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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04B
管理番号 1365449
審判番号 不服2019-3891  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-25 
確定日 2020-09-09 
事件の表示 特願2016-568676「マルチプレクサ、およびマルチプレクサを備えるモバイル用通信機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月26日国際公開、WO2015/176739、平成29年 7月20日国内公表、特表2017-520164、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年5月19日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成30年 2月22日付け 拒絶理由通知書
7月19日 意見書・手続補正書
11月26日付け 拒絶査定
平成31年 3月25日 審判請求・手続補正書
令和 元年12月23日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 4月 3日 意見書・手続補正書
6月23日付け 拒絶理由通知書(最後)
7月 2日 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」といい、これらを総称して「本願発明」という。)は、令和2年7月2日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載される以下のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
主信号経路における信号の送信又は受信および第2の信号経路における信号の送信又は受信をサポートしているマルチプレクサ(MUL)であって、
主TXポート(TX-MA)および第2のTXポート(TX-2)を有する1つの送信(TX)側のハイブリッド(TX-H)と、
主RXポート(RX-MA)および第2のRXポート(RX-2)を有する1つの受信(RX)側のハイブリッド(RX-H)と、
主アンテナポートおよび第2のアンテナポートを有する1つのアンテナ側のハイブリッド(ANT-H)と、
1つの第1のデュプレクサ(DPX1)と、
1つの第2のデュプレクサ(DPX2)と、を備え、
前記主TXポート(TX-MA)、前記第2のTXポート(TX-2)、前記主RXポート(RX-MA)、前記第2のRXポート(RX-2)、前記主アンテナポート、および前記第2のアンテナポートのうちのいずれか1つ以下がグラウンドに終端し、
前記第1のデュプレクサ(DPX1)は、前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し、前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続しており、
前記第2のデュプレクサ(DPX2)は、前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し、前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続しており、
前記主TXポート(TX-MA)は、前記主信号経路のTX信号用に設けられ、前記主RXポート(RX-MA)は、前記主信号経路のRX信号用に設けられ、
前記第2のTXポート(TX-2)は、前記第2の信号経路のTX信号用に設けられ、前記第2のRXポート(RX-2)は、前記第2の信号経路のRX信号用に設けられる、
ことを特徴とするマルチプレクサ。
【請求項2】
前記第2のTXポート(TX-2)および前記第2のRXポート(RX-2)の1つは、50Ωのインピーダンス素子を介してグラウンドに終端されていることを特徴とする、請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記第2のTXポート(TX-2)及び前記第2のRXポート(RX-2)は、1つのMIMO(Multiple Input Multiple Output)伝送系のポートであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記主アンテナポートは、1つの主アンテナ(A-MA)に接続されており、前記第2のアンテナポートは、1つのMIMOアンテナ(A-2)に接続されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記主信号経路に1つの電力増幅器および1つの低雑音増幅器を備えることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
前記第2の信号経路に1つの電力増幅器および/または1つの低雑音増幅器を備えることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項7】
TXおよびRX信号用の前記主信号経路、およびTXおよび/またはRX信号用の前記第2の信号経路に、2つのデュプレクサ(DPX1,DPX2)が用いられていることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のマルチプレクサ(MUL)を備えることを特徴とする、モバイル通信機器(MCD)。
【請求項9】
1つの主アンテナ(A-MA)および1つの第2のアンテナ(A-2)を備えることを特徴とする、請求項8に記載のモバイル通信機器。
【請求項10】
1つのRF集積回路(RF-IC)をさらに備え、当該RF集積回路(RF-IC)は、前記マルチプレクサ(MUL)を介して、前記主アンテナ(A-MA)および前記第2のアンテナ(A-2)に接続されていることを特徴とする、請求項9に記載のモバイル通信機器。」

第3 引用文献
1 引用文献1の記載事項
平成30年11月26日付け拒絶査定及び令和元年12月23日付け拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知書」という。)で引用された特表2014-511626号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのアンテナポート、1つの送信ポート、1つの受信ポート、および少なくとも1つの増幅器を備える増幅器モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来技術で知られた増幅器モジュールを示す。このモジュールは、2つの増幅器、2つの90度ハイブリッドHYB1、HYB2、および1つのデュプレクサDPX1を備える。さらに、この増幅器モジュールは、1つのアンテナポートANT、1つの送信ポートTXおよび1つの受信ポートRXを備える。送信ポートTXは、90°ハイブリッドHYB1の1つと直接接続されている。この90°ハイブリッドHYB1は、送信ポートTXでの信号を2つの出力信号に分割し、この2つの出力信号は互いに相対的に90°の位相シフトを有している。」

(2)「【0008】
図1のような回路での重要な問題は、アンテナでのいかなるミスマッチ(Fehlanpassung)も直ちに後段の回路に伝えられることである。
【0009】
増幅器をアンテナにマッチングすることは難しく、90°ハイブリッドまたは2つの並列に動作される増幅器によりさらに大きな問題となり得る。アンテナのミスマッチは、さらに増幅器自体に対し好ましくない作用をもたらすこのため、両増幅器はアンテナインピーダンスのミスマッチに関して極めて堅固に設計されていなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題はしたがって、アンテナインピーダンスのミスマッチによる影響を大きく受けない増幅器モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は請求項1に記載の増幅器モジュールによって解決される。本発明の有利な実施形態はその他の請求項に示されている。
【0012】
少なくとも1つの増幅器、1つのアンテナポート、1つの送信ポート、1つの受信ポート、および1つの回路装置を備えた増幅器モジュールが提示され、ここで回路装置は、少なくとも3つの90°ハイブリッドを備え、これら90°ハイブリッドのそれぞれが入力信号を2つの出力信号に分割し、この2つの出力信号は、互いに90°の相対的位相シフトを有し、さらにアンテナポート、送信ポート、受信ポートは、それぞれ少なくとも1つの90°ハイブリッドに接続されている。少なくとも増幅器の1つは、送信ポートと90°ハイブリッドの1つとの間に直列に接続されている。
【0013】
本発明によるモジュールによって、アンテナへのミスマッチの作用を大幅に低減することができる。これに対応して、受信路での受信感度を著しく高めることができる。さらに、本発明による回路装置は、送信ポートと受信ポートの間の絶縁を改善する。」

(3)「【0043】
本発明による回路は、たとえばLTE周波数帯域XIおよびVIIに用いられてよい。LTE周波数帯域XIは1427.9から1452.9MHzの送信帯域と1475.9から1500.9MHzの受信帯域を有する。LTE周波数帯域VIIの送信帯域は2500から2570MHzであり、これに属する受信帯域は2620から2690MHzである。さらに、この回路は、送信帯域が777から787MHzで、受信帯域が746から756MHzである帯域XIIIに用いられるように提供される。しかしながら、本回路は原理的に他のLTE帯域にも適合している。」

(4)「【0060】
電源電圧変調を上述の増幅器モジュールの1つと共に用いることで、インピーダンスマッチング回路が不必要となる。これは、ハイブリッドとデュプレクサからなる回路それ自体が、電源電圧変調の要件を満たすインピーダンスマッチングの効果をもたらすからである。換言すれば、ハイブリッド/90°ハイブリッドおよびデュプレクサからなる回路を有する、上述の増幅器モジュールの1つを設けることで、増幅器の終端抵抗は全く変化せず、これにより増幅器の負荷が最適にされ、アンテナでの反射によるTX信号の改変が生じなくなる。この際、たとえば抵抗のようなインピーダンス素子を介して、ハイブリッドの接地された端子により、反射された信号を回避することができる。」

(5)「【0071】
図3は本発明による増幅器モジュールの第1の実施形態例を示す。
増幅器モジュールは、送信ポートTX,アンテナポートANT,および受信ポートRXを備える。このような回路装置はたとえばモバイル通信に使用することができる。ここで、送信ポートおよび受信ポートTX,RXは、同じアンテナポートANTに異なる信号路を介して接続されている。このような回路の最も重要なパラメータは、選択と絶縁である。絶縁は、送信ポートTXからの送信信号のどれ位の部分が受信ポートRXに到達するかの評価基準である。このような信号は通常は好ましくないものである。受信ポートで受信された信号は、モバイル通信においては非常に小さな信号強度を有するにすぎない。このため、これらの信号が送信ポートからの寄生信号によってさらに妨害されないようにすることが極めて重要である。
【0072】
選択は、通過帯域での放射電力と通過帯域外での減衰との比である。モバイル通信における非常に小さな受信電力のために、受信信号および送信信号の高い選択が重要である。
【0073】
もう1つの重要な要素は、アンテナインピーダンスのミスマッチの影響である。ユーザの相互作用によって、アンテナのインピーダンスが変化される。増幅器モジュールは、アンテナインピーダンスの変動にできる限り依存しないように構成されなければならない。
【0074】
本発明による増幅器モジュールは、さらに2つのデュプレクサDPX1,DPX2および3つの90°ハイブリッドHYB1,HYB2,HYB3を備える。送信ポートTXは、1つの90°ハイブリッドの1つの端子4に接続されている。この端子4に印加される入力信号は、90°ハイブリッドから端子5および6に出力される。この際、出力されるこれらの信号は互いに90°位相シフトされており、入力信号に対しておよそ約3dB小さな信号強度を有する。
【0075】
端子5は、90°ハイブリッドの入力信号に対しΦ2だけ位相シフトされた信号を出力する。端子6に出力される信号は、入力信号に対し角度Φ1だけ位相シフトされている。さらに、90°ハイブリッドの第4の端子7には、負荷インピーダンスが配設されており、たとえば50Ωの負荷抵抗である。この負荷インピーダンスは、R,LおよびCのグループから選択された他の素子を備えてもよい。この負荷インピーダンスは、インピーダンスマッチングを行うものである。90°ハイブリッドHYB1の端子5および6は、それぞれ1つの増幅器PA1,PA2と接続されている。増幅器PA1,PA2の出力は、またそれぞれ両デュプレクサDPX1,DPX2と接続されている。
【0076】
受信ポートRXも同様に、1つの90°ハイブリッドHYB2と接続されており、ただしこの90°ハイブリッドHYB2の端子8と接続されている。この90°ハイブリッドの端子9,10は、同様にそれぞれ両デュプレクサDPX1,DPX2の1つと接続されている。90°ハイブリッドHYB2の第4の端子11は、負荷インピーダンスを介して接地されている。
アンテナポートANTは、1つの90°ハイブリッドHYB3と接続されており、ただしこの90°ハイブリッドの端子12と接続されている。この90°ハイブリッドHYB3の他の2つの端子13,14は、それぞれ1つのデュプレクサと接続されている。90°ハイブリッドHYB3の第4の端子15は、負荷インピーダンスを介して接地されている。」

(6)図3


(7)引用発明
前記(1)?(6)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「LTE周波数帯域XIおよびVIIに用いられ、モバイル通信に使用することができる増幅器モジュールであって(【0001】、【0043】、【0071】)、
送信ポートTX、アンテナポートANT、および受信ポートRXを備え(【0071】)、
さらに2つのデュプレクサDPX1、DPX2および3つの90°ハイブリッドHYB1、HYB2、HYB3を備え(【0074】)、
送信ポートTXは、1つの90°ハイブリッドHYB1の1つの端子4に接続され(【0074】、図3)、
90°ハイブリッドHYB1の第4の端子7には、負荷インピーダンスが配設されており、この負荷インピーダンスは、インピーダンスマッチングを行うものであり(【0075】、図3)、
90°ハイブリッドHYB1の端子5および6は、それぞれ1つの増幅器PA1、PA2と接続され、増幅器PA1、PA2の出力は、またそれぞれ両デュプレクサDPX1、DPX2と接続され(【0075】)、
受信ポートRXは、1つの90°ハイブリッドHYB2の端子8と接続されており、この90°ハイブリッドHYB2の端子9、10は、それぞれ両デュプレクサDPX1、DPX2の1つと接続され、90°ハイブリッドHYB2の第4の端子11は、負荷インピーダンスを介して接地され(【0076】)、
アンテナポートANTは、1つの90°ハイブリッドHYB3の端子12と接続されており、この90°ハイブリッドHYB3の他の2つの端子13、14は、それぞれデュプレクサDPX1、DPX2と接続され、90°ハイブリッドHYB3の第4の端子15は、負荷インピーダンスを介して接地されている(【0076】、図3)、
増幅器モジュール。」

2 引用文献2の記載事項
当審拒絶理由通知書で引用された特開2014-72874号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

「【背景技術】
【0002】
高速データ通信規格であるLTE(3.9G)では、MIMO(Multipleinput multiple output:複数アンテナ送受信)技術が採用されている。このMIMOは、複数のアンテナでゲータの送受信を行って高速化を図る無線LAN(Local Area Network)技術である。このMIMOを用いたLTEでは、下り通信時、メインアンテナおよびサブアンテナ2つのアンテナが用いられる。」

3 引用文献3の記載事項
当審拒絶理由通知書で引用された特開2013-110638号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)「【0003】
マルチポート電力増幅器は、小型化や低消費電力化を図る目的で、複数の信号を共通増幅する増幅器として用いられている。
例えば、マルチポート電力増幅器は、環境が厳しい衛星通信等で使用され、限られた電力を有効利用している方式であって、空間分割多重方式により複数のアンテナを用いて通信容量を増加させている方式であるMIMO方式などに適用されることがある。
以下の特許文献1には、上記のフィードフォワード技術とマルチポート技術を用いているマルチポートフィードフォワード増幅器が開示されている。」

(2)「【0005】
ここで、理想的なマルチポート増幅器の動作を説明する。
図10(a)は2つの理想増幅器(1),(2)の両端に、理想90度ハイブリッド回路(1),(2)が接続されているマルチポート増幅器である。
Port1から入力された周波数f1の信号は、理想90度ハイブリッド回路(1)を通過して、理想増幅器(1),(2)で増幅された後、理想90度ハイブリッド回路(2)で合波されて、Port4に出力される。
一方、Port2から入力された周波数f2の信号は、理想90度ハイブリッド回路(1)を通過して、理想増幅器(1),(2)で増幅された後、理想90度ハイブリッド回路(2)で合波されて、Port3に出力される。」

(3)図10


第4 本願発明1と引用発明との対比
1 引用発明の「送信ポートTX」、「アンテナポートANT」及び「受信ポートRX」は、それぞれ本願発明1の「主TXポート(TX-MA)」、「主アンテナポート」及び「主RXポート(RX-MA)」に相当する。

2 引用発明の「90°ハイブリッドHYB1」、「90°ハイブリッドHYB2」、「90°ハイブリッドHYB3」、「デュプレクサDPX1」及び「デュプレクサDPX2」は、それぞれ本願発明1の「送信(TX)側のハイブリッド(TX-H)」、「受信(RX)側のハイブリッド(RX-H)」、「アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)」、「第1のデュプレクサ(DPX1)」及び「第2のデュプレクサ(DPX2)」に相当する。

3 引用発明において、90°ハイブリッドHYB1の端子5は、増幅器PA1と接続され、増幅器PA1の出力は、デュプレクサDPX1と接続されており、さらに、90°ハイブリッドHYB3の端子13は、デュプレクサDPX1と接続されているから、引用発明の「デュプレクサDPX1」は、「90°ハイブリッドHYB1」を「90°ハイブリッドHYB3」に接続しているといえる。
よって、本願発明1の「第1のデュプレクサ(DPX1)」と引用発明の「デュプレクサDPX1」とは、「前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し」ている点で一致する。

4 引用発明において、90°ハイブリッドHYB2の端子9は、デュプレクサDPX1と接続されており、さらに、90°ハイブリッドHYB3の端子13は、デュプレクサDPX1と接続されているから、引用発明の「デュプレクサDPX1」は、「90°ハイブリッドHYB2」を「90°ハイブリッドHYB3」に接続しているといえる。
よって、本願発明1の「第1のデュプレクサ(DPX1)」と引用発明の「デュプレクサDPX1」とは、「前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続して」いる点で一致する。

5 引用発明において、90°ハイブリッドHYB1の端子6は、増幅器PA2と接続され、増幅器PA2の出力は、デュプレクサDPX2と接続されており、さらに、90°ハイブリッドHYB3の端子14は、デュプレクサDPX2と接続されているから、引用発明の「デュプレクサDPX2」は、「90°ハイブリッドHYB1」を「90°ハイブリッドHYB3」に接続しているといえる。
よって、本願発明1の「第2のデュプレクサ(DPX2)」と引用発明の「デュプレクサDPX2」とは、「前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し」ている点で一致する。

6 引用発明において、90°ハイブリッドHYB2の端子10は、デュプレクサDPX2と接続されており、さらに、90°ハイブリッドHYB3の端子14は、デュプレクサDPX2と接続されているから、引用発明の「デュプレクサDPX2」は、「90°ハイブリッドHYB2」を「90°ハイブリッドHYB3」に接続しているといえる。
よって、本願発明1の「第2のデュプレクサ(DPX2)」と引用発明の「デュプレクサDPX2」とは、「前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続して」いる点で一致する。

7 引用発明において、送信ポートTXに入力された信号は、90°ハイブリッドHYB1の端子5及び6に分配され、それぞれの端子からの出力がそれぞれデュプレクサDPX1及びデュプレクサDPX2を介して90°ハイブリッドHYB3の端子13及び14にそれぞれ入力され、90°ハイブリッドHYB3の端子12に合成されてアンテナポートANTに出力されるから、引用発明の送信ポートTXからアンテナポートANTに至る前記経路は、本願発明1の「主信号経路」に相当し、本願発明1と引用発明とは「主信号経路における信号の送信をサポートしている」点で一致する。

8 引用発明において、アンテナポートANTに入力された信号は、90°ハイブリッドHYB3の端子13及び14に分配され、それぞれの端子からの出力がそれぞれデュプレクサDPX1及びデュプレクサDPX2を介して90°ハイブリッドHYB2の端子9及び10にそれぞれ入力され、90°ハイブリッドHYB2の端子8に合成されて受信ポートRXに出力されるから、引用発明のアンテナポートANTから受信ポートRXに至る前記経路は本願発明1の「主信号経路」に相当し、本願発明1と引用発明とは「主信号経路における信号の受信をサポートしている」点で一致する。

9 前記7によれば、本願発明1と引用発明とは「前記主TXポート(TX-MA)は、前記主信号経路のTX信号用に設けられ」ている点で一致し、前記8によれば、本願発明1と引用発明とは「前記主RXポート(RX-MA)は、前記主信号経路のRX信号用に設けられ」ている点で一致する。

10 引用発明の各ハイブリッドの残りのポートである「端子7」、「端子11」及び「端子15」は、いずれも負荷インピーダンスを介して接地されるものである点で、本願発明1の「第2のTXポート(TX-2)」、「第2のRXポート(RX-2)」及び「第2のアンテナポート」とは異なるものである。

11 引用発明の「増幅器モジュール」と本願発明1の「マルチプレクサ」とは、「電子回路」である点で共通するが、本願発明1の「マルチプレクサ」は、送信信号と受信信号を二重化した上で、2系統(主信号経路及び第2の信号経路)の信号を多重化しているのに対し、引用発明の「増幅器モジュール」にはそのような多重化の機能はなく、送信信号と受信信号を二重化しているに過ぎない。

12 前記1?11によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「 主信号経路における信号の送信又は受信をサポートしている電子回路であって、
主TXポート(TX-MA)を有する1つの送信(TX)側のハイブリッド(TX-H)と、
主RXポート(RX-MA)を有する1つの受信(RX)側のハイブリッド(RX-H)と、
主アンテナポートを有する1つのアンテナ側のハイブリッド(ANT-H)と、
1つの第1のデュプレクサ(DPX1)と、
1つの第2のデュプレクサ(DPX2)と、を備え、
前記第1のデュプレクサ(DPX1)は、前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し、前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続しており、
前記第2のデュプレクサ(DPX2)は、前記TX側のハイブリッド(TX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続し、前記RX側のハイブリッド(RX-H)を前記アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)に接続しており、
前記主TXポート(TX-MA)は、前記主信号経路のTX信号用に設けられ、前記主RXポート(RX-MA)は、前記主信号経路のRX信号用に設けられる
ことを特徴とする電子回路。」である点。

〈相違点〉
本願発明1は、「送信(TX)側のハイブリッド(TX-H)」が「第2のTXポート(TX-2)」を有し、「受信(RX)側のハイブリッド(RX-H)」が「第2のRXポート(RX-2)」を有し、「アンテナ側のハイブリッド(ANT-H)」が「第2のアンテナポート」を有し、「前記主TXポート(TX-MA)、前記第2のTXポート(TX-2)、前記主RXポート(RX-MA)、前記第2のRXポート(RX-2)、前記主アンテナポート、および前記第2のアンテナポートのうちのいずれか1つ以下がグラウンドに終端し」ており、「前記第2のTXポート(TX-2)は、前記第2の信号経路のTX信号用に設けられ」、「前記第2のRXポート(RX-2)は、前記第2の信号経路のRX信号用に設けられる」ことで、第2の信号経路が形成され、「第2の信号経路における信号の送信又は受信」をサポートする「マルチプレクサ(MUL)」として機能するのに対し、
引用発明は、「90°ハイブリッドHYB1」が「端子7」を有し、「90°ハイブリッドHYB2」が「端子11」を有し、「90°ハイブリッドHYB3」が「端子15」を有するものの、これらの端子はTXポート、RXポート及びアンテナポートのいずれでもなく、前記各端子のいずれもが負荷インピーダンスを介して接地されているため、本願発明1の「第2の信号経路」に相当する経路は存在せず、したがって、引用発明の「増幅器モジュール」はマルチプレクサとしては機能しない点。

第5 相違点についての判断
1 引用発明は「LTE周波数帯域XIおよびVIIに用いられ、モバイル通信に使用することができる増幅器モジュール」であるところ、LTE規格においてMIMO技術が採用され、メインアンテナ及びサブアンテナの2つのアンテナが用いられることは周知であり(例えば、前記第3、2を参照。)、加えて、MIMO方式に適用される2系統の信号を増幅するマルチポート増幅器として、2つの増幅器の両端に90度ハイブリッド回路が接続されたものが周知であり(例えば、第3、3を参照。)、さらに、前記周知のマルチポート増幅器の回路が、引用発明の90°ハイブリッドHYB1、増幅器PA1及びPA2並びに90°ハイブリッドHYB3からなる回路と等価であることに鑑みれば、引用発明の「端子7」、「端子11」及び「端子15」から負荷インピーダンスを取り除いて接地しないようにし、それぞれの端子を送信ポート、受信ポート及びアンテナポートとして機能させることで、増幅器モジュール全体をマルチプレクサとして2つの信号経路における信号の送信又は受信をサポートするよう機能させることへの動機付けは、皆無であるとはいえない。

2 しかしながら、引用発明が解決しようとする課題は「アンテナインピーダンスのミスマッチによる影響を大きく受けない増幅器モジュールを提供すること」(【0009】)であり、該ミスマッチは「ユーザの相互作用によって、アンテナのインピーダンスが変化」(【0073】)することに起因すると理解されるところ、引用発明の各端子を「負荷インピーダンス」を介して接地することは、前記ミスマッチの影響を軽減するための一手段であると認められる(【0060】、【0075】)。
そうすると、引用発明において「端子7」、「端子11」及び「端子15」から負荷インピーダンスを取り除いて接地しないようにすることは、引用発明が解決しようとする課題に反する。

3 前記1及び2に鑑みて総合的に判断すると、引用発明において「端子7」、「端子11」及び「端子15」から負荷インピーダンスを取り除いて接地しないように改変することにはある程度の動機付けが存在する(前記1)ものの、そのような改変は引用発明の所期の課題を解決することに反するものであり(前記2)、引用発明の所期の課題を無視すべき特段の事情が見当たらない以上、該課題の解決を放棄してまで該改変を採用するほどの動機付けは存在しないといえる。
以上によれば、本願発明1は、引用発明及び周知技術から容易になし得るものではない。

第6 本願発明2?10についての判断
本願発明2?10は、いずれも本願発明1の従属発明であり、本願発明1の発明特定事項を全て含む。そうすると、本願発明2?10と引用発明との相違点には、前記第4、12に示した相違点が含まれる。
前記相違点についての判断は前記第5のとおりであるから、本願発明2?10は、本願発明1と同様に、引用発明及び周知技術から容易になし得るものではない。

第7 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定には、「●理由2(特許法第29条第1項第3号)について」との記載があるが、備考欄の結論部分に「したがって、先の拒絶理由に示した引用文献1に基づいて、補正後の請求項1-14に係る発明とすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。」と記載されていること、及び、平成30年2月22日付け拒絶理由通知書に記載された理由2が進歩性欠如の拒絶理由であることから、原査定の理由は、請求項1?14に係る発明は、前記引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであると認められる。
しかしながら、前記第5のとおりであるから、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
1 特許法36条6項1号について
当審では、当審拒絶理由通知書で、本願発明が解決しようとする課題を「RXダイバーシティ又はRX MIMO機能を組み込み、かつ、少数の電子部品で構成され、小さなサイズを達成し、良好な電気特性を持ったモバイル通信機器に使用できるデュプレクサ回路ないしマルチプレクサ回路を提供し、この回路によりモバイル通信用機器を改善すること」であると認定した上で、本願発明は主アンテナポート又は第2のアンテナポートのいずれかをグラウンドに終端した場合に、RXダイバーシティ又はRX MIMO機能を組み込むことができなくなるから、本願発明は前記課題を解決することができると認識できないとの拒絶の理由を通知した。
これに対し、審判請求人は、令和2年4月3日付け意見書にて、「本願請求項に係る発明の目的は、RXダイバーシティ機能と、RX MIMO機能と、更なる別の通信規格と、のいずれにも適合できるモバイル通信機器用の回路を、すでに達成されている幾何形状的なコンパクトさと、良好な電気的特性とを損なうことなく、実現するところにあります。/このように、本願請求項に係る発明は、RX MIMO機能に適合するだけではなく、他の通信規格にも適合するものであるから、RX MIMO機能を組み込まない構成を含むことは当然のことであります。」(2頁、「/」は改行を表す。)と主張した。
以上の経緯に鑑みると、本願明細書の「必要とされているものはモバイル通信機器に使用することができる回路であり、この回路は上記の規格に適合し、」(【0007】)との記載における「上記の規格に適合」とは、WCDMAがサポートするRXダイバーシティ機能やLTE規格により必須となるRX MIMO機能(【0005】)を本願発明が同時に実現することを要求するものではなく、本願発明が前記機能を選択的に実現可能であることを要求するに過ぎない、と理解できる。
前記理解によれば、本願発明が課題を解決できることは明らかであるから、前記拒絶の理由はない。

2 特許法36条6項2号について
(1)当審拒絶理由通知書で、請求項1及び3?11の「主信号経路」及び「第2の信号経路」がどの部分に該当するのかが明らかでないとの拒絶の理由を通知したが、令和2年7月2日付けの補正(以下、「本件補正」という。)の結果、前記拒絶の理由はない。

(2)当審拒絶理由通知書で、請求項8?11の「前記主伝送系」及び「前記第2の伝送系」は前記されていないため、これらが何を指しているのかが不明であるとの拒絶の理由を通知したが、本件補正の結果、前記拒絶の理由はない。

(3)当審は、令和2年6月23日付け拒絶理由通知書で、請求項1?10の「前記第2のTXポート(TX-MA)」及び「前記第2のRXポート(RX-MA)」が何を指しているのか不明であり、「・・・に設けられ、/ ことを特徴とするマルチプレクサ。」(「/」は改行を表す。)との記載が日本語として不自然であるとの拒絶の理由を通知したが、本件補正の結果、前記拒絶の理由はない。

3 特許法29条2項について
当審拒絶理由通知書にて、請求項1?11に係る発明は、前記引用文献1に記載された発明及び周知技術(前記引用文献2及び3)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの拒絶の理由を通知したが、これについては、前記第5及び第6のとおり、理由がない。

第9 むすび
前記第5及び第6のとおり、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
前記第7のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
前記第8のとおり、本願発明には、当審が通知した拒絶の理由がない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-08-25 
出願番号 特願2016-568676(P2016-568676)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H04B)
P 1 8・ 121- WY (H04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大野 友輝  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 丸山 高政
衣鳩 文彦
発明の名称 マルチプレクサ、およびマルチプレクサを備えるモバイル用通信機器  
代理人 長門 侃二  

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