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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1365518
審判番号 不服2019-10107  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-08-01 
確定日 2020-08-20 
事件の表示 特願2015-126560「異形管」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月12日出願公開、特開2017- 9066〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月24日を出願日とする出願であって、平成30年11月8日付けで拒絶の理由が通知され、平成31年1月21日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、平成31年4月25日付け(発送日:令和1年5月14日)で拒絶査定がされ、それに対して、令和1年8月1日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和1年8月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和1年8月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。
「【請求項1】
主管と、枝管が、主管の壁面に設けられた連通用孔と、枝管とが連通するように位置決めされるとともに、少なくとも前記主管と枝管の突き合わせ部およびその近傍において、枝管および主管の内周面側と、枝管および主管の外周面側の少なくともいずれかの面に沿って繊維強化樹脂が積層されて、前記主管と枝管が水密に接合されている異形管であって、
前記枝管が、前記主管より小径であるとともに、前記主管側端部に、切欠部と、非切欠部を有し、
前記切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の管頂部および管底部となる位置に設けられ、
前記非切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の両管側部になる位置に設けられるとともに、
前記非切欠部の前記主管側の端面が前記主管の前記連通用孔の周辺部で主管外壁面に密着する曲面形状となっていることを特徴とする異形管。」
(下線部は、補正箇所である。)

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成31年1月21日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
壁面に連通用孔を備える主管と、前記連通用孔に連通する枝管とを備え、少なくとも前記主管と枝管の突き合わせ部およびその近傍において、枝管および主管の内周面側と、枝管および主管の外周面側の少なくともいずれかの面に沿って繊維強化樹脂が積層されて、前記主管と枝管が水密に接合されている異形管であって、
前記枝管が、前記主管側端部に、切欠部と、非切欠部を有し、
前記切欠部が、前記主管の管軸と直交する方向に切欠形成されていて、
前記非切欠部の前記主管側の端面が前記主管の前記連通用孔の周辺部で主管外壁面に沿う曲面形状となっていることを特徴とする異形管。」

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「枝管」に関して、「前記主管より小径であるとともに、」の限定を付加するものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する(「・・・」は記載の省略を意味し、下線は当審にて付した。以下同様。)。

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2005-90673号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1-a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
主管側面に枝管が連通するように水密に取付けられた異形管において、少なくとも前記枝管外面から前記主管外面へかけて、短冊状補強シートが、前記枝管側では、該枝管の軸方向に沿って、周方向に平行に配列して貼着され、前記主管外面では前記主管と前記枝管の接続部を折れ線として前記主管外面に前記枝管を中心とした放射状に貼着され、さらに、前記枝管外面に延在する短冊状補強シート上と、前記主管外面に延在する短冊状補強シート上とには、それぞれ帯状テープ部材が周方向に巻回されてなる異形管の構造。

【請求項2】
請求項1の異形管の構造において、主管と枝管との接合端面間に弾性材層が介在され、該弾性層は前記主管と前記枝管とに一体的に接着されてなる異形管の構造。」

(1-b)「【技術分野】
【0001】
この発明は、異形管の構造に関し、詳しくはFRP管、又はFRPM管などの改良された異形管の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP管、又はFRPM管などの異形管1として、図9に示すように主管1aの外側面に枝管1bを連通接続したものが知られている(特許文献1)。
ところで、これら異形管1は通常地中に埋設されて配管されるので、埋戻土の土圧が加わり、また、道路下の埋設管の場合は、土圧に加え通行車両の重量が加わる。このため、これら異形管1は変形しやすく、このような荷重に対向させるため、防護コンクリート2を打設し、管路を保護することが行われる。
【0003】
しかし、管路においてこのような異形管1毎に防護コンクリート2を打設するのは手間がかかり、また施工時間もかかるので、上記のような外力が作用しても変形に対する追従性を良くし管路の損傷をなくすため、図10に示すように接続部分に弾性体3を介在させて主管1aの側面に枝管1bを接着し、その周囲をガラス繊維及び樹脂よりなる接着層4を積層して一体化することなどが提案されている(特許文献1)。」

(1-c)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようにして成形した異形管は、弾性体3や接着層4を構成する樹脂の弾性にもかかわらず、異形管が数%の変形を起こすと、接着層4の浮き変形や剥離が生じるなどの問題があった。
【0005】
このため、安全策として異形管外周を防護コンクリートで防護するといった施工が結局必要となる場合が多いという問題があった。
この発明は、上記問題を解消し、土圧や通行車両の重量を受ける異形管であっても、変形等による破損を少なくし、かつ容易に接続していくことを可能にすることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を達成するため本発明は、主管側面に枝管が連通するように水密に取付けられた異形管において、少なくとも前記枝管外面から前記主管外面へかけて、短冊状補強シートが、前記枝管側では、該枝管の軸方向に沿って、周方向に適宜間隔毎に貼着され、前記主管外面では前記主管と前記枝管の接続部を折れ線として前記主管外面に前記枝管を中心とした放射状に貼着され、さらに、前記枝管外面に延在する短冊状補強シート上と、前記主管外面に延在する短冊状補強シート上とには、それぞれ帯状テープ部材が周方向に巻回されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
したがって、この発明によれば、土圧や車両荷重が作用する主管の枝管取付け部分が帯状テープ部材で保護されるので、積層部分の剥離などは生じることがなくそれだけ安全度が増し、防護コンクリートの施工も省略可能となるのである。」

(1-d)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次にこの発明の実施の形態である異形管の構造を説明する。
実施の形態1
図1は、この発明の実施の形態1である異形管の構造の要部破断側面図、図2は同じく平面図である。
【0009】
図1において、異形管1は、主管1aの側面に枝管1bが軸線を直交して連通して取り付けられている。そして、枝管1b周囲と主管1外面には、樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4が積層され、接続部分からの水漏れが無いように接着されている。
【0010】
そして、この接着層4上には短冊状補強シート5…が、枝管1b側では枝管1bの軸方向に沿って周方向に平行に配列して貼着され、主管1a側では、主管1aに対する枝管1bの接続立ち上がり部分1cを折線6として主管1a外面に、枝管1bを中心として図2に明示されているように放射状に貼着されている。上記において、短冊状補強シート5…は、ガラス繊維マットあるいはガラスロービングクロスなどに樹脂を含浸させたものが使用され、主管1aの径にもよるが厚さは最小で5mm、最大20mm程度とされる。そして、枝管1b外周に配列する場合、周方向につき合わせるように配列しても良いが1cm以上オーバーラップさせて配列することが望ましい。それだけ短冊状補強シート5…による補強効果が得られるからである。
【0011】
そして、この短冊状補強シート5…の枝管1bの外周部分には、ガラス繊維で織製された帯状テープ7が枝管1bの周方向へ巻回貼着され、また、主管1aの外周部分には放射状に拡がる短冊状補強シート5…上にかかるようにガラス繊維で織製された帯状テープ8が巻回されている。
【0012】
この帯状テープ7,8の幅も主管1a、枝管1bの径によって変化するが、共に小径管で幅100mm、大径管で160mm程度とされる。
この帯状テープ8の巻回方向は、枝管1bを中心として主管1aの外面にできるだけ均一に分布するように斜め方向にも巻回される。但し、このとき、ガラス繊維製の帯状テープ8は伸縮弾性がなく、巻回方向を大きく斜め方向へ変化させると皺が出来るため、この皺を発生させないように出来るだけ小さい角度で徐々に屈曲させるようにして巻回して行く。図示例は、説明のため模式的に大きな角度で巻回した状態を示しているが、実際はもっと僅かな角度変化量とされる。
【0013】
以上のように、この実施の形態1の異形管の構造は、主管1aと枝管1bとにかけて貼着される樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4外周に、短冊状補強シート5…を貼着し、さらにその上から抗張力に極めて優れるガラス繊維製の帯状テープ7を巻回すると共に主管1a外周にも帯状テープ8を満遍なく巻回して固定してしまうので、異形管が外力により少々変形しても、ガラス繊維製の帯状テープ6によって樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4が押さえられて剥離するような事故は防止される。
実施の形態2
図3は、この発明の実施の形態2である異形管の構造の要部破断側面図である。
【0014】
図3において、異形管1は、主管1aと枝管1bとの接合端面に、弾性層9が介挿され、この弾性層9は主管1a、枝管1bとに一体的に接着されている。
この弾性層9は、弾性を有する接着剤を層状に厚く塗布し硬化させることによって形成する他、弾性層9となるリング体を弾性を有するプラスチックなどで形成し、両者に貼着することによって介挿させても良い。
【0015】
なお、図4に示すように管内面にも同様に短冊状補強シート5…を張り付け、帯状テープ8を内面に張り付けるようにしても良い。
上記で説明した事項以外の、樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4、短冊状補強シート5…、ガラス繊維製の帯状テープ7、8を積層接着していく構成は実施の形態1と同じであるので、図中の同一部材に同じ符号を付すことで、詳細な説明は省略する。
【0016】
この実施の形態2の異形管の構造は、主管1aと枝管1bとの接着界面に弾性層9が介挿されているので、外力による弾性変形性が良くなる。実施例呼び径600mmのFRPM製の主管1aに、呼び径100mmのFRPM製の枝管1bを取り付けた異形管1であって、実施の形態2と同様な構造の異形管1と、比較例として図9に示したように接着層4のみで補強した異形管1を用意し、図5に示すように枝管1bが水平方向となるように配置し、矢印Aで示すように上方から荷重を加え、点線で示すに変形させることで、たわみ率(%)を測定した。」

(1-e)「【図1】

【図4】



図1及び図4から、枝管1bが主管1aより小径であることが見て取れる。
図1及び図4から、主管1aの壁面に連通用孔が設けられていることが見て取れる。
図4から、枝管1bの主管1a側の端面が、主管1aの連通用孔の周辺部で主管1aの外壁面に対向することが見て取れる。

上記(1-a)?(1-e)の事項を総合すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「主管1aの側面に枝管1bが軸線と直交して前記主管1aの壁面に設けられた連通用孔と連通して取り付けられている異形管1であって、
前記枝管1b周囲と前記主管1a外面には、樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4が積層され、接続部分からの水漏れが無いように接着され、
前記接着層4上には、短冊状補強シート5が、前記枝管1b側では前記枝管1bの軸方向に沿って周方向に平行に配列して貼着され、前記主管1aに対する前記枝管1bの接続立ち上がり部分を折線として前記主管1a外面に、前記枝管1bを中心として放射状に貼着され、
前記短冊状補強シート5は、ガラス繊維マットあるいはガラスロービングクロスなどに樹脂を含浸させたものが使用され、
前記短冊状補強シート5の枝管1bの外周部分には、ガラス繊維で織製された帯状テープ7が枝管1bの周方向へ巻回貼着され、
前記主管1aの外周部分には放射状に広がる短冊状補強シート5上にかかるようにガラス繊維で織製された帯状テープ8が巻回され、
管内面にも同様に短冊状補強シート5を貼り付け、帯状テープ8を内面に貼り付け、
前記枝管1bが、前記主管1aより小径であり、
前記枝管1bの前記主管1a側の端面が、前記主管1aの連通用孔の周辺部で前記主管1a外壁面に対向し、前記主管1aと前記枝管1bとの接合端面に弾性層9が介挿され、この弾性層9は前記主管1aと前記枝管1bと一体的に接着され、
前記枝管1bが水平方向となるように配置された異形管1。」

(2)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2010-196816号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2-a)「【技術分野】
【0001】
この発明は、曲管の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維強化プラスチックによって形成されたFRP管や、樹脂モルタル層の内周面および外周面にFRP内層およびFRP外層をそれぞれ一体に積層して形成されたFRPM管の曲管100は、図6および図7に示すように、原管101を管軸に対して斜めに切断して二つの直管状の管部材102,103を形成し、管部材102,103を相対的に軸心回りに180度切断線104に沿って回転させて突き合わせ、突き合わせ部105の内外周面に樹脂を含浸した積層材106、例えば、ガラス繊維からなるチョップドストランドマットやロービングクロスなどを積層して接着し、接続することにより製造されている。
【0003】
このようにして製造された曲管100が管軸方向をほぼ水平面上に位置するように地中に埋設された場合、埋戻土の土圧が作用するとともに、走行車輌の荷重が負荷されることにより、曲管100が鉛直方向に撓み、水平方向に膨らんで変形する(図8参照)。このとき、曲管100を上方より見て、管部材102,103の突き合わせ部105の外周側となる背側では管部材102,103の端面が互いに離れていくことにより大きな引張応力が発生し、内周側となる腹側では管部材102,103の端面が互いに接近していくことにより局部的な圧縮応力が発生する(図9参照)。このため、比較的小さな変形で曲管100が突き合わせ部105において互いに干渉して破壊したり、積層材106が破断するおそれがある。
【0004】
このような曲管の変形を防止するため、曲管の周囲に防護コンクリートを打設し、曲管を保護するようにしているが、曲管毎に防護コンクリートを打設する手間が必要になるとともに、施工に時間を要するという問題がある。
【0005】
そこで、図10に示すように、一方の管部材102の端面と他方の管部材103の端面との間に弾性体107を配設して突き合わせ、これらの突き合わせ部の内外周面に積層材106を積層して接続し、曲管110を製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。」

(2-b)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の発明においては、曲管の変形に対する弾性体の追従性に限界があり、弾性体の限界以上の変形量が発生した場合には、腹側の端面同士が接近しすぎて破損するおそれがある。特に、大口径管となるほど変形量も大きくなるので端面同士の干渉を起こし易い。このため、安全策として曲管の周囲を防護コンクリートによって防護せざるを得ない場合が多いものとなっていた。また、二つの管部材の端面間に一定の隙間を確保して配置するとともに、隙間に弾性体を介在させて積層材を積層することから、二つの管部材の管軸方向の位置決めが困難である。
・・・
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、曲管の破壊や積層材の破断などを防止することでコンクリート防護工の施工を必要とすることがなく、二つの管部材を確実に位置決めして有効長や曲げ角度の品質を確保して接続することのできる曲管の接合構造を提供するものである。」

(2-c)「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、二つの管部材が管軸を曲折させて接続された曲管であって、二つの管部材のうちの少なくとも一方の管部材の背側の端面および腹側の端面にそれぞれ設定された角度範囲にわたって切欠部が形成されるとともに、二つの管部材の管頂側の端面および管底側の端面が互いに突き合わされ、さらに、二つの管部材の突き合わせ部の内周面および外周面の少なくとも一方に積層材が積層されることを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、二つの管部材の管頂側の端面および管底側の端面を互いに面接触して突き合わせることにより、二つの管部材は、軸線方向に位置決めされる。したがって、二つの管部材の突き合わせ部に積層材を積層する際、二つの管部材の端面位置や曲げ角度が変化することはなく、有効長や曲げ角度のばらつきを抑えて設定された品質の曲管を製造することができる。また、曲管が地中に埋設された際、土圧などが作用して曲管が鉛直方向に撓み、水平方向に膨らんで変形するとき、変形量が最大となる腹側の端面間および背側の端面間に設定された角度範囲にわたって切欠部が形成されていることにより、腹側においては端面同士の接近する方向の許容される変形量を大きくして変形追従性を向上させることができ、また、背側においては積層材に作用する歪みを緩和することができる。これにより、曲管の破壊や積層材の破断などを防止することができ、曲管を防護するコンクリート防護工の施工が不要となり、コストを削減することができるとともに、工期を短縮することができる。」

(2-d)「【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1には、本発明の曲管の接合構造の一実施形態が示されている。
【0026】
この曲管1は、前述したように、FRPM管製あるいはFRP製の原管を斜めに切断し、切断して得られた直管状の二つの管部材2,3の切断端面同士を切断端面に沿って互いに軸心回りに180度回転させて突き合わせ、接続する。
【0027】
そして、一方の管部材2の腹側の端面および背側の端面には、それぞれ軸線を通る水平面から上方および下方にそれぞれ角度θの範囲にわたって段差状の切欠部4を形成するとともに、これらの切欠部4には弾性体5を充填し、さらに、二つの管部材2,3の突き合わせ部の内周面および外周面にそれぞれ樹脂を含浸したガラス繊維などの積層材6を積層して接着し、接続するものである。
【0028】
ここで、切欠部4の周方向の長さ(中心角2θ)は、曲管1の径、すなわち、設定される撓み量によっても異なるが、中心角2θ=60?160°程度である。
【0029】
切欠部4の形状としては、段差状以外に、管軸方向に向かって背側および腹側で最大となり、管頂側および管底側に向かって漸減する三角形状や略楕円状に湾曲した形状であっても構わない。
【0030】
また、一方の管部材2の腹側の端面および背側の端面に切欠部4を形成した場合を説明したが、他方の管部材3の腹側の端面および背側の端面にも切欠部4を形成してもよく、さらには、二つの管部材2,3のうちの一方の管部材2,3の腹側の端面および他方の管部材2,3の背側の端面にそれぞれ切欠部4を形成してもよい(図5参照)。
【0031】
また、弾性体5は、積層材6を積層して接着する際に、積層材6が切欠部4に落ち込むことを防止して容易に積層するために充填され、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、スチレン・ブタジエンゴムやクロロプレンゴムやエチレン・プロピレンゴムなどの各種ゴム、発泡ゴムなどを採用することができる。
【0032】
なお、弾性体5の表面は積層材6との界面強度を確保するため、プライマー塗布などの表面処理を施すことが望ましい。
【0033】
積層材6としては、繊維状強化材料として使用されているものならば限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などを挙げることができ、FRP内外層やFRPの樹脂に対応した樹脂を含浸させて使用される。
・・・
【0039】
この結果、このような曲管1においては、二つの管部材2,3を突き合わせた場合、切欠部4を除く管頂側および管底側において端面同士が面接触し、軸線方向に位置決めされるものとなる。したがって、例えば、二つの管部材2,3を回転させながら積層材6を積層して接着する際、常に突き合わせ面は一定の位置にあることから、二つの管部材2,3の端面位置や曲げ角度が変化することはなく、有効長や曲げ角度にばらつきを発生させることなく、すなわち、品質を確保して曲管1を製造することができる。
【0040】
また、曲管1が地中に埋設された際に、土圧などが作用して曲管1が鉛直方向に撓み、水平方向に膨らんで変形するとき、変形量が最大ととなる腹側の端面および背側の端面に切欠部4が形成されていることにより、腹側においては、端面同士の接近する方向の許容される変形量を大きくして変形追従性を向上させることができ、また、背側においては、積層材6が管軸方向の切欠部4の深さに相当する長さを予め有することにより、積層材6に作用する引張力による歪みを緩和することができる。このため、曲管1の破壊や積層材6の破断などを防止することができ、曲管1を防護するコンクリート防護工の施工が不要となり、コストを削減することができるとともに、工期を短縮することができる。」

上記(2-a)?(2-d)の事項及び図面を総合すると、引用例2には、次の事項が記載されていると認められる(以下「引用例2記載の事項」という。)。
「一方の管部材2の腹側の端面および背側の端面には、それぞれ軸線を通る水平面から上方および下方にそれぞれ角度θの範囲にわたって段差状の切欠部4を形成するとともに、前記切欠部4には弾性体5を充填し、さらに、二つの管部材2,3の突き合わせ部の内周面および外周面にそれぞれ樹脂を含浸したガラス繊維などの積層材6を積層して接着し、
前記二つの管部材2,3を突き合わせた場合、前記切欠部4を除く管頂側および管底側において端面同士が面接触し、軸線方向に位置決めされるものとなり、
変形量が最大となる腹側の端面間および背側の端面間に設定された角度範囲にわたって前記切欠部4が形成されていることにより、曲管の破壊や積層材の破断などを防止することができる曲管の接合構造。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「主管1aの側面に枝管1bが軸線と直交して前記主管1aの壁面に設けられた連通用孔と連通して取り付けられている」点は、本願補正発明の「主管と、枝管が、主管の壁面に設けられた連通用孔と、枝管とが連通するように位置決めされる」点に相当する。

イ 引用発明が、「接着層4が積層され、接続部分からの水漏れがないように接着される」ことからみて、接着層が積層される「枝管1b周囲と主管1a外面」は、主管1aと枝管1bの突き合わせ部およびその近傍であり、また、引用発明の「樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4」及び「ガラス繊維マットあるいはガラスロービングクロスなどに樹脂を含浸させたもの」である「短冊状補強シート5」は繊維強化樹脂層といえる。
よって、引用発明の「前記枝管1b周囲と前記主管1a外面には、樹脂含浸のチョップドストランドマットからなる接着層4が積層され、接続部分からの水漏れが無いように接着され、前記接着層上には、短冊状補強シート5が、前記枝管1b側では前記枝管1bの軸方向に沿って周方向に平行に配列して貼着され、前記主管1aに対する前記枝管1bの接続立ち上がり部分を折線として前記主管1a外面に、前記枝管1bを中心として放射状に貼着され、前記短冊状補強シート5は、ガラス繊維マットあるいはガラスロービングクロスなどに樹脂を含浸させたものが使用され、前記短冊状補強シートの枝管1bの外周部分には、ガラス繊維で織製された帯状テープ7が枝管1bの周方向へ巻回貼着され、前記主管1aの外周部分には放射状に広がる短冊状補強シート5上にかかるようにガラス繊維で織製された帯状テープ8が巻回され、管内面にも同様に短冊状補強シート5を貼り付け、帯状テープ8を内面に貼り付け」る点は、本願補正発明の「少なくとも前記主管と枝管の突き合わせ部およびその近傍において、枝管および主管の内周面側と、枝管および主管の外周面側の少なくともいずれかの面に沿って繊維強化樹脂が積層されて、前記主管と枝管が水密に接合されている」点に相当する。

ウ 引用発明の「異形管1」は、本願補正発明の「異形管」に相当する。

エ 引用発明の「前記枝管1bが、前記主管1aより小径であり、」は、本願補正発明の「前記枝管が、前記主管より小径である」に相当する。

オ 引用発明の「前記枝管1bが水平方向となるように配置された」と、本願補正発明の「前記切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の管頂部および管底部となる位置に設けられ、前記非切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の両管側部になる位置に設けられる」とは、「枝管の管軸が水平方向に向いた状態」である点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「主管と、枝管が、主管の壁面に設けられた連通用孔と、枝管とが連通するように位置決めされるとともに、少なくとも前記主管と枝管の突き合わせ部およびその近傍において、枝管および主管の内周面側と、枝管および主管の外周面側の少なくともいずれかの面に沿って繊維強化樹脂が積層されて、前記主管と枝管が水密に接合されている異形管であって、
前記枝管が、前記主管より小径であるとともに、
前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態である、異形管。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明は、「前記主管側端部に、切欠部と、非切欠部を有し、前記切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の管頂部および管底部となる位置に設けられ、前記非切欠部が、前記枝管の管軸が水平方向に向いた状態で、前記枝管の両管側部になる位置に設けられるとともに、前記非切欠部の前記主管側の端面が前記主管の前記連通用孔の周辺部で主管外壁面に密着する曲面形状となっている」のに対し、引用発明は、そのような構成を有しない点。

(3)判断
ア 上記[相違点]について検討する。
引用例2には、「一方の管部材102の端面と他方の管部材103の端面との間に弾性体107を配設して突き合わせ、これらの突き合わせ部の内外周面に積層材106を積層して接続」(段落【0005】)することについて、「二つの管部材の端面間に一定の隙間を確保して配置するとともに、隙間に弾性体を介在させて積層材を積層することから、二つの管部材の管軸方向の位置決めが困難である」(段落【0009】)という課題が挙げられて、それを解決する手段として、引用例2記載の事項が示されている。
引用発明は、「主管と枝管との接合端面に、弾性層が介挿され、この弾性層は主管と枝管と一体的に接着され」るものであるから、引用例2に挙げられた課題と同様の課題を有する。また、引用発明と引用例2記載の事項とは共に2つの管部材の接続構造である点で共通する。そうしてみると、引用発明に引用例2記載の事項を適用する動機付けを有している。
ここで、引用例2記載の事項において「切欠部」は「管部材2の腹側の端面および背側の端面」に形成されているが、これは「切欠部」が管部材2の「変形量が最大となる」部分に形成されるものと理解できる。
そして、管部材の接続態様により変形量が最大となる部分が異なることは技術常識であり、引用発明において、土圧などが作用して主管部分が水平方向に膨らんで変形するときに、枝管の管頂部及び枝管の管底部に相当する部分の変形量が最大となることは当業者にとって明らかであるから、引用発明に引用例2記載の事項の接続構造を適用する際に、枝管の管頂部及び管底部となる位置に切欠部を設け、枝管の両管側部になる位置を非切欠部とすることは、当業者が容易になし得たことである。
また、その場合に、引用発明は、枝管の主管側の端面が、連通孔の周辺部で主管の外壁面に対向するものであるから、位置決めのために主管外壁面の形状に合わせて密着する曲面形状とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そうしてみると、引用発明に引用例2記載の事項を適用して、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。

イ 本願補正発明が奏する効果について
本願補正発明が奏する効果は、当業者が引用発明及び周知の技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

ウ 請求人の主張
請求人は、令和1年8月1日付け審判請求書において、「引用文献2に記載の曲管の場合、上記のように、突き合わされる2つの原管が同径であり、管軸を水平方向に向けた状態で埋設したとき、土圧によって拡径する方向に切欠部が設けられており、本願請求項1に記載の異形管のように、土圧を受けたときに、径が縮径する方向に変形する管頂および管底となる部分に切欠部が形成されておりません。従いまして、引用文献1および引用文献2に記載の発明を合わせましても、決して本願請求項1に記載の発明のようになりません。」等の理由により、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明から容易に発明し得るものではない旨を主張している。
しかしながら、前記「第2[理由]3(3)ア」に記載したとおり、管部材の接続態様により変形量が最大となる部分が異なることは技術常識であり、引用発明において、土圧などが作用して主管部分が水平方向に膨らんで変形するときに、枝管の管頂部及び枝管の管底部に相当する部分の変形量が最大となることは当業者にとって明らかであるから、引用発明に引用例2記載の事項の接続構造を適用する際に、枝管の管頂部及び管底部となる位置に切欠部を設け、枝管の両管側部になる位置を非切欠部とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そうすると、請求人の主張を採用することはできない。

(4)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用発明及び引用例2記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明は、平成31年1月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された引用文献1?2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2005-90673号公報
引用文献2:特開2010-196816号公報

3 引用例
引用例1及びその記載事項は、前記「第2[理由]3(1)」に記載したとおりである。
引用例2及びその記載事項は、前記「第2[理由]3(2)」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明を特定するために必要な事項である「枝管」に関して、「前記主管より小径であるとともに、」との限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3(3)(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用例2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用例2記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-12 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-07-01 
出願番号 特願2015-126560(P2015-126560)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16L)
P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳本 幸雄  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 松下 聡
山田 裕介
発明の名称 異形管  
代理人 岡田 充浩  
代理人 杉本 勝徳  

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