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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365369
審判番号 不服2019-9442  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-16 
確定日 2020-08-13 
事件の表示 特願2017-34559「偏光子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月15日出願公開,特開2017-107232〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-34559号(以下「本件出願」という。)は,平成24年7月6日(先の出願に基づく優先権主張 平成23年7月12日)を出願日とする特願2012-152164号の一部を,平成29年2月27日に新たな特許出願としたものであって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年11月29日付け:拒絶理由通知書
平成30年 4月 3日付け:意見書
平成30年 4月 3日付け:手続補正書
平成30年 9月10日付け:拒絶理由通知書
平成30年11月13日付け:意見書
平成30年11月13日付け:手続補正書
平成31年 4月 3日付け:補正の却下の決定
(平成30年11月13日にした手続補正の却下)
平成31年 4月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年 7月16日付け:審判請求書
令和 元年 7月16日付け:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年7月16日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前(平成30年4月3日にされた手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「透明基材上に,配向層,偏光層及び保護層がこの順で設けられた偏光子であり,
前記偏光層は,
重合性基としてアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物が重合してなりスメクチック液晶状態であるマトリックス中に二色性色素が分散している層であり,
前記保護層は,
多官能アクリレートを硬化させたものであるか,または
多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものである
偏光子。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「透明基材上に,配向層,偏光層及び保護層がこの順で設けられた偏光子であり,
前記偏光層は,
重合性基としてアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物が重合してなりスメクチック液晶状態であるマトリックス中に二色性色素が分散している層であり,
前記保護層は,
多官能アクリレートを硬化させたもの,または多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものと,
バインダー樹脂と
を有し,
前記バインダー樹脂は,アクリル酸,メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体と該単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体である
偏光子。」

2 本件補正について
(1) 新規事項違反
本件補正により,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の「保護層」は,[A]多官能アクリレートを硬化させたものと,バインダー樹脂とを有するもの,又は,[B]多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものと,バインダー樹脂とを有するものとなった。
しかしながら,本件出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面には,「保護層」として,上記[A]に対応するものは開示されている(【0095】?【0106】)が,上記[B]に対応するものは開示されていない。
(当合議体注:【0107】?【0111】には,多官能アクリレートを重合させて得られるポリマー又はオリゴマーと水とを含有する保護層形成用組成物2を硬化させた第2塗布膜が開示されているが,この塗布膜は,バインダー樹脂に該当するものを有さない。【0112】?【0114】に開示された,水溶性ポリマーと水とを含有する保護層形成用組成物3を硬化させた第2塗布膜についても同様である。)
そうしてみると,本件補正は,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるということができない。
したがって,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから,特許法17条の2第3項の規定に違反してされたものである。

(2) 目的要件違反
本件補正前の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の「保護層」は,「多官能アクリレートを硬化させたものであるか,または」「多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるもの」であった。すなわち,本願発明の「保護層」は,「バインダー樹脂」を有さないものであった。
これに対して,本件補正後発明の「保護層」は,「多官能アクリレートを硬化させたもの,または多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものと」,「バインダー樹脂と」「を有し」たものである。
そうしてみると,本件補正は,バインダー樹脂を有さない保護層を,バインダー樹脂を有する保護層に変更するものであるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当しない。また,本件補正が,同項1号(36条5項に規定する請求項の削除),3号(誤記の訂正)及び4号(明瞭でない記載の釈明のいずれにも該当しないことは明らかである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項の規定に違反してされたものである。

(3) 独立特許要件違反
前記(1)に関して,「保護層」を物としてみたとき,[A]多官能アクリレートを硬化させたものと,バインダー樹脂とを有するものと,[B]多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものと,バインダー樹脂とを有するものとは,区別が付かない可能性がある(実質的に,新たな技術的事項を導入しないものといえる可能性がある。)。

また,前記(2)に関して,本件補正前の請求項1の「からなるものである」という記載を,「からなるものを含むものである」と解釈すると,本件補正は,特許請求の範囲の減縮といえる可能性がある。

そこで,事案に鑑みて,本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

3 独立特許要件違反についての判断
(1) 引用文献の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特開2010-1368号公報(以下「引用文献1」という。)は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,棒状液晶単量体及び二色性色素を含有する液晶組成物に関する。また,本発明は,該組成物を用いた光吸収異方性膜,偏光素子及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
…(省略)…従来,これらの偏光板(偏光素子)にはヨウ素が二色性物質として広く使用されてきた。しかしながら,ヨウ素は昇華性が大きいために偏光素子に使用した場合,その耐熱性や耐光性が十分ではなかった。
…(省略)…
【0004】
…(省略)…
そこで,最近では他の方法が着目されるようになってきた。この方法として,非特許文献1では,ガラスや透明フィルムなどの基板上に有機色素分子の分子間相互作用などを利用して二色性色素を配向させ,偏光膜(異方性色素膜)を形成する方法がある。しかしながら,該文献に記載の方法では,耐熱性について問題があることが知られていた。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,高い二色性を有する液晶組成物,特に,ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性,中でも特に,スメクチックB液晶性を有する液晶組成物を提供することを目的とする。また,本発明は,幅広い温度において,優れた二色比を有する光吸収異方性膜,偏光素子,および表示性能に優れた液晶表示装置を提供することを目的とする。」

イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,
<1>配向かつ重合可能な棒状液晶単量体を主成分とし,下記式(1)を満足する二色性色素の少なくとも一種を含有することを特徴とする液晶組成物,
式(1)
L_(d)/L_(l)>1
[式中L_(l)は液晶単量体の分子長軸の分子長を表し,L_(d)は二色性色素の分子長を表す。]
…(省略)…
【0019】
[棒状液晶単量体]
まず,棒状液晶単量体について説明する。棒状液晶は,液晶性化合物の分子構造において,よく知られている概念であり,(液晶便覧編集委員会編,「液晶便覧」,丸善(株),2000年発行;および岩柳茂夫著,「液晶」,共立出版,1984年発行)に記載されている。
本発明では,棒状液晶をネマチック相からスメクチック相に転移させたのち,重合することが好ましいため,ネマチック相とスメクチック相,特にスメクチックB相の双方を発現できる棒状液晶が好適に用いられる。
…(省略)…
【0035】
【化5】


…(省略)…
【0041】
本発明の二色性色素として特に好ましくは下記一般式(3)で表されるアゾ色素である。
【0042】
【化7】


【0043】
[式中,D^(1)およびD^(2)は各々独立してアゾ色素の発色団を表し,L^(1)およびL^(2)は各々独立して連結基を表し,n^(1)およびn^(2)は各々独立して0または1を表し,Qは下記一般式(Q)で表される2価基を表す。]
【0044】
【化8】


【0045】
[式中,XおよびYは窒素原子またはCHを表し,nは1?5のいずれかの整数を表す。合計で2n個存在するXおよびYはそれぞれ同一であっても異なっていてもよいが,少なくとも1つは窒素原子である。R^(1)?R^(8)は各々独立して水素原子または置換基を表す。]
…(省略)…
【0070】
前記一般式(3)で表されるアゾ色素の具体例を以下に示すが,本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
…(省略)…
【0072】
【化14】


…(省略)…
【0080】
前記一般式(3)で表されるアゾ色素は,その分子構造から明らかなように,分子形状が平板で直線性がよく,分子長軸方向と短軸方向のアスペクト比が大きな分子形状をしているため,液晶相,特にスメクチック液晶相の複数のレイヤー間に配列し,スメクチック相を安定化する効果をもたらす。
…(省略)…
【0090】
[重合開始剤]
棒状液晶単量体及び二色性色素の配向状態を固定して光吸収異方性膜を形成するのが好ましく,重合反応を利用して棒状液晶単量体及び二色性色素を固定するのが好ましい。
…(省略)…
【0113】
[光吸収異方性膜]
本発明の光吸収異方性膜は,上記の本発明の液晶組成物を用いて形成されたものである。
【0114】
[塗布溶剤]
本発明の光吸収異方性膜は,本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素を含有する液晶組成物の塗布液を用いて形成するのが好ましい。
…(省略)…
【0116】
本発明の光吸収異方性膜は,湿式成膜法により形成することが好ましい。本発明における光吸収異方性膜の作製には,本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を調製後,ガラス板などの各種基材に塗布し,色素を配向,積層して得る方法など公知の方法が採用される。
…(省略)…
【0118】
このような方法で製造された光吸収異方性膜は機械的強度が低い場合もあるので,必要に応じ,保護層を設けて使用する。この保護層は,例えば,トリアセテート,アクリル,ポリエステル,ポリイミド,トリアセチルセルロース又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜によりラミネーションして形成され,実用に供する。
…(省略)…
【0133】
[支持体]
本発明に使用する支持体は透明であっても,着色等により不透明化した支持体であってもよいが,透明な支持体(透明支持体)であるのが好ましく,光透過率が80%以上であるのが好ましい。
…(省略)…
【0143】
[光吸収異方性膜の用途]
本発明の光吸収異方性膜は,光吸収の異方性を利用し直線偏光,円偏光,楕円偏光等を得る偏光膜として機能する他,膜形成プロセスと基材や色素を含有する組成物の選択により,屈折異方性や伝導異方性などの各種異方性膜として機能化が可能となり,様々な種類の,多様な用途に使用可能な偏光素子とすることができる。
【0144】
[偏光素子]
本発明の偏光素子は,例えば,(1)支持体,または該支持体上に形成された配向膜をラビングする工程,(2)ラビング処理した支持体または配向膜上に,有機溶媒に溶解した本発明の棒状液晶単量体及び二色性色素含有液晶組成物を塗布する工程,(3)前記有機溶媒を蒸発させる工程,(4)ネマチック相温度以上に加熱した後スメクチック相温度まで降温する工程,により製造することができる。前記(1)?(4)の工程の詳細については,前述の通りである。
【0145】
本発明の光吸収異方性膜を基材上に形成し偏光素子として使用する場合,形成された光吸収異方性膜そのものを使用してもよく,また上記の様な保護層のほか,粘着層或いは反射防止層,配向膜,位相差フィルムとしての機能,輝度向上フィルムとしての機能,反射フィルムとしての機能,半透過反射フィルムとしての機能,拡散フィルムとしての機能,光学補償フィルムとしての機能などの光学機能をもつ層など,様々な機能をもつ層を湿式成膜法などにより積層形成し,積層体として使用してもよい。
…(省略)…
【実施例】
【0173】
以下,本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されない。
…(省略)…
【0177】
(実施例1)
クロロホルム80質量部に棒状液晶単量体No.(11)を19.6質量部及び二色性アゾ色素No.(18)を0.4質量部加え,撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得た。次に,ガラス基板上に形成しラビングした配向膜上に,前記塗布液を塗布し,室温でクロロホルムを自然乾燥した後,155℃で1分間加熱熟成し,ネマチック相で配向させた。この後,80℃まで降温してスメクチックB相で光吸収異方性膜を作製した。配向膜としては,ポリイミド(日産化学社製SE-150)を使用した。
【0178】
得られた光吸収異方性膜における色素膜面内の吸収軸方向に振動面を有する偏光に対する吸光度(Az),および色素膜面内の偏光軸方向に振動面を有する偏光に対する吸光度(Ay)とから求めた二色比(D),二色性色素の分子長(L_(d))と棒状液晶単量体の分子長(L_(l))の比(L_(d)/L_(l)),極大吸収波長(λmax),および相転移温度を表2に示す。組成物は,ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性,特に,スメクチックB液晶性を有しており,且つ偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0179】
(実施例2)
アゾ色素をNo.(19)に変更した以外,実施例1と同様に光吸収異方性膜を作製した。
得られた光吸収異方性膜の二色比(D),分子長比(L_(d)/L_(l)),極大吸収波長(λmax),および相転移温度を表2に示す。組成物は,ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性,特に,スメクチックB液晶性を有しており,且つ偏光膜として充分機能し得る高い二色比(光吸収異方性)を有していた。
【0180】
(実施例3)
クロロホルム80質量部に棒状液晶単量体No.(11)を18.8質量部及び二色性アゾ色素No.(19)を0.4質量部及び重合開始剤としてIragacure OXE-01(Ciba Speciality Chemicals 社製)を0.8質量部加え,撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得た。このものを実施例2と同様の条件で塗布し,155℃で1分間加熱熟成してネマチック相で配向させた後,80℃まで降温してスメクチックB相で2Jの紫外線を照射して配向状態を固定化した。得られた光吸収異方性膜の二色比(D),分子長比(L_(d)/L_(l)),極大吸収波長(λmax),および相転移温度を表2に示す。組成物は,ネマチック液晶性及びスメクチック液晶性,特に,スメクチックB液晶性を有しており,得られた異方性色素膜は偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する異方性色素膜であった。
…省略…
【0182】
【表2】


【0183】
K:結晶相
SB:スメクチックB相
SC:スメクチックC相
SA:スメクチックA相
N:ネマチック相
I:アイソトロピック相」

(2) 引用発明
引用文献1の【0180】には,実施例3が記載されている。
ここで,引用文献1の【0144】の記載に照らし合わせてみると,実施例3により製造されてなるものは,「偏光素子」といえる。
また,【0180】に記載の「棒状液晶単量体No.(11)」及び「二色性アゾ色素No.(19)」は,それぞれ【0035】及び【0072】に記載のものである。そして,【0180】の「実施例2と同様の条件で塗布」という記載をたどると,【0177】に記載の塗布方法のことと理解される。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 クロロホルム80質量部に以下の棒状液晶単量体No.11を18.8質量部,以下の二色性アゾ色素No.19を0.4質量部及び重合開始剤としてIragacure OXE-01を0.8質量部加え,撹拌溶解後濾過して液晶組成物の塗布液を得,
ガラス基板上に形成しラビングした配向膜上に塗布液を塗布し,室温でクロロホルムを自然乾燥した後,155℃で1分間加熱熟成してネマチック相で配向させた後,80℃まで降温してスメクチックB相で2Jの紫外線を照射して配向状態を固定化し,
得られた光吸収異方性膜は,偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する,
偏光素子。
棒状液晶単量体No.11:4-(4-アクリロイルオキシブトキシ)安息香酸4'-(4-アクリロイルオキシブトキシ)ビフェニル-4-イル



二色性アゾ色素No.19:1,1'-ビス[4-[4-[4-(4-ブチルフェニルアゾ)フェニルアゾ]3-メチルフェニルアゾ]フェニル]-4,4'-ビピペリジン




(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 偏光子
引用発明の「偏光素子」は,「ガラス基板上に形成しラビングした配向膜上に塗布液を塗布し,室温でクロロホルムを自然乾燥した後,155℃で1分間加熱熟成してネマチック相で配向させた後,80℃まで降温してスメクチックB相で2Jの紫外線を照射して配向状態を固定化し」,「得られた光吸収異方性膜は,偏光膜として充分機能し得る高い二色比を有する」ものである。
ここで,引用発明の「ガラス基板」は,その機能からみて,透明基材ということができる。また,引用発明の「配向膜」は,その文言からみて,配向層ということができる。加えて,引用発明の「光吸収異方性膜」は,その文言及び性能からみて,偏光層ということができる。
そして,上記の製造工程からみて,引用発明の「偏光素子」は,ガラス基板上に配向膜,光吸収異方性膜がこの順で設けられたものといえる。
そうしてみると,引用発明の「ガラス基板」,「配向膜」,「光吸収異方性膜」及び「偏光素子」は,それぞれ本件補正後発明の「透明基材」,「配向層」,「偏光層」及び「偏光子」に相当する。
また,引用発明の「偏光素子」と本件補正後発明の「偏光子」は,「透明基材上に,配向層,偏光層」「がこの順で設けられた偏光子」である点で共通する。

イ 偏光層
引用発明の「光吸収異方性膜」は,前記アで述べた製造方法により得られるものである。また,その「塗布液」は,「クロロホルム80質量部に以下の棒状液晶単量体No.11を18.8質量部,以下の二色性アゾ色素No.19を0.4質量部及び重合開始剤としてIragacure OXE-01を0.8質量部加え,撹拌溶解後濾過して」なる,「液晶組成物の塗布液」である。
ここで,引用発明の「棒状液晶単量体No.11」は,その両末端に,重合性基としてアクリロイルオキシ基を有していることから,重合性液晶化合物といえる。また,上記の製造工程からみて,引用発明の「光吸収異方性膜」は,「棒状液晶単量体No.11」が重合してなるものであり,また,「スメチックB層」を呈する母材(マトリックス)中に「二色性アゾ色素No.19」が分散している層である。
そうしてみると,引用発明の「光吸収異方性膜」は,本件補正後発明の「偏光層」における,「重合性基としてアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物が重合してなりスメクチック液晶状態であるマトリックス中に二色性色素が分散している層であり」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「透明基材上に,配向層,偏光層がこの順で設けられた偏光子であり,
前記偏光層は,
重合性基としてアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する重合性液晶化合物が重合してなりスメクチック液晶状態であるマトリックス中に二色性色素が分散している層であり,
偏光子。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点)
「偏光子」が,本件補正後発明は,透明基材上に,配向層,偏光層「及び保護層」がこの順で設けられたものであり,「前記保護層」は,「多官能アクリレートを硬化させたもの,または多官能アクリレートを重合させて得られるポリマーもしくはオリゴマーからなるものと」,「バインダー樹脂と」「を有し」,「前記バインダー樹脂は,アクリル酸,メタクリル酸及び無水マレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体と該単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体である」のに対して,引用発明は,この構成を具備しない点。

(5) 判断
引用文献1の【0118】及び【0145】においても言及があるように,引用発明の「偏光素子」に「保護層」を設けて「偏光膜」を保護することが望ましいことは,実用上,自明な事項である。また,当業者ならば,「偏光膜」の保護層として,相違点に係る本件補正後発明の要件を満たすもの(多官能アクリレートとウレタンアクリレート樹脂の組み合わせのもの)を,周知技術として心得ている(例えば,特開2003-232919号公報の【0008】,【0065】?【0068】,【0075】?【0078】及び【0141】,特開2010-152351号公報の【0010】,【0147】,【0149】及び【0244】,国際公開第2011-024891号の[0170]及び[0176]?[0178]を参照。)。
そうしてみると,周知技術の保護層を採用し,本件補正後発明の構成に到ることは,引用発明の実用化を検討した当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(6) 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0006】には,「本発明によれば,新規な偏光層を含む偏光子が提供される。」と記載されている。
しかしながら,本件補正後発明の偏光層は,前記(3)の対比結果から明らかなとおり,新規なものではなく,本件補正後発明の効果は,引用発明も具備する効果である。

(7) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書の3.2において,「本願偏光子は,上記構成を有する保護層が設けられたので,偏光層表面の耐擦傷性や耐溶剤性に優れるだけでなく,本偏光子自体の耐熱性ならびに耐湿熱性に優れています(本願明細書[0116])」と主張する。
しかしながら,耐擦傷性及び耐溶剤性に関する効果は,保護層を設けたことにより期待される効果にすぎず,また,耐熱性及び耐湿熱性に関する効果は,引用発明も具備する効果である。

(8) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第3項及び第5項の規定に違反してされたものである。また,本件補正は同条6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。
したがって,本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-1368号公報(引用文献1)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,バインダー樹脂に関する限定を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2で述べたとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2020-06-03 
結審通知日 2020-06-09 
審決日 2020-06-26 
出願番号 特願2017-34559(P2017-34559)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 561- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 偏光子及びその製造方法  
代理人 坂元 徹  
代理人 中山 亨  
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