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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1365355
審判番号 不服2019-1931  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-12 
確定日 2020-08-13 
事件の表示 特願2018-120364「偏光板および偏光板ロール」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月 7日出願公開、特開2019-194659〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-120364号(以下「本件出願」という。)は、平成30年5月7日(先の出願に基づく優先権主張 平成29年9月13日、平成30年2月28日、同年4月25日)に出願された、特願2018-89238号の一部を平成30年6月26日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 7月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月20日付け:意見書
平成30年11月21日付け:拒絶査定
平成31年 2月12日付け:審判請求書
平成31年 2月12日付け:手続補正書
令和 元年11月 7日付け:上申書
令和 元年11月29日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 1月30日付け:意見書、手続補正書(この手続補正書による補正を、以下「本件補正」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1?3に係る発明は、それぞれ、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」といい、これらを総称して「本願発明」ということがある。)は次のものである。

「【請求項1】
厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%?44.0%であり、偏光度が99.940%?99.990%である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.15%以下である、偏光板。
【請求項2】
厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%?44.0%であり、偏光度が99.940%?99.990%である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
幅が1000mm以上であり、
幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.2%以下である、偏光板。」

3 当合議体の拒絶の理由の概要
令和元年11月29日付け拒絶理由通知書において通知した、当合議体の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
●理由1:(進歩性)本件出願の請求項1?3に係る発明は、最先の、先の出願(以下、単に「先の出願」という。)前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
●理由2:(サポート要件)本件出願の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものということができない。したがって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
●理由3:(明確性要件)本件出願の請求項2?3に係る発明は、明確であるということができない。したがって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
●理由4:(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


引用文献1:特開2015-191224号公報
参考文献1:特開2017-68282号公報

第2 当合議体の判断(●理由1:(進歩性))
1 引用文献1の記載
引用文献1(特開2015-191224号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、
該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含み、
該延伸積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みが15μm以下であり、該ポリビニルアルコール系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向における最大値と最小値との差が0.6×10^(-3)以下である、
延伸積層体の製造方法。
【請求項2】
前記空中延伸が熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含み、該熱ロールの幅方向の温度のばらつきが3℃以下である、請求項1に記載の延伸積層体の製造方法。
・・・中略・・・
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法により製造される、延伸積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の延伸積層体を染色する工程を含む、偏光膜の製造方法。
【請求項8】
前記染色工程の後、前記延伸積層体をホウ酸水溶液中で延伸する工程をさらに含む、請求項7に記載の偏光膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の製造方法により製造される、厚みが10μm以下である、偏光膜。」

(2)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸積層体の製造方法およびそのような製造方法により得られる延伸積層体、ならびに、偏光膜の製造方法およびそのような製造方法により得られる偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置は、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。近年、偏光膜の薄膜化が望まれていることから、例えば、特定の熱可塑性樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層との積層体を空中延伸および染色した後、さらにホウ酸水溶液中で延伸することにより偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、このような製造方法により得られる偏光膜は、透過率のばらつきが発生する場合がある。
・・・省略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、透過率のばらつきが抑制された偏光膜が得られ得る延伸積層体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の延伸積層体の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含む。延伸積層体におけるポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは15μm以下であり、該ポリビニルアルコール系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向における最大値と最小値との差は0.6×10^(-3)以下である。
1つの実施形態においては、上記空中延伸は熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含み、該熱ロールの幅方向の温度のばらつきは3℃以下である。
1つの実施形態においては、上記熱ロールの温度は120℃以上である。
1つの実施形態においては、上記熱ロールの加熱は、該熱ロール内の配管に熱媒を通すことにより行われ、ロールの外周部に内接して配置されたらせん状の配管に熱媒を通すことを含む。
1つの実施形態においては、熱ロール中の熱媒体積と熱媒の流量との比は、2倍/分以上である。
本発明の別の局面によれば、延伸積層体が提供される。この延伸積層体は、上記製造方法により製造される。
本発明のさらに別の局面によれば、偏光膜の製造方法が提供される。この偏光膜の製造方法は、上記延伸積層体を染色する工程を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光膜の製造方法は、上記染色工程の後、上記延伸積層体をホウ酸水溶液中で延伸する工程をさらに含む。
本発明のさらに別の局面によれば、偏光膜が提供される。この偏光膜は、上記製造方法により製造され、その厚みが10μm以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄型(例えば、10μm以下の)偏光膜の中間体である延伸積層体のポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向における最大値と最小値との差が0.6×10^(-3)以下となるように延伸積層体を製造することにより、当該延伸積層体の染色後の透過率のばらつきを抑制することができる。その結果、得られる偏光膜の透過率のばらつきを抑制することができる。1つの実施形態においては、複屈折Δn_(xy)の幅方向のばらつき(幅方向における最大値と最小値との差)は、空中延伸に用いられる熱ロールの幅方向の温度のばらつきを所定値以下に調整することにより制御することができる。
・・・省略・・・
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.延伸積層体の製造方法
本発明の延伸積層体の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体を作製する工程と、該積層体を長手方向に搬送しながら、空中延伸して延伸積層体を作製する工程と、を含む。以下、各々の工程について説明する。
【0009】
A-1.積層体の作製工程
図1は、本発明の1つの実施形態による延伸積層体の製造方法に用いられ得る積層体の部分断面図である。積層体10は、熱可塑性樹脂基材11とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層12とを有する。積層体10は、長尺状の熱可塑性樹脂基材にPVA系樹脂層12を形成することにより作製される。PVA系樹脂層12の形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、PVA系樹脂基材11上に、PVA系樹脂を含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、PVA系樹脂層12を形成する。
・・・省略・・・
【0027】
A-2.空中延伸工程
空中延伸工程は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、熱ロール間の周速差により延伸する熱ロール延伸工程を含む。空中延伸工程は、代表的には、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および熱ロール延伸工程がこの順に行われる。以下、この実施形態におけるゾーン延伸工程および熱ロール延伸工程を説明し、次いで、空中延伸工程全体における特徴的な部分について説明する。
・・・省略・・・
【0039】
A-2-3.空中延伸工程全体
空中延伸(熱ロール延伸およびゾーン延伸)による延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは1.5倍?4.0倍であり、より好ましくは1.8倍?3.0倍である。空中延伸による延伸倍率は、ゾーン延伸による延伸倍率と熱ロール延伸による延伸倍率との積である。空中延伸が熱ロール延伸のみである場合、熱ロール延伸の延伸倍率が上記のような範囲となる。
【0040】
本発明においては、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向における最大値と最小値との差(以下、単に複屈折のばらつきともいう)が0.6×10^(-3)以下、好ましくは0.4×10^(-3)以下、より好ましくは0.2×10^(-3)以下となるように空中延伸が行われる。なお、複屈折Δn_(xy)は、式:Δn_(xy)=nx-nyによって求められる。ここで、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向の屈折率である。
【0041】
複屈折のばらつきを上記のような範囲に制御することにより、延伸積層体を用いて得られる偏光膜の透過率(代表的には、単体透過率)のばらつきを顕著に抑制することができる。すなわち、PVA系樹脂層の複屈折が変化する場合、PVA系樹脂の結晶状態が変化し、後述する染色工程での染色性が変化する(具体的には、Δnが大きくなると染色性が低くなる)。結果として、PVA系樹脂層の幅方向の複屈折のばらつきが大きいと、得られる偏光膜の幅方向の透過率のばらつきが大きくなる。したがって、複屈折のばらつきを所定値以下に制御することにより、偏光膜の透過率のばらつきを顕著に抑制することができる。以下、詳細を説明する。
表示ムラは、液晶表示装置の輝度のばらつきに起因して認識される。逆に言えば、輝度のばらつきが所定値以下であれば、表示ムラは、視認者には認識されない。ここで、輝度のばらつきΔL^(*)をx、表示ムラをyとすると、その関係は下記式(1)の1次関数に近似できることが知られている(東京工業大学、2000年度博士論文、甲第4798号、「視覚を基準としたガラス品質の評価手法に関する研究」、楜澤信)。
y=2.75x-1.54 ・・・(1)
式(1)から、x(すなわち、ΔL^(*))を0.56未満とすればy=0となり、表示ムラが視認されなくなるといえる。ここで、液晶表示装置の輝度L^(*)は、偏光板2枚を互いの吸収軸が平行となるよう配置した時のL^(*)_(//)で表され、偏光板の特性は、単体透過率(偏光板1枚での透過率)Y値:Tsで表される。偏光板の単体透過率を広範囲に変化させてL^(*)_(//)とTsとの相関関係を調べたところ、輝度のばらつきΔL^(*)_(//)と単体透過率のばらつきΔTsとは、式(2)の1次関数で表されることが確認された。
ΔL^(*)_(//)=1.289×ΔTs ・・・(2)
式(2)より、輝度のばらつきL^(*)_(//)(L^(*)に対応する)を表示ムラが視認されなくなる閾値である0.56未満とするためには、ΔTsは0.43未満とすればよいことがわかる。
一方、本発明者らは、薄型(例えば、10μm以下)の偏光膜を作製するための延伸積層体において、PVA系樹脂層の複屈折に起因して偏光膜の透過率が変化し得ることを発見し、実験による試行錯誤の結果、PVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきと単体透過率のばらつきΔTsとの間に下記式(3)で表される相関関係があることを確認した。
ΔTs=9.53×10^(-5)×(Δn_(xy)のばらつき)^(2)+117×(Δn_(xy)のばらつき)・・・(3)
式(3)より、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきが0.6×10^(-3)以下となるように空中延伸を行うことにより、ΔTsを0.43以下とすることができ、その結果、表示ムラが視認されなくなるようにすることができる。
【0042】
さらに、本発明者らは、空中延伸工程において特に熱ロール延伸の条件を制御することにより、得られる延伸積層体のPVA系樹脂層において上記所望の複屈折のばらつきを実現できることを見出した。具体的には、熱ロールの幅方向の温度のばらつき(幅方向の温度の最大値と最小値との差)を制御することにより、上記所望の複屈折のばらつきを実現することができる。より詳細には、実験による試行錯誤の結果、熱ロールの幅方向の温度のばらつきと複屈折Δn_(xy)との間には、下記式(4)のような相関関係が認められた。
(熱ロールの幅方向の温度のばらつき)
=2770×{1000×(Δn_(xy)のばらつき)^(2)+(Δn_(xy)のばらつき)}・・・(4)
式(4)を用いれば、得られる延伸積層体におけるPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきが0.6×10^(-3)以下となるように熱ロールの幅方向の温度のばらつきを制御することができる。具体的には、熱ロールの幅方向の温度のばらつきは、好ましくは3℃以下であり、より好ましくは2℃以下であり、さらに好ましくは1.5℃以下であり、特に好ましくは1℃以下であり、最も好ましくは0.5℃以下である。
・・・省略・・・
【0044】
B.延伸積層体
・・・省略・・・
【0045】
延伸積層体のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向におけるばらつきは、上記のとおり、
0.6×10^(-3)以下であり、好ましくは0.4×10^(-3)以下であり、より好ましくは0.2×10^(-3)以下である。複屈折Δn_(xy)のばらつきの下限は、例えば0.1×10^(-3)である。複屈折のばらつきがこのような範囲であれば、上記のとおり、延伸積層体を用いて得られる偏光膜の透過率(代表的には、単体透過率)のばらつきを顕著に抑制することができる。
・・・省略・・・
【0048】
C-1.水中延伸
好ましい実施形態においては、上記延伸積層体を水中延伸(ホウ酸水中延伸)する。具体的には、上記積層体の延伸方向と平行な方向に水中延伸する。水中延伸によれば、上記樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。なお、本明細書において「平行な方向」とは、0°±5.0°である場合を包含し、好ましくは0°±3.0°、さらに好ましくは0°±1.0°である。
・・・省略・・・
【0054】
上記熱可塑性樹脂基材と水中延伸(ホウ酸水中延伸)とを組み合わせることにより、高倍率に延伸することができ、優れた光学特性(例えば、偏光度)を有する偏光膜を作製することができる。具体的には、最大延伸倍率は、上記積層体の元長に対して(延伸積層体の延伸倍率を含めて)、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、延伸積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、延伸積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。なお、上記熱可塑性樹脂基材を用いた積層体の最大延伸倍率は、水中延伸を経た方が空中延伸のみで延伸するよりも高くなり得る。
・・・省略・・・
【0055】
C-2.その他
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層を二色性物質で染色する処理である。好ましくは、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂層(延伸積層体)を浸漬する方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、二色性物質を含む染色液に延伸積層体を浸漬する方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。
【0056】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料が挙げられる。好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、上記染色液は、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部?0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.02重量部?20重量部、より好ましくは0.1重量部?10重量部、さらに好ましくは0.7重量部?3.5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃?50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬する場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒?5分である。また、染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の偏光度もしくは単体透過率が所定の範囲となるように、設定することができる。1つの実施形態においては、得られる偏光膜の偏光度が99.98%以上となるように、浸漬時間を設定する。別の実施形態においては、得られる偏光膜の単体透過率が40%?44%となるように、浸漬時間を設定する。
・・・省略・・・
【0059】
上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。
・・・省略・・・
【0064】
D.光学フィルム積層体および光学機能フィルム積層体
上記偏光膜は、光学フィルム積層体および/または光学機能フィルム積層体に用いられ得る。図6(a)は、偏光膜が用いられ得る光学フィルム積層体の概略断面図であり、図6(b)は、偏光膜が用いられ得る光学機能フィルム積層体の概略断面図である。光学フィルム積層体100は、樹脂基材11’と偏光膜12’と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。光学機能フィルム積層体200は、樹脂基材11’と偏光膜12’と接着剤層15と光学機能フィルム16と粘着剤層13とセパレータ14とをこの順で有する。これらの実施形態では、上記樹脂基材を得られた偏光膜12’から剥離せずに、そのまま光学部材として用いている。樹脂基材11’は、例えば、偏光膜12’の保護フィルムとして機能し得る。
・・・省略・・・
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
(1)厚み
積層体については、デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC-351C」)を用いて測定した。延伸積層体のPVA系樹脂層については、延伸積層体の幅方向に沿って100mm間隔で、干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD3000」を用いて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
(3)ロール温度のばらつき
ロールの幅方向に沿って100mm間隔で、接触式温度計を用いて測定した。測定値の最大値と最小値との差をばらつきとした。
(4)複屈折のばらつき
PVA系樹脂層の上記(1)で厚みを測定した部分を、位相差を有しない粘着剤付のガラスに転写し、王子計測機器社製、KOBRA-WPRを用いて正面位相差を測定した。得られた正面位相差値を上記(1)で得られたPVA系樹脂層の厚みで割って、複屈折を算出した。算出した複屈折の最大値と最小値との差をばらつきとした。
(5)単体透過率のばらつき
偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で、紫外可視分光光度計(日本分光社製、製品名「V7100」)を用いて、実施例および比較例で得られた偏光板の単体透過率Tsを測定した。測定値の最大値と最小値との差をばらつきとした。なお、単体透過率Tsは、JIS Z 8701の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。
(6)表示ムラ
実施例および比較例で得られた偏光板を200mm×300mmのサイズで2枚切り出した。2枚の偏光板の吸収軸が互いに平行となる状態および互いに直交する状態で重ね合わせ、重ねた偏光板をそれぞれ、バックライト(5000cd)上に配置し、目視により表示ムラを確認した。平行状態および直交状態のいずれにおいても表示ムラが視認されなかった場合を○、平行状態および直交状態の少なくとも1つで表示ムラが視認された場合を×として評価した。」

(3)「【0068】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。
熱可塑性樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m^(2))を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)90重量部およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)10重量部を含む水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0069】
温度調節可能なオーブンの入口と出口のそれぞれに設けられたロール対に得られた積層体を挟持させ、これらのロール間に周速差を持たせて長手方向に1.5倍に延伸した(ゾーン延伸工程)。ゾーン延伸された積層体を、130℃に加熱された複数のロール間で1.3倍さらに延伸した(熱ロール延伸工程)。このようにして、総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行った。なお、ロールには図4Bに示すようならせん状の配管を設け、当該配管に熱媒を流すことによりロールを加熱した。熱ロール中の熱媒体積は40リットルであり、熱媒の流量は400リットル/分であり、したがって、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比(熱媒流量/熱ロール中の熱媒体積)は10倍/分であった。ロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)は0.1℃であった。得られた延伸積層体(幅2500mm)のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向におけるばらつきは、0.13×10^(-3)であった。複屈折Δn_(xy)の中心値は16.6×10^(-3)であった。
【0070】
次いで、延伸積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、延伸積層体を、液温30℃の染色浴に、得られる偏光膜の透過率が42.6%となるように、ヨウ素濃度および浸漬時間を調整して浸漬した。本実施例では、染色浴として水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液を用い、当該染色浴に延伸積層体を60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、延伸積層体を、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、延伸積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを5重量部配合し、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、延伸積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
このようにして、熱可塑性樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成した。
【0071】
続いて、上記のようにして得られた積層体の偏光膜表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(コニカミノルタ社製、商品名「KC4UY」、厚さ:40μm)を貼り合わせ、60℃に維持したオーブンで5分間加熱し、厚み5μmの偏光膜を有する光学機能フィルム積層体(偏光板)を作製した。続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離し、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板を得た。
【0072】
得られた偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であった。単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%であった。さらに、得られた偏光板の表示ムラを上記(6)のようにして観察したところ、表示ムラは認められなかった。
【0073】
[実施例2]
空中延伸工程において熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比を5倍/分としたこと以外は実施例1と同様にして延伸積層体を作製した。ロールの幅方向の温度のばらつきは1.4℃であり、得られた延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきは0.36×10^(-3)であった。この延伸積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
空中延伸工程において熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比を2.5倍/分としたこと以外は実施例1と同様にして延伸積層体を作製した。ロールの幅方向の温度のばらつきは2.7℃であり、得られた延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきは0.58×10^(-3)であった。この延伸積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0075】
[比較例1]
空中延伸工程において熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比を0.5倍/分としたこと以外は実施例1と同様にして延伸積層体を作製した。ロールの幅方向の温度のばらつきは4.5℃であり、得られた延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきは1.0×10^(-3)であった。この延伸積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0076】
[比較例2]
空中延伸工程において図4Aに示すような直線状の配管を設け、当該配管に熱媒を流すことによりロールを加熱したこと、および、熱ロール中の熱媒体積と熱媒流量との比を0.5倍/分としたこと以外は実施例1と同様にして延伸積層体を作製した。ロールの幅方向の温度のばらつきは3.9℃であり、得られた延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきは0.80×10^(-3)であった。この延伸積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして偏光板を作製した。得られた偏光板を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0077】
【表1】


【0078】
[評価]
表1から明らかなように、延伸積層体のPVA系樹脂層の複屈折Δn_(xy)のばらつきを小さくすることにより、得られる偏光板の単体透過率のばらつきを小さくすることができる。その結果、表示ムラを小さくすることができる。さらに、表1から明らかなように、複屈折のばらつきは、空中延伸における熱ロール延伸の熱ロール温度のばらつきを調整することにより制御できることがわかる。」

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1には、請求項1?7を引用する請求項8に係る「偏光膜の製造方法」が記載されている。また、引用文献1の【0067】?【0072】には、実施例1として、上記「偏光膜の製造方法」を具体的に適用して得られた「偏光板」が記載されている。
したがって、引用文献1には、次の「偏光板」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
なお、「染色する工程」及び「染色工程」は、後者に用語を統一した。

「熱可塑性樹脂基材の片面に、ポリビニルアルコール90重量部およびアセトアセチル変性PVA10重量部を含む水溶液を塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製し、
温度調節可能なオーブンの入口と出口のそれぞれに設けられたロール対に得られた積層体を挟持させ、これらのロール間に周速差を持たせて長手方向に1.5倍に延伸し(ゾーン延伸工程)、
延伸された積層体を、130℃に加熱された複数のロール間で1.3倍さらに延伸し(熱ロール延伸工程)、総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行い、
ここで、熱ロール延伸工程におけるロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)は0.1℃であり、得られた延伸積層体(幅2500mm)のPVA系樹脂層の正面方向の複屈折Δn_(xy)の幅方向におけるばらつきは、0.13×10^(-3)であり、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の不溶化浴に30秒間浸漬させ(不溶化処理)、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の染色浴に、得られる偏光膜の透過率が42.6%となるように、ヨウ素濃度および浸漬時間を調整して浸漬し(染色処理)、
次いで、延伸積層体を、液温30℃の架橋浴に30秒間浸漬させ(架橋処理)、
その後、延伸積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行い(水中延伸)、
前記熱可塑性樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成し、
続いて、得られた積層体の偏光膜表面に、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせ、厚み5μmの偏光膜を有する偏光板を作製し、続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離して得た、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板であって、
偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であり、単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%である、偏光板。
ここで、単体透過率のばらつきは、
偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で測定した測定値の最大値と最小値との差であり、また、単体透過率Tsは、JIS Z 87012の2度視野(C光源)により測定し、視感度補正を行ったY値である。」

3 参考文献1の記載
参考文献1(特開2017-68282号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、技術常識の認定及び判断等において活用した箇所を示す。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる連続ウェブの有機EL表示装置用偏光膜であって、
非晶性熱可塑性樹脂基材に製膜された前記ポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものであり、かつ、
単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
の条件を満足する光学特性を有するようにされたものである
ことを特徴とする有機EL表示装置用偏光膜。」

(2)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜、偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びに偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。特に、本発明は、二色性物質を配向させたポリビニルアルコール系樹脂からなる、厚みが10μm以下の偏光膜、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体、及び、そのような偏光膜を含む光学フィルム積層体の製造に用いるための延伸積層体、並びにそれらの製造方法、並びにそのような偏光膜を有する有機EL表示装置に関する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を塗工形成し、該PVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材とともに延伸して偏光膜を製造する方法は、特許文献1?5に記載されているように既に知られている。しかし、厚みが非常に薄い10μm以下の偏光膜であって、有機EL表示装置用の偏光膜として求められる、単体透過率42.5以上かつ偏光度99.5以上、好ましくは単体透過率43.0以上かつ偏光度99.5以上の光学特性を満たす高機能の偏光膜は、これまでのところ実現されていない、ないしは安定的な生産が実現されていない。
・・・省略・・・
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、非晶性熱可塑性樹脂基材と、その上に塗布形成されたPVA系樹脂層とを一体に、空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸することと、該PVA系樹脂層に二色性色素による染色処理を施すこととによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、光学的表示装置に使用される偏光膜に要求される特性を満足させることができる、従来にない偏光膜を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。本発明者らは、有機EL表示装置に使用される偏光膜に要求される光学的特性として、単体透過率をTとし、偏光度をPとしたとき、
T≧42.5、およびP≧99.5
で表される条件を設定した。本発明は、上述の延伸と染色とによって、厚みが10μm以下であり、単体透過率T及び偏光度Pによって表される光学特性が、上記の条件を満足するものとされた偏光膜を用いる有機EL表示装置を提供するものである。」

(3)「【発明を実施するための形態】
【0064】
(偏光膜に関連する技術的背景)
偏光膜の背景技術として、本発明に用いられる熱可塑性樹脂基材の材料特性と偏光膜の偏光性能によって表される光学特性について説明する。
・・・省略・・・
【0068】
次に、有機EL表示素子に用いることができる偏光膜の光学特性を概説する。
偏光膜の光学特性とは、端的には、偏光度Pと単体透過率Tとで表す偏光性能のことである。一般に、偏光膜の偏光度Pと単体透過率Tとはトレード・オフの関係にある。この2つの光学特性値は、T-Pグラフにより表すことができる。T-Pグラフにおいて、プロットしたラインが単体透過率の高い方向にあり、かつ偏光度の高い方向にあるほど、偏光膜の偏光性能が優れていることになる。
【0069】
ここでT-Pグラフを示す図3を参照すると、理想的光学特性は、T=50%で、P=100%の場合である。図から分かるように、T値が低ければP値を上げやすく、T値が高いほどP値を上げにくい、という傾向にある。さらに、偏光膜の偏光性能を透過率Tと偏光度Pの関数を示す図4を参照すると、偏光膜の単体透過率T及び偏光度Pについて、図4にライン1(T=42.5)及びライン2(P=99.5)より上の領域として定められた範囲が、有機EL表示装置の偏光膜性能として求められる光学特性と考えられる性能である。単体透過率TはT≧43.0であることがより好ましい。」

(4)「【0085】
[実施例1]
非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材として、イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(以下、「非晶性PET」という)の連続ウェブの基材を作製した。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)層からなる積層体を以下のように作製した。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0086】
厚み200μmの非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4?5%濃度のPVA水溶液とを準備した。
・・・省略・・・
次に、上記した厚み200μmの非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50?60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材上に厚み7μmのPVA層を製膜した。以下、これを「非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体」又は「7μm厚のPVA層を含む積層体」又は単に「積層体」という。
【0087】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸及びホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の偏光膜を製造した。
・・・省略・・・
【0088】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成した。以下、これを「着色積層体」という。具体的には、着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素及びヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される偏光膜を構成するPVA層の単体透過率が40?44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。
・・・省略・・・
【0089】
・・・省略・・・
実施例1においては、ヨウ素濃度0.30重量%でヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液への延伸積層体の浸漬時間を変えることによって、最終的に生成される偏光膜の単体透過率を40?44%になるようにヨウ素吸着量を調整し、単体透過率と偏光度を異にする種々の着色積層体を生成した。
【0090】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の偏光膜を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。
・・・省略・・・
【0092】
以上のように実施例1は、まず、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された偏光膜を構成する3μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成することができた。」

(5)「【0144】
【表2】

」(当合議体注:便宜のため、90°回転し、縦横比を調整した。)

(6)【図3】




(7)【図15】


」(当合議体注:便宜のため、90°回転した。)

(8)【図30】


」(当合議体注:便宜のため、90°回転した。)

3 対比及び判断
(1)対比
事案に鑑み、本願発明2について検討する。
本願発明2と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 偏光膜
引用発明の「偏光膜」は、「厚み5μm」である。
そして、引用発明の「偏光膜」は、その文言が示すとおりのものである。
そうしてみると、引用発明の「偏光膜」は、本願発明2の「偏光膜」に相当し、「厚みが8μm以下であり」という要件を満たす。

イ 保護層
引用発明の「偏光板」は、「片面に保護フィルムを有する構成の偏光板」であるから、その積層構造からみて、「保護フィルム」は、「偏光板」における「かさなりをなすものの一つ」といえる。
したがって、引用発明の「保護フィルム」は、本願発明2の「保護層」に相当する。
(当合議体注:「層」は、「かさなりをなすものの一つ」を意味する。(広辞苑第7版、岩波書店))

ウ 偏光板
引用発明の「偏光板」は、「厚み5μmの偏光膜を有する偏光板を作製し、続いて、熱可塑性樹脂基材を剥離して得た、片面に保護フィルムを有する構成の偏光板」である。ここで、引用発明の「偏光板」は、その文言が示すとおりのものであって、本願発明2の「偏光板」に相当する。
また、「保護フィルム」が、本願発明2の「保護層」に相当することは、上記イで述べたとおりである。
以上によれば、引用発明の「偏光板」は、本願発明2の「偏光板」における、「厚みが8μm以下であ」る「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する」という要件を満たす。

エ 幅方向寸法
引用発明の「偏光板」は、「総延伸倍率2.0倍で積層体の空中延伸を行い」「得られた延伸積層体(幅2500mm)」を、「周速の異なるロール間で縦方向に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行い(水中延伸)」得られたものである。
そうすると、簡単な技術的考察から、最終的に得られる偏光板の幅は、1500mm程度となる。
以上によれば、引用発明の「偏光板」は、本願発明2の「偏光板」における、「幅が1000mm以上であり」という要件を満たす。
(当合議体注:偏光板の幅方向寸法は、自由端縦一軸延伸と理解される水中延伸の倍率2.75倍(=5.5÷2.0倍)及び水中延伸前の幅方向寸法「2500mm」から見積もった(=2500÷(2.75)^(0.5)≒1508mm)。)

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明2と引用発明は、次の構成で一致する。
「厚みが8μm以下である偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板であって、
幅が1000mm以上である、偏光板。」

イ 相違点
本願発明2と引用発明とは、次の点で相違する。
(相違点1)
「偏光膜」が、本願発明2は、「単体透過率が43.5%?44.0%であり、偏光度が99.940%?99.990%である」のに対して、引用発明は、「偏光板の透過率(単体透過率)は42.6%であり」、偏光度は特定されていない点。

(相違点2)
「単体透過率」が、本願発明2は、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における」「最大値と最小値との差が0.2%以下である」のに対して、引用発明は、「偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で、測定した測定値の最大値と最小値との差」である、「偏光板の」「単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%である」点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
偏光膜の単体透過率と偏光度がトレードオフの関係にあり、染色時間、染色温度、染料濃度等の染色条件を変更することによって、単体透過率を相対的に高くし、偏光度を相対的に低く調整したり、または、前者を相対的に低くし、後者を相対的に高く調整することが可能であることは、偏光板の技術分野の当業者にとっては技術常識である。(当合議体注:引用文献1の【0056】、参考文献1の【0068】?【0069】、【0089】、【0144】【表2】(特に、実施例4-1、実施例23-1)、【図15】及び【図30】等参照。)
また、より高い光学性能(参考文献1の【0069】及び【図3】でいうT-Pグラフの右上領域)を所望する場合、例えば、参考文献1の【表2】、【図15】及び【図30】の実施例4-1及び実施例23-1からも理解されるように、染色条件以外に延伸倍率等を変化させることによって、偏光度を略一定に維持したまま、単体透過率を高めるような調整(T-Pグラフにおける同一の曲線上から外れるような調整)を行うことも可能であって、このような調整が可能であることを当業者は心得ている。
(当合議体注:上記実施例4-1及び実施例23-1は、いずれも本願発明2の偏光膜をT-Pグラフで表したときの曲線近傍に位置するものである。)
以上によれば、引用発明において、偏光膜に求められる光学特性に応じて、上記技術常識を心得た当業者が、染色条件や延伸条件等を調整して、相違点1に係る単体透過率及び偏光度の要件を満足せしめることは容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について
引用発明において、「偏光膜の幅方向に沿って100mm間隔で測定した測定値の最大値と最小値との差」である「単体透過率のばらつき(最大値と最小値との差)は0.02%である」である。また、この測定条件は、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差」とされる本願発明2のものよりも、より厳しいものと認められる。
そうしてみると、引用発明は、相違点2に係る本願発明2の要件を満たすと認められる。
なお、上記アにおいて、染色条件や延伸条件等の偏光膜の製造条件を変更することについて検討したところ、製造条件を変更すれば、「単体透過率のばらつき」も変化する可能性がある。しかしながら、「0.02%」とされる引用発明の「単体透過率のばらつき」が、「0.2%」を超える程度にまで悪化するとは考えがたい。
あるいは、当業者は、単体透過率のばらつきを抑制する手段として、引用発明のように、「熱ロール延伸工程」における「ロールの幅方向の温度のばらつき(最大値と最小値との差)」を可能な限り小さくする手段を心得ている。また、例えば、延伸されたポリビニルアルコールの配向の乱れ、すなわち、配向度の低下を抑制するために、ポリビニルアルコール系樹脂層にハロゲン化物を添加するという手段(国際公開第2015/137514号の[0103]等)を、長尺の偏光板の幅方向中央部が端部と比較して、単体透過率が落ち込まず安定しているという知見(特開2006-227604号公報(【0005】、【0069】及び【図1】等)を技術常識として備えている。
ここで、引用文献1の【0006】、【0041】及び【0042】の記載によれば、引用発明は、偏光板の単体透過率の幅方向のばらつきを抑制することを主たる目的とした発明である。
そうしてみると、当業者であれば、前記アで述べたとおり引用発明の偏光板の光学特性を(単体透過率及び偏光度)を改善し、相違点1の数値範囲に調整した場合であっても、引き続き相違点2を満たすように様々な対策を講ずると考えられる。
そして、このようにして得られた、長尺の偏光板においては、長手方向のいずれかの位置(特に、光学特性が相対的に安定している幅方向中央部の領域)においては、相違点1及び2を満たすものと認められる。
(当合議体注:相違点1及び2は、技術的にみて相互に関連するため、上記イにおいても相違点1について言及した。)

ウ 付記
本願発明2の「単体透過率」及び「偏光度」は、「偏光膜」のものであるのに対して、引用発明の「単体透過率」等は、「偏光板」のものである。しかしながら、本願明細書の【0014】、【0066】及び【0072】等の記載からも理解できるとおり、両者は同一視又は代用可能なものである。

(4)発明の効果
本件出願の明細書の【0006】には、発明の効果として、「本発明によれば、厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%以上であり、偏光度が99.940%以上である偏光膜を有しており、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光板が提供され得る。」と記載されている。
しかしながら、上記効果は、当業者が引用発明から想到し得る発明が奏する効果であって、引用文献1に記載された発明及び技術常識から、当業者が予想し得る事項である。

(5)審判請求人の主張
審判請求人は、令和2年1月30日付け意見書において、以下の点を主張する。

ア 引用発明は、あくまでも単体透過率が同一である場合にばらつきをどのように低減するかに関するものであり、単体透過率が42.6%である場合の最良の結果を示しているにすぎない点。
イ 引用発明では0.2%以下の幅方向ばらつきは実現できない点。
ウ 本願発明と引用発明とは、そのTP曲線が全く異なるため、引用発明において染色条件等をどのように調整しても、本願発明の要件である「単体透過率が43.5%?44.0%、偏光度が99.940%?99.990%」というTP特性には決して到達しない点
しかしながら、上記アについては、引用文献1の【0056】に接した当業者が、引用発明で開示された手法(複屈折のばらつきを抑制する手法)が、特定の単体透過率(42.6%)の場合にしか適用でないと理解することはないし、また、上記イ及びウについては、上記(3)で検討したとおりである。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。

(6)小括
本願発明2は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第3 当合議体の判断(●理由2:(サポート要件)及び●理由4(実施可能要件))
1 発明の詳細な説明の記載内容
本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(1)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有し、かつ、光学特性のバラつきが抑制された偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光板は、厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%以上であり、偏光度が99.940%以上である偏光膜と、上記偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有し、50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.15%以下である。
本発明の偏光板は、厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%以上であり、偏光度が99.940%以上である偏光膜と、上記偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層とを有し、幅が1000mm以上であり、幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.3%以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光膜の単体透過率が44.0%以下であり、上記偏光膜の偏光度が99.990%以下である。
本発明の別の局面によれば、偏光板ロールが提供される。この偏光板ロールは、上記偏光板がロール状に巻回されてなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%以上であり、偏光度が99.940%以上である偏光膜を有しており、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光板が提供され得る。」

(2)「【発明を実施するための形態】
【0010】
偏光板は、長尺状であってもよいし、枚葉状であってもよい。偏光板が長尺状である場合、ロール状に巻回されて偏光板ロールとされることが好ましい。偏光板は、優れた光学特性を有するとともに、光学特性のバラつきが小さい。1つの実施形態においては、偏光板は、幅が1000mm以上であり、幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差(D1)が0.3%以下である。D1の上限は、好ましくは0.25%であり、より好ましくは0.2%である。D1は小さければ小さいほど好ましいが、下限は例えば0.01%である。D1が上記の範囲内であれば、優れた光学特性を有する偏光板を工業的に生産することができる。別の実施形態においては、偏光板は、50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差(D2)が0.15%以下である。D2の上限は、好ましくは0.1%であり、より好ましくは0.08%である。D2は小さければ小さいほど好ましいが、下限は例えば0.01%である。D2が上記の範囲内であれば、偏光板を画像表示装置に用いたときに表示画面における輝度のバラつきを抑制することができる。
・・・省略・・・
【0017】
本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、上記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。これにより、厚みが8μm以下であり、単体透過率が43.5%以上であり、偏光度が99.940%以上である、優れた光学特性を有するとともに光学特性のバラつきが抑制された偏光膜が提供され得る。
・・・省略・・・
【0021】
C.偏光膜の製造方法
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部?20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃?120℃である。このような製造方法によれば、上記偏光膜が得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および偏光度)を有するとともに、光学特性のバラつきが抑制された偏光膜を得ることができる。具体的には、乾燥収縮処理工程において加熱ロールを用いることにより、積層体を搬送しながら、積層体全体に亘って均一に収縮することができる。これにより、得られる偏光膜の光学特性を高めることができるだけでなく、光学特性に優れる偏光膜を安定して生産することができ、偏光膜の光学特性(特に、単体透過率)のバラつきを抑制することができる。」

(3)「【実施例】
【0066】
・・・省略・・・
(3)長尺状の偏光板の光学特性のバラつき
実施例および参考例の長尺状の偏光板から、幅方向に沿って等間隔に5か所の各位置で測定サンプルを切り出し、5つの各測定サンプルの中央部分の単体透過率を上記(2)と同様にして測定した。次いで、各測定位置において測定された単体透過率のうちの最大値と最小値との差を算出し、この値を長尺状の偏光板の光学特性のバラつき(長尺状偏光板の幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差)とした。
(4)枚葉状の偏光板の光学特性のバラつき
実施例および参考例の長尺状の偏光板から、100mm×100mmの測定サンプルを切り出し、枚葉状の偏光板(50cm^(2))の光学特性のバラつきを求めた。具体的には、測定サンプルの4辺の各辺の中点から内側に約1.5cm?2.0cm付近の位置および中央部分の計5か所の単体透過率を上記(2)と同様にして測定した。次いで、各測定位置において測定された単体透過率のうちの最大値と最小値との差を算出し、この値を枚葉状の偏光板の光学特性のバラつき(50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差)とした。
【0067】
[実施例1]
1.偏光膜の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が43.5%以上となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は5.2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み5μmの偏光膜を形成した。さらに、同様の手順を繰り返し、合計14の偏光膜を作製した。
2.偏光板の作製
上記で得られた各偏光膜の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護フィルムとして、アクリル系フィルム(表面屈折率1.50、40μm)を、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、UV光線を保護フィルム側から照射して接着剤を硬化させた。次いで、両端部をスリットした後に、樹脂基材を剥離し、保護フィルム/偏光膜の構成を有する14の長尺状の偏光板(幅:1300mm)を得た。【0068】
[実施例2]
乾燥収縮処理においてオーブン温度を70℃、加熱ロール温度を70℃としたこと以外は実施例1と同様にして、4つの偏光膜および偏光板を作製した。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2.5%であった。
・・・省略・・・
【0070】
[比較例2]
空中補助延伸処理における延伸倍率を1.8倍としたこと、および乾燥収縮処理において加熱ロールを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして、6つの偏光膜および偏光板を作製した。
【0071】
[参考例1]
比較例2と同様にして得られた偏光膜を、温度60℃、湿度90%RHに設定された恒温恒湿度ゾーンに30分間保持した。その後、実施例1と同様にして偏光板を作製した。
【0072】
実施例および比較例の各偏光板について、単体透過率および偏光度を測定した。結果を表2および図3に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
比較例の製造方法により得られた偏光膜は、43.5%以上の単体透過率と99.940%以上の偏光度とを同時に満足するものではなかった。これに対して、実施例の製造方法により得られた偏光膜は、単体透過率が43.5%以上、かつ、偏光度が99.940%以上の優れた光学特性を有していた。
【0075】
実施例および参考例の各偏光板について、長尺状および枚葉状の偏光板の光学特性のバラつきを測定した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
実施例の製造方法により得られた長尺状の偏光板は、単体透過率のバラつきが0.3%以下であり、実施例の製造方法により得られた枚葉状の偏光板は、単体透過率のバラつきが0.15%以下であり、光学特性のバラつきが問題ない程度に抑制されている。一方で、偏光膜を加湿処理する工程を経て得られた参考例の偏光板は、長尺状および枚葉状のいずれにおいても光学特性のバラつきが大きかった。」

2 理由2:(サポート要件)について
(1)特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号の要件(以下「サポート要件」という。)に適合するか否かについては、特許請求の範囲と本願明細書の発明の詳細な説明を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。そうすると、特許請求の範囲がサポート要件に適合するためには、その前提として、特許請求の範囲には「課題を解決できると認識できる」事項、すなわち、課題解決手段が少なくとも記載されていることが必要といえる。

(2)これを、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明」と総称する。)についてみると、特許請求の範囲に記載された事項のうち、「単体透過率が43.5%?44.0%であり、偏光度が99.940%?99.990%である」、「50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.15%以下である」及び「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.2%以下である」という記載は、本願発明の課題に関する「優れた光学特性」及び「光学特性のバラつきが抑制された」という定性的な記載(上記「1(1)」等参照)を、数値範囲を用いた定量的な記載に言い換えたものと解釈することができる。そして、特許請求の範囲には、これら発明の課題を解決できることを定量的に表した記載以外には、「厚みが8μm以下であり」、「偏光膜と、該偏光膜の少なくとも一方の側に配置された保護層と、を有する偏光板」及び「幅が1000mm以上であり」との記載しかなく、これは明細書の【0021】に記載される製造方法から当業者が理解される偏光膜を具備する偏光板の範囲を超える又は対応しないものと理解されるところ、これら「厚み」等の記載によって特定される「偏光板」が、本願発明の課題を解決できるとは限らないことは明らかである。

(3)この点について、請求人は、令和2年1月30日付け意見書の「(4)サポート要件について」において、次のように主張する。
「本願発明は、「望まれていながら長く解決できなかった課題を解決したもの(すなわち、望まれていながら長く実現できなかった光学特性/TP特性を実現したもの)」です。本願発明のTP特性および単体透過率のばらつきは、PVAの配向、ヨウ素(I_(2)、I^(-)、I^(3-)、I^(5-))の含有量のバランス、PVA/ヨウ素錯体の状態等が有機的に組み合わさった偏光膜の構造・構成・組成を示すものであり、課題を解決する手段と同視され得る事項です。一方で、ご理解いただいているとおり、高分子化学という技術分野においてポリマー中のこのような構造・構成・組成を明確に特定することは実質的に不可能です。だからこそ、高分子化学の技術分野においては他分野ではほとんど認められないPBPクレームが(構造特定手段として)認められているものと理解しています。・・・省略・・・したがって、PBPクレームの場合と同様に、TP特性および単体透過率のばらつきは、偏光膜の構造特定手段として認められるべきものであると思料いたします。」
しかしながら、いわゆるPBPクレームが認められるような発明であるからといって、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えた事項(課題を解決できることを定量的に記載すること)によって発明を特定することが許されることにはならない。
また、請求人は、本願発明は、技術的ブレークスルーにより今まで実現できなかった高単体透過率、高偏光度および低ばらつきを同時に満足させたものであると主張するが、上記「第2」3で述べたとおり、本願発明は、引用発明から当業者が期待し得る範囲の物にとどまるものである(当合議体注:2010年より前の当業者において単体透過率及び偏光度が本願発明と同程度であり、かつ、厚みも本願発明と同程度である偏光膜は、およそ想定し得ないものであったが、本願発明においては、このような事情もない。)。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
また、請求項1または2を引用する請求項3に係る発明も同様である。

(4)以上のとおりであるから、本件出願の請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。
したがって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由4:(実施可能要件)について
(1)本願発明1及び2は、偏光板の特定領域ないし特定方向に沿った特定位置における単体透過率の最大値と最小値の差が特定の範囲内にあることが特定されたものであるところ、請求項1及び2には、当該特定領域ないし当該特定位置が、得られる長尺状の偏光板のうちのどの位置(特に、長手方向のどの位置)のものかについて何ら特定されていない。そうすると、本願発明1及び2は、単体透過率のバラつきが、製造される長尺状の偏光板のうちの任意の領域(例えば、長尺状の偏光板のうち、長手方向全域)において、「0.15%以下」又は「0.2%以下」という要件を満たす偏光板を、その技術的範囲に包含する。

(2)そこで、本願明細書の発明の詳細な説明が、当業者が上記要件を満足する偏光板を作ることができるように明確かつ十分に記載されているか(実施可能要件を満足するか)について以下検討する。

本件出願の明細書の記載は、上記「第3 1」のとおりであって、上記要件を満足する偏光板が得られることを確認したデータは【0076】【表3】に一応記載されている。そして、当該データは、実施例1-1?1-14及び実施例2-1?2-4の合計18の長尺状の偏光板について測定されたデータであると理解される。しかしながら、各偏光板についてみれば、長手方向全域に渡って、上記要件を満足することを確認できるようなデータは開示されていない。(当合議体注:高々、長手方向のある特定の位置を測定したに過ぎないと認められる。)
以上によれば、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明の、「幅が1000mm以上であり、幅方向に沿った位置における単体透過率の最大値と最小値との差(D1)が0.3%以下である。D1の上限は、・・・より好ましくは0.2%である。・・・下限は例えば0.01%である。D1が上記の範囲内であれば、優れた光学特性を有する偏光板を工業的に生産することができる。別の実施形態においては、偏光板は、50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差(D2)が0.15%以下である。・・・D2が上記の範囲内であれば、偏光板を画像表示装置に用いたときに表示画面における輝度のバラつきを抑制することができる。」(下線は当合議体で付与した。)という目的(上記1(1)【0010】)に適った、本願発明に係る偏光板を安定的に製造することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

(3)実施可能要件について、請求人は、令和2年1月30日付け意見書で次のように主張する。
「本願明細書には、実施例1において14の偏光膜および偏光板を得たこと([0067])、実施例2において4つの偏光膜および偏光板を得たこと([0068])が明確に記載されています。さらに、[0072]には「実施例および比較例の各偏光板について、単体透過率および偏光度を測定した。結果を表2および図3に示す。」と記載され、表2には実施例1について14個、実施例2については4個の偏光板についての結果が示されています。・・・省略・・・審査基準によれば、「物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。」とされています。本願明細書を読めば、当業者は、過度の試行錯誤も複雑高度な実験も行うことなく、本願発明の偏光板を作ることができ、かつ、当該偏光板を使用することができます。」
しかしながら、上記(1)で述べたとおり、本願発明1及び2は、長手方向の長さが特定されていない長尺状の偏光板を含むところ、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、工業的な生産に資する程度に、長手方向の相当部分にわたって、「幅方向に沿った等間隔の5カ所の位置における単体透過率の最大値と最小値との差が0.2%以下である」あるいは「50cm^(2)の領域内における単体透過率の最大値と最小値との差が0.15%以下である」という要件を満たす偏光板を、当業者が作ることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(4)以上のとおりであるから、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。

第4 むすび
本願発明2は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
あるいは、本件出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-03 
結審通知日 2020-06-09 
審決日 2020-06-26 
出願番号 特願2018-120364(P2018-120364)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 沖村 美由清水 督史井上 徹吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 里村 利光
河原 正
発明の名称 偏光板および偏光板ロール  
代理人 籾井 孝文  
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