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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1365434
審判番号 不服2020-1035  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2020-09-08 
事件の表示 特願2016-513797「プッシュプルキャップ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日国際公開、WO2015/159888、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年) 4月14日を国際出願日(優先権主張:平成26年 4月15日 日本)とする出願であって、平成31年 2月 8日付けで拒絶理由通知がされ、平成31年 4月 8日付けで手続補正がされ、令和元年 7月 1日付けで最後の拒絶理由通知がされ、これに対し、令和元年 8月30日付けで手続補正がされたが、令和元年10月24日付けで当該令和元年 8月30日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対して令和2年 1月24日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 令和元年10月24日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
1.令和元年10月24日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
令和元年 8月30日付けの補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の本願請求項1に係る発明は、引用文献1-2に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、独立特許要件を満たさないから、令和元年 8月30日付けの補正は却下すべきものである。

引用文献等一覧
1.特開2002-264958号公報
2.特公昭45-038230号公報

2.原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1、2に係る発明は、上記引用文献1、2に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって、請求項1に「前記天部の上端の開口から下方に位置して絞り込まれたように最も狭くなった個所の開口が液流出する前記抽出口となり」、「前記オーバーキャップを上方に稼働させた開口時に、前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端部側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、1≦(S_(2)/S_(1))≦2である」なる発明特定事項が追加されたが、この補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。
また、「前記天部の上端の開口から下方に位置して絞り込まれたように最も狭くなった個所の開口が液流出する前記抽出口となり」とする事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書」という。)の段落0025及び図1、図2に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。さらに、「前記オーバーキャップを上方に稼働させた開口時に、前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端部側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、1≦(S_(2)/S_(1))≦2である」とする事項は、当初明細書の請求項2、段落0028-0032に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和2年 1月24日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

<本願発明>
【請求項1】
容器に装着されて、容器をスクイズすることによって内容物を注出するプッシュプルキャップであって、
キャップ本体と、オーバーキャップと、を有し、
オーバーキャップを上方に移動させたときに、キャップ本体に立設された棒状栓体が、オーバーキャップの有する注出口から離れて開状態となり、オーバーキャップを下方に移動させたときに、キャップ本体に立設された棒状栓体が、オーバーキャップの有する注出口に入り込んで密着して閉状態となるように、オーバーキャップがキャップ本体に対して上下動可能に装着されており、
このオーバーキャップが、天部に液体を注出する前記注出口を有し、前記天部の上端の開口から下方に位置して絞り込まれたように最も狭くなった箇所の開口が液流出する前記注出口となり、前記注出口を囲んで容器側に垂下する筒状部を有し、この筒状部の内部形状が前記注出口から下方に向けて段差や屈曲点を設けず、漸次拡開した円錐形状であり、
前記オーバーキャップを上方へ稼動させた開口時に、
前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、
1≦(S_(2)/S_(1))≦2であることを特徴とするプッシュプルキャップ。

第5 引用文献、引用発明等
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、容器に界面活性剤入りの液体洗浄剤を収容した液体洗浄剤製品に関する。」

イ「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、界面活性剤を含有する高粘度の液体洗浄剤、例えばジェルタイプの液体洗剤であっても1回のスクイズ操作で規定量の内容液を確実に排出することができる液体洗浄剤製品を提供することを課題とする。」

ウ「【0010】この第1の実施の形態に係る液体洗浄剤製品1Aは、口部2を有する容器本体3と、口部2の先端部に螺合されたキャップ4と、容器本体3内に収容された界面活性剤入りの液体洗浄剤Cとから構成されている。前記キャップ4は、口部2に螺合されるキャップ本体5と、このキャップ本体5に上下方向摺動自在に被着されたスライド式のオーバーキャップ6とから構成されている。キャップ本体5はその内周面のネジ部7を口部2の外周面のねじ部8に螺合することによって、容器本体3の口部2に着脱自在に装着されている。
【0011】キャップ本体5の上面中央部には円筒状の排出筒部9が立設されており、この排出筒部9の先端側に前記スライド式のオーバーキャップ6が装着されている。一方、排出筒部9の内部中央には突起状の栓体10が立設され、この栓体10の底部周縁部に位置して、容器口部側に開口する扇形をした3個の連通孔11が円周方向等間隔に形成されており、これら3個の連通孔11を通じて容器本体3内の液体洗浄剤Cを排出筒部9側に排出できるように構成されている。
【0012】スライド式のオーバーキャップ6には案内内筒12と案内外筒13が垂下されており、前記キャプ本体5の排出筒部9はこの内外2つの案内筒の間の間隙部内に挿入され、オーバーキャップ6を上下方向摺動自在に支持している。また、排出筒部9の上端側と案内外筒13の下端側にはそれぞれ係合するストッパ15,16が形成されており、オーバーキャップ6をキャップ本体5から引き上げても抜け落ちないように構成されている。
【0013】オーバーキャップ6の上面中央部には注出口14が形成されており、この注出口14を通じて容器本体3内に収容されている液体洗浄剤Cを外部に排出できるように構成されている。なお、栓体10は、排出筒部9よりも多少長く、先すぼまり状に形成されており、オーバーキャップ6を排出筒部9の底部側に向けてスライドさせた時に、栓体10の先端部で注出口14を閉じ、閉栓できるように構成されている。
【0014】また、オーバーキャップ6の案内内筒12の内側は注出口14へ連なる案内流路17とされており、この案内流路17の内周壁には、案内流路17との境目が傾斜部18となるように斜めに切り下げられた拡径部19が形成されており、内容液の注出が終わって容器本体3を立てた時、注出口14や案内流路17内に残っている内容液が傾斜部18に沿って流れ落ちていくことによって、速やかに容器本体3側へ送り返されて液切れが良くなるように工夫されている。
【0015】第1の実施の形態に係る液体洗浄剤製品1Aは、上記のような構造において、注出口14の最小穴口径D(図3参照。特許請求の範囲における「注出口外部側の最小穴口径」に相当)を2.5?4.0mmφの範囲とするとともに、容器口部側に開口する扇形をした3個の連通孔11の合計液流入面積(特許請求の範囲における「注出口内部側の液流入面積」に相当)を12?100mm^(2) の範囲となるように設定し、さらに、容器本体3内に収容する液状洗浄剤Cの粘度を25℃において200?1000mPa・sの範囲となるように調整したものである。なお、この際、容器本体3の胴部を0.5?1.5Kg/3cm^(2) /秒の力で押圧した時に、注出口14から1回当たり0.1?4.5gの内容液が排出されるように容器の肉厚を設定することが好ましい。」

エ「【0017】上記のごとく構成された液体洗浄剤製品1Aは、・・・なお、この際、上記したように、注出口14の最小穴口径Dを2.5?4.0mmφの範囲とするとともに、容器口部側に開口する扇形をした3個の連通孔11の合計液流入面積を12?100mm^(2) の範囲となるように設定してあるので、200?1000mPa・sという高粘度の液体洗浄剤Cであっても注出口14から速やかに排出され、従来の高粘度タイプの容器のようになかなか排出されないというようなことがなくなる。」

オ「0037】〔実験例4〕表4および図9に、注出口14の最小穴口径Dおよび連通孔11の合計液流入面積と排出量の関係(その1)を示す。この実験例4は、図1の実施の形態において、粘度460mPa・s(25℃)の液体洗浄剤を用いた場合の例を示すものである。
【0038】
【表4】



カ「



キ 図1の記載からみて、オーバーキャップ6の上端には開口が形成されており、当該開口は底部側に向けて絞り込まれており、最も絞られた箇所、すなわち狭くなった箇所の開口が注出口14となっていることを確認できる。
また、オーバーキャップの注出口14を囲んで容器側に垂下する案内内筒が確認できるとともに、当該案内内筒の内壁面が注出口から漸次拡開した形状であることも確認できる。

してみると、引用文献1には、次の発明が記載されているものといえる(以下、「引用発明」という。)。

<引用発明>
容器本体に装着されて、容器本体を押圧することによって液体洗浄剤を外部に排出するキャップ本体とオーバーキャップとを有し、オーバーキャップを上方にスライドさせたときに、キャップ本体に立設された突起状の栓体が、オーバーキャップの有する注出口から離れて開栓し、オーバーキャップを底部側に向けてスライドさせたときに、キャップ本体に立設された突起状の栓体が、オーバーキャップの注出口を先端部で閉じて閉栓するように、オーバーキャップがキャップ本体に対して上下方向にスライド可能に装着されており、このオーバーキャップが、上端に液体洗浄剤を注出する注出口を有し、前記上端の開口から底部側に位置して絞り込まれたように最も狭くなった個所の開口が液体洗浄剤の流出する前記注出口となり、前記注出口を囲んで容器本体側に垂下する案内内筒を有し、この排出筒部の内部形状が注出口から底部側に向けて傾斜部を有する前記注出口から底部側に向けて漸次拡開した形状であるキャップ。

第6 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「容器本体」、「押圧」、「液体洗浄剤」、「上方にスライド」、「突起状の栓体」、「開栓」、「底部側に向けてスライド」、「閉栓」、「上下方向にスライド可能」、「上端」、「底部側」、「案内内筒」、「キャップ」が、それぞれ本願発明の「容器」、「スクイズ」、「内容物」「上方に移動」、「棒状栓体」、「開状態」、「下方に移動」、「閉状態」、「上下動可能」、「天部」、「下方」、「筒状部」、「プッシュプルキャップ」に相当する。
また、引用発明の「キャップ本体に立設された突起状の栓体が、オーバーキャップの注出口を先端部で閉じて閉栓する」際には、技術常識を鑑みると突起状の栓体の先端部が注出口に密着しているものと認められる。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「容器に装着されて、容器をスクイズすることによって内容物を注出するプッシュプルキャップであって、
キャップ本体と、オーバーキャップと、を有し、
オーバーキャップを上方に移動させたときに、キャップ本体に立設された棒状栓体が、オーバーキャップの有する注出口から離れて開状態となり、オーバーキャップを下方に移動させたときに、キャップ本体に立設された棒状栓体が、オーバーキャップの有する注出口に入り込んで密着して閉状態となるように、オーバーキャップがキャップ本体に対して上下動可能に装着されており、
このオーバーキャップが、天部に液体を注出する前記注出口を有し、前記天部の上端の開口から下方に位置して絞り込まれたように最も狭くなった箇所の開口が液流出する前記注出口となり、前記注出口を囲んで容器側に垂下する筒状部を有し、この筒状部の内部形状が漸次拡開した形状であるプッシュプルキャップ。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、筒状部の内部形状が「前記注出口から下方に向けて段差や屈曲点を設けず」かつ「円錐」形状であるのに対して、引用発明では、筒状部の内部形状が「傾斜部」で段差が設けられ、円錐形状ではない点。
(相違点2)
本願発明では、「前記オーバーキャップを上方へ稼動させた開口時に、前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、1≦(S_(2)/S_(1))≦2である」のに対して、引用発明では、そのような構成がない点。

2.当審の判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、相違点2に係る本願発明の「前記オーバーキャップを上方へ稼動させた開口時に、前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、1≦(S_(2)/S_(1))≦2である」という発明特定事項は、上記引用文献1、2のいずれにも記載されておらず、本願の出願前に周知技術であったとも技術常識であったともいえない。
なお、引用文献1には、上記「第5 オ」に示したとおり、注出口の最小穴口径と連通孔11の合計流入面積をまとめたものが表4に示されており、1≦(合計流入面積/抽出口最小面積)≦2を満たす組み合わせも記載されているが、「キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積」と注出口の開口面積と対比したものではない。そして、連通孔の合計流入面積を「キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積」にあてはめる合理的な理由も見当たらない。

したがって、本願発明は、相違点1を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明は「前記オーバーキャップを上方へ稼動させた開口時に、前記注出口の開口面積をS_(1)とし、キャップ本体の棒状栓体先端側におけるオーバーキャップとの嵌合部の先端部と、筒状部内壁面との間における液流路面積をS_(2)としたときに、1≦(S_(2)/S_(1))≦2である」という事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1、2に基いて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-08-20 
出願番号 特願2016-513797(P2016-513797)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 信秀  
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 横溝 顕範
間中 耕治
発明の名称 プッシュプルキャップ  
代理人 神田 正義  
代理人 藤本 英介  
代理人 宮尾 明茂  
代理人 馬場 信幸  

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