤。
・・・」(請求の範囲)

1b「技術分野
[0001] 本発明は、自己組織化ペプチドハイドロゲルを含有することを特徴とする組織閉塞剤に関する。」(段落0001)

1c「背景技術
・・・
[0012] カテーテル療法の発達により、腫瘍や筋腫等の血流支配をうける病変部へ流入する動脈を閉塞させることにより、腫瘍や筋腫等を死滅させる手術方法が確立されてきている。具体的には、肝臓脈閉塞術、子宮動脈閉塞術、脳動脈閉塞術等を挙げることができる。
当該手技において、動脈を閉塞させるために、異種動物から抽出されたコラーゲンやエチレンビニルアルコールなどの液体を注入するが、感染の危険性や生体毒性が懸念されている。そこで、感染の危険性がなく、かつ、生体毒性の低い注入液の開発が望まれている。
また、注入液は抗癌剤や造影剤の添加が可能であることも求められている。」(段落0012)

1d「図面の簡単な説明
[0031]
・・・
[図12]3%ペプチド水溶液による門脈塞栓効果の確認。」(図面の簡単な説明)

1e「発明を実施するための最良の形態
[0032] 以下、本発明の組織閉塞剤について詳細に説明する。

[0033] 本発明の組織閉塞剤は、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とが交互に結合し、アミノ酸残基8?200を有する両親媒性のペプチドであり、生理的pHおよび/または陽イオンの存在下、水溶液中でβ構造を示す自己組織化ペプチドを主要成分とする。
本発明において、生理的pHは、pH6からpH8、好ましくは、pH6.5からpH7.5、さらに好ましくは、pH7.3からpH7.5である。また、本発明において陽イオンとは、たとえば、5mM?5Mのナトリウムイオンまたはカリウムイオンである。

[0034] 本発明において用いられる自己組織化ペプチドは、たとえば、以下の4つの一般式で表すことができる。
((XY)_(l)-(ZY)_(m))_(n) (I)
((YX)_(l)-(YZ)_(m))_(n) (II)
((ZY)_(l)-(XY)_(m))_(n) (III)
((YZ)_(l)-(YX)_(m))_(n) (IV)
(式(I)?(IV)中、Xは酸性アミノ酸、Yは疎水性アミノ酸、Zは塩基性アミノ酸を表し、l、mおよびnは共に整数(n×(l+m)<200)である。)
また、そのN末端はアセチル化されていてもよく、C末端はアミド化されていてもよい。

[0035] ここで、親水性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸から選択される酸性アミノ酸およびアルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチンから選択される塩基性アミノ酸を使用することができる。疎水性アミノ酸としては、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニンまたはグリシンを使用することができる。

[0036] これらの自己組織化ペプチドの中でも、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸およびアラニン(RADA)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドを好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac-(RADA)_(p)-CONH_(2)(p=2?50)で表される。またイソロイシン、グルタミン酸、イソロイシンおよびリジン(IEIK)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドも好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac-(IEIK)_(p)I-CONH_(2)(p=2?50)で表される。さらにリジン、ロイシン、アスパラギン酸およびロイシン(KLDL)の繰り返し配列を有する自己組織化ペプチドも好ましく使用することができ、そのようなペプチドの配列は、Ac-(KLDL)_(p)-CONH_(2)(p=2?50)で表される。これらの自己組織化ペプチドは8?200のアミノ酸残基数で構成しうるが、なかでも8?32残基の自己組織化ペプチドが好ましく、さらに残基数12?16の自己組織化ペプチドがより好ましい。

[0037] 本発明における自己組織化ペプチドの好ましい具体例としては、(Ac-(RADA)_(4)-CONH_(2))配列(配列番号:1)を有するペプチドRAD16-I、(Ac-(IEIK)_(3)I-CONH_(2))配列(配列番号:2)を有するペプチドIEIK13、(Ac-(KLDL)_(3)-CONH_(2))配列(配列番号:3)を有するペプチドKLDが挙げられ、RAD16-Iは、PuraMatrix(登録商標)としてその1%水溶液が、株式会社スリー・ディー・マトリックスから製品化されている。PuraMatrix(登録商標)には、1%の(Ac-(RADA)_(4)-CONH_(2))配列(配列番号:1)を有するペプチドの他、水素イオン、塩化物イオンが含まれる。

[0038] PuraMatrix(登録商標)、IEIK13およびKLDは、アミノ酸12?16残基で長さが約5nmのオリゴペプチドであって、その溶液は酸性pHであると液状を示すが、中性pHに変化させることでペプチドの自己組織化が生じ、直径10nmほどのナノファイバーを形成し、結果としてペプチド溶液はゲル化する。

[0039] PuraMatrix(登録商標)は親水性アミノ酸としてプラス電荷を帯びたアルギニンとマイナス電荷を帯びたアスパラギン酸、疎水性アミノ酸としてアラニンの残基が交互に繰り返すアミノ酸配列を有する両親媒性ペプチドであり、IEIK13は親水性アミノ酸としてプラス電荷を帯びたリジンとマイナス電荷を帯びたグルタミン酸、疎水性アミノ酸としてイソロイシン残基が交互に繰り返すアミノ酸配列を有する両親媒性ペプチドであり、そしてKLDは親水性アミノ酸としてプラス電荷を帯びたリジンとマイナス電荷を帯びたアスパラギン酸、疎水性アミノ酸としてロイシンの残基が交互に繰り返すアミノ酸配列を有する両親媒性ペプチドであり、ペプチドの自己組織化はペプチドを構成するアミノ酸によるペプチド分子間の水素結合と疎水結合に起因する。

[0040] 本発明に用いる自己組織化ペプチドにおいて、平均してナノファイバーは直径10?20nm、ポアサイズは5?200nmである。この数値範囲は天然の細胞外マトリックスであるコラーゲンとほぼ同じ大きさである。

[0041] 本発明に用いる自己組織化ペプチドの自己組織化条件には、生理的条件のpHおよび塩濃度があげられる。特に1価のアルカリ金属イオンの存在が重要である。つまり、生体内に多量に存在するナトリウムイオンおよびカリウムイオンがゲル化の促進に寄与する。一度ゲル化すると通常のタンパク質の変性条件、例えば高温、酸、アルカリ、タンパク質分解酵素、尿素、グアニジン塩酸塩等の変性剤を用いても、ゲルは分解しない。

・・・

[0047] 本発明の組織閉塞剤の形態としては、粉末、溶液、ゲルなどがあげられる。自己組織化ペプチドは、溶液のpHと塩濃度の変化によりゲル化するため、適用時に生体と接触させることによりゲル化する液剤として流通させることができる。」(段落0032?0047)

1f「実施例11
[0105]ラット門脈塞栓術における3%ペプチド水溶液の血管塞栓効果の確認
ラット門脈より3%ペプチド水溶液を注入し、血管塞栓効果を評価した。

[0106]<材料>
・3%ペプチド水溶液(ペプチド配列:Ac-(RADA)4-NH_(2)、CPC Scientific, Inc社製)

[0107]・動物
SDラット(250g、雄、日本エスエルシー株式会社より購入)を温度・湿度:22±3℃、50±20%、換気回数:10?15回/時間、照明時間:人工照明 12時間(8:00?20:00)で制御された飼育室内で飼育し、固型飼料、CRF-1(オリエンタル酵母工業式会社)を金属製給餌器を用いて自由に摂取させ、水道水を自動給水装置を用いて自由に摂取させた。

[0108]<方法>
・ラットはジエチルエーテル(キシダ化学 株式会社製)にて吸入麻酔した。
・ラットは正中切開で開腹し、門脈を露出した。
・門脈本幹より26G注射針(テルモ社製)にてペプチド水溶液を4mL注入し、直ちに穿刺部位からの出血をペプチド水溶液にて止血した。
・注入後、5分後に肝臓を摘出し、直ちに10%ホルマリン(和光純薬工業株式会社製)にて固定した。
・組織は1週間固定した後、ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色をした。

[0109]<結果>
図12に示したように、ペプチド水溶液による門脈塞栓が確認された。」(段落0105?0109)

1g「Arg Ala Asp Ala Arg AlaAsp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala」(添付公開書類である配列リスト 配列番号1)

引用文献1には、自己組織化ペプチドを組織閉塞剤として用いることが記載されている(1a)。
そして、同文献の実施例11には、「ラット門脈塞栓術における3%ペプチド水溶液の血管塞栓効果の確認」とのタイトルの下、ラット門脈より、3%ペプチド(ペプチド配列:Ac-(RADA)4-NH_(2))水溶液を4mL注入し、その後、肝臓を摘出、ホルマリン固定、染色を行ったところ、門脈塞栓が確認されたことが記載されている(1f)。ここで、同実施例において用いられている、配列が「Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala」であるペプチドは、「本発明における自己組織化ペプチドの好ましい具体例」として挙げられており(1eの段落0037、1g)、実際に門脈の塞栓をもたらしたことが確認されていることから、同実施例には、このペプチドを門脈塞栓剤として用いたことが記載されているということができる。

そうすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「ラット門脈塞栓術における3%ペプチド(ペプチド配列:Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala)水溶液4mLを含む門脈塞栓剤。」

2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において、本願優先日前、塞栓療法が周知技術であることを示す文献として引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。

2a「肝動脈塞栓療法とは
肝がんの治療として、世界で最も広く行われている治療法です。・・・塞栓の方法はいろいろありますが、私は最も細径のμカテーテルをできるかぎり末梢の動脈まで進め、動脈と門脈を同時に塞栓することによって、肝がんとその間の周囲の実質を壊死させる治療(門脈・動脈同時塞栓療法:angiographicsubsegmentechtomy;AS)を行っています。(p39 1?8行)

2b「■方法
・・・肝がんの診断をし、・・・マイクロカテーテルを末梢の栄養動脈に進めます。・・・抗がん剤とリピオドール(○の中にR:合議体注 登録商標)の懸濁液をその領域の門脈が出現するまで流し、スポンジゲル細片にて末梢の栄養動脈を塞栓します。
■効果
・・・肝がんとその周囲の肝の実質が、外科切除で切り取られたようになくなります。」(p39左欄1?13行)

第5 対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明のペプチド水溶液は、親水性アミノ酸であるArg(アルギニン)とAsp(アスパラギン酸)、疎水性アミノ酸であるAla(アラニン)とが交互に配列してなる16個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを有する水溶液であり(1eの段落0039)、また、門脈が血管であることは周知の事実である。そして、3%ペプチド溶液4mLをラット門脈に注入することにより塞栓効果が確認されたのであるから、引用発明の上記濃度及び量は、門脈の塞栓効果を発揮するために、有効な量で、及び有効な濃度で含むものといえるし、また、血管である門脈における塞栓によって、門脈の少なくとも一部が遮断されたといえる。さらに、1eの記載によれば、引用文献1記載の自己組織化ペプチドは、生体内でゲル化するものであるから、上記第4 1で説示のとおり、引用文献1の自己組織化ペプチドの一例である引用発明のペプチドも生体内でゲル化するものといえる。
以上によれば、引用発明の「3%ペプチド(ペプチド配列:Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala)水溶液4mLを含む門脈塞栓剤」は、本願発明の「生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該血管の少なくとも部分的遮断を可能にして塞栓効果またはその中の細胞壊死効果を提供するために、有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液;を包含する、組成物」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
生理学的条件下でヒドロゲルを形成して、該血管の少なくとも部分的遮断を可能にして塞栓効果またはその中の細胞壊死効果を提供するために、有効な量で、および有効な濃度で、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互になっている少なくとも12個のアミノ酸を含む両親媒性ペプチドを含む溶液;
を包含する、組成物。

<相違点>
組成物について、
本願発明において、
「血管において少なくとも部分的遮断、滞留、閉塞もしくは閉栓を形成し、被験体における腫瘍から血液供給を取り除くことによって、該被験体においてがん細胞の低減または排除に使用するための組成物」と規定されているのに対し、
引用発明においては、
「門脈塞栓術における門脈塞栓剤」とされている点。

2 判断

(1)相違点について

上記1aの記載、特に、請求項14の記載によれば、引用文献1記載の自己組織化ペプチドを含有する組織閉塞剤は、引用発明に係る門脈塞栓術における門脈塞栓剤としての利用にとどまるものではなく、動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤全般に利用可能であることが理解される。
ところで、引用文献1には、背景技術として、腫瘍や筋腫等の血流支配をうける病変部へ流入する動脈を閉塞させることにより、腫瘍や筋腫等を死滅させる手術方法が確立されてきていること、その具体例として肝臓脈閉塞術等が記載されている(1c)。そして、このことは、2008年に刊行された文献である引用文献2において、肝動脈と門脈を同時に塞栓することによって、肝がんとその周囲の実質を壊死させる治療が行われているとの記載、同文献の肝動脈塞栓療法が1980年に始まったとの記載とも符合する(2a)。また、上記のほかにも、腫瘍の治療における血管塞栓術の利用は多くの文献に記載されており(必要であれば、特開2012-100680号公報(段落0002)、国際公開第2012/133608号(段落0002)、特表2008-515927号公報(請求項30、31、段落0097)参照)、本願優先日当時、動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤を腫瘍の治療手段として検討することは周知であったといえる。そして、動静脈塞栓は腫瘍細胞壊死効果をもたらすこと、また、ヒトに対して適用される手段であることが上記引用文献2の記載(2a)から理解される。
そうすると、ラット門脈塞栓術における門脈塞栓剤である引用発明のペプチド水溶液を、広く動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤として使用することとし、動静脈閉塞剤の応用として本願優先日当時周知の腫瘍の治療、たとえば、動静脈塞栓による腫瘍細胞壊死効果を期待して、ヒトのがん細胞の低減または排除のために用いることは、当業者が格別の創意を要することなくなし得たことである。また、がん細胞への動静脈を閉塞することはその血液供給を取り除くことにほかならない。
以上のとおり、引用発明において、引用文献1にその応用について具体的に示唆する記載があり(1c)、また、本願優先日当時において周知の技術的知見を適用して上記相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。

(2)本願発明の効果について

本願明細書には、本願発明の効果について、がん細胞を低減もしくは排除することであり(段落0079)、該効果は、生物学的経路もしくはチャネルにおける遮断、滞留、閉塞、もしくは塞栓を意図的に作り出し、腫瘍もしくは他の病理過程からそれらの血液供給を取り除く(灌流)ことによって達成される旨が記載されている。(段落0078)。
また、具体的に、ペプチド(ペプチド配列:ArgAla Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala Arg Ala Asp Ala)水溶液の投与による、ビーグル犬の肝動脈塞栓効果及び肝細胞壊死効果が、また、同水溶液の投与による、ブタの腎動脈、肝動脈及び脾動脈の閉塞効果が確認されたことが記載されている。
上記効果はいずれも、上記(1)において説示したとおり、引用文献1、2に記載の技術的事項から予測可能なものである。

(3)小括

以上によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載の技術的事項及び本願優先日当時の周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 請求人の主張について

(1) 請求人は、令和1年6月21日付けの審判請求書の手続補正書の(3.理由3(進歩性)について)において、概略、以下a.?d.を主張する。

a.原査定では、当業者が引用文献1および2を組み合わせる理由についての詳細な説明を提供せずに、引用文献1と引用文献2とを組み合わせることができるとの指摘がされている。

b.引用文献1が損傷したまたは漏れやすい血管を閉塞する方法を開示するのに対し、本発明は、損傷を受けていない血管の閉塞に関するものであり、引用文献1は、引用文献1で開示されている自己集合ペプチドを、損傷を受けていない血管に塞栓を形成することを含む腫瘍療法に適用することを教示も示唆もしないし、動機付けも与えない。

c.引用文献1には、引用文献1の発明が「動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤」にも関連すると記載されているが、「動静脈閉塞術」についての言及だけでは、本発明に係る請求項1に記載されるような血管内に部分的閉塞を形成して被験体における腫瘍から血液供給を取り除くことによる癌細胞の低減または排除のための自己集合ペプチドの使用に確実に言及しているとはいえない。

d.引用文献2は、動脈管開存症(PDA)の閉鎖のための機械デバイスの使用および該使用から生じ得る問題に関するものであり、デバイスを用いない解決手段である、本発明に係る請求項1に記載されるような自己集合ペプチドを含む溶液やがん細胞の低減または排除について教示も示唆もしない。

(2)しかしながら、請求人の上記主張a.?d.は採用できない。

a.原査定において、引用文献2は、引用文献1の段落0012に腫瘍を死滅させる確立された方法として挙げられている、肝臓脈閉塞術に関する文献であり、また、動静脈に塞栓を形成させることにより、腫瘍へ至る血管を遮断し腫瘍細胞を壊死させる塞栓療法が周知の技術的手段であることを示している。また、引用文献1記載の血管閉塞に使用するための組成物を、引用文献1に示唆されている周知の技術的手段に適用することは当業者が容易になし得たといえることは、平成30年 4月18日付け拒絶理由通知及び拒絶査定において言及されているから、主張aは採用できない。

b.実施例11の「直ちに穿刺部位からの出血をペプチド水溶液にて止血した」との記載は、自己組織化ペプチドを注入した際の穿刺部位を止血したことを意味するものであり、ペプチド注入前の門脈は損傷を受けていない血管であると認められる。
したがって、引用文献1には、損傷を受けていない門脈を閉塞したことが記載されているといえるから、主張bは採用できない。

c.引用文献1には、腫瘍の血流支配をうける病変部へ流入する動脈を閉塞させることにより、腫瘍を死滅させる手術方法として、たとえば、肝臓脈閉塞術が確立されてきていることが記載されている(1c)。また、本願優先日当時、動静脈閉塞術における動静脈閉塞剤を腫瘍の治療手段として検討することは周知であったといえることは上記2(1)において説示のとおりである。
したがって、引用文献1の上記記載に接し、当該技術分野における周知の技術に対する知見を有する当業者であれば、引用発明のペプチド溶液を腫瘍の血液供給を取り除くために用いることを動機づけられるといえるから、主張cは採用できない。

d.引用文献2の記載事項は上記第4 2に説示のとおりであり、主張dにおいて主張するような記載はない。
よって、主張dは採用できない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-04 
結審通知日 2020-06-05 
審決日 2020-06-30 
出願番号 特願2015-542401(P2015-542401)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小堀 麻子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
渡邊 吉喜
発明の名称 血管塞栓システム  
代理人 大塩 竹志  
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