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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 6項4号請求の範囲の記載形式不備  E02D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  E02D
審判 全部無効 2項進歩性  E02D
管理番号 1365600
審判番号 無効2018-800100  
総通号数 250 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-08-10 
確定日 2020-09-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3887248号発明「コンクリート造基礎の支持構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3887248号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成14年 3月12日 本件出願(特願2002-66662号)
平成18年12月 1日 設定登録(特許第3887248号)
平成30年 8月10日 本件無効審判請求
平成30年10月23日 審判事件答弁書提出
平成30年12月25日 審理事項通知(起案日)
平成31年 1月21日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成31年 2月 4日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成31年 2月18日 口頭審理
平成31年 2月21日 請求人より上申書提出

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」などといい、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
コンクリート造基礎を、先端部にコンクリートが充填されている杭頭部を有する鋼管中空杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造であって、
前記鋼管中空杭におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいことを特徴とするコンクリート造基礎の支持構造。
【請求項2】
コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造であって、
前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいことを特徴とするコンクリート造基礎の支持構造。
【請求項3】
前記コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンクリート造基礎の支持構造。
【請求項4】
前記鋼管中空杭の前記杭頭部における内壁面に、溝状、突起状の凹凸部若しくは突起状の鋼材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート造基礎の支持構造。」

第3 請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、おおむね以下のとおり主張している(審判請求書(以下「請求書」という。)、平成31年1月21日付け口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述書」という。)、平成31年2月21日付け上申書(以下「上申書」という。)を参照。)。また、証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証(枝番を含む)を提出している。

1 無効理由の概要
〔無効理由1〕
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許の請求項2、3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由2〕
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許の請求項2、3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第2号証に記載された発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由3〕
本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
本件特許の請求項2、3に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲第3号証に記載された発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由4〕
本件特許は、請求項1?4に係る発明が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由5〕
本件特許は、請求項1?4に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
〔無効理由6〕
本件特許は、請求項1?4に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、その発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(第1回口頭審理調書)

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 是永健好、外3名、「報告 異形PC鋼棒で横補強した場所打RC杭の大型模型実験」、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.21、No.3、1999、p475-480
甲第2号証 特開昭58-153823号公報
甲第3号証 杉村義広、外6名、「PHC杭の杭頭接合方法に関する実験研究その1実験計画」、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)、昭和61年8月、p1257-1258
甲第4号証 登録実用新案第3058723公報
甲第5号証 特開平11-131495号公報
甲第6号証 特開2001-271362号公報
甲第7号証 小林勝己、外6名、「場所打ち杭の杭頭半剛接合法の開発」、建築雑誌1999.12増刊日本建築学会技術報告集、第9号、1999年12月、p65-70
甲第8号証 辻幸和、「JIS使い方シリーズ レディーミクストコンクリート[JIS A 5308:2014]-発注,製造から使用まで- 改訂2版」、一般財団法人日本規格協会、2014年8月25日、p128-129
甲第9号証の1 大成建設株式会社、平成30年(ワ)第1233号特許権侵害損害賠償請求事件原告第3準備書面、平成30年3月26日
甲第9号証の2 大成建設株式会社、平成30年(ワ)第1233号特許権侵害損害賠償請求事件原告第4準備書面、平成30年5月21日
甲第10号証 「マグローヒル科学技術用語大辞典 改訂第3版」、株式会社日刊工業新聞社、2000年3月15日、409頁
甲第11号証 「建築構造設計基準及び同解説 平成9年版」、社団法人公共建築協会、平成10年3月2日、目次、p1-10、187-203
甲第12号証 「鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説」、社団法人日本建築学会、1993年2月10日、目次、p5-7
甲第13号証 「地震力に対する建築物の基礎の設計指針 付・設計例題」、財団法人日本建築センター出版部、平成5年7月1日、目次、p3-8、125
甲第14号証の1 「鉄筋コンクリート終局強度設計に関する資料」、社団法人日本建築学会、昭和62年9月1日、p90
甲第14号証の2 伊東茂冨、「森北土木工学全書5 コンクリート工学」、森北出版株式会社、1972年11月15日、p68-76
甲第14号証の3 「コンクリート標準示方書【平成3年版】設計編」、社団法人土木学会、平成3年9月、p18-20
甲第14号証の4 笠井芳夫、「コンクリート総覧」、技術書院、1998年6月10日、p395-396
甲第14号証の5 青山博之、外2名、「新建築学大系41コンクリート系構造の設計」、株式会社彰国社、昭和58年11月10日、p270-272
甲第15号証 大成建設株式会社、審判事件答弁書(無効2008-800136号)、平成20年11月7日
甲第16号証 審決(無効2008-800136号)、平成21年6月30日
甲第17号証の1 特開平11-81341号公報
甲第17号証の2 特開2000-144763号公報
甲第17号証の3 特開2001-32295号公報
甲第17号証の4 特開2001-226987号公報
甲第17号証の5 特開2001-303584号公報
甲第18号証の1 特開昭61-155530号公報
甲第18号証の2 特開昭62-94654号公報
甲第18号証の3 特開昭62-248729号公報
甲第18号証の4 特開平5-112954号公報
甲第18号証の5 特開平8-27906号公報
甲第19号証 小林勝己、外5名、「場所打ち杭?基礎梁部分架構における杭頭半剛接合の力学的特性に関する研究」、日本建築学会構造系論文集、第533号、2000年7月、p107-114
甲第20号証 「耐震性の向上と杭基礎の合理化を実現するF.T.Pile構法 既製杭」、[online]、F.T.Pile構法既製杭協会、[2018年6月6日検索]、インターネット<http://www.ftpile.jp/FTPile_Catalog20170926.pdf>
甲第21号証 「プレストレストコンクリート用スパイラル・シース」、[online]、ジャパンライフ株式会社、[2018年6月1日検索]、インターネット<http://www.japanlife.co.jp/goods/spiralsheath/spiralsheath.html>
甲第22号証 「科学大辞典第2版」、丸善株式会社、平成17年2月28日、595頁

2 具体的な理由
(1)無効理由1について(甲第1号証を主引例とした場合)
ア 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲第1号証に記載された発明(甲1発明)との対比
本件発明2は、「前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」(構成要件B)のに対して、甲1発明の構成b1ではこれが不明である点で形式的には相違する(相違点1-1)。
(請求書12頁17行?20行)

(イ)相違点1-1について
本件発明2では、「前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいこと」とされているものの、かかる構成には何らの技術的意義も存在しないことは、次のとおり明らかである。
まず、本件特許明細書には、次の記載がある。
「また、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きいことから、当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる。」(【0012】)。
しかし、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きいこと」と、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止すること」との間には何らの関連性も存在しない。
すなわち、そもそも、「設計基準強度」とは、構造体コンクリートが満足しなければならない強度を意味する(甲8)に過ぎず、これは単に最低限達成すべき水準を示すものに過ぎない。したがって、設計基準強度の大小を定めたところ、実際の構造体コンクリートの強度の大小がどのような関係になるか定まるものではない。
したがって、上記相違点1-1は技術的に意味がない。
また、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい」との構成を採用したとしても、杭頭部に作用する応力がその強度を超えれば損傷等するのであるから、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止すること」ができず、この点からも相違点1-1に係る構成に何らの技術的意味がないことは明らかである。
さらに付言するなら、そもそも、本件特許出願当時の建築構造設計基準に照らしても、「杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止」することと、コンクリート造基礎と、杭頭部の設計基準強度の大小が何らの関係も有しないことが明らかである。
よって、本件発明2と甲1発明との相違点1-1は、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であると仮定しても、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
(請求書13頁11行?14頁5行、14頁下から4行?15頁2行、15頁4行?7行、23頁4行?6行)

(ウ)構成要件Bに特段の技術的意義がないこと
仮に、被請求人が主張するように、本件発明2は、コンクリート造基礎よりも杭頭部の方が損傷する可能性が高いという課題を前提に、かかる可能性を低減するために構成要件Bを採用したものであるとするならば、それは当業者にとって当たり前の課題を前提に、特段技術的意義のない当たり前の構成を採用したものに過ぎない。
すなわち、そもそも、教科書レベルの支圧強度の考え方から、コンクリート造基礎よりも杭頭部の方が損傷しやすいことは技術常識であり(甲14)、杭頭部の方が損傷する可能性を低減するために、杭頭部の設計基準強度を大きくすることは当業者が適宜選択する設計事項に過ぎず、その際にコンクリート造基礎の設計基準強度より相対的に高くするか否かは特段意味のない設計事項に過ぎない。
少し付言すると、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にして、杭頭部の設計基準強度が大きかったり、小さかったりしたところで、その技術的意味はなく、構成要件Bによって、何らの技術的効果も生み出されるものではない。
例えば、コンクリート造基礎の強度は、支圧強度の考え方からその圧縮強度より大きくなるところ(例えば、甲14-1の90頁の(2)?(6)式など参照)、被請求人の主張を前提にしても、コンクリート造基礎より杭頭部の設計基準強度が多少高くとも、依然コンクリート造基礎の支圧強度の方が、杭頭部の圧縮強度より高いままであり、杭頭部の損傷等の可能性がコンクリート造基礎の損傷等の可能性より小さくなるわけでもない。
また、許容応力度の考えからも同様のことが裏付けられる。
すなわち、審判請求書17頁下から8行以下でも主張したとおり、コンクリート造基礎の設計基準強度が24N、杭頭部の設計基準強度が27Nとして、コンクリート造基礎より、杭頭部の設計基準強度が大きい設計をした場合を考える。
この場合、コンクリート造基礎の圧縮許容応力度は16N(短期)、杭頭部の許容応力度は12N(短期)となる。これは、構造体に地震力が作用した状態において、コンクリート造基礎の圧縮応力としては16Nまで許容されるが、杭頭部の圧縮応力が12Nまでしか許容されないということを意味する。つまり、当業者は、コンクリート造基礎よりも、杭頭部の設計基準強度が高くとも、杭頭部の許容応力度が小さく、杭頭部の方が損傷等しやすいことがあるものと理解しているのである。
したがって、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目として、コンクリート造基礎の損傷等の可能性が、杭頭部の損傷等の可能性と逆転するわけでもないし、その他コンクリート造基礎の設計基準強度を境目とすること自体に何の技術的意義もないのである。
要するに、杭頭部の設計基準強度が高ければ損傷等の可能性を低減できるであろうと仮定しても、杭頭部の設計基準強度が、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にして、これを超えていれば突然損傷の可能性の低減効果が大きくなったり、これ以下であれば突然損傷の可能性が著しく高くなったりするような関係は存在しないのであって、構成要件Bにおいて、コンクリート造基礎の設計基準強度を基準にしている限定は、技術的に全く無意味である。
したがって、本件発明2において、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にしていることについては、全く意味のないことであり、構成要件Bは、単に強度は大きい方が良いという程度のものでしかなく、特段の技術的意義がなく、当業者が適宜選択し得る設計事項に他ならない。
(請求人陳述書6頁6行?8頁6行)

イ 本件発明3について
本件発明3は、「前記コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」(構成要件D)とされているのに対し、甲1発明の構成d1ではこれが不明である点で形式的には相違する(相違点1-2)。
相違点1-2について、本件発明2及び3のようなコンクリート造基礎と杭との半剛接合構造において、コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋することは周知慣用技術である。
このことは、半剛接合構造について、甲4において「ずれ止め鉄筋20」(【0009】?【0010】、図1?3など)が採用され、甲5において「ずれ止め筋5」(【0011】?【0012】、図1など)が採用され、甲6において「鋼棒36」(【0042】、図1など)が採用され、甲7において「定着筋」(65頁右欄「2」)、図1(b)など)が採用されていることから明らかである。
よって、甲1発明に上記周知技術を適用することで、相違点1-2に係る構成に容易に想到する。
あるいは、基礎と杭の接合部にせん断力が生じること、(転倒)モーメントが生じること、引抜き力が生じることは技術常識であるから(甲11の187頁、甲13の2章、6章など参照)、これらの力によるずれ、あるいは転倒を防止するよう(甲11の4頁「4(4)」など参照)上記周知技術あるいは甲4?7に記載の発明を甲1発明に適用することで、相違点1-2に係る構成に容易に想到する。
(請求書13頁2行?4行、23頁11行?24頁6行)

(2)無効理由2について(甲第2号証を主引例とした場合)
ア 本件発明2について
本件発明2は、「前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」(構成要件B)のに対して、甲2発明の構成b2ではこれが不明である点で形式的には相違する(相違点2-1)。
相違点2-1について、本件発明2と甲2発明との相違点2-1は、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であると仮定しても、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないことは、前記相違点1-1について述べたことから明らかである。
(請求書27頁10行?13行、28頁4行?6行)

イ 本件発明3について
本件発明3は、「前記コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」(構成要件D)とされているのに対し、甲2発明の構成d2ではこれが不明である点で形式的には相違する(相違点2-2)。
相違点2-2について、当業者が、相違点2-2に係る構成に容易に想到できることは、相違点1-2について述べたことから明らかである。
(請求書27頁20行?22行、28頁8行?9行)

(3)無効理由3について(甲第3号証を主引例とした場合)
ア 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲第3号証に記載された発明(甲3発明)との対比
本件発明2は、「場所打ちコンクリート杭」であるのに対して、甲3発明の構成a3では、「PHC杭」である点において形式的に相違する(相違点3-1)。
本件発明2の構成要件Bは、「前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいこと」であるところ、甲3発明の構成b3は、「前記PHC杭の杭頭部におけるコンクリートの圧縮強度は、前記コンクリート造フーチングにおけるコンクリートの圧縮強度と比較して大きい」である。
そして、設計基準強度の大小では、圧縮強度の大小は定まらないものの、仮に両者が整合するというのであれば、前記相違点3-1を除き、甲3発明の構成b3は、本件発明2の構成要件Bと実質的に一致する。
(請求書31頁下から7行?5行、32頁下から4行?33頁5行)

(イ)相違点3-1について
本件発明2と甲3発明との相違点3-1は、「場所打ちコンクリート杭」と「PHC杭」とは、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であると仮定しても、「場所打ちコンクリート杭」と「PHC杭」は代替的な構成であるから、いずれを採用するかは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。
念のため補足すると、本件明細書では、「鋼管中空杭」(PHC杭と同様に杭頭にコンクリートを中詰めして用いるものである)と「場所打ちコンクリート杭」のいずれでも効果を奏する旨が記載されているのであり(【0008】及び【0009】参照)、杭の種類が本件発明との関係で何らの技術的意義を有しないことが明らかである。
加えて、甲2にも本件発明と同じく半剛接合の杭頭部と基礎の構造に関する発明が記載されているところ、甲2においても、用いる杭について、「既成杭又は場所打ち杭の別を問わない」とされている(甲2、108頁左下欄、3?4行)。その他、例えば、甲17はいずれも、地震の影響を考慮した杭と基礎との接合構造に関する公知技術であるところ、そのいずれにおいても、接合に関する同一の技術が場所打ち杭のみでなく既製杭においても適用可能であることが示されている。
したがって、出願当時において、当業者が、杭と基礎との接合に関する技術を場所打ち杭と既製杭とを問わず適用できると理解していたことは明らかであり、この点が実質的相違点ではなく、また、少なくとも当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないことは明らかである。
(請求書33頁下から4行?34頁下から6行)

(ウ)構成要件A(「載置」)について
まず、甲3発明(甲3の10X’)では、中詰めコンクリートが充填されてはいない。
このことは、甲3は、X’タイプに関して「X’タイプは杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さはl=10cmおよび35cm(中略)の2種類とする。」(下線付加)と記載しており、単に埋め込まれているだけであり、中詰めコンクリートが充填されていないことは明らかである。現に、PHC杭において、中詰めコンクリートを充填しない方法、すなわち「単に埋込む方式」は周知であり(甲20)、かかる方式において中詰めコンクリートを充填しているとはいえない。
また、被請求人は、甲3発明にはシース管が配置されているから「載置」に該当しないかのように主張しているが、そもそも、シース管というのは、薄い鉄のトタン板を丸めたものや、ポリエステルでできた管に過ぎず、接合との関係で何らの強度も期待しえないものであって(甲21)、構造計算においてもこれを考慮しないものであることは、当業者である被請求人も十分に承知のはずである。
しかも、被請求人は、杭と基礎の中央部に芯鉄筋が配置されている構造すら本件発明2の技術的範囲に含まれているなどと主張していること(甲9-2の27?28頁「ア」等)に照らせば、鉄筋とは異なり構造計算上何らの強度も期待できないシース管が中央に配置されていたとしても「載置」に該当することは一層明らかである。
被請求人は、「シース管内には、PHC杭に軸力を付与するPC鋼棒(緊張材)挿設されており」(答弁書26頁4行以下)と主張し、あたかもそのような事項が甲3に記載されているかのように主張しているが、そのような記載はない。
また、被請求人は、甲3に、「また、杭体に作用する軸力としては、長期許容鉛直荷重を想定し、いずれの試験体についてもN=30tの軸力を加えた。」(甲3、1257頁、右欄、5?7行)と記載されていることをもって、甲3に緊張材が設けられていると主張するが、どこにも緊張材の記載など存在しない。軸力とは「部材の材軸方向に作用する力」であり、「柱部材に働く垂直方向の力」を意味するものである(甲22)。甲3の上記記載は、甲3では試験体が横向きに設置されているから、縦向きに設置された場合をシミュレートして鉛直方向に力を加えたという実験条件を記載しているにすぎず、これは、何ら緊張材の存在を意味するものではない。
以上のとおり、被請求人の指摘は、その前提において理由がないところ、仮に被請求人の指摘を前提としても、「載置」の認定を左右するものではない。
(請求人陳述書21頁下から7行?22頁1行、25頁5行?26頁13行)

イ 本件発明3について
本件発明3は「前記コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」(構成要件D)とされているのに対し、甲3発明の構成d3では前記コンクリート造フーチングと前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋したか否か不明である点で形式的には相違する(相違点3-2)。
当業者が、相違点3-2に係る構成に容易に想到できることは、相違点1-2について述べたことから明らかである。
(請求書33頁12行?15行、34頁下から4行?3行)

(4)無効理由4について(明確性要件違反)
本件発明においては、杭及び基礎の「コンクリートの設計基準強度」により発明を特定しているところ、コンクリートの設計基準強度は、杭及び基礎の設計段階において設定し、最低限達成すべき水準として、コンクリートの杭や基礎を製造する際に用いられるものであり、杭及び基礎の構造そのものの構成(実際の強度)を表すものではない(甲8)。
このことは、被請求人自身が、無効審判の答弁書において、
「コンクリートの圧縮強度は、管理の仕方、養生日数(材齢)、養生方法・温度、供試体の精度、載荷速度といった様々な要因によって変化し、ばらつくものであり、設計基準強度が同じであったとしても、同じ結果は得られない」(甲15、10頁3?6行)
と認めているとおりである。
すなわち、設計基準強度は、その数値を最低限達成すべき水準としてコンクリートを打設するという杭及び基礎の製造方法を記載したものにすぎず、本件発明はいわゆるプロダクトバイプロセスクレームに該当する。
したがって、「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情」(「不可能非実際的事情」)が存在しないのであれば、前記最高裁判例に照らしてこれは明確性を欠くものである。
しかるに、物としての杭及び基礎の構造又は特性を、コンクリート強度(実際の強度)によって直接特定することのできることは自明であって、現に、特許発明を特定するにあたりコンクリート強度を用いることは通常であるところ(甲18)、本件において、これが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情が認められる余地は存在しない。
以上より、本件発明は明確性要件に違反するものであることは明らかである。
(請求書35頁下から6行?36頁下から4行)

(5)無効理由5について(サポート要件違反)
本件発明では、杭頭部は、その強度以下の応力に耐えるという効果しか奏しないのであり、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という発明の効果(本件明細書【0012】)を奏しないものである。
また、既に述べたとおり、杭頭部の安全性は、そこに生じる応力と強度の大小により定まることが技術常識であり、本件特許明細書にはこのような技術常識とは異なり、コンクリート造基礎と杭頭部の設計基準強度の大小のみによって、杭頭部の損傷等が防止し得ることを裏付ける実施例等の記載は全くない。
したがって、本件発明の技術的範囲が、当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超え、サポート要件に違反することは明らかである。
また、本件発明では「設計基準強度」との文言が用いられているところ、「設計基準強度」とは、「構造体コンクリートが満足しなければならない強度」に過ぎない(甲8)。したがって、設計基準強度は、強度の最低限達成すべき水準を示すものにすぎないから、本件発明を文言のとおり理解すると、杭頭部の実際の強度と、基礎のコンクリートの実際の強度の大小について何ら限定もないものとなり、基礎部に比して杭頭部の実際の強度が小さい場合も構成要件を充足しかねないところ、このような場合も前記課題を解決することができると認識し得るような記載もない。
したがって、かかる観点からも、本件発明の技術的範囲が、当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超え、サポート要件に違反することは明らかである。
(請求書37頁9行?38頁6行)

(6)無効理由6について(実施可能要件違反)
本件発明では、杭頭部は、その強度以下の応力に耐えるという効果しか奏しないのであり、本件明細書を見ても、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という効果を奏するコンクリート造基礎構造を実施する手段が何ら開示されておらず、当業者は、本件明細書に基づいても、本件発明の作用効果を奏するものを全く得ることができない。
したがって、本件発明が実施可能要件に違反することも明らかである。
(請求書38頁下から3行?39頁4行)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張に対して、おおむね以下のとおり反論している(平成30年10月23日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)、平成31年2月4日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述書」という。)を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証(枝番を含む)を提出している。

<証拠方法>
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙第1号証の1 「場所打ち杭の杭頭半剛接接合工法「スマートパイルヘッド」を開発、実用化」 、[online]、株式会社大林組、2011年8月30日、インターネット<https://www.obayashi.co.jp/press/news20110830>
乙第1号証の2 「杭頭半剛接接合工法「スマートパイルヘッド工法」」、[online]、株式会社大林組、[2018年5月2日検索]、インターネット<https://www.obayashi.co.jp/chronicle/database/t113.html>
乙第2号証 特許第4412188号公報
乙第3号証 柴田明徳、「最新耐震構造解析」、森北出版株式会社、第1版、1997年3月31日、表紙、奥付、P292?P297
乙第4号証 「住まいのすごろく」、[online]、日本建築学会、2017年3月、インターネット<http://news-sv.aij.or.jp/shien/s2/sugoroku/stage2_3.html>
乙第5号証 「建築基礎構造設計指針」、日本建築学会、第2版、2001年10月1日、表紙、奥付、P193-197
乙第6号証 「既製コンクリート杭の施工管理」、社団法人コンクリートパイル建設技術協会、第4版、2006年4月、表紙、奥付、P177
乙第7号証の1 杉村義広、外3名、「高強度プレストレストコンクリートぐいの地震被害とその再現実験」、日本建築学会論文報告集、第340号、昭和59年6月、P40-49
乙第7号証の2 杉村義広、外4名、「PHC杭の杭頭固定度と破壊耐力に関する実験的研究 その1 研究の主旨と実験計画」、日本建築学会、昭和60年度大会(東海)学術講演梗概集B構造I、昭和60年9月10日、P991-992
乙第8号証 杉村義広、外6名、「PHC杭の杭頭接合方法に関する実験研究 その2 実験結果の概要と杭頭固定度」、日本建築学会、日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)、昭和61年8月、P1259-1260
乙第9号証 杉村義広、外4名、「PHC杭の杭頭固定度と破壊耐力に関する実験的研究 その2 実験概要と実験結果」、日本建築学会、昭和60年度大会(東海) 学術講演梗概集B構造I、P993-994
乙第10号証 小林勝己、外4名、「水平力を受ける場所打ち杭-基礎梁部分架構の力学的特性に関する研究」、日本建築学会、日本建築学会構造系論文集、第509号、1998年7月、P83-90
乙第11号証 特許第4666374号公報
乙第12号証 特許第5869904号公報
乙第13号証 「建築構造設計指針2001」、社団法人東京都建築士事務所協会、2002年3月10日、表紙、奥付、P509-515
乙第14号証 山村和也、「図解 一般土木用語辞典」、山海堂、1994年5月30日、表紙、裏表紙、P50-53
乙第15号証 特開昭58-153822号公報

1 本件発明の技術的意義について
請求人は、甲第1号証?甲第3号証の各発明と本件請求項2に係る特許発明との相違点に係る構成(杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度がコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい)には、何らの技術的意義も存在せず、したがって上記構成は実質的な相違点ではない、あるいは設計事項であるから、本件発明は新規性進歩性を有しないと主張しているので、まず、本件発明の課題および技術的意義について述べる。
(1)本件発明の課題
従来、場所打ちコンクリート杭とコンクリート造基礎との接合構造としては、杭と基礎とを剛接合する杭頭固定が原則である。また、現在でも杭に対する終局強度設計(二次設計)は必須ではなく、杭と基礎は剛接合として弾性設計するのが主流である。本件の発明者は、杭基礎が甚大な被害を受けた1995年の兵庫県南部地震以来、杭頭部に曲げ応力とせん断応力が集中する剛接合の不合理さにいち早く着目し、杭頭半剛接合の実用化に取り組んだ結果、「半剛接合にして固定度を落とすと、地震時に杭頭部の曲げとせん断応力は下がるが、変形(回転)が進むとコンクリート造基礎から受ける支圧力が逆に大きくなる」という、杭の耐震設計において全く認識されていなかった課題を認識するに至った。そして、このような課題を解決するために、本件の発明者は、従来構造に比べて手間も費用も掛かる虞があるにも係わらず、逆転の発想により、設計基準強度の異なる二種類のコンクリートを使用し、杭頭部を基礎より相対的に高強度にする技術手段を見出すに至った。
このように、本件の発明者は、「地震時に、コンクリート造基礎から受ける過大な支圧力に対処する」という、杭頭半剛接合構造の技術分野において全く認識されていなかった課題に接し、当該課題を解決するために、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度を、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きくする」という技術手段を見出すに至った。より詳細には次のとおりである。
ア 場所打ちコンクリート杭とコンクリート造基礎とを剛接合した従来の構造において、地震時に水平力が作用した場合には、杭頭部に発生する大きな曲げモーメントとせん断力により杭頭部に過大な損傷が発生し易い(甲第1号証 第479頁 写真-1における試験体PL-3と類似の現象が生じるため、便宜上、本写真を用いて説明する。)。
イ 一方、コンクリート造基礎と場所打ちコンクリート杭の杭頭部を半剛接合とした支持構造(以下、単に「半剛接合構造」という場合がある。)では、杭主筋を基礎に定着させず、杭頭部とコンクリート造基礎とが剛接合されていないことから、接合部の固定度に応じて杭頭部の回転が許容され、当該杭頭部に発生する曲げモーメントが低減される。その結果、せん断力も低減されて杭頭部に発生する損傷が軽微になり、杭頭部が健全な状態に保たれる。その一方で、杭本体の中間部の負荷が大きくなるが、杭本体の中間部は、元々曲げモーメント及びせん断力が小さくて余裕がある箇所であるため、杭全体でみると、剛接合の場合と比べて応力が平準化されることになる。そのため、上記の実験結果が示すように、剛接合の試験体と比較して、局所的に損傷することはなく、杭全体を有効に利用する合理的な設計が可能になる(同写真-1 試験体PL-5と類似の現象が生じる)。
ウ ところが、本件発明者は、種々の実験や解析結果に基づいて試算を繰り返すうちに、新たな課題に直面することとなった。すなわち、半剛接合構造を採用した場合には、当該接合部の固定度が下がって変形量(回転量)が大きくなることに伴い、杭頭部に生じる支圧力(正確には支圧応力)が大きくなり、曲げモーメント及びせん断力にかわって当該支圧力がクリティカルになる場合がある。そのため、地震力の程度によっては当該支圧力の作用により杭頭部が損傷する可能性が高くなることが明らかになり、その対応が求められることとなった。
エ 本件発明は、上記対応に関し、「大きな水平力を受けた場合においても、過剰な断面力が発生せず、また、大地震時に杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷することを防止すること」(本件特許明細書【0007】参照)を解決課題とするものである。
(2)本件発明の構成要件Bの技術的意義
ア 上記課題を解決するために、本件発明は、半剛接合構造を採用するとともに、杭頭部のみのコンクリートの設計基準強度に着目するのではなく、コンクリート造基礎と比較して、杭頭部の設計基準強度を相対的に大きくするという構成要件B(請求人の分説に基づく)を採用しているところ、その技術的意義は以下のとおりである。
イ 地震力が作用した場合、上下方向に所定長さを有する棒状部材である場所打ちコンクリート杭には、当該上下方向の圧縮力とともに曲げモーメントが作用し、さらには水平方向にせん断力が作用する。
半剛接合構造の場合には、杭頭部は、コンクリート造基礎と剛接合されていないために回転が許容され、両部材が当接する部分において支圧力が大きくなる。このとき、場所打ちコンクリート杭よりも体積が大きく、かつ、所定厚さを有する版状部材(又は、ブロック状部材)であるコンクリート造基礎には、支圧力が作用する面(杭頭部の上端面と接する領域)の周囲にもコンクリート塊が一体的に存在する。したがって、コンクリート造基礎の支圧力が作用する面は、支圧力が作用する上下方向と、支圧力に直交する2方向(周方向)の計3方向(多方向)から拘束される(いわゆる三軸[多軸]圧縮応力状態となる)。
そのため、コンクリート造基礎の少なくとも杭頭部直上においては、一方向(鉛直方向)の圧縮力が卓越する場合(いわゆる一軸圧縮応力状態)と比較して、強度(耐力)が実質的に上昇することになる。したがって、場所打ちコンクリート杭とコンクリート造基礎に同一のコンクリートを使用した場合には、コンクリート造基礎と比較すると、支圧力に対して杭頭部が相対的に弱く(不利)なり、損傷が集中する可能性が高くなる。
そこで、本件発明は、杭頭部に、コンクリート造基礎と比較して設計基準強度が大きいコンクリートを用いて相対的な強度差を設けることにより、支圧力に対する杭頭部の耐力の増強を図る(杭頭部を壊れ難くすること及び損傷の集中を回避する)こととして、課題を解決するに至ったものである(本件特許明細書【0018】参照)。
ウ このように、本件発明は、半剛接合構造を構成する場所打ちコンクリート杭の設計において、従来考慮されていなかった「杭頭部における支圧力の作用」という新たな課題に対して、「コンクリート造基礎よりも杭頭部の設計基準強度を大きくすること」を採用している。そして、対象構造物に設計で想定する地震力が作用した場合において、「杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という作用効果を実現させたものである。
(答弁書2頁下から8行?7頁11行)

2 無効理由1について
(1)甲第1号証の目的
本証拠は、その文献のタイトル「異形PC鋼棒で横補強した場所打RC杭の大型模型実験」に示されているように、あくまで場所打ちコンクリート杭に関する実証実験を行っているものである。
すなわち、本文献の実証実験は、条件を変えた試験体を作成して破壊状況を調べるために行った場所打ちRC杭についてのみの実験であり、コンクリート造基礎スタブ(以下、「基礎スタブ」という。)との接合構造に関する実験ではない。基礎スタブは試験体を実験室の反力床に固定するために用いられるブロックにすぎず、実験対象でない。そのため、基礎スタブはモデル化されておらず、コンクリート強度を含めた詳細条件(配筋及び断面性能)は記載されていない。このように、甲1発明では、場所打RC杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度と、基礎スタブにおけるコンクリートの設計基準強度の大小関係に関し、何の示唆もされていない。
(2)阻害要因の存在
また、甲第1号証 写真-2(参考写真2参照)では、PL-5(半剛接合構造の試験体)における杭頭部の破壊状況が示されている。これによると、杭頭部にはびび割れが生じている。しかし、コンクリートが剥落するほどの損傷は生じておらず、杭頭部が大きく回転することにより、杭頭部と同心円状に基礎スタブの上部に大きな亀裂が入り、当該基礎スタブがえぐられるようコンクリートの剥離が生じて、破壊していることがわかる。これは、上述した杭頭部と基礎スタブとの接触面に生じる支圧応力による破壊とは発生のメカニズムが異なる。
したがって、この事実に接した当業者であれば、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を大きくするのではなく、基礎スタブのコンクリートの設計基準強度を大きくして損傷を抑制し、破壊を防ぐことが一般的な思考である。この技術的思想は、「杭頭部の設計基準強度を基礎スタブのものよりも大きくする」という本件発明とは全く正反対の発想であるから、「杭頭部の設計基準強度をコンクリート造基礎のものよりも大きくする」という構成要件Bの採用を阻害する要因が存在していると言える。したがって、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度を、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きくする理由及び動機付けを甲1発明から見出すことはできない。
(答弁書16頁下から8行?17頁下から4行)

3 無効理由2について
構成要件Bにおける「設計基準強度の大小の点」は設計事項ではない。
上記のとおり、「半剛接合構造を採用した場合には、杭頭部の曲げ応力が緩和され、せん断力も低下して杭頭部の機能が健全な状態に保たれる」という事実が見出されている(甲第2号証 第8図)。上記事実に接した場合において、コスト削減や施工工程の軽減を常に念頭に置く当業者からすれば、合理的な理由なく、「杭頭部のコンクリートの設計基準強度を高める」という行為に及ぶことは、施工及び材料に係る手間、並びにコスト等の増加に直結する要因となることから、極めて不自然かつ不合理な行為である。
したがって、甲第2号証に接した当業者は、「杭頭部のコンクリートの設計基準強度を高めることは意味の無い行為である」と判断することが通常であり、「半剛接合構造では杭頭部の曲げ応力が緩和される」という事実は、「杭頭部のコンクリートの設計基準強度をコンクリート造基礎(以下、「基礎」という場合がある。)のものよりも大きくする」という構成要件Bの採用を阻害する要因であるといえる。
また、「半剛接合構造を採用した場合には、杭頭部の曲げ応力が緩和される」という事実は、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を小さくする方向に当業者を誘引することから、杭頭部と基礎とでコンクリートの設計基準強度を異ならせるのであれば、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のものよりも小さくすることが一般的な思考である。
すなわち、「半剛接合構造を採用した場合には、杭頭部の曲げ応力が緩和される」という事実は、コスト削減の観点からしても「杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のものよりも小さくする」という発想に向かわせるものであり、「杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のものよりも大きくする」という本件発明とは全く正反対の技術的思想を示唆しているといえる。したがって、「杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のものよりも大きくする」という構成要件Bの採用を阻害する要因であるといえる。
杭頭部における支圧力の作用及びその対処の必要性が、引用発明中に何らの示唆等がなされていない以上、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を小さくしようとする動機付けを見出すことはできても、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を大きくする必然性(動機付け)を見出すことはできない。
(答弁書21頁下から5行?23頁16行)

4 無効理由3について
(1)構成要件Aの認定の誤り
ア 「場所打ちコンクリート杭」と「PHC杭」の相違
相違点3-1に関し、請求人は、「『場所打ちコンクリート杭』と『PHC杭』とは、実質的な相違点ではない」(審判請求書 第33頁第21行目?同第22行目)、
と主張している。
しかし、現場で構築する本発明の場所打ちコンクリート杭と既製杭に分類されるPHC杭とは、その基本的構成が明確に異なっている。
すなわち、PHC杭(=Pretensioned Spun High Strength Concrete Piles;プレテンション方式遠心力高強度プレストレストコンクリート杭)は、圧縮強度の高い高強度のプレスレスコンクリート杭であり、工場等において製造されている、高軸方向耐力を有する中空構造のコンクリート杭である。このPHC杭は工場で製造して現場まで運搬し、地中に打ち込む方法により施工するため、杭長をトラック輸送できる長さまで短くしなければならない。そのため、途中で接合する必要がある上に、直径が1200mm以下、肉厚が最大でも150mm(空洞の径は900mm)である。このため、PHC杭は、現場で一体打ちされる場所打ちコンクリート杭と比較するとせん断破壊し易く、靭性(粘り強さ)に劣り、支持力が小さく、大規模の構造物に適さないという欠点がある(乙第5号証)。
それに対して、場所打ちコンクリートは、大径で杭長の長い杭を現場で構築できるため(軸部直径4mも可能)、大規模構造物に使用されている。
このように、PHC杭は、圧縮強度の高い高強度のプレスレスコンクリート杭であり、断面に空洞を有する中空構造のコンクリート杭であることから、外殻(円筒)形状という点で鋼管杭に近似した構造であり、全体が鉄筋コンクリート構造である中実な場所打ちコンクリート杭とは構造や施工方法、性質、適用範囲等が異なる。さらに、後記のように杭頭部とコンクリート造基礎との接合構造の詳細も異なっているため、地震時の挙動や構造物の基礎との接合部に生じる力学的な課題も相違する上に、施工する杭業者も分かれている。
イ 甲3発明は載置されている構造ではない
上記のように、PHC杭は空洞部が大きい中空構造であり、杭頭部には中詰めコンクリートを充填して施工される(乙第6号証)。そのため、甲3発明のPHC杭においても、杭頭部の先端の空洞に基礎のコンクリートが充填されるようにして、基礎の下面に埋め込まれる構造となっている(甲第3号証 図?3 X’タイプ)。
加えて、接合部には、シース管が貫通して設けられている。このシース管内には、PHC杭に軸力を付与するPC鋼棒(緊張材)挿設されており、30トンの軸力が付与される構造(同第1257頁 右欄第5行目?同第7行目)となっている。
以上より、甲3発明では、中空の杭頭部が中詰めコンクリートによりコンクリート造フーチング(以下、「フーチング」という。)に定着されている構造であり、中実な場所打ちコンクリート杭をフーチングに載置するという形式により、杭頭半剛接合工法を実現させているものではない。

(2)構成要件Bの認定の誤り
請求人は、甲3発明では、「PHC杭の杭頭部におけるコンクリートの強度試験による圧縮強度(以下、この項では、単に「圧縮強度」という。)が、フーチングにおける圧縮強度と比較して大きい。」と主張している。
しかし、上記のように、甲3発明は、基礎と同一圧縮強度の中詰めコンクリートと、強度が異なる外側の円筒部とが一体となって2種類のコンクリートで杭頭部を構成していることから、断面中央部に基礎のコンクリートが充填されたPHC杭の圧縮強度を、本発明の場所打ちコンクリート杭と同様に評価することはできない。

(3)阻害要因の存在
ア 甲3発明は、宮城県沖地震等におけるPHC杭の被害状況に鑑み、その構造性能を解明するためになされた研究の一環として開始され(乙第7号証の1 第40頁 1.研究の主旨と背景)、その研究目的は、PHC杭の「杭頭固定度および終局耐力を実験的に把握すること」である(甲第3号証 第1257頁 1.はじめに)。したがって、本件発明における「コンクリート造基礎と杭頭部の支圧力に対する補強を技術課題としている研究ではない。
イ また、甲3発明は、宮城沖地震で被害が認められたPHC杭の構造性能の解明という目的が存在していることから、PHC杭を使用することが必須の条件である。甲3発明のPHC杭を場所打ちコンクリート杭に変更することは、甲3発明の目的に反するものであるから、有り得ないことである。
ウ 加えて、甲第3号証には、杭と基礎の圧縮強度の大小関係の技術的意義が何ら示されておらず、「場所打ち杭の杭頭部の設計基準強度を技術的な意図(新規な課題)に基づいて大きくする」本件発明とは、その技術的思想を異にするものである。
エ この点に関し、甲3発明を含む実験結果が、乙第8号証に記載されている。図1の荷重と杭体変位の関係によれば、変形のし難さを表す剛性(単位変位当りの荷重[t/mm])と最大荷重(終局耐力)は、試験体35X’が最も高く、最大荷重時の変位も一番大きいことが示されている。
一方、甲3発明(10X’)は、最大荷重時の変位が35X’に次いで大きいものの、剛性は低く、最大荷重はその他の試験体と大差ない。
いずれの試験体もせん断破壊が生じていることから(表1)、本実験結果によれば、PHC杭のせん断耐力を上げるためには、試験体35X’の構造とする(すなわち、杭頭部のフーチングへの埋め込み長さを長くして固定度を上げる[剛接合構造に近づける])ことが最も有効であることが理解される。
オ したがって、この知見に基づけば、当業者がPHC杭の接合方法を決定する場合には、PHC杭の損傷を防ぐために、甲3発明ではなく、耐力が大きい35X’の試験体の構造を採用し、固定度を上げてPHC杭とフーチングとを剛接合に近づけようと考えることが通常である。
よって、甲3発明の接合方法を、本件発明の場所打ちコンクリート杭に適用するという動機付けを見出すことはなく、「支圧力の作用による杭頭部の損傷」という本件発明の新たな課題に気付くこともない。
(答弁書24頁下から3行?28頁10行)

5 無効理由4(明確性要件違反)について
コンクリート構造物の構築にあたっては、要求性能等に応じて設計者が決定したコンクリートの設計基準強度を用い、品質管理及び施工管理を厳密に行ない、所定の設計基準強度が発現されるように施工を行う必要があり、当該考えを当業者の共通認識として、一貫して実務が行われている。そのため、通常の施工技術者であれば、構造設計された設計図書に基づき、実強度が設計基準強度と整合するコンクリート構造物を構築することができる。したがって、設計基準強度は、実強度に反映されており、構造物の満たすべき性能等を明確に特定することができる。
上記事情により、建築分野において発明を特定するにあたり、「設計基準強度」という用語が一般的に用いられており、設計基準強度を用いて発明を特定した場合であっても、杭等の製造方法を記載したものとは認められるものではない。設計基準強度に基づいて調合されたコンクリートの実強度が養生日数や温度・湿度等によって変化することは技術常識であり、被請求人も否定しないが、「設計基準強度」それ自体は、施工条件や温度によって変化しない普遍的な指標であって経時的要素を含むものではない。
本願特許発明は、経時的要素を含まない「設計基準強度」によって物の特性を規定しているから、本件発明はプロダクトバイプロセスクレームに該当せず、明確性要件に違反するものではない。
(答弁書32頁下から3行?33頁15行)

6 無効理由5(サポート要件違反)について
本件発明によれば、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい」という構成要件を備えることにより、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という作用効果を奏する。したがって、本件発明は、構成要件を備えることにより、その課題を解決することができるため、サポート要件に違反するものではない。
上記のとおり、通常、建築分野では、定められた設計基準強度を満足するようにコンクリートの調合を行ない、当該調合に基づき製造されたコンクリートを適切な品質及び施工管理の下で施工することにより、実強度が設計基準強度と整合するように施工が行われている。
したがって、当業者が、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいこと」との記載に接した場合において、出願時の技術常識に照らすことにより、「杭頭部におけるコンクリートの実強度をコンクリート造基礎におけるコンクリートの実強度と比較して大きくすべきであること」を当然に想定可能であり、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度がコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度よりも大きい支持構造」であれば、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度がコンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度以下である支持構造」よりも、杭頭部に作用する過大な支圧力に対する耐力が高まり、杭頭部が損傷等をすることを防止できるようになるから、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等を防止する」という課題の解決を容易に認識することができる。よって、当業者は、本件特許明細書から本件発明の課題を解決できるものである。したがって、本件発明は、サポート要件に違反するものではない。
なお、発明は、一定の確実性をもって同一結果を反復できるものでなければならないが、必ずしも100%の反復可能性までは不要である。この点に関し、上記のとおり、通常の施工技術者であれば、本件発明に基づいて構造設計された設計図書に基づき、定められた設計基準強度を満たすコンクリート構造物が構築可能であり、確率論に基づく仮定の下において、作用効果を奏しない場合がありうることを理由として、サポート要件違反を主張することは妥当ではない。
(答弁書36頁2行?37頁16行)

7 無効理由6(実施可能要件違反)について
本件発明によれば、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい」という構成要件を備えることにより、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という作用効果を奏することになる。したがって、「上記作用効果を奏するコンクリート造基礎構造を実施する手段が何ら開示されていない」という、請求人の主張は失当であり、本件発明は、実施可能要件違反に該当するものではない。
繰り返しになるが、本件発明は、現行の設計基準に則って「想定以上の地震力等が対象構造物に作用した場合には、その損傷を許容する」という技術常識を前提とするものであり、コンクリートの実強度の基準となる設計基準強度以下の支圧力に耐えうることを保証しているものであり、想定以上の地震力が作用した場合に発生しうる過大な支圧力が作用した場合において、常に杭頭部の損傷等を防止できることまでを保証するものではない。本件特許発明は、あくまで、対象構造物に想定内の地震力が作用した場合において、当該杭頭部が損傷等をすることを防止可能となる技術を提供するものであり、実施可能要件に違反するものではない。
(答弁書38頁2行?18行)

第5 証拠
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同様。)

ア 「要旨:構造性能の向上と施工性の改善を可能にする場所打RC杭の大型模型実験を実施した。」(475頁要旨1行?2行)

イ 「1.はじめに
文献1)で報告した実験から,場所打RC杭の横補強筋として,普通鉄筋の代わりに1300MPa級の異形PC鋼棒スパイラル筋を用いることにより,在来工法と同程度の補強量で杭の構造性能が大きく向上することが確認できた。本報告では,この高性能RC杭の設計法を確立することを目的として,引き続き実施した大型模型実験の結果について述べる。
2.試験体
表?1に試験体の種類,図?1に杭部分の配筋(PL-2の例)を示す。試験体の杭径はすべて700mmであり,PL-1?3では横補強筋比(0.1?0.3%)の影響を検討し,PL-4では横補強筋に普通鉄筋(溶接フープ)を用いた在来工法の杭に関する性状を把握する。PL-1?3の全主筋比は,後述する載荷(1)(審決注;原文は○の中に数字)の加力ブロック下部においてせん断余裕度が1.5程度になるように計画した。PL-5は杭頭部に作用するモーメントの低減を目指した「主筋を基礎に定着しないRC杭」を対象としたものであり,全主筋比および横補強筋比はPL-2と同様である。図?2にPL-5の試験体下部(杭頭部)の詳細を示す。PL-5では,試験体設置時等において杭頭部からの転倒を防止するためにアンボンドPC鋼棒により緊張力を付与した。この緊張力は加力時には解除し,試験体頂部のナットも取り外す計画とした。また,主筋の埋込み部(70mm)には溶接フープ(D6鉄筋)が配筋されているが,その点を除き基礎スタブ上端部分は無筋となっている。
試験体のコンクリート打設は縦打とし,PL-1?4では基礎スタブ上端で打継ぎ,打継ぎ部の特別な処理は行っていない。PL-5では,基礎上端に埋込み深さ70mmの円筒状の凹部を設け,その底面を打継ぎ部とした。試験体コンクリートの実験時圧縮強度は表?1に示してある。表?2に鋼材の材料強度を示す。」(475頁左欄1行?476頁左欄8行)

ウ 表-1は以下のとおりである。


エ 図-1、図-2は以下のとおりである。


オ 図-1、図-2から、PL-5は、RC杭が基礎スタブに支持されている支持構造であることが看て取れる。

(2)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記(1)で記載した事項を踏まえると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「場所打RC杭の大型模型実験の試験体に関するものであって、
試験体は、杭頭部に作用するモーメントの低減を目指した「主筋を基礎に定着しないRC杭」を対象としたものであり、
RC杭が基礎スタブに支持されている支持構造であり、
試験体設置時等において杭頭部からの転倒を防止するためにアンボンドPC鋼棒により緊張力を付与し、この緊張力は加力時には解除し、試験体頂部のナットも取り外す計画とし、主筋の埋込み部(70mm)には溶接フープ(D6鉄筋)が配筋されているが,その点を除き基礎スタブ上端部分は無筋となっており、
基礎上端に埋込み深さ70mmの円筒状の凹部を設け、その底面を打継ぎ部とした、
試験体。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
(1) 基礎底面上に突出する杭頭に、その杭頭を覆う逆さ容器形状の仕切りケースをかぶせ、該仕切りケースがフーチングの一部となる状態にコンクリートを打設しフーチングを形成する工程から成る、杭とフーチングとの接続工法。」(1頁左欄4行?9行)

イ 「ところで、上記従来の接続工法の如く杭頭とフーチングとを完全一体に接続した場合、水平力(地震力)を受けるときの杭頭の境界条件は、固定の状態で設計することになる。即ち、第4図に示すとおり、杭頭に最大曲げモーメントM_(max1)が作用することとなる。よって、この最大曲げモーメントM_(max1)に対処するために、杭の本数を増やしたり、一層曲げ剛性の大きい杭を使用せざるを得ず、経済性の悪化を招いている。
そこでこの発明の目的は、杭頭とフーチングとの接続を、水平力を受けるときの境界条件がピンの状態となるようにし、もって杭頭における曲げモーメントを可及的に低減緩和し、かつ、杭に作用する最大曲げモーメント自体も杭頭固定(拘束)の境界条件の場合に比してはるかに小さなものとすべく改良した杭とフーチングとの接続工法を提供することにある。」(2頁左上欄14行?右上欄10行)

ウ 「第5図は、この発明の第1実施例である接続工法による杭11とフーチング12との接続構造を示す。
即ち、杭(既成杭又は場所打ち杭の別を問わない。以下同じ。)11における基礎底面G・L上に数cm乃至数10cmの高さ突出させた杭頭11aの上端面を、ほぼ水平な平坦面に形成している。
他方、仕切りケース13は、略円すい台形の逆さ容器形状であり、その平らな頂面の直径(内径)を杭頭11aの上端面直径とほぼ等しくし、下端直径は杭頭11aをピンの状態とするに足る余裕ある大きさの直径として裾に向って大径となる円すい台形状となし、その高さは杭頭11aの基礎底面G・Lよりの突出高さにほぼ等しい形状,大きさに形成している。この仕切りケース13を、前記杭頭11aにかぶせている。なお、仕切りケース13は、第6図に示す如く裾の部分が曲線をなす円すい台形状のものでもよく、いずれの場合にも鉄板等で形成されている。
基礎底面G・L上には捨てコンクリート14を打ち、しかる後に、前記仕切りケース13がフーチング12の一部となる(つまり、一体化する)状態にコンクリートを打設しフーチング12を形成している。
従って、本実施例の接続工法によれば、杭11とフーチング12とは仕切りケース13によって完全に縁切りされているから、杭11はフーチング12の鉛直荷重を支持するが、水平力(又は地震力)に対しては杭頭11aが仕切りケース13内の隙間15の限度に側方からの拘束が開放されているので、その杭頭の境界条件はピンの状態となる。」(2頁右上欄末行?右下欄13行)

(2)甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記(1)で記載した事項を踏まえると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「場所打ち杭11における基礎底面G・L上に数cm乃至数10cmの高さ突出させた杭頭11aの上端面を、ほぼ水平な平坦面に形成しており、
他方、仕切りケース13は、略円すい台形の逆さ容器形状であり、その平らな頂面の直径(内径)を杭頭11aの上端面直径とほぼ等しくし、下端直径は杭頭11aをピンの状態とするに足る余裕ある大きさの直径として裾に向って大径となる円すい台形状となし、その高さは杭頭11aの基礎底面G・Lよりの突出高さにほぼ等しい形状,大きさに形成しており、この仕切りケース13を、前記杭頭11aにかぶせており、
基礎底面G・L上には捨てコンクリート14を打ち、しかる後に、前記仕切りケース13がフーチング12の一部となる(つまり、一体化する)状態にコンクリートを打設しフーチング12を形成しており、
杭11とフーチング12とは仕切りケース13によって完全に縁切りされているから、杭11はフーチング12の鉛直荷重を支持するが、水平力(又は地震力)に対しては杭頭11aが仕切りケース13内の隙間15の限度に側方からの拘束が開放されているので、その杭頭の境界条件はピンの状態となる、
杭11とフーチング12との接続構造。」

3 甲第3号証
(1)甲第3号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面ともに次の事項が記載されている。

ア 「1.はじめに
地震力を受ける杭基礎の設計指標として「地震力に対する建築物の基礎の設計指針」^(1))が示され、実務に供されつつあるが、杭頭接合部の固定度(厳密には回転拘束度)と接合方法および構造耐力の問題が、研究課題の一つとして残されている。このような背景をふまえて、本実験研究では、フーチングへの埋込み長さと接合部の補強方法が異なる場合について、杭頭固定度および終局耐力を実験的に把握することを主目的として、高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)を用いた5種類の試験体について曲げせん断試験を行っている。
本報告は、前報^(2))に引き続いて、杭頭固定度と杭のせん断ひびわれ耐力について述べるとともに、前報の試験結果も取り入れて若干の考察を加えたものである。
2.試験体の概要
本実験で用いた杭は、表-1に示すような断面諸元を有する外径d=35cmのPHC杭(B種)であり、その品質は市販されているものと同等である。試験体は、図-1,2に示すような形状であり、それぞれ3種類の埋込み長さと接合方法を組み合わせ、表-1に示す5種類とした。接合部の詳細は図-3に示すとおりで、それぞれの試験体の名称と接合方法および埋込み長さの組み合わせは、以下のとおりである。
1)X’タイプは杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さはl=10cmおよび35cm(l/d≒0.29および1.00)の2種類とする。それぞれ、10X’及び35X’と呼ぶ。
2)Y’タイプはフーチング内で立ち上げ筋とスパイラルフープ筋により補強する方法で、l=20cm(l/d≒0.57)とし、20Y’と呼ぶ。
3)Z’タイプは、内径35.4cm、長さ35cm、厚さ0.6cmの鋼管をエポキシ樹脂系接着材によって杭体と一体化し、定着長35cmのアンカー鉄筋(D10-8本)を鋼管に溶接して接合部を補強する方法である。l=10cmおよび20cmの2種類とし、それぞれ、10Z’及び20Z’と呼ぶ。」(1257頁左欄1行?右欄4行)

イ 図-2、図-3は以下のとおりである。


ウ 図-3において、X’タイプは、杭とフーチングにまたがってシースが配置されていることが看て取れる。

エ 表2は以下のとおりである。


オ 表2から、10X’のフーチングのコンクリートの圧縮強度が228kg/cm^(2)であるのに対して、杭体のコンクリートの圧縮強度は895kg/cm^(2)であることが看て取れる。

(2)甲第3号証に記載された発明の認定
甲第3号証には、上記(1)で記載した事項を踏まえると、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

「高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)を用いた試験体であって、
杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さは10cmであり、
杭とフーチングにまたがってシースが配置されており、
フーチングのコンクリートの圧縮強度が228kg/cm^(2)であるのに対して、杭体のコンクリートの圧縮強度は895kg/cm^(2)である、
試験体。」

4 甲第4号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、構造物における場所打ちコンクリート杭(本考案において場所打ちコンクリート杭は場所打ち鋼管コンクリート杭を含む)と基礎コンクリートスラブとの接合構造に関する。」

イ 「 【0006】
【考案の実施の形態】
以下、本考案の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(A)は第1の実施の形態に係る場所打ちコンクリート杭と基礎コンクリートスラブとの接合部分の断面正面図、(B)は(A)のBーB線断面図を示す。
鉄筋コンクリート造りの構造物は、場所打ちコンクリート杭12の上に設けられた基礎コンクリートスラブ16を備えている。
前記基礎コンクリートスラブ16の下面16Aは、場所打ちコンクリート杭12の杭頭部12Aよりも上方に離間した箇所に位置している。
前記基礎コンクリートスラブ16の下面16Aと、場所打ちコンクリート杭12の杭頭部12Aとの間は柱部18により連結されている。
【0007】
前記柱部18は、場所打ちコンクリート杭12よりも断面積が小さい円柱状に形成された鉄筋コンクリート製の柱であり、本実施の形態では、柱部18と場所打ちコンクリート杭12とは同軸上に設けられている。
場所打ちコンクリート杭12の外周寄り部分には、場所打ちコンクリート杭12の周方向に間隔をおいて複数の杭主筋1202が上下に延在して設けられている。これら杭主筋1202の上部は従来のように杭頭部12Aの上方に突設せず、杭頭部12Aの内部に埋設されている。
前記柱部18の外径は、前記複数の杭主筋1202を結んで形成される仮想円よりも小さい直径で形成されている。
【0008】
前記柱部18は、コンクリートCと、コンクリートC中に埋設されたずれ止め鉄筋20および補強筋22により構成されている。
前記ずれ止め鉄筋20は中間部が柱部18に埋設されると共に、下部が場所打ちコンクリート杭12の杭頭部12Aに埋設され、上部が基礎コンクリートスラブ16に埋設されている。
前記ずれ止め鉄筋20は直線状の鉄筋が、前記複数の杭主筋1202を結んで形成される仮想円よりも小さい円周上に周方向に等間隔をおき上下に延在するように配設されている。なお、ずれ止め鉄筋20は、平面視した場合に、矩形状枠上に配設するなど任意である。
前記補強筋22は下部が場所打ちコンクリート杭12の杭頭部12Aに埋設されている。なお、補強筋22の上部は基礎コンクリートスラブ16に埋設するようにしてもよい。
前記補強筋22は複数のずれ止め鉄筋20の周囲に螺旋状に巻装して設けられ、前記複数のずれ止め鉄筋20の位置や姿勢がずれないように拘束している。
【0009】
前記ずれ止め鉄筋20および補強筋22は、場所打ちコンクリート杭12の構築時に、杭主筋1202と共に配筋された後、コンクリートが打設されることで杭頭部12Aにその下部が埋設される。したがって、場所打ちコンクリート杭12が構築されると、ずれ止め鉄筋20および補強筋22はその上部が杭頭部12Aから上方に突出した状態となる。
そして、基礎コンクリートスラブ16の構築時に、スラブ用のコンクリート型枠の組み付けと同時に柱部18用のコンクリート型枠が組み付けられ、双方のコンクリート型枠に同時にコンクリートが打設されることで、コンクリートCの内部にずれ止め鉄筋20および補強筋22が埋設された柱部18が形成され、これにより、基礎コンクリートスラブ16の下面16Aと、場所打ちコンクリート杭12の杭頭部12Aとの間が柱部18により連結される。
【0010】
本実施の形態によれば、地震時に作用する水平力によって生じるせん断力と引き抜き力がずれ止め鉄筋20を介して場所打ちコンクリート杭12に伝達される。
そして、杭頭部12Aと基礎コンクリートスラブ16との間に、杭頭部12Aよりも断面の小さい柱部18が位置しているので、場所打ちコンクリート杭12の杭体よりも杭頭部12Aの曲げ剛性と曲げ耐力が低下し、これにより杭頭部12Aの拘束がゆるみ、杭頭部12Aに働く曲げモーメントが減じられる。
したがって、杭頭部12Aや基礎梁の配筋量を減らし、基礎コンクリートスラブ16周辺の配筋を簡素化でき、しかも、大地震時において杭が大きな変形をした場合でも杭頭部が破壊しないようにすることが可能となる。」

5 甲第5号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄筋コンクリート造の構造物における基礎杭と基礎フーチングとの接合技術に関するものである。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来技術による基礎杭と基礎フーチングの接合構造においては、次のような問題が指摘される。
(1) 基礎杭101の杭頭101aと基礎フーチング2とを剛接合とするために多数の鉄筋(杭頭主筋101b)が必要である。
(2) 基礎フーチング102の施工の際に、基礎杭101の杭頭101aの外周部から突出した多数の杭頭主筋101bによって、例えば前記杭頭101aの上端面の斫り(はつり)等を行うことが容易でなく、作業の阻害になっていた。
(3) 基礎フーチング102が杭頭101aに剛接合となっており、しかも大きいので、地震の際に基礎杭101に生じる水平応力が杭頭101aに集中し、このため、各基礎フーチング2間を繋いで柱脚103のモーメントや水平剪断力に抵抗させるための基礎梁104もその断面面積を大きくしたり鉄筋を多く用いる等して著しく強度を高める必要がある。
【0005】本発明は、上記のような事情のもとになされたもので、その技術的課題とするところは、補強用の鉄筋等、使用材料を節減すると共に、施工を容易にし、しかも十分な強度を有する建築物の基礎構造を提供することにある。」

イ 「【0011】基礎杭1の杭主筋11は、そのフック状に屈曲した上端部11aが杭頭1a内にあって、基礎フーチング2内には延びておらず、すなわちこの実施形態においては、杭主筋11の上端部11aによって基礎フーチング2を基礎杭1上に定着しているものではない。代わりに、基礎杭1の杭頭1aにおける水平断面中央部と基礎フーチング2の水平断面中央部に跨がって、略鉛直に延びるずれ止め筋5が埋設されている。このずれ止め筋5は、上下両端にフック状の屈曲部51a,51bを形成した複数(図示の例では四本)の鉄筋51からなるもので、前記屈曲部51a,51bが外側を向いている。
【0012】この実施形態においては、先に説明したように、基礎杭1の杭頭1aと基礎フーチング2がずれ止め筋5を介してピン接合に近い状態となっており、しかも基礎フーチング2の体積、言い換えれば質量が従来に比較して著しく小さいので、水平方向の加速度が加わった際の基礎フーチング2の慣性質量が小さい。このため、地震等の際に基礎杭1に生じる水平応力の杭頭1aへの集中が有効に防止される。またこのため、各基礎フーチング2間を繋いで柱脚3の傾斜方向のモーメントや剪断力に抵抗させるための基礎梁4の強度も従来より小さくて良く、すなわち基礎梁4の断面面積を従来より小さくしたり、鉄筋による補強量を減少させることができる。」

6 甲第6号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、地中に設置された杭と、該杭上に載置されるフーチングとの接合構造に関する。」

イ 「【0042】さらに、外力(引張力)を受けて塑性変形することによりエネルギ吸収可能である鋼棒や鋼板のような複数の部材、例えば複数の鋼棒36を埋設することが望ましい。杭10からフーチング12まで、突出部材22中のコンクリートを経て上下方向に伸びている。」

7 甲第7号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。

「2.半剛接合法の概要
図1に,在来工法および考案した半剛接合法の杭頭接合方法の概要を示す。・・・半剛接合法では,杭主筋をパイルキャップに定着しないかわりに,断面の中央寄りに配置した比較的少量の定着筋を用いてパイルキャップと接合する。」(65頁右欄2行?10行)

8 甲第8号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。

「(a)設計基準強度Fc 設計基準強度Fcとは,構造設計において基準とするコンクリートの圧縮強度のことであり,構造体コンクリートが満足しなければならない強度である。」(129頁下から6行?4行)

9 甲第11号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。

ア 「4 杭基礎の設計
(1)杭基礎の設計に当たっては、杭に作用する荷重、杭の力学的性能、地盤条件、施工性、経済性等を考慮し、適切な材料及び工法を選定する。
(2)杭の許容鉛直支持力は、杭材料の許容応力度・・・のうち最小値を採用する。
(3)中地震動によって杭基礎に作用する鉛直力、引抜き力及び水平力により、杭に生ずる応力度は、許容応力度以下とする。
(4)大地震動時に対しては、杭基礎の保有水平耐力の検討を必要に応じて行う。・・・
(5)杭と基礎床版の接合は、接合部に生じる引抜き力、せん断力及び曲げ応力に対して安全なものとする。」(9頁1行?12行)

イ 表9.15は以下のとおりである。


10 甲第12号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。

表4は以下のとおりである。


11 甲第13号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、甲第13号証には、次の事項が記載されている。

「6章 基礎スラブと杭の接合部等の設計
基礎スラブと杭の接合部等については、同一の建築物においては同一の接合方法によることを原則とし、また、2章に規定される設計用外力及びそれらの合成外力を、杭及び地盤に安全に伝える構造であること、及びそれぞれ対応する外力条件下で、接合部分各部材の応力度が短期許容応力度を超えないことを確かめなければならない。」(8頁4行?8行)

12 甲第17号証の1?5
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第17号証の1?5には、地震の影響を考慮した杭と基礎との接合構造に関して、場所打ち杭と既製杭は代替可能であることが示されている。
特に、甲第17号証の5においては、場所打ちコンクリート杭とPHCコンクリート杭が代替可能であることが記載されている(【0037】)。

13 甲第19号証
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第19号証には、次の事項が記載されている。

「4.破壊性状
・・・杭頭回転角θ_(0)のほとんどは,杭およびパイルキャップからの定着筋の抜出しと,接合部コンクリートの杭およびパイルキャップへのめり込みによって生じている。杭頭部の割裂状の縦ひび割れは,θ_(0)=約1/100の軸力増大時に曲げ圧縮側となる位置に発生したが,これは接合部コンクリートの杭頭部へのめり込みによって生じたと考えられる。」 (109頁右欄1行?14行)

第6 無効理由についての判断
1 無効理由1について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「場所打RC杭」、「基礎スタブ」は、それぞれ本件発明2の「場所打ちコンクリート杭」、「コンクリート造基礎」に相当する。

(イ)本件明細書には、本件発明2の「載置」について「【0010】ここで、 載置とは、コンクリート造基礎を支持するにあたり、当該コンクリート造基礎が杭頭部の上に載せられているだけの状態であり、両者の縁が切れた状態にあることを意味する。なお、コンクリート造基礎に凹部を形成し、当該凹部に鋼管中空杭及び場所打ちコンクリート杭(以下、「鋼管中空杭等」と省略する場合がある)の杭頭部を挿入した状態で当該コンクリート造基礎支持することや、コンクリート造基礎及び鋼管中空杭等の間で水平力を伝達する凹凸部を設けることは、載置という支持形式を妨げるものではない。」と記載されている(以下「本件「載置」の定義」という。)。
甲1発明は「杭頭部に作用するモーメントの低減を目指した「主筋を基礎に定着しないRC杭」を対象としたものであり」、「主筋の埋込み部(70mm)には溶接フープ(D6鉄筋)が配筋されているが,その点を除き基礎スタブ上端部分は無筋となっており、基礎上端に埋込み深さ70mmの円筒状の凹部を設け、その底面を打継ぎ部とし」ており、上記本件「載置」の定義のように杭頭部と基礎上端は実質的に縁が切れた状態にあるといえるから、当該構成は、本件発明2の「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」と、「コンクリート造基礎と、場所打ちコンクリート杭が、一方が他方を載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」の点で共通する。

(ウ)したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点1、2で相違する。
(一致点)
「コンクリート造基礎と、場所打ちコンクリート杭が、一方が他方を載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」

(相違点1)
載置した状態について、本件発明2は「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持する」のに対し、甲1発明は「RC杭が基礎スタブに支持されている」点。

(相違点2)
本件発明2は「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲1発明は、「場所打RC杭の大型模型実験の試験体に関するもので」あり、試験体としては、便宜上「RC杭が基礎スタブに支持されている」ものの、実際の場面として想定されているのは「基礎スタブ」を「RC杭」に支持したものであることは明らかである。そして、甲1発明の「RC杭が基礎スタブに(載置した状態で)支持されている」構造は、基礎スタブがRC杭に(載置した状態で)支持されている構造と、部材の上下の位置関係が逆ではあるが、外力による部材間の力学的な作用は同様になることを前提としているものであるから、両構造は実質的に同じであるといえる。
したがって、甲1発明は相違点1に係る本件発明2の構成を有しているといえるから、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

(イ)相違点2について
甲第4号証?甲第7号証および請求人が提出した他の証拠には、相違点2に係る構成についての直接的な記載や当該構成を示唆する記載もない。
また、甲第1号証において、設計基準強度に着目することは特に記載されておらず、甲1発明において、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のコンクリートの設計基準強度よりも大きくする動機付けはない。
したがって、本件発明2は甲1発明ではなく、また、甲1発明において、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到しうる程度のことではない。

(ウ)請求人の主張に対して
a 請求人は、上記相違点2に関して、「本件発明2では、「前記場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きいこと」とされているものの、かかる構成には何らの技術的意義も存在しないことは、次のとおり明らかである。まず、本件特許明細書には、次の記載がある。「また、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きいことから、当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる。」(【0012】)。しかし、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きいこと」と、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止すること」との間には何らの関連性も存在しない。すなわち、そもそも、「設計基準強度」とは、構造体コンクリートが満足しなければならない強度を意味する(甲8)に過ぎず、これは単に最低限達成すべき水準を示すものに過ぎない。したがって、設計基準強度の大小を定めたところ、実際の構造体コンクリートの強度の大小がどのような関係になるか定まるものではない。したがって、上記相違点1-1は技術的に意味がない。また、「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい」との構成を採用したとしても、杭頭部に作用する応力がその強度を超えれば損傷等するのであるから、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止すること」ができず、この点からも相違点1-1に係る構成に何らの技術的意味がないことは明らかである。さらに付言するなら、そもそも、本件特許出願当時の建築構造設計基準に照らしても、「杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止」することと、コンクリート造基礎と、杭頭部の設計基準強度の大小が何らの関係も有しないことが明らかである。」(第3の2(1)ア(イ))旨、主張する。
しかしながら、本件明細書には「【0018】すなわち、杭頭部12のコンクリート14には、フーチング基礎20のコンクリート21よりも設計基準強度が大きいコンクリートが使用されている(前記例では、それぞれのコンクリートの設計基準強度は60N/mm^(2)と36N/mm^(2))。このように、設計基準強度が異なるコンクリートを打ち分けることは、フーチング基礎20の底部と杭頭部12に作用する支圧応力に対して補強を行うことをその理由とするものであり、特に、断面積が小さい杭頭部12に特に設計基準強度が大きいコンクリートを用いて耐力の増強を図ったものである。」と記載されており、当該記載は鋼管中空杭に関する第1実施形態に関する記載であるが、本件発明2に係る場所打ちコンクリート杭に関する第2実施形態の「【0027】従って、本実施形態の支持構造S’によれば、杭の種類は異なるが、第1実施形態の支持構造Sと同様の作用効果を奏するとともに、・・・」の記載を参酌すれば、場所打ちコンクリート杭においても、コンクリート基礎と杭頭部の設計基準強度の大小により同様の作用効果を奏することを意味していることは明らかである。
また、「設計基準強度」とは、甲第8号証にも記載されているように、「構造設計において基準とするコンクリートの圧縮強度のことであり,構造体コンクリートが満足しなければならない強度である」(第5の8)から、「設計基準強度」それ自体が大きくなれば、それに応じて、コンクリートの実際の強度も大きくなることは明らかである。このことから、本件発明2の「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」(以下「杭頭強度大きい」という。)場合は、「コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度」を基準として見れば、杭と基礎の設計基準強度の大小関係が異なる他の態様である、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と同じ」(以下「杭頭強度同じ」という。)場合や「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して小さい」(以下「杭頭強度小さい」という。)場合と比較して、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度」は大きくなり、それに伴い、「杭頭強度大きい」場合の実際のコンクリートの強度も「杭頭強度同じ」場合や「杭頭強度小さい」場合の実際のコンクリートの強度と比較して大きくなることは明らかであり、その分、耐力の増強が図られているといえる。したがって、本件発明2の「杭頭強度大きい」構成には技術的意味があり、当該構成と作用効果との関係は理解できるものである。
なお、「「杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きい」との構成を採用したとしても、杭頭部に作用する応力がその強度を超えれば損傷等するのであるから、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止すること」ができず」との請求人の主張について、本件発明の作用効果は、いかなる場合でも杭頭部が損傷することはないというような絶対的効果を意図していないことは明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

b 請求人は、上記相違点2に関して、「仮に、被請求人が主張するように、本件発明2は、コンクリート造基礎よりも杭頭部の方が損傷する可能性が高いという課題を前提に、かかる可能性を低減するために構成要件Bを採用したものであるとするならば、それは当業者にとって当たり前の課題を前提に、特段技術的意義のない当たり前の構成を採用したものに過ぎない。すなわち、そもそも、教科書レベルの支圧強度の考え方から、コンクリート造基礎よりも杭頭部の方が損傷しやすいことは技術常識であり(甲14)、杭頭部の方が損傷する可能性を低減するために、杭頭部の設計基準強度を大きくすることは当業者が適宜選択する設計事項に過ぎず、その際にコンクリート造基礎の設計基準強度より相対的に高くするか否かは特段意味のない設計事項に過ぎない。少し付言すると、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にして、杭頭部の設計基準強度が大きかったり、小さかったりしたところで、その技術的意味はなく、構成要件Bによって、何らの技術的効果も生み出されるものではない。例えば、コンクリート造基礎の強度は、支圧強度の考え方からその圧縮強度より大きくなるところ(例えば、甲14-1の90頁の(2)?(6)式など参照)、被請求人の主張を前提にしても、コンクリート造基礎より杭頭部の設計基準強度が多少高くとも、依然コンクリート造基礎の支圧強度の方が、杭頭部の圧縮強度より高いままであり、杭頭部の損傷等の可能性がコンクリート造基礎の損傷等の可能性より小さくなるわけでもない。また、許容応力度の考えからも同様のことが裏付けられる。すなわち、審判請求書17頁下から8行以下でも主張したとおり、コンクリート造基礎の設計基準強度が24N、杭頭部の設計基準強度が27Nとして、コンクリート造基礎より、杭頭部の設計基準強度が大きい設計をした場合を考える。この場合、コンクリート造基礎の圧縮許容応力度は16N(短期)、杭頭部の許容応力度は12N(短期)となる。これは、構造体に地震力が作用した状態において、コンクリート造基礎の圧縮応力としては16Nまで許容されるが、杭頭部の圧縮応力が12Nまでしか許容されないということを意味する。つまり、当業者は、コンクリート造基礎よりも、杭頭部の設計基準強度が高くとも、杭頭部の許容応力度が小さく、杭頭部の方が損傷等しやすいことがあるものと理解しているのである。したがって、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目として、コンクリート造基礎の損傷等の可能性が、杭頭部の損傷等の可能性と逆転するわけでもないし、その他コンクリート造基礎の設計基準強度を境目とすること自体に何の技術的意義もないのである。要するに、杭頭部の設計基準強度が高ければ損傷等の可能性を低減できるであろうと仮定しても、杭頭部の設計基準強度が、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にして、これを超えていれば突然損傷の可能性の低減効果が大きくなったり、これ以下であれば突然損傷の可能性が著しく高くなったりするような関係は存在しないのであって、構成要件Bにおいて、コンクリート造基礎の設計基準強度を基準にしている限定は、技術的に全く無意味である。したがって、本件発明2において、コンクリート造基礎の設計基準強度を境目にしていることについては、全く意味のないことであり、構成要件Bは、単に強度は大きい方が良いという程度のものでしかなく、特段の技術的意義がなく、当業者が適宜選択し得る設計事項に他ならない。」(第3の2(1)ア(ウ))旨、主張する。
しかしながら、上記aで説示したように、本件発明2の「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」構成には技術的意味があり、請求人が提出した証拠を参酌しても、本件発明2の「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」ようにすることは、当業者が適宜設定しうる設計事項であるとはいえない。
また、許容応力度設計の観点からも、「設計基準強度」が大きくなれば、「許容応力度」も連動して大きくなるものであるから、上記aで説示した杭と基礎のコンクリートの設計基準強度の大小関係が異なる他の態様と比較して、本件発明2の「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリート」の実際の強度が大きくなるとの判断に影響を与えるものではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明2は、甲1発明と同一ではなく、さらに、甲1発明において、相違点2に係る本件発明2の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲1発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1発明の対比
本件発明3と甲1発明は、上記(1)アの相違点1、2に加えて、次の相違点3で相違する。

(相違点3)
本件発明3は「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」のに対し、甲1発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
(ア)相違点1、2について
相違点1、2については、上記(1)イで説示したとおりである。

(イ)相違点3について
「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋」することについては、甲第4号証?甲第7号証に記載されているように、周知技術にすぎない。
甲1発明は、「場所打RC杭の大型模型実験の試験体」ではあるものの、実際の場所打ちコンクリート杭とコンクリート造基礎の支持構造を前提としたものであるから、上記周知技術を採用し、相違点3に係る本件発明3のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明3は、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲1発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲1発明と同一ではなく、さらに、本件発明2、3は、甲1発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

2 無効理由2について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲2発明の対比
(ア)甲2発明の「場所打ち杭11」、「フーチング12」は、それぞれ本件発明2の「場所打ちコンクリート杭」、「コンクリート造基礎」に相当する。

(イ)甲2発明は「杭11とフーチング12とは仕切りケース13によって完全に縁切りされているから、杭11はフーチング12の鉛直荷重を支持するが、水平力(又は地震力)に対しては杭頭11aが仕切りケース13内の隙間15の限度に側方からの拘束が開放されているので、その杭頭の境界条件はピンの状態とな」り、上記本件「載置」の定義のように杭頭部と基礎上端は実質的に縁が切れた状態にあるといえるから、当該構成は、本件発明2の「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」に相当する。

(ウ)したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点Aで相違する。
(一致点)
「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」

(相違点A)
本件発明2は「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」のに対し、甲2発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
相違点Aは相違点2と同じであり、上記1(1)イ(イ)、(ウ)で説示したとおりであり、甲第4号証?甲第7号証および請求人が提出した他の証拠には、相違点Aに係る構成についての直接的な記載や当該構成を示唆する記載もない。
また、甲第2号証において、設計基準強度に着目することは特に記載されておらず、甲2発明において、杭頭部のコンクリートの設計基準強度を基礎のコンクリートの設計基準強度よりも大きくする動機付けはない。
したがって、本件発明2は甲2発明ではなく、また、甲2発明において、相違点Aに係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到しうる程度のことではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明2は、甲2発明と同一ではなく、さらに、甲2発明において、相違点Aに係る本件発明2の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲2発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 本件発明3と甲2発明の対比
本件発明3と甲2発明は、上記(1)アの相違点Aに加えて、次の相違点Bで相違する。

(相違点B)
本件発明3は「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」のに対し、甲2発明はそのような特定がなされていない点。

イ 判断
(ア)相違点Aについて
相違点Aについては、上記(1)イで説示したとおりである。

(イ)相違点Bについて
「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋」することについては、甲第4号証?甲第7号証に記載されているように、周知技術にすぎない。
しかしながら、甲2発明は「仕切りケース13は、略円すい台形の逆さ容器形状であり、・・・この仕切りケース13を、前記杭頭11aにかぶせており」、「杭11とフーチング12とは仕切りケース13によって完全に縁切りされているから、杭11はフーチング12の鉛直荷重を支持するが、水平力(又は地震力)に対しては杭頭11aが仕切りケース13内の隙間15の限度に側方からの拘束が開放されているので、その杭頭の境界条件はピンの状態となる」ものであり、「杭11」と「フーチング12」間には「仕切りケース13」が存在するため、芯鋼材のような部材を「杭11」と「フーチング12」間に配筋することはできないから、上記周知技術を採用する動機付けはないというべきである。
したがって、甲2発明において、相違点Bに係る本件発明3の構成のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことではない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明3は、甲2発明において、相違点A、Bに係る本件発明3の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲2発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲2発明と同一ではなく、さらに、本件発明2、3は、甲2発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

3 無効理由3について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲3発明の対比
(ア)甲3発明の「フーチング」は、本件発明2の「コンクリート造基礎」に相当する。

(イ)甲3発明の「高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)」は、本件発明2の「場所打ちコンクリート杭」と、「コンクリート杭」の点で共通する。

(ウ)甲3発明は「杭をフーチング内へ単に埋込む方式」であり、杭とフーチングが連結されているといえるから、当該構成は、本件発明2の「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持するコンクリート造基礎の支持構造」と、「コンクリート造基礎を、コンクリート杭に連結するコンクリート造基礎の連結構造」の点で共通する。

(エ)したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点ア?ウで相違する。
(一致点)
「コンクリート造基礎を、コンクリート杭に連結するコンクリート造基礎の連結構造」

(相違点ア)
コンクリート杭に関して、本件発明2は「場所打ちコンクリート杭」であるのに対し、甲3発明は「PHC杭」である点。

(相違点イ)
本件発明2は「コンクリート造基礎を、場所打ちコンクリート杭に載置した状態で支持する」「支持構造」であるのに対し、甲3発明は「杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さは10cmであり、杭とフーチングにまたがってシースが配置されて」いる点。

(相違点ウ)
本件発明2は「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」のに対し、甲3発明は「フーチングのコンクリートの圧縮強度が228kg/cm^(2)であるのに対して、杭体のコンクリートの圧縮強度は895kg/cm^(2)である」点。

イ 判断
(ア)相違点ア、ウについて
相違点ア、ウは関連するため、併せて検討する。
甲3発明は、実験研究の試験体に関するものであり、杭としてはPHC杭が前提となっているものである。したがって、甲第17号証の1?5に示されているように、プレストレストコンクリート杭、PHC杭、場所打ちコンクリート杭が代替可能な手段であることが周知事項であったとしても、甲3発明において、実験の前提を変えて当該周知事項を採用する動機付けはないというべきである。
また、仮に甲3発明において、上記周知事項を採用し得たとしても、PHC杭と場所打ちコンクリート杭は、その内部構造の違いなどから求められるコンクリートの強度も異なるので、甲3発明における「フーチング」と「PHC杭」のコンクリートの圧縮強度の関係が、「PHC杭」を「場所打ちコンクリート杭」とした場合においても同じになるとはいえない。
したがって、甲3発明において、相違点ア、ウに係る本件発明2の構成のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。

(イ)相違点イについて
甲3発明は、「杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さは10cmであ」るから、杭はフーチングに埋め込まれ、一体となっていると解されるから、上記本件「載置」の定義のように杭頭部と基礎上端は実質的に縁が切れた状態にあるとはいえない。
また、甲3発明において、「杭」と「フーチング」を載置状態とする動機付けはなく、請求人が提出した他の証拠を参酌しても、甲3発明において、相違点イに係る本件発明2の構成のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のこととはいえない。

(ウ)請求人の主張に対して
a 請求人は、相違点アに関して「本件発明2と甲3発明との相違点3-1は、「場所打ちコンクリート杭」と「PHC杭」とは、実質的な相違点ではないし、仮に相違点であると仮定しても、「場所打ちコンクリート杭」と「PHC杭」は代替的な構成であるから、いずれを採用するかは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。念のため補足すると、本件明細書では、「鋼管中空杭」(PHC杭と同様に杭頭にコンクリートを中詰めして用いるものである)と「場所打ちコンクリート杭」のいずれでも効果を奏する旨が記載されているのであり(【0008】及び【0009】参照)、杭の種類が本件発明との関係で何らの技術的意義を有しないことが明らかである。加えて、甲2にも本件発明と同じく半剛接合の杭頭部と基礎の構造に関する発明が記載されているところ、甲2においても、用いる杭について、「既成杭又は場所打ち杭の別を問わない」とされている(甲2、108頁左下欄、3?4行)。その他、例えば、甲17はいずれも、地震の影響を考慮した杭と基礎との接合構造に関する公知技術であるところ、そのいずれにおいても、接合に関する同一の技術が場所打ち杭のみでなく既製杭においても適用可能であることが示されている。したがって、出願当時において、当業者が、杭と基礎との接合に関する技術を場所打ち杭と既製杭とを問わず適用できると理解していたことは明らかであり、この点が実質的相違点ではなく、また、少なくとも当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないことは明らかである」(第3の2(3)ア(イ))旨主張する。
しかしながら、上記(ア)で説示したように、甲3発明は、実験研究の試験体に関するものであり、杭としてPHC杭を用いることが前提となっているものであるから、PHC杭を場所打ちコンクリート杭とする動機付けはない。仮に甲3発明において、PHC杭を場所打ちコンクリート杭に変更すると、杭をフーチングに埋め込む方式をどのように実現するか、あるいは同じ条件で実験ができるのかなど、実験に支障がでることが予見でき、阻害要因があるともいえる。
よって、請求人の主張は採用できない。

b 請求人は、相違点イに関して「まず、甲3発明(甲3の10X’)では、中詰めコンクリートが充填されてはいない。このことは、甲3は、X’タイプに関して「X’タイプは杭をフーチング内へ単に埋込む方式で、埋込み長さはl=10cmおよび35cm(中略)の2種類とする。」と記載しており、単に埋め込まれているだけであり、中詰めコンクリートが充填されていないことは明らかである。現に、PHC杭において、中詰めコンクリートを充填しない方法、すなわち「単に埋込む方式」は周知であり(甲20)、かかる方式において中詰めコンクリートを充填しているとはいえない。また、被請求人は、甲3発明にはシース管が配置されているから「載置」に該当しないかのように主張しているが、そもそも、シース管というのは、薄い鉄のトタン板を丸めたものや、ポリエステルでできた管に過ぎず、接合との関係で何らの強度も期待しえないものであって(甲21)、構造計算においてもこれを考慮しないものであることは、当業者である被請求人も十分に承知のはずである。しかも、被請求人は、杭と基礎の中央部に芯鉄筋が配置されている構造すら本件発明2の技術的範囲に含まれているなどと主張していること(甲9-2の27?28頁「ア」等)に照らせば、鉄筋とは異なり構造計算上何らの強度も期待できないシース管が中央に配置されていたとしても「載置」に該当することは一層明らかである。被請求人は、「シース管内には、PHC杭に軸力を付与するPC鋼棒(緊張材)挿設されており」(答弁書26頁4行以下)と主張し、あたかもそのような事項が甲3に記載されているかのように主張しているが、そのような記載はない。また、被請求人は、甲3に、「また、杭体に作用する軸力としては、長期許容鉛直荷重を想定し、いずれの試験体についてもN=30tの軸力を加えた。」(甲3、1257頁、右欄、5?7行)と記載されていることをもって、甲3に緊張材が設けられていると主張するが、どこにも緊張材の記載など存在しない。軸力とは「部材の材軸方向に作用する力」であり、「柱部材に働く垂直方向の力」を意味するものである(甲22)。甲3の上記記載は、甲3では試験体が横向きに設置されているから、縦向きに設置された場合をシミュレートして鉛直方向に力を加えたという実験条件を記載しているにすぎず、これは、何ら緊張材の存在を意味するものではない。以上のとおり、被請求人の指摘は、その前提において理由がないところ、仮に被請求人の指摘を前提としても、「載置」の認定を左右するものではない。」(第3の2(3)ア(ウ))旨主張する。
しかしながら、上記(イ)で説示したように、甲3発明において、杭はフーチングに埋め込まれ、一体となっていると解されるから、載置しているとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明2は、甲3発明と同一ではなく、さらに、甲3発明において、相違点ア?ウに係る本件発明2の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲3発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(2)本件発明3について
ア 本件発明3と甲3発明の対比
本件発明3と甲3発明は、上記(1)アの相違点ア?ウに加えて、次の相違点エで相違する。

(相違点エ)
本件発明3は「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋した」のに対し、甲3発明は「杭とフーチングにまたがってシースが配置されて」いる点。

イ 判断
(ア)相違点ア?ウについて
相違点ア?ウについては、上記(1)イで説示したとおりである。

(イ)相違点エについて
「コンクリート造基礎と前記杭頭部との間に芯鋼材を配筋」することについては、甲第4号証?甲第7号証に記載されているように、周知技術にすぎない。
甲第3号証には、杭頭固定度の違いに着目した実験研究が記載されているから、杭頭固定度に影響を与えうる手段を採用する動機付けはあるといえ、上記周知技術を採用し、相違点エに係る本件発明3のようにすることは当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。

ウ むすび
以上のとおり、本件発明3は、甲3発明において、相違点ア?ウに係る本件発明3の構成にすることが当業者が容易に想到し得たことではないため、甲3発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲3発明と同一ではなく、さらに、本件発明2、3は、甲3発明、及び甲第4号証?甲第7号証に記載された発明又は周知技術に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、その特許は、無効とすべきものではない。

4 無効理由4について
本件発明において、「コンクリートの設計基準強度」とは、甲第8号証にも記載されているように、「構造設計において基準とするコンクリートの圧縮強度のことであり,構造体コンクリートが満足しなければならない強度であ」(第5の8)り、さらに技術常識から見ても、その用語の意味しているところは明確であり、本件発明1?4は、その用語の意味に基づいて、理解できるものである。したがって、本件発明1?4は明確である。
請求人は、「本件発明においては、杭及び基礎の「コンクリートの設計基準強度」により発明を特定しているところ、コンクリートの設計基準強度は、杭及び基礎の設計段階において設定し、最低限達成すべき水準として、コンクリートの杭や基礎を製造する際に用いられるものであり、杭及び基礎の構造そのものの構成(実際の強度)を表すものではない(甲8)。・・・すなわち、設計基準強度は、その数値を最低限達成すべき水準としてコンクリートを打設するという杭及び基礎の製造方法を記載したものにすぎず、本件発明はいわゆるプロダクトバイプロセスクレームに該当する。」(第3の2(4))旨主張する。しかしながら、上記で説示したとおり、「設計基準強度」という用語の意味は明確であり、製造方法を意図する用語でないことは明らかである。よって、請求人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件発明1?4は明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているから、その特許は、無効とすべきものではない。

5 無効理由5について
本件発明が解決しようとする課題は、「【0007】・・・コンクリート造基礎や杭が大きな水平力を受けた場合においても、過剰な断面力が発生せず、設計の合理性及び施工の容易性が担保できるコンクリート造基礎の支持構造を提供すること」であり、「【0012】本発明によれば・・・当該コンクリート造基礎等に水平力が作用した場合であっても、両者が互いに鉛直移動、水平移動及び回転を拘束することがないことから、当該コンクリート造基礎及び鋼管中空杭等に過剰な断面力が発生することを防止することができ、設計の合理性及び施工の容易性が担保されることになる。また、杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度が、コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度より大きいことから、当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる。」と記載されている。
また、本件発明1?4が、文言として、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであるから、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
そして、本件発明の「杭におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」ことについて、上記1(1)イ(ウ)において説示したように、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」場合は、「コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度」を基準として見れば、杭と基礎のコンクリートの設計基準強度の大小関係が異なる他の態様である、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と同じ」場合や「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して小さい」場合と比較して、「場所打ちコンクリート杭の杭頭部におけるコンクリート」の実際の強度が大きくなることを意図していると解され、その結果、杭頭部の損傷等が防止されることになるから、その技術的意味と作用効果の関係が理解できるものである。このことは、「場所打ちコンクリート杭」に代えて「鋼管中空杭」とした場合(本件発明1の場合)についても同様のことがいえる。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
請求人は、「本件発明では、杭頭部は、その強度以下の応力に耐えるという効果しか奏しないのであり、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という発明の効果(本件明細書【0012】)を奏しないものである。また、既に述べたとおり、杭頭部の安全性は、そこに生じる応力と強度の大小により定まることが技術常識であり、本件特許明細書にはこのような技術常識とは異なり、コンクリート造基礎と杭頭部の設計基準強度の大小のみによって、杭頭部の損傷等が防止し得ることを裏付ける実施例等の記載は全くない。したがって、本件発明の技術的範囲が、当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超え、サポート要件に違反することは明らかである。また、本件発明では「設計基準強度」との文言が用いられているところ、「設計基準強度」とは、「構造体コンクリートが満足しなければならない強度」に過ぎない(甲8)。したがって、設計基準強度は、強度の最低限達成すべき水準を示すものにすぎないから、本件発明を文言のとおり理解すると、杭頭部の実際の強度と、基礎のコンクリートの実際の強度の大小について何ら限定もないものとなり、基礎部に比して杭頭部の実際の強度が小さい場合も構成要件を充足しかねないところ、このような場合も前記課題を解決することができると認識し得るような記載もない。したがって、かかる観点からも、本件発明の技術的範囲が、当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超え、サポート要件に違反することは明らかである。」(第3の2(5))旨主張する。しかしながら、上記で説示したように、本件発明の「杭におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」の意味は明確であり、作用効果との関係も理解できるものである。よって、請求人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件発明1?4は発明の詳細な説明に記載したものであるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、その特許は、無効とすべきものではない。

6 無効理由6について
上記4、5でも説示したように、本件発明は「杭におけるコンクリートの設計基準強度は、前記コンクリート造基礎におけるコンクリートの設計基準強度と比較して大きい」との構成も含め、それぞれの構成を、その文言どおり理解できるものであり、その発明の実施の形態についても、発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されており、当該設計基準強度の関係を満たすコンクリート造基礎の支持構造を実際に製造することが可能であるから、当業者が本件発明の実施をすることができるものであるといえる。
請求人は、「本件発明では、杭頭部は、その強度以下の応力に耐えるという効果しか奏しないのであり、本件明細書を見ても、「当該杭頭部に過大な支圧力が作用した場合においても、当該杭頭部が損傷等をすることを防止することができる」という効果を奏するコンクリート造基礎構造を実施する手段が何ら開示されておらず、当業者は、本件明細書に基づいても、本件発明の作用効果を奏するものを全く得ることができない。したがって、本件発明が実施可能要件に違反することも明らかである。」(第3の2(6))旨主張する。しかしながら、上記5で説示したように、本件発明の構成と作用効果との関係は理解できるものであるし、また、上記したように、本件の発明の詳細な説明には、本件発明について、当業者が実施をすることができる程度に記載されている。よって、請求人の主張は採用できない。
以上のとおり、本件発明1?4について、発明の詳細な説明の記載が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、その特許は、無効とすべきものではない。

第7 むすび
上記第6で検討したとおり、本件発明1?4について、請求人の主張する無効理由1?6には無効とする理由がないから、その特許は無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-28 
結審通知日 2019-05-30 
審決日 2019-06-12 
出願番号 特願2002-66662(P2002-66662)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (E02D)
P 1 113・ 113- Y (E02D)
P 1 113・ 538- Y (E02D)
P 1 113・ 537- Y (E02D)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
有家 秀郎
登録日 2006-12-01 
登録番号 特許第3887248号(P3887248)
発明の名称 コンクリート造基礎の支持構造  
代理人 伊藤 卓  
代理人 木村 広行  
代理人 多田 宏文  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 大野 聖二  

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