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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1365556
審判番号 不服2019-9459  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-16 
確定日 2020-08-17 
事件の表示 特願2015-14247「偏光板および液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月4日出願公開,特開2016-139027〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2015-14247号(以下「本件出願」という。)は,平成27年1月28日に出願された特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年 9月20日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月24日提出:意見書
平成31年 1月24日提出:手続補正書
平成31年 4月26日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 元年 7月16日提出:審判請求書
令和 元年 7月16日提出:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和元年7月16日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前(平成31年1月24日にされた手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 ポリビニルアルコール系偏光子の両面に,接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光板であって,
一方の面の第1透明保護フィルムは,不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および一般式(1)で表わされるグルタルイミド単位を有する(メタ)アクリル系樹脂であって,イミド化率が2.5?5.0%,酸価が0.10?0.50mmol/gの範囲であり,かつ,アクリル酸エステル単位が1重量%未満である(メタ)アクリル系樹脂を含有し,かつ,紫外線吸収剤を有し,
他方の面の第2透明保護フィルムは,セルロースエステルを含有してなり,かつ,nx>ny>nz(但し,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx,ny,nzとする)の関係を満足する位相差板である偏光板。
【化1】


(ここで,R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に,水素または炭素数1?8のアルキル基を示し,R^(3)は炭素数1?18のアルキル基,炭素数3?12のシクロアルキル基,または炭素数6?10のアリール基を示す。)」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 ポリビニルアルコール系偏光子の両面に,接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光板であって,
一方の面の第1透明保護フィルムは,不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および一般式(1)で表わされるグルタルイミド単位を有する(メタ)アクリル系樹脂であって,イミド化率が2.5?5.0%,酸価が0.10?0.50mmol/gの範囲であり,かつ,アクリル酸エステル単位が1重量%未満である(メタ)アクリル系樹脂を含有し,かつ,紫外線吸収剤を有し,
他方の面の第2透明保護フィルムは,セルロースエステルを含有してなり,かつ,nx>ny>nz(但し,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx,ny,nzとする)の関係を満足する位相差板であり,
前記第1透明保護フィルムの前記偏光子側とは反対面に,粘着層が直接設けられている,あるいはアンカー層および粘着剤層がこの順に直接設けられている偏光板。
【化1】


(ここで,R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に,水素または炭素数1?8のアルキル基を示し,R^(3)は炭素数1?18のアルキル基,炭素数3?12のシクロアルキル基,または炭素数6?10のアリール基を示す。)」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の,発明を特定するために必要な事項である「第1透明保護フィルム」を,「前記偏光子側とは反対面に,粘着層が直接設けられている,あるいはアンカー層および粘着剤層がこの順に直接設けられている」ものに限定する補正である。また,この補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0108】及び【0111】に記載に基づくものである。また,本願発明と,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は,同一である(【0001】及び【0007】)。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。

そこで,本件補正後発明が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,特開2014-170202号公報(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置に関する。より詳細には,薄いガラス基板を使用する液晶表示装置で顕在化してくる高湿環境下で保存後の光漏れの問題を解消し得る液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
…(省略)…
【0005】
近年,液晶表示装置の用途拡大につれ,液晶表示装置に対して大サイズかつ高品位な質感が求められてきている。大型化した液晶表示装置の重量を軽くするため,各種の部材の厚みが薄くなり,中でも,ガラス基板の厚みは従来の0.7mmから0.5mm以下へと薄くなってきた。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
…(省略)…
本発明が解決しようとする課題は,液晶セルを構成するガラス基板の厚みが薄い(例えばガラス基板の厚みが0.5mm以下の大型(例えば,32インチ以上))の液晶表示装置で顕在化している高湿環境下での保存後に点灯すると発生するパネルの反りに基づくワープムラの問題を解消し得る液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
…(省略)…
そこで,本発明者らは,フロント側の偏光板の収縮力と,リア側の偏光板の収縮力との差を小さくし,ワープムラの発生を抑制することについて鋭意検討した結果,高湿環境下に置かれた液晶表示装置が乾燥する際に,フロント側の偏光板の湿度寸法変化が,乾燥が遅いリア側の偏光板の湿度寸法変化よりも大きいことに着目し,フロント側の偏光板の,常温常湿環境における含水率と,高温高湿環境経時の含水率を所定の範囲に規定すること,すなわち高温高湿環境経時中に偏光板内へ入る水の量を所定の値とすること(含水抑制)でパネルの反りを抑制しワープムラの発生を抑制し得ることを見出した。
本発明は上記知見に基づきなされるに至ったものである。
【0010】
すなわち,上記課題は,以下の構成の本発明によって解決される。
【0011】
[1]
ガラス基板2枚の間に液晶層を設けた液晶セルと,
上記液晶セルの両面に設けた偏光板と,上記液晶セルのリア側(非視認側)に設けたバックライトを含んでなる液晶表示装置であって,
液晶セルのフロント側(視認側)に設けた偏光板は,25℃相対湿度60%おける偏光板の含水率と下記条件(A)経時直後における偏光板の含水率の差が0.01%以上4.0%以下である,液晶表示装置。
[条件(A):40℃相対湿度95%の環境に24時間放置]
[2]
上記フロント側偏光板は,偏光子のフロント側(視認側)の面に配置された偏光板保護フィルムF1を有し,
偏光板保護フィルムF1は,透湿度が200g/m^(2)/day以下であり,熱可塑性樹脂フィルムと,上記熱可塑性樹脂フィルム上に積層された低透湿層を有する,[1]に記載の液晶表示装置。
(ただし,透湿度は,JIS Z-0208の手法で,40℃,相対湿度90%で24時間経過後の値である。)
…(省略)…
[8]
上記偏光板保護フィルムF1は,透湿度が75g/m^(2)/day以下である,[2]?[7]のいずれかに記載の液表表示装置。
…(省略)…
[11]
上記リア側偏光板は,偏光子のバックライト側の面に配置された偏光板保護フィルムF4を有し,
上記偏光板保護フィルムF4が,透湿度が200g/m^(2)/day以下であり,熱可塑性樹脂フィルムと,上記熱可塑性樹脂フィルム上に積層された低透湿層とを有する,[10]に記載の液晶表示装置。
…(省略)…
[17]
上記偏光板保護フィルムF4は,透湿度が75g/m^(2)/day以下である,[11]?[16]のいずれかに記載の液晶表示装置。
…(省略)…
【発明の効果】
【0012】
液晶表示装置,特に液晶セルを構成するガラス基板の厚みが0.5mm以下の大型の液晶表示装置で顕在化している高湿環境下での保存後に点灯すると発生するパネルの反りに基づくワープムラ(パネル四隅の光漏れ)の問題を解消し得る液晶表示装置を提供することができる。これにより世界各地で使用できる液晶表示装置を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
…(省略)…
「遅相軸」は,屈折率が最大となる方向を意味し,更に屈折率の測定波長は,特別な記述がない限り,可視光域(λ=590nm)での値である。
…(省略)…
【0016】
〔本発明の液晶表示装置〕
本発明の液晶表示装置は,ガラス基板2枚の間に液晶層を設けた液晶セルと,該液晶セルの両面に設けた偏光板と,該液晶セルのリア側(非視認側)に設けたバックライトからなる液晶表示装置であって,液晶セルのフロント側(視認側)に設けた偏光板は,25℃相対湿度60%における偏光板の含水率と下記条件(A)経時直後における偏光板の含水率の差が0.01%以上4.0%以下である。
[条件(A):40℃相対湿度95%の環境に24時間放置]
…(省略)…
【0030】
[偏光板]
本発明の液晶表示装置が有するフロント側偏光板は,25℃相対湿度60%における偏光板の含水率と条件(A)(40℃相対湿度95%環境に24時間放置)経時直後における偏光板の含水率の差が0.01%以上4.0%以下であり,…(省略)…最も好ましくは0.05%以上0.5%未満である。
…省略…
【0032】
本発明の液晶表示装置が有するフロント側偏光板は,偏光子のフロント側(視認側)の面に配置された偏光板保護フィルムF1を有し,偏光板保護フィルムF1は,熱可塑性樹脂フィルムと,該熱可塑性樹脂フィルム上に積層された低透湿層を有することが好ましい。また,さらに偏光子の液晶セル側の面に配置された偏光板保護フィルムF2を有し,偏光板保護フィルムF2は,熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。
本発明の液晶表示装置が有するリア側偏光板は,偏光子のバックライト側の面に配置された偏光板保護フィルムF4を有し,偏光板保護フィルムF4は,熱可塑性樹脂フィルムと,該熱可塑性樹脂フィルム上に積層された低透湿層を有することが好ましい。また,さらに偏光子の液晶セル側の面に配置された偏光板保護フィルムF3を有し,偏光板保護フィルムF3は,熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。
本発明の偏光板保護フィルムについての詳細は後述する。
【0033】
本発明における偏光板は,偏光子と該偏光子に積層されている偏光板保護フィルムを含んでも良い。本発明における偏光板は,更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを,反対面にセパレートフィルムを貼合して構成されることも好ましい。
前記プロテクトフィルム及び前記セパレートフィルムは偏光板出荷時,製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合,プロテクトフィルムは,偏光板の表面を保護する目的で貼合され,偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。
…(省略)…
【0038】
<偏光子>
本発明における偏光板に使用される偏光子は,ポリビニルアルコール系樹脂と,二色性色素とを含有することが好ましい。
…(省略)…
【0055】
本発明のフロント側偏光板は,熱可塑性樹脂フィルム上に機能層を有する偏光板保護フィルムF1を有することが好ましく,より好ましくはリア側偏光板もさらに,熱可塑性樹脂フィルム上に機能層を有する偏光板保護フィルムF4を有することが好ましい。
機能層は,低透湿層,ハードコート層,反射防止層(低屈折率層,中屈折率層,高屈折率層など屈折率を調整した層),防眩層,帯電防止層,紫外線吸収層などが挙げられる。
本発明の偏光板保護フィルムF1,F4は熱可塑性樹脂フィルム上に機能層を積層することが好ましく,機能層が低透湿層であることがより好ましい。
【0056】
本発明の偏光板保護フィルムF1,F4は,熱可塑性樹脂フィルムと,該熱可塑性樹脂フィルム上に積層された低透湿層とを有する光学フィルムで,光学フィルムの透湿度が200g/m^(2)/day以下であることが好ましい。
…(省略)…
【0105】
本発明の光学フィルムの低透湿層は透湿度ハードコート層機能,反射防止機能,防汚機能などを併せて持たせることも好ましい。
【0106】
{熱可塑性樹脂フィルム}
本発明の偏光板保護フィルムは熱可塑性樹脂フィルムを含むことが好ましい。
本発明の偏光板保護フィルムF1,F4は熱可塑性樹脂フィルムを基材として,その上に低透湿層を積層することがさらに好ましい。
…(省略)…
【0108】
<熱可塑性樹脂>
下記に前記基材フィルムで主成分として好ましく使用することのできる熱可塑性樹脂に関し説明する。
なお,前記基材フィルムの主成分とは,該基材フィルムの50質量%を超える成分のことをいう。
前記基材フィルムにおいて,最適な熱可塑性樹脂としては,(メタ)アクリル系樹脂,オレフィン系樹脂,セルロース系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,ポリスチレン系樹脂,ポリエステル系樹脂が挙げられ,これらの樹脂及びこれら複数種の樹脂の混合樹脂から選ぶことができる。
…(省略)…
【0116】
-主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体-
(メタ)アクリル系重合体の中でも主鎖に環構造を有するものが好ましい。主鎖に環構造を導入することで,主鎖の剛直性を高め,耐熱性を向上することができる。
…(省略)…
【0149】
(4)主鎖にグルタルイミド環構造を有する(メタ)アクリル系重合体
主鎖にグルタルイミド環構造を有する(メタ)アクリル系重合体(以降グルタルイミド系樹脂とも称す)は,主鎖にグルタルイミド環構造を有することによって光学特性や耐熱性などの点で好ましい特性バランスを発現できる。前記主鎖にグルタルイミド環構造を有する(メタ)アクリル系重合体は,少なくとも下記一般式(400):
【0150】
一般式(400):
【0151】
【化15】

【0152】
で表されるグルタルイミド単位(但し,式中,R^(301),R^(302),R^(303)は独立に水素または炭素数1?12個の非置換のまたは置換のアルキル基,シクロアルキル基,アリール基である。)を20質量%以上有するグルタルイミド樹脂を含有することが好ましい。
…(省略)…
【0157】
グルタルイミド系樹脂は,米国特許3284425号,米国特許4246374号,特開平2-153904号公報等に記載されており,イミド化可能な単位を有する樹脂としてメタクリル酸メチルエステルなどを主原料として得られる樹脂を用い,該イミド化可能な単位を有する樹脂をアンモニアまたは置換アミンを用いてイミド化することにより得ることができる。グルタルイミド系樹脂を得る際に,反応副生成物としてアクリル酸やメタクリル酸,あるいはその無水物から構成される単位がグルタルイミド系樹脂中に導入される場合がある。このような構成単位,特に酸無水物の存在は,得られる本発明フィルムの全光線透過率やヘイズを低下させるため,好ましくない。
…(省略)…
【0174】
(セルロース系樹脂)
本発明では熱可塑性樹脂としてセルロース系樹脂を用いることができる。
…(省略)…
【0187】
<紫外線吸収剤>
前記基材フィルムに好ましく使用される紫外線吸収剤について説明する。前記基材フィルムを含む本発明の光学フィルムは,偏光板または液晶表示用部材等に使用されるが,偏光板または液晶等の劣化防止の観点から,紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては,波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ,かつ良好な液晶表示性の観点から,波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。
…(省略)…
【0194】
<熱可塑性樹脂フィルムの特性>
(熱可塑性樹脂フィルムのレターデーション)
熱可塑性樹脂フィルムを偏光板保護フィルムF1,F4の基材フィルムとして使用する場合,基材フィルムは,波長590nmで測定したRe及びRth(下記式(I’)及び(II’)にて定義される)が,式(III’)及び(IV’)を満たすことが好ましい。
下記式(III’)及び(IV’)を満たす熱可塑性樹脂フィルムとしては,(メタ)アクリル系樹脂(主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系重合体であってもよい),環状ポリオレフィン系樹脂,セルロースアシレートおよびセルロースアシレートと(メタ)アクリル系樹脂の混合樹脂が好ましい。
式(I’) Re=(nx-ny)×d
式(II’) Rth={(nx+ny)/2-nz}×d
式(III’)|Re|≦50nm
式(IV’) |Rth|≦300nm
【0195】
…(省略)…
(式(I’)?(VII’)中,nxは前記基材フィルムのフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり,nyは前記基材フィルムのフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり,nzは前記基材フィルムの膜厚方向の屈折率であり,dは前記基材フィルムの厚さ(nm)である。)
…(省略)…
【0197】
熱可塑性樹脂フィルムをVAモード液晶表示における偏光板保護フィルムF2,F3として使用する場合,熱可塑性樹脂フィルムは,表示特性の観点から,波長590nmで測定したRe及びRth(前記(I’)及び(II’)と同様に定義される)が,|Re|≦100nmかつ|Rth|≦400nmであることが好ましく,…(省略)…90nm≦|Rth|≦230nmであることが特に好ましい。
…(省略)…
【0215】
{機能層}
本発明の偏光板保護フィルムは機能層を有していても良い。
また本発明の偏光板保護フィルム,特に偏光板保護フィルムF1,F4は前記低透湿層を有しても良いが,さらに,少なくとも一方の表面に,他の機能層を積層してもよい。
…(省略)…
【0216】
前記他の機能層の厚みは,0.01?100μmであることがより好ましく,0.02?50μmであることが特に好ましい。
他の機能層である反射防止層を積層した反射防止フィルム,ハードコート層,前方散乱層,防眩層(アンチグレア層)については,特開2007-86748号公報の〔0257〕?〔0276〕に記載され,これらの記載を基に機能化した偏光板を作成することができる。
また,本発明の偏光板には輝度向上フィルム,他の機能性光学フィルムを積層しても良い。
…(省略)…
【実施例】
【0246】
…(省略)…
【0251】
<熱可塑性樹脂フィルム2>
[製造例2]
特開2011-138119号公報の[0173]?[0176]に記載の方法で,イミド化樹脂を得た。イミド化樹脂は主鎖にグルタルイミド環構造を有し,芳香族ビニル構造を有しないアクリル樹脂である。
【0252】
イミド化樹脂(III)について,下記の方法に従って,イミド化率,ガラス転移温度および酸価を測定した。その結果,イミド化率は4モル%,ガラス転移温度は128℃,酸価は0.40mmol/gであった。
【0253】
[イミド化率の算出]
^(1)H-NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて,樹脂の^(1)H-NMR測定を行った。3.5から3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CH_(3)プロトン由来のピークの面積Aと,3.0から3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CH_(3)プロトン由来のピークの面積Bより,次式で求めた。
【0254】
Im%=B/(A+B)×100
なお,ここで,「イミド化率(Im%)」とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0255】
得られたイミド化樹脂(III)100重量部と,下記トリアジン化合物A0.10質量部を単軸押出機を用いてペレットにした。
上記ペレットを用いて,未延伸フィルムを縦方向,横方向に延伸して,その他条件は製造例1と同様の方法でフィルムを作製した。
【0256】
【化20】

【0257】
得られたフィルムの厚さは40μmであった。ReおよびRthの値を後述の方法で測定したところ,Re=1.0nmであり,Rth=3.0nmであった。このフィルムを熱可塑性樹脂フィルム2とした。
…(省略)…
【0287】
<熱可塑性樹脂フィルム15>
(セルロースアシレートの調製)
特開平10-45804号公報,同08-231761号公報に記載の方法で,セルロースアシレートを合成し,その置換度を測定した。具体的には,触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し,アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時,カルボン酸の種類,量を調整することでアシル基の種類,置換度を調整した。またアシル化後に40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0288】
(低置換度層用セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し,撹拌して,各成分を溶解し,セルロースアシレート溶液を調製した。
セルロースアセテート(置換度2.45) 100.0質量部
下記添加剤(カルボン酸とジオールとの重縮合エステル) 18.5質量部
メチレンクロライド 365.5質量部
メタノール 54.6質量部
【0289】
(高置換度層用セルロースアシレート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し,撹拌して,各成分を溶解し,セルロースアシレート溶液を調製した。
セルロースアセテート(置換度2.79) 100.0質量部
下記添加剤(カルボン酸とジオールとの重縮合エステル) 11.3質量部
シリカ微粒子 R972(日本エアロジル製) 0.15質量部
メチレンクロライド 395.0質量部
メタノール 59.0質量部
【0290】
重縮合エステル:ジカルボン酸としてのテレフタル酸,コハク酸と,ジオールとしてのエチレングリコール,1,2-プロピレングリコールとの重縮合エステル(テレフタル酸:フタル酸:エチレングリコール:1,2-プロピレングリコール=55:45:50:50(モル比))(末端:アセチル基,分子量800)
【0291】
(セルロースアシレートフィルムの作成)
前記低置換度層用セルロースアシレート溶液を膜厚55μmのコア層になるように,前記高置換度層用セルロースアシレート溶液をコア層の両面に各々膜厚2μmのスキン層になるように,それぞれ流延した。得られたウェブ(フィルム)をバンドから剥離し,クリップに挟み,フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20?5%の状態のときに140℃にてテンターを用いて10%横延伸した。その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後,更に170℃でテンターを用いて20%再度横延伸した。
なお,残留溶媒量は下記の式にしたがって求めた。
残留溶媒量(質量%)={(M-N)/N}×100
ここで,Mはウェブの任意時点での質量,NはMを測定したウェブを120℃で2時間乾燥させた時の質量である。
これより熱可塑性樹脂フィルム15を得た(膜厚59μm,Re=55nm,Rth=130nm)。
【0292】
<熱可塑性樹脂フィルム16>
前記熱可塑性樹脂フィルム15の作製において,高置換度層用セルロースアシレート溶液に下記光学発現剤Bを1.3質量部添加し,コア層の膜厚を41μm,スキン層A,スキン層Bの膜厚を2μmとし,フィルム全体の質量に対する残留溶媒量が20?5%の状態のときに130℃にてテンターを用いて10%横延伸し,その後にフィルムからクリップを外して130℃で20分間乾燥させた後,更に180℃でテンターを用いて25%再度横延伸して熱可塑性樹脂フィルムを16を得た。(膜厚45μm,Re=45nm,Rth=110nm)
光学発現剤B
【0293】
【化21】

…(省略)…
【0311】
[低透湿層積層フィルムの作製]
〔低透湿層形成用組成物の調製〕
低透湿層形成用組成物を下記に示すように調製した。
【0312】
(低透湿層形成用組成物B-1の組成)
A-DCP(100%):トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート[新中村化学工業(株)製]
97.0質量部
イルガキュア907(100%):重合開始剤[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製]
3.0質量部
SP-13(レベリング剤): 0.04質量部
MEK(メチルエチルケトン): 81.8質量部
【0313】
【化23】

…(省略)…
【0315】
<低透湿層積層フィルム101の作製>
基材フィルムとして熱可塑性樹脂フィルム1をロール形態から巻き出して,上記低透湿層形成用組成物B-1を使用し,特開2006-122889号公報実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で,搬送速度30m/分の条件で塗布し,60℃で150秒乾燥させた。その後,更に窒素パージ下酸素濃度約0.1%で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて,照度400mW/cm^(2),照射量60mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させ,巻き取った。低透湿層の膜厚は12μmになるよう塗布量を調整した。
得られた光学フィルムを低透湿層積層フィルム101とした。
【0316】
<低透湿層積層フィルム103,107?112の作製>
低透湿層積層101の作製において,基材フィルムと低透湿層形成用組成物,低透湿層の膜厚を表2に記載のようにした以外は低透湿層積層フィルム101と同様にして,光学フィルム103,107?112を作成した。
…(省略)…
【0322】
熱可塑性樹脂フィルム
【0323】
【表1】

【0324】
低透湿層積層フィルム
【0325】
【表2】

…(省略)…
【0327】
2)偏光子の作製
特開2001-141926号公報の実施例1に従い,延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて膜厚20μmの偏光子を作製した。
【0328】
3)貼り合わせ
(偏光板の作製)
前記で作製した両面になにも貼り合わせていない偏光子の一方の片面に対して,アクリル接着剤を用いて,作製した低透湿層積層フィルム101,103,107の低透湿層を積層していない面を,低透湿層積層フィルム101,103,107の低透湿層を積層していない面にコロナ処理を施したのち,貼合した。
…(省略)…
前記で作製した一方の片面にフィルムを貼り合わせた偏光子の他方の片側にポリビニルアルコール系接着剤を用いて,上記鹸化した熱可塑性樹脂フィルム11?13,15?19を貼り付け,70℃で10分以上乾燥して偏光板301?328を作製した。
…(省略)…
【0331】
【表3】



(2) 引用発明
引用文献1の【0331】の【表3】には,「偏光板保護フィルムF1,F4側」が「機能層積層フィルム103」,「偏光板保護フィルムF2,F3側」が「熱可塑性樹脂フィルム16」である「偏光板305」が開示されている。
ここで,上記「機能層積層フィルム103」とは,引用文献1の【0251】?【0257】に記載の「熱可塑性樹脂フィルム2」並びに【0312】及び【0313】に記載の「低透湿層形成用組成物B-1」を用いて,【0315】及び【0316】に記載の方法により作製した「低透湿層積層フィルム103」のことである。また,上記「熱可塑性樹脂フィルム16」とは,引用文献1の【0287】?【0293】の記載から理解される方法により作製したものである。
加えて,引用文献1の【0251】には「特開2011-138119号公報の[0173]?[0176]に記載の方法で,イミド化樹脂を得た」と記載されているところ,【0173】には,「[製造例1] 原料の樹脂としてメタクリル酸メチル重合体(Mw:10.5万),イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて,イミド化樹脂を製造した。」と記載されている。
さらに,引用文献1の【0292】に記載の「Re」及び「Rth」は,【0194】,【0195】及び【0197】の記載から理解される定義のものである。

以上勘案すると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明1」という。)。なお,「機能層積層フィルム103」と「低透湿層積層フィルム103」は,後者に用語を統一した。また,本願発明と直接関係のない事項(製造工程の詳細,接着剤の種類等)については,省略して記載した。
「 原料の樹脂としてメタクリル酸メチル重合体,イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて製造したイミド化樹脂(III)100重量部と,下記トリアジン化合物A0.10質量部からなる熱可塑性樹脂フィルム2を作製し,ここで,イミド化樹脂(III)のイミド化率は4モル%,酸価は0.40mmol/gであり,
セルロースアシレート溶液を流延して得られたフィルムを横延伸して熱可塑性樹脂フィルム16を得,ここで,熱可塑性樹脂フィルム16の膜厚45μm,Re=(nx-ny)×d=45nm,Rth={(nx+ny)/2-nz}×d=110nmであり,nxは前記基材フィルムのフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり,nyは前記基材フィルムのフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり,nzは前記基材フィルムの膜厚方向の屈折率であり,dは前記基材フィルムの厚さ(nm)であり,
熱可塑性樹脂フィルム2をロール形態から巻き出して,低透湿層形成用組成物B-1を塗布し,乾燥させた後,紫外線を照射して塗布層を硬化させて得られた光学フィルムを低透湿層積層フィルム103とし,
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて膜厚20μmの偏光子を作製し,
偏光子の一方の片面に接着剤を用いて低透湿層積層フィルム103の低透湿層を積層していない面を貼合し,偏光子の他方の片側に接着剤を用いて熱可塑性樹脂フィルム16を貼り付けて作製した,
偏光板保護フィルムF1,F4側が低透湿層積層フィルム103,偏光板保護フィルムF2,F3側が熱可塑性樹脂フィルム16である偏光板305。



(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 偏光板
引用発明の「偏光板305」は,「偏光子の一方の片面に接着剤を用いて低透湿層積層フィルム103の低透湿層を積層していない面を貼合し,偏光子の他方の片側に接着剤を用いて熱可塑性樹脂フィルム16を貼り付けて作製した」,「偏光板保護フィルムF1,F4側が低透湿層積層フィルム103,偏光板保護フィルムF2,F3側が熱可塑性樹脂フィルム16である」ものである。また,引用発明の「偏光子」は,「延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて膜厚20μmの」ものである。
上記構成からみて,引用発明の「偏光板305」は,「ポリビニルアルコールフィルム」を素材とする「偏光子」の両面に,「接着剤」の層を介して「偏光板保護フィルム」が設けられているものといえる。また,引用発明の「偏光板保護フィルム」(「低透湿層積層フィルム103」及び「熱可塑性樹脂フィルム16」)が透明であることは,技術常識である。
そうしてみると,引用発明の「偏光子」,「接着剤」の層,「偏光板保護フィルム」及び「偏光板305」は,それぞれ,本件補正後発明の「ポリビニルアルコール系偏光子」,「接着剤層」,「透明保護フィルム」及び「偏光板」に相当する。また,引用発明の「偏光板305」は,本件補正後発明の「偏光板」における,「ポリビニルアルコール系偏光子の両面に,接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている」という要件を満たす。

イ 第1透明保護フィルム
引用発明の「低透湿層積層フィルム103」の「熱可塑性樹脂フィルム2」は,「原料の樹脂としてメタクリル酸メチル重合体,イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて製造したイミド化樹脂(III)」を含有するものである。また,「イミド化樹脂(III)のイミド化率は4モル%,酸価は0.40mmol/gであ」る。
ここで,上記の製造工程及びイミド化率からみて,引用発明の「イミド化樹脂(III)」は,[A]メタクリル酸メチル単位及び[B]以下の式で表されるグルタルイミド単位を有するメタアクリル系樹脂である。

そして,上記[A]の単位は,本件補正後発明でいう「不飽和カルボン酸アルキルエステル単位」に該当し,上記[B]の単位は,本件補正後発明でいう「一般式(1)で表わされるグルタルイミド単位」において,R^(1)が炭素数1のアルキル基,R^(2)が水素,R^(3)が炭素数1のアルキル基であるものに該当する。
したがって,引用発明の「低透湿層積層フィルム103」は,本件補正後発明の,「一方の面の」とされる「第1透明保護フィルム」に相当する。また,引用発明の「低透湿層積層フィルム103」は,本件補正後発明の「第1透明保護フィルム」における,「不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および一般式(1)で表わされるグルタルイミド単位を有する(メタ)アクリル系樹脂であって,イミド化率が2.5?5.0%,酸価が0.10?0.50mmol/gの範囲であ」「る(メタ)アクリル系樹脂を含有し」という要件を満たす。

ウ 第2透明保護フィルム
引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム16」は,「セルロースアシレート溶液を流延して得られたフィルムを横延伸して」得た,「膜厚45μm,Re=(nx-ny)×d=45nm,Rth={(nx+ny)/2-nz}×d=110nm」のものである。ここで,「nxは前記基材フィルムのフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり,nyは前記基材フィルムのフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり,nzは前記基材フィルムの膜厚方向の屈折率であり,dは前記基材フィルムの厚さ(nm)であ」る。
上記の材料からみて,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム16」は,セルロースエステルを含有してなるものといえる。また,上記の光学特性からみて,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム16」は,nx>ny>nzの関係を満足するものであり,位相差板といえる。
(当合議体注:式「(nx-ny)×d=45」から,nx>nyであることが判る。また,式「(nx-ny)×d=45」及び「{(nx+ny)/2-nz}×d=110」からnxを消去すると,ny>nzであることが判る。)
加えて,上記の製造工程からみて,引用発明の「遅相軸方向」と「進相軸方向」は垂直であるから,引用発明の「nx」,「ny」,「nz」は,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸としたときの,X軸方向の屈折率,Y軸方向の屈折率,Z軸方向の屈折率である。
そうしてみると,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム16」は,本件補正後発明の「他方の面の」とされる「第2透明保護フィルム」に相当する。また,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム16」は,本件補正後発明の「第2透明保護フィルム」における,「セルロースエステルを含有してなり,かつ,nx>ny>nz(但し,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx,ny,nzとする)の関係を満足する位相差板であり」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 ポリビニルアルコール系偏光子の両面に,接着剤層を介して透明保護フィルムが設けられている偏光板であって,
一方の面の第1透明保護フィルムは,不飽和カルボン酸アルキルエステル単位および一般式(1)で表わされるグルタルイミド単位を有する(メタ)アクリル系樹脂であって,イミド化率が2.5?5.0%,酸価が0.10?0.50mmol/gの範囲である(メタ)アクリル系樹脂を含有し
他方の面の第2透明保護フィルムは,セルロースエステルを含有してなり,かつ,nx>ny>nz(但し,面内屈折率が最大となる方向をX軸,X軸に垂直な方向をY軸,厚さ方向をZ軸とし,それぞれの軸方向の屈折率をnx,ny,nzとする)の関係を満足する位相差板である偏光板。
【化1】


(ここで,R^(1)及びR^(2)はそれぞれ独立に,水素または炭素数1?8のアルキル基を示し,R^(3)は炭素数1?18のアルキル基,炭素数3?12のシクロアルキル基,または炭素数6?10のアリール基を示す。)

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する,又は,一応相違する。
(相違点1)
「(メタ)アクリル系樹脂」が,本件補正後発明は,「アクリル酸エステル単位が1重量%未満である」のに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点2)
「第1透明保護フィルム」が,本件補正後発明は,「紫外線吸収剤を有し」ているのに対して,引用発明は,一応,これが明らかではない点。

(相違点3)
「第1透明保護フィルム」が,本件補正後発明は,「前記偏光子側とは反対面に,粘着層が直接設けられている,あるいはアンカー層および粘着剤層がこの順に直接設けられている」ものであるのに対して,引用発明は,このように特定されたものではない点。

(5) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「イミド化樹脂(III)」は,「原料の樹脂としてメタクリル酸メチル重合体,イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて製造した」ものである。また,メタクリル酸メチル重合体にイミド化剤としてモノメチルアミンを用いても,樹脂中にアクリル酸エステル単位は生じないと考えられる。
したがって,相違点1は,相違点ではない。

ところで,引用文献1の【0157】には,「グルタルイミド系樹脂を得る際に,反応副生成物としてアクリル酸やメタクリル酸,あるいはその無水物から構成される単位がグルタルイミド系樹脂中に導入される場合がある。」と記載されている。また,引用文献1の【0251】において引用された特開2011-138119号の【0175】には,「ノズルから樹脂に対して5重量部の炭酸ジメチルを注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った」と記載され,両者を併せ考えると,引用発明の「イミド化樹脂(III)」の樹脂中には,反応副生成物として導入されたアクリル酸が炭酸ジメチルによりメチル化されてなるアクリル酸エステル単位が生じるようにも読み取れる。
しかしながら,上記の特開2011-138119号の【0034】には,「グルタルイミド樹脂にアクリル酸エステル単位を含む場合は,その含有量が1重量%未満であることが好ましく,0.5重量%未満であることがより好ましい。アクリル酸エステル単位が上記範囲内であれば,グルタルイミド樹脂は熱安定性に優れたものになるが,上記範囲を超えると熱安定性が悪くなり,樹脂製造時あるいは成形加工時に樹脂の分子量や粘度低下が発生して物性が悪化する傾向がある。」と記載されている。
したがって,引用発明の「イミド化樹脂(III)」を,アクリル酸エステル単位が1重量%未満であるものとすることは,当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。

イ 相違点2について
引用文献1の【0187】には,「前記基材フィルムを含む本発明の光学フィルムは,偏光板または液晶表示用部材等に使用されるが,偏光板または液晶等の劣化防止の観点から,紫外線吸収剤が好ましく用いられる。」と記載されている。また,引用発明の「低透湿層積層フィルム103」は,「熱可塑性樹脂フィルム2」の材料として「下記トリアジン化合物A0.10質量部」を含むところ,このトリアジン化合物Aは,紫外線吸収剤として機能するものである。
したがって,相違点2も,相違点ではない。
仮に相違点であるとしても,相違点2に係る本件補正後発明の構成を具備するものとすることは,引用文献1の【0187】の記載が示唆する範囲内の事項にすぎない。

ウ 相違点3について
引用発明の「偏光板305」は,液晶表示装置のフロント側(視認側)に,偏光板保護フィルムF1が視認側となるように配置して用いられるか,又は液晶表示装置のリア側(バックライト側)に偏光板保護フィルムF4がバックライト側となるように配置して用いられる(引用文献1の【0032】及び【図1】)。
ここで,「液晶表示装置用の偏光板において,偏光板保護フィルムの視認側の面又はバックライト側の面を含む面に粘着剤層を設けて他の部材を貼り合わせること」は,周知技術である(例えば,特開2009-139735号公報の【0122】,【0143】?【0148】及び【0152】,特開2014-211609号公報の【0020】及び【0052】,特開2012-031390号公報の【0092】,特開2014-035393号公報の【0193】,特開2012-247619号公報の【0011】及び【0085】を参照。)。また,引用文献1の【0033】及び【0216】にも,それぞれ「本発明における偏光板は,更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを,反対面にセパレートフィルムを貼合して構成されることも好ましい。」及び「本発明の偏光板には輝度向上フィルム,他の機能性光学フィルムを積層しても良い。」と記載されている。
そして,引用発明において周知技術を採用してなるものは,相違点3に係る本件補正後発明の構成を具備したものとなる。

(6) 発明の効果について
本件出願の明細書には,本件補正後発明の効果に関する明示的な記載はないが,本件補正後発明と引用発明の事実上の相違点が相違点3のみであることを考慮すると,本件補正後発明の効果は引用発明も奏する効果である。

(7) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書の3(3)において,引用発明の低透湿層の構成を挙げて,本件補正後発明の「前記第1透明保護フィルムの前記偏光子側とは反対面に,粘着層が直接設けられている,あるいはアンカー層および粘着剤層がこの順に直接設けられている」構成には到らないと主張する。
しかしながら,本件補正後発明は,「第1透明保護フィルム」が引用発明のような低透湿層を具備する態様を包含するものである。
審判請求人の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるから,採用できない。

さらに次のように考えることもできる。すなわち,引用発明の「熱可塑性樹脂フィルム2」の透湿度は,75g/m^(2)/day(【0325】の【表2】)と極めて低く,それのみで【0011】の[2]及び[11]に記載の要件(200g/m^(2)/day)はもちろん,[8]や[17]に記載の要件(75g/m^(2)/day)にも達している。また,引用文献1において,「低透湿層」は「好ましい」ものであるとしても,必須のものではない(【0032】)。
引用発明において,「低透湿層」を省略しても良いことは,引用文献1の上記記載に接した当業者が直ちに気付く事項である。

(8) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2014-170202号公報(引用文献1)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,「前記第1透明保護フィルムの前記偏光子側とは反対面に,粘着層が直接設けられている,あるいはアンカー層および粘着剤層がこの順に直接設けられている」という限定を除いたものである。また,本願発明の構成を全て具備し,これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2で述べたとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-06-12 
結審通知日 2020-06-16 
審決日 2020-07-01 
出願番号 特願2015-14247(P2015-14247)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 樋口 信宏
宮澤 浩
発明の名称 偏光板および液晶表示装置  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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